(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-01-06
(45)【発行日】2022-01-20
(54)【発明の名称】研磨盤、球体研磨装置及び球体研磨方法
(51)【国際特許分類】
B24B 37/025 20120101AFI20220113BHJP
B24B 11/06 20060101ALI20220113BHJP
【FI】
B24B37/025
B24B11/06
(21)【出願番号】P 2017197371
(22)【出願日】2017-10-11
【審査請求日】2020-08-28
(73)【特許権者】
【識別番号】000001247
【氏名又は名称】株式会社ジェイテクト
(74)【代理人】
【識別番号】110000648
【氏名又は名称】特許業務法人あいち国際特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100130188
【氏名又は名称】山本 喜一
(74)【代理人】
【識別番号】100089082
【氏名又は名称】小林 脩
(74)【代理人】
【識別番号】100190333
【氏名又は名称】木村 群司
(72)【発明者】
【氏名】河原 徹
(72)【発明者】
【氏名】増田 祐生
【審査官】亀田 貴志
(56)【参考文献】
【文献】特開平10-180605(JP,A)
【文献】特開2000-079554(JP,A)
【文献】特開平05-057588(JP,A)
【文献】特開平07-060636(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B24B 37/025
B24B 11/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
対向配置されて対向面の間で挟圧可能且つ転動可能な球体を研磨加工可能な一対の研磨盤であって、
前記一対の研磨盤の前記対向面の少なくとも一方における前記球体の転動軌跡の一部のみには、前記球体の挟圧方向に窪んだ凹部が形成され
、
前記凹部の縁部は、前記一対の研磨盤の前記対向面と平行であって前記球体の転動方向と直角な方向から見た断面形状を、前記対向面の側に凸の曲線形状となるように形成される、研磨盤。
【請求項2】
前記球体の転動軌跡には、研磨溝が形成され、前記研磨溝の一部の溝底には、前記凹部が形成される、請求項1に記載の研磨盤。
【請求項3】
前記凹部は、前記球体の転動軌跡において前記球体の転動方向に等間隔で複数形成される、請求項1又は2に記載の研磨盤。
【請求項4】
前記凹部は、前記球体が前記凹部を通過するとき、前記一対の研磨盤による挟圧が無負荷となるように形成される、請求項1-
3の何れか一項に記載の研磨盤。
【請求項5】
請求項1-
4の何れか一項に記載の一対の研磨盤と、
前記一対の研磨盤を前記対向面に対し平行な方向及び垂直な方向にそれぞれ相対移動させる移動装置と、
前記移動装置による前記一対の研磨盤の相対移動によって、前記対向面の間に挟圧される前記球体を研磨する制御装置と、
を備える、球体研磨装置。
【請求項6】
球体研磨装置を用いる球体研磨方法であって、
前記球体研磨装置は、請求項1-
4の何れか一項に記載の一対の研磨盤、を備え、
前記球体研磨方法は、前記一対の研磨盤を前記対向面に対し平行な方向及び垂直な方向にそれぞれ相対移動させて前記球体を研磨する研磨工程、を備える、球体研磨方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、研磨盤、球体研磨装置及び球体研磨方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、一対の研磨盤(盤体)の間に球体を挟持して、一対の研磨盤を相対回転させることで球体を研磨加工する球体研磨装置(球体研削装置)が記載されている。この球体研磨装置の研磨盤には、球体を円周方向に転動案内する環状の研磨溝(案内溝)が設けられる。そして、この研磨溝の断面形状は、球体を転動案内するとき研磨溝と球体との接触点が周期的に変化するように、円周方向に連続して変化して形成される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
一般に研磨加工時の球体の姿勢変動が大きいと球体の真球度が良い傾向がある。上述の球体研磨装置では、研磨加工中に球体の姿勢変動を促して球体の加工精度、特に真球度を向上できる。しかし、球体は、研磨加工中において一対の研磨盤の間に常に挟持されるため、球体の姿勢変動には限界がある。
【0005】
本発明は、球体の姿勢変動を促して球体の加工精度を向上できる研磨盤、この研磨盤を有する球体研磨装置及びこの球体研磨装置による球体研磨方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
(研磨盤)
本発明の研磨盤は、対向配置されて対向面の間で挟圧可能且つ転動可能な球体を研磨加工可能な一対の研磨盤であって、前記一対の研磨盤の前記対向面の少なくとも一方における前記球体の転動軌跡の一部のみには、前記球体の挟圧方向に窪んだ凹部が形成され、前記凹部の縁部は、前記一対の研磨盤の前記対向面と平行であって前記球体の転動方向と直角な方向から見た断面形状を、前記対向面の側に凸の曲線形状となるように形成される。
【0007】
研磨盤に凹部が形成されていない場合は、球体が転動するときは一対の研磨盤により挟圧されているので、積極的な姿勢変動は生じ難い。しかし、研磨盤の少なくとも一方に凹部が形成されている場合は、球体が凹部を通過するときは、研磨盤の少なくとも他方からは離間するので、一対の研磨盤による拘束が解けて挟圧が無負荷となる。よって、球体は、自由に転動して大きな姿勢変動が生じるので、球体の真球度は向上する。
【0008】
(球体研磨装置及び球体研磨方法)
本発明の球体研磨装置は、上述の一対の研磨盤と、前記一対の研磨盤を前記対向面に対し平行な方向及び垂直な方向にそれぞれ相対移動させる移動装置と、前記移動装置による前記一対の研磨盤の相対移動によって、前記対向面の間に挟圧される前記球体を研磨する制御装置と、を備える。
【0009】
本発明の球体研磨装置を用いる球体研磨方法は、前記球体研磨装置は、上述の一対の研磨盤、を備え、前記球体研磨方法は、前記一対の研磨盤を前記対向面に対し平行な方向及び垂直な方向にそれぞれ相対移動させて前記球体を研磨する研磨工程、を備える。
【0010】
上述の球体研磨装置又は球体研磨方法によれば、研磨盤の少なくとも一方に凹部が形成されているので、球体が凹部を通過するときは、研磨盤の少なくとも他方からは離間する。よって、球体は、一対の研磨盤による拘束が解けて挟圧が無負荷となり、自由に転動して大きな姿勢変動が生じるので、球体の真球度は向上する。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本実施形態の球体研磨装置の構成を示す図である。
【
図2】
図1の球体研磨装置の第一研磨盤を上方から見た平面図である。
【
図3】
図2の第一研磨盤の第一研磨溝を第一研磨盤の研磨面と平行であって球体の転動方向と直角な方向から見た断面図である。
図2のIII-III断面図である。
【
図4】
図2の第一研磨盤の第一研磨溝を第一研磨盤の研磨面と平行であって球体の転動方向から見た断面図である。
図2のIV-IV断面図である。
【
図5】
図1の球体研磨装置の制御装置の構成を示す図である。
【
図6】球体を保持する保持器の軸線方向断面図である。
図7のVI-VI断面図である。
【
図7】
図6の保持器のVII方向から見た図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
(1.球体研磨装置の構成)
本実施形態の球体研磨装置の構成について、図を参照して説明する。
図1に示すように、球体研磨装置1は、基台11、コラム12、第一移動体13、第二移動体14、上下駆動機構15(移動装置)及び制御装置16(
図2参照)を備える。
【0013】
この球体研磨装置1は、第一移動体13及び第二移動体14に備えられ対向配置される一対の研磨盤(第一研磨盤23及び第二研磨盤33)で球体2を研磨加工する。すなわち、第一研磨盤23及び第二研磨盤33を対向面に対し垂直な方向及び平行な方向にそれぞれ相対移動させ、対向面の間で球体2を挟圧及び転動することで球体2を研磨加工する。
【0014】
基台11は、床面に設置され、中央に上下方向への貫通孔11aを備える。コラム12は、基台11の上面に固定される。コラム12の側面には、上下方向に延びるガイドレール12a,12bが設けられる。
【0015】
第一移動体13は、基台11の上面及び貫通孔11aに配置される。第一移動体13は、第一本体部21、第一研磨盤支持体22、第一研磨盤23、第一静圧軸受24及び第一モータ25(移動装置)を備える。
【0016】
第一本体部21は、中央孔21aを有する円盤状に形成される。第一本体部21は、中央孔21aが基台11の貫通孔11aと同軸上に位置するように、基台11の上面に固定される。中央孔21aの中心軸線は、L1であり、鉛直軸方向に一致する。
【0017】
第一研磨盤支持体22は、第一本体部21に対して、中心軸線L1の回りに回転可能に設けられる。第一研磨盤支持体22は、第一本体部21の中央孔21aを貫通する軸部22a、第一本体部21の上面及び下面に対向する円盤状のフランジ部22b,22cを備える。
【0018】
第一研磨盤23は、第一研磨盤支持体22の上側のフランジ部22bの上面に一体的に固定される。つまり、第一研磨盤23は、第一本体部21に対して中心軸線L1の回りに回転可能に設けられる。第一研磨盤23は、環状に形成される。
【0019】
さらに、
図1及び
図2に示すように、第一研磨盤23は、一方の面(上面(第二研磨盤33の下面と対向する面))に中心軸線L1の回りに環状に形成される第一研磨溝23aを有する。第一研磨溝23aの断面形状は、円弧凹状に形成される。
【0020】
第一研磨溝23aは、研磨対象である球体2を転動させて研磨する。つまり、第一研磨盤23の上面における球体2の転動軌跡には、球体2を研磨するための第一研磨溝23aが形成される。これにより、球体2の軌道が規制されるので、球体2を高精度に研磨できる。
【0021】
そして、
図2に示すように、球体2の転動軌跡、すなわち第一研磨溝23aの一部には、球体2の挟圧方向に窪んだ上面視が楕円形状の凹部23bが形成される。具体的には、
図2‐
図4に示すように、第一研磨溝23aの内周には、上面視で第一研磨溝23aの領域よりも小さい領域(本例では、約30%)であって、側面視で球体2の半径rよりも小さい深さdの4つの凹部23bが、90度の等角度間隔(等間隔)で形成される。第一研磨溝23aのうち凹部23bが形成される箇所と形成されない箇所の面積比率は、凹部23bが形成されない箇所の比率を高くする。凹部23bの比率が高いと球体2の姿勢変動は促進され易くなるものの、研磨加工が進展しにくく研磨加工に時間が掛かるためである。
【0022】
そして、
図3に示すように、凹部23bの縁部の断面形状(破線の楕円形状で囲まれた部分23ba)は、第一研磨盤23の上面(対向面)の側に凸の曲線形状となるように形成される。なお、凹部23bは、第一研磨溝23aにおいて1つのみ形成してもよく、また任意の等角度間隔(等間隔)もしくは不等角度間隔(不等間隔)で任意の数を形成してもよい。
【0023】
上述の凹部23bが形成されていない第一研磨盤23では、球体2が第一、第二研磨溝23a,33a内で転動するときは挟圧されているので、積極的な姿勢変動は生じ難い。しかし、
図3及び
図4に示すように、球体2は、凹部23bを通過するときは、第二研磨溝33aからは離間し、第一研磨溝23aとは直接的に接触もしくはクーラントが介在して離間しているので、第一、第二研磨溝23a,33aによる拘束が解けて挟圧が無負荷となる。よって、球体2は、自由に転動して大きな姿勢変動が生じるので、球体2の真球度は向上する。
【0024】
また、凹部23bは、第一研磨溝23aの領域よりも小さい領域で形成されるので、第一研磨溝23aにおける球体2の研磨加工効率の低下を抑制できる。また、凹部23bは、球体2の半径rよりも小さい深さdに形成されるので、球体2は、凹部23bから第一研磨溝23aへスムーズに脱出できる。よって、凹部23bは、球体2の研磨加工に悪影響を及ぼすことは無い。
【0025】
また、凹部23bは、第一研磨溝23aにおいて等角度間隔で形成されるので、球体2の研磨加工中において、凹部23b内の球体2の数は略一定となる。よって、第一、第二研磨溝23a,33a内で転動する球体2は均等荷重で挟圧されるので、球体2の真球度は向上する。
【0026】
また、凹部23bの縁部の断面形状(
図3の破線の楕円形状で囲まれた部分23ba)は、対向面の側に凸の曲線形状となるように形成されるので、球体2は、第一研磨溝23aから凹部23bへ、また、凹部23bから第一研磨溝23aへスムーズに転動できる。よって、凹部23bは、球体2の研磨加工に悪影響を及ぼすことは無い。
【0027】
第一静圧軸受24は、第一本体部21に保持され、第一研磨盤23に一体的に固定される第一研磨盤支持体22を、第一本体部21に対してラジアル方向及びスラスト方向に支持する。
【0028】
詳細には、第一静圧軸受24は、第一本体部21の中央孔21aに保持され、軸部22aの外周面に対して流体圧により支持するラジアル軸受24aを備える。さらに、第一静圧軸受24は、第一本体部21の上面及び下面に保持され、フランジ部22b,22cに対して流体圧により支持するスラスト軸受24b,24cを備える。
【0029】
第一静圧軸受24に供給される流体は、共通の流体供給源から供給され、ラジアル軸受24a、スラスト軸受24b,24cに分岐される。第一静圧軸受24は、さらにオリフィス絞り24d(
図5参照)を備える。
【0030】
オリフィス絞り24dは、ラジアル軸受24a、スラスト軸受24b,24cのそれぞれに設けられる。ここで、第一静圧軸受24を構成するオリフィス絞り24dの位置は可変であるため、流体圧は可変とされる。第一モータ25は、第一本体部21に支持され、第一研磨盤支持体22を回転駆動する。
【0031】
第二移動体14は、コラム12に対して上下方向に移動可能に配置される。第二移動体14は、第二本体部31、第二研磨盤支持体32、第二研磨盤33、第二静圧軸受34及び第二モータ35(移動装置)を備える。
【0032】
第二本体部31は、円筒状に形成され、下円盤部及び上円盤部には中央孔31a,31bを有する。第二本体部31の中央孔31a,31bの中心軸線は、L2であり、第一本体部21の中央孔21aの中心軸線L1に一致する。
【0033】
第二本体部31の円筒部は、コラム12の側面のガイドレール12a,12bに摺動可能に設けられる。つまり、第二本体部31は、コラム12に対して上下方向に移動可能である。
【0034】
第二研磨盤支持体32は、第二本体部31に対して、中心軸線L2の回りに回転可能に設けられる。第二研磨盤支持体32は、第二本体部31の下円盤部の中央孔31aを貫通する軸部32a、第二本体部31の下円盤部の下面及び上面に対向する円盤状のフランジ部32b,32cを備える。
【0035】
第二研磨盤33は、第二研磨盤支持体32の下側のフランジ部32bの下面に一体的に固定される。つまり、第二研磨盤33は、第二本体部31に対して中心軸線L2の回りに回転可能に設けられる。第二研磨盤33は、環状に形成される。
【0036】
さらに、第二研磨盤33は、一方の面(下面)に中心軸線L2の回りに環状に形成される第二研磨溝33aを有する。第二研磨溝33aの断面形状は、円弧凹状に形成される。第二研磨溝33aは、研磨対象である球体2を研磨する。
【0037】
第二研磨盤33の第二研磨溝33a側の面は、第一研磨盤23の第一研磨溝23a側の面に対向する。第二研磨溝33aの環状径は、第一研磨溝23aの環状径と同径に形成される。さらに、第二研磨溝33aの断面円弧径は、第一研磨溝23aの断面円弧径と同径に形成される。
【0038】
第二静圧軸受34は、第二本体部31の下円盤部に保持され、第二研磨盤33に一体的に固定される第二研磨盤支持体32を、第二本体部31に対してラジアル方向及びスラスト方向に支持する。詳細には、第二静圧軸受34は、第二本体部31の下円盤部の中央孔31aに保持され、軸部32aの外周面に対して流体圧により支持するラジアル軸受34aを備える。
【0039】
さらに、第二静圧軸受34は、第二本体部31の下円盤部の上面及び下面に保持され、フランジ部32b,32cに対して流体圧により支持するスラスト軸受34b,34cを備える。
【0040】
第二静圧軸受34に供給される流体は、共通の流体供給源から供給され、ラジアル軸受34a、スラスト軸受34b,34cに分岐される。第二静圧軸受34は、さらにオリフィス絞り34d(
図5参照)を備える。オリフィス絞り34dは、ラジアル軸受34a、スラスト軸受34b,34cのそれぞれに設けられる。
【0041】
ここで、第二静圧軸受34を構成するオリフィス絞り34dの位置は可変であるため、流体圧は可変とされる。また、第二静圧軸受34に流体を供給する流体供給源は、第一静圧軸受24に流体を供給する流体供給源と共通して設けられる。第二モータ35は、第二本体部31に支持され、第二研磨盤支持体32を回転駆動する。
【0042】
上下駆動機構15は、コラム12に対して第二本体部31を上下移動させる。上下駆動機構15は、コラム12の上端に固定されるモータ41と、モータ41の出力軸に連結されるボールねじ42と、ボールねじ42に螺合する第二本体部31の上円盤部の中央孔31bに固定されるボールねじナット43とを備える。
【0043】
(2.制御装置の構成)
次に、制御装置16の構成について、図を参照して説明する。
図5に示すように、制御装置16は、モータ制御部51と、流体圧調整部52とを備える。モータ制御部51は、各モータ25,35,41を制御する。
【0044】
つまり、モータ制御部51が第一モータ25を回転駆動することにより、第一研磨盤23が回転する。また、モータ制御部51が第二モータ35を回転駆動することにより、第二研磨盤33が回転する。また、モータ制御部51がモータ41を回転駆動することにより、第二移動体14が上下動する。
【0045】
流体圧調整部52は、各オリフィス絞り24d,34dの絞り量を調整する。流体圧調整部52が第一オリフィス絞り24dの位置を移動させることにより、第一静圧軸受24の剛性が変化する。また、流体圧調整部52が第二オリフィス絞り34dの位置を移動させることにより、第二静圧軸受34の剛性が変化する。
【0046】
第一オリフィス絞り24dは、ラジアル軸受24a、スラスト軸受24b,24cの流体圧全てを同時に調整する。つまり、第一オリフィス絞り24dが調整されることで、ラジアル軸受24aによる剛性、及び、スラスト軸受24b,24cによる剛性が調整される。同時に、第一静圧軸受24によるモーメント剛性が調整される。
【0047】
第二オリフィス絞り34dは、ラジアル軸受34a、スラスト軸受34b,34cの流体圧全てを同時に調整する。つまり、第二オリフィス絞り34dが調整されることで、ラジアル軸受34aによる剛性、及び、スラスト軸受34b,34cによる剛性が調整される。同時に、第二静圧軸受34によるモーメント剛性が調整される。
【0048】
なお、第一オリフィス絞り24dをラジアル軸受24a、スラスト軸受24b,24cのそれぞれに設けることで、ラジアル軸受24a、スラスト軸受24b,24cのそれぞれの流体圧を独立して調整することも可能である。また、第二オリフィス絞り34dについても同様である。
【0049】
また、第一,第二オリフィス絞り24d,34dの位置を可変とすることにより、第一,第二静圧軸受24,34の流体圧を可変とした。この他に、流体圧調整部52は、第一,第二静圧軸受24,34への流体供給源による供給される流体圧を調整することもできる。
【0050】
(3.球体研磨装置による球体研磨方法)
次に、球体研磨装置1による球体研磨方法について、図を参照して説明する。制御装置16の流体圧調整部52は、第一,第二静圧軸受24,34の流体圧が球体2の研磨を行うときに使用する流体圧となるように、オリフィス絞り24d,34dを設定しておく。
【0051】
そして、制御装置16は、モータ41を駆動して、第二移動体14を上方へ移動させておく。この状態で、研磨素材である複数の球体2を、第一研磨盤23の第一研磨溝23aに配置する。続いて、制御装置16は、モータ41を駆動して、第二移動体14を下方へ移動させて、第二研磨盤33の第二研磨溝33aが球体2に接触させて挟圧する状態とする。
【0052】
続いて、制御装置16は、第一研磨盤23の回転速度を一定値とするように又は周期的に変動させるように第一モータ25を駆動し、且つ、第二研磨盤33の回転速度を一定値とするように第二モータ35を駆動する。このとき、第一研磨盤23と第二研磨盤33とは逆方向に回転される。このようにして、球体2は、第一,第二研磨盤23,33によって研磨される(研磨工程)。
【0053】
この研磨工程において、球体2は、凹部23bを通過するときは、第二研磨溝33aからは離間することになる。よって、球体2は、第一、第二研磨溝23a,33aによる拘束が解けて挟圧が無負荷となるので、自由に転動して大きな姿勢変動が生じ、球体2の真球度は向上する。そして、設定した時間を経過したところで、制御装置16は、第一モータ25及び第二モータ35を停止して、モータ41を駆動して第二移動体14を上方へ移動させ、球体2の研磨加工を終了する。
【0054】
(4.その他)
上述の実施形態では、第一研磨盤23の第一研磨溝23aに凹部23bを形成する構成としたが、第二研磨盤33の第二研磨溝33aに上記凹部23bと同様の凹部を形成する構成としてもよい。この場合、第一研磨溝23aには、凹部23bを形成してもよいし、形成しなくてもよい。
【0055】
また、第一研磨盤23及び第二研磨盤33の対向面の一方に第一研磨盤23の凹部23bと同様の凹部を有する研磨溝を形成し、対向面の他方は研磨溝が形成されていない平坦状の構成としてもよい。また、第一研磨盤23及び第二研磨盤33の対向面の一方に研磨溝を形成し、対向面の他方は研磨溝が形成されておらず、球体2の転動軌跡に第一研磨盤23の凹部23bと同様の凹部を有する平坦状の構成としてもよい。
【0056】
また、第一研磨盤23及び第二研磨盤33は、対向面に研磨溝が形成されていない平坦状の構成とし、対向面の一方もしくは両方における球体2の転動軌跡に上記凹部23bと同様の凹部を形成する構成としてもよい。この場合、第一研磨盤23及び第二研磨盤33の間に挟持される球体2を中心軸線L1(L2)回りに回転させるため、球体研磨装置1は、以下に説明する保持器17を備える構成とする。
【0057】
保持器17の構成について、図を参照して説明する。
図6及び
図7に示すように、保持器17は、環状に形成され、本体部17aと、つば部17bとを備える。本体部17aは、環状で、且つ、円盤状に形成される。
【0058】
本体部17aの内径は、第一研磨溝23aの内径より小さく、本体部17aの外径は、第一研磨溝23aの外径より大きい。さらに、本体部17aの厚み(軸線方向幅)は、球体2の外径より小さい。本体部17aは、第一研磨盤23における第二研磨盤33に対向する側の面、すなわち第一研磨盤23の上面に載置される。
【0059】
本体部17aは、周方向に等角度間隔で複数(本実施形態では、12個)の円形状のポケット17cを備える。各ポケット17cは、中心軸線L3方向に貫通している。12個のポケット17cのうち90度間隔の4個のポケット17cは、保持器17の本体部17aの面上において球体2を全周に亘って囲んでおらず、径方向に開口する開口部17dが設けられる。
【0060】
ポケット17cの開口部17dは、保持器17の本体部17aの外周面に開口する。開口部17dは、クーラントの排出口として機能する。また、ポケット17cの開口部17dの周方向長さは、球体2の直径より小さく形成される。そのため、球体2がポケット17cに配置された状態において、球体2がポケット17cの開口部17dから抜け出すことが規制される。つまり、保持器17の本体部17aは、球体2の径方向移動及び周方向移動を規制する。
【0061】
つば部17bは、本体部17aの内周縁から中心軸線L3方向に延在し、第一研磨盤23に対する径方向移動を規制する。すなわち、つば部17bは、ポケット17cの開口部17dとは反対側に形成される。つば部17bは、周方向に断続して複数形成されるが、周方向全周に亘って形成してもよい。つば部17bの外径は、第一研磨盤23の内径と同程度に形成される。
【0062】
このような保持器17は、球体研磨装置1において以下のように配置される。作業者は、保持器17を第一研磨盤23と第二研磨盤33の対向領域に配置する。具体的には、保持器17を第一研磨盤23の上面において保持器17の中心軸線L3と第一研磨盤23の中心軸線L1とが一致するように載置する。
【0063】
つまり、保持器17のつば部17bが第一研磨盤23の内周側に入り込む状態となるように、且つ、保持器17の本体部17aが第一研磨盤23の上面に接触する状態となるようにする。そして、複数の球体2を、保持器17のそれぞれのポケット17cに配置する。
【0064】
なお、保持器17は、対向面に研磨溝が形成されていない平坦状の第一研磨盤23及び第二研磨盤33で研磨加工を行う場合は必須であるが、対向面のいずれか一方もしくは両方に研磨溝が形成されている第一研磨盤23及び第二研磨盤33で研磨加工を行う場合も用いることができる。
【0065】
また、上述の実施形態では、第一研磨盤23及び第二研磨盤33は、対向面に環状の一つの第一研磨溝23a及び第二研磨溝33aをそれぞれ有する構成としたが、第一研磨盤23及び第二研磨盤33の対向面のいずれか一方もしくは両方に上記凹部23bと同様の凹部を有する同心円状の複数の研磨溝が形成されている構成としてもよい。また、第一研磨盤23及び第二研磨盤33の対向面のいずれか一方もしくは両方に上記凹部23bと同様のポケットを螺旋状の一つの研磨溝が形成されている構成としてもよい。
【0066】
また、上述の実施形態では、第一研磨盤23及び第二研磨盤33は、環状に形成される構成としたが、直方体状に形成し、対向面に上記凹部23bと同様の凹部を有する直線状の研磨溝を形成する構成としてもよい。また、凹部23bは
図2に示すような楕円形状に限らず、少なくとも球体2の一部が凹部23bに入り込めれば他の形状であってもよい。
【符号の説明】
【0067】
1:球体研磨装置、 2:球体、 16:制御装置、 17:保持器、 23:第一研磨盤、 23a:第一研磨溝、 23b:凹部、 33:第二研磨盤、 33a:第二研磨溝、 51:モータ制御部、 52:流体圧調整部