(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-01-06
(45)【発行日】2022-02-10
(54)【発明の名称】繊維強化樹脂成形品の製造方法、及び繊維強化樹脂成形品
(51)【国際特許分類】
B29C 39/24 20060101AFI20220203BHJP
B29C 39/10 20060101ALI20220203BHJP
B29C 70/06 20060101ALI20220203BHJP
【FI】
B29C39/24
B29C39/10
B29C70/06
(21)【出願番号】P 2017216294
(22)【出願日】2017-11-09
【審査請求日】2020-08-28
(73)【特許権者】
【識別番号】000241500
【氏名又は名称】トヨタ紡織株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001036
【氏名又は名称】特許業務法人暁合同特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】廣田 茂則
【審査官】田代 吉成
(56)【参考文献】
【文献】特開2001-260238(JP,A)
【文献】国際公開第2016/092670(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29C 39/24
B29C 39/10
B29C 70/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
発泡樹脂製の板状のコア材と、前記コア材の表面及び裏面にそれぞれ重ねられる一対のシート状の補強繊維基材とを有する積層体と、前記積層体に含浸された未硬化状態の樹脂が硬化されてなる樹脂部とを備える繊維強化樹脂成形品の製造方法であって、
前記積層体が収容された成形型のキャビティに、樹脂供給装置から供給された未硬化状態の樹脂が、前記成形型に穿設された注入孔から注入される際に、一方の端部に前記樹脂が供給される供給口を含みかつ他方の端部に排出口を含む筒状の本体部と、前記本体部の内部に収容され前記供給口から前記排出口へ向かって流れる樹脂を混合する混合部とを有する混合器が、前記注入孔に装着された状態で、前記キャビティに前記樹脂が注入される樹脂注入工程を
備え、
前記樹脂注入工程において、前記混合器の前記排出口が、前記積層体の表面に宛がわれた状態又は前記積層体の内部に収容された状態で、前記キャビティに前記樹脂が注入される繊維強化樹脂成形品の製造方法。
【請求項2】
前記樹脂注入工程において、前記混合器は、互いに分離可能な上流部と下流部とからなり、前記上流部は、前記供給口を含み、かつ前記注入孔に装着され、前記下流部は、前記排出口を含み、かつ前記積層体の内部に収容された状態で、前記上流部に接続される請求項1に記載の繊維強化樹脂成形品の製造方法。
【請求項3】
前記樹脂注入工程において、前記積層体は、前記混合器の前記排出口側を収容する取付孔を有する請求項1
または請求項2に記載の繊維強化樹脂成形品の製造方法。
【請求項4】
前記樹脂注入工程において、前記積層体の前記コア材は、厚み方向に貫通する複数の孔部からなり、前記コア材の前記表面側と前記裏面側とを連通する複数の分岐路を有する請求項1~
請求項3の何れか一項に記載の繊維強化樹脂成形品の製造方法。
【請求項5】
前記樹脂注入工程において、未硬化状態の前記樹脂は、主剤と硬化剤とからなる二液混合型の熱硬化性樹脂からなり、前記樹脂供給装置は、前記主剤と前記硬化剤とを衝突混合させながら前記熱硬化性樹脂を供給するスタティックミキサーを有する請求項1~
請求項4の何れか一項に記載の繊維強化樹脂成形品の製造方法。
【請求項6】
請求項1~
請求項5の何れか一項に記載の繊維強化樹脂成形品の製造方法により製造された繊維強化樹脂成形品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、繊維強化樹脂成形品の製造方法、及び繊維強化樹脂成形品に関する。
【背景技術】
【0002】
カーボン繊維やガラス繊維等の補強繊維で強化された樹脂成形品が広く用いられている。このような樹脂成形品の一例として、発泡樹脂からなるコア材の表裏面にシート状の補強繊維基材が重ねられた積層物を、熱硬化性樹脂で固めたものが知られている(例えば、特許文献1参照)。この種の樹脂成形品は、RTM(Resin Transfer Molding)法を利用して成形されており、具体的には、成形型のキャビティ内に上記積層物がセットされた状態で、キャビティ内に未硬化状態の流動性を備えた熱硬化性樹脂が注入され、その樹脂が前記積層物の補強繊維基材等に含浸された状態で熱硬化されることにより、上記樹脂成形品が製造されている。
【0003】
熱硬化性樹脂としては、例えば、主剤と硬化剤からなる二液混合型のエポキシ樹脂が利用される。このような二液混合型の熱硬化性樹脂は、ミキシングヘッドを備えた樹脂供給装置を利用して、主剤と硬化剤とを衝突混合させながら成形型内に注入される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
熱硬化性樹脂の注入圧力が高いと、積層物のコア材が潰れる虞があるため、この種の成形品の製造工程では、樹脂の注入圧力を極力、低く抑えたいという事情があった。しかしながら、樹脂の注入圧力を低く設定すると、主剤及び硬化剤が共に低流量で供給されるため、互いに混ざり難くなるという問題があった。
【0006】
なお、樹脂供給装置のミキシングヘッドにおいて、互いに低流量である主剤と硬化剤とを衝突させる距離を短く設定することで、混合性を向上させることも考えられる。しかしながら、このような場合、主剤及び硬化剤がミキシングヘッド内で硬化してしまう虞があり、問題となっていた。
【0007】
本発明の目的は、未硬化状態の樹脂を混合し易い繊維強化樹脂成形品の製造方法等を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係る繊維強化樹脂成形品の製造方法は、発泡樹脂製の板状のコア材と、前記コア材の表面及び裏面にそれぞれ重ねられる一対のシート状の補強繊維基材とを有する積層体と、前記積層体に含浸された未硬化状態の樹脂が硬化されてなる樹脂部とを備える繊維強化樹脂成形品の製造方法であって、前記積層体が収容された成形型のキャビティに、樹脂供給装置から供給された未硬化状態の樹脂が、前記成形型に穿設された注入孔から注入される際に、一方の端部に前記樹脂が供給される供給口を含みかつ他方の端部に排出口を含む筒状の本体部と、前記本体部の内部に収容され前記供給口から前記排出口へ向かって流れる樹脂を混合する混合部とを有する混合器が、前記注入孔に装着された状態で、前記キャビティに前記樹脂が注入される樹脂注入工程を備える。
【0009】
前記繊維強化樹脂成形品の製造方法において、前記樹脂注入工程では、前記混合器の前記排出口が、前記積層体の表面に宛がわれた状態又は前記積層体の内部に収容された状態で、前記キャビティに前記樹脂が注入されてもよい。
【0010】
前記繊維強化樹脂成形品の製造方法において、前記樹脂注入工程では、前記混合器は、互いに分離可能な上流部と下流部とからなり、前記上流部は、前記供給口を含み、かつ前記注入孔に装着され、前記下流部は、前記排出口を含み、かつ前記積層体の内部に収容された状態で、前記上流部に接続されるものであってもよい。
【0011】
前記繊維強化樹脂成形品の製造方法において、前記樹脂注入工程では、前記積層体は、前記混合器の前記排出口側を収容する取付孔を有するものであってもよい。
【0012】
前記繊維強化樹脂成形品の製造方法において、前記樹脂注入工程では、前記積層体の前記コア材は、厚み方向に貫通する複数の孔部からなり、前記コア材の前記表面側と前記裏面側とを連通する複数の分岐路を有するものであってもよい。
【0013】
前記繊維強化樹脂成形品の製造方法において、前記樹脂注入工程では、未硬化状態の前記樹脂は、主剤と硬化剤とからなる二液混合型の熱硬化性樹脂からなり、前記樹脂供給装置は、前記主剤と前記硬化剤とを衝突混合させながら前記熱硬化性樹脂を供給するスタティックミキサーを有するものであってもよい。
【0014】
また、本発明に係る繊維強化樹脂成形品は、前記何れかに記載の繊維強化樹脂成形品の製造方法により製造されたものからなる。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、未硬化状態の樹脂を混合し易い繊維強化樹脂成形品の製造方法等を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】実施形態1の繊維強化樹脂成形品の断面構成を模式的に表した説明図
【
図2】成形装置の固定金型に、コア材と一対の補強繊維基材からなる積層体がセットされる工程を示す説明図
【
図4】型締め工程において、可動金型が固定金型に向かって近づく様子を示す説明図
【
図5】樹脂注入工程において、樹脂供給装置から供給された樹脂を、更に混合器を利用して混合しながら、キャビティ内及び積層体内に注入する様子を示す説明図
【
図6】固定金型から成形品が脱型される工程(脱型工程)を示す説明図
【
図7】実施形態2の混合器を利用した成形品の製造方法における樹脂注入工程を示す説明図
【
図8】実施形態3の成形品の製造方法における樹脂注入工程を示す説明図
【
図9】実施形態4の混合器を利用した成形品の製造方法における樹脂注入工程を示す説明図
【発明を実施するための形態】
【0017】
<実施形態1>
以下、本発明の実施形態1を、
図1~
図6を参照しつつ説明する。本実施形態では、繊維強化樹脂成形品10、及びその製造方法について例示する。先ず、
図1を参照しつつ、繊維強化樹脂成形品10について説明する。
【0018】
〔繊維強化樹脂成形品〕
図1は、実施形態1の繊維強化樹脂成形品(以下、成形品)10の断面構成を模式的に表した説明図である。成形品10は、軽量かつ高剛性であり、車両用シートの一部(例えば、バックボード)として利用される。このような成形品10は、コア材11と、コア材11の表面11a及び裏面11bにそれぞれ重ねられる一対のシート状の補強繊維基材12a,12bと、補強繊維基材12a,12b等に含浸された後、硬化される熱硬化性樹脂からなる樹脂部13とを備えている。なお、一対の補強繊維基材12a,12bのうち、補強繊維基材12aは、表面11a側(
図1の上側)に配され、補強繊維基材12bは、裏面11b側(
図1の下側)に配される。また、補強繊維基材12a,12bを、まとめて「補強繊維基材12」と称する。
【0019】
コア材11は、独立気泡構造を有する合成樹脂製(所謂、発泡樹脂製)の部材である。そのため、コア材11自体は、未硬化状態の樹脂を含浸し難い構成となっている。本実施形態のコア材11は、補強繊維基材12よりも厚みの大きな板状(層状)をなしている。コア材11に利用される合成樹脂としては、例えば、アクリル樹脂が挙げられる。なお、本実施形態のコア材11は、1つの層(つまり、単層)からなるものの、他の実施形態においては、複数のコア材11が積層された多層構造の状態で使用されてもよい。
【0020】
補強繊維基材12は、シート状に加工されたカーボン繊維(炭素繊維)の織物からなり、未硬化状態の樹脂を含浸し易い構成となっている。補強繊維基材12としては、カーボン繊維以外に、ガラス繊維等の他の繊維が利用されてもよいが、高強度を備える等の観点より、カーボン繊維からなる補強繊維基材12が最も好ましい。本実施形態の場合、表側の補強繊維基材12aと、裏側の補強繊維基材12bは、互いに同じ厚みのカーボン繊維の織物からなる。
図1に示されるように、コア材11は、一対の補強繊維基材12a,12bによって表裏面側から挟まれており、それらは、所謂、サンドイッチ構造となっている。
【0021】
樹脂部13に利用される熱硬化性樹脂としては、RTM法で一般的に用いられるもの(例えば、二液混合型のエポキシ樹脂)が用いられる。なお、熱硬化性樹脂としては、無色透明なものが利用されてもよいし、着色剤が添加されているものが利用されてもよい。
【0022】
成形品10において、樹脂部13を構成する熱硬化性樹脂の硬化物は、補強繊維基材12の内部のみならず、補強繊維基材12の表面を覆うように形成される。そのため、成形品10において、樹脂部13は、コア材11と一対の補強繊維基材12a,12bからなる積層体の全体を包み込むように形成されている。
【0023】
このような成形品10は、コア材11を含むため、軽量性、及び高剛性を維持しつつ、比較的高価である補強繊維基材12(特に、カーボン繊維製)の使用量を低減することができる。
【0024】
なお、後述するように、成形品10は、静止型の混合器50を利用して製造される。
【0025】
〔繊維強化樹脂成形品の製造方法〕
次いで、
図2~
図6を参照しつつ、混合器50を利用した成形品10の製造方法を説明する。
図2は、成形装置20の固定金型31に、コア材11と一対の補強繊維基材12a,12bからなる積層体Xがセットされる工程を示す説明図である。
【0026】
成形装置20は、一方の分割金型である固定金型31と、他方の分割金型である可動金型32(
図4等参照)とを有する成形型30を備えている。固定金型31は、成形品10の裏側を形作る成形面31aを備えている。成形面31aは、中央側が凹状に窪んだ形をなしている。
図2には、型開き状態の成形型30が示されており、成形面31aが上方を向くように、固定金型31が水平な床面上に配置されている。型開き状態において、固定金型31の上方には、可動金型32が待機しているが、
図2では、省略されている。このような型開き状態の固定金型31の成形面31a上に、コア材11と一対の補強繊維基材12a,12bからなる積層体Xが載せられる(セット工程)。積層体Xは、成形面31aの形状に倣った状態で、固定金型31にセットされる。
【0027】
図2に示されるように、積層体Xには、混合器50が取り付けられている。なお、説明の便宜上、
図2等において、混合器50は簡略化されている。積層体Xの表側の補強繊維基材12a及びコア材11には、それぞれ混合器50が挿し込まれる取付孔121及び取付孔111が設けられている。取付孔121,111の位置は、積層体Xが成形型30内にセットされた状態で、可動金型32が備える注入孔33(後述)の位置と重なるように設定されている。混合器50の下端側は、積層体Xの内部に収容されているものの、その上端側は、積層体Xから突出する形で露出している。
【0028】
図3は、一部が切り欠かれた状態の混合器50の斜視図である。混合器50は、後述する樹脂供給装置40から吐出された二液混合型の熱硬化性樹脂(エポキシ樹脂)Rを更に混合する器具である。混合器50は、筒状の本体部51と、本体部51内に静止した状態で収容される螺旋状の混合部52とを備えている。本体部51の上端側は、先細り状の円柱状をなしており、その下端側は、円柱状をなしている。本体部51の上端には、樹脂供給装置40から吐出された樹脂Rが供給される開口端状の供給口51aが設けられ、その下端には、混合部52で混合された樹脂Rが排出される開口端状の排出口51bが設けられている。本実施形態の混合器50は、合成樹脂の成形品からなる。混合器50は、使い捨て器具であり、1つの成形品10の製造について、1つ利用される。
【0029】
本実施形態の場合、積層体Xは、上記のように混合器50が取付孔121及び取付孔111に取り付けられた状態で、固定金型31の成形面31a上に載せられている。また、積層体Xの周縁は、立ち上がった状態となっている。積層体Xは、予め成形面31aの形に倣った形状に成形(プリフォーム)されてもよい。積層体Xを構成する補強繊維基材12a,12b等には、予めバインダ(例えば、粉末状の接着剤)が付与されており、そのバインダの作用で、積層体Xが所定形状に保たれている。なお、成形面31aに積層体Xを押し付ける等して成形面31aを利用して積層体Xを賦形してもよい。
【0030】
図2に示されるように、積層体Xのコア材11は、補強繊維基材12a,12bよりも小さく、コア材11の周縁の外側に、補強繊維基材12a,12bの周縁が配された状態となっている。そして、補強繊維基材12a,12bの周縁同士は、コア材11を介さずに、直接、互いに重なった状態となっている。
【0031】
図4は、型締め工程において、可動金型32が固定金型31に向かって近づく様子を示す説明図である。
図4に示されるように、固定金型31の上方で待機していた可動金型32が、固定金型31側に向かって近づくように下降することで、成形型30の型締めが行われる(型締め工程)。可動金型32は、油圧シリンダー等を備えた公知の昇降機構(往復機構)(不図示)を利用して昇降駆動する。このような可動金型32には、成形品10の表側を形作る成形面32aが設けられている。成形面32aは、中央側が凸状に盛り上がった形をなしている。成形面32aは、固定金型31側を向く可動金型32の内側(内面側)に設けられている。なお、後述するように、型締め状態の成形型30において、可動金型32の成形面32aと、固定金型31の成形面31aで囲まれた空間が、成形型30のキャビティCとなる。
【0032】
可動金型32は、全体的には、固定金型31の凹状の成形面31aを覆うような蓋状をなしている。このような可動金型32の中央部分には、成形型30内に樹脂Rを注入するための注入孔(スプルー)33が穿設されている。注入孔33の上流側には、樹脂供給装置40のノズル41が挿着される孔部35が穿設けられている。注入孔33は、孔部35と繋がるように可動金型32を貫通する形で設けられている。注入孔33の下流側は、成形型30のキャビティCと繋がっている。孔部35に挿着されたノズル41から樹脂Rが吐出されると、その樹脂Rは、後述するように注入孔33内に装着された混合器50内を通過して、キャビティC内に供給される。
【0033】
また、可動金型32の内側(内面側)の周縁側には、キャビティCの周縁を取り囲むシール部材34が設けられている。このようなシール部材34が、型締め時に固定金型31と可動金型32との間で挟まれることにより、キャビティCの周りにある可動金型32と固定金型31の間の隙間が密封される。
【0034】
図5は、型締め後の樹脂注入工程において、樹脂供給装置40から供給された樹脂Rを、更に混合器50を利用して混合しながら、キャビティC内及び積層体X内に注入する様子を示す説明図である。
図5に示されるように、成形型30が型締めされると、固定金型31の成形面31aと、可動金型32の成形面32aとで囲まれた空間が1つのキャビティCとして形成される。そして、型締めされた成形型30のキャビティCには、積層体Xが収容された状態となっている。
【0035】
図5に示されるように、型締め状態において、積層体Xから突出した混合器50の上端側は、可動金型32の注入孔33に装着される。注入孔33は、上流側から下流側に向かって内径が徐々に大きくなるように設定されている。積層体Xから露出した混合器50の上端側の外周面は、注入孔33を構成する壁面に対して隙間なく密着した状態となっている。
【0036】
型締め後、樹脂注入工程の前に、成形装置20が備える負圧付与機構(不図示)を利用して、キャビティC内のガスが外部に排出され、キャビティC内が負圧状態にされる(負圧付与工程)。成形型30の可動金型32には、貫通孔状の排気孔(不図示)が設けられており、その排気孔を介してキャビティC内のガスが、真空ポンプにより外部へ排出される。
【0037】
キャビティC内の負圧が所定の値になったところで、所定の弁装置(不図示)が作動し、排気孔からのガスの排出が停止される。そして、キャビティC内は、気密状態で保たれる。その後、このような状態のキャビティC内に、樹脂供給装置40を利用して未硬化状態の樹脂(エポキシ樹脂)が注入される。本実施形態の場合、樹脂供給装置40の注入圧力は、積層体Xのコア材11が潰れること等を抑制するために、比較的、低圧力(例えば、0.3MPa~5MPa、好ましくは1MPa以下)に設定される。
【0038】
樹脂供給装置40は、成形型30のキャビティCに未硬化状態の熱硬化性樹脂Rを供給する装置である。本実施形態の樹脂供給装置40は、主剤r1と硬化剤r2からなる二液混合型のエポキシ樹脂Rを成形型30内に供給する。樹脂供給装置40は、主剤r1と硬化剤r2とを衝突混合させながら成形型30側へ吐出するミキシングヘッド42を備えている。主剤r1と硬化剤r2は、それぞれ所定のタンク内に収容されており、各々の圧送ポンプによって正確な配合比でミキシングヘッド42に送られる。主剤r1は、主剤用のノズル孔42aから混合室43に吐出され、硬化剤r2は、硬化剤用のノズル孔42bから混合室43に吐出される。その際、主剤r1と硬化剤r2は、互いに衝突する形で、混合室43に吐出される。このように、ミキシングヘッド42内で主剤r1と硬化剤r2が衝突しながらある程度混ざり合い、それらの混合物からなる未硬化状態のエポキシ樹脂Rが、ミキシングヘッド42の先端にあるノズル41から吐出される。
【0039】
図5に示されるように、樹脂供給装置40のノズル41は、孔部35に挿着された状態で混合器50の供給口51aと接続しており、ノズル41から吐出された樹脂Rは、供給口51aから混合器50内に供給される。混合器50内に供給された樹脂Rは、螺旋状の混合部52を通過する際に更に混合され、その後、本体部51の下端にある排出口51bから外部に排出される。このようにして、主剤r1と硬化剤r2とが互いによく混合された状態で、キャビティC内の積層体X内に樹脂Rが供給される。混合器50から排出された樹脂Rは、裏側の補強繊維基材12b内を面方向に広がりつつ移動する。その後、積層体Xに樹脂Rが十分含浸され、かつキャビティC内が樹脂Rで充填されるまで、樹脂供給装置40から樹脂Rが供給される。
【0040】
成形型30のキャビティC内が樹脂Rで充填された後、樹脂Rの吐出が停止され、その後、キャビティC内が保圧(保圧工程)される。そして、キャビティC内が保圧された状態で、成形型30内の樹脂Rの硬化が行われる(硬化工程)。成形型30には、図示されない加熱装置(ヒーター等)が備えられており、その加熱装置により成形型30が加熱されることで、キャビティC内の樹脂Rの硬化が行われる。
【0041】
なお、混合器50の周囲や内部にも、樹脂Rが存在しているため、混合器50は、積層体Xに対して一体的に固定された状態となる。樹脂Rの硬化後、成形型30が型開きされる(型開き工程)。型開きの際、可動金型32が固定金型31から離れるように上昇する。
【0042】
図6は、固定金型31から成形品10が脱型される工程(脱型工程)を示す説明図である。型開き後、固定金型31の成形面31a上に残された成形品10が、成形面31aから取り外される。このようにして、成形装置20を利用して、成形品10が製造される。
【0043】
以上のように、樹脂供給装置40から供給された樹脂Rを更に、混合器50を利用して混合することで、キャビティC内及び積層体X内により確実に混合された樹脂Rを供給することができる。その結果、成形品10の樹脂部13が均質化され、成形品10の品質低下(例えば、ガラス転移温度Tg低下、強度等の諸物性の低下)が抑制される。
【0044】
また、本実施形態の混合器50は、予め積層体Xに取り付けることが可能であり、しかも、注入孔33に装着し易い構成となっている。
【0045】
<実施形態2>
次いで、本発明の実施形態2を、
図7を参照しつつ説明する。
図7は、実施形態2の混合器50Aを利用した成形品の製造方法における樹脂注入工程を示す説明図である。なお、実施形態2以降の各実施形態では、上記実施形態1と同じ構成については、実施形態1と同じ符号を付し、その詳細説明は適宜、省略する。また、実施形態2以降の各実施形態を示す図において、各混合器は、説明の便宜上、簡略化されている。
【0046】
本実施形態で利用される混合器50Aは、実施形態1と同様、筒状の本体部51Aと、本体部51A内に静止された状態で収容される螺旋状の混合部52Aとを備えている。ただし、本実施形態の混合器50Aは、積層体XAとは独立しており、可動金型32の注入孔33にのみ収容される大きさに設定されている。混合器50Aは、成形型30の型締めの際に、注入孔33内に装着される。本体部51Aの上端には、樹脂供給装置のノズル41から吐出された樹脂Rが供給される開口端状の供給口51Aaが設けられ、その下端には、混合部52Aで混合された樹脂Rが排出される開口端状の排出口51Abが設けられている。
【0047】
積層体XAが成形型30のキャビティC内に収容された状態において、混合器50Aは、排出口51Abが積層体XAの表側の補強繊維基材12a(つまり、積層体XAの表面)に宛がわれた状態で、可動金型32の注入孔33内に装着されている。なお、混合器50Aの供給口51Aaは、成形型30内において、ノズル41の開口端と繋がっている。
【0048】
本実施形態の積層体XAは、コア材11Aと、コア材11Aの表裏面にそれぞれ重ねられる補強繊維基材12a,12bとを備えている。コア材11Aは、実施形態1と同様、発泡樹脂の板材からなる。特に、本実施形態のコア材11Aには、キャビティC内にセットされた状態において、混合器50Aの供給口51aと重なる箇所に、貫通孔状の樹脂供給路112Aが設けられている。また、樹脂供給路112A内には、補強繊維基材12と同様のカーボン繊維の織物からなる充填材113Aが充填されている。樹脂供給路112Aの開口端は、混合器50Aの排出口51Abよりも小さく、排出口51Abの内側に収まる大きさとなっている。
【0049】
樹脂供給装置40のノズル41から吐出された樹脂Rは、実施形態1と同様、混合器50A内で混合され、その後、排出口51AbからキャビティC内の積層体XAに向かって排出される。排出口51Abから排出された樹脂Rは、表側の補強繊維基材12a越しに、コア材11Aの樹脂供給路112A内に供給される。樹脂供給路112A内に供給された樹脂Rは、裏側の補強繊維基材12bに含浸されつつ、コア材11Aの裏面11A2及び固定金型31の成形面31aに沿うように補強繊維基材12b内を面方向に移動する。なお、排出口51Abから排出された樹脂Rの中には、樹脂供給路112A内に供給されず、表側の補強繊維基材12aに供給されるものもある。そのような樹脂Rは、表側の補強繊維基材12aに含浸されつつ、コア材11Aの表面11A1及び可動金型32の成形面32aに沿うように補強繊維基材12a内を面方向に移動する。
【0050】
このように、混合器50Aを利用して、キャビティC内及び積層体XA内に、より確実に混合された樹脂Rを供給することができる。本実施形態の混合器50Aは、樹脂Rの硬化工程後、積層体XAの表側の補強繊維基材12a上に固定された状態となる。混合器50Aは、必要に応じて、成形体から分離される。なお、混合器50Aの存在が特に問題とならなければ、成形品に混合器50Aが取り付けられたままでもよい。
【0051】
以上のように、成形品の製造過程(樹脂注入工程)において、樹脂供給装置から供給された樹脂Rを更に、混合器50Aを利用して混合しつつ、積層体XA及びキャビティCに注入してもよい。
【0052】
<実施形態3>
次いで、本発明の実施形態3を、
図8を参照しつつ説明する。
図8は、実施形態3の成形品の製造方法における樹脂注入工程を示す説明図である。本実施形態では、上記実施形態2と同様の混合器50Aが利用され、混合器50Aの下端が、積層体XBの表面に宛がわれた状態で使用される。本実施形態は、上記実施形態2と比べて、使用する積層体XBの構成のみが異なる。積層体XBは、コア材11Bと、その表裏面に重ねられる補強繊維基材12a,12bとを備えている。コア材11Bには、厚み方向に貫通する複数の分岐路114Bを備えている。分岐路114Bは、主として、表側の補強繊維基材12aに含浸され、面方向に移動する樹脂Rの流れを、裏側の補強繊維基材12bに分岐させる。なお、分岐路114Bは、裏側の補強繊維基材12bに含浸され、面方向に移動する樹脂Rを表側の補強繊維基材12aへ移動させる場合もある。本実施形態のように、型締め状態の成形型30において、注入孔33に装着された混合器50Aと重なるように、コア材11Bを厚み方向に貫通する孔(例えば、実施形態2の樹脂供給路112A)が設けられていなくても、その代わりに複数の分岐路114Bがコア材11Bに設けられることで、積層体XBの表側の補強繊維基材12aのみならず、裏側の補強繊維基材12bにも、混合器50Aで混合された樹脂Rを効率よく供給することができる。
【0053】
なお、他の実施形態においては、実施形態2の樹脂供給口と共に、本実施形態の分岐路114Bが併用されてもよい。
【0054】
<実施形態4>
次いで、本発明の実施形態4を、
図9を参照しつつ説明する。
図9は、実施形態4の混合器50Cを利用した成形品の製造方法における樹脂注入工程を示す説明図である。本実施形態の混合器50Cは、上流側と下流側とで別れる2部品からなる。具体的には、可動金型32の注入孔33に収容される形で装着される上流部50C1と、積層体XC内に設けられた取付孔115Cに挿入される形で取り付けられる下流部50C2とからなる。このような混合器50Cは、
図9に示されるように、積層体XCがセットされた型締め状態の成形型30内において、上流部50C1と下流部50C2とが繋がって一体化する。
【0055】
上流部50C1は、成形型30の型開き時に、可動金型32の注入孔33に装着される。上流部50C1の上端(つまり、混合器50Cの上端)には、樹脂供給装置40から吐出された樹脂Rが供給される開口端状の供給口51Caが設けられている。下流部50C2は、成形型30の型開き時に、積層体XCがキャビティC(固定金型31の成形面31a)にセットされる前に、又はそれにセットされた後、コア材11Cに設けられた取付孔115Cに挿し込まれる形で取り付けられる。下流部50C2の下端(つまり、混合器50Cの下端)には、本体部51C内の混合部52Cで混合された樹脂Rを外部へ排出する開口端状の排出口51Cbが設けられている。
【0056】
混合器50Cの本体部51Cは、上流部50C1側の部分と、下流部50C2側の部分からなり、また、混合器50Cの混合部52Cも、上流部50C1側の部分と、下流部50C2側の部分からなる。上流部50C1及び下流部50C2が一体化すると、1つの本体部51Cが形成されると共に、1つの混合部52Cが形成される。なお、上流部50C1及び下流部50C2が一体化した状態において、上流部50C1の下端51Ccと、下流部50C2の上端51Cdとは、互いに突き当てられた形となる。
【0057】
積層体XCのコア材11Cが備える取付孔115Cは、コア材11Cを厚み方向に貫通する形で設けられている。取付孔115Cは、混合器50Cの下流部50C2のみを収容する。なお、取付孔115Cの表側の開口縁部116Cは、取付孔115Cを取り囲みつつ、コア材11Cの表面11C1から盛り上がった形をなしている。この開口縁部116Cは、積層体XCの状態において、表側の補強繊維基材12aから露出した状態となっている。つまり、補強繊維基材12aには、開口縁部116C及び取付孔115Cに収容された混合器50Cの下流部50C2を露出させる円形状の窓部12cが設けられている。また、コア材11Cには、表面11C1側と裏面11C2側とを連通する貫通孔状の分岐路114Cが複数設けられている。
【0058】
図9に示されるように、型締め状態の成形型30内において、積層体XCに取り付けられた下流部50C2と、可動金型32の注入孔33にセットされていた上流部50C1とが一体化されて、1つの混合器50Cが得られる。このような混合器50Cの供給口51Caから、混合器50C内に樹脂Rが供給され、その後、本体部51C内の混合部52Cで混合されると、排出口51Cbから樹脂Rが積層体XC内に排出される。その際、排出口51Cbから排出された樹脂Rは、裏側の補強繊維基材12bに含浸されつつ、固定金型31の成形面31a及びコア材11Cの裏面11C2に沿う形で、補強繊維基材12b内を面方向に広がるように移動する。補強繊維基材12b内を移動する樹脂Rの一部は、分岐路114Cを通って、コア材11Cの表面11C1側へ移動し、表側の補強繊維基材12aに供給される。
【0059】
このように、複数の部品に分かれた混合器50Cを利用しても、キャビティC内及び積層体XA内に、より確実に混合された樹脂Rを供給することができる。混合器50Cの下流部50C2のみが、積層体XCから突出しないように内部に収容されることで、混合器50Cが積層体XCから出っ張り、周辺にある物(例えば、成形型30)等と干渉することが抑制される。なお、混合器50Cは、樹脂Rの硬化工程後、積層体XCの表側の補強繊維基材12a上に固定された状態となる。混合器50Cは、必要に応じて、成形体から分離される。なお、混合器50Cの存在が特に問題とならなければ、成形品に混合器50Cが取り付けられたままでもよい。また、混合器50Cのうち、上流部50C1のみを成形品から除去してもよい。本実施形態の場合、上流部50C1のみ、下流部50C2から分離し易い構成となっている。
【0060】
<他の実施形態>
本発明は上記記述及び図面によって説明した実施形態に限定されるものではなく、例えば次のような実施形態も本発明の技術的範囲に含まれる。
【0061】
(1)上記実施形態1等において、混合器は、合成樹脂の成形品からなるものの、本発明の目的を損なわない限り、これに限られず、他の実施形態においては、例えば、金属製等の他の素材から形成される混合器であってもよい。
【0062】
(2)上記実施形態1等において、混合器内の混合部の形状は、螺旋状をなしていたが、本発明の目的を損なわない限り、これに限られず、他の実施形態においては、例えば、公知のスタティックミキサーで使用される混合部の形状が適用されてもよい。
【0063】
(3)他の実施形態においては、可動金型に穿設される注入孔及び混合器をそれぞれ長く設定し、樹脂を混合する距離を長く設定してもよい。混合器の長さ等の諸条件は、目的に応じて適宜、設定される。
【0064】
(4)他の実施形態においては、ウレタン樹脂、フェノール樹脂等の熱硬化性樹脂を利用して、成形品を製造してもよい。
【符号の説明】
【0065】
10…繊維強化樹脂成形品(成形品)、11…コア材、12a,12b…補強繊維基材、13…樹脂部、20…成形装置、30…成形型、31…固定金型(分割金型)、31a…成形面、32…可動金型(分割金型)、33…注入孔、32a…成形面、40…樹脂供給装置、50…混合器、51…本体部、52…混合部、C…キャビティ、R…未硬化状態の樹脂、X…積層体