(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-01-06
(45)【発行日】2022-01-20
(54)【発明の名称】医療機器および医療機器の製造方法
(51)【国際特許分類】
A61L 29/08 20060101AFI20220113BHJP
A61L 29/10 20060101ALI20220113BHJP
A61L 29/12 20060101ALI20220113BHJP
A61L 31/08 20060101ALI20220113BHJP
A61L 31/10 20060101ALI20220113BHJP
A61L 31/12 20060101ALI20220113BHJP
A61M 25/00 20060101ALI20220113BHJP
A61M 25/09 20060101ALI20220113BHJP
【FI】
A61L29/08 100
A61L29/10
A61L29/12
A61L31/08
A61L31/10
A61L31/12
A61M25/00 612
A61M25/09
(21)【出願番号】P 2017239641
(22)【出願日】2017-12-14
【審査請求日】2020-10-08
(73)【特許権者】
【識別番号】000135036
【氏名又は名称】ニプロ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000556
【氏名又は名称】特許業務法人 有古特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】亀岡 浩二
【審査官】藤代 亮
(56)【参考文献】
【文献】特開昭62-082968(JP,A)
【文献】特開昭60-259269(JP,A)
【文献】国際公開第2015/029641(WO,A1)
【文献】国際公開第2015/029625(WO,A1)
【文献】特表2001-500414(JP,A)
【文献】特表2001-503295(JP,A)
【文献】特表2002-536264(JP,A)
【文献】国際公開第2014/092660(WO,A1)
【文献】特表2020-525058(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
・IPC
A61L 29/08
A61L 29/10
A61L 29/12
A61L 31/08
A61L 31/10
A61L 31/12
A61M 25/00
A61M 25/09
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
生体内に挿入される医療機器であって、
その表面の少なくとも一部にマレイン酸系高分子を含有する被覆層が形成され、
さらに、前記被覆層の表面には、カチオンが一価の金属イオンである水溶性塩が
結晶状で表面全体に付着していることを特徴とする、
医療機器。
【請求項2】
前記水溶性塩が、アルカリ金属塩であることを特徴とする、
請求項1に記載の医療機器。
【請求項3】
前記医療機器は、カテーテルまたはガイドワイヤであることを特徴とする、
請求項1または2に記載の医療機器。
【請求項4】
生体内に挿入され、その表面の少なくとも一部にマレイン酸系高分子を含有する被覆層が形成されている医療機器を、カチオンが一価の金属イオンである水溶性塩を含有
し、高分子を含有しない塩水溶液に浸漬
した後に乾燥させる工程を含むことを特徴とする、
医療機器の製造方法。
【請求項5】
前記塩水溶液が、前記水溶性塩としてアルカリ金属塩を含有していることを特徴とする、
請求項4に記載の医療機器の製造方法。
【請求項6】
前記医療機器は、カテーテルまたはガイドワイヤであることを特徴とする、
請求項4または5に記載の医療機器の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生体内に挿入または抜去される医療機器と、当該医療機器の製造方法とに関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、カテーテル、ガイドワイヤ等の医療機器は、生体内に挿入または抜去される。このような医療機器では、生体内への挿入または抜去に際して、良好な操作性とともに良好な潤滑性が求められることが知られている。操作性は、医療器具を生体内の目的部位まで到達させるために必要であり、潤滑性は、器官または組織内に医療機器を留置した際に、周囲の組織等を損傷させたり炎症を引き起こしたりすることを回避するために必要である。
【0003】
このような医療機器としては、例えば、特許文献1に開示されるように、基材の表面にマレイン酸系高分子(マレイン酸系樹脂)を含む樹脂被覆層(被覆層)を設けてなる医療用具が知られている。この医療用具においては、マレイン酸系高分子として、赤外分光法(IR法)で測定した際の、カルボン酸エステルおよびカルボン酸の合計ピーク高さに対するカルボン酸塩のピーク高さの比を所定範囲内に限定したものが用いられている。これにより、医療用具(医療機器)は、体液や血液や生理食塩水などの水系液体中で表面潤滑性を発揮することが可能であり、操作性の向上にも寄与する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
前記の通り、医療機器の表面にマレイン酸系高分子を含有する被覆層を形成することで、当該医療機器の操作性および潤滑性を向上させることが可能である。しかしながら、本発明者らの検討によれば、このような被覆層による操作性および潤滑性等の性能は、使用前の保管環境における湿度によって経時的に低下することが明らかとなった。
【0006】
特許文献1では、樹脂被覆層として、分子中におけるカルボン酸塩の量を所定範囲に調整したマレイン酸系高分子を用いており、これにより、通常環境下だけでなく過酷な条件下においても潤滑性および表面潤滑性を発揮できることについて評価している。特許文献1における過酷な環境としては、高温、低温、高湿度等の条件が想定されており、実施例では、高温、低温、高湿度の条件を6つのステップで変化させる温湿度サイクル試験が行われている。しかしながら、保管環境の湿度により被覆層の性能が経時的に低下するか否かについては全く想定されていない。
【0007】
本発明はこのような課題を解決するためになされたものであって、生体内に挿入され、マレイン酸系高分子を含有する被覆層が形成された医療機器において、保管環境の湿度により当該被覆層による摺動性能が経時的に低下するおそれを有効に抑制することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係る医療機器は、前記の課題を解決するために、生体内に挿入される医療機器であって、その表面の少なくとも一部にマレイン酸系高分子を含有する被覆層が形成され、さらに、前記被覆層の表面には、カチオンが一価の金属イオンである水溶性塩が付着している構成である。
【0009】
前記構成によれば、マレイン酸系高分子を含有する被覆層の表面に、カチオンが一価の金属イオンである水溶性塩を付着させることで、被覆層の摺動抵抗値の増加を抑制することが可能となる。しかも、摺動回数が増加したり加速試験により長期間経過した状態になったりしても、摺動抵抗値の増加を良好に抑制することができる。それゆえ、医療機器の保管環境の湿度による被覆層の摺動性能の劣化を有効に抑制することができる。
【0010】
前記構成の医療機器においては、前記水溶性塩が、アルカリ金属塩である構成であってもよい。
【0011】
また、前記構成の医療機器においては、前記医療機器は、カテーテルまたはガイドワイヤである構成であってもよい。
【0012】
本発明に係る医療機器の製造方法は、前記の課題を解決するために、生体内に挿入され、その表面の少なくとも一部にマレイン酸系高分子を含有する被覆層が形成されている医療機器を、カチオンが一価の金属イオンである水溶性塩を含有する塩水溶液に浸漬する工程を含む構成である。
【0013】
前記医療機器の製造方法においては、前記塩水溶液が、前記水溶性塩としてアルカリ金属塩を含有している構成であってもよい。
【0014】
また、前記構成の医療機器の製造方法においては、前記医療機器は、カテーテルまたはガイドワイヤである構成であってもよい。
【発明の効果】
【0015】
本発明では、以上の構成により、生体内に挿入され、マレイン酸系高分子を含有する被覆層が形成された医療機器において、保管環境の湿度により当該被覆層による摺動性能が経時的に低下するおそれを有効に抑制することができる、という効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】本発明の実施の形態に係る医療機器の一例である血管拡張用バルーンカテーテルの構成例を示す概略平面図である。
【
図2】(A)および(B)は、本発明の代表的な実施例である医療機器の表面に付着した付着物の一例を示す走査型電子顕微鏡(SEM)写真である。
【
図3】本発明の代表的な実施例および比較例である医療機器の摺動性能の評価結果を示すグラフである。
【
図4】本発明の代表的な実施例および比較例である医療機器の摺動性能の評価結果を示すグラフである。
【
図5】本発明の代表的な実施例および比較例である医療機器の摺動性能の評価結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の代表的な実施の形態を、図面を参照しながら説明する。なお、以下では全ての図を通じて同一又は相当する要素には同一の参照符号を付して、その重複する説明を省略する。
【0018】
[医療機器]
本開示に係る医療機器は、体腔内に挿入されるように構成されるものであればよく、特に限定されない。代表的には、カテーテル、ガイドワイヤ、ダイレーター、シースイントロデューサー、スタイレット、または針等が挙げられる。本開示においては、これらの中でも特に代表的なものとして、カテーテルまたはガイドワイヤを挙げることができる。
【0019】
本開示に係る医療機器であるカテーテルとしては、具体的には、例えば、血管拡張用バルーンカテーテル、血管造影用カテーテル、サーモダイリューションカテーテル、中心静脈カテーテル等の血管内に挿入されるもの;胃管カテーテル、栄養カテーテル等の経口または経鼻で消化管内に挿入されるもの;酸素カテーテル、気管内吸引カテーテル等の経口または経鼻で気道または気管内に挿入されるもの;尿道カテーテル、導尿カテーテル、尿道バルーンカテーテル等の尿道または尿管に挿入されるもの;吸引カテーテル、排液カテーテル、直腸カテーテル等の体腔、臓器もしくは組織内に挿入されるもの;等を挙げることができる。
【0020】
本開示においては、これらのカテーテルの中でも特に代表的なものとして、血管内に挿入されるカテーテルを挙げることができ、より具体的には、血管拡張用バルーンカテーテルを挙げることができる。血管拡張用バルーンカテーテルは、例えば、狭窄血管に挿入して血管内でバルーンを膨張させることにより狭窄部位を拡張するために用いられる。なお、以下の説明では、便宜上、血管拡張用バルーンカテーテルを、単に「バルーンカテーテル」と略す。
【0021】
バルーンカテーテルの具体的な構成は特に限定されず、外部から圧力流体が供給または排出されることにより膨張または収縮するバルーンを先端側に備えた公知のものであればよい。代表的なバルーンカテーテルとしては、RX(Rapid Exchange)型のものが挙げられる。RX型のバルーンカテーテルの具体的な構成は特に限定されないが、代表的には、
図1に示す構成のものを例示することができる。
【0022】
図1に示すように、RX型のバルーンカテーテル10は、カテーテル本体11およびコネクタ12を備えている。カテーテル本体11は、体内管状組織に挿入し、かつ、カテーテル本体11の先端部が目的部位まで届くように構成されている。
図1に示す構成では、カテーテル本体11は、細長い大略円筒状のチューブに形成されており、その基端部にコネクタ12が設けられている。コネクタ12は、基端に開口部を有しており、その開口部から生理食塩水等の圧力流体を注入できるように構成されている。また、コネクタ12は、把持部も兼ねており、施術者が把持可能な形状に形成されている。
【0023】
カテーテル本体11は、外側シャフト13、内側シャフト14、バルーン15等を備えている。外側シャフト13は、細長い大略円筒状のチューブであり、例えば、金属製の後端側シャフトと樹脂(高分子材料)製の先端側シャフトとを連結することによって構成されている。外側シャフト13の先端側部分には、当該先端側部分の剛性を向上させるために、例えば金属製のコアワイヤが配置されている。
【0024】
内側シャフト14は、例えば、樹脂(高分子材料)製の細長い大略円筒状のチューブであり、外側シャフト13の先端側部の軸線方向に延在するように挿通されている。また、内側シャフト14の先端部は、外側シャフト13から突出している。内側シャフト14の先端部には、バルーン15が外側から被せられて設けられている。バルーン15は、略筒形状の袋部材であり、可撓性または弾性を有する樹脂(高分子材料)製の薄膜で形成されている。バルーン15は、その中に生理食塩水等の圧力流体を注入することで膨張するように構成されている。
【0025】
図1に示す構成では、コネクタ12は、カテーテル本体11の基端部の側方に設けられている。また、コネクタ12は前記の通り把持部を兼ねた形状となっているが、コネクタ12の形状もこれに限定されず、公知のさまざまな形状を採用することができる。さらに、
図1に示す構成では、ガイドワイヤを挿入する開口(ガイドワイヤポート)を外側シャフトの途中に設けているが、コネクタ12と連通するようなOTW(over the wire)型を採用することができる。
【0026】
このような構成のバルーンカテーテル10は、先に、生体内に挿通したガイドワイヤに沿わせて当該生体内に挿入される。そして、バルーンカテーテル10の後端側を押すことによってカテーテルの先端側部分を押し進めることができる。血管拡張用バルーンカテーテル10の使用方法について、例えば冠静脈の狭窄部を拡張する場合を例に挙げて説明する。
【0027】
予め冠静脈内に造影剤を注入し、造影装置により狭窄部の位置を確認しておく。次に、ガイドワイヤに沿わせて冠動脈内にバルーンカテーテル10を挿入する。バルーン15が狭窄部に到達すればバルーン15を膨張させる。これにより冠静脈の狭窄部を拡張させることができる。狭窄部が良好に拡張されれば、バルーン15を収縮させ、バルーンカテーテル10を抜去する。このようにバルーンカテーテル10を生体内に挿入したり抜去したりするときには、特に外径の大きいバルーン15が生体内の器官または組織と摺動される。そのため、周囲の組織等の損傷を回避したり炎症の発生を抑制したりする必要がある。
【0028】
また、本開示に係る医療機器であるガイドワイヤは、例えば、生体内にカテーテルを挿入するために用いられるものであればよい。それゆえ、具体的なガイドワイヤとしては、前述した各種のカテーテルを生体内に挿入する際に用いられるものを挙げることができ、その具体的な種類は特に限定されない。ガイドワイヤにおいても、カテーテルと同様に、挿入時または抜去時には生体内の器官または組織と摺動する。そのため、周囲の組織等の損傷を回避したり炎症の発生を抑制したりする必要がある。
【0029】
[被覆層および表面に付着する水溶性塩]
本開示においては、前述した医療機器は、その表面にマレイン酸系高分子を含有する被覆層を有している。被覆層は、医療機器の表面の少なくとも一部に形成されていればよいが、表面全体に形成されてもよい。被覆層が形成される表面としては、生体内に挿入されて摺動する(可能性のある)部位を挙げることができる。例えば、医療機器が前述したバルーンカテーテルであれば、少なくともバルーンの外表面に被覆層が形成されていればよく、バルーンを含むバルーンカテーテルの外表面全体に被覆層が形成されてもよい。一般に、マレイン酸系高分子は、血液等の体液に接触して湿潤した状態で良好な潤滑性を発揮することができる。
【0030】
本開示において被覆層に用いられるマレイン酸系高分子は、マレイン酸またはその塩、あるいはその誘導体(マレイン酸類)を由来とする単位構造として含むものであればよい。それゆえ、本開示におけるマレイン酸系高分子は、1種類のマレイン酸類由来の単位構造のみで構成される単独重合体であってもよいし、2種類以上のマレイン酸類由来の単位構造で構成されるマレイン酸類の共重合体であってもよいし、1種類以上のマレイン酸類由来の単位構造とマレイン酸類以外の他の単位構造とで構成される共重合体であってもよい。
【0031】
また、マレイン酸系高分子が共重合体である場合、単位構造の配列も特に限定されず、ランダム共重合、交互共重合、ブロック共重合、またはグラフト共重合もしくはこれらの組合せであってもよい。さらに、マレイン酸系高分子が共重合体である場合、各単位構造(当該単位構造を構成する単量体)の組成も特に限定されず、公知の組成を好適に採用することができる。
【0032】
より具体的なマレイン酸系高分子としては、例えば、次の式(1)に示す単位構造を有するものを挙げることができる。なお、式(1)におけるmおよびnは、それぞれ独立して1以上の整数であればよい。
【0033】
【0034】
代表的なマレイン酸系高分子としては、式(1)におけるm=1であり、n=2であるもの、すなわち、メチルビニルエーテル無水マレイン酸共重合体のエチルエステルを挙げることができる。このエチルエステルはハーフエチルエステル(エステル化度が約50%のもの)であることが好ましい。
【0035】
マレイン酸系高分子の分子量は特に限定されず、公知の範囲内を好適に用いることができる。また、分子量以外のマレイン酸系高分子の物性についても特に限定されず、医療機器の被覆層に用いられた場合に良好な潤滑性を発揮できるような物性であればよい。
【0036】
本開示において、医療機器に形成される被覆層は、マレイン酸系高分子のみで構成されてもよいが、マレイン酸系高分子以外の成分を含んでもよい。例えば、マレイン酸系高分子と混合可能な(ポリマーアロイを形成可能な)他の高分子を含有してもよいし、医療機器用樹脂材料の分野で公知の各種の添加剤を含有してもよい。
【0037】
被覆層の組成も特に限定されず、マレイン酸系高分子が被覆層の主成分であればよい。被覆層がマレイン酸系高分子のみで構成されていれば、マレイン酸系高分子の含有量(含有率)は100重量%であるが、マレイン酸系高分子以外の成分を含む場合には、マレイン酸系高分子の含有量が50重量%を超えていればよい。あるいは、被覆層の成分を、マレイン酸系高分子と、それ以外の2種類以上のカテゴリーに分類できる場合には、マレイン酸系高分子の含有量が最大になっていればよい。なお、マレイン酸系高分子として2種類以上が組み合わせられて用いられる場合には、マレイン酸系高分子の含有量とは、2種類以上のマレイン酸系高分子の総量であればよい。
【0038】
本開示に係る医療機器は、前述した被覆層を備えているが、この被覆層の表面には、カチオンが一価の金属イオンである水溶性塩が付着している。この水溶性塩は、被覆層の表面全体に層状に付着してもよいが、微細な結晶状で表面全体に分散して付着していればよい。被覆層の表面に付着している水溶性塩の形態は特に限定されず、樹枝状であってもよいし粒子状であってもよいしその他の形状であってもよい。被覆層の表面に水溶性塩が付着している状態は、目視で観察することができるが、電子顕微鏡で観察することで、より明確に確認することができる。水溶性塩が付着した医療機器(本開示に係る医療機器)の外観を目視で観察すると、水溶性塩が付着していない医療機器と比較して、その表面(被覆層の表面)には、付着した水溶性塩に由来する白濁を確認することができる。
【0039】
また、水溶性塩が付着した表面を、例えば走査線電子顕微鏡(SEM)で観察すると、後述する実施例で説明するように、代表的には、樹枝状または球状(球形粒子状)の付着物を確認することができる(
図2参照)。これらの付着物を成分分析すると、後述する実施例で説明するように、特に樹枝状の付着物に水溶性塩の成分が検出される。もちろん、付着した水溶性塩の形態は前記の通り樹枝状に限定されないが、代表的な形態としては樹枝状を挙げることができる。なお、付着物の成分分析法は特に限定されず、公知の方法を好適に用いることができる。代表的には、エネルギー分散型X線分析法(EDS)を挙げることができる。
【0040】
ここで、水溶性塩が付着した医療機器の重量を、水溶性塩が付着していない医療機器の重量と比較しても、総重量にはほとんど差が見られない。それゆえ、本開示に係る医療機器において被覆層に付着する水溶性塩の重量はごく微量なものである。言い換えれば、本開示においては、医療機器の被覆層に付着する水溶性塩はごく微量であっても良好な効果を発揮することができる。
【0041】
また、本開示に係る医療機器においては、重量変化に基づいて被覆層に水溶性塩が付着しているか否かを判断することが難しい。そのため、前記の通り、目視で医療機器の表面の白濁を観察するか、電子顕微鏡で医療機器の表面の付着物の有無を観察すればよく、水溶性塩のより明確な付着を判断するためには、前述したように付着物の成分分析を行えばよい。
【0042】
本開示に係る医療機器においては、被覆層の表面に水溶性塩が付着することで、保管環境の湿度により当該被覆層による摺動性能が経時的に低下するおそれを有効に抑制することができる。それゆえ、水溶性塩は、被覆層の表面に分散して付着していればよいが、被覆層が形成されていない医療機器の表面に水溶性塩が付着してもよい。前記の通り、被覆層は、医療機器の表面全体に形成されてもよいし、表面の少なくとも一部に形成されてもよい。被覆層が部分的に形成されている場合には、被覆層のみに水溶性塩を付着させてもよいが、被覆層を含む医療機器の表面に水溶性塩を付着させてもよい。
【0043】
本開示に係る医療機器において、被覆層に付着する水溶性塩の具体的な種類は特に限定されず、カチオンが一価の金属イオンであればよい。また、アニオンについては特に限定されない。水溶性塩は、医療機器としての使用に何らかの影響を及ぼさないものであれば、公知のものを好適に用いることができる。
【0044】
水溶性塩のカチオンとして使用可能な金属としては、代表的には、アルカリ金属の塩を挙げることができる。アルカリ金属は周期表第1族元素のうち水素を除いたものであり、具体的には、リチウム、ナトリウム、カリウム、ルビジウム、セシウム、フランシウムである。また、アルカリ金属以外で一価のカチオンとなりうる金属としては、銀および銅(銅イオンは一価のCu+ および二価のCu2+がある。)が挙げられる。これらの中でも、入手性等の観点から、リチウム、ナトリウム、カリウムが好ましく、生体において電解質成分に含まれている観点からナトリウム、カリウムがより好ましい。
【0045】
また、水溶性塩のアニオンとしては、代表的には、ハロゲン化物イオン、水酸化物イオン、硝酸イオン、亜硝酸イオン、酢酸イオン、炭酸水素イオン、リン酸水素イオン、硫酸水素イオン等を挙げることができるが、特に限定されない。これらの中でも、入手性等の観点から、フッ化物イオン、塩化物イオン、臭化物イオン、ヨウ化物イオン等のハロゲン化物イオンが好ましく、生体において電解質成分に含まれている観点から塩化物イオンが特に好ましい。
【0046】
本開示において水溶性塩として用いられるより具体的な金属塩としては、塩化ナトリウムまたは塩化カリウムを挙げることができる。塩化ナトリウム、塩化カリウムは、いずれもカチオン(ナトリウムイオン、カリウムイオン)およびアニオン(塩化物イオン)ともに電解質成分に含まれており、かつ、入手が容易であって相対的に安価である。なお、水溶性塩としては1種類のみを用いてもよいし、2種類以上を適宜組み合わせて用いてもよい。
【0047】
[医療機器の製造方法]
本開示に係る医療機器の製造方法は、前述した医療機器の被覆層に対して前述した水溶性塩を付着される工程を含んでいればよい。その具体的な構成は特に限定されないが、代表的には、被覆層が形成されている医療機器を、カチオンが一価の金属イオンである水溶性塩を含有する塩水溶液に浸漬する工程を含む製造方法であればよい。なお、この工程を、説明の便宜上「浸漬工程」と称する。
【0048】
浸漬工程において、塩水溶液の具体的な組成は特に限定されず、溶質が水溶性塩であり溶媒が水であればよい。また、塩水溶液には、水溶性塩以外の成分を含んでもよい。必要に応じて、溶媒として水以外の水溶性溶媒を併用することもできる。水溶性塩の濃度も特に限定されないが、0.5~10.0重量%の範囲内であればよく、0.8~1.0重量%の範囲内であることが好ましい。
【0049】
水溶性塩としては、前記の通り、生体の電解質成分である塩化ナトリウムまたは塩化カリウムを用いることができる。そして、医療においては、体液と同等の浸透圧を有する塩化ナトリウム水溶液である生理食塩水を用いるが、この生理食塩水における塩化ナトリウムの濃度は約0.9重量%である。それゆえ、塩水溶液における水溶性塩の好ましい濃度としては、生理食塩水の濃度に基づいて設定することができる。ただし、水溶性塩の種類、被覆層におけるマレイン酸系高分子の種類、医療機器の種類、形状または材質、あるいは、医療機器の製造効率、製造コスト等といった諸条件によっては、水溶性塩の濃度は、生理食塩水近傍よりもさらに高濃度またはさらに低濃度に設定することができる。
【0050】
浸漬工程において、塩水溶液への医療機器の浸漬時間、浸漬温度等といった浸漬条件は特に限定されない。これら浸漬条件は、水溶性塩の種類、被覆層におけるマレイン酸系高分子の種類、医療機器の種類、形状または材質、あるいは、医療機器の製造効率、製造コスト等といった諸条件に応じて適宜設定することができる。
【0051】
本開示に係る医療機器の製造方法においては、前述した浸漬工程に加えて、被覆層形成工程が含まれてもよい。つまり、本開示に係る医療機器の製造方法は、予め被覆層が形成された医療機器に水溶性塩を付着させる構成であってもよいし、被覆層が形成されていない医療機器に被覆層を形成してから水溶性塩を付着させる構成であってもよい。
【0052】
被覆層形成工程の具体的な構成は特に限定されず、被覆層が形成されていない医療機器に対して、必要な部位(表面全体または表面の一部)に公知の方法で被覆層を形成すればよい。被覆層の形成方法も特に限定されず、医療機器の材質(特に被覆層の形成対象となる表面の材質)および被覆層として用いるマレイン酸系高分子等の種類に応じて好適な方法を適宜選択することができる。
【0053】
前記の通り、被覆層はマレイン酸系高分子を主成分として含有するものであればよい。それゆえ、具体的な被覆層の形成方法としては、マレイン酸系高分子を溶媒に溶解した樹脂溶液、もしくは、マレイン酸系高分子を含有する液状の樹脂組成物を、医療機器の表面に浸漬、噴霧、塗布または印刷する方法を挙げることができる。マレイン酸系高分子の樹枝溶液または樹脂組成物に用いられる溶媒としては特に限定されず、マレイン酸系高分子を溶解または分散可能な公知の有機溶媒を用いることができる。具体的な有機溶媒としては、例えば、テトラヒドロフラン(THF)、アセトン、メチルエチルケトン、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキシド等を挙げることができる。これら有機溶媒は1種類のみを用いてもよいし、2種類以上を適宜組み合わせて用いてもよい。
【0054】
ここで、被覆層を形成する際には、マレイン酸系高分子を、医療機器の表面に存在する官能基に反応させて共有結合を形成することが好ましい。これにより、被覆層が医療機器の表面から剥離することを抑制することができる。マレイン酸系高分子の分子と反応可能な反応性官能基としては、具体的には、例えば、酸無水物基、水酸基、カルボキシル基、アミノ基、イソシアネート基、エポキシ基、アルデヒド基等を挙げることができるが、特に限定されない。
【0055】
ここで、医療機器の材質としては、金属、ガラス、樹脂(高分子)、セラミックス等を挙げることができるが、医療機器の材質によっては、その表面に反応性官能基が存在していない場合がある。この場合、医療機器の表面に反応性官能基を導入すればよい。具体的な導入方法は特に限定されず、公知の表面処理により反応性官能基を導入してもよいし、反応性官能基を有する化合物からなる下地層を形成してもよい。下地層の形成方法は、前述した被覆層の具体的な形成方法と同様であればよい。また、反応性官能基を有する化合物についても特に限定されず、公知の化合物を好適に用いることができる。
【0056】
本開示に係る医療機器の製造方法においては、前述した浸漬工程および被覆層形成工程に加えて、被覆層をアルカリ処理するアルカリ処理工程が含まれてもよい。このアルカリ処理工程は、浸漬工程の前に実施される。アルカリ処理により、被覆層に含有されるマレイン酸系高分子のカルボキシル基およびカルボキシル基のエステルをカルボン酸塩にする。これにより、被覆層の潤滑性をより一層向上することが可能になる。アルカリ処理の具体的な方法は特に限定されず、公知のアルカリ水溶液に医療機器を所定時間浸漬すればよい。アルカリ水溶液の組成、浸漬時間等の諸条件も特に限定されない。
【0057】
また、浸漬工程の後には、医療機器を室温で静置することにより自然乾燥させて水分を除去すればよいが、必要に応じて、乾燥工程を実施してもよい。乾燥工程における乾燥方法は特に限定されず、公知の乾燥機等を用いて所定の温度で乾燥すればよい。つまり、本開示に係る医療機器の製造方法においては、前述した浸漬工程以外に、被覆層形成工程、アルカリ処理工程、および乾燥工程の少なくともいずれかの工程が含まれてもよい。
【0058】
このように、本開示においては、医療機器に形成される、マレイン酸系高分子を含有する被覆層の表面に、カチオンが一価の金属イオンである水溶性塩を付着させている。これにより、被覆層の摺動抵抗値の増加を抑制することが可能となる。しかも、摺動回数が増加したり加速試験により長期間経過した状態になったりしても、摺動抵抗値の増加を良好に抑制することができる。それゆえ、保管環境の湿度により被覆層の摺動性能の劣化を有効に抑制することができる。
【実施例】
【0059】
本発明について、実施例および比較例に基づいてより具体的に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。当業者は本発明の範囲を逸脱することなく、種々の変更、修正、および改変を行うことができる。なお、以下の実施例および比較例における摺動性能の評価試験は次に示すようにして行った。
【0060】
(摺動性能の評価試験)
実施例または比較例で得られた医療機器であるバルーンカテーテルの摺動性能は、特許4254107号の実施例に記載される、容器A,治具B、錘C、並びに引張試験機を用いた方法により評価した。なお、以下の評価試験では、容器Aの接触部の表面にはシリコンゴムシートを貼り付けており、治具Bの樹脂板としては塩化ビニル樹脂製のものを用いており、錘Cとしては30gの分銅を用いた。また、摺動抵抗値は、摺動回数が21回に達するまで測定した。
【0061】
(比較例1)
医療機器としては、ポリエーテルブロックアミド共重合体(商品名:PEBAX7033(登録商標)、アルケマ社)製のバルーンを備えるバルーンカテーテルを用いた。このバルーンカテーテルのバルーンの表面に、メチルビニルエーテル無水マレイン酸共重合体ハーフエチルエステル(MVE)の被覆層を形成し、これを基準用バルーンカテーテルとした。この基準用バルーンカテーテルのバルーンを比較例1のバルーンとして、前記の通り摺動性能の評価試験を実施した。その結果を
図3の一点鎖線で示す。
【0062】
(比較例2)
加湿加速試験により、基準用バルーンカテーテルを1年相当経過した状態とした。このバルーンカテーテルのバルーンを比較例2のバルーンとして、前記の通り摺動性能の評価試験を実施した。その結果を
図3の長破線で示す。
【0063】
(比較例3)
比較例2と同様に加湿加速試験により、基準用バルーンカテーテルを3年相当経過した状態とした。このバルーンカテーテルのバルーンを比較例3のバルーンとして、前記の通り摺動性能の評価試験を実施した。その結果を
図3の短破線で示す。
【0064】
(実施例1)
基準用バルーンカテーテルを0.9%濃度の塩化ナトリウム(NaCl)水溶液(生理食塩水)に浸漬して乾燥させることにより、被覆層の表面に水溶性塩である塩化ナトリウムを付着させた。
【0065】
得られたバルーンカテーテルのバルーンの一部を採取して分析用試料とした。この分析用試料を走査型電子顕微鏡(日本電子株式会社製、商品名:JSM-6360LA)により650倍または900倍で観察した。その結果(SEM写真)を
図2(A)(650倍)、
図2(B)(900倍)で示す。
図2(A),(B)に示すようにバルーンの表面には樹枝状の付着物または球状の付着物が確認された。
【0066】
また、これら付着物について分析用試料をエネルギー分析型X線分析装置(日本電子株式会社製、商品名:EX-2300BU)でEDS分析した。その結果、樹枝状の付着物からは、炭素、酸素、塩素およびナトリウムが検出され、球状の付着物からは、主として炭素および酸素が検出された。球状の付着物には、炭素および酸素以外にケイ素が検出されるもの、あるいは、微量のナトリウムが検出されるものも存在した。
【0067】
さらに、得られたバルーンカテーテルを、比較例2と同様に加湿加速試験により1年相当経過した状態とした。このバルーンカテーテルのバルーンを実施例1のバルーンとして、前記の通り摺動性能の評価試験を実施した。その結果を
図3の実線で示す。
【0068】
(実施例2)
実施例1と同様に、被覆層の表面に塩化ナトリウムを付着させたバルーンカテーテルを得た。このバルーンカテーテルを比較例3と同様に加湿加速試験により3年相当経過した状態とした。このバルーンカテーテルのバルーンを実施例2のバルーンとして、前記の通り摺動性能の評価試験を実施した。その結果を
図3の白抜き線で示す。
【0069】
(比較例1~3、実施例1、2の対比)
図3に示すグラフでは、横軸が摺動回数(単位:回)であり縦軸が摺動抵抗値(単位:N)である(
図4および
図5も同様)。
図3に示すように、実施例1(実線)および実施例2(白抜き線)のいずれにおいても、比較例1(一点鎖線)、比較例2(長破線)、または比較例3(短破線)よりも摺動抵抗値が低かった。しかも、実施例1および実施例2のいずれにおいても、摺動回数が増加しても摺動抵抗値の増加はほとんど見られなかった。
【0070】
(比較例4)
比較例1と同様にして基準用バルーンカテーテルのバルーンを、比較例4のバルーンとして、前記の通り摺動性能の評価試験を実施した。その結果を
図4の一点鎖線で示す。
【0071】
(実施例3)
実施例1と同様にして被覆層の表面に塩化ナトリウムを付着させたバルーンカテーテルを得た。このバルーンカテーテルのバルーンを実施例3のバルーンとして、前記の通り摺動性能の評価試験を実施した。その結果を
図4の実線で示す。
【0072】
(実施例4)
基準用バルーンカテーテルを0.9%濃度の塩化カリウム(KCl)水溶液に浸漬して乾燥させることにより、被覆層の表面に水溶性塩である塩化カリウムを付着させた。得られたバルーンカテーテルのバルーンを実施例4のバルーンとして、前記の通り摺動性能の評価試験を実施した。その結果を
図4の密な点線で示す。
【0073】
(比較例5)
基準用バルーンカテーテルを0.9%濃度の塩化マグネシウム(MgCl
2 )水溶液に浸漬して乾燥させることにより、被覆層の表面に水溶性塩である塩化マグネシウムを付着させた。得られたバルーンカテーテルのバルーンを比較例5のバルーンとして、前記の通り摺動性能の評価試験を実施した。その結果を
図4の粗い点線で示す。
【0074】
(比較例6)
基準用バルーンカテーテルを0.9%濃度の塩化カルシウム(CaCl
2 )水溶液に浸漬して乾燥させることにより、被覆層の表面に水溶性塩である塩化カルシウムを付着させた。得られたバルーンカテーテルのバルーンを比較例6のバルーンとして、前記の通り摺動性能の評価試験を実施した。その結果を
図4の破線で示す。
【0075】
(比較例4~6、実施例3、4の対比)
比較例4~6、実施例3、4のバルーンは、いずれも加湿加速試験を実施していないものである(加速無)。
図4に示すように、実施例3(実線)および実施例4(密な点線)のいずれにおいても、比較例4(一点鎖線)または比較例5(粗い点線)よりも摺動抵抗値が低かった。また、実施例3および実施例4のいずれにおいても、摺動回数が増加しても摺動抵抗値の増加はほとんど見られなかった。
【0076】
(比較例7)
比較例2と同様にして、加湿加速試験により基準用バルーンカテーテルを加速1年相当の状態とした。このバルーンカテーテルのバルーンを、比較例7のバルーンとして、前記の通り摺動性能の評価試験を実施した。その結果を
図5の一点鎖線で示す。
【0077】
(実施例5)
実施例3と同様にして被覆層の表面に塩化ナトリウムを付着させたバルーンカテーテルを得た。このバルーンカテーテルを前述した加湿加速試験により加速1年相当の状態とした。このバルーンカテーテルのバルーンを実施例5のバルーンとして、前記の通り摺動性能の評価試験を実施した。その結果を
図5の実線で示す。
【0078】
(実施例6)
実施例4と同様にして被覆層の表面に塩化カリウムを付着させたバルーンカテーテルを得た。このバルーンカテーテルを前述した加湿加速試験により加速1年相当の状態とした。このバルーンカテーテルのバルーンを実施例6のバルーンとして、前記の通り摺動性能の評価試験を実施した。その結果を
図5の密な点線で示す。
【0079】
(比較例8)
比較例5と同様にして被覆層の表面に塩化マグネシウムを付着させたバルーンカテーテルを得た。このバルーンカテーテルを前述した加湿加速試験により加速1年相当の状態とした。このバルーンカテーテルのバルーンを比較例8のバルーンとして、前記の通り摺動性能の評価試験を実施した。その結果を
図5の粗い点線で示す。
【0080】
(比較例9)
比較例6と同様にして被覆層の表面に塩化カルシウムを付着させたバルーンカテーテルを得た。このバルーンカテーテルを前述した加湿加速試験により加速1年相当の状態とした。このバルーンカテーテルのバルーンを比較例9のバルーンとして、前記の通り摺動性能の評価試験を実施した。その結果を
図5の破線で示す。
【0081】
(比較例7~9、実施例5、6の対比)
比較例7~9、実施例5、6のバルーンは、いずれも加湿加速試験により加速1年相当の状態にあるのである(加速無)。
図5に示すように、実施例5(実線)および実施例6(密な点線)のいずれにおいても、比較例7(一点鎖線)、比較例8(粗い点線)、または比較例9(破線)よりも摺動抵抗値が低かった。また、実施例5および実施例6のいずれにおいても、摺動回数が増加しても摺動抵抗値の増加はほとんど見られなかった。
【0082】
このように、実施例および比較例の結果から、マレイン酸系高分子を含有する被覆層に、カチオンが一価の金属イオンである水溶性塩が付着させると、加速状態の有無にかかわらず、医療機器は良好な摺動性能を実現できることがわかる。これに対して、水溶性塩が二価の金属イオンであれば、水溶性塩を付着させない基準状態よりも摺動性能が低下するだけでなく、加速状態の有無によって摺動抵抗値の変化の傾向が安定しないことがわかる。
【0083】
なお、本発明は前記実施の形態の記載に限定されるものではなく、特許請求の範囲に示した範囲内で種々の変更が可能であり、異なる実施の形態や複数の変形例にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施の形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。
【産業上の利用可能性】
【0084】
本発明は、カテーテルまたはガイドワイヤ等のように、生体内に挿入または抜去される医療機器の分野に広く好適に用いることができる。
【符号の説明】
【0085】
10:バルーンカテーテル
11:カテーテル本体
12:コネクタ
13:外側シャフト
14:内側シャフト
15:バルーン