(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-01-06
(45)【発行日】2022-01-20
(54)【発明の名称】電力変換装置
(51)【国際特許分類】
H02M 3/28 20060101AFI20220113BHJP
【FI】
H02M3/28 Q
(21)【出願番号】P 2017247535
(22)【出願日】2017-12-25
【審査請求日】2020-07-21
(73)【特許権者】
【識別番号】000003067
【氏名又は名称】TDK株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100104787
【氏名又は名称】酒井 伸司
(72)【発明者】
【氏名】林 旻
(72)【発明者】
【氏名】松浦 研
【審査官】東 昌秋
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2013/058174(WO,A1)
【文献】特開平8-266057(JP,A)
【文献】国際公開第2013/160960(WO,A1)
【文献】特開2008-193878(JP,A)
【文献】特開昭64-43061(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02M 3/00-3/44
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
直流入力電圧が入力される
高電位側の直流入力端子および低電位側の直流入力端子と、
直流出力電圧が出力される2つの直流出力端子と、
一次巻線および二次巻線を有する絶縁トランスと、
前記一次巻線と直列に接続された状態で前記2つの直流入力端子間に接続されて、前記直流入力電圧をスイッチングするスイッチング素子と、
前記高電位側の直流入力端子および前記絶縁トランスにおける前記一次巻線の一端の接続点と、当該一次巻線の他端および前記スイッチング素子の接続点との間に接続されてインダクタンスとキャパシタンスとを含んで構成さ
れたLC共振回路と、
前記スイッチング素子に並列に接続された第1の共振キャパシタンスと、
前記二次巻線に並列に接続された第2の共振キャパシタンスと、
前記第2の共振キャパシタンスの両端間に発生する電圧を整流・平滑して前記直流出力電圧として前記2つの直流出力端子間に出力する整流平滑回路とを備えていることを特徴とする電力変換装置。
【請求項2】
直流入力電圧が入力される
高電位側の直流入力端子および低電位側の直流入力端子と、
直流出力電圧が出力される2つの直流出力端子と、
一次巻線およびセンタタップ端子を備えた二次巻線を有する絶縁トランスと、
前記一次巻線と直列に接続された状態で前記2つの直流入力端子間に接続されて、前記直流入力電圧をスイッチングするスイッチング素子と、
前記高電位側の直流入力端子および前記絶縁トランスにおける前記一次巻線の一端の接続点と、当該一次巻線の他端および前記スイッチング素子の接続点との間に接続されてインダクタンスとキャパシタンスとを含んで構成さ
れたLC共振回路と、
前記スイッチング素子に並列に接続された第1の共振キャパシタンスと、
前記二次巻線の一端と前記センタタップ端子との間に接続された第3の共振キャパシタンスと、
前記二次巻線の他端と前記センタタップ端子との間に接続された第4の共振キャパシタンスと、
前記第3の共振キャパシタンスの両端間に発生する電圧および前記第4の共振キャパシタンスの両端間に発生する電圧を整流・平滑して前記直流出力電圧として前記2つの直流出力端子間に出力する整流平滑回路とを備えていることを特徴とする電力変換装置。
【請求項3】
直流入力電圧が入力される2つの直流入力端子と、
直流出力電圧が出力される2つの直流出力端子と、
一次巻線、二次巻線および補助巻線を有する絶縁トランスと、
前記一次巻線と直列に接続された状態で前記2つの直流入力端子間に接続されて、前記直流入力電圧をスイッチングするスイッチング素子と、
インダクタンスとキャパシタンスとを含んで構成されて前記補助巻線に並列に接続されたLC共振回路と、
前記スイッチング素子に並列に接続された第1の共振キャパシタンスと、
前記二次巻線に並列に接続された第2の共振キャパシタンスと、
前記第2の共振キャパシタンスの両端間に発生する電圧を整流・平滑して前記直流出力電圧として前記2つの直流出力端子間に出力する整流平滑回路とを備えていることを特徴とする電力変換装置。
【請求項4】
前記スイッチング素子は、E級スイッチング動作をすることを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載の電力変換装置。
【請求項5】
前記LC共振回路は、インダクタンスとキャパシタンスの直列回路で構成されることを特徴とする請求項1から4のいずれかに記載の電力変換装置。
【請求項6】
前記2つの直流入力端子間が短絡状態のときの前記スイッチング素子の両端側から見たインピーダンスの周波数特性において、
低域側から高域側に向けて第1の共振周波数、第2の共振周波数、第3の共振周波数、第4の共振周波数および第5の共振周波数を有して、この5つの共振周波数のうちの前記第1の共振周波数および前記第2の共振周波数のみが前記スイッチング素子のスイッチング周波数より低く、前記第3の共振周波数のみが当該スイッチング周波数の2倍の周波数より低く、前記第4の共振周波数が当該2倍の周波数とほぼ同じであり、前記第5の共振周波数が当該2倍の周波数より高くなり、前記インピーダンスが、前記第1の共振周波数、前記第3の共振周波数および前記第5の共振周波数で極大となり、かつ前記第2の共振周波数および前記第4の共振周波数で極小となるように形成されていることを特徴とする請求項1から5のいずれかに記載の電力変換装置。
【請求項7】
前記LC共振回路は、インダクタンスとキャパシタンスの直列回路を2組有すると共に、当該2組の直列回路が並列に接続されて構成されることを特徴とする請求項1から4のいずれかに記載の電力変換装置。
【請求項8】
前記2つの直流入力端子間が短絡状態のときの前記スイッチング素子の両端側から見たインピーダンスの周波数特性において、
低域側から高域側に向けて第1の共振周波数、第2の共振周波数、第3の共振周波数、第4の共振周波数、第5の共振周波数、第6の共振周波数および第7の共振周波数を有して、この7つの共振周波数のうちの前記第1の共振周波数および前記第2の共振周波数のみが前記スイッチング素子のスイッチング周波数より低く、前記第3の共振周波数のみが当該スイッチング周波数の2倍の周波数より低く、前記第4の共振周波数が当該2倍の周波数とほぼ同じであり、前記第5の共振周波数が当該2倍の周波数より高くかつ当該スイッチング周波数の4倍の周波数より低くなり、前記第6の共振周波数が当該4倍の周波数とほぼ同じであり、前記第7の共振周波数が当該4倍の周波数より高くなり、前記インピーダンスが、前記第1の共振周波数、前記第3の共振周波数、前記第5の共振周波数および前記第7の共振周波数で極大となり、かつ前記第2の共振周波数、前記第4の共振周波数および前記第6の共振周波数で極小となるように形成されていることを特徴とする請求項1から4および7のいずれかに記載の電力変換装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電力変換装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
高周波帯域で動作する電力変換回路として、高変換効率の絶縁型共振コンバータが知られている(下記特許文献1参照)。
【0003】
特許文献1に開示されている絶縁型共振コンバータ100は、
図9に示すように、一次巻線101a、二次巻線101bおよび補助巻線101cを有する変圧器101(絶縁トランス)と、直流入力端子102a,102b間に一次巻線101aと直列接続された状態で配設されて、直流入力端子102a,102b間に入力される直流入力電圧V1をスイッチングするスイッチング素子103と、スイッチング素子103に並列接続された共振用キャパシタンス104と、アクティブクランプ回路105と、二次巻線101bに並列に接続されたLC共振回路106(インダクタンス106aとキャパシタンス106bの直列回路)と、キャパシタンス106bの両端間に接続された整流平滑回路107(整流素子としてのダイオード107aおよび平滑用キャパシタンス107bで構成される回路)とを備えて構成されて、直流入力電圧V1を直流出力電圧V2に変換して直流出力端子108a,108b間に出力する。この場合、インダクタンス106aは、変圧器101の二次巻線101b側に存在する漏れインダクタンスのみで実現する構成でもよいし、また漏れインダクタンスに加えて別体のインダクタンスを配設する構成でもよい。また、図示はしないが、変圧器101の漏れインダクタンスは、一次巻線101a側にも存在するため、この漏れインダクタンスについても共振用のインダクタンスとして使用することもできる。
【0004】
また、この絶縁型共振コンバータ100では、アクティブクランプ回路105は一例として、補助巻線101cと、直列接続された状態で一次巻線101aに並列に接続されたスイッチング素子105aおよびキャパシタンス105bとで構成されている。
【0005】
この絶縁型共振コンバータ100においては、変圧器101の一次巻線101aを駆動するスイッチング素子103がオフしたときに、スイッチング素子103と並列に存在する等価インピーダンスによってスイッチング素子103の両端間に共振電圧が発生するが、アクティブクランプ回路105を構成するスイッチング素子105aがスイッチング素子103のオフ時にオンとなることにより、アクティブクランプ回路105がこの共振電圧のピーク電圧値を、アクティブクランプ回路105が無い場合の入力電圧の略3.6倍の電圧値に対して、入力電圧の略2倍の電圧値に制限することが可能となっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2017-508437号公報(第12-19頁、第7,21図)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところが、上記した従来の電力変換装置としての絶縁型共振コンバータ100には、以下のような改善すべき課題が存在している。すなわち、この絶縁型共振コンバータ100では、スイッチング素子103がオフしたときに発生する共振電圧のピーク電圧値を、アクティブクランプ回路105で制限する構成を採用しているが、アクティブクランプ回路105がスイッチング素子105aを備えていることから、このスイッチング素子105aのオン・オフを正確かつ安定に制御する設計の難しさ共に部品コストが上昇するという課題が存在している。
【0008】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであり、変圧器(絶縁トランス)を駆動するスイッチング素子の両端間に発生する共振電圧のピーク電圧値を簡易な構成で低く制限し得る電力変換装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成すべく、本発明に係る電力変換装置では、直流入力電圧が入力される高電位側の直流入力端子および低電位側の直流入力端子と、直流出力電圧が出力される2つの直流出力端子と、一次巻線および二次巻線を有する絶縁トランスと、前記一次巻線と直列に接続された状態で前記2つの直流入力端子間に接続されて、前記直流入力電圧をスイッチングするスイッチング素子と、前記高電位側の直流入力端子および前記絶縁トランスにおける前記一次巻線の一端の接続点と、当該一次巻線の他端および前記スイッチング素子の接続点との間に接続されてインダクタンスとキャパシタンスとを含んで構成されたLC共振回路と、前記スイッチング素子に並列に接続された第1の共振キャパシタンスと、前記二次巻線に並列に接続された第2の共振キャパシタンスと、前記第2の共振キャパシタンスの両端間に発生する電圧を整流・平滑して前記直流出力電圧として前記2つの直流出力端子間に出力する整流平滑回路とを備えている。
【0010】
本発明に係る電力変換装置では、直流入力電圧が入力される高電位側の直流入力端子および低電位側の直流入力端子と、直流出力電圧が出力される2つの直流出力端子と、一次巻線およびセンタタップ端子を備えた二次巻線を有する絶縁トランスと、前記一次巻線と直列に接続された状態で前記2つの直流入力端子間に接続されて、前記直流入力電圧をスイッチングするスイッチング素子と、前記高電位側の直流入力端子および前記絶縁トランスにおける前記一次巻線の一端の接続点と、当該一次巻線の他端および前記スイッチング素子の接続点との間に接続されてインダクタンスとキャパシタンスとを含んで構成されたLC共振回路と、前記スイッチング素子に並列に接続された第1の共振キャパシタンスと、前記二次巻線の一端と前記センタタップ端子との間に接続された第3の共振キャパシタンスと、前記二次巻線の他端と前記センタタップ端子との間に接続された第4の共振キャパシタンスと、前記第3の共振キャパシタンスの両端間に発生する電圧および前記第4の共振キャパシタンスの両端間に発生する電圧を整流・平滑して前記直流出力電圧として前記2つの直流出力端子間に出力する整流平滑回路とを備えている。
【0011】
本発明に係る電力変換装置では、直流入力電圧が入力される2つの直流入力端子と、直流出力電圧が出力される2つの直流出力端子と、一次巻線、二次巻線および補助巻線を有する絶縁トランスと、前記一次巻線と直列に接続された状態で前記2つの直流入力端子間に接続されて、前記直流入力電圧をスイッチングするスイッチング素子と、インダクタンスとキャパシタンスとを含んで構成されて前記補助巻線に並列に接続されたLC共振回路と、前記スイッチング素子に並列に接続された第1の共振キャパシタンスと、前記二次巻線に並列に接続された第2の共振キャパシタンスと、前記第2の共振キャパシタンスの両端間に発生する電圧を整流・平滑して前記直流出力電圧として前記2つの直流出力端子間に出力する整流平滑回路とを備えている。
【0012】
本発明に係る電力変換装置では、前記スイッチング素子は、E級スイッチング動作をする構成としている。
【0013】
本発明に係る電力変換装置では、前記LC共振回路は、インダクタンスとキャパシタンスの直列回路で構成される。
【0014】
本発明に係る電力変換装置では、前記2つの直流入力端子間が短絡状態のときの前記スイッチング素子の両端側から見たインピーダンスの周波数特性において、低域側から高域側に向けて第1の共振周波数、第2の共振周波数、第3の共振周波数、第4の共振周波数および第5の共振周波数を有して、この5つの共振周波数のうちの前記第1の共振周波数および前記第2の共振周波数のみが前記スイッチング素子のスイッチング周波数より低く、前記第3の共振周波数のみが当該スイッチング周波数の2倍の周波数より低く、前記第4の共振周波数が当該2倍の周波数とほぼ同じであり、前記第5の共振周波数が当該2倍の周波数より高くなり、前記インピーダンスが、前記第1の共振周波数、前記第3の共振周波数および前記第5の共振周波数で極大となり、かつ前記第2の共振周波数および前記第4の共振周波数で極小となるように形成されている。
【0015】
本発明に係る電力変換装置では、前記LC共振回路は、インダクタンスとキャパシタンスの直列回路を2組有すると共に、当該2組の直列回路が並列に接続されて構成される。
【0016】
本発明に係る電力変換装置では、前記2つの直流入力端子間が短絡状態のときの前記スイッチング素子の両端側から見たインピーダンスの周波数特性において、低域側から高域側に向けて第1の共振周波数、第2の共振周波数、第3の共振周波数、第4の共振周波数、第5の共振周波数、第6の共振周波数および第7の共振周波数を有して、この7つの共振周波数のうちの前記第1の共振周波数および前記第2の共振周波数のみが前記スイッチング素子のスイッチング周波数より低く、前記第3の共振周波数のみが当該スイッチング周波数の2倍の周波数より低く、前記第4の共振周波数が当該2倍の周波数とほぼ同じであり、前記第5の共振周波数が当該2倍の周波数より高くかつ当該スイッチング周波数の4倍の周波数より低くなり、前記第6の共振周波数が当該4倍の周波数とほぼ同じであり、前記第7の共振周波数が当該4倍の周波数より高くなり、前記インピーダンスが、前記第1の共振周波数、前記第3の共振周波数、前記第5の共振周波数および前記第7の共振周波数で極大となり、かつ前記第2の共振周波数、前記第4の共振周波数および前記第6の共振周波数で極小となるように形成されている。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、漏れインダクタンスを有する絶縁トランスの一次巻線にLC共振回路が並列に接続される構成や、絶縁トランスの補助巻線にLC共振回路が並列に接続される簡易な構成のため、スイッチング素子のオフ時にスイッチング素子の両端間に発生する共振電圧のピーク電圧を直流入力電圧の略2倍の振幅に抑える(制限する)ことができる。したがって、スイッチング素子として耐圧の低いスイッチング素子を使用できるようになり、また耐圧の低いスイッチング素子には低ON抵抗のスイッチング素子が多いことから、これに付随してスイッチング素子として低ON抵抗のスイッチング素子を使用することができる。この結果、スイッチング素子における導通損失(ON損失)を減らすことを達成でき、変換効率を高めることができる。また、スイッチング素子の電圧のディレーティング率を低下させることができることから、スイッチング素子の高信頼性化を図ることができる。また、本発明によれば、スイッチング素子がインピーダンスについて予め規定された周波数特性、具体的には、上記のような5つの共振周波数を有する周波数特性を備えた負荷ネットワークを負荷とする構成や、上記のような7つの共振周波数を有する周波数特性を備えた負荷ネットワークを負荷とする構成のため、スイッチング素子がE級スイッチング動作することから、高周波数動作下においてより高い電力変換効率で直流入力電圧から直流出力電圧への変換を可能にすることができる。特に、7つの共振周波数を有する周波数特性を備えた負荷ネットワークを負荷とする構成によれば、5つの共振周波数を有する周波数特性を備えた負荷ネットワークを負荷とする構成におけるスイッチング素子両端の動作波形と比べて、スイッチング素子両端の動作波形を、立ち上がりおよび立ち下がりがより急峻となり、かつ中間部分での振動の振幅が抑えられた波形、つまり、より矩形波形に近い形状にできることから、5つの共振周波数を有する周波数特性を備えた負荷ネットワークを負荷とする構成での上記の動作波形(ピーク電圧が直流入力電圧の略2倍までに抑えられている波形)よりもさらにそのピーク電圧を低く抑えることができる。
【0018】
また、本発明によれば、絶縁トランスがセンタタップ端子を備えた二次巻線を有する構成のため、整流平滑回路がセンタタップ端子を基準として第3,4の共振キャパシタンスのそれぞれの両端間に発生する電圧を整流・平滑することにより、整流平滑回路を構成する出力キャパシタンスに流れる電流の周波数を2倍にすることができる。このため、この出力キャパシタンスの容量値が二次巻線にセンタタップ端子のない構成での出力キャパシタンスと同じであれば、直流出力電圧の出力リップル電圧を半分にすることができ、また出力リップル電圧を二次巻線にセンタタップ端子のない構成と同じにするのであれば、出力キャパシタンスの容量値を半分にすること(結果として、より小型化すること)ができる。
【0019】
また、本発明によれば、絶縁トランスが補助巻線を有する構成として、この補助巻線にLC共振回路を並列に接続したことにより、一次巻線と補助巻線の巻数比を適宜設定することで、LC共振回路を一次巻線に並列に接続する構成と比較して、LC共振回路を構成するインダクタンスおよびキャパシタンスに印加される電圧を下げることができる。このため、このインダクタンスおよびこのキャパシタンスに、より耐圧の低い安価な部品を使用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】本発明の第1実施の形態に係る電力変換装置としてのコンバータ装置1aの回路構成を示す構成図である。
【
図2】スイッチング素子5の両端間に接続されている負荷ネットワークについてのインピーダンスの周波数特性を説明するための説明図である。
【
図3】コンバータ装置1aの動作を説明するための波形図である。
【
図4】本発明の第2実施の形態に係る電力変換装置としてのコンバータ装置1bの回路構成を示す構成図である。
【
図5】コンバータ装置1bの動作を説明するための波形図である。
【
図6】本発明の第3実施の形態に係る電力変換装置としてのコンバータ装置1cの回路構成を示す構成図である。
【
図7】
図1,4,6に示すコンバータ装置1a,1b,1cにおいて採用し得るLC共振回路6の他の構成を示す構成図である。
【
図8】
図3,5の電圧V3についての電圧波形を説明するための模式図である。
【
図9】従来の電力変換装置としての絶縁型共振コンバータ100の回路構成を示す構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の好適な実施の形態について説明する。なお、本発明の対象は以下の実施形態に限定されるものではない。また以下に記載した構成要素には、当業者が容易に想定できるもの、実質的に同一のものが含まれると共に、その構成要素は、適宜組み合わせることが可能である。
【0022】
図面を参照して、発明の実施の形態を詳細に説明する。なお、図面の説明においては同一要素には同一符号を付し、重複する説明を省略する。
【0023】
まず、
図1を参照して、本発明の好適な第1実施の形態に係る電力変換装置の全体構成について、電力変換装置の一例としてのコンバータ装置1aを挙げて説明する。このコンバータ装置1aは、一対の直流入力端子2a,2b(以下、特に区別しないときには「直流入力端子2」ともいう)、一対の直流出力端子3a,3b(以下、特に区別しないときには「直流出力端子3」ともいう)、絶縁トランス4、スイッチング素子5、LC共振回路6、第1の共振キャパシタンス7、第2の共振キャパシタンス8、および整流平滑回路9を備えて、直流入力端子2側と直流出力端子3側とが電気的に絶縁された絶縁型コンバータ装置として構成されている。
【0024】
具体的には、一対の直流入力端子2a,2b間には、基準電位(本例では共通グランドG)に接続された直流入力端子2bを低電位側として、直流入力電圧(直流電圧)V1が入力される。一対の直流出力端子3a,3b間には、直流出力端子3bを基準として直流出力端子3aの電位が正となる直流出力電圧V2が出力される。コンバータ装置1aでは、直流出力端子3a,3b間に負荷LDが接続されて、直流出力電圧V2は負荷LDに供給される。
【0025】
絶縁トランス4は、一次巻線4aおよび二次巻線4bが互いに絶縁された状態で磁気コアに形成されて構成されている。
図1では、絶縁トランス4を等価回路で示しており、絶縁トランス4は、一次巻線4aに印加される電圧を一次巻線4aおよび二次巻線4bの巻数比で増幅して二次巻線4bに出力する理想トランス4cと、一次巻線4aの漏れインダクタンス4dと、二次巻線4bの漏れインダクタンス4eと、励磁インダクタンス4fとを備えて構成されている。なお、一次巻線抵抗および二次巻線抵抗などの他の要素は無視するものとする。
【0026】
スイッチング素子5は、例えばMOSFETやバイポーラトランジスタなどで構成されている。本例では一例としてスイッチング素子5はMOSFETで構成されている。また、スイッチング素子5は、絶縁トランス4の一次巻線4aと直列に接続された状態で直流入力端子2a,2b間に接続されている。具体的には、一次巻線4aが直流入力端子2aに接続され、かつスイッチング素子5が直流入力端子2bに接続されている。この構成により、スイッチング素子5は、ON/OFF動作することにより、直流入力端子2から入力される直流入力電圧V1をスイッチングする。
【0027】
LC共振回路6は、インダクタンスとキャパシタンスとを含み、かつ2つの外部接続端子(第1接続部61および第2接続部62)を有して構成された2端子回路網で構成されている。本例では一例として、LC共振回路6は、インダクタンス6aとキャパシタンス6bの直列回路(直列共振回路)を1組含み、この直列回路が第1接続部61および第2接続部62間に接続されて構成されて、絶縁トランス4の一次巻線4aに並列に接続されている。第1の共振キャパシタンス7は、スイッチング素子5に並列に接続されている。また、第1の共振キャパシタンス7は、スイッチング素子5がMOSFETのような半導体素子の場合には、スイッチング素子5が持つ接合部のキャパシタンス(寄生容量)を含めても良いし、接合部のキャパシタンスのみで構成しても良い。第2の共振キャパシタンス8は、絶縁トランス4の二次巻線4bに並列に接続されている。
【0028】
整流平滑回路9は、第2の共振キャパシタンス8と直流出力端子3a,3bとの間に配設されて、第2の共振キャパシタンス8の両端間に発生する電圧を整流・平滑することにより、直流出力電圧V2を生成して直流出力端子3a,3bに出力する。本例では一例として、整流平滑回路9は、第2の共振キャパシタンス8の一端(
図1中の上端)と直流出力端子3aとの間に、電流出力端子が直流出力端子3aに接続された状態で配設された整流素子9a(本例では一例としてダイオードで構成されている。このため、ダイオードの電流出力端子としてのカソード端子が直流出力端子3aに接続されている)と、直流出力端子3a,3b間に接続された出力キャパシタンス9bとで構成されている。
【0029】
なお、図示はしないが、整流素子9aは、第2の共振キャパシタンス8の他端(
図1中の下端)と直流出力端子3bとの間に配設する構成とすることもできる。この場合、整流素子9aの電流出力端子(本例のように整流素子9aがダイオードのときにはカソード端子)は、第2の共振キャパシタンス8の他端に接続される。また、整流素子9aは、ダイオード単体で構成されるものに限定されるものではなく、図示はしないが、例えば、ダイオードとスイッチ素子の並列回路で構成されると共にダイオードに電流が流れるタイミングに同期してスイッチ素子をオン状態に移行させる同期整流回路で構成することもできる。
【0030】
コンバータ装置1aでは、スイッチング素子5に接続されている絶縁トランス4、LC共振回路6および第1の共振キャパシタンス7は、スイッチング素子5に対する負荷ネットワークとして機能する。この場合、絶縁トランス4では、一次巻線4aと二次巻線4bとが磁気結合する構成のため、二次巻線4b側に接続されている第2の共振キャパシタンス8および整流平滑回路9も、負荷ネットワークに含まれている。
【0031】
この負荷ネットワークは、スイッチング素子5を共振スイッチング(具体的にはE級スイッチング動作)させるためのものであり、2つの直流入力端子2a,2b間が短絡(低インピーダンス)状態のときのスイッチング素子5の両端側から見たインピーダンスの周波数特性が
図2に示す周波数特性となるように構成されている。なお、直流入力端子2a,2b間には、一般的に出力インピーダンスの低い外部電源装置などから直流入力電圧(直流電圧)V1が入力されることから、コンバータ装置1aでは、通常の動作状態において、直流入力端子2a,2b間は常に短絡状態(低インピーダンスの状態)となっている
。
【0032】
具体的には、負荷ネットワークは、そのインピーダンスの周波数特性が
図2に示すように、低域側から高域側に向けて第1の共振周波数f1、第2の共振周波数f2、第3の共振周波数f3、第4の共振周波数f4および第5の共振周波数f5を有して、この5つの共振周波数f1,f2,f3,f4,f5のうちの第1の共振周波数f1および第2の共振周波数f2のみがスイッチング素子5のスイッチング周波数fsより低く、スイッチング周波数fsより高い3つの共振周波数f3,f4,f5のうちの第3の共振周波数f3のみがスイッチング周波数fsの2倍の周波数(=2×fs)より低く、第4の共振周波数f4がこの2倍の周波数(=2×fs)とほぼ同じであり、第5の共振周波数f5が2倍の周波数(=2×fs)より高くなるように形成されている。また、このインピーダンスの周波数特性では、インピーダンスが、第1の共振周波数f1、第3の共振周波数f3および第5の共振周波数f5のそれぞれで極大となり、かつ第2の共振周波数f2および第4の共振周波数f4(≒2×fs)のそれぞれで極小となるように形成されている。
【0033】
このようなインピーダンスについての周波数特性を有する負荷ネットワークを負荷としてスイッチングするスイッチング素子5の両端間には、スイッチング周波数fsと同じ周波数で電圧V3(
図1参照)が発生するが、この負荷ネットワークが上記したようにスイッチング周波数fsの偶数倍(上記の例では、2倍)でインピーダンスがほぼ極小となるインピーダンス特性を有するように構成されているため、この両端間に発生する電圧V3の波形を構成する高調波成分のうちの偶数成分が減衰させられて、基本波成分(1次高調波成分)と奇数成分(主として3次高調波成分)が残る。この結果、本例のような5つの共振周波数f1~f5を有する構成では、
図8に示すように、スイッチング素子5の両端間に発生する電圧V3を、直流入力電圧V1の略2倍まで抑えることが可能となっている。
【0034】
次に、
図1に示したコンバータ装置1aの基本動作について、
図1、および
図3の波形図(定常動作波形図)を参照して、各期間における動作波形と併せて説明する。
【0035】
各期間における動作について、まずは、時間t0から時間t1までの期間での動作について説明する。時間t(=t0)の時、スイッチング素子5のON/OFFを制御する不図示の制御回路から出力される駆動信号電圧Vpは、スイッチング素子5をONとするためハイレベルになり、時間t(=t1)までハイレベルを維持する。よって、時間t0から時間t1までの期間は、スイッチング素子5がONし、スイッチング素子5の両端間に印加される(両端間に発生する)電圧V3は零であり、第1の共振キャパシタンス7に流れる電流icは零である。
【0036】
また、スイッチング素子5に流れる電流isは、上記の負荷ネットワークの特性により、スイッチング素子5を経由して直流入力端子2bから直流入力端子2aに向かう方向(負方向)で流れ、その後徐々に減少して零になり、続いて、直流入力端子2aから直流入力端子2bに向かう方向(正方向)で流れ始め、緩やかに上昇する。入力電流i1も、負方向の共振ピークの付近から、電流isと同様にして変化しながら、正方向の共振ピークに向けて緩やかに上昇する。一方、この期間での出力電流i2は、正の値から徐々に減少して、時間t(=t1)までの間に零になり、その後、零に維持される。
【0037】
次に、時間t1から時間t2までの期間の動作について説明する。スイッチング素子5への駆動信号電圧Vpは、時間t(=t1)にスイッチング素子5をOFFとするためローレベルになり、時間t(=t2)までローレベルを維持する。これにより、この期間においてスイッチング素子5はOFF状態を維持する。この期間では、スイッチング素子5の両端間に印加される電圧V3は、スイッチング素子5がOFFになった直後から、共振により、零から直流入力電圧V1の略2倍の振幅電圧まで緩やかに上昇し、その後、この電圧をある程度の時間維持した後に降下して、時間t(=t2)で零に戻る。また、この電圧V3は、時間t(=t2)において、時間に対する導関数(時間に対する電圧変化率)も零となる。つまり、スイッチング素子5は、E級スイッチング動作する。
【0038】
また、この時間t1から時間t2までの期間内にスイッチング素子5をOFFとさせることで、それまでスイッチング素子5に流れていた電流isは零となり、これに代わって、第1の共振キャパシタンス7に電流icが流れる。この電流icは、正方向の共振ピークおよび負方向の共振ピーク(2つの共振ピーク)を有する共振電流となる。また、これに対応して、入力電流i1も、正方向の共振ピークおよび負方向の共振ピーク(2つの共振ピーク)を有する共振電流となる。また、出力電流i2は、この期間の開始からしばらくの間は零に維持されるが、時間t(=t2)に達する少し手前から高いスルーレート(急峻に)で立ち上がる。また、立ち上がった出力電流i2は、ピーク値に達した後、時間t(=t2)において時間t0での電流値に達するまで徐々に減少する。
【0039】
その後の時間t2から時間t3までの期間での動作は、上記した時間t0から時間t1までの期間での動作と同様であり、さらにその後の時間t3から時間t4までの期間での動作は、上記した時間t1から時間t2までの期間での動作と同様である。このようにして、時間t0から時間t2までの期間での動作が、それ以降の期間において繰り返される。
【0040】
このように、このコンバータ装置1aによれば、
図2に示すようなインピーダンスについての周波数特性(5つの共振周波数f1~f5がある周波数特性)を有する負荷ネットワークを負荷とする構成のため、スイッチング素子5がE級スイッチング動作することから(スイッチング素子5のON/OFFの切り替わり時点での電圧V3を零にし得ると共に電圧V3の傾きについても零にし得ることから)、高周波数動作下において高い電力変換効率で直流入力電圧V1から直流出力電圧V2への変換を可能にすることができる。また、このコンバータ装置1aによれば、漏れインダクタンス4dを有する絶縁トランス4の一次巻線4aにLC共振回路6を並列に接続することで簡易に構成することができると共に、スイッチング素子5の両端間に印加される電圧V3(両端間に発生する共振電圧)のピーク電圧を直流入力電圧V1の略2倍の振幅に抑える(制限する)ことができる。したがって、このコンバータ装置1aによれば、スイッチング素子5として耐圧の低いスイッチング素子を使用できるようになり、また耐圧の低いスイッチング素子には低ON抵抗のスイッチング素子が多いことから、これに付随してスイッチング素子5として低ON抵抗のスイッチング素子を使用できるようにもなる。この結果、スイッチング素子5における導通損失(ON損失)を減らすことを達成でき、コンバータ装置1aの変換効率をさらに高めることができる。
【0041】
次に、
図4を参照して、本発明の好適な第2実施の形態に係る電力変換装置の全体構成について、電力変換装置の一例としてのコンバータ装置1bを挙げて説明する。なお、コンバータ装置1
aと同一の構成については同一の符号を付して重複する説明を省略する。
【0042】
コンバータ装置1bは、一対の直流入力端子2、一対の直流出力端子3、絶縁トランス14、スイッチング素子5、LC共振回路6、第1の共振キャパシタンス7、第3,4の共振キャパシタンス18a,18b、および整流平滑回路19を備えて、直流入力端子2側と直流出力端子3側とが電気的に絶縁された絶縁型コンバータ装置として構成されている。
【0043】
絶縁トランス14は、一次巻線14a、およびセンタタップ端子CTを有する二次巻線14bが互いに絶縁された状態で磁気コアに形成されて構成されている。
図4では、絶縁トランス14を等価回路で示しており、絶縁トランス14は、一次巻線14aに印加される電圧を一次巻線14aおよび二次巻線14bの巻数比で増幅して二次巻線14bに出力する理想トランス14cと、一次巻線14aの漏れインダクタンス14dと、二次巻線14bの漏れインダクタンス14e,14fと、励磁インダクタンス14gとを備えて構成されている。なお、一次巻線抵抗および二次巻線抵抗などの他の要素は無視するものとする。
【0044】
第3の共振キャパシタンス18aは、絶縁トランス4の二次巻線4bにおけるセンタタップ端子CTを基準として二次巻線4bの一端側(
図4中の上端側)の巻線に並列に接続されている。また、第4の共振キャパシタンス18bは、絶縁トランス4の二次巻線4bにおけるセンタタップ端子CTを基準として二次巻線4bの他端側(
図4中の下端側)の巻線に並列に接続されている。また、絶縁トランス4のセンタタップ端子CTは、直流出力端子3bに接続されている。
【0045】
整流平滑回路19は、第3,4の共振キャパシタンス18a,18bと直流出力端子3a,3bとの間に配設されて、センタタップ端子CTを基準として第3,4の共振キャパシタンス18a,18bのそれぞれの両端間に発生する電圧を整流・平滑することにより、直流出力電圧V2を生成して直流出力端子3a,3bに出力する。
【0046】
本例では一例として、整流平滑回路19は、第3の共振キャパシタンス18aの一端(
図4中の上端)と直流出力端子3aとの間に、電流出力端子が直流出力端子3aに接続された状態で配設された整流素子19a(本例では一例としてダイオードで構成されている。このため、ダイオードの電流出力端子としてのカソード端子が直流出力端子3aに接続されている)と、第4の共振キャパシタンス18bの一端(
図4中の下端)と直流出力端子3aとの間に、電流出力端子が直流出力端子3aに接続された状態で配設された整流素子19b(本例では一例としてダイオードで構成されている。このため、ダイオードの電流出力端子としてのカソード端子が直流出力端子3aに接続されている)と、直流出力端子3a,3b間に接続された出力キャパシタンス19cとで構成されている。
【0047】
なお、各整流素子19a,19bの電流出力端子(本例ではダイオード19a,19bのカソード端子)を直流出力端子3aに接続し、かつ絶縁トランス4のセンタタップ端子CTを直流出力端子3bに接続する上記の構成に限定されるものではない。例えば、図示はしないが、各整流素子19a,19bを
図4に示す極性とは逆の極性で二次巻線14bの各端部に接続し(整流素子19a,19bの電流出力端子(ダイオードではカソード端子)を二次巻線14bの各端部に接続し)、各整流素子19a,19bの電流入力端子(ダイオードではアノード端子)を直流出力端子3bに接続し、かつ絶縁トランス4のセンタタップ端子CTを直流出力端子3aに接続する構成を採用することもできる。また、整流素子19a,19bは、ダイオード単体で構成されるものに限定されるものではなく、上記した整流素子9aと同様にして、同期整流回路で構成することもできる。
【0048】
コンバータ装置1bでは、スイッチング素子5に接続されている絶縁トランス14、LC共振回路6および第1の共振キャパシタンス7は、スイッチング素子5に対する負荷ネットワークとして機能する。この場合、絶縁トランス14では、一次巻線14aと二次巻線14bとが磁気結合する構成のため、二次巻線14b側に接続されている第3,4の共振キャパシタンス18a,18bおよび整流平滑回路19も、負荷ネットワークに含まれている。
【0049】
この負荷ネットワークは、スイッチング素子5を共振スイッチング(具体的にはE級スイッチング動作)させるためのものであり、2つの直流入力端子2a,2b間が短絡(低インピーダンス)状態のときのスイッチング素子5の両端側から見たインピーダンスの周波数特性が
図2に示す周波数特性(5つの共振周波数f1~f5がある周波数特性)となるように構成されている。
【0050】
このため、コンバータ装置1bでも、上記したコンバータ装置1aと同様にして、このようなインピーダンスについての周波数特性を有する負荷ネットワークを負荷としてスイッチングするスイッチング素子5の両端間に発生する電圧V3を、直流入力電圧V1の略2倍まで抑えることが可能となっている。
【0051】
次に、
図4に示したコンバータ装置1bの基本動作について、
図4、および
図5の波形図(定常動作波形図)を参照して、各期間における動作波形と併せて説明する。
【0052】
各期間における動作について、まずは、時間t0から時間t1までの期間での動作について説明する。時間t(=t0)の時、スイッチング素子5のON/OFFを制御する不図示の制御回路から出力される駆動信号電圧Vpは、スイッチング素子5をONとするためハイレベルになり、時間t(=t1)までハイレベルを維持する。よって、時間t0から時間t1までの期間は、スイッチング素子5がONし、スイッチング素子5の両端間に印加される(両端間に発生する)電圧V3は零であり、第1の共振キャパシタンス7に流れる電流icは零である。
【0053】
また、スイッチング素子5に流れる電流isは、上記の負荷ネットワークの特性により、スイッチング素子5を経由して直流入力端子2bから直流入力端子2aに向かう方向(負方向)で流れ、その後徐々に減少して零になり、続いて、直流入力端子2aから直流入力端子2bに向かう方向(正方向)で流れ始め、緩やかに上昇する。入力電流i1も、負方向の共振ピークの付近から、電流isと同様にして変化しながら、正方向の共振ピークに向けて緩やかに上昇する。
【0054】
また、この期間での出力電流i2aは、正の値から徐々に減少して、時間t(=t1)までの間に零になり、その後、零に維持される。一方、この期間での出力電流i2bは、零に維持されている。
【0055】
次に、時間t1から時間t2までの期間の動作について説明する。スイッチング素子5への駆動信号電圧Vpは、時間t(=t1)にスイッチング素子5をOFFとするためローレベルになり、時間t(=t2)までローレベルを維持する。これにより、この期間においてスイッチング素子5はOFF状態を維持する。この期間では、スイッチング素子5の両端間に印加される電圧V3は、スイッチング素子5がOFFになった直後から、共振により、零から直流入力電圧V1の略2倍の振幅電圧まで緩やかに上昇し、その後、この電圧をある程度の時間維持した後に降下して、時間t(=t2)で零に戻る。また、この電圧V3は、時間t(=t2)において、時間に対する導関数(時間に対する電圧変化率)も零となる。つまり、スイッチング素子5は、E級スイッチング動作する。
【0056】
また、この時間t1から時間t2までの期間内にスイッチング素子5をOFFとさせることで、それまでスイッチング素子5に流れていた電流isは零となり、これに代わって、第1の共振キャパシタンス7に電流icが流れる。この電流icは、正方向の共振ピークおよび負方向の共振ピーク(2つの共振ピーク)を有する共振電流となる。また、これに対応して、入力電流i1も、正方向の共振ピークおよび負方向の共振ピーク(2つの共振ピーク)を有する共振電流となる。
【0057】
また、出力電流i2bは、入力電流i1が正方向に流れている状態において、零の状態から高いスルーレート(急峻に)で立ち上がり、ピーク値に達した後に減少して、入力電流i1が零になるのとほぼ同じタイミングで零になり、その後、時間t2まで零に維持される。一方、出力電流i2aは、この期間の開始から零に維持されて、この期間の終了の直前において(時間t2に達する少し手前から)高いスルーレート(急峻に)で立ち上がり、時間t(=t2)において時間t0での電流値に達する。
【0058】
その後の時間t2から時間t3までの期間は、前述した時間t0から時間t1までの期間の動作と同様であり、さらにその後の時間t3から時間t4までの期間は、前述した時間t1から時間t2までの期間の動作と同様である。つまり、時間t0から時間t2までの期間の動作が、それ以降の期間のおいても繰り返される。
【0059】
このように、このコンバータ装置1bによれば、
図2に示すようなインピーダンスについての周波数特性を有する負荷ネットワークを負荷とする構成のため、スイッチング素子5がE級スイッチング動作することから(スイッチング素子5のON/OFFの切り替わり時点での電圧V3を零にし得ると共に電圧V3の傾きについても零にし得ることから)、高周波数動作下において高い電力変換効率で直流入力電圧V1から直流出力電圧V2への変換を可能にすることができる。また、このコンバータ装置1bによれば、漏れインダクタンス4dを有する絶縁トランス4の一次巻線4aにLC共振回路6を並列に接続することで簡易に構成することができると共に、スイッチング素子5の両端間に印加される電圧V3(両端間に発生する共振電圧)のピーク電圧を直流入力電圧V1の略2倍の振幅に抑える(制限する)ことができる。したがって、このコンバータ装置1bによれば、スイッチング素子5として耐圧の低いスイッチング素子を使用できるようになり、また耐圧の低いスイッチング素子には低ON抵抗のスイッチング素子が多いことから、これに付随してスイッチング素子5として低ON抵抗のスイッチング素子を使用できるようにもなる。この結果、スイッチング素子5における導通損失(ON損失)を減らすことを達成でき、コンバータ装置1bの変換効率をさらに高めることができる。また、出力キャパシタンス19cに流れる電流の周波数が2倍になるため、出力キャパシタンス19cの容量値がコンバータ装置1aの出力キャパシタンス9bと同じであれば、出力リップル電圧をコンバータ装置1aの半分にすることができ、また出力リップル電圧をコンバータ装置1aと同じにするのであれば、出力キャパシタンス19cの容量値を半分にすること(結果として、より小型化すること)ができる。
【0060】
以上、スイッチング素子5をON/OFF制御する駆動信号電圧VpのON時間がOFF時間より短い条件下での各実施の形態の動作について説明したが、スイッチング素子5のON時間とOFF時間が上記の例と異なる場合は、各部の動作電圧と動作電流ピーク時間が異なる場合もある。
【0061】
また、LC共振回路6が絶縁トランス4の一次巻線4aに並列に接続される構成を採用したコンバータ装置1a,1bについて説明したが、LC共振回路6の接続箇所はこれに限定されるものではない。例えば、
図6に示すコンバータ装置1cのように、絶縁トランス24に一次巻線24aおよび二次巻線24bと共に形成された補助巻線24cにLC共振回路6を並列に接続する構成を採用することもできる。以下、
図6を参照して、本発明の好適な第3実施の形態に係る電力変換装置の一例としてのコンバータ装置1cについて説明する。なお、コンバータ装置1aと同一の構成については同一の符号を付して重複する説明を省略する。また、動作についてはコンバータ装置1aと同一であるため、説明を省略する。
【0062】
このコンバータ装置1cは、一対の直流入力端子2、一対の直流出力端子3、絶縁トランス24、スイッチング素子5、LC共振回路6、第1の共振キャパシタンス7、第2の共振キャパシタンス8、および整流平滑回路9を備えて、直流入力端子2側と直流出力端子3側とが電気的に絶縁された絶縁型コンバータ装置として構成されている。
【0063】
絶縁トランス24は、一次巻線24a、二次巻線24bおよび補助巻線24cが互いに絶縁された状態で磁気コアに形成されて構成されている。
図6は、絶縁トランス24を等価回路で示しており、絶縁トランス24は、一次巻線24aに印加される電圧を、一次巻線24aおよび二次巻線24bの巻数比で増幅して二次巻線24bに出力すると共に、一次巻線24aおよび補助巻線24cの巻数比で増幅して補助巻線24cに出力する理想トランス24dと、一次巻線24aの漏れインダクタンス24eと、二次巻線24bの漏れインダクタンス24fと、補助巻線24cの漏れインダクタンス24gと、励磁インダクタンス24hとを備えて構成されている。なお、一次巻線抵抗、二次巻線抵抗および補助巻線抵抗などの他の要素は無視するものとする。
【0064】
LC共振回路6は、絶縁トランス24の補助巻線24cに並列に接続されている。
【0065】
コンバータ装置1cでは、スイッチング素子5に接続されている絶縁トランス24および第1の共振キャパシタンス7は、スイッチング素子5に対する負荷ネットワークとして機能する。この場合、絶縁トランス24では、一次巻線24a、二次巻線24bおよび補助巻線24cが互いに磁気結合する構成のため、二次巻線24b側に接続されている第2の共振キャパシタンス8および整流平滑回路9も負荷ネットワークに含まれると共に、補助巻線24cに接続されているLC共振回路6も負荷ネットワークに含まれている。
【0066】
この負荷ネットワークは、スイッチング素子5を共振スイッチング(具体的にはE級スイッチング動作)させるためのものであり、2つの直流入力端子2a,2b間が短絡(低インピーダンス)状態のときのスイッチング素子5の両端側から見たインピーダンスの周波数特性が
図2に示す周波数特性となるように構成されている。
【0067】
このため、コンバータ装置1cでも、上記したコンバータ装置1aと同様にして、このようなインピーダンスについての周波数特性を有する負荷ネットワークを負荷としてスイッチングするスイッチング素子5の両端間に発生する電圧V3を、直流入力電圧V1の略2倍まで抑えることが可能となっている。また、コンバータ装置1cでも、コンバータ装置1aと同様にして、スイッチング素子5は、E級スイッチング動作する。
【0068】
したがって、このコンバータ装置1cによっても、コンバータ装置1aと同様の効果、つまり、簡易に構成することができると共に、スイッチング素子5の両端間に印加される電圧V3(両端間に発生する共振電圧)のピーク電圧を直流入力電圧V1の略2倍の振幅に抑える(制限する)ことができる。また、スイッチング素子5として耐圧の低いスイッチング素子を使用できるようになる。また、これに付随してスイッチング素子5として低ON抵抗のスイッチング素子を使用することができることから、スイッチング素子5での導通損失(ON損失)を減らすことを達成でき、コンバータ装置1cの変換効率をさらに高めることができる。また、コンバータ装置1cでは、補助巻線24cの分だけ絶縁トランス24の構成がコンバータ装置1aの絶縁トランス4と比較して若干複雑になるものの、一次巻線24aと補助巻線24cの巻数比を1:n(0<n<1)とすることで、LC共振回路6を一次巻線4aに並列接続するコンバータ装置1aの構成と比較して、LC共振回路6を構成するインダクタンス6aおよびキャパシタンス6bに印加される電圧を下げることができる。このため、このコンバータ装置1cによれば、インダクタンス6aおよびキャパシタンス6bに、より耐圧の低い安価な部品を使用することができる。この場合、一次巻線24aと補助巻線24cの結合率を高くすることにより、インダクタンス6aおよびキャパシタンス6bに印加される電圧をより下げることもできる。
【0069】
また、インダクタンス6aとキャパシタンス6bの直列回路(直列共振回路)を1組含み、この直列回路が第1接続部61および第2接続部62間に接続されて構成されたLC共振回路6を備えたコンバータ装置1a,1b,1cについて上記したが、コンバータ装置1a,1b,1cが備えるLC共振回路6はこの構成に限定されない。例えば、コンバータ装置1a,1b,1cは、
図7に示すようにインダクタンス6aとキャパシタンス6bの直列回路に加えて、インダクタンス6cとキャパシタンス6dの直列回路(直列共振回路)を含み、この2組の直列回路が並列に接続されて第1接続部61および第2接続部62間に接続されたLC共振回路6を備える構成を採用することもできる。
【0070】
この構成のLC共振回路6を含んで構成される負荷ネットワークを備えたコンバータ装置1a,1b,1cでは、2つの直流入力端子2a,2b間が短絡(低インピーダンス)状態のときのスイッチング素子5の両端側から見たインピーダンスの周波数特性は、
図2に示すように、上記した5つの共振周波数f1~f5を有する周波数特性における共振周波数f5を超える周波数帯域に、さらに2つの共振周波数(第6の共振周波数f6および第7の共振周波数f7(>f6))を有するものとなる。この場合、第5の共振周波数f5は、スイッチング周波数fsの2倍の周波数(=2×fs)より高くかつスイッチング周波数fsの4倍の周波数(=4×fs)より低くなり、第6の共振周波数f6は、この4倍の周波数(=4×fs)とほぼ同じになり、第7の共振周波数f7は、この4倍の周波数(=4×fs)より高くなるように形成されている。また、このインピーダンスの周波数特性では、インピーダンスが、第1の共振周波数f1、第3の共振周波数f3、第5の共振周波数f5および第7の共振周波数f7のそれぞれで極大となり、かつ第2の共振周波数f2、第4の共振周波数f4(≒2×fs)および第6の共振周波数f6(≒4×fs)のそれぞれで極小となるように形成されている。
【0071】
この
図7に示す構成、つまりインダクタンスとキャパシタンスの直列回路を2組含み、各直列回路が並列に接続された構成のLC共振回路6も、
図1等に示される1組の直列回路を含むLC共振回路6と同様にして、イッチング素子5を共振スイッチング(E級スイッチング動作)させるためのものである。
【0072】
このLC共振回路6を備えたコンバータ装置1a,1b,1cでは、スイッチング素子5のON時間とOFF時間が上記の例とは異なり、これに伴い、各部の動作電圧と動作電流ピーク時間が異なるものとなる。具体的には、この構成のLC共振回路6を含む負荷ネットワークを負荷としてスイッチングするスイッチング素子5の両端間には、スイッチング周波数fsと同じ周波数で電圧V3(
図1参照)が発生するが、この負荷ネットワークが上記したようにスイッチング周波数fsの偶数倍(上記の例では、2倍および4倍)でインピーダンスがほぼ極小となるインピーダンス特性を有するように構成されているため、この両端間に発生する電圧V3の波形を構成する高調波成分のうちの偶数成分が減衰させられて、基本波成分(1次高調波成分)と奇数成分(主として3次高調波成分および5次高調波成分)が残る。この結果、本例のような7つの共振周波数f1~f7を有する構成では、
図8に示すように、スイッチング素子5の両端間に発生する共振電圧としての電圧V3のピーク電圧を、直流入力電圧V1の略2倍よりも低く抑えること(5つの共振周波数f1~f5を有するLC共振回路6を備えた構成よりも、さらに低く抑えること)が可能となる。
【0073】
また、本発明では絶縁トランスが有する漏れインダクタンスを利用して発明効果を生み出しているが、絶縁トランスの構成、構造によって、所望の漏れインダクタンスが得られない場合は、絶縁トランスの1次側巻線、2次側巻線のいずれか一方に漏れインダクタンスに加えて別体のインダクタンスを配設することもできる。
【符号の説明】
【0074】
1a,1b,1c コンバータ装置
2a,2b 直流入力端子
3a,3b 直流出力端子
4,14,24 絶縁トランス
4a,14a,24a 一次巻線
4b,14b,24b 二次巻線
5 スイッチング素子
6 LC共振回路
6a,6c インダクタンス
6b,6d キャパシタンス
7 第1の共振キャパシタンス
8 第2の共振キャパシタンス
9,19 整流平滑回路
18a 第3の共振キャパシタンス
18b 第4の共振キャパシタンス
24c 補助巻線
CT センタタップ端子
V1 直流入力電圧
V2 直流出力電圧