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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-01-06
(45)【発行日】2022-01-21
(54)【発明の名称】通信状態制御システム
(51)【国際特許分類】
   H04B 11/00 20060101AFI20220114BHJP
   B63C 11/00 20060101ALI20220114BHJP
   B63B 35/00 20200101ALI20220114BHJP
   B63C 11/48 20060101ALI20220114BHJP
   G01S 15/74 20060101ALI20220114BHJP
【FI】
H04B11/00 D
B63C11/00 B
B63B35/00 N
B63C11/48 D
G01S15/74
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2018090045
(22)【出願日】2018-05-08
(65)【公開番号】P2019197969
(43)【公開日】2019-11-14
【審査請求日】2021-01-14
(73)【特許権者】
【識別番号】000000099
【氏名又は名称】株式会社IHI
(74)【代理人】
【識別番号】100161207
【弁理士】
【氏名又は名称】西澤 和純
(74)【代理人】
【識別番号】100175802
【弁理士】
【氏名又は名称】寺本 光生
(74)【代理人】
【識別番号】100169764
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 雄一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100167553
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 久典
(72)【発明者】
【氏名】津久井 智也
【審査官】鴨川 学
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-144956(JP,A)
【文献】特開2007-323391(JP,A)
【文献】特開2007-040734(JP,A)
【文献】特開2010-107241(JP,A)
【文献】特開2017-076877(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2011/0144836(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2015/0019053(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H04B 11/00
B63C 11/00
B63B 35/00
B63C 11/48
G01S 15/74
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の音響通信機を備えた水上局と、
第2の音響通信機を備えた水中移動体と、
前記水上局の位置検出を行う第1の位置検出装置と、
前記水中移動体の位置検出を行う第2の位置検出装置と、
水底の地形情報を記憶した記憶部と、
演算装置と、を備え、
前記演算装置は、
前記第1の位置検出装置で取得された前記水上局の位置と、前記第2の位置検出装置で取得された前記水中移動体の位置の情報と、前記地形の情報を基に、前記水上局の位置と前記水中移動体の位置との間のインパルス応答を推定する伝搬シミュレーションを行う機能と、
前記伝搬シミュレーションにより推定された前記インパルス応答のデータを基に、前記水上局と前記水中移動体との音響通信の符号誤り率を推定する音響通信シミュレーションを行う機能と、
前記音響通信シミュレーションにより推定された符号誤り率が、設定された基準以下か否かを判断する判断処理を行う機能と、
前記判断処理により、前記符号誤り率が前記基準よりも大であると判断される場合は、前記音響通信シミュレーションにより推定される前記符号誤り率が前記基準以下となる前記水上局と前記水中移動体の一方または双方の位置を探索する目標位置探索処理を行う機能と、
前記目標位置探索処理により得られた前記水上局と前記水中移動体の一方または双方の位置を、対応する水上局と水中移動体の一方または双方に、移動の目標位置として指示する機能と、を備えたこと
を特徴とする通信状態制御システム。
【請求項2】
前記演算装置は、
前記音響通信シミュレーションにて、前記伝搬シミュレーションで推定された前記インパルス応答による畳み込み演算を行って、受波レベルを求める処理を行う機能を備えた
請求項1に記載の通信状態制御システム。
【請求項3】
前記水上局は、前記第1の位置検出装置と、前記記憶部と、前記演算装置と、を備え、
前記第2の位置検出装置は、前記水上局に備えられ、測位信号を送信するとともに応答信号を受信する音響測位装置と、前記水中移動体に備えられ、前記測位信号を受信するとともに前記応答信号を送信するトランスポンダと、を備える構成とした
請求項1または2に記載の通信状態制御システム。
【請求項4】
前記水上局は、移動装置と、航走制御装置を備えた水上移動体とされ、
前記演算装置は、
前記目標位置探索処理として、前記音響通信シミュレーションにより推定される前記符号誤り率が前記基準以下となる前記水上移動体の位置を求める機能を有し、
更に、前記目標位置探索処理により得られた前記水上移動体の位置を、前記水上移動体の航走制御装置に、前記水上移動体を移動させる目標位置として指示する機能を備えた
請求項1から請求項3のいずれか一項に記載の通信状態制御システム。
【請求項5】
前記水中移動体は、移動装置と、航走制御装置を備え、
前記演算装置は、
前記目標位置探索処理として、前記音響通信シミュレーションにより推定される前記符号誤り率が前記基準以下となる前記水中移動体の位置を求める機能を有し、
更に、前記目標位置探索処理により得られた前記水中移動体の位置を、前記水中移動体の航走制御装置に、前記水中移動体を移動させる目標位置として指示する機能を備えた
請求項1から請求項3のいずれか一項に記載の通信状態制御システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水中移動体と水上局との音響通信について通信状態の制御を行う通信状態制御システムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
海底や湖底や水中における種々の探査を行うための手段の1つとして、自律航走を行う水中移動体を用いる手法が考えられている。
【0003】
また、このような探査などに水中移動体を使用する場合、水中移動体が探査により得た情報を、音響通信により母船などへ送ることが考えられている。
【0004】
ところで、音響通信では、音響信号として用いる音波が水面や水底で反射するため、受信側に到達する音波が劣化する。この劣化は、水面反射と水底反射に起因するマルチパスによる符号間干渉によるものである。そのため、音響通信は、水平方向の通信距離が制限されている。
【0005】
そこで、母船と水中移動体との通信について、通信可能な水平方向の距離を向上させるための通信システムが、従来提案されている。
【0006】
この通信システムは、水中移動体の上方に、水面近傍を航走する自走中継器を備え、この自走中継器に、水中移動体と音響通信を行う機能と、母船と無線通信を行う機能を備えるようにしたものである(たとえば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2001-308766号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ところが、特許文献1に示された通信システムでは、水中移動体と音響通信を行う音響通信機を備えた水上局は、自走中継器であり、この自走中継器と、水中移動体が相互に音響通信可能な範囲は、自走中継器の垂直軸を基準として0~約45度程度に制限されている。
【0009】
したがって、特許文献1には、音響通信機を備えた水上局と、音響通信機を備えた水中移動体との音響通信について、通信可能な水平方向の距離を拡大できるようにするための通信性能の向上化に関する提案は特に示されていないというのが実情である。
【0010】
そこで、本発明は、音響通信機を備えた水上局と、音響通信機を備えた水中移動体との音響通信について、水面反射と水底反射に起因するマルチパスによる符号間干渉を抑制して、通信性能の向上化を図ることができる通信状態制御システムを提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、前記課題を解決するために、第1の音響通信機を備えた水上局と、第2の音響通信機を備えた水中移動体と、前記水上局の位置検出を行う第1の位置検出装置と、前記水中移動体の位置検出を行う第2の位置検出装置と、水底の地形情報を記憶した記憶部と、演算装置と、を備え、前記演算装置は、前記第1の位置検出装置で取得された前記水上局の位置と、前記第2の位置検出装置で取得された前記水中移動体の位置の情報と、前記地形の情報を基に、前記水上局の位置と前記水中移動体の位置との間のインパルス応答を推定する伝搬シミュレーションを行う機能と、前記伝搬シミュレーションにより推定された前記インパルス応答のデータを基に、前記水上局と前記水中移動体との音響通信の符号誤り率を推定する音響通信シミュレーションを行う機能と、前記音響通信シミュレーションにより推定された符号誤り率が、設定された基準以下か否かを判断する判断処理を行う機能と、前記判断処理により、前記符号誤り率が前記基準よりも大であると判断される場合は、前記音響通信シミュレーションにより推定される前記符号誤り率が前記基準以下となる前記水上局と前記水中移動体の一方または双方の位置を探索する目標位置探索処理を行う機能と、前記目標位置探索処理により得られた前記水上局と前記水中移動体の一方または双方の位置を、対応する水上局と水中移動体の一方または双方に、移動の目標位置として指示する機能と、を備えた構成を有する通信状態制御システムとする。
【0012】
前記演算装置は、前記音響通信シミュレーションにて、前記伝搬シミュレーションで推定された前記インパルス応答による畳み込み演算を行って、受波レベルを求める処理を行う機能を備えた構成としてもよい。
【0013】
前記水上局は、前記第1の位置検出装置と、前記記憶部と、前記演算装置と、を備え、前記第2の位置検出装置は、前記水上局に備えられた音響測位装置と、前記水中移動体に備えられたトランスポンダと、を備える構成としてもよい。
【0014】
前記水上局は、移動装置と、航走制御装置を備えた水上移動体とされ、前記演算装置は、前記目標位置探索処理として、前記音響通信シミュレーションにより推定される前記符号誤り率が前記基準以下となる前記水上移動体の位置を求める機能を有し、更に、前記目標位置探索処理により得られた前記水上移動体の位置を、前記水上移動体の航走制御装置に、前記水上移動体を移動させる目標位置として指示する機能を備えた構成としてもよい。
【0015】
前記水中移動体は、移動装置と、航走制御装置を備え、前記演算装置は、前記目標位置探索処理として、前記音響通信シミュレーションにより推定される前記符号誤り率が前記基準以下となる前記水中移動体の位置を求める機能を有し、更に、前記目標位置探索処理により得られた前記水中移動体の位置を、前記水中移動体の航走制御装置に、前記水中移動体を移動させる目標位置として指示する機能を備えた構成としてもよい。
【発明の効果】
【0016】
本発明の通信状態制御システムによれば、音響通信機を備えた水上局と、音響通信機を備えた水中移動体との音響通信について、水面反射と水底反射に起因するマルチパスによる符号間干渉を抑制して、通信性能の向上化を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】通信状態制御システムの第1実施形態を示す概要図である。
図2】水中移動体と水上移動体との音響通信に関するマルチパスを示す概要図である。
図3】通信状態制御システムの演算装置が実施する処理を示すフロー図である。
図4】通信状態制御システムにより水上移動体の移動が行われる状態を示す概要図である。
図5】通信状態制御システムの第2実施形態を示す概要図である。
図6】通信状態制御システムの第3実施形態を示す概要図である。
図7】通信状態制御システムの第4実施形態を示す概要図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明を実施するための形態を図面を参照して説明する。
【0019】
[第1実施形態]
図1は、通信状態制御システムの第1実施形態を示す概要図である。図2は、水中移動体と水上移動体との音響通信について、水面反射と水底反射によるマルチパスを示す概要図である。図3は、通信状態制御システムの演算装置が実施する処理を示すフロー図である。図4は、通信状態制御システムにより水上移動体の位置が制御される状態を示す概要図である。
【0020】
第1実施形態は、本開示の通信状態制御システムを、図1に示すように、音響通信機2を備えた水上局としての水上移動体1と、音響通信機4を備えた水中移動体3が音響通信を行う構成に適用する場合の例を示すものである。
【0021】
水上移動体1は、機体5に、移動装置6と、水上移動体1の自機位置の検出を行う位置検出装置7と、航走制御装置8とを備えた構成とされている。
【0022】
更に水上移動体1は、水中移動体3の位置検出に用いる音響測位装置9と、水底の地形の情報を記憶した記憶部10と、演算装置11と、を備えた構成とされている。
【0023】
移動装置6は、航走制御装置8から受け取る指令に従い、水上移動体1の推進や操舵を伴う移動を行う装置である。なお、図1では、移動装置6は、便宜上、機体5の後部に備えたスラスタのみを示しているが、図示しない舵を備える構成としてもよいこと、図示した以外の配置や形式としてもよいこと、は勿論である。
【0024】
位置検出装置7は、たとえば、GPSのような全地球航法衛星システム(GNSS)の電波による航法信号を図示しないアンテナで受信して、水上移動体1の自機の位置について、緯度と経度のような絶対位置を取得する機能を備えている。更に、位置検出装置7は、検出した自機の位置情報を、航走制御装置8および演算装置11へ送る機能を備えている。
【0025】
なお、位置検出装置7は、水上移動体1の自機の位置を検出する手法として、GPS以外の航法衛星システムを用いたり、地上局からの信号を用いたりしてもよいことは勿論である。
【0026】
航走制御装置8は、水上移動体1の移動に関する目標位置あるいは航走計画が設定される機能を備えている。
【0027】
更に、航走制御装置8は、位置検出装置7より受け取る自機の位置情報を基に、自機の位置を、設定された目標位置に移動させるため、あるいは、自機の位置を航走計画に従って移動させるために必要とされる移動装置6の操作量を求める機能と、求めた操作量を、指令として移動装置6へ送る機能とを備えている。
【0028】
これにより、水上移動体1は、移動装置6が、航走制御装置8より受け取る指令に応じて制御されるため、航走制御装置8に設定された目標位置への移動、あるいは、設定された航走計画に従う航走を行うことができる。
【0029】
音響測位装置9は、測位信号Saを送信する機能と、水中移動体3に備えたトランスポンダ12が測位信号Saに応答して発する応答信号Sbを受信する機能とを備えている。
【0030】
また、音響測位装置9は、測位信号Saを送信してから応答信号Sbを受信するまでにかかる時間と、測位信号Saおよび応答信号Sbの速度である水中での音速と、応答信号Sbが到来する方向とを基に、音響測位装置9を備えた水上移動体1の位置を基準として、トランスポンダ12を備えた水中移動体3の方向と距離、すなわち、水上移動体1の位置を基準とする水中移動体3の相対位置を検出する機能を備えている。
【0031】
更に、音響測位装置9は、検出した水中移動体3の相対位置の情報を、演算装置11へ送る機能を備えている。
【0032】
これにより演算装置11では、位置検出装置7より受け取る水上移動体1の自機の位置の情報と、音響測位装置9より受け取る水中移動体3の相対位置の情報とを基にした計算により、水中移動体3について、水上移動体1と同様の座標系における絶対位置の情報を取得することができる。なお、この計算は、音響測位装置9で行ってもよいことは勿論である。この場合、音響測位装置9は、前記計算で求まる水中移動体3の絶対位置の情報を、演算装置11へ送るようにすればよい。この場合も、演算装置11は、水中移動体3の絶対位置の情報を取得することができる。
【0033】
したがって、本実施形態では、水上移動体1に備えた音響測位装置9、および、水中移動体3に備えたトランスポンダ12が、本開示の通信状態制御システムの発明にて水中移動体3の位置検出を行う第2の位置検出装置となる。
【0034】
演算装置11の機能の詳細については、後述する。
【0035】
記憶部10は、水上移動体1の通信対象となる水中移動体3の航走領域をすべて含み、更に、水上移動体1の位置と水中移動体3の位置との間を結ぶ範囲について、図2に示す如き水底Bの地形の情報を保存している。この際、水底Bの地形の情報は、海図や海底地形図の情報を基に、音響信号の反射に関係する形状のデータ、更には、底質に応じた音響信号の反射率のデータとして、記憶部10に保存されている。
【0036】
次に、水中移動体3の構成について説明する。
【0037】
水中移動体3は、機体13に、移動装置14と、水中移動体3の自機位置の検出を行う位置検出装置15と、航走制御装置16とを備え、更に、トランスポンダ12を備えた構成とされている。
【0038】
移動装置14は、航走制御装置16から受け取る指令に従い、水上移動体1の推進や操舵を伴う移動を行う装置である。なお、図1では、移動装置14は、便宜上、機体13の後部に備えたスラスタのみを示しているが、図示しない舵を備える構成としてもよいこと、図示した以外の配置や形式としてもよいこと、は勿論である。
【0039】
位置検出装置15は、たとえば、慣性航法装置(INS)、または、慣性航法装置にドップラーログ(DVL)を組み合わせた装置とすればよい。これにより、位置検出装置15は、水中移動体3の自機の位置について、水上移動体1と同様の座標系における絶対位置の情報を取得することができる。
【0040】
なお、水中移動体3に備える位置検出装置15は、水中移動体3が水面付近に浮上した状態のときに、GNSSの電波による航法信号を図示しないアンテナで受信して、水中移動体3の自機の位置について、緯度と経度のような絶対位置を取得する機能を備えるようにしてもよい。更に、位置検出装置15は、検出した自機の位置情報を、航走制御装置16へ送る機能を備えている。
【0041】
なお、位置検出装置15は、水中移動体3の自機の位置を検出することができれば、水中移動体3の自機の位置を検出する手法として、前記した以外の手法を用いるものであってもよいことは勿論である。
【0042】
航走制御装置16は、水中移動体3の移動に関する目標位置あるいは航走計画が設定される機能を備えている。
【0043】
更に、航走制御装置16は、位置検出装置15より受け取る自機の位置情報を基に、自機の位置を、設定された目標位置に移動させるため、あるいは、自機の位置を航走計画に従って移動させるために必要とされる移動装置14の操作量を求める機能と、求めた操作量を、指令として移動装置14へ送る機能とを備えている。
【0044】
これにより、水中移動体3は、移動装置14が、航走制御装置16より受け取る指令に応じて制御されるため、航走制御装置16に設定された目標位置への移動、あるいは、設定された航走計画に従う航走を行うことができる。
【0045】
また、水中移動体3は、音響通信機4に接続された通信制御部17を備え、更に、水中移動体3に搭載されて水中の情報収集に使用する、たとえば、カメラ、サイドスキャンソーナー、マルチビームソーナーなどの観測装置18を備えて、観測装置18が、取得した観測データを、通信制御部17へ送る構成を備えている。
【0046】
通信制御部17は、観測装置18より取得した観測データを含む送信データDaを作成し、作成された送信データDaを、音響通信機4から、水上移動体1の音響通信機2へ音響通信により送信する機能を備えている。
【0047】
これにより、水上移動体1は、水中移動体3から送信データDaを受け取ることができて、水上移動体1では、水中移動体3に搭載された観測装置18の観測データを取得することができる。
【0048】
次いで、水上移動体1に備えた演算装置11の機能について説明する。
【0049】
演算装置11は、位置検出装置7から受け取る情報を基に、水上移動体1の絶対位置の情報を取得する機能と、音響測位装置9から受け取る情報を基に、水中移動体3の絶対位置の情報を取得する機能とを備えている。
【0050】
演算装置11は、更に、水上移動体1の絶対位置の情報と、水中移動体3の絶対位置の情報とを基に、水中移動体3と水上移動体1との間の距離の情報を求める機能を備えている。
【0051】
更に、演算装置11は、通信性能の評価の基準となる符号誤り率(BER:Bit Error Rate)を推定する機能を備えている。
【0052】
図3を用いて、演算装置11が行う符号誤り率の推定処理について説明する。
【0053】
演算装置11は、先ず、ステップS1にて、音場のインパルス応答を推定する。このステップS1では、演算装置11は、図2に示すように、水上移動体1の位置の情報および水中移動体3の位置の情報と、記憶部10より取得する水底Bの地形の情報とを基に、たとえば、水面Wと水底Bの反射率Rの絶対値を1に設定した条件の下で、水中移動体3の位置と、水上移動体1の位置との間の伝搬シミュレーションを行い、音場のインパルス応答を推定する。なお、反射率Rの絶対値は、0から1までの任意の値に設定してもよいが、基本的には、1に設定すればよい。これにより、推定されたインパルス応答には、水中移動体3と水上移動体1との間を直接伝搬される直接波19に対し、水面反射波20、水底反射波21などのマルチパスの影響が含まれる。
【0054】
なお、反射率Rについては、水上移動体1の音響通信機2と、水中移動体3の音響通信機4との間で音響通信に用いる通信信号に、設定された頻度でインパルス応答測定信号を入れて、直接的にインパルス応答を計測し、実測されたインパルス応答と伝搬シミュレーションで求めたインパルス応答の差を評価し、最小二乗法などを用いて反射率Rを推定するようにしてもよい。この手法によれば、反射率Rの精度を向上させて、伝搬シミュレーションにより推定される音場のインパルス応答の精度の向上化を図ることができる。
【0055】
演算装置11は、音場のインパルス応答が推定されると、水上局である水上移動体1と、水中移動体3との音響通信の符号誤り率を推定する音響通信シミュレーションを、以下に示すステップS2からステップS9の処理により行う。
【0056】
演算装置11には、図3のステップS2に示すように、事前にサンプルの音響通信データが格納されており、演算装置11は、そのサンプルの音響通信データについて、設定された変調方式による変調処理を行う(ステップS3)。この場合の変調方式は、QPSKやOFDMなど、従来一般的に用いられている変調方式のうちから適宜選定したものでよい。
【0057】
また、演算装置11は、前記ステップS1で求めたインパルス応答の推定結果を基に、CN比を推定する処理を行う(ステップS4)。
【0058】
このステップS4では、演算装置11は、送波側の音圧レベルSL(Source Level)と、受波側の雑音レベルNL(Noise Level)と、水上移動体1および水中移動体3の絶対位置の情報とから、ソーナー方程式である次の(1)式、(2)式を用いて、受波点でのCN比(CNR:Carrier to Noise Ratio)を計算する処理を行う。
RL=SL-TL ・・・(1)
CNR=RL-NL ・・・(2)
【0059】
ここで、(1)式におけるRLは受波レベル(Received Level)、TLは伝搬損失(Transmission Loss)である。
【0060】
一般的には、SLは、送波器から1m離れた点での音圧レベルである。
【0061】
NLは、音響通信機2,4が通信中に自己計測する値であってもよいし、予め取得した雑音データから求めた値であってもよい。
【0062】
TLは、音波が伝搬する距離rと、使用周波数fから得られる吸収損失αとから、次の(3)式で推定される。
【0063】
TL=20log(r)+αr ・・・(3)
【0064】
なお、TLは、通常は、前記(3)式により推定される値であり、このTLを、本実施形態における演算装置11の計算に用いることは可能である。
【0065】
ところで、本開示の通信状態制御システムは、水上移動体1の音響通信機2と、水中移動体3の音響通信機4との音響通信について、水面反射と水底反射に起因するマルチパスによる符号間干渉を抑制することを目的としているが、前記(3)式では、伝搬損失TLについて、水面反射と水底反射の影響が考慮されていない。
【0066】
そこで、演算装置11は、ステップS4では、前記ステップS3で変調処理された後の音響通信データについて、前記ステップS1で求めたインパルス応答による畳み込み演算を行い、受波レベルRLを直接計算により求める処理を行うことが、より好ましい。これにより、水面反射と水底反射の影響を考慮した受波レベルRLを求めることができる。
【0067】
この場合、演算装置11は、直接計算により求められた受波レベルRLと、前記雑音レベルNLとを用いて、前記(2)式により受波点でのCN比(CNR)を算出するようにすればよい。
【0068】
次いで、演算装置11は、前記ステップS4で推定された受波点でのCN比(CNR)を用いて、前記ステップS3で変調処理された後の音響通信データに対し、CN比を補正する処理を行う(ステップS5)。これにより、音響通信データに対しては、雑音の影響が付加される。
【0069】
更に、演算装置11は、前記ステップS5の処理によりCN比が補正された後の音響通信データに対し、前記ステップS1で求めたインパルス応答による畳み込み演算を行う(ステップS6)。これにより、音響通信データに対しては、水面反射や水底反射などのマルチパスの影響が付加される。
【0070】
その後、演算装置11は、前記ステップS6で得られた音響通信データに対し、前記ステップS3で行った変調処理に対応する復調処理を行う(ステップS7)。
【0071】
しかる後、演算装置11は、前記ステップS7で復調処理された後の音響通信データを、前記ステップS2で格納していた当初の音響通信データと比較する処理を行い(ステップS8)、その比較結果を基に、符号誤り率を算出する(ステップS9)。
【0072】
演算装置11は、前記の処理により符号誤り率が推定されると、その推定結果を、設定された基準以下か否かを判断する処理を行う。
【0073】
ここで、たとえば、水中移動体3の音響通信機4から水上移動体1の音響通信機2に送信する送信データDaが、10KB(=80000bit)のデータ量を備えている場合、この送信データDaを誤りなく伝送するためには、符号誤り率は、1/80000(=0.0000125)以下であることが必要となる。
【0074】
したがって、演算装置11に設定される符号誤り率の基準の値は、誤りなく伝送することが必要とされるデータ量に応じた値となる。
【0075】
なお、水中移動体3および水上移動体1が、音響通信による一度の伝送でエラーが生じた場合の対策として、送信データDaの送受信を再度行う機能や、エラーが生じた部分について再度送受信する機能を備えている場合は、それらの機能を考慮して、符号誤り率の基準を設定するようにすればよい。
【0076】
演算装置11は、前記判断処理により、符号誤り率の推定結果が、設定された基準以下であると判断された場合は、判断処理時点での水上移動体1および水中移動体3の位置について、特に処理を開始することはない。
【0077】
よって、この場合は、水上移動体1と水中移動体3は、位置を保持したままで、水中移動体3の音響通信機4から水上移動体1の音響通信機2に、符号誤り率が設定された基準以下となる条件の下で、送信データDaの伝送が行われる。
【0078】
よって、受信側の水上移動体1は、確率的に符号の誤りがない状態で、水中移動体3の送信データDaを受け取ることができる。
【0079】
一方、前記判断処理により、符号誤り率の推定結果が、設定された基準よりも大であると判断された場合は、演算装置11は、目標位置探索処理を開始する。
【0080】
本実施形態では、演算装置11は、目標位置探索処理を、水上移動体1のみを対象として実施する。
【0081】
目標位置探索処理では、演算装置11は、水上移動体1の位置について、現在位置を中心として半径を徐々に増加させる水平面内の同心円状の領域に変位させた仮想の条件を設定する。
【0082】
次いで、演算装置11は、仮想の条件で設定された水上移動体1の位置について、図3に示したと同様の手順で、符号誤り率を推定し、更に、符号誤り率の推定結果が、設定された基準以下か否かの判断処理を行う。
【0083】
演算装置11は、符号誤り率の推定結果が設定された基準以下にならない間は、水上移動体1の位置を前記した同心円状の領域で変位させた仮想の条件を順次設置して、符号誤り率を推定する処理、および、符号誤り率の推定結果が、設定された基準以下か否かを判断する判断処理を繰り返し実施する。
【0084】
一方、演算装置11は、前記判断処理により符号誤り率の推定結果が設定された基準以下になると判断されると、そのときに仮想の条件として設定されていた水上移動体1の変位先の位置を、目標位置に設定する。
【0085】
次いで、演算装置11は、設定した目標位置を、水上移動体1の航走制御装置8に、水上移動体1を移動させる目標位置として指示する機能を備えている。
【0086】
これにより、水上移動体1では、航走制御装置8が、演算装置11で設定された目標位置に移動するための移動装置6の操作量を求めて、求めた操作量を、指令として移動装置6へ送る。
【0087】
このため、水上移動体1では、移動装置6が航走制御装置8より受け取る指令に応じて制御されるため、水上移動体1は、航走制御装置8に設定された目標位置へ移動する。
【0088】
この移動先は、演算装置11が、符号誤り率の推定結果が、設定された基準以下になると判断したときの水上移動体1の変位先である。よって、変位後の水上移動体1と、水中移動体3では、水中移動体3の音響通信機4から水上移動体1の音響通信機2に対し、符号誤り率が設定された基準以下となる条件の下で、送信データDaの伝送を行うことができる。
【0089】
よって、受信側の水上移動体1は、確率的に符号の誤りがない状態で、水中移動体3の送信データDaを受け取ることができる。
【0090】
図4は、水上移動体1と水中移動体3との音響通信について、推定される符号誤り率に高低が生じる領域の分布を示す模式図で、符号誤り率が高くなるに連れて、ドットのハッチングの密度を順次増加させて示してある。
【0091】
図4に示すように、水上移動体1と水中移動体3との相対的な位置関係や、水上移動体1と水中移動体3が配置されている場所の地形、水深などの影響を受けて、水面Wおよび水中には、水上移動体1と水中移動体3との音響通信の符号誤り率が低くて通信性能が向上する領域と、符号誤り率が高くて高い通信性能が低下する領域とが生じる。
【0092】
本実施形態の通信状態制御システムによれば、水中移動体3との音響通信を行う水上移動体1が、たとえば、図4に実線で示すように、水上移動体1と水中移動体3との音響通信の符号誤り率が高くて通信性能が低下する領域に位置している場合は、図4に二点鎖線で示すように、水上移動体1を、水中移動体3との音響通信の符号誤り率がより低くて、通信性能がより向上する位置に移動させることができる。
【0093】
このように、本実施形態の通信状態制御システムによれば、音響通信機2を備えた水上局である水上移動体1と、音響通信機4を備えた水中移動体3との音響通信について、水面反射と水底反射に起因するマルチパスによる符号間干渉を抑制して、符号誤り率が基準以下となる状態での音響通信を行うことができる。よって、本実施形態の通信状態制御システムは、水上移動体1と水中移動体3との音響通信について、通信性能の向上化を図ることができる。
【0094】
また、本実施形態では、演算装置11は、目標位置探索処理で、水上移動体1の位置について、現在位置を中心として、半径を徐々に増加させる水平面内の同心円状の領域に変位させた仮想の条件を設定するようにしてある。このため、本実施形態では、水上移動体1を音響通信の符号誤り率がより低くて、通信性能がより向上する位置に移動させる場合に、水上移動体1の移動量を抑制することができる。よって、この場合は、水上移動体1を目標位置に移動させて、通信性能の向上化が図られた状態で水上移動体1と水中移動体3との音響通信を開始するまでに要するエネルギー消費量と時間の低減化を図る効果が期待できる。
【0095】
なお、演算装置11は、目標位置探索処理で、水上移動体1の位置について、現在位置を中心として、半径を徐々に増加させる水平面内の同心円状の領域に変位させた仮想の条件を設定することに代えて、水中移動体3の位置に近付く方向の領域にのみ変位させる仮想の条件を設定するようにしてもよい。
【0096】
この場合も、演算装置11は、前記したと同様に、判断処理により符号誤り率の推定結果が設定された基準以下になると判断されると、そのときに仮想の条件として設定されていた水上移動体1の変位先の位置を、目標位置に設定するようにすればよい。
【0097】
この手法では、水上移動体1が設定された目標位置に移動すると、水上移動体1と水中移動体3との距離が短くなるので、受波点でのCN比(CNR)を改善する効果が期待できる。この受波点でのCN比の改善は、音響通信データに対する雑音の影響の低減化につながるため、符号誤り率を低減化する方向に働く。
【0098】
よって、この手法によれば、演算装置11にて、水上移動体1を移動させる目標位置を見出すために要する処理数や時間について、削減化を図る効果が期待できる。
【0099】
更に、本実施形態では、水上移動体1を、音響通信の符号誤り率がより低くて、通信性能がより向上する位置に移動させる手法を採っているため、水中移動体3に特別な制御が行われることはない。よって、本実施形態では、水中移動体3は、水中の情報収集などの本来の目的に沿う運用を継続して実施することができる。
【0100】
また、本実施形態では、演算装置11で使用される水中移動体3の位置の情報の取得のために水中移動体3に備える装備は、トランスポンダ12である。トランスポンダ12は、測位信号Saを受信すると応答信号Sbを自動的に送信する機能を備えているため、水中移動体3が水上移動体1と行う音響通信には、データ量の増加のような影響を与えることはない。
【0101】
[第2実施形態]
前記第1実施形態の通信状態制御システムは、水上移動体1と水中移動体3との音響通信の符号誤り率が高くて通信性能が低下している場合に、水上移動体1を、水中移動体3との音響通信の符号誤り率がより低くて、通信性能がより向上する位置に移動させる場合の例を示した。
【0102】
これに対し、本開示の通信状態制御システムは、水上移動体1と水中移動体3との音響通信の符号誤り率が高くて通信性能が低下している場合に、水中移動体3を、水上移動体1との音響通信の符号誤り率がより低くて、通信性能がより向上する位置に移動させる処理を行う機能を備えるようにしてもよい。この機能を備える通信状態制御システムを、第2実施形態として説明する。
【0103】
図5は、通信状態制御システムの第2実施形態を示す概要図である。
【0104】
なお、図5において、第1実施形態と同一のものには同一符号を付して、その説明を省略する。
【0105】
本実施形態の通信状態制御システムは、第1実施形態と同様の構成において、演算装置11が、水上移動体1を対象とする目標位置探索処理に代えて、水中移動体3を対象とする目標位置探索処理を行う機能を備えている。
【0106】
この目標位置探索処理では、演算装置11は、水中移動体3の位置について、現在位置を中心として半径を徐々に増加させる水平面内の同心円状の領域、または、その同心円状の領域を、水中移動体3の浮沈が許容される深度の範囲内で上下に伸展させた円柱状の領域、あるいは、水中移動体3の現在位置を中心として半径を徐々に増加させる球状の領域に変位させた仮想の条件を設定する。
【0107】
次いで、演算装置11は、仮想の条件で設定された水中移動体3の位置について、図3に示したと同様の手順で、符号誤り率を推定し、更に、符号誤り率の推定結果が、設定された基準以下か否かの判断処理を行う。
【0108】
演算装置11は、符号誤り率の推定結果が設定された基準以下にならない間は、水中移動体3の位置を前記した所定の領域で変位させた仮想の条件を順次設置して、符号誤り率を推定する処理、および、符号誤り率の推定結果が、設定された基準以下か否かを判断する判断処理を繰り返し実施する。
【0109】
一方、演算装置11は、前記判断処理により符号誤り率の推定結果が設定された基準以下になると判断されると、そのときに仮想の条件として設定されていた水中移動体3の変位先の位置を、目標位置に設定する。
【0110】
次いで、演算装置11は、設定した目標位置を、音響通信機2と音響通信機4の音響通信を介して、水中移動体3の航走制御装置16に、水中移動体3を移動させる目標位置として指示する機能を備えている。
【0111】
これにより、水中移動体3では、航走制御装置16が、演算装置11で設定された目標位置に移動するための移動装置14の操作量を求めて、求めた操作量を、指令として移動装置14へ送る。
【0112】
このため、水中移動体3では、移動装置14が航走制御装置16より受け取る指令に応じて制御されるため、水中移動体3は、航走制御装置16に設定された目標位置へ移動する。
【0113】
この移動先は、演算装置11が、符号誤り率の推定結果が、設定された基準以下になると判断したときの水中移動体3の変位先である。よって、変位後の水中移動体3と、水上移動体1では、水中移動体3の音響通信機4から水上移動体1の音響通信機2に対し、符号誤り率が設定された基準以下となる条件の下で、送信データDaの伝送を行うことができる。
【0114】
よって、本実施形態の通信状態制御システムによっても、第1実施形態と同様の効果を得ることができる。
【0115】
また、本実施形態の通信状態制御システムは、水上移動体1と水中移動体3との音響通信の符号誤り率が高くて通信性能が低下している場合に、水上移動体1を移動させる必要がない。そのため、本実施形態の通信状態制御システムは、水上移動体1の運動性能があまり高くない場合に好適なものとすることができる。
【0116】
更に、本実施形態の通信状態制御システムは、音響通信機2を備えて水中移動体3と音響通信を行う水上局が、たとえば、ブイのような、移動装置を装備していない浮体式の水上局の場合にも、適用することができる。
【0117】
[第3実施形態]
前記各実施形態の通信状態制御システムは、水上移動体1が、演算装置11および記憶部10を備える構成の例を示した。
【0118】
これに対し、本開示の通信状態制御システムは、水中移動体3が、演算装置11および記憶部10を備えた構成としてもよい。この構成の通信状態制御システムを、第3実施形態として説明する。
【0119】
図6は、通信状態制御システムの第3実施形態を示す概要図である。
【0120】
なお、図6において、前記各実施形態と同一のものには同一符号を付して、その説明を省略する。
【0121】
本実施形態の通信状態制御システムは、第2実施形態と同様の構成において、演算装置11および記憶部10が、水上移動体1に代えて、水中移動体3に備えられた構成とされている。
【0122】
本実施形態では、演算装置11で使用される水上移動体1の絶対位置の情報は、水上移動体1の位置検出装置7で検出された水上移動体1の絶対位置の情報を、水上移動体1から、音響通信機2と音響通信機4の音響通信を介して水中移動体3へ伝送して、演算装置11に入力する構成とされている。
【0123】
また、演算装置11で使用される水中移動体3の絶対位置の情報は、水中移動体3の位置検出装置15で検出される自機の絶対位置の情報を、演算装置11に入力する構成とされている。
【0124】
したがって、本実施形態では、水中移動体3に備えた位置検出装置15が、本開示の通信状態制御システムの発明にて水中移動体3の位置検出を行う第2の位置検出装置となる。
【0125】
本実施形態における演算装置11は、第2実施形態の演算装置11と同様の処理を行うものとされている。
【0126】
以上の構成としてある本実施形態の通信状態制御システムは、第2実施形態と同様の効果を得ることができる。
【0127】
[第4実施形態]
前記各実施形態では、水上移動体1と水中移動体3との音響通信の符号誤り率が高くて通信性能が低下している場合に、水上移動体1または水中移動体3のいずれか一方を、音響通信の符号誤り率がより低くて、通信性能がより向上する位置に移動させる場合の例を示した。
【0128】
これに対し、本開示の通信状態制御システムは、水上移動体1と水中移動体3との音響通信の符号誤り率が高くて通信性能が低下している場合に、水上移動体1と水中移動体3の双方を、音響通信の符号誤り率がより低くて、通信性能がより向上する位置に移動させる処理を行う機能を備えるようにしてもよい。この機能を備える通信状態制御システムを、第4実施形態として説明する。
【0129】
図7は、通信状態制御システムの第4実施形態を示す概要図である。
【0130】
なお、図7において、前記各実施形態と同一のものには同一符号を付して、その説明を省略する。
【0131】
本実施形態の通信状態制御システムは、図7に示すように、水上移動体1と水中移動体3の双方に、演算装置11,11aおよび記憶部10,10aを備えた構成を備えている。なお、識別する便宜上、水中移動体3に備えられた演算装置11aと記憶部10aの符号は、aの添え字を付してある。
【0132】
水上移動体1の構成は、図1に示した第1実施形態と同様である。また、水中移動体3の構成は、図6に示した第3実施形態と同様の構成に加えて、トランスポンダ12を備えた構成とされている。
【0133】
水上移動体1の演算装置11と、水中移動体3の演算装置11aには、水上移動体1の位置検出装置7で検出された水上移動体1の絶対位置の情報が入力される。この際、水中移動体3の演算装置11aに入力される水上移動体1の絶対位置の情報は、水上移動体1から、音響通信機2と音響通信機4の音響通信を介して水中移動体3へ伝送されている。
【0134】
また、水上移動体1の演算装置11と、水中移動体3の演算装置11aには、水中移動体3の絶対位置の情報として、同一の情報が入力される。この際、各演算装置11,11aに入力される水中移動体3の絶対位置の情報としては、水上移動体1に備えた音響測位装置9で検出された水中移動体3の位置の情報を入力するようにすればよい。この際、水中移動体3の演算装置11aに入力される水中移動体3の位置の情報は、水上移動体1から、音響通信機2と音響通信機4の音響通信を介して水中移動体3へ伝送すればよい。
【0135】
また、各演算装置11,11aに入力される水中移動体3の絶対位置の情報としては、水中移動体3に備えた位置検出装置15で検出された水中移動体3の絶対位置の情報を入力するようにしてもよい。この際、水上移動体1の演算装置11に入力される水中移動体3の位置の情報は、水中移動体3から、音響通信機4と音響通信機2の音響通信を介して水上移動体1へ伝送すればよい。
【0136】
水上移動体1に備えた演算装置11と、水中移動体3に備えた演算装置11aは、第1実施形態の演算装置11と同様の機能において、水上移動体1と水中移動体3の音響通信についての符号誤り率の推定結果が、設定された基準よりも大の場合に、水上移動体1および水中移動体3を対象とする目標位置探索処理を行う機能を備えている。
【0137】
この目標位置探索処理は、各演算装置11,11aで同一の処理を行って、同一の結果が得られるようにプログラムされている。
【0138】
各演算装置11,11aは、目標位置探索処理では、水上移動体1と水中移動体3の位置について、現在位置の周辺の領域、あるいは、水上移動体1と水中移動体3が互いに接近する方向の領域に変位させた仮想の条件を設定する。
【0139】
次いで、各演算装置11,11aは、仮想の条件で設定された水上移動体1と水中移動体3の位置について、図3に示したと同様の手順で、符号誤り率を推定し、更に、符号誤り率の推定結果が、設定された基準以下か否かの判断処理を行う。
【0140】
各演算装置11,11aは、符号誤り率の推定結果が設定された基準以下にならない間は、水上移動体1と水中移動体3の位置を前記した所定の領域で変位させた仮想の条件を順次設置して、符号誤り率を推定する処理、および、符号誤り率の推定結果が、設定された基準以下か否かを判断する判断処理を繰り返し実施する。
【0141】
一方、各演算装置11,11aは、前記判断処理により符号誤り率の推定結果が設定された基準以下になると判断されると、演算装置11は、そのときに仮想の条件として設定されていた水上移動体1の変位先の位置を、目標位置に設定する。また、演算装置11aは、そのときに仮想の条件として設定されていた水中移動体3の変位先の位置を、目標位置に設定する。
【0142】
次いで、演算装置11は、設定した目標位置を、水上移動体1の航走制御装置8に、水上移動体1を移動させる目標位置として指示する機能を備えている。また、演算装置11aは、設定した目標位置を、水中移動体3の航走制御装置16に、水中移動体3を移動させる目標位置として指示する機能を備えている。
【0143】
これにより、水上移動体1と水中移動体3は、それぞれ設定された目標位置へ移動する。
【0144】
この移動先は、各演算装置11,11aが、符号誤り率の推定結果が、設定された基準以下になると判断したときの水上移動体1および水中移動体3の変位先である。よって、変位後の水上移動体1と、変位後の水中移動体3は、音響通信機2,4により、符号誤り率が設定された基準以下となる条件の下で、データの伝送を行うことができる。
【0145】
よって、本実施形態の通信状態制御システムによっても、第1実施形態と同様の効果を得ることができる。
【0146】
なお、本開示の通信状態制御システムは、前記各実施形態にのみ限定されるものではない。
【0147】
水上移動体1、水中移動体3の形状や構造やサイズは、図示するための便宜上のものであり、実際の形状や構造やサイズを反映したものではない。
【0148】
本開示の通信状態制御システムは、海、湖沼や河川のいずれで使用される水上移動体1と水中移動体3に適用してもよい。
【0149】
水上局である水上移動体1は、水中移動体3と、図示しない母船や地上局との通信の中継を行う機能を備えるものであってもよい。
【0150】
水上移動体1は、各実施形態の図面では、水面Wに浮遊する船舶の形式を例示したが、水上移動体1は、水面Wよりも下方に配置される機体と、機体の上部に設けられて水面Wよりも上方に突出するストラットを備えて、ストラットの上端側に、電波による航法信号の受信用のアンテナと、必要に応じてその他の無線通信用のアンテナを備えた構成の半没型の水上移動体1としてもよい。
【0151】
本開示の通信状態制御システムは、一機の水上局と、複数の水中移動体3とが音響通信を行う構成に適用してもよい。
【0152】
水中移動体3は、水中の情報収集以外の任意の使用目的で使用される水中移動体3であってもよい。したがって、水中移動体3は、観測装置18に代えて、使用目的に応じた機器を搭載した構成としてよい。また、水上局と水中移動体3との間で音響通信を介して伝送されるデータは、水中移動体3の使用目的に応じたものであればよい。更に、水上局と水中移動体3との間の音響通信は、双方向のデータの送受であってもよいし、一方向のみのデータの伝送であってもよい。
【0153】
一般に、水上局や水上移動体1の位置の情報、および、水中移動体3の位置の情報は、観測データに比してデータ量が小さい。この点に鑑みて、水上局、水上移動体1と、水中移動体3に、観測データなどの伝送に用いる音響通信機2,4とは別に、位置情報の送受信のみを行うためのより低速、すなわち、より長波長の音響信号を用いた音響通信機を備える構成としてもよい。この構成によれば、音響通信機2,4で送受信するデータを圧迫することなく、水上局、水上移動体1と、水中移動体3との間で位置情報を伝送することが可能になる。
【0154】
その他本発明の要旨を逸脱しない範囲内で種々変更を加え得ることは勿論である。
【符号の説明】
【0155】
1 水上移動体(水上局)、2 音響通信機(第1の音響通信機)、3 水中移動体、4 音響通信機(第2の音響通信機)、7 位置検出装置(第1の位置検出装置)、6 移動装置、8 航走制御装置、9 音響測位装置(第2の位置検出装置)、10,10a 記憶部、11,11a 演算装置、12 トランスポンダ(第2の位置検出装置)、14 移動装置、15 位置検出装置(第2の位置検出装置)、16 航走制御装置、RL 受波レベル
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7