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7003939ガドリニウム酸硫化物焼結体、並びにガドリニウム酸硫化物焼結体を含むシンチレータ、シンチレータアレイ、放射線検出器、及び放射線検査装置
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  • -ガドリニウム酸硫化物焼結体、並びにガドリニウム酸硫化物焼結体を含むシンチレータ、シンチレータアレイ、放射線検出器、及び放射線検査装置 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-01-06
(45)【発行日】2022-01-21
(54)【発明の名称】ガドリニウム酸硫化物焼結体、並びにガドリニウム酸硫化物焼結体を含むシンチレータ、シンチレータアレイ、放射線検出器、及び放射線検査装置
(51)【国際特許分類】
   C04B 35/50 20060101AFI20220114BHJP
   C04B 35/547 20060101ALI20220114BHJP
   C09K 11/00 20060101ALI20220114BHJP
   C09K 11/84 20060101ALI20220114BHJP
   G01T 1/20 20060101ALI20220114BHJP
   G21K 4/00 20060101ALI20220114BHJP
【FI】
C04B35/50
C04B35/547
C09K11/00 E
C09K11/84
G01T1/20 D
G21K4/00 A
G01T1/20 E
G01T1/20 G
G01T1/20 B
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2018565575
(86)(22)【出願日】2018-01-30
(86)【国際出願番号】 JP2018003030
(87)【国際公開番号】W WO2018143217
(87)【国際公開日】2018-08-09
【審査請求日】2020-10-08
(31)【優先権主張番号】P 2017015525
(32)【優先日】2017-01-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000006035
【氏名又は名称】三菱ケミカル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002860
【氏名又は名称】特許業務法人秀和特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】羽豆 耕治
(72)【発明者】
【氏名】山原 圭二
(72)【発明者】
【氏名】片山 利昭
【審査官】小川 武
(56)【参考文献】
【文献】特開2002-275465(JP,A)
【文献】国際公開第2015/045870(WO,A1)
【文献】特開平06-201834(JP,A)
【文献】国際公開第2013/080565(WO,A1)
【文献】ANAN'EVA G.V.ら,Optical properties of Gd2O2S-based ceramic,Journal of optical technology,Vol.72 issue.1,P.58-61,図3
【文献】中村良平,X線CT用Gd2O2S:Pr,Ce,Fセラミックシンチレータの開発,湘南工科大学紀要,2001年,Vol.35 No.1,P.19-28,図9
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C04B 35/00-35/84
C09K 11/00-11/84
G01T 1/20
G21K 4/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
410nmの光透過率T410の、512nmの光透過率T512に対する比率(T410 / T512)が0.31以上0.61以下であり、プラセオジム、テルビウム、及びセリウムからなる群から選択される1種以上の賦活剤を含有するガドリニウム酸硫化物焼結体。
【請求項2】
XRD回折パターンにおいて、
2θ=20~29°に現れるガドリニウム酸硫化物とは異なる相の回折ピーク強度Iy
、2θ=30°±1°に現れるガドリニウム酸硫化物の(102)または(011)の回折ピーク強度Ixに対する比率(Iy/Ix)が0.1以下であり、プラセオジム、テルビ
ウム及びセリウムからなる群から選択される1種以上の賦活剤を含有する、請求項1に記載のガドリニウム酸硫化物焼結体。
【請求項3】
請求項1又は2に記載のガドリニウム酸硫化物焼結体を含むシンチレータ。
【請求項4】
請求項3に記載のシンチレータを複数含み、前記シンチレータの間に反射層を含む、シンチレータアレイ。
【請求項5】
光検出器と、請求項3に記載のシンチレータ又は請求項4に記載のシンチレータアレイを含む放射線検出器。
【請求項6】
請求項5に記載の放射線検出器を備えた、放射線検査装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガドリニウム酸硫化物焼結体、並びにガドリニウム酸硫化物焼結体を含むシンチレータ、シンチレータアレイ、放射線検出器、及び放射線検査装置に存する。
【背景技術】
【0002】
医療診断や工業用非破壊検査を目的として、X線透過撮影による画像診断やX線CT(Computed Tomography)撮影による画像診断が利用されている。これらの画像診断装置では、X線を可視光に変換するために、プラセオジム賦活の酸硫化ガドリニウム(Gd22S:Pr)(以下、GOS:Prとも称する)等の希土類酸硫化物の焼結体からなるセラミックシンチレータを複数並べアレイ化したもの(シンチレータアレイ)が用いられている。
【0003】
これらX線の診断画像の解像度は、シンチレータアレイが具備する各セラミックシンチレータを小型化することで向上するが、一方でX線に対する感度が低下するといった課題があった。そこで、近年、より高感度なセラミックシンチレータが望まれており、例えば、特許文献1では、Gd22S:Pr焼結体の不純物金属酸化物または不純物金属硫化物の量を調整することでシンチレータアレイの光出力の低下を抑制できることが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】国際公開第2016/047139号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1では、セラミックシンチレータに対して、酸素および硫黄を含む不活性ガス雰囲気(SOxガス)でアニール処理を2回実施し、酸化物領域および硫化物領域を低減させているが、アニール処理温度への昇温速度は50℃/時間以下と非常にゆっくりとしたもので、排ガス処理を含め工業的に優れたものではなく、また熱処理時間が長くなるため、酸化硫黄や酸化ガドリニウム等の不純物が生じ、光出力が低下するおそれがあった。
【0006】
本発明は上記に鑑みてなされたものであり、光出力の高いガドリニウム酸硫化物焼結体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者等は鋭意検討を行った結果、512nmの光透過率T512に対する410nmの光透過率T410の比率(T410/T512)が特定値であり、特定の賦活剤を含有するガドリニウム酸硫化物焼結体が、上記課題を解決しうることを見出し、本発明に到達した。
上記構成により、課題を解決できる理由は明らかとなっていないが、410nmの光透過率は、酸素ないしは硫黄欠損に起因する吸収により低減すると考えられ、512nmの光透過率はPrの4f-4f遷移による発光および自己吸収に起因して低減すると考えられるため、双方の透過率を調整して特定比率とすることで、高光出力のガドリニウム酸硫化物を提供することができたものと推測される。
【0008】
即ち、本発明の要旨は、410nmの光透過率T410の、512nmの光透過率T512に対する比率(T410 / T512)が0.31以上0.61以下であり、プラセオジム、テルビウム及びセリウムからなる群から選択される1種以上の賦活剤を含有するガドリニウム酸硫化物焼結体を含む。
また、XRD回折パターンにおいて、2θ=20~29°に現れるガドリニウム酸硫化物とは異なる相の回折ピーク強度Iyの、2θ=30°±1°に現れるガドリニウム酸硫化物の(102)または(011)の回折ピーク強度Ixに対する比率(Iy/Ix)が0.1以下であり、プラセオジム、テルビウム及びセリウムからなる群から選択される1種以上の賦活剤を含有するガドリニウム酸硫化物焼結体を含む。
【0009】
また、ガドリニウム酸硫化物焼結体の製造方法であって、ガドリニウム酸硫化物蛍光体粉末を焼結させて、前記ガドリニウム酸硫化物焼結体を得る焼結工程と、得られた焼結体を、ガドリニウム酸硫化物と接触させた状態で、不活性ガス雰囲気において900℃以上1150℃以下で熱処理するアニール工程と、を含むガドリニウム酸硫化物焼結体の製造方法を含む。
また、前記のガドリニウム酸硫化物焼結体を含むシンチレータを含み、前記のシンチレータを含むシンチレータアレイを含み、前記のシンチレータ又は前記のシンチレータアレイを含む放射線検出器を含み、また、前記の放射線検出器を備えた、放射線検査装置を含む。
【発明の効果】
【0010】
本発明により、光出力の高いガドリニウム酸硫化物焼結体を提供することが可能になる。
また、本発明は、上記ガドリニウム酸硫化物焼結体を含む、光出力の高いシンチレータを提供することが可能になる。
また、本発明は、上記シンチレータを含む、光出力の高いシンチレータアレイを提供することが可能になる。
また、本発明は、光検出器と、上記シンチレータ又はシンチレータアレイを含む、X線に対する感度が高い放射線検出器を提供することが可能になる。
更に本発明は、S/N比の優れたX線像の撮像が可能な放射線検査装置を提供することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】実施例2で得られた焼結体のX線回折スペクトルである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明について実施形態や例示物を示して説明するが、本発明は以下の実施形態や例示物等に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において任意に変形して実施することができる。
尚、本明細書において「~」を用いて表される数値範囲は、「~」の前後に記載される数値を下限値及び上限値として含まない範囲を意味する。
【0013】
<ガドリニウム酸硫化物焼結体>
本発明の第一の実施形態であるガドリニウム酸硫化物焼結体は、410nmの光透過率T410の、512nmの光透過率T512に対する比率(T410/T512)が0.31以上、0.61以下であり、プラセオジム、テルビウム及びセリウムからなる群から選択される1種以上の賦活剤を含有するものである。
【0014】
(ガドリニウム酸硫化物焼結体の構成元素)
ガドリニウム酸硫化物焼結体は、Gd22Sの基本構造からなるものであり、賦活剤としてプラセオジム(Pr)、テルビウム(Tb)及びセリウム(Ce)からなる群から選択される1種以上を含有するものである。中でも残光特性を向上させる点から、プラセオジム(Pr)が好ましい。
ガドリニウム酸硫化物焼結体中の賦活剤の含有量としては特に限定されないが、Gd22Sに対して、通常100wtppm以上、好ましくは200wtppm以上、より好ましくは300wtppm以上、更に好ましくは500wtppm以上、通常2000wtppm以下、好ましくは1500wtppm以下、より好ましくは1300wtppm以下、更に好ましくは1000wtppm以下である。
上記範囲内であれば、シンチレータの光出力を高めることができる。
【0015】
ガドリニウム酸硫化物焼結体は、プラセオジム、テルビウム、セリウム以外にも、その他のランタノイドを賦活剤として含有してもよい。また、本発明の効果を奏する範囲でフッ素、塩素、臭素、ヨウ素などのハロゲン元素を含有していてもよい。
【0016】
(ガドリニウム酸硫化物焼結体の光透過率)
ガドリニウム酸硫化物焼結体は、410nmの光透過率T410の、512nmの光透過率T512に対する比率(T410/T512)が0.61以下であり、0.30以上であってよく、好ましくは0.31以上、より好ましくは0.32以上、更に好ましくは0.33以上、特に好ましくは0.35以上、最も好ましくは0.38以上である。T410/T512が上記範囲外の場合、十分な光出力が得られない場合がある。
【0017】
ガドリニウム酸硫化物焼結体のT410/T512を上記範囲とする方法としては、例えば散乱を抑制するため十分な密度を得られる条件で焼結することや欠陥密度を低減する条件でアニールすること、賦活剤としてプラセオジムまたはセリウムを含むこと、などの方法があげられる。
【0018】
なお、ガドリニウム酸硫化物焼結体の光透過率は、日立ハイテクサイエンス社製のU-3310により測定した。測定は6×6×3mm厚の試料を1mmφのピンホールを開けた黒色治具に透明テープで固定し、試料が固定された黒色治具をU-3310の入射光の中央にピンホールが来るように積分球に密着させ、全光線透過率を測定した。
【0019】
(ガドリニウム酸硫化物焼結体のXRD回折パターン)
本発明の第二の実施形態であるガドリニウム酸硫化物焼結体は、XRD回折パターンにおいて、2θ=20~29°に現れるガドリニウム酸硫化物とは異なる相の回折ピーク強度Iyの、2θ=30°±1°に現れるガドリニウム酸硫化物の(102)または(011)回折ピーク強度Ixに対する比率(Iy/Ix)が通常0.1以下、好ましくは0.095以下、より好ましくは0.09以下、更に好ましくは0.085以下、特に好ましくは0.08以下であり、下限は通常0よりも大きい。
y/Ixが上記範囲であれば、非発光成分が少なく、GOSがよりX線を吸収し発光に寄与するため好ましい。
【0020】
ガドリニウム酸硫化物焼結体のIy/Ixの値を上記範囲とする方法としては、例えば適切な酸素濃度下でアニールするなどの方法があげられる。
【0021】
なお、ガドリニウム酸硫化物焼結体のIy/IxはPHILIPS社製X‘Pertを用いて、試料を無反射板状に設置し測定した。X線回折パターンはX’PertHighScoreによりバックグラウンド除去後K-Alpha2分離の処理をした。装置、ゴニオの調整や焼結体の歪等により回折ピーク角度は変動するため、必ずしも30°に主回折ピークがあらわれるとは限らない。また、20~29°に現れるガドリニウム酸硫化物とは異なる相の回折ピークが複数ある場合は、最もピーク強度が大きいものをIyとする。
【0022】
(ガドリニウム酸硫化物焼結体の密度)
ガドリニウム酸硫化物焼結体は、密度が通常99.0%以上、好ましくは99.2%以上、より好ましくは99.4%以上、更に好ましくは99.5%以上、特に好ましくは99.6%以上である。
密度が上記範囲であれば、ボイドによる散乱が抑制され焼結体内での吸収が低減されるため好ましい。
【0023】
ガドリニウム酸硫化物焼結体の密度を高くする方法としては、例えば適切な焼結助剤の使用などの方法があげられる。
なお、ガドリニウム酸硫化物焼結体の密度は、島津製作所社製分析天びんAUW220Dと比重測定キットSMK-401を用いて、6×6×3mmの焼結体を4回測定し2~4回目を平均して算出できる。
【0024】
<ガドリニウム酸硫化物焼結体の製造方法>
ガドリニウム酸硫化物焼結体の製造方法は特に制限されないが、好ましくは、ガドリニウム酸硫化物蛍光体粉末を焼結させて、前記ガドリニウム酸硫化物の焼結体を作製する焼結工程と、前記工程で得られた焼結体を、ガドリニウム酸硫化物と接触させた状態で、不活性ガス雰囲気において900℃以上1100℃以下で熱処理するアニール工程と、を含むガドリニウム酸硫化物焼結体の製造方法である(本発明の別の形態)。
【0025】
(焼結工程)
焼結工程は、ガドリニウム酸硫化物蛍光体粉末(例えばGOS:Pr)を焼結させて、前記ガドリニウム酸硫化物の焼結体を作製する工程である。
原料に用いるガドリニウム酸硫化物蛍光体粉末は、Pr、Tb及びCeからなる群から選択される1種以上を賦活剤として含むものであれば特に制限されず、市販のものでもよいし、特開平03-192187号公報や特開平9-63122号公報等に記載のものを用いてもよい。
【0026】
また、GOS:Pr以外にも、更にセリウム(Ce)を含有したGOS:Pr,Ceや、テルビウム(Tb)を含有したGOS:Tb、セリウム(Ce)を含有したGOS:Ce等を、単独または混合して使用することができる。
原料に用いるガドリニウム酸硫化物蛍光体粉末の体積基準の平均粒子径は、通常0.1μm以上、好ましくは0.5μm以上、より好ましくは1.0μm以上、更に好ましくは1.5μm以上、特に好ましくは2.5μm以上、また通常30μm以下、好ましくは20μm以下、より好ましくは15μm以下、更に好ましくは10μm以下である。
上記範囲内であると、焼結後のボイドが低減される点で好ましい。
【0027】
次に、上記したガドリニウム酸硫化物蛍光体粉末を焼結して、セラミックシンチレータの構成材料となるガドリニウム酸硫化物の焼結体を作製する。ガドリニウム酸硫化物蛍光体粉末を焼結するにあたっては、ホットプレスやHIPなどの公知の焼結法(特開2002-275465号公報や国際公開第2016/047139号等参照)、反応焼結などを適用することができるが、特に高密度のガドリニウム酸硫化物焼結体を容易に得ることが可能であることから、HIP法を適用して焼結工程を実施することが好ましい。
【0028】
HIP法を適用した焼結工程は、まずガドリニウム酸硫化物蛍光体粉末を適当な形に成型した後、金属容器などに充填封入してHIP処理を施すことにより実施する。
HIPの温度は、通常2000℃以下、好ましくは1800℃以下、より好ましくは1600℃以下、更に好ましくは1500℃以下、特に好ましくは1400℃以下であり、一方通常800℃以上、好ましくは900℃以上、より好ましくは950℃以上、更に好ましくは1000℃以上、特に好ましくは1050℃以上である。
【0029】
HIPの圧力は通常200MPa以下、好ましくは180MPa以下、より好ましくは160MPa以下、更に好ましくは150MPa以下、特に好ましくは140MPa以下であり、一方通常50MPa以上、好ましくは60MPa以上、より好ましくは70MPa以上、更に好ましくは80MPa以上、特に好ましくは90MPa以上である。
HIPの時間は通常48時間以下、好ましくは36時間以下、より好ましくは24時間以下、更に好ましくは12時間以下、特に好ましくは10時間以下であり、一方通常0.5時間以上、好ましくは0.8時間以上、より好ましくは。1時間以上、更に好ましくは1.5時間以上、特に好ましくは2時間以上である。
【0030】
典型的には上記条件でHIP処理を行うことによって、ガドリニウム酸硫化物焼結体が得られる。
なお、焼結工程では、前処理工程(洗浄、乾燥、真空脱気などを行う工程)、後処理工程(洗浄、乾燥などを行う工程)等を任意に含んでいてもよい。
【0031】
(アニール工程)
アニール工程は、上記焼結工程で得られたガドリニウム酸硫化物焼結体を、不活性ガス雰囲気において900℃以上1150℃以下で熱処理する工程である。
ガドリニウム酸硫化物焼結体の表面に硫酸塩ができないように、アニール工程の温度、時間、雰囲気を調整することで、特定の光透過率を有するガドリニウム酸硫化物焼結体を得ることが可能となる。
アニール工程前にガドリニウム酸硫化物焼結体をブレードソーやワイヤーソーなどにより所望の形状および寸法に切り出しておくことが好ましい。
【0032】
アニール工程は、アルゴンガス、窒素等の不活性ガス雰囲気にて行う。これらの中でも生産コスト抑制の点から工業用アルゴンないしは窒素ガス下で行うことが好ましい。
不活性ガスの流量としては特段限定されないが、0.1L/分以上、20L/分以下が好ましい。
熱処理温度は、通常900℃以上、好ましくは950℃以上、より好ましくは1000℃以上、更に好ましくは1050℃以上であり、一方、通常1150℃以下、好ましくは1140℃以下、更に好ましくは1100℃以下である。
【0033】
また、熱処理時間は、通常8時間以上、好ましくは8.5時間以上、より好ましくは9時間以上、更に好ましくは9.5時間以上、通常19時間以下、好ましくは17時間以下、更に好ましくは15時間以下である。
【0034】
アニール工程は、不活性ガス雰囲気で行うとともに、ガドリウム酸硫化物粉末と焼結体が接触した状態で行うことが好ましい。アニール工程でガドリウム酸硫化物粉末と焼結体とを接触させることで、輝度の高いガドリウム酸硫化物焼結体を得ることができる。
ガドリニウム酸硫化物焼結体を製造する際には、上記工程の他に任意の工程を含んでよい。
【0035】
<シンチレータ>
本発明の別の形態はシンチレータであり、上記の実施形態に係るガドリニウム酸硫化物焼結体を含むものであれば特に制限されず、ガドリニウム酸硫化物焼結体をそのまま用いた物であっても、任意の形状に加工したものであってもよい。
また、シンチレータはシンチレーション光を漏れなく検出器へ到達させるため、ガドリニウム酸硫化物焼結体の表面に反射層を設けてもよい。
【0036】
反射層としては、TiO2、Al23、ZnO等の無機粒子とバインダー樹脂を含むものがあげられる。
反射層の厚さとしては、通常0.01μm以上、好ましくは0.05μm以上、より好ましくは0.1μm以上、更に好ましくは0.15μm以上、また通常10000μm以下、好ましくは1000μm以下、より好ましくは500μm以下、更に好ましくは300μm以下である。上記範囲であれば焼結体で発光した光を効率的に受光面へ到達させることができる。
【0037】
<シンチレータアレイ>
本発明の別の形態はシンチレータアレイであり、上記のシンチレータを複数含み、シンチレータの間に反射層及び/又は空隙を含むことが好ましい。シンチレータアレイは、より低いX線照射量においても使用可能である。
【0038】
<放射線検出器>
本発明の別の形態は放射線検出器であり、光検出器と、上記シンチレータ又はシンチレータアレイを含むものである。
光検出器は、シンチレータ又はシンチレータアレイに対向して光電変換部を備え、シンチレータ又はシンチレータアレイで発せられた蛍光を、電気信号等に変換する機能を有する。このような機能を有する限り光検出器は特段限定されず、既知の光検出器を適宜用いることができる。
【0039】
<放射線検査装置>
放射線検査装置の一例としては、X線CT装置が挙げられる。X線CT装置としては、被検体にX線を照射するX線照射部と、前記被検体を介して前記X線照射部と対向し、前記被検体を透過した透過X線のうちの前記被検体の内部の検査対象物に応じた特定のエネルギ範囲における前記透過X線の個数を測定するX線測定部と、前記X線測定部で測定した前記透過X線の個数に基づいて前記検査対象物の厚さを演算する厚さ演算部と、前記厚さ演算部で演算された前記検査対象物の厚さに基づいてCT画像を再構成する画像再構成部とを備える。
【実施例
【0040】
以下、本発明を実施例によりさらに具体的に説明するが、本発明はその要旨を逸脱しない限り、以下の実施例に限定されるものではない。
【0041】
[放射線像変換スクリーンの作製]
(実施例1)
・焼結工程
体積基準の平均粒子径9μmのGd22S:Pr蛍光体の粉末を、軟鋼カプセルに封入し、温度1300℃、2時間、圧力100MPaにてHIP処理を行い、Gd22S:Prの焼結体を得た。
次いで、得られた焼結体をダイシングソーにて6×6×3mm厚に加工し、焼結体片を得た。
【0042】
・アニール工程
得られた焼結体片をGd22S:Pr蛍光体の粉末の中に入れ、焼結体片とGd22S:Pr蛍光体粉末とが接触した状態でアルミナ製るつぼ内に配置し、該るつぼをモトヤマ社製タンマン炉SUPER-BURNに入れた。アルゴンガス(0.3L/分)雰囲気で、1100℃まで200℃/時間で昇温し、10時間熱処理を行った後、200℃/時間で降温しアニール工程後のGd22S:Pr焼結体を得た。
【0043】
・光透過率の測定
日立ハイテクサイエンス社製のU-3310により測定した。測定は6×6×3mm厚の焼結体の側面に反射材コクヨTW-40を100um塗布し1mmφのピンホールを開けた黒色治具に6mm面が入射面となるように透明テープで固定し、焼結体が固定された黒色治具をU-3310の入射光の中央にピンホールが来るように積分球に密着するように設置し、焼結体の透過率を測定した。
【0044】
・光出力(輝度)の測定
焼結体の、光取り出し面(6×6mm)以外の5面に100μm厚の反射材コクヨTW-40を塗布し、ジョブ製PORTA 100HFを80kV12mAsに設定し、10cmのファントムを設置し750mmの距離でRadEye Image Sensorを用いて測定した。
光出力は同一条件で測定した三菱化学社製DRZ-highの光出力を1とした相対強度である。
【0045】
・XRDの測定
PHILIPS社製X‘Pertを用いて、試料を無反射板状に設置し測定した。X線回折パターンはX’PertHighScoreによりバックグラウンド除去後K-Alpha2分離の処理をした。X線の線源はCuKαである。
実施例1で得られた焼結体のアニール工程条件を表1に、アニール前後の光出力と光透過率、光出力上昇率、透過率T410/T512、Iy/Ixを表2に示す。
【0046】
(実施例2~4、比較例1~2)
実施例1で得られた焼結体片を用い、アニール工程の温度、アニール工程の時間、アニール工程の雰囲気を表1のように変更した以外は、実施例1と同様にGd22S:Pr焼結体を得た。
【0047】
【表1】
【0048】
【表2】
【0049】
(実施例5)
・焼結工程
実施例1と同様の方法で、焼結体片を得た。
・アニール工程
得られた焼結体片をGd22S:Pr蛍光体の粉末の中に入れ、焼結体片とGd22S:Pr蛍光体粉末とが接触した状態でアルミナ製るつぼ内に配置し、該るつぼをモトヤマ社製タンマン炉SUPER-BURNに入れた。アルゴンガス(0.3L/分)雰囲気で、1050℃まで200℃/時間で昇温し、10時間熱処理を行った後、200℃/時間で降温しアニール工程後のGd22S:Pr焼結体を得た。
実施例5で得られた焼結体のアニール工程条件と、アニール後の光出力、透過率T410/T512、Iy/Ixを表3に示す。
【0050】
(比較例3~7)
実施例5で得られた焼結体片を用い、アニール工程の時間、アニール工程の雰囲気を表3のように変更した以外は、実施例5と同様にGd22S:Pr焼結体を得た。
なお、比較例5及び7では、るつぼ中にGd22S:Pr蛍光体粉末を共存させたが、焼結体片とは接触しない状態でアニール工程を行った。また、比較例6は、比較例5と同様に、Gd22S:Pr蛍光体粉末と焼結体片が接触しない状態であるが、焼結体片とアルミナ製るつぼとが接触した状態でアニール工程を行った。
比較例3~7で得られた焼結体のアニール後の光出力、透過率T410/T512、Iy/Ixを表3に示す。
【0051】
【表3】
【0052】
表2、3の結果から、透過率T410/T512が0.31以上、0.61以下であるGd22S:Pr焼結体は、光出力が高く、シンチレータとして有用であることがわかった。また、Iy/Ixが0.1以下であるGd22S:Pr焼結体は、光出力が高く、シンチレータとして有用であることがわかった。
図1