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特許7004031グラフト共重合体、架橋粒子、グラフト架橋粒子、ゴム質重合体、およびそれを用いた熱可塑性樹脂組成物
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-01-06
(45)【発行日】2022-01-21
(54)【発明の名称】グラフト共重合体、架橋粒子、グラフト架橋粒子、ゴム質重合体、およびそれを用いた熱可塑性樹脂組成物
(51)【国際特許分類】
   C08F 290/06 20060101AFI20220114BHJP
   C08F 265/06 20060101ALI20220114BHJP
   C08L 101/00 20060101ALI20220114BHJP
   C08L 51/06 20060101ALI20220114BHJP
   C08L 33/06 20060101ALI20220114BHJP
   C08K 7/16 20060101ALI20220114BHJP
   C08J 3/16 20060101ALI20220114BHJP
【FI】
C08F290/06
C08F265/06
C08L101/00
C08L51/06
C08L33/06
C08K7/16
C08J3/16 CEY
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2020114943
(22)【出願日】2020-07-02
(62)【分割の表示】P 2017547708の分割
【原出願日】2016-10-07
(65)【公開番号】P2020183535
(43)【公開日】2020-11-12
【審査請求日】2020-07-02
(31)【優先権主張番号】P 2015212024
(32)【優先日】2015-10-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2015212025
(32)【優先日】2015-10-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2015212026
(32)【優先日】2015-10-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2015212027
(32)【優先日】2015-10-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】396021575
【氏名又は名称】テクノUMG株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100086911
【弁理士】
【氏名又は名称】重野 剛
(72)【発明者】
【氏名】岩永 崇
(72)【発明者】
【氏名】内藤 吉孝
(72)【発明者】
【氏名】熱田 裕之
(72)【発明者】
【氏名】鎌田 一郎
(72)【発明者】
【氏名】松山 広憲
(72)【発明者】
【氏名】深町 雄介
【審査官】藤井 勲
(56)【参考文献】
【文献】特開昭62-027410(JP,A)
【文献】特開2011-122129(JP,A)
【文献】特開昭62-048715(JP,A)
【文献】特開昭63-092627(JP,A)
【文献】特開2002-363482(JP,A)
【文献】特開2010-215764(JP,A)
【文献】特表2016-500405(JP,A)
【文献】特開2020-172658(JP,A)
【文献】特開2020-172659(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08F 251/00 - 299/08
C08L 51/00 - 51/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(メタ)アクリル酸エステル、芳香族ビニル、シアン化ビニル、マレイミド、及び無水マレイン酸から選ばれる1種以上の単量体をグラフト重合することで、グラフト率が23~100%のグラフト架橋粒子(B-II)を得るための架橋粒子(A-II)であって、
下記式(1)で表される数平均分子量が800~9,000のジ(メタ)アクリル酸エステル(a)と、(メタ)アクリル酸及び/又はモノ(メタ)アクリル酸エステルであるモノ(メタ)アクリル酸成分(d)とを含む単量体混合物(i-II)であって、単量体混合物(i-II)100質量%中のジ(メタ)アクリル酸エステル(a)の含有量が20~80質量%である単量体混合物(i-II)を重合して得られた、体積平均粒子径が0.07~2.0μmである架橋粒子(A-II)。
【化1】
上記式(1)中、Xは、ポリアルキレングリコール、ポリエステルジオール及びポリカーボネートジオールから選ばれる少なくとも1種のジオールで構成される2価の残基を示す。R1a,R1bは、各々独立に、H又はCHを示す。
【請求項2】
請求項1において、前記単量体混合物(i-II)がその他のビニル化合物(e)として少なくともスチレンを含む架橋粒子(A-II)。
【請求項3】
請求項1又は2において、前記Xがポリテトラメチレングリコール残基である架橋粒子(A-II)。
【請求項4】
請求項1ないし3のいずれか1項において、前記単量体混合物(i-II)中のモノ(メタ)アクリル酸エステル(d)の含有量が1~80質量%である架橋粒子(A-II)。
【請求項5】
請求項1ないしのいずれか1項に記載の架橋粒子(A-II)に、(メタ)アクリル酸エステル、芳香族ビニル、シアン化ビニル、マレイミド、及び無水マレイン酸から選ばれる1種以上の単量体をグラフト重合してなるグラフト架橋粒子(B-II)。
【請求項6】
請求項において、架橋粒子(A-II)40~90質量%に単量体10~60質量%をグラフト重合してなり(ただし、架橋粒子(A-II)と単量体との合計で100質量%)、該単量体は少なくともメタクリル酸メチルとアクリル酸メチルを含み、メタクリル酸メチルとアクリル酸メチルの合計100質量%に占めるメタクリル酸メチルの割合が90~99.9質量%であるグラフト架橋粒子(B-II)。
【請求項7】
請求項1ないしのいずれか1項に記載の架橋粒子(A-II)及び/又は請求項又はに記載のグラフト架橋粒子(B-II)と、熱可塑性樹脂(D-II)とを含む熱可塑性樹脂組成物。
【請求項8】
請求項に記載の熱可塑性樹脂組成物を成形してなる成形品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は以下の第1~第4発明に関する。
第1発明は、耐衝撃性付与効果に優れたグラフト重合体であって、耐候性、発色性に優れた熱可塑性樹脂組成物を提供し得るグラフト共重合体及びその製造方法と、このグラフト共重合体を含む熱可塑性樹脂組成物及びその成形品に関する。
【0002】
第2発明は、熱可塑性樹脂の改質剤として、樹脂の発色性、成形収縮率を損なうことなく、流動性、耐衝撃性、耐擦り傷性を向上させることができる架橋粒子及びグラフト架橋粒子と、この架橋粒子及び/又はグラフト架橋粒子を配合してなる熱可塑性樹脂組成物とその成形品に関する。
【0003】
第3発明は、熱可塑性樹脂の改質剤として、樹脂の発色性、耐候性を損なうことなく、流動性、耐衝撃性、耐擦り傷性を向上させることができる架橋粒子及びグラフト架橋粒子と、この架橋粒子及び/又はグラフト架橋粒子を配合してなる熱可塑性樹脂組成物とその成形品に関する。
【0004】
第4発明は、耐衝撃性、発色性および成形外観に優れる成形品を提供し得るゴム質重合体およびグラフト共重合体とその製造方法に関する。第4発明はまた、このグラフト共重合体を含む熱可塑性樹脂組成物とその成形品に関する。
【背景技術】
【0005】
<第1発明の背景技術>
樹脂材料の耐衝撃性を向上させることは、材料の用途の拡大や、成形品の薄肉化や大型化を可能にするなど、工業的な有用性が非常に大きい。樹脂材料の耐衝撃性を向上させる手法が種々検討されてきた。
【0006】
従来、樹脂材料の耐衝撃性を向上させる手法として、ABS樹脂に代表されるようなゴム状重合体を含むグラフト重合体を樹脂材料に配合することが知られている。
【0007】
ABS樹脂はゴム成分としてジエン系ゴムを含むため、耐候性が悪く、ABS樹脂で補強された樹脂材料は屋外での使用が制限される。ジエン系ゴム以外のゴム成分を有するグラフト重合体を配合する方法が種々提案されている。例えば、ポリアクリル酸エステル系ゴムやポリオルガノシロキサン、ポリジメチルシロキサン-ポリアクリル酸エステル複合ゴムをゴム成分として用いることが提案されている。これらの中でも、ポリジメチルシロキサン-アクリル酸エステル複合ゴムは耐衝撃性、耐候性、経済性のバランスから非常に優れている。
【0008】
ポリジメチルシロキサン-ポリアクリル酸エステル複合ゴムは、一般的にポリジメチルシロキサンのエマルションにアクリル酸エステルを一括または分割しながら添加して重合することで製造される(特許文献1)。
【0009】
この方法では、ポリジメチルシロキサン-ポリアクリル酸エステル複合ゴムだけでなく、複合されなかったポリジメチルシロキサンおよびポリアクリル酸エステルが生成し、組成が均一なポリジメチルシロキサン-ポリアクリル酸エステル複合ゴムを得にくい。得られたポリジメチルシロキサン-ポリアクリル酸エステル複合ゴムを使用したグラフト重合体を用いた樹脂材料は、ポリジメチルシロキサンとポリアクリル酸エステルの屈折率が大きく異なることに起因して、発色性に劣る。
【0010】
特許文献2には、ポリジメチルシロキサン-共役ジエン-アクリル酸エステル複合ゴムを使用することで発色性を改良した熱可塑性樹脂組成物が提案されている。この熱可塑性樹脂組成物では、共役ジエンが含まれるため耐候性が不十分である。
【0011】
耐衝撃性付与効果に優れたグラフト共重合体であって、耐候性、発色性が高度に優れる熱可塑性樹脂組成物を提供し得るグラフト重合体が求められている。
【0012】
<第2発明の背景技術>
熱可塑性樹脂、例えばスチレン-アクリロニトリル共重合樹脂、α-メチルスチレン-アクリロニトリル共重合樹脂、スチレン-アクリロニトリル-フェニルマレイミド共重合樹脂等は、これらの樹脂と相溶性を付与させるような単量体をゴム質重合体にグラフト重合して得られるグラフト重合体を配合し、アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン(ABS)樹脂、アクリロニトリル-アクリルゴム-スチレン(AAS)樹脂等に代表される耐衝撃性を付与させた材料として、広く使用されている。
【0013】
ABS樹脂やAAS樹脂は、ガーゼや軍手等の柔らかい布に対する耐擦り傷性が悪く、磨き傷が入りやすい。
【0014】
耐衝撃性を付与すると共に、耐擦り傷性を改善した樹脂として、ゴム質重合体としてエチレン・α-オレフィンゴムを用いたアクリロニトリル-エチレン・α-オレフィン-スチレン(AES)樹脂が知られている。
【0015】
特許文献3では、AES樹脂等のゴム強化スチレン系樹脂に無機充填材を配合した摺動用樹脂材料が提案されている。しかし、AES樹脂は、結晶性のエチレン成分を含むため、ABS樹脂などに比べ成形収縮率が高く、ABS樹脂などを使用した既存の金型へ転用した場合に得られる成形品が小さくなる。特許文献3では、無機充填材を多く配合しているため、耐衝撃性が大きく低下してしまう。
【0016】
<第3発明の背景技術>
透明性樹脂としてメタクリル樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリスチレン樹脂、脂環型オレフィンポリマー等が知られている。これらの透明性樹脂は工業的にも大量に製造され、その良好な透明性や着色した際の発色性を生かして各種の分野で広く使用されている。
【0017】
自動車分野などにおける内外装部品用途などでは、近年、製造コスト削減のために塗装レスで使用できることが求められている。そのために、良好な発色性を示す透明性樹脂が適用されるようになってきている。
【0018】
特にメタクリル樹脂は、透明樹脂の中でも透明性や表面光沢などの光学的性質、機械的性質、耐引掻き傷性、耐候性などに卓越した特性を有している。しかし、耐衝撃性やガーゼなどの柔らかい物での耐擦り傷性には劣るため、塗装レスとして使用した場合に成形品の厚みを大きくする必要がある。また、組み付けを行った際や洗車した際に傷が入る。
【0019】
メタクリル樹脂の耐衝撃性と耐擦り傷性を改善する方法としては、アクリロニトリル-エチレン・α-オレフィン-スチレン(AES)樹脂のようなグラフト共重合体をメタクリル樹脂に分散させる方法が知られている(特許文献4)。この方法では、耐衝撃性、耐擦り傷性の改良は見られるものの透明性が低下してしまい、着色した際の発色性が低下する。
【0020】
特定の単量体成分からなるゴム含有重合体を用いた透明なアクリルフィルムが提案されている(特許文献5)。ここで提案されているゴム含有重合体では、耐衝撃性、耐擦り傷性が不十分である。
【0021】
<第4発明の背景技術>
熱可塑性樹脂、例えばスチレン-アクリロニトリル共重合樹脂、α-メチルスチレン-アクリロニトリル共重合樹脂、スチレン-アクリロニトリル-フェニルマレイミド共重合樹脂等は、これらの樹脂と相溶性を付与させるような単量体をゴム質重合体にグラフト重合して得られるグラフト共重合体を配合し、ABS樹脂、ASA樹脂等に代表される耐衝撃性を付与させた材料として広く使用されている。これらの中でも、ゴム質重合体に飽和ゴムであるアルキル(メタ)アクリレートゴム等の成分を用いたASA樹脂は、良好な耐候性を付与し得る。
【0022】
しかし、ASA樹脂は、着色成形品の発色性低下等による外観不良が生じたり、耐衝撃性が低くなったりするという欠点がある。この外観不良と耐衝撃性とのバランスを改良することを目的として、粒子径分布が異なるゴム粒子を組み合わせたアクリル酸エステル系ゴム質重合体を構成成分としたASA樹脂が提案されている(特許文献6~8)。
【0023】
ASA樹脂が有する欠点を補完するために、エチレン-プロピレン系ゴム成分を用いたAES樹脂とASA樹脂とを併用した熱可塑性樹脂組成物が提案されている(特許文献9)。
【0024】
上述した熱可塑性樹脂組成物は、耐衝撃性、耐候性、発色性、成形外観のいずれかが不充分であり、近年の厳しいニーズに充分応え得るものではない。
【0025】
耐衝撃性の改善のためにシード重合による均一粒径のゴムを用いたグラフト共重合体が提案されているが、200nm以上のゴム粒子の作製は困難であり、衝撃性改善効果も十分ではない(特許文献10)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0026】
【文献】特開平1-190746号公報
【文献】特開2002-80684号公報
【文献】特開2011-178831号公報
【文献】特開2005-132970号公報
【文献】特開2012-144714号公報
【文献】特開昭59-232138号公報
【文献】特開平04-225051号公報
【文献】特開平08-134312号公報
【文献】特開2004-346187号公報
【文献】特開2000-344841号公報
【発明の概要】
【0027】
第1発明は、耐衝撃性付与効果に優れたグラフト共重合体であって、耐候性、発色性に優れた熱可塑性樹脂組成物を提供し得るグラフト共重合体及びその製造方法と、このグラフト共重合体を含む熱可塑性樹脂組成物及びその成形品を提供することを目的とする。
【0028】
第1発明の発明者は、グラフト共重合体に用いるポリオルガノシロキサン-ポリアクリル酸エステル複合ゴムを特定の手法で製造することにより、上記課題を解決することができることを見出した。
【0029】
第1発明は以下を要旨とする。
【0030】
[1] ポリオルガノシロキサン(Aa)とアクリル酸エステル(Ab)とを含む混合物(Ac)を、水溶媒中でミニエマルションを形成させた後、重合してなる複合ゴム状重合体(A)に、(メタ)アクリル酸エステル、芳香族ビニル、シアン化ビニル、N-置換マレイミド、及びマレイン酸から選ばれる1種又は2種以上の単量体(B)をグラフト重合してなるグラフト共重合体(C)。
【0031】
[2] ポリオルガノシロキサン(Aa)の屈折率が1.470~1.600である[1]に記載のグラフト共重合体(C)
【0032】
[3] 複合ゴム状重合体(A)の平均粒子径が10~2000nmである[1]又は[2]に記載のグラフト共重合体(C)。
【0033】
[4] ポリオルガノシロキサン(Aa)とアクリル酸エステル(Ab)を含む混合物(Ac)を、水溶媒中で、疎水性の安定化剤及び乳化剤の存在下にミニエマルション化する工程と、得られたミニエマルションを重合する工程とを含むことを特徴とする[1]ないし[3]のいずれかに記載のグラフト共重合体(C)の製造方法。
【0034】
[5] [1]ないし[3]のいずれかに記載のグラフト共重合体(C)と熱可塑性樹脂(D)とを含む熱可塑性樹脂組成物。
【0035】
[6] グラフト共重合体(C)中の複合ゴム状重合体(A)と熱可塑性樹脂(D)との屈折率差が0.02以下である[5]に記載の熱可塑性樹脂組成物。
【0036】
[7] [5]又は[6]に記載の熱可塑性樹脂組成物を成形してなる成形品。
【0037】
第2発明は、熱可塑性樹脂の改質剤として、樹脂の発色性、成形収縮率を損なうことなく、流動性、耐衝撃性、耐擦り傷性を向上させることができる架橋粒子及びグラフト架橋粒子と、この架橋粒子及び/又はグラフト架橋粒子を含む熱可塑性樹脂組成物及びその成形品を提供することを目的とする。
【0038】
第2発明の発明者は、特定の分子量のジ(メタ)アクリル酸エステルを架橋剤として重合して得られる架橋粒子、更にはこの架橋粒子に単量体をグラフト重合してなるグラフト架橋粒子により、上記課題を解決することができることを見出した。
【0039】
第2発明は以下を要旨とする。
【0040】
[8] 下記式(1)で表される数平均分子量(Mn)が800~9,000のジ(メタ)アクリル酸エステル(a)を含む単量体混合物(i-I)を重合して得られた架橋粒子(A-I)。
【化1】
上記式(1)中、Xは、ポリアルキレングリコール、ポリエステルジオール及びポリカーボネートジオールから選ばれる少なくとも1種のジオールで構成される2価の残基を示す。R1a,R1bは、各々独立に、H又はCHを示す。
【0041】
[9] [8]において、前記Xがポリテトラメチレングリコール残基である架橋粒子(A-I)。
【0042】
[10] [8]又は[9]において、前記単量体混合物(i-I)中のジ(メタ)アクリル酸エステル(a)の含有量が0.1~90質量%である架橋粒子(A-I)。
【0043】
[11] [8]ないし[10]のいずれかにおいて、前記単量体混合物(i-I)がジ(メタ)アクリル酸エステル(a)と芳香族ビニル(b)とシアン化ビニル(c)を含み、芳香族ビニル(b)とシアン化ビニル(c)との合計100質量%に占める芳香族ビニル(b)の割合が60~90質量%である架橋粒子(A-I)。
【0044】
[12] [8]ないし[11]のいずれかにおいて、平均粒子径が0.07~5.0μmである架橋粒子(A-I)。
【0045】
[13] ジ(メタ)アクリル酸エステル(a)を含む単量体混合物(i-I)を、水溶媒中で、疎水性の安定化剤及び乳化剤の存在下にミニエマルション化する工程と、得られたミニエマルションを重合する工程とを含むことを特徴とする[8]ないし[12]のいずれかに記載の架橋粒子(A-I)の製造方法。
【0046】
[14] [8]ないし[12]のいずれかに記載の架橋粒子(A-I)に単量体をグラフト重合してなるグラフト架橋粒子(B-I)。
【0047】
[15] [14]において、架橋粒子(A-I)40~90質量%に単量体10~60質量%をグラフト重合してなり(ただし、架橋粒子(A-I)と単量体との合計で100質量%)、該単量体は少なくとも芳香族ビニルとシアン化ビニルを含み、芳香族ビニルとシアン化ビニルの合計100質量%に占める芳香族ビニルの割合が60~99質量%であるグラフト架橋粒子(B-I)。
【0048】
[16] [14]又は[15]において、グラフト率が23~100%であるグラフト架橋粒子(B-I)。
【0049】
[17] [8]ないし[12]のいずれかに記載の架橋粒子(A-I)及び/又は[14]ないし[16]のいずれかに記載のグラフト架橋粒子(B-I)と、熱可塑性樹脂(D-I)とを含む熱可塑性樹脂組成物。
【0050】
[18] [17]に記載の熱可塑性樹脂組成物を成形してなる成形品。
【0051】
第3発明は、熱可塑性樹脂の改質剤として、樹脂の発色性、耐候性を損なうことなく、流動性、耐衝撃性、耐擦り傷性を向上させることができる架橋粒子及びグラフト架橋粒子と、この架橋粒子及び/又はグラフト架橋粒子を含む熱可塑性樹脂組成物及びその成形品を提供することを目的とする。
【0052】
第3発明の発明者は、特定の分子量のジ(メタ)アクリル酸エステルを架橋剤として重合して得られる架橋粒子、更にはこの架橋粒子に単量体をグラフト重合してなるグラフト架橋粒子により、上記課題を解決することができることを見出した。
【0053】
第3発明は以下を要旨とする。
【0054】
[19] 下記式(1)で表される数平均分子量が800~9,000のジ(メタ)アクリル酸エステル(a)と、モノ(メタ)アクリル酸成分(d)とを含む単量体混合物(i-II)であって、単量体混合物(i-II)100質量%中のジ(メタ)アクリル酸エステル(a)の含有量が20~80質量%である単量体混合物(i-II)を重合して得られた、体積平均粒子径が0.07~2.0μmである架橋粒子(A-II)。
【化2】
上記式(1)中、Xは、ポリアルキレングリコール、ポリエステルジオール及びポリカーボネートジオールから選ばれる少なくとも1種のジオールで構成される2価の残基を示し、R1a,R1bは、各々独立に、H又はCHを示す。
【0055】
[20] [19]において、前記単量体混合物(i-II)がその他のビニル化合物(e)として少なくともスチレンを含む架橋粒子(A-II)。
【0056】
[21] [19]又は[20]において、前記Xがポリテトラメチレングリコール残基である架橋粒子(A-II)。
【0057】
[22] [19]ないし[21]のいずれかにおいて、前記単量体混合物(i-II)中のモノ(メタ)アクリル酸エステル(d)の含有量が1~80質量%である架橋粒子(A-II)。
【0058】
[23] 前記ジ(メタ)アクリル酸エステル(a)とモノ(メタ)アクリル酸成分(d)を含む単量体混合物(i-II)を、水溶媒中で、疎水性の安定化剤及び乳化剤の存在下にミニエマルション化する工程と、得られたミニエマルションを重合する工程とを含むことを特徴とする[19]ないし[22]のいずれかに記載の架橋粒子(A-II)の製造方法。
【0059】
[24] [19]ないし[22]のいずれかに記載の架橋粒子(A-II)に、(メタ)アクリル酸エステル、芳香族ビニル、シアン化ビニル、マレイミド、及び無水マレイン酸から選ばれる1種以上の単量体をグラフト重合してなるグラフト架橋粒子(B-II)。
【0060】
[25] [24]において、架橋粒子(A-II)40~90質量%に単量体10~60質量%をグラフト重合してなり(ただし、架橋粒子(A-II)と単量体との合計で100質量%)、該単量体は少なくともメタクリル酸メチルとアクリル酸メチルを含み、メタクリル酸メチルとアクリル酸メチルの合計100質量%に占めるメタクリル酸メチルの割合が90~99.9質量%であるグラフト架橋粒子(B-II)。
【0061】
[26] [24]又は[25]において、グラフト率が23~100%であるグラフト架橋粒子(B-II)。
【0062】
[27] [19]ないし[22]のいずれかに記載の架橋粒子(A-II)及び/又は[23]ないし[26]のいずれかに記載のグラフト架橋粒子(B-II)と、熱可塑性樹脂(D-II)とを含む熱可塑性樹脂組成物。
【0063】
[28] [27]に記載の熱可塑性樹脂組成物を成形してなる成形品。
【0064】
第4発明は、耐衝撃性、発色性および成形外観に優れる熱可塑性樹脂成形品を提供し得るゴム質重合体およびグラフト共重合体並びにその製造方法とこのグラフト共重合体を用いた熱可塑性樹脂組成物およびその成形品を提供することを目的とする。
【0065】
第4発明の発明者は、アルキル(メタ)アクリレート、疎水性物質、および乳化剤を含む混合物のミニエマルション重合により得られたゴム質重合体を用いたグラフト共重合体により、上記目的を達成できることを見出した。
【0066】
第4発明は、以下を要旨とする。
【0067】
[29] アルキル(メタ)アクリレートのミニエマルション重合反応生成物であるゴム質重合体(A-III)。
【0068】
[30] [29]において、アルキル(メタ)アクリレート、疎水性物質および乳化剤を含む混合物(i-III)のミニエマルション重合反応生成物であるゴム質重合体(A-III)。
【0069】
[31] [30]において、前記混合物(i-III)が更に架橋剤を含むゴム質重合体(A-III)。
【0070】
[32] [29]ないし[31]のいずれかにおいて、平均粒子径(X)をXで表し、粒子径分布曲線における上限からの頻度の累積値が10%になったところの粒子径を頻度上限10%粒子径(Y)としてYで表し、粒子径分布曲線における下限からの頻度の累積値が10%になったところの粒子径を頻度下限10%粒子径(Z)としてZで表したとき、平均粒子径(X)、頻度上限10%粒子径(Y)及び頻度下限10%粒子径(Z)が、以下の(2)又は(3)を満たすゴム質重合体(A-III)。
(2)平均粒子径(X)がX≦300nmであり、頻度上限10%粒子径(Y)がY≦1.6X、頻度下限10%粒子径(Z)がZ≧0.7Xである。
(3)平均粒子径(X)がX=300~800nmであり、頻度上限10%粒子径(Y)がY≦1.7X、頻度下限10%粒子径(Z)がZ≧0.6Xである。
【0071】
[33] [29]ないし[32]のいずれかに記載のゴム質重合体(A-III)に、芳香族ビニル化合物、(メタ)アクリル酸エステルおよびシアン化ビニル化合物から選ばれる少なくとも1種の単量体がグラフト重合されたグラフト共重合体(B-III)。
【0072】
[34] アルキル(メタ)アクリレート、疎水性物質、および乳化剤を含む混合物(i-III)をミニエマルション化する工程と、得られたミニエマルションを重合する工程とを含む[29]ないし[32]のいずれかに記載のゴム質重合体(A-III)の製造方法。
【0073】
[35] アルキル(メタ)アクリレート、疎水性物質、および乳化剤を含む混合物(i-III)をミニエマルション化する工程と、得られたミニエマルションを重合する工程と、得られたゴム質重合体(A-III)に、芳香族ビニル化合物、(メタ)アクリル酸エステルおよびシアン化ビニル化合物から選ばれる少なくとも1種の単量体をグラフト重合する工程とを含む[33]に記載のグラフト共重合体(B-III)の製造方法。
【0074】
[36] [33]に記載のグラフト共重合体(B-III)を含有することを特徴とする熱可塑性樹脂組成物。
【0075】
[37] [36]に記載の熱可塑性樹脂組成物を成形してなる成形品。
【発明の効果】
【0076】
第1発明のグラフト共重合体を熱可塑性樹脂に配合することにより、耐衝撃性に優れると共に、耐候性、発色性に優れた熱可塑性樹脂組成物及びその成形品を実現することができる。
【0077】
第2発明の架橋粒子及びグラフト架橋粒子によれば、熱可塑性樹脂の発色性、成形収縮率を損なうことなく、流動性、耐衝撃性、耐擦り傷性を改善することができ、流動性、発色性、寸法安定性、形状精度、耐衝撃性、耐擦り傷性に優れた熱可塑性樹脂組成物及びその成形品を提供することができる。
【0078】
第3発明の架橋粒子及びグラフト架橋粒子によれば、熱可塑性樹脂の発色性、耐候性を損なうことなく、流動性、耐衝撃性、耐擦り傷性を改善することができ、流動性、発色性、耐候性、耐衝撃性、耐擦り傷性のすべてに優れた熱可塑性樹脂組成物及びその成形品を提供することができる。
【0079】
第4発明のゴム質重合体およびグラフト共重合体によれば、耐衝撃性、成形外観および発色性に優れた熱可塑性樹脂組成物および成形品を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0080】
図1】実施例における耐擦り傷性の評価方法の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0081】
以下、第1発明の実施の形態を詳細に説明する。
本明細書において、「(メタ)アクリル」は「アクリル」と「メタクリル」の一方又は双方を意味する。「(メタ)アクリレート」についても同様である。
「成形品」とは、熱可塑性樹脂組成物を成形してなるものを意味する。
【0082】
〔第1発明の実施の形態〕
[グラフト共重合体(C)]
第1発明のグラフト共重合体(C)は、ポリオルガノシロキサン(Aa)とアクリル酸エステル(Ab)とを含む混合物(Ac)を、水溶媒中でミニエマルションを形成させた後、ミニエマルション中のポリオルガノシロキサン(Aa)とアクリル酸エステル(Ab)を重合してなる複合ゴム状重合体(A)(以下、「第1発明の複合ゴム状重合体(A)」と称す場合がある。)に、(メタ)アクリル酸エステル、芳香族ビニル、シアン化ビニル、N-置換マレイミド、及びマレイン酸から選ばれる1種又は2種以上の単量体(B)をグラフト重合してなるものである。
【0083】
ポリオルガノシロキサン(Aa)とアクリル酸エステル(Ab)の混合物(Ac)をミニエマルションとした後に重合することで、得られる複合ゴム状重合体(A)粒子の組成が粒子ごとで均一となりやすい。この複合ゴム状重合体(A)を用いて製造されたグラフト共重合体(C)を配合して得られる熱可塑性樹脂組成物の発色性が向上する。
【0084】
一般的な水溶媒および乳化剤存在下で混合物(Ac)とラジカル開始剤を添加して重合する乳化重合や、特許文献1に記載されるようなポリオルガノシロキサンのエマルション存在下でアクリル酸エステルを添加して重合するシード重合では、複合ゴム状重合体粒子の組成が均一となりにくく、場合によってはポリオルガノシロキサン単独、ポリアクリル酸エステル単体の粒子が生じる。このような複合ゴム状重合体を用いたグラフト共重合体では得られる熱可塑性樹脂組成物の発色性が悪化する。
【0085】
第1発明は、複合ゴム状重合体(A)を、ポリオルガノシロキサン(Aa)とアクリル酸エステル(Ab)の混合物(Ac)のミニエマルション化工程と、その後の重合工程の2工程を経るミニエマルション重合法により製造することを特徴とする。
【0086】
<複合ゴム状重合体(A)>
第1発明の複合ゴム状重合体(A)は、ポリオルガノシロキサン(Aa)とアクリル酸エステル(Ab)を含む混合物(Ac)を、水溶媒中でミニエマルションを形成させた後に、重合して得られたものである。
【0087】
≪ポリオルガノシロキサン(Aa)≫
第1発明におけるポリオルガノシロキサン(Aa)は、ケイ素原子-酸素原子結合であるシロキサン単位を主鎖とする高分子であり、ケイ素原子上に2つの有機基(水素原子を含む)を有するものである。
【0088】
ポリオルガノシロキサン(Aa)のケイ素原子上の有機基としては、これらに限定されるものではないが、水素原子、アルキル基、アリール基、ビニル基、アミノ基、エポキシ基、脂環式エポキシ基、メルカプト基、カルボキシル基等が挙げられる。有機基としては、中でも炭素数1~6のアルキル基、ビニル基、アリール基が好ましい。ポリオルガノシロキサン(Aa)は、これらの有機基の1種のみを有していてもよく2種以上を有していてもよい。
【0089】
ポリオルガノシロキサン(Aa)の粘度は、アクリル酸エステル(Ab)と混合して混合物(Ac)を得ることができればよく、特に限定されない。ポリオルガノシロキサン(Aa)の粘度は、10~10000mm/s、好ましくは100~5000mm/sであるオイル状のものであると、複合ゴム状重合体(A)の製造安定性が優れる傾向にある。ポリオルガノシロキサン(Aa)の粘度は、25℃において、動粘度計により測定された値である。
【0090】
ポリオルガノシロキサン(Aa)の屈折率は特に限定されないが、以下の理由より、1.470~1.600の範囲であることが好ましい。第1発明のグラフト共重合体(C)を熱可塑性樹脂(D)に配合して熱可塑性樹脂組成物とした場合、熱可塑性樹脂(D)の屈折率とグラフト共重合体(C)中の複合ゴム状重合体(A)の屈折率が近似していると、得られる熱可塑性樹脂組成物の発色性が良好となる。第1発明の熱可塑性樹脂組成物に用いる後述の熱可塑性樹脂(D)の屈折率は、1.470~1.600の範囲であるものが多い。従って、ポリオルガノシロキサン(Aa)の屈折率は1.470~1.600の範囲であることが好ましい。複合ゴム状重合体(A)の製造条件等によっても異なるが、ポリオルガノシロキサン(Aa)の屈折率が1.470~1.600の範囲であれば、屈折率が1.460~1.590程度で熱可塑性樹脂(D)の屈折率に近い複合ゴム状重合体(A)を製造することができる。
【0091】
第1発明の複合ゴム状重合体(A)と熱可塑性樹脂(D)との屈折率の差が0.02以下であり、熱可塑性樹脂(D)が透明性を有すると、得られる熱可塑性樹脂組成物の発色性が特に良好となるだけでなく、着色剤の配合等で着色を付与しなければ熱可塑性樹脂組成物の透明性も高くなる傾向にある。複合ゴム状重合体(A)と熱可塑性樹脂(D)との屈折率の差を0.02以下としやすい点からも、ポリオルガノシロキサン(Aa)の屈折率は1.470~1.600であることが好ましい。
【0092】
ポリオルガノシロキサン(Aa)が、有機基として1つ以上のアリール基を有すると、ポリオルガノシロキサン(Aa)の屈折率が1.470~1.600の範囲となり易い傾向にある。
【0093】
アリール基としては、例えば、フェニル基、ナフチル基、アルキル核置換フェニル基、アルキル核置換ナフチル基、ハロゲン核置換フェニル基、ハロゲン核置換ナフチル基等が挙げられ、好ましくは、フェニル基、核置換フェニル基である。アルキル核置換フェニル基、アルキル核置換ナフチル基のアルキル基としては、炭素数1~12のアルキル基が挙げられる。
【0094】
アリール基を有したポリオルガノシロキサン(Aa)としては、例えば、信越化学(株)製「KF-53」、「KF-54」、「X-21-3265」、「KF-54SS」、「KF-56」、「HIVAC-F-4」、「HIVAC-F-5」等、工業的に入手可能である。
【0095】
ポリオルガノシロキサン(Aa)の屈折率は、後述の実施例の項に記載される複合ゴム状重合体(A)の屈折率と同様にして測定することができる。市販品についてはカタログ値を採用することができる。
【0096】
ポリオルガノシロキサン(Aa)は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
【0097】
≪アクリル酸エステル(Ab)≫
第1発明におけるアクリル酸エステル(Ab)はアルキル基の炭素数が1~12であるアクリル酸アルキルエステル;フェニル基、ベンジル基等の芳香族炭化水素基を有するアクリル酸アリールエステル等が挙げられる。アクリル酸アルキルエステル、アクリル酸アリールエステルのアルキル基やアリール基は、ヒドロキシル基等の置換基で置換されていてもよい。
【0098】
アクリル酸エステル(Ab)としては、具体的には、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸n-プロピル、アクリル酸i-プロピル、アクリル酸n-ブチル、アクリル酸i-ブチル、アクリル酸t-ブチル、アクリル酸アミル、アクリル酸イソアミル、アクリル酸オクチル、アクリル酸-2-エチルヘキシル、アクリル酸デシル、アクリル酸ラウリル、アクリル酸ステアリル、アクリル酸ラウリル、アクリル酸ステアリル、アクリル酸シクロヘキシル、アクリル酸ペンチル、アクリル酸フェニル、アクリル酸ベンジル、アクリル酸2-ヒドロキシエチル、アクリル酸2-ヒドロキシプロピル等が挙げられる。これらの中でも、アクリル酸n-ブチル、アクリル酸2-エチルヘキシル、アクリル酸エチルが好ましい。
【0099】
アクリル酸エステル(Aa)は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
【0100】
第1発明の複合ゴム状重合体(A)を製造する際のアクリル酸エステル(Ab)の使用量は、ポリオルガノシロキサン(Aa)とアクリル酸エステル(Ab)との合計100質量%に対して、10~99質量%、特に20~95質量%とすることが好ましい。アクリル酸エステル(Ab)の使用量が上記範囲内にあると、第1発明のグラフト共重合体(C)を配合して得られる熱可塑性樹脂組成物の発色性、耐衝撃性が良好となる。
【0101】
<多官能化合物>
第1発明の複合ゴム状重合体(A)の製造に用いるポリオルガノシロキサン(Aa)とアクリル酸エステル(Ab)を含む混合物(Ac)には、必要に応じて多官能化合物を添加してもよい。多官能化合物を添加することで、第1発明のグラフト共重合体(C)を配合して得られる熱可塑性樹脂組成物の発色性、耐衝撃性が良好となる。
【0102】
多官能化合物としては、分子内に炭素原子-炭素原子二重結合を2つ以上有するものであり、特に限定はされない。多官能化合物としては、例えば、ジビニルベンゼン、(メタ)アクリル酸アリル、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、プロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、1,3-ブチレンジ(メタ)アクリレート、1,4-ブチレングリコールジ(メタ)アクリレート、テトラエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、テトラデカエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリアリルシアヌレート、トリアリルイソシアヌレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート等が挙げられる。
【0103】
多官能化合物は、1種のみを用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0104】
多官能化合物は、ポリオルガノシロキサン(Aa)とアクリル酸エステル(Ab)を含む混合物(Ac)において、アクリル酸エステル(Ab)の一部を代替する形で用いることができる。多官能化合物の使用量は、第1発明のグラフト共重合体(C)を配合して得られる熱可塑性樹脂組成物の耐衝撃性が良好となることから、アクリル酸エステル(Ab)(100質量%)のうちの0.1~5質量%、特に0.2~3質量%、とりわけ0.5~2質量%を代替する形で配合することが好ましい。
【0105】
≪複合ゴム状重合体(A)の製造方法≫
第1発明の複合ゴム状重合体(A)は、ポリオルガノシロキサン(Aa)、アクリル酸エステル(Ab)、必要に応じて多官能化合物を混合した混合物(Ac)を、水溶媒中で、乳化剤の存在下、好ましくは乳化剤と疎水性の安定化剤の存在下にせん断を加えてミニエマルションを形成させた後、ラジカル開始剤の存在下に共重合する、所謂ミニエマルション重合法により得られる。ラジカル開始剤の添加はミニエマルションを形成させる前後のいずれでもよい。添加方法は、一括、分割、連続のいずれでもよい。
【0106】
ミニエマルション化の際の水溶媒の使用量は、作業性、安定性、製造性等の観点から、混合物(Ac)100質量部に対して100~500質量部程度とすることが好ましい。
【0107】
ミニエマルションを形成させる際にせん断を加える方法は公知の任意の方法が用いることができ、一括、分割、連続式、循環式のいずれでもよい。一般に、粒径10~2000nm程度の小滴を形成させる高せん断装置を用いることでミニエマルションを形成することができる。
【0108】
ミニエマルションを形成する高せん断装置としては、これらに限定されるものではないが、例えば、高圧ポンプおよび相互作用チャンバーからなる乳化装置、超音波エネルギーや高周波によりミニエマルションを形成させる装置等も用いることができる。高圧ポンプおよび相互作用チャンバーからなる乳化装置としては、例えば、(株)パウレック製「マイクロフルイダイザー」等が挙げられる。超音波エネルギーや高周波によりミニエマルションを形成させる装置としては、例えば、Fisher Scient製「ソニックディスメンブレーター」や、(株)日本精機製作所製「ULTRASONIC HOMOGENIZER」等が挙げられる。
【0109】
乳化剤としては、アニオン性界面活性剤、ノニオン性界面活性剤、両性界面活性剤等が挙げられる。乳化剤としては、高級アルコールの硫酸エステル、アルキルベンゼンスルホン酸塩、脂肪酸スルホン酸塩、リン酸塩系(例えば、モノグリセリドリン酸アンモニウム)、脂肪酸塩(例えば、アルケニルコハク酸ジカリウム)、アミノ酸誘導体塩等のアニオン性界面活性剤;通常のポリエチレングリコールのアルキルエステル型、アルキルエーテル型、アルキルフェニルエーテル型等のノニオン性界面活性剤;アニオン部にカルボン酸塩、硫酸エステル塩、スルホン酸塩、リン酸エステル塩等を有し、カチオン部にアミン塩、第4級アンモニウム塩等を有する両性界面活性剤;が挙げられる。乳化剤は、1種のみを用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0110】
乳化剤の添加量は、通常、混合物(Ac)100質量部に対して10質量部以下、例えば0.01~10質量部が好ましい。
【0111】
ミニエマルションを形成させる際に、疎水性の安定剤を添加するとミニエマルションの製造安定性がより向上する傾向にある。疎水性の安定剤としては、重合不可能な疎水性化合物、例えば炭素数10~30の炭化水素類、炭素数10~30のアルコール、質量平均分子量(Mw)10000未満の疎水性ポリマー、テトラアルキルシラン、疎水性モノマー、例えば、炭素数10~30のアルコールのビニルエステル、炭素数10~30のカルボン酸ビニルエステル、炭素数8~30の(メタ)アクリル酸エステル、p-アルキルスチレン、疎水性の連鎖移動剤、疎水性の過酸化物等が挙げられる。疎水性の安定剤は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
【0112】
疎水性の安定化剤としては、具体的には、デカン、ウンデカン、ドデカン、トリデカン、テトラデカン、ペンタデカン、ヘキサデカン、オリーブ油、質量平均分子量(Mw)500~5000のポリスチレン、質量平均分子量(Mw)500~5000のシロキサン、セチルアルコール、ステアリルアルコール、パルミチルアルコール、ベヘニルアルコール、p-メチルスチレン、アクリル酸-2-エチルヘキシル、アクリル酸デシル、アクリル酸ステアリル、メタクリル酸ラウリル、メタクリル酸ステアリル、ラウリルメルカプタン(ノルマルドデシルメルカプタン)、疎水性の過酸化物として過酸化ラウロイル等が挙げられる。
【0113】
疎水性の安定剤を用いる場合、その使用量は、混合物(Ac)100質量部に対し、0.05~5質量部が好ましい。疎水性の安定剤の添加量が上記下限以上であると、複合ゴム状重合体(A)の製造安定性をより向上させることができる。疎水性の安定剤の添加量が上記上限以下であると、第1発明のグラフト共重合体(C)を配合して得られる熱可塑性樹脂組成物の発色性、耐衝撃性を良好にすることができる傾向にある。
【0114】
ミニエマルション化工程後の重合工程で使用されるラジカル開始剤としては公知のものが使用できる。ラジカル開始剤としては、アゾ重合開始剤、光重合開始剤、無機過酸化物、有機過酸化物、有機過酸化物と遷移金属と還元剤とを組み合わせたレドックス系開始剤等が挙げられる。これらのうち、加熱により重合を開始できるアゾ重合開始剤、無機過酸化物、有機過酸化物、レドックス系開始剤が好ましい。ラジカル開始剤は1種のみを用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0115】
アゾ重合開始剤としては、例えば、2,2’-アゾビス(4-メトキシ-2,4-ジメチルバレロニトリル)、2,2’-アゾビス(2,4-ジメチルバレロニトリル)、2,2’-アゾビスイソブチロニトリル、2,2’-アゾビス(2-メチルブチロニトリル)、1,1’-アゾビス(シクロヘキサン-1-カルボニトリル)、1-[(1-シアノ-1-メチルエチル)アゾ]フォルムアミド、4,4’-アゾビス(4-シアノバレリックアシッド)、ジメチル2,2’-アゾビス(2-メチルプロピオネート)、ジメチル1,1’-アゾビス(1-シクヘキサンカルボキシレート)、2,2’-アゾビス[2-メチル-N-(2-ヒドロキシエチル)プロピオンアミド]、2,2’-アゾビス(N-ブチル-2-メチルプロピオンアミド)、2,2’-アゾビス(N-シクロヘキシル-2-メチルプロピオンアミド)、2,2’-アゾビス[2-(2-イミダゾリン-2-イル)プロパン]、2,2’-アゾビス(2,4,4-トリメチルペンタン)等が挙げられる。
【0116】
無機過酸化物としては、例えば、過硫酸カリウム、過硫酸ナトリウム、過硫酸アンモニウム、過酸化水素等が挙げられる。
【0117】
有機過酸化物としては、例えばペルオキシエステル化合物が挙げられる。その具体例としては、α,α’-ビス(ネオデカノイルペルオキシ)ジイソプロピルベンゼン、クミルペルオキシネオデカノエート、1,1,3,3-テトラメチルブチルペルオキシネオデカノエート、1-シクロヘキシル-1-メチルエチルペルオキシネオデカノエート、t-ヘキシルペルオキシネオデカノエート、t-ブチルペルオキシネオデカノエート、t-ヘキシルペルオキシピバレート、t-ブチルペルオキシピバレート、1,1,3,3-テトラメチルブチルペルオキシ-2-エチルヘキサノエート、2,5-ジメチル-2,5-ビス(2-エチルヘキサノイルペルオキシ)ヘキサン、1-シクロヘキシル-1-メチルエチルペルオキシ-2-エチルヘキサノエート、t-ヘキシルペルオキシ2-ヘキシルヘキサノエート、t-ブチルペルオキシ2-ヘキシルヘキサノエート、t-ブチルペルオキシイソブチレート、t-ヘキシルペルオキシイソプロピルモノカーボネート、t-ブチルペルオキシマレイックアシッド、t-ブチルペルオキシ3,5,5-トリメチルヘキサノエート、t-ブチルペルオキシラウレート、2,5-ジメチル-2,5-ビス(m-トルオイルペルオキシ)ヘキサン、t-ブチルペルオキシイソプロピルモノカーボネート、t-ブチルペルオキシ2-エチルヘキシルモノカーボネート、t-ヘキシルペルオキシベンゾエート、2,5-ジメチル-2,5-ビス(ベンゾイルペルオキシ)ヘキサン、t-ブチルペルオキシアセテート、t-ブチルペルオキシ-m-トルオイルベンゾエート、t-ブチルペルオキシベンゾエート、ビス(t-ブチルペルオキシ)イソフタレート、1,1-ビス(t-ヘキシルペルオキシ)3,3,5-トリメチルシクロヘキサン、1,1-ビス(t-ヘキシルペルオキシ)シクロヘキサン、1,1-ビス(t-ブチルペルオキシ)3,3,5-トリメチルシクロヘキサン、1,1-ビス(t-ブチルペルオキシ)シクロヘキサン、1,1-ビス(t-ブチルペルオキシ)シクロドデカン、2,2-ビス(t-ブチルペルオキシ)ブタン、n-ブチル4,4-ビス(t-ブチルペルオキシ)バレレート、2,2-ビス(4,4-ジ-t-ブチルペルオキシシクロヘキシル)プロパン、α,α’-ビス(t-ブチルペルオキシド)ジイソプロピルベンゼン、ジクミルペルオキシド、2,5-ジメチル-2,5-ビス(t-ブチルペルオキシ)ヘキサン、t-ブチルクミルペルオキシド、ジ-t-ブチルペルオキシド、クメンヒドロペルオキシド、ジイソプロピルベンゼンヒドロペルオキシド、t-ブチルヒドロペルオキシド、ベンゾイルパーオキサイド、ラウロイルパーオキサイド、ジメチルビス(t-ブチルパーオキシ)ヘキシン-3、ビス(t-ブチルパーオキシイソプロピル)ベンゼン、ビス(t-ブチルパーオキシ)トリメチルシクロヘキサン、ブチル-ビス(t-ブチルパーオキシ)バレラート、2-エチルヘキサンペルオキシ酸t-ブチル、ジベンゾイルパーオキサイド、パラメンタンハイドロパーオキサイド、t-ブチルパーオキシベンゾエート等が挙げられる。
【0118】
レドックス系開始剤としては、有機過酸化物と硫酸第一鉄、キレート剤及び還元剤を組み合わせたものが好ましい。例えば、クメンヒドロペルオキシド、硫酸第一鉄、ピロリン酸ナトリウム、及びデキストロースからなるものや、t-ブチルヒドロペルオキシド、ナトリウムホルムアルデヒトスルホキシレート(ロンガリット)、硫酸第一鉄、及びエチレンジアミン四酢酸二ナトリウムを組み合わせたもの等が挙げられる。
【0119】
ラジカル開始剤の添加量は、アクリル酸エステル(Ab)(多官能化合物を用いた場合は、アクリル酸エステル(Ab)と多官能化合物との合計)100質量部に対して通常5質量部以下、好ましくは3質量部以下、例えば0.001~3質量部である。前述の通り、ラジカル開始剤の添加はミニエマルションを形成させる前後のいずれでもよく、添加方法は、一括、分割、連続のいずれでもよい。
【0120】
複合ゴム状重合体(A)の製造時に、必要に応じて連鎖移動剤を添加しても良い。連鎖移動剤としては、メルカプタン類(オクチルメルカプタン、n-またはt-ドデシルメルカプタン、n-ヘキサデシルメルカプタン、n-またはt-テトラデシルメルカプタン等)、アリル化合物(アリルスルフォン酸、メタアリルスルフォン酸、これらのナトリウム塩等)、α-メチルスチレンダイマー等が挙げられる。連鎖移動剤は1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。連鎖移動剤としては、分子量を調整することが容易な点から、メルカプタン類が好ましい。
【0121】
連鎖移動剤を用いる場合、その添加方法は、一括、分割、連続のいずれでもよい。連鎖移動剤の添加量は、アクリル酸エステル(Ab)(多官能化合物を用いた場合は、アクリル酸エステル(Ab)と多官能化合物との合計)100質量部に対して通常2.0質量部以下、例えば0.01~2.0質量部が好ましい。
【0122】
ミニエマルション化工程後の重合工程は、通常、ミニエマルション化工程に引き続いて、40~95℃で0.5~8時間程度実施される。
【0123】
上述のミニエマルション化工程と、その後の重合工程を経て製造される第1発明の複合ゴム状重合体(A)の粒子径は、平均粒子径で、好ましくは10~2000nm、より好ましくは60~1000nm、特に好ましくは80~600nmである。複合ゴム状重合体(A)の粒子径が上記範囲内であると、第1発明のグラフト共重合体(C)を配合して得られる熱可塑性樹脂組成物の耐衝撃性が良好となる傾向にある。
【0124】
複合ゴム状重合体(A)の粒子径を制御する方法としては、特に制限されないが、乳化剤の種類または使用量、ミニエマルション製造時のせん断力を調整する方法等が挙げられる。
【0125】
複合ゴム状重合体(A)の平均粒子径は、具体的には、後述の実施例の項に記載される方法で測定される。
【0126】
<単量体(B)>
第1発明のグラフト共重合体(C)は、上記のようにして製造された複合ゴム状重合体(A)に対し、単量体(B)をグラフト重合したものである。
【0127】
単量体(B)は、(メタ)アクリル酸エステル、芳香族ビニル、シアン化ビニル、N-置換マレイミド、及びマレイン酸から選ばれる1種または2種以上である。単量体(B)は、後述の熱可塑性樹脂(D)との相溶性や目的に応じて選択することができる。例えば、芳香族ビニルを用いれば成形性が良好となる傾向がある。シアン化ビニルを用いれば耐薬品性、耐衝撃性、極性を有する熱可塑性樹脂(D)との相溶性を向上させることができる。メタクリル酸エステルを用いれば得られる成形品の表面硬度や表面外観を向上させることができる。N-置換マレイミドを用いれば耐熱性を向上させることができる。
【0128】
(メタ)アクリル酸エステルとしては、例えば、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸n-プロピル、(メタ)アクリル酸i-プロピル、(メタ)アクリル酸n-ブチル、(メタ)アクリル酸i-ブチル、(メタ)アクリル酸t-ブチル、(メタ)アクリル酸アミル、(メタ)アクリル酸イソアミル、(メタ)アクリル酸オクチル、(メタ)アクリル酸-2-エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸デシル、(メタ)アクリル酸ラウリル、(メタ)アクリル酸シクロヘキシル、(メタ)アクリル酸ベンジル、(メタ)アクリル酸フェニル等が挙げられる。
【0129】
芳香族ビニルとしては、例えば、スチレン、α-メチルスチレン、o-,m-もしくはp-メチルスチレン、ビニルキシレン、p-t-ブチルスチレン、エチルスチレン等が挙げられる。
【0130】
シアン化ビニルとしては、例えば、アクリロニトリル、メタクリロニトリル等が挙げられる。
【0131】
N-置換マレイミドとしては、例えば、N-シクロヘキシルマレイミド、N-フェニルマレイミド等が挙げられる。
【0132】
マレイン酸としてはマレイン酸、無水マレイン酸等が挙げられる。
【0133】
単量体(B)として、メタクリル酸エステルとアクリル酸エステルを併用すると、メタクリル酸エステルのみの場合に比べて熱安定性の点において好ましい結果が得られる。この場合、メタクリル酸エステルを70~99.5質量%、アクリル酸エステルを0.5~30質量%用いることが好ましい(ただし、メタクリル酸エステルとアクリル酸エステルとの合計で100質量%)。
【0134】
単量体(B)として、芳香族ビニルとシアン化ビニルを併用すると、熱可塑性樹脂(D)との相溶性の点において好ましい結果が得られる。この場合、芳香族ビニルを60~99質量%、シアン化ビニルを1~40質量%用いることが好ましい(ただし、芳香族ビニルとシアン化ビニルとの合計で100質量%)。
【0135】
グラフト重合時に用いる複合ゴム状重合体(A)と単量体(B)との割合は特に限定されないが、一般的には、複合ゴム状重合体(A)の割合は10~80質量%、好ましくは40~75質量%であり、単量体(B)の割合は20~90質量%、好ましくは25~60質量%である(ただし、複合ゴム状重合体(A)と単量体(B)の合計を100質量%とする。)。複合ゴム状重合体(A)及び単量体(B)の割合が上記範囲内であれば、グラフト共重合体(C)の生産性、耐衝撃性が良好であるとともに、このグラフト共重合体(C)を配合して得られる熱可塑性樹脂組成物やその成形品の発色性、耐衝撃性が向上する傾向にある。
【0136】
<グラフト共重合体(C)の製造方法>
単量体(B)を、複合ゴム状重合体(A)に対してグラフト重合方法する方法には特に制限はない。複合ゴム状重合体(A)がミニエマルション重合によって調製され、乳化ラテックスの状態で供給されることから、グラフト重合も乳化重合で行うことが好ましい。乳化グラフト重合の例として、複合ゴム状重合体(A)のエマルションの存在下に、単量体(B)を一括で、または連続的、または断続的に添加してラジカル重合する方法が挙げられる。グラフト重合の際には、分子量調節やグラフト率制御のために、連鎖移動剤や、ラテックスの粘度やpHを調節するための公知の無機電解質等を使用することができる。これらの種類および添加量については特に制限はない。乳化グラフト重合においては、各種の乳化剤を必要に応じて使用することができる。連鎖移動剤、乳化剤、ラジカル開始剤は、例えば、複合ゴム状重合体(A)の製造時に用いるものとして例示したものを用いることができる。
【0137】
上記のように製造したグラフト共重合体(C)のエマルションから粒状のグラフト共重合体(C)を得る方法としては特に限定されない。例えば、このエマルションを、凝固剤を溶解させた熱水中に投入して、凝析、固化する方法や、スプレードライ法等が挙げられる。凝固剤としては、例えば、硫酸、塩酸、リン酸および硝酸等の無機酸、塩化カルシウム、酢酸カルシウムおよび硫酸アルミニウム等の金属塩等を用いることができる。
【0138】
[熱可塑性樹脂組成物]
第1発明の熱可塑性樹脂組成物は、第1発明のグラフト共重合体(C)と熱可塑性樹脂(D)とを含むものである。
【0139】
<熱可塑性樹脂(D)>
第1発明における熱可塑性樹脂(D)としては、特に制限はなく、例えば、アクリル系樹脂(PMMA)、アクリロニトリル-スチレン共重合体(AS樹脂)、ポリカーボネート樹脂、ポリブチレンテレフタレート(PBT樹脂)、メチルメタクリレート-スチレン共重合樹脂(MS樹脂)、ポリエチレンテレフタレート(PET樹脂)、ポリ塩化ビニル、ポリスチレン、ポリアセタール樹脂、変性ポリフェニレンエーテル(変性PPE樹脂)、エチレン-酢酸ビニル共重合体、ポリアリレート、液晶ポリエステル樹脂、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、フッ素樹脂、ポリアミド樹脂(ナイロン)等が挙げられる。
【0140】
熱可塑性樹脂(D)は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
【0141】
これらの中でも透明樹脂を用いる場合、熱可塑性樹脂(D)中の複合ゴム状重合体(A)との屈折率差が0.02以下のものを用いることで、特に発色性が良好となるだけでなく、着色しなければ、透明性も高い熱可塑性樹脂組成物が得られる。この屈折率差は小さい程好ましく、より好ましくは0.01以下である。
【0142】
透明樹脂としては、以下に限定されるものではないが、例えば、アクリル系樹脂(屈折率:1.48~1.53)、ポリスチレン(屈折率:1.59~1.60)、脂肪族ポリカーボネート(屈折率:1.48~1.55)、芳香族ポリカーボネート(屈折率:1.58~1.59)、AS樹脂(屈折率:1.52~1.58)、MS樹脂(屈折率:1.56~1.59)、硬質ポリ塩化ビニル(屈折率:1.52~1.54)等が挙げられる。
【0143】
熱可塑性樹脂(D)の屈折率は、後述の実施例の項に記載される方法で測定することができる。
【0144】
<グラフト共重合体(C)と熱可塑性樹脂(D)の配合量>
第1発明の熱可塑性樹脂組成物において、グラフト共重合体(C)及び熱可塑性樹脂(D)の配合量は、特に限定されない。一般的にはグラフト共重合体(C)と熱可塑性樹脂(D)の合計100質量部に対し、グラフト共重合体(C)が5~70質量部、好ましくは10~50質量部で、熱可塑性樹脂(D)が30~95質量部、好ましくは50~90質量部である。グラフト共重合体(C)の配合量が上記範囲未満で、熱可塑性樹脂(D)の配合量が上記範囲を超えると、得られる熱可塑性樹脂組成物の耐衝撃性が十分でない。グラフト共重合体(C)の配合量が上記範囲を超え、熱可塑性樹脂(D)の配合量が上記範囲未満であると、得られる熱可塑性樹脂組成物において、例えば、アクリル系樹脂における硬度や芳香族ポリカーボネートにおける耐熱性等の、熱可塑性樹脂(D)が本来持っている機能が得られにくい傾向にある。
【0145】
<添加剤>
第1発明の熱可塑性樹脂組成物には、グラフト共重合体(C)及び熱可塑性樹脂(D)の他に、熱可塑性樹脂組成物の物性を損なわない範囲において、熱可塑性樹脂組成物の製造時(混合時)、成形時に、慣用の他の添加剤、例えば滑材、顔料、染料、充填剤(カーボンブラック、シリカ、酸化チタン等)、耐熱剤、酸化劣化防止剤、耐候剤、離型剤、可塑剤、帯電防止剤等を配合することができる。
【0146】
<熱可塑性樹脂組成物の製造方法>
第1発明の熱可塑性樹脂組成物は、グラフト共重合体(C)及び熱可塑性樹脂(D)と、必要に応じて添加される各種の添加剤を用いて、公知の装置を使用した公知の方法で製造できる。例えば、一般的な方法として溶融混合法がある。溶融混合法で使用する装置としては、押出機、バンバリーミキサー、ローラー、ニーダー等が挙げられる。混合には回分式、連続式のいずれを採用してもよい。また、各成分の混合順序などにも特に制限はなく、全ての成分が均一に混合されればよい。
【0147】
[成形品]
第1発明の成形品は、第1発明の熱可塑性樹脂組成物を成形してなるものであり、耐衝撃性に優れると共に、耐候性、発色性に優れる。
【0148】
第1発明の熱可塑性樹脂組成物の成形方法としては、例えば、射出成形法、射出圧縮成形機法、押出法、ブロー成形法、真空成形法、圧空成形法、カレンダー成形法およびインフレーション成形法等が挙げられる。これらのなかでも、量産性に優れ、高い寸法精度の成形品を得ることができるため、射出成形法、射出圧縮成形法が好ましい。
【0149】
〔第2発明の実施の形態〕
以下において、「耐擦り傷性」とは、軍手、ガーゼ、布等の柔らかいもので成形品の表面を擦ったときに生じる傷(擦り傷、磨き傷)に対する傷付きにくさを意味する。
【0150】
「残基」とは、重合体(第2発明では架橋粒子(A-I))の製造に用いられた化合物に由来して、当該重合体に組み込まれた構造部分を示す。例えば、後述の残基Xは、ポリアルキレングリコール、ポリエステルジオール、ポリカーボネートジオール、或いはこれらの1種以上の重合体の2個の水酸基から、水素原子が1個ずつ取れた残りの基に該当する。
【0151】
第2発明において、架橋粒子(A-I)、及び2価の残基Xとして組み込まれるジオール類の数平均分子量(Mn)は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィ(GPC)を用いて測定し、標準ポリスチレンで換算した値である。
後述の第3発明においても同様である。
【0152】
[架橋粒子(A-I)]
第2発明の架橋粒子(A-I)は、下記式(1)で表される数平均分子量(Mn)が800~9,000のジ(メタ)アクリル酸エステル(a)を含む単量体混合物(i-I)を重合して得られるものである。従って、ジ(メタ)アクリル酸エステル(a)に由来する構成単位と、後述の単量体混合物(i-I)に含まれるジ(メタ)アクリル酸エステル(a)以外の単量体に由来する構成単位とで構成されるものである。架橋粒子(A-I)に含まれるジ(メタ)アクリル酸エステル(a)に由来する構成単位が、後述の第2発明の熱可塑性樹脂組成物の耐衝撃性、耐擦り傷性の向上に有効に機能する。
【0153】
【化3】
【0154】
上記式(1)中、Xは、ポリアルキレングリコール、ポリエステルジオール及びポリカーボネートジオールから選ばれる少なくとも1種のジオールで構成される2価の残基を示す。R1a,R1bは、各々独立に、H又はCHを示す。
【0155】
式(1)中のXを「ジオール残基X」と称す場合がある。ジ(メタ)アクリル酸エステル(a)の製造原料として用いられ、ジ(メタ)アクリル酸エステル(a)中のジオール残基Xを構成するジオール化合物を「X源」と称す場合がある。後述の第3発明においても同様である。
【0156】
<ジ(メタ)アクリル酸エステル(a)>
第2発明の架橋粒子(A-I)の製造に用いられるジ(メタ)アクリル酸エステル(a)の数平均分子量(Mn)は、800~9,000であり、1,300~7,000が好ましく、1,800~5,000がより好ましい。ジ(メタ)アクリル酸エステル(a)の数平均分子量(Mn)が800未満であると、ジ(メタ)アクリル酸エステル(a)を用いて得られる第2発明の架橋粒子(A-I)を配合した熱可塑性樹脂組成物の耐衝撃性、耐擦り傷性が劣るものとなり、9,000より大きいと流動性、発色性に劣るものとなる。
【0157】
ジ(メタ)アクリル酸エステル(a)に含まれるジオール残基Xの構造としては、単独構造単位の繰り返しまたは2以上の構造単位の繰り返しのいずれでもよい。Xの構造が2以上の構造単位の繰り返しの場合、その構造単位の並び方は、各構造単位がランダムに存在するもの、各構造単位がブロックで存在するもの、又は各構造単位が交互に存在するもののいずれであってもよい。
【0158】
ジオール残基Xとしては、耐擦り傷性の観点からポリテトラメチレングリコール(ポリブチレングリコール)の繰り返しよりなる残基が好ましい。
【0159】
上述の数平均分子量(Mn)を満たすジ(メタ)アクリル酸エステル(a)を構成するために、X源の数平均分子量(Mn)は、ジ(メタ)アクリル酸エステル(a)の数平均分子量(Mn)に対して、(メタ)アクリル酸残基2個分を除した値の範囲内であることが好ましい。X源の数平均分子量(Mn)は、具体的には660~8890、好ましくは1160~6890、特に好ましくは1660~4890である。
【0160】
X源の合成法は特に限定されず、通常、酸触媒を用いて上述のジオールの縮重合や環状エーテルの開環重合によって製造される。
【0161】
ジ(メタ)アクリル酸エステル(a)としては、例えばジ(メタ)アクリル酸ドデカエチレングリコール、ジ(メタ)アクリル酸トリデカエチレングリコール、ジ(メタ)アクリル酸テトラデカエチレングリコール、ジ(メタ)アクリル酸ペンタデカエチレングリコール、ジ(メタ)アクリル酸ヘキサデカエチレングリコール等の繰り返し単位数が12以上のジ(メタ)アクリル酸ポリエチレングリコール;ジ(メタ)アクリル酸ノナプロピレングリコール、ジ(メタ)アクリル酸デカプロピレングリコール、ジ(メタ)アクリル酸ウンデカプロピレングリコール、ジ(メタ)アクリル酸ドデカプロピレングリコール、ジ(メタ)アクリル酸トリデカプロピレングリコール等の繰り返し単位数が9以上のジ(メタ)アクリル酸ポリプロピレングリコール;及びジ(メタ)アクリル酸ヘプタブチレングリコール、ジ(メタ)アクリル酸オクタブチレングリコール、ジ(メタ)アクリル酸ノナブチレングリコール、ジ(メタ)アクリル酸デカブチレングリコール、ジ(メタ)アクリル酸ウンデカブチレングリコール等の繰り返し単位数が7以上のジ(メタ)アクリル酸ポリブチレングリコール、即ちポリテトラメチレングリコールジ(メタ)アクリレート等が挙げられる。これらは単独で又は2種以上を併せて使用することができる。
【0162】
ジ(メタ)アクリル酸エステル(a)の製造方法としては特に限定されない。例えば、酸触媒の存在下に、X源を(メタ)アクリル酸と反応させて(メタ)アクリル酸エステル前駆体を生成させた後、副生する水を系外に除去する方法(脱水反応)、或いはX源を低級(メタ)アクリル酸エステルと反応させて(メタ)アクリル酸エステル前駆体を生成させた後、副生する低級アルコールを除去する方法(エステル交換反応)などを用いることができる。
【0163】
<単量体混合物(i-I)>
第2発明の架橋粒子(A-I)は、ジ(メタ)アクリル酸エステル(a)を含む単量体混合物(i-I)を重合して得られる。第2発明の架橋粒子(A-I)は、通常、ジ(メタ)アクリル酸エステル(a)と他の単量体とを含む単量体混合物(i-I)を共重合して得られる。
【0164】
単量体混合物(i-I)中のジ(メタ)アクリル酸エステル(a)の含有量は、0.1~90質量%であることが好ましく、より好ましくは2~70質量%であり、さらに好ましくは10~50質量%である。単量体混合物(i-I)中のジ(メタ)アクリル酸エステル(a)の含有量が上記範囲内であれば、得られる架橋粒子(A-I)を配合してなる熱可塑性樹脂組成物の発色性、耐衝撃性、耐擦り傷性を優れたものとすることができる。
【0165】
単量体混合物(i-I)に含まれる、ジ(メタ)アクリル酸エステル(a)と共重合する単量体としては、例えば芳香族ビニル(b)、シアン化ビニル(c)及びこれらと共重合可能なその他の単量体が挙げられる。
【0166】
芳香族ビニル(b)としては、例えば、スチレン、α-メチルスチレン、o-,m-もしくはp-メチルスチレン、ビニルキシレン、p-t-ブチルスチレン、エチルスチレンなどが挙げられる。これらは1種を単独でまたは2種以上を組み合わせて使用することができる。なかでもスチレン、α-メチルスチレンの少なくとも1つを使用することが好ましい。
【0167】
単量体混合物(i-I)中の芳香族ビニル(b)の含有量としては、芳香族ビニル(b)とシアン化ビニル(c)の合計100質量%のうち芳香族ビニル(b)の割合が60~90質量%となる量が好ましく、65~80質量%となる量がより好ましい。芳香族ビニル(b)の割合が上記範囲内であれば、得られる架橋粒子(A-I)を配合してなる熱可塑性樹脂組成物の流動性、発色性、耐衝撃性を優れたものとすることができる。
【0168】
シアン化ビニル(c)としては、例えばアクリロニトリル、メタクリロニトリルなどが挙げられる。これらのうちの1種以上を使用することができる。
【0169】
単量体混合物(i-I)中のシアン化ビニル(c)の含有量としては、芳香族ビニル(b)とシアン化ビニル(c)の合計100質量%のうちシアン化ビニル(c)の割合が10~40質量%となる量が好ましく、20~35質量%となる量がより好ましい。シアン化ビニル(c)の割合が上記範囲内であれば、得られる架橋粒子(A-I)を配合してなる熱可塑性樹脂組成物の耐衝撃性を優れたものとすることができる。
【0170】
芳香族ビニル(b)及びシアン化ビニル(c)と共重合可能な他の単量体としては、例えば、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸n-プロピル、メタクリル酸i-プロピル、メタクリル酸n-ブチル、メタクリル酸i-ブチル、メタクリル酸t-ブチル、メタクリル酸アミル、メタクリル酸イソアミル、メタクリル酸オクチル、メタクリル酸-2-エチルヘキシル、メタクリル酸デシル、メタクリル酸ラウリル、メタクリル酸シクロヘキシル、メタクリル酸ベンジル、メタクリル酸フェニル等のメタクリル酸エステル;アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸プロピル、アクリル酸ブチル等のアクリル酸エステル;N-メチルマレイミド、N-エチルマレイミド、N-n-プロピルマレイミド、N-i-プロピルマレイミド、N-n-ブチルマレイミド、N-i-ブチルマレイミド、N-t-ブチルマレイミド、N-シクロヘキシルマレイミド等のN-シクロアルキルマレイミド、N-フェニルマレイミド、N-アルキル置換フェニルマレイミド、N-クロロフェニルマレイミド等のN-アリールマレイミド、N-アラルキルマレイミド等のマレイミド系化合物;エチレングリコールジメタクリレート、1,3-ブチレングリコールジメタクリレート、1,4-ブチレングリコールジメタクリレート、プロピレングリコールジメタクリレート等のアルキレングリコールジメタクリレート;ジビニルベンゼン、トリビニルベンゼン等のポリビニルベンゼン等が挙げられる。これらは1種を単独でまたは2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0171】
<架橋粒子(A-I)の製造方法>
架橋粒子(A-I)の製造方法としては特に制限はなく、上述のジ(メタ)アクリル酸エステル(a)を含む単量体混合物(i-I)から、塊状重合法、溶液重合法、塊状懸濁重合法、懸濁重合法、乳化重合法等の公知の方法により製造される。好ましくは、製造時の安定性および粒子径の制御の観点から、単量体混合物(i-I)の一部または全部を水溶媒中で、乳化剤の存在下、好ましくは乳化剤と疎水性の安定化剤の存在下にせん断を加えてミニエマルションを形成させた後、ラジカル開始剤の存在下に共重合する、所謂ミニエマルション重合法により製造される。ラジカル開始剤の添加はミニエマルションを形成させる前後のいずれでもよい。ラジカル開始剤、単量体混合物(i-I)、乳化剤の添加方法は、一括、分割、連続のいずれでもよい。
【0172】
ミニエマルション化の際の水溶媒の使用量は、作業性、安定性、製造性等の観点から、重合後の反応系の固形分濃度が5~50質量%程度となるように、単量体混合物(i-I)100質量部に対して100~500質量部程度とすることが好ましい。
【0173】
ミニエマルションを形成させる際にせん断を加える方法は公知の任意の方法が用いることができ、一括、分割、連続式、循環式のいずれでもよく、一般に、粒径0.05~3.0μm程度の小滴を形成させる高せん断装置を用いることでミニエマルションを形成することができる。
【0174】
ミニエマルションを形成する高せん断装置としては、第1発明の説明の項で複合ゴム状重合体(A)の製造に用いるものとして例示したものなどを用いることができるが、何らこれらに限定されるものではない。
【0175】
ミニエマルションを形成させた後、ラジカル共重合することで、高分子量体であるジ(メタ)アクリル酸エステル(a)がミセル内に効率よく取り込まれ、重合後の凝塊物が減少するなど、製造時の安定性が向上する。
【0176】
乳化剤としては、第1発明の説明の項で複合ゴム状重合体(A)の製造に用いるものとして例示したものが挙げられる。乳化剤は、1種のみを用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0177】
乳化剤の添加量は、通常、単量体混合物(i-I)100質量部に対して10質量部以下、例えば0.01~10質量部が好ましい。
【0178】
ミニエマルションを形成させる際に、疎水性の安定剤を添加するとミニエマルションの製造安定性がより向上する傾向にある。疎水性の安定剤としては、第1発明の説明の項で複合ゴム状重合体(A)の製造に用いるものとして例示したものが挙げられる。疎水性の安定剤は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
【0179】
疎水性の安定剤を用いる場合、その使用量は、単量体混合物(i-I)100質量部に対し、0.05~5質量部が好ましい。疎水性の安定剤の添加量が上記下限以上であると、架橋粒子(A-I)の製造安定性をより向上させることができ、上記上限以下であると、第2発明の架橋粒子(A-I)を配合して得られる熱可塑性樹脂組成物の発色性、耐衝撃性を良好にすることができる傾向にある。
【0180】
ミニエマルション化工程後の重合工程で使用されるラジカル開始剤としては、第1発明の説明の項で複合ゴム状重合体(A)の製造に用いるものとして例示したものが挙げられる。ラジカル開始剤は1種のみを用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0181】
ラジカル開始剤の添加量としては、単量体混合物(i-I)100質量部に対して好ましくは5質量部以下、より好ましくは3質量部以下、例えば0.001~3質量部である。前述の通り、ラジカル開始剤の添加はミニエマルションを形成させる前後のいずれでもよく、添加方法は、一括、分割、連続のいずれでもよい。
【0182】
架橋粒子(A-I)の製造時に、必要に応じて連鎖移動剤を添加しても良い。連鎖移動剤としては、第1発明の説明の項で複合ゴム状重合体(A)の製造に用いるものとして例示したものが挙げられる。連鎖移動剤は1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。これらのうち、分子量を調整することが容易な点から、メルカプタン類が好ましい。
【0183】
連鎖移動剤を用いる場合、その添加方法は、一括、分割、連続のいずれでもよい。連鎖移動剤の添加量は、単量体混合物(i-I)100質量部に対して通常2.0質量部以下、例えば0.01~2.0質量部が好ましい。
【0184】
ミニエマルション化工程後の重合工程は、通常、ミニエマルション化工程に引き続いて、40~95℃で0.5~8時間程度実施される。
【0185】
ミニエマルション化工程と、その後の重合工程を経て製造される第2発明の架橋粒子(A-I)の粒子径は、平均粒子径で、好ましくは0.07~5.0μmであり、より好ましくは0.09~3.0μm、さらに好ましくは0.1~1μmである。架橋粒子(A-I)の粒子径が上記範囲内であれば、得られる架橋粒子(A-I)を配合してなる熱可塑性樹脂組成物の耐衝撃性、耐擦り傷性に優れたものとすることができる。
【0186】
架橋粒子(A-I)の粒子径を制御する方法としては、特に制限されないが、乳化剤の種類または使用量、ミニエマルション製造時のせん断力を調整する方法等が挙げられる。
【0187】
架橋粒子(A-I)の平均粒子径は、具体的には、後述の実施例の項に記載される方法で測定される。
【0188】
[グラフト架橋粒子(B-I)]
第2発明のグラフト架橋粒子(B-I)は、第2発明の架橋粒子(A-I)に対し、単量体をグラフト重合したものである。
【0189】
第2発明の架橋粒子(A-I)にグラフト重合させる単量体としては、芳香族ビニル、シアン化ビニル、(メタ)アクリル酸エステル、マレイミド、及び無水マレイン酸から選ばれる1種又は2種以上が挙げられる。架橋粒子(A-I)がグラフト重合されていると、後述の熱可塑性樹脂(D-I)への分散性がより良好となり、得られる熱可塑性樹脂組成物の流動性、耐衝撃性がより優れるものとなることから好ましい。
【0190】
架橋粒子(A-I)にグラフト重合させる単量体のうち、芳香族ビニル、シアン化ビニル等の単量体としては、第2発明の架橋粒子(A-I)を製造するための単量体混合物(i-I)に用いる単量体として例示したものが挙げられる。なかでも、得られる熱可塑性樹脂組成物の流動性、耐衝撃性に優れる点から、スチレン等の芳香族ビニルとアクリロニトリル等のシアン化ビニルを併用することが好ましい。この場合、芳香族ビニルを60~99質量%、シアン化ビニルを1~40質量%用いることが好ましい(ただし、芳香族ビニルとシアン化ビニルとの合計で100質量%)。
【0191】
グラフト重合時に用いる架橋粒子(A-I)と単量体との割合は特に限定されないが、一般的には、架橋粒子(A-I)の割合は40~90質量%であり、単量体の割合は10~60質量%である(ただし、架橋粒子(A-I)と単量体の合計を100質量%とする。)。架橋粒子(A-I)及び単量体の割合が上記範囲内であれば、後述の熱可塑性樹脂(D-I)中での分散性が良好となり、得られる熱可塑性樹脂組成物の流動性、耐衝撃性が向上する。
【0192】
グラフト架橋粒子(B-I)は、後述の熱可塑性樹脂(D-I)への分散性が良好となることから、グラフト率が23~100%であることが好ましい。
【0193】
グラフト架橋粒子(B-I)のグラフト率Gは、下記式(4)より求められる。
G=100(P-E)/E …(4)
P:アセトン不溶分の質量(グラフト架橋粒子(B-I)をメタノールで洗浄した後、アセトンで抽出し、遠心分離機でアセトン可溶分とアセトン不溶分に分離し、得られたアセトン不溶分を真空乾燥した後の質量(g))
E:グラフト重合前のグラフト架橋粒子(B-I)の質量(g)
【0194】
グラフト架橋粒子(B-I)の製造方法には特に制限はなく、塊状重合法、溶液重合法、塊状懸濁重合法、懸濁重合法、乳化重合法等の公知の方法により製造される。架橋粒子(A-I)がミニエマルション重合によって調製され、乳化ラテックスの状態で供給される場合は、グラフト重合も乳化重合で行ってもよい。乳化グラフト重合の例として、架橋粒子(A-I)のエマルションの存在下に、単量体を一括で、または連続的、または断続的に添加してラジカル重合する方法が挙げられる。グラフト重合の際には、分子量調節やグラフト率制御のために、連鎖移動剤や、ラテックスの粘度やpHを調節するための公知の無機電解質等を使用することができる。これらの種類および添加量についても特に制限はない。乳化グラフト重合においては、各種の乳化剤を必要に応じて使用することができる。連鎖移動剤、乳化剤、ラジカル開始剤は、例えば、架橋粒子(A-I)の製造時に用いるものとして例示したものを用いることができる。
【0195】
上記のように製造したグラフト架橋粒子(B-I)のエマルションから粒状のグラフト架橋粒子(B-I)を得る方法としては特に限定されないが、例えば、このエマルションを、凝固剤を溶解させた熱水中に投入して、凝析、固化する方法や、スプレードライ法等が挙げられる。凝固剤としては、例えば、硫酸、塩酸、リン酸および硝酸等の無機酸、塩化カルシウム、酢酸カルシウムおよび硫酸アルミニウム等の金属塩等を用いることができる。
【0196】
[熱可塑性樹脂組成物]
第2発明の熱可塑性樹脂組成物は、上記の第2発明の架橋粒子(A-I)及び/又はグラフト架橋粒子(B-I)と熱可塑性樹脂(D-I)とを含むものである。
【0197】
<熱可塑性樹脂(D-I)>
第2発明における熱可塑性樹脂(D-I)としては、前述の芳香族ビニル(b)、シアン化ビニル(c)を主成分とするAS(アクリロニトリル-スチレン)樹脂や、スチレン-アクリロニトリル-フェニルマレイミド共重合樹脂、ABS樹脂、AES樹脂、AAS樹脂、などのスチレン系樹脂、ポリスチレン、ポリ(メタ)アクリレート樹脂、ポリエチレン、ポリプロピレンなどのポリオレフィン樹脂、ポリカーボネート(PC)、ポリフェニレンエーテル、変性ポリフェニレンエーテル、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンテレフタレート、ポリアミド、ポリエステル、ポリスルホン、ポリエーテルケトン、ポリエーテルスルホン、フッ素樹脂、シリコン樹脂、ポリエステルエラストマー、ポリカプロラクトン等が挙げられる。これらの樹脂の1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0198】
<架橋粒子(A-I)/グラフト架橋粒子(B-I)の配合割合>
第2発明の熱可塑性樹脂組成物における架橋粒子(A-I)及び/又はグラフト架橋粒子(B-I)の含有量は、架橋粒子(A-I)及び/又はグラフト架橋粒子(B-I)と熱可塑性樹脂(D-I)との合計を100質量%とした場合に、1~95質量%が好ましく、さらに好ましくは5~80質量%、特に好ましくは10~50質量%である。架橋粒子(A-I)及び/又はグラフト架橋粒子(B-I)の含有量が上記範囲内であれば、熱可塑性樹脂組成物の発色性、耐衝撃性、耐擦り傷性がより優れたものとなる。
【0199】
<添加剤>
第2発明の熱可塑性樹脂組成物には、架橋粒子(A-I)及び/又はグラフト架橋粒子(B-I)、熱可塑性樹脂(D-I)の他に、熱可塑性樹脂組成物の物性を損なわない範囲において、熱可塑性樹脂組成物の製造時(混合時)、成形時に、慣用の他の添加剤、例えば滑材、顔料、染料等の着色剤、充填剤(カーボンブラック、シリカ、酸化チタン等)、加工助剤、耐熱剤、酸化防止剤、耐候剤、離型剤、可塑剤、帯電防止剤等を配合することができる。
【0200】
<熱可塑性樹脂組成物の製造方法>
第2発明の熱可塑性樹脂組成物は、架橋粒子(A-I)及び/又はグラフト架橋粒子(B-I)と熱可塑性樹脂(D-I)と、必要に応じて添加される各種の添加剤を用いて、公知の装置を使用した公知の方法で製造できる。例えば、一般的な方法として溶融混合法がある。溶融混合法で使用する装置としては、押出機、バンバリーミキサー、ローラー、ニーダー等が挙げられる。混合には回分式、連続式のいずれを採用してもよい。各成分の混合順序などにも特に制限はなく、全ての成分が均一に混合されればよい。
【0201】
[成形品]
第2発明の成形品は、第2発明の熱可塑性樹脂組成物を成形してなるものであり、発色性、流動性、耐衝撃性、耐擦り傷性に優れ、成形収縮率も小さいため寸法安定性、形状精度に優れる。
【0202】
第2発明の熱可塑性樹脂組成物の成形方法としては、例えば、射出成形法、射出圧縮成形機法、押出法、ブロー成形法、真空成形法、圧空成形法、カレンダー成形法およびインフレーション成形法等が挙げられる。これらのなかでも、量産性に優れ、高い寸法精度の成形品を得ることができるため、射出成形法、射出圧縮成形法が好ましい。
【0203】
第2発明の熱可塑性樹脂組成物を成形してなる第2発明の成形品は、発色性、流動性、耐衝撃性、耐擦り傷性に優れ、成形収縮率も小さいため寸法安定性、形状精度に優れることから、車両内外装部品、事務機器、家電、建材などに好適である。
【0204】
〔第3発明の実施の形態〕
第3発明において、「耐擦り傷性」、「残基」の意味するところは、第2発明と同様である。また、架橋粒子(A-II)、及び2価の残基Xとして組み込まれるジオール類の数平均分子量(Mn)は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィ(GPC)を用いて測定し、標準ポリスチレンで換算した値である。
【0205】
[架橋粒子(A-II)]
第3発明の架橋粒子(A-II)は、下記式(1)で表される数平均分子量が800~9,000のジ(メタ)アクリル酸エステル(a)と、モノ(メタ)アクリル酸エステル(d)とを含む単量体混合物(i-II)であって、単量体混合物(i-II)100質量%中のジ(メタ)アクリル酸エステル(a)含有量が20~80質量%である単量体混合物(i-II)を重合して得られたものである。従って、第3発明の架橋粒子(A-II)は、ジ(メタ)アクリル酸エステル(a)に由来する構成単位と、モノ(メタ)アクリル酸成分(d)に由来する構成単位と、必要に応じて用いられる後述のその他のビニル化合物(e)に由来する構成単位とで構成されるものであって、体積平均粒子径が0.07~2.0μmであることを特徴とするものである。架橋粒子(A-II)を構成するジ(メタ)アクリル酸エステル(a)に由来する構成単位が後述の第3発明の熱可塑性樹脂組成物の耐衝撃性、耐擦り傷性の向上に有効に機能する。
【0206】
【化4】
【0207】
上記式(1)中、Xは、ポリアルキレングリコール、ポリエステルジオール及びポリカーボネートジオールから選ばれる少なくとも1種のジオールで構成される2価の残基を示す。R1a,R1bは、各々独立に、H又はCHを示す。
【0208】
第3発明の架橋粒子(A-II)の原料となる単量体混合物(i-II)は、ジ(メタ)アクリル酸エステル(a)とモノ(メタ)アクリル酸成分(d)を必須成分とし、必要に応じて用いられるその他のビニル化合物(e)を含む。
【0209】
以下において、式(1)中のXを「ジオール残基X」と称す場合がある。また、ジ(メタ)アクリル酸エステル(a)の製造原料として用いられ、ジ(メタ)アクリル酸エステル(a)中のジオール残基Xを構成するジオール化合物を「X源」と称す場合がある。
【0210】
<ジ(メタ)アクリル酸エステル(a)>
第3発明の架橋粒子(A-II)の製造に用いられるジ(メタ)アクリル酸エステル(a)は、第2発明の架橋粒子(A-I)の製造に用いられるジ(メタ)アクリル酸エステル(a)と同様であり、数平均分子量(Mn)、ジ(メタ)アクリル酸エステル(a)に含まれるジオール残基X、X源の数平均分子量(Mn)、X源の合成法、ジ(メタ)アクリル酸エステル(a)の例示、及びその製造方法についても、第2発明におけると同様である。
【0211】
単量体混合物(i-II)(即ち、ジ(メタ)アクリル酸エステル(a)とモノ(メタ)アクリル酸成分(d)と必要に応じて用いられる後述のその他のビニル化合物(e)の合計)中のジ(メタ)アクリル酸エステル(a)の含有量は、20~80質量%であり、より好ましくは25~70質量%であり、さらに好ましくは30~50質量%である。単量体混合物(i-II)中のジ(メタ)アクリル酸エステル(a)の含有量が20質量%未満であると、得られる架橋粒子(A-II)を配合してなる熱可塑性樹脂組成物の耐衝撃性、耐擦り傷性が劣るものとなり、90質量%を超えると発色性に劣るものとなる。
【0212】
<モノ(メタ)アクリル酸成分(d)>
モノ(メタ)アクリル酸成分(d)とは、(メタ)アクリル酸及び/又はモノ(メタ)アクリル酸エステルである。例えば、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸n-ブチル、(メタ)アクリル酸i-ブチル、(メタ)アクリル酸t-ブチル、(メタ)アクリル酸シクロヘキシル、(メタ)アクリル酸2-エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸ステアリル、(メタ)アクリル酸ラウリル、(メタ)アクリル酸イソボルニル、(メタ)アクリル酸ベンジル、(メタ)アクリル酸フェニル、(メタ)アクリル酸グリシジル、(メタ)アクリル酸ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸などが挙げられる。これらのうち、アルキル基の炭素数が1~8の(メタ)アクリル酸モノアルキルエステルが好ましい。これらは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0213】
単量体混合物(i-II)中のモノ(メタ)アクリル酸成分(d)の含有量は、1~80質量%が好ましく、より好ましくは25~75質量%、さらに好ましくは50~70質量%である。モノ(メタ)アクリル酸成分(d)の含有量が上記範囲内であれば、得られる架橋粒子(A-II)を配合してなる熱可塑性樹脂組成物から発色性、耐候性、耐衝撃性、耐擦り傷性のバランスに優れる成形品を得ることができる。
【0214】
<その他のビニル化合物(e)>
必要に応じて用いられるその他のビニル化合物(e)としては、ジ(メタ)アクリル酸エステル(a)、モノ(メタ)アクリル酸成分(d)と共重合可能であれば特に限定されない。例えば、スチレン、α-メチルスチレン、o-,m-またはp-メチルスチレン、ビニルキシレン、p-t-ブチルスチレン、エチルスチレン等の芳香族ビニル、アクリロニトリル、メタクリロニトリル等のシアン化ビニル、N-シクロヘキシルマレイミド、N-フェニルマレイミドなどのマレイミド類や無水マレイン酸、エチレングリコールジメタクリレート、1,3-ブチレングリコールジメタクリレート、1,4-ブチレングリコールジメタクリレート、プロピレングリコールジメタクリレート等のアルキレングリコールジメタクリレートや、ジビニルベンゼン、トリビニルベンゼン等のポリビニルベンゼンなどが挙げられる。これら1種を単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
これらのうち、熱可塑性樹脂(D-II)の屈折率に近づける観点から、スチレンを用いることが好ましい。
【0215】
単量体混合物(i-II)中のその他のビニル化合物(e)の含有量は、0~70質量%である。その他のビニル化合物(e)の割合が上記範囲内であれば、得られる架橋粒子(A-II)を配合してなる熱可塑性樹脂組成物の流動性に優れ、発色性に優れる成形品を得ることができる。
その他のビニル化合物(e)としてスチレンを用いる場合、熱可塑性樹脂(D-II)の屈折率に近づける観点から、単量体混合物(i-II)中のスチレンの含有量は3~30質量%、特に5~20質量%とすることが好ましい。
【0216】
<架橋粒子(A-II)の製造方法>
架橋粒子(A-II)の製造方法としては特に制限はなく、上述のジ(メタ)アクリル酸エステル(a)とモノ(メタ)アクリル酸成分(d)と必要に応じて用いられるその他のビニル化合物(e)を含む単量体混合物(i-II)から、塊状重合法、溶液重合法、塊状懸濁重合法、懸濁重合法、乳化重合法等の公知の方法により製造される。好ましくは、製造時の安定性および粒子径の制御の観点から、単量体混合物(i-II)の一部または全部を水溶媒中で、乳化剤の存在下、好ましくは乳化剤と疎水性の安定化剤の存在下にせん断を加えてミニエマルションを形成させた後、ラジカル開始剤の存在下に共重合する、所謂ミニエマルション重合法により製造される。ラジカル開始剤の添加はミニエマルションを形成させる前後のいずれでもよく、ラジカル開始剤、単量体混合物(i-II)(即ち、ジ(メタ)アクリル酸エステル(a)、モノ(メタ)アクリル酸成分(d)、その他のビニル化合物(e))、乳化剤の添加方法は、一括、分割、連続のいずれでもよい。
【0217】
ミニエマルション化の際の水溶媒の使用量は、作業性、安定性、製造性等の観点から、重合後の反応系の固形分濃度が5~50質量%程度となるように、単量体混合物(i-II)100質量部に対して100~500質量部程度とすることが好ましい。
【0218】
ミニエマルションを形成させる際にせん断を加える方法は公知の任意の方法が用いることができ、一括、分割、連続式、循環式のいずれでもよく、一般に、粒径0.05~3.0μm程度の小滴を形成させる高せん断装置を用いることでミニエマルションを形成することができる。ミニエマルションを形成する高せん断装置としては、第1発明の説明の項で複合ゴム状重合体(A)の製造に用いるものとして例示したものなどを用いることができるが、何らこれらに限定されるものではない。
【0219】
ミニエマルションを形成させた後、ラジカル共重合することで、高分子量体であるジ(メタ)アクリル酸エステル(a)がミセル内に効率よく取り込まれ、重合後の凝塊物が減少するなど、製造時の安定性が向上する。
【0220】
乳化剤としては、第1発明の説明の項で複合ゴム状重合体(A)の製造に用いるものとして例示したものが挙げられる。これらの乳化剤は、1種のみを用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0221】
乳化剤の添加量は、通常、単量体混合物(i-II)100質量部に対して10質量部以下、例えば0.01~10質量部が好ましい。
【0222】
ミニエマルションを形成させる際に、疎水性の安定剤を添加するとミニエマルションの製造安定性がより向上する傾向にある。疎水性の安定剤としては、第1発明の説明の項で複合ゴム状重合体(A)の製造に用いるものとして例示したものが挙げられる。疎水性の安定剤は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
【0223】
疎水性の安定剤を用いる場合、その使用量は、単量体混合物(i-II)100質量部に対し、0.05~5質量部が好ましい。疎水性の安定剤の添加量が上記下限以上であると、架橋粒子(A-II)の製造安定性をより向上させることができ、上記上限以下であると、第3発明の架橋粒子(A-II)を配合して得られる熱可塑性樹脂組成物の発色性、耐衝撃性を良好にすることができる傾向にある。
【0224】
ミニエマルション化工程後の重合工程で使用されるラジカル開始剤としては、第1発明の説明の項で複合ゴム状重合体(A)の製造に用いるものとして例示したものが挙げられる。ラジカル開始剤は1種のみを用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0225】
ラジカル開始剤の添加量としては、単量体混合物(i-II)100質量部に対して好ましくは5質量部以下、より好ましくは3質量部以下、例えば0.001~3質量部である。なお、前述の通り、ラジカル開始剤の添加はミニエマルションを形成させる前後のいずれでもよく、添加方法は、一括、分割、連続のいずれでもよい。
【0226】
架橋粒子(A-II)の製造時に、必要に応じて連鎖移動剤を添加しても良い。連鎖移動剤としては、第1発明の説明の項で複合ゴム状重合体(A)の製造に用いるものとして例示したものが挙げられる。連鎖移動剤は1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。これらのうち、分子量を調整することが容易な点から、メルカプタン類が好ましい。
【0227】
連鎖移動剤を用いる場合、その添加方法は、一括、分割、連続のいずれでもよく、その添加量は、単量体混合物(i-II)100質量部に対して通常2.0質量部以下、例えば0.01~2.0質量部が好ましい。
【0228】
ミニエマルション化工程後の重合工程は、通常、ミニエマルション化工程に引き続いて、40~95℃で0.5~8時間程度実施される。
【0229】
<粒子径>
第3発明の架橋粒子(A-II)の粒子径は、平均粒子径で0.07~2.0μmであり、好ましくは0.09~1.0μm、さらに好ましくは0.1~0.5μmである。架橋粒子(A-II)の平均粒子径が0.07μm未満であると、得られる架橋粒子(A-II)を配合してなる熱可塑性樹脂組成物の耐衝撃性に劣り、2.0μmより大きいと、得られる架橋粒子(A-II)を配合してなる熱可塑性樹脂組成物の発色性、耐擦り傷性に劣るものとなる。
【0230】
架橋粒子(A-II)の平均粒子径は、具体的には、後述の実施例の項に記載される方法で測定される。
【0231】
[グラフト架橋粒子(B-II)]
第3発明のグラフト架橋粒子(B-II)は第3発明の架橋粒子(A-II)に対し、単量体をグラフト重合したものである。
【0232】
第3発明の架橋粒子(A-II)にグラフト重合される単量体としては、芳香族ビニル、シアン化ビニル、(メタ)アクリル酸エステル、マレイミド、及び無水マレイン酸から選ばれる1種又は2種以上が挙げられる。架橋粒子(A-II)がグラフト重合されていると、後述の熱可塑性樹脂(D-II)への分散性がより良好となり、得られる熱可塑性樹脂成形品の発色性、耐衝撃性がより優れたものとすることができ、好ましい。
【0233】
架橋粒子(A-II)にグラフト重合させる単量体としては、第3発明の架橋粒子(A-II)の項で例示したモノ(メタ)アクリル酸成分(d)、その他のビニル化合物(e)で示した(メタ)アクリル酸エステル、芳香族ビニル、シアン化ビニル、マレイミド類、無水マレイン酸等が挙げられ、それらのうちの1種以上を使用できる。なかでも、得られる熱可塑性樹脂成形品の発色性、耐候性に優れる点から(メタ)アクリル酸エステルを使用することが好ましい。特にメタクリル酸メチルとアクリル酸メチルをこれらの合計100質量%に対して、メタクリル酸メチルが90~99.9質量%、アクリル酸メチルが0.1~10質量%となるように併用することが好ましい。
【0234】
グラフト重合時に用いる架橋粒子(A-II)と単量体との割合は特に限定されないが、一般的には、架橋粒子(A-II)の割合は40~90質量%であり、単量体の割合は10~60質量%である(ただし、架橋粒子(A-II)と単量体の合計を100質量%とする。)。架橋粒子(A-II)及び単量体の割合が上記範囲内であれば、後述の熱可塑性樹脂(D-II)中での分散性が良好となり、得られる熱可塑性樹脂組成物の発色性、耐衝撃性が向上する。
【0235】
グラフト架橋粒子(B-II)は、後述の熱可塑性樹脂(D-II)への分散性が良好となることから、グラフト率が23~100%であることが好ましい。
【0236】
グラフト架橋粒子(B-II)のグラフト率の算出方法は、第2発明におけるグラフト架橋粒子(B-I)のグラフト率の算出方法と同様である。
【0237】
グラフト架橋粒子(B-II)の製造方法、製造したグラフト架橋粒子(B-II)のエマルションから粒状のグラフト架橋粒子(B-II)を得る方法は、第2発明のグラフト架橋粒子(B-I)におけると同様である。
【0238】
[熱可塑性樹脂組成物]
第3発明の熱可塑性樹脂組成物は、第3発明の架橋粒子(A-II)及び/又はグラフト架橋粒子(B-II)と熱可塑性樹脂(D-II)とを含むものである。
【0239】
<熱可塑性樹脂(D-II)>
第3発明における熱可塑性樹脂(D-II)としては、上記のモノ(メタ)アクリル酸エステル(d)を主成分とするポリ(メタ)アクリレート樹脂、ポリエチレン、ポリプロピレンなどのポリオレフィン樹脂、ポリカーボネート(PC)、ポリフェニレンエーテル、変性ポリフェニレンエーテル、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンテレフタレート、ポリアミド、ポリエステル、ポリスルホン、ポリエーテルケトン、ポリエーテルスルホン、フッ素樹脂、シリコン樹脂、ポリエステルエラストマー、ポリカプロラクトン、芳香族ポリエステルエラストマー、ポリアミド系エラストマー、ASグラフトポリエチレン、ASグラフトポリプロピレン、ポリスチレン、AS樹脂、ABS樹脂などのスチレン系樹脂等が挙げられる。これらの樹脂は1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0240】
<架橋粒子(A-II)/グラフト架橋粒子(B-II)の配合割合>
第3発明の熱可塑性樹脂組成物における架橋粒子(A-II)及び/又はグラフト架橋粒子(B-II))の含有量は、架橋粒子(A-II)及び/又はグラフト架橋粒子(B-II)と熱可塑性樹脂(D-II)との合計を100質量%とした場合に、1~90質量%が好ましく、より好ましくは10~70質量%、さらに好ましくは20~50質量%である。架橋粒子(A-II)及び/又はグラフト架橋粒子(B-II)の含有量が上記範囲内であれば、得られる熱可塑性樹脂組成物の発色性、耐擦り傷性、耐衝撃性に優れたものとなる。
【0241】
<添加剤>
第2発明の熱可塑性樹脂組成物と同様に、第3発明の熱可塑性樹脂組成物には、架橋粒子(A-II)及び/又はグラフト架橋粒子(B-II)、熱可塑性樹脂(D-II)の他に、熱可塑性樹脂組成物の物性を損なわない範囲において、熱可塑性樹脂組成物の製造時(混合時)、成形時に、慣用の他の添加剤を配合することができる。
【0242】
<熱可塑性樹脂組成物の製造方法>
第3発明の熱可塑性樹脂組成物は、架橋粒子(A-II)及び/又はグラフト架橋粒子(B-II)と熱可塑性樹脂(D-II)と、必要に応じて添加される各種の添加剤を用いて、第2発明の熱可塑性樹脂組成物と同様に製造される。
【0243】
[成形品]
第3発明の成形品は、第3発明の熱可塑性樹脂組成物を成形してなるものであり、成形時の流動性、発色性、耐候性、耐衝撃性、耐擦り傷性に優れる。
【0244】
第3発明の熱可塑性樹脂組成物の成形方法は、第2発明の熱可塑性樹脂組成物の成形方法と同様であり、その好ましい成形方法も同様である。
【0245】
第3発明の熱可塑性樹脂組成物を成形してなる第3発明の成形品は、発色性、耐候性、耐衝撃性、耐擦り傷性に優れることから、車両内外装部品、事務機器、家電、建材などに好適である。
【0246】
〔第4発明の実施の形態〕
[ゴム質重合体(A-III)]
第4発明のゴム質重合体(A-III)は、アルキル(メタ)アクリレート、好ましくはアルキル(メタ)アクリレート、疎水性物質および乳化剤を含む混合物(i-III)のミニエマルション重合反応により得られるものである。ゴム質量体(A-III)は、通常、アルキル(メタ)アクリレート、疎水性物質および乳化剤を含む混合物(i-III)をミニエマルション化し、得られたミニエマルションを重合することにより製造される。
【0247】
ミニエマルション重合では、超音波発振機などを利用して強い剪断力をかけることによって、100~1000nm程度のモノマー油滴を調製する。この際、乳化剤分子はモノマー油滴表面に優先的に吸着し、水媒体中にはフリーの乳化剤やミセルがほとんど存在しなくなる。したがって、理想的なミニエマルション系の重合では、モノマーラジカルが水相と油相に分配されることはなく、モノマー油滴が粒子の核になって重合が進行する。その結果、形成されたモノマー油滴はそのままポリマー粒子に変換され、粒子径分布の狭いポリマーナノ粒子を得ることが可能となる。この粒子径分布が狭いポリマー粒子により粒子径200nm以上の粒子でも良好な発色性と成形外観を発揮するものとなる。
【0248】
これに対して、一般的な乳化重合で作製した粒子径200nm以上のポリマー粒子では粒子径分布の制御が困難であり、粒子径分布が広いポリマー粒子となるため、発色性、成形外観が劣るものとなる。
【0249】
<ゴム質重合体(A-III)の製造方法>
第4発明のゴム質重合体(A-III)を製造するミニエマルション重合は、これに限定されるものではないが、例えば、アルキル(メタ)アクリレートを必須とするモノマー、乳化剤、および疎水性物質、好ましくは更にラジカル重合開始剤を混合する工程、得られた混合物(i-III)に剪断力を付与してプレエマルションを作製する工程、並びにこの混合物(i-III)を重合開始温度まで加熱して重合させる工程を含むことができる。ミニエマルション重合では、重合用モノマーと乳化剤とを混合した後、例えば、超音波照射による剪断工程を実施することにより、前記剪断力によりモノマーが引きちぎられ、乳化剤に覆われたモノマー微小油滴が形成される。その後、ラジカル重合開始剤の重合開始温度まで加熱することにより、モノマー微小油滴をそのまま重合し、高分子微粒子が得られる。
【0250】
ミニエマルションを形成させるための剪断力を加える方法は公知の任意の方法を用いることができる。ミニエマルションを形成する高剪断装置としては、第1発明の説明の項で複合ゴム状重合体(A)の製造に用いるものとして例示したものなどを用いることができるが、何らこれらに限定されるものではない。
【0251】
ミニエマルション化の際の水溶媒の使用量は、作業性、安定性、製造性等の観点から、重合後の反応系の固形分濃度が5~50質量%程度となるように、水以外の混合物(i-III)100質量部に対して100~500質量部程度とすることが好ましい。
【0252】
≪アルキル(メタ)アクリレート≫
ゴム質重合体(A-III)を構成するアルキル(メタ)アクリレートとしては、例えば、メチルアクリレート、エチルアクリレート、n-プロピルアクリレート、n-ブチルアクリレート、2-エチルヘキシルアクリレート等のアルキル基の炭素数が1~18のアルキルアクリレート;ヘキシルメタクリレート、2-エチルヘキシルメタクリレート、n-ドデシルメタクリレート等のアルキル基の炭素数1~18のアルキルメタクリレートが挙げられる。熱可塑性樹脂組成物から得られる成形品の耐衝撃性および光沢が向上することから、アルキル(メタ)アクリレートの中でも、n-ブチルアクリレートが好ましい。アルキル(メタ)アクリレートは1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0253】
≪疎水性物質≫
疎水性物質としては例えば、ヘキサデカン、オリーブ油、500~5000の質量平均分子量(Mw)を有するポリスチレン、500~5000の質量平均分子量(Mw)を有するシロキサン、セチルアルコール、ステアリルアルコール、パルミチルアルコール、ベヘニルアルコールが挙げられる。また、水不溶性モノマー、例えば炭素数12~22のカルボン酸のビニルエステル、炭素数12~30のアルコールのビニルエーテル、炭素数12~22のアルキルアクリレートが挙げられる。具体的には、疎水性モノマーとしては、アクリル酸ヘキシル、p-メチルスチレン、2-エチルヘキシルアクリレート、アクリル酸デシル、アクリル酸ステアリル、ラウリルメタクリレート、ステアリルメタクリレート等が挙げられる。疎水性の連鎖移動剤としては、ラウリルメルカプタン(ノルマルドデシルメルカプタン)が挙げられる。疎水性の過酸化物としては過酸化ラウロイル等が挙げられる。これらは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。これらのうち、特に限定されないが、疎水性物質としてはヘキサデカンを用いることが好ましい。
【0254】
疎水性物質を用いることにより、オストワルド熟成による粒径の不均一性の増大を抑制し、単分散なラテックス粒子を合成することが可能となる。
【0255】
疎水性物質の添加量としてはアルキル(メタ)アクリレート100質量部に対して0.1~10質量部が好ましく、さらに好ましくは1~3質量部である。
【0256】
≪乳化剤≫
ゴム質重合体を製造する際に用いる乳化剤はオレイン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、ロジン酸のアルカリ金属塩、アルケニルコハク酸のアルカリ金属塩等で例示されるカルボン酸系の乳化剤、アルキル硫酸エステル、アルキルベンゼンスルホン酸ナトリウム、アルキルスルホコハク酸ナトリウム、ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル硫酸エステルナトリウムなどの中から選ばれたアニオン系乳化剤等、公知の乳化剤を単独または2種以上を組み合わされて使用できる。
【0257】
乳化剤の添加量は、アルキル(メタ)アクリレート100質量部に対して0.01~1.0質量部が好ましく、さらに好ましくは0.05~0.5質量部である。
【0258】
≪ラジカル重合開始剤≫
ミニエマルション化工程後の重合工程で使用されるラジカル重合開始剤としては、第1発明の説明の項で複合ゴム状重合体(A)の製造に用いるものとして例示したものが挙げられる。ラジカル重合開始剤は、1種のみを用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0259】
ラジカル重合開始剤の添加量としては、アルキル(メタ)アクリレート100質量部に対して通常5質量部以下、好ましくは3質量部以下、例えば0.001~3質量部である。
【0260】
ラジカル重合開始剤の添加はミニエマルションを形成させる前後のいずれでもよく、添加方法は、一括、分割、連続のいずれでもよい。
【0261】
≪ゴム成分≫
ゴム質重合体(A-III)の製造に際して、混合物(i-III)中に他のゴム成分を存在させて複合ゴムからなるゴム質重合体(A-III)を製造してもよい。この場合、他のゴム成分としては、ポリブタジエン等のジエン系ゴム、ポリオルガノシロキサンなどが挙げられる。これらのゴム成分の存在下でアルキル(メタ)アクリレートを重合することでブチルアクリルゴム等のアルキル(メタ)アクリレート系ゴムとを複合してなるジエン/アルキル(メタ)アクリレート系複合ゴムや、ポリオルガノシロキシサン/アルキル(メタ)アクリレート系複合ゴムからなるゴム質重合体(A-III)が得られる。第4発明にかかわる複合ゴムはこれらに限定されるものではなく、また、複合させるゴム成分は1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0262】
≪架橋剤≫
ゴム質重合体(A-III)の製造に際しては、上記のアルキル(メタ)アクリレートから得られるポリアルキル(メタ)アクリレート成分に架橋構造を導入するために、混合物(i-III)に架橋剤を添加して重合させることが好ましい。架橋剤を用いて得られる架橋ゴム質重合体(A-III)であれば、その架橋部分が第4発明のグラフト共重合体(B-III)の製造の際にビニル単量体がグラフト結合するためのグラフト交叉点としても機能する。
【0263】
この場合に用いる架橋剤としては、例えば、アリル(メタ)アクリレート、ブチレンジ(メタ)アクリレート、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、プロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、1,3-ブチレングリコールジ(メタ)アクリレート、1,4-ブチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリアリルシアヌレート、トリアリルイソシアヌレートが挙げられる。架橋剤は1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0264】
架橋剤の使用量には特に制限はないが、架橋剤とアルキル(メタ)アクリレートとの合計100質量部に対して架橋剤が0.1~5.0質量部となる量であることが好ましい。
【0265】
<平均粒子径・粒子径分布>
上記のミニエマルション重合により得られる第4発明のゴム質重合体(A-III)は、好ましくは、平均粒子径(X)をXで表し、粒子径分布曲線における上限からの頻度の累積値が10%になったところの粒子径を頻度上限10%粒子径(Y)としてYで表し、粒子径分布曲線における下限からの頻度の累積値が10%になったところの粒子径を頻度下限10%粒子径(Z)としてZで表したとき、以下の(2)又は(3)を満たす。
(2)平均粒子径(X)がX≦300nm以下であり、頻度上限10%粒子径(Y)がY≦1.6X、頻度下限10%粒子径(Z)がZ≧0.7Xである。
(3)平均粒子径(X)がX=300~800nmであり、頻度上限10%粒子径(Y)がY≦1.7X、頻度下限10%粒子径(Z)がZ≧0.6Xである。
【0266】
第4発明のゴム質重合体(A-III)が上記(2)又は(3)の粒子径分布を満たす均一粒子径のものであることで、このゴム質重合体(A-III)を用いて製造されたグラフト共重合体(B-III)を熱可塑性樹脂組成物に配合することにより、耐衝撃性、成形外観および発色性に特に優れた熱可塑性樹脂成形品を得ることができる。ミニエマルション重合であれば、上記の平均粒子径および粒子径分布を満たすゴム質重合体(A-III)を容易に製造することができる。
【0267】
第4発明のゴム質重合体(A-III)の平均粒子径(X)はより好ましくは200~400nmである。第4発明のゴム質重合体(A-III)の粒子径分布は、より好ましくは頻度上限10%粒子径(Y)がY≦1.4X、頻度下限10%粒子径(Z)がZ≧0.8Xである。
【0268】
第4発明のゴム質重合体(A-III)の平均粒子径、粒子径分布は、後述の実施例の項に記載される方法で測定される。
【0269】
[グラフト共重合体(B-III)]
第4発明のグラフト共重合体(B-III)は、第4発明のゴム質重合体(A-III)に、芳香族ビニル化合物、(メタ)アクリル酸エステル、およびシアン化ビニル化合物から選ばれる少なくとも1種の単量体(以下、「グラフト単量体成分」と称す。)がグラフト重合されたものである。
【0270】
グラフト単量体成分は、芳香族ビニル化合物、(メタ)アクリル酸エステル、シアン化ビニル化合物以外のその他のビニル単量体を含んでいてもよい。
【0271】
これらのグラフト単量体成分のうち、芳香族ビニル化合物、好ましくはスチレンと、シアン化ビニル化合物、好ましくはアクリロニトリルの混合物を使用すると、グラフト共重合体(B-III)の熱安定性が優れるため好ましい。この場合、スチレン等の芳香族ビニル化合物とアクリロニトリル等のシアン化ビニル化合物との割合は、芳香族ビニル化合物50~90質量%に対してシアン化ビニル化合物10~50質量%であることが好ましい(ただし、芳香族ビニル化合物とシアン化ビニル化合物との合計で100質量%とする)。
【0272】
グラフト共重合体(B-III)は、ゴム質重合体(A-III)10~90質量%に対して、グラフト単量体成分90~10質量%を乳化グラフト重合させて得られるものであると、得られる成形品の外観が優れるため好ましい(ただし、ゴム質重合体(A-III)とグラフト単量体成分との合計で100質量%とする。)。この割合は、さらに好ましくは、ゴム質重合体(A-III)30~70質量%で、グラフト単量体成分70~30質量%である。
【0273】
ゴム質重合体(A-III)へのグラフト単量体成分のグラフト重合方法としては、ミニエマルション重合により得られたゴム質重合体(A-III)のラテックスにグラフト単量体成分を添加し、1段又は多段で重合する方法が挙げられる。多段で重合する場合には、ゴム質重合体(A-III)のゴムラテックスの存在下で、グラフト単量体成分を分割添加又は連続添加して重合することが好ましい。このような重合方法により良好な重合安定性が得られ、且つ所望の粒子径および粒子径分布を有するラテックスを安定に得ることができる。グラフト重合に用いる重合開始剤としては、前述のアルキル(メタ)アクリレートのミニエマルション重合に用いるラジカル重合開始剤と同様のものが挙げられる。
【0274】
ゴム質重合体(A-III)にグラフト単量体成分を重合する際には、ラテックスを安定化させ、得られるグラフト共重合体(B-III)の平均粒子径を制御するために、乳化剤を添加することができる。ここで用いる乳化剤としては、特に限定しないが、前述のアルキル(メタ)アクリレートのミニエマルション重合に用いる乳化剤と同様のものが挙げられる。乳化剤は、アニオン系乳化剤およびノニオン系乳化剤が好ましい。
【0275】
グラフト単量体成分を重合する際の乳化剤の使用量としては、特に限定しないが、得られるグラフト共重合体(B-III)100質量部に対して0.1~10質量部が好ましく、0.2~5質量部がより好ましい。
【0276】
乳化重合で得られたグラフト共重合体(B-III)のラテックスから、グラフト共重合体(B-III)を回収する方法としては、特に限定されないが、下記の方法が挙げられる。
【0277】
グラフト共重合体(B-III)のラテックスを、凝固剤を溶解させた熱水中に投入し、グラフト共重合体(B-III)を固化させる。次いで、固化したグラフト共重合体(B-III)を、水または温水中に再分散させてスラリーとし、グラフト共重合体(B-III)中に残存する乳化剤残渣を水中に溶出させ、洗浄する。次いで、スラリーを脱水機等で脱水し、得られた固体を気流乾燥機等で乾燥することによって、グラフト共重合体(B-III)を粉体または粒子として回収する。
【0278】
凝固剤としては、無機酸(硫酸、塩酸、リン酸、硝酸等)、金属塩(塩化カルシウム、酢酸カルシウム、硫酸アルミニウム等)等が挙げられる。凝固剤は、乳化剤の種類に応じて適宜選定される。例えば、乳化剤としてカルボン酸塩(脂肪酸塩、ロジン酸石鹸等)のみを用いた場合、どのような凝固剤を用いてもよい。乳化剤としてアルキルベンゼンスルホン酸ナトリウムのような酸性領域でも安定な乳化力を示す乳化剤を用いた場合、無機酸では不十分であり、金属塩を用いる必要がある。
【0279】
前述の好ましい平均粒子径および粒子径分布のゴム質重合体(A-III)を用いて上述のようにして製造される第4発明のグラフト共重合体(B-III)の平均粒子径は、通常150~600nm、好ましくは180~500nmである。
【0280】
グラフト共重合体(B-III)の平均粒子径は、後述の実施例の項に記載される方法で測定される。
【0281】
[熱可塑性樹脂組成物]
第4発明の熱可塑性樹脂組成物は、第4発明のグラフト共重合体(B-III)を含有する。熱可塑性樹脂組成物100質量部中のグラフト共重合体(B-III)の含有量は、20~60質量部が好ましい。熱可塑性樹脂組成物中のグラフト共重合体(B-III)の含有量が20質量部未満であると、ゴム量が少なくなり、得られる成形品の耐衝撃性が低下する傾向にある。熱可塑性樹脂組成物中のグラフト共重合体(B-III)の含有量が60質量部超であると、得られる成形品の顔料着色性や物性バランスに劣るものとなる傾向にある。
【0282】
耐衝撃性と発色性、その他の物性バランスを考慮すると、第4発明の熱可塑性樹脂組成物100質量部中のグラフト共重合体(B-III)の含有量は、30~40質量部がより好ましい。
【0283】
第4発明の熱可塑性樹脂組成物は、必要に応じて他の熱可塑性樹脂や添加剤を含有していてもよい。
【0284】
他の熱可塑性樹脂としては、例えばポリ塩化ビニル、ポリスチレン、アクリロニトリル-スチレン共重合体、スチレン-アクリロニトリル-N-フェニルマレイミド共重合体、α-メチルスチレン-アクリロニトリル共重合体、ポリメタクリル酸メチル、メタクリル酸メチル-スチレン共重合体、ポリカーボネート、ポリアミド、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレートなどのポリエステル、ポリフェニレンエーテル-ポリスチレン複合体などの1種又は2種以上が挙げられる。これらのうち、耐衝撃性と流動性の観点から、アクリロニトリル-スチレン共重合体が好ましい。
【0285】
添加剤としては、例えば顔料、染料等の着色剤、充填剤(カーボンブラック、シリカ、酸化チタン等)、難燃剤、安定剤、補強剤、加工助剤、耐熱剤、酸化防止剤、耐候剤、離型剤、可塑剤、帯電防止剤等が挙げられる。
【0286】
第4発明の熱可塑性樹脂組成物は、グラフト共重合体(B-III)と、必要に応じて他の熱可塑性樹脂や添加剤とをV型ブレンダやヘンシェルミキサー等により混合分散させ、これにより得られた混合物を押出機、バンバリーミキサ、加圧ニーダ、ロール等の混練機等を用いて溶融混練することにより製造される。
各成分の混合順序には特に制限はなく、全ての成分が均一に混合されればよい。
【0287】
[成形品]
第4発明の成形品は、第4発明の熱可塑性樹脂組成物を成形してなるものであり、耐衝撃性、成形外観および発色性に優れる。
【0288】
第4発明の熱可塑性樹脂組成物の成形方法は、第2発明の熱可塑性樹脂組成物の成形方法と同様であり、その好ましい成形方法も同様である。
【0289】
第4発明の熱可塑性樹脂組成物を成形してなる第4発明の成形品は、耐衝撃性、成形外観、発色性に優れることから、車両内外装部品、事務機器、家電、建材などに好適である。
【0290】
第4発明の熱可塑性樹脂組成物を成形してなる第4発明の成形品の工業的用途例としては、車両部品、特に無塗装で使用される各種外装・内装部品、壁材、窓枠等の建材部品、食器、玩具、掃除機ハウジング、テレビジョンハウジング、エアコンハウジング等の家電部品、インテリア部材、船舶部材および通信機器ハウジング等が挙げられる。
【実施例
【0291】
以下、具体的に実施例を示す。ただし、本発明は、以下の実施例に限定されるものではない。また、以下に記載の「%」は「質量%」、「部」は「質量部」を意味する。
【0292】
〔第1発明の実施例及び比較例〕
[測定・評価・操作方法]
以下の実施例および比較例における各種測定、評価及びそのための操作方法は以下の通りである。
【0293】
<平均粒子径>
複合ゴム状重合体(A)について、マイクロトラック(日機装社製「ナノトラック150」)を用い、測定溶媒として純水を用いて測定した体積平均粒子径(MV)を平均粒子径とした。
【0294】
<屈折率>
複合ゴム状重合体(A)および熱可塑性樹脂(D)の屈折率は、島津製作所製アッベ式屈折率計「KPR-30A」を用いて、23℃で測定した。複合ゴム状重合体(A)の屈折率は、複合ゴム状重合体(A)のエマルションからイソプロピルアルコールで複合ゴム状重合体(A)を沈殿回収し、乾燥したものについて測定した。
【0295】
<溶融混練1-1>
グラフト共重合体(C)と熱可塑性樹脂(D)を混合し、グラフト共重合体(C)と熱可塑性樹脂(D)の合計量100部に対して、カーボンブラック(三井化学社製「#966B」)0.8部を混合し、30mmφの真空ベント付き2軸押出機(池貝社製「PCM30」)で、シリンダー温度200~260℃、93.325kPa真空にて溶融混練を行い、黒着色の熱可塑性樹脂組成物を得た。溶融混練後に、ペレタイザー(創研社製「SH型ペレタイザー」)を用いてペレット化を行った。
【0296】
<溶融混練1-2>
グラフト共重合体(C)と熱可塑性樹脂(D)を混合し、30mmφの真空ベント付き2軸押出機(池貝社製「PCM30」)で、シリンダー温度200~260℃、93.325kPa真空にて溶融混練を行い、透明の熱可塑性樹脂組成物を得た。溶融混練後に、ペレタイザー(創研社製「SH型ペレタイザー」)を用いてペレット化を行った。
【0297】
<射出成形1-1>
溶融混練1-1及び/又は溶融混練1-2で得られた熱可塑性樹脂組成物のペレットを用いて、射出成形機(東芝機械社製「IS55FP-1.5A」)によりシリンダー温度200~270℃、金型温度60℃の条件で、縦80mm、横10mm、厚さ4mmの成形品を成形し、シャルピー衝撃試験用成形品として用いた。
【0298】
<射出成形1-2>
溶融混練1-1及び/又は溶融混練1-2で得られた熱可塑性樹脂組成物のペレットを用いて、射出成形機(東芝機械社製「IS55FP-1.5A」)によりシリンダー温度200~270℃、金型温度60℃の条件で、縦100mm、横100mm、厚さ2mmの成形品を成形し、発色性評価用成形品、透明性評価用成形品、耐候性評価用成形品として用いた。
【0299】
<発色性>
溶融混練1-1で得た黒着色の熱可塑性樹脂組成物を用いて成形した発色性評価用成形品について、分光測色計(コニカミノルタオプティプス社製「CM-3500d」)を用いて、SCE方式にて明度Lを測定した。測定されたLを「L(ma)」とする。Lが低いほど黒色となり、発色性が良好と判定した。
「明度(L)」とは、JIS Z 8729において採用されているL表色系における色彩値のうちの明度の値(L)を意味する。
「SCE方式」とは、JIS Z 8722に準拠した分光測色計を用い、光トラップによって正反射光を除去して色を測る方法を意味する。
【0300】
<透明性>
溶融混練1-2で得た透明の熱可塑性樹脂組成物を用いて成形した透明性評価用成形品について、ヘイズメーター(村上色彩研究所(株)製)によりヘイズ値(Hz)を測定した。ヘイズが小さいほど透明性が高いと判定した。
【0301】
<耐候性>
溶融混練1-1で得た黒着色の熱可塑性樹脂組成物を用いて成形した耐候性評価用成形品の場合は、この耐候性評価用成形品をサンシャインウェザーメーター(スガ試験機(株)製)を用い、ブラックパネル温度63℃、サイクル条件60分(降雨12分)の条件で1500時間処理した。その処理前後の変色の度合い(ΔE)を分光測色計(コニカミノルタオプティプス社製「CM-3500d」)で測定して評価した。ΔEが小さいほどを耐候性が良好とした。
【0302】
溶融混練1-2で得た透明の熱可塑性樹脂組成物を用いて成形した耐候性評価用成形品の場合は、この耐候性評価用成形品をサンシャインウェザーメーター(スガ試験機(株)製)を用い、ブラックパネル温度63℃、サイクル条件60分(降雨12分)の条件で1500時間処理した。その処理前後のヘイズの変化(ΔHz)をヘイズメーター(村上色彩研究所(株)製)にて測定した。ΔHzが小さいほど耐候性が良好とした。
【0303】
<耐衝撃性>
シャルピー衝撃試験用成形品について、ISO 179規格に従い、23℃の条件でシャルピー衝撃試験(ノッチなし)を行い、シャルピー衝撃強度を測定した。後述の熱可塑性樹脂(D2)であるアクリロニトリル-スチレン共重合樹脂を用いたものについては、ノッチ付きシャルピー衝撃試験で測定した。
【0304】
[グラフト共重合体の製造]
<製造例1-1:グラフト重合体(C1)>
≪複合ゴム状重合体(A1)の製造≫
信越化学(株)製ポリメチルフェニルシロキサン「HIVAC-F-5」(屈折率:1.575、粘度160mm/s)24部、アクリル酸n-ブチル75部、メタクリル酸アリル1部を混合し、混合物(Ac1)を得た。得られた混合物と、脱イオン水310部、アルケニルコハク酸ジカリウム1部、t-ブチルヒドロペルオキシド0.1部、およびヘキサデカン2.5部とを撹拌しながら、(株)日本精機製作所製「ULTRASONIC HOMOGENIZER US-600」を用いて振幅35μmで20分間、超音波照射を行い、混合物(Ac1)のミニエマルションを得た。
【0305】
試薬注入容器、冷却管、ジャケット加熱機および撹拌装置を備えた反応容器に、得られた混合物(Ac1)のミニエマルションを仕込み、反応容器内を窒素置換した後、55℃に昇温した。次いで、ロンガリット0.3部、硫酸第一鉄七水塩0.0001部、エチレンジアミン四酢酸二ナトリウム0.0003部、脱イオン水10部を添加し、重合を開始させた。重合発熱が確認された後、ジャケット温度を75℃にし、重合発熱が確認されなくなるまで重合を継続し、さらに1時間保持することで、複合ゴム状重合体(A1)のエマルションを得た。得られた複合ゴム状重合体(A1)のエマルションの体積平均粒子径は122nmであった。
【0306】
≪グラフト共重合体(C1)の製造≫
複合ゴム状重合体(A1)のエマルション(固形分50部)に、硫酸第一鉄七水塩0.0002部、エチレンジアミン四酢酸二ナトリウム0.0006部及びロンガリット0.25部をイオン交換水10部に溶解させた水溶液を添加した。次いで、メタクリル酸メチル49.2部、アクリル酸メチル0.8部とt-ブチルヒドロペルオキシド0.2部とを100分間かけて滴下させながら、75℃でグラフト重合させた。次いで、酢酸カルシウムを5%の割合で溶解した水溶液150部を60℃に加熱し撹拌しながら、得られたエマルションを徐々に滴下して凝固させた。得られた凝固物を分離し、洗浄した後、乾燥させて、グラフト共重合体(C1)の乾燥粉末を得た。
【0307】
<製造例1-2:グラフト重合体(C2)>
信越化学(株)製ポリメチルフェニルシロキサン「HIVAC F-5」24部、アクリル酸n-ブチル75部、メタクリル酸アリル1部の代わりに、信越化学(株)製ポリメチルフェニルシロキサン「KF-54」(屈折率:1.505、粘度400mm/s)66.3部、アクリル酸n-ブチル32.7部、メタクリル酸アリル1部を用いた以外は製造例1-1と同様の反応条件で反応を行うことで、複合ゴム状重合体(A2)、グラフト重合体(C2)を得た。複合ゴム状重合体(A2)の体積平均粒子径は125nmであった。
【0308】
<製造例1-3:グラフト重合体(C3)>
(株)日本精機製作所製「ULTRASONIC HOMOGENIZER US-600」を用いて振幅20μmで20分間、超音波照射を行った以外、製造例1-1と同様の反応条件で反応を行うことで、複合ゴム状重合体(A3)、グラフト重合体(C3)を得た。複合ゴム状重合体(A3)の体積平均粒子径は282nmであった。
【0309】
<製造例1-4:グラフト重合体(C4)>
≪複合ゴム状重合体(A4)の製造≫
信越化学(株)製ポリメチルフェニルシロキサン「HIVAC F-5」24部、アクリル酸n-ブチル75部、メタクリル酸アリル1部、t-ブチルヒドロペルオキシド0.1部を混合した。得られた混合物と脱イオン水310部、アルケニルコハク酸ジカリウム1部を、試薬注入容器、冷却管、ジャケット加熱機および撹拌装置を備えた反応容器に仕込み、反応容器内を窒素置換した後、55℃に昇温した。次いで、ロンガリット0.3部、硫酸第一鉄七水塩0.0001部、エチレンジアミン四酢酸二ナトリウム0.0003部、脱イオン水10部を添加し、重合を開始させた。重合発熱が確認された後、ジャケット温度を75℃にし、重合発熱が確認されなくなるまで重合を継続し、さらに1時間保持し、200メッシュの金網でろ過することで複合ゴム状重合体(A4)のエマルション得た。反応後の反応容器を確認すると、多量のオイル状の付着物が見られ、複合ゴム状重合体(A4)中に十分にポリメチルフェニルシロキサン「HIVAC F-5」が複合されていないことが確認された。複合ゴム状重合体(A4)の体積平均粒子径は102nmであった。
【0310】
≪グラフト重合体(C4)の製造≫
複合ゴム状重合体(A1)の代りに複合ゴム状重合体(A4)を用いたこと以外は、製造例1-1と同様にしてグラフト重合体(C4)を得た。
【0311】
<製造例1-5:グラフト重合体(C5)>
≪複合ゴム状重合体(A5)の製造≫
信越化学(株)製ポリメチルフェニルシロキサン「HIVAC F-5」24部と脱イオン水310部、アルケニルコハク酸ジカリウム1部とを撹拌しながら、(株)日本精機製作所製「ULTRASONIC HOMOGENIZER US-600」を用いて振幅35μmで20分間、超音波照射を行った。
【0312】
次いで、得られたポリメチルフェニルシロキサンのエマルション、ロンガリット0.3部、硫酸第一鉄七水塩0.0001部、エチレンジアミン四酢酸二ナトリウム0.0003部を、試薬注入容器、冷却管、ジャケット加熱機および撹拌装置を備えた反応容器に仕込み、反応容器を窒素置換した。70℃に昇温した後、アクリル酸n-ブチル75部、メタクリル酸アリル1部、t-ブチルヒドロペルオキシド0.1部を60分間滴下しながら重合を行った。次いで、ジャケット温度を75℃にし、さらに1時間保持することで、複合ゴム状重合体(A5)のエマルションを得た。得られた複合ゴム状重合体(A5)のエマルションの体積平均粒子径は142nmであった。
【0313】
≪グラフト重合体(C5)の製造≫
複合ゴム状重合体(A1)の代りに複合ゴム状重合体(A5)を用いたこと以外は、製造例1-1と同様にしてグラフト重合体(C5)を得た。
【0314】
<製造例1-6:グラフト重合体(C6)>
アルケニルコハク酸ジカリウムの添加量を0.7部とし、(株)日本精機製作所製「ULTRASONIC HOMOGENIZER US-600」の振幅を20μmとした以外、製造例1-5と同様の条件で反応を行うことで、複合ゴム状重合体(A6)、グラフト重合体(C6)を得た。複合ゴム状重合体(A6)の体積平均粒子径は302nmであった。
【0315】
<グラフト重合体(C7)>
ポリブタジエンとポリアクリル酸n-ブチルの複合ゴム状重合体にメタクリル酸メチルをグラフト重合したグラフト重合体(C7)として、ユーエムジー・エービーエス(株)製「MUX-60」を使用した。
【0316】
<製造例1-7:グラフト重合体(C8)>
複合ゴム状重合体の製造において、信越化学(株)製ポリメチルフェニルシロキサン「HIVAC F-5」24部、アクリル酸n-ブチル75部、メタクリル酸アリル1部の代わりに、信越化学(株)製ポリメチルフェニルシロキサン「HIVAC F-5」50部、アクリル酸n-ブチル49部、メタクリル酸アリル1部を用い、グラフト共重合体の製造において、メタクリル酸メチル49.2部、アクリル酸メチル0.8部を、スチレン35部、アクリロニトリル15部とした以外、製造例1-1と同様の条件で反応を行うことで、複合ゴム状重合体(A8)、グラフト重合体(C8)を得た。複合ゴム状重合体(A8)の体積平均粒子径は155nmであった。
【0317】
<製造例1-8:グラフト重合体(C9)>
複合ゴム状重合体の製造において、信越化学(株)製ポリメチルフェニルシロキサン「HIVAC F-5」24部、アクリル酸n-ブチル75部、メタクリル酸アリル1部の代りに、信越化学(株)製ポリジメチルシロキサン「KF-96-500cs」(屈折率:1.403、粘度500mm/s)14部、アクリル酸n-ブチル35部、メタクリル酸アリル1部を用い、グラフト共重合体の製造において、メタクリル酸メチル49.2部、アクリル酸メチル0.8部を、スチレン35部、アクリロニトリル15部とした以外、製造例1-1と同様の条件で反応を行うことで、複合ゴム状重合体(A9)、グラフト重合体(C9)を得た。複合ゴム状重合体(A9)の体積平均粒子径は111nmであった。
【0318】
<製造例1-9:グラフト重合体(C10)>
複合ゴム状重合体の製造において、信越化学(株)製ポリメチルフェニルシロキサン「HIVAC F-5」24部、アクリル酸n-ブチル75部、メタクリル酸アリル1部の代りに、信越化学(株)製ポリジメチルシロキサン「KF-96-500cs」14部、アクリル酸n-ブチル35部、メタクリル酸アリル1部を用い、グラフト共重合体の製造において、メタクリル酸メチル49.2部、アクリル酸メチル0.8部を、スチレン35部、アクリロニトリル15部とした以外、製造例1-5と同様の条件で反応を行うことで、複合ゴム状重合体(A10)、グラフト重合体(C10)を得た。複合ゴム状重合体(A10)の体積平均粒子径は138nmであった。
【0319】
<製造例1-10:グラフト重合体(C11)>
複合ゴム状重合体(A1)の代りに複合ゴム状重合体(A8)を用いたいこと以外は、製造例1-1と同様にしてグラフト重合体(C11)を得た。
【0320】
<製造例1-11:グラフト重合体(C12)>
複合ゴム状重合体の製造において、信越化学(株)製ポリメチルフェニルシロキサン「HIVAC F-5」24部、アクリル酸n-ブチル75部、メタクリル酸アリル1部の代わりに、信越化学(株)製ポリメチルフェニルシロキサン「HIVAC F-5」8部、アクリル酸n-ブチル91部、メタクリル酸アリル1部とした以外、製造例1-1と同様の条件で反応を行うことで、複合ゴム状重合体(A12)、グラフト重合体(C12)を得た。複合ゴム状重合体(A12)の体積平均粒子径は132nmであった。
【0321】
[熱可塑性樹脂の製造]
<製造例1-12:熱可塑性樹脂(D1)>
窒素置換した撹拌機付きステンレス反応容器に脱イオン水150部、メタクリル酸メチル99部、アクリル酸メチル1部、2,2’-アゾビス(イソブチロニトリル)0.2部、n-オクチルメルカプタン0.25部、カルシウムヒドロオキシアパタイト0.47部、アルケニルコハク酸カリウム0.003部を仕込んだ。反応容器の内温を75℃にして3時間反応させ、次いで90℃に昇温し1時間反応させた。内容物を抜き出し、遠心脱水機で洗浄し、乾燥させて粉状の熱可塑性樹脂(D1)を得た。
【0322】
<製造例1-13:熱可塑性樹脂(D2)>
窒素置換した撹拌機付きステンレス反応容器に、脱イオン水120部、カルシウムヒドロオキシアパタイト0.47部、アルケニルコハク酸カリウム0.003部、2,2’-アゾビス(イソブチロニトリル)0.3部、アクリロニトリル30部、スチレン70部、t-ドデシルメルカプタン0.35部を仕込み、開始温度75℃として5時間反応させ、次いで120℃に昇温して2時間反応させた。内容物を取り出し、遠心脱水機で洗浄し、乾燥させて粉状の熱可塑性樹脂(D2)を得た。
【0323】
<製造例1-14:熱可塑性樹脂(D3)>
窒素置換した撹拌機付きステンレス反応容器に脱イオン水150部、メタクリル酸メチル82部、N-フェニルマレイミド12部、スチレン6部、2,2’-アゾビス(イソブチロニトリル)0.2部、n-オクチルメルカプタン0.25部、カルシウムヒドロオキシアパタイト0.67部、アルケニルコハク酸カリウム0.003部を仕込んだ。反応容器の内温を75℃にして3時間反応させ、次いで90℃まで昇温し1時間反応させた。内容物を抜き出し、遠心脱水機で洗浄し、乾燥させて粉状の熱可塑性樹脂(D3)を得た。
【0324】
表1に、グラフト共重合体(C)に用いた複合ゴム状重合体(A)の体積平均粒子径及び屈折率と、熱可塑性樹脂(D)の屈折率をまとめて示す。
【0325】
【表1】
【0326】
[実施例1-1~1-5、比較例1-1~1-5]
表2に示す配合量でグラフト共重合体(C)と熱可塑性樹脂(D1)とを、上述の溶融混練1-1の方法でペレット化し、射出成形により各種成形品を得た。得られた成形品の発色性、耐候性、耐衝撃性を評価した。結果を表2に示す。
【0327】
【表2】
【0328】
実施例1-1~1-5に示すように、第1発明のグラフト共重合体(C)によれば耐候性、発色性、耐衝撃性に優れた熱可塑性樹脂組成物およびその成形品を得ることができる。一方、比較例1-1~1-3に示すように、混合物(Ac)のミニエマルション化を経ずに重合したグラフト重合体およびそれを用いた熱可塑性樹脂組成物は発色性に劣る。また、比較例1-4に示すように、複合ゴム状重合体にポリオルガノシロキサンではなくポリブタジエンを使用しているグラフト重合体を用いると耐候性に劣る。比較例1-5は、グラフト共重合体(C)を含まないことから耐衝撃性が劣る。
【0329】
[実施例1-6,1-7、比較例1-6]
表3に示す配合量でグラフト共重合体(C)と熱可塑性樹脂(D2)とを、上述の溶融混練1-1の方法でペレット化し、射出成形により各種成形品を得た。得られた成形品の発色性、耐候性、耐衝撃性を評価した。結果を表3に示す。
【0330】
【表3】
【0331】
実施例1-6,1-7に示すように、第1発明のグラフト共重合体(C)によれば、耐候性、発色性、耐衝撃性に優れた熱可塑性樹脂組成物およびその成形品を得ることができる。一方、比較例1-6に示すように、混合物(Ac)のミニエマルション化を経ずに重合したグラフト重合体を用いた熱可塑性樹脂組成物は発色性に劣る。
【0332】
[実施例1-8~1-10、比較例1-7、参考例1-1]
表4に示す配合量でグラフト共重合体(C)と熱可塑性樹脂(D1)又は熱可塑性樹脂(D3)とを、上述の溶融混練1-2の方法でペレット化し、射出成形により各種成形品を得た。得られた成形品の発色性、透明性、耐候性、耐衝撃性を評価した。結果を表4に示す。
【0333】
【表4】
【0334】
実施例1-8~1-10に示すように、第1発明においてグラフト共重合体(C)と熱可塑性樹脂(D)の屈折率差が0.02以下である場合には、透明性の高い熱可塑性樹脂組成物およびその成形品が得られる。一方、比較例1-7に示すように、混合物(Ac)のミニエマルション化を経ずに重合したグラフト重合体を用いた熱可塑性樹脂組成物は、複合ゴム状重合体(A)の組成が均一でなく、グラフト共重合体(C)と熱可塑性樹脂(D)の屈折率差が0.02以下であっても透明性が劣る。
【0335】
参考例1-1は、グラフト共重合体(C)と熱可塑性樹脂(D)との屈折率差が0.02を超えるため、透明性は劣るが、発色性、耐候性、耐衝撃性は良好である。
【0336】
〔第2発明の実施例及び比較例〕
[測定・評価方法]
以下の実施例および比較例における各種測定、評価及びそのための操作方法は以下の通りである。
【0337】
<数平均分子量(Mn)の測定>
GPC(GPC:Waters社製「GPC/V2000」、カラム:昭和電工社製「Shodex AT-G+AT-806MS」)を用い、o-ジクロロベンゼン(145℃)を溶媒として、ポリスチレン換算での数平均分子量(Mn)を測定した。
【0338】
<平均粒子径の測定>
マイクロトラック(日機装社製「ナノトラック150」)を用い、測定溶媒として純水を用いて測定した体積平均粒子径(MV)を平均粒子径とした。
グラフト架橋粒子(B-I)に分散している架橋粒子(A-I)の平均粒子径が、そのまま熱可塑性樹脂組成物中の架橋粒子(A-I)やグラフト架橋粒子(B-I)の平均粒子径を示すことを、電子顕微鏡の画像解析によって確認している。
【0339】
<溶融混練2-1>
架橋粒子(A-I)又はグラフト架橋粒子(B-I)と、熱可塑性樹脂(D-I)を混合し、30mmφの真空ベント付き2軸押出機(池貝社製「PCM30」)で、シリンダー温度200~260℃、93.325kPa真空にて溶融混練を行い、透明の熱可塑性樹脂組成物を得た。溶融混練後に、ペレタイザー(創研社製「SH型ペレタイザー」)を用いてペレット化を行った。
【0340】
<溶融混練2-2>
架橋粒子(A-I)又はグラフト架橋粒子(B-I)と、熱可塑性樹脂(D-I)と、更に架橋粒子(A-I)又はグラフト架橋粒子(B-I)と熱可塑性樹脂(D-I)の合計100部に対して、カーボンブラック(三井化学社製「#966B」)0.8部を混合し、30mmφの真空ベント付き2軸押出機(池貝社製「PCM30」)で、シリンダー温度200~260℃、93.325kPa真空にて溶融混練を行い、黒着色の熱可塑性樹脂組成物を得た。溶融混練後に、ペレタイザー(創研社製「SH型ペレタイザー」)を用いてペレット化を行った。
【0341】
<メルトボリュームレート(MVR)の測定>
溶融混練2-1で得られた熱可塑性樹脂組成物について、ISO 1133規格に従ってMVRを測定した。なお、MVRは熱可塑性樹脂組成物の流動性の目安となる。
【0342】
<射出成形2-1>
溶融混練2-1で得られた熱可塑性樹脂組成物のペレットを、射出成形機(東芝機械社製「IS55FP-1.5A」)によりシリンダー温度200~270℃、金型温度60℃の条件で、縦80mm、横10mm、厚さ4mmの成形品を成形し、シャルピー衝撃試験用成形品又は引張り試験用成形品として用いた。
【0343】
<射出成形2-2>
溶融混練2-2で得られた熱可塑性樹脂組成物のペレットを射出成形機(東芝機械社製「IS55FP-1.5A」)によりシリンダー温度200~270℃、金型温度60℃の条件で、縦100mm、横100mm、厚さ2mmの成形品を成形し、発色性評価用成形品、耐擦り傷性評価用成形品として用いた。
【0344】
<耐衝撃性の評価>
シャルピー衝撃試験用成形品について、ISO 179規格に従い、23℃の条件でシャルピー衝撃試験(ノッチあり)を行い、シャルピー衝撃強度を測定した。
【0345】
<発色性の評価>
発色性評価用成形品について、分光測色計(コニカミノルタオプティプス社製「CM-3500d」)を用いて、SCE方式にて明度Lを測定した。測定されたLを「L(ma)」とする。Lが低いほど黒色となり、発色性が良好と判定した。
「明度L」とは、JIS Z 8729において採用されているL表色系における色彩値のうちの明度の値(L)を意味する。
「SCE方式」とは、JIS Z 8722に準拠した分光測色計を用い、光トラップによって正反射光を除去して色を測る方法を意味する。
【0346】
<耐擦り傷性の評価>
図1に示すように、先端部1が略半球形に形成された棒状の治具2を用意し、該先端部1に、ガーゼを8枚重ねた積層シートSを被せた。成形品(試験片)Mの表面に対して、棒状の治具2が直角になるように、積層シートSが被せられた先端部1を接触させ、該先端部1を成形品Mの表面において水平方向(図中矢印X方向)に摺動させ、100回往復させた。その際、加える荷重は1kgとした。100回往復させた後、傷を付けた成形品Mの表面の明度Lを、上記発色性の評価と同様に、分光測色計を用いてSCE方式にて測定した。測定されたLを「L(mc)」とする。
【0347】
(耐擦り傷性の判定)
成形品Mの傷の目立ちやすさの判定指標ΔLを、上記の発色性の評価で得られた「L(ma)」と「L(mc)」から、下記式(5)で算出した。ΔL(mc-ma)の絶対値が大きいほど傷が目立ちやすい。
ΔL(mc-ma)=L(mc)-L(ma) …(5)
ΔL(mc-ma)の絶対値から下記基準で評価し、◎と○の場合は、耐擦り傷性があると判定した。
◎:ΔL(mc-ma)の絶対値が2.0以下。傷が目立たず、成形品の意匠性を損なわない。
○:ΔL(mc-ma)の絶対値が2.0超~5.0以下。傷は目立ちにくく、成形品の意匠性を損なわない。
×:ΔL(mc-ma)の絶対値が5.0超。傷が目立ち、成形品の意匠性を損なう。
【0348】
<成形収縮率の測定>
ASTMD955により、引張り試験用成形品について、金型寸法からの成形収縮率を測定した。この成形収縮率は0.7%以下が好ましい。
【0349】
[ジ(メタ)アクリル酸エステル(a)の製造]
<製造例2-1:ジ(メタ)アクリル酸エステル(a-1)>
蒸留装置を取り付けた反応容器に、ポリテトラメチレングリコール(PTMG650;Mn650;三菱化学製)32.5部、アクリル酸メチル21.52部、ヒドロキノン0.034部、テトラブトキシチタン0.17部、及びトルエン250部を入れ、常圧下、窒素気流中、バス温130~140℃で9時間加熱攪拌した。この間、メタノールを含む液を蒸留で留出させた。反応後、反応液に水3.0部を添加してバス温90℃で2時間攪拌した。次いで、不溶物を吸引濾過で除去し、トルエンを減圧下、120℃で留去し、低沸点成分(アクリル酸メチル、残存トルエン等)を50~20mmHg/バス温120~190℃で留去して、無色透明のポリテトラメチレングリコールジアクリレート(ジ(メタ)アクリル酸エステル(a-1))を得た。ジ(メタ)アクリル酸エステル(a-1)について、GPCにより測定した数平均分子量(Mn)は670であった。
【0350】
<製造例2-2:ジ(メタ)アクリル酸エステル(a-2)>
ポリテトラメチレングリコールとして、ポリテトラメチレングリコール(PTMG850;Mn850;三菱化学製)42.5部を用いたこと以外は、製造例2-1と同様にして、無色透明のポリテトラメチレングリコールジアクリレート(ジ(メタ)アクリル酸エステル(a-2))を得た。ジ(メタ)アクリル酸エステル(a-2)について、GPCにより測定した数平均分子量(Mn)は860であった。
【0351】
<製造例2-3:ジ(メタ)アクリル酸エステル(a-3)>
ポリテトラメチレングリコールとして、ポリテトラメチレングリコール(PTMG1000;Mn1000;三菱化学製)50.0部を用いたこと以外は、製造例2-1と同様にして、無色透明のポリテトラメチレングリコールジアクリレート(ジ(メタ)アクリル酸エステル(a-3))を得た。ジ(メタ)アクリル酸エステル(a-3)について、GPCにより測定した数平均分子量(Mn)は1010であった。
【0352】
<製造例2-4:ジ(メタ)アクリル酸エステル(a-4)>
ポリテトラメチレングリコールとして、ポリテトラメチレングリコール(PTMG1500;Mn1500;三菱化学製)75.0部を用いたこと以外は、製造例2-1と同様にして、無色透明のポリテトラメチレングリコールジアクリレート(ジ(メタ)アクリル酸エステル(a-4))を得た。ジ(メタ)アクリル酸エステル(a-4)について、GPCにより測定した数平均分子量(Mn)は1560であった。
【0353】
<製造例2-5:ジ(メタ)アクリル酸エステル(a-5)>
ポリテトラメチレングリコールとして、ポリテトラメチレングリコール(PTMG2000;Mn2000;三菱化学製)100.0部を用いたこと以外は、製造例2-1と同様にして、無色透明のポリテトラメチレングリコールジアクリレート(ジ(メタ)アクリル酸エステル(a-5))を得た。ジ(メタ)アクリル酸エステル(a-5)について、GPCにより測定した数平均分子量(Mn)は2070であった。
【0354】
<製造例2-6:ジ(メタ)アクリル酸エステル(a-6)>
ポリテトラメチレングリコールとして、ポリテトラメチレングリコール(PTMG3000;Mn3000;三菱化学製)150.0部を用いたこと以外は、製造例2-1と同様にして、無色透明のポリテトラメチレングリコールジアクリレート(ジ(メタ)アクリル酸エステル(a-6))を得た。ジ(メタ)アクリル酸エステル(a-6)について、GPCにより測定した数平均分子量(Mn)は3020であった。
【0355】
<製造例2-7:ジ(メタ)アクリル酸エステル(a-7)>
ポリテトラメチレングリコールの代りに、ポリエチレングリコール(PEG6000;Mn6000;東邦化学製)300.0部を用いたこと以外は、製造例2-1と同様にして、白色のポリエチレングリコールジアクリレート(ジ(メタ)アクリル酸エステル(a-7))を得た。ジ(メタ)アクリル酸エステル(a-7)について、GPCにより測定した数平均分子量(Mn)は6040であった。
【0356】
<製造例2-8:ジ(メタ)アクリル酸エステル(a-8)>
ポリテトラメチレングリコールの代りに、ポリエチレングリコール(PEG8000;Mn8000;MPバイオメディカルズ製)400.0部を用いたこと以外は、製造例2-1と同様にして、白色のポリエチレングリコールジアクリレート(ジ(メタ)アクリル酸エステル(a-8))を得た。ジ(メタ)アクリル酸エステル(a-8)について、GPCにより測定した数平均分子量(Mn)は8010であった。
【0357】
<製造例2-9:ジ(メタ)アクリル酸エステル(a-9)>
ポリテトラメチレングリコールの代りに、ポリエチレングリコール(PEG10000;Mn10000;東邦化学製)500.0部を用いたこと以外は、製造例2-1と同様にして、白色のポリエチレングリコールジアクリレート(ジ(メタ)アクリル酸エステル(a-9))を得た。ジ(メタ)アクリル酸エステル(a-9)について、GPCにより測定した数平均分子量(Mn)は10040であった。
【0358】
<製造例2-10:ジ(メタ)アクリル酸エステル(a-10)>
ポリテトラメチレングリコールの代りに、ポリカプロラクトンジオール(プラクセル220N;Mn2000;ダイセル製)100.0部を用いたこと以外は、製造例2-1と同様にして、無色透明のポリカプロラクトンジオールジアクリレート(ジ(メタ)アクリル酸エステル(a-10))を得た。ジ(メタ)アクリル酸エステル(a-10)について、GPCにより測定した数平均分子量(Mn)は2040であった。
【0359】
<製造例2-11:ジ(メタ)アクリル酸エステル(a-11)>
ポリテトラメチレングリコールの代りに、ポリカーボネートジオール(UH-200;Mn2000;宇部興産製)100.0部を用いたこと以外は、製造例2-1と同様にして、無色透明のポリカーボネートジオールジアクリレート(ジ(メタ)アクリル酸エステル(a-11))を得た。ジ(メタ)アクリル酸エステル(a-11)について、GPCにより測定した数平均分子量(Mn)は2020であった。
【0360】
<製造例2-12:ジ(メタ)アクリル酸エステル(a-12)>
ポリテトラメチレングリコールとして、ポリテトラメチレングリコール(PTMG3000;Mn3000;三菱化学製)150.0部を用い、アクリル酸メチルの代りにメタクリル酸メチル25.02部を用いた以外は、製造例2-1と同様にして、無色透明のポリテトラメチレングチコールジメタクリレート(ジ(メタ)アクリル酸エステル(a-12))を得た。ジ(メタ)アクリル酸エステル(a-12)について、GPCにより測定した数平均分子量(Mn)は3020であった。
【0361】
製造例2-1~2-12で得られたジ(メタ)アクリル酸エステル(a-1)~(a-12)の成分組成、数平均分子量(Mn)を、下記表5にまとめて示す。
【0362】
【表5】
【0363】
[架橋粒子(A-I)又はグラフト架橋粒子(B-I)の製造]
<製造例2-13:架橋粒子(A-I-1)>
ジ(メタ)アクリル酸エステル(a-1)40部に、スチレン40部、アクリロニトリル20部、脱イオン水310部、アルケニルコハク酸ジカリウム1部、t-ブチルヒドロペルオキシド0.2部及びヘキサデカン2.5部を加え、撹拌しながら、(株)日本精機製作所製ULTRASONIC HOMOGENIZERを用いて振幅出力80%で20分の間、超音波照射を行うことでジ(メタ)アクリル酸エステル(a-1)が溶解したスチレン-アクリロニトリル溶液のミニエマルションを得た。
【0364】
試薬注入容器、冷却管、ジャケット加熱機および撹拌装置を備えた反応容器に、ジ(メタ)アクリル酸エステル(a-1)が溶解したスチレン-アクリロニトリル溶液のミニエマルションを仕込み、反応容器を窒素置換した後、55℃に昇温した。次いで、ナトリウムホルムアルデヒドスルホキシレート0.3部、硫酸第一鉄七水塩0.0001部、エチレンジアミン四酢酸二ナトリウム0.0003部、脱イオン水10部を添加し、重合を開始させた。重合発熱が確認された後、ジャケット温度を80℃にし、重合発熱が確認されなくなるまで重合を継続し、さらに1時間保持することで、架橋粒子(A-I-1)の水分散体を得た。得られた架橋粒子(A-I-1)の水分散体について測定した架橋粒子(A-I-1)の体積平均粒子径は0.15μmであった。次いで、架橋粒子(A-I-1)の水分散体を5%の硫酸を用いて凝固、水洗、乾燥し、架橋粒子(A-I-1)を得た。
【0365】
<製造例2-14:架橋粒子(A-I-2)~(A-I-13)>
ジ(メタ)アクリル酸エステル(a-1)の代りにジ(メタ)アクリル酸エステル(a-2)~(a-12)を用い、表6に示す単量体組成としたこと以外は、製造例2-13と同様にして架橋粒子(A-I-2)~(A-I-13)を得た。
【0366】
架橋粒子(A-I-1)~(A-I-13)の体積平均粒子径を表6に示す。
【0367】
【表6】
【0368】
<製造例2-15:グラフト架橋粒子(B-I-1)>
撹拌機付きステンレス重合槽に、架橋粒子(A-I-6)の水分散体(固形分として70部)を入れ、アルケニルコハク酸カリウム0.4部と硫酸第一鉄七水塩0.002部、ナトリウムアルデヒドスルホキシド0.64部、エチレンジアミン-N,N,N’,N’-四カルボン酸二ナトリウム0.006部を追加した。ここへスチレン20部、アクリロニトリル10部、t-ブチルハイドロパーオキサイド0.45部の混合液を100分かけて加え、30分間保持することで反応を完結させた。反応生成物のラテックスを硫酸水溶液で凝固、水洗した後、乾燥してグラフト架橋粒子(B-I-1)を得た。水分散体の体積平均粒子径は0.15μm、グラフト率は43%であった。
【0369】
[熱可塑性樹脂の製造]
<製造例2-16:熱可塑性樹脂(D-I-1)>
撹拌機付きステンレス重合槽にイオン交換水150部、スチレン67部、アクリロニトリル33部、2,2’-アゾビス(イソブチロニトリル)0.2部、n-オクチルメルカプタン0.25部、カルシウムヒドロオキシアパタイト0.47部、アルケニルコハク酸カリウム0.003部を仕込んだ。重合槽の内温を75℃にして3時間反応させ、90℃に昇温し1時間反応させた。内容物を抜き出し、遠心脱水機で洗浄し、乾燥させて粉状の熱可塑性樹脂(D-I-1)を得た。
【0370】
<製造例2-17:熱可塑性樹脂(D-I-2)>
スチレンを75部、アクリロニトリルを25部用いた以外は、製造例2-16と同様の方法で行い、粉状の熱可塑性樹脂(D-I-2)を得た。
【0371】
<製造例2-18:熱可塑性樹脂(D-I-3)>
スチレンを54部、アクリロニトリルを26部とし、更にN-フェニルマレイミドを20部用いた以外は、製造例2-16と同様の方法で行い、粉状の熱可塑性樹脂(D-I-3)を得た。
【0372】
[他の熱可塑性樹脂]
その他の熱可塑性樹脂として以下のものを用いた。
熱可塑性樹脂(D-I-4):UMGABS(株)製AAS(ASA)樹脂(アクリルゴム分散AS樹脂);S310
熱可塑性樹脂(D-I-5):UMGABS(株)製ABS樹脂(ブタジエンゴム分散AS樹脂);EX18A
熱可塑性樹脂(D-I-6):UMGABS(株)製AES樹脂(エチレン・α-オレフィンゴム分散AS樹脂);ESA30
熱可塑性樹脂(D-I-7):三菱エンジニアリングプラスチックス(株)製ポリカーボネート;ノバレックス7025R
【0373】
熱可塑性樹脂(D-I-1)~(D-I-7)の単量体組成等を下記表7にまとめて示す。
【0374】
【表7】
【0375】
[実施例2-1~2-17、比較例2-1~2-7]
表8~10に示す配合量で架橋粒子(A-I)又はグラフト架橋粒子(B-I)と熱可塑性樹脂(D-I)とを用い、上述の溶融混練2-1又は2-2の方法でペレット化し、射出成形2-1又は2-2により各種成形品を得た。溶融混練2-1で得た熱可塑性樹脂組成物についてMVRを測定した。また、得られた成形品について、耐衝撃性、発色性、耐擦り傷性、成形収縮率を評価した。結果を表8~10に示す。
【0376】
【表8】
【0377】
【表9】
【0378】
【表10】
【0379】
表8~10より明らかなように、実施例2-1~2-17の熱可塑性樹脂組成物は流動性に優れていた。実施例2-1~2-17で得られた成形品は、耐衝撃性、発色性、耐擦り傷性、成形収縮率に優れていた。一方で、第2発明の規定を満たさない比較例2-1~2-7では、流動性や、成形品の耐衝撃性、発色性、耐擦り傷性、成形収縮率のいずれかが劣っていた。即ち、Mnが800未満のジ(メタ)アクリル酸エステル(a)を用いた架橋粒子を配合した比較例2-1では耐衝撃性、耐擦り傷性が悪い。Mnが9,000を超えるジ(メタ)アクリル酸エステル(a)を用いた架橋粒子を配合した比較例2-2では、流動性、発色性が悪い。熱可塑性樹脂のみで、第2発明の架橋粒子(A-I)やグラフト架橋粒子(B-I)を配合していない比較例2-3~2-7では、各々の熱可塑性樹脂に由来する欠点があり、流動性、耐衝撃性、耐擦り傷性、成形収縮率のすべてを満足することはできない。
【0380】
これらの結果から、第2発明の架橋粒子(A-I)及びグラフト架橋粒子(B-I)は、熱可塑性樹脂の発色性、成形収縮率を損なうことなく、流動性、耐衝撃性、耐擦り傷性を改善することができ、車両内外装部品、事務機器、家電、建材などの用途に好適に適用できることが分かる。
【0381】
〔第3発明の実施例及び比較例〕
[測定・評価方法]
以下の実施例および比較例における各種測定、評価及びそのための操作方法は以下の通りである。
【0382】
<数平均分子量(Mn)の測定>
GPC(GPC:Waters社製「GPC/V2000」、カラム:昭和電工社製「Shodex AT-G+AT-806MS」)を用い、o-ジクロロベンゼン(145℃)を溶媒として、ポリスチレン換算での数平均分子量(Mn)を測定した。
【0383】
<平均粒子径の測定>
マイクロトラック(日機装社製「ナノトラック150」)を用い、測定溶媒として純水を用いて測定した体積平均粒子径(MV)を平均粒子径とした。
なお、グラフト架橋粒子(B-II)に分散している架橋粒子(A-II)の平均粒子径が、そのまま熱可塑性樹脂組成物中の架橋粒子(A-II)やグラフト架橋粒子(B-II)の平均粒子径を示すことを、電子顕微鏡の画像解析によって確認している。
【0384】
<凝塊物の質量割合>
水性分散体を100メッシュのステンレス製金網で濾過し、メッシュ上の残留分を水洗、乾燥した後、濾過残留固形分の質量を測定した。下記式(6)により水性分散体中の凝塊物の質量割合を求めた。この割合は少ないほど、工程通過性が良好であり好ましく、0.3%以下であることが好ましい。
凝塊物の質量割合(質量%)
=[濾過残留固形分の質量(g)/全固形分の質量(g)]×100 …(6)
【0385】
<溶融混練3-1>
架橋粒子(A-II)又はグラフト架橋粒子(B-II)と、熱可塑性樹脂(D-II)を混合し、30mmφの真空ベント付き2軸押出機(池貝社製「PCM30」)で、シリンダー温度200~260℃、93.325kPa真空にて溶融混練を行い、透明の熱可塑性樹脂組成物を得た。さらに、溶融混練後に、ペレタイザー(創研社製「SH型ペレタイザー」)を用いてペレット化を行った。
【0386】
<溶融混練3-2>
架橋粒子(A-II)又はグラフト架橋粒子(B-II)と、熱可塑性樹脂(D-II)と、更に架橋粒子(A-II)又はグラフト架橋粒子(B-II)と熱可塑性樹脂(D-II)の合計100部に対して、カーボンブラック(三井化学社製「#966B」)0.8部を混合し、30mmφの真空ベント付き2軸押出機(池貝社製「PCM30」)で、シリンダー温度200~260℃、93.325kPa真空にて溶融混練を行い、黒着色の熱可塑性樹脂組成物を得た。さらに、溶融混練後に、ペレタイザー(創研社製「SH型ペレタイザー」)を用いてペレット化を行った。
【0387】
<メルトボリュームレート(MVR)の測定>
溶融混練3-1で得られた熱可塑性樹脂組成物について、ISO 1133規格に従ってMVRを測定した。なお、MVRは熱可塑性樹脂組成物の流動性の目安となる。
【0388】
<射出成形3-1>
溶融混練3-1で得られた熱可塑性樹脂組成物のペレットを、射出成形機(東芝機械社製「IS55FP-1.5A」)によりシリンダー温度200~270℃、金型温度60℃の条件で、縦80mm、横10mm、厚さ4mmの成形品を成形し、シャルピー衝撃試験用成形品として用いた。
【0389】
<射出成形3-2>
溶融混練3-1で得られた熱可塑性樹脂組成物のペレットを用いて、射出成形機(東芝機械社製「IS55FP-1.5A」)によりシリンダー温度200~270℃、金型温度60℃の条件で、縦100mm、横100mm、厚さ2mmの成形品を成形し、透明性評価用成形品、耐候性評価用成形品として用いた。
【0390】
溶融混練3-2で得られた熱可塑性樹脂組成物のペレットを射出成形機(東芝機械社製「IS55FP-1.5A」)によりシリンダー温度200~270℃、金型温度60℃の条件で、縦100mm、横100mm、厚さ2mmの成形品を成形し、発色性評価用成形品、耐擦り傷性評価用成形品として用いた。
【0391】
<耐衝撃性の評価>
シャルピー衝撃試験用成形品について、第2発明におけると同様に、シャルピー衝撃強度を測定した。
【0392】
<発色性の評価>
発色性評価用成形品について、第2発明におけると同様に発色性の評価を行った。
【0393】
<耐擦り傷性の評価>
図1に示す方法で、第2発明におけると同様に耐擦り傷性の評価及び判定を行った。
【0394】
<耐候性の評価>
サンシャインウェザーメーター(スガ試験機(株)製)を用いて、耐候性評価用成形品をブラックパネル温度63℃、サイクル条件60分(降雨12分)の条件で1000時間処理した。その処理前後の変色の度合い(ΔE)を色差計で測定して評価した。
ΔEが小さいほど耐候性が良好であり、○以上を耐候性があると判定した。
◎:0以上1未満。変色しておらず、成形品の意匠性を損なわない。
○:1以上3未満。ほとんど変色しておらず、成形品の意匠性を損なわない。
△:5以上10未満。わずかに変色しており、成形品の意匠性を損なう。
×:10以上。大きく変色しており、成形品の意匠性を損なう。
【0395】
<透明性の評価>
透明性評価用成形品について、Hazeメーター(村上色彩研究所(株)製)を用い、曇り度(Haze)を測定した。曇り度が低いほど、透明性が高いことを意味する。
透明性は以下の判定基準に従って評価し、○以上を透明性があると判定した。
◎:0%以上5%未満
○:5%以上10%未満
△:10%以上30%未満
×:30%以上
【0396】
[ジ(メタ)アクリル酸エステル(a)の製造]
第2発明の製造例2-1~2-12と同様にして、ジ(メタ)アクリル酸エステル(a-1)~(a-12)を製造した。ジ(メタ)アクリル酸エステル(a-1)~(a-12)の成分組成、数平均分子量(Mn)は、第2発明における表5に示す通りである。
【0397】
<製造例3-1:架橋粒子(A-II-1)>
ジ(メタ)アクリル酸エステル(a-1)40部に、メタクリル酸メチル50部、スチレン10部に、脱イオン水310部、アルケニルコハク酸ジカリウム1部、t-ブチルヒドロペルオキシド0.2部、及びヘキサデカン2.5部を加え、撹拌しながら、(株)日本精機製作所製ULTRASONIC HOMOGENIZERを用いて振幅出力80%で20分の間、超音波照射を行うことでジ(メタ)アクリル酸エステル(a-1)が溶解したメタクリル酸メチル溶液のミニエマルションを得た。
【0398】
試薬注入容器、冷却管、ジャケット加熱機および撹拌装置を備えた反応容器に、ジ(メタ)アクリル酸エステル(a-1)が溶解したメタクリル酸メチル溶液のミニエマルションを仕込み、反応容器を窒素置換した後、55℃に昇温した。次いで、ナトリウムホルムアルデヒトスルホキシレート0.3部、硫酸第一鉄七水塩0.0001部、エチレンジアミン四酢酸二ナトリウム0.0003部、脱イオン水10部を添加し、重合を開始させた。重合発熱が確認された後、ジャケット温度を80℃にし、重合発熱が確認されなくなるまで重合を継続し、さらに1時間保持することで、架橋粒子(A-II-1)の水分散体を得た。得られた架橋粒子(A-II-1)の水分散体について測定した架橋粒子(A-II-1)の体積平均粒子径は0.15μmであり、凝塊物の質量割合は0.001%であった。次いで、架橋粒子(A-II-1)の水分散体を5%の硫酸を用いて凝固、水洗、乾燥し、架橋粒子(A-II-1)を得た。
【0399】
<製造例3-2:架橋粒子(A-II-2)~(A-II-12)>
ジ(メタ)アクリル酸エステル(a-1)の代りにジ(メタ)アクリル酸エステル(a-2)~(a-12)を用い、表11に示す単量体組成としたこと以外は、製造例3-1と同様にして架橋粒子(A-II-2)~(A-II-12)を得た。
【0400】
架橋粒子(A-II-1)~(A-II-12)の製造時の凝塊物の質量割合と体積平均粒子径を表11に示す。
【0401】
【表11】
【0402】
<製造例3-3:架橋粒子(A-II-13)~(A-II-24)>
ジ(メタ)アクリル酸エステル(a-1)の代りにジ(メタ)アクリル酸エステル(a-6)を用い、表12に示す単量体組成としたこと以外は、製造例3-1と同様にして架橋粒子(A-II-13)~(A-II-24)を得た。
【0403】
架橋粒子(A-II-13)~(A-II-24)の製造時の凝塊物の質量割合と体積平均粒子径を表12に示す。
【0404】
【表12】
【0405】
<製造例3-4:架橋粒子(A-II-25)>
ジ(メタ)アクリル酸エステル(a-6)40部、メタクリル酸メチル50部、アルケニルコハク酸ジカリウム3部を用い、(株)日本精機製作所製ULTRASONIC HOMOGENIZERの振幅出力を90%とした以外は、製造例3-1と同様の方法で行うことで、架橋粒子(A-II-25)の水分散体を得た。架橋粒子(A-II-25)の体積平均粒子径は0.06μmであり、凝塊物の質量割合は0.001%であった。
【0406】
<製造例3-5:架橋粒子(A-II-26)>
アルケニルコハク酸ジカリウムを2部用いた以外は、製造例3-4と同様の方法で行うことで、架橋粒子(A-II-26)の水分散体を得た。架橋粒子(A-II-26)の体積平均粒子径は0.09μmであり、凝塊物の質量割合は0.001%であった。
【0407】
<製造例3-6:架橋粒子(A-II-27)>
アルケニルコハク酸ジカリウムを0.4部用い、(株)日本精機製作所製ULTRASONIC HOMOGENIZERの振幅出力を30%とした以外は、製造例3-4と同様の方法で行うことで、架橋粒子(A-II-27)の水分散体を得た。架橋粒子(A-II-27)の体積平均粒子径は0.45μmであり、凝塊物の質量割合は0.003%であった。
【0408】
<製造例3-7:架橋粒子(A-II-28)>
試薬注入容器、冷却管、ジャケット加熱機および撹拌装置を備えた反応容器に、脱イオン水200部、オレイン酸カリウム2.1部、ジオクチルスルホコハク酸ナトリウム4.2部、硫酸第一鉄七水塩0.003部、エチレンジアミン四酢酸ナトリウム0.009部、ナトリウムホルムアルデヒドスルホキシレート0.3部を仕込み、反応容器を窒素置換した後、60℃に昇温した。次いで、アクリル酸ブチル81.4部、アクリル酸18.6部、クメンヒドロパーオキサイド0.5部を2時間かけて滴下した後、さらに2時間反応させることで酸基含有共重合体の水分散体を得た。
【0409】
架橋粒子(A-II-6)の水分散体100部(固形分換算)にピロリン酸ナトリウム2.4部を5%水溶液として反応器内に添加し、十分撹拌した後、酸基含有共重合体の水分散体1.8部(固形分換算)を添加した。内温30℃を保持したまま30分撹拌することで、架橋粒子(A-II-28)およびその水分散体を得た。架橋粒子(A-II-28)の体積平均粒子径は0.57μmであり、凝塊物の質量割合は0.01%であった。
【0410】
<製造例3-8:架橋粒子(A-II-29)>
架橋粒子(A-II-6)の水分散体100部(固形分換算)に、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム0.15部を添加した後、5%酢酸水溶液30部を30分間かけて滴下した。滴下終了後10%水酸化ナトリウム水溶液を10分間かけて滴下し、架橋粒子(A-II-29)の水分散体を得た。架橋粒子(A-II-29)の体積平均粒子径は0.88μmであり、凝塊物の質量割合は0.01%であった。
【0411】
<製造例3-9:架橋粒子(A-II-30)>
5%酢酸水溶液の使用量を50部とした以外は、製造例3-8と同様の方法で行うことで、架橋粒子(A-II-30)の水分散体を得た。架橋粒子(A-II-30)の体積平均粒子径は1.2μmであり、凝塊物の質量割合は0.04%であった。
【0412】
<製造例3-10:架橋粒子(A-II-31)>
架橋粒子(A-II-6)の水分散体100部(固形分換算)に、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム0.15部を添加した後、20%酢酸水溶液30部を40分間かけて滴下した。滴下終了後10%水酸化ナトリウム水溶液を10分間かけて滴下し、架橋粒子(A-II-31)の水分散体を得た。架橋粒子(A-II-31)の体積平均粒子径は2.1μmであり、凝塊物の質量割合は0.05%であった。
【0413】
<製造例3-11:架橋粒子(A-II-32)>
ジ(メタ)アクリル酸エステル(a-12)40部、アクリル酸n-ブチル40部、スチレン20部を用いた以外は、製造例3-1と同様の方法で行うことで、架橋粒子(A-II-32)の水分散体を得た。架橋粒子(A-II-32)の体積平均粒子径は0.15μmであり、凝塊物の質量割合は0.001%であった。
【0414】
<製造例3-12:架橋粒子(A-II-33)>
試薬注入容器、冷却管、ジャケット加熱機および撹拌装置を備えた反応容器に、ジ(メタ)アクリル酸エステル(a-6)40部に、メタクリル酸メチル50部、スチレン10部、脱イオン水310部、アルケニルコハク酸ジカリウム1部、t-ブチルヒドロペルオキシド0.2部を加え、反応容器を窒素置換した後、55℃に昇温した。次いで、ナトリウムホルムアルデヒトスルホキシレート0.3部、硫酸第一鉄七水塩0.0001部、エチレンジアミン四酢酸二ナトリウム0.0003部、脱イオン水10部を添加し、重合を開始させた。重合発熱が確認された後、ジャケット温度を80℃にし、重合発熱が確認されなくなるまで重合を継続し、さらに1時間保持することで、架橋粒子(A-II-33)の水分散体を得た。架橋粒子(A-II-33)の体積平均粒子径は0.47μmであり、凝塊物の質量割合は2.5%であった。
【0415】
架橋粒子(A-II-25)~(A-II-33)の製造時の凝塊物の質量割合と体積平均粒子径を表13,14に示す。
【0416】
【表13】
【0417】
【表14】
【0418】
<製造例3-13:グラフト架橋粒子(B-II-1)>
撹拌機付きステンレス重合槽に、架橋粒子(A-II-1)の水分散体(固形分として70部)を入れ、アルケニルコハク酸カリウム0.56部と硫酸第一鉄七水塩0.003部、ナトリウムアルデヒドスルホキシド0.89部、エチレンジアミン-N,N,N’,N’-四カルボン酸二ナトリウム0.008部を追加した。ここへ、メタクリル酸メチル29部、アクリル酸メチル1部、t-ブチルハイドロパーオキサイド0.45部の混合液を100分かけて加え、30分間保持することで反応を完結させた。反応生成物のラテックスを硫酸水溶液で凝固、水洗した後、乾燥してグラフト架橋粒子(B-II-1)を得た。水分散体の体積平均粒子径は0.15μm、グラフト率は43%、凝塊物の質量割合は0.02%であった。
【0419】
<製造例3-14:グラフト架橋粒子(B-II-2)~(B-II-33)>
架橋粒子(A-II)の種類を架橋粒子(A-II-2)~(A-II-33)に変更し、表15~17に示す原料組成とした以外は、製造例3-13と同様の方法で行い、グラフト架橋粒子(B-II-2)~(B-II-33)を得た。
【0420】
グラフト架橋粒子(B-II-1)~(B-II-33)のグラフト率、体積平均粒子径及び製造時の凝塊物の質量割合を表15~17に示す。
【0421】
【表15】
【0422】
【表16】
【0423】
【表17】
【0424】
[熱可塑性樹脂の製造]
<製造例3-15:熱可塑性樹脂(D-II-1)>
撹拌機付きステンレス重合槽にイオン交換水150部、メタクリル酸メチル98部、アクリル酸メチル2部、2,2’-アゾビス(イソブチロニトリル)0.2部、n-オクチルメルカプタン0.25部、カルシウムヒドロオキシアパタイト0.47部、アルケニルコハク酸カリウム0.003部を仕込んだ。重合槽の内温を75℃にして3時間反応させ、90℃に昇温し1時間反応させた。内容物を抜き出し、遠心脱水機で洗浄し、乾燥させて粉状の熱可塑性樹脂(D-II-1)を得た。
【0425】
<製造例3-16:熱可塑性樹脂(D-II-2)>
メタクリル酸メチル70部、スチレン10部、N-フェニルマレイミド20部を用いた以外は、製造例3-15と同様の方法で行い、粉状の熱可塑性樹脂(D-II-2)を得た。
【0426】
[他の熱可塑性樹脂]
その他の熱可塑性樹脂として以下のものを用いた。
熱可塑性樹脂(D-II-3):三菱エンジニアリングプラスチックス(株)製ポリカーボネート;ノバレックス7025R
熱可塑性樹脂(D-II-4):UMGABS(株)製AAS(ASA)樹脂(アクリルゴム分散AS樹脂);S310
【0427】
熱可塑性樹脂(D-II-1)~(D-II-4)の単量体組成等を下記表18にまとめて示す。
【0428】
【表18】
【0429】
[実施例3-1~3-38、比較例3-1~3-7]
表19~24に示す配合量で架橋粒子(A-II)又はグラフト架橋粒子(B-II)と熱可塑性樹脂(D-II)とを用い、上述の溶融混練3-1又は3-2の方法でペレット化し、射出成形3-1又は3-2により各種成形品を得た。溶融混練3-1で得た熱可塑性樹脂組成物についてMVRを測定した。また、得られた成形品について、耐衝撃性、発色性、耐擦り傷性、耐候性を評価した。結果を表19~24に示す。
また、実施例3-6と比較例3-2の熱可塑性樹脂組成物について、透明性を評価し、結果を表25に示した。
【0430】
【表19】
【0431】
【表20】
【0432】
【表21】
【0433】
【表22】
【0434】
【表23】
【0435】
【表24】
【0436】
【表25】
【0437】
表19~24より明らかなように、実施例3-1~3-38の熱可塑性樹脂組成物は流動性に優れていた。実施例3-1~3-38で得られた成形品は、耐衝撃性、発色性、耐擦り傷性、耐候性に優れていた。一方で、第3発明の規定を満たさない比較例3-1~3-7では、流動性や、成形品の耐衝撃性、発色性、耐擦り傷性、耐候性のいずれかが劣っていた。
表25に示されるように、実施例3-6の成形品は透明性に優れていたが、比較例3-2の成形品は透明性に劣っていた。
【0438】
これらの結果から、架橋粒子(A-II)及びグラフト架橋粒子(B-II)は、熱可塑性樹脂の発色性、耐候性を損なうことなく、流動性、耐衝撃性、耐擦り傷性を改善することができ、車両内外装部品、事務機器、家電、建材などの用途に好適に適用できることが分かる。
【0439】
〔第4発明の実施例及び比較例〕
[ゴム質重合体の製造]
<合成例4-1:ゴム質重合体(A-III-1)の製造>
以下の配合でゴム質重合体(A-III-1)を製造した。
〔配合〕
n-ブチルアクリレート 100部
ヘキサデカン 2.4部
アルケニルコハク酸ジカリウム 0.4部
アリルメタクリレート 0.2部
1,3-ブチレンジメタクリレート 1.0部
t-ブチルハイドロパーオキサイド 0.25部
硫酸第一鉄 0.0002部
ナトリウムホルムアルデヒドスルホキシレート 0.33部
エチレンジアミン四酢酸二ナトリウム 0.0004部
蒸留水 203部
【0440】
試薬注入容器、冷却管、ジャケット加熱機および攪拌装置を備えた反応器に蒸留水、n-ブチルアクリレート、ヘキサデカン、アルケニルコハク酸ジカリウム、アリルメタクリレート、1,3-ブチレンジメタクリレート、t-ブチルハイドロパーオキサイドを仕込み、常温下で(株)日本精機製作所製ULTRASONIC HOMOGENIZER US-600を用いて振幅35μmで20分間超音波処理を行うことでプレエマルション(a-III-1)を得た。この得られたラテックスの平均粒子径は180nmであった。
【0441】
プレエマルション(a-III-1)を60℃に加熱後、硫酸第一鉄、ナトリウムホルムアルデヒドスルホキシレート、エチレンジアミン四酢酸二ナトリウムを添加し、ラジカル重合を開始した。アクリレート成分の重合により、液温は78℃まで上昇した。30分間70℃で維持し、アクリレート成分の重合を完結させ、ゴム質重合体(A-III-1)を得た。得られたラテックス中のゴム質重合体(A-III-1)の固形分は18.7%、体積平均粒子径(X)は180nmであった。ゴム質重合体(A-III-1)の体積平均粒子径と頻度上限10%粒子径(Y)および頻度下限10%粒子径(Z)を表26に示す。
【0442】
ゴム質重合体(A-III-1)および後述のゴム質重合体(A-III-2)~(A-12)の平均粒子径および粒子径分布と、後述のグラフト共重合体(B-III-1)~(B-III-12)の平均粒子径は、以下の方法で測定した。
【0443】
<粒子径の測定>
日機装社製のNanotrac UPA-EX150を用いて動的光散乱法より体積平均粒子径を求めた。
また、上記と同様の方法で粒子径分布を求め、頻度上限10%の粒子径を頻度上限10%粒子径(Y)とし、頻度下限10%の粒子径を頻度下限10%粒子径(Z)とし、それぞれ体積平均粒子径(X)に対する比を算出した。
【0444】
<合成例4-2~4-9:ゴム質重合体(A-III-2)~(A-III-9)の製造>
表26に示すものを、表26に示す割合で用い、合成例4-1と同様にして合成し、それぞれゴム質重合体(A-III-2)~(A-III-9)を得た。各ゴム質重合体(A-III-2)~(A-III-9)の体積平均粒子径(X)と頻度上限10%粒子径(Y)および頻度下限10%粒子径(Z)を表26に示す。
【0445】
<合成例4-10:ゴム質重合体(A-III-10)の製造>
以下の配合でゴム質重合体(A-III-10)を製造した。
〔配合〕
n-ブチルアクリレート 100部
ヘキサデカン 2.4部
アルケニルコハク酸ジカリウム 1.0部
アリルメタクリレート 0.2部
1,3-ブチレンジメタクリレート 1.0部
t-ブチルハイドロパーオキサイド 0.25部
硫酸第一鉄 0.0002部
ナトリウムホルムアルデヒドスルホキシレート 0.33部
エチレンジアミン四酢酸二ナトリウム 0.0004部
蒸留水 203部
【0446】
試薬注入容器、冷却管、ジャケット加熱機および攪拌装置を備えた反応器に蒸留水を仕込み、60℃に加熱後、硫酸第一鉄、ナトリウムホルムアルデヒドスルホキシレート、エチレンジアミン四酢酸二ナトリウムを添加し、n-ブチルアクリレート、ヘキサデカン、アルケニコハク酸ジカリウム、アリルメタクリレート、1,3-ブチレンジメタクリレート、t-ブチルハイドロパーオキサイドの混合液をポンプで120分間にわたって滴下し、80℃まで上昇した。滴下終了後30分間70℃で維持し、アクリレート成分の重合を完結させてゴム質重合体(A-III-10)を得た。得られたラテックス中のゴム質重合体(A-III-10)の固形分は18.4%、体積平均粒子径(X)は180nmであった。また、頻度上限10%粒子径(Y)および頻度下限10%粒子径(Z)は表27に示す通りであった。
【0447】
<合成例4-11:ゴム質重合体(A-III-11)の製造>
以下の配合でゴム質重合体(A-III-11)を製造した。
〔配合〕
n-ブチルアクリレート 100部
ヘキサデカン 2.4部
アルケニルコハク酸ジカリウム 1.0部
アリルメタクリレート 0.2部
1,3-ブチレンジメタクリレート 1.0部
t-ブチルハイドロパーオキサイド 0.25部
硫酸第一鉄 0.0002部
ナトリウムホルムアルデヒドスルホキシレート 0.33部
エチレンジアミン四酢酸二ナトリウム 0.0004部
蒸留水 203部
【0448】
試薬注入容器、冷却管、ジャケット加熱機および攪拌装置を備えた反応器に蒸留水、n-ブチルアクリレート、ヘキサデカン、アルケニコハク酸ジカリウム、アリルメタクリレート、1,3-ブチレンジメタクリレート、t-ブチルハイドロパーオキサイドを仕込み、60℃に加熱後、硫酸第一鉄、ナトリウムホルムアルデヒドスルホキシレート、エチレンジアミン四酢酸二ナトリウムを添加し、ラジカル重合を開始した。アクリレート成分の重合により、液温は78℃まで上昇した。30分間70℃で維持し、アクリレート成分の重合を完結させゴム質重合体を得た。得られたラテックス中のゴム質重合体の固形分は18.4%、体積平均粒子径は100nmであった。
【0449】
反応器内部の液温が70℃に低下した後、5%ピロリン酸ナトリウム水溶液を固形分として1.0部添加した。内温70℃で制御した後、メタクリル酸15部を含有する酸基含有共重合体ラテックスを固形分として0.3部添加し、30分撹拌、肥大化を行い、ゴム質重合体(A-III-11)を得た。得られたゴム質重合体(A-III-11)の体積平均粒子径(X)は560nmであった。また、頻度上限10%粒子径(Y)および頻度下限10%粒子径(Z)は表27に示す通りであった。
【0450】
<合成例4-12:ゴム質重合体(A-III-12)の製造>
ピロリン酸ナトリウム水溶液を固形分として3.0部添加した以外は、合成例4-11と同様にして、ゴム質重合体(A-III-12)を得た。その体積平均粒子径(X)は950nmであった。また、頻度上限10%粒子径(Y)および頻度下限10%粒子径(Z)は表27に示す通りであった。
【0451】
[グラフト共重合体の製造と評価]
<実施例4-1:グラフト共重合体(B-III-1)の製造>
試薬注入容器、冷却管、ジャケット加熱機および攪拌装置を備えた反応器に、以下の配合で原料を仕込み、反応器内を十分に窒素置換した後、攪拌しながら内温を70℃まで昇温した。
【0452】
〔配合〕
水(ゴム質重合体ラテックス中の水を含む) 230部
ゴム質重合体(A-III-1)ラテックス 50部(固形分として)
アルケニルコハク酸ジカリウム 0.2部
ナトリウムホルムアルデヒドスルホキシレート 0.3部
硫酸第一鉄 0.001部
エチレンジアミン四酢酸二ナトリウム 0.003部
【0453】
次いで、アクリロニトリル(AN)、スチレン(ST)、t-ブチルハイドロパーオキサイドを以下の配合で含む混合液を100分間にわたって滴下しながら、80℃まで昇温した。
【0454】
〔配合〕
アクリロニトリル 12.5部
スチレン 37.5部
t-ブチルハイドロパーオキシド 0.2部
【0455】
滴下終了後、温度80℃の状態を30分間保持した後、冷却し、グラフト共重合体(B-III-1)ラテックスを得た。得られたラテックス中のグラフト共重合体(B-III-1)の固形分は29.7%、体積平均粒子径は210nmであった。
【0456】
次いで、1.5%硫酸水溶液100部を80℃に加熱し、該水溶液を撹拌しながら、該
水溶液にグラフト共重合体(B-III-1)ラテックス100部を徐々に滴下し、グラフト共重合体(B-III-1)を固化させ、さらに95℃に昇温して10分間保持した。
次いで、固化物を脱水、洗浄、乾燥し、粉末状のグラフト共重合体(B-III-1)を得た。
【0457】
<実施例4-2~4-5、比較例4-1~4-3:グラフト共重合体(B-III-2)~(B-III-12)の製造>
ゴム質重合体(A-III-1)ラテックスの代りに、ゴム質重合体(A-III-2)~(A-12)ラテックスをそれぞれ用いたこと以外は、実施例4-1と同様にして、それぞれグラフト共重合体(B-III-2)~(B-III-12)を得た。各グラフト共重合体(B-III-2)~(B-III-12)の体積平均粒子径は、表26,27に示す通りであった。
【0458】
<熱可塑性樹脂組成物の製造>
各グラフト共重合体(B-III-1)~(B-III-12)40部と、懸濁重合法によって製造したアクリロニトリル-スチレン共重合体60部(ユーエムジー・エービーエス(株)社製「UMG AXS レジン S102N」)をヘンシェルミキサーを用いて混合し、この混合物を240℃に加熱した押出機に供給し、混練してペレットを得た。
【0459】
<試験片の作製>
上記のペレットを用い、各々、4オンス射出成形機(日本製鋼所(株)製)にて、シリンダー温度240℃、金型温度60℃の条件で成形して、長さ80mm、幅10mm、厚み4mmの試験片1を得た。
同様して、シリンダー温度240℃、金型温度60℃、射出率20g/秒の条件で、長さ100mm、幅100mm、厚み2mmの板状の成形体2を得た。
【0460】
<評価>
≪シャルピー衝撃強度の測定≫
ISO 179に準拠して、23℃雰囲気下、試験片1にてシャルピー衝撃強度を測定した。
【0461】
≪メルトボリュームレート(MVR)の測定≫
ISO 1133規格に従い、220℃-98Nの条件で熱可塑性樹脂組成物ペレットのMVRを測定した。MVRは熱可塑性樹脂組成物の流動性の目安となる。
【0462】
≪発色性の測定≫
成形体2の表面をミノルタ製測色計CM-508Dを用いてL*を測定した。L*の数値が小さいほど、発色性が良好であることを示す。
【0463】
≪写像性の測定≫
成形体2の表面を写像性測定装置(スガ試験機(株)製 ICM-IDP)にて反射60°の写像性(%)を測定した。写像性は、その値が高いほど成形品の表面が光輝性に優れ、成形外観が良いことを示す。
【0464】
上記の評価結果を表26,27に示す。
【0465】
【表26】
【0466】
【表27】
【0467】
各実施例および比較例の結果から、次のことが明らかとなった。
実施例4-1~4-9の熱可塑性樹脂組成物は、耐衝撃性、発色性および成形外観に優れるものである。
一方、比較例4-1~4-3の熱可塑性樹脂組成物は、耐衝撃性、発色性、成形外観のいずれかの項目において劣るものであった。具体的には、比較例4-1ではゴム質重合体(A-III-10)がシード重合品であるため、耐衝撃性が劣る。比較例4-2ではゴム質重合体(A-III-11)が肥大化重合品であるため、粒子径分布が広く、発色性、成形外観が劣る。比較例4-3ではゴム質重合体(A-III-12)が肥大化重合品であり、粒子径分布が広く、重合安定性が悪いため発色性、成形外観に劣る。
【産業上の利用可能性】
【0468】
第1発明の熱可塑性樹脂組成物及びその成形品は、耐候性、発色性に優れ、耐衝撃性にも優れることから、車輌や建材など屋外で長期に使用される用途に好適に用いることができる。
【0469】
第2発明の架橋粒子(A-I)及び/又はグラフト架橋粒子(B-I)を用いた熱可塑性樹脂成形品は、車輌内外装部品、事務機器、家電、建材等として有用である。
【0470】
第3発明の架橋粒子(A-II)及び/又はグラフト架橋粒子(B-II)を用いた熱可塑性樹脂成形品は、車輌内外装部品、事務機器、家電、建材等として有用である。
【0471】
第4発明のゴム質重合体(A-III)を用いた第3発明のグラフト共重合体(B-III)を含む第4発明の熱可塑性樹脂組成物よりなる成形品は、耐衝撃性、発色性および成形外観が良好なものである。この耐衝撃性、発色性、成形外観のバランスは、従来の熱可塑性樹脂組成物よりなる成形品に比べて非常に優れているので、第4発明の熱可塑性樹脂組成物およびその成形品は、各種工業用材料としての利用価値が極めて高い。
【0472】
本発明を特定の態様を用いて詳細に説明したが、本発明の意図と範囲を離れることなく様々な変更が可能であることは当業者に明らかである。
本出願は、2015年10月28日付で出願された日本特許出願2015-212024、同日付で出願された日本特許出願2015-212025、同日付で出願された日本特許出願2015-212026及び同日付で出願された日本特許出願2015-212027に基づいており、その全体が引用により援用される。
図1