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特許7004065光照射式加熱装置及びフィラメントランプ
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-01-06
(45)【発行日】2022-01-21
(54)【発明の名称】光照射式加熱装置及びフィラメントランプ
(51)【国際特許分類】
   H05B 3/76 20060101AFI20220114BHJP
   H01K 1/18 20060101ALI20220114BHJP
   H01K 1/24 20060101ALI20220114BHJP
   H01K 7/00 20060101ALI20220114BHJP
【FI】
H05B3/76
H01K1/18 D
H01K1/24
H01K7/00 C
H01K7/00 N
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2020515485
(86)(22)【出願日】2019-04-23
(86)【国際出願番号】 JP2019017240
(87)【国際公開番号】W WO2019208568
(87)【国際公開日】2019-10-31
【審査請求日】2020-08-21
(31)【優先権主張番号】P 2018082112
(32)【優先日】2018-04-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000102212
【氏名又は名称】ウシオ電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000729
【氏名又は名称】特許業務法人 ユニアス国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】西川 正晃
(72)【発明者】
【氏名】河村 忠和
【審査官】比嘉 貴大
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-117237(JP,A)
【文献】特開2002-258646(JP,A)
【文献】特開2008-210623(JP,A)
【文献】特開2009-200401(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H05B 3/76
H01K 1/18
H01K 1/24
H01K 7/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
発光管内にフィラメントで構成された発光部を有するフィラメントランプがワークに対して複数並列配置され、該複数のフィラメントランプは、前記発光部の長さが相対的に異なるとともに、各フィラメントランプを略同一の電圧値で点灯する光照射式加熱装置において、
前記各フィラメントランプにおける、前記発光部の単位長さあたりの電力密度、前記発光部の色温度および昇温速度が略同一に揃うよう、前記発光部の長さが相対的に異なる各フィラメントランプに設けられる各発光部は、それぞれ、当該発光部を構成するフィラメントの素線本数、又は、フィラメントの素線径、又は、フィラメントを構成するフィラメント素線の総断面積、又は、フィラメントをコイル状に巻回する場合のコイル内径、又は、フィラメントをコイル状に巻回する場合のコイルピッチのうち、何れか一つ又は複数の設計要素を異ならせ、当該発光部の電力密度(P[W/mm])と、単位長さ当りの発光部の外表面積(S[mm ])と、発光部のコイル内径(D[mm])とによる比率X(P/DS)を制御することで、色温度が略同一に揃えられていることを特徴とする光照射式加熱装置。
【請求項2】
発光管内にフィラメントで構成された発光部を有するフィラメントランプがワークに対して複数並列配置され、該複数のフィラメントランプは、前記発光部の長さが相対的に異なるとともに、各フィラメントランプを略同一の電圧値で点灯する光照射式加熱装置において、
前記各フィラメントランプにおける、前記発光部の単位長さあたりの電力密度、前記発光部の色温度および昇温速度が略同一に揃うよう、前記発光部の長さが相対的に異なる各フィラメントランプに設けられる各発光部は、それぞれ、当該発光部を構成するフィラメントの素線本数、又は、フィラメントの素線径、又は、フィラメントを構成するフィラメント素線の総断面積、又は、フィラメントをコイル状に巻回する場合のコイル内径、又は、フィラメントをコイル状に巻回する場合のコイルピッチのうち、何れか一つ又は複数の設計要素を異ならせ、前記発光部の短い短発光長ランプの発光部と、前記発光部の長い長発光長ランプの発光部の単位長さ当りの質量を調整することで、昇温速度が略同一に揃えられていることを特徴とする光照射式加熱装置。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の光照射式加熱装置における長発光長ランプとして適用可能なフィラメントランプであって、
前記フィラメントランプの発光管の全長に対して、前記発光部の長さは70%以上となるよう構成されており、
当該フィラメントランプにおける発光部を構成するフィラメントの素線本数は、少なくとも3本以上で構成されていることを特徴とするフィラメントランプ。
【請求項4】
請求項1又は2に記載の光照射式加熱装置における短発光長ランプとして適用可能なフィラメントランプであって、
前記フィラメントランプの発光管の全長に対して、前記フィラメントランプに設けられる発光部の長さは50%以下となるよう構成されており、
前記発光部を構成するフィラメントの素線本数は、多くとも2本以下で構成されていることを特徴とするフィラメントランプ。
【請求項5】
前記フィラメントランプの点灯電圧値は、300V以下であることを特徴とする請求項又はに記載のフィラメントランプ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、フィラメントランプを用いた光照射式加熱装置及びフィラメントランプに関し、特に、ワーク(半導体ウエハ)に対して複数のフィラメントランプを並列配置させた光照射式加熱装置に係わる。
【背景技術】
【0002】
一般にフィラメントランプを使った光照射式加熱装置は、半導体基板などのワークの表面を短時間、かつ均一に加熱処理することが求められる。
このような発光管の内部にコイル状のフィラメントを配置したフィラメントランプを用いた光照射式加熱装置では、従来から、複数の棒状フィラメントランプをワークに対して近接対向して並列に配置させたものが用いられている。
そして、このような光照射式加熱装置においては、例えば、特開2009-117237号公報(特許文献1)に示されるように、ワークの中央領域と周辺領域に対応したフィラメントランプにおいて、それぞれ発光長の異なるフィラメントランプを複数用いて、ワークの形状に対応するよう面状光源を構成した光照射式加熱装置が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2009-117237号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
このように、ワークの形状にあわせて発光長の異なる複数のフィラメントランプを用いて加熱処理を行う場合は、フィラメントの発光長が異なることから、同一条件下でのランプ点灯時には各フィラメントの単位長さ当りの電力密度(P[W/mm])に違いが生じるため、各フィラメントの電力密度Pが一定になるよう、点灯条件を調整する必要があった。
【0005】
また、図6に示すように、フィラメントの温度(色温度)が異なると、フィラメントから放射される光のスペクトルが変化することが知られている。そのため、フィラメントの電力密度を一定に揃えたとしても、フィラメントの色温度が異なることで放射される光のスペクトルが変化してしまうと、加熱対象物となるワークへの光の吸収度合が変わってしまい、均一な加熱処理を阻害する一因となってしまう。
【0006】
このような問題に対して、前記特許文献1では各フィラメントランプの色温度に着目し、ランプの発光部を構成するフィラメントの色温度を同等に制御することが記載されている。詳細には、ワークの外周縁部のゾーンに対応して配置された発光部の単位長さあたりの実効表面積を、中央部のゾーンに対応して配置された発光部の実効表面積よりも大きくすることで、当該外周縁のゾーンに配置される発光部の電力密度を高くした場合であっても、中央部のゾーンに配置される発光部と同一の色温度に調節することが記載されている。
【0007】
しかしながら、この特許文献1の構成では電力密度を一定に制御しておらず、また各発光部の昇温速度(立ち上がり速度)について考慮されておらず、昇温速度が異なってしまうため、被処理体を均一な温度上昇で加熱処理することができない、という問題がある。
【0008】
この発明が解決しようとする課題は、複数のフィラメントランプが並列配置された光照射式加熱装置において、ワークをより均一に加熱することが可能な光照射式加熱装置を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために、この発明に係る光照射式加熱装置は、前記各フィラメントランプにおける、前記発光部の単位長さあたりの電力密度、前記発光部の色温度および昇温速度が略同一に揃うよう、前記発光部の長さが相対的に異なる各フィラメントランプに設けられる各発光部は、それぞれ、当該発光部を構成するフィラメントの素線本数、又は、フィラメントの素線径、又は、フィラメントを構成するフィラメント素線の総断面積、又は、フィラメントをコイル状に巻回する場合のコイル内径、又は、フィラメントをコイル状に巻回する場合のコイルピッチのうち、何れか一つ又は複数の設計要素を異ならせたことを特徴とする。
また、前記複数のフィラメントランプは、前記ワークの中央領域に位置するフィラメントランプの発光部が、周辺領域に位置するフィラメントランプの発光部よりも相対的に長いことを特徴とする。
【0010】
また、前記発光部は、当該発光部の電力密度(P[W/mm])と、単位長さあたりの発光部の外表面積(S[mm])と、発光部のコイル内径(D[mm])とによる比率X(P/DS)を制御することで色温度を略同一に揃えることを特徴とする。
また、前記発光部の短いフィラメントの発光部と、前記発光部の長いフィラメントランプの発光部の単位長さ当りの質量を調整することで、昇温速度が略同一に揃えられていることを特徴とする。
【0011】
また、前記発光部の短いフィラメントランプと、前記発光部の長いフィラメントランプにおける、それぞれのフィラメント素線の総断面積を比較したとき、前者における総断面積が後者における総断面積より小さくなるように設計されることで、電力密度が略同一に揃えられていることを特徴とする。
また、前記長発光長ランプにおけるフィラメントの素線本数が、前記短発光長ランプの素線本数よりも多いことを特徴とする。
【0012】
また前記発光部の長いフィラメントランプ(長発光長ランプ)に適応可能なフィラメントランプとして、前記フィラメントランプの発光管の全長に対して前記発光部の長さが70%以上に構成されたフィラメントランプは、当該発光部を構成するフィラメントの素線本数が少なくとも3本以上で構成されていることを特徴とする。
また前記発光部の短いフィラメントランプ(短発光長ランプ)に適用可能なフィラメントランプとして、前記フィラメントランプの発光管の全長に対して前記発光部の長さが50%以下に構成されたフィラメントランプは、当該発光部を構成するフィラメントの素線本数が多くとも2本以下で構成されていることを特徴とする。
また前記フィラメントランプの点灯電圧値は、300V以下であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
この発明の光照射式加熱装置によれば、発光長の異なる各フィラメントランプの発光部を構成するフィラメントの「電力密度」、「色温度」、「昇温速度」をそれぞれ略同一の値に揃えることにより、ワークをより均一に加熱処理することを可能とするものである。
そして、複数のフィラメントランプを略同一の電圧値で点灯可能としたので、ランプ毎に電圧値を可変とした場合のように、装置制御盤の部品点数の増加や回路の複雑化を招くことがなく、また電圧を供給電圧に近いところで統一できるので、皮相電力の影響による定格電力以上の容量を確保する必要がない、という効果を奏する。尚、ここで略同一の電圧値とは、少なくとも定格電圧の差が±10%の範囲内で揃えられるものを指す。
【0014】
また、各フィラメントランプを略同一の電圧値で点灯する光照射式加熱装置において、前記各フィラメントランプに設けられる各発光部は、それぞれ、当該発光部を構成するフィラメントの素線本数、又は、フィラメントの素線径、又は、フィラメントを構成するフィラメント素線の総断面積、又は、フィラメントをコイル状に巻回する場合のコイル内径、又は、フィラメントをコイル状に巻回する場合のコイルピッチのうち、何れか一つ又は複数の設計要素を異ならせることにより、前記発光部の電力密度、色温度および昇温速度が略同一に揃えられるものである。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本発明の光照射式加熱装置の上面図である。
図2A】本発明のフィラメントランプの発光部の一実施形態を示す模式的な側面図である。
図2B図2Aのフィラメントランプの発光部をフィラメントの巻回軸方向に向かって見たときの模式的な図面である。
図2C図2Aのフィラメントランプの発光部の模式的な側面断面図である。
図2D】本発明のフィラメントランプの発光部の一実施形態を示す模式的な側面図である。
図2E図2Dのフィラメントランプの発光部をフィラメントの巻回軸方向に向かって見たときの模式的な図面である。
図2F図2Dのフィラメントランプの発光部の模式的な側面断面図である。
図2G図2Gは、図2Dのフィラメントランプ2の発光部5の場合において、素線を最密配置する過程を示す図面である。
図3A】本発明のフィラメントランプの発光部の構成例である。
図3B】本発明のフィラメントランプの発光部の構成例である。
図4】本発明の概念を示す説明図である。
図5】本発明のフィラメントランプの一具体例である。
図6】フィラメントの温度(色温度)と、放射光のスペクトルを表すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
図1は本発明の光照射式加熱装置1の全体上面図で、複数の棒状のフィラメントランプ2、2が、半導体ウエハなどのワークWの上方でこれと対向するように並列配置されている。各フィラメントランプ2は、石英ガラスなどの光透過性材料からなる発光管3の内部にフィラメント4により構成される発光部5を有するフィラメントランプである。
この発光管3内部には、臭素などのハロゲンガスが封入されており、いわゆるハロゲンサイクルを行っている。
この実施例では、複数のフィラメントランプ2、2のうち、フィラメントランプの並設方向において、ワークWの中央領域に対応するランプ2と、周辺領域に対応するランプ2では、フィラメント4で構成される発光部5の発光長が異なり、中央領域に対応するランプ2における発光部5は、周辺領域に対応するランプ2における発光部5よりも長い。
【0017】
このように、発光部の長さ(発光長)が異なる複数のフィラメントランプが並設されており、各フィラメントランプを略同一の電圧値で点灯する光照射式加熱装置において、前記各フィラメントランプに設けられる各発光部は、それぞれ、当該発光部を構成するフィラメントの素線本数、又は、フィラメントの素線径、又は、フィラメントを構成するフィラメント素線の総断面積、又は、フィラメントをコイル状に巻回する場合のコイル内径、又は、フィラメントをコイル状に巻回する場合のコイルピッチのうち、何れか一つ又は複数の設計要素を異ならせており、当該発光部の単位長さ当りの電力密度(W/mm)が略同一に揃えられ、かつ前記各発光部の色温度(K)を略同一に揃えられており、前記各発光部の昇温速度(v)が略同一に揃えられているものである。
【0018】
尚、本発明における「昇温速度」はフィラメントの温度の立ち上がり速度を示す指標であり、フィラメントから発せられる光をセンサーで検知し、目標とする光量値(例えば、発光部の点灯安定時の光量の90%を基準とする)に達するまでの時間から見積もることができる。また各発光部の昇温速度の差は、それぞれの相対値から見積もることができる。
【0019】
ここで、発光部の電力密度を略同一に揃えるとは、定格電力密度の差がすべての発光部の電力密度の平均値に対して±10%の範囲内に揃えられていることを指す。これは装置の公称電力公差を配慮したものであり、被処理体(ワーク)への熱量の影響度合いから本発明で許容される範囲をみた数値である。
また、発光部の色温度を略同一に揃えるとは、数値の変動差がすべての発光部の色温度の平均値に対して±10%の範囲内に揃えられていることを指す。これは色温度の変動に伴う光吸収率の違いを配慮したものであって、相対比が±10%を超える差となる場合は、色温度の違いによりワーク(ウエハ)の透過率が大きく異なり(吸収率が低くなり)、色温度の違いによる加熱程度に大きく影響する。
また、昇温速度が揃えられているとは、数値の変動差がすべての昇温速度の平均値に対して±10%の範囲内に揃えられていることを指す。これは昇温レートの違いによる被処理体の温度分布の影響度合いから決められるものである。
【0020】
図2Aは、フィラメントランプ2の発光部5の一実施形態を示す模式的な側面図である。図2Bは、図2Aのフィラメントランプ2の発光部5をフィラメントの巻回軸方向に向かって見たときの模式的な図面である。図2Cは、図2Aのフィラメントランプ2の発光部5の模式的な側面断面図である。図2Dは、フィラメントランプ2の発光部5の一実施形態を示す模式的な側面図である。図2Eは、図2Dのフィラメントランプ2の発光部5をフィラメントの巻回軸方向に向かって見たときの模式的な図面である。図2Fは、図2Dのフィラメントランプ2の発光部5の模式的な側面断面図である。発光部を構成するフィラメントの設計により、電力密度、色温度、昇温速度をそれぞれ任意の数値範囲内に制御することについて、図2A図2Fを参照しながら、以下(1)~(3)で詳述する。
【0021】
(1)発光部の電力密度:
電力密度(P[W/mm])は発光部の単位長さあたりの電力値(W)により定められる。詳述すると、点灯電圧値(V)と、発光部の長さ(Q[mm])と、発光部を構成するフィラメントの抵抗値(R)とにより電力密度(P)が定められる。
P=V/RQ ・・・ (式1)
ここでフィラメントの抵抗値(R)は、フィラメントの電気抵抗率(ρ[Ω・mm])とフィラメントの素線長さ(L[mm])、素線の断面積(A[mm])とにより、下記の式が成り立つ。
R=ρ(L/A) ・・・ (式2)
以上の点から、フィラメントの設計値(材質、素線長さ、断面積等)を制御することで、各発光部の電力密度を任意の値に調整できる。また、フィラメントを構成するフィラメント素数の総断面積は、フィラメントが複数の素線で構成される場合、対応する各素線の全ての断面積を合わせた値となる。
【0022】
(2)発光部の色温度:
発光部の色温度(T[K])は、発光部を構成するフィラメントに供給されるエネルギーと、発光部から放射される損失エネルギーとのバランスにより定まる。例えばフィラメントをコイル状に巻回した発光部において、当該フィラメントの素線径(φ[mm])やコイル外径を大きくすると当該発光部の外表面積(S[mm])が大きくなり、発光部からの放熱量を高くすることができる。これにより点灯加熱時の発光部の色温度は低下する。
また当該フィラメントのコイル内径(D[mm])の大小によって発光部内の保温特性が変化し、発光部の色温度に影響する。
本発明において発光部の色温度(T[K])は、発光部を構成するフィラメントにおける電力密度(P[W/mm])と、発光部の単位長さ当りの外表面積(S[mm2])と、発光部のコイル内径(D[mm])とによる比率X(P/DS)、と相関があることを見出し、当該発光部の電力密度と外表面積、コイル内径の比率X(P/DS)を制御し、各発光部において算出される比率Xを互いに近づけることで、色温度を略同一に揃えることができるものである。
尚、発光部の単位長さ当りの外表面積とは、発光部を構成するフィラメント素線がコイル状に形成される場合は、図2B及び図2Cに示すように、当該発光部の外側に面するフィラメント素線表面、すなわち、外表面(N)の総面積を指すものであり、発光部が複数のフィラメント素線で構成される場合も同様である。
また、図2D図2Fに示す構成のように、複数のフィラメント素線によって構成され、フィラメントを外側から内側に向かって、フィラメントの巻回軸方向とは直交する方向から見たときに、それぞれのフィラメント素線の一部が重なり合うように巻回されて発光部が構成されている場合は、各素線断面が最密配置されたものとみなし、各素線断面を最密配置させたときの各素線断面の中心を結ぶ線を境界とし、外側に面するフィラメント素線表面を外表面(N)とし、その総面積を外表面積として算定できる。図2Gは、図2Dのフィラメントランプ2の発光部5の場合において、素線を最密配置する過程を示す図面である。図2Gに示すように、境界は、素線が互いに対向する側で素線外周と交わる部分であり、図2Dのような構成の発光部5である場合は、図2Gに示す太線部の領域が外表面(N)となる。
【0023】
(3)発光部の昇温速度(v):
発光部の昇温速度(v)は、電力密度(P[W/mm])と、発光部の単位長さ当りの熱容量(C[J/K])とで定められる。熱容量(C)は、発光部の単位長さ当りの質量(g/mm)と、フィラメントの材質に固有の比熱(c)とによって定められる。これらの点から、発光部の単位長さ当りの質量(g/mm)を制御し、各発光部の質量を近づけることで昇温速度を略同一に調整することができる。具体的には、発光部を構成するフィラメントの形状、素線本数、素線径、コイル内径、コイルピッチ等の設計を変えることで発光部の昇温速度(v)の調整が可能である。
【0024】
このように、上記(1)~(3)に基づいてフィラメントの設計値を調整することで、各発光部の電力密度(W)、色温度(K)、昇温速度(v)をそれぞれ略同等な範囲に揃えることが可能となる。
【0025】
本発明に係る具体的な一態様について、図1を参酌して以下に記載する。
(1)まず各発光部5の電力密度(P)は、点灯電圧値(V)と発光部5を構成するフィラメント4の抵抗値(R)とにより制御可能であるから、同じ点灯電圧下において各発光部5の電力密度を揃えるため、各フィラメント4の抵抗値を可変させる。具体的にはフィラメント4の材質や素線長さ、断面積等を任意に調節することで実現できる。
【0026】
(2)次に各発光部5の色温度(T[K])は、上述のとおり比率X(P/DS)と相関関係がある。この際、各発光部5の電力密度(P)は上記(1)にて同じ値に制御しているため、1/DSの比率を近づけることで、更に色温度を略同一に揃えることができる。
【0027】
(3)次に各発光部5の昇温速度(v)は、発光部5の単位長さあたりの質量[g/mm]と相関があり、各発光部5の質量を近づけることで、昇温速度(v)を略同一に制御することができる。
上記(1)(2)の条件を満たしつつ(3)の条件を達成する為の手段としては、例えば、発光部5を構成するフィラメント4の素線径を変えつつ、素線本数をランプ毎に変化させることなどが考えられる。
【0028】
上記(1)(2)(3)の全てを満たすためには、各フィラメントランプの発光部を構成するフィラメントを適宜異なる設計にする必要がある。
【0029】
図3A及び図3Bは、本発明に係るフィラメントランプ2の発光部5の構成例を示しており、発光部5の単位長さあたりのフィラメント4の素線の形態を説明するものである。
図3Aでは、3本のフィラメント素線41、42、43が平行に束ねられた形態が示されており、この場合の各フィラメント素線41、42、43のコイルピッチP1、P2、P3は図のように計測され、P1=P2=P3である。
図3Bでは、3本のフィラメント素線41、42、43が俵状に束ねられた形態が示されており、この場合の各フィラメント素線41、42、43のコイルピッチP1、P2、P3は図のように計測され、P1=P2=P3である。またこの構成における発光部のコイル内径は、一義的に束ねられた素線の内側コイル41、43の内径として扱って差し支えない。
【0030】
実際どのようなステップを踏んでフィラメントを決定するかの一例を図4に基づいて説明する。
第1ステップにおいて、電力密度を揃えることが行われ、長発光長(部)ランプと短発光長(部)ランプにそれぞれ一定の供給電圧、例えば、200Vを印加して、その発光部の単位長さ当りの電力密度(W/mm)を略一定値にするための設計が行われる。
具体的には、フィラメント素線の断面積と長さを調整することでその抵抗値を一定にする組合せを得る。
例えば、長発光長ランプにおける第1グループにおいては、断面積(直径)の大きな大径素線Aと、直径が中くらいの2本の素線からなる中径素線Bと、これより小径な3本の素線からなる小径素線Cが選定される。
【0031】
グループ1において、断面積の大きな大径素線Aより合計断面積を小さくした素線2本からなる中径素線Bは、合計断面積を小さくしたことで抵抗値は大径素線Aより大きくなるが、2本にすることで大径素線Aと同等の抵抗値のものが得られる。
また、更に小径の3本の素線からなる小径素線Cも、中径素線Bより合計断面積を小さくするとともに3本にすることで、抵抗値は同等のものが得られる。
このようにして、第1グループとして、抵抗値が同一となる素線の組み合わせが得られ、電力密度が同等な素線の組み合わせが得られる。
【0032】
更に、第2グループにおいては、大径素線D、中径素線E、小径素線Fはそれぞれ第1グループの大径素線A、中径素線B、小径素線Cよりも小断面積であって短尺とされることで、抵抗値は第2グループ内で同一、かつ第1グループと同等とされている。
【0033】
また、短発光長ランプにおいても、第3グループの大径素線G、中径素線H、小径素線Iおよび第4グループの大径素線J、中径素線K、小径素線Lは、それぞれ同一の抵抗値とされるとともに、長発光長ランプの第1グループおよび第2グループの各素線と同一の電力密度となる抵抗値とされる。
こうして、長発光長ランプにおける第1グループ、第2グループおよび短発光長ランプにおける第3グループ、第4グループにおける各素線は、電力密度が同等となる抵抗値のものが得られ、これにより、電力密度の同等な素線の組み合わせが得られる。
【0034】
次いで、第2ステップとして、色温度を揃えることが行われる。前述の段落0020および段落0024で述べたように、色温度は、発光部を構成するフィラメントにおける電力密度(P[W/mm])と、発光部の単位長さ当りの外表面積(S[mm])と、発光部のコイル内径(D[mm])とによる比率X(P/DS)とに相関がある。
ここでは、第1ステップで電力密度Pを一定にしたので、各発光部において算出される比率X(1/DS)を調整して互いに近づけることで、色温度を揃えることが行われる。
具体的には、発光部の外径、コイルピッチ、コイル内径などを調整することで達成される。発光部外径の大小は発光部の外表面積の大小に関与して、表面からの熱放射を左右し、コイルピッチやコイル内径は、コイル内の熱の籠り具合に影響して、コイル表面温度、即ち色温度に関与する。
これにより、長発光長ランプのグループ1、2のうち、グループ2が選定され、また、短発光長ランプのグループ3、4のうち、グループ3が選定される。
【0035】
次いで第3ステップでは、電力密度と色温度が揃えられたランプのうち、昇温速度を揃えることが行われる。前述の段落0025で述べたように、ここでは、フィラメントの単位長さ当りの質量を調整することで、昇温速度を揃えることが行われる。こうして長発光長ランプにおけるグループ2の小径素線Fと、短発光長ランプにおけるグループ3の中径素線Hが選定される。
このように選定された小径素線Fと中径素線Hとをそれぞれ用いた長発光長ランプおよび短発光長ランプでは、電力密度、色温度および昇温速度が揃えられたランプが得られる。
【0036】
図5に本発明のフィラメントランプの一具体例が示されていて、フィラメントの設計要素、およびそれぞれの電力密度、色温度、昇温速度を示している。本具体例では、発光長の異なる(200mm~420mm)5種類のフィラメント1~5を備えていて、各ランプを200Vで点灯したものである。
尚、本発明における電力密度は、発光部の長さ(Q[mm])、フィラメントの素線長さ(L[mm])及び素線の断面積(A[mm2])を計測し、フィラメントに用いる素線の材料の電気抵抗率(ρ[Ω・mm])から、上記の式1及び式2に基づいて算出している。ただし、フィラメントの抵抗値(R)は、フィラメントランプの両電極間に印加した電圧に対して流れる電流値を測定することで求めても構わない。
また、本発明における色温度は、点灯させた状態のフィラメントランプに対して、色温度計を用いて測定している。
また、本発明における昇温速度は、発光部の光量立ち上がり時間(msec)は、フィラメントから発せられる光量をセンサーで検知し、目標とする光量値(発光部の点灯安定時の光量に対して90%を基準とする値)に達するまでの時間から算出している。そして各ランプ1~5の昇温速度は、光量立ち上がり時間の相対比から算出しており、最も発光部が長尺なNo.5の光量立ち上がり時間を1.00とした場合の相対比を記載している。
【0037】
また本発明における新たな設計指標となる比率Xは、発光部を構成するフィラメントに流れる単位長さ当りの電力密度(P[W/mm])と、発光部の単位長さ当りの外表面積(S[mm])と、発光部のコイル内径(D[mm])とにより定められる数値であり、図5において各ランプ1~5の比率Xを記載している。
図5に示すように、発光長の異なる各ランプの発光部の設計値、更には発光部を構成するフィラメントの設計値を適宜変更することにより、電力密度、色温度、昇温速度を略同一に揃えることが可能となる。
また、前記発光部の長さが相対的に小さいフィラメントランプ(短発光長ランプ)1~2と、前記発光部の長さが相対的に大きいフィラメントランプ(長発光長ランプ)3~4とを比較した際に、発光部を構成するフィラメント素線の総断面積(素線断面積×素線本数)は、発光長が短くなるにつれて小さく設計することとなる。これは単位長さあたりの発光部の電力密度[W/mm]を揃えるために必要な処置となる。また発光長の差が大きくなるにつれ、総断断面積の差を大きく設計しなければ、電力密度を略同一に揃えることが困難となる。
【0038】
一方でフィラメントの総断面積の差を大きくしようとすると、発光部の他の設計要素にも影響が生じる。例えば、発光部のコイル内径(D)、外表面積(S)、発光部の質量等の設計要素等である。上述したとおり、このような設計要素の変化により色温度や昇温速度を揃えることが困難となってゆく。そこで本発明では、このような発光長の差が大きい場合において、フィラメント素線本数を変化させている。詳述すると、発光長が短くなるにつれて、フィラメントの素線本数を少なく設計している。このような対応により、発光長の差が大きい場合であっても、電力密度だけでなく、色温度や昇温速度を略同一に揃えやすくなる。
【0039】
ところで、図5に示す比率X(P/DS)及び質量の設計値は厳密に一致させる必要はなく、当該設計値を近づける作業を行うことで、各発光部の電力密度、色温度、昇温速度が略同一の範囲内に収まるよう制御することが可能となる。図5に示すとおり、実際には比率Xや質量の設計値には許容できる範囲があることが理解できる。
【0040】
以上説明したように、本発明によれば、複数のフィラメントランプがワークに対して並列配置されてなる光照射式加熱装置において、各フィラメントランプに設けられる各発光部は、その単位長さあたりの電力密度、色温度および昇温速度が略同一に揃えられていることにより、ワークをより均一に加熱処理することを可能とするものである。
そして、複数のフィラメントランプを略同一の電圧値で点灯可能としたので、ランプ毎に電圧値を可変とした場合のように、装置制御盤の部品点数の増加や回路の複雑化を招くことがなく、また電圧を供給電圧に近いところで統一できるので、皮相電力の影響による定格電力以上の容量を確保する必要がない、という効果を奏する。
【0041】
本発明に係る光照射式加熱装置に適用されるフィラメントランプは、発光部が短くなるにつれてフィラメントの素線本数を少なく設計している。ここで当該光照射式加熱装置における長発光長ランプに適用されるフィラメントランプとして、前記フィラメントランプの発光管の全長に対して発光部の長さが70%以上に構成されたフィラメントランプは、前記発光部を構成するフィラメントの素線本数が少なくとも3本以上で構成されることが望ましい。素線本数が3本を下回る場合は、長発光長ランプと短発光長ランプとで各発光部の単位長さあたりの電力密度、前記発光部の色温度および昇温速度を略同一に揃える際のフィラメントの設計範囲が極端に制約されてしまうためである。
【0042】
ここで当該光照射式加熱装置における短発光長ランプに適用されるフィラメントランプとして、前記フィラメントランプの発光管の全長に対して発光部の長さが50%以下に構成されたフィラメントランプは、前記発光部を構成するフィラメントの素線本数が多くとも2本以下で構成されることが望ましい。素線本数が2本を上回る場合は、長発光長ランプと短発光長ランプとで各発光部の単位長さあたりの電力密度、前記発光部の色温度および昇温速度を略同一に揃える際、長発光長ランプ側の製造上の設計難易度が高くなり、実現が困難となるためである。
【0043】
また本発明に係る光照射装置は、当該装置に搭載される各フィラメントランプを略同一の電圧値で点灯するものである。ここで各フィラメントランプの点灯電圧値は種々の点灯条件で採用できるものであるが、特に、点灯電圧値が低い条件下において有効性が高く、各ランプの点灯電圧値は300V以下の場合において、より高い発明の効果が期待できる。
これは高電圧時において所定の電流値に制御する場合、フィラメントを構成する素線は当該素線径が小さいものを選択しなければならず、フィラメントの設計範囲の制約が大きくなるためである。発光部を構成するフィラメントの素線径が小さくなるにつれ、フィラメントの素線本数を増やしたときの単位長さあたりの発光部の外表面積は大きくなりにくくなり、結果として前記発光部の色温度を揃える際の制約が大きくなるためである。
各フィラメントランプの点灯電圧値が300V以下の場合は、長発光長ランプと短発光長ランプとで各発光部の大きさが極端に異なる場合であっても、各発光部の単位長さあたりの電力密度、前記発光部の色温度および昇温速度を略同一に揃えることができる。
【0044】
尚、図5は、光照射式加熱装置1のフィラメントランプ2の配置数についての実施例も示している。図5が示す実施例は、発光管3の長さが540mmのフィラメントランプ2が25本配置される場合の構成であり、フィラメントランプ2の発光管3に対する発光長(Q[mm])の割合とそれぞれの本数は、37.0%のフィラメントランプ2が4本、46.3%のフィラメントランプ2が2本、55.6%のフィラメントランプ2が2本、64.8%のフィラメントランプ2が4本、77.8%のフィラメントランプ2が13本である。
【0045】
上述した光照射加熱装置1が備える構成は、あくまで一例であり、本発明は、図示された各構成に限定されない。
【符号の説明】
【0046】
1 : 光照射式加熱装置
2 : フィラメントランプ
3 : 発光管
4 : フィラメント
5 : 発光部
W : ワーク
図1
図2A
図2B
図2C
図2D
図2E
図2F
図2G
図3A
図3B
図4
図5
図6