(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-01-06
(45)【発行日】2022-01-21
(54)【発明の名称】三次元造形装置及び三次元造形方法
(51)【国際特許分類】
B22F 10/32 20210101AFI20220114BHJP
B22F 12/10 20210101ALI20220114BHJP
B22F 12/70 20210101ALI20220114BHJP
B22F 10/28 20210101ALI20220114BHJP
B29C 64/153 20170101ALI20220114BHJP
B29C 64/264 20170101ALI20220114BHJP
B29C 64/268 20170101ALI20220114BHJP
B29C 64/371 20170101ALI20220114BHJP
B29C 64/393 20170101ALI20220114BHJP
B33Y 10/00 20150101ALI20220114BHJP
B33Y 30/00 20150101ALI20220114BHJP
B33Y 50/02 20150101ALI20220114BHJP
B29C 64/295 20170101ALI20220114BHJP
【FI】
B22F10/32
B22F12/10
B22F12/70
B22F10/28
B29C64/153
B29C64/264
B29C64/268
B29C64/371
B29C64/393
B33Y10/00
B33Y30/00
B33Y50/02
B29C64/295
(21)【出願番号】P 2020519546
(86)(22)【出願日】2019-04-24
(86)【国際出願番号】 JP2019017491
(87)【国際公開番号】W WO2019220901
(87)【国際公開日】2019-11-21
【審査請求日】2020-11-17
(31)【優先権主張番号】P 2018096300
(32)【優先日】2018-05-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000000099
【氏名又は名称】株式会社IHI
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100113435
【氏名又は名称】黒木 義樹
(74)【代理人】
【識別番号】100170818
【氏名又は名称】小松 秀輝
(72)【発明者】
【氏名】清水 六
【審査官】大塚 美咲
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-162077(JP,A)
【文献】特表2016-534903(JP,A)
【文献】特開2018-058281(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2018/0043621(US,A1)
【文献】特開2013-091316(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2018/0085826(US,A1)
【文献】特開2013-237930(JP,A)
【文献】特開2008-307895(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B22F 3/16
B22F 3/105
B22F 10/32
B22F 12/70
B22F 12/10
B29C 64/153
B29C 64/264
B29C 64/268
B29C 64/371
B29C 64/393
B33Y 10/00
B33Y 30/00
B33Y 50/02
B29C 64/295
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
チャンバの内部に配置された粉末材料に対しエネルギビームを照射し、前記粉末材料を加熱して三次元の物体の造形を行う三次元造形装置において、
前記エネルギビームを出射し、前記エネルギビームを前記粉末材料に照射させるビーム出射部と、
前記チャンバの内部に不活性ガスを供給するガス供給部と、
前記チャンバの内部に供給される不活性ガスを加熱する加熱部と、
造形中の物体又は前記粉末材料の温度を検出し、前記物体又は前記粉末材料の温度以上に前記不活性ガスの加熱温度を設定する加熱制御部と、
を備える三次元造形装置。
【請求項2】
前記エネルギビームは、電子ビームである、
請求項1に記載の三次元造形装置。
【請求項3】
チャンバの内部に配置される粉末材料に対しエネルギビームを照射し、前記粉末材料を加熱して三次元の物体の造形を行う三次元造形方法において、
造形中の物体又は前記粉末材料の温度を検出し、前記物体又は前記粉末材料の温度以上に不活性ガスの加熱温度を設定し、前記不活性ガスを加熱する加熱工程と、
前記チャンバの内部へ加熱した前記不活性ガスを供給する供給工程と、
前記粉末材料に対し前記エネルギビームを照射して前記物体を造形する造形工程と、
を含む三次元造形方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、三次元の物体を造形する三次元造形装置及び三次元造形方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、三次元造形装置及び三次元造形方法として、例えば、特許第6101707号公報に記載されるように、チャンバ内で敷き均される粉末材料に対し電子ビームを照射し、粉末材料を溶融し凝固させて、三次元の物体を造形する装置及び方法が知られている。ところで、このような三次元の物体を造形する装置及び方法では、電子ビームの照射により粉末材料が帯電し、この帯電によって粉末材料が霧状に舞い上がるスモーク現象を生ずる場合がある。この装置及び方法においては、チャンバ内に不活性ガスを供給し、スモーク現象を抑制しようとしている。また、例えば、レーザを用いる三次元造形装置及び三次元造形方法として、特許第6132962号公報に記載されるように、粉末材料に対しレーザを照射して三次元の物体を造形する装置及び方法も知られている。この装置及び方法では、粉末材料が配置されるチャンバに不活性ガスを注入し、粉末材料の酸化防止を図っている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特許第6101707号公報
【文献】特許第6132962号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、チャンバ内に不活性ガスを供給することにより、三次元の物体の造形が適切に行えない場合がある。すなわち、チャンバ内に注入される不活性ガスにより、造形された物体に歪みを生ずる場合がある。チャンバ内でビーム照射を受けた物体は、高温状態となっているが、不活性ガスに曝されることにより物体が冷やされて反り上がってしまい、所望の形状に物体を造形できないおそれがある。
【0005】
そこで、不活性ガスを供給した場合であっても適切に物体を造形できる三次元造形装置及び三次元造形方法の開発が望まれる。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示の一態様に係る三次元造形装置は、チャンバの内部に配置された粉末材料に対しエネルギビームを照射し、粉末材料を加熱して三次元の物体の造形を行う三次元造形装置において、エネルギビームを出射し、エネルギビームを粉末材料に照射させるビーム出射部と、チャンバの内部に不活性ガスを供給するガス供給部と、チャンバの内部に供給される不活性ガスを加熱する加熱部と、粉末材料の溶融温度に応じて不活性ガスの加熱温度を設定する加熱制御部とを備えて構成されている。
【発明の効果】
【0007】
本開示によれば、チャンバ内に不活性ガスを供給した場合であっても適切に物体を造形することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】
図1は、本開示の実施形態に係る三次元造形装置の構成概要図である。
【
図2】
図2は、実施形態に係る三次元造形装置の動作及び三次元造形方法の説明図である。
【
図3】
図3は、本開示の実施形態に係る三次元造形装置の動作及び三次元造形方法を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本開示の実施形態の概要は、以下の通りである。本開示の一態様に係る三次元造形装置は、チャンバの内部に配置された粉末材料に対しエネルギビームを照射し、粉末材料を加熱して三次元の物体の造形を行う三次元造形装置において、エネルギビームを出射し、エネルギビームを粉末材料に照射させるビーム出射部と、チャンバの内部に不活性ガスを供給するガス供給部と、チャンバの内部に供給される不活性ガスを加熱する加熱部と、粉末材料の溶融温度に応じて不活性ガスの加熱温度を設定する加熱制御部とを備えて構成されている。この三次元造形装置によれば、加熱した不活性ガスをチャンバの内部へ供給することにより、エネルギビームの照射により高温となっている物体が不活性ガスの供給によって低温となることが抑制される。このため、造形される物体に歪みが生ずることを抑制することができる。
【0010】
また、上述の本開示の一態様に係る三次元造形装置において、エネルギビームは、電子ビームであってもよい。
【0011】
本開示の一態様に係る三次元造形方法は、チャンバの内部に配置される粉末材料に対しエネルギビームを照射し、粉末材料を加熱して三次元の物体の造形を行う三次元造形方法において、粉末材料の溶融温度に応じて不活性ガスの加熱温度を設定し、不活性ガスを加熱する加熱工程と、チャンバの内部へ加熱した不活性ガスを供給する供給工程と、粉末材料に対しエネルギビームを照射して物体を造形する造形工程とを含んで構成される。この三次元造形方法によれば、加熱した不活性ガスをチャンバの内部へ供給することにより、エネルギビームの照射により高温となっている物体が不活性ガスの供給により低温となることが抑制される。このため造形される物体に歪みが生ずることを抑制することができる。
【0012】
以下、本開示の実施形態について、図面を参照しながら説明する。なお、図面の説明において同一要素には同一符号を付し、重複する説明は省略する。
【0013】
図1は、本開示の実施形態に係る三次元造形装置の構成概要図である。三次元造形装置1は、粉末材料Aに電子ビームBを照射して粉末材料Aを加熱して三次元の物体Oを造形する装置である。この三次元造形装置1は、例えば、粉末材料Aに電子ビームBを照射して粉末材料Aを予備加熱する工程と、粉末材料Aに対し電子ビームBを照射し粉末材料Aを加熱して溶融させて物体Oの一部を造形する工程とを繰り返す。そして、三次元造形装置1は、凝固した粉末材料を積層させて物体Oの造形を行う。予備加熱は、予熱とも称され、物体Oの造形前に、粉末材料Aの融点未満の温度で粉末材料Aを加熱する処理である。この予備加熱により、粉末材料Aが加熱されて仮焼結される。このため、電子ビームBの照射による粉末材料Aへの負電荷の蓄積が抑制されて、電子ビームBの照射時に粉末材料Aが飛散して舞い上がるスモーク現象を抑制することができる。
【0014】
三次元造形装置1は、ビーム出射部2、造形部3及び制御部4を備えて構成されている。ビーム出射部2は、造形部3の粉末材料Aに対し電子ビームBを出射し、粉末材料Aを溶融させる。電子ビームBは、荷電粒子である電子の直線的な運動により形成される荷電粒子ビームである。また、ビーム出射部2は、粉末材料Aに電子ビームBを照射して粉末材料Aの予備加熱を行った後に、粉末材料Aに電子ビームBを照射し粉末材料Aを溶融させて三次元の物体Oの造形を行っていく。
【0015】
ビーム出射部2は、電子銃部21、収差コイル22、フォーカスコイル23、偏向コイル24及び飛散検知器25を備えている。電子銃部21は、制御部4と電気的に接続され、制御部4からの制御信号を受けて作動し、電子ビームBを出射する。電子銃部21は、例えば、下方に向けて電子ビームBを出射するように設けられている。収差コイル22は、制御部4と電気的に接続され、制御部4からの制御信号を受けて作動する。収差コイル22は、電子銃部21から出射される電子ビームBの周囲に設置され、電子ビームBの収差を補正する。フォーカスコイル23は、制御部4と電気的に接続され、制御部4からの制御信号を受けて作動する。フォーカスコイル23は、電子銃部21から出射される電子ビームBの周囲に設置され、電子ビームBを収束させ、電子ビームBの照射位置におけるフォーカス状態を調整する。偏向コイル24は、制御部4と電気的に接続され、制御部4からの制御信号を受けて作動する。偏向コイル24は、電子銃部21から出射される電子ビームBの周囲に設置され、制御信号に応じて電子ビームBの照射位置を調整する。偏向コイル24は、電磁的なビーム偏向を行うため、機械的なビーム偏向と比べて、電子ビームBの照射時における走査速度を高速なものとすることができる。電子銃部21、収差コイル22、フォーカスコイル23及び偏向コイル24は、例えば、筒状を呈するコラム26内に設置される。なお、収差コイル22の設置を省略する場合もある。
【0016】
飛散検知器25は、粉末材料Aへの電子ビームBの照射により粉末材料Aが飛散したことを検知する機器である。つまり、飛散検知器25は、粉末材料Aへの電子ビームBが照射されたときに、粉末材料Aが飛散して霧状に舞い上がるスモーク現象を検知する。飛散検知器25としては、例えばX線検知器が用いられる。この場合、飛散検知器25は、スモーク発生時に発生するX線を検知し、X線の検知によって粉末材料Aの飛散の検出が可能となる。飛散検知器25は、例えば、コラム26に取り付けられ、電子ビームBに向けて配置される。なお、飛散検知器25は、粉末材料Aの照射領域の近傍位置に設けられる場合もある。また、三次元造形装置1として、飛散検知器25を備えていないものを用いる場合もある。
【0017】
造形部3は、所望の物体Oを造形する部位であり、チャンバ30内に粉末材料Aを配している。造形部3は、ビーム出射部2の下方に設けられている。造形部3は、箱状のチャンバ30を備えており、チャンバ30内において、プレート31、昇降機32、粉末供給機構33及びホッパ34を備えている。チャンバ30はコラム26と結合されており、チャンバ30の内部空間は電子銃部21が配置されるコラム26の内部空間と連通している。
【0018】
プレート31は、造形される物体Oを支持する部材である。プレート31上で物体Oが造形されていき、プレート31は、造形されていく物体Oを支持する。プレート31は、例えば円形の板状体のものが用いられる。プレート31は、電子ビームBの出射方向の延長線上に配置され、例えば水平方向に向けて設けられる。プレート31は、下方に設置される昇降ステージ35に支持されて配置され、昇降ステージ35と共に上下方向に移動する。昇降機32は、昇降ステージ35及びプレート31を昇降させる機器である。昇降機32は、制御部4と電気的に接続され、制御部4からの制御信号を受けて作動する。例えば、昇降機32は、物体Oの造形の初期において昇降ステージ35と共にプレート31を上部へ移動させておき、プレート31上で粉末材料Aが溶融凝固されて積層されるごとにプレート31を降下させる。昇降機32は、プレート31を昇降できる機構であれば、いずれの機構のものを用いてもよい。
【0019】
プレート31は、造形タンク36内に配置されている。造形タンク36は、チャンバ30内の下部に設置されている。この造形タンク36は、例えば、円筒状に形成され、プレート31の移動方向に向けて延びている。この造形タンク36は、プレート31と同心円状の断面円形に形成される。造形タンク36の内側形状に合わせて、昇降ステージ35が形成される。つまり、造形タンク36の内側形状が水平断面で円形の場合、昇降ステージ35の外形も円形とされる。これにより、造形タンク36に供給される粉末材料Aが昇降ステージ35の下方へ漏れ落ちることを抑制しやすくなる。また、粉末材料Aが昇降ステージ35の下方へ漏れ落ちることを抑制するために、昇降ステージ35の外縁部にシール材を設けてもよい。なお、造形タンク36の形状は、円筒状に限定されず、断面矩形の角筒状であってもよい。
【0020】
粉末供給機構33は、プレート31の上方に粉末材料Aを供給し粉末材料Aの表面を均す部材であり、リコータとして機能する。例えば、粉末供給機構33は、棒状又は板状の部材が用いられ、水平方向に移動することにより電子ビームBの照射領域に粉末材料Aを供給し、粉末材料Aの表面を均し、粉末床を形成する。粉末供給機構33は、図示しないアクチュエータ及び機構により移動制御される。なお、粉末材料Aを均す機構としては、粉末供給機構33以外の機構を用いることができる。ホッパ34は、粉末材料Aを収容する収容器である。ホッパ34の下部には、粉末材料Aを排出する排出口34aが形成されている。排出口34aから排出された粉末材料Aは、プレート31上へ流入し、又は、粉末供給機構33によりプレート31上へ供給される。プレート31、昇降機32、粉末供給機構33及びホッパ34は、チャンバ30内に設置される。チャンバ30内は、真空又はほぼ真空な状態とされている。なお、プレート31上に粉末材料Aを層状に供給する機構としては、粉末供給機構33及びホッパ34以外の機構を用いることができる。
【0021】
粉末材料Aは、多数の粉末体により構成される。粉末材料Aとしては、例えば金属製の粉末が用いられる。また、粉末材料Aとしては、電子ビームBの照射により溶融及び凝固できるものであれば、粉末より粒径の大きい粒体を用いてもよい。
【0022】
チャンバ30には、ポンプ37が接続されている。ポンプ37は、チャンバ30内のエアーを排出するポンプであり、いわゆる真空ポンプとして機能する。ポンプ37としては、電子ビームBを適切に照射できる程度の気圧状態にできるものであれば、いずれのタイプのポンプを用いてもよい。ポンプ37は、配管37aを介してチャンバ30と結合されている。ポンプ37の作動により、配管37aを通じチャンバ30内のエアーがチャンバ30の外部へ排出される。
【0023】
チャンバ30には、ガス供給部38が接続されている。ガス供給部38は、チャンバ30内に不活性ガスGを供給する。ガス供給部38は、例えば、不活性ガスGを収容した容器により構成され、バルブを開くことなどにより不活性ガスGを排出し、チャンバ30内へ供給する。ガス供給部38は、配管38aを介してチャンバ30と接続され、チャンバ30内へ必要量の不活性ガスGを供給する。不活性ガスGとしては、例えば、アルゴンが用いられる。また、不活性ガスGとしては、アルゴン以外のガスであってもよく、例えば、ヘリウム、二酸化炭素、窒素、ネオンなどであってもよい。
【0024】
三次元造形装置1は、加熱部39を備えている。加熱部39は、チャンバ30の内部に供給される不活性ガスGを加熱する。加熱部39は、例えば、ガス供給部38とチャンバ30の間の配管38aに設けられ、ガス供給部38から排出される不活性ガスGを加熱する。加熱部39としては、例えば電気ヒータ式のものが用いられる。具体的には、加熱部39として電熱線が用いられる。この場合、電熱線に流れる電流を調整することにより加熱温度を正確かつ容易に制御することができる。加熱部39における不活性ガスGの加熱温度は、例えば、造形中における粉末材料A又は物体Oの温度±300度とされる。好ましくは、加熱部39における不活性ガスGの加熱温度は、造形中における粉末材料A又は物体Oの温度の±200度とされる。さらに、より好ましくは、加熱部39における不活性ガスGの加熱温度は、造形中における粉末材料A又は物体Oの温度±100度とされる。
【0025】
この加熱温度は、粉末材料Aの溶融温度に応じて設定してもよい。つまり、不活性ガスGの温度を造形中の物体O又は粉末材料Aの温度と同じ温度又はそれに応じた温度としてもよい。不活性ガスGを加熱してチャンバ30内に供給することにより、造形中の物体O及び粉末材料Aの位置へ不活性ガスGが供給されても、不活性ガスGにより物体O及び粉末材料Aの温度が急激に低下することが抑えられる。つまり、物体O及び粉末材料Aにおける温度勾配を下げることが可能となる。このため、造形される物体Oに反りを生じたり、物体Oが歪んでしまうことが抑制される。また、造形中の物体O又は粉末材料Aの温度以上に加熱した不活性ガスGをチャンバ30内に供給する場合、不活性ガスGにより物体O及び粉末材料Aの温度が急激に低下することはなく、不活性ガスGによって物体O及び粉末材料Aを加熱することができる。
【0026】
また、造形中の物体O又は粉末材料Aの温度を検出し、物体O又は粉末材料Aの温度に応じて加熱部39の加熱制御を行ってもよい。この場合、造形中の物体O又は粉末材料Aの温度検出は、赤外線を検出するカメラを用いたサーモグラフィーによって行ってもよい。また、互いに異なる測定波長を用いて温度を求める二色による放射温度測定(二色温度計測法)、多色による放射温度計測を用いてもよい。また、物体O又は粉末材料Aの近傍位置(例えば、昇降ステージ35)の温度を計測し、その温度に基づいて物体O又は粉末材料Aの温度を算出してもよい。このように、物体O又は粉末材料Aの温度に応じて加熱部39の加熱制御を行うことにより、不活性ガスGの適切な加熱が行え、造形される物体Oの歪み等が的確に抑制される。
【0027】
なお、加熱部39は、電熱線以外のものを用いてもよい。例えば、加熱部39は、燃焼式のものであってもよい。具体的には、加熱部39として、ガスヒータを用いてもよい。より具体的には、配管に燃焼ガスを送り込み配管内で燃焼させることにより、密閉された配管内で安定して燃焼が行われ、効率良く加熱が行える。また、加熱部39としては、電磁誘導式のものであってもよく、放射光を用いた加熱器であってもよい。
【0028】
制御部4は、三次元造形装置1の装置全体の制御を行う電子制御ユニットであり、例えばCPU、ROM、RAMを含むコンピュータを含んで構成される。制御部4は、プレート31の昇降制御、粉末供給機構33の作動制御、電子ビームBの出射制御、偏向コイル24の作動制御、粉末材料Aの飛散検出、ポンプ37の作動制御、ガス供給部38の作動制御及び加熱部39の作動制御を行う。制御部4は、プレート31の昇降制御として、昇降機32に制御信号を出力して昇降機32を作動させ、プレート31の上下位置を調整する。制御部4は、粉末供給機構33の作動制御として、電子ビームBの出射前に粉末供給機構33を作動させ、プレート31上へ粉末材料Aを供給して敷き均す。制御部4は、電子ビームBの出射制御として、電子銃部21に制御信号を出力し、電子銃部21から電子ビームBを出射させる。
【0029】
制御部4は、偏向コイル24の作動制御として、偏向コイル24に制御信号を出力して、電子ビームBの照射位置を制御する。例えば、粉末材料Aの予備加熱を行う場合、制御部4は、ビーム出射部2の偏向コイル24に制御信号を出力し、プレート31に対し電子ビームBを走査して照射させる。制御部4は、ポンプ37の作動制御として、チャンバ30の内部が目標の気圧状態となるようにポンプ37に対し制御信号を出力し、ポンプ37の作動及び作動停止を制御する。制御部4は、ガス供給部38の作動制御として、チャンバ30へ予め設定された流量で不活性ガスGが供給されるようにガス供給部38に制御信号を出力し、ガス供給部38の作動及び作動停止を制御する。制御部4は、加熱部39の作動制御として、不活性ガスGが目標の加熱温度となるように、加熱部39に制御信号を出力し、加熱部39の作動状態を制御する。
【0030】
制御部4は、物体Oの造形を行う場合、例えば造形すべき物体Oの三次元CAD(Computer-Aided Design)データを用いる。物体Oの三次元CADデータは予め入力される物体Oの形状データである。制御部4は、三次元CADデータに基づいて二次元のスライスデータを生成する。スライスデータは、例えば、造形すべき物体Oの水平断面のデータであり、上下位置に応じた多数のデータの集合体である。制御部4は、このスライスデータに基づいて、電子ビームBが粉末材料Aに対し照射する領域を決定し、その領域に応じて偏向コイル24に制御信号を出力する。これにより、制御部4はビーム出射部2の偏向コイル24に制御信号を出力し、物体形状に応じた造形領域Rに対し電子ビームBを照射させる。
【0031】
次に、本実施形態に係る三次元造形装置1の動作及び三次元造形方法について説明する。
【0032】
図3は、三次元造形装置1の動作及び三次元造形方法の工程を示すフローチャートである。まず、
図3のS10に示すように、プレート31の位置設定が行われる。
図1において、物体Oの造形の初めにおいては、プレート31の位置は上方の位置に設定される。このプレート31の位置は、物体Oの造形が進むに連れて徐々に下方へ移動される。制御部4は、昇降機32に作動信号を出力し、昇降機32を作動させ、昇降ステージ35及びプレート31を移動させてプレート31の位置設定を行う。なお、このとき、チャンバ30の内部は、ポンプ37の作動により真空状態又はほぼ真空状態となっている。
【0033】
次に、粉末材料Aの供給が行われる(
図3のS12)。この粉末材料Aの供給は、電子ビームBの照射領域に粉末材料Aを供給し、敷き均す処理である。例えば、制御部4は、図示しないアクチュエータに作動信号を出力して粉末供給機構33を作動させる。これにより、粉末供給機構33が水平方向に移動し、プレート31上に粉末材料Aが供給されて敷き均され、粉末床が形成される。
【0034】
次に、予備加熱が行われる(S14)。予備加熱は、物体Oの造形を行う前に予め粉末材料Aを加熱する処理である。制御部4は、ビーム出射部2に制御信号を出力し、電子銃部21から電子ビームBを出射させると共に偏向コイル24を作動させて、電子ビームBの照射位置を制御する。これにより、プレート31上の粉末材料Aに電子ビームBが照射されて加熱される。
【0035】
そして、不活性ガスGの加熱、不活性ガスGの供給及び物体Oの造形が行われる(S16、S18、S20)。この不活性ガスGの加熱、不活性ガスGの供給及び物体Oの造形の各工程は、順次行われてもよいし、同時に行われてもよい。例えば、物体Oの造形について、制御部4は、造形すべき物体Oの三次元CADデータに基づいて二次元のスライスデータを生成する。そして、制御部4は、このスライスデータに基づいて、粉末材料Aに対し電子ビームBを照射する造形領域Rを決定し、その造形領域Rに応じてビーム出射部2から電子ビームBを照射させる。ここでの造形処理は、物体Oを構成する一部の層が造形される。物体Oは、複数の層を積層することにより造形されることとなる。
【0036】
ここで、予備加熱及び物体Oの造形を行うときに、不活性ガスGの供給が行われる。すなわち、制御部4は、ガス供給部38及び加熱部39に制御信号を出力し、ガス供給部38から不活性ガスGを排出させ、加熱部39に不活性ガスGを加熱させる。これにより、
図2に示すように、チャンバ30内へ加熱した不活性ガスGが供給される。このとき、不活性ガスGが物体O及び粉末材料Aの位置へ供給されることにより、電子ビームBの照射により物体O及び粉末材料Aが帯電(チャージアップ)されることが抑制される。また、不活性ガスGは、加熱された状態となっているため、物体O及び粉末材料Aの位置へ供給されても、物体O及び粉末材料Aの温度が急激に低下することが抑制される。従って、造形される物体Oが反り上がったり、歪みを生じたりすることを抑制することができる。なお、不活性ガスGの供給は、少なくとも物体Oの造形時に行われるが、予備加熱時及び物体Oの造形時以外のときに行われてもよい。例えば、予備加熱及び物体Oの造形を行う前に事前に不活性ガスGの供給を行ってもよい。
【0037】
そして、所望の三次元の物体Oの造形が終了しているか否かが判定される(
図3のS22)。所望の三次元の物体Oの造形が終了していない場合には、上述したプレート31の位置設定、粉末材料Aの供給、予備加熱、物体Oの造形が繰り返される。これにより、物体Oが層状に徐々に形成されていき、最終的に所望の物体Oが造形される。一方、所望の三次元の物体Oの造形が終了している場合には、
図3の一連の制御処理を終了する。
【0038】
以上説明したように、本実施形態に係る三次元造形装置1及び三次元造形方法によれば、物体Oの造形中において、加熱した不活性ガスGをチャンバ30の内部へ供給することにより、電子ビームBの照射により高温となっている物体Oが不活性ガスの供給により低温となることが抑制される。このため、物体Oに歪みが生ずることを抑制することができる。また、物体Oを精度よく造形することができる。
【0039】
仮に、物体Oの造形中において、加熱せずに不活性ガスGをチャンバ30の内部へ供給すると、電子ビームBの照射により高温となっている物体Oが不活性ガスの供給により急激に冷やされてその温度が低下することとなる。これにより、物体Oの熱収縮により物体Oの端部が反り上がるように物体Oに歪みを生ずるおそれがある。これに対し、本実施形態に係る三次元造形装置1及び三次元造形方法では、加熱した不活性ガスGをチャンバ30の内部へ供給することにより、物体Oが不活性ガスの供給により低温となることが抑制される。このため、物体Oに歪みが生ずることを抑制することができ、物体Oを精度よく造形することができるのである。
【0040】
また、本実施形態に係る三次元造形装置1及び三次元造形方法によれば、物体Oの造形中において、加熱した不活性ガスGをチャンバ30の内部へ供給することにより、電子ビームBの照射により高温となっている粉末材料Aが不活性ガスの供給により低温となることが抑制される。このため、電子ビームBの照射によるスモーク現象を抑制することができる。
【0041】
なお、本開示は、上述した実施形態に限定されるものではない。本開示は、特許請求の範囲の記載の要旨を逸脱しない範囲で様々な変形態様を取ることができる。
【0042】
例えば、上述した実施形態においては、エネルギビームとして電子ビームBを粉末材料Aに照射して物体Oを造形する場合について説明したが、電子ビームB以外のエネルギビームを照射するものであってもよい。例えば、レーザビーム、荷電粒子ビームなどを照射して物体Oを造形するものであってもよい。
【0043】
エネルギビームとしてレーザビームを用いる場合、チャンバの内部に不活性ガスを供給して、チャンバの内部を不活性ガス雰囲気にする。また、レーザビームによって粉末材料を加熱し焼結又は溶融させる際、粉末材料が蒸発してヒュームが発生する。このため、このヒュームを不活性ガスと共にチャンバの内部から排出し、新たな不活性ガスをチャンバ内に供給する場合がある。このようにチャンバからヒュームを排出することで、エネルギビームとしてレーザビームを用いる場合には、ビーム出射部の光学系にヒュームが影響を及ぼすことを抑制することができる。このように、エネルギビームとしてレーザビームを用いる構成であって、チャンバの内部に不活性ガスを供給する場合でも、不活性ガスを加熱する加熱部を設け、不活性ガスをチャンバ内に導入する前に加熱して、加熱された状態の不活性ガスをチャンバ内に供給されるようにしてもよい。不活性ガスとしては、粉末材料と実質的に反応しないガスであってもよい。このような三次元造形装置及び三次元造形方法であっても、上述した実施形態に係る三次元造形装置及び三次元造形方法と同様に、物体の造形において、物体に歪みが生ずることを抑制することができ、物体を精度よく造形することができる。
【産業上の利用可能性】
【0044】
本開示の三次元造形装置及び三次元造形方法によれば、チャンバ内に不活性ガスを供給した場合であっても適切に物体を造形することができる。
【符号の説明】
【0045】
1 三次元造形装置
2 ビーム出射部
3 造形部
4 制御部
21 電子銃部
22 収差コイル
23 フォーカスコイル
24 偏向コイル
25 飛散検知器
30 チャンバ
31 プレート
32 昇降機
33 粉末供給機構
34 ホッパ
37 ポンプ
38 ガス供給部
39 加熱部
A 粉末材料
B 電子ビーム
O 物体
R 造形領域