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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-01-06
(45)【発行日】2022-01-21
(54)【発明の名称】車両用蓄電装置
(51)【国際特許分類】
   H01M 10/6552 20140101AFI20220114BHJP
   H01M 10/04 20060101ALI20220114BHJP
   H01M 10/613 20140101ALI20220114BHJP
   H01M 10/615 20140101ALI20220114BHJP
   H01M 10/625 20140101ALI20220114BHJP
   H01M 10/647 20140101ALI20220114BHJP
   H01M 10/65 20140101ALI20220114BHJP
   H01M 10/654 20140101ALI20220114BHJP
   H01M 10/6557 20140101ALI20220114BHJP
   H01M 10/6563 20140101ALI20220114BHJP
   H01M 10/6571 20140101ALI20220114BHJP
   H01M 10/658 20140101ALI20220114BHJP
   H01M 50/20 20210101ALI20220114BHJP
   H01M 50/40 20210101ALI20220114BHJP
   H01M 50/572 20210101ALI20220114BHJP
【FI】
H01M10/6552
H01M10/04 W
H01M10/613
H01M10/615
H01M10/625
H01M10/647
H01M10/65
H01M10/654
H01M10/6557
H01M10/6563
H01M10/6571
H01M10/658
H01M50/20
H01M50/40
H01M50/572
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2018081169
(22)【出願日】2018-04-20
(65)【公開番号】P2019192381
(43)【公開日】2019-10-31
【審査請求日】2021-02-23
(73)【特許権者】
【識別番号】000003137
【氏名又は名称】マツダ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100089004
【弁理士】
【氏名又は名称】岡村 俊雄
(72)【発明者】
【氏名】大路 潔
(72)【発明者】
【氏名】増田 渉
(72)【発明者】
【氏名】高橋 敏貴
(72)【発明者】
【氏名】花岡 輝彦
【審査官】下林 義明
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-101773(JP,A)
【文献】特開昭59-143281(JP,A)
【文献】特開2014-030340(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 10/52 - 10/667
H01M 50/40 - 50/497
H01M 10/00 - 10/04
H01M 10/06 - 10/34
H01M 50/20 - 50/298
H01M 50/50 - 50/598
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
直方体形状のケースを有する複数の蓄電池を備えた車両用蓄電装置において、
前記ケースは、側面部面積が最大の第1側面部及び第2側面部を有し、
前記蓄電池は、正極板と負極板がセパレータを介して水平軸心周りに偏平状に巻回され且つ外周を絶縁部材に覆われた巻回体と、前記巻回体の外周を覆う断熱部材と、前記巻回体の1対の偏平面部のうちの前記第1側面部側の偏平面部と前記断熱部材の間に配設されたシート状のヒータと、前記第2側面部側の偏平面部の前記水平軸心方向の両端側部分に当接した1対の吸熱部及び前記第1側面部の内壁に当接した放熱部を備えたヒートパイプを前記ケース内に収容したことを特徴とする車両用蓄電装置。
【請求項2】
前記ヒートパイプは、前記1対の吸熱部から前記ケースの底面部の内面に当接して前記第1側面部に向かって延びて前記放熱部に連なることを特徴とする請求項1に記載の車両用蓄電装置。
【請求項3】
前記ヒートパイプは、前記1対の吸熱部から前記巻回体の前記水平軸心と直交する前記ケースの第3側面部及び第4側面部の内面に当接して前記第1側面部に向かって延びて前記放熱部に連なることを特徴とする請求項1に記載の車両用蓄電装置。
【請求項4】
前記第2側面部を互いに密着させた1対の前記蓄電池からなる複数の蓄電池ペアを有し、これら前記蓄電池ペアを所定の間隔を空けて水平方向に1列に整列させることによって形成された冷却風通路に前記第1側面部が面するように構成されたことを特徴とする請求項1~3の何れか1項に記載の車両用蓄電装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両に搭載する車両用蓄電装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、車両に搭載する補機用の蓄電装置を構成する蓄電池を鉛蓄電池から鉛を含まないリチウムイオン二次電池に置き換えることが検討されている。リチウムイオン二次電池は同じ蓄電容量の鉛蓄電池と比べて小型化、軽量化を図ることができ、車両の軽量化や走行性の向上に寄与する。
【0003】
例えば角型のリチウムイオン二次電池は、アルミ合金製の直方体形状のケース内に正負の電極板と電解液を密閉状に収容して構成され、ある程度の耐衝撃性を備えている。そして、複数の角型のリチウムイオン二次電池によって補機用の蓄電装置を構成してエンジンルーム内に配設する。
【0004】
エンジンルーム内に配設された補機用の蓄電装置は、走行時にはエンジンの熱によって温められた空気にさらされ、冷間時には外気温度まで低下する。蓄電装置を構成するリチウムイオン二次電池にはその優れた性能を発揮できる使用温度域があり、この使用温度域外での充放電は性能を発揮できないばかりでなく劣化が進行する虞がある。そのため、補機用の蓄電装置はエンジンの熱の影響を受け難くする必要がある。また、外気温度が使用温度域の下限温度よりも低温の場合には、補機用の蓄電装置を使用温度域内の温度に維持するように加温が必要である。
【0005】
一方、走行中には二酸化炭素等を排出しない電気自動車(Electric Vehicle:EV)についても関心が高まっている。EVは、走行用の電力を蓄えるために複数のリチウムイオン二次電池により構成された大容量の蓄電装置を備え、この蓄電装置から供給される電力で電動モータを回転駆動することにより駆動輪を駆動して走行する。また、蓄電装置の電力により制動装置や操舵装置、前照灯やエアコン等の電装品を作動させる。この蓄電装置も外気温度の影響を受け難くすると共に、外気温度が使用温度域の下限温度より低温の場合には使用温度域内の温度に維持するように加温する必要がある。また、充放電に伴い発生する熱を放熱して、その温度を使用温度域内に維持する必要がある。
【0006】
蓄電装置を温める技術として、例えば特許文献1のように、角型の蓄電池の集合体底部側に配設されたヒータによって温める技術が知られている。また、特許文献2のように、セパレータ介して正極板と負極板を交互に重ねて絶縁フィルムで密封したラミネート型の蓄電池の間に、シート状のヒータを配設する技術が知られている。蓄電装置の冷却は、一般的に、送風ファン等によって冷却風を蓄電池の周囲に流通させることにより、蓄電池の表面からの放熱を促進させる技術が採用されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2008-103207号公報
【文献】特許第5609799号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
角型の蓄電池で構成された蓄電装置を温める場合、特許文献1のように、ヒータがケースに近接又は当接するように配設され、通電により発生するジュール熱をケースに伝えて蓄電池を温めるので、特許文献2のように電極板の加温を効率的に行うことが困難である。具体的には、電極板以外にケース等の熱容量があるため、ヒータの熱が正負の電極板の加温以外にも使われる。
【0009】
また、ヒータの熱を逃がさないため、及び外気温度の影響を小さくするために、ヒータと共に蓄電装置を断熱部材で覆うことが考えられるが、ヒータはケースの所定の面から温めるので、電極板は均一に温まり難く、蓄電池の加温には改善の余地があった。一方、蓄電装置の冷却は、冷却風によって蓄電池のケースの表面からの放熱を促進するので、ヒータと共に蓄電装置を断熱部材で覆うと放熱が妨げられて冷却できない問題があった。
【0010】
本発明の目的は、蓄電池の加温と冷却を効率的に行うことができる車両用蓄電装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
請求項1の発明は、直方体形状のケースを有する複数の蓄電池を備えた車両用蓄電装置において、前記ケースは、側面部面積が最大の第1側面部及び第2側面部を有し、前記蓄電池は、正極板と負極板がセパレータを介して水平軸心周りに偏平状に巻回され且つ外周を絶縁部材に覆われた巻回体と、前記巻回体の外周を覆う断熱部材と、前記巻回体の1対の偏平面部のうちの前記第1側面部側の偏平面部と前記断熱部材の間に配設されたシート状のヒータと、前記第2側面部側の偏平面部の前記水平軸心方向の両端側部分に当接した1対の吸熱部及び前記第1側面部の内壁に当接した放熱部を備えたヒートパイプを前記ケース内に収容したことを特徴としている。
【0012】
上記構成によれば、蓄電池の巻回体は、断熱部材によってその外側の温度の影響が低減される。またシート状のヒータによって巻回体を広い偏平面部から加温すると共にそのヒータの熱を断熱部材によって逃がさないようにしている。しかも、ヒータ作動時にもヒートパイプの吸熱部が吸熱するため、第1側面部側のヒータと第2側面部側の1対の吸熱部の間で、巻回体に伝熱を促進させる温度勾配を生じさせ、巻回体全体を一層温め易くすることができる。その上、充放電により巻回体が高温になった場合に、その熱をヒートパイプによってケースの第1側面部に効率的に移動させることができる。従って、蓄電池の加熱と冷却を効率的に行うことができる。
【0013】
請求項2の発明は、請求項1の発明において、前記ヒートパイプは、前記1対の吸熱部から前記ケースの底面部の内壁に当接して前記第1側面部に向かって延びて前記放熱部に連なることを特徴としている。
上記構成によれば、放熱領域を大きくしてヒートパイプによる効率的な冷却を実現できる。
【0014】
請求項3の発明は、請求項1の発明において、前記ヒートパイプは、前記1対の吸熱部から前記巻回体の前記水平軸心と直交する前記ケースの第3側面部及び第4側面部の内壁に当接して前記第1側面部に向かって延びて前記放熱部に連なることを特徴としている。
上記構成によれば、簡単な形状のヒートパイプで大きい放熱領域を確保して、蓄電池の効率的な冷却を実現できる。
【0015】
請求項4の発明は、請求項1~3の何れか1項の発明において、前記第2側面部を互いに密着させた1対の前記蓄電池からなる複数の蓄電池ペアを有し、これら前記蓄電池ペアを所定の間隔を空けて水平方向に1列に整列させることによって形成された冷却風通路に前記第1側面部が面するように構成されたことを特徴としている。
上記構成によれば、第1側面部の放熱を促進して蓄電池の効率的な冷却を実現できる。
【発明の効果】
【0016】
本発明の車両用蓄電装置によれば、蓄電池の加熱と冷却を効率的に行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】本発明の実施例1に係る車両の構成を説明するブロック図である。
図2】本発明の実施例1に係る蓄電装置の要部分解斜視図である。
図3】本発明の実施形態による蓄電池の要部分解斜視図である。
図4図3のIV-IV線断面図である。
図5】ヒートパイプの1例を示す斜視図である。
図6】ヒートパイプの他の例を示す斜視図である。
図7】本発明の実施例2に係る車両の構成を説明するブロック図である。
図8】本発明の実施例2に係る蓄電装置の要部分解斜視図である。
図9】本発明の実施例2に係る蓄電モジュールの要部分解斜視図である。
図10図9のX -X 線断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明を実施するための形態について実施例に基づいて説明する。
【実施例1】
【0019】
最初に、図1に基づいて車両用蓄電装置を備えた車両の構成について説明する。
車両は、車両駆動装置1としてエンジンルーム内に、車両駆動用のエンジン2と、補機3としてエンジン2を始動させるスタータモータ4、エンジンルームに外気を導入する送風ファン5、エンジン2の駆動力を利用して発電するオルタネータ6、温度センサ7を含む各種センサを備えている。また、エンジンルーム内に、エンジン2や補機3等に供給する電力を蓄える蓄電装置10(車両用蓄電装置)を備えている。そして、車両は、これらエンジン2、補機3、蓄電装置10等を制御する制御部(ECU8)を搭載している。
【0020】
ECU8は、CPUと各種プログラムを記憶するメモリと入出力装置等を備えたコンピュータにより構成されている。このECU8は、各種センサから周期的に出力される信号を処理して、エンジン2、送風ファン5、蓄電装置10等に対して適切に作動させるための制御信号を出力する。ECU8は蓄電装置10の充電状態(State Of Charge:SOC)を管理し、走行に支障がないようにオルタネータ6を駆動して充電する。
【0021】
次に、蓄電装置10について説明する。
蓄電装置10は、エンジン2を収容する車両のエンジンルーム内に配設されている。エンジン2は例えば図示外の水冷式の冷却機構により冷却されるが、エンジン2から放出される熱はエンジンルーム内の空気を温める。この空気は、走行風及び送風ファン5によってエンジンルーム内に導入される外気と共に外部に排出される。温度センサ7は、蓄電装置10の温度又はその近傍の温度を検知して温度データをECU8に出力し、ECU8は蓄電装置10の過度の温度上昇を予防するために送風ファン5を駆動して送風量を調整する。
【0022】
蓄電装置10は、複数の角型のリチウムイオン二次電池(蓄電池20)を直列に接続して補機3等に電力を供給するように構成されている。例えば図2に示すように、蓄電装置10は、4つの蓄電池20を有し、絶縁性のセパレータ13を間に挟んで2つの蓄電池20を近接させた蓄電池ペア21が構成され、2つの蓄電池ペア21を有している。
【0023】
この2つの蓄電池ペア21を所定の間隔(例えば10mmの間隔)を空けて水平方向に整列させた状態を維持するように、1対の支持部材11と1対のエンドプレート12を連結して固定されている。2つの蓄電池ペア21間に所定の間隔を維持して冷却風通路17を確保するための複数のスペーサ部材11aが、1対の支持部材11に装備されている。これらの蓄電池20は、複数のバスバー14によって直列に接続され、その両端部に蓄電装置10の正極端子15と負極端子16を備えている。また、エンドプレート12と蓄電池20の間にも冷却風通路が設けられている。尚、蓄電池ペア21を構成せずに、例えば複数の蓄電池20を等間隔に整列させて夫々の蓄電池20間に冷却風通路を確保した蓄電装置10を構成することもできる。
【0024】
次に、蓄電池20について図3図5に基づいて説明する。
蓄電池20は、直方体形状のケース22を有し、蓋部材である上面部22aに蓄電池20の正極端子23と負極端子24が配設されている。ケース22は、その側面部面積が最大の互いに平行な第1側面部22b及び第2側面部22cと、これら第1,第2側面部22b,22cに直交し且つ互いに平行な第3側面部22d及び第4側面部22eと、上面部22aに対向する底面部22fを有し、それらの内壁は絶縁処理されている。ケース22内には、多孔性のセパレータ30cを介して正極板30aと負極板30bとを水平軸心周りに偏平状に巻回して外周を絶縁部材33と断熱部材34で覆った巻回体30と、ヒートパイプ38と、電解液(図示略)が収容され、蓋部材で密閉されている。蓄電池ペア21は、2つの蓄電池20の夫々の第2側面部22cを近接させて構成されている。
【0025】
巻回体30の水平軸心方向の一方(ケース22の第3側面部22d側)の端部領域では、正極板30aに連なる正極集電タブ31が上方に延びてケース22内で正極端子23に接続されている。巻回体30の水平軸心方向の他方(ケース22の第4側面部22e側)の端部領域では、負極板30bに連なる負極集電タブ32が上方に延びてケース22内で負極端子24に接続されている。また、巻回体30は、その外周部の第1側面部22b側及び第2側面部22c側にその外周部の広い面積を占める平坦且つ互いに略平行な1対の偏平面部を有する。
【0026】
巻回体30の外周を覆う絶縁部材33は、合成樹脂材料(例えばポリプロピレンやポリエチレン)で柔軟なシート状に形成されている。絶縁部材33で覆われた巻回体30は、少なくともその外周の過半領域をシート状の断熱部材34によって覆われており、水平軸心方向両端部も絶縁部材33で覆われていてもよい。この断熱部材34と絶縁部材33の間であって、巻回体30の第1側面部22b側の偏平面部に近接する領域に、その偏平面部から巻回体30を温めるためのシート状のヒータ35が配設されている。
【0027】
図示を省略するが、巻回体30の外周を覆う絶縁部材33には、第1側面部22b側の巻回体30の偏平面部に当接する領域にヒータ35を収容するための収容部が袋状に形成されている。この収容部にヒータ35が密封状に収容され、ヒータ35は電解液及び巻回体30に直接接触しない。ヒータ35の電源線35a,35bは、夫々収容部の外側に延びて正極端子23,負極端子24に接続される。尚、ヒータ35の収容部は、断熱部材34に形成することもできる。また、合成樹脂製の絶縁フィルムで挟んで密封したヒータ35を、巻回体30の第2側面部22c側の偏平面部に近接する領域に配設して、断熱部材34で覆って保持することもできる。
【0028】
ヒータ35は、通電によりジュール熱が発生するように構成され、その1対の電源線35a,35bが夫々蓄電池20の正極端子23、負極端子24に接続されている。電源線35aは、上面部22aに配設された温度スイッチ25を介して正極端子23に接続されている。温度スイッチ25は、所定の温度未満で通電するように切替わり、蓄電池20の温度として上面部22aの温度又はケース22内の温度を検知して作動する。これにより蓄電池20は、それ自体に蓄えられた電力によりヒータ35を作動させて所定の温度を維持する。所定の温度は例えば-20℃であり、蓄電池20の仕様(使用温度域の下限値)によって適宜設定する。
【0029】
ヒータ35の抵抗値は、ジュール熱及びヒータ35作動時に電力を供給する蓄電池20の自己発熱により、断熱部材34で覆われた巻回体30が所定の温度を維持可能なように設定されている。例えば、-30℃の環境下で蓄電池20が-20℃を維持するために、ヒータ35の発熱量とケース22からの放熱量が釣合うようにヒータ35の抵抗値を設定する。蓄電池20の仕様によって放熱量は異なるので、この抵抗値は蓄電池20の仕様に応じて適宜設定する。これによりヒータ35の電力消費を最小限にしてSOCの低下を緩やかにしている。
【0030】
断熱部材34は、例えばシリカエアロゲル系の多孔性の中空構造体をその中空構造が外部に対して閉じるように屈曲可能なシート状に形成したものであり、絶縁部材33よりも巻回体30とケース22の間の熱伝導を抑える効果が高く、電解液が浸潤せず絶縁性を有している。
【0031】
蓄電池20は、1対の吸熱部36a,36bと放熱部37を有し屈曲性を備えたシート状のヒートパイプ38を備えている。1対の吸熱部36a,36bは、断熱部材34より内側で絶縁部材33に覆われた巻回体30の第2側面部22c側の偏平面部であって、水平軸心方向の両端側部分に当接している。この1対の吸熱部36a,36bからケース22の底面部22fの内壁に向かって断熱部材34の外側に延びて、断熱部材34の外側で底面部22fの内壁に沿って第1側面部22bに向かって延びてケース22の第1側面部22bの内壁に当接した放熱部37に連なっている。1対の吸熱部36a,36bは、夫々正極集電タブ31、負極集電タブ32にも当接している。ヒートパイプ38内には、作動液及び作動液の毛細管現象を生じさせるウィックが封入されている。ヒートパイプ38は、その表面を電解液から保護するための絶縁性の保護膜で覆われている。
【0032】
吸熱部36a,36bにおいて巻回体30及び正極集電タブ31と負極集電タブ32の熱を吸収して気化した作動液は、吸熱部36a,36bよりも気圧が低い放熱部37に移動する。放熱部37での放熱により凝縮して液化した作動液は、毛細管現象によって吸熱部36a,36bに戻る。このように相変化する作動液を循環させてヒートパイプ38を機能させるために、放熱部37の面積を吸熱部36a,36bの合計面積の10倍以上にすることが好ましい。それ故、放熱部37をケース22の側面部面積が最大の第1側面部22bの内壁の略全領域に当接させるように形成することによって、放熱部37の放熱領域を十分に大きく確保してヒートパイプ38を機能させている。また、放熱部37は、巻回体30によってケース22の第1側面部22bの内壁に押圧されて密着し、放熱部37から第2側面部22cにスムーズに伝熱される。
【0033】
巻回体30の水平軸心方向両端部は、正極集電タブ31と負極集電タブ32が配設されて電流が集中するため、充放電時に高温になる。ヒートパイプ38は、この熱を断熱部材34の内側の吸熱部36a,36bで吸収して断熱部材34の外側の放熱部37で第1側面部22bに伝熱することにより放熱する。第1側面部22bからの放熱が冷却風通路17を通る冷却風によって促進されるので、ヒートパイプ38は巻回体30の熱を外部に着々と移動させて蓄電池20の冷却を行うことができる。また、吸熱部36a,36bと放熱部37の中間部分をケース22の底面部22fの内壁に当接させて、放熱領域をさらに大きく確保し、底面部22f近傍を通る冷却風も利用して放熱を促進させてもよい。
【0034】
ヒータ35が作動する低温のときにも、ヒートパイプ38は巻回体30から吸熱する。そのため、ケース22の第1側面部22b側のヒータ35と第2側面部22c側の吸熱部36a,36bの間で、伝熱を促進させるように巻回体30に温度勾配が生じ、巻回体30全体が一層温まり易くなっている。
【0035】
ヒートパイプ38は、図6のように、1対の吸熱部36a,36bから夫々第3側面部22d、第4側面部22eの内壁に向かって断熱部材34の外側に延び、第3,第4側面部22d,22eの内壁に沿って第1側面部22bの内壁に向かって延びて、放熱部37に連なっていてもよい。また、放熱部37をケース22の底面部22fの内壁に当接するように延設してもよい。
【0036】
ECU8は、温度センサ7の温度データに基づいて、蓄電装置10がその所定の使用温度域内で性能を発揮できるように送風ファン5による冷却を制御する。例えば温度センサ7が、使用温度域の上限温度(例えば60℃)以上の温度を検知又は検知温度の上昇度合いからその上限温度を超えることが予測される場合に、ECU8がその使用温度域の上限温度より低い温度を維持するように送風ファン5を作動させる、又はその送風量を増加させる。尚、送風ファン5は、エンジン2の冷却機構の送風ファンを蓄電装置10の冷却用として兼用してもよく、蓄電装置10専用の送風ファンであってもよい。
【実施例2】
【0037】
EVの駆動用の電力を供給する大容量の車両用蓄電装置の例について説明する。尚、実施例1と同等の部分には同じ符号を付して説明を省略する。
EVは、図7に示すように、車両側負荷51として車両駆動用の電動モータ52、制動装置53、車速センサ54、温度センサ55等を含む各種センサ、冷却ファン56、これらに供給する直流電力の電圧を調整するDCDCコンバータ57等を備えている。そして、車両側負荷51に供給する車両駆動用の電力を蓄える蓄電装置50(車両用蓄電装置)と、車両側負荷51及び蓄電装置50を制御する制御部(ECU58)を備えている。
【0038】
温度センサ55は、蓄電装置50の温度を検知する。冷却ファン56は、蓄電装置50を冷却するための冷却風を送風する。ECU58は、CPUと各種プログラムを記憶するメモリと入出力装置等を備えたコンピュータにより構成されている。このECU58は、各種センサから周期的に出力される信号を処理して、蓄電装置50、電動モータ52、制動装置53、冷却ファン56等に対して適切に作動させるための制御信号を出力する。ECU58は蓄電装置50の充電状態(SOC)を管理し、運転者に現在のSOCや走行可能距離等を報知する。
【0039】
次に、蓄電装置50について説明する。
蓄電装置50は、図8に示すようにEV車両のフロアパネルの下方空間に配設するための耐振性(剛性)と耐水性(防水性)を確保できるように、支持パネル部材61とカバー部材62からなる蓄電装置ケース60内に収容されている。図中の矢印Uは上方を示し、矢印Fは車両前方を示し、矢印Lは車両左方を示す。蓄電装置50から発生する熱は、冷却ファン56(図示略)により蓄電装置ケース60内に前側から支持パネル部材61に沿って流通するように導入されて後方に排出される冷却風によって、蓄電装置ケース60の外部に排出される。
【0040】
蓄電装置50は、複数の蓄電モジュールM1~Mnを複数のバスバー59によって直列に接続してEVの車両駆動用の電力を供給するように構成されている。尚、蓄電装置50に搭載される蓄電モジュールの数は、その蓄電装置50が搭載されるEVの仕様等に応じて適宜設定される。
【0041】
蓄電モジュールM1~Mnは夫々同じ構成なので、蓄電モジュールM1について説明し、他の蓄電モジュールM2~Mnの説明を省略する。
図9に示すように、蓄電モジュールM1は、絶縁性のセパレータ13を介して2つの角型のリチウムイオン二次電池(蓄電池70a,70b)を近接させた蓄電池ペア71が構成され、6つの蓄電池ペア71を備えている。この6つの蓄電池ペア71を所定の間隔(例えば10mmの間隔)を空けて水平方向に1列に整列させた状態を維持するように、1対の支持部材72と1対のエンドプレート73を連結して固定している。
【0042】
蓄電池ペア71間には、所定の間隔を維持して冷却風通路17を確保するための複数のスペーサ部材72aが1対の支持部材72に装備されている。エンドプレート73と蓄電池ペア71の間にも冷却風が通る通路が設けられている。複数のバスバー74によって蓄電池ペア71の蓄電池70a,70bが並列接続されると共に、複数の蓄電池ペア71が直列に接続され、その両端部に蓄電モジュールM1の正極端子75と負極端子76を備えている。
【0043】
図3図5に示すように、蓄電池ペア71の一方の蓄電池70aは、直方体形状のケース22を有し、上面部22aに蓄電池70aの正極端子23と負極端子24が配設されている。蓄電池70aは、その側面部面積が最大の互いに平行な第1側面部22b及び第2側面部22cと、これら第1,第2側面部22b、22cに直交し且つ互いに平行な第3側面部22d及び第4側面部22eと、上面部22aに対向する底面部22fを有する。
【0044】
ケース22内には、多孔性のセパレータ30cを介して正極板30aと負極板30bとを水平軸心周りに偏平状に巻回して外周を絶縁部材33と断熱部材34で覆った巻回体30と、ヒータ35と、吸熱部36a,36bと放熱部37を有するヒートパイプ38と、電解液(図示略)が収容され、蓋部材で密閉されている。ヒートパイプ38は、吸熱部36a,36bが断熱部材34の内側で絶縁部材33に覆われた巻回体30の第2側面部22c側の偏平面部であって、水平軸心方向両端側部分に当接し、放熱部37がケース22の第1側面部22bの内壁に当接している。蓄電池70aの内部構造は実施例1の蓄電池20と同じである。
【0045】
蓄電池ペア71の他方の蓄電池70bは、蓄電池70aと第2側面部22cを対称面とした対称構造であるため説明を省略するが、蓄電池70a,70bの夫々の第2側面部22cを近接させて蓄電池ペア71が構成されている。蓄電池70a,70bの夫々のヒートパイプ38の放熱部37が当接した第1側面部22bは、複数の蓄電池ペア71の間に所定の間隔で形成された冷却風通路17に面し、冷却風通路17を通る冷却風によって第1側面部22bからの放熱が促進される。
【0046】
蓄電モジュールM1は、図8図10に示すように支持パネル部材61の所定の位置に載置され、例えば図示外の締結部材によって支持パネル部材61に締結固定されている。このとき、蓄電モジュールM1の下側の複数の蓄電池ペア71と支持パネル部材61との間には、1対の支持部材72の間から冷却風通路17へ冷却風を供給する冷却風供給通路77が形成されている。この冷却風供給通路77からの冷却風が蓄電池ペア71間の冷却風通路17を下方から上方に向かって流通する。
【0047】
ECU58は、温度センサ55の温度データに基づいて、蓄電装置50が所定の使用温度域内でその性能を発揮できるように冷却を制御する。例えば、温度センサ55が、使用温度域の上限温度(例えば60℃)以上の温度を検知又は検知温度の上昇態様からその上限温度を超えることが予測された場合に、その使用温度域の上限温度より低い温度を維持するように冷却ファン56を作動させる、又はその送風量を増加させる。
【0048】
次に、本発明の作用、効果について説明する。
絶縁部材33によって外周が覆われた巻回体30の外周を断熱部材34によって覆ったので、この巻回体30を有する蓄電池20(70a,70b)は、断熱部材34よりも外側の温度の影響が低減される。また、断熱部材34と巻回体30の間に配設したヒータ35によって巻回体30を広い偏平面部から加温できると共に、そのヒータ35の熱を断熱部材34によって逃がさないようにしている。しかも、ヒータ35が作動する低温のときにもヒートパイプ38は吸熱するので、ケース22の第1側面部22b側のヒータ35と第2側面部22c側の吸熱部36a,36bの間で、巻回体30に伝熱を促進させる温度勾配を生じさせ、巻回体30全体が一層温まり易くなる。その上、充放電により巻回体30が高温になった場合に、その熱をヒートパイプ38によってケース22の第1側面部22bに移動させることができる。従って、蓄電池20(70a,70b)の加温と冷却を効率的に行うことができる。
【0049】
また、ヒートパイプ38を底面部22fの内壁や第3,第4側面部22d,22eの内壁に当接させて大きい放熱領域を確保したので、ヒートパイプ38によって効率的な冷却を実現できる。その上、ヒートパイプ38の放熱部37が当接する第1側面部22bが冷却風通路17に面しているので、第2側面部22cからの冷却を促進させることができる。
【0050】
エンジン2で走行する車両の補機3用の蓄電装置10の例と、EVの走行用の蓄電装置50の例を説明したが、エンジンと電動モータを使って走行するハイブリッド車両の蓄電装置として構成することも可能である。その他、当業者であれば、本発明の趣旨を逸脱することなく上記実施形態に種々の変更を付加した形態で実施可能であり、本発明はその種の変更形態をも包含するものである。
【符号の説明】
【0051】
2 :エンジン
3 :補機
5 :送風ファン
7 :温度センサ
8 :ECU
10 :蓄電装置
17 :冷却風通路
20 :蓄電池
21 :蓄電池ペア
22 :ケース
22b :第1側面部
22c :第2側面部
22d :第3側面部
22e :第4側面部
22f :底面部
30 :巻回体
30a :正極板
30b :負極板
30c :セパレータ
33 :絶縁部材
34 :断熱部材
35 :ヒータ
36a,36b :吸熱部
37 :放熱部
38 :ヒートパイプ
50 :蓄電装置
51 :車両側負荷
52 :電動モータ
55 :温度センサ
56 :冷却ファン
58 :ECU
70a,70b :蓄電池
71 :蓄電池ペア
77 :冷却風供給通路
M1~Mn:蓄電モジュール
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10