(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-01-06
(45)【発行日】2022-02-04
(54)【発明の名称】ニッケル粉末分散剤およびニッケル粉末スラリー
(51)【国際特許分類】
C09K 23/22 20220101AFI20220128BHJP
C09D 17/00 20060101ALN20220128BHJP
C09C 3/08 20060101ALN20220128BHJP
【FI】
B01F17/22
C09D17/00
C09C3/08
(21)【出願番号】P 2018009332
(22)【出願日】2018-01-24
【審査請求日】2020-09-23
(31)【優先権主張番号】P 2017011044
(32)【優先日】2017-01-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000004341
【氏名又は名称】日油株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100097490
【氏名又は名称】細田 益稔
(74)【代理人】
【識別番号】100097504
【氏名又は名称】青木 純雄
(72)【発明者】
【氏名】久保 佑介
(72)【発明者】
【氏名】藤田 博也
【審査官】厚田 一拓
(56)【参考文献】
【文献】特開2006-063441(JP,A)
【文献】特開2012-006005(JP,A)
【文献】特開2013-043157(JP,A)
【文献】特開2013-043160(JP,A)
【文献】特開2013-043158(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01F 17/00 - 17/56
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭素数
16~18の分岐アシル基を有するサルコシンからなることを特徴とする、
ニッケル粉末分散剤。
【請求項2】
ニッケル粉末、請求項1記載の
ニッケル粉末分散剤および有機溶媒を含有する
ニッケル粉末スラリーであって、前記
ニッケル粉末の含有量が30~80質量%であり、前記
ニッケル粉末100質量部に対して前記
ニッケル粉末分散剤を0.2~2.0質量部含有することを特徴とする、
ニッケル粉末スラリー。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ニッケル粉末スラリーに用いるニッケル粉末分散剤に関する。
【背景技術】
【0002】
金属粉末は、従来、金属の持つ光沢や導電性等の特性を活かし、光沢性や導電性を有する塗膜を形成する材料として、インキ、塗料、電子材料などの分野で利用されてきた。例えばアルミニウムや銅は、金属光沢等の諸性能を有する印刷物や塗工物の材料として利用されている。また、導電性の高い金属、例えば10族あるいは11族の金属である銀、金、白金、パラジウム、ニッケル、銅といった金属粉末は、プリント基板の電気回路や電子部品の電極を形成する材料として利用されている。
【0003】
電子部品の電極を形成する材料として金属粉末を利用する場合、各種有機溶媒中に金属含有量が60~90質量%程度になるように金属粉末を分散させ、バインダー等の添加剤を適宜加えてスラリーとしたものが利用されている。しかし、金属粉末を溶剤中に分散させることは容易ではなく、金属粉末同士が凝集することで金属粉末スラリーの粘度が過度に高まってしまう。また、金属粉末スラリーが得られても、分散安定性が悪い場合には、金属粉末スラリーの運搬時や保管時において、経時的な粘度変化が生じ増粘するといった問題があった。また、このような金属粉末スラリーを、スクリーン印刷等により、電極として基板上に印刷した場合、粘度が高く、版離れしにくいため、印刷した塗膜にかすれが生じ、所望の電極性能が得られないといった課題があった。また、積層セラミックコンデンサーの電極層にこのような金属粉末スラリーを使用した場合には、凝集物がセラミックシート層を突き抜けてしまい電極が短絡する可能性があった。
こうしたことから、金属粉末を溶媒中に均一に分散させた経時安定性にも優れる金属粉末スラリーを得るための金属粉末分散剤が求められていた。
【0004】
金属粉末スラリーの分散性を向上させるために、カルボキシル基やポリオキシエチレン基等の親水基と炭素数が12以上のアルキル基またはアルキルフェニル基である親油基を有する界面活性剤を金属分散剤として使用することが提案されている。これによって、金属含有量60~90質量%といった高濃度領域において分散性に優れたスラリーが得られるとされている(特許文献1)。
【0005】
また、アミド化合物であるオレオイルサルコシンを分散剤に使用すると、金属含有量70~90質量%のときに金属粉末の凝集が防止されることで、高濃度領域において分散性に優れたスラリーを得られることが提案されている(特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2004-158397
【文献】特開2006-63441
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
昨今、電子部品のコンパクト化がますます進み、その中で電極の薄膜化などがこれまで以上に必要になっていることから、金属含有量が30~60質量%と中程度の金属粉末スラリーに対しても優れた経時安定性が求められている。しかしながら、従来の分散剤では高濃度領域において優れた分散安定性を付与することはできても、中程度の濃度領域では分散安定性を十分に付与することができず、幅広い濃度領域において分散安定性を付与できる分散剤が求められていた。
【0008】
本発明の課題は、幅広いニッケル粉末含有量においてニッケル粒子同士の凝集を防止し、ニッケル粉末スラリーに優れた経時安定性を付与するニッケル粉末分散剤を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、上記目的を達成するために鋭意検討した結果、ニッケル粉末分散剤として、炭素数16~18の分岐アシル基を有するサルコシンを用いることで、幅広い濃度領域において、得られるニッケル粉末スラリー中の凝集粒子を防止し、かつスラリー調整後の経時安定性が優れることを見出し、本発明を達成するに至った。
【0010】
すなわち、本発明は、下記(1)~(2)に係るものである。
(1) 炭素数16~18の分岐アシル基を有するサルコシンからなることを特徴とする、ニッケル粉末分散剤。
【0011】
(2) ニッケル粉末、請求項1記載のニッケル粉末分散剤および有機溶媒を含有するニッケル粉末スラリーであって、前記ニッケル粉末の含有量が30~80質量%であり、前記ニッケル粉末100質量部に対して前記ニッケル粉末分散剤を0.2~2.0質量部含有することを特徴とする、ニッケル粉末スラリー。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、幅広い濃度領域において、ニッケル粒子の凝集を防止することで凝集粒子を防止して分散性を向上させ、かつ経時安定性に優れたニッケル粉末スラリーを提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の金属粉末分散剤および金属粉末スラリーについて更に述べる。
【0014】
(ニッケル粉末分散剤の種類及び含有量)
本発明に用いるニッケル粉末分散剤は、未中和の界面活性剤である、炭素数16~18の分岐アシル基を有するサルコシンである。
【0015】
ここで、ニッケル粉末の分散を促進するという観点からは、分岐アシル基の炭素数を16~18とするが、18であることが特に好ましい。さらに、α位の炭素で分岐した分岐アシル基がより好ましい。
【0016】
炭素数16の分岐アシル基としては、2-ヘキシルデカノイル基を例示できる。また、炭素数18の分岐アシル基としては、2-オクチルデカノイル基、2-ヘキシルドデカノイル基、8-メチル-2-(4-メチルヘキシル)-デカノイル基、5,7,7-トリメチル-2-(1,3,3-トリメチルブチル)-オクタノイル基、メチル分岐イソステアリル基を例示できる。5,7,7-トリメチル-2-(1,3,3-トリメチルブチル)-オクタノイル基が特に好ましい。
【0017】
こうしたアシル基を得るための炭素数16のカルボン酸としては、
例えば、日産化学工業(株)から市販されているイソパルミチン酸、Sasol社から市販されているISOCARB 16等がある。また、炭素数18のカルボン酸としては、例えば日産化学工業(株)から市販されているイソステアリン酸T(2-オクチルデカン酸と2-ヘキシルドデカン酸の混合物)やイソステアリン酸N(8-メチル-2-(4-メチルヘキシル)-デカン酸)やイソステアリン酸(5,7,7-トリメチル-2-(1,3,3-トリメチルブチル)-オクタン酸)、米国のエメリー社から市販されているメチル分岐イソステアリン酸等がある。
【0018】
また、金属粉末の量を100質量部としたとき、本発明の金属粉末分散剤の量を0.2質量部以上とすることによって、十分な経時安定性が得られる。また、本発明の金属粉末分散剤の量を2.0質量部以下とすることが経済性の観点からは有利である。
【0019】
炭素数16~18の分岐アシル基を有するサルコシンがニッケル粉末分散剤として優れている理由を以下に説明する。
【0020】
例えばNi微粉の表面には、金属Niが存在する部分と水酸基が存在する部分がある。この水酸基の極性が影響することで、Ni微粉粒子をターピネオール等の非極性の有機溶媒中に添加すると、Ni微粉同士が凝集する。強攪拌させて物理的に分散させることは可能であるが、Ni微粉同士で凝集する方がエネルギー的に安定であるため、均一分散した系はすみやかに不均一系に変化する。
そのため、未中和で酸型の界面活性剤、例えばオレオイルサルコシンを用いる手法が知られている。オレオイルサルコシンを用いることで分子内に有するカルボキシル基とNi粒子表面の水酸基との間で水素結合を形成、あるいはアミド結合部位との相互作用によって、Ni粒子表面はオレオイルサルコシンで被覆される。すなわち、オレオイルサルコシンが親油基を外側に向けた状態でNi粒子と相互作用した被覆体になるため、非極性の有機溶媒中に均一に分散することが可能となる。しかしながら、オレオイルサルコシンの親油基は分岐が少ない構造であるために、親油基同士で分子間力が発生し、時間の経過に伴って結果的に被覆体同士で凝集してしまう。
【0021】
ここで、炭素数16~18の分岐アシル基を有するサルコシンでは、分岐構造を有する嵩高い置換基を有しているため、立体反発によって親油基同士の分子間力が低下する。そのため、被覆体同士の凝集時間を大幅に遅延させることが可能となる。
【0022】
(金属粉末の種類及び含有量)
金属粉末を構成する金属としては、ニッケルが特に好ましい。
【0023】
本発明に用いる金属粉末の平均粒径は、良好なスラリーを得るという観点からは、0.1~1.0μmであることが好ましい。ただし、金属粉末の平均粒径は、JIS R1629「ファインセラミックス原料のレーザ回折・散乱法による粒子径分布測定方法」で測定するものである。
【0024】
また、本発明においては、金属粉末、本発明の金属粉末分散剤および有機溶媒の合計量を100質量%としたとき、金属粉末の量を30質量%以上、80質量%以下とする。例えば金属粉末スラリーを電極層に使用する場合、この含有量が30質量%未満では形成した電極層の厚みが薄くなりすぎて十分な電気特性が得られなくなる可能性がある。一方、含有量が80質量%を越えると電極層を薄層化するのが困難になる。こうした観点からは、金属粉末の量を30質量%以上、80質量%以下とするが、40質量%以上とすることが更に好ましく、また、70質量%以下とすることが更に好ましく、60質量%以下とすることが特に好ましい。
【0025】
(有機溶媒の種類及び含有量)
本発明に用いる有機溶媒は、インキ、塗料や導電性ペースト等の分野で用いられている溶剤を用いることができる。例えば、トルエンやキシレンなどの芳香族炭化水素系溶媒、シクロヘキサンなどの炭化水素系溶媒、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、およびシクロヘキサノンなどのケトン系溶媒、酢酸エチル、酢酸n-プロピル、酢酸イソプロピル、酢酸n-ブチル、およびγ-ブチロラクトンなどのエステル系溶媒、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノイソプロピルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノn-ブチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノn-プロピルエーテル、プロピレングリコールモノn-ブチルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、ジプロピレングリコールモノエチルエーテル、ジプロピレングリコールモノn-プロピルエーテル、およびジプロピレングリコールモノn-ブチルエーテルなどのグリコールエーテル系溶媒、エチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、エチレングリコールモノイソプロピルエーテルアセテート、エチレングリコールモノブチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノn-ブチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノエチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノn-プロピルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノn-ブチルエーテルアセテート、ジプロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、ジプロピレングリコールモノエチルエーテルアセテート、ジプロピレングリコールモノn-プロピルエーテルアセテート、およびジプロピレングリコールモノn-ブチルエーテルアセテートなどのグリコールエーテルエステル系溶媒、ターピネオール、ジヒドロターピネオール、ターピニルアセテート、およびジヒドロターピニルアセテートなどのテルペン系溶媒、メタノール、エタノール、n-プロパノール、イソプロパノール、n-ブタノール、イソブタノール、およびt-ブタノールなどのアルコール系溶媒が挙げられる。これらの溶剤のうち、テルペン系溶媒及びアルコール系溶媒が好ましく、テルペン系溶媒がより好ましく、ターピネオールが特に好ましい。これらの溶剤は1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0026】
本発明においては、金属粉末、本発明の金属粉末分散剤および有機溶媒の合計量を100質量%とするので、有機溶媒の量は、金属粉末および金属粉末分散剤の量の残部となる。
【実施例】
【0027】
以下、実施例に基づいて本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0028】
(実施例1~4)
まず、有機溶媒に金属粉末分散剤としてイソステアロイルサルコシンを金属粉末100質量部に対して、表1に示す所定量添加して溶解させる。前記の溶解液に金属粉末を所定量添加して、自転・公転ミキサー等を用いた分散処理を所定時間実施することでスラリーを作製する。なお、実施例1~4では、イソステアロイルサルコシンとして、5,7,7-トリメチル-2-(1,3,3-トリメチルブチル)-オクタン酸由来のアシル基(5,7,7-トリメチル-2-(1,3,3-トリメチルブチル)-オクタノイル基)を有する化合物を用いた。
【0029】
(実施例5)
分散剤として、イソステアロイルサルコシンの代わりにイソパルミトイルサルコシンを選択し、実施例1と同配合比率、同方法にてスラリーを作製した。なお、実施例5~8では、イソパルミトイルサルコシンとして、2-ヘキシルデカン酸由来のアシル基(2-ヘキシルデカノイル基)を有する化合物を用いた。
【0030】
(実施例6)
分散剤として、イソステアロイルサルコシンの代わりにイソパルミトイルサルコシンを選択し、実施例2と同配合比率、同方法にてスラリーを作製した。
【0031】
(実施例7)
分散剤として、イソステアロイルサルコシンの代わりにイソパルミトイルサルコシンを選択し、実施例3と同配合比率、同方法にてスラリーを作製した。
【0032】
(実施例8)
分散剤として、イソステアロイルサルコシンの代わりにイソパルミトイルサルコシンを選択し、実施例4と同配合比率、同方法にてスラリーを作製した。
【0033】
(比較例1)
分散剤として、イソステアロイルサルコシンの代わりにオレオイルサルコシンを選択し、実施例2と同配合比率、同方法にてスラリーを作製した。
【0034】
(比較例2)
分散剤として、イソステアロイルサルコシンの代わりにオレオイルサルコシンを選択し、実施例2と同配合比率、同方法にてスラリーを作製した。
【0035】
(比較例3)
分散剤として、イソステアロイルサルコシンの代わりにオレオイルサルコシンを選択し、実施例3と同配合比率、同方法にてスラリーを作製した。
【0036】
(比較例4)
分散剤として、イソステアロイルサルコシンの代わりにオレオイルサルコシンを選択し、実施例4と同配合比率、同方法にてスラリーを作製した。
【0037】
<経時安定性>
スラリー作成後、常温で18時間経過したものについて、下記に示す条件で後方散乱光強度を測定し、分散液の経時安定性を評価した。表1に各例のスラリーの組成を示し、表2に分散液の経時安定性の評価結果を示す。
【0038】
(測定条件)
・ 測定装置:溶液安定性評価装置(英弘精機(株)製 タービスキャンMA2000型)
・ 測定波長:850nm
・ 試料質量:10~20g
【0039】
(評価)
◎: 初期値と比較して後方散乱光強度の変化率が1%未満
○: 初期値と比較して後方散乱光強度の変化率が1%以上、5%未満
△: 初期値と比較して後方散乱光強度の変化率が5%以上、
10%未満
×: 初期値と比較して後方散乱光強度の変化率が10%以上
【0040】
【0041】
【0042】
実施例1~8では、金属粉末分散剤としてイソステアロイルサルコシンまたはイソパルミトイルサルコシンを選択して金属粉末スラリーを得ているが、金属粉末含有量に関係なく、後方散乱光の変化率が5%未満と経時安定性に優れる結果が得られた。
【0043】
比較例1~4では、金属粉末分散剤としてオレオイルサルコシンを選択して金属粉末スラリーを得ているが、金属粉末含有量が高い場合には後方散乱光の変化率が6%以下と一定の安定性がみられたが(比較例1、3)、金属粉末含有量が低い場合には後方散乱光の変化率が10%以上と大きく、経時安定性が不十分であるという結果が得られた。