(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-01-06
(45)【発行日】2022-01-21
(54)【発明の名称】岸壁クレーンおよび岸壁クレーンの制御方法
(51)【国際特許分類】
B66C 5/08 20060101AFI20220114BHJP
B66C 19/00 20060101ALI20220114BHJP
【FI】
B66C5/08
B66C19/00 A
(21)【出願番号】P 2017151787
(22)【出願日】2017-08-04
【審査請求日】2020-03-05
(73)【特許権者】
【識別番号】518126144
【氏名又は名称】株式会社三井E&Sマシナリー
(74)【代理人】
【識別番号】110001368
【氏名又は名称】清流国際特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】堀江 雅人
【審査官】須山 直紀
(56)【参考文献】
【文献】実開昭62-140083(JP,U)
【文献】特開2016-047748(JP,A)
【文献】特開昭57-170379(JP,A)
【文献】特開2001-097666(JP,A)
【文献】米国特許第03325018(US,A)
【文献】中国特許出願公開第101045513(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B66C 5/08
B66C 19/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
海陸方向に延設されていて脚構造体により支持されるガーダと、このガーダの海側端部に起伏可能に連結される中間ブームおよびこの中間ブームの海側端部に連結される先端ブームからなる中折れブームと、前記先端ブームの陸側端部の近傍に配置される連結部と、前記中折れブームの上方に配置されて前記連結部と前記脚構造体とを連結する補助ステーとを備える岸壁クレーンにおいて、
前記補助ステーが延在方向の圧縮力を支持可能な柱状部材で構成されていて、
前記中間ブームの上面に設置される台座を備えていて、前記中間ブームと前記先端ブームとが水平となる前記中折れブームの倒伏状態のときに前記台座が前記補助ステーを下方から支持する構成を備えることを特徴とする岸壁クレーン。
【請求項2】
前記中間ブームおよび前記先端ブームの下面側に配置されていて海陸方向を直角に横断する走行方向を軸方向として前記先端ブームと前記中間ブームとを連結するピンを備えていて、
前記中折れブームの起立状態のときに、前記ピンを中心とする前記先端ブームの海側端部の上下方向の移動を支持する構成を前記補助ステーが有する請求項1に記載の岸壁クレーン。
【請求項3】
前記中折れブームの起立状態のときに前記補助ステーが前記台座から離間する構成を備える請求項1または2に記載の岸壁クレーン。
【請求項4】
海陸方向に延設されるガーダを脚構造体で支持して、前記ガーダの海側端部に連結される中間ブームおよびこの中間ブームの海側端部に連結される先端ブームで中折れブームを構成して、前記先端ブームの陸側端部の近傍に配置される連結部と前記脚構造体とを前記中折れブームの上方に配置される補助ステーで連結した岸壁クレーンの制御方法であって、
前記補助ステーの延在方向の圧縮力を支持可能な柱状部材で前記補助ステーを構成して、
前記中間ブームの上面に台座を設置して、前記中間ブームと前記先端ブームとが水平となる前記中折れブームの倒伏状態のときに前記補助ステーを下方から前記台座で支持することを特徴とする岸壁クレーンの制御方法。
【請求項5】
前記中間ブームおよび前記先端ブームの下面側に配置されていて海陸方向を直角に横断する走行方向を軸方向とするピンで前記先端ブームと前記中間ブームとを連結して、
前記中折ブームの起立状態のときに、前記ピンを中心とする前記先端ブームの海側端部の上下方向の移動を前記補助ステーで支持する請求項4に記載の岸壁クレーンの制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、先端ブームと中間ブームとからなる中折れブームを備える岸壁クレーンおよびこの岸壁クレーンの制御方法に関し、詳しくは中折れブームが起立状態のとき補助ステーにより先端ブームの水平姿勢を精度よく維持するとともに、中折れブームの重量増加を抑制できる岸壁クレーンおよびこの岸壁クレーンの制御方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
先端ブームと中間ブームとからなる中折れブームを備える岸壁クレーンが種々提案されている(例えば特許文献1参照)。特許文献1に記載の岸壁クレーンは、先端ブームから脚構造体に向かって張設されるワイヤロープを備えている。中折れブームが起立状態のとき、先端ブームはこのワイヤロープで陸側に引っ張られることにより水平状態を維持する構成であった。
【0003】
そのためワイヤロープが伸びると、先端ブームの海側端部が下がってしまい先端ブームが接岸時の船舶と衝突する不具合が発生する。ワイヤロープは比較的伸びやすいため、先端ブームの水平姿勢を精度よく決定して維持することは困難であった。
【0004】
ワイヤロープは圧縮力を一切支持できない。そのため先端ブームの海側端部が風等により上がってしまうことを防止できなかった。先端ブームの海側端部が上がってしまい航空制限を超える不具合が発生していた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は上記の問題を鑑みてなされたものであり、その目的は中折れブームが起立状態のとき補助ステーにより先端ブームの水平姿勢を精度よく維持するとともに、中折れブームの重量増加を抑制できる岸壁クレーンおよびこの岸壁クレーンの制御方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の目的を達成するための本発明の岸壁クレーンは、海陸方向に延設されていて脚構造体により支持されるガーダと、このガーダの海側端部に起伏可能に連結される中間ブームおよびこの中間ブームの海側端部に連結される先端ブームからなる中折れブームと、前記先端ブームの陸側端部の近傍に配置される連結部と、前記中折れブームの上方に配置されて前記連結部と前記脚構造体とを連結する補助ステーとを備える岸壁クレーンにおいて、前記補助ステーが延在方向の圧縮力を支持可能な柱状部材で構成されていて、前記中間ブームの上面に設置される台座を備えていて、前記中間ブームと前記先端ブームとが水平となる前記中折れブームの倒伏状態のときに前記台座が前記補助ステーを下方から支持する構成を備えることを特徴とする。
【0008】
上記の目的を達成するための本発明の岸壁クレーンの制御方法は、海陸方向に延設されるガーダを脚構造体で支持して、前記ガーダの海側端部に連結される中間ブームおよびこの中間ブームの海側端部に連結される先端ブームで中折れブームを構成して、前記先端ブームの陸側端部の近傍に配置される連結部と前記脚構造体とを前記中折れブームの上方に配置される補助ステーで連結した岸壁クレーンの制御方法であって、前記補助ステーの延在方向の圧縮力を支持可能な柱状部材で前記補助ステーを構成して、前記中間ブームの上面に台座を設置して、前記中間ブームと前記先端ブームとが水平となる前記中折れブームの倒伏状態のときに前記補助ステーを下方から前記台座で支持することを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、延在方向の圧縮力を支持できる柱状部材で補助ステーを構成したので、中折れブームが起立状態のときに先端ブームの海側端部が風等により上がってしまう不具合を防止できる。起立状態における先端ブームの水平な姿勢を安定的に維持するには有利である。
【0010】
また補助ステーを支持する台座を備えているので補助ステーを比較的軽量な柱状部材で構成する場合であっても、中折れブームが倒伏状態のときに補助ステーがたわむことを抑制できる。補助ステーのたわみを抑制しつつ中折れブームの重量増加を抑制するには有利である。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本発明の岸壁クレーンを例示する説明図である。
【
図2】
図1の岸壁クレーンの中折れブームの周辺を拡大して例示する説明図である。
【
図3】
図2の岸壁クレーンの海側の側面を例示する説明図である。
【
図4】
図2の岸壁クレーンの上面を例示する説明図である。
【
図5】
図2の岸壁クレーンの中折れブームが起立した状態を例示する説明図である。
【
図6】
図2の台座の変形例を例示する説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の岸壁クレーンおよび岸壁クレーンの制御方法を図に示した実施形態に基づいて説明する。なお、図中では海陸方向を矢印x、この海陸方向xを直角に横断する走行方向を矢印y、上下方向を矢印zで示している。
【0013】
図1に例示するように本発明の岸壁クレーン1は、一対の海側脚2aと一対の陸側脚2bと複数の水平部材からなる脚構造体2と、この脚構造体2に支持されていて海陸方向xに延設されるガーダ3と、海陸方向xに延設されていてガーダ3の海側に起伏可能な状態で連結される中折れブーム4とを備えている。一対の海側脚2aは走行方向yに並べて配置されている。同様に一対の陸側脚2bも走行方向yに並べて配置されている。
【0014】
中折れブーム4は、海陸方向xに延設されていてガーダ3の海側端部に連結される中間ブーム4aと、海陸方向xに延設されていてこの中間ブーム4aの海側端部に連結される先端ブーム4bとからなる。
【0015】
上記に加えて岸壁クレーン1は、陸側脚2bの上方に設置される機械室5と、ガーダ3および中折れブーム4に沿って海陸方向xに横行するトロリ6と、トロリ6から下方に懸吊される吊り具7とを備えている。
【0016】
図1は岸壁クレーン1がコンテナ等の荷役を行なう作業時の状態を示している。このとき中折れブーム4は略水平な状態となり、この状態を以下、倒伏状態ということがある。
【0017】
図2~
図4に例示するように、一対の海側脚2aの上端どうしを連結する水平部材2dの下方に、ガーダ3が固定されている。
【0018】
図2に例示するようにこのガーダ3の海側端部には走行方向yを軸方向とするピンP1
により中間ブーム4aが傾動可能な状態で連結されている。
【0019】
中間ブーム4aの海側端部には走行方向yを軸方向とするピンP2により先端ブーム4bが連結されている。このピンP2は中間ブーム4aおよび先端ブーム4bの下面側に配置されていて、中間ブーム4aの海側端部の面と先端ブーム4bの陸側端部の面とは互いに当接可能に構成されている。これにより水平状態の中間ブーム4aに対して、先端ブーム4bは下方となる方向にのみ傾動可能となる。またこの実施形態では海陸方向xにおける中間ブーム4aの長さが先端ブーム4bの長さよりも長く構成されている。
【0020】
図3に例示するように海側脚2aの上方にはマスト2cが立設されている。マスト2cは脚構造体2の一部を構成するものである。
図2に例示するように脚構造体2のマスト2cの上端近傍と中間ブーム4aの上面とは第一テンションバー8で連結されている。またマスト2cの上端近傍と先端ブーム4bの上面とは第二テンションバー9で連結されている。この第一テンションバー8および第二テンションバー9は、倒伏状態の中折れブーム4の荷重を支持している。
【0021】
岸壁クレーン1は中折れブーム4を起伏させるための起伏機構10を備えている。
図2に例示するようにこの実施形態では起伏機構10は、機械室5に配置される起伏ドラム11と、マスト2cの頂部近傍の海側側面に設置される滑車12aと、中間ブーム4aの海側端部の近傍の上面に設置される滑車12bと、起伏ドラム11から繰り出されてと滑車12aと滑車12bとに掛け回される起伏ロープ13とで構成される。なお図では説明のため起伏ドラム11と起伏ロープ13を破線で示している。起伏ドラム11は、起伏ロープ13を巻き上げることで中間ブーム4aを起立状態とすることができ、起伏ロープ13を繰り出すことで中間ブーム4aを倒伏状態とすることができる。
【0022】
図2に例示するように岸壁クレーン1は、先端ブーム4bの陸側端部の近傍に設置される連結部14を備えている。また岸壁クレーン1は脚構造体2を構成する水平部材2dと連結部14とを連結する補助ステー15を備えている。補助ステー15の陸側端部が水平部材2dの海側側面にピンP3で連結され、補助ステー15の海側端部が連結部14にピンP4で連結されている。ピンP3、P4は走行方向yを軸方向とするピンで構成されている。
【0023】
連結部14は、先端ブーム4bの陸側端部の端面よりも陸側に突出して、先端ブーム4bの上面よりも上方に突出する形状を有している。
【0024】
補助ステー15は、例えばH形鋼やI形鋼などの柱状部材で構成されている。補助ステー15はその延在方向(軸方向)の圧縮力を支持可能な柱状部材で構成されていればよい。例えばT形鋼などの他の形状の形鋼や、鋼管などで補助ステー15を構成してもよい。
【0025】
図2に例示するように中間ブーム4aの両端部に配置されるピンP1、P2と、補助ステー15の両端に配置されるピンP3、P4との四点が、岸壁クレーン1を走行方向yに見通したときに平行四辺形の各頂点となる位置に配置されることが望ましい。
【0026】
図2に例示するように中間ブーム4aの上面には台座16が設置されている。この台座16は、中折れブーム4が倒伏状態のときに補助ステー15を下方から支持する構成を有している。台座16は補助ステー15の荷重を支持できる構成であればよく、例えば直方体形状のブロック材で構成することができる。
【0027】
中折れブーム4が倒伏状態のときは、中折れブーム4の荷重は第一テンションバー8および第二テンションバー9により支持されている。このとき補助ステー15には延在方向
において引張力や圧縮力がほとんど発生しない状態であることが望ましい。補助ステー15の延在方向の長さを調整することにより、引張力や圧縮力が補助ステー15に発生することを抑制できる。
【0028】
図2に例示するように補助ステー15の途中部分を台座16で支持できるので、補助ステー15が自重でたわむことを防止できる。剛性が比較的低くたわみやすい柱状部材で補助ステー15を構成する場合であっても、台座16によりたわみの発生を防止できる。そのため補助ステー15を比較的軽い柱状部材で構成することができる。補助ステー15がたわみにともない振動して疲労等を起こす不具合を回避するには有利である。
【0029】
補助ステー15は軸方向に長くなるほどたわみやすくなる。中間ブーム4aが長くなるほど補助ステー15の長さが必要となる。そのため
図2に例示するように海陸方向xにおいて、先端ブーム4bに比べて中間ブーム4aの方が長い岸壁クレーン1ほど本発明の効果が大きくなる。
【0030】
先端ブーム4bに比べて中間ブーム4aの方が短い場合は、補助ステー15が比較的短くなるためたわみ難くなる。しかしながらこのような岸壁クレーン1においても、台座16を設置することができる。台座16の設置により、たわみやすいがより軽量な柱状部材を補助ステー15として採用することができる。
【0031】
中折れブーム4を起立させる際には、起伏機構10を構成する起伏ドラム11で起伏ロープ13を巻き上げる。これにともない中間ブーム4aは陸側端部に配置されているピンP1を支点として、海側端部が上昇していく。中間ブーム4aとピンP2で連結されている先端ブーム4bも上昇していく。中間ブーム4aの起立にともない、第一テンションバー8および第二テンションバー9はピン結合等により構成される途中部分の屈曲点で屈曲して折り畳まれていく。
【0032】
図5に例示するように起立状態となる中折れブーム4は、起伏ロープ13により支持されて垂直に近い角度まで起立する状態となる。このとき中折れブーム4の荷重の大部分が起伏機構10の起伏ロープ13により支持され、一部が補助ステー15により支持されている。中折れブーム4の起立にともない、台座16に対して補助ステー15は離間する方向に相対的に移動する。
【0033】
先端ブーム4bは、ピンP2を中心に海側端部が下がろうとする回転モーメントを補助ステー15により支持されてほぼ水平な状態となる。起立状態のときの先端ブーム4bが水平に維持される状態に、補助ステー15の軸方向の長さは予め決定されている。
図5では説明のため第一テンションバー8および第二テンションバー9を省略している。
【0034】
補助ステー15は、ワイヤロープと比べると極めて伸びにくいH形鋼などの柱状部材で構成されている。補助ステー15は軸方向に伸びずほとんど長さが変わらない。そのため中折れブーム4が起立状態のときに補助ステー15により先端ブーム4bの水平姿勢を精度よく維持するには有利である。補助ステー15が伸びて先端ブーム4bの海側端部が下がるなどの不具合を回避するには有利である。
【0035】
強風等により先端ブーム4bの海側端部が上方に移動しようとすると、先端ブーム4bの陸側端部のピンP4が補助ステー15を下方に押込む力を発生させる。
【0036】
本発明では補助ステー15が軸方向の圧縮力を支持可能な柱状部材で構成されているため、ピンP4が下方に移動しようとする力を補助ステー15で支持することができる。これにより先端ブーム4bの海側端部が強風等により上方に大きく押し上げられる不具合を
回避することができる。
【0037】
図5に例示する実施形態では中折れブーム4が起立状態となるとき、補助ステー15は台座16から離間する方向に移動する。しかしながら四つのピンP1~P4で構成されるリンク機構の形状によっては、起立状態のときに補助ステー15が台座16から離間しない場合もあり得る。
【0038】
このような場合は、連結部14の形状を変更して補助ステー15が台座16から離間する構成とすることができる。具体的には先端ブーム4bの陸側端部に対して、連結部14が陸側に突出する長さや上方に突出長さを変更することができる。これによりピンP4の位置が変更されるので、中折れブーム4の起伏にともなう補助ステー15の挙動を変えることができる。
【0039】
また起立状態のときに台座16が中間ブーム4aの延在方向に移動する構成にしてもよい。このとき補助ステー15と中間ブーム4aとの間隔が比較的大きい位置まで台座16が移動する構成にしてもよい。補助ステー15と台座16との干渉を回避することができる。
【0040】
また起立状態のときに台座16が補助ステー15から離間する方向に収縮する構成にしてもよい。
図6に例示するように台座16を流体シリンダ17で構成することができる。例えば中折れブーム4が倒伏状態のときに伸長して補助ステー15を支持して、起立状態のときに収縮して補助ステー15との干渉を避ける構成を台座16が有していてもよい。
【符号の説明】
【0041】
1 岸壁クレーン
2 脚構造体
2a 海側脚
2b 陸側脚
2c マスト
2d 水平部材
3 ガーダ
4 中折れブーム
4a 中間ブーム
4b 先端ブーム
5 機械室
6 トロリ
7 吊り具
8 第一テンションバー
9 第二テンションバー
10 起伏機構
11 起伏ドラム
12a、12b 滑車
13 起伏ロープ
14 連結部
15 補助ステー
16 台座
17 流体シリンダ
P1~P4 ピン
x 海陸方向
y 走行方向
z 上下方向