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特許7004292工作機械及び工作機械のスライドレールの温度管理方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-01-06
(45)【発行日】2022-01-21
(54)【発明の名称】工作機械及び工作機械のスライドレールの温度管理方法
(51)【国際特許分類】
   B23Q 1/38 20060101AFI20220114BHJP
   F16C 32/06 20060101ALI20220114BHJP
   B23Q 1/72 20060101ALI20220114BHJP
   B23Q 11/12 20060101ALI20220114BHJP
   B23Q 17/00 20060101ALI20220114BHJP
   B23Q 11/14 20060101ALI20220114BHJP
【FI】
B23Q1/38 Z
F16C32/06 A
B23Q1/72 B
B23Q11/12 E
B23Q17/00 A
B23Q11/14
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2017201278
(22)【出願日】2017-10-17
(65)【公開番号】P2019072814
(43)【公開日】2019-05-16
【審査請求日】2020-07-22
(73)【特許権者】
【識別番号】000150604
【氏名又は名称】株式会社ナガセインテグレックス
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】板津 武志
【審査官】中里 翔平
(56)【参考文献】
【文献】特開昭50-009183(JP,A)
【文献】特開昭63-196340(JP,A)
【文献】特開2010-194694(JP,A)
【文献】特開平05-306718(JP,A)
【文献】特開2000-233343(JP,A)
【文献】特開2011-051026(JP,A)
【文献】特開平05-280540(JP,A)
【文献】特開2013-139846(JP,A)
【文献】特開2013-136108(JP,A)
【文献】特開平04-069125(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23Q 1/38
B23Q 11/12-11/14
F16C 32/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
一方向に延長された摺動面を有するスライドレール上に潤滑油の油膜を介して移動体を移動可能に支持した油静圧軸受装置を備え、
前記スライドレールの前記摺動面全体を前記潤滑油によって前記油静圧軸受装置の隙間の潤滑油より厚い油膜で覆うための潤滑油供給手段を設け
前記潤滑油供給手段は、前記スライドレールに形成された静圧ポケットを含み、
前記スライドレールは、油膜を保持するための油膜保持手段を有し、
前記油膜保持手段は、前記静圧ポケットの底面に固定された堰板であり、同堰板は前記スライドレールの上面より上方に突出し、
前記潤滑油を前記静圧ポケットのうち前記堰板よりも前記摺動面側に供給する、工作機械。
【請求項2】
前記摺動面上の潤滑油の温度を検出する潤滑油温度検出手段と、その潤滑油温度検出手段の温度検出結果に基づいて、潤滑油の温度を調節する温度調節手段とを備えた請求項に記載の工作機械。
【請求項3】
外気温度を検出するための外気温度検出手段を備え、前記温度調節手段は前記摺動面上の潤滑油が外気温度と等しくなるように動作する請求項に記載の工作機械。
【請求項4】
前記スライドレールをネジによって機体に固定し、そのネジの頭部を前記スライドレールの前記静圧ポケットの底面に設けた請求項1ないし3のいずれか一項に記載の工作機械。
【請求項5】
請求項1ないし4のうちのいずれか一項に記載の工作機械において、潤滑油をスライドレールの静圧ポケットから溢れさせて、少なくとも前記摺動面全体を潤滑油によって覆い、スライドレールの温度管理を行う工作機械におけるスライドレールの温度管理方法。
【請求項6】
請求項に記載の工作機械において、工作機械の周囲温度を外気温度検出手段によって検出し、潤滑油を周囲温度と等しくする工作機械におけるスライドレールの温度管理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、スライドレール上に油膜を介して移動体を移動可能に支持するようにした油静圧軸受装置が備えられた工作機械及びその工作機械のスライドレールの温度管理方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、静圧ポケット内の潤滑油の圧力及び温度を制御してスライドレールの摺動面と移動体との間の静圧軸受の隙間を一定に保持するようにした静圧軸受装置が開示されている。この特許文献1の静圧軸受装置においては、静圧ポケット内の潤滑油の出口の温度を検出するための温度センサが設けられている。そして、この温度センサからの測定温度信号に基づいて静圧ポケットへの潤滑油の供給温度を制御する温度制御装置が設けられている。また、静圧ポケットへ供給する潤滑油の流量を制御することにより、静圧ポケット内の圧力を制御する定圧比流量調整弁が設けられている。そして、潤滑油の温度と圧力とを制御することにより、静圧軸受の隙間を一定に保持するようになっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開平5-306718号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
前記のように、特許文献1の装置においては、潤滑油の圧力と温度とを制御して、静圧軸受の隙間を一定に保持するようにしているが、周囲の外気温度に合わせて摺動面の温度を適切に制御することは行っていない。従って、例えば、工作機械の周囲温度が大きく変動した場合、静圧軸受の摺動面が湾曲したり、伸縮したりして、変形するおそれがあり、このような場合は、摺動面上を移動する移動体として高い移動精度を得ることができない。
【0005】
また、静圧ポケット内に潤滑油を供給するために、供給口から潤滑油が吐出されると、その吐出時に潤滑油に対する拘束が解放されて、潤滑油の温度が上昇する。この場合、例えば、室温が低いために、潤滑油の温度よりもスライドレールの温度が低く、供給口から吐出された潤滑油とスライドレールとの間の温度差が大きいと、摺動面を有するスライドレールに温度の高低差の分布が生じて、スライドレールが変形するおそれがある。このため、移動体の移動精度が低下して、ワークの加工精度が低下する結果となる。
【0006】
さらに、移動体が移動しているときには、静圧軸受の隙間に位置する潤滑油が剪断されて発熱が生じる。このため、この隙間の部分の温度が摺動面の他の部分の表面より温度が上昇される。特に、周囲の気温が低い状態であって、移動体が長時間停止された状態においては、摺動面の温度が低い。この状態において、移動体が移動して、隙間の潤滑油が剪断発熱により温度上昇し、特に、移動体が狭い範囲を往復移動された場合には、摺動面における移動体の移動範囲の部分が同摺動面の他の部分よりかなり高温になる。このため、摺動面を有するスライドレールは、高温部分の熱膨張によって湾曲したり、歪んだりすることになり、このため、前記のように、移動体の移動精度が低下して、ワークの加工精度が低下する結果となる。
【0007】
本発明の目的は、移動体の移動精度を高い状態に維持できる油静圧軸受装置を備えた工作機械及びスライドレールの温度管理方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の目的を達成するために、本発明の工作機械は、一方向に延長された摺動面を有するスライドレール上に潤滑油の油膜を介して移動体を移動可能に支持した油静圧軸受装置を備え、前記スライドレールの前記摺動面全体を前記潤滑油によって前記油静圧軸受装置の隙間の潤滑油より厚い油膜で覆うための潤滑油供給手段を設けたことを特徴とする。
【0009】
本発明の工作機械におけるスライドレールの温度管理方法においては、潤滑油を前記静圧ポケットから溢れさせて、前記摺動面全体を潤滑油によって覆い、スライドレールの温度管理を行うことを特徴とする。
【0010】
以上の構成においては、スライドレールの摺動面全体に対して、室温と等しい温度で、静圧軸受の隙間より厚い油膜を形成する大量の潤滑油を流し続けることにより、摺動面を室温と等しい状態に維持できる。このため、移動テーブルをスライド動作しても、摺動面部分の温度上昇を抑制できて、スライドレールの湾曲や伸縮などの変形を回避でき、ワークの高精度加工が可能になる。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、移動体を高い精度で移動させることができるという効果を発揮する。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】工作機械の正面図。
図2】工作機械の側面図。
図3】スライドレール部分の断面図。
図4】スライドレールの一部破断斜視図。
図5】スライドレールの一部破断平面図。
図6】スライドレール部分の拡大断面図。
図7】静圧ポケットを示す平面図。
図8】工作機械の油圧系統を示す回路図。
図9】工作機械の電気的構成を示す回路図。
図10】変更例を示す断面図。
【発明を実施するための形態】
【0013】
(実施形態)
以下、本発明を具体化した実施形態を図面に基づいて説明する。
図1及び図2に示すように、工作機械の機体としてのダイキャスト製の機台11の上面には、同機台11の図1における左右方向に延長された一対の支持部12が突設されている。両支持部12の上面には、前記左右方向に延びる一対の平行なスライドレール13が載置されて、図5及び図6に示す複数のネジ14によって固定されている。
【0014】
図3及び図4に示すように、スライドレール13の上面131及び前部側の一方の側面132には図1の左右方向に伸びる摺動面15,16がそれぞれ形成されている。スライドレール13の上面131の後部において摺動面15と隣接する位置には、摺動面15と平行に伸びる長溝状の静圧ポケット17が形成されている。なお、本実施形態においては、各スライドレール13の摺動面15,16側を前部、静圧ポケット17側を後部とする。図5に示すように、静圧ポケット17の左右方向の端部とスライドレール13の端面134との間の距離αは、静圧ポケット17の長辺とスライドレール13の前部側の側面132との間の距離βと等しく形成されている。
【0015】
図5図7に示すように、前記ネジ14は、その頭部が油静圧軸受装置(以下、油静圧軸受という)を構成する静圧ポケット17の内底面に配列されている。そして、静圧ポケット17の底面には座ぐり孔171が形成され、この座ぐり孔171内に前記ネジ14の頭部141が位置している。頭部141の上面は静圧ポケット17の底面の下方に位置するとともに、頭部141の外周面と座ぐり孔171の内周面との間には間隔が形成されている。この静圧ポケット17内の潤滑油Sが静圧ポケット17から溢れ出てスライドレール13の摺動面15を有する上面131,摺動面16を有する側面132,その側面132の反対側の側面133及びスライドレール13の左右両端面134のそれぞれ全体を覆うように流れる。
【0016】
図6及び図7に示すように、静圧ポケット17の底面には、油膜保持手段としての断面L形状をなす堰板18がその下側折曲部182においてネジ181によって固定され、立ち上がり部183の上端がスライドレール13の上面131より上方に突出している。この堰板18の下側折曲部182は座ぐり孔171の直径より狭い幅を有し、下側折曲部182の両幅端と座ぐり孔171の開口の内周縁との間には隙間が形成されている。そして、堰板18は、前記静圧ポケット17の後述の供給口31からの潤滑油Sを堰き止めて、その潤滑油Sが摺動面15,16側に流れるように規制し、その結果、摺動面15,16側の上面131,前側の側面132及び両端面134には油膜S1が形成される。なお、図4及び図5においては、堰板18の図示を省略している。この油膜S1の厚さは、0.5~3mm(ミリメートル)程度である。
【0017】
また、前記供給口31からの潤滑油Sが、堰板18の下側折曲部182の前端と座ぐり孔171との間の隙間から同座ぐり孔171内に流れる。そして、潤滑油Sは、その座ぐり孔171内から下側折曲部182の後端と座ぐり孔171との間の隙間を通って立ち上がり部183の後部側のスライドレール13の上面131全体に流れる。従って、その上面131に油膜S1が形成される。そして、潤滑油Sは、その上面131から後部側の側面133全体に流れて、その側面133にも油膜S1が形成される。ただし、立ち上がり部183の後部側の油膜S1の厚さは、立ち上がり部183の前部側の油膜S1の厚さの5分の1~半分程度の厚さである。
【0018】
図1図3に示すように、両スライドレール13上には移動体としての移動テーブル21が同スライドレール13の延長方向に沿って油静圧軸受を介して移動可能に支持されている。移動テーブル21の内側には、前記摺動面15,16と対応する摺動部22,23が突設されている。この摺動部22,23と前記摺動面15,16との間にそれぞれ油静圧軸受の隙間が形成される。この隙間は前記油膜S1の厚さよりかなり薄い数十μm(マイクロメートル)程度である。移動テーブル21の左右幅はスライドレール13の左右長より短く形成されており、このため、スライドレール13の摺動面15,16の大部分は移動テーブル21の外部に露出している。スライドレール13の下側において、機台11上には受け樋25,26が設置されている。
【0019】
なお、移動テーブル21は、スライドレール13と平行に延長されたボールスクリュー(図示しない)の回転によるネジの作用によって往復動される。このボールスクリュー及び摺動面15,16は、移動テーブル21の左右両側に位置するテレスコピック状のカバー(図示しない)によって覆われており、ボールスクリューや摺動面15,16に対する塵埃などの付着が抑制されるようになっている。
【0020】
移動テーブル21上には、ワーク(図示しない)が載置されるワークホルダ(図示しない)が設置される。あるいは、移動テーブル21上には、ワーク加工用の工具(図示しない)を有するコラムが載置される。移動テーブル21上に前記ワークホルダが設置される構成の場合は、機台11上に前記工具(図示しない)を有するコラムが設けられる。移動テーブル21上に前記コラムが設置される構成の場合は、機台11上に前記ワークホルダが設けられる。
【0021】
図3及び図6に示すように、前記静圧ポケット17の内底部には、複数の供給口31が開口されており、これらの供給口31は静圧ポケット17の延長方向に沿って配列されている。
【0022】
図8に示すように、潤滑油Sを貯留するためのオイルタンク32と前記供給口31との間には、供給路33が介在されている。供給路33にはオイルポンプ34と絞りバルブ35とが接続されている。オイルタンク32には潤滑油温度調節手段としての温度調節ユニット36が付設され、この温度調節ユニット36によってオイルタンク32内の潤滑油Sの温度が調節される。前記受け樋25,26とオイルタンク32との間には排出路37が介在され、受け樋25,26内の潤滑油Sがオイルタンク32に戻される。
【0023】
図1及び図9示すように、前記機台11には外気温度検出手段としての第1温度センサ41が設けられ、この第1温度センサ41により機台11の温度が検出される。機台11の温度は、工作機械の周囲の気温(以下、室温という)に左右されるため、第1温度センサ41は機台11を介して室温を検出する結果となる。図7及び図9に示すように、ポケット17内には潤滑油温度検出手段としての第2温度センサ42が設けられ、この第2温度センサ42によって静圧ポケット17内の潤滑油Sの温度が検出される。
【0024】
図9に示すように、制御装置51は、前記第1,第2温度センサ41,42からの検出信号を入力して、前記オイルポンプ34,絞りバルブ35及び温度調節ユニット36の動作を制御する。すなわち、静圧ポケット17から溢れ出る潤滑油Sがスライドレール13の上面131,側面132,133及び端面134において所定の厚さの油膜S1を形成するように、制御装置51はオイルポンプ34の駆動力及び絞りバルブ35の開度を制御する。また、静圧ポケット17から溢れ出る潤滑油Sが室温を維持するように、制御装置51は温度調節ユニット36の動作を制御する。
【0025】
本実施形態においては、静圧ポケット17,オイルポンプ34,絞りバルブ35などにより潤滑油供給手段が構成されている。
次に、以上のように構成された工作機械の作用を説明する。
【0026】
オイルポンプ34が作動されると、オイルタンク32内の潤滑油Sが同オイルポンプ34によって送り出され、絞りバルブ35によって適量に絞られて、静圧ポケット17の底部の供給口31から静圧ポケット17内に供給される。そして、静圧ポケット17内の潤滑油Sは静圧ポケット17から溢れ出て、スライドレール13の摺動面15,16全体を流れ、そのスライドレール13の摺動面15,16全体を含む上面131,側面132,133及び端面134に油静圧軸受の隙間より厚い油膜S1を形成する。
【0027】
この場合、工作機械の周囲の室温が第1温度センサ41によって検出されるとともに、静圧ポケット17内の潤滑油Sの温度が第2温度センサ42によって検出される。ここで、本実施形態においては、スライドレール13の摺動面を流れる潤滑油Sの温度が工作機械の周囲の温度と等しくなるように、温度調節ユニット36が作動される。すなわち、機台11の第1温度センサ41によって検出される温度と、静圧ポケット17の第2温度センサ42によって検出される温度とが等しくなるように、温度調節ユニット36が動作される。この場合、供給路33の供給口31から吐出される潤滑油Sは、その吐出にともなって温度上昇されるため、供給路33内の潤滑油Sは静圧ポケット17内の潤滑油Sの温度より前記吐出による前記温度上昇分だけ低くなるように温度調節される。
【0028】
また、移動テーブル21の移動によって摺動面15,16と摺動部22,23との間の隙間の潤滑油Sは剪断によって温度上昇するが、この隙間の周囲には大量の潤滑油Sによる厚い油膜S1が存在する。このため、移動テーブル21の移動にともない、温度上昇した前記隙間の薄い油膜は、厚い油膜S1の大量の潤滑油と接して温度降下されるため、前記の温度上昇は無視できる程度で、問題にはならない。
【0029】
以上のように、静圧ポケット17から流出される潤滑油Sの温度を工作機械の周囲の室温と等しくすることができる。従って、潤滑油Sを介してスライドレール13の摺動面15,16の温度を室温と等しくなるように維持できて、スライドレール13の湾曲や伸縮などの変形を防止できる。このため、移動テーブル21を高い精度で移動させることができて、ワークを高精度に加工できる。
【0030】
従って、本実施形態においては、以下の効果がある。
(1)スライドレール13の摺動面15,16全体を含むスライドレール13全体に対して、室温と等しい温度で、油静圧軸受の隙間,すなわちその隙間の油膜より厚い油膜S1を形成する大量の潤滑油Sを流し続けられる。このことにより、摺動面15,16を含むスライドレール13の全体の温度を室温と等しい状態に維持できる。このため、移動テーブル21をスライド動作しても、摺動面15,16部分の温度上昇を抑制できて、スライドレール13の湾曲や伸縮などの変形を回避でき、ワークの高精度加工が可能になる。
【0031】
(2)静圧ポケット17の端部とスライドレール13の端面との間の距離αと、静圧ポケット17の長辺とスライドレール13の側面との間の距離βとを等しくしたことにより、静圧ポケット17から溢れ出る潤滑油Sをスライドレール13の上面全体に等しく流すことができる。その結果、スライドレール13の上面だけではなく、端面及び摺動面16側の側面にも等しく流すことができて、スライドレール13全体にむらなく厚い油膜S1を形成できて、全体を等しい温度に維持できる。なお、工作機械において一般に用いられる潤滑油Sは、粘性が高いため、スライドレール13の側面や端面においても、厚い油膜S1が形成される。
【0032】
(3)供給路33内の潤滑油Sの温度が静圧ポケット17内の潤滑油Sの温度より吐出による温度上昇分だけ低くなるように温度調節されるため、静圧ポケット17内の潤滑油Sを室温に等しい適正温度に調節でき、その結果、スライドレール13を適正な温度に維持できる。
【0033】
(4)工作機械の外気温度を検出する第1温度センサ41を工作機械のダイキャスト製の機台11に設けた。このため、安定した検出温度を維持できる。これに対し、第1温度センサ41が室温を直接検出するようにした場合には、室温は空調装置の風などの影響によって変動しやすいため、検出温度が大きく上下して、温度調節ユニット36の動作が不安定になる。本実施形態においては、このような不都合を避けることができる。
【0034】
(変更例)
本発明は前記実施形態に限定されるものではなく、以下のような態様で具体化することも可能である。
【0035】
図8に2点鎖線で示すように、静圧ポケット17内の潤滑油Sの温度を検出する第2温度センサ42を供給路33に設けること。この場合、制御装置51は、第2温度センサ42からの検出温度に基づいて供給口31における温度上昇分を見込んで温度調節ユニット36の動作を制御すること。
【0036】
図10に示すように、堰板18をスライドレール13の後側面133に設けること。この構成の場合、スライドレール13の後部側の側面133には油膜S1は形成されない。
【0037】
・スライドレール13の堰板18を省略すること。このように構成しても、供給口31から大量の潤滑油Sを供給することにより、所定厚さの油膜S1を形成できる。
・前記実施形態においては、静圧ポケット17から流出される潤滑油Sの温度を室温と等しくなるようにしたが、流出される潤滑油Sの温度を室温と異ならせること。ただし、この場合は、潤滑油Sによって所定温度に維持されるスライドレール13が、室温と異なっても、機台11の温度がスライドレール13に伝わりにくく、スライドレール13の真直度が維持される構造の工作機械において具体化する必要がある。このように構成した場合は、第1,第2温度センサ41,42を省略することが可能になる。
【0038】
図3及び図5に2点鎖線で示すように、静圧ポケット17に対する潤滑油Sの供給をスライドレール13の外部の供給路33を構成するパイプ45を通して行われるようにすること。
【0039】
・室温を検出する第1温度センサ41を機台11以外のところに設けること。例えば、工作機械の外部に設けたり、工作機械の機台11以外の部分、例えばコラム上や操作盤上に設けたりすること。
【0040】
・スライドレール13の上面にその延長方向に沿って複数の静圧ポケットを配列して、全体として、スライドレール13の延長方向に実質的に静圧ポケット17が存在する構成とすること。この構成において堰板18を静圧ポケット17内に設ける場合は、各静圧ポケット17内にそれぞれ設けても、あるいは図10に示すように、スライドレール13の後面に取り付けてもよい。
【符号の説明】
【0041】
11…機台、13…スライドレール、14…ネジ、15…摺動面、16…摺動面、17…静圧ポケット、21…移動テーブル、36…温度調節ユニット、41…第1温度センサ、42…第2温度センサ、51…制御装置、141…頭部、181…ネジ。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10