(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-01-06
(45)【発行日】2022-02-10
(54)【発明の名称】有機成分抽出用素子
(51)【国際特許分類】
G01N 30/00 20060101AFI20220203BHJP
G01N 30/88 20060101ALI20220203BHJP
G01N 30/50 20060101ALI20220203BHJP
G01N 1/10 20060101ALI20220203BHJP
B01D 53/14 20060101ALI20220203BHJP
B01J 20/22 20060101ALI20220203BHJP
B01J 20/28 20060101ALI20220203BHJP
B01J 20/34 20060101ALI20220203BHJP
【FI】
G01N30/00 E
G01N30/88 C
G01N30/50
G01N1/10 C
B01D53/14 100
B01J20/22 C
B01J20/28 Z
B01J20/34 G
B01J20/34 H
(21)【出願番号】P 2017565478
(86)(22)【出願日】2017-01-20
(86)【国際出願番号】 JP2017001876
(87)【国際公開番号】W WO2017135068
(87)【国際公開日】2017-08-10
【審査請求日】2019-12-05
(31)【優先権主張番号】P 2016018812
(32)【優先日】2016-02-03
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】508118588
【氏名又は名称】ゲステル株式会社
(74)【復代理人】
【識別番号】100114465
【氏名又は名称】北野 健
(74)【代理人】
【識別番号】100123788
【氏名又は名称】宮崎 昭夫
(74)【代理人】
【識別番号】100127454
【氏名又は名称】緒方 雅昭
(72)【発明者】
【氏名】落合 伸夫
(72)【発明者】
【氏名】笹本 喜久男
(72)【発明者】
【氏名】神田 広興
【審査官】大瀧 真理
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2014/206938(WO,A1)
【文献】中国特許出願公開第102366721(CN,A)
【文献】国際公開第2012/103080(WO,A1)
【文献】中国特許出願公開第102907270(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第102008945(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第101690855(CN,A)
【文献】特開2007-271293(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2015/0279646(US,A1)
【文献】CHRISTELLE, M. et al.,Stir bar sorptive extraction coupled to liquid chromatography-tandem mass spectrometry for the determination of pesticides in water samples: Method validation and measurement uncertainty,Talanta,2013年05月02日,Vol.116,pp.1-7
【文献】RUMENS, C. V. et al.,Swelling of PDMS networks in solvent vapours; applications for passive RFID wireless sensors,Journal of Materials Chemistry C,2015年,Vol.3,pp.10091-10098
【文献】石居由美子 ほか,スターバー抽出-高速液体クロマトグラフィーによる河川水中多環芳香族炭化水素の定量,BUNSEKI KAGAKU,2006年,Vol.55, No.12,pp.949-954
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 30/00-30/96
B01J 20/26
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリマーである
シリコーンに、ジクロロメタン、クロロホルム、ジエチルエーテル、エチルプロピルエーテル、ジイソプロピルエーテル、ジプロピルエーテル、ターシャリーブチルメチルエーテル、シクロヘキサン、ベンゼン、トルエンおよびキシレンから選択される少なくとも1種の溶媒が含浸している前記ポリマーを
有し、前記ポリマーに前記溶媒が含浸している状態で有機成分の抽出に用いることを特徴とする、有機成分抽出用素子。
【請求項2】
前記
シリコーンが、ポリオルガノシロキサンであることを特徴とする、請求項1に記載の素子。
【請求項3】
前記ポリオルガノシロキサンが、ポリジメチルシロキサンであることを特徴とする、請求項2に記載の素子。
【請求項4】
前記溶媒が、ジクロロメタン、ジエチルエーテル、ジイソプロピルエーテル、ターシャリーブチルメチルエーテル、シクロヘキサン、およびトルエンから選択される少なくとも1種を含むことを特徴とする、請求項1~3のいずれか1項に記載の素子。
【請求項5】
前記ポリマーと前記溶媒の重量比が、4:1~1:4である、請求項1~4のいずれか1項に記載の素子。
【請求項6】
前記素子の少なくとも1部が強磁性体であることを特徴とする、請求項1~5のいずれか1項に記載の素子。
【請求項7】
前記強磁性体の少なくとも1部が、ガラスおよび/またはプラスチックで被覆された上に、さらに前記ポリマーで被覆されていることを特徴とする、請求項6に記載の素子。
【請求項8】
前記プラスチックが、ポリテトラフルオロエチレンおよび/またはフッ化処理された炭化水素ポリマーである、請求項7に記載の素子。
【請求項9】
有機成分の抽出方法であって、
(1)請求項1~8のいずれか1項に記載の有機成分抽出用素子と、抽出する有機成分を含む液体および/または気体とを接触させる工程、
(2)前記素子に、前記有機成分を取り込ませる工程、
(3)前記有機成分が取り込まれた前記素子を取り出す工程、
(4)前記素子から、前記有機成分を分離する工程、
を含む方法。
【請求項10】
前記工程(2)において、前記液体および/または気体を撹拌する工程、をさらに含む、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記工程(2)において、前記液体および/または気体に超音波を照射する工程、をさらに含む、請求項9または10に記載の方法。
【請求項12】
有機成分の抽出方法であって、
(1)請求項6~8のいずれか1項に記載の素子と、抽出する有機成分を含む液体とを接触させる工程、
(2)前記素子を磁気攪拌機により撹拌して、前記素子に前記有機成分を取り込ませる工程、
(3)前記有機成分が取り込まれた前記素子を取り出す工程、
(4)前記素子から、有機成分を分離する工程、
を含む方法。
【請求項13】
前記工程(2)において、前記液体に超音波を照射する工程、をさらに含む、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
前記工程(4)において、前記素子から脱離装置を用いて前記有機成分を分離することを特徴とする、請求項9~13のいずれか1項に記載の方法。
【請求項15】
前記脱離装置が、加熱装置を備えることを特徴とする、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
前記工程(4)において、前記素子から逆抽出用溶媒を用いて前記有機成分を分離することを特徴とする、請求項9~13のいずれか1項に記載の方法。
【請求項17】
前記逆抽出用溶媒が、アセトン、メチルエチルケトン、アセトニトリル、メタノール、エタノール、プロパノール、酢酸メチル、酢酸エチルおよび水からなる群より選択される少なくとも1種を含む、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
請求項9~17のいずれか1項に記載の抽出方法により抽出された有機成分を分析する工程、
を含む有機成分の分析方法。
【請求項19】
GC(ガスクロマトグラフィー)またはLC(液体クロマトグラフィー)を用いて分析を行うことを特徴とする、請求項18に記載の方法。
【請求項20】
前記GCの検出器が、MS(質量分析器)、FID(水素イオン化検出器)、NPD(窒素リン検出器)、ECD(電子捕獲型検出器)、AED(原子光検出器)、FPD(炎光光度検出器)、化学発光硫黄検出器(SCD)、化学発光窒素検出器(NCD)およびPFPD(パルスド炎光光度検出器)からなる群より選択される、請求項19に記載の方法。
【請求項21】
前記LCの検出器が、MS、IR(示差屈折検出器)およびUV(紫外線検出器)からなる群より選択される、請求項19に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機成分を抽出するための素子および該素子を用いた抽出方法に関する。また、本発明は、該素子を用いた分析方法に関する。
【背景技術】
【0002】
流体中の物質の固相微量抽出・分析方法としては、ポリエチレングリコール、シリコーン、ポリイミド、オクタデシルトリクロロシラン、ポリメチルビニルクロロシラン、液晶ポリアクリレート、グラフト自己構成単分子層類、無機質被覆材などの活性層で覆われた撹拌球を用いる方法が、特許文献1に記載されている。
【0003】
また、ポリジメチルシロキサンからなるチューブの内側に、酢酸エチルやシクロヘキサンを注入することにより、植物由来の揮発成分を比較的高い感度で測定する方法が、非特許文献1に記載されている。
【0004】
しかし、上記のいずれの方法においても、微量な有機成分を抽出することができておらず、このため、その分析結果も、未だ満足するような十分な感度を有するものではない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【非特許文献】
【0006】
【文献】J.Sep.Sci.2010,33,2191-2199
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の課題は、気体および液体に含まれる微量の有機成分を取り込むことができ、また、取り込んだ有機成分を分離できる素子を得ることにある。また、本発明の課題は、該素子を用いた有機成分の抽出方法および有機成分の分析方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、特定のポリマーに、特定の塩素系溶媒、エーテル類、ケトン類、アルカン類、アミン類、芳香族系溶媒を含浸させることにより、微量の有機成分を取り込むことができ、また、取り込んだ有機成分を分離できることを見出した。
【0009】
すなわち、本発明は、ポリエチレングリコール、シリコーン、ポリイミド、オクタデシルトリクロロシラン、ポリメチルビニルクロロシランおよびポリアクリレートから選択される少なくとも1種のポリマーに、ジクロロメタン、クロロホルム、ジエチルエーテル、エチルプロピルエーテル、ジイソプロピルエーテル、ジプロピルエーテル、ターシャリーブチルメチルエーテル、ジエチルケトン、メチルプロピルケトン、メチルイソプロピルケトン、エチルプロピルケトン、メチルイソブチルケトン、ペンタン、イソヘキサン、ヘキサン、シクロヘキサン、ヘプタン、イソヘプタン、イソオクタン、オクタン、二硫化炭素、ジイソプロピルアミン、トリエチルアミン、ベンゼン、トルエンおよびキシレンから選択される少なくとも1種の溶媒が含浸している前記ポリマーを有することを特徴とする、有機成分抽出用素子である。
【0010】
また、本発明は、前記ポリマーがシリコーンであり、前記シリコーンが、ポリオルガノシロキサンであることを特徴とする、上記の素子である。
【0011】
また、本発明は、前記ポリオルガノシロキサンが、ポリジメチルシロキサンであることを特徴とする、上記の素子である。
【0012】
また、本発明は、前記溶媒が、ジクロロメタン、ジエチルエーテル、ジイソプロピルエーテル、ターシャリーブチルメチルエーテル、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサン、ヘキサンおよびトルエンからなる群から選択される少なくとも1種を含むことを特徴とする、上記の素子である。
【0013】
また、本発明は、前記ポリマーと前記溶媒の重量比が、4:1~1:4である、上記の素子である。
【0014】
また、本発明は、前記溶媒を含浸させる前の前記ポリマーに対する溶媒を含浸させた後のポリマーの体積増加率が、120~400%である、上記の素子である。
【0015】
また、本発明は、前記素子の少なくとも1部が強磁性体であることを特徴とする、上記の素子である。
【0016】
また、本発明は、前記強磁性体の少なくとも1部が、ガラスおよび/またはプラスチックで被覆された上に、さらに前記ポリマーで被覆されていることを特徴とする上記の素子である。
【0017】
また、本発明は、前記プラスチックが、ポリテトラフルオロエチレンおよび/またはフッ化処理された炭化水素ポリマーである、上記の素子である。
【0018】
また、本発明は、有機成分の抽出方法であって、(1)上記の有機成分抽出用素子と、抽出する有機成分を含む液体および/または気体とを接触させる工程、(2)前記素子に、前記有機成分を取り込ませる工程、(3)有機成分が取り込まれた前記素子を取り出す工程、(4)前記素子から、有機成分を分離する工程、を含む方法である。
【0019】
また、本発明は、前記工程(2)において、前記液体および/または気体を撹拌する工程、をさらに含む、上記の方法である。
【0020】
また、本発明は、前記工程(2)において、前記液体および/または気体に超音波を照射する工程、をさらに含む、上記の方法である。
【0021】
また、本発明は、有機成分の抽出方法であって、(1)上記の有機成分抽出用素子と、抽出する有機成分を含む液体とを接触させる工程、(2)前記素子を磁気攪拌機により撹拌して、前記素子に前記有機成分を取り込ませる工程、(3)有機成分が取り込まれた前記素子を取り出す工程、(4)前記素子から、有機成分を分離する工程、を含む方法である。
【0022】
また、本発明は、前記工程(2)において、前記液体に超音波を照射する工程、
をさらに含む上記の方法である。
【0023】
また、本発明は、前記工程(4)において、前記素子から脱離装置を用いて前記有機成分を分離することを特徴とする、上記の方法である。
【0024】
また、本発明は、前記脱離装置が、加熱装置を備えることを特徴とする、上記の方法である。
【0025】
また、本発明は、前記工程(4)において、前記素子から逆抽出用溶媒を用いて前記有機成分を分離することを特徴とする、上記の方法である。
【0026】
また、本発明は、前記逆抽出用溶媒が、アセトン、メチルエチルケトン、アセトニトリル、メタノール、エタノール、プロパノール、酢酸メチル、酢酸エチルおよび水からなる群より選択される少なくとも1種を含む、上記の方法である。
【0027】
また、本発明は、上記の抽出方法により抽出された有機成分を分析する工程、含む有機成分の分析方法である。
【0028】
また、本発明は、GC(ガスクロマトグラフィー)またはLC(液体クロマトグラフィー)を用いて前記分析を行うことを特徴とする、上記の方法である。
【0029】
また、本発明は、前記GCの検出器が、MS(質量分析器)、FID(水素イオン化検出器)、NPD(窒素リン検出器)、ECD(電子捕獲型検出器)、AED(原子光検出器)、SCD(化学発光硫黄検出器)、NCD(化学発光窒素検出器)、FPD(炎光光度検出器)およびPFPD(パルスド炎光光度検出器)からなる群より選択される、上記の方法である。
【0030】
また、本発明は、前記LCの検出器が、MS、IR(示差屈折検出器)およびUV(紫外線検出器)からなる群より選択される上記の方法である。
【0031】
また、本発明は、ジクロロメタン、クロロホルム、ジエチルエーテル、エチルプロピルエーテル、ジイソプロピルエーテル、ジプロピルエーテル、ターシャリーブチルメチルエーテル、ジエチルケトン、メチルプロピルケトン、メチルイソプロピルケトン、エチルプロピルケトン、メチルイソブチルケトン、ペンタン、イソヘキサン、ヘキサン、シクロヘキサン、ヘプタン、イソヘプタン、イソオクタン、オクタン、二硫化炭素、ジイソプロピルアミン、トリエチルアミン、ベンゼン、トルエンおよびキシレンから選択される少なくとも1種の溶媒が含浸しているポリマーであって、前記ポリマーが、ポリエチレングリコール、シリコーン、ポリイミド、オクタデシルトリクロロシラン、ポリメチルビニルクロロ シランおよびポリアクリレートから選択される少なくとも1種のポリマーである。
【0032】
また、前記溶媒と前記ポリマーの重量比が、4:1~1:4である、上記のポリマーである。
【0033】
また、前記溶媒を含浸させる前の前記ポリマーに対する前記溶媒を含浸させた後の前記ポリマーの体積増加率が、120~400%である上記のポリマーである。
【0034】
また、前記溶媒が、ジクロロメタン、ジエチルエーテル、ジイソプロピルエーテル、ターシャリーブチルメチルエーテル、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサン、ヘキサンおよびトルエンからなる群より選択されることを特徴とする、上記のポリマーである。
【0035】
また、本発明は、前記ポリマーがシリコーンであり、前記シリコーンが、ポリオルガノシロキサンであることを特徴とする上記のポリマーである。
【0036】
また、本発明は、前記ポリオルガノシロキサンがポリジメチルシロキサンであるであることを特徴とする上記のポリマーである。
【発明の効果】
【0037】
本発明によれば、微量の有機成分を抽出できる素子を得ることができる。また、該素子を用いて、微量の有機成分をGCやLCなどにより測定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【
図1】本発明の有機成分抽出用素子の一態様を示す図である。
【
図2】本発明の有機成分抽出用素子の一態様を示す図である。
【
図6】本発明に用いる分析装置の構成を概略的に表す図である。
【
図11】実施例12および比較例13を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0039】
本発明において、有機成分とは、炭化水素を有する物質のことを指す。本発明において抽出、分析の対象となる有機成分の分子量としては、特に制限はないが、例えば、15ダルトン以上30000ダルトン以下、好ましくは、15ダルトン以上2000ダルトン以下、さらに好ましくは、15ダルトン以上1000以下のものが挙げられる。
【0040】
本発明に用いるポリマーとしては、ポリエチレングリコール、シリコーン、ポリイミド、オクタデシルトリクロロシラン、ポリメチルビニルクロロシランおよびポリアクリレートを挙げることができる。
【0041】
上記のポリマーのうち、シリコーンが好ましく、なかでも、ポリオルガノシロキサンであることがより好ましく、ポリジメチルシロキサンが最も好ましい。
【0042】
本発明に用いる溶媒としては、ジクロロメタン、クロロホルム、ジエチルエーテル、エチルプロピルエーテル、ジイソプロピルエーテル、ジプロピルエーテル、ターシャリーブチルメチルエーテル、ジエチルケトン、メチルプロピルケトン、メチルイソプロピルケトン、エチルプロピルケトン、メチルイソブチルケトン、ペンタン、イソヘキサン、ヘキサン、シクロヘキサン、ヘプタン、イソヘプタン、イソオクタン、オクタン、二硫化炭素、ジイソプロピルアミン、トリエチルアミン、ベンゼン、トルエンおよびキシレンを挙げることができ、それぞれを単独で、あるいは組み合わせて用いてもよい。
【0043】
これらの溶媒の中で、ジクロロメタン、ジエチルエーテル、ジイソプロピルエーテル、ターシャリーブチルメチルエーテル、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサン、ヘキサン、トルエンが好ましく、ジクロロメタン、ジエチルエーテル、ジイソプロピルエーテル、ターシャリーブチルメチルエーテル、シクロヘキサンが最も好ましい。
【0044】
ポリマーへの溶媒の含浸方法は特に制限はなく、ポリマーを溶媒に浸すことにより本発明の有機成分抽出用素子を得ることができる。含浸する時間としては、ポリマーの厚さにも依存するが、例えば、10~60分、10~120分、など、を挙げることができる。
【0045】
前記溶媒と前記ポリマーの重量比としては、例えば、4:1~1:4、好ましくは、3:7~1:4、より好ましくは1:2~2:1を挙げることができる。
【0046】
また、上記の溶媒を含浸させる前のポリマーに対する溶媒を含浸させたポリマーの体積増加率としては、例えば、120~400%、好ましくは150~400%、より好ましくは、150~350%である。
【0047】
本発明における有機成分抽出用素子は、上記のポリマーにジクロロメタン、クロロホルム、ジエチルエーテル、エチルプロピルエーテル、ジイソプロピルエーテル、ジプロピルエーテル、ターシャリーブチルメチルエーテル、ジエチルケトン、メチルプロピルケトン、メチルイソプロピルケトン、エチルプロピルケトン、メチルイソブチルケトン、ペンタン、イソヘキサン、ヘキサン、シクロヘキサン、ヘプタン、イソヘプタン、イソオクタン、オクタン、二硫化炭素、ジイソプロピルアミン、トリエチルアミン、ベンゼン、トルエンおよびキシレンから選択される少なくとも1種の溶媒を含浸させることに得ることができる。
【0048】
本発明に用いる有機成分抽出用素子の形状としては、特に制限はないが、例えば、球状、棒状、楕円体状、円盤状、平板状、チューブ状のものを挙げることができる。
【0049】
また、本発明に用いる有機成分抽出用素子の大きさとしては、特に制限はなく、球状の場合、平均粒径が例えば、1~20mm、好ましくは、1~10mm、より好ましくは、1~5mmのものを挙げることができる。
【0050】
有機成分抽出用素子が棒状の場合は、直径として、例えば、1~20mm、好ましくは、1~10mm、より好ましくは、1~5mmのものを挙げることができ、長さとしては、例えば10~100mm、好ましくは10~50mm、より好ましくは、10~25mmのものを挙げることができる。
【0051】
また、有機成分抽出用素子が楕円体状の場合は、その長軸の長さとしては、例えば、10~100mm、好ましくは10~50mm、より好ましくは、10~25mmのものを挙げることができ、短軸の長さとしては、例えば、1~40mm、好ましくは5~25mm、より好ましくは、10~20mmのものを挙げることができ、さらにアスペクト比が、例えば1:2~1:10、好ましくは1:2~1:5、より好ましくは1:2~1:3のものを挙げることができる。
【0052】
有機成分抽出用素子が、円盤状の場合、その直径としては、例えば5~100mm、好ましくは、10~50mm、より好ましくは、10~25mmのものを挙げることができ、厚さとしては、例えば、1~20mm、好ましくは、1~10mm、より好ましくは、1~5mmのものを挙げることができる。
【0053】
また、有機成分抽出用素子が平板上の場合は、縦方向および横方向の長さとしては、例えば、5~100mm、好ましくは、10~50mm、より好ましくは、10~25mmのものを挙げることができ、厚さとしては、例えば、0.5~10mm、好ましくは、1~10mm、より好ましくは、1~5mmのものを挙げることができる。
【0054】
有機成分抽出用素子がチューブ状の場合は、内径として、例えば、0.5~9mm、好ましくは、0.5~5mm、より好ましくは、0.5~3mmのものを挙げることができ、外径として、例えば、2~12mm、好ましくは、2~6mm、より好ましくは、2~3 mmのものを挙げることができ、チューブの厚さとしては、例えば、0.5~4mm、好ましくは、0.5~3mm、より好ましくは、0.5~2mmのものを挙げることができる。また、チューブの長さとしては、例えば、10~50mm、好ましくは、10~30mm、より好ましくは、10~20mmのものを挙げることができる。
【0055】
また、有機成分抽出用素子としては、素子の少なくとも1部が強磁性体であることを挙げることができる。
【0056】
ここで強磁性体とは、磁石に着脱する性質を有するものであれば特に制限はないが、鉄、コバルト、ニッケル、ガドリニウム等を挙げることができる。
【0057】
ここで、
図1および
図2に示すように、有機成分抽出用素子10として、強磁性体1をガラスおよび/またはプラスチック2で被覆することができ、さらにそのガラスおよび/またはプラスチックの少なくとも1部を上記のポリマー3で被覆することもできる。ここで用いられるプラスチックとしては、例えば、ポリテトラフルオロエチレン、もしくはフッ化処理された炭化水素ポリマーなどを挙げることができる。
【0058】
次に、本発明の抽出方法について説明する。
本発明の抽出方法は、(1)上記の有機成分抽出用素子と、抽出する有機成分を含む液体および/または気体とを接触させる工程、(2)前記素子に、前記有機成分を取り込ませる工程、(3)有機成分が取り込まれた前記素子を取り出す工程、(4)前記素子から、有機成分を分離する工程、を含む方法である。
【0059】
ここで、本発明の抽出方法について有機成分を、液体から抽出する場合と、気体から抽出する場合とをわけて説明する。
【0060】
まず、液体から有機成分を抽出する場合において、用いられる液体としては、抽出する有機成分を含むものであれば特に限定はないが、例えば、水、水/メタノール、水/エタノール、水/アセトン、水/アセトニトリルなどを挙げることができる。中でも、水、水/メタノール、水/エタノールが好ましく、水/エタノールがより好ましい。
【0061】
図3に本願発明における1態様を示す。
図3において、有機成分を含有する液体20と球状の有機成分抽出用素子10が容器50に入れられる。これにより、有機成分抽出用素子10と抽出する有機成分を含む液体20とを接触させる。このまま放置することにより、有機成分抽出用素子10に有機成分が取り込まれることとなる。放置する時間としては、有機成分が有機成分抽出用素子10に取り込まれるものであれば特に制限はないが、例えば、5分~24時間、20分~4時間、30分~2時間等を挙げることができる。
【0062】
さらに効率的に有機成分を有機成分抽出用素子10に取り込ませる方法として、例えば、
図3に示すような、撹拌棒40をモータ30により回転させ、液体20と有機成分抽出用素子10との接触を促進し、より短時間で有機成分を有機成分抽出用素子10に取り込むことが可能となる。
【0063】
また、水70を入れた超音波発生装置60を作動させることにより、より効率的に有機成分を有機成分抽出用素子10に取り込むことが可能となる。
【0064】
図3において、有機成分を取り込んだ有機成分抽出用素子10を、自動採取装置(図示しない)、ピンセット等で取り出すことができる。あるいは、撹拌棒40を除去した後、容器50を取り出し、有機成分抽出用素子10が入った液体20を濾過することにより、有機成分抽出用素子10を取り出すことができる。
【0065】
次に、有機成分抽出用素子10を脱離装置等に挿入して、有機成分を分離することができる。あるいは、取り出した有機成分抽出用素子10を逆抽出用溶媒中に入れ、有機成分をこの逆抽出用溶媒中に分離する(逆抽出する)こともできる。
【0066】
ここで、逆抽出用溶媒としては、有機成分を溶解するものであれば特に制限はないが、例えば、アセトン、メチルエチルケトン、アセトニトリル、メタノール、エタノール、プロパノール、酢酸メチル、酢酸エチルおよび水からなる群から選択される少なくとも1種を含むものである。
【0067】
図4に、本発明の別の態様を示す。
図4において、有機成分抽出用素子10として、
図1および2に示した強磁性体をガラスで被覆し、さらにそのガラスの1部を上記のポリマーで被覆したものを用いている。
図4において、液体20および有機成分抽出用素子10が入れられた容器50を複数個用い、それぞれ別の有機成分が含まれる液体20について、同時に抽出が可能となる。また、同一の有機成分が含まれる液体20を用いることにより、サンプル数を増やして測定精度を向上させることもできる。
【0068】
図4において、複数の容器50は、磁気撹拌装置(マグネティックスターラー)80の上に配置されており、磁気攪拌機80を作動させることにより、有機成分抽出用素子10が回転することとなる。これにより、液体20と有機成分抽出用素子10との接触を促進し、短時間で有機成分を有機成分抽出用素子10に取り込むことが可能となる。また、
図4において、磁気撹拌装置80は、温度調節が可能となっており、一定の温度において有機成分の抽出を行うことができる。
【0069】
次に、有機成分を取り込んだ有機成分抽出用素子10を、自動採取装置(図示しない)、ピンセット等で取り出すことができる。あるいは、容器50を取り出し、有機成分抽出用素子10が入った液体20を濾過することにより、有機成分抽出用素子10を取り出すことができる。
【0070】
その後、有機成分抽出用素子10を、脱離装置に挿入して、有機成分を分離することができる。ここで用いられる脱離装置としては、有機成分抽出用素子10に取り込まれた有機成分を分離できるものであれば特に制限はなく、例えば、ヘリウムなどのガスを一定流速で流すもの、さらには、加熱装置を備え、加熱することにより脱離を促進するものを挙げることができる。あるいは、取り出した有機成分抽出用素子10を上述の逆抽出用溶媒中に入れ、有機成分を逆抽出用溶媒中に分離する(逆抽出する)こともできる。
【0071】
次に、気体から有機成分を抽出する方法について、
図5を参照して説明する。
図5において、有機成分抽出用素子10は針金状の担持器具100により容器55の上部の蓋57を通して、容器55内に吊るされている。容器55内の底部には、固体または液体試料90が入れられており、容器55は、蓋57により密閉されている。そして、容器55の上部のヘッドスペースには、固体または液体試料90から蒸発した有機成分が気体25の中に含まれており、有機成分抽出用素子10と抽出する有機成分を含む気体とが接触することとなる。
【0072】
ここで、有機成分抽出用素子10を容器55内で一定時間放置することにより、有機成分抽出用素子10に有機成分を取り込ませることとなる。放置する時間としては、有機成分が有機成分抽出用素子10に取り込まれるものであれば特に制限はないが、例えば、20分~2時間、20分~4時間、5分~24時間などを挙げることができる。
【0073】
この際に、プロペラなどの攪拌機(図示しない)を用いてヘッドスペースを撹拌してもよい。この場合は、有機成分抽出用素子10を放置する場合に比べて、より短時間で有機成分を有機成分抽出用素子10に取り込むことができる。
【0074】
そして、蓋57を開け、担持器具100を引き上げることにより、有機成分抽出用素子10を取り出すことができる。そして、有機成分抽出用素子10を、脱離装置に挿入して、有機成分を分離することができる。ここで用いられる脱離装置としては、有機成分抽出用素子10に取り込まれた有機成分を分離できるものであれば特に制限はなく、例えば、ヘリウムなどのガスを一定流速で流すもの、さらには、加熱装置を備え、加熱することにより脱離を促進するものを挙げることができる。あるいは、取り出した有機成分抽出用素子10を上述の逆抽出用溶媒中に入れ、有機成分を逆抽出用溶媒中に分離する(逆抽出する)こともできる。
【0075】
次に、本発明の有機成分の分析方法について、
図6を参照して説明する。
図6において、上記の方法により分離された有機成分は、脱離装置110から押し出され、GCまたはLC120に導入される。GCまたはLC120は、検出器130につながれ、検出器130において、有機成分が測定される。ここで、検出器130としては、GCの場合は、MS(質量分析器)、FID(水素イオン化検出器)、NPD(窒素リン検出器)、ECD(電子捕獲型検出器)、AED(原子光検出器)、SCD(化学発光硫黄検出器)、NCD(化学発光窒素検出器)、FPD(炎光光度検出器)およびPFPD(パルスド炎光光度検出器)などを挙げることができる。また、LCの場合は、MS、IR(示差屈折検出器)およびUV(紫外線検出器)などを挙げることができる。
【実施例】
【0076】
以下、実施例を示して本発明をより詳細に説明するが、本発明は、実施例に記載されたものに限定されるものではない。
【0077】
<有機成分の標準試料>
有機成分の標準試料1として、2-アセチルチアゾール、2,5-ジメチルピラジン、グアイアコール、クマリン、フェネチルアルコール、1-ヘキサノール、シス-3-ヘキセノール、インドール、6-メチルー5-ヘプテンー2-オン、ガンマ-ノナラクトン、フェネチルアセテート、リナロール、シトロネロール、ベータ-ダマセノンをそれぞれ50ngを精製水5mLに溶解させたものを調製した。
また、有機成分の標準試料2として、2-アセチルチアゾール、2-アセチルピロール、グアイアコール、フェネチルアルコール、1-ヘキサノール、シス-3-ヘキセノール、ベンジルアルコール、インドールをそれぞれ25ngを精製水5mLに溶解させたものを調整した。
また、市販のほうじ茶、ウイスキー、ビールおよび市販のコーヒー豆をエスプレッソマシンで抽出したコーヒーを有機成分の試料として用いた。
【0078】
<有機成分抽出用素子>
有機成分抽出用素子として、
図1および
図2に示した強磁性体をガラスで被覆し、さらにそのガラスの1部をポリジメチルシロキサンで被覆したものである「TWISTER-011333-001-00(ポリジメチルシロキサンの体積が63μL)」または「TWISTER-011222-001-00(ポリジメチルシロキサンの体積が24μL)」(ゲステル社製、ドイツ国、ミュールハイム)を適宜用い、これらを溶媒1~10mLに10~30分間浸漬して、有機成分抽出用素子を得た。
【0079】
<比較用抽出素子>
比較用の抽出素子として、上記の「TWISTER-011333-001-00」または「TWISTER-011222-001-00」を溶媒で処理せずにそのまま用いた。
<使用機器>
有機成分抽出用素子の撹拌には、マルチポジションスターラー(04-80013-009、ゲステル社製)を用いた。抽出用素子中の有機成分のGC-MSへの導入には、加熱脱着装置TDUシステム(015750-090、ゲステル社製)を用いた。GC-MSは四重極型GC-MS(G3440A/G3172A、アジレント社製)を用いた。
<分析条件>
GC-MSへの導入は、加熱脱着の場合、ヘリウム(50mL/min)をキャリアガスとして180℃で行った。また、溶媒脱着(逆抽出)の場合は、アセトン500μLで30分間逆抽出を行い、逆抽出液100μLを注入した。GCカラムにはDB-Wax(アジレント社製)を用い、初期温度40℃で3分間保持後、10℃/minで240℃までの昇温を行い、そのまま10分間保持し、質量範囲(m/z)として29-300のスキャン測定を行った。
【0080】
(実施例1および比較例1)
標準試料1中に、ジクロロメタンを含浸させた「TWISTER-011333-001-00」を有機成分抽出用素子として投入し、磁気撹拌装置により、800rpmで60分間撹拌した。この時のポリジメチルシロキサンとジクロロメタンの重量比は、1:3であり、ポリジメチルシロキサンの体積増加率は、280%であった。その後、有機成分抽出用素子をピンセットで取り出し、加熱脱着装置に投入し、GC-MSにより分析を行った。結果を
図7に示す。
図7の上段「A」で示されるものが、本発明による分析方法によるものであり、下段の「B」で示されるものが、比較用素子を用いた結果である。
図7より、本願発明により、微量の有機成分を感度よく分析できることがわかる。
【0081】
(実施例2および比較例2)
標準試料1中に、トルエンを含浸させた「TWISTER-011333-001-00」を有機成分抽出用素子として投入し、磁気撹拌装置により、800rpmで60分間撹拌した。この時のポリジメチルシロキサンとトルエンの重量比は、1:1.3であり、ポリジメチルシロキサンの体積増加率は、210%であった。その後、有機成分抽出用素子をピンセットで取り出し、加熱脱着装置に投入し、GC-MSにより分析を行った。結果を
図8に示す。
図8の上段「A」で示されるものが、本発明による分析方法によるものであり、下段の「B」で示されるものが、比較用素子を用いた結果である。
図8より、本願発明により、微量の有機成分を感度よく分析できることがわかる。
【0082】
(実施例3および比較例3)
市販のほうじ茶5mLに、ジクロロメタンを含浸させた「TWISTER-011333-001-00」を有機成分抽出用素子として投入し、磁気撹拌装置により、800rpmで60分間撹拌した。この時のポリジメチルシロキサンとジクロロメタンの重量比は、1:1.3であり、ポリジメチルシロキサンの体積増加率は、280%であった。その後、有機成分抽出用素子をピンセットで取り出し、加熱脱着装置に投入し、GC-MSにより分析を行った。結果を
図9に示す。
図9の上段「A」で示されるものが、本発明による分析方法によるものであり、下段の「B」で示されるものが、比較用素子を用いた結果である。
図9より、本願発明により、微量の有機成分を感度よく分析できることがわかる。
【0083】
(実施例4および比較例4)
市販のウイスキーを用いた以外は、実施例3および比較例3と同様にして、有機成分を分析した。結果を
図10に示す。
図10の上段「A」で示されるものが、本発明による分析方法によるものであり、下段の「B」で示されるものが、比較用素子を用いた結果である。
図10より、本願発明により、微量の有機成分を感度よく分析できることがわかる。
【0084】
(実施例5~7および比較例5)
市販のビール5mLに、それぞれ、ジクロロメタン、ジイソプロピルエーテル又はシクロヘキサンを含浸させた「TWISTER-011222-001-00(ポリジメチルシロキサンの体積が24μL)」を有機成分抽出用素子として投入し、磁気撹拌装置により、800rpmで60分間撹拌した。この時のポリジメチルシロキサンと、ジクロロメタン、ジイソプロピルエーテル又はシクロヘキサンの重量比は、それぞれ、1:1.2、1:0.86および1:0.93であり、ポリジメチルシロキサンの体積増加率は、それぞれ、280%、170%および180%であった。その後、有機成分抽出用素子をピンセットで取り出し、逆抽出用溶媒として500μLのアセトンを用い、30分間逆抽出を行った。得られた逆抽出液100μLをGC-MSに注入して分析を行った(実施例5~7)。
また、溶媒で含浸させていない「TWISTER-011222-001-00」を用いた場合について比較のための分析を行った(比較例5)。
ここで、比較例5で得られたピーク強度で、実施例5~7で得られた各有機成分のピーク強度を規格化し、有機成分の相対強度の比較を示す。得られた分析結果を表1に示す。
【0085】
【0086】
これにより、本発明の有機成分抽出用素子を用いることにより、感度よく有機成分を分析できることがわかる。
【0087】
(実施例8~10および比較例6)
TWISTERを、「TWISTER-011333-001-00(ポリジメチルシロキサンの体積が63μL)」に替えたほかは、実施例5と同一の条件で分析を行った。なお、この時のポリジメチルシロキサンと、ジクロロメタン、ジイソプロピルエーテル又はシクロヘキサンの重量比は、それぞれ、1:1.3、1:1および1:0.9であり、ポリジメチルシロキサンの体積増加率は、それぞれ、280%、200%、および200%であった。
ここで、比較例6で得られたピーク強度で、実施例8~10で得られた各有機成分のピーク強度を規格化し、有機成分の相対強度の比較を示した。得られた分析結果を表2に示す。
【0088】
【0089】
これにより、本発明の有機成分抽出用素子を用いることにより、感度よく有機成分を分析できることがわかる。
【0090】
上記の実施例5~10において抽出された各有機成分の水-オクタノール分配係数(logKOW)を、表3に示す。
【0091】
【0092】
これにより、本発明の有機成分抽出用素子を用いることにより、幅広い水-オクタノール分配係数を有する有機成分を抽出できることがわかる。
【0093】
(実施例11および比較例7~12)
標準試料2中に、ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、酢酸エチル、酢酸メチル、アセトニトリル、およびアセトンを含浸させた「TWISTER-011333-001-00」を有機成分抽出用素子として投入し、磁気撹拌装置により、800rpmで60分間撹拌した。この時のポリジメチルシロキサンと、ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、酢酸エチル、酢酸メチル、アセトニトリル、またはアセトンの重量比は、それぞれ、1:1、1:1.2、1:0.78、1:0.43、1:0.23、1:0.24であり、ポリジメチルシロキサンの体積増加率は、それぞれ、200%、240%、200%、150%、120%、120%であった。その後、有機成分抽出用素子をピンセットで取り出し、加熱脱着装置に投入し、GC-MSにより分析を行った。
また、溶媒で含浸させていない「TWISTER-011333-001-00」を用いた場合について比較のための分析を行った(比較例7)。
ここで、比較例7で得られたピーク強度で、実施例11および比較例8~12で得られた各有機成分のピーク強度を規格化し、有機成分の相対強度の比較を示した。得られた分析結果を表4に示した。
【0094】
【0095】
ジエチルエーテルを含浸させた場合、全ての成分において感度の向上が認められ、その相対強度は1.3~3.0倍であった。一方、テトラヒドロフランと酢酸エチルを含浸させた場合、インドールのみに相対強度1.3倍の感度の向上が認められたものの、その他成分の相対強度は0.39~0.93倍に減少した。さらに、酢酸メチル、アセトニトリル、およびアセトンを含浸させた場合、全ての成分の感度が減少し、相対強度は0.14~0.98倍であった。
【0096】
(実施例12および比較例13)
エスプレッソマシンで抽出したコーヒー5mLに、ターシャリーブチルメチルエーテルを含浸させた「TWISTER-011333-001-00(ポリジメチルシロキサンの体積が63μL)」を有機成分抽出用素子として投入し、磁気撹拌装置により、800rpmで60分間撹拌した。この時のポリジメチルシロキサンと、ターシャリーブチルメチルエーテルの重量比は、1:0.86であり、ポリジメチルシロキサンの体積増加率は、170%であった。その後、有機成分抽出用素子をピンセットで取り出し、逆抽出用溶媒として500μLのアセトンを用い、30分間逆抽出を行った。得られた逆抽出液100μLをGC-MSに注入して分析を行った。
また、溶媒で含浸させていない「TWISTER-011333-001-00」を用いた場合について比較のための分析を行った(比較例)。
結果を
図11に示す。
図11の上段「A」で示されるものが、本発明による分析方法によるものであり、下段の「B」で示されるものが、比較用素子を用いた結果である。
図11より、本願発明により、微量の有機成分を感度よく分析できることがわかる。
ここで、比較例13で得られたピーク強度で、実施例12で得られた各有機成分のピーク強度を規格化し、有機成分の相対強度の比較を示す。得られた分析結果を表5に示す。
【0097】
【0098】
これにより、本発明の有機成分抽出用素子を用いることにより、感度よく有機成分を分析できることがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0099】
本発明によれば、微量の有機成分を抽出できる素子を得ることができる。また、該素子を用いて、微量の有機成分をGCやLCなどにより測定することができる。
【符号の説明】
【0100】
1 強磁性体
2 ガラスおよび/またはプラスチック
3 ポリマー
10 有機成分抽出用素子
20 液体
25 気体
30 モータ
40 撹拌棒
50 容器
55 容器
57 蓋
60 超音波発生装置
70 水
80 磁気撹拌装置
90 固体または液体試料
100 担持器具
110 脱離装置
120 GCまたはLC
130 検出器