(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-01-06
(45)【発行日】2022-01-21
(54)【発明の名称】電動ポンプ
(51)【国際特許分類】
F04D 13/06 20060101AFI20220114BHJP
F16C 17/02 20060101ALI20220114BHJP
F16C 17/04 20060101ALI20220114BHJP
F16C 33/10 20060101ALI20220114BHJP
【FI】
F04D13/06 C
F04D13/06 J
F16C17/02 Z
F16C17/04 Z
F16C33/10 Z
(21)【出願番号】P 2018027197
(22)【出願日】2018-02-19
【審査請求日】2020-12-08
(73)【特許権者】
【識別番号】392008437
【氏名又は名称】株式会社久保田鉄工所
(74)【代理人】
【識別番号】110001427
【氏名又は名称】特許業務法人前田特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】森田 泰之
(72)【発明者】
【氏名】中平 毅
(72)【発明者】
【氏名】藤田 直丈
【審査官】大瀬 円
(56)【参考文献】
【文献】特開2004-346774(JP,A)
【文献】特開2012-154219(JP,A)
【文献】特開昭63-038698(JP,A)
【文献】特開2009-068444(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F04D 13/06
F16C 17/02
F16C 17/04
F16C 33/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
流体の流通路が設けられたケーシングと、複数の羽根を有して該流通路に配設されたインペラと、該インペラを回転可能に支持する支持軸と、該支持軸周りに該インペラを回転させるモータとを備えた電動ポンプであって、
前記流通路を流れる流体の一部を、前記インペラと前記支持軸との摺動面に流すように分岐させる分岐路と、
前記インペラと前記支持軸との摺動面を流れた流体を前記流通路に戻す循環路とを備え、
前記支持軸には、軸方向に延びて前記循環路側に開口する開口孔と、該開口孔と前記分岐路とに連通する連通孔とが形成され
、
前記インペラには、前記支持軸に摺動可能に嵌め込まれる軸受が設けられ、
前記軸受における前記分岐路側の端部には、該軸受の軸孔の周縁部が全周にわたって窪んだ全周溝が形成され、
前記支持軸の前記連通孔は、前記全周溝を介して前記分岐路に連通していることを特徴とする電動ポンプ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電動ポンプに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、回転動作によって水の吸引や吐出を行うインペラと、インペラを回転可能に支持する支持軸(回転支持棒)と、インペラを回転させるモータとを備えた電動ポンプが知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
ここで、特許文献1の電動ポンプでは、第2ケース部の第2収容凹部とロータとの間に隙間が設けられており、収容空間を流れる水の一部が、この隙間を通って支持軸とインペラのラジアル軸受(ベアリング)との摺動面に流れる。これにより、支持軸とインペラのラジアル軸受との摺動面が水で潤滑されるようになっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、支持軸とインペラのラジアル軸受との隙間は非常に小さいため、水に異物が混入していた場合には、この隙間に異物が詰まってしまい、インペラがスムーズに回転できなくなるおそれがある。
【0006】
本発明は、かかる点に鑑みてなされたものであり、その目的は、流体に含まれる異物がインペラと支持軸との摺動面に入り込むのを抑えることにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、流体の流通路が設けられたケーシングと、複数の羽根を有して該流通路に配設されたインペラと、該インペラを回転可能に支持する支持軸と、該支持軸周りに該インペラを回転させるモータとを備えた電動ポンプを対象とし、次のような解決手段を講じた。
【0008】
すなわち、第1の発明は、前記流通路を流れる流体の一部を、前記インペラと前記支持軸との摺動面に流すように分岐させる分岐路と、
前記インペラと前記支持軸との摺動面を流れた流体を前記流通路に戻す循環路とを備え、
前記支持軸には、軸方向に延びて前記循環路側に開口する開口孔と、該開口孔と前記分岐路とに連通する連通孔とが形成されていることを特徴とするものである。
【0009】
第1の発明では、流通路を流れる流体の一部は、分岐路を通ってインペラと支持軸との摺動面に向かって流れる。そして、分岐路を流れる流体の一部は、インペラと支持軸との摺動面を流れて潤滑した後で、循環路を通って流通路に戻る。一方、残りの流体は、支持軸に形成された連通孔及び開口孔を流れ、循環路を通って流通路に戻る。
【0010】
このように、支持軸に開口孔及び連通孔を形成することで、分岐路を流れる流体の一部が、インペラと支持軸との摺動面を迂回できるような別の経路を設けるようにしている。
【0011】
これにより、流体に異物が含まれていた場合でも、この異物を含む流体が、インペラと支持軸との摺動面ではなく、支持軸の連通孔及び開口孔を流れることで、摺動面の隙間に異物が詰まるのを抑えることができる。
【0012】
第2の発明は、第1の発明において、
前記インペラには、前記支持軸に摺動可能に嵌め込まれる軸受が設けられ、
前記軸受における前記分岐路側の端部には、該軸受の軸孔の周縁部が全周にわたって窪んだ全周溝が形成され、
前記支持軸の前記連通孔は、前記全周溝を介して前記分岐路に連通していることを特徴とするものである。
【0013】
第2の発明では、インペラの軸受に全周溝を形成することで、インペラがどのような回転角度であっても、分岐路と支持軸の連通孔とが、全周溝を介して常に連通された状態となる。つまり、インペラによって連通孔が塞がれてしまうことがなく、分岐路から全周溝に入り込んだ流体を、支持軸の連通孔にスムーズに流すことができる。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、流体に含まれる異物がインペラと支持軸との摺動面に入り込むのを抑えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】本実施形態に係る電動ポンプの構成を示す平面図である。
【
図5】電動ポンプ内部における水の流れを示す側面断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。なお、以下の好ましい実施形態の説明は、本質的に例示に過ぎず、本発明、その適用物或いはその用途を制限することを意図するものではない。
【0017】
図1及び
図2に示すように、電動ポンプ10は、車両の各種領域(例えば、ラジエター、ヒータコア、オイルクーラー等)に水を供給するためのものであり、側面視で略T字状をなす樹脂製のケーシング11を備えている。
【0018】
ケーシング11は、略円形パネル状の第1ケース部12と、略矩形板状の第2ケース部20とを組み合わせることで、内部に収容空間を有するように構成されている。
【0019】
第1ケース部12には、裏面側(
図2では下面側)に開口する第1収容凹部12aが形成されている。第1ケース部12の表面(
図2では上面)には、第1収容凹部12aの中央部分に連通する円筒状の流入管部13が設けられている。
【0020】
流入管部13は、第1ケース部12の表面に対して直交するように設けられ、第1収容凹部12aに水を流入させる。流入管部13の第1ケース部12側は、第1ケース部12に向かって徐々に拡管された形状となっている。
【0021】
また、第1ケース部12の表面には、第1収容凹部12aの側方部分に連通する円筒状の流出管部14が設けられている。流出管部14は、第1ケース部12の表面に沿って設けられ、第1収容凹部12aの水を流出させる。
【0022】
このように、ケーシング11の内部には、流入管部13から流出管部14に向かって水が流通する流通路15が形成される。
【0023】
第2ケース部20は、第1ケース部12の裏面側に設けられている。第2ケース部20の長手方向一端側の半分が、第1ケース部12の裏面側全域を覆っている。
【0024】
第2ケース部20の第1収容凹部12aに対応する位置には、第1ケース部12側に張り出してその先端部分で第1収容凹部12aの開口部分を塞ぐ張出部20aが形成されている。
【0025】
張出部20aの張出面には、第1収容凹部12a側に開口する第2収容凹部20bが形成される一方、張出部20aにおける第2収容凹部20bの反対側には、取付凹部20cが形成されている。
【0026】
第2ケース部20の中央には、支持軸25が取り付けられている。支持軸25の先端部は、第2ケース部20の表面側から突出している。
【0027】
取付凹部20cには、いわゆるアキシャル型のモータ30を構成するステータ31が設けられている。
【0028】
ステータ31は、鉄製のステータコア32を備えている。ステータコア32の外周部分には、第2ケース部20側に向かって突設された複数のティース部33が設けられている。ティース部33には、コイル35が巻き付けられている。
【0029】
そして、ティース部33にコイル35が巻き付けられた状態で、ステータコア32の中央部分を締結ネジ36によって支持軸25の一端に固定するとともに、第2ケース部20とステータ31との間の隙間を樹脂材で埋めることにより、ステータ31が第2ケース部20に固定されている。
【0030】
ケーシング11の内部には、樹脂製のインペラ50が収容されている。インペラ50に設けられた後述するロータ40と第2収容凹部20bとの間には、所定の隙間が形成されている。具体的に、ロータ40の外周面と第2収容凹部20bの内周面との間と、ロータ40の裏面と第2収容凹部20bの底面との間に隙間が形成されている。この隙間は、インペラ50から吐出されて流出管部14に向かう水の一部が分岐する分岐路45となっている。分岐路45に分岐した水は、インペラ50と支持軸25との摺動面に向かって流れる。
【0031】
インペラ50は、射出成形により形成され、先端側がテーパ状に形成されたボス部51を有する。ボス部51の内部には、インペラ50と支持軸25との摺動面を流れた水が通過する循環路55が形成されている。ボス部51の先端部には、循環路55に連通する先端孔51aが形成されており、循環路55を流れた水は、先端孔51aを通って流通路15に戻される。
【0032】
図3にも示すように、ボス部51の外周面の基端側には、複数の羽根52が設けられている。複数の羽根52は、ボス部51の回転軸心周りに等間隔に設けられている。なお、
図3に示す例では、8枚の羽根52が設けられているが、その他の枚数であってもよい。
【0033】
複数の羽根52のボス部51先端側には、ボス部51と所定の間隔をあけてボス部51の周りを環状に延びる円環プレート53が、羽根52と一体に設けられている。
【0034】
円環プレート53の内周側は、ボス部51に向かって徐々にボス部51の先端側に位置するよう緩やかに湾曲していて、当該部分が水を吸入する吸入口53aとなっている。
【0035】
ボス部51の基端側には、焼成処理が施されたカーボンからなるラジアル軸受56が設けられている。ラジアル軸受56は、インペラ50を射出成形する際に、一体成形されている。
【0036】
ラジアル軸受56は、支持軸25の先端部に回転可能に嵌め込まれている。ラジアル軸受56における分岐路45側の端部(
図2では下端部)には、ラジアル軸受56の軸孔の周縁部が全周にわたって窪んだ全周溝57が形成されている。
【0037】
ラジアル軸受56の基端部は、スラスト軸受60によって支持されている。
図4にも示すように、スラスト軸受60は、リング状の板材で形成され、中央部の孔に支持軸25が嵌合される。
【0038】
そして、スラスト軸受60におけるラジアル軸受56との摺動面には、放射状に延びる3つの放射状溝61が形成されている。ここで、インペラ50の回転に伴って放射状溝61を水が通過すると、ラジアル軸受56の基端部とスラスト軸受60との間に水が介在して、インペラ50がフローティング軸受される。なお、放射状溝61は3つに限らず、その他の数であってもよい。
【0039】
インペラ50におけるボス部51の基端側には、モータ30を構成するロータ40が取り付けられている。ロータ40は、リング状をなす鉄製のヨーク41と、リング状の磁石42とを有する。ロータ40は、ヨーク41と磁石42とを、互いの軸心を一致させた状態で重ね合わせることで構成されている。
【0040】
磁石42は、プラスチックマグネット材で構成されている。磁石42は、インサート成形によってヨーク41と一体に形成されている。磁石42は、ヨーク41と一体成形された後、着磁作業を行うことで磁化されている。例えば、ロータ40の中心軸周りにN極とS極とが4つずつ交互に並ぶことで、片面に8極の着磁形態となっている。なお、その他の極数の磁石42を用いる構成であってもよい。
【0041】
ステータ31は、ステータコア32及びコイル35と、磁石42とによる磁気作用で、ロータ40とともにインペラ50を支持軸25周りに回転させるようになっている。このようなインペラ50及びロータ40の回転動作により、インペラ50が水の吸引や吐出を周期的に行うようになっている。
【0042】
ここで、インペラ50から吐出されて流出管部14に向かう水の一部は、分岐路45からスラスト軸受60の放射状溝61を通って、ラジアル軸受56と支持軸25との摺動面に流れる。これにより、インペラ50のラジアル軸受56と支持軸25との摺動面が水で潤滑されるようになっている。ラジアル軸受56と支持軸25との摺動面を流れた後の水は、循環路55から先端孔51aを通って流通路15に戻される。
【0043】
しかしながら、インペラ50のラジアル軸受56と支持軸25との隙間は非常に小さいため、水に異物が混入していた場合には、この隙間に異物が詰まってしまい、インペラ50がスムーズに回転できなくなるおそれがある。
【0044】
そこで、本実施形態では、水に混入されている異物が摺動面を迂回できるような経路を設けるようにしている。
【0045】
具体的に、
図5に示すように、支持軸25には、軸方向に延びて循環路55側に開口する開口孔26と、開口孔26と分岐路45とに連通するように径方向に延びる連通孔27とが形成されている。連通孔27は、ラジアル軸受56の全周溝57と、スラスト軸受60の放射状溝61とを介して、分岐路45に連通している。
【0046】
ここで、ケーシング11の流通路15を流れる水の一部は、分岐路45を通ってインペラ50のラジアル軸受56と支持軸25との摺動面に向かって流れる。そして、分岐路45を流れる水の一部は、放射状溝61及び全周溝57を通り、インペラ50のラジアル軸受56と支持軸25との摺動面を流れて潤滑した後で、循環路55及び先端孔51aを通って流通路15に戻る。
【0047】
一方、分岐路45を流れる残りの水は、放射状溝61及び全周溝57を通り、支持軸25に形成された連通孔27及び開口孔26を流れ、循環路55及び先端孔51aを通って流通路15に戻る。
【0048】
このように、支持軸25に開口孔26及び連通孔27を形成することで、分岐路45を流れる水が、インペラ50のラジアル軸受56と支持軸25との摺動面を迂回できるような別の経路を設けるようにしている。ここで、この別の経路である開口孔26及び連通孔27の通路径は、インペラ50のラジアル軸受56と支持軸25との摺動面の隙間よりも大きく設定されている。そのため、分岐路45を流れる水の大部分は、支持軸25の開口孔26及び連通孔27を通ることとなる。
【0049】
これにより、水に異物が含まれていた場合でも、この異物を含む水が、インペラ50のラジアル軸受56と支持軸25との摺動面ではなく、支持軸25の連通孔27及び開口孔26を流れることで、摺動面の隙間に異物が詰まるのを抑えることができる。
【0050】
また、インペラ50のラジアル軸受56に全周溝57を形成することで、インペラ50がどのような回転角度であっても、分岐路45と支持軸25の連通孔27とが、全周溝57を介して常に連通された状態となる。つまり、インペラ50によって連通孔27が塞がれてしまうことがなく、分岐路45から放射状溝61を通って全周溝57に入り込んだ水を、支持軸25の連通孔27にスムーズに流すことができる。
【0051】
《その他の実施形態》
前記実施形態については、以下のような構成としてもよい。
【0052】
本実施形態では、磁石42をプラスチックマグネット材で構成しているが、この形態に限定するものではない。例えば、焼結マグネットなど、他のマグネットで構成しても良い。
【0053】
また、本実施形態では、磁石42をインサート成形によってヨーク41と一体に形成しているが、この形態に限定するものではない。例えば、接着、カシメ、ボルト締結など、その他の方法によって、磁石42をヨーク41に取り付けるようにしても良い。
【0054】
また、本実施形態では、ヨーク41と磁石42とを一体に成形した後、磁石42に着磁を施しているが、磁石42に着磁を施した後、ヨーク41と磁石42とを一体にしてもよい。
【0055】
また、本実施形態では、ラジアル軸受56を焼成処理が施されたカーボンで形成しているが、これに限らず、ラジアル軸受56を樹脂等のその他の材料で形成してもよい。
【0056】
また、本実施形態の電動ポンプ10は、水の吸引や吐出を行っているが、その他の流体、例えば、オイルの吸引や吐出を行うこともできる。
【0057】
また、本実施形態の電動ポンプ10は、車両の各種領域に水を供給するために用いているが、自動車や自動二輪車だけでなく、家庭用電化製品にも用いることができる。
【産業上の利用可能性】
【0058】
以上説明したように、本発明は、流体に含まれる異物がインペラと支持軸との摺動面に入り込むのを抑えることができるという実用性の高い効果が得られることから、きわめて有用で産業上の利用可能性は高い。
【符号の説明】
【0059】
10 電動ポンプ
11 ケーシング
15 流通路
25 支持軸
26 開口孔
27 連通孔
30 モータ
45 分岐路
50 インペラ
52 羽根
55 循環路
56 ラジアル軸受
57 全周溝