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特許7004343スパンボンド不織布、不織布積層体、医療用衣料、ドレープ、及びメルトブローン不織布
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-01-06
(45)【発行日】2022-02-10
(54)【発明の名称】スパンボンド不織布、不織布積層体、医療用衣料、ドレープ、及びメルトブローン不織布
(51)【国際特許分類】
   D04H 3/16 20060101AFI20220203BHJP
   D04H 3/007 20120101ALI20220203BHJP
   B32B 5/26 20060101ALI20220203BHJP
   D01F 6/46 20060101ALI20220203BHJP
   A41D 13/12 20060101ALI20220203BHJP
   A61B 1/00 20060101ALI20220203BHJP
【FI】
D04H3/16
D04H3/007
B32B5/26
D01F6/46 D
A41D13/12 109
A61B1/00 652
【請求項の数】 12
(21)【出願番号】P 2020101885
(22)【出願日】2020-06-11
(62)【分割の表示】P 2018089508の分割
【原出願日】2015-10-30
(65)【公開番号】P2020147890
(43)【公開日】2020-09-17
【審査請求日】2020-07-13
(31)【優先権主張番号】P 2014222017
(32)【優先日】2014-10-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000005887
【氏名又は名称】三井化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100079049
【弁理士】
【氏名又は名称】中島 淳
(74)【代理人】
【識別番号】100084995
【弁理士】
【氏名又は名称】加藤 和詳
(74)【代理人】
【識別番号】100099025
【弁理士】
【氏名又は名称】福田 浩志
(72)【発明者】
【氏名】市川 太郎
(72)【発明者】
【氏名】関岡 裕佑
(72)【発明者】
【氏名】川辺 邦昭
【審査官】川口 裕美子
(56)【参考文献】
【文献】特許第6717876(JP,B2)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D04H 3/16
D04H 3/007
B32B 5/26
D01F 6/46
A41D 13/12
A61B 1/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
スパンボンド不織布、メルトブローン不織布、スパンボンド不織布をこの順で積層されてなる不織布積層体であって、
前記メルトブローン不織布が、エチレン系重合体(a)を含むエチレン系重合体組成物の繊維、または、プロピレン系重合体(c)を含むプロピレン系重合体組成物の繊維からなり、前記メルトブローン不織布の目付が3g/m~25g/mであり、
前記スパンボンド不織布が、プロピレン系重合体(A)100質量部と、密度が0.93g/cm~0.98g/cmであるエチレン系重合体(B)1質量部~10質量部と、を含むプロピレン系重合体組成物の繊維からなり、前記スパンボンド不織布の目付が5g/m~50g/m、平均繊維径が5μm~30μmであり、前記スパンボンド不織布はJIS L 1096(2010)に準じたフラジール通気度測定機による圧力差125Paでの流量の条件で測定した通気度が500cm/cm/s以下である、不織布積層体。
【請求項2】
前記スパンボンド不織布に用いられた前記プロピレン系重合体組成物が、重量平均分子量(Mw)400~15000のエチレン系重合体ワックス(C)を含む請求項1に記載の不織布積層体。
【請求項3】
前記エチレン系重合体ワックス(C)の密度が、0.890g/cm~0.980g/cmである請求項2に記載の不織布積層体。
【請求項4】
前記エチレン系重合体ワックス(C)の含有量が、前記プロピレン系重合体(A)100質量部に対して、0.1質量部~4質量部未満である請求項2または請求項3に記載の不織布積層体。
【請求項5】
前記エチレン系重合体(B)のメルトフローレート(MFR)が、2g/10分~25g/10分である請求項1~請求項4のいずれか1項に記載の不織布積層体。
【請求項6】
前記スパンボンド不織布の目付が、10g/m~25g/mである請求項1~請求項5のいずれか1項に記載の不織布積層体。
【請求項7】
前記スパンボンド不織布の繊維の平均繊維径が、20μm以下である請求項1~請求項6のいずれか1項に記載の不織布積層体。
【請求項8】
前記スパンボンド不織布において、吸収線量45kGyの電子線が照射された後の強度INDEXが10N以上である請求項1~請求項7のいずれか1項に記載の不織布積層体。
【請求項9】
前記メルトブローン不織布が、エチレン系重合体(a)を含むエチレン系重合体組成物の繊維からなるメルトブローン不織布である、請求項1に記載の不織布積層体。
【請求項10】
前記エチレン系重合体(a)を含むエチレン系重合体組成物は、メルトフローレート(MFR)が10g/10分~250g/10分のエチレン系重合体(a)と重量平均分子量(Mw)が400~15000のエチレン系重合体ワックス(b)とを、(a)/(b)の質量比で90/10~10/90の割合で含む請求項9に記載の不織布積層体。
【請求項11】
請求項1~請求項10のいずれか1項に記載の不織布積層体を含む医療用衣料。
【請求項12】
請求項1~請求項10のいずれか1項に記載の不織布積層体を含むドレープ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スパンボンド不織布、不織布積層体、医療用衣料、ドレープ、及びメルトブローン不織布に関する。
【背景技術】
【0002】
プロピレン系重合体を用いた不織布は、エチレン系重合体を用いた不織布に比べて、紡糸性が良好で細い繊維が得られやすく、強度、柔軟性、及びバリア性のバランスに優れる。プロピレン系重合体を用いた不織布は、上記性質を有することから、医療用資材、衛生材料、吸収性物品、各種物体の包装資材、担持用資材、及びバッキング資材として広く用いられている。
【0003】
特に、スパンボンド法やメルトブローン法により得られるプロピレン系重合体を含む長繊維不織布は、軽量性、均一性、強度、柔軟性、及びバリア性の総合的な性能に優れているため、医療用資材(例えば、手術着用ガウン、ドレープ、マスク、シーツ、ガーゼ等)に用いられている。
【0004】
ここで、医療用資材は感染防止のため、使用に供される前に滅菌処理が必要となる。滅菌処理方法として、電子線滅菌、ガンマ線滅菌、ガス滅菌、蒸気滅菌などの方法がある。ガンマ線は放射性コバルト線源、ガス滅菌は主にエチレンオキサイドガスを使用するため、取扱い上の問題等がある。また、蒸気滅菌は滅菌の確実性の問題等がある。そのため、一般的に短時間で安全かつ確実に滅菌できる方法として電子線滅菌が理想とされている。
しかしながら、ポリプロピレン不織布は電子線滅菌やガンマ線滅菌を行うと、照射強度に比例して強度が低下しやすく、同時に血液等のバリア性も低下する傾向があるため、ガス滅菌方法が採用されているのが現状である。
【0005】
かかる欠点を改良する方法として、プロピレン系重合体に添加剤を加えることで耐放射線性を付与する試みがなされてきた。例えば、特許文献1(特許第2633936号公報)には、プロピレン系重合体に3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシ安息香酸の調査脂肪族エステルを含有した不織布が提案されている。
【0006】
また、特許文献2(特開平02-215848号公報)には、プロピレン系樹脂95質量%~99.5質量%及び特定の密度、側鎖基数であるエチレン-α-オレフィン共重合体5質量%~0.5質量%からなる耐放射線性プロピレン系樹脂組成物が提案されている。また、特許文献3(特表2001-508813号公報)には、50質量%乃至99質量%のポリプロピレンと1乃至50質量%の特定のポリエチレンのブレンドを含む製品が提案されている。
【0007】
上記以外にも、特許文献4(特表2010-509461号公報)には、ポリエチレンとチーグラー・ナッタ触媒使用ポリプロピレンを含有してなる重合体混合物が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特許第2633936号公報
【文献】特開平02-215848号公報
【文献】特表2001-508813号公報
【文献】特表2010-509461号公報
【文献】国際公開第2014/046070号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、前述の特許第2633936号公報に開示された技術で得られる不織布は、3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシ安息香酸の長鎖脂肪族エステル化合物を含有しない場合に比べて、放射線照射後の強度低下が抑制されている。しかし、放射線照射後の強度低下は、満足できるほど十分に抑制されたものではなかった。
【0010】
また、前述の特開平02-215848号公報、及び特表2001-508813号公報に開示された技術で得られる不織布では、エチレン系重合体をプロピレン系重合体に加えた樹脂組成物が使用されている。本発明者らの知見によれば、これら文献に記載された、いずれの樹脂組成物を使用した場合でも紡糸性が劣る。そのために、繊維を十分に細くすることができず、例えば、医療用資材として好適な不織布が得られない場合があった。また、これらの不織布は、放射線照射後の強度低下率が大きいことや、さらに、上記のポリエチレンの融点が低いために、特に、フィルムと熱積層して医療用ドレ-プ資材として2次加工する場合に適さない場合があった。
【0011】
上記エチレン系重合体とプロピレン系重合体とを含む樹脂組成物において、上記ポリエチレンの耐熱性を改善するために、高密度ポリエチレンを用いる方法が考えられる。かかる方法によって得られる不織布として、前述の特表2010-509461号公報に開示された技術で得られる不織布は、強度を得るために、特定の高密度ポリエチレンを含むとされている。しかしながら、本発明者らの知見によれば、上記の高密度ポリエチレンをプロピレン系重合体に加えた場合でも、上記の混合物の紡糸性が劣る。そのために繊維を十分に細くすることができず、例えば、医療用資材として好適な不織布を得ることができない場合があった。
前述の国際公開第2014/046070号に開示された技術で得られる不織布は、高密度ポリエチレンをプロピレン系重合体に加えた混合物が使用され、この混合物の紡糸性が改善されている。しかし、この不織布は、繊維が十分に細くない上に、通気度が高いことから、例えば、医療用資材として他部材と積層などした際に、強度や血液等のバリア性が不足するおそれがある。
【0012】
以上から、電子線等の放射線滅菌処理の後でも十分に強度が高く、さらに、繊維径を細くした場合でも、エチレン系重合体を含有することによる紡糸性の悪化が抑制された、プロピレン系重合体を含有する繊維からなる不織布は未だ見出されていなかった。
【0013】
したがって、本発明は、電子線等による滅菌処理が可能であり、電子線等の放射線滅菌処理の後でも十分に強度が高く、さらに、繊維径を細くした場合でも、エチレン系重合体を含有することによる紡糸性の悪化が抑制された、プロピレン系重合体を含むプロピレン系重合体組成物の繊維からなるスパンボンド不織布、それを用いた不織布積層体、それを用いた医療用衣料及びドレープを提供することを課題としている。さらに、不織布積層体の一部材として用いた場合に、層間の接着強度に優れ、不織布積層体の強度にも優れる、プロピレン系重合体と安定剤とを含むプロピレン系重合体組成物の繊維からなるメルトブローン不織布を提供することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0014】
前記課題を解決するための手段は、例えば、以下の通りである。
【0015】
<1> プロピレン系重合体(A)100質量部と、密度が0.93g/cm~0.98g/cmであるエチレン系重合体(B)1質量部~10質量部と、を含むプロピレン系重合体組成物の繊維からなり、
JIS L 1096(2010)に準じたフラジール通気度測定機による圧力差125Paでの流量の条件で測定した通気度が500cm/cm/s以下であるスパンボンド不織布。
<2> 前記プロピレン系重合体組成物が、重量平均分子量(Mw)400~15000のエチレン系重合体ワックス(C)を含む<1>に記載のスパンボンド不織布。
<3> 前記エチレン系重合体ワックス(C)の密度が、0.890g/cm~0.980g/cmである<2>に記載のスパンボンド不織布。
<4> 前記エチレン系重合体ワックス(C)の含有量が、前記プロピレン系重合体(A)100質量部に対して、0.1質量部~4質量部未満である<2>または<3>に記載のスパンボンド不織布。
<5> 前記エチレン系重合体(B)のメルトフローレート(MFR)が、2g/10分~25g/10分である<1>~<4>のいずれか1項に記載のスパンボンド不織布。
<6> 目付が、10g/m~25g/mである<1>~<5>のいずれか1項に記載のスパンボンド不織布。
<7> 前記繊維の平均繊維径が、20μm以下である<1>~<6>のいずれか1項に記載のスパンボンド不織布。
<8> 吸収線量45kGyの電子線が照射された後の強度INDEXが10N以上である<1>~<7>のいずれか1項に記載のスパンボンド不織布。
【0016】
<9> <1>~<8>のいずれか1項に記載のスパンボンド不織布を含む不織布積層体。
<10> エチレン系重合体組成物の繊維からなるメルトブローン不織布を含む<9>に記載の不織布積層体。
<11> 前記エチレン系重合体組成物は、メルトフローレート(MFR)が10g/10分~250g/10分のエチレン系重合体(a)と重量平均分子量(Mw)が400~15000のエチレン系重合体ワックス(b)とを、(a)/(b)の質量比で90/10~10/90の割合で含む<10>に記載の不織布積層体。
<12> プロピレン系重合体(c)と、有機リン系化合物、ヒンダードアミン系化合物、及びフェノール系化合物からなる群から選ばれる少なくとも一種の安定剤と、を含むプロピレン系重合体組成物の繊維からなるメルトブローン不織布を含む<9>に記載の不織布積層体。
<13> 前記安定剤が、前記有機リン系化合物、前記ヒンダードアミン系化合物、及び前記フェノール系化合物を含む<12>に記載の不織布積層体。
【0017】
<14> <9>~<13>のいずれか1項に記載の不織布積層体を含む医療用衣料。
<15> <9>~<13>のいずれか1項に記載の不織布積層体を含むドレープ。
【0018】
<16> プロピレン系重合体(c)と、有機リン系化合物、ヒンダードアミン系化合物、及びフェノール系化合物からなる群から選ばれる少なくとも一種の安定剤と、を含むプロピレン系重合体組成物の繊維からなるメルトブローン不織布。
<17> 前記安定剤が、前記有機リン系化合物、前記ヒンダードアミン系化合物、及び前記フェノール系化合物を含む<16>に記載のメルトブローン不織布。
【0019】
<18> <16>または<17>に記載のメルトブローン不織布を含む不織布積層体。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、電子線等による滅菌処理が可能であり、電子線等の放射線滅菌処理の後でも十分に強度が高く、さらに、繊維径を細くした場合でも、エチレン系重合体を含有することによる紡糸性の悪化が抑制された、プロピレン系重合体を含むプロピレン系重合体組成物の繊維からなるスパンボンド不織布、それを用いた不織布積層体、それを用いた医療用衣料及びドレープを提供することができる。さらに、不織布積層体の一部材として用いた場合に、層間の接着強度に優れ、不織布積層体の強度にも優れる、プロピレン系重合体と安定剤とを含むプロピレン系重合体組成物の繊維からなるメルトブローン不織布を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の一実施形態について説明する。
本明細書において「~」を用いて示された数値範囲は、「~」の前後に記載される数値をそれぞれ最小値及び最大値として含む範囲を示す。
【0022】
<スパンボンド不織布>
本発明のスパンボンド不織布は、プロピレン系重合体(A)100質量部と、密度が0.93g/cm~0.98g/cmであるエチレン系重合体(B)1質量部~10質量部と、を含むプロピレン系重合体組成物の繊維からなる。そして、JIS L 1096(2010)に準じたフラジール通気度測定機による圧力差125Paでの流量の条件で測定した通気度が500cm/cm/s以下である。
また、本発明の別の態様としては、前記プロピレン系重合体組成物に、さらに、エチレン系重合体ワックス(C)を含んでいてもよい。
本発明によれば、上記構成を有することにより、電子線等による滅菌処理が可能であり、電子線等の放射線滅菌処理の後でも十分に強度が高く、さらに、繊維径を細くした場合でも、エチレン系重合体を含有することによる紡糸性の悪化が抑制された、プロピレン系重合体を含むプロピレン系重合体組成物の繊維からなるスパンボンド不織布が得られる。
また、このスパンボンド不織布は繊維径が細く、このスパンボンド不織布を含む不織布積層体は、特に、医療用衣料及びドレープに好適に適用できる。
以下、本発明の構成要素について具体的に説明する。
【0023】
<プロピレン系重合体(A)>
本発明のスパンボンド不織布の原料となるプロピレン系重合体組成物の主な成分であるプロピレン系重合体(A)は、プロピレンの単独重合体、又はプロピレンと少量のα-オレフィンとの共重合体などのプロピレンを主体とする重合体である。プロピレンと共重合されるα-オレフィンとしては、炭素数2以上(但し炭素数3を除く)、好ましくは炭素数2~8(但し炭素数3を除く)のα-オレフィンが挙げられる。具体的には、例えば、エチレン、1-ブテン、1-ペンテン、1-ヘキセン、1-オクテン、4-メチル-1-ペンテン等のα-オレフィンが挙げられ、これらのα-オレフィンは、1種または2種以上用いてもよい。なお、不織布の強度や紡糸安定性を維持するためには、プロピレン系重合体(A)は、プロピレンの単独重合体、又はプロピレン・エチレンランダム共重合体が好ましい。さらに、耐熱性が重視される場合には、プロピレン系重合体(A)は、プロピレンの単独重合体が好ましい。
このプロピレン・エチレンランダム共重合体におけるエチレン含有量は、0.5モル%~10モル%であることがよく、3モル%~8モル%が好ましく、4モル%~7モル%がより好ましい。
【0024】
プロピレン系重合体(A)の融点(Tm)は、特に限定はされないが、125℃以上の範囲にあることがよく、140℃以上の範囲にあることが好ましく、155℃以上の範囲にあることがさらに好ましく、157℃~165℃の範囲にあることが特に好ましい。
【0025】
本発明に係るプロピレン系重合体(A)のメルトフローレート(MFR230:ASTM D-1238、230℃、荷重2160g)は、プロピレン系重合体(A)を溶融紡糸し得る限り、特に限定はされないが、好ましくは1g/10分~500g/10分、より好ましくは5g/10分~200g/10分、さらに好ましくは10g/10分~100g/10分の範囲である。
【0026】
また、本発明に係るプロピレン系重合体(A)の重量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)の比(Mw/Mn)は、1.5~5.0であることが好ましい。紡糸性が良好であり、かつ繊維強度が特に優れる繊維が得られる点で、1.5~4.5の範囲がより好ましい。MwおよびMnは、GPC(ゲルパーミエーションクロマトグラフィー)によって、公知の方法で測定することができる。
【0027】
また、本発明に係るプロピレン系重合体(A)の密度は、0.895g/cm~0.915g/cmの範囲が好ましく、0.900g/cm~0.915g/cmがより好ましく、0.905g/cm~0.910g/cmがさらに好ましい。
なお、本発明において、密度は、JIS K7112の密度勾配法に従って測定して得られた値である。
【0028】
<エチレン系重合体(B)>
本発明のスパンボンド不織布の原料となるプロピレン系重合体組成物の他の成分であるエチレン系重合体(B)は、エチレンの単独重合体、又はエチレンと少量の他のα-オレフィンとの共重合体である。エチレン系重合体(B)は、具体的には、高圧法低密度ポリエチレン、線状低密度ポリエチレン(所謂LLDPE)、中密度ポリエチレン(所謂MDPE)、高密度ポリエチレン(所謂HDPE)などのエチレンを主体とする重合体である。
【0029】
エチレンと共重合される他のα-オレフィンとしては、例えば、プロピレン、1-ブテン、1-ペンテン、1-ヘキセン、4-メチル-1-ペンテン、1-オクテン、1-デセン、1-ドデセン、1-テトラデセン、1-ヘキサデセン、1-オクタデセン、1-エイコセン等の炭素数3~20のα-オレフィンが挙げられる。これらエチレン系重合体(B)は単独でも、二種以上の混合物であってもよい。
【0030】
本発明に係るエチレン系重合体(B)は、密度が0.93g/cm~0.98g/cmの範囲であるエチレン系重合体を用いる。密度がこの範囲にあるエチレン系重合体を用いた場合には、紡糸性の悪化が抑制され、得られたスパンボンド不織布の強度が優れたものとなる。また、経時での安定性に優れる効果も得られる。紡糸性の悪化がより抑制される点や、強度がより向上する点で、0.940g/cm~0.980g/cmの範囲が好ましく、0.940g/cm~0.975g/cmの範囲がさらに好ましい。特に、0.950g/cm~0.970g/cmの範囲にある高密度ポリエチレン(HDPE)が好ましい。
【0031】
本発明に係るエチレン系重合体(B)のメルトフローレート(MFR190:ASTM D 1238、190℃、荷重2160g)は、エチレン系重合体(B)をプロピレン系重合体(A)と混合して溶融紡糸し得る限り、特に限定はされない。繊維の紡糸性、繊維径、強度の点から、エチレン系重合体(B)のメルトフローレートは、1g/10分~50g/10分の範囲であることが好ましい。2g/10分~25g/10分の範囲であることより好ましく、2g/10分~10g/10分の範囲であることがさらに好ましい。
エチレン系重合体(B)のメルトフローレートが上記範囲にある場合には、プロピレン系重合体組成物の紡糸性が良好であり、得られたスパンボンド不織布は、強度に優れたものとなる。このような特性が得られるため、得られたスパンボンド不織布は、特に医療用資材等に好適に使用できる。
【0032】
本発明に係るエチレン系重合体(B)は、種々公知の製造方法(例えば、高圧法、チーグラー触媒またはメタロセン触媒を用いて得られる中低圧法)によって得られる重合体を用い得る。これら重合体の中でも、メタロセン系触媒による重合で得られるエチレン系重合体を用いた場合には、プロピレン系重合体組成物の紡糸性がより良好なものとなり、得られるスパンボンド不織布の強度等が良好となる点で好ましい。
【0033】
<エチレン系重合体ワックス(C)>
本発明のスパンボンド不織布の原料となるプロピレン系重合体組成物には、別の態様として、必要に応じて、エチレン系重合体ワックス(C)を含有させることができる。
エチレン系重合体ワックス(C)は、プロピレン系重合体(A)とエチレン系重合体(B)との分散性を向上する効果が得られる。そのため、紡糸性がより向上しやすくなる点で、プロピレン系重合体組成物には、エチレン系重合体ワックス(C)を含有することが好ましい。
なお、本発明に係るエチレン系重合体ワックス(C)とは、前記エチレン系重合体(B)に比べて、分子量が低い、すなわち、ワックス状の重合体である。
【0034】
エチレン系重合体ワックス(C)の重量平均分子量(Mw)は、15000以下の範囲であることが好ましい。15000未満の範囲であることがより好ましく、10000以下の範囲であることがさらに好ましく、6000以下の範囲であることがさらに好ましく、6000未満であることがさらに好ましく、5000以下の範囲であることが特に好ましく、1500以下の範囲であることが最も好ましい。下限値としては、400以上であることが好ましく、1000以上であることがより好ましい。エチレン系重合体ワックス(C)の重量平均分子量(Mw)がこの範囲である場合には、プロピレン系重合体組成物の紡糸性を改善しやすく、繊維径が細くなりやすく、さらに、経時的な安定性が得られやすくなる。また、本発明のスパンボンド不織布を、例えばエチレン系重合体などによるメルトブローン不織布と積層して不織布積層体を形成した場合、層間の接着性や強度に優れたものとなりやすくなる点で好ましい。
【0035】
本発明に係るエチレン系重合体ワックス(C)の重量平均分子量(Mw)は、GPC測定から求めた値であり、以下の条件で測定した値である。なお、重量平均分子量は、市販の単分散標準ポリスチレンを用いて検量線を作成し、下記の換算法に基づいて求める。
装置:ゲル浸透クロマトグラフAllianceGPC2000型(Waters社製)
溶剤:o-ジクロロベンゼン
カラム:TSKgel GMH6-HT×2、TSKgel GMH6-HTLカラム×2(何れも東ソー社製)
流速:1.0ml/分
試料:0.15mg/mLo-ジクロロベンゼン溶液
温度:140℃
分子量換算:PE換算/汎用較正法
なお、汎用較正の計算には、以下に示すMark-Houwink粘度式の係数を用いた。
ポリスチレン(PS)の係数:KPS=1.38×10-4,aPS=0.70
ポリエチレン(PE)の係数:KPE=5.06×10-4,aPE=0.70
【0036】
本発明に係るエチレン系重合体ワックス(C)は、JIS K2207に従って測定した軟化点が90℃~145℃の範囲であることが好ましく、90℃~130℃の範囲であることがより好ましく、100℃~120℃であることがさらに好ましく、105℃~115℃あることが最も好ましい。
【0037】
本発明に係るエチレン系重合体ワックス(C)は、エチレンの単独重合体、またはエチレンと炭素数3~20のα-オレフィンとの共重合体のいずれであってもよい。エチレン系重合体ワックス(C)として、エチレンと炭素数3~20のα-オレフィンとの共重合体を用いた場合、エチレンと共重合させるα-オレフィンの炭素数としては、炭素数3~8がより好ましく、炭素数3~4が更に好ましく、炭素数3が特に好ましい。エチレンと共重合させるα-オレフィンの炭素数が上述範囲にあると、紡糸性が良好となり、不織布の強度等の特性を高めることができる。その理由は明らかではないが、次のように考えられる。本発明に係るエチレン系重合体ワックス(C)において、エチレンと共重合させるα-オレフィンの炭素数が上述範囲にあると、プロピレン系重合体(A)中に、エチレン系重合体ワックス(C)を介して、エチレン系重合体(B)が分散し易くなると考えられる。すなわち、エチレン系重合体ワックス(C)が、プロピレン系重合体(A)とエチレン系重合体(B)の相溶化剤として作用するために、本発明のプロピレン系重合体組成物としての均一性が高まることにより、紡糸性、不織布の強度等の特性のバランスが向上すると考えられる。
エチレン系重合体ワックス(C)として、エチレン単独重合体を用いた場合、前記エチレン系重合体(B)との混練性に優れ、且つ、紡糸性に優れる。また、エチレン系重合体ワックスは単独でも、その二種以上の混合物であってもよい。
【0038】
本発明に係るエチレン系重合体ワックス(C)は、通常用いられる低分子量重合体の重合による製造方法、又は高分子量のエチレン系重合体を加熱減成によって分子量を低減させる方法等のいずれの方法によって製造されたものでもよく、特に制限されない。
また、本発明に係るエチレン系重合体ワックス(C)は、溶媒に対する溶解度の差で分別する溶媒分別、または蒸留などの方法で精製されていてもよい。
エチレン系重合体ワックス(C)が、通常用いられる低分子量重合体の重合による製造方法で得られる場合、種々公知の製造方法、例えば、チーグラー/ナッタ触媒、又は特開平08-239414号公報、若しくは国際公開第2007/114102号等に記載された、メタロセン系触媒等により重合する製造方法等により製造し得る。
【0039】
本発明に係るエチレン系重合体ワックス(C)の密度は特に限定されるものではないが、0.890g/cm~0.980g/cmであることが好ましい。0.910g/cm以上であることがより好ましく、0.920g/cm以上であることがさらに好ましい。また、0.960g/cm以下であることが好ましく、0.950g/cm以下の範囲であることがより好ましい。密度の範囲が上記範囲内にあるエチレン系重合体ワックス(C)を用いると、プロピレン系重合体組成物の紡糸性が優れたものとなりやすい。また、本発明のスパンボンド不織布を、例えばエチレン系重合体などによるメルトブローン不織布と積層して不織布積層体を形成した場合、層間の接着性や強度に優れたものとなりやすい点でも好ましい。
【0040】
本発明に係るプロピレン系重合体(A)の密度と、エチレン系重合体ワックス(C)の密度との差は特に限定されるものではないが、0.35g/cm未満であることがより好ましく、0.20g/cm未満であることが特に好ましく、0.15g/cm未満であることが最も好ましい。密度差が上記範囲にあると、紡糸性が良好となり、不織布の強度等の特性を高めることができる。その理由は明らかではないが、次のように考えられる。本発明に係るプロピレン系重合体(A)の密度とエチレン系重合体ワックス(C)の密度が上記範囲にあると、プロピレン系重合体(A)中に、エチレン系重合体ワックス(C)を介して、エチレン系重合体(B)が分散し易くなると考えられる。すなわち、エチレン系重合体ワックス(C)が、プロピレン系重合体(A)とエチレン系重合体(B)の相溶化剤として作用するために、本発明のプロピレン系重合体組成物としての均一性が高まることにより、紡糸性、不織布の強度等の特性のバランスが向上すると考えられる。
【0041】
<プロピレン系重合体組成物>
前述のとおり、本発明のスパンボンド不織布の原料となるプロピレン系重合体組成物は、前記プロピレン系重合体(A)100質量部に対し、前記エチレン系重合体(B)1質量部~10質量部を含むプロピレン系重合体組成物である。
また、本発明の別の態様としては、前記プロピレン系重合体(A)100質量部に対し、前記エチレン系重合体(B)1質量部~10質量部を含み、さらに、エチレン系重合体ワックス(C)を含むプロピレン系重合体組成物であってもよい。
エチレン系重合体(B)の含有量は、2質量部以上が好ましく、3質量部以上がより好ましい。また、9質量部以下が好ましく、8質量部以下がより好ましい。
【0042】
本発明に係るプロピレン系重合体組成物は、エチレン系重合体(B)の含有量が1質量部以上であれば、得られるスパンボンド不織布の電子線等による放射線滅菌後の強度が優れたものとなる。また、耐久性〔例えば、熱エンボス部(熱圧着部ともいう。)のボンディング強度など〕が十分なものとなるため、この不織布を医療用資材に用いた場合には、強度や、柔軟性に優れたものとなる。一方、エチレン系重合体(B)の含有量が10質量部以下であれば、プロピレン系重合体組成物の紡糸性は優れたものとなる。
つまり、エチレン系重合体(B)の含有量が上記範囲を満足しない場合には、放射線滅菌後の強度が低下したり、プロピレン系重合体組成物の紡糸性が悪化したりする。
【0043】
また、本発明に係るプロピレン系重合体組成物に、エチレン系重合体ワックス(C)を含む場合、前述のように、プロピレン系重合体(A)とエチレン系重合体(B)との分散性が向上し、結果として、紡糸性がより向上しやすくなる。エチレン系重合体ワックス(C)を用いることによる分散向上効果をより発揮やすくする点、繊維をより細くする点、及び繊維の強度の点から、エチレン系重合体ワックス(C)の含有量は、プロピレン系重合体100質量部に対し、0.1質量部以上4質量部未満が好ましく、0.5質量部~3質量部がより好ましく、0.5質量部~2.5質量部の範囲であることがさらに好ましい。
【0044】
本発明に係るプロピレン系重合体組成物の製造には、従来公知の触媒、例えば特開昭57-63310号公報、特開昭58-83006号公報、特開平3-706号公報、特許3476793号公報、特開平4-218508号公報、又は特開2003-105022号公報等に記載されているマグネシウム担持型チタン触媒;国際公開第2001/53369号、国際公開第2001/27124号、特開平3-193796号公報、又は特開平02-41303号公報に記載のメタロセン触媒;などを好適に用い得る。
【0045】
本発明に係るプロピレン系重合体組成物は、プロピレン系重合体(A)及びエチレン系重合体(B)の他に、さらに、本発明の目的を損なわない範囲で、必要に応じて用いることができる任意の他の成分を含有することができる。これらの各成分は、種々公知の方法を用いて混合することができる。
【0046】
必要に応じて用いることができる任意の他の成分としては、他の重合体;着色剤:リン系やフェノール系などの酸化防止剤;ベンゾトリアゾール系などの耐候安定剤;ヒンダードアミン系等の耐光安定剤;ブロッキング防止剤;ステアリン酸カルシウム等の分散剤;滑剤;核剤;顔料;柔軟剤;親水剤;撥水剤;助剤;撥水剤;充填剤;抗菌剤;農薬;防虫剤;薬剤;天然油;合成油;等の種々公知の添加剤が挙げられる。
特に、電子線等の放射線照射において強度、変色、臭気などの安定性を付与する場合、酸化防止剤、耐候安定剤、耐光安定剤、顔料、消臭剤などの添加が有効である。
【0047】
安定剤としては、例えば、トリス(2,4-ジ-tert-ブチルフェニル)ホスファイト等の有機リン系化合物;デカン二酸ビス(2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジニル)、2,4-ジクロロ-6-(1,1,3,3-テトラメチルブチルアミノ)-1,3,5-トリアジン・N,N’-ビス(2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジル)ヘキサメチレンジアミン重縮合物等のヒンダードアミン系化合物;1,1,3-トリス(2-メチル-4-ヒドロキシ-5-t-ブチルフェニル)-ブタン等のフェノール系化合物を用いることが好ましい。これらの安定剤を組み合わせて用いることがより好ましく、例えば、トリス(2,4-ジ-tert-ブチルフェニル)ホスファイトの有機リン系化合物、デカン二酸ビス(2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジニル)、及び2,4-ジクロロ-6-(1,1,3,3-テトラメチルブチルアミノ)-1,3,5-トリアジン・N,N’-ビス(2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジル)ヘキサメチレンジアミン重縮合物の少なくとも一種のヒンダードアミン系化合物、及び1,1,3-トリス(2-メチル-4-ヒドロキシ-5-t-ブチルフェニル)-ブタンのフェノール系化合物;を含むことがより好ましい。
また、ステアリン酸亜鉛、ステアリン酸カルシウム、1,2-ヒドロキシステアリン酸カルシウムなどの脂肪酸金属塩;グリセリンモノステアレート、グリセリンジステアレート、ペンタエリスリトールモノステアレート、ペンタエリスリトールジステアレート、ペンタエリスリトールトリステアレート等の多価アルコール脂肪酸エステル;などを挙げることができる。また、これらを組み合わせて用いることもできる。
【0048】
また、シリカ、ケイ藻土、アルミナ、酸化チタン、酸化マグネシウム、軽石粉、軽石バルーン、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、塩基性炭酸マグネシウム、ドロマイト、硫酸カルシウム、チタン酸カリウム、硫酸バリウム、亜硫酸カルシウム、タルク、クレー、マイカ、アスベスト、ケイ酸カルシウム、モンモリロナイト、ペントナイト、グラファイト、アルミニウム粉、硫化モリブデン等の充填剤を含有していてもよい。
【0049】
本発明のスパンボンド不織布は、本発明の目的を損なわない範囲で、既述のプロピレン系重合体組成物から得られる繊維に加え、他の繊維(例えば、前記プロピレン系重合体(A)単体から得られる繊維、又はその他のオレフィン系重合体、ポリエステル、熱可塑性エラストマーなどから得られる繊維)を混合してなる混合繊維からなる不織布であってもよい。
【0050】
さらに、本発明のスパンボンド不織布を形成する繊維は、前記プロピレン系重合体組成物からなる単一の繊維であってもよい。本発明の目的を損なわない範囲で、前記プロピレン系重合体組成物を含むサイドバイサイド、芯鞘構造を有する複合繊維であってもよい。
【0051】
本発明のスパンボンド不織布を形成する繊維の断面形状は、丸型;星型、三角型、四角型、五角型などの多角型;楕円型;中空型;などの形状を採り得る。
【0052】
<スパンボンド不織布の物性>
本発明のスパンボンド不織布は、目付20g/mにてJIS L 1096(2010)に準じたフラジール通気度測定機による圧力差125Paでの流量の条件で測定した通気度が500cm/cm/s以下である。450cm/cm/s以下が好ましく、400cm/cm/s以下が好ましい。また、下限値は特に限定されないが、50cm/cm/s以上が挙げられる。100cm/cm/s以上が好ましく、200cm/cm/s以上がより好ましい。スパンボンド不織布の通気度がこの範囲であると、適度な通気性やバリア性が得られる。また、得られたスパンボンド不織布は強度に優れる。通気度が、このような範囲である場合には、上記特性を有することから、特に医療用資材等に好適に使用できる。
【0053】
本発明のスパンボンド不織布の目付は、5g/m~50g/mの範囲であることが好ましく、10g/m~25g/mの範囲であることがより好ましい。
【0054】
本発明のスパンボンド不織布を形成する繊維の平均繊維径は、5μm~30μmの範囲であることが好ましい。平均繊維径の上限としては、より好ましくは25μm以下、さらに好ましくは20μm以下である。特に、20μm以下であると、不織布を形成する繊維は十分に細いものとなり、特に医療用資材等に好適に使用できる。また、平均繊維径の下限としては、特に限定されないが、10μm以上であると、強度に優れたものが得られる。
【0055】
本発明のスパンボンド不織布の強度は、目付20g/mにて吸収線量45kGyの電子線が照射された後の強度として、MD(縦方向)強度が20N以上、CD(横方向)強度が10N以上であることが好ましい。より好ましくは、MD強度が25N以上、CD強度が15N以上である。強度が上記範囲であると、不織布に穴が開いたり破れたりし難くなるので好ましい。
ここで、吸収線量とは、1kgあたり1ジュールのエネルギーの吸収があるときの線量であり、Gyで表されるものである。
【0056】
また、目付20g/mにて吸収線量45kGyの電子線が照射された後の強度INDEXは10N以上であることが好ましい。さらに好ましくは13N以上、最も好ましくは18N以上である。本発明のスパンボンド不織布の強度INDEXが、この範囲であれば、電子線を照射した後でも十分に優れた強度を備えたものとなる。また、電子線が照射された後の強度INDEXがこの範囲であると、十分に強度が優れるものとなり、特に医療用資材等に好適に使用できる点で好ましい。
なお、本発明において、強度INDEXとは以下の式により算出される値である。
〔式〕:強度INDEX=((((MD強度)+(CD強度)))/2)0.5
【0057】
<スパンボンド不織布の製造方法>
本発明のスパンボンド不織布は、公知のスパンボンド不織布の製造方法により製造し得る。具体的には、例えば、予め、上記プロピレン系重合体組成物を紡糸ノズルから紡糸し、紡出された長繊維フィラメントを冷却流体などにより冷却し、延伸空気によってフィラメントに張力を加えて所定の繊度とし、得られたフィラメントを移動する捕集ベルト上に集めて、所定の厚さに堆積させたスパンボンド不織布とすることにより製造し得る。
また、必要に応じて、堆積したウェブを交絡処理することができる。交絡方法としては、例えば、エンボスロールを用いて熱エンボス加工処理する方法;超音波により融着する方法;ウォータージェットを用いて繊維を交絡させる方法;ホットエアースルーにより融着する方法;ニードルパンチを用いる方法;などの各種の方法を、適宜、使用することができる。
【0058】
なお、本発明のスパンボンド不織布は、得られるスパンボンド不織布の強度等が向上し、さらに、柔軟性、通気性のバランスを保つ点で、エンボス加工等により部分的に熱圧着することが好ましい。本発明のスパンボンド不織布を熱エンボス加工により熱圧着する場合、エンボス面積率(熱圧着部)は5%~30%が好ましい。より好ましくは5%~20%の範囲である。刻印形状は、例えば、円、楕円、長円、正方、菱、長方、四角、キルト、格子、亀甲やそれら形状を基本とする連続した形が例示される。
【0059】
本発明のスパンボンド不織布は、本発明の目的を損なわない範囲で、ギア加工、印刷、塗布、ラミネート、熱処理、賦型加工、親水加工、撥水加工、プレス加工などの二次加工を施して用いてもよい。なお、二次加工は、本発明のスパンボンド不織布を含む不織布積層体とした場合にも適用できる。
【0060】
本発明のスパンボンド不織布は、必要に応じて撥水等の加工処理を施すことができる。撥水等の加工処理は、フッ素系撥水剤などの加工剤を塗布すること、又はあらかじめ撥水剤を添加剤として樹脂原料に混ぜ合わせて不織布を成形することにより行うことができる。撥水剤の付着量(含有量)は0.5質量%~5.0質量%が適当である。
また、撥アルコ-ル性の付与方法としては、例えば、スパンボンド不織布にフッ素系加工剤を0.01質量%~3質量%の付着量で付着させることなどが挙げられる。この場合の加工剤の付着方法、及び乾燥方法は特に限定されない。加工剤の付着方法としては、スプレーで吹きつける方法;加工剤浴に浸漬し、マングルで絞る方法;コーティングによる方法;などがあり、乾燥方法としては、熱風乾燥器を用いる方法;テンターを用いる方法;発熱体に接触させる方法;などがある。
【0061】
上記加工処理により、例えば、スパンボンド不織布を医療用のガウンなどに用いる場合に、水、アルコ-ル、油などが浸透しにくくなり、アルコ-ル消毒した場合や血液等が付着した場合でもバリア性の高いものとなる。なお、上記加工は、本発明のスパンボンド不織布を含む不織布積層体とした場合にも適用できる。
【0062】
また、本発明のスパンボンド不織布は、制電性を付与してもよい。制電性の付与方法としては、適当な制電性付与剤(たとえば、脂肪酸エステル、第4級アンモニウム塩など)を塗布する方法、または添加剤として樹脂原料に混ぜ合わせて不織布を成形する方法などが挙げられる。制電性の程度としては、20℃、40%RHの雰囲気でJIS L1094C法に示す方法で1000V以下(摩擦布は綿布とする。)であることが好ましい。制電性の程度としては、20℃、40%RHの雰囲気でJIS L 1094C法に示す方法で1000V以下(摩擦布は綿布とする。)が好ましい。
【0063】
上記制電性の付与により、例えば、スパンボンド不織布を医療用のガウンなどに用いる場合に、着心地を良くすることが可能である。なお、上記加工は、本発明のスパンボンド不織布を含む不織布積層体とした場合にも適用できる。
【0064】
本発明のスパンボンド不織布は、例えば、衛生材料、生活資材、工業資材、医療用資材全般等の各資材に適用することができる。具体的には、紙おむつ、生理用ナプキン、湿布材等の基布;ベッドカバー;などの素材に好適に用いられる。また、本発明のスパンボンド不織布は、スパンボンド不織布単独で用いてもよいが、他の機能を付与するために、後述する他の材料と積層して用いることが好ましい。また、本発明のスパンボンド不織布は、滅菌時や殺菌時に照射される電子線等の放射線にも安定であるため、例えば、本発明のスパンボンド不織布と、必要に応じて他の材料とを積層した不織布積層体として、病院などで用いられるガウン、キャップ、マスク、アイソレーションガウン、患者着、ドレープ、シーツ類、クルム、タオル等の医療用資材として特に好適に使用できる。さらにヒートシール性などの後加工性が良好であるため、脱酸素剤、カイロ、温シップ、マスク、CD(コンパクトディスク)袋、食品包装材、衣服カバーなどの生活資材全般に適用可能である。同様の理由で、自動車内装材や各種バッキング材としても好適に使用できる。また、細繊維で構成されることから、液体フィルター、エアフィルターなどのフィルター資材としても広く適用可能である。
【0065】
<不織布積層体>
本発明の第1の態様の不織布積層体は、上述のスパンボンド不織布を含む。
本発明の第1の態様の不織布積層体は、例えば、他の機能(例えば、均一性、バリア性、通気性のバランスを調整、軽量化等)を付与する目的で、スパンボンド不織布の少なくとも片面に、本発明のスパンボンド不織布と同じ、若しくは異なる不織布、又はフィルム等の材料を積層することにより形成することができる。
本発明のスパンボンド不織布と積層可能な材料としては、短繊維不織布や、長繊維不織布が挙げられる。これら不織布の繊維材料としては、例えば、木綿、キュプラ、レーヨン等のセルロース系繊維;ポリオレフィン系繊維;ポリアミド系繊維;ポリエステル系繊維等が挙げられる。また、これら不織布としては、例えば、本発明のスパンボンド不織布と同じ、又は異なる他のスパンボンド不織布;メルトブローン不織布;湿式不織布;乾式不織布;乾式パルプ不織布;フラッシュ紡糸不織布;開繊不織布等の材料が挙げられる。フィルムとしては、ポリオレフィン系樹脂;ポリアミド系樹脂;ポリエステル系樹脂等のフィルムが挙げられる。これらの材料は1種、又は2種以上を選択して積層することができる。例えば、本発明のスパンボンド不織布とメルトブローン不織布と本発明のスパンボンド不織布とを積層でき、さらに、乾式不織布等の不織布とを積層することができる。
なお、本発明において「短繊維」とは、おおむね平均繊維長200mm以下の繊維を意味する。また「長繊維」とは、不織布便覧(INDA米国不織布工業会編、株式会社不織布情報、1996年)等、当技術分野で一般的に用いられている「連続長繊維(continuous filament)」をいう。
【0066】
本発明の第1の態様の不織布積層体を形成する方法としては、公知の方法を用いて形成することができる。例えば、ニードルパンチ、ウォータージェット等によって交絡させる方法;熱エンボス加工または超音波融着等によって熱融着させる方法;ホットメルト接着剤、ウレタン系接着剤等の各種接着剤によって接着させる方法;樹脂の押出しラミネートによって積層する方法が挙げられる。
【0067】
上記で例示した不織布積層体の中でも、特に、メルトブローン不織布とスパンボンド不織布とを含む不織布積層体が好ましく、さらに、メルトブローン不織布とスパンボンド不織布とが部分的に熱融着(熱圧着)して積層された不織布積層体がより好ましい。
【0068】
以下、本発明の第1の態様の不織布積層体の好ましい一態様であるメルトブローン不織布とスパンボンド不織布との不織布積層体について説明する。
【0069】
メルトブローン不織布とスパンボンド不織布との不織布積層体としては、例えば、メルトブローン不織布/スパンボンド不織布;スパンボンド不織布/メルトブローン不織布/スパンボンド不織布;スパンボンド不織布/メルトブローン不織布/メルトブローン不織布/スパンボンド不織布;スパンボンド不織布/メルトブローン不織布/スパンボンド不織布/メルトブローン不織布/スパンボンド不織布等の不織布積層体が挙げられる。これら不織布積層体の中でも、スパンボンド不織布/メルトブローン不織布/スパンボンド不織布の構成が好ましく、医療用資材に使用した場合には、耐久性等の点で好ましい。
【0070】
メルトブローン不織布を形成する繊維の平均繊維径は0.1μm~10μmの範囲が好ましく、0.5μm~8μmの範囲がより好ましく、1μm~5μmの範囲がさらに好ましく、1μm~4μmの範囲が特に好ましい。平均繊維径がこの範囲であると、得られるメルトブローン不織布の均一性が良好で、バリア性に優れた不織布となる。また、メルトブローン不織布を形成する繊維の平均繊維径がこの範囲にあると、電子線照射後の強度とバリア性、均一性に優れるので好ましい。
【0071】
メルトブローン不織布の目付は1g/m~30g/mの範囲が好ましく、3g/m~25g/mの範囲がより好ましく、5g/m~20g/mの範囲がさらに好ましく、7g/m~18g/mの範囲がさらに好ましく、10g/m~17g/mの範囲が特に好ましい。目付がこの範囲であると、柔軟性やバリア性に優れたものとなる。また、メルトブローン不織布の目付がこの範囲にあると、電子線照射後の強度とバリア性、均一性に優れるので好ましい。
一方、高いバリア性が然程必要とされず、主に柔軟性、ヒートシール性、軽量性が求められる用途(例えば、衛生材料など)に用いる場合は、目付の範囲を好ましくは0.5g/m~5g/m、より好ましくは0.5g/m~3g/mの範囲にすればよい。
【0072】
メルトブローン不織布を形成する繊維は特に限定されないが、電子線照射後の強度や、バリア性の低下を抑制する目的で、エチレン系重合体組成物を含む繊維からなるものであることが好ましい。また、メルトブローン不織布を形成する繊維が、エチレン系重合体組成物を含む繊維からなるものである場合には、スパンボンド不織布とメルトブローン不織布との何れの不織布にもエチレン系重合体を含むので、例えば、メルトブローン不織布とスパンボンド不織布とを熱エンボス処理などにより接合した際に、容易に接合でき、得られる不織布積層体は、層間の接着強度が優れるものとなる点でも好ましい。
【0073】
エチレン系重合体組成物としては、メルトフローレート(MFR)が10g/10分~250g/10分のエチレン系重合体(a)と重量平均分子量(Mw)が400~15000のエチレン系重合体ワックス(b)とを、(a)/(b)の質量比で90/10~10/90の割合で含むエチレン系重合体組成物であることが好ましい。
これら範囲を示す特定のエチレン系重合体(a)と特定のエチレン系重合体ワックス(b)とを、特定の質量比で含有する上記のエチレン系重合体組成物を含む繊維とすることで、電子線照射時の強度の低下や、バリア性の低下を抑制する他、繊維径の細さ、紡糸性が特に優れたものとなる。
【0074】
<エチレン系重合体(a)>
メルトブローン不織布を形成する繊維の成分の一つであるエチレン系重合体(a)は、前記エチレン系重合体(B)と同様の樹脂であり、エチレンの単独重合体、又はエチレンと他のα-オレフィンとの共重合体であるエチレンを主体とする重合体である。
エチレン系重合体(a)の密度は、0.870g/cm~0.990g/cmの範囲が好ましく、0.900g/cm~0.980g/cmの範囲がより好ましく、0.910g/cm~0.980g/cmの範囲がさらに好ましく、0.940g/cm~0.980g/cmの範囲が最も好ましい。
【0075】
前記エチレン系重合体(a)は、通常、高圧法低密度ポリエチレン、線状低密度ポリエチレン、中密度ポリエチレン、高密度ポリエチレンなどの名称で製造、販売されている結晶性の樹脂である。
【0076】
エチレンと共重合される他のα-オレフィンとしては、プロピレン、1-ブテン、1-ペンテン、1-ヘキセン、4-メチル-1-ペンテン、1-オクテン、1-デセン、1-ドデセン、1-テトラデセン、1-ヘキサデセン、1-オクタデセン、1-エイコセン等の炭素数3~20のα-オレフィン等が挙げられる。これらエチレン系重合体は単独でも、二種以上の混合物であってもよい。
【0077】
本発明に係るエチレン系重合体(a)のメルトフローレート(MFR190:ASTM D1238に準拠して荷重2.16kg、190℃で測定)は、エチレン系重合体(a)を用いてメルトブローン不織布を製造し得る限り特に限定はされないが、10g/10分~250g/10分の範囲が好ましい。20g/10分~200g/10分の範囲がより好ましく、50g/10分~150g/10分の範囲にあることがさらに好ましい。エチレン系重合体(a)のメルトフローレートがこの範囲にあると、得られる繊維径の細さや紡糸性の点から望ましい。
【0078】
エチレン系重合体(a)は、前記エチレン系重合体(B)と同様に、種々公知の製造方法(例えば、高圧法、チーグラー触媒またはメタロセン触媒を用いて得られる中低圧法)によって得られる重合体を用い得る。
【0079】
<エチレン系重合体ワックス(b)>
メルトブローン不織布を形成する繊維の成分の一つであるエチレン系重合体ワックス(b)は、前記エチレン系重合体ワックス(C)と同様の樹脂であり、前記エチレン系重合体(a)に比べて、分子量が低い、すなわち、ワックス状の重合体である。
また、エチレン系重合体ワックス(C)と同様の製法で得られる。
【0080】
エチレン系重合体ワックス(b)の重量平均分子量(Mw)は、400~15000の範囲が好ましく、1000~15000の範囲がより好ましく、6000~15000の範囲が更に好ましく、6000~10000の範囲であることが特に好ましい。6500~10000の範囲であることが最も好ましい。エチレン系重合体ワックス(b)の重量平均分子量(Mw)が、この範囲内であると、メルトブローン不織布の繊維が十分に細くしやすくなる点で好ましい。
【0081】
エチレン系重合体ワックス(b)の密度は、0.890g/cm~0.985g/cmが好ましく、0.910g/cm以上がより好ましく、0.930g/cm以上がさらに好ましく、0.950g/cm以上がさらに好ましく、0.960g/cm以上が特に好ましい。また、0.980g/cm以下が好ましい。密度が、このような範囲にあるエチレン系重合体ワックス(b)を用いると、前記エチレン系重合体(a)との混練性に優れ、且つ、紡糸性、経時での安定性に優れる点で好ましい。そのうえ、得られたメルトブローン不織布をスパンボンド不織布と積層する際のエンボス熱圧着時に繊維が融解し難い点で好ましい。
【0082】
<エチレン系重合体組成物>
エチレン系重合体組成物は、前述のように、エチレン系重合体(a)とエチレン系重合体ワックス(b)とをエチレン系重合体(a)/エチレン系重合体ワックス(b)の質量比で90/10~10/90の割合で含むエチレン系重合体組成物であることが好ましい。また、(a)/(b)の質量比は、90/10~50/50の割合がより好ましく、90/10~60/40の割合がさらに好ましく、90/10~70/30の割合が最も好ましい。
(a)/(b)の質量比がこの範囲内であることで、メルトブローン不織布の繊維が十分に細くなり、紡糸性に優れたものとなる上に、得られたメルトブローン不織布をスパンボンド不織布と積層する際のエンボス熱圧着時に繊維にダメージが発生し難い点で好ましい。
【0083】
また、メルトブローン不織布を形成する繊維の別の態様としては、プロピレン系重合体(c)を含む繊維であることも好ましい。メルトブローン不織布を形成する繊維が、プロピレン系重合体(c)を含む場合には、スパンボンド不織布とメルトブローン不織布との何れの不織布にもプロピレン系重合体を含むので、例えば、メルトブローン不織布とスパンボンド不織布とを熱エンボス処理などにより接合した際に、より容易に接合できる。そのため、得られる不織布積層体は、より層間の接着強度が優れ、さらには不織布積層体の強度も優れるものとなる点でも好ましい。不織布積層体の強度や耐熱性が重視される場合は、メルトブローン不織布は、プロピレン系重合体(c)を含む繊維とすることがより好ましい。
【0084】
<プロピレン系重合体(c)>
メルトブローン不織布を形成する繊維の成分の一つであるプロピレン系重合体(c)は、前記プロピレン系重合体(A)と同様の樹脂であり、プロピレンの単独重合体、若しくはプロピレンと少量のα-オレフィンとの共重合体などのプロピレンを主体とする重合体である。プロピレンと共重合されるα-オレフィンとしては、ペンテン等の炭素数2以上(但し炭素数3を除く)、好ましくは炭素数2~8(但し炭素数3を除く)のα-オレフィンが挙げられる。具体的には、例えば、エチレン、1-ブテン、1-ペンテン、1-ヘキセン、1-オクテン、4-メチル-1-が挙げられ、これらのα-オレフィンは、1種または2種以上使用してもよい。
【0085】
プロピレン系重合体(c)の融点(Tm)は、特に限定はされないが、125℃以上の範囲にあることがよく、140℃以上の範囲にあることが好ましく、155℃以上の範囲にあることがさらに好ましく、157℃~165℃の範囲にあることが特に好ましい。
【0086】
プロピレン系重合体(c)のメルトフローレート(MFR230:ASTM D-1238、230℃、荷重2160g)は、プロピレン系重合体(c)を溶融紡糸し得る限り、特に限定はされないが、好ましくは10g/10分~4000g/10分、より好ましくは50g/10分~3000g/10分、さらに好ましくは100g/10分~2000g/10分の範囲である。
【0087】
また、本発明に係るプロピレン系重合体(c)の重量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)の比(Mw/Mn)は、1.5~5.0であることが好ましい。紡糸性が良好であり、かつ繊維強度が特に優れる繊維が得られる点で、1.5~4.5の範囲がより好ましい。本発明に係るプロピレン系重合体(c)のMwおよびMnは、GPC測定から求めた値であり、以下の条件で測定した値である。なお、MwおよびMnは、市販の単分散標準ポリスチレンを用いて検量線を作成し、下記の換算法に基づいて求める。
装置:東ソー社製HLC8321 GPC/HT
溶剤:o-ジクロロベンゼン
カラム:TSKgel GMH6-HT×2、TSKgel GMH6-HTLカラム×2(何れも東ソー社製)
流速:1.0ml/分
試料:0.10mg/mLo-ジクロロベンゼン溶液
温度:140℃
分子量換算:PP換算/汎用較正法
なお、汎用較正の計算には、以下に示すMark-Houwink粘度式の係数を用いた。
ポリスチレン(PS)の係数:KPS=1.38×10-4,aPS=0.70
ポリプロピレン(PP)の係数:KPP=2.42×10-4,aPP=0.707
【0088】
また、本発明に係るプロピレン系重合体(c)の密度は、0.895g/cm~0.915g/cmの範囲が好ましく、0.900g/cm~0.915g/cmがより好ましく、0.905g/cm~0.910g/cmがさらに好ましい。
なお、本発明において、密度は、JIS K7112の密度勾配法に従って測定して得られた値である。
【0089】
メルトブローン不織布を構成する繊維に含まれる樹脂において、電子線照射後の強度やバリア性を確保する観点では、吸収線量45kGyの電子線が照射された後の重量平均分子量(Mw)は、28000以上が好ましく、33000以上が特に好ましい。重量平均分子量(Mw)は、GPC(ゲルパーミエーションクロマトグラフィー)によって、公知の方法で測定することができる。
電子線照射後の重量平均分子量(Mw)を上記範囲内とするためには、例えば、次の方法が挙げられる。(1)より高分子量のプロピレン系重合体を使用した繊維として、電子線照射前の分子量をあらかじめ高くしておくことで、電子線照射後の重量平均分子量を上記範囲内とする方法、(2)安定剤を含むプロピレン系重合体組成物を使用した繊維として、電子線照射による分子量の低下を抑えて、電子線照射後の重量平均分子量を上記範囲内とする方法、(3)(1)の方法と(2)の方法の併用、などが挙げられる。
【0090】
電子線照射後の分子量低下を抑える目的で、より高い分子量のプロピレン系重合体を使用した場合、紡糸性の悪化、及び得られるメルトブロー不織布の繊維径が太くなることによるバリア性の低下が生じることがある。一方、紡糸性を改善するため、又は細い繊維を得るために、紡糸温度を上げた場合には、高温でのデグラデーションにより分子量の低下が起こりやすく、より高い分子量のプロピレン系重合体を使用した効果が失われてしまう。
さらには、高温で紡糸した際には、添加剤として混合した安定剤が、熱により劣化してしまい、電子線を照射した際の分子量の低下を抑制する効果が失われやすく、強度やバリア性の低下が起きてしまう。
【0091】
そのため、電子線照射後の分子量低下を抑えつつ、かつ繊維径が細くバリア性が高いメルトブロー不織布を得るには、下記安定剤を含み、より低温で安定して細い繊維を紡糸できる分子量のプロピレン系重合体(c)を使用することが好ましい。プロピレン系重合体(c)の重量平均分子量(Mw)の範囲としては、30,000~100,000が好ましく、40,000~80,000がより好ましく、40,000~60,000がさらに好ましい。プロピレン系重合体(c)の重量平均分子量は、上記の好ましい範囲よりも高い重量平均分子量のプロピレン系重合体を押出機内等での溶融時に高温でデグラデーションさせて、上記の好ましい範囲に調整することも可能である。重量平均分子量(Mw)は、GPC(ゲルパーミエーションクロマトグラフィー)によって、公知の方法で測定することができる。
【0092】
このように、メルトブローン不織布を形成する繊維が、プロピレン系重合体(c)を含む場合、電子線照射後の分子量低下に伴う強度低下、及びバリア性の低下を抑制する目的で、添加剤として、安定剤を含むプロピレン系重合体組成物の繊維からなることがよい。
安定剤は、有機リン系化合物、ヒンダードアミン系化合物、及びフェノール系化合物からなる群から選ばれる少なくとも一種の安定剤を含むことが好ましく、中でも有機リン系化合物を含むことが好ましい。安定剤は、二種以上含むことがより好ましく、中でも有機リン系化合物及びヒンダードアミン系化合物を含むこと、又は、有機リン系化合物及びフェノール系化合物を含むことがさらに好ましい。安定剤は、有機リン系化合物、ヒンダードアミン系化合物、及びフェノール系化合物を含むことが特に好ましい。
【0093】
(A)有機リン系化合物
本発明では、酸化防止安定剤(安定剤)として公知の化合物のうちでも特に有機リン系化合物が用いられる。具体的には、たとえば、トリオクチルホスファイト、トリラウリルホスファイト、トリデシルホスファイト、オクチル-ジフエニルホスファイト、トリス(2,4-ジ-tert-ブチルフェニル)ホスファイト、トリフェニルホスファイト、トリス(ブトキシエチル)ホスファイト、トリス(ノニルフェニル)ホスファイト、ジステアリルペンタエリスリトールジホスファイト、テトラ(トリデシル)-1,1,3-トリス(2-メチル-5-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)ブタンジホスファイト、テトラ(C12~C15混合アルキル)-4,4’-イソプロピリデンジフェニルジホスファイト、テトラ(トリデシル)-4,4’-ブチリデンビス(3-メチル-6-tert-ブチルフェノール)ジホスファイト、トリス(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)ホスファイト、トリス(モノ・ジ混合ノニルフェニル)ホスファイト、水素化-4,4’-イソプロピリデンジフェノールポリホスファイト、ビス(オクチルフェニル)・ビス[4,4’-ブチリデンビス(3-メチル-6-tert-ブチルフェノール)]・1,6-ヘキサンジオールジホスファイト、フェニル・4,4’-イソプロピリデンジフェノール・ペンタエリスリトールジホスファイト、ビス(2,4-ジ-tert-ブチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト、ビス(2,6-ジ-tert-ブチル-4-メチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト、トリス[4,4’-イソプロピリデンビス(2-tert-ブチルフェノール)]ホスファイト、フェニル・ジイソデシルホスファイト、ジ(ノニルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト)、トリス(1,3-ジ-ステアロイルオキシイソプロピル)ホスファイト、4,4’-イソプロピリデンビス(2-tert-ブチルフェノール)・ジ(ノニルフェニル)ホスファイト、9,10-ジ-ヒドロ-9-オキサ-10-ホスファフェナンスレン-10-オキサイド、テトラキス(2,4-ジ-tert-ブチルフェニル)-4,4’-ビフェニレンジホスホナイトなどが挙げられる。
これらを1種単独、又は2種以上組み合わせて用いることもできる。これらのうちでも、トリス(2,4-ジ-tert-ブチルフェニル)ホスファイト、トリス(モノ・ジ混合ノニルフェニル)ホスファイトなどが好ましく用いられる。
上記有機リン系化合物の使用量は、ポリプロピレン系重合体100質量部に対して、0.001質量部~3質量部であることがよく、0.001質量部~1質量部であることが好ましい。
【0094】
(B)ヒンダードアミン系化合物
本発明では、光安定剤(安定剤)として公知の化合物のうちでも特にヒンダードアミン系化合物が用いられる。ヒンダードアミン系化合物は、特に限定されることなく用いられるが、ピペリジンの2位および6位の炭素に結合しているすべての水素がメチル基で置換された構造を有するヒンダードアミン系化合物を用いることができる。具体的には、たとえば、ビス(2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジン)セバケート、デカン二酸ビス(2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジニル)、2,4-ジクロロ-6-(1,1,3,3-テトラメチルブチルアミノ)-1,3,5-トリアジン・N,N’-ビス(2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジル)ヘキサメチレンジアミン重縮合物、コハク酸ジメチル-1-(2-ヒドロキシエチル)-4-ヒドロキシ-2,2,6,6-テトラメチルピペリジン重縮合物、ポリ[[6-(1,1,3,3-テトラメチルブチル)イミノ-1,3,5-トリアジン-2-4-ジイル][(2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジル)イミノ]ヘキサメチレン[(2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジル)イミノ]]、テトラキス(2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジル)-1,2,3,4-ブタンテトラカルボキシレート、2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジルベンゾエート、ビス-(1,2,2,6,6-ペンタメチル-4-ピペリジル)-2-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシベンジル)-2-n-ブチルマロネート、ビス-(N-メチル-2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジル)セバケート、1,1’-(1,2-エタンジイル)ビス(3,3,5,5-テトラメチルピペラジノン)、(ミックスト2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジル/トリデシル)-1,2,3,4-ブタンテトラカルボキシレート、(ミックスト1,2,2,6,6-ペンタメチル-4-ピペリジル/トリデシル)-1,2,3,4-ブタンテトラカルボキシレート、ミックスト{2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジル/β,β,β’,β’-テトラメチル-3,9-[2,4,8,10-テトラオキサスピロ(5,5)ウンデカン]ジエチル}-1,2,3,4-ブタンテトラカルボキシレート、ミックスト{1,2,2,6,6-ペンタメチル-4-ピペリジル/β,β,β’,β’-テトラメチル-3,9-[2,4,8,10-テトラオキサスピロ(5,5)ウンデカン]ジエチル}-1,2,3,4-ブタンテトラカルボキシレート、N,N’-ビス(3-アミノプロピル)エチレンジアミン-2-4-ビス[N-ブチル-N-(1,2,2,6,6-ペンタメチル-4-ピペリジル)アミノ]-6-クロロ-1,3,5-トリアジン縮合物、ポリ[[6-N-モルホリル-1,3,5-トリアジン-2-4-ジイル][(2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジル)イミノ]ヘキサメチレン[(2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジル)イミノ]]、N,N’-ビス(2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジル)ヘキサメチレンジアミンと1,2-ジブロモエタンとの縮合物、[N-(2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジル)-2-メチル-2-(2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジル)イミノ]プロピオンアミドなどが挙げられる。
これらを1種単独、又は2種以上組み合わせて用いることもできる。これらのうちでも、特にデカン二酸ビス(2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジニル)、2,4-ジクロロ-6-(1,1,3,3-テトラメチルブチルアミノ)-1,3,5-トリアジン・N,N’-ビス(2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジル)ヘキサメチレンジアミン重縮合物などが好ましく用いられる。
上記ヒンダードアミン系化合物の使用量は、ポリプロピレン系重合体100質量部に対して、0.001質量部~3質量部であることがよく、0.001質量部~1質量部であることが好ましい。
【0095】
(C)フェノール系化合物
本発明では、酸化防止安定剤(安定剤)として公知の化合物のうちでも特にフェノール系化合物が用いられる。フェノール系酸化防止剤としては、具体的には、たとえば、1,1,3-トリス(2-メチル-4-ヒドロキシ-5-t-ブチルフェニル)-ブタン、4,4’-ブチリデン-ビス(3-メチル-6-t-ブチルフェノール)などのレスヒンダードタイプ、3,9-ビス[1,1-ジメチル-2-{β-(3-t-ブチル-4-ヒドロキシ-5-メチルフェニル)プロピオニルオキシ}エチル]-2,4,8,10-テトラオキサスピロ[5,5]ウンデカンなどのセミヒンダードタイプ、トリス(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシベンジル)イソシアヌレート、n-オクタデシル-3-(3’,5’-ジ-t-ブチル-4’-ヒドロキシフェニル)プロピオネート、テトラキス[メチレン-3-(3’,5’-ジ-t-ブチル-4’-ヒドロキシ-フェニル)プロピオネート]-メタンなどのヒンダードタイプが挙げられる。
これらを1種単独、又は2種以上組み合わせて用いることもできる。これらのうちでも、1,1,3-トリス(2-メチル-4-ヒドロキシ-5-t-ブチルフェニル)-ブタンなどのレスヒンダードタイプが電子線照射による劣化を抑制する効果に優れ、好ましく用いられる。
上記フェノール系化合物の使用量は、ポリプロピレン系重合体100質量部に対して、0.001質量部~3質量部であることがよく、0.001質量部~0.5質量部であることが好ましい。
なお、電子線照射による着色が懸念される場合は、有機もしくは無機の着色顔料との併用もできる。その場合、着色顔料成分に吸着されるなどの弊害を防ぐため、添加量を上記安定剤の添加量を超えない範囲とすることが好ましい。
【0096】
上記の安定剤は、(A)有機リン系化合物としては、トリス(2,4-ジ-tert-ブチルフェニル)ホスファイト、(B)ヒンダードアミン系化合物としては、デカン二酸ビス(2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジニル)、2,4-ジクロロ-6-(1,1,3,3-テトラメチルブチルアミノ)-1,3,5-トリアジン・N,N’-ビス(2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジル)ヘキサメチレンジアミン重縮合物、及び(C)フェノール系化合物としては、1,1,3-トリス(2-メチル-4-ヒドロキシ-5-t-ブチルフェニル)-ブタンを用いることが好ましい。これらを組み合わせて用いることがより好ましい。トリス(2,4-ジ-tert-ブチルフェニル)ホスファイトの有機リン系化合物、デカン二酸ビス(2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジニル)、及び2,4-ジクロロ-6-(1,1,3,3-テトラメチルブチルアミノ)-1,3,5-トリアジン・N,N’-ビス(2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジル)ヘキサメチレンジアミン重縮合物の少なくとも一種のヒンダードアミン系化合物、及び1,1,3-トリス(2-メチル-4-ヒドロキシ-5-t-ブチルフェニル)-ブタンのフェノール系化合物を含むことがさらに好ましい。
これらの安定剤の使用量は合計で、ポリプロピレン系重合体100質量部に対して、0.01質量部~10質量部であることがよく、0.03質量部~2質量部であることが好ましい。上記安定剤は、高温でのデグラデーションにより劣化してしまう恐れがあるので、劣化分を補う場合は、さらに使用量を増やしてもよい。
【0097】
添加剤としては上記のほかにも、例えば、イオウ系、亜リン酸エステル系の酸化防止剤;ベンゾエート系、ベンゾフェノン系、トリアゾール系、ニッケル系等の光安定剤;その他金属不活性化剤、帯電防止剤、滑剤、離型剤、有機もしくは無機の顔料、充填剤、過酸化物、発泡剤、難燃剤、増核剤、プロピレン・エチレン系共重合体ゴム、エチレン・ブテン系共重合体ゴム等のゴム成分などが本発明の目的を損わない範囲で配合される。
【0098】
前記メルトブローン不織布は、前記エチレン系重合体組成物または前記安定剤を含むプロピレン系重合体組成物を用いて、公知のメルトブローン不織布の製造方法を用いて製造し得る。具体的には、例えば、エチレン系重合体組成物、または安定剤を含むプロピレン系重合体組成物を押出機等で溶融混練し、紡糸ノズルを有する紡糸口金から前記の溶融混練物を吐出するとともに、紡糸口金の周囲から噴射される高速・高温の空気流で吹き飛ばして、捕集ベルト上に自己接着性のマイクロファイバーとして所定の厚さに堆積させウェブを製造するメルトブローン法によって行うことができる。このとき、必要に応じて、引き続いて交絡処理することができる。
【0099】
堆積したウェブを交絡処理する方法としては、例えば、エンボスロールを用いて熱エンボス加工処理する方法;超音波により融着する方法;ウォータージェットを用いて繊維を交絡させる方法;ホットエアースルーにより融着する方法;ニードルパンチを用いる方法などの各種の方法を、適宜、使用することができる。
【0100】
メルトブローン不織布とスパンボンド不織布との不織布積層体の製造方法は、メルトブローン不織布とスパンボンド不織布とを一体化して積層体を形成できる方法であれば特に限定されない。
【0101】
具体的には、例えば、以下の方法を採用することができるが、これら方法に限定されるものではない。
(A)予め得られたスパンボンド不織布上に、メルトブローン法によって得られるエチレン系重合体組成物または安定剤を含むプロピレン系重合体組成物から得られる繊維を直接堆積させてメルトブローン不織布を形成した後、スパンボンド不織布とメルトブローン不織布とを熱エンボスなどによって融着させて2層の積層体を製造する方法。
(B)メルトブローン法によって得られるエチレン系重合体組成物または安定剤を含むプロピレン系重合体組成物から得られる繊維を予め得られたスパンボンド不織布の上に直接堆積させてメルトブローン不織布を形成し、さらにスパンボンド法により形成される繊維を前記メルトブローン不織布の上に直接堆積させてスパンボンド不織布を形成した後、スパンボンド不織布とメルトブローン不織布とスパンボンド不織布とを融着させて三層の積層体を製造する方法。
(C)予め得られたスパンボンド不織布と別途製造したメルトブローン不織布とを重ね合わせ、加熱加圧により両不織布を融着させて積層体を製造する方法。
(D)予め得られたスパンボンド不織布と別途製造したメルトブローン不織布とを、ホットメルト接着剤、溶剤系接着剤等の接着剤によって接着して積層体を製造する方法。
【0102】
スパンボンド不織布とメルトブローン不織布とを熱融着により積層する方法は、両不織布の接触面の全面を熱融着する方法、又は接触面の一部を熱融着する方法とがあるが、熱エンボス加工法により各不織布層の接触面の一部を融着することが好ましい。この場合の融着面積(エンボス面積率:これはエンボスロールの刻印面積に相当する)は、接触面積の5%~30%が好ましく、さらには10%~20%が好ましい。融着面積がこの範囲にあるとバリア性や、接着強度と柔軟性とのバランスが優れた不織布積層体となる。
なお、熱エンボス加工を行う場合は、エンボス温度は、エンボス加工時のライン速度や圧着圧力によるが、一般的に85℃~150℃の範囲にある。
【0103】
スパンボンド不織布とメルトブローン不織布とを熱融着により積層する以外の方法としては、接着剤によってスパンボンド不織布とメルトブローン不織布とを積層する方法がある。この方法において用いられるホットメルト接着剤としては、たとえば酢酸ビニル系、ポリビニルアルコール系等の樹脂系接着剤;スチレン-ブタジエン系、スチレン-イソプレン系等のゴム系接着剤などが挙げられる。また、溶剤系接着剤としては、たとえばスチレン-ブタジエン系、スチレン-イソプレン系、ウレタン系等のゴム系接着剤;酢酸ビニル、塩化ビニル等の樹脂系の有機溶剤または水性エマルジョン接着剤などが挙げられる。これらの接着剤の中でも、スチレン-イソプレン系、スチレン-ブタジエン系等のゴム系のホットメルト接着剤が、スパンボンド不織布の特性である風合いを損わない点で好ましい。
【0104】
メルトブローン不織布とスパンボンド不織布との不織布積層体において、メルトブローン不織布層とスパンボンド不織布層との層間の剥離強度は、0.1N以上であることが好ましく、0.5N以上であることがより好ましく、剥離しないことが最も好ましい。
【0105】
本発明の第2の態様の不織布積層体は、後述するメルトブローン不織布を含む。本発明の第2の態様の不織布積層体は、医療用衣料及びドレープに好適に適用できる。
本発明の第2の態様の不織布積層体において、好ましい一態様は、上述した本発明の第1の態様の不織布積層体の好ましい一態様と同義である。
【0106】
<メルトブローン不織布>
本発明のメルトブローン不織布は、プロピレン系重合体(c)と、有機リン系化合物、ヒンダードアミン系化合物、及びフェノール系化合物からなる群から選ばれる少なくとも一種の安定剤と、を含むプロピレン系重合体組成物の繊維からなる。安定剤は、有機リン系化合物を含むことが好ましい。安定剤は、二種以上含むことがより好ましく、中でも有機リン系化合物及びヒンダードアミン系化合物を含むこと、又は、有機リン系化合物及びフェノール系化合物を含むことがさらに好ましい。安定剤は、有機リン系化合物、ヒンダードアミン系化合物、及びフェノール系化合物を含むことが特に好ましい。
【0107】
本発明のメルトブローン不織布によれば、例えば、不織布積層体の一部材として用いた場合に、不織布積層体の層間の接着強度が優れたものとなる。さらには不織布積層体の強度も優れるものとなる。また、不織布積層体の耐熱性にも優れたものとなる。
【0108】
本発明のメルトブローン不織布を形成する繊維に含まれるプロピレン系重合体(c)は、前述の不織布積層体のメルトブローン不織布に用いるプロピレン系重合体(c)と同義である。好ましい範囲も同様である。
【0109】
本発明のメルトブローン不織布を形成する繊維に含まれる安定剤は、前述の不織布積層体のメルトブローン不織布に用いる安定剤と同義である。好ましい範囲も同様である。
【実施例
【0110】
以下、実施例に基づいて本発明を更に具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0111】
以下、本発明の実施例および比較例を挙げ、本発明をより具体的に説明する。また、以下の実施例および比較例において、メルトブローン不織布、スパンボンド不織布、又は不織布積層体の各物性の測定は、下記の方法で行った。
【0112】
(1)目付(g/m
不織布から、機械方向(MD)100mm×横方向(CD)100mmで10点採取し、平均値を算出した。
【0113】
(2)繊維径
スパンボンド不織布について、得られた不織布から、10mm×10mmの試験片を10点採取し、Nikon社製ECLIPSE E400顕微鏡を用い、倍率20倍で、繊維の直径をμm単位で小数点第1位まで読み取った。1試験片毎に任意の20箇所の径を測定し、平均値を求めた。
【0114】
(3)引張強度(N/50mm)および強度INDEX
電子線を照射する前の不織布、又は不織布積層体、及び吸収線量45kGyの電子線が照射された不織布、又は不織布積層体について、JIS L 1906に準拠して測定した。不織布から、幅50mm×長さ200mmの試験片を採取し、引張試験機(島津製作所オートグラフAGS-J)を用いてチャック間距離100mm、ヘッドスピード300mm/minでMD:5点、CD:5点を測定し、平均値を算出し、引張強度(N/50mm)を求めた。また、強度INDEXについて、下記式により算出した。
〔式〕 強度INDEX=((((MD強度)+(CD強度)))/2)0.5
【0115】
(4)通気度(cm/cm/sec)
不織布から、150mm(MD)×150mm(CD)の試験片を採取し、JIS L 1096に準じたフラジール通気度測定機によって行った。n=5の平均値を測定値とした。
【0116】
(5)耐水性(バリア性)
電子線を照射する前の不織布積層体、及び吸収線量45kGyの電子線が照射された不織布積層体について、JIS L 1096に規定されているA法(低水圧法)に準拠して、不織布積層体の耐水圧を測定し、耐水性(バリア性)の指標とした。
【0117】
(6)紡糸性の評価
実施例に示すスパンボンド不織布の紡糸時に糸切れ回数を測定し、以下の分類により評価した。
A:糸切れなし
B:糸切れ回数1~3回
C:糸切れ回数4~6回
D:糸切れ回数7~9回
E:糸切れが10回以上(間欠的に発生)
F:糸切れが定常的に発生
【0118】
(7)SB層-MB層との接着性の評価
実施例に示す方法でスパンボンド不織布層(SB層)とメルトブローン不織布層(MB層)とを積層した後、幅25mm×長さ250mmの試験片を採取し、SB-MB面の層を剥がし、剥がした端面を上下それぞれチャックにつかみ(つかみ間隔50mm)、引張速度200mm/minで強さを測定した。最大荷重を5点読み、その平均値をひとつの測定値とした。n=3の平均値を測定値とし、以下の基準で評価した。
AA:剥離強度1.0N以上または剥離せずにサンプルが破壊する
A:剥離強度0.5N~1.0N未満
B:剥離強度0.1N~0.5N未満
C:剥離強度0.1N未満
D:自然に剥離し測定不可
【0119】
(実施例1)
<スパンボンド不織布(SB)の製造>
MFR:60g/10分、密度:0.910g/cmのプロピレン単独重合体(PP)100質量部、高密度ポリエチレン(PE、(株)プライムポリマー製 製品名「ハイゼックスHZ2200J」、MFR=5.2g/10分、密度0.964g/cm)4質量部を用い、230℃にて溶融紡糸を行い、得られた繊維を補集面上に堆積させた後、熱エンボスにより、繊維径が18μm、目付が20g/mのスパンボンド不織布(SB)を得た。
【0120】
<メルトブローン不織布(MB)の製造>
エチレン・1-ヘキセン共重合体〔(株)プライムポリマー社製、製品名:エボリューH SP50800P、密度:0.951g/cm、MFR:135g/10分〕80質量部と、エチレン系重合体ワックス〔三井化学(株)製、製品名「エクセレックス40800」、密度:0.980g/cm、重量平均分子量:6900、軟化点135℃〕20質量部の混合物を用いて、0.4mmφ、760孔のノズルを有する紡糸口金から、単孔当たり0.15g/分で溶融樹脂を吐出させメルトブローン法による溶融紡糸を行ってマイクロファイバーを成形し、捕集面上に堆積させ、目付20g/mのメルトブローン不織布(MB)を製造した。
【0121】
<SMS不織布積層体の製造>
上記で得られたメルトブローン不織布(MB)の両面に、前記スパンボンド不織布(SB)を積層し、熱エンボス(刻印面積率18%)により110℃、線圧1Mpaで熱融着を行って、三層構造からなるSMS不織布積層体を得た。得られたSMS不織布積層体の物性を前記記載の方法で測定した。結果を表1に示す。
【0122】
(実施例2)
プロピレン系重合体組成物として、実施例1で用いたプロピレン単独重合体(PP)100質量部、高密度ポリエチレン(PE)4質量部に加え、エチレン系重合体ワックス〔三井化学(株)製、製品名「ハイワックス110P」、密度:0.922g/cm、重量平均分子量:1200、軟化点:113℃〕2質量部を用いた以外は、実施例1と同様にして各不織布を得た。得られた不織布の物性を前記記載の方法で測定した。結果を表1に示す。
【0123】
(実施例3)
エチレン系重合体ワックスとして、〔三井化学(株)製、製品名「エクセレックス48070B」、密度:0.900g/cm、重量平均分子量:9000、軟化点:98℃〕を用いた以外は、実施例2と同様にして各不織布を得た。得られた不織布の物性を前記記載の方法で測定した。結果を表1に示す。
【0124】
(実施例4)
高密度ポリエチレン(PE)を8質量部とした以外は、実施例1と同様にして各不織布を得た。得られた不織布の物性を前記記載の方法で測定した。結果を表1に示す。
【0125】
(実施例5)
高密度ポリエチレン(PE)を8質量部とした以外は、実施例2と同様にして各不織布を得た。得られた不織布の物性を前記記載の方法で測定した。結果を表1に示す。
【0126】
(実施例6)
エチレン系重合体ワックスとして三井化学(株)製、製品名「エクセレックス40800」を用いた以外は、実施例5と同様にして各不織布を得た。得られた不織布の物性を前記記載の方法で測定した。結果を表1に示す。
【0127】
(実施例7)
<スパンボンド不織布(SB)の製造>
MFR:60g/10分、密度:0.910g/cmのプロピレン単独重合体(PP)100質量部、高密度ポリエチレン(PE、(株)プライムポリマー製 製品名「ハイゼックスHZ2200J」、MFR=5.2g/10分、密度0.964g/cm)4質量部に加え、エチレン系重合体ワックス〔三井化学(株)製、製品名「ハイワックス110P」、密度:0.922g/cm、重量平均分子量:1200〕1質量部を用い、230℃にて溶融紡糸を行い、得られた繊維を補集面上に堆積させた後、熱エンボスにより、繊維径が18μm、目付が20g/mのスパンボンド不織布(SB)を得た。
【0128】
<メルトブローン不織布(MB)の製造>
プロピレン単独重合体〔MFR:1500g/10分、重量平均分子量(Mw):54000〕100質量部に対して、(A)有機リン系化合物として、トリス(2,4-ジ-tert-ブチルフェニル)ホスファイト〔(株)アデカ製、製品名「アデカスタブ2112」〕0.4質量部、(B)ヒンダードアミン系化合物として、2,4-ジクロロ-6-(1,1,3,3-テトラメチルブチルアミノ)-1,3,5-トリアジン・N,N’-ビス(2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジル)ヘキサメチレンジアミン重縮合物〔(株)アデカ製、製品名「アデカスタブLA-94G」〕0.3質量部、デカン二酸ビス(2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジニル)〔(株)アデカ製、製品名「アデカスタブLA-77Y」〕0.1質量部、(C)フェノール系化合物として、1,1,3-トリス(2-メチル-4-ヒドロキシ-5-t-ブチルフェニル)-ブタン〔(株)アデカ製、製品名「アデカスタブAO-30」〕0.2質量部、トリアゾール系化合物として、2-[5-クロロ(2H)-ベンゾトリアゾール-2-イル]-4-メチル-6-(tert-ブチル)フェノール〔(株)アデカ製、製品名「アデカスタブLA-36」〕0.3質量部を添加して熱可塑性樹脂組成物を得た。0.4mmφ、760孔のノズルを有する紡糸口金から、単孔当たり0.15g/分で溶融樹脂を吐出させメルトブローン法による溶融紡糸を行って、マイクロファイバーを成形し、捕集面上に堆積させ、目付20g/mのメルトブローン不織布(MB)を製造した。吸収線量45kGyの電子線が照射された後のメルトブローン不織布(MB)の重量平均分子量(Mw)は、37400であった。
【0129】
<SMS不織布積層体の製造>
上記で得られたメルトブローン不織布(MB)の両面に、前記スパンボンド不織布(SB)を積層し、熱エンボス(刻印面積率18%)により120℃、線圧1MPaで熱融着を行って、三層構造からなるSMS不織布積層体を得た。得られたSMS不織布積層体の物性を前記記載の方法で測定した。結果を表1に示す。
【0130】
(実施例8)
メルトブローン不織布(MB)を、プロピレン単独重合体〔MFR:1500g/10分、重量平均分子量(Mw):54000〕100質量部のみに変更して製造した以外は、実施例7と同様にして各不織布を得た。得られた不織布の物性を前記記載の方法で測定した。結果を表1に示す。吸収線量45kGyの電子線が照射された後のメルトブローン不織布(MB)の重量平均分子量(Mw)は、25900であった。
【0131】
(比較例1)
プロピレン単独重合体(PP)100質量部のみを用いた以外は、実施例1と同様にして各不織布を得た。得られた不織布の物性を前記記載の方法で測定した。結果を表1に示す。
【0132】
(比較例2)
高密度ポリエチレン(PE)を15質量部、エチレン系重合体ワックス1質量部とした以外は、実施例3と同様にして各不織布を得た。得られた不織布の物性を前記記載の方法で測定した。結果を表1に示す。
【0133】
(比較例3)
高密度ポリエチレンとして(株)プライムポリマー製、製品名「ウルトゼックス20200J」、〔MFR=18.5g/10分、密度0.918g/cm〕4質量部、エチレン系重合体ワックス2質量部とした以外は、実施例3と同様にして各不織布を得た。得られた不織布の物性を前記記載の方法で測定した。結果を表1に示す。
【0134】
(比較例4)
繊維径を21μmとなるようにスパンボンド不織布を製造した以外は、実施例1と同様にして各不織布を得た。得られた不織布の物性を前記記載の方法で測定した。結果を表1に示す。
【0135】
なお、表1中の記載において、「SB」はスパンボンド不織布を、「MB」はメルトブローン不織布を、「SMS」はスパンボンド不織布/メルトブローン不織布/スパンボンド不織布の不織布積層体を、「PP」はプロピレン系重合体を、「PE」はエチレン系重合体を、「wax」はエチレン系重合体ワックスを、「-」は、該当する成分が含有されていないことを、それぞれ表す。
また、表1中の実施例7,8において、「MB層」欄の「PE」欄の数値は、プロピレン系重合体の数値を表す。
【0136】
【表1】

【0137】
表1中、実施例1~6、及び比較例1~4の結果から明らかなように、エチレン重合体自体を含有しないプロピレン系樹脂組成物を用いた場合(比較例1)には、各実施例に比べ、スパンボンド不織布の電子線照射前後の強度INDEXは劣り、さらに、MB層との接着性も劣ることがわかる。
また、エチレン系重合体自体を含有していても、エチレン系重合体(B)の含有量が多い場合(比較例2)、及び密度が低いエチレン系重合体を用いた場合(比較例3)には、各実施例に比べ、プロピレン系樹脂組成物の紡糸性が劣ることがわかる。そのうえ、スパンボンド不織布の電子線照射前後の強度INDEXも劣ることがわかる。
さらに、各実施例と同じプロピレン系樹脂組成物を用いたとしても、得られたスパンボンド不織布の通気度が500cm/cm/sを超える場合(比較例4)には、各実施例に比べ、SMSに積層した積層不織布の耐水圧が500mmHO以下と劣ることがわかる。
したがって、本実施例では、比較例に比べ、電子線が照射された後でも十分に強度が高く、エチレン系重合体を含有することによる紡糸性の悪化が抑制されていることがわかる。また、メルトブローン不織布と積層した不織布積層体とした場合、層間の接着強度が優れることがわかる。さらに、バリア性が高いことがわかる。
なお、例えば、実施例1と実施例2,5とを比較すると、エチレン系重合体ワックスを含有させることにより、紡糸性が向上することがわかる。さらに、メルトブローン不織布と積層した不織布積層体とした場合の層間の接着強度に優れることがわかる。
また、実施例1~6と実施例7,8とを比較すると、メルトブローン不織布を形成する繊維が、プロピレン系重合体を含む繊維からなる場合、層間の接着強度が優れることがわかる。また、不織布積層体の強度も良好であることがわかる。
さらに、実施例7と8とを比較すると、メルトブローン不織布の原料に安定剤を含む実施例7は、電子線照射後でも耐水圧が500mmHO以上を保っており、低下が抑制されている。
【0138】
2014年10月30日に出願された日本国特許出願2014-222017の開示はその全体が参照により本明細書に取り込まれる。
本明細書に記載された全ての文献、特許出願、及び技術規格は、個々の文献、特許出願、及び技術規格が参照により取り込まれることが具体的かつ個々に記された場合と同程度に、本明細書中に参照により取り込まれる。