(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-01-06
(45)【発行日】2022-02-04
(54)【発明の名称】ストレッチ多重織物及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
D03D 11/00 20060101AFI20220128BHJP
D03D 15/217 20210101ALI20220128BHJP
D06M 11/61 20060101ALI20220128BHJP
D06M 101/06 20060101ALN20220128BHJP
【FI】
D03D11/00 Z
D03D15/217
D06M11/61
D06M101:06
(21)【出願番号】P 2020137369
(22)【出願日】2020-08-17
【審査請求日】2021-06-29
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】592186777
【氏名又は名称】株式会社カイタックホールディングス
(74)【代理人】
【識別番号】100121784
【氏名又は名称】山田 稔
(72)【発明者】
【氏名】片山 正樹
(72)【発明者】
【氏名】浅野 真
【審査官】斎藤 克也
(56)【参考文献】
【文献】特開2000-248461(JP,A)
【文献】登録実用新案第3172230(JP,U)
【文献】中国特許出願公開第109930278(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D03D 1/00 - 27/18
D06M 10/00 - 11/84
D06M 16/00
D06M 19/00 - 23/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
3枚以上の綿織物が経糸及び/又は緯糸により結節してなる多重織物であって、
前記多重織物は、外層を構成する2枚の外層織物と、内層を構成する1枚又は複数枚の内層織物とからなり、これらの外層織物と内層織物とは、いずれも平織のガーゼ調織物であって、
弾性繊維を含むことなく織物幅方向にストレッチ性を有し、〔(7.35N/50mm幅)×60分〕の負荷をかけたときの伸長率の値が10%以上であって、負荷解除後24時間経過したときの伸長回復率の値が60%以上であることを特徴とするストレッチ多重織物。
【請求項2】
前記2枚の外層織物の両方の外層織物において、経糸の見掛けの撚り係数は3.5以上、緯糸の見掛けの撚り係数は3.5未満であり、
前記1枚又は複数枚の内層織物において、経糸の見掛けの撚り係数は3.5以上、緯糸の見掛けの撚り係数は4.0以上であることを特徴とする請求項1に記載のストレッチ多重織物。
【請求項3】
前記2枚の外層織物のうち一方の外層織物において、経糸の見掛けの撚り係数は3.5以上、緯糸の見掛けの撚り係数は3.5未満であり、
前記2枚の外層織物のうち他方の外層織物において、経糸の見掛けの撚り係数は3.5以上、緯糸の見掛けの撚り係数は4.0以上であり、
前記1枚又は複数枚の内層織物において、経糸の見掛けの撚り係数は3.5以上、緯糸の見掛けの撚り係数は4.0以上であることを特徴とする請求項1に記載のストレッチ多重織物。
【請求項4】
3枚以上の綿織物が経糸及び/又は緯糸により結節し、外層を構成する2枚の外層織物と、内層を構成する1枚又は複数枚の内層織物とは、いずれも平織のガーゼ調織物である多重織物を製織し、製織後の前記多重織物に液体アンモニア処理を施すことにより、
前記液体アンモニア処理後の前記多重織物は、弾性繊維を含むことなく織物幅方向にストレッチ性を有し、〔(7.35N/50mm幅)×60分〕の負荷をかけたときの伸長率の値が10%以上であって、負荷解除後24時間経過したときの伸長回復率の値が60%以上であることを特徴とするストレッチ多重織物
の製造方法。
【請求項5】
前記液体アンモニア処理において、前記多重織物の織物幅を15%以上収縮させることを特徴とする請求項4に記載のストレッチ多重織物
の製造方法。
【請求項6】
前記2枚の外層織物の両方の外層織物において、前記液体アンモニア処理前の経糸の撚り係数は3.5以上、緯糸の撚り係数は3.0以下であり、且つ、当該液体アンモニア処理後の経糸の見掛けの撚り係数は3.5以上、緯糸の見掛けの撚り係数は3.1以上であり、
前記1枚又は複数枚の内層織物において、前記液体アンモニア処理前の経糸の撚り係数は3.5以上、緯糸の撚り係数は3.5以上であり、且つ、当該液体アンモニア処理後の経糸の見掛けの撚り係数は3.5以上、緯糸の見掛けの撚り係数は4.0以上であることを特徴とする請求項4又は5に記載のストレッチ多重織物
の製造方法。
【請求項7】
前記2枚の外層織物のうち一方の外層織物において、前記液体アンモニア処理前の経糸の撚り係数は3.5以上、緯糸の撚り係数は3.0以下であり、且つ、当該液体アンモニア処理後の経糸の見掛けの撚り係数は3.5以上、緯糸の見掛けの撚り係数は3.1以上であり、
前記2枚の外層織物のうち他方の外層織物において、前記液体アンモニア処理前の経糸の撚り係数は3.5以上、緯糸の撚り係数は3.5以上であり、且つ、当該液体アンモニア処理後の経糸の見掛けの撚り係数は3.5以上、緯糸の見掛けの撚り係数は4.0以上であり、
前記1枚又は複数枚の内層織物において、前記液体アンモニア処理前の経糸の撚り係数は3.5以上、緯糸の撚り係数は3.5以上であり、且つ、当該液体アンモニア処理後の経糸の見掛けの撚り係数は3.5以上、緯糸の見掛けの撚り係数は4.0以上であることを特徴とする請求項4又は5に記載のストレッチ多重織物
の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ストレッチ多重織物及びその製造方法に関するものである。特に、ガーゼ調の目の粗い平織物からなる多重織物であってもストレッチ性に優れていることを特徴とするストレッチ多重織物及びその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、目の粗い平織物であるガーゼ地を2枚、3枚と重ねた多重ガーゼ織物が普及している。多重ガーゼ織物は、吸湿性や柔軟性に富むガーゼ地を重ねて使用することから、吸湿性、通気性、軽量感、手触り、風合いがよく、使用者に快適感を与える。このことから、汗拭き用タオル、ハンカチ、ベビー用品などに使用され、更にパジャマなどの実用衣料にも使用されるようになってきた。
【0003】
また、多重ガーゼ織物においても、風合いや着用時の快適感を更に向上させるためにガーゼを構成する綿糸に甘撚り糸を使用した多重ガーゼ織物がパジャマなどの寝装品にも使用されるようになっている。
【0004】
例えば、下記特許文献1においては、肌触りが良く、通気性を有し、保温性に優れたガーゼ織物を提供するために、表面層ガーゼと裏面層ガーゼと中間層ガーゼとの三重からなるガーゼ織物が提案されている。このガーゼ織物においては、表面層ガーゼと裏面層ガーゼとに使用される撚糸の撚り係数を3.3以下の甘撚り糸とし、一方、中間層ガーゼに使用される撚糸を撚り係数を3.5以上の普通撚り糸とするものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
パジャマなどの実用衣料は、着心地を重視したゆとりある縫製がなされている。また、多重ガーゼ織物をパジャマなどに使用した場合には、風合いや着心地は更に向上する。一方、近年の実用衣料においては、コンフォートストレッチという適度なストレッチ性が求められることが多くなっている。特に、パジャマなどは、リラックスした状態で着用し就寝時にも着用することから、ゆとりある縫製に加えて適度なストレッチ性を付加することが求められる。
【0007】
しかし、多重ガーゼ織物は、綿糸からなる平織物であることから弾力性に乏しくストレッチ性を有しないという問題があった。また、多重ガーゼ織物は、目の粗い平織物からなり型崩れし易く、快適であっても着用や洗濯により美観が低下していくという問題があった。更に、甘撚り糸を使用したパジャマなどにおいては、着用や洗濯による毛玉(「ピリング」ともいう)が発生しやすく、快適であっても着用や洗濯により美観が低下していくという問題があった。
【0008】
そこで、本発明は、以上のことに対処して、従来の多重ガーゼ織物と同様の快適性を有し、ストレッチ性による快適な着心地を実現すると共に、型崩れや毛玉の発生により美観が損なわれることがなく実用衣料として使用できるストレッチ多重織物及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題の解決にあたり、本発明者らは、鋭意研究の結果、綿織物の加工法である液体アンモニア処理による柔軟性と寸法セット性(形態安定効果)に着目し、多重織物に使用する綿糸の撚り係数を工夫することにより上記目的を達成できることを見出し本発明の完成に至った。
【0010】
即ち、本発明に係るストレッチ多重織物は、請求項1の記載によると、
3枚以上の綿織物が経糸及び/又は緯糸により結節してなる多重織物であって、
前記多重織物は、外層を構成する2枚の外層織物と、内層を構成する1枚又は複数枚の内層織物とからなり、これらの外層織物と内層織物とは、いずれも平織のガーゼ調織物であって、
弾性繊維を含むことなく織物幅方向にストレッチ性を有し、〔(7.35N/50mm幅)×60分〕の負荷をかけたときの伸長率の値が10%以上であって、負荷解除後24時間経過したときの伸長回復率の値が60%以上であることを特徴とする。
また、本発明に係るストレッチ多重織物の製造方法は、請求項4の記載によると、
3枚以上の綿織物が経糸及び/又は緯糸により結節し、外層を構成する2枚の外層織物と、内層を構成する1枚又は複数枚の内層織物とは、いずれも平織のガーゼ調織物である多重織物を製織し、製織後の前記多重織物に液体アンモニア処理を施すことにより、
前記液体アンモニア処理後の前記多重織物は、弾性繊維を含むことなく織物幅方向にストレッチ性を有し、〔(7.35N/50mm幅)×60分〕の負荷をかけたときの伸長率の値が10%以上であって、負荷解除後24時間経過したときの伸長回復率の値が60%以上であることを特徴とする。
【0011】
また、本発明は、請求項5の記載によると、請求項4に記載のストレッチ多重織物の製造方法であって、
前記液体アンモニア処理において、前記多重織物の織物幅を15%以上収縮させることを特徴とする。
【0012】
また、本発明は、請求項2の記載によると、請求項1に記載のストレッチ多重織物であって、
前記2枚の外層織物の両方の外層織物において、経糸の見掛けの撚り係数は3.5以上、緯糸の見掛けの撚り係数は3.5未満であり、
前記1枚又は複数枚の内層織物において、経糸の見掛けの撚り係数は3.5以上、緯糸の見掛けの撚り係数は4.0以上であることを特徴とする。
【0013】
また、本発明は、請求項6の記載によると、請求項4又は5に記載のストレッチ多重織物の製造方法であって、
前記2枚の外層織物の両方の外層織物において、前記液体アンモニア処理前の経糸の撚り係数は3.5以上、緯糸の撚り係数は3.0以下であり、且つ、当該液体アンモニア処理後の経糸の見掛けの撚り係数は3.5以上、緯糸の見掛けの撚り係数は3.1以上であり、
前記1枚又は複数枚の内層織物において、前記液体アンモニア処理前の経糸の撚り係数は3.5以上、緯糸の撚り係数は3.5以上であり、且つ、当該液体アンモニア処理後の経糸の見掛けの撚り係数は3.5以上、緯糸の見掛けの撚り係数は4.0以上であることを特徴とする。
【0014】
また、本発明は、請求項3の記載によると、請求項1に記載のストレッチ多重織物であって、
前記2枚の外層織物のうち一方の外層織物において、経糸の見掛けの撚り係数は3.5以上、緯糸の見掛けの撚り係数は3.5未満であり、
前記2枚の外層織物のうち他方の外層織物において、経糸の見掛けの撚り係数は3.5以上、緯糸の見掛けの撚り係数は4.0以上であり、
前記1枚又は複数枚の内層織物において、経糸の見掛けの撚り係数は3.5以上、緯糸の見掛けの撚り係数は4.0以上であることを特徴とする。
【0015】
また、本発明は、請求項7の記載によると、請求項4又は5に記載のストレッチ多重織物の製造方法であって、
前記2枚の外層織物のうち一方の外層織物において、前記液体アンモニア処理前の経糸の撚り係数は3.5以上、緯糸の撚り係数は3.0以下であり、且つ、当該液体アンモニア処理後の経糸の見掛けの撚り係数は3.5以上、緯糸の見掛けの撚り係数は3.1以上であり、
前記2枚の外層織物のうち他方の外層織物において、前記液体アンモニア処理前の経糸の撚り係数は3.5以上、緯糸の撚り係数は3.5以上であり、且つ、当該液体アンモニア処理後の経糸の見掛けの撚り係数は3.5以上、緯糸の見掛けの撚り係数は4.0以上であり、
前記1枚又は複数枚の内層織物において、前記液体アンモニア処理前の経糸の撚り係数は3.5以上、緯糸の撚り係数は3.5以上であり、且つ、当該液体アンモニア処理後の経糸の見掛けの撚り係数は3.5以上、緯糸の見掛けの撚り係数は4.0以上であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0017】
上記構成によれば、本発明に係るストレッチ多重織物は、3枚以上の綿織物が経糸及び/又は緯糸により結節してなる多重織物からなる。当該多重織物を製織後に液体アンモニア処理が施されている。また、弾性繊維を含むことなく織物幅方向にストレッチ性を有しており、〔(7.35N/50mm幅)×60分〕の負荷をかけたときの伸長率の値が10%以上である。また、負荷解除後24時間経過したときの伸長回復率の値が60%以上である。
【0018】
このことにより、従来の多重ガーゼ織物と同様の快適性を有し、ストレッチ性による快適な着心地を実現すると共に、型崩れや毛玉の発生により美観が損なわれることがなく実用衣料として使用できるストレッチ多重織物を提供することができる。
【0019】
また、上記構成によれば、液体アンモニア処理において、多重織物の織物幅が15%以上収縮したものであってもよい。このことにより、上記作用効果をより具体的に発揮することができる。
【0020】
また、上記構成によれば、多重織物は、外層を構成する2枚の外層織物と、内層を構成する1枚又は複数枚の内層織物とからなる。2枚の外層織物の両方の外層織物において、液体アンモニア処理後の経糸の見掛けの撚り係数は3.5以上、緯糸の見掛けの撚り係数は3.5未満であってもよい。また、1枚又は複数枚の内層織物において、液体アンモニア処理後の経糸の見掛けの撚り係数は3.5以上、緯糸の見掛けの撚り係数は4.0以上であってもよい。このことにより、上記作用効果をより具体的に、より効果的に発揮することができる。
【0021】
また、上記構成によれば、多重織物は、外層を構成する2枚の外層織物と、内層を構成する1枚又は複数枚の内層織物とからなる。2枚の外層織物の両方の外層織物において、液体アンモニア処理前の経糸の撚り係数は3.5以上、緯糸の撚り係数は3.0以下であり、且つ、当該液体アンモニア処理後の経糸の見掛けの撚り係数は3.5以上、緯糸の見掛けの撚り係数は3.1以上であってもよい。また、1枚又は複数枚の内層織物において、液体アンモニア処理前の経糸の撚り係数は3.5以上、緯糸の撚り係数は3.5以上であり、且つ、当該液体アンモニア処理後の経糸の見掛けの撚り係数は3.5以上、緯糸の見掛けの撚り係数は4.0以上であってもよい。このことにより、上記作用効果をより具体的に、より効果的に発揮することができる。
【0022】
また、上記構成によれば、多重織物は、外層を構成する2枚の外層織物と、内層を構成する1枚又は複数枚の内層織物とからなる。2枚の外層織物のうち一方の外層織物において、液体アンモニア処理後の経糸の見掛けの撚り係数は3.5以上、緯糸の見掛けの撚り係数は3.5未満であってもよい。一方、2枚の外層織物のうち他方の外層織物において、液体アンモニア処理後の経糸の見掛けの撚り係数は3.5以上、緯糸の見掛けの撚り係数は4.0以上であってもよい。また、1枚又は複数枚の内層織物において、液体アンモニア処理後の経糸の見掛けの撚り係数は3.5以上、緯糸の見掛けの撚り係数は4.0以上であってもよい。このことにより、上記作用効果をより具体的に、より効果的に発揮することができる。
【0023】
また、上記構成によれば、多重織物は、外層を構成する2枚の外層織物と、内層を構成する1枚又は複数枚の内層織物とからなる。2枚の外層織物のうち一方の外層織物において、液体アンモニア処理前の経糸の撚り係数は3.5以上、緯糸の撚り係数は3.0以下であり、且つ、当該液体アンモニア処理後の経糸の見掛けの撚り係数は3.5以上、緯糸の見掛けの撚り係数は3.1以上であってもよい。一方、2枚の外層織物のうち他方の外層織物において、液体アンモニア処理前の経糸の撚り係数は3.5以上、緯糸の撚り係数は3.5以上であり、且つ、当該液体アンモニア処理後の経糸の見掛けの撚り係数は3.5以上、緯糸の見掛けの撚り係数は4.0以上であってもよい。また、1枚又は複数枚の内層織物において、液体アンモニア処理前の経糸の撚り係数は3.5以上、緯糸の撚り係数は3.5以上であり、且つ、当該液体アンモニア処理後の経糸の見掛けの撚り係数は3.5以上、緯糸の見掛けの撚り係数は4.0以上であってもよい。このことにより、上記作用効果をより具体的に、より効果的に発揮することができる。
【0024】
また、上記構成によれば、多重織物を構成する2枚の外層織物と1枚又は複数枚の内層織物とは、いずれも平織のガーゼ調織物であってもよい。このことにより、上記作用効果をより具体的に、より効果的に発揮することができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【
図1】実施例1に係るストレッチ三重ガーゼ調織物の1日目~5日目までの伸長率(%)の値を示すグラフである。
【
図2】実施例1に係るストレッチ三重ガーゼ調織物の1日目~5日目までの伸長回復率(%)の値を示すグラフである。
【
図3】実施例1に係るストレッチ三重ガーゼ調織物と比較例1のモニター試験結果(肌触りの良さ)を示すグラフである。
【
図4】実施例1に係るストレッチ三重ガーゼ調織物と比較例1のモニター試験結果(足を上げたときの着心地)を示すグラフと試験状態を示す写真である。
【
図5】実施例1に係るストレッチ三重ガーゼ調織物と比較例1のモニター試験結果(しゃがんだときの着心地)を示すグラフと試験状態を示す写真である。
【
図6】実施例1に係るストレッチ三重ガーゼ調織物と比較例1のモニター試験結果(体を丸めたときの着心地)を示すグラフと試験状態を示す写真である。
【
図7】実施例1に係るストレッチ三重ガーゼ調織物と比較例1のモニター試験結果(腕を上げたときの着心地)を示すグラフと試験状態を示す写真である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
まず、本発明に使用する用語について説明する。本発明において、多重織物とは、2枚以上の織物を重ねたような織物であって、二重織物、三重織物、或いは四重以上の織物であってもよい。各織物は、経糸と緯糸、或いは、経糸のみ、緯糸のみで結節して1つの織物をなす。また、重ねる各織物の織組織は、特に限定するものではなく、平織物、綾織物、朱子織物、その他でもよいが、中でも平織物であることが好ましい。
【0027】
また、平織物の中でも、通気性、軽量感、手触り、風合いなどの観点から、細い糸を使用した目の粗い平織物であることが好ましい。細い糸を使用した目の粗い平織物としては、一般にガーゼ織物がある。ガーゼ織物とは、甘撚り糸による粗い平織の柔らかい薄地綿織物と定義される(新・繊維総合辞典;繊研新聞社)。例えば、経緯糸ともに綿40番手単糸を用い、経緯糸密度は合計50~60本/インチ程度が多いとされる。従って、本発明においては、重ねる各織物をガーゼ織物に限定するものではなく、ガーゼ織物も含む類似の目の粗い平織物を「ガーゼ調織物」ということとする。
【0028】
また、重ねる各織物を構成する糸の種類は、ガーゼ織物のように綿100%に限定するものではなく、綿を主体とする糸を使用することができる。但し、後述の液体アンモニア処理を行うことから、この処理で効果を発揮しやすいことが要求される。従って、本発明においては、綿100%の糸を使用することが特に好ましい。
【0029】
また、撚り係数とは、糸の太さに関係なく、撚りの効果(糸の締まり具合)を示す係数である。綿糸の場合には、撚り係数αは「α=撚り数/√N」で表される。ここで、撚り数は「回数/インチ」、Nは「恒重式番手」である。糸の太さ(番手)に関係なく、一般に、α=3.3以下を甘撚り、α=3.5~4.5を普通撚り、それ以上の撚り係数を強撚という。
【0030】
なお、本発明においては、ストレッチ性を付与するために製織後の多重織物に液体アンモニア処理を施して織物幅方向に収縮させる。従って、多重織物の緯糸は、液体アンモニア処理により収縮して、製織後の糸の段階より糸の太さ(番手N)も撚り係数(α)も変化する。そこで、本発明においては、液体アンモニア処理後の収縮した糸の太さを「見掛けの番手」といい、撚り係数を「見掛けの撚り係数」ということとする。なお、本発明における各織物の撚り係数及び見掛けの撚り係数については後述する。
【0031】
また、本発明において、液体アンモニア処理とは、一般に綿織物の加工法として行われるものであって、綿織物を液体アンモニア(沸点:-33.4℃)に短時間浸漬した後、130℃前後に加熱したシリンダーに接触させてアンモニアを除去する処理である。一般に、綿織物の防皺性、防縮性、強度、柔軟性が向上する。なお、本発明においては、多重織物を織物幅方向に15%以上収縮させることが好ましく、20%程度収縮させることがより好ましい(詳細は後述する)。多重織物を織物幅方向に15%以上収縮させることにより、実用的で快適なストレッチ性を発現することができる。
【0032】
以下、本発明に係るストレッチ多重織物を実施形態により説明する。なお、本実施形態においては、綿100%の三重織物を例にして説明するが、本発明は下記の実施形態にのみ限定されるものではない。
【0033】
≪多重織物の製織≫
本実施形態に係るストレッチ多重織物を製造するためには、まず通常の方法で多重織物を製織する。多重織物の製織には、経糸開口装置付きのジャカード織機、ドビー織機、タペット織機などの各種織機を使用することができる。
【0034】
本実施形態に係る三重織物は、外層を構成する2枚の外層織物と、内層を構成する1枚の内層織物とから構成される。なお、本実施形態においては、2枚の外層織物の一方または両方の緯糸に、製織段階においては撚り係数の小さな甘撚り糸を使用することが好ましい。緯糸に甘撚り糸を使用することにより、液体アンモニア処理による収縮後も強撚糸のように撚りが強くならず良好な表面の風合いを維持することができる。
【0035】
なお、2枚の外層織物で異なる撚り係数の緯糸を使用した場合には、アンモニア処理による収縮後の風合いが2枚の外層織物で異なる場合がある。この場合には、2枚の外層織物のうち、いずれを表面層に使用するか、裏面層に使用するかは、用途によって使い分けることもある。従って、ここでは2枚の外層織物のうち一方を第1外層織物、他方を第2外層織物として区別する。
【0036】
まず、第1外層織物は、綿100%の平織物とする。製織段階における第1外層織物の経糸と緯糸には、次のような綿糸を使用することが好ましい。経糸には普通撚り糸を使用する。例えば、20~70番手、好ましくは40~60番手であって、撚り係数3.5~4.5、好ましくは3.5~4.0の単糸を使用する。一方、緯糸には甘撚り糸を使用する。例えば、20~50番手、好ましくは20~40番手であって、撚り係数3.3以下、好ましくは3.0以下の単糸を使用する。なお、緯糸には、撚り係数2.0以下の超甘撚り糸や無撚糸を使用するようにしてもよい。
【0037】
第1外層織物において、経糸に比べ緯糸に甘撚り糸を使用するのは、液体アンモニア処理後の緯糸の見掛けの撚り係数が大きくなり、強撚糸のように糸が締まって表面(或いは裏面)の風合いを損ねないようにするためである。例えば、緯糸に40番手で撚り係数3.0の甘撚り糸を使用し、液体アンモニア処理で約20%収縮させた場合には、緯糸の見掛けの番手は約32番手となり、見掛けの撚り係数は約3.4となる。この状態においては、甘撚り糸に近い柔らかな風合いを維持することができる。
【0038】
一方、経糸は液体アンモニア処理後に殆ど収縮しないので、普通撚り糸を使用すればよい。なお、経緯糸ともに糸の段階で染色した先染糸を使用してもよく、或いは、製織後の多重織物を染色するようにしてもよい。
【0039】
第1外層織物の経緯糸密度は、特に限定するものではないが、通気性、軽量感、手触り、風合いなどの観点からは、目の粗い平織物であるガーゼ織物或いはガーゼ調織物とすることが好ましい。本実施形態において、経糸密度は、30~60本/インチ、好ましくは45~55本/インチ程度とする。一方、緯糸密度は、30~50本/インチ、好ましくは30~45本/インチ程度とする。このように、経糸密度に比べ緯糸密度を小さくするのは、経糸に比べ緯糸に太い糸を使用してストレッチ性を向上させるためである。
【0040】
次に、第2外層織物は、綿100%の平織物とする。なお、第2外層織物においても上記第1外層織物と同様に緯糸に甘撚り糸を使用してもよい。一方、第2外層織物の緯糸に甘撚り糸を使用しない場合には、製織段階における第2外層織物の経糸と緯糸に次のような綿糸を使用することが好ましい。経糸には、上記第1外層織物と同じ番手、同じ撚り係数の単糸を使用する。一方、緯糸には普通撚り糸を使用する。例えば、20~50番手、好ましくは30~50番手であって、撚り係数3.5~4.5、好ましくは4.0~4.3の単糸を使用する。
【0041】
第2外層織物において、上記第1外層織物とは異なり緯糸に甘撚り糸を使用せず普通撚り糸を使用した場合には、液体アンモニア処理後の緯糸の見掛けの撚り係数が大きくなり、強いストレッチ性を発現することができる。例えば、緯糸に50番手で撚り係数4.0の普通撚り糸を使用し、液体アンモニア処理で約20%収縮させた場合には、緯糸の見掛けの番手は約40番手となり、見掛けの撚り係数は約5.4と強撚糸と同程度となる。この状態においては、強撚糸と同様の強いストレッチ性を発現することができる。
【0042】
また、第2外層織物の経緯糸密度は、上記第1外層織物と同程度とし、経糸密度に比べ緯糸密度を小さくするのは、経糸に比べ緯糸に太い糸を使用してストレッチ性を向上させるためである。
【0043】
一方、経糸は液体アンモニア処理後に殆ど収縮しないので、普通撚り糸を使用すればよい。なお、経緯糸ともに糸の段階で染色した先染糸を使用してもよく、或いは、製織後の多重織物を染色するようにしてもよい。
【0044】
次に、内層織物は、綿100%の平織物とする。内層織物の経糸と緯糸には、上記の緯糸に普通撚り糸を使用した第2外層織物と同じ番手、同じ撚り係数の単糸を使用することが好ましい。このように、内層織物の緯糸には、甘撚り糸や無撚糸を使用せず普通撚り糸を使用する。なお、上記第2外層織物とは異なり、製織段階において緯糸に強撚糸を使用するようにしてもよい。このことにより、更に強いストレッチ性を発現することができる。
【0045】
≪液体アンモニア処理≫
次に、上述の第1外層織物と内層織物と第2外層織物とを3層にして製織した三重織物を液体アンモニア処理する。なお、液体アンモニア処理の前に糊抜き等の前工程を行う。三重織物を先染糸で製織した場合には、糊抜き・乾燥後、所定の織物幅に幅出ししてから液体アンモニア処理を行う。また、製織後に染色をする場合には、製織した後、糊抜き・精練・漂白・乾燥・幅出しを行い、染色又は捺染を行う。染色後の三重織物を所定の織物幅に幅出ししてから液体アンモニア処理を行う。なお、製織後に染色する場合には、液体アンモニア処理後に染色又は捺染を行うようにしてもよい。
【0046】
本実施形態においては、一般的な液体アンモニア処理装置を使用することができる。通常、液体アンモニア処理装置は、織物を液体アンモニアに浸漬する浸漬装置、液体アンモニアの浸透と反応を促進するタイミング装置、液体アンモニアを蒸発させる乾燥装置、及び残留アンモニアを除去するスチーミング装置で構成され、織物を走行させて連続的に処理する。
【0047】
本実施形態に係る三重織物は、液体アンモニアを吸収すると急激に収縮する。液体アンモニア処理装置内を連続走行する三重織物は、織物の長さ方向(経糸方向)にはテンション(張力)が掛かり、経糸の収縮が抑えられる。一方、織物幅方向(緯糸方向)にはテンションが掛からず、緯糸が大きく収縮する。液体アンモニア除去後の三重織物は、織物幅が大きく収縮した状態で形状を記憶する。本実施形態においては、織物の長さは殆ど収縮しないのに対して、織物幅は処理前の状態から15%以上収縮する。
【0048】
なお、液体アンモニア処理装置に導入する三重織物の走行条件等を制御して、所定の織物幅に固定することが好ましい。本実施形態においては、織物幅を15%以上収縮させることが好ましく、20%程度収縮させることがより好ましい。織物幅を15%以上収縮させることにより、三重織物は織物幅方向に実用的で快適なストレッチ性を発現するようになる。本実施形態においては、織物幅方向に15%以上収縮させることにより、伸長率の値が10%以上、良好な場合は12%以上であり、伸長回復率の値が60%以上、良好な場合は70%以上であるストレッチ三重織物を得ることができる。
【0049】
このように、三重織物の経糸が殆ど収縮せず、緯糸のみが収縮する。このことにより、液体アンモニア処理後の三重織物の経糸の番手と撚り係数は殆ど変化しない。これに対して、緯糸の番手は大きく(太く)なり、撚り係数も大きく(糸が締まる)なって、強撚糸のようにストレッチ性を発現するようになる。
【0050】
なお、このストレッチ性の強さは、液体アンモニア処理前の緯糸の撚り係数が比較的大きかった第2外層織物と内装織物による寄与が大きいものと考えられる。一方、液体アンモニア処理前の緯糸の撚り係数が小さな甘撚りであった第1外層織物もストレッチ性には寄与するが、それよりも表面の風合いへの寄与が大きいものと考えられる。これらのことから、内装織物の枚数を増やすことにより、より強いストレッチ性を発現することができる。
【0051】
液体アンモニア処理後の三重織物は、水洗・乾燥後、柔軟剤等の仕上剤を付与し、所定の規格(長さ及び幅)に仕上げられる。なお、必要により、サンフォライズ加工(機械的防縮加工)や起毛加工などを施すようにしてもよい。また、ストレッチ性を有する形状記憶の効果を更に向上させるために、樹脂加工などを施すようにしてもよい。このようにして、本実施形態に係るストレッチ多重織物を得る。
【0052】
なお、本発明においては、三重織物を織物幅方向に収縮させるために液体アンモニア処理を採用する。綿織物を収縮させるには、液体アンモニア以外にも高濃度の水酸化ナトリウム水溶液を使用するシルケット処理などがある。しかし、液体アンモニア処理は、シルケット処理などに比べ処理後の織物の柔軟性と収縮状態の形態安定効果が大きく、本発明の目的である柔軟性とストレッチ性による快適な着心地を実現することができる。
【0053】
次に、本実施形態に係るストレッチ多重織物について各実施例により説明する。なお、本発明は、下記の各実施例にのみ限定されるものではない。
【実施例1】
【0054】
本実施例1においては、先染糸を使用したストレッチ多重織物(ストレッチ三重ガーゼ調織物)について説明する。
【0055】
≪多重織物の製織≫
本実施例1に係るストレッチ多重織物は、綿100%の三重ガーゼ調織物であり、第1外層織物と内層織物と第2外層織物とを連結してドビー織機で製織した。第1外層織物は、先染糸を使用したストライプ柄の表面織物とし、第2外層織物を裏面織物とした。
【0056】
第1外層織物(表面織物)は、経糸に60番手、撚り係数3.8の綿単糸を使用し、緯糸に40番手、撚り係数3.0の綿単糸を使用した。内層織物は、経糸に60番手、撚り係数3.8の綿単糸を使用し、緯糸に50番手、撚り係数4.0の綿単糸を使用した。第2外層織物(裏面織物)は、内層織物と同じ組織とし、経糸に60番手、撚り係数3.8の綿単糸を使用し、緯糸に50番手、撚り係数4.0の綿単糸を使用した。
【0057】
≪液体アンモニア処理≫
先染糸で製織した三重ガーゼ調織物は、糊抜き・乾燥後、幅出しした。幅出し後の各層織物は、経糸密度50本/インチ、緯糸密度43本/インチであった。次に、通常の織物に使用される液体アンモニア処理装置を使用して、三重ガーゼ調織物の液体アンモニア処理を行った。液体アンモニア処理後の三重ガーゼ調織物は、水洗・乾燥後、柔軟剤を付与してタンブラー乾燥し、サンフォライズ加工を行って本実施例1のストレッチ三重ガーゼ調織物を得た。
【0058】
本実施例1のストレッチ三重ガーゼ調織物の各層織物は、経糸密度60本/インチ、緯糸密度43本/インチであった。このことから、三重ガーゼ調織物は、液体アンモニア処理によって、織物の長さ方向(経糸方向)には殆ど収縮せず、織物幅方向(緯糸方向)に約20%収縮したこととなる。
【0059】
≪物性評価≫
次に、得られたストレッチ三重ガーゼ調織物の物性を評価した。評価項目として、経緯糸の見掛けの番手及び見掛けの撚り係数を算出した。次に、ストレッチ性を評価するために、定荷重時の伸長弾性率(伸長率と伸長回復率)を評価した。また、パジャマ用途としての着心地をモニター試験で評価した。なお、パジャマ用途の諸物性(吸水性、保温性、通気性)についても確認した。
【0060】
1.見掛けの番手及び見掛けの撚り係数
まず、液体アンモニア処理後の経緯糸の見掛けの番手及び見掛けの撚り係数を算出した。上述のように、本実施例1においては、液体アンモニア処理によって、織物の長さ方向(経糸方向)には殆ど収縮せず、織物幅方向(緯糸方向)に約20%収縮した。そこで、緯糸の重量(単位長さ当たりの重量)が20%増加したものとして見掛けの番手を算出した。また、緯糸の撚り数(回数/インチ)も20%増加したものとして、撚り係数の式「α=撚り数/√N」から見掛けの撚り係数を算出した。表1に各層の織物の経緯糸について、収縮前の番手及び撚り係数、並びに、収縮後の見掛けの番手及び見掛けの撚り係数を示す。
【0061】
【0062】
表1において、第1外層織物(表面織物)、内層織物、第2外層織物(裏面織物)のいずれも、緯糸が20%収縮したことにより見掛けの番手が太くなっている。また、緯糸の20%増加した撚り数と見掛けの番手を使用して算出した緯糸の見掛けの撚り係数も大きくなっている。
【0063】
表面織物の緯糸の見掛けの撚り係数は、3.4と普通撚りよりも甘撚りに近い数字を維持しており、このことが表面織物の風合いの軟らかさに寄与しているものと思われる。一方、内層織物と裏面織物緯糸の見掛けの撚り係数は、いずれも5.4と強撚の数字に至っており、このことが強いストレッチ性を発現しているものと思われる。
【0064】
2.伸長弾性率(伸長率と伸長回復率)
本実施例1は、パジャマ用途のストレッチ三重ガーゼ調織物に関するものでることから、軽量織物に対する適度なストレッチ性を評価するオリジナル試験法(一般財団法人ボーケン品質評価機構による)を採用した。
【0065】
伸長率の試験法は、JIS L 1096(B法)に基いた方法であって、荷重と時間を変更したものである。具体的には、幅50mm×長さ300mmの試験片を引張試験機にセット後、間隔200mm(L0)に印を付け、所定荷重(7.35N/50mm幅)で60分保持後の印間の長さ(L1)を測定し、下記の式(1)
伸長率(%)=〔(L1-L0)/L0〕×100・・・・・(1)
にて伸長率(%)の値を求めた。また、上記試験を1日目の試験とし、同一の試験片にて2日目~5日目までの伸長率(%)の値を求めた。得られた1日目~5日目までの伸長率(%)の値を表2に示す。また、これらの値をグラフにして
図1に示す。
【0066】
一方、伸長回復率の試験法は、上記伸長率の試験片において負荷解除後24時間経過したときに、初荷重を加えて印間の長さ(L2)を測定し、下記の式(2)
伸長回復率(%)=〔(L1-L2)/(L1-L0〕×100・・・・・(2)
にて伸長回復率(%)の値を求めた。また、上記試験を1日目の試験とし、同一の試験片にて2日目~5日目までの伸長回復率(%)の値を求めた。得られた1日目~5日目までの伸長回復率(%)の値を表2に示す。また、これらの値をグラフにして
図2に示す。
【0067】
【0068】
表2及び
図1において、1日目~5日目までの伸長率(%)の値は、全て12%前後であって5日間に亘って10%以上の安定で良好な結果を得た。また、表2及び
図2において、1日目~5日目までの伸長回復率(%)の値は、全て65%~74%であって5日間に亘って60%以上の安定で良好な結果を得た。これらの結果から、本実施例1に係るストレッチ三重ガーゼ調織物は、安定で良好なストレッチ性を有していた。
【0069】
3.着心地(モニター試験)
次に、本実施例1に係るストレッチ三重ガーゼ調織物を実際にパジャマに縫製して着心地に関するモニター試験を実施した。具体的には、5名のモニターにより、肌触りの良さ、足を上げたときの着心地、しゃがんだときの着心地、体を丸めたときの着心地、腕を上げたときの着心地について評価した。
【0070】
なお、比較にために、本実施例1と同じ構成で製織し、液体アンモニア処理をしていない従来品の三重ガーゼ調織物(ストレッチ性なし)を比較例1とし、同じモニターにより同様に評価した。本実施例1及び比較例1の評価結果を表3に示す。また、これらの評価結果をグラフにして
図3~
図7に示す。
【0071】
【0072】
表3及び
図3~
図7において、5名のモニター全員が全ての評価項目において本実施例1に係るストレッチ三重ガーゼ調織物を縫製したパジャマの着心地を従来品(比較例1)よりも高く評価したことが分かる。なお、パジャマ用途の諸物性(吸水性、保温性、通気性)についても評価したが、これらの物性値も良好であり従来の多重ガーゼ織物と同様の快適性を有していた。また、本実施例1に係るストレッチ三重ガーゼ調織物を縫製したパジャマに対して、家庭洗濯を繰り返したが型崩れや毛玉の発生により美観が損なわれることがなかった。
【実施例2】
【0073】
本実施例2においては、上記実施例1と同様に先染糸を使用したストレッチ多重織物(ストレッチ三重ガーゼ調織物)について説明する。
【0074】
≪多重織物の製織≫
本実施例2に係るストレッチ多重織物は、上記実施例1と同様に綿100%の三重ガーゼ調織物であり、第1外層織物と内層織物と第2外層織物とを連結してドビー織機で製織した。第1外層織物は、先染糸を使用したストライプ柄の表面織物とし、第2外層織物を裏面織物とした。
【0075】
第1外層織物(表面織物)は、経糸に40番手、撚り係数3.8の綿単糸を使用し、緯糸に20番手、無撚りの綿単糸を使用した。内層織物は、経糸に40番手、撚り係数3.8の綿単糸を使用し、緯糸に30番手、撚り係数4.16の綿単糸を使用した。第2外層織物(裏面織物)は、内層織物と同じ組織とし、経糸に40番手、撚り係数3.8の綿単糸を使用し、緯糸に30番手、撚り係数4.16の綿単糸を使用した。
【0076】
≪液体アンモニア処理≫
先染糸で製織した三重ガーゼ調織物は、糊抜き・乾燥後、幅出しした。幅出し後の各層織物は、経糸密度55本/インチ、緯糸密度30本/インチであった。次に、通常の織物に使用される液体アンモニア処理装置を使用して、三重ガーゼ調織物の液体アンモニア処理を行った。液体アンモニア処理後の三重ガーゼ調織物は、水洗・乾燥後、表面織物に起毛加工を施し、柔軟剤を付与して幅出しして本実施例2のストレッチ三重ガーゼ調織物を得た。
【0077】
本実施例2のストレッチ三重ガーゼ調織物の各層織物は、経糸密度66本/インチ、緯糸密度30本/インチであった。このことから、三重ガーゼ調織物は、液体アンモニア処理によって、織物の長さ方向(経糸方向)には殆ど収縮せず、織物幅方向(緯糸方向)に約20%収縮したこととなる。
【0078】
≪物性評価≫
次に、得られたストレッチ三重ガーゼ調織物の物性を評価した。評価項目として、経緯糸の見掛けの番手及び見掛けの撚り係数を算出した。次に、ストレッチ性を評価するために、定荷重時の伸長弾性率(伸び率と伸長回復率)を評価した。なお、本実施例2においては、パジャマ用途としての着心地に関するモニター試験による評価は行っていない。
【0079】
1.見掛けの番手及び見掛けの撚り係数
まず、液体アンモニア処理後の経緯糸の見掛けの番手及び見掛けの撚り係数を算出した。上述のように、本実施例2においては、液体アンモニア処理によって、織物の長さ方向(経糸方向)には殆ど収縮せず、織物幅方向(緯糸方向)に約20%収縮した。そこで、上記実施例1と同様にして、見掛けの番手と見掛けの撚り係数を算出した。表4に各層の織物の経緯糸について、収縮前の番手及び撚り係数、並びに、収縮後の見掛けの番手及び見掛けの撚り係数を示す。
【0080】
【0081】
表4において、第1外層織物(表面織物)、内層織物、第2外層織物(裏面織物)のいずれも、緯糸が20%収縮したことにより見掛けの番手が太くなっている。また、緯糸の20%増加した撚り数と見掛けの番手を使用して算出した緯糸の見掛けの撚り係数も大きくなっている。但し、表面織物に関しては、緯糸に無撚糸を使用しているので見掛けの撚り係数は算出していない。
【0082】
表面織物の緯糸の見掛けの撚り係数は算出しなかったが、無撚糸を使用していることから収縮後も表面織物の風合いの軟らかさに寄与しているものと思われる。一方、内層織物と裏面織物緯糸の見掛けの撚り係数は、いずれも5.6と強撚の数字に至っており、このことが強いストレッチ性を発現しているものと思われる。
【0083】
伸長弾性率(伸長率と伸長回復率)については、上記実施例1と同様にして測定して同様に良好な結果を得た。なお、ここでは評価結果を省略する。なお、本実施例2においては、パジャマ用途としての着心地に関するモニター試験による評価は行っていない。また、パジャマ用途の諸物性(吸水性、保温性、通気性)についても評価したが、これらの物性値も良好であり従来の多重ガーゼ織物と同様の快適性を有していた。また、本実施例2に係るストレッチ三重ガーゼ調織物を縫製したパジャマに対して、家庭洗濯を繰り返したが型崩れや毛玉の発生により美観が損なわれることがなかった。
【0084】
これまで説明したように、本発明によれば、従来の多重ガーゼ織物と同様の快適性を有し、ストレッチ性による快適な着心地を実現すると共に、型崩れや毛玉の発生により美観が損なわれることがなく実用衣料として使用できるストレッチ多重織物及びその製造方法を提供することができる。
【0085】
なお、本発明の実施にあたり、上記実施形態及び各実施例に限らず次のような種々の変形例が挙げられる。
(1)上記各実施例においては、表面織物の緯糸にのみ収縮前の撚り係数が小さな甘撚り糸を使用した。しかし、これに限定するものではなく、用途によっては裏面織物の緯糸にのみ甘撚り糸を使用するようにしてもよい。
(2)上記各実施例においては、2枚の外層織物の一方にのみ収縮前の撚り係数が小さな甘撚り糸を使用した。しかし、これに限定するものではなく、用途によっては2枚の外層織物の両方の緯糸に甘撚り糸を使用するようにしてもよい。
(3)上記各実施例においては、内層織物が1枚の三重織物を作製した。しかし、これに限定するものではなく、用途によっては複数枚の内層織物を使用する多重織物を作製するようにしてもよい。この場合には、2枚以上の内層織物の緯糸に収縮前の撚り係数が大きな普通撚り以上の糸を使用してストレッチ性をより強くするようにしてもよい。
【要約】
【課題】従来の多重ガーゼ織物と同様の快適性を有し、ストレッチ性による快適な着心地を実現すると共に、型崩れや毛玉の発生により美観が損なわれることがなく実用衣料として使用できるストレッチ多重織物を提供する。
【解決手段】多重織物の製織後に液体アンモニア処理が施されており、弾性繊維を含むことなく織物幅方向にストレッチ性を有し、〔(7.35N/50mm幅)×60分〕の負荷をかけたときの伸長率の値が10%以上であって、負荷解除後24時間経過したときの伸長回復率の値が60%以上であることを特徴とする。
【選択図】
図1