(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-01-06
(45)【発行日】2022-01-21
(54)【発明の名称】医療機器,素材等の開発支援システム,方法およびプログラム
(51)【国際特許分類】
G06Q 10/10 20120101AFI20220114BHJP
【FI】
G06Q10/10 310
G06Q10/10 300
(21)【出願番号】P 2020176514
(22)【出願日】2020-10-21
【審査請求日】2020-11-27
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 1.国立研究開発法人科学技術振興機構(JST) 産学共創プラットフォーム共同研究推進プログラム(OPERA)「埋込型・装着型デバイス共創コンソーシアム」第2回シンポジウム 開催日:2019年10月23日 3.JST産学共創プラットフォーム共同研究推進プログラム(OPERA) 「埋込型・装着型デバイス共創コンソーシアム」AMED次世代医療機器連携拠点整備等事業「地域のステークホルダーと連携して一貫型支援を行う信州型医療機器開発拠点」共同開催 合同シンポジウム~医療機器の早期承認と開発加速のためのビッグデータ活用~ 開催日:2020年10月8日
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成29年度、国立研究開発法人科学技術振興機構、研究成果展開事業 産学共創プラットフォーム共同研究推進プログラム、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】504180239
【氏名又は名称】国立大学法人信州大学
(74)【代理人】
【識別番号】110001830
【氏名又は名称】東京UIT国際特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】齋藤 直人
(72)【発明者】
【氏名】西村 直之
(72)【発明者】
【氏名】鳥山 香織
(72)【発明者】
【氏名】浅尾 高行
(72)【発明者】
【氏名】古屋 靖哲
(72)【発明者】
【氏名】石川 哲男
【審査官】久宗 義明
(56)【参考文献】
【文献】特開2000-322125(JP,A)
【文献】特開2008-152522(JP,A)
【文献】特開平07-319936(JP,A)
【文献】特開2005-018172(JP,A)
【文献】特開2005-084993(JP,A)
【文献】正木 秀樹,AI製品安全評価システムによるリスクシナリオ検討,安全工学,日本,特定非営利活動法人安全光学会,2020年08月15日,59巻、4号,238~246ページ
【文献】今井 健 T Imai,構文情報と医学用語属性を用いた画像診断所見オントロジーの構築の試み Building an Ontology for Radiological Diagnoses using Syntactic Analysis and Medical Attributes,医療情報学 Japan Journal of Medical Informatics,日本,有限責任中間法人日本医療情報学会 株式会社篠原出版新社,2006年06月30日,第25巻6号,395-403ページ
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G06Q 10/00-99/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
医療機器,そのコンポーネント,部品,部材,素材,再生医療製品に関連する所与の文書の文書中に含まれる用語であって,ハザード,ハザードステイト,リスクおよびコントロールのいずれかの異なるカテゴリに属する2つの用語と,それらの用語間を関係づける関係性とによって構成される関係性データセットの集合を記憶する記憶手段,
1または複数の着目階層のノードに表わされるカテゴリの用語として前記記憶手段の関係性データセット集合の中から出現数に応じたものを選択し,該選択された着目階層のノードの用語に関係性でつながる次階層のノードの用語を前記記憶手段の関係性データセットの集合の中から出現数に応じて選択する表示処理手段,ならびに
前記表示処理手段によって選択された着目階層のノードの用語,および着目階層のノードに関係性でつながる次階層のノードの用語を,各用語に対応するノードと各階層のノードをつなぐコネクションとからなるツリー構造として,用語の属するカテゴリを明示した形態で表示する表示装置,
を備える開発支援システム。
【請求項2】
前記表示装置の表示画面上に表示される文章において,上記4つのカテゴリのうちのいずれかに属する用語の指定と,その用語のカテゴリの指定とを受付ける第1の受付手段,
指定された2つの用語間の関係性によるつながりを受付ける第2の受付手段,ならびに
前記第1の受付手段および第2の受付手段によって受付けた2つの用語とその用語の関係性のデータを含む関係性データセットを作成する関係性データセット作成手段,
を備える請求項1に記載の開発支援システム。
【請求項3】
頂点のノードに相当する出発ノードに表示される用語のカテゴリを入力するカテゴリ指定手段をさらに備える,請求項1または2に記載の開発支援システム。
【請求項4】
指定された検索条件にしたがって,文書を検索する検索手段を備える,請求項1から3のいずれか一項に記載の開発支援システム。
【請求項5】
上記記憶手段に記憶された関係性データセットを生成した文書または文章とは異なる新たな文書または文章が入力されたときに,前記記憶手段に記憶された関係性データセットを教師データとして,前記入力された文書の文書中または入力された文章中に含まれる用語に関して新たな関係性データセットを学習により生成する学習手段,をさらに備える請求項1から4のいずれか一項に記載の開発支援システム。
【請求項6】
医療機器,そのコンポーネント,部品,部材,素材,再生医療製品に関連する所与の文書の文書中に含まれる用語であって,ハザード,ハザードステイト,リスクおよびコントロールのいずれかの異なるカテゴリに属する2つの用語と,それらの用語間を関係づける関係性とによって構成される関係性データセットの集合を記憶する記憶手段,
前記記憶手段に記憶された関係性データセット集合の中からカテゴリにかかわらず出現数に応じた用語を選択する表示処理手段,ならびに
前記表示処理手段によって選択された用語を,用語の属するカテゴリを明示した形態で表示する表示装置,
を備える開発支援システム。
【請求項7】
文書の文章を表示画面に表示する表示装置,
前記表示装置の表示画面上に表示された文章において,ハザード,ハザードステイト,リスクおよびコントロールのいずれかのカテゴリに属する用語の指定と,その用語のカテゴリの指定とを受付ける第1の受付手段,
指定された2つの用語間の関係性によるつながりを受付ける第2の受付手段,ならびに
前記第1の受付手段および第2の受付手段によって受付けた2つの用語とその用語の関係性のデータを含む関係性データセットを作成する関係性データセット作成手段,
を備える関係性データセット作成装置。
【請求項8】
記憶手段が,医療機器,そのコンポーネント,部品,部材,素材,再生医療製品に関連する所与の文書の文書中に含まれる用語であって,ハザード,ハザードステイト,リスクおよびコントロールのいずれかの異なるカテゴリに属する2つの用語と,それらの用語間を関係づける関係性とによって構成される関係性データセットの集合を記憶し,
表示処理手段が,1または複数の着目階層のノードに表わされるカテゴリの用語として前記記憶手段の関係性データセット集合の中から出現数に応じたものを選択し,該選択された着目階層のノードの用語に関係性でつながる次階層のノードの用語を前記記憶手段の関係性データセットの集合の中から出現数に応じて選択し,そして
表示装置が,前記表示処理手段によって選択された着目階層のノードの用語,および着目階層のノードに関係性でつながる次階層のノードの用語を,各用語に対応するノードと各階層のノードをつなぐコネクションとからなるツリー構造として,用語の属するカテゴリを明示した形態で表示する,
開発支援方法。
【請求項9】
第1の受付手段が,前記表示装置の表示画面上に表示される文章において,上記4つのカテゴリのうちのいずれかに属する用語の指定と,その用語のカテゴリの指定とを受付け,
第2の受付手段が,指定された2つの用語間の関係性によるつながりを受付け,そして
関係性データセット作成手段が,前記第1の受付手段および第2の受付手段によって受付けた2つの用語と,その用語の関係性のデータを含む関係性データセットを作成する,
請求項
8に記載の開発支援方法。
【請求項10】
記憶手段が,医療機器,そのコンポーネント,部品,部材,素材,再生医療製品に関連する所与の文書の文書中に含まれる用語であって,ハザード,ハザードステイト,リスクおよびコントロールのいずれかの異なるカテゴリに属する2つの用語と,それらの用語間を関係づける関係性とによって構成される関係性データセットの集合を記憶し,
表示処理手段が前記記憶手段に記憶された関係性データセット集合の中からカテゴリにかかわらず出現数に応じた用語を選択し,そして
表示装置が前記表示処理手段によって選択された用語を,用語の属するカテゴリを明示した形態で表示する,
開発支援方法。
【請求項11】
表示装置が文書の文章を表示画面に表示し,
第1の受付手段が,前記表示装置の表示画面上に表示された文章において,ハザード,ハザードステイト,リスクおよびコントロールのいずれかのカテゴリに属する用語の指定と,その用語のカテゴリの指定とを受付け,
第2の受付手段が,指定された2つの用語間の関係性によるつながりを受付け,そして
関係性データセット作成手段が,前記第1の受付手段および第2の受付手段によって受付けられた2つの用語とその用語の関係性のデータを含む関係性データセットを作成する,
関係性データセット作成方法。
【請求項12】
医療機器,そのコンポーネント,部品,部材,素材,再生医療製品に関連する所与の文書の文書中に含まれる用語であって,ハザード,ハザードステイト,リスクおよびコントロールのいずれかの異なるカテゴリに属する2つの用語と,それらの用語間を関係づける関係性とによって構成される関係性データセットの集合が記憶手段に記憶されており,
開発支援プログラムが,
1または複数の着目階層のノードに表わされるカテゴリの用語として前記記憶手段の関係性データセット集合の中から出現数に応じたものを選択し,該選択された着目階層のノードの用語に関係性でつながる次階層のノードの用語を前記記憶手段の関係性データセットの集合の中から出現数に応じて選択し,そして
前記の選択された着目階層のノードの用語,および着目階層のノードに関係性でつながる次階層のノードの用語を,各用語に対応するノードと各階層のノードをつなぐコネクションとからなるツリー構造として,用語の属するカテゴリを明示した形態で表示装置に表示するようにコンピュータを制御する,
開発支援プログラム。
【請求項13】
前記表示装置の表示画面上に表示される文章において,上記4つのカテゴリに属する用語の指定と,その用語のカテゴリの指定とを受付け,
指定された2つの用語間の関係性によるつながりを受付け,そして
前記の受付けた2つの用語とその用語の関係性のデータを含む関係性データセットを作成するようにコンピュータを制御する,
請求項
12に記載の開発支援プログラム。
【請求項14】
医療機器,そのコンポーネント,部品,部材,素材,再生医療製品に関連する所与の文書の文書中に含まれる用語であって,ハザード,ハザードステイト,リスクおよびコントロールのいずれかの異なるカテゴリに属する2つの用語と,それらの用語間を関係づける関係性とによって構成される関係性データセットの集合が記憶手段に記憶されており,
開発支援プログラムが,
前記記憶手段に記憶された関係性データセット集合の中からカテゴリにかかわらず出現数に応じた用語を選択し,そして
前記の選択された用語を,用語の属するカテゴリを明示した形態で表示装置に表示するようにコンピュータを制御する,
開発支援プログラム。
【請求項15】
文書の文章を表示装置の表示画面に表示し,
前記表示装置の表示画面上に表示された文章において,ハザード,ハザードステイト,リスクおよびコントロールのいずれかのカテゴリに属する用語の指定と,その用語のカテゴリの指定とを受付け,
指定された2つの用語間の関係性によるつながりを受付け,そして
前記の受付けた2つの用語とその用語の関係性のデータを含む関係性データセットを作成するようにコンピュータを制御する,
関係性データセット作成プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は医療機器,素材等の開発支援システム,方法およびプログラムに関する。医療機器,素材等とは,検査,診断のための医療機器,治療のための医療機器,予防のための医療機器,その他の医療機器(ソフトウェアを含む),それらのコンポーネント,部品,部材,それらの素材(金属,セラミック,合成樹脂,繊維材料等)または治療のための素材(補綴材,骨セメント,接着剤等),再生医療等製品を含む。
【背景技術】
【0002】
我国における医療機器や再生医療等製品の研究開発は,各企業,研究機関等において,デバイス(個々の医療機器や製品)ごとに個別に行なわれ,開発過程で蓄積される知識と技術が,一部の特許文献や学術論文等の発表内容,独立行政法人医薬品医療機器総合機構(以下,「PMDA」という)が開示する墨塗り部分のある審査報告書等を除いて企業間等で共有されることは殆どなく,各企業において試行錯誤を重ねるしかなかった。このような非効率さが新規参入企業の高い障壁となり,我国の医療機器産業,特に治療系医療機器の発展を阻害する(たとえば輸入超過の解消が進まない)要因の一つとなっていた。個別の医療機器という垣根を超えた開発情報の流通が必要となる所以である。
【0003】
一方,医療機器の開発から臨床試験(治験)を経て上市に至るまでの間には,人体へのリスクが極めて低いと考えられる一般医療機器(クラスI分類)の届出は別としても,管理医療機器(クラスII分類)や高度管理医療機器(クラスIII分類・IV分類)については,第三者認証機関やPMDAにおける有効性(性能),安全性等の観点からの認証や承認が必要とされている。医療機器については,使用時の人体の応答や影響,不具合が生じた場合の人体へのリスクの根源,原因,遠因は当該医療機器のみならず,種類やクラス分類が異なる他の種類の医療機器にも共通するところがあり,他の種類の医療機器で積重ねられた有益な知見を開発前または開発途中に取得し得るか否かは,当該医療機器の開発のために要する時間と費用を大きく左右する。医療機器の研究開発に関する情報には,医療機器の添付文書,厚生労働省,PMDAおよび関係団体から公表,発行される各種文書,論文,特許文献等があるが,情報そのものとしては個別の医療機器に特有のものか,一般論的なものが殆どであり,種類やクラス分類が異なる他の医療機器の開発に直接的に利用可能な情報かの判断が困難であり,利用すること自体に多大な労力を伴うため,開発情報の利用は個々の医療機器に範囲に留まり,医療機器の種類を超えての利用は稀である。
【0004】
医薬品の添付文書や処方のガイドライン文書に記載された情報に関しては,それらの文書から,処方に際して検査を要する薬剤の検査に関する情報を抽出し,この抽出した情報を当該薬剤と対応付けて格納するデータベースを作成しておき,端末から検索要求を受信したときに,検索要求で指定された薬剤に関して,該データベースを検索して該薬剤の検査に関する情報を端末に提供する医療情報提供システムが特許文献1に記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【0006】
しかしながら,この医療情報提供システムは,薬剤に関するものであり,しかも検査を要する薬剤の検査に関する情報という極限られた情報を提供するものであって,医療機器等の開発,特にその安全性評価の観点から有用な情報を提供するものではない。
【発明の概要】
【0007】
この発明は医療機器等の研究,開発のため有益な情報を安全性の観点から提供する医療機器,素材等の開発支援システムを提供することを目的とする。
【0008】
さらに詳しくは,この発明は,医療機器等についての安全性またはリスクに関する情報を,複数種類の医療機器等にわたって共通するものを含めて提供できる開発支援システムを提供することを目的とする。
【0009】
より具体的には,医療機器等の性能,用法等,医療機器等に関連して発生することが予想されるリスク,該リスクの低減または発生の予防,リスクを生じさせる潜在的な源,潜在的な源が現実にリスクに変化する条件等,医療機器のリスクと関連する諸形態の情報を分りやすく可視化することができる開発支援システムを提供することを目的とする。
【0010】
この発明は上記開発支援システムを動作させる,または制御する方法および該方法をコンピュータで実現するためのプログラムもまた提供することを目的とする。
【0011】
この発明における医療機器,素材等の開発支援システムは,医療機器,素材等について記述した,または医療機器,素材等に関連する記述を含む文書に含まれる文章中の用語(名詞,動詞,形容詞等の単語のみならず,それらの組合せである句,節を含む)に着目し,これらの用語を,その持つ意味,用語の指す対象,行為,動作,現象,状態等の観点から,医療機器等の安全性に関する4つのカテゴリに分類している(分類されない用語もある)。4つのカテゴリとは,危険性を意味するリスク,リスクの源となるハザード,リスクの発生を低減するか,またはその予防を意味するコントロール,およびハザードがリスクに変化する条件を表わすハザードステイトである(より正確には実施例において記述する)。4つのカテゴリは関係性を持っている。ハザードはリスクに「変化する」,コントロールはリスクを「予防する(最小化する)」,またはハザードを「未然に防ぐ(低減する)」がこれらの関係性(の態様)であり,ハザードステイトとハザードの関係性は「ハザードステイトがハザードに変化する条件」である。
【0012】
医療機器等に関連する文書に現われる文章において,あらかじめ各カテゴリに属する用語を抽出し(抜き出し),2つの異なるカテゴリの用語間に上記の関係性(上述の通り4つの態様をもつ)を付与して,関係性データセット(2つの異なるカテゴリの用語とそれらの関係性(の態様)によって表わされる)をあらかじめ生成しておく。この関係性データセットは,その元となる文書が関連する医療機器等の種類や数が多ければ多いほど,幅広い分野または医療機器をカバーでき,網羅的となる。そして,これらの用語と関係性をノードとコネクション(リンク)という1または複数のツリー構造で表現すれば,用語と用語の結びつきを俯瞰的に把持でき,医療機器の安全性に関する情報を一の医療機器(分野)から他の医療機器(分野)まで辿っていけるようになり,しかもそれを上記の4つのカテゴリを軸として把握することが可能となる。
【0013】
すなわち,この発明による医療機器,素材等の開発支援システムは,医療機器,素材等に関連する所与の文書の文書中に含まれる用語であって,ハザード,ハザードステイト,リスクおよびコントロールのいずれかの異なるカテゴリに属する2つの用語と,それらの用語間を関係づける関係性とによって構成される関係性データセットの集合を記憶する記憶手段,頂点のノードを含む1または複数の着目階層のノード,および前記着目階層のノードに1または複数の次階層コネクションでつながる次階層ノードを含むツリー構造(の連鎖)を形成するために,着目階層のノードに表わされるカテゴリの用語として前記記憶手段の関係性データセット集合の中から出現数に応じたものを選択し,該選択された着目階層のノードの用語に関係性でつながる次階層のノードの用語を前記記憶手段の関係性データセットの集合の中から出現数に応じて選択する(関係性)表示処理手段,ならびに前記(関係性)表示処理手段によって選択された着目階層のノードの用語,および着目階層のノードに関係性でつながる次階層のノードの用語を,各用語に対応するノードと各階層のノードをつなぐコネクションとからなるツリー構造として,用語の属するカテゴリを明示した形態で表示する表示装置を備えるものである。
【0014】
この発明による医療機器,素材等の開発支援システムは,好ましくは後述する関係性データセット作成装置に相当するものを備えている。さらに好ましくは,関係性表示のための各種設定手段,たとえば頂点のノードに相当する出発ノードに表示される用語のカテゴリを入力する出発カテゴリ指定手段,出発ノード数を指定する手段,コネクション数を指定する手段,および階層数を指定する手段,ならびに表示画面に表示するノードのカテゴリを選択する手段などを備える。
【0015】
関係性データセットにおいて,2つの異なるカテゴリに属する用語と該用語のカテゴリ,およびそれらの用語が関係性で結びつけられていることが明示されれば,関係性の態様(2つの異なるカテゴリを結びつける形態)は一意に定まる。2つの用語(異なるカテゴリに属する)と関係性の態様が明示されれば,各用語のカテゴリは一意に定まる。関係性データセットは,これらの一意に定まるデータを含んでいればよい。関係性の態様には必ずしも方向性は必要ではない。関係性データセットは,該データセットの用語が抽出された文章ごと,該文章を含む文書ごと,後述する検索により検索された文書群ごと,その他の単位で記憶手段に記憶されることが好ましい。
【0016】
この発明による医療機器,素材等の開発支援システムは,別の観点から次のように捉えることもできる。すなわち,この発明による医療機器,素材等の開発支援システムは,医療機器,素材等に関連する所与の文書の文書中に含まれる用語であって,ハザード,ハザードステイト,リスクおよびコントロールのいずれかの異なるカテゴリに属する2つの用語と,それらの用語間を関係づける関係性とによって構成される関係性データセットの集合を記憶する記憶手段,前記記憶手段に記憶された関係性データセット集合の中からカテゴリにかかわらず出現数に応じた用語を選択する表示処理手段,ならびに前記表示処理手段によって選択された用語を,用語の属するカテゴリを明示した形態で表示する表示装置を備えるものである。
【0017】
最低限の用語とそのカテゴリが表示されるから,表示が簡潔であるし,まず重要と思われる用語とそのカテゴリを把握することが可能となる。
【0018】
この発明はさらに,上記関係性データセットを含むデータ構造も提供している。すなわち,この発明によるデータ構造は,医療機器,素材等に関連する所与の文書の文書中に含まれる用語であって,ハザード,ハザードステイト,リスクおよびコントロールのいずれかの異なるカテゴリに属する2つの用語と,それらの用語を関係づける関係性とによって構成される関係性データセットの集合を含むものである。
【0019】
この発明は,記憶装置に格納される関係性データセットの集合を作成する関係性データセット作成装置を提供している。
【0020】
この関係性データセット作成装置(または,医療機器,素材等の開発支援システム)は,文書の文章を表示画面に表示する表示装置,前記表示装置の表示画面上に表示された文章において,ハザード,ハザードステイト,リスクおよびコントロールのいずれかのカテゴリに属する用語の指定と,その用語のカテゴリの指定とを受付ける第1の受付手段,指定された2つの用語間の関係性によるつながりを受付ける第2の受付手段,ならびに前記第1および第2の受付手段によって受付けた2つの用語とその用語の関係性のデータを含む関係性データセットを作成する関係性データセット作成手段を備えるものである。
【0021】
関係性データセットの集合は,できるだけ多くの文書に基づいて予め作成しておくことが好ましい。しかしながら,現存するすべての文書について関係性データセットを予め作成しておくこと,また日々新たに公表,発行される文書について関係性データセットを作成することは,非常に困難か殆ど不可能であるから,医療機器,素材等の開発支援システムには学習手段を備えておくことが好ましい。この学習手段は,上記記憶手段に記憶された関係性データセットを生成した文書とは異なる新たな文書が入力されたときに,前記記憶手段に記憶された関係性データセットを教師データとして,前記新たな文書の文章中に含まれる用語に関して新たな関係性データセットを学習により生成するものである。
【0022】
この発明による医療機器,素材等の開発支援システムは,さらに好ましくは,指定された検索条件にしたがって,文書を検索する検索手段を備えている。
【0023】
検索条件を与えて検索手段に1または複数の文書を検索させ,得られた文書を上記学習手段に与えて関係性データセットを作成させるようにしてもよいし,表示装置に表示されたノードに関連する用語について検索手段による検索を実行させてもよい。より深く探索された情報を得ることができるようになる。
【0024】
このようにして,この発明によると,リスク,ハザード,コントロール,ハザードステイトという安全性または危険性の遠因とその回避(予防,低減)という観点から把握されるカテゴリとこれらの関連性という視点で,医療機器関連の文書を用語を単位として分析し,カテゴリと関係性とのつながり,または連鎖という形態で視認可能に表示しているので,用語で表現される情報をそのつながり,連鎖を辿っていくことにより,広範囲な分野または種類の異なる医療機器についての有用な情報を取得することができる。このため,異種の分野における問題点と解決も知ることが可能となり,医療機器,素材等の研究と開発の加速化が可能となる。
【0025】
この発明は,上記医療機器,素材等の開発支援システムの動作方法(コンピュータによる開発支援方法),および上記医療機器,素材等の開発支援システムを制御するコンピュータ・プログラム,ならびに上記関係性データセット作成装置の動作方法および同装置を制御するコンピュータプログラムも提供している。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【
図1】ハザード,リスク,コントロール,ハザードステイトの4つのカテゴリとそれらの関係性を示す。
【
図3a】医療機器の添付文書内の文章の例と,その文章における用語のカテゴリとその関係性を示す。
【
図3b】医療機器の添付文書内の文章の例と,その文章における用語のカテゴリとその関係性を示す。
【
図3c】医療機器の添付文書内の文章の例と,その文章における用語のカテゴリとその関係性を示す。
【
図3d】医療機器の添付文書内の文章の例と,その文章における用語のカテゴリを示す。
【
図3e】医療機器の添付文書内の文章の例と,その文章における用語のカテゴリを示す。
【
図3f】医療機器の添付文書内の文章の例と,その文章における用語のカテゴリを示す。
【
図3g】医療機器の添付文書内の文章の例と,その文章における用語のカテゴリを示す。
【
図3h】医療機器の添付文書内の文章の例と,その文章における用語のカテゴリを示す。
【
図4a】
図3aに示す文章における用語の関係性データセット群を示す。
【
図4b】
図3bに示す文章における用語の関係性データセット群を示す。
【
図4c】
図3cに示す文章における用語の関係性データセット群を示す。
【
図4d】
図3dに示す文章における用語の関係性データセット群を示す。
【
図4e】
図3eに示す文章における用語の関係性データセット群を示す。
【
図4f】
図3fに示す文章における用語の関係性データセット群を示す。
【
図4g】
図3gに示す文章における用語の関係性データセット群を示す。
【
図4h】
図3hに示す文章における用語の関係性データセット群を示す。
【
図5】医療機器,素材等の開発支援システムの機能的概略構成ブロック図である。
【
図6】関係性データセット作成処理を示すフローチャートである。
【
図7】医療機器,素材等の開発支援システムの全体的な動作を示すフローチャートである。
【
図8】関係性表示処理を示すフローチャートである。
【
図12】表示画面内の関係性表示欄の表示の一例を示す。
【
図13】表示装置における表示画面の他の例を示す。
【
図14】表示画面内の関係性表示欄の表示の他の例を示す。
【
図15】表示画面内の関係性表示欄の表示の他の例を示す。
【
図16】表示装置における表示画面のさらに他の例を示す。
【
図17】表示画面内の関係性表示欄の表示のさらに他の例を示す。
【
図18】表示画面内の関係性表示欄の表示のさらに他の例を示す。
【
図19】表示画面内の関係性表示欄の表示のさらに他の例を示す。
【実施例】
【0027】
以下この発明を,医療機器,素材等(以下,医療機器等という)のうち,PMDAにおける承認申請,認証のハードルが比較的高い体内埋込型または装着型の医療機器を具体例として,それらを中心とする,医療機器等開発支援システムの実施例について詳述する。体内埋込型または装着型の医療機器の例としては,人工心臓(体外設置型補助人工心臓,埋込型補助人工心臓,全置換型人工心臓など),人工関節(人工膝関節,人工股関節,人工肘関節,人工肩関節など)などがある。
【0028】
(1) 医療機器等の安全性に関する用語カテゴリと関係性
医療機器等の安全性とは,別の言葉で言えば,危険ないしは危害またはその可能性を未然に防止する,または低減することである。この発明では医療機器等の安全性に関する事象,対策等に関する情報を,多くの医療機器等にわたって網羅的にデータベース化し,それを可視情報として提供する開発支援システムの構築のために,JIS,ISO等の安全性評価基準に基づいて以下の4つの用語カテゴリ(範疇)(以下,単に「カテゴリ」という)を想定し,医療機器等に関する文書に現われる用語を上記のカテゴリに分類しかつそれらに特定の関係性を付与している。
【0029】
「ハザード(hazard)」危害の潜在的な源。
「リスク(risk)」危害の発生確率と危害の重大さとの組合せ。
「リスクコントロール(risk control)」(または単に「コントロール」)規定したレベルまでリスクを低減するか又はそのレベルでリスクを維持するという決定に到達し,かつ,そのための手段を実施するプロセス。
「ハザードステイト(hazard state)」ハザードがリスクに変化する条件。(該当するものはJIS,ISO等にはない)
【0030】
これらのハザード,リスク,(リスク)コントロールおよびハザードステイトの4つのカテゴリと,それら相互の関係性(リレーション)が
図1に示されている。関係性はカテゴリを示す楕円を結ぶ矢印で示されており,矢印の向きが示す方向性をもっている。
【0031】
(リスク)コントロールからハザードに向う関係性は危険,危害,事故等を未然に防ぐ(または予防する)という意味(意義)をもつ(趣旨である)。この関係性を「態様1」とする。「態様」は「種類」と置きかえてもよい。
【0032】
(リスク)コントロールからリスクに向う関係性は,リスクを低減する(最小化する)という意味である。この関係性を「態様2」とする。
【0033】
ハザードからリスクに向う関係性は,ハザードがリスクに変化する(ハザードが危害に至る)という意味をもつ。この関係性を「態様3」とする。
【0034】
ハザードステイトからハザードに向う関係性は,ハザードがリスクに変化する条件を示す。この関係性を「態様4」とする。
【0035】
ハザード,リスク,コントロールおよびハザードステイトを図面上(後述する表示画面における表示を含む),相互に区別するために,これらのカテゴリの文字を囲む楕円形を表わす線の種類を異ならせている。すなわち,リスクは実線,ハザードは破線,コントロールは一点鎖線,ハザードステイトは点線の楕円形で表現されている。もっとも,これらのカテゴリは楕円形に限られず,他の図形,たとえば円,正方形,三角形,長方形,多角形等で表わすことができる。そして,これらの図形の中にハザード,リスク,コントロール,ハザードステイトという文字を表わしてもよいし,点または小さな円で表わし,それに隣接してハザード,リスク,コントロール,ハザードステイトの文字を置いてもよい。もちろん異なる色やハッチング等により4つのカテゴリを区別して表現することもできる。関係性は矢印で示されているが,方向性は上述した通りであるから,矢のない単なる線で表現することもできるし,他の表現でもよい。これらに関しては,表示画面に関して再度述べる。
【0036】
ハザード,リスク,コントロールおよびハザードステイトのカテゴリに分類される用語は文書(文書データを含む)から抽出される。文書には,公開されたものとして,各種医療機器等の添付文書,各種医療機器等の審査報告書,厚労省やPMDAの基準・ガイダンス・ガイドライン,PMDAの通達文・不具合情報,論文,特許文献,学会や業界団体などの各種団体のガイドライン,マニュアルなどがある。さらにアクセス可能な医療機器等のウェブサイト,データベースなどに存在する文書データも用語抽出に用いることができる。添付文書とは,医薬品や医療機器に添付されている,使用上の注意や用法・用量,服用した際の効能,副作用などを記載した書面である。医師をはじめとした医療従事者を含む,製品の使用者を対象に作成される。患者の安全のため,医薬品や医療機器を正しく適切に使用する際の基本となる文書であり,これらの文書は後述する検索の対象にもなりうる。非公開の文書としては,各種医療機器等の安全性に関する大学や企業などにおける未公開の報告書,内部文書などがある。
【0037】
上記文書に記載された文章に含まれ,ハザード,リスク,コントロールおよびハザードステイトのいずれかのカテゴリに該当(属)するものとして抽出(判断)される用語には,後述する例文から明らかになるように,名詞,名詞句,形容詞,形容詞句,形容動詞,動詞,動詞の否定形,これらの複数の組合せ等が含まれる。
【0038】
医療機器,素材等の開発支援システム(コンピュータ)上では,関係性と関係性によって結びつけられる2つの異なる用語との組合せのデータを,関係性データセットとして取扱う。関係性データセットのデータ構造の一例が
図2に示されている。4種類の関係性データセットがある。
【0039】
関係性データセットは,関係性と第1のカテゴリに該当する用語と第2のカテゴリに該当する用語との組合せから構成される。上述したように(
図1に示すように)2つのカテゴリは方向性をもった関係性で結びつけられる。方向性の出発点となる(矢印の根元)カテゴリが第1のカテゴリであり,方向性の到達点となるカテゴリ(矢印の先)が第2のカテゴリである。
【0040】
図2において,態様1(未然に防ぐ)の関係性によって結びつけられる第1のカテゴリはコントロールであり,第2のカテゴリはハザードであるから,態様1の関係性データセットはコントロールに該当する用語(を表わすデータ)とハザードに該当する用語(を表わすデータ)を含む(用語は,コンピュータ(ソフトウェア)処理上は用語を表わすデータ(コードの集まりなど)も意味する)。同様に,態様2の関係性データセットには,コントロール(第1のカテゴリ)に該当する用語とリスク(第2のカテゴリ)に該当する用語が含まれる。態様3の関係性データセットにはハザード(第1のカテゴリ)に該当する用語とリスク(第2のカテゴリ)に該当する用語が含まれる。態様4の関係性データセットにはハザードステイト(第1のカテゴリ)に該当する用語とハザード(第2のカテゴリ)に該当する用語が含まれる。態様1,2,3,4はコンピュータ(ソフトウェア)処理上は記号またはコードによって表わされる。
図2は分りやすくするために関係性データセットを表の形で表現しているが,関係性(態様)と第1のカテゴリと第2のカテゴリとが結びついた表現であれば,いかなる形式(たとえばリスト形式)によって表現してもよい。
【0041】
文章に含まれる4つのカテゴリに該当する用語とそれらの用語間の関係性の具体例については
図3aから
図3hを参照して説明する。これらの図において,リスク,ハザード,コントロールおよびハザードステイトに該当する用語には,それぞれ,実線,破線,一点鎖線および点線で下線が引かれている。
図4aから
図4hには,
図3aから
図3hに示す例文から抽出された関係性データセットが示されている。
【0042】
図3aは左心補助人工心臓システムの添付文書中に含まれる文章の例である。
図4aも参照して以下に説明する。
【0043】
用語「抗凝固剤」はコントロールのカテゴリに該当し,ハザードに該当する用語「埋込み型補助人工心臓」と態様1の関係性を持つ。同じように,「抗凝固剤」はハザードに該当する「患者」と態様1の関係性を持つ。
【0044】
態様1の関係性については,「投与」(コントロール)と「埋込み型補助人工心臓」(ハザード)との組合せ,「投与」と「患者」との組合せがある。
【0045】
ハザードのカテゴリに属する用語「埋込み型補助人工心臓」はリスクのカテゴリに属する用語「血栓形成」と態様3の関係性を持つ。同じように,ハザード「患者」はリスク「血栓形成」と態様3の関係性で組合わされている。
【0046】
態様4の関係性は,ハザードステイトのカテゴリに属する「使用中」とハザードのカテゴリに属する「埋込み型補助人工心臓」とを結びつけている。「使用中」(ハザードステイト)は「患者」(ハザード)とも態様4の関係性をもつ。
【0047】
図3bもまた左心補助人工心臓システムの添付文書中の文章であり,
図4bに示すように,態様1,3,4の関連性によって結びつけられる用語が示されている。
【0048】
図3cは人工股関節大腿骨コンポーネントの添付文書に含まれる文章の例を示している。ここでは,
図4cに示すように態様2の関係性が現われている。
【0049】
すなわち,「処置を行う」というコントロールのカテゴリに属する用語が,態様2の関係性でリスクのカテゴリに属する用語「血栓」と関係づけられている。同じように,「処置を行う」は態様2の関係性でリスクに属する「血管障害」と結びつけられる。
【0050】
「人工股関節大腿骨コンポーネント」(ハザード)と血栓(リスク)の関係性は態様3,同じく「人工股関節大腿骨コンポーネント」(ハザード)と「血管障害」(リスク)の関係性は態様3である。
【0051】
さらにハザードステイトのカテゴリに属する「使用」はハザードのカテゴリの「人工股関節大腿骨コンポーネント」と態様4の関係性で結ばれる。
【0052】
図3a~
図3cには各用語間の関係性が矢印で示されている。一方,
図3d~
図3hの文章には各カテゴリを示す線種の下線が引かれているだけであるが,上記の説明から,関係性の態様が理解できるであろう。念のために,
図4dから
図4hに,
図3dから
図3hに示す文章から抽出される関係性データセットを示しておく。なお,
図3e,
図3fは埋込み型補助人工心臓システムの添付文書中の文章,
図3gは左心補助人工心臓システムの添付文書中の文章,
図3hは人工股関節大腿骨コンポーネントの添付文書中の文章の例である。
【0053】
(2) システム構成
図5は医療機器等の開発支援システムの機能的概略構成を示している。
【0054】
開発支援システムは,1台または複数台のコンピュータ(コンピュータ・システム)により構成される。一部にクラウド・コンピューティング・システムを含んでもよい。
【0055】
開発支援システムは,処理部11,表示処理制御部12,表示装置13,記憶部(記憶手段)14,検索部(検索手段)15および学習部(学習手段)16を含む。これらの各部にはその動作または処理のためのコンピュータ・プログラムが組込まれている。
【0056】
処理部11(関係性データセット作成装置)は,開発支援システムのコンピュータ・システムの中核で,表示処理制御部12,記憶部14,検索部15および学習部16を総括する。処理部11は関係性データセット群の作成処理を行う。処理部11はデータ処理のための一部記憶部(ワークエリア)を備えている。
【0057】
表示処理制御部12は,表示装置13における画面の表示に必要なデータを作成するとともに,表示画面の描画を行う。表示装置13は液晶表示装置などで実現される。
【0058】
記憶部14は,開発支援システムのための必要な諸データを格納する。代表的には,文書データ,関係性データセット群,各種辞書等である。文書データには上述した添付文書,PMDA関連文書,論文,特許文献などのデータがある。このうちで,論文や特許文献は検索部15が外部データベースなどを検索するようにしておけば記憶部14に必ずしも格納しておく必要はない。添付文書,PMDA関連文書も同様に検索部15が検索するようにしてもよい。好ましくは,できるだけ多くの文書データを記憶部14に格納しておく。文書データは,製品名,製造会社名,販売会社名等(添付文書の場合),表題,著者,著者の所属,出典,発行所,発行年月日等(論文,報告書,通知書等の場合),発明の名称,特許権者等(特許の場合)の書誌的事項と,文書の本文とを別個に検索または読出し可能に記憶しておく。必要ならばこれらの文書の抄録または要約を検索,読出し可能に含ませておく。記憶部14は処理部11から独立した記憶装置群(コンピュータ・システム)で構成し,LANやインターネットで処理部11と接続可能としてもよいし,クラウドコンピューティング・システムで構成してもよい。
【0059】
関係性データセット群は,文書から抽出された用語とそれらの関係性の態様とからなり,
図4a~
図4hに示されるような構造をもつ,きわめて多数の関係性データセットの集合であり,一種のデータベースを構成する。関係性データセットはその生成の元となった文章ごと,文書ごと,後述する検索処理により検索された文書群ごと等,適切な文章,文書の単位に対応して記憶される。関係性データセット群に含まれる関係性データセットは,関係性データセット作成処理(関係性データセット作成装置)により作成されたものでもよいし(後述するように,操作者またはユーザが行う入力操作にしたがって関係性データセットを作成する),学習部16が学習の結果,生成したものでもよい。関係性データセット群に含まれる関係性データセットの集合の一部または全部(特に,関係性データセット作成処理により作成されたもの)は学習部16における機械学習のための教師データとして用いられる。
【0060】
各種辞書には,カテゴリ用語辞書,同義語辞書,類義語辞書等が含まれる。カテゴリ用語辞書は,
図9に一例を示すように,4つのカテゴリのそれぞれごとに,各カテゴリに属する用語をまとめたものである。これは作成された関係性データセットからカテゴリ別に用語を取出すことにより作成できる。または操作者,ユーザが手入力により作成してもよい。カテゴリ用語辞書は,検索された文書中の文章から各カテゴリに属する用語を抽出する処理(特に後述する学習処理)に有効に利用できる。同義語辞書は異なる用語でも意味の同じもの(または同じとみなせるもの)(たとえば,英語表記,カタカナ表記,漢字表記等,表記が異なるが同じ意味をもつ,または対応する用語)をまとめたものである。意味の同じ用語のうち代表的なひとつを後述する関係性表示に使用できるので,用語の不統一による混乱を避けることができる。類義語辞書は,異なる用語ではあるが意味が似ているので(たとえば,「破断,断裂,離断」や「挿入不能,迷入,挿入困難」など)関係性表示では一つの用語にまとめた方が好ましいものを掲載したものである。これによっても,用語の不統一による混乱が未然に防止できる。
【0061】
検索部15は,検索条件(後述するデータソースの種類,製品の種類(製品カテゴリ),検索キーワード等)が与えられたときに,記憶部14内に格納された文書または外部のウェブサイトやライブラリから,検索条件に適合する文書を検索するものである。処理部11とは別のコンピュータシステムまたはクラウドコンピューティング・システムによる既存の検索システム(エンジン)により実現してもよい。
【0062】
学習部16は,自然言語処理に基づく機械学習を行うもので,検索部15が検索した文書のうちで関連性データセットが作成されていないものについて,機械学習により,その文書中の文章から各カテゴリに属する用語を抽出するとともに,用語間の関係性を決定して,関係性データセットを作成する。この学習による関係性データセット作成処理ではカテゴリ用語辞書を用いることにより,より正確なカテゴリごとの用語の抽出が可能になる。機械学習には,記憶部14に記憶された既存の関係性データセット群(特に
図6による関係性データ作成処理により作成されたもの)が教師データとして用いられ,これにより医療機器等特有の用語で特化された学習モデルが形成される。学習部16もまた,処理部11とは別のコンピュータ・システムまたはクラウドコンピューティング・システムによる既存の学習システム(エンジン)により実現してもよい。
【0063】
図6は関係性データセット作成処理(関係性データセット作成装置)の流れを示すものである。この処理は主に処理部11によって実行され,その一部は表示装置13と表示処理制御部12が担う。文書データ等の一時的格納のために一時記憶部が用いられる。
【0064】
図6に示す関係性データセット作成処理では,文書中の文章からの用語の抽出とそのカテゴリの決定(指示,指定)および2つの用語間の関係性の付与(決定,指示,指定)は操作者またはユーザによって手作業で行なわれる。この作業を行う操作者またはユーザは医療機器等の分野の専門家であることが好ましく,それによって正確性,信頼性の高い関係性データセット群が生成できる。操作者またはユーザの個人差によるばらつきの発生を未然に防止するために,用語の決定(選定),そのカテゴリの決定,関係性の決定のためのガイドラインをあらかじめ作成しておくことが望ましい。
【0065】
図6において,まず処理の対象となる文書のデータの支援システムへの読込みが行なわれる(S1)。文書が既にコード化(データ化)されている場合には,オンラインでまたは記録媒体等から文書データが読込まれる。文書が紙媒体上に表わされた文字等からなる場合には,文書中の文章をOCR(光学的文字認識(読取))装置によりスキャンし,デジタル文字コードに変換されたものを処理部11が読込み一時記憶部に格納する。また,文書が音声データ(動画に付帯する音声データも含む)として記録されている場合は,音声をデジタル文字コードに変換されたものを処理部が読込み一時記憶部に格納する。もっとも,操作者(作業者)が対象文書中の文字をキーボードから入力してもよい。
【0066】
処理部11に読込まれた文書(文章)のデータは表示処理制御部12を経て表示装置13の表示画面に表示される(S2)。操作者は表示画面をみて,一文ずつ,その文書中に含まれる用語のうちでリスク,ハザード,コントロールまたはハザードステイトの4つのカテゴリのいずれかに該当するものがあれば,その用語を指定するとともにカテゴリを付与,入力する。処理部11は指定された用語とそのカテゴリの入力を受付ける(S3)(第1の受付手段)。用語の指定とカテゴリの付与はさまざまな方法で入力することができる。
【0067】
上述した
図3a~
図3cまたは
図3d~
図3hを参照して,これらの図では用語とそのカテゴリが,下線(アンダーライン)と線種で指定されている。表示された文章において,用語にカテゴリに応じて下線を引くことにより用語とカテゴリを指定(入力)することができる。他には,表示された用語をカテゴリに応じた色でマーキングする方法がある。たとえば,リスクは赤,ハザードは緑,コントロールは黄,ハザードステイトはグレー等の色を使えばよい。その他に,用語に網かけをして,カテゴリをキーボード(たとえばファンクションキー)または表示画面に表示された各カテゴリを示す文字をクリックする,タッチパネル式の表示画面の場合はタッチペンで囲むなどの入力方法もある。紙媒体上に印刷された文章の文字の上にカテゴリに応じて色分けして色を塗り,これをOCRで読取らせてもよい。
【0068】
操作者は既に指定した用語のうちの2つを選択してそれらの用語の関係性(態様1,2,3,4)を入力するので,システムはその入力を受付ける(S4)(第2の受付手段)。2つの用語が指定されれば(指定の順序に関係なく)それらの用語間の関係性は一意に決る(
図2参照)ので,操作者は,2つの用語を指定するだけでよい(たとえば色マーカで色分けされた異なる色の2つの用語を順次クリックする)。指定された用語間の関係性が
図3a~
図3cでは矢印で示されている。
【0069】
処理部11は入力された用語,カテゴリ,関係性の入力データに基づいてそれらを関連づけ,関係性データセットを作成し,一時記憶部に格納する(S5)(関係性データセット作成手段)。
【0070】
一般には操作者は,表示装置13に表示される文書の一文(句点で区切られた1つの文章)ごとに,その文章に含まれる一部またはすべての用語の指定,カテゴリの指定,関係性の付与を行う。これらの操作は,表示された文書(必要に応じて表示画面上でスクロールされる)のすべての文章について,または操作者が必要と考える部分(文書の一部分)について終了するまで繰返し続けられる(S6)。
【0071】
表示された対象文書のすべての文章についてS3~S5の処理が繰返されれば,または操作者が終了の旨を入力すれば,それまでに作成され,一時格納されていた関係性データセット群が,文書を特定する書誌的事項のデータとともに,記憶部14に格納される(S7)。
【0072】
このような関係性データセット群の作成が記憶部14に格納されているすべての文書について行なわれれば,記憶部14における文書データベースに対応する関係性データセット群データベース(そのほんの一部を
図4a~
図4hに示すような)が完成する。検索部15が外部のウェブサイト等から検索してきた文書について,同様にして,関連性データセット群を生成することもできる。または,関係性データセット群が作成されていない文書について,学習部16が学習を行った結果生成された関係性データセット群を記憶部14に格納することもできる。もっとも,この場合,学習の結果,生成された関係性データセット群を用いて学習対象の文書の文章を再現し,すなわち,
図3a~
図3cに一例を示すような,文書中に用語と,カテゴリと,関係性とを区別して表わした画面を表示して(下線の種類の代わりに異なる色で色付けしてもよい),操作者(専門家)が学習結果をチェックし,必要に応じて用語,カテゴリ,関係性を表示画面上で修正して,より正確な関係性データに訂正した後に,記憶部14に格納してもよい。このようにして修正された関係性データセットを教師データに加えて,学習部16に再学習(学習モデルの再構築)させることが好ましい。
【0073】
このような検索,学習,修正等の処理,操作を繰返していけば,記憶部14における文書データベース,関係性データセットデータベースは一層豊富化されていくことなる。
【0074】
(3) 用語の関係性表示
用語間の関係性のつながり,または連鎖はツリー構造(木構造)で表現される。その一例が
図10に示されている。
【0075】
ツリー構造表現(表示)は,ノード(節点)とノードを結ぶ(リンクする)コネクション(リンクまたは枝)により表わされる。ノードは用語を表現するものである。
図10ではノードは楕円形で示され,楕円形図形の中に用語が表わされている。楕円形はカテゴリを示す線種(上述したようにリスクは実線,ハザードは破線,コントロールは一点鎖線,ハザードステイトは点線で表わす)で描かれている。カテゴリは色の種類,ハッチングの有無等により表わしてもよい。ノードは楕円のみならず,上述したように種々の形状で表現され得るが,小さな円や点等で表わし,それに隣接して用語を配置してもよい。コネクションはノードを関連付けるもの,すなわち2つの用語間の関係性を表わす。
図10ではコネクションは実線の線(直線)で表現されている。コネクションは他の表現,たとえば他の線種,異なる色の線または帯等を用いて表現してよい。関係性は方向性をもっているので,コネクションを矢印で表現してもよい。
図10では簡素化のために方向性表現を省略している。結びつけられる,または連鎖するカテゴリ表現だけで関係性の方向性は理解できるので,関係性の方向性は必ずしも表現(表示)しなくてもよい。用語間は関連性で結びつけられているので,必ずしも一般的に言われる親子関係とは一致しない。
【0076】
ツリー構造の出発点(頂点)となるノード(根ノード)をこの明細書では出発ノードという。出発ノードのカテゴリは,後述するところから分るように,好ましくはユーザによって指定される。
図10においてはリスクのカテゴリが選択され,「血栓」という用語が表わされている。出発ノードの用語(「血栓」)は,具体的には後述するが,1または複数の対象文書(検索された文書)において指定されたカテゴリの中で最も出現数の多い(最も頻繁に出現する)用語であるか,または出現数の多いいくつかの用語の中から選定される。この場合,各用語の計数値に重み付けをしてもよい。
【0077】
出発ノードから3本の第1階層コネクションが延び,(枝分れして)次のノードに連結している。ノードからのびるコネクションの段階(数)を階層(数)という。
図10は2階層のツリー構造である。出発ノードのカテゴリが「リスク」であるから,「リスク」に関係性で結ばれるカテゴリは「ハザード」または「コントロール」である。対象文書において,ハザードまたはコントロールのカテゴリに属し,かつ出現数の多い用語(
図10ではハザード)に属する「ポンプ」と「人工関節」,コントロールに属する「処理を行う」が第1階層のコネクションにつながるノード(第1階層ノードという)に現わされている。1つのノードから延びるコネクションの数もユーザが指定できるようにすることが好ましい。
【0078】
続いてこれらの第1段階のコネクションにつながる第1階層ノードから第2段階のコネクションが引かれ,次のノード(第2階層ノード)に結びついている。ハザードと関連性があるカテゴリはリスク,ハザードステイトまたはコントロールであるから,ハザードに属する「ポンプ」と「人工関節」には,これらのカテゴリの用語の中で対象文書において出現数が多い用語「長時間」,「過負荷」(以上,ハザードステイト),「ゆるみ」(リスク),「補強する」(コントロール)(一部,図示略)がリンクしている。コントロールのカテゴリに属する「処置を行う」には,ハザードまたはリスクに属する用語(図示略)が第2階層コネクションにより結びつけられている。好ましくはコネクションの階層数もユーザによって選択(指定)される。
【0079】
図10において,すべての楕円形は同じ大きさで描かれているが,用語の出現数に応じて楕円の大きさを変えてもよい。出現数の多い用語ほど楕円の大きさを大きくすれば,出現数の多い用語であることが視認できる。用語に加えて出現数を表示することが好ましい。カテゴリを線種ではなく色で表現する場合には,用語の出現数に応じて円形(楕円)の色の濃さを変えてもよい。関係性についても同様に,関係性の出現数(同じ関係性,すなわち関係性によって結ばれる2つのカテゴリの用語が同じもの)に応じて,コネクションを表わす直線の太さ(幅)や色の濃さを変えてもよい(たとえば,出現数の多いコネクションほど線を太くする)。また,強調したい結果については画面上で楕円形やコネクションを振動,拡縮,点滅させてもよい。
【0080】
(4) 支援システムの動作と表示画面
図7は医療機器,素材等の開発支援システムの全体的な動作を示している。
【0081】
表示装置13の表示画面上で,後述するように,検索条件(範囲,キーワード等)の設定と,関係性表示条件の設定が行なわれる(S11)(出発カテゴリ指定手段,出発ノード数指定手段,コネクション数指定手段,階層数指定手段)。
【0082】
設定された検索条件の下で,検索部15において検索が行なわれ,検索条件に合致する内容をもつ1または複数の文書が得られる(S12)。
【0083】
検索により取得された1または複数の文書の文章中に含まれる用語の抽出と抽出された用語間の関係性の解析が行なわれ,関係性データセット群が作成される(S13)。検索により得られた文書について既に関係性データセットが作成されていれば,この処理は該当する文書の関係性データセットを記憶部14から読み出せば足りる。関係性データセットが未作成の文書については,自動的に行なおうとすれば学習部16における学習により関係性データセットが作成される。学習部16における学習結果が表示装置13に表示され,ユーザが表示内容を適宜修正して関係性データセットを完成させてもよい。または,検索により得られた文書のうちの一部(または全部)については,最初から表示画面に表示された文書(文章)においてユーザが上述したように手作業で関係性データセットを作成してもよい。
【0084】
いずれにしても完成した関係性データセットに基づいて
図10に示すようなツリー構造を表わすのに必要なデータが作成される(S14,表示処理)(関係性表示処理手段)。最後に,検索により得られた文書のリストと,表示処理で得られたデータに基づくツリー構造の関係性画面が描画プログラムにより描画され,表示装置13の表示画面に表示される(
図15)。必要に応じて,ユーザは,後述するように,検索条件を追加したり関係性表示条件を変更したり,表示画面に表示されたノードを操作(追加,消去,移動など)したりしながら,医療機器等の開発に必要な情報を表示画面上から獲得する。
【0085】
図11は表示装置13における表示画面の一例を示し,
図12は表示画面に表示されるツリー構造の連鎖の関係性表示の例を示している。
【0086】
図11において,表示画面20の右上には,検索を希望するデータソースを選択するボックス21と,検索対象(データソース)が添付文書の場合には,その添付文書の製品の種類(製品のカテゴリ)を選択するボックス22がある。いずれのボックスもプルダウンリストから選択できるようになっている。たとえばデータソースには,医療機器の添付文書,医療機器の審査報告書,官公庁やPMDA等の文書,論文,特許文献,すべての文書などの文書カテゴリがあり,これらの文書カテゴリがプルダウンリストで表示されるので,ユーザは所望のデータソースを選択する。この実施例では添付文書が選択されたものとする。製品の種類には,補助人工心臓や人工関節,人工内耳,その他の製品等,およびすべての製品等の項目がプルダウンリストに表示されるので,ユーザは所望の商品の種類を選択できる。この実施例ではすべての製品が選択されたものとする。次に述べるキーワードに関連する情報をすべての製品の添付文書にわたって網羅的に調べたいという趣旨である。
【0087】
表示画面20の左上には入力された検索キーワードを表示するボックス23がある。この実施例では,キーボードから「ポンプ」と「血栓」がAND条件で入力されたものとする。補助人工心臓を含むすべての種類の医療機器においてポンプに起こる血栓の諸条件を調べたいとする趣旨である。検索キーワードは,たとえば「ポンプに関係する血栓は」のように自然文で入力することもできる。以上が検索条件の設定(S11)である。検索を開始させるための検索ボタン24はボックス23の右斜め下に配置されている。すなわち,このボックス(ボタン)23をクリックすれば検索部15による検索処理が開始される。
【0088】
表示画面20の検索キーワード表示の下には,設定された関係性表示の条件を表示する表示ボックス31~34がある。いずれもプルダウンリストから選択できる。
図10を参照して説明した出発用語ノードのカテゴリには「リスク」が選択され,ボックス31に表示されている。出発ノード数というのは,選択したカテゴリの出発ノード(頂点となるノード)をいくつ表示するかということを意味する。最大8個まで選択することができる。出発ノードのカテゴリは関係性表示の中心となるものであって,最初はできるだけ沢山のリスクのカテゴリに属する用語を見たいとユーザが考えれば,一例として最大数8が設定される。ここでは図面の簡素化のためにボックス32に4が設定されている。コネクション数というのは,各出発ノードからのびる第1階層のコネクションの数をいう。一例として3~8の数字が選択可能であり,ここでは便宜的に3がボックス33に表示されている。階層(数)は上述したように,出発ノードからのびるコネクションの階層数であり,一例として1~3の中から選択可能であり,この実施例では2がボックス34に表示されている。
【0089】
さらに表示画面には,表示を希望するノードのカテゴリを選択する表示欄がある。4つのカテゴリ,ハザード,ハザードステイト,リスクおよびコントロールの文字が,対応する線種で表わされたボックス41~44の中に表示され,各ボックスの左側にはチェックボックス(チェックボタン)41a~44aが設けられている。チェックが入っているボックスに表示されたカテゴリが表示の対象となる。ここでは4つのすべてのカテゴリが表示の対象である。以上が関係性表示条件の設定(
図7,S11)に対応する。
【0090】
表示画面の多くの部分を占める領域には,関係性表示欄51と文書リスト表示欄52が設けられている。関係性表示欄51にはツリー構造の関係性表示画面が表示される。その一例が
図12に示されている。文書リスト表示欄52には,最初は,設定された検索条件にしたがう検索により得られた(
図7,S12)文書の書誌的事項(リスト)が表示される。検索結果リストに表示される文書の数はあらかじめ定めておいてもよいし,その順番も,文書に含まれる検索キーワードの数等に応じて定めてもよい。検索対象の文書として添付文書が選択されているので,検索された添付文書の製品の製品名や製造会社名等が表示される(
図7,S12)。必要に応じて検索された文書の本文(内容)も表示される。
【0091】
検索条件(データソースは添付文書,製品の種類はすべての製品,キーワードはポンプと血栓)を満たす,検索により得られた(
図7,S12)すべて,または所要上限数の文書に含まれる文章に記述された用語が抽出され,それらの用語の関係性が解析され,関連性データセット群が作成される(
図7,S13)。
【0092】
続いて表示処理が行なわれる(
図7,S14)。表示処理の詳細が
図8に示されている。
【0093】
作成された関連性データセット群の中から出発ノードのカテゴリが「リスク」に属する用語がすべて抽出される。それらの用語の中から同じ用語(たとえば「血栓」という用語)の数(出現数)が,異なる用語ごとに計数される。この実施例では出発ノードとして4が設定されているので,計数値(出現数)の多い順に4つの用語が選択され,出発ノードに設定され(
図8,S21),これが表示される(
図7,S15)。
図12では,4つのリスクの出発ノードに,それぞれ「血栓」,「異常」,「損傷」,「骨折」が表示されている。出現数の多い順に設定数「4」つの用語を抽出するのではなく,たとえば出現数の多い順に設定数よりも多い所定数(たとえば10)の用語のリストを表示し,その中からユーザに選択させ,選択された用語(この例では4つ)を出発ノードの用語として表示してもよい。出現数は,用語ごとに重み係数を設定しておき,計数値に重み計数を乗じた値としてもよい。また,同義語,類義語が出現している場合には,それらも計数し,同義語,類義語の代表語のみを表示してもよい。用語ごとに,用語に隣接してその出現数(重み付けした値でも,同義語や類義語の数を含ませてもよい)を表示することが好ましい。用語の重みづけは,用語自体に重み付けするものであっても,記載文書それ自体や文書における用語の記載位置に応じて重み付けられるものなどであってもよい。
【0094】
出発ノードに設定された4つの用語のうち,1つが着目用語として選定され,
図10を参照して説明したように,その着目用語と関係性をもつ他のカテゴリのすべての用語を上記の作成した関係性データ群の中から取得して(S22),同じ用語の数(出現数)を計数する(S23)。設定されたコネクション数は3であるから,計数した用語の出現数のうち多い順に3つの用語を選択し,3つのコネクションによって連鎖する次の階層(第1階層)のためのノード(第1階層ノード)に設定する(S24)。これによって出発ノードからのびる第1階層のコネクションにつながるノードの表示が行なわれる。たとえば,
図12では,出発ノードの「骨折」に「人工関節」,「大腿骨」(いずれもハザード),「処置を行う」(コントロール)がコネクションで連続されている。
図12では,関係性を分りやすくするために,または作図の便宜上4つ以上のコネクションがのびているノードや,2つ以下のコネクションしかつながっていないノードも例外として描かれている。数の多い順ではなく,上述したように設定コネクション数以上の候補用語を表示し,ユーザに選択させてもよい。
【0095】
出発ノードについての用語は,「血栓」の他に「異常」,「骨折」,「損傷」があるので,これらの用語についてS22~S24を繰返し(S25),表示が行なわれる。
【0096】
このようにして,第1階層のコネクションに連続する第1階層ノードについて用語の設定が終了すると,第1階層コネクションに連続するノードの用語(4×3=12個)の1つについてS22からの処理を繰返し,第2階層のコネクションに連続するノードの用語が決定され,表示される。設定された階層数の繰返しが終了すると,表示処理が終る(S26)。第1階層からのびるコネクションの数を出発ノードについて設定された数としてもよいし,出発ノードのコネクションの数と異なる値を設定させてもよい。
【0097】
ノードを示す楕円形は対応する用語の出現数を反映するようにその大きさを(大きく,または小さく)描くことが好ましく,また,コネクションについても,出現数を反映するように,その太さが(太く,または細く)描くことが好ましい(
図12においては,作図の便宜上,一部についてのみ楕円の大きさや線の太さが変えられている)。出発カテゴリの用語を,出発カテゴリであることが分るように,太字で表示するとよい。上記のように用語の出現数をノード内またはノードに隣接して表示してもよい。
【0098】
このようにして,検索キーワードに関連する文書に現われている用語(検索キーワードを含む)のカテゴリとそれらの関連性が,一または複数の出発カテゴリの用語を中心,一または複数のツリー構造として(複数の場合にはツリー構造が錯綜した状態で)表示される。しかも,データソースに含まれる多くの種類の製品や分野から網羅的に用語が選択されているので,それらの関連性を視認できる。
図12では補助人工心臓の分野の用語(たとえば「補助人工心臓」の用語等)と人工関節の用語(たとえば「人工関節」の用語等)が互いに密接に絡んでいるのが分る。一の分野の製品の開発のために他の分野の製品についての情報を得,参考にすることができる。この実施例では「血栓」が検索キーワードとして用いられ,この用語がノードにも出現しているが,たとえば「感染」という検索キーワードを用いれば,さらに多くの種類の医療機器に関する情報(用語)が表示されるであろう。
【0099】
最後に,この実施例の医療機器,素材等の開発支援システムの活用例のいくつかについて説明する。
【0100】
図11の表示画面では,ハザード,ハザードステイト,リスクおよびコントロールの4つのカテゴリのすべてについてチェックボックス41a~44aがチェックされているので,関係性表示欄には4種類のカテゴリのすべてについてノードが表示されている。多くのノードがあって煩雑にみえるときや特定のカテゴリについて詳細に検討したいときには,1または複数のカテゴリのチェックをとり,そのカテゴリを非表示にすることができる。
【0101】
図13はコントロールのチェックボックス44aのチェックをとった(消去した)画面を示している。関係性表示欄51ではコントロールのノードの表示が消える。このときの関係性表示画面が
図14に示されている。これは,検索キーワードの「ポンプ」,「血栓」に関連する「リスク」を精査したいので「コントロール」のノードを非表示にしたものである。一般的には文書リスト表示部52の表示は変化しない。
【0102】
関係性表示欄51に表示されているノードを見やすいように並べ換えることもできる。これは表示処理制御部12の公知のドラッグ・アンド・ドロップの機能を利用すればよい。ハザードのカテゴリには医療機器やその部材が分類されることが多い。そこでハザードのカテゴリ(医療機器,部材)を中心に「リスク」を精査する場合(コントロールは非表示のまま),
図15に示すように,ハザードのノードを画面中心部に移動させる。リスクのノードは,画面上ハザードのノードの右側に,ハザードステイトのノードは左側に配置する。検索キーワード「ポンプ」,「血栓」に関連するリスクのカテゴリの用語を,複数分野(複数種類または複数カテゴリ)(この例では人工心臓と人工関節)の医療機器と関連づけて視認することができる。
図15では一部のノードを分りやすくするために太線のリンクで結びつけている。
【0103】
より詳細に調べるためにリスクのカテゴリの「損傷」をクリックする。「ポンプ」,「血栓」,「損傷」を検索キーワードとして再度検索が行なわれ,得られた文書のリストが文書リスト表示欄52に表示される。リスク「損傷」に関係づけられた「血管」に関する文書も検索するようにしてもよい。リスク「損傷」に関係づけられたハザード「血管」の「血栓」が調べられる。文書リスト表示欄52に表示された文書の1つをクリックすると,その文書の抄録または本文が,
図16に示すように,文書リスト表示欄52に表示される。この表示された文書では検索キーワード「血栓」等の文字が太字表示または色を変えて表示される(
図16では下線を引いて明示してある)。
【0104】
より見やすくするために,
図17に示すように,リスクのカテゴリのノードを最も左側に縦方向に一列に並べ,それらに関連するハザードのノードを中央に縦に並べ,さらに表示されているハザードに関係するハザードステイトのノードを最も右側に並べることができる。このときにも当然ながらリスク,ハザード,ハザードステイトの関係性(コネクション)は保持されている。ノードを表示画面上でどのように移動させても,ノード間の関係性(コネクション)は保たれる。
【0105】
このような整然とした並びの表示により,検索キーワードである「ポンプ」,「血栓」に関係するリスクのノードの一覧が一目で分り,上述したように,各リスクについて検索を追加してリスク分析を行うことができる。各リスク(リスクに該当する用語で表わされる)が想定される医療機器,部材等が,リスクのノードの列に隣接するハザードのノードの列から分る。さらにハザードのノードに連結するハザードステイトの列から,各リスクが想定される医療機器,部材等のリスクに至る(変化する)諸条件が理解できる。
【0106】
特定のリスク,たとえば「有害事象」をさらに精査するために(
図17では,強調するために,有害事象に至るコネクションが太い線で示されている),「有害事象」の用語に対応するノードをクリックする。すると,「ポンプ」,「血栓」,「有害事象」を検索キーワードとする検索が行なわれ,その結果が文書リスト表示欄52に表示される。リスト表示欄52に表示された文書リストのひとつをクリックすると,その文書の抄録または本文が表示欄52に表示されるのは,
図16を参照して説明した通りである。必要ならば検索部15はネットワークで接続された他のウェブサイトの文献等を取得して表示してもよい。これは,文書リスト表示欄52に表示された文書の原典(情報源)をたどる場合に有効である。
【0107】
図18はさらに他の表示例を示している。カテゴリ「コントロール」のチェックボックス44aにチェックが入れられ,「ハザードステイト」のチェックボックス42aのチェックが消され,リスク,ハザード,コントロールの3つのカテゴリのノードが表示される。
【0108】
上述したように(
図1参照),カテゴリ「コントロール」は「リスク」を「低減する」ものとして関係づけられる。また,「ハザード」との関係では,「コントロール」は「ハザード」を「未然に防ぐ(予防する)」ものとして関係づけられる。これらの「リスク」と「コントロール」,「ハザード」と「コントロール」の関係性を分り易くするために,
図18に示すように,画面の中央部に,「ハザード」に属する用語のノードの列と,「リスク」に属する用語のノードの列とを隣接して縦に並べる。そして,これらの「ハザード」のノード列と「リスク」のノード列の外側にこれらのカテゴリに関係する「コントロール」に属する用語のノードを配置する。
【0109】
この画面表示により,リスク低減の関係性(画面右側のリスクとコントロールの関係性)およびリスク予防の関係性(画面左側のハザードとコントロールの関係性)が一目して理解できる。必要に応じて所望のノードをクリックして検索を行えばよい。
【0110】
図19はさらに他の表示例を示している。これまでの説明では出発用語カテゴリ(ボックス31)は「リスク」であったが,「ハザード」を中心に調べるために出発用語カテゴリを「ハザード」に変更する。煩雑さを避けるために「コントロール」のカテゴリは非表示とされる。すると,
図19に示すように,ハザードのノードの用語が画面の中央に表示される。これにより,「ハザード」の用語ごとに,それに関係づけられた「ハザードステイト」の用語を精査することができる。たとえば,「ハザード」のカテゴリの「ポンプ」,「血液ポンプ」がハザードステイトのカテゴリの「停止」と関係していることが分る(これらのノードのコネクションを太い線で示す)。必要に応じて,所望のノードをクリックして検索を行い,より詳細に調査を行う。
【符号の説明】
【0111】
11 処理部
12 表示処理制御部
13 表示装置
14 記憶部
15 検索部
16 学習部
21 データソース表示ボックス
22 製品種類表示ボックス
23 検索キーワード表示ボックス
24 検索ボタン
31 出発用語カテゴリボックス
32 表示ノード数ボックス
33 コネクション数ボックス
34 階層数ボックス
41~44 カテゴリ表示ボックス
41a~44a チェックボックス
51 関係性表示欄
52 文書リスト表示欄
【要約】
【課題】医療機器,素材等の開発において,安全性に関する情報を異種分野間でも可視的に取得できるようにする。
【解決手段】医療機器,素材等に関連する所与の文書の文書中に含まれる用語であって,ハザード,ハザードステイト,リスクおよびコントロールのいずれかの異なるカテゴリに属する2つの用語と,それらの用語間を関連づける関係性とによって構成される関係性データセットの集合を文書ごとにメモリに記憶しておく。着目階層のノードの用語,および着目階層のノードに関係性でつながる次階層のノードの用語を,各用語に対応するノードと各階層のノードをつなぐコネクションとからなるツリー構造として,用語の属するカテゴリを明示した形態で表示する。
【選択図】
図12