(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-01-06
(45)【発行日】2022-02-04
(54)【発明の名称】耐震安全性能診断システム、耐震安全性能診断プログラム及び耐震安全性能診断方法
(51)【国際特許分類】
G01M 7/02 20060101AFI20220128BHJP
【FI】
G01M7/02 H
(21)【出願番号】P 2021126993
(22)【出願日】2021-08-02
【審査請求日】2021-08-17
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】517337688
【氏名又は名称】松本設計ホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100224926
【氏名又は名称】内田 雄久
(74)【代理人】
【識別番号】100120868
【氏名又は名称】安彦 元
(72)【発明者】
【氏名】平間 敏彦
【審査官】森口 正治
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-164007(JP,A)
【文献】特開2004-27762(JP,A)
【文献】特開2006-64483(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01M 7/00-7/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
木造の構造物の耐震安全性能を診断するための耐震安全性能診断システムであって、
前記構造物の質量と、前記構造物の耐力と変位とに基づいて設定されたエネルギー吸収能力と、を記憶する記憶部と、
前記構造物に作用する地震動を計測する計測部と、
計測された地震動と前記質量とに基づいて、前記構造物へ入力される入力エネルギーを演算する演算部と、
前記エネルギー吸収能力を参照し、前記入力エネルギーに基づいて、前記構造物の耐震安全性能を診断した診断結果を生成する診断部と、
前記診断結果を報知する報知部と、
を備え
、
前記演算部は、
計測された地震動と前記質量とに基づいて、前記構造物へ入力される総入力エネルギーを演算し、
前記総入力エネルギーと前記質量とに基づいて、総入力エネルギー等価速度を演算し、
前記総入力エネルギー等価速度と前記構造物の減衰とに基づいて、有効入力エネルギー等価速度を演算し、
前記有効入力エネルギー等価速度と前記質量とに基づいて、前記構造物の損傷に寄与する有効入力エネルギーを演算し、
前記診断部は、
前記エネルギー吸収能力を参照し、前記有効入力エネルギーに基づいて、前記構造物の耐震安全性能を診断した診断結果を生成すること
を特徴とする耐震安全性能診断システム。
【請求項2】
前記記憶部は、
前記構造物の降伏耐力と前記降伏耐力に対応する変位とに基づいて設定される第1エネルギー吸収能力と、
前記構造物の最大耐力と前記最大耐力に対応する変位とに基づいて設定されるとともに前記第1エネルギー吸収能力より大きい第2エネルギー吸収能力と、
前記第2エネルギー吸収能力より大きい第3エネルギー吸収能力と、を記憶し、
前記診断部は、
前記第1エネルギー吸収能力と、前記第2エネルギー吸収能力と、前記第3エネルギー吸収能力と、を参照し、前記入力エネルギーに基づいて、前記構造物の耐震安全性能を診断した診断結果を生成すること
を特徴とする請求項
1記載の耐震安全性能診断システム。
【請求項3】
前記記憶部は、過去の前記入力エネルギーを記憶し、
前記診断部は、前記第1エネルギー吸収能力を超える過去の前記入力エネルギーを累積した累積エネルギーと、前記第3エネルギー吸収能力と、に基づいて、前記構造物の耐震安全性能を診断した診断結果を生成すること
を特徴とする請求項
2記載の耐震安全性能診断システム。
【請求項4】
前記構造物は、複数の階層を有し、
前記記憶部は、各階層における前記エネルギー吸収能力と、前記入力エネルギーを各階層に分配するためのエネルギー分配率を記憶し、
前記演算部は、前記構造物へ入力される前記入力エネルギーと、前記エネルギー分配率とに基づいて、各階層に入力される入力エネルギーを演算し、
前記診断部は、各階層における前記エネルギー吸収能力を参照し、各階層に入力される前記入力エネルギーに基づいて、各階層の耐震安全性能を診断した診断結果を生成すること
を特徴とする請求項1~
3の何れか1項記載の耐震安全性能診断システム。
【請求項5】
構造物の耐震安全性能を診断するための耐震安全性能診断プログラムであって、
前記構造物の質量と、前記構造物の耐力と変位に基づいて設定されたエネルギー吸収能力と、を記憶する記憶ステップと、
前記構造物に作用する地震動を計測する計測ステップと、
計測された地震動と前記質量とに基づいて、前記構造物へ入力される入力エネルギーを演算する演算ステップと、
前記エネルギー吸収能力を参照し、前記入力エネルギーに基づいて、前記構造物の耐震安全性能を診断した診断結果を生成する診断ステップと、
前記診断結果を報知する報知ステップと、をコンピュータに実行させ
、
前記演算ステップでは、
計測された地震動と前記質量とに基づいて、前記構造物へ入力される総入力エネルギーを演算し、
前記総入力エネルギーと前記質量とに基づいて、総入力エネルギー等価速度を演算し、
前記総入力エネルギー等価速度と前記構造物の減衰とに基づいて、有効入力エネルギー等価速度を演算し、
前記有効入力エネルギー等価速度と前記質量とに基づいて、前記構造物の損傷に寄与する有効入力エネルギーを演算し、
前記診断ステップでは、
前記エネルギー吸収能力を参照し、前記有効入力エネルギーに基づいて、前記構造物の耐震安全性能を診断した診断結果を生成すること
を特徴とする耐震安全性能診断プログラム。
【請求項6】
構造物の耐震安全性能を診断するための耐震安全性能診断方法であって、
前記構造物に作用する地震動を計測する計測ステップと、
計測された地震動と前記構造物の質量とに基づいて、前記構造物へ入力される入力エネルギーを演算する演算ステップと、
構造物の耐力と変位とに基づいて設定されたエネルギー吸収能力を参照し、前記入力エネルギーに基づいて、前記構造物の耐震安全性能を診断した診断結果を生成する診断ステップと、を備え
、
前記演算ステップでは、
計測された地震動と前記質量とに基づいて、前記構造物へ入力される総入力エネルギーを演算し、
前記総入力エネルギーと前記質量とに基づいて、総入力エネルギー等価速度を演算し、
前記総入力エネルギー等価速度と前記構造物の減衰とに基づいて、有効入力エネルギー等価速度を演算し、
前記有効入力エネルギー等価速度と前記質量とに基づいて、前記構造物の損傷に寄与する有効入力エネルギーを演算し、
前記診断ステップでは、
前記エネルギー吸収能力を参照し、前記有効入力エネルギーに基づいて、前記構造物の耐震安全性能を診断した診断結果を生成すること
を特徴とする耐震安全性能診断方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、耐震安全性能診断システム、耐震安全性能診断プログラム及び耐震安全性能診断方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、非特許文献1では、運動方程式の両辺を地震継続時間で積分してエネルギーの釣合式を作成し、エネルギー授受の観点から地震時の構造物の挙動(壊れ方)を把握する手法(エネルギー法)が開示されている。しかしながら、このエネルギー法は、あくまで構造物を設計する際に用いられるものであって、構造物の耐震安全性能を診断するものではない。
【0003】
また、耐震性能を診断する技術として、特許文献1が開示されている。
【0004】
特許文献1の残存耐震性能評価プログラムは、地震被災後の多層構造物の残存耐震性能を評価するためコンピュータを、前記構造物の弾塑性応答解析モデルを記憶する記憶手段、前記解析モデルに強さの異なる想定地震動を入力して階層毎の荷重-層間変形履歴を求めるサイクルを安全限界に達する階層が検出されるまで繰り返し且つその検出階層の累積塑性変形倍率として前記構造物の保有耐震性能を算出する算出手段、及び前記解析モデルに被災時の計測地震動を入力して前記検出階層の累積塑性変形倍率として前記構造物の消費耐震性能を算出し且つその消費耐震性能と保有耐震性能とから前記構造物の残存耐震性能を判定する判定手段として機能させる。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【文献】秋山宏「エネルギーの釣合に基づく建築物の耐震設計」技報堂出版, 1999年11月26日発行
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1の開示技術では、解析モデルに強さの異なる想定地震動を入力して階層毎の荷重-層間変形履歴を求めるサイクルを安全限界に達する階層が検出されるまで繰り返し且つその検出階層の累積塑性変形倍率として前記構造物の保有耐震性能を算出する。このため、地震動が発生したとしても、複雑な解析モデルによる演算を行う必要があり、即座に耐震安全性能を診断することができない、という事情がある。したがって、地震動が発生した際の構造物の耐震安全性能を即座に診断する技術が切望されている。
【0008】
本発明は、上述した問題点に鑑みて案出されたものであり、その目的とするところは、地震動が発生した際の構造物の耐震安全性能を診断することが可能となる技術を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、エネルギー法から着想を得て研究開発を行い、地震動が発生した際に構造物の耐震安全性能を即座に診断できる本発明を完成するに至った。
【0010】
第1発明に係る耐震安全性能診断システムは、木造の構造物の耐震安全性能を診断するための耐震安全性能診断システムであって、前記構造物の質量と、前記構造物の耐力と変位とに基づいて設定されたエネルギー吸収能力と、を記憶する記憶部と、前記構造物に作用する地震動を計測する計測部と、計測された地震動と前記質量とに基づいて、前記構造物へ入力される入力エネルギーを演算する演算部と、前記エネルギー吸収能力を参照し、前記入力エネルギーに基づいて、前記構造物の耐震安全性能を診断した診断結果を生成する診断部と、前記診断結果を報知する報知部と、を備え、前記演算部は、計測された地震動と前記質量とに基づいて、前記構造物へ入力される総入力エネルギーを演算し、前記総入力エネルギーと前記質量とに基づいて、総入力エネルギー等価速度を演算し、前記総入力エネルギー等価速度と前記構造物の減衰とに基づいて、有効入力エネルギー等価速度を演算し、前記有効入力エネルギー等価速度と前記質量とに基づいて、前記構造物の損傷に寄与する有効入力エネルギーを演算し、前記診断部は、前記エネルギー吸収能力を参照し、前記有効入力エネルギーに基づいて、前記構造物の耐震安全性能を診断した診断結果を生成することを特徴とする。
【0013】
第2発明に係る耐震安全性能診断システムは、第1発明において、前記記憶部は、前記構造物の降伏耐力と前記降伏耐力に対応する変位とに基づいて設定される第1エネルギー吸収能力と、前記構造物の最大耐力と前記最大耐力に対応する変位とに基づいて設定されるとともに前記第1エネルギー吸収能力より大きい第2エネルギー吸収能力と、前記第2エネルギー吸収能力より大きい第3エネルギー吸収能力と、を記憶し、前記診断部は、前記第1エネルギー吸収能力と、前記第2エネルギー吸収能力と、前記第3エネルギー吸収能力と、を参照し、前記入力エネルギーに基づいて、前記構造物の耐震安全性能を診断した診断結果を生成することを特徴とする。
【0014】
第3発明に係る耐震安全性能診断システムは、第2発明において、前記記憶部は、過去の前記入力エネルギーを記憶し、前記診断部は、前記第1エネルギー吸収能力を超える過去の前記入力エネルギーを累積した累積エネルギーと、前記第3エネルギー吸収能力と、に基づいて、前記構造物の耐震安全性能を診断した診断結果を生成することを特徴とする。
【0015】
第4発明に係る耐震安全性能診断システムは、第1発明~第3発明の何れかにおいて、前記構造物は、複数の階層を有し、前記記憶部は、各階層における前記エネルギー吸収能力と、前記入力エネルギーを各階層に分配するためのエネルギー分配率を記憶し、前記演算部は、前記構造物へ入力される前記入力エネルギーと、前記エネルギー分配率とに基づいて、各階層に入力される入力エネルギーを演算し、前記診断部は、各階層における前記エネルギー吸収能力を参照し、各階層に入力される前記入力エネルギーに基づいて、各階層の耐震安全性能を診断した診断結果を生成することを特徴とする。
【0016】
第5発明に係る耐震安全性能診断プログラムは、構造物の耐震安全性能を診断するための耐震安全性能診断プログラムであって、前記構造物の質量と、前記構造物の耐力と変位に基づいて設定されたエネルギー吸収能力と、を記憶する記憶ステップと、前記構造物に作用する地震動を計測する計測ステップと、計測された地震動と前記質量とに基づいて、前記構造物へ入力される入力エネルギーを演算する演算ステップと、前記エネルギー吸収能力を参照し、前記入力エネルギーに基づいて、前記構造物の耐震安全性能を診断した診断結果を生成する診断ステップと、前記診断結果を報知する報知ステップと、をコンピュータに実行させ、前記演算ステップでは、計測された地震動と前記質量とに基づいて、前記構造物へ入力される総入力エネルギーを演算し、前記総入力エネルギーと前記質量とに基づいて、総入力エネルギー等価速度を演算し、前記総入力エネルギー等価速度と前記構造物の減衰とに基づいて、有効入力エネルギー等価速度を演算し、前記有効入力エネルギー等価速度と前記質量とに基づいて、前記構造物の損傷に寄与する有効入力エネルギーを演算し、前記診断ステップでは、前記エネルギー吸収能力を参照し、前記有効入力エネルギーに基づいて、前記構造物の耐震安全性能を診断した診断結果を生成することを特徴とする。
【0017】
第6発明に係る耐震安全性能診断方法は、構造物の耐震安全性能を診断するための耐震安全性能診断方法であって、前記構造物に作用する地震動を計測する計測ステップと、計測された地震動と前記構造物の質量とに基づいて、前記構造物へ入力される入力エネルギーを演算する演算ステップと、構造物の耐力と変位とに基づいて設定されたエネルギー吸収能力を参照し、前記入力エネルギーに基づいて、前記構造物の耐震安全性能を診断した診断結果を生成する診断ステップと、を備え、前記演算ステップでは、計測された地震動と前記質量とに基づいて、前記構造物へ入力される総入力エネルギーを演算し、前記総入力エネルギーと前記質量とに基づいて、総入力エネルギー等価速度を演算し、前記総入力エネルギー等価速度と前記構造物の減衰とに基づいて、有効入力エネルギー等価速度を演算し、前記有効入力エネルギー等価速度と前記質量とに基づいて、前記構造物の損傷に寄与する有効入力エネルギーを演算し、前記診断ステップでは、前記エネルギー吸収能力を参照し、前記有効入力エネルギーに基づいて、前記構造物の耐震安全性能を診断した診断結果を生成することを特徴とする。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、地震動が発生した際の構造物の耐震安全性能を即座に診断することが可能となる技術を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】
図1は、本実施形態に係る耐震安全性能診断システムが用いられる構造物を示す模式図である。
【
図2】
図2は、本実施形態に係る耐震安全性能診断システムの一例を示す模式図である。
【
図3】
図3は、本実施形態に係る耐震安全性能診断システムの診断装置の構成の一例を示す模式図である。
【
図4】
図4は、本実施形態に係る耐震安全性能診断システムの診断装置の機能の一例を示す模式図である。
【
図5】
図5は、第1エネルギー吸収能力の一例を示す図である。
【
図6】
図6は、第2エネルギー吸収能力の一例を示す図である。
【
図7】
図7は、第3エネルギー吸収能力の一例を示す図である。
【
図8】
図8は、エネルギースペクトルの一例を示す図である。
【
図9】
図9(a)は、入力エネルギーEs
iが第1エネルギー吸収能力より大きく、第2エネルギー吸収能力以下の場合の構造物の一例を示す図であり、
図9(b)は、入力エネルギーEs
iが第2エネルギー吸収能力より大きく、第3エネルギー吸収能力以下の場合の構造物の一例を示す図であり、
図9(c)は、入力エネルギーEs
iが第3エネルギー吸収能力E1より大きい場合の構造物の一例を示す図である。
【
図10】
図10は、本実施形態に係る耐震安全性能診断システムの動作の一例を示すフローチャートである。
【
図11】
図11は、第1エネルギー吸収能力以下の入力エネルギーの概念図である。
【
図12】
図12は、第1エネルギー吸収能力を超える入力エネルギーの概念図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、この発明の実施形態のいくつかを、図面を参照しながら説明する。各図において、共通する部分については、共通する参照符号を付し、重複する説明は省略する。なお、各図において、高さ方向を第3方向Zとし、第3方向Zと交差、例えば直交する1つの平面方向を第1方向Xとし、第3方向Z及び第1方向Xのそれぞれと交差、例えば直交する別の平面方向を第2方向Yとする。
【0021】
(第1実施形態)
耐震安全性能診断システム100は、例えば
図1に示すように、構造物9の耐震安全性能を診断するものである。構造物9は、例えば複数の階層を有する木造の構造物である。耐震安全性能診断システム100は、例えば構造物9の第1階層(1階)に取り付けられる。耐震安全性能診断システム100は、各階層に取り付けられてもよい。
【0022】
耐震安全性能診断システム100は、例えば
図2に示すように、診断装置1と、管理装置3と、を備える。診断装置1は、インターネット等の公衆通信網4を介して管理装置3に接続される。診断装置1は、構造物9の耐震安全性能を診断した診断結果を報知する報知装置113を備える。報知装置113は、例えば表示装置114と警報装置115とを有する。構造物9に地震動が作用したとき、耐震安全性能診断システム100は、例えば表示装置114又は警報装置115により診断結果が報知される。これにより、ユーザは、構造物9の耐震安全性能を視覚及び聴覚の少なくとも何れかにより把握することができる。
【0023】
<診断装置1>
図3は、診断装置1の構成の一例を示す模式図である。診断装置1として、Raspberry Pi(登録商標)等のシングルボードコンピュータが用いられるほか、例えばパーソナルコンピュータ(PC)等のような公知の電子機器が用いられてもよい。診断装置1は、例えば筐体10と、CPU(Central Processing Unit)101と、ROM(Read Only Memory)102と、RAM(Random Access Memory)103と、保存部104と、I/F105~108とを備える。各構成101~108は、内部バス110により接続される。
【0024】
CPU101は、診断装置1全体を制御する。ROM102は、CPU101の動作コードを格納する。RAM103は、CPU101の動作時に使用される作業領域である。保存部104は、文字列データベース等の各種情報が保存される。保存部104として、例えばSDメモリーカードのほか、例えばHDD(Hard Disk Drive)、SSD(Solid State Drive)等のような公知のデータ保存媒体が用いられる。
【0025】
I/F105は、入力装置111との各種情報の送受信を行うための公知のインターフェースである。入力装置111として、例えばキーボード等の公知の入力装置が用いられてもよい。耐震安全性能診断システム100の管理等を行う管理者等は、入力装置111を介して、各種情報や、診断装置1の制御コマンド等を入力又は選択できる。入力装置111は、省略されてもよい。
【0026】
I/F106は、計測装置112との各種情報の送受信を行うための公知のインターフェースである。計測装置112は、地震動を計測する。計測装置112として、例えば公知の加速度センサが用いられる。
【0027】
I/F107は、報知装置113との各種情報の送受信を行うための公知のインターフェースである。報知装置113は、耐震安全性能を診断した診断結果を報知する。報知装置113は、表示装置114と、警報装置115と、を有する。
【0028】
表示装置114は、例えば緑色、黄色、赤色に点灯する点灯部を有し、診断結果に応じて所定の色に点灯する。表示装置114は、診断結果を表示するディスプレイであってもよい。警報装置115は、診断結果に応じて、ブザー、音声等の警報を鳴らすものである。
【0029】
I/F108は、公衆通信網4を介して各種情報の送受信を行うための公知のインターフェースである。I/F108は、例えば複数設けられ、インターネット等の通信網を介した各種情報の送受信を行うために用いられてもよい。
【0030】
なお、I/F105~I/F108として、例えば同一のものが用いられてもよく、各I/F105~I/F108として、例えばそれぞれ複数のものが用いられてもよい。
【0031】
図4は、診断装置1の機能の一例を示す模式図である。診断装置1は、記憶部11と、計測部12と、演算部13と、診断部14と、報知部15と、を備える。なお、
図4に示した各機能は、CPU101が、RAM103を作業領域として、保存部104等に記憶されたプログラムを実行することにより実現される。
【0032】
<記憶部11>
記憶部11は、各種情報を保存部104に記憶させ、又は各種情報を保存部104から取出す。記憶部11は、計測部12と、演算部13と、診断部14と、報知部15との処理内容に応じて、各種情報の記憶又は取出しを行う。
【0033】
記憶部11は、構造物9の固有周期Tdと、構造物9の質量Mと、構造物9のエネルギー吸収能力と、を記憶する。構造物9の固有周期Tdと、構造物9の質量Mと、構造物9のエネルギー吸収能力と、は、予め管理装置3により入力又は演算されて、管理装置3から診断装置1に送信され、記憶部11に記憶されてもよい。記憶部11は、構造物9の各階層の質量Mが記憶される。記憶部11は、各階層のエネルギー分配率βi等の各係数が記憶される。記憶部11には、過去の入力エネルギーEsiが記憶される。
【0034】
構造物9の固有周期Tdは、例えば以下の式(1)により演算される。なお、構造物の固有周期Tdは、他の周知の演算方法により演算されてもよいし、実測されてもよい。
【0035】
【数1】
M:構造物の地上部分の全質量
k
1:第1層(1階)の剛性
χ
1:構造物の頂部と基部の剛性の比率(=0.48+0.52N)
N:地上部分の層数
【0036】
構造物9のエネルギー吸収能力は、構造物9の耐力と変位に基づいて設定される。構造物9のエネルギー吸収能力は、診断結果の生成に用いられる。構造物9のエネルギー吸収能力は、第1方向Xと第2方向Yについて、構造物9の各階層でそれぞれ演算される。構造物9の耐力は、構造物9の壁量に基づいて、設定される。
【0037】
構造物9は木造であるため、地震動に対して耐力壁で抵抗するものとなる。耐力壁は、筋交いに応じた壁倍率が定められる。例えば片筋交の壁の場合には、壁倍率が2であり、両筋交の壁の場合には、壁倍率が4である。そして、壁量は、壁倍率と壁の長さの積として、水平方向に沿う第1方向Xと第2方向Yについて、構造物9の各階層でそれぞれ演算される。
【0038】
図5~
図7は、構造物9の耐力と層間変位との関係を示す概念図を示す。構造物9のエネルギー吸収能力は、例えば耐力と層間変位との関係における面積として評価することができる。構造物9のエネルギー吸収能力は、例えば第1エネルギー吸収能力E1と、第2エネルギー吸収能力E2と、第3エネルギー吸収能力E3と、を有する。
【0039】
図5は、第1エネルギー吸収能力E1の一例を示す図である。第1エネルギー吸収能力E1は、地震動を受けた構造物9がほとんど損傷しないレベルのエネルギーである。第1エネルギー吸収能力E1は、地震動を受けた構造物9が弾性の範囲内で変形できるエネルギーである。第1エネルギー吸収能力E1は、構造物9の降伏耐力Qyと層間変位に基づいて設定される。例えば壁倍率が1の場合には、降伏耐力Qyは、例えば各方向の壁量×1.96(kN)として設定される。そして、構造物9の降伏耐力Qyに対応する層間変位は、例えば、特定の階層における階高Hと、降伏耐力Qyに対応する層間変形角1/120と、を乗じたH/120と設定できる。第1エネルギー吸収能力E1は、
図5に示すOABによって囲まれる部分の面積として評価できる。降伏耐力Qyに対応する層間変形角は、任意に設定することができる。
【0040】
図6は、第2エネルギー吸収能力E2の一例を示す図である。第2エネルギー吸収能力E2は、第1エネルギー吸収能力E1よりも大きく、地震動を受けた構造物9の耐震安全性に影響ないレベルのエネルギーである。第2エネルギー吸収能力E2は、構造物9の最大耐力Quと層間変位に基づいて設定される。木造の構造物では、最大耐力Quは、降伏耐力Qyよりも大きくなる。最大耐力Quは、例えば降伏耐力Qy×1.8で表される。そして、構造物9の最大耐力Quに対応する層間変位は、例えば、特定の階層における階高Hと、降伏耐力Qyに対応する層間変形角1/30と、を乗じたH/30と設定できる。最大耐力Quに対応する層間変形角は、任意に設定することができる。
【0041】
第2エネルギー吸収能力E2は、
図6に示すOABCによって囲まれる部分の面積と、
図6に示すODEFによって囲まれる部分の面積と、の和として評価できる。ここで、
図6に示すエネルギー吸収能力の正側であるOABCについては、点Bをエネルギー吸収能力の評価点としている。このため、
図6に示すOABCの面積を評価する際、
図6に示すBC線は、垂線としてよい。
図6に示すエネルギー吸収能力の負側であるODEFについては、点Eが通過点であり、点F、点Oを経て正側へと進む。なお、
図6に示すODEFの面積を評価する際、
図6に示すEF線は、OD線と平行としてよい。
【0042】
図7は、第3エネルギー吸収能力E3の一例を示す図である。第3エネルギー吸収能力E3は、第2エネルギー吸収能力E2よりも大きく、地震動を受けた構造物9が倒壊しないレベルのエネルギーである。第3エネルギー吸収能力E3は、構造物9の最大耐力Quより小さい耐力Qeと層間変位に基づいて設定される。耐力Q
eは、例えば最大耐力Qu×0.8で表される。そして、構造物9の耐力Q
eに対応する層間変位は、例えば特定の階層における階高Hと、耐力Qeに対応する層間変形角1/20と、を乗じたH/20と設定できる。耐力Qeに対応する層間変形角は、任意に設定することができる。
【0043】
第3エネルギー吸収能力E3は、
図7に示すOABCDによって囲まれる部分の面積と、
図7に示すOEFGIによって囲まれる部分の面積と、の和として評価できる。ここで、
図7に示すエネルギー吸収能力の正側であるOABCDについては、点Cをエネルギー吸収能力の評価点としている。このため、
図7に示すOABCDの面積を評価する際、
図7に示すCD線は、垂線としてよい。
図7に示すエネルギー吸収能力の負側であるOEFGHについては、点Gは通過点であり、点I、点Oを経て正側へと進む。なお、
図7に示すOEFGIの面積を評価する際、
図7に示すGI線は、OE線と平行としてよい。
【0044】
<計測部12>
計測部12は、例えば計測装置112により計測される地震動を計測する。
【0045】
<演算部13>
演算部13は、診断装置1での演算処理を行う。演算部13は、計測部12により計測した計測された地震動と質量Mとに基づいて、構造物9へ入力される入力エネルギーを演算する。
【0046】
ここで、構造物9に地震動が作用したときの一時刻における力の釣り合いは、以下の数式(2)を満たす。
【数2】
M:構造物の地上部分の全質量
Cy(ドット):減衰力
F(y):復元力
-MZ
0
(ツードット):地震力
C:減衰係数
Z
0
:水平地動
y:構造物の地面に対する相対変位
【0047】
上記の(2)の両辺に相対変位増分である以下の数式(3)を乗じて、以下の数式(4)が得られる。
【数3】
【0048】
【数4】
ここで、数式(4)の積分範囲の「0」は、地震開始時間を示し、数式(4)の積分範囲の「l」は、地震継続時間を示す。
【0049】
上記数式(4)の左辺は、構造物9の発揮するエネルギー吸収である。上記数式(4)の右辺は、地震終了時の構造物9の総入力エネルギーEである。すなわち、構造物9の総入力エネルギーEは、以下の数式(5)を満たす。演算部13は、計測部12により計測した計測された地震動と質量Mとに基づいて、構造物9へ入力される総入力エネルギーEを演算する。
【0050】
【0051】
演算部13は、構造物9の総入力エネルギーEと質量Mに基づいて、総入力エネルギー等価速度VEを演算する。構造物9の総入力エネルギーEに対応する総入力エネルギー等価速度VEは、以下の数式(6)で表わされる。
【0052】
【0053】
図8は、エネルギー等価速度と構造物9の固有周期との関係を示すエネルギースペクトルの一例を示す図である。演算部13は、計測した地震動と固有周期T
dと質量Mとに基づいて、
図8に示すように、第1エネルギー等価速度V
Eと構造物9の固有周期T
dとの関係を示すエネルギースペクトルを作成してもよい。なお、エネルギースペクトルの作成は、任意であり、省略されてもよい。
【0054】
構造物に入力される地震の総入力エネルギーEは、以下の数式(7)に示すように、構造物の運動エネルギーWkと、弾性ひずみエネルギーWeと、塑性ひずみエネルギーWpと、減衰によるエネルギー吸収量Whと、の総和である。
【0055】
【0056】
構造物9の損傷に寄与する有効入力エネルギーEDは、構造物9の総入力エネルギーEから減衰によるエネルギー吸収量Whを減算したものである。したがって、上記数式(7)により、構造物9の損傷に寄与する有効入力エネルギーEDは、以下の数式(8)を満たす。
【0057】
【0058】
演算部13は、総入力エネルギー等価速度VEと構造物9の減衰とに基づいて、有効入力エネルギー等価速度VDを演算する。構造物9の総入力エネルギーEに対応する総入力エネルギー等価速度VEと、損傷に寄与する有効入力エネルギーEDに対応する有効入力エネルギー等価速度VDとは、以下の数式(9)を満たす。hは、構造物9の減衰定数である。構造物9が木造の場合、例えば減衰定数hは、0.05である。
【0059】
【0060】
そして、演算部13は、有効入力エネルギー等価速度VDと質量Mとに基づいて、構造物9の損傷に寄与する有効入力エネルギーEDを演算する。構造物9の損傷に寄与する有効入力エネルギーEDは、以下の数式(10)を満たす。
【0061】
【0062】
演算部13は、構造物9が複数の階層を有する場合、損傷に寄与する有効入力エネルギーEDとエネルギー分配率βiとに基づいて、構造物9の各階層に入力される入力エネルギーEsiを演算する。各階層の入力エネルギーEsiは、以下の数式(12)、数式(13)を参照し、以下の数式(11)で表される。ここで、βiは、各階層のエネルギー分配率であり、siは、1階に対する各階層の入力エネルギー量の比を表す基準値であり、αiは、各階層の降伏せん断力係数であり、Aiは、各階層の降伏せん断力係数分布であり、piは、降伏せん断力係数の比αi/α1の降伏せん断力係数分布Aiに対するずれである。
【0063】
【0064】
【0065】
【0066】
また、演算部13は、構造物9が単一の階層(1階建て)の場合、エネルギー分配率βiを1とし、上記の数式(11)により損傷に寄与する有効入力エネルギーEDに基づいて、入力エネルギーEsiを演算する。
【0067】
なお、演算部13は、構造物9に入力される総入力エネルギーEに基づいて、構造物9の各階層に入力される入力エネルギーEsiを演算してもよい。このとき、入力エネルギーEsiは、上記数式(11)の損傷に寄与する有効入力エネルギーEDを、総入力エネルギーEに置き換えて演算すればよい。
【0068】
<診断部14>
診断部14は、エネルギー吸収能力を参照し、入力エネルギーに基づいて、直近で計測された地震動に対する耐震安全性能を診断した診断結果を生成する。診断結果は、第1方向Xと第2方向Yについて、構造物9の各階層でそれぞれ生成されてもよい。診断部14は、エネルギー吸収能力を参照し、総入力エネルギーEに基づいて、耐震安全性能を診断した診断結果を生成してもよい。診断部14は、エネルギー吸収能力を参照し、有効入力エネルギーEDに基づいて、耐震安全性能を診断した診断結果を生成してもよい。
【0069】
診断部14は、第1エネルギー吸収能力E1と、第2エネルギー吸収能力E2と、第3エネルギー吸収能力E3と、の少なくとも何れかを参照し、総入力エネルギーE、有効入力エネルギーED及び入力エネルギーEsiの何れかの入力エネルギーに基づいて、構造物9の耐震安全性能を診断した診断結果を生成する。
【0070】
例えば、診断部14は、入力エネルギーEsiが第1エネルギー吸収能力E1以下の場合、構造物9は安全である旨の診断結果を生成する。診断部14は、入力エネルギーEsiが第1エネルギー吸収能力E1より大きく第2エネルギー吸収能力E2以下の場合、構造物9は注意である旨の診断結果を生成する。診断部14は、入力エネルギーEsiが第2エネルギー吸収能力E2より大きく第3エネルギー吸収能力E3以下の場合、構造物9は要注意である旨の診断結果を生成する。診断部14は、入力エネルギーEsiが第3エネルギー吸収能力E3より大きい場合、構造物9は危険である旨の診断結果を生成する。
【0071】
診断部14は、耐震安全性能Smを診断した診断結果を生成する。耐震安全性能Smは、対象とする構造物9に対して、想定される地震動に対してどの程度の余裕を有しているかの指標である。診断部14は、第3エネルギー吸収能力E3と入力エネルギーEsiとに基づいて、耐震安全性能Smを例えば以下の数式(14)で演算する。
【0072】
【0073】
記憶部11には、過去の入力エネルギーEsiが記憶される。第1エネルギー吸収能力E1を超える入力エネルギーEsiの地震動を構造物9が複数回受けたとき、診断部14は、第1エネルギー吸収能力E1を超える各入力エネルギーEsiを累積した累積エネルギーに基づいて、耐震安全性能Smを例えば以下の数式(15)で演算する。
【0074】
【0075】
また、診断部14は、第1エネルギー吸収能力E1を超える各入力エネルギーEsiを累積した累積エネルギーに基づいて、耐震安全性能Smを以下の数式(16)で演算してもよい。
【0076】
【0077】
<<報知部15>>
報知部15は、各種情報を報知装置113に出力する。
【0078】
報知部15は、入力エネルギーEsiが第1エネルギー吸収能力E1以下の場合、表示装置114を緑色に点灯させ、安全である旨の診断結果を報知する。報知部15は、入力エネルギーEsiが第1エネルギー吸収能力E1より大きく、第2エネルギー吸収能力E2以下の場合、表示装置114を黄色に点灯させ、構造物9は注意である旨の診断結果を報知する。報知部15は、入力エネルギーEsiが第2エネルギー吸収能力E2より大きく第3エネルギー吸収能力E3以下の場合、表示装置114を黄色と赤色とを交互に点灯させ、構造物9は要注意である旨の診断結果を報知する。報知部15は、入力エネルギーEsiが第3エネルギー吸収能力E3より大きい場合、表示部114を赤色に点灯させ、危険である旨の診断結果を報知する。
【0079】
報知部15は、入力エネルギーEsiが第1エネルギー吸収能力E1以下の場合、警報装置115を鳴らさずに、安全である旨の診断結果を報知する。報知部15は、入力エネルギーEsiが第1エネルギー吸収能力E1より大きく、第2エネルギー吸収能力E2以下の場合、警報装置115を鳴らし、構造物9は注意である旨の診断結果を報知する。報知部15は、入力エネルギーEsiが第2エネルギー吸収能力E2より大きく第3エネルギー吸収能力E3以下の場合、警報装置115を鳴らし、構造物9は要注意である旨の診断結果を報知する。報知部15は、入力エネルギーEsiが第3エネルギー吸収能力E3より大きい場合、警報装置115を鳴らし、構造物9は危険である旨の診断結果を報知する。報知部15は、診断結果に応じて、異なる音を発する等、警報装置115の警報を変えてもよい。
【0080】
報知部15は、入力エネルギーEsiが第1エネルギー吸収能力E1以下の場合、構造物9の補修の必要性はほとんどないことを診断結果として報知してもよい。報知部15は、入力エネルギーEsiが第1エネルギー吸収能力E1より大きく、第2エネルギー吸収能力E2以下の場合、外壁、窓、ドア、内部仕上げ等の構造物9の一部について補修が必要になることを診断結果として報知してもよい。報知部15は、入力エネルギーEsiが第2エネルギー吸収能力E2より大きく第3エネルギー吸収能力E3以下の場合、外壁、窓、ドア、内部仕上げ、筋交い、接合部金物等の構造物9の一部について補修が必要になることを診断結果として報知してもよい。報知部15は、入力エネルギーEsiが第3エネルギー吸収能力E3より大きい場合、外壁、窓、ドア、内部仕上げ、筋交い、接合部金物、基礎等の構造物9の全体について補修が必要になることを診断結果として報知してもよい。
【0081】
このようにユーザは、報知された診断結果に応じて、構造物9の健全度を把握することができる。診断結果は、第1方向Xと第2方向Yについて、構造物9の各階層でそれぞれ生成される。このため、
図9に示すように、構造物9のどの階層に補修が必要なのか、第1方向X及び第2方向Yの何れの方向の構造躯体に補修が必要なのかを把握することができる。例えば、
図9(a)に示すように、構造物9のどの階層が「診断結果:注意」に該当するのか、第1方向X及び第2方向Yの何れの方向の構造躯体が「診断結果:注意」に該当するのかを把握することができる。
図9(b)に示すように、構造物9のどの階層が「診断結果:要注意」に該当するのか、第1方向X及び第2方向Yの何れの方向の構造躯体が「診断結果:要注意」に該当するのかを把握することができる。このとき、
図9(c)に示すように、構造物9のどの階層が「診断結果:危険」に該当するのか、第1方向X及び第2方向Yの何れの方向の構造躯体が「診断結果:危険」に該当するのかを把握することができる。
【0082】
報知部15は、表示装置114に耐震安全性能Smを診断した診断結果を報知してもよい。
【0083】
<管理装置3>
管理装置3は、診断装置1に公衆通信網4を介して接続される。管理装置3として、パーソナルコンピュータ(PC)のほか、例えばスマートフォンやタブレット端末等の電子機器が用いられる。管理装置3は、各種情報を入力する入力装置と、各種情報を記憶する記憶装置と、各種情報を出力する出力装置と、を備える。また、管理装置3は、例えば上述した診断装置1と同等の構成及び機能を有してもよい。
【0084】
(耐震安全性能診断システム100の動作の一例)
次に、本実施形態に係る耐震安全性能診断システム100の動作の一例について説明する。
図10は、本実施形態に係る耐震安全性能診断システム100の動作の一例を示すフローチャートである。構造物9は、2階層(2階建て)を有する木造構造物であるとする。
【0085】
<記憶ステップS11>
記憶部11は、構造物9の固有周期Tdと、構造物9の質量Mと、構造物9のエネルギー吸収能力と、を記憶する(記憶ステップS11)。
【0086】
記憶部11は、表1に示すように、第1方向Xと第2方向Yについて、各階層の階高と、構造物の各階層の質量Miと、壁量と、降伏耐力と、最大耐力と、を記憶する。
【0087】
【0088】
構造物9のエネルギー吸収能力は、耐力と層間変位との関係に基づいて設定される。記憶部11は、表2に示すように、第1方向Xと第2方向Yについて、各階層における、第1エネルギー吸収能力E1と、第2エネルギー吸収能力E2と、第3エネルギー吸収能力E3と、を記憶する。
【0089】
【0090】
第1エネルギー吸収能力E1は、例えば壁量×1.96で表される降伏耐力Qyと降伏耐力Qyに対応する変位とに基づいて設定される。第1エネルギー吸収能力E1は、
図5に示すOABによって囲まれる部分の面積として評価できる。
【0091】
第2エネルギー吸収能力E2は、例えば降伏耐力Qy×1.8で表される最大耐力Quと最大耐力Quに対応する変位とに基づいて設定される。第2エネルギー吸収能力E2は、
図6に示すOABCによって囲まれる部分の面積と、
図6に示すODEFによって囲まれる部分の面積と、の和として評価できる。
【0092】
第3エネルギー吸収能力E3は、例えば最大耐力Qu×0.8で表される耐力Qeと耐力Qeに対応する変位とに基づいて設定される。第3エネルギー吸収能力E3は、
図7に示すOABCDによって囲まれる部分の面積と、
図7に示すOEFGIによって囲まれる部分の面積と、の和として評価できる。
【0093】
地震動が発生する前に、各種情報を記憶部11に記憶し、耐震安全性能診断システム100を構造物9に取り付ける。
【0094】
<計測ステップS12>
計測部12は、構造物9に作用する地震動を計測する(計測ステップS12)。
【0095】
<演算ステップS13>
演算部13は、計測された地震動と質量Mとに基づいて、構造物9の入力エネルギーを演算する(演算ステップS13)。
【0096】
そして、演算部13は、総入力エネルギーEと質量Mとに基づいて、総入力エネルギー等価速度VEを演算する。
【0097】
そして、演算部13は、総入力エネルギーEと固有周期Tdと質量Mとに基づいて、総入力エネルギー等価速度VEを演算する。
【0098】
そして、演算部13は、例えば上記数式(9)により、総入力エネルギー等価速度VEと、構造物9の減衰とに基づいて、有効入力エネルギー等価速度VDを演算する。
【0099】
そして、演算部13は、例えば上記数式(10)により、有効入力エネルギー等価速度VDと質量Mとに基づいて、損傷に寄与する有効入力エネルギーEDを演算する。これにより、構造物9の減衰を考慮した損傷に寄与する有効入力エネルギーEDを演算できる。
【0100】
そして、演算部13は、例えば上記数式(11)により、損傷に寄与する有効入力エネルギーEDに基づいて、構造物9の各層に入力される入力エネルギーEsiを演算する。
【0101】
<診断ステップS14>
診断部14は、エネルギー吸収能力と、入力エネルギーとに基づいて、耐震安全性能を診断した診断結果を生成する(診断ステップS14)。診断部14は、第1方向Xと第2方向Yの各階層について耐震安全性能を診断する。
【0102】
また診断部14は、例えば上記数式(14)により、耐震安全性能Smを診断した診断結果を生成する。診断部14は、第1方向Xと第2方向Yの各階層について耐震安全性能Smを診断する。
【0103】
<報知ステップS15>
報知部15は、診断ステップS14で生成した診断結果を報知する(報知ステップS15)。
【0104】
構造物9が地震動を受けるごとに、上述した計測ステップS12と、演算ステップS13、診断ステップS14と、報知ステップS15と、を繰り返し行う。
【0105】
ここで、入力エネルギーEs
iが第1エネルギー吸収能力E1以下の場合、構造物9が弾性範囲内での変形であると考えられる。この場合、第1エネルギー吸収能力E1以下の入力エネルギーEs
iは、構造物9に蓄積されず、地震動の前後において構造物9の耐震安全性能は変化しない。例えば
図11に示すように、入力エネルギーEs
iが第1エネルギー吸収能力E1以下の場合、入力エネルギー履歴としてはOA間を往復するものとなり、構造物9に第1エネルギー吸収能力E1以下の入力エネルギーEs
iは、蓄積されない。
【0106】
対して、入力エネルギーEsiが第1エネルギー吸収能力E1を超える場合、構造物9に降伏耐力Qyを超える耐力が作用するため、第1エネルギー吸収能力E1を超える入力エネルギーEsiが構造物9に蓄積される。この場合、診断部14は、第3エネルギー吸収能力E3と過去の第1エネルギー吸収能力E1を超える入力エネルギーEsiを累積した累積エネルギーとに基づいて、例えば上記の数式(15)又は数式(16)により、構造物9の耐震安全性能Smを診断する。
【0107】
例えば上記の表2を参照し、構造物9の第1方向Xの第1階層について検討する。
【0108】
1回目の地震動の入力エネルギーEs
1が10(kN・m)である場合、第1エネルギー吸収能力E1である1.32(kN・m)を超える。このため、1回目の地震動の入力エネルギーEs
1である10(kN・m)が累積エネルギーとして構造物9に累積される。例えば
図12に示すように、1回目の入力エネルギーEs
iが第1エネルギー吸収能力E1を超える場合、入力エネルギー履歴としては点O、点A、点K1、点K2、点O、点E、点K3、点K4、点Oという履歴を辿り、1回目の地震動の入力エネルギーEs
iが構造物9に蓄積される。このとき、耐震安全性能Smは、上記の数式(15)により、39.1/10=3.91となる。
【0109】
2回目の地震動の入力エネルギーEs
1が5(kN・m)である場合、第1エネルギー吸収能力E1である1.32(kN・m)を超える。このため、1回目の地震動の入力エネルギーEs
1である10(kN・m)と、2回目の地震動の入力エネルギーEs
1である5(kN・m)と、が累積エネルギーとして構造物9に累積される。例えば
図12に示すように、2回目の地震動の入力エネルギーEs
iが第1エネルギー吸収能力E1を超える場合、エネルギー履歴としては点O、点K2、点K1、点K5、点K6、点O、点K4、点K3、点K7、点K8、点Oという履歴を辿り、2回目の地震動の入力エネルギーEs
iも構造物9に蓄積される。このとき、耐震安全性能Smは、上記の数式(15)により、39.1/(10+5)=2.61となる。
【0110】
このように、診断部14は、構造物9に作用した過去の地震動を累積して耐震安全性能Smを診断した診断結果を生成することができる。診断部14は、第1方向Xと第2方向Yの各階層について耐震安全性能Smを診断する。
【0111】
以上により、実施形態に係る耐震安全性能診断システム100の動作の一例が終了する。
【0112】
本実施形態では、計測された地震動と質量Mとに基づいて、構造物9へ入力される入力エネルギーを演算する演算部13と、エネルギー吸収能力を参照し、入力エネルギーに基づいて、構造物9の耐震安全性能を診断した診断結果を生成する診断部14と、を備える。これにより、従来のように、複雑な解析モデルによる演算を行う必要がなく、入力エネルギーを演算するだけで耐震安全性能を診断することができる。このため、地震動が発生した際に構造物の耐震安全性能を即座に診断することが可能となる。
【0113】
本実施形態では、演算部13は、計測された地震動と質量Mとに基づいて、構造物9へ入力される総入力エネルギーEを演算し、総入力エネルギーEと質量Mとに基づいて、総入力エネルギー等価速度VEを演算し、総入力エネルギー等価速度VEと構造物9の減衰とに基づいて、有効入力エネルギー等価速度VDを演算し、有効入力エネルギー等価速度VDと質量Mとに基づいて、構造物9の損傷に寄与する有効入力エネルギーEDを演算し、診断部14は、エネルギー吸収能力を参照し、有効入力エネルギーEDに基づいて、構造物9の耐震安全性能を診断した診断結果を生成する。これにより、構造物9の減衰を考慮した有効入力エネルギーEDを演算できる。このため、構造物9の耐震安全性能をより精度よく診断できる。
【0114】
本実施形態では、演算部13は、計測された地震動と質量Mとに基づいて、構造物9へ入力される総入力エネルギーEを演算し、総入力エネルギーEと固有周期Tdとに基づいて、総入力エネルギー等価速度VEを演算し、総入力エネルギー等価速度VEと構造物9の減衰とに基づいて、有効入力エネルギー等価速度VDを演算し、有効入力エネルギー等価速度VDと質量Mとに基づいて、構造物9の損傷に寄与する有効入力エネルギーEDを演算し、診断部14は、エネルギー吸収能力を参照し、有効入力エネルギーEDに基づいて、構造物9の耐震安全性能を診断した診断結果を生成する。これにより、構造物9の減衰を考慮した有効入力エネルギーEDを演算できる。このため、構造物9の耐震安全性能をより精度よく診断できる。
【0115】
本実施形態では、診断部14は、第1エネルギー吸収能力E1と、第2エネルギー吸収能力E1と、第3エネルギー吸収能力E3と、を参照し、入力エネルギーに基づいて、構造物9の耐震安全性能を診断した診断結果を生成する。これにより、構造物9が安全性を段階的に把握することができる。このため、構造物9の補修の必要性の要否を的確に把握することが可能となる。
【0116】
本実施形態では、記憶部11は、過去の入力エネルギーを記憶し、診断部14は、第1エネルギー吸収能力E1を超える過去の入力エネルギーを累積した累積エネルギーと、第3エネルギー吸収能力E3と、に基づいて、構造物9の耐震安全性能Smを診断した診断結果を生成する。これにより、過去に起きた地震動を考慮した上で、今後起こり得る地震動に対して、構造物9がどの程度耐え得るかを把握することができる。
【0117】
構造物9は、複数の階層を有し、記憶部11は、各階層におけるエネルギー吸収能力と、前力エネルギーを各階層に分配するためのエネルギー分配率を記憶し、演算部13は、構造物9へ入力される入力エネルギーと、エネルギー分配率とに基づいて、各階層に入力される入力エネルギーを演算し、診断部14は、各階層におけるエネルギー吸収能力を参照し、各階層に入力される入力エネルギーに基づいて、各階層の耐震安全性能を診断した診断結果を生成する。これにより、各階層の耐震安全性能を把握することができる。このため、構造物9の各階層における補修の必要性の要否を把握することが可能となる。
【0118】
本実施形態では、耐震安全性能診断システム100として説明したが、耐震安全性能診断システム100の動作をコンピュータに実行させる耐震安全性能診断プログラムとして具現化されてもよい。また、本実施形態では、耐震安全性能診断システム100として説明したが、耐震安全性能診断システム100の動作を行う耐震安全性能診断方法として具現化されてもよい。
【0119】
以上、本発明の実施形態の例について詳細に説明したが、上述した実施形態は、何れも本発明を実施するにあたっての具体化の例を示したものに過ぎず、これらによって本発明の技術的範囲が限定的に解釈されてはならないものである。
【符号の説明】
【0120】
100 :耐震安全性能診断システム
1 :診断装置
101 :CPU
102 :ROM
103 :RAM
104 :保存部
105 :I/F
106 :I/F
107 :I/F
108 :I/F
110 :内部バス
111 :入力装置
112 :計測装置
113 :報知装置
114 :表示装置
115 :警報装置
3 :管理装置
4 :公衆通信網
10 :筐体
11 :記憶部
12 :計測部
13 :演算部
14 :診断部
15 :報知部
9 :構造物
S11 :記憶ステップ
S12 :計測ステップ
S13 :演算ステップ
S14 :診断ステップ
S15 :報知ステップ
X :第1方向
Y :第2方向
Z :第3方向
【要約】
【課題】地震動が発生した際の構造物の耐震安全性能を診断することが可能となる技術を提供する。
【解決手段】一実施形態に係る耐震安全性能診断システム100は、木造の構造物の耐震安全性能を診断するためのものであって、前記構造物の質量と、前記構造物の耐力と変位とに基づいて設定されたエネルギー吸収能力と、を記憶する記憶部と、前記構造物に作用する地震動を計測する計測部と、計測された地震動と前記質量とに基づいて、前記構造物へ入力される入力エネルギーを演算する演算部と、前記エネルギー吸収能力を参照し、前記入力エネルギーに基づいて、前記構造物の耐震安全性能を診断した診断結果を生成する診断部と、前記診断結果を報知する報知部と、を備えることを特徴とする。
【選択図】
図10