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特許7004363視標表示装置、視標提示方法及びプログラム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-01-06
(45)【発行日】2022-01-21
(54)【発明の名称】視標表示装置、視標提示方法及びプログラム
(51)【国際特許分類】
   A61B 3/032 20060101AFI20220114BHJP
   A61B 3/06 20060101ALI20220114BHJP
【FI】
A61B3/032
A61B3/06
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2021132593
(22)【出願日】2021-08-17
【審査請求日】2021-08-19
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】500550980
【氏名又は名称】株式会社中京メディカル
(74)【代理人】
【識別番号】100131048
【弁理士】
【氏名又は名称】張川 隆司
(74)【代理人】
【識別番号】100174377
【弁理士】
【氏名又は名称】山内 健吾
(74)【代理人】
【識別番号】100215038
【弁理士】
【氏名又は名称】木村 友子
(72)【発明者】
【氏名】市川 一夫
(72)【発明者】
【氏名】横山 翔
(72)【発明者】
【氏名】田中 芳樹
【審査官】田辺 正樹
(56)【参考文献】
【文献】米国特許第05187507(US,A)
【文献】特許第6184046(JP,B1)
【文献】特開2019-162400(JP,A)
【文献】特開2003-135399(JP,A)
【文献】米国特許第09826898(US,B1)
【文献】特許第5436712(JP,B1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B3/00-3/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
被検者の色に関する視機能を検査するための有彩色の視標と前記視標の周囲に背景とを表示する表示部を備え、
前記背景の輝度が前記視標の輝度の10%小さい数値と10%大きい数値の間に属する数値であり、
前記視標の色と前記背景の色とが二色覚における混同色の関係にある色の組み合わせであり、
前記表示部は、前記視標の知覚の可否を分ける前記視標の大きさである閾値が得られるように、前記視標の色と前記背景の色の組み合わせを保持しながら、前記視標の大きさを変化させ、又は大きさが異なる複数の前記視標を表示する、
視標表示装置。
【請求項2】
前記視標は、前記被検者の視野中心に提示するための視標であり、
前記閾値は、前記視標が前記被検者の視野中心に提示されたときの前記視標の向きの知覚の可否を分ける前記視標の大きさであり、
前記表示部は、前記閾値が得られるように、前記視標の色と前記背景の色の組み合わせを保持しながら、前記視標の大きさ及び向きを変化させ、又は大きさ及び向きが異なる複数の前記視標を表示する請求項1に記載の視標表示装置。
【請求項3】
前記表示部は、前記視標の色と前記背景の色の組み合わせを保持させつつ、前記被検者の視野中心から外れた周辺位置の予め定められた複数の測定点の間でランダムに表示位置を変化させながら且つ大きさを変化させながら前記視標を表示する請求項1に記載の視標表示装置。
【請求項4】
被検者の色に関する視機能を検査するための有彩色の視標と前記視標の周囲に背景とを表示する表示部を備え、
前記背景の輝度が前記視標の輝度の10%小さい数値と10%大きい数値の間に属する数値であり、
前記視標の色と前記背景の色とが二色覚における混同色の関係にある色の組み合わせであり、
前記視標は、互いに同一形状かつ同一の色に設定された最小構成単位が縦横に複数列配置された形状であり、
前記視標は、前記視標の中心に前記被検者の視線を向けさせた状態で、前記視標において見えない領域又は歪んで見える領域があるかないかを検査するための視標である、
視標表示装置。
【請求項5】
前記背景の色は有彩色である請求項1~4のいずれか1項に記載の視標表示装置。
【請求項6】
前記視標の色と前記背景の色とが、色度図における無彩色の領域を挟んで互いに反対側に位置する前記混同色の関係にある有彩色の組み合わせに設定される請求項1~5のいずれか1項に記載の視標表示装置。
【請求項7】
前記視標の色と前記背景の色とが、色度図における無彩色の領域を挟んで区分される2つの有彩色領域のうちの同じ領域側に位置する前記混同色の関係にある有彩色の組み合わせに設定される請求項1~5のいずれか1項に記載の視標表示装置。
【請求項8】
前記視標の色と前記背景の色とは同一の彩度に設定される請求項1~7のいずれか1項に記載の視標表示装置。
【請求項9】
前記視標の色と前記背景の色とは異なる彩度に設定される請求項1~7のいずれか1項に記載の視標表示装置。
【請求項10】
被検者の色に関する視機能を検査するための有彩色の視標とその周囲に背景とを、前記背景の輝度が前記視標の輝度の10%小さい数値と10%大きい数値の間に属する数値となるように、かつ、前記視標の色と前記背景の色とが二色覚における混同色の関係にある色の組み合わせとなるように提示し、
前記視標の色と前記背景の色の組み合わせを保持しながら、前記被検者に提示する前記視標の大きさを変化させて、前記視標の知覚の可否を分ける前記視標の大きさである閾値を得る、
視標提示方法。
【請求項11】
被検者の色に関する視機能を検査するための有彩色の視標とその周囲に背景とを、前記背景の輝度が前記視標の輝度の10%小さい数値と10%大きい数値の間に属する数値となるように、かつ、前記視標の色と前記背景の色とが二色覚における混同色の関係にある色の組み合わせとなるように表示部に表示させる表示制御手段としてコンピュータを機能させ
前記表示制御手段は、前記視標の知覚の可否を分ける前記視標の大きさである閾値が得られるように、前記視標の色と前記背景の色の組み合わせを保持しながら前記視標の大きさを変化させる、
プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は被検者の色に関する視機能を検査するための有彩色の視標を表示する装置及び前記視標を提示する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
網膜には赤、緑、青の3色を知覚する錐体細胞(L錐体、M錐体、S錐体)が多数配置されており、これにより人間の視機能は様々な色を知覚する機能を有している。錐体細胞の異常があると、色を知覚する機能の異常が起こり得る。下記特許文献1、2には、色を知覚する機能を検査するために、被検者に有彩色の視標を提示することが記載されている。また特許文献1、2では、輝度の違いの知覚ではなく色の違いの知覚を適切に検査するために、視標と背景とを同様の輝度(±10%の輝度差)にすることを提案している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特許第5436712号公報
【文献】特許第6184046号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
色に関する視機能(色視機能)の検査にあっては、色覚異常(色を知覚する機能の異常)の有無や色覚異常の程度をより鋭敏に判別できるのが望ましい。そのためには、L錐体、M錐体、S錐体の錐体別の視機能(異常の有無や異常の程度)をより鋭敏に検査できるのが望ましく、換言すれば、錐体別の異常の有無の違い、異常の程度の違い、又は錐体の感度の違いが検査結果に表れるのが望ましい。
【0005】
そこで、本開示は、錐体別の視機能をより鋭敏に検査できる視標表示装置、視標提示方法又はプログラムを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、本開示の視標表示装置は、
被検者の色に関する視機能を検査するための有彩色の視標と前記視標の周囲に背景とを表示する表示部を備え、
前記背景の輝度が前記視標の輝度の10%小さい数値と10%大きい数値の間に属する数値であり、
前記視標の色と前記背景の色とが二色覚における混同色の関係にある色の組み合わせである。
【0007】
また本開示の視標提示方法は、
被検者の色に関する視機能を検査するための有彩色の視標とその周囲に背景とを、前記背景の輝度が前記視標の輝度の10%小さい数値と10%大きい数値の間に属する数値となるように、かつ、前記視標の色と前記背景の色とが二色覚における混同色の関係にある色の組み合わせとなるように提示する。
【0008】
また本開示のプログラムは、
被検者の色に関する視機能を検査するための有彩色の視標とその周囲に背景とを、前記背景の輝度が前記視標の輝度の10%小さい数値と10%大きい数値の間に属する数値となるように、かつ、前記視標の色と前記背景の色とが二色覚における混同色の関係にある色の組み合わせとなるように表示部に表示させる表示制御手段としてコンピュータを機能させる。
【0009】
本開示の視標表示装置、視標提示方法又はプログラムによれば、背景の輝度と視標の輝度とが同様の輝度(輝度差が±10%以内)なので、背景と視標との輝度差による知覚ではなく、視標(有彩色)の知覚を適切に検査できる。また、視標色と背景色とは二色覚における混同色の関係にある。なお、二色覚とは、L錐体、M錐体、S錐体のいずれか1つの感度が極めて低いことをいい、L錐体の感度が低い1型二色覚、M錐体の感度が低い2型二色覚、及びS錐体の感度が低い3型二色覚がある。また、二色覚における混同色とは、二色覚者が色の違いを区別できない色の組み合わせをいう。例えば、視標色及び背景色が、1型二色覚における混同色の関係にある場合には、L錐体の感度が低い程、視標が知覚しづらい。この場合、L錐体に異常が有る人と無い人との間、又はL錐体の感度が高い人と低い人との間で、検査結果に違いが出やすく、L錐体に関する視機能をより鋭敏に検査できる。視標色及び背景色が2型二色覚における混同色の関係にある場合には、M錐体に関する視機能をより鋭敏に検査できる。視標色及び背景色が3型二色覚における混同色の関係にある場合には、S錐体に関する視機能をより鋭敏に検査できる。上記は基本的に先天色覚異常における特徴であるが、各眼疾患によっても錐体の障害は起こるため、後天色覚異常としても同様である。以上より、本開示では、錐体別の視機能をより鋭敏に検査できる。
【0010】
ここで、色度図において混同色の関係にある座標(色度値)を通る線を混同色軌跡とし、混同色軌跡上に厳格に一致する色を軌跡上色とし、CIE1976L色空間における上記軌跡上色との色差ΔEが10.0以下となる色を近似色とする。本開示における「視標の色と背景の色とが二色覚における混同色の関係にある」とは、視標色と背景色とが同一の混同色軌跡上の互いに異なる軌跡上色に該当する場合と、視標色と背景色の一方が軌跡上色に該当し、他方が該軌跡上色を通る混同色軌跡上の他の軌跡上色の近似色に該当する場合と、視標色と背景色とが同一の混同色軌跡上の互いに異なる軌跡上色の近似色に該当する場合の全てを含む。これを図14を例にして説明する。図14において、点201、202は、同一の混同色軌跡200上の互いに異なる軌跡上色であり、点203は軌跡上色201の近似色であり、点204は軌跡上色202の近似色であるとする。このとき、視標色と背景色の一方が軌跡上色201に該当し、他方が軌跡上色202に該当する場合が、上記「視標色と背景色とが同一の混同色軌跡上の互いに異なる軌跡上色に該当する場合」である。また、視標色と背景色の一方が軌跡上色201に該当し、他方が近似色204に該当する場合、又は視標色と背景色の一方が軌跡上色202に該当し、他方が近似色203に該当する場合が、上記「視標色と背景色の一方が軌跡上色に該当し、他方が該軌跡上色を通る混同色軌跡上の他の軌跡上色の近似色に該当する場合」である。また、視標色と背景色の一方が近似色203に該当し、他方が近似色204に該当する場合が、上記「視標色と背景色とが同一の混同色軌跡上の互いに異なる軌跡上色の近似色に該当する場合」である。
【0011】
したがって、背景色が、視標色を通る混同色軌跡上の、視標色とは異なる軌跡上色に該当する場合と、該軌跡上色の近似色に該当する場合のいずれも、視標色と背景色とが二色覚における混同色の関係にあるといえる。また、視標色が、背景色を通る混同色軌跡上の、背景色とは異なる軌跡上色に該当する場合と、該軌跡上色の近似色に該当する場合のいずれも、視標色と背景色とが二色覚における混同色の関係にあるといえる。なお、CIE1976L色空間とは、CIE(国際照明委員会)が1976年に定めた均等色空間である。
【0012】
また、本開示における「視標表示装置」及び「表示部」には、液晶ディスプレイ、プラズマディスプレイ、有機ELディスプレイ等の電気的に画像を表示するディスプレイだけでなく、視標が表示(印刷など)された紙、樹脂等のシート、視標を投影する投影装置(プロジェクタ)など、視標を表示可能な各種表示手段が含まれる。
【0013】
また、本開示における「無彩色」とはCIE1931XYZ色空間(CIEが1931年に定めた色空間)における色度図(xy色度図)の中心((x、y)=(0.33、0.33))近傍の色であり、具体的には例えば色度値x、yがそれぞれ0.30~0.350の範囲である色をいう。また「有彩色」とは無彩色以外の色をいう。
【0014】
また、色の輝度とは、X、Y、Zの3刺激値のうちのY値をいう。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】視標表示装置の構成を示すブロック図である。
図2】視標データの構成を示す図である。
図3】xy色度図上に、1型二色覚、2型二色覚及び3型二色覚の各混同色軌跡と、NEW COLOR TESTで使用される15色の彩度ごとの色度点を示した図である。
図4】xy色度図上に1型二色覚の複数の混同色軌跡を例示した図である。
図5】xy色度図上に2型二色覚の複数の混同色軌跡を例示した図である。
図6】xy色度図上に3型二色覚の複数の混同色軌跡を例示した図である。
図7】第1実施形態の色視機能検査手順を例示したフローチャートである。
図8】第2実施形態の表示部の表示を例示した図である。
図9】第2実施形態の色視機能検査手順を例示したフローチャートである。
図10】第3実施形態の表示部の表示を例示した図である。
図11】第3実施形態の色視機能検査手順を例示したフローチャートである。
図12】視標としてランドル環が印刷されたシートを例示した図である。
図13】視標としてグリッドが印刷されたシートを例示した図である。
図14】xy色度図上に、混同色軌跡、その混同色軌跡上に位置する軌跡上色、及びその軌跡上色に近似する近似色を例示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
(第1実施形態)
以下、本開示の第1実施形態を図面を参照しつつ説明する。なお、本開示においては、色別の視力(例えば、赤色の物体を眼で識別できる能力や、青色の物体を眼で識別できる能力など)を「色視力」と称することとし、色別の視野(例えば、眼を動かさずに赤色を知覚できる周辺視の範囲や、眼を動かさずに青色を知覚できる周辺視の範囲など)を「色視野」と称することとし、色視力及び色視野を「色視機能」と総称することとする。
【0017】
第1実施形態は、主に色視力を検査する実施形態であり、具体的には、被検者の視野中心に、視標として有彩色のランドル環を提示して、そのランドル環の知覚の可否を検査する実施形態である。図1に、本実施形態の視標表示装置の構成を示している。図1の視標表示装置1は、表示部2と制御部3と記憶部4と操作部5と補助表示部6と応答入力部7とを備えている。なお、応答入力部7は後述の第2実施形態で用いられるが、第1実施形態では用いられない。したがって、第1実施形態の視標表示装置1としては応答入力部7が備えられていなくてもよい。
【0018】
表示部2は、各種画像を表示する部分であり、表示する画像(視標)の形状又は色(背景色も含む)を他の形状又は色に切り替え可能に構成される。表示部2は、電力が供給されることによる発光を利用して画像を表示するディスプレイであり、例えば液晶ディスプレイであるが、プラズマディスプレイ、有機ELディスプレイなど他の方式のディスプレイでもよい。また、表示部2は、ヘッドマウント型のディスプレイでもよい。
【0019】
表示部2は、視標8とその周囲に背景9とを表示する。本実施形態では、表示部2は、各時点で1つの視標8を表示する。視標8はランドル環である。ランドル環8は一部が切り欠いた環状の画像である。被検者には、ランドル環8の切り欠き部8aがどの方向を向いているのかが問われる。背景9は、単一色の無地(無模様)の画像である。
【0020】
視標8と背景9とは実質的に等しい輝度に設定される。具体的には、背景9の輝度は、視標8の輝度の10%小さい数値と10%大きい数値の間に属する数値に設定される。視標8の輝度及び背景9の輝度は例えば30cd/mに設定される。
【0021】
また、視標8の色と背景9の色とは二色覚における混同色の関係にある色の組み合わせに設定される。具体的には、図3には、CIE1931のxy色度図において1型二色覚における混同色軌跡101(以下、1型混同色軌跡という場合がある)と、2型二色覚における混同色軌跡102(以下、2型混同色軌跡という場合がある)と、3型二色覚における混同色軌跡103(以下、3型混同色軌跡という場合がある)とを例示している。
【0022】
1型混同色軌跡101は、図4に示すように、xy色度図において特定の一点101b(混同色中心という)を通る直線であり、無数に存在する。1型混同色軌跡101の混同色中心101bの色度値(x、y)は(0.747、0.253)である。同一の混同色軌跡101上の色においては、M錐体及びS錐体の応答量は変化せず、L錐体の応答量だけが変化する。図3では、無数に存在する1型混同色軌跡101のうち、色度図の無彩色領域110を通る1つの軌跡101aを例示している。この混同色軌跡101aは、具体的には、無彩色領域110の中のD65光源色の点を通る直線である。xy色度図における2°測色標準観察者でのD65の色度値(x、y)は(0.3127、0.3290)である。
【0023】
また、2型混同色軌跡102は、図5に示すように、xy色度図において特定の一点102b(混同色中心という)を通る直線であり、無数に存在する。2型混同色軌跡102の混同色中心102bの色度値(x、y)は(1.000、0.000)である。同一の混同色軌跡102上の色においては、L錐体及びS錐体の応答量は変化せず、M錐体の応答量だけが変化する。図3では、無数に存在する2型混同色軌跡102のうち、D65の点を通る軌跡102aを例示している。
【0024】
また、3型混同色軌跡103は、図6に示すように、xy色度図において特定の一点103b(混同色中心という)を通る直線であり、無数に存在する。3型混同色軌跡103の混同色中心103bの色度値(x、y)は(0.180、0.000)である。同一の混同色軌跡103上の色においては、L錐体及びM錐体の応答量は変化せず、S錐体の応答量だけが変化する。図3では、無数に存在する3型混同色軌跡103のうち、D65の点を通る軌跡103aを例示している。
【0025】
視標8の色と背景9の色とは、例えば、1型二色覚における混同色の関係にある色の組み合わせに設定されてよい。この場合、視標8の色と背景9の色とは、図3の1型混同色軌跡101a上の互いに異なる有彩色(軌跡上色)に設定されてよい。また、視標8の色と背景9の色の一方が1型混同色軌跡101a上の有彩色(軌跡上色)に設定され、他方が1型混同色軌跡101a上の色の近似色に設定されてよい。また、視標8の色は1型混同色軌跡101a上の軌跡上色の近似色に設定され、背景9の色は1型混同色軌跡101a上の他の軌跡上色の近似色に設定されてよい。
【0026】
また、視標8の色と背景9の色とは、例えば、1型混同色軌跡101a上の無彩色領域110(D65の点)を挟んで互いに反対側に位置する有彩色(反対色)(軌跡上色又はその近似色)に設定されてよい。この場合、例えば、視標8の色と背景9の色とは、1型混同色軌跡101a上の、同一の彩度(例えば彩度6(Chroma6))の反対色(軌跡上色又はその近似色)に設定されてもよいし、異なる彩度の反対色(軌跡上色又はその近似色)に設定されてもよい。また、視標8の色と背景9の色とは、1型混同色軌跡101a上の、無彩色領域110(D65の点)を挟んで区分される2つの有彩色領域のうちの同じ領域側の、彩度が異なる色の組み合わせに設定されてもよい。
【0027】
なお、図3には、NEW COLOR TESTで使用される彩度2、4、6、8(Chroma2、4、6、8)の15色の色度点を示している。15色は、具体的には、赤(R)、黄赤(YR)、赤黄(RY)、黄(Y)、緑黄(GY)、黄緑(YG)、緑(G)、青緑(BG)、緑青(GB)、青(B)、紫青(PB)、青紫(BP)、紫(P)、赤紫(RP)、及び紫赤(PR)である。なお、上記彩度2、4、6、8はマンセル表示系における値である。また、図3には、各彩度ごとに、15色の色度点間を結ぶ環状線120を示している。15色のうち、1型混同色軌跡101aに近い位置にある反対色の組み合わせは青緑(BG)及び紫赤(PR)である。したがって、視標8及び背景9の色の組み合わせは例えば青緑(BG)及び紫赤(PR)としてよい。なお、NEW COLOR TESTとは、被検者に、ランダムに並べられた上記15色を、色相が徐々に変化する順に並べ替えさせることで色覚異常の有無を判断する検査である。
【0028】
ここで、NEW COLOR TESTで使用される青緑(BG)の色度点又は紫赤(PR)の色度点が、1型混同色軌跡101a上に厳格に一致する軌跡上色に該当しない場合であっても、CIE1976L色空間における該軌跡上色との色差ΔEが10.0以下の場合には、NEW COLOR TESTで使用される色度点の色がそのまま視標8又は背景9の色に設定されてもよい。また、上記色差ΔEが10.0より大きい場合には、NEW COLOR TESTで使用される色度点の色を、上記色差ΔEが10.0以下となるように補正し、その補正後の色が視標8又は背景9の色に設定されてもよい。また、例えば、視標8と背景9とが彩度6の色に設定される場合において、上記色差ΔE(軌跡101a上に厳格に一致する色度点と、NEW COLOR TESTで使用される色度点との色差)が10.0より大きい場合には、補正後の色が、図3の彩度6を示す環状線120上の点となるように上記補正を行ってもよい。
【0029】
視標8の色と背景9の色とは、例えば、2型二色覚における混同色の関係にある色の組み合わせに設定されてよい。この場合、視標8の色と背景9の色とは、図3の2型混同色軌跡102a上の互いに異なる有彩色(軌跡上色又はその近似色)に設定されてよい。また、視標8の色と背景9の色とは、例えば、2型混同色軌跡102a上の無彩色領域110(D65の点)を挟んで互いに反対側に位置する有彩色(反対色)(軌跡上色又はその近似色)に設定されてよい。この場合、例えば、視標8の色と背景9の色とは、2型混同色軌跡102a上の、同一の彩度(例えば彩度6(Chroma6))の反対色(軌跡上色又はその近似色)に設定されてもよいし、異なる彩度の反対色(軌跡上色又はその近似色)に設定されてもよい。また、視標8の色と背景9の色とは、2型混同色軌跡102a上の、無彩色領域110(D65の点)を挟んで区分される2つの有彩色領域のうちの同じ領域側の、彩度が異なる色の組み合わせに設定されてもよい。
【0030】
ここで、NEW COLOR TESTで使用される上記15色のうち、2型混同色軌跡102aに近い位置にある反対色の組み合わせは緑(G)及び紫赤(PR)である。したがって、視標8及び背景9の色の組み合わせは例えば緑(G)及び紫赤(PR)としてよい。この場合、緑(G)の色度点又は紫赤(PR)の色度点が、2型混同色軌跡102a上に厳格に一致する軌跡上色に該当しない場合であっても、CIE1976L色空間における該軌跡上色との色差ΔEが10.0以下の場合には、この色度点の色がそのまま視標8又は背景9の色に設定されてもよい。また、上記色差ΔEが10.0より大きい場合には、10.0以下となるように、緑(G)又は紫赤(PR)の色度点を補正し、補正後の色が視標8又は背景9の色に設定されてもよい。この場合、補正後の色度点が、補正前の色度点の彩度を示す環状線120(図3参照)上の点となるように上記補正を行ってもよい。
【0031】
視標8の色と背景9の色とは、例えば、3型二色覚における混同色の関係にある色の組み合わせに設定されてよい。この場合、視標8の色と背景9の色とは、図3の3型混同色軌跡103a上の互いに異なる有彩色(軌跡上色又はその近似色)に設定されてよい。また、視標8の色と背景9の色とは、例えば、3型混同色軌跡103a上の無彩色領域110(D65の点)を挟んで互いに反対側に位置する有彩色(反対色)(軌跡上色又はその近似色)に設定されてよい。この場合、例えば、視標8の色と背景9の色とは、3型混同色軌跡103a上の、同一の彩度(例えば彩度6(Chroma6))の反対色(軌跡上色又はその近似色)に設定されてもよいし、異なる彩度の反対色(軌跡上色又はその近似色)に設定されてもよい。また、視標8の色と背景9の色とは、3型混同色軌跡103a上の、無彩色領域110(D65の点)を挟んで区分される2つの有彩色領域のうちの同じ領域側の、彩度が異なる色の組み合わせに設定されてもよい。
【0032】
ここで、NEW COLOR TESTで使用される上記15色のうち、3型混同色軌跡103aに近い位置にある反対色の組み合わせは緑黄(GY)及び青紫(BP)である。したがって、視標8及び背景9の色の組み合わせは例えば緑黄(GY)及び青紫(BP)としてよい。この場合、緑黄(GY)の色度点又は青紫(BP)の色度点が、3型混同色軌跡103a上に厳格に一致する軌跡上色に該当しない場合であっても、CIE1976L色空間における該軌跡上色との色差ΔEが10.0以下の場合には、この色度点の色がそのまま視標8又は背景9の色に設定されてもよい。また、上記色差ΔEが10.0より大きい場合には、10.0以下となるように、緑黄(GY)又は青紫(BP)の色度点を補正し、補正後の色が視標8又は背景9の色に設定されてもよい。この場合、補正後の色度点が、補正前の色度点の彩度を示す環状線120(図3参照)上の点となるように上記補正を行ってもよい。
【0033】
なお、CIE1976L色空間における色Pの3次元座標を(L 、a 、b )とし、色Qの3次元座標を(L 、a 、b )としたとき、色Pと色Qの色差ΔEは以下の式で表される。
【数1】
【0034】
また、CIE1931XYZ色空間での三刺激値(X、Y、Z)から、CIE1976L色空間の座標(L、a、b)への変換は以下の式で表される。なお、下記式のX、Y、Zは、完全拡散反射面(基準白色面)に対する三刺激値である。D65を基準白色面としたとき、X=95.047、Y=100.00、Z=108.883となる。
【数2】
【0035】
また、視標色又は背景色が、特定の混同色軌跡上の色(軌跡上色)に厳格に一致しない近似色(軌跡上色との色差ΔEが10.0以下となる色)に設定される場合、色視機能をより鋭敏に検査するという観点では、視標色又は背景色と軌跡上色との色差ΔEは小さいほうが好ましい。具体的には、視標色又は背景色は、例えばΔEが5.0以下となる近似色に設定され、より好ましくはΔEが3.0以下となる近似色に設定され、より好ましくはΔEが1.0以下となる近似色に設定され、より好ましくはΔEが0.5以下となる近似色に設定され、より好ましくはΔEが0.3以下となる近似色に設定され、より好ましくはΔEが0.1以下となる近似色に設定されてよい。
【0036】
さらに、視標8の色及び背景9の色は、表示部2が再現可能な色に設定され、具体的には、例えば図3に示すsRGB(standard RGB)の色範囲130内の色に設定される。なお、sRGBは、IEC(国際電気標準会議)が策定した色空間の国際基準である。
【0037】
図1に戻って、制御部3は、CPU、ROM、RAM等から構成されて、表示部2及び後述の補助表示部6の表示を制御する。具体的には、制御部3は、表示部2に表示させる視標8の色(輝度も含む)、大きさ、及び向きを制御する視標制御部10と、表示部2に表示させる背景9の色(輝度も含む)を制御する背景制御部11とを有する。視標制御部10及び背景制御部11は、上述したように、視標8と背景9の輝度差が視標8の輝度又は背景9の輝度のプラスマイナス10%以内となるように(つまり視標8と背景9とが実質的に等輝度となるように)、視標8及び背景9の輝度を制御する。また、視標制御部10及び背景制御部11は、上述したように、二色覚における混同色の関係にある色の組み合わせとなるように、視標8及び背景9の色を制御する。
【0038】
記憶部4は、コンピュータによって読み取り可能なプログラム及びデータを非一時的に格納する非遷移的実体的記憶媒体(non-transitory tangible storage medium)である。非遷移的実体的記憶媒体は半導体メモリ又は磁気ディスクなどによって実現される。記憶部4には、視標データ12と、制御部3が実行する処理のプログラム13とが記憶されている。記憶部4は制御部3に電気的に接続されている。なお、記憶部4は、制御部3に内蔵された内蔵記憶部として構成されてもよいし、制御部3に外付けされた外付記憶部として構成されてもよい。
【0039】
視標データ12は、図2に示すように、視標8の形状を示す形状データ14と、視標及び背景の色(輝度も含む)を示す色データ15とを含む。形状データ14は、大きさ及び向きが異なる複数のランドル環の形状(一部が切り欠いた環状)を示すデータから構成される。
【0040】
色データ15は、視標8の色を示す複数の色データA1、A2、A3・・・と、背景9の色を示す複数の色データB1、B2、B3・・・とを含む。複数の視標色データA1、A2、A3・・・のそれぞれと、複数の背景色データB1、B2、B3・・・のそれぞれとは一対一に対応付けられている。そして、一対一に対応付けられた視標色データA(A1、A2、A3・・・)と背景色データB(B1、B2、B3・・・)とは、実質的に等輝度かつ二色覚における混同色の関係にある色の組み合わせに設定されている。例えば、視標色データAと背景色データBとの第1の組み合わせ(A1、B1)は、1型二色覚における混同色の関係にある色の組み合わせ(例えば、青緑(BG)及び紫赤(PR))に設定されている。また例えば、視標色データAと背景色データBとの第2の組み合わせ(A2、B2)は、2型二色覚における混同色の関係にある色の組み合わせ(例えば、緑(G)及び紫赤(PR))に設定されている。また例えば、視標色データAと背景色データBとの第3の組み合わせ(A3、B3)は、3型二色覚における混同色の関係にある色の組み合わせ(例えば、緑黄(GY)及び青紫(BP))に設定されている。
【0041】
なお、視標色データA及び背景色データBは、表示部2から出力される色(輝度も含む)の色度値(3刺激値X、Y、Z)が色度計によって測定され、その測定値が目標値となるように予め調整された色データとすることができる。また、視標色データA及び背景色データBは、表示部2の表示方式、具体的にはRGB方式にしたがったデータ(つまりR(赤)、G(緑)、B(青)の混色量を示すデータ)とすることができる。
【0042】
図1に戻って、操作部5は、検査者(医師等)によって入力操作が行われる部分であり、例えばキーボード、マウス、タッチパネルなどである。操作部5は、具体的には、表示部2に表示させる視標8の形状(大きさ、向き)、視標色、及び背景色を指定するための信号を入力する部分である。操作部5は制御部3に電気的に接続されている。
【0043】
補助表示部6は、検査者(医師等)に対する情報を表示する部分であり、例えば液晶ディスプレイである。補助表示部6は、表示部2に表示させる視標8の形状(大きさ、向き)、視標色、及び背景色を指定するための画面を表示する。補助表示部6は制御部3に電気的に接続されている。
【0044】
応答入力部7の説明は後述の第2実施形態で説明する。
【0045】
次に、視標表示装置1を用いた色視力検査方法の手順を図7を参照して説明する。検査は、外部の光の影響を極力排除するために、半暗室又は暗室内で行う。被検者を、表示部2の画面から所定距離の位置に配置させる。検査者は、プログラム13(図1参照)を起動させて、制御部3にプログラム13を実行させる。制御部3は、プログラム13が起動されると、補助表示部6に、視標8の形状(大きさ、向き)、視標色、及び背景色を指定するための画面を表示させる。この画面では、例えば、図2の色データ15で示される視標色と背景色との各組み合わせ(A1、B1)、(A2、B2)、(A3、B3)・・・・が表示される。
【0046】
検査者は、補助表示部6の画面を見ながら、操作部5を操作することで、視標色及び背景色を指定する。制御部3は、操作部5からの入力信号に基づいて、視標色及び背景色を設定する(図7のステップS1、S2)。例えば、操作部5からの入力信号が第1の組み合わせ(A1、B1)を示す信号の場合には、制御部3は、視標色としてA1で示される色を設定し(S1)、背景色としてB1で示される色を設定する(S2)。
【0047】
また、検査者は、補助表示部6の画面を見ながら、操作部5を操作することで、視標8の形状(大きさ、向き)を指定する。制御部3は、操作部5からの入力信号に基づいて、視標8の形状を設定する(図7のステップS3)。
【0048】
その後、制御部3は、ステップS1~S3で設定した色及び形状の視標8及び背景9を表示部2に表示させることで、被検者に視標8を提示する(図7のステップS4)。具体的には、ステップS4では、制御部3の視標制御部10(図1参照)は、ステップS1で設定した色に対応する視標色データA(図2参照)と、ステップS3で設定した形状に対応する形状データ14(図2参照)とを記憶部4から読み出し、読み出した視標色データA及び形状データ14で示される視標8を表示部2に表示させる。また、制御部3の背景制御部11(図1参照)は、ステップS2で設定した色に対応する背景色データB(図2参照)を記憶部4から読み出し、読み出した背景色データBで示される背景9を表示部2に表示させる。
【0049】
検査者は、被検者に、表示部2に表示された視標8(切り欠き部8a)の向きがどの向きであるかの口頭での応答を要求する(図7のステップS5)。
【0050】
視標色と背景色の組み合わせをステップS1、S2で設定した組み合わせに保持しながら、ステップS3~S5を繰り返して、別の形状(大きさ、向き)の視標8を被検者に提示する。そして、最終的に、ステップS1で設定した色に対する、視標8の向きの知覚の可否を分ける視標8の大きさである閾値を得るようにする。
【0051】
1つの視標色に対して上記閾値が得られた場合には、別の視標色及び背景色の組み合わせに設定しなおして(図7のステップS1、S2)、ステップS3~S5を繰り返すことで、別の視標色に対する上記閾値も得るようにする。最終的に、種々の視標色に対する上記閾値を得るようにする。
【0052】
検査者は、得られた各視標色に対する閾値に基づいて、例えば後天的な色覚異常の有無などを判断する。
【0053】
以下、本実施形態の効果を説明する。本実施形態では、視標8と背景9とが実質的に等輝度(輝度差がプラスマイナス10%以内)であるので、視標8と背景9との輝度差による知覚ではなく、視標8の色の知覚を適切に検査できる。
【0054】
また、視標8の色と背景9の色とが二色覚における混同色の関係にある色の組み合わせに設定されるので、錐体に異常が有る人と無い人との間で、又は錐体の感度が低い人と高い人との間で、検査結果(上記閾値)に違いが出やすく、つまり錐体別の色視力を鋭敏に検査できる。具体的には、例えば、視標8の色と背景9の色とが、1型二色覚における混同色の組み合わせに設定される場合には、L錐体に関する色覚異常の有無やL錐体の感度の高低を鋭敏に検査できる。また、例えば、視標8の色と背景9の色とが、2型二色覚における混同色の組み合わせに設定される場合には、M錐体に関する色覚異常の有無やM錐体の感度の高低を鋭敏に検査できる。また、例えば、視標8の色と背景9の色とが、3型二色覚における混同色の組み合わせに設定される場合には、S錐体に関する色覚異常の有無やS錐体の感度の高低を鋭敏に検査できる。
【0055】
また、例えば、視標8の色と背景9の色とは、混同色軌跡101~103上の、無彩色領域110を挟んで互いに反対側に位置する有彩色(反対色)に設定されるので、錐体に異常が無い人、又は錐体の感度が高い人に対して、視標8を知覚させやすくできる。これにより、錐体に異常が有る人と無い人との間で、又は錐体の感度が低い人と高い人との間で、より一層、検査結果(上記閾値)に違いが出やすくなる。
【0056】
また、例えば、視標8の色と背景9の色とは同一の彩度に設定されるので、視標8と背景9との彩度の差異の影響を抑制した形で色視力を検査できる。
【0057】
(第2実施形態)
次に、本開示の第2実施形態を上記実施形態と異なる部分を中心に説明する。本実施形態は、視野中心から外れた位置に有彩色の視標を提示することで、周辺視の色視機能を検査する実施形態である。
【0058】
本実施形態の視標表示装置は、第1実施形態のそれと同様に、図1で示される構成を備えている。ただし、表示部2に表示させる視標が第1実施形態と異なっている。図8は、本実施形態の表示部2の表示を例示している。表示部2は、被検者に注視させるための基準点21と、その基準点21の周辺位置に円形の視標20と、基準点21及び視標20の周囲に背景22とを表示する。表示部2は、予め定められた複数の測定点23の間でランダムに表示位置を変えながら視標20を表示する。表示部2は、各時点で1つの測定点23に視標20を表示する。
【0059】
測定点23は、基準点21が表示される位置を中心として、その中心からの距離及び向きが異なる複数の位置に設定されている。図1の例では、測定点23の個数が16点の例を示している。これら16個の測定点23は、基準点21を中心にして、縦4列、横4列に配置されるように定められる。例えば、被検者の眼が表示部2の画面から所定距離(例えば30cm)離された状態で、隣り合う測定点23間の視角が所定角度(例えば1度)となるように、測定点23間の間隔が定められる。
【0060】
また、表示部2は、複数の測定点23の間でランダムに表示位置を変えながら、各測定点23に視標20を複数回表示する。このとき、表示部2は、同一の測定点23に連続して視標20を表示しない。つまり、各測定点23に視標20を複数回表示するときの各回の間には、別の1又は複数の測定点23での表示を介在させている。さらに、表示部2は、各測定点23に視標20をランダムに(換言すれば非連続で)複数回表示するときに、視標20の大きさを変化させる。背景22は、第1実施形態と同様に、単一色の無地(無模様)の画像である。
【0061】
視標20と背景22の輝度及び色は第1実施形態と同様に設定される。すなわち、視標20と背景22とは実質的に等輝度(プラスマイナス10%以内の輝度差)に設定される。また、視標20の色と背景22の色とは、二色覚における混同色の組み合わせに設定される。
【0062】
記憶部4に記憶される視標データ12(図1図2参照)のうちの形状データ14は、径が異なる複数の円形(視標20)を示すデータから構成される。また、視標データ12のうちの色データ15は、第1実施形態と同様に構成される。
【0063】
また、記憶部4に記憶されるプログラム13の内容が第1実施形態とは異なっている。具体的には、プログラム13は、視標20を大きさ及び表示位置を変えながら表示させる表示制御手段として制御部3(コンピュータ)を機能させる点で第1実施形態と異なっている。
【0064】
図1の応答入力部7は、被検者により操作が行われる操作部として構成されており、視標20を知覚できたことの信号の入力を行う部分である。応答入力部7は、例えば被検者に把持される把持部と、その把持部を把持した状態で被検者の親指により押下操作が行われる操作部とを有する。
【0065】
次に、本実施形態の色視機能検査方法の手順を図9を参照して説明する。検査は、外部の光の影響を排除するために暗室内で行う。被検者を、表示部2の画面から所定距離の位置に配置させる。検査者は、プログラム13(図1参照)を起動させて、制御部3にプログラム13を実行させる。制御部3は、プログラム13が起動されると、補助表示部6に、視標色、及び背景色を指定するための画面を表示させる。この画面では、例えば、図2の色データ15で示される視標色と背景色との各組み合わせ(A1、B1)、(A2、B2)、(A3、B3)・・・・が表示される。
【0066】
まず、制御部3は、第1実施形態と同様に、操作部5からの入力信号に基づいて、混同色の関係にある視標色及び背景色を設定する(図9のステップS11、S12)。
【0067】
その後、制御部3は、表示部2に基準点21(図8参照)を表示させて、被検者にこの基準点21を注視させる。そして、制御部3は、ステップS11で設定した視標色のデータA及びステップS12で設定した背景色のデータBを記憶部4から読み出し、読み出した視標色A及び背景色Bを保持させつつ、予め定められた複数の測定点23間でランダムに表示位置を変化させながら視標20を表示部2に表示させる(図9のステップS13)。
【0068】
ステップS13では、具体的には、制御部3は、複数の測定点23のいずれか1つに視標20を所定時間表示させ(ステップS131)、この所定時間の間に視標20を知覚できたことの被検者の応答が応答入力部7から行われたか否かを確認し(ステップS132)、所定時間経過後に視標20の表示位置を別の測定点23に変更する(ステップS133)。これらステップS131~S133を繰り返して、各測定点23に視標20を非連続で複数回表示させる。
【0069】
また、制御部3は、視標20をランダムに位置を変えながら各測定点23に複数回表示させるときに、前回の表示に対して視標20を知覚できたことを示す信号が応答入力部7から入力された場合には、今回の視標20の大きさは前回よりも小さい値に設定する。また制御部3は、前回の表示に対して応答入力部7から信号が入力されなかった場合には、今回の視標20の大きさは前回よりも大きい値に設定する。そして、最終的に、測定点23ごとに、知覚の可否を分ける視標20の大きさである閾値を得るようにする。
【0070】
1つの視標色に対して測定点23ごとの閾値が得られた場合には、別の視標色及び背景色の組み合わせに設定しなおして(図9のステップS11、S12)、ステップS13を実行することで、別の視標色に対する測定点23ごとの上記閾値も得るようにする。最終的に、種々の視標色に対する測定点23ごとの上記閾値を得るようにする。
【0071】
このように、本実施形態では、第1実施形態と同様の効果が得られることに加えて、視野内の各点23ごとの色を判別する能力(色視力)を鋭敏に検査でき、換言すれば色視野を鋭敏に検査できる。
【0072】
(第3実施形態)
次に、本開示の第3実施形態を上記実施形態と異なる部分を中心に説明する。本実施形態は、視野内の広範囲に同時に有彩色の視標を提示して、その視標が正常に知覚できない領域(欠損領域又は歪み領域)の有無を被検者に応答させることで色視野を検査する実施形態である。本実施形態の視標表示装置は、第1、第2実施形態のそれと同様に、図1で示される構成を備えている。ただし、表示部2に表示させる視標が第1、第2実施形態と異なっている。図10は、本実施形態の表示部2の表示を例示している。
【0073】
表示部2は、視標としてアムスラーチャートと同様な形状のグリッド30(格子)と、そのグリッド30の周囲(グリッド30以外の領域)に背景31とを表示する。ただし、従来のアムスラーチャートと異なり、グリッド30の色と背景31の色とは共に有彩色であり、具体的には第1、第2実施形態と同様に、二色覚における混同色の関係にある色の組み合わせに設定される。また、グリッド30の輝度と背景31の輝度とは実質的に等輝度(輝度差がプラスマイナス10%以内)に設定される。このように、視標30(グリッド)と背景31の輝度及び色は第1実施形態と同様に設定される。
【0074】
グリッド30は、正方形の線を最小構成単位として、その最小構成単位が縦横に連続して複数列配置された形状である。各最小構成単位(正方形の線)は互いに同一形状かつ同一の色に設定される。また、最小構成単位(正方形の線)の内側の領域は背景31に設定される。各最小構成単位の大きさは何ら限定されないが、例えば、被検者の眼がグリッド30から所定距離(例えば30cmほど)離れた状態で、隣り合う横線間、縦線間の視角が1度となる大きさに設定される。
【0075】
背景31は単一色の無地(無模様)の画像である。
【0076】
記憶部4に記憶される視標データ12(図1図2参照)のうちの形状データ14は図10に示すグリッド30の形状データである。また、視標データ12のうちの色データ15は、第1実施形態と同様に構成される。
【0077】
また、記憶部4に記憶されるプログラム13の内容が第1実施形態とは異なっている。具体的には、プログラム13は、図10のグリッド30及び背景31を表示部2に表示させる表示制御手段として制御部3(コンピュータ)を機能させる点で第1実施形態と異なっている。
【0078】
なお、本実施形態では、図1の応答入力部7は用いられない。したがって、本実施形態の視標表示装置1は、応答入力部7を備えていなくてもよい。
【0079】
次に、本実施形態の色視機能検査方法の手順を図11を参照して説明する。検査は、外部の光の影響を排除するために暗室内で行う。被検者を、表示部2の画面から所定距離の位置に配置させる。検査者は、プログラム13(図1参照)を起動させて、制御部3にプログラム13を実行させる。制御部3は、プログラム13が起動されると、補助表示部6に、視標色、及び背景色を指定するための画面を表示させる。この画面では、例えば、図2の色データ15で示される視標色と背景色との各組み合わせ(A1、B1)、(A2、B2)、(A3、B3)・・・・が表示される。
【0080】
まず、制御部3は、第1実施形態と同様に、操作部5からの入力信号に基づいて、混同色の関係にある視標色及び背景色を設定する(図11のステップS21、S22)。
【0081】
その後、制御部3は、ステップS21で設定した視標色のデータA及びステップS22で設定した背景色のデータBを記憶部4から読み出し、読み出した視標色Aのグリッド30と背景色Bの背景31とを表示部2に表示させて、被検者にグリッド30を提示する(図11のステップS23)。
【0082】
そして、被検者に、グリッド30の中心32に視線を向けさせて、この状態で、グリッド30において見えない領域又は歪んで見える領域があるかないかの口頭での応答を被検者に要求する(図11のステップS24)。見えない領域又は歪んで見える領域がある場合にはその領域を具体的に応えてもらう。
【0083】
1つの視標色に対してステップS24の応答が得られた場合には、別の視標色及び背景色の組み合わせに設定しなおして(図11のステップS21、S22)、ステップS23、24を実行することで、別の視標色に対する上記応答も得るようにする。最終的に、種々の視標色に対する上記応答を得るようにする。
【0084】
このように、本実施形態では、第1実施形態と同様の効果が得られることに加えて、色別に、視野の非正常知覚領域を具体的に特定でき、網膜上のその領域に対応する部分に異常が生じているなどというかたちで被検者の色視野を検査できる。
【0085】
(変形例)
本開示は上記実施形態に限定されず種々の変更が可能である。以下、変形例を説明する。上記実施形態では、電気的に画像を表示する表示部に視標及び背景が表示される例を示したが、視標及び背景は、紙、樹脂等に印刷されてもよい。図12は、第1実施形態の変形例であり、視標及び背景が印刷された視標表示装置としてのシート40を示している。シート40は、紙、樹脂(プラスチック)、金属等で形成されており。シート40の表面には、視標として種々の大きさ及び向きの複数のランドル環41と、ランドル環41の周囲に背景42とが印刷されている。シート40の表面は、視標41及び背景42を表示する表示部として機能する。
【0086】
1つのシート40に表示される各視標41は互いに同一の有彩色に設定されている。また、背景42は単一色かつ有彩色の無地(無模様)に設定されている。視標41の輝度と背景42の輝度とは第1~第3実施形態と同様に実質的に等輝度(輝度差がプラスマイナス10%以内)に設定されている。また、視標41の色と背景42の色とは、第1~第3実施形態と同様に二色覚における混同色の関係にある色の組み合わせに設定されている。
【0087】
シート40は、視標41の色と背景42の色の組み合わせが異なる複数のシート40A、40B、40C、40D・・・を含む。複数のシート40A、40B、40C、40D・・・のうちの1つは、例えば、1型二色覚における混同色の関係にある視標41及び背景42を表示する。複数のシート40A、40B、40C、40D・・・のうちの別の1つは、例えば、2型二色覚における混同色の関係にある視標41及び背景42を表示する。複数のシート40A、40B、40C、40D・・・のうちのさらに別の1つは、例えば、3型二色覚における混同色の関係にある視標41及び背景42を表示する。
【0088】
シート40を用いた色視機能の検査手順は、検査者は複数のシート40(40A、40B、40C、40D・・・)のうちのいずれか1つを選択する。そして、検査者は、選択したシート40を被検者に提示して、そのシート40に表示された複数の視標41のいずれかを棒などで指定して、被検者に視標41の向きを知覚できるかの応答を要求する。そして、指定する視標41の大きさ又は向きを切り替えながら、最終的に、視標41の知覚の可否を分ける視標41の大きさである閾値を得るようにする。
【0089】
1つの視標色に対して上記閾値が得られた場合には、別の視標色のシート40を選択して、別の視標色に対しても上記閾値を得るようにする。最終的に、種々の視標色に対する上記閾値を得るようにする。これによっても、第1実施形態と同様の効果を得ることができる。
【0090】
図13は、第3実施形態の変形例であり、視標及び背景が印刷された視標表示装置としてのシート50を示している。シート50は、紙、樹脂(プラスチック)、金属等で形成されており。シート50の表面には、第3実施形態と同様のグリッド51とその周囲に背景52とが印刷されている。視標51及び背景52の輝度及び色は第3実施形態と同様に設定されている。
【0091】
シート50は、視標51の色と背景52の色の組み合わせが異なる複数のシート50A、50B、50C、50D・・・を含む。複数のシート50A、40B、50C、50D・・・のうちの1つは、例えば、1型二色覚における混同色の関係にある視標51及び背景52を表示する。複数のシート50A、40B、50C、50D・・・のうちの別の1つは、例えば、2型二色覚における混同色の関係にある視標51及び背景52を表示する。複数のシート50A、50B、50C、50D・・・のうちのさらに別の1つは、例えば、3型二色覚における混同色の関係にある視標51及び背景52を表示する。
【0092】
シート50を用いた色視機能の検査手順は、検査者は複数のシート50(50A、50B、50C、50D・・・)のうちのいずれか1つを選択する。そして、検査者は、選択したシート50に被検者に提示して、グリッド51において見えない領域又は歪んで見える領域があるかないかを検査する。1つの視標色に対してその検査をした後、別の視標色のシート50を選択して、別の視標色に対してもグリッド51の非正常知覚領域があるかないかを検査する。種々の視標色に対してこの検査を行う。これによっても、第3実施形態と同様の効果を得ることができる。
【0093】
上記実施形態では、視標としてランドル環(第1実施形態)、円形視標(第2実施形態)、及び正方形が縦横に配列されたグリッド(第3実施形態)を例示したが、視標の形状はどのような形状でもよい。例えば、第2実施形態においては、視標は多角形(四角形)、楕円などでもよく、図柄、絵柄(動物、植物、食べ物など)などでもよい。また、第3実施形態においては、視標として、ドット(点)、円、多角形(四角形)、楕円、図柄、絵柄(動物、植物、食べ物など)などが縦横に配列された形状でもよい。
【0094】
また、上記実施形態では、視標色と背景色とが、混同色軌跡上の、無彩色の領域を挟んで互いに反対側に位置する有彩色(反対色)に設定される例を示したが、反対色に設定されなくてもよい。具体的には、例えば、視標色と背景色とが、混同色軌跡上の、無採色領域を挟んで区分される2つの有彩色領域のうちの同じ領域側の有彩色に設定されてもよい。これによれば、反対色に設定される場合に比べて、視標色と背景色との色差が小さくなるので、より微妙な錐体の感度を判定できる。すなわち、背景色との色差がより小さい視標色を判別できるということは、錐体の感度がより高いことを意味する。
【0095】
また、上記実施形態では、視標色と背景色とが、無彩色領域を通る混同色軌跡上の色に設定される例を示したが、無彩色領域を通らない混同色軌跡上の色(軌跡上色の近似色も含む)に設定されてもよい。
【0096】
また、上記実施形態では、視標色と背景色とが同一の彩度の色に設定される例を示したが、異なる彩度の色に設定されてもよい。
【0097】
また、上記実施形態では、背景が有彩色に設定される例を示したが、視標色との間で混同色の関係となるのであれば、無彩色に設定されてもよい。
【0098】
また、視標色及び背景色の一方又は双方が、混同色軌跡上の任意の色に設定可能に構成されてもよい。この場合、例えば、図1の補助表示部6に、xy色度図及び混同色軌跡を表示して、検査者がその混同色軌跡上の任意の点を操作部5等で指定することで、指定した点に対応する色の視標又は背景を被検者に提示してもよい。
【符号の説明】
【0099】
1 視標表示装置
2 表示部
3 制御部
8、20、30、41、51 視標
9、22、31、42、52 背景
101 1型二色覚における混同色軌跡
102 2型二色覚における混同色軌跡
103 3型二色覚における混同色軌跡
【要約】
【課題】被検者の色に関する視機能を検査するための有彩色の視標を表示する装置又は視標を提示する方法において、錐体別の視機能をより鋭敏に検査できる視標表示装置又は視標提示方法を提供する。
【解決手段】被検者の色に関する視機能を検査するための有彩色の視標8とその周囲に背景9とを、背景9の輝度が視標8の輝度の10%小さい数値と10%大きい数値の間に属する数値となるように、かつ、視標8の色と背景9の色とが二色覚における混同色の関係にある色の組み合わせとなるように提示する。背景9の色は例えば有彩色に設定される。視標8の色と背景9の色とは、例えば、色度図における無彩色の領域を通る同一の混同色軌跡上の、無彩色の領域を挟んで互いに反対側に位置する有彩色に設定される。視標8の色と背景9の色とは、例えば、同一彩度の色に設定される。
【選択図】図1
図1
図2
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