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特許7004366印刷用シート及び印刷用シートの製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-01-06
(45)【発行日】2022-02-14
(54)【発明の名称】印刷用シート及び印刷用シートの製造方法
(51)【国際特許分類】
   B32B 27/30 20060101AFI20220114BHJP
   B32B 27/32 20060101ALI20220114BHJP
   B32B 27/18 20060101ALI20220114BHJP
   C09D 133/06 20060101ALI20220114BHJP
   C09D 183/12 20060101ALI20220114BHJP
   D21H 19/20 20060101ALI20220114BHJP
【FI】
B32B27/30 A
B32B27/32 C
B32B27/18 Z
C09D133/06
C09D183/12
D21H19/20 A
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2021146449
(22)【出願日】2021-09-08
【審査請求日】2021-09-08
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】311018921
【氏名又は名称】株式会社TBM
(74)【代理人】
【識別番号】100106002
【弁理士】
【氏名又は名称】正林 真之
(74)【代理人】
【識別番号】100120891
【弁理士】
【氏名又は名称】林 一好
(74)【代理人】
【識別番号】100131705
【弁理士】
【氏名又は名称】新山 雄一
(72)【発明者】
【氏名】中村 宏
(72)【発明者】
【氏名】出井 晃治
【審査官】松浦 裕介
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-069654(JP,A)
【文献】特許第6894654(JP,B1)
【文献】特開2017-155243(JP,A)
【文献】特開2020-022948(JP,A)
【文献】特開2020-195332(JP,A)
【文献】特開2018-145429(JP,A)
【文献】特開2018-025718(JP,A)
【文献】特開2016-153861(JP,A)
【文献】特開2014-058161(JP,A)
【文献】特開2007-145965(JP,A)
【文献】特開2000-159840(JP,A)
【文献】国際公開第2021/065317(WO,A1)
【文献】特開2019-055555(JP,A)
【文献】特開2016-176016(JP,A)
【文献】特開2021-075043(JP,A)
【文献】特開2016-210838(JP,A)
【文献】特開2020-050698(JP,A)
【文献】国際公開第2019/022239(WO,A1)
【文献】特開昭56-139507(JP,A)
【文献】特開2007-099948(JP,A)
【文献】特開2011-156807(JP,A)
【文献】国際公開第2020/026743(WO,A1)
【文献】特開2015-086487(JP,A)
【文献】韓国登録特許第10-0651634(KR,B1)
【文献】米国特許出願公開第2021/0155032(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
IPC B32B 1/00 - 43/00
C09D 1/00 - 10/00
C09D 101/00 - 201/10
D21B 1/00 - 1/38
D21C 1/00 - 11/14
D21D 1/00 - 99/00
D21F 1/00 - 13/12
D21G 1/00 - 9/00
D21H 11/00 - 27/42
D21J 1/00 - 7/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材の片面又は両面に、アクリル系ポリマーを含むコート層を有する印刷用シートであって、
前記アクリル系ポリマーからなる連続相中に、シリコーン系界面活性剤が前記アクリル系ポリマー100質量%に対して0.10質量%以上1.00質量%以下の割合で配合され、
前記基材が、ポリプロピレン及び/又はポリエチレンを含み、
前記アクリル系ポリマーが、乳化重合物であり、
前記シリコーン系界面活性剤が、ポリエーテル変性シリコーンである、
印刷用シート。
【請求項2】
前記ポリエーテル変性シリコーンが、下記一般式(I)で表される構造を有する、請求項に記載の印刷用シート。
【化1】
(式(I)中、EGは-(CO)(CO)Rで表されるポリエーテル基であり、aは0~23の整数、bは1~10の整数、cは1~23の整数、dは0~24の整数を表し、Rは水素原子または炭素数1~4のアルキル基を表す。)
【請求項3】
前記アクリル系ポリマーが、(メタ)アクリル酸及び/又は(メタ)アクリル酸エステルのラジカル重合性モノマーの乳化重合物である、請求項1又は2に記載の印刷用シート。
【請求項4】
前記ラジカル重合性モノマーが、アクリル酸、メタクリル酸、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸n-ブチル、アクリル酸ヒドロキシエチル、アクリル酸2-エチルへキシル、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸n-ブチル、メタクリル酸ヒドロキシエチルからなる群から選択される1種もしくは2種以上である、請求項に記載の印刷用シート。
【請求項5】
前記基材が、ポリオレフィン系樹脂と無機物質粉末とを質量比50:50~10:90の割合で含む基材である、請求項1~の何れかに記載の印刷用シート。
【請求項6】
前記無機物質粉末が炭酸カルシウム粉末である、請求項に記載の印刷用シート。
【請求項7】
前記炭酸カルシウム粉末が、重質炭酸カルシウム粉末である、請求項に記載の印刷用シート。
【請求項8】
基材の片面又は両面に、アクリル系ポリマー100質量%に対してシリコーン系界面活性剤が0.10質量%以上1.00質量%以下の割合で配合されてなるアクリル系ポリマー水性エマルジョンを塗工する工程を含み
前記基材が、ポリプロピレン及び/又はポリエチレンを含み、
前記アクリル系ポリマーが、乳化重合物であり、
前記シリコーン系界面活性剤が、ポリエーテル変性シリコーンである、
印刷用シートの製造方法。
【請求項9】
ポリオレフィン樹脂と無機物質粉末とを質量比50:50~10:90の質量比で含む基材をシート状に押出し成形し、基材シートの片面又は両面に前記アクリル系ポリマー水性エマルジョンを塗工することを特徴とする、請求項に記載の印刷用シートの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、印刷用シート及び印刷用シートの製造方法に関する。詳しく述べると、本発明は、基材表面にコート層を有してなる印刷用シートの印刷適性、基材とコート層との接着性、帯電防止性等の改良に係る技術に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、印刷用シートとしては、その基材に紙やポリエステル、ポリプロピレン等からなるプラスチックシート等を用いたものが知られている。特に、例えば、ポスターや屋外用印刷物等の耐水性、引裂強度等の特性が要求される用途においては、プラスチックシートや熱可塑性樹脂に無機充填剤と少量の添加剤を加えてシート状に成形する等により得られた合成紙が主として用いられている。
【0003】
また、環境保護が国際的な問題となってきた現在、熱可塑性プラスチック並びに紙資材の消費量を低減することが大いに検討されており、この様な観点から、無機物質粉末を熱可塑性プラスチック中に高充填してなる無機物質粉末配合熱可塑性プラスチック組成物が提唱され、上述した様な印刷用シートとしても実用化されている(例えば、特許文献1等参照)。
【0004】
ところで、上述した様な材質からなるシートを、特に印刷用途として考える場合は、印刷面におけるインクとプラスチックシートとの接着力や、発色を向上するために、プラスチックシートの表面を改質することが多い。具体的には、クレイ・ラテックスやアクリル系ポリマーからなる塗工液をコーティングして、インク受容層乃至は印刷受容層等とも称されるコート層を形成している(例えば、特許文献2~4等参照。)。
【0005】
しかし、引用文献2、3に示されるように従来のアクリル系ポリマーをコーティングした場合は、帯電防止効果を発揮するために添加している親水性のアクリル系ポリマー材料の環境依存性が高く、特に冬場の様な湿度が低い条件においては帯電防止効果が低くなり、静電気が発生しやすい問題があった。静電気が発生すると、印刷時に詰まりが発生したり、シート同士がブロッキングする問題が発生するため好ましくない。
【0006】
従来のアクリル系ポリマーのコーティングにおいてはまた、ポリエチレンやポリプロピレンの様なオレフィン系プラスチックシートにアクリル系ポリマーをコーティングする場合、基材となるプラスチックシートの極性が小さいため、製造条件によっては基材であるプラスチックシートと塗工液の接着力が弱く、塗工してもシートとコーティングの界面から剥離してしまう問題もあった。また、アクリル系ポリマーのコーティングのみであると、印刷適性、特にレーザープリンター(LBP)印刷において、トナーの定着性が低く、高温度下で定着する必要があった。これにより、シートが熱により溶け、印刷装置内でシートが紙詰まり(ペーパージャム)を起こすトラブルが頻繁に発生するという問題があった。他の印刷方法、例えばインクジェット印刷においても、インクとの密着性の不良が原因で、適切な印刷がなされない場合がある。
【0007】
なお、特許文献4においては、アクリル系ポリマーとして20~60mgのKOH/gの酸価及び摂氏35度未満のTgを有するアクリル系ポリマーのラテックスと、少なくとも1つは摂氏90度を超えるTgを有するアクリル系ポリマーのラテックスとの少なくとも2種の混合物を用いて低温での高速印刷適正を高めること、塗工液組成物中に中空ポリマー粒子を配合して、コート層の断熱特性を改善すること、また塗工液組成物中に一次粒子径100nm未満を有するシリカ粒子を配合してコート層の平滑性を高めること等が開示されている。しかしながら、塗工液組成物においてこれらの配合を施した場合、基材であるプラスチックシートと塗工液との接着力の一層の低下が懸念され、また、上記した様な帯電防止効果の観点においても、特に改善は期待できないものであった。
【0008】
また特許文献5においては、0.9mmを超える繊維長-加重平均を有するセルロース繊維からなる平滑性の紙基材表面に、アクリル系バインダーに対し、炭酸カルシウム沈殿アンゴナイト、クレイ、中空球状ポリエチレン顔料等の顔料を、バインダー:顔料が100:15~100:40の割合で配合してなる組成物をコーティングして平滑性の高い印刷用シートを得ることが提案されている。しかし、この様な組成物を用いた場合、シートの平滑性が高まることは期待できる一方で、シートの印刷適性、基材とコート層の接着性、帯電防止性等の改善は期待できない。
【0009】
特許文献6においては、カチオン性ポリアクリルアミド等のカチオン性有機化合物、水溶性有機酸、水溶性有機酸塩及び水溶性多価金属塩化合物から選択される化合物を含有する前処理液と、顔料及び樹脂粒子を含有するインクとを有するインクセットが開示されている。特許文献6では、上記のような前処理液を、インク塗布に先立って基材にコートする実施形態も開示されている。しかし、こうした前処理液はカチオン性化合物や塩に起因する高い極性を有するため、基材との接着不良の問題を生じ易い。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【文献】国際公開第WO2014/109267号明細書
【文献】特公平7-20739号公報
【文献】特開2015-6793号公報
【文献】国際公開第WO2006/051092号明細書
【文献】特表2007-520642号
【文献】特開2019-6904号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は以上の実情に鑑みてなされたものであり、改良された印刷用シート及びその製造方法を提供することを課題とする。本発明はまた、インク受容のためのコート層を基材の少なくとも一方の表面に有する印刷用シートにおいて、印刷適性に優れ、基材とコート層の接着性が良好であり、帯電防止性能が良好であって印刷時における紙詰まり等の不具合が生じにくい印刷用シート及びその製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、従来のアクリル系ポリマーから形成されるコート層を有する印刷用シートの課題であった、基材樹脂であるポリプロピレンやポリエチレン等が無極性であることに起因する基材とコート層との接着性不良、表面抵抗率が高いことに起因する帯電による印刷工程における紙詰まり等の不具合を解決すべく、鋭意検討を行った。その結果、アクリル系ポリマーからなる連続相中にシリコーン系界面活性剤を所定量配合することで、基材とコート層との接着性が向上し、かつ印刷適性が改善される上に、表面抵抗率の低下による帯電防止性能の向上が見られることを見出した。
【0013】
すなわち、コート層においてアクリル系ポリマーからなる連続相中にシリコーン系界面活性剤が所定量存在することで、基材との極性の相違に起因する接着性不良を低減することが可能となる。コート層表面も改質され、優れた印刷適性及び良好な帯電防止効果を得ることができる。
【0014】
そしてこの様な知見により本発明に到達したものである。
【0015】
すなわち、上記課題を解決する本発明は、基材の片面又は両面に、アクリル系ポリマーを含むコート層を有する印刷用シートであって、前記アクリル系ポリマーからなる連続相中に、シリコーン系界面活性剤が前記アクリル系ポリマー100質量%に対して0.10質量%以上1.00質量%以下の割合で配合されていることを特徴とする、印刷用シートである。
【0016】
本発明の印刷用シートの一態様においては、前記シリコーン系界面活性剤が、ポリエーテル変性シリコーンである、上記印刷用シートが示される。
【0017】
本発明の印刷用シートの一態様においては、前記ポリエーテル変性シリコーンが、下記一般式(I)で表される構造を有する、上記印刷用シートが示される。
【化1】
(式(I)中、EGは-(CO)(CO)Rで表されるポリエーテル基であり、aは0~23の整数、bは1~10の整数、cは1~23の整数、dは0~24の整数を表し、Rは水素原子又は炭素数1~4のアルキル基を表す。)
【0018】
本発明の印刷用シートの一態様においては、前記アクリル系ポリマーが、(メタ)アクリル酸及び/又は(メタ)アクリル酸エステルのラジカル重合性モノマーの乳化重合物である、上記印刷用シートが示される。
【0019】
本発明の印刷用シートの一態様においては、前記ラジカル重合性モノマーが、アクリル酸、メタクリル酸、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸n-ブチル、アクリル酸ヒドロキシエチル、アクリル酸2-エチルへキシル、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸n-ブチル、メタクリル酸ヒドロキシエチルからなる群から選択される1種もしくは2種以上である、上記印刷用シートが示される。
【0020】
本発明の印刷用シートの一態様においては、前記基材が、ポリオレフィン系樹脂と無機物質粉末とを質量比50:50~10:90の割合で含む基材である、上記印刷用シートが示される。
【0021】
本発明の印刷用シートの一態様においては、前記無機物質粉末が炭酸カルシウム粉末である、上記印刷用シートが示される。
【0022】
本発明の印刷用シートの一態様においては、前記炭酸カルシウム粉末が、重質炭酸カルシウム粉末である、上記印刷用シートが示される。
【0023】
上記課題を解決する本発明は、基材の片面又は両面に、アクリル系ポリマー100質量%に対してシリコーン系界面活性剤が0.10質量%以上1.00質量%以下の割合で配合されてなるアクリル系ポリマー水性エマルジョンを塗工することを特徴とする、印刷用シートの製造方法である。
【0024】
本発明の印刷用シートの製造方法の一態様においては、ポリオレフィン樹脂と無機物質粉末とを質量比50:50~10:90の質量比で含む基材をシート状に押出し成形し、基材シートの片面又は両面に前記アクリル系ポリマー水性エマルジョンを塗工することを特徴とする、上記印刷用シートの製造方法が示される。
【発明の効果】
【0025】
本発明によれば、インク受容のためのコート層を基材の少なくとも一方の表面に有する印刷用シートにおいて、印刷適性に優れ、基材とコート層の接着性が良好な印刷用シートが提供される。本発明の印刷用シートは、帯電防止性能も良好で印刷時における紙詰まり等の不具合が生じにくく、更に耐水性、耐候性等の諸特性にも優れ、黄変等の問題を生じにくい利点がある。本発明の印刷用シートはまた、インクを弾きにくく、インクの速乾性も良好であるので、インクジェット印刷、LBP印刷、油性オフセット印刷、UVオフセット印刷等に特に適する印刷用シートとなる。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本発明を実施形態に基づき詳細に説明する。
【0027】
≪印刷用シート≫
本発明の印刷用シートは、シート状の基材と、基材の少なくとも一方の表面に形成された、アクリル系ポリマーを含むコート層とを備えるものであり、このコート層として、アクリル系ポリマーからなる連続相中に、シリコーン系界面活性剤がアクリル系ポリマー100質量%に対して0.10質量%以上1.00質量%以下の割合で配合されてなるものを有する。
【0028】
なお、本発明にかかる印刷用シートとしては、基材の少なくとも一方の表面に上記したコート層を有する形態のものであれば、その他の構成については特に限定されるものではなく、例えば、基材とコート層の間に、なんらかの機能を有する中間層、例えば、基材とコート層との密着性を良くするためのシーラント層、印刷用シートに彩色及び柄等を与えるための内部印刷層、遮蔽層等、あるいはコート層を設けていない基材表面上への保護層、粘着層等、更にはコート層表面への保護層等を任意で設けることができる。
【0029】
<(1)基材>
本発明の印刷用シートにおける基材の材質としては、特に限定されず、樹脂系材料を主成分とするプラスチックシートから構成されていても良いし、紙系の材料から構成されていても良く、合成紙から構成されていても良い。更に、基材としては、無機物質粉末を熱可塑性プラスチック中に高充填してなる無機物質粉末配合熱可塑性プラスチックからなるシート、特に、ポリオレフィン系樹脂と無機物質粉末とを質量比50:50~10:90の割合で含有する無機物質粉末配合熱可塑性プラスチックからなるシートを用いることが、環境保全の観点から、また機械的強度、耐熱性等の特性が向上する観点から好ましい。
【0030】
(樹脂成分)
前記プラスチックシート、あるいは前記無機物質粉末配合熱可塑性プラスチックシートを構成する樹脂としては、特に限定されるものではなく、印刷用シートの用途、機能等に応じて、各種のものが用いられ得る。例えば、ポリエチレン系樹脂、ポリプロピレン系樹脂、ポリメチル-1-ペンテン、エチレン-環状オレフィン共重合体等のポリオレフィン系樹脂;エチレン-酢酸ビニル共重合体、エチレン-アクリル酸共重合体、エチレン-メタクリル酸共重合体、エチレン-メタクリル酸共重合体の金属塩(アイオノマー)、エチレン-アクリル酸アルキルエステル共重合体、エチレン-メタクリル酸アルキルエステル共重合体、マレイン酸変性ポリエチレン、マレイン酸変性ポリプロピレン等の官能基含有ポリオレフィン系樹脂;ナイロン-6、ナイロン-6,6、ナイロン-6,10、ナイロン-6,12等のポリアミド系樹脂;ポリエチレンテレフタレート及びその共重合体、ポリエチレンナフタレート、ポリブチレンテレフタレート等の芳香族ポリエステル系樹脂、ポリブチレンサクシネート、ポリ乳酸等の脂肪族ポリエステル系樹脂等の熱可塑性ポリエステル系樹脂;芳香族ポリカーボネート、脂肪族ポリカーボネート等のポリカーボネート樹脂;アタクティックポリスチレン、シンジオタクティックポリスチレン、アクリロニトリル-スチレン(AS)共重合体、アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン(ABS)共重合体等のポリスチレン系樹脂;ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン等のポリ塩化ビニル系樹脂;ポリフェニレンスルフィド;ポリエーテルスルフォン、ポリエーテルケトン、ポリエーテルエーテルケトン等のポリエーテル系樹脂等が挙げられる。これらは、1種を単独又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0031】
これらの熱可塑性樹脂のうち、その成形容易性、性能面及び経済面等からポリオレフィン系樹脂、芳香族ポリエステル系樹脂、脂肪族ポリエステル系樹脂を用いることが好ましい。
【0032】
ここで、ポリオレフィン系樹脂とは、オレフィン成分単位を主成分とするポリオレフィン系樹脂であり、具体的には、上記した様にポリプロピレン系樹脂やポリエチレン系樹脂、その他、ポリメチル-1-ペンテン、エチレン-環状オレフィン共重合体等、更にそれらの2種以上の混合物等が挙げられる。なお、上記「主成分とする」とは、オレフィン成分単位がポリオレフィン系樹脂中に50質量%以上含まれることを意味し、その含有量は好ましくは75質量%以上であり、より好ましくは85質量%以上であり、更に好ましくは90質量%以上である。なお、本発明に使用されるポリオレフィン系樹脂の製造方法は特に限定はなく、チーグラー・ナッタ系触媒、メタロセン系触媒、酸素、過酸化物等のラジカル開始剤等を用いる方法等の何れによって得られたものであっても良い。
【0033】
前記ポリプロピレン系樹脂としては、プロピレン成分単位が50質量%以上の樹脂が挙げられ、例えば、プロピレン単独重合体、又はプロピレンと共重合可能な他のα-オレフィンとの共重合体等が挙げられる。プロピレンと共重合可能な他のα-オレフィンとしては、例えば、エチレンや、1-ブテン、イソブチレン、1-ペンテン、3-メチル-1-ブテン、1-ヘキセン、3,4-ジメチル-1-ブテン、1-ヘプテン、3-メチル-1-ヘキセン等の炭素数4~10のα-オレフィンが例示される。プロピレン単独重合体としては、アイソタクティック、シンジオタクティック、アタクチック、ヘミアイソタクチック及び種々の立体規則性を示す直鎖又は分枝状ポリプロピレン等の何れもが包含される。また上記共重合体は、ランダム共重合体であってもブロック共重合体であっても良く、更に二元共重合体のみならず三元共重合体であっても良い。具体的には、例えば、エチレン-プロピレンランダム共重合体、ブテン-1-プロピレンランダム共重合体、エチレン-ブテン-1-プロピレンランダム3元共重合体、エチレン-プロピレンブロック共重合体等を例示できる。
【0034】
また、前記ポリエチレン系樹脂としては、エチレン成分単位が50質量%以上の樹脂が挙げられ、例えば、高密度ポリエチレン(HDPE)、低密度ポリエチレン(LDPE)、中密度ポリエチレン、直鎖状低密度ポリエチレン(LLDPE)、エチレン-酢酸ビニル共重合体、エチレン-プロピレン共重合体、エチレン-プロピレン-ブテン1共重合体、エチレン-ブテン1共重合体、エチレン-ヘキセン1共重合体、エチレン-4メチルペンテン1共重合体、エチレン-オクテン1共重合体等、更にそれらの2種以上の混合物が挙げられる。
【0035】
前記したポリオレフィン系樹脂の中でも、機械的強度と耐熱性とのバランスに特に優れることからポリプロピレン系樹脂が好ましく用いられる。
【0036】
(無機物質粉末)
上記した様に、基材が無機物質粉末配合熱可塑性プラスチックシートである場合における、当該シート中に配合され得る無機物質粉末としては、特に限定されず、例えば、カルシウム、マグネシウム、アルミニウム、チタン、鉄、亜鉛等の炭酸塩、硫酸塩、珪酸塩、リン酸塩、ホウ酸塩、酸化物、若しくはこれらの水和物の粉末状のものが挙げられ、具体的には、例えば、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、酸化亜鉛、酸化チタン、シリカ、アルミナ、クレイ、タルク、カオリン、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、珪酸アルミニウム、珪酸マグネシウム、珪酸カルシウム、硫酸アルミニウム、硫酸マグネシウム、硫酸カルシウム、リン酸マグネシウム、硫酸バリウム、珪砂、カーボンブラック、ゼオライト、モリブデン、珪藻土、セリサイト、シラス、亜硫酸カルシウム、硫酸ナトリウム、チタン酸カリウム、ベントナイト、黒鉛等が挙げられる。これらは合成のものであっても天然鉱物由来のものであっても良く、また、これらは単独又は2種類以上併用して使用され得る。
【0037】
更に、無機物質粉末の形状としても、特に限定される訳ではなく、粒子状、フレーク状、顆粒状、繊維状等の何れであっても良い。また、粒子状としても、一般的に合成法により得られる様な球形のものであっても、あるいは、天然鉱物を粉砕にかけることにより得られる様な不定形状のものであっても良い。
【0038】
これらの無機物質粉末として、好ましくは炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、酸化亜鉛、酸化チタン、シリカ、アルミナ、クレイ、タルク、カオリン、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム等であり、特に炭酸カルシウム粉末が好ましい。更に炭酸カルシウムとしては、合成法により調製されたもの、いわゆる軽質炭酸カルシウムと、石灰石等CaCOを主成分とする天然原料を機械的に粉砕分級して得られる、いわゆる重質炭酸カルシウムの何れであっても良く、これらを組合わせることも可能であるが、経済性の観点で、好ましくは、重質炭酸カルシウム粉末である。
【0039】
ここで、重質炭酸カルシウムとは、天然の石灰石等を機械的に粉砕・加工して得られるものであって、化学的沈殿反応等によって製造される合成炭酸カルシウムとは明確に区別される。なお、粉砕方法には乾式法と湿式法とがあるが、経済性の観点で、乾式法が好ましい。
【0040】
また、無機物質粉末の分散性又は反応性を高めるために、無機物質粉末の表面を予め常法に従い表面改質しておいても良い。表面改質法としては、プラズマ処理等の物理的な方法や、カップリング剤や界面活性剤で表面を化学的に表面処理するもの等が例示できる。カップリング剤としては、例えば、シランカップリング剤やチタンカップリング剤等が挙げられる。界面活性剤としては、アニオン性、カチオン性、ノニオン性及び両性の何れのものであっても良く、例えば、高級脂肪酸、高級脂肪酸エステル、高級脂肪酸アミド、高級脂肪酸塩等が挙げられる。
【0041】
無機物質粉末は、粒子であることが好ましく、平均粒子径は、0.1μm以上50.0μm以下が好ましく、1.0μm以上10.0μm以下がより好ましく、1.0μm以上5.0μm以下がさらに好ましい。なお、本明細書において述べる無機物質粉末の平均粒子径は、特記しない限りJIS M-8511に準じた空気透過法による比表面積の測定結果から計算した値をいう。測定機器としては、例えば、島津製作所社製の比表面積測定装置SS-100型を好ましく用いることができる。特に、その粒子径分布において、粒子径50.0μmを超える粒子を含有しないことが好ましい。他方、粒子が細かくなり過ぎると、前述した熱可塑性樹脂と混練した際に粘度が著しく上昇し、成形体の製造が困難になる虞がある。そのため、その平均粒子径は0.5μm以上とすることが好ましい。
【0042】
無機物質粉末は、繊維状、粉末状、フレーク状、又は顆粒状であっても良い。
【0043】
繊維状である無機物質粉末の平均繊維長は、好ましくは、3.0μm以上20.0μm以下である。平均繊維径は、好ましくは、0.2μm以上1.5μm以下である。また、アスペクト比は、通常、10以上30以下である。なお、繊維状である無機物質粉末の平均繊維長及び平均繊維径は、電子顕微鏡で測定したものであり、アスペクト比は、平均繊維径に対する平均繊維長の比(平均繊維長/平均繊維径)である。
【0044】
基材が上述した様に無機物質粉末配合熱可塑性プラスチックシートである場合に、これに含まれる上記した熱可塑性樹脂と、無機物質粉末との配合比(質量%)としては、前記した様に、50:50~10:90の比率であることが望ましいが、40:60~20:80の比率であることがより好ましく、40:60~25:75の比率であることが更に好ましい。熱可塑性樹脂と無機物質粉末との配合比において、無機物質粉末の割合が50質量%より低いものであると、無機物質粉末を配合したことによる無機物質粉末配合熱可塑性樹脂組成物の所定の質感、耐衝撃性等の物性が得られないものとなり、一方90質量%よりも高いものであると、押出成形、真空成形等による成形加工が困難となるためである。
【0045】
(その他の添加剤)
また、基材が、前記プラスチックシート、あるいは前記無機物質粉末配合熱可塑性プラスチックシートである場合には、その組成中に、必要に応じて、補助剤としてその他の添加剤を配合することも可能である。その他の添加剤としては、例えば、可塑剤、色剤、滑剤、カップリング剤、流動性改良材、分散剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、難燃剤、安定剤、帯電防止剤、発泡剤等が挙げられる。これらの添加剤は、単独で用いても良く、2種以上を併用しても良い。
【0046】
(紙系材料)
基材が紙系の材料から構成される場合の具体例として、グラシン紙、コート紙、上質紙、無塵紙、含浸紙等の紙基材、及び上記の紙基材にポリエチレン等の熱可塑性樹脂をラミネートしたラミネート紙が挙げられる。
【0047】
(基材構成)
基材は上記した材料より構成される一層のシートにより構成されていても良いし、あるいは複数層が積層されて基材を構成していても良い。また、基材が前記プラスチックシートあるいは前記無機物質粉末配合熱可塑性プラスチックシートの場合には、当該シートは未延伸のものであっても良いし、縦又は横等の一軸方向又は二軸方向に延伸されたものであっても良い。
【0048】
基材の厚さとしては、特に限定はないが、通常10μm以上500μm以下、好ましくは25μm以上300μm以下、より好ましくは50μm以上250μm以下、特に好ましくは100μm以上220μm以下である。
【0049】
また、プラスチックシート、あるいは前記無機物質粉末配合熱可塑性プラスチックシートからなる基材を用いる場合には、その表面に設けられるコート層との密着性を向上させる目的で、所望により片面又は両面に、酸化法や凹凸化法等により表面処理を施すことができる。上記酸化法としては、例えばコロナ放電処理、フレーム処理、プラズマ処理、グロー放電処理、クロム酸処理(湿式)、火炎処理、熱風処理、オゾン・紫外線照射処理等が挙げられ、また、凹凸化法としては、例えばサンドブラスト法、溶剤処理法等が挙げられる。また、プライマー処理を施すこともできる。
【0050】
<(2)コート層>
本発明の印刷用シートが有するコート層は、前記基材の片面のみに設けられても良く、両面に設けられても良い。例えば両面印刷用のシートでは、コート層は基材の両面に設けられていることが好ましい。一方で片面のみにしか印刷しないシートでは、コート層は基材の片面のみに設けられていることが、コストの観点からは好ましい。また、紙基材等の風合いを生かす目的で、片面コートとすることも可能である。
【0051】
コート層の厚さは、特に限定されるものではないが、1μm以上50μm以下であることが好ましく、2μm以上40μm以下であることがより好ましく、3μm以上30μm以下であることが特に好ましい。この範囲内の厚さであると、コート層が、インクの受容層として十分に機能し良好な着色性、発色性等といったインク受容特性を発揮し、かつ、印刷用シートの耐水性、表面の帯電防止性、インクとの密着性等といった特性も良好となる。インクとの密着性の観点からは、コート層を厚め、例えば10μm以上40μm以下、特に20μm以上30μm以下とすることが好ましい。一方で基材の風合いを生かす目的やコストを考慮し、コート層を薄め、例えば1μm以上10μm以下、さらには2μm以上8μm以下、特に3μm以上5μm以下とすることもできる。
【0052】
コート層の厚さと、基材の厚さとの比率も、特に制限されない。例えばコート層:基材の厚さ比率を、1:100~2:1、特に1:20~1:1、中でも1:10~1:3程度とし、機械的強度や耐熱性等の特性と、印刷適性とのバランスの取れたシートとすることが可能である。基材の両面にコート層を設ける場合、2つのコート層の厚さが異なっていてもよい。例えば厚さ25μm以上300μm以下、特に50μm以上250μm以下の基材の片面に、厚さ10μm以上40μm以下、特に20μm以上30μm以下のコート層を、反対側の面に、厚さ1μm以上10μm以下、特に2μm以上8μm以下のコート層を設け、印刷適性に優れる面と接着性等に優れる反対面とを備える印刷用シートとすることができる。これらコート層の一方のみを備える、片面コートの印刷用シートとすることも可能である。
【0053】
しかして、本発明においては、このコート層は、マトリックスとなるアクリル系ポリマーの連続相に、シリコーン系界面活性剤がアクリル系ポリマー100質量%に対して0.10質量%以上1.00質量%以下の割合で添加されてなるものである。
【0054】
コート層においてアクリル系ポリマーからなる連続相中に、シリコーン系界面活性剤が上記した所定量にて存在することで、基材とコート層の接着性が改善されるため、本発明の印刷用シートは印刷適性に優れたものとなる。所定量のシリコーン系界面活性剤によって帯電防止性能も良好となるので、本発明の印刷用シートには、印刷時における紙詰まり等の不具合が生じにくい利点が生じる。インクの速乾性も高まり、印刷後のシートを重ねても接着等の不具合を来すことがなく、また、オフセット印刷適性が向上する。
【0055】
このコート層において、シリコーン系界面活性剤の配合量が0.10質量%未満だと、基材とコート層の接着性や印刷適性が、あまり改善されない場合がある。同配合量が1.00質量%を超えると、これら物性の改善が頭打ちとなり、コスト面や加工面で不利となり勝ちである。シリコーン系界面活性剤の配合量は、アクリル系ポリマー100質量%に対して、0.20質量%以上0.80質量%以下、特に0.30質量%以上0.70質量%以下、中でも0.40質量%以上0.60質量%以下とするのが好ましい。
【0056】
以下、本発明のコート層を形成する各成分につき詳細に説明する。
【0057】
(連続相を形成するアクリル系ポリマー)
コート層のマトリックスとなるアクリル系ポリマーとしては、(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸エステル、(メタ)アクリルアミド類、及び(メタ)アクリロニトリルを主たるモノマー成分として得られる重合物が含まれる。なお、本明細書において用いられる「(メタ)アクリル」との用語は、「アクリル」と「メタクリル」との双方を含む意味で用いているものである。
【0058】
より具体的には、前記アクリル系ポリマーを構成するモノマー成分としては、特に限定されるものではないが、下記の成分からなる群から選択される1種もしくは2種以上のものが挙げられる:
アクリル酸、メタクリル酸;
例えば、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸n-プロピル、アクリル酸イソプロピル、アクリル酸n-ブチル、アクリル酸イソブチル、アクリル酸t-ブチル、アクリル酸ヘキシル、アクリル酸n-オクチル、アクリル酸-2-エチルヘキシル、アクリル酸イソオクチル、アクリル酸ノニル、アクリル酸ラウリル、アクリル酸ステアリル、アクリル酸パルミチル又はアクリル酸シクロヘキシル等のアルキル基の炭素数が1~18のアクリル酸アルキルエステル;
例えば、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸n-プロピル、メタクリル酸イソプロピル、メタクリル酸n-ブチル、メタクリル酸イソブチル、メタクリル酸t-ブチル、メタクリル酸ヘキシル、メタクリル酸n-オクチル、メタクリル酸-2-エチルヘキシル、メタクリル酸イソオクチル、メタクリル酸ノニル、メタクリル酸ラウリル、メタクリル酸ステアリル、メタクリル酸パルミチル及びメタクリル酸シクロヘキシル等のアルキル基の炭素数が1~18のメタクリル酸アルキルエステル;
例えば、アクリル酸2-ヒドロキシエチル、メタクリル酸2-ヒドロキシエチル、アクリル酸2-ヒドロキシプロピル、メタクリル酸2-ヒドロキシプロピル、アクリル酸4-ヒドロキシブチル、メタクリル酸4-ヒドロキシブチル、フタル酸モノヒドロキシエチルアクリレート等の(メタ)アクリル酸の側鎖に水酸基を有するアルキルエステル;
例えば、エチレングリコール単位を分子内に持つポリエチレングリコール(nは3以上20以下が望ましい。)ジアクリレート、トリメチロールプロパンEO変性(nは3以上20以下が望ましい。)トリアクリレート、フェノールEO変性(nは3以上20以下が望ましい。)アクリレート、
例えば、アリルオキシエチルアクリレートやアリルオキシエチルメタクリレート等の(メタ)アクリル酸のアルケニルオキシアルキルエステル、
例えば、アクリル酸メトキシブチル、メタクリル酸メトキシブチル、アクリル酸メトキシエチル、メタクリル酸メトキシエチル、アクリル酸エトキシブチル、メタクリル酸エトキシブチル等の(メタ)アクリル酸の側鎖にアルコキシル基を有するアルキルエステル;
例えば、アクリル酸アリルやメタクリル酸アリル等の(メタ)アクリル酸のアルケニルエステル;
例えば、アクリル酸グリシジル、メタクリル酸グリシジル、並びにアクリル酸メチルグリシジルやメタクリル酸メチルグリシジル等のアクリル酸の側鎖にエポキシ基を有するアルキルエステル;
例えば、アクリル酸ジエチルアミノエチル、メタクリル酸ジエチルアミノエチル、アクリル酸メチルアミノエチル、メタクリル酸メチルアミノエチル等の(メタ)アクリル酸のモノ-又はジ-アルキルアミノアルキルエステル;
例えば、側鎖としてシリル基、アルコキシシリル基又は加水分解性アルコキシシリル基等を有するシリコーン変性(メタ)アクリル酸エステル;
例えば、アクリルアミド、メタクリルアミド;
例えば、N-メチロールアクリルアミド及びN-メチロールメタクリルアミド等のメチロール基を有する(メタ)アクリルアミド;
例えば、N-アルコキシメチロールアクリルアミド(例えば、N-イソブトキシメチロールアクリルアミド等)、及びN-アルコキシメチロールメタクリルアミド(例えば、N-イソブトキシメチロールメタクリルアミド等)等のアルコキシメチロール基を有する(メタ)アクリルアミド;
例えば、N-ブトキシメチルアクリルアミドやN-ブトキシメチルメタクリルアミド等のアルコキシアルキル基を有する(メタ)アクリルアミド;及び、
アクリロニトリル、メタクリロニトリル等の各種のアクリル系単量体も前記アクリル系樹脂を構成するモノマー成分として挙げることができる。
更に、アクリル系ポリマーに光硬化反応等により架橋構造を導入し、コート層の皮膜強度を高めようとする場合には、2官能乃至は多官能のアクリル系モノマー、具体的には例えば、1,4-ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,6-ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、上記ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ヒドロキシピバリン酸ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、ジシクロペンタニルジ(メタ)アクリレート、カプロラクトン変性ジシクロペンテニルジ(メタ)アクリレート、エチレンオキシド変性リン酸ジ(メタ)アクリレート、アリル化シクロヘキシルジ(メタ)アクリレート、イソシアヌレートジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、プロピオン酸変性ジペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、プロピレンオキシド変性トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、トリス(アクリロキシエチル)イソシアヌレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレート、プロピオン酸変性ジペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、カプロラクトン変性ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート等の多官能(メタ)アクリレートを配合することも可能である。これらのモノマー成分は、単独で、又は複数を混合して使用することができる。
【0059】
しかしながら本発明においては、アクリル系ポリマーが、(メタ)アクリル酸及び/又は(メタ)アクリル酸エステルのラジカル重合性モノマーの乳化重合物であることが好ましい。特に、ラジカル重合性モノマーが、アクリル酸、メタクリル酸、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸n-ブチル、アクリル酸ヒドロキシエチル、アクリル酸2-エチルへキシル、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸n-ブチル、メタクリル酸ヒドロキシエチルからなる群から選択される1種もしくは2種以上であることが好ましい。これらモノマーの乳化重合物は、後記するようにコート層の形成が容易で、しかも得られたコート層が印刷適性に優れる利点もある。
【0060】
なお、本発明でコート層の連続相を構成するアクリル系ポリマーは、上記に例示の各種のモノマー成分の内の何れかのみから構成されるホモポリマーであっても、上記に例示する各種モノマー成分を複数組み合わせてなるコポリマー(共重合体)であっても良い。
更に、本発明の一実施態様においては、上記モノマー成分以外に他のモノマー成分を含有するコポリマーをアクリル系ポリマーとして用い得る。
【0061】
上記例示以外のモノマー成分としては、上記モノマー成分と共重合体を形成するものであれば特に限定されず、例えば、酢酸ビニル、塩化ビニル、塩化ビニリデン、乳酸ビニル、酪酸ビニル、バーサティック酸ビニル及び安息香酸ビニル等のビニル系単量体、エチレン、ブタジエン、スチレン等を挙げることができる。しかしながら、好ましくは得られるシートの耐候性の観点から、スチレンを含まないことが望ましい。
【0062】
なお、本発明の印刷用シートにおいてコート層を形成する方法としても特に限定されるものではないが、一般的には、この様なコート層を形成する上での塗工性の観点から、水に分散/又は有機溶剤に溶解した形態で用いることが望ましく、特に、水に分散させた形態、すなわち、アクリル系ポリマー水性エマルジョンの形態であることが望ましい。このため上記アクリル系ポリマーとしては、コート層を形成する原料としての段階で水性エマルジョンの形態を有するものであることが好ましい。
【0063】
アクリル系ポリマー水性エマルジョンを製造する上での乳化重合自体は当業者に周知である。その乳化重合において用いられる界面活性剤としてはアニオン性、カチオン性、両性、ノニオン性のものを単独、又は2種以上併用することが可能である。これらのうち好ましくはノニオン性、カチオン性のものである。ノニオン性界面活性剤としては、特に限定されるものではないが、例えばポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフエニルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルエステル、ソルビタンアルキルエステル、ポリオキシエチレンソルビタンアルキルエステル等がある。カチオン性界面活性剤としては、特に限定されるものではないが、例えばドデシルトリメチルアンモニウムクロライド、ステアリルトリメチルアンモニウムクロライド、N-2-エチルヘキシルピリジニウムクロライド等があるが、最も好ましくはノニオン性界面活性剤である。又それらのうちポリオキシエチレンアルキルフエニルエーテルが特に好ましい。界面活性剤の量は、特に限定される訳ではないが、通常、単量体の総量の1~5質量%が好ましく用いられる。
【0064】
更に、保護コロイド剤としてゼラチン、ポリビニルアルコール等の水溶性ポリマーを併用しても良い。
【0065】
また、乳化重合におけるラジカル重合開始剤としては、過硫酸カリウム、過硫酸アンモニウム等の過硫酸塩、過酸化水素水、t-ブチルハイドロパーオキサイド、アゾビスアミジノプロパンの塩酸塩等の水溶性タイプ、ベンゾイルパーオキサイド、ジイソプロピルパーオキシジカーボネート、クミルパーオキシネオデカノエート、クミルパーオキシオクトエート、アゾビスイソブチロニトリル等の油溶性タイプ等が例示されるが、水溶性のものが好ましい。重合開始剤は、特に限定される訳ではないが、例えば、単量体の総量の0.01~0.50質量%の割合で用いる。
【0066】
重合反応は、特に限定されるものではないが、通常35~90℃の温度で攪拌下に行われ、反応時間は通常3~40時間である。また、乳化重合の開始時あるいは終了時に塩基性物質を加えてpHを調整することで、エマルジョンの放置安定性、凍結安定性、化学的安定性等を向上させることができる。この場合、得られるエマルジョンは、pHが5~9となる様に調整することが好ましく、そのためにアンモニア、エチルアミン、ジエチルアミン、トリエチルアミン、エタノールアミン、トリエタノールアミン、ジメチルエタノールアミン、苛性ソーダ、苛性カリ等の塩基性物質を使用することができる。
【0067】
なお、アクリル系ポリマー中の上記重合開始剤、(非シリコーン系の)界面活性剤、保護コロイド剤等は、本発明におけるコート層の原材料として用いられる際に残存していても問題ない。しかしながら重合開始剤については、使用時には失活又は除去されていることが好ましい。
【0068】
(シリコーン系界面活性剤)
さらに本発明においては、マトリックスとなるアクリル系ポリマーの連続相に、所定の割合でシリコーン系界面活性剤を配合する。
【0069】
本発明において用いられるシリコーン系界面活性剤としては特に限定されず、公知のシリコーン系界面活性剤を適宜利用することができる。例として東レ・ダウ・コーニング株式会社製の71ADDITIVE、74ADDITIVE、57ADDITIVE、8029ADDITIVE、8054ADDITIVE、8211ADDITIVE、8019ADDITIVE、8526ADDITIVE、FZ-2123、FZ-2191(いずれも商品名);モメンティブ・パフォーマンス・マテリアルズ社製のTSF4440、TSF4441、TSF4445、TSF4446、TSF4450、TSF4452、TSF4460(いずれも商品名);日信化学工業株式会社製のシルフェイスSAG002、シルフェイスSAG003、シルフェイスSAG005、シルフェイスSAG008、シルフェイスSAG013、シルフェイスSAG022、シルフェイスSAG503A、シルフェイスSJM003(登録商標);エボニック社製のTEGOWetKL245、TEGOWet240、TEGOWet250、TEGOWet260、TEGOWet265、TEGOWet270、TEGOWet280(いずれも商品名);ビックケミー・ジャパン社製のBYK-345、BYK-347、BYK-348、BYK-349、BYK-375、BYK-377(いずれも商品名)等の市販品が挙げられるが、これらに限定されない。
【0070】
しかしながら本発明においては、シリコーン系界面活性剤はポリエーテル変性シリコーンであることが好ましい。ポリエーテル変性シリコーンの配合により、基材とコート層との接着性を大きく改善できる上、印刷性に優れ、斑等の生じにくい印刷用シートとすることができる。
【0071】
ポリエーテル変性シリコーンは、シリコーン鎖の側鎖及び/又は末端にポリエーテル基を有するシロキサン化合物である。例としてビックケミー・ジャパン社製のBYK-345、BYK-347、BYK-348、BYK-349(いずれも商品名);エボニック社製のTEGOWet240、TEGOWet270、TEGOWet280(いずれも商品名)、日信化学工業株式会社製のシルフェイスSAG002、シルフェイスSAG005、シルフェイスSAG008、シルフェイスSAG013、シルフェイスSAG022、シルフェイスSAG503A(登録商標)等が挙げられるが、これらに限定されない。ポリエーテル基の種類や数、シリコーン鎖におけるシロキサン単位の種類や数、ポリエーテル基数とシロキサン単位数との比率等にも、特に制限はない。例えば、ポリメチレンオキシ基、ポリエチレンオキシ基、ポリプロピレンオキシ基、及び/又はポリブチレンオキシ基等が、ジメチルポリシロキサンやジフェニルポリシロキサン、メチルフェニルポリシロキサン等の側鎖及び/又は末端に結合した構造のシリコーンを使用することができる。また、シリコーン鎖は、一部が環状であったり分岐していたりしてもよい。
【0072】
しかしながら本発明で使用するポリエーテル変性シリコーンは、シリコーン鎖の側鎖にポリエーテル基を導入した構造のものが好ましい。より好ましくは、直鎖状ジメチルポリシロキサンの側鎖に、ポリエーテル基を有する。中でも、下記一般式(I)で表される構造を有するポリエーテル変性シリコーンが好ましい。
【化2】
(式(I)中、EGは-(CO)(CO)Rで表されるポリエーテル基であり、aは0~23の整数、bは1~10の整数、cは1~23の整数、dは0~24の整数を表し、Rは水素原子または炭素数1~4のアルキル基を表す。)
【0073】
一般式(I)で表される構造のシリコーン系界面活性剤を用いることにより、基材とコート層との接着性や帯電防止性能に優れるだけでなく、インク密着性が良好で斑が生じにくい、印刷適性に優れた印刷用シートとすることができる。特に好ましくは、SP値が低目のポリエーテル変性シリコーン、例えば一般式(I)中のb/aの比率が(1~5)/(10~23)、特に(1~3)/(15~23)等と小さい構造、又はEG基中のc+dの値が15以下、特に10以下と小さい構造のポリエーテル変性シリコーンを使用する。こうした、比較的低極性のポリエーテル変性シリコーンを用いることにより、特に油性インクを用いた場合のインク受容特性に優れ、印刷後のドット形状が良好な印刷用シートとすることができる。
【0074】
本発明において、前記コート層は、上記以外の添加剤等の他の成分を含有しても良い。添加剤としては、具体的には、架橋剤、pH調整剤、増粘剤、流動性改良剤、消泡剤、抑泡剤、非シリコーン系界面活性剤、離型剤、浸透剤、炭酸カルシウムやタルク、クレー等の無機物質粉末、着色顔料、着色染料、蛍光増白剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、防腐剤、防黴剤、耐水化剤、インク定着剤、硬化剤、耐候材料等が挙げられる。尚、無機物質粉末としては、基材原料として先に例示した種類のものを使用することができる。ここで、コート層中の無機物質粉末は、体積平均粒子径が0.05μm以上2.00μm以下、特に0.07μm以上1.50μm以下であることが好ましい。この様な粒子径範囲を有するものであると、コート層の平滑化及びシートの光沢性を向上できるものとなる。
【0075】
架橋剤としては、アルデヒド系化合物、メラミン系化合物、イソシアネート系化合物、ジルコニウム系化合物、チタン系化合物、アミド系化合物、アルミニウム系化合物、ホウ酸、ホウ酸塩、カルボジイミド系化合物、オキサゾリン系化合物等が挙げられる。
【0076】
また、インク定着剤として、アクリル樹脂以外のカチオン性樹脂や、多価金属塩を含有することが好ましい。カチオン性樹脂としては、ポリエチレンイミン系樹脂、ポリアミン系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリアミドエピクロルヒドリン系樹脂、ポリアミンエピクロルヒドリン系樹脂、ポリアミドポリアミンエピクロルヒドリン系樹脂、ポリジアリルアミン系樹脂、ジシアンジアミド縮合物等が挙げられる。多価金属塩としては、カルシウム化合物、マグネシウム化合物、ジルコニウム化合物、チタン化合物、アルミニウム化合物等が挙げられる。これらの中でも、カルシウム化合物が好ましく、硝酸カルシウム四水和物がより好ましい。
【0077】
消泡剤としては、特に限定されないが、例えば、鉱物油系、ポリエーテル系、シリコーン系の消泡剤が用いられ、好ましくは鉱物油系の消泡剤である。疎水性シリカタイプの鉱物油系消泡剤としては、以下に限定されるものではないが、例えば、ノプコ8034、ノプコ8034-L、SNデフォーマーAP、SNデフォーマーH-2、SNデフォーマーTP-33、SNデフォーマーVL、SNデフォーマー113、SNデフォーマー154、SNデフォーマー154S、SNデフォーマー313、SNデフォーマー314、SNデフォーマー316、SNデフォーマー317、SNデフォーマー318、SNデフォーマー319、SNデフォーマー321、SNデフォーマー323、SNデフォーマー364、SNデフォーマー414、SNデフォーマー456、SNデフォーマー474、SNデフォーマー476-L、SNデフォーマー480、SNデフォーマー777、SNデフォーマー1341、SNデフォーマー1361(サンノプコ社製)、BYK-1740(BYK社製)等が挙げられ、金属石鹸タイプの鉱物油系消泡剤としては、以下に限定されるものではないが、例えば、ノプコDF-122、ノプコDF-122-NS、ノプコNDW、ノプコNXZ、SNデフォーマー122-SV、SNデフォーマー269、SNデフォーマー1010(サンノプコ社製)等が挙げられ、アマイドワックスタイプの鉱物油系消泡剤としては、以下に限定されるものではないが、例えば、ノプコ267-A、ノプコDF-124-L、SNデフォーマーTP-39、SNデフォーマー477T、SNデフォーマー477-NS、SNデフォーマー479、SNデフォーマー1044、SNデフォーマー1320、SNデフォーマー1340、SNデフォーマー1360、SNデフォーマー5100(サンノプコ社製)が挙げられる。これらは1種のみを単独で用いても良いし、2種以上を併用しても良い。なお、消泡剤の使用量としては、特に限定されるわけではないが、コート層を形成する塗工液の全体に対して0.01~0.03質量%が望ましい。
【0078】
コート層を形成するための塗工液の調製は、例えば、コート層のマトリックスとなるアクリル系ポリマーとして、アクリル系ポリマー水性エマルジョンを用いる場合には、上記シリコーン系界面活性剤乃至はその水等への溶液もしくは分散体、及びその他の任意的成分を、アクリル系ポリマー水性エマルジョンの分散媒である水中に添加・攪拌乃至分散させることにより行い得る。攪拌は例えば、湿式コロイドミル、エッジドタービン、パドル翼等を用いて、500~5000rpmの回転条件で、通常1~5分間分散させることによって、行うことができる。
【0079】
≪印刷用シートの製造方法≫
本発明の印刷用シートの製造方法としては、公知の基材表面にコート層を形成する方法を使用することができ、例えば、基材の片面又は両面に、乾燥質量でアクリル系ポリマー100質量%に対してシリコーン系界面活性剤が0.10質量%以上1.00質量%以下の割合で配合されてなるアクリル系ポリマー水性エマルジョンを塗工することによって行い得る。塗工方法に特に制限はなく、ロールコート、ブレードコート、バーコート、刷毛塗り、スプレーコート、ディッピング等の適当な手法を用いることができる。その後、コート層を乾燥、硬化してもよい。コート層の乾燥又は硬化の際の温度条件としては、特に限定されるものではないが、例えば90~120℃の温度にて行い得る。
【0080】
なお、基材として、上記した無機物質粉末配合熱可塑性プラスチックからなるシートを用いる態様においては、例えば、ポリオレフィン樹脂と無機物質粉末とを50:50~10:90の質量比で含む基材をシート状に押出し成形し、所望により延伸処理を介して、基材シートの片面又は両面に前記アクリル系ポリマー水性エマルジョンを塗工することにより、印刷用シートを製造することができる。無機物質粉末配合熱可塑性プラスチックからなるシートを成形する上での、無機物質粉末とポリオレフィン樹脂との混合は、成形機にホッパーから投入する前にポリオレフィン樹脂と無機物質粉末とを混練溶融しても良く、成形機による成形と同時にポリオレフィン樹脂と無機物質粉末とを混練溶融しても良い。無機物質粉末以外のその他の添加剤に関しても同様である。また、溶融混練は、ポリオレフィン樹脂に無機物質粉末を均一に分散させる傍ら、高い剪断応力を作用させて混練することが好ましく、例えば二軸混練機で混練することが好ましい。上記無機物質粉末をポリオレフィン樹脂に配合する際においては、高温となるほど臭気を発生させる傾向となるため、前記ポリオレフィン樹脂の融点+55℃以下、好ましくは、前記ポリオレフィン樹脂の融点以上でかつ融点+55℃以下、より好ましくは、前記ポリオレフィン樹脂の融点+10℃以上でかつ前記熱可塑性樹脂の融点+45℃以下の温度で処理する態様であることが望ましい。
なお、シート状に押出し成形する時における成形温度としては、同様の温度で成形することが好ましい。
【0081】
更に、シート状に成形する際に、延伸処理を施してもよい。延伸処理として特に限定されるものではなく、その成形時あるいはその成形後に一軸方向又は二軸方向に、乃至は、多軸方向(チューブラー法による延伸等)に延伸することが可能である。二軸延伸の場合には、逐次二軸延伸でも同時二軸延伸であっても良い。
【0082】
成形後のシートに対し、延伸(例えば、縦及び/又は横延伸)を行うと、シートの密度が低下する。密度が低下することによりシートの白色度が高められる場合がある。
【実施例
【0083】
以下本発明を、実施例に基づきより具体的に説明する。なお、これらの実施例は、本明細書に開示され、また添付の請求の範囲に記載された、本発明の概念及び範囲の理解をより容易なものとする上で、特定の態様及び実施形態の例示の目的のためにのみ記載するのであって、本発明はこれらの実施例に何ら限定されるものではない。
【0084】
(評価方法)
以下の実施例及び比較例においての各物性値はそれぞれ以下の方法により評価されたものである。
【0085】
(接着性)
基材に対するコート層の密着性を調べるために、セロハン粘着テープによる剥離試験を行った。
・測定用テープ
JIS Z1522:2009に準拠するセロハン粘着テープ(幅:24mm)
・測定手順
(1)約75mmの長さにテープを取り出す。
(2)測定するシートにテープを貼り、透けて見える様に指でテープを擦る。なおこの際、爪を立てずに指の平で押すこととする。
(3)テープを貼って5分以内に、テープの端部を持ち上げ引き剥がし方向とコート層とが約60°の角度をなす様にして、0.5~1.0秒で確実に引き離す。剥離面を観察し、塗工層が付着しているかを目視により観察し、以下の評価基準に基づき、コート層と基材との密着性を評価する。
・評価基準
○ コート層の剥離が全くない。
△ コート層の剥離が20%未満である。
× コート層の剥離が20%以上である。
【0086】
(表面抵抗率)
JIS K 6911:2006に準拠して測定した。測定には、試料を100mm角のシートとして用い、以下の条件で測定を行った。
温度23℃、湿度50%
【0087】
(印刷適性)
印刷用シートの印刷適性を評価するために、各シートに対して、インクジェットプリンター(EPSON S80650)にて、油性インクを用いてベタ画像を印刷した。インクの弾きや斑の有無等を目視により観察し、以下の評価基準に基づいて評価した。また、評価後の印刷物をΦ200mmのロールに巻き取って1晩放置し、貼り付きの有無からインクの乾燥性を評価した。
・評価基準-インクの密着性:インク弾き
○ 画像の各ドットが綺麗に印刷され、印刷のにじみ、ずれが全くない。
△ 画像の各ドットが良好に印刷されているが、印刷のにじみ、ずれが僅かに生じていた。
× 画像の各ドットがうまく印刷されず、印刷のにじみ、ずれが目立った。
・評価基準-斑
○ 斑が殆ど観察されなかった。
× 斑が一部に観察された。
・評価基準-ドット形状
○ 小さなドットが、密に綺麗に印刷された。
△ 空洞状(ドーナツ形状)のドットが、一部の箇所に観察された。
× 空洞状(ドーナツ形状)のドットが、多数観察された。
・評価基準-乾燥性
○ 巻き取った印刷物が、貼り付いていなかった。
× 巻き取った印刷物に、貼り付きが見られた。
【0088】
(材料)
以下の実施例及び比較例において使用した成分はそれぞれ以下のものであった。
【0089】
・基材
ポリプロピレン単独重合体(融点160℃)36.0質量部と、無機物質粉末として平均粒子径2.2μm(JIS M-1511に準じた空気透過法による平均粒子径)の重質炭酸カルシウム粒子60.0質量部と、更に滑剤としてアルカンスルホン酸ナトリウム(アルキル基の炭素数(平均値)=12)2.0質量部を、二軸スクリューを装備した押出成形機(Tダイ押出成形装置φ20mm、L/D=25)に投入し、220℃以下の温度で混練し、混練した原料を成形温度220℃でTダイによりシート成形し、基材となる無機物質粉末配合熱可塑性プラスチックからなるシートを作成した。なお、この様にして得られたシートの肉厚は200μmであった。
【0090】
・アクリル系ポリマー水性エマルジョン
M1:アクリル酸n-ブチル、メタクリル酸メチル、アクリル酸2-エチルヘキシル、メタクリル酸、酢酸ビニル、ロジン誘導体とを、質量比26.0:16.0:44.0:8.0:6.0:3.0の割合で含有してなる(メタ)アクリル酸アルキルエステル共重合体の水性エマルジョン(固形分:水=50:50(質量比))
M2:アクリル酸2-エチルヘキシル、ベンジルアクリレート、ブチルアクリレート、1,6-ヘキサンジオールジメタクリレート、2-ヒドロキシエチルメタクリレートとを、質量比84.0:26.0:32.0:0.1:0.9で含有してなるスチレン-アクリル酸エステル共重合体の水性エマルジョン(固形分:水=20:80(質量比))
【0091】
・界面活性剤
S1:一般式(1)のシリコーン系界面活性剤(日信化学工業株式会社製のシルフェイス(登録商標)SAG503A)、溶剤SP値比較的高
S2:一般式(1)のシリコーン系界面活性剤(日信化学工業株式会社製のシルフェイス(登録商標)SAG005)、溶剤SP値比較的低
S3:一般式(1)のシリコーン系界面活性剤(日信化学工業株式会社製のシルフェイス(登録商標)SAG008)、溶剤SP値比較的低
S4:一般式(1)のシリコーン系界面活性剤(日信化学工業株式会社製のシルフェイス(登録商標)SAG002)、溶剤SP値比較的高
S5:シリコーン系界面活性剤(サンノプコ株式会社製のSNウェット126(商品名))
S6:アミン系界面活性剤(サンノプコ株式会社製のSNウェットS(商品名))
S7:アニオン系界面活性剤(サンノプコ株式会社製のノプコスパース092(登録商標))
【0092】
[実施例1~5、比較例1~3]
200質量部のアクリル系ポリマー水性エマルジョンM1、0.5質量部の各種界面活性剤、0.05質量部の消泡剤(サンノプコ株式会社製のSNデフォーマー777(商品名))、並びに精製水50質量部を、エッジドタービンを用いて3000rpmで3分間攪拌混合して、コート層塗工液を調製した。なお、アクリル系ポリマー(固形分)100質量%に対する界面活性剤の配合量は、いずれも0.5質量%である。
【0093】
この様にして調製したコート層塗工液を、前記した基材の片面に、乾燥後膜厚が25μmとなる様にマイクログラビア法によって塗工し、110℃にて乾燥させて、印刷用シートを作成した。得られた各印刷用シートに関して、接着性、表面抵抗率、インク弾き、斑、ドット形状、乾燥性を上記した条件により測定した。得られた結果を表1に示す。
【0094】
【表1】
【0095】
表1に示されるように、本発明に従いアクリル系ポリマーからなる連続相中にシリコーン系界面活性剤が配合されたコート層を有する、実施例1~5の印刷用シートでは、基材とコート層との接着性が優れていた。表面抵抗率も低く、帯電による印刷工程における紙詰まり等の不具合を来しにくいことが示された。さらに、インク弾きや斑の有無、ドット形状等の印刷適性の点でも優れ、インクの乾燥性も良好であった。特に、一般式(I)で表される構造を有するポリエーテル変性シリコーンを界面活性剤として用いた、実施例1~4の印刷用シートは、高い印刷適性を示した。中でも、比較的SP値の低いS2又はS3を用いた実施例2及び3の印刷用シートは、接着性や印刷適性を示す各種物性が、満遍なく優れていた。
【0096】
[実施例6~7、比較例4~5]
界面活性剤S1の配合量を表2に記載したように変えた以外は、実施例1と同様の操作を行った。評価結果を、表2に示す。
【0097】
[実施例8、比較例6]
100質量部のアクリル系ポリマー水性エマルジョンM2、0.4質量部の界面活性剤S1、0.05質量部の消泡剤(サンノプコ株式会社製のSNデフォーマー777(商品名))、及び精製水100質量部を配合して、コート層塗工液を調製した。ここで、アクリル系ポリマー(固形分)100質量%に対する界面活性剤の配合量は、0.5質量%である。この塗工液を、乾燥膜厚が8μmとなるように塗工した以外は、実施例1又は比較例1と同様の操作を行い、印刷用シートを作製・評価した。評価結果を、表2に示す。
【0098】
【表2】
【0099】
本発明に従い、アクリル系ポリマーからなる連続相中に、シリコーン系界面活性剤がアクリル系ポリマー100質量%に対して0.10質量%以上1.00質量%以下の割合で配合されているコート層を有する、実施例6及び7の印刷用シートでは、実施例1の印刷シートと同様、良好な接着性と印刷適性が発現した。一方、シリコーン系界面活性量が0.10質量%未満の比較例4の印刷用シートでは、接着性、印刷適性共に、十分な改善がなされなかった。シリコーン系界面活性量が1.00質量%超の比較例5の印刷用シートも、実施例1の印刷用シートに比べて印刷適性が多少劣っていた。
また、アクリル系ポリマーとしてM2を用いた、コート層厚の薄い系でも、規定量のシリコーン系界面活性剤の配合によって、接着性及び印刷適性の改善効果が見られた。
【0100】
以上のように、本発明によれば、印刷適性に優れ、基材とコート層の接着性が良好な印刷用シートが提供される。本発明の印刷用シートは、帯電防止性能も良好で印刷時における紙詰まり等の不具合が生じにくい利点がある。本発明の印刷用シートはまた、インクを弾きにくく、インクの速乾性も良好であるので、インクジェットプリント、油性オフセット印刷、UVオフセット印刷等に特に適する印刷用シートとなる。
【要約】
【課題】インク受容のためのコート層を基材の少なくとも一方の表面に有する印刷用シートにおいて、印刷適性に優れ、基材とコート層の接着性が良好であり、帯電防止性能に優れて印刷時における紙詰まり等の不具合が生じにくい印刷用シート及びその製造方法を提供すること。
【解決手段】基材の片面又は両面に、アクリル系ポリマーを含むコート層を有する印刷用シートであって、前記アクリル系ポリマーからなる連続相中に、シリコーン系界面活性剤が前記アクリル系ポリマー100質量%に対して0.10質量%以上1.00質量%以下の割合で配合されていることを特徴とする、印刷用シートである。
【選択図】なし