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  • 特許-自律分散式転がり軸受 図1
  • 特許-自律分散式転がり軸受 図2
  • 特許-自律分散式転がり軸受 図3
  • 特許-自律分散式転がり軸受 図4
  • 特許-自律分散式転がり軸受 図5
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-01-06
(45)【発行日】2022-01-21
(54)【発明の名称】自律分散式転がり軸受
(51)【国際特許分類】
   F16C 33/58 20060101AFI20220114BHJP
   F16C 33/66 20060101ALI20220114BHJP
   F16C 43/06 20060101ALI20220114BHJP
   F16C 19/06 20060101ALI20220114BHJP
【FI】
F16C33/58
F16C33/66 Z
F16C43/06
F16C19/06
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2016207418
(22)【出願日】2016-10-23
(65)【公開番号】P2018066465
(43)【公開日】2018-04-26
【審査請求日】2019-09-30
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】306037229
【氏名又は名称】株式会社 空スペース
(72)【発明者】
【氏名】河島 壯介
【審査官】西藤 直人
(56)【参考文献】
【文献】特開2007-177993(JP,A)
【文献】特開平02-026315(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16C 33/58-33/66
F16C 43/06
F16C 19/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも内輪と外輪と転動体によって構成され、転動体の間に間隔を生成させることにより保持器を不要にした自律分散式転がり軸受において、内輪軌道面に法線方向に貫通する転動体が相通可能な転動体挿入孔を設け、当該転動体挿入孔より内外輪軌道間に転動体を挿入した後に埋め栓で閉口し、前記埋め栓の転動体側端面を、外輪軌道上を当接して転動する転動体とクリアランスを設けた位置とすることにより、転動体に作用する遠心力が1G以下の場合のみに、転動体が前記埋め栓に接触することを特徴とする自律分散式転がり軸受。
【請求項2】
埋め栓を多孔質材とする、または軸受法線方向に貫通する細孔を設けた構造とすることにより、埋め栓の反転動体側から転動体側への潤滑剤の供給を可能にすることを特徴とする請求1に記載の自律分散式転がり軸受
【請求項3】
埋め栓が上向きに内輪固定で設置される自律分散式転がり軸受において、埋め栓の転動体側端面を、外輪軌道上を当接して転動する転動体とクリアランスを設けた位置とすることにより、転動体に作用する遠心力が1G以下の場合のみに、転動体が前記埋め栓に接触することを特徴とする請求項2に記載の自律分散式転がり軸受
【請求項4】
転動体挿入孔を非円形とし、埋め栓の転動体との接触面を内輪軌道面と略同一形状に形成することを特徴とする請求項1の自律分散式転がり軸受
【請求項5】
転動体挿入孔を非円形とし、埋め栓の転動体との接触面の断面形状を、転動体が2点接触する接触点変化路を形成することを特徴とする請求項1の自律分散式転がり軸受
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、転動体の間に間隔を生成させて保持器を不要にする自律分散式転がり軸受に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1では、転がり軸受の軌道の一部に接触点変化路を形成することにより、転動体の間に間隔を生成させ、保持器を不要にする構造が開示されている。
特許文献2では、保持器の無い深溝型総玉軸受の玉入溝の構造が開示されている。
特許文献3では、金属製保持器に個体潤滑剤の被膜を形成することにより、摺動に伴う金属摩耗分の発生を防止する構造が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2007-177993
【文献】特開2014-114929
【文献】特開2009-228683
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
内外輪の両肩の間隙が玉径よりも大幅に狭い深溝玉軸受は、両方向の軸方向負荷を受けることが出来る反面、保持器付軸受では転動体数を、転動体を一方に寄せたときの総長がピッチ周長の半分程度となる数に制限することによって、転動体を内外輪の間に組込んだ後に保持器により転動体間隔を広げて転動体を等間隔にしていた。
これに対し特許文献1では保持器を設けないため、保持器スペースに相当する転動体を追加する必要がある。文献中の図2には、弾性ボールを導入し、狭い両肩の間隙にボールを変形させて挿入すること、図3では外輪を1か所切断し、弾性変形させて切断面を拡大してボールを挿入する手法が開示されている。
【0005】
しかしながら、弾性ボールはその耐久性の証明に時間を要するし、切断した外輪を弾性変形させる方法は一般的なISO規格品には弾性変形量が小さすぎて適用できない。
一般的な方法は特許文献2に開示される、内外輪を同心に組合せ後に軸方向から転動体を挿入する入れ溝を内外輪に設けることが一般的である。
【0006】
自律分散式転がり軸受を正面組合せで予圧を付与し、垂直軸とした例を図5に、その外輪入れ溝を1a、内輪入れ溝を2aに示す。この場合玉落下を防ぐために、入れ溝は上方に向ける方が良いが、一方で2個の軸受は予圧により逆方向の初期接触角を有するため、接触点変化路1x、1yは初期接触角を中心として傾斜させて設けている。よって特許文献2の方法では、上下の軸受外輪は、入れ溝と接触点変化路が逆方向のものと同方向のものの2種類となってしまう問題があった。
【0007】
さらに特許文献3に開示される、潤滑被膜がコーティングされた保持器機能を特許文献1の構成において実現しようとする場合、軸方向外部からの潤滑剤供給スペースが取れないことが前提であることより、保持器と同様に転動体に接触する部材、即ち内輪(あるいは外輪)の軌道への潤滑剤の供給穴を設ける必要があり、専用の内輪(あるいは外輪)が必要となる。
【0008】
本発明の目的は、両方向の軸方向負荷を受けることが可能な自律分散式転がり軸受において、内径(または外輪)の方向や潤滑剤の外部供給の要否に関わらず共通の内輪(または外輪)を使用可能にする自律分散式転がり軸受を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
請求項1に係わる発明は、少なくとも内輪と外輪と転動体によって構成され、転動体の間に間隔を生成させることにより保持器を不要にした自律分散式転がり軸受において、内輪または外輪軌道面に法線方向に貫通する転動体が相通可能な転動体挿入孔を設け、当該転動体挿入孔より内外輪軌道間に転動体を挿入した後に埋め栓で閉口することを特徴とする。
【0010】
請求項2に関わる発明は、埋め栓を多孔質材とする、または軸受法線方向に貫通する細孔を設けた構造とすることにより、埋め栓の反転動体側から転動体側への潤滑剤の供給を可能にすることを特徴とする。
請求項3に関わる発明は、転動体挿入孔を内輪に設けて埋め栓が上向きに内輪固定で設置される自律分散式転がり軸受において、埋め栓の転動体側端面を、外輪軌道上を当接して転動する転動体とクリアランスを設けた位置とすることにより、転動体に作用する遠心力が1G以下の場合のみに、転動体が前記埋め栓に接触することを特徴とする。
【0011】
請求項4に関わる発明は、転動体挿入孔を非円形とし、埋め栓の転動体との接触面を略軌道と同一形状に形成することを特徴とする。
請求項5に関わる発明は、転動体挿入孔を非円形とし、埋め栓の転動体との接触面の断面形状を、転動体が2点接触する接触点変化路を形成することを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、両方向の軸方向負荷を受けることが可能な自律分散式転がり軸受において、内輪(または外輪)の軸方向中心に転動体挿入、封止手段を設けるので、内径(または外輪)の設置方向や潤滑剤の外部供給の要否に関わらず内輪(または外輪)を共通部品とした自律分散式転がり軸受を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本発明の実施形態に係る深溝型自律分散式転がり軸受と軸の軸中心線に平行な方向の断面図。
図2】本発明の実施形態に係る別の深溝型自律分散式転がり軸受の軸中心線に平行な方向の部分断面図と部分底面図。
図3】本発明の実施形態に係る初期接触角を傾斜させた深溝型自律分散式転がり軸受の軸中心線に平行な方向の部分断面図と部分底面図。
図4】本発明の実施形態に係る円筒ころ型自律分散式転がり軸受と軸の軸中心線に平行な方向の部分断面図。
図5】垂直軸方向に2個配置した従来の深溝玉軸受の軸中心線に平行な方向の断面図。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、図面を参照しつつ本発明の実施例を説明する。ただし、図面はもっぱら解説のためであって、本発明の記述的範囲を限定するものではない。また文中の、“軸方向”、“法線方向”とは、軸受体の“軸方向”、“法線方向”の意味である。
【実施例
【0015】
図1は、本発明の実施形態に係る深溝型自律分散式転がり軸受と軸の軸中心線に平行な方向の断面図である。相対運動が可能な外輪1と内輪2の間に複数の転動体である玉3が転動自在に介挿されている。保持器は無く、外輪軌道に玉を両側部2か所で接触させる接触点変化路1Xを設けることにより、動作時にはここを通過する玉の間に間隔を生成させている。内輪2の軌道中央部に転動体挿入孔2hが法線方向に貫通している。転動体挿入孔2hは軌道側より内輪側を大径とした座ぐり穴としている。
【0016】
玉3は内輪の内径側から転動体挿入孔2hに所定数(通常は、転動体ピッチ円周を玉で満たす数、ないしそれより10%程度少ない数)挿入し、埋め栓4で蓋をする。埋め栓4の頂部は、軌道上の玉軌跡よりも少し低い位置とするべく、埋め栓4はフランジ4aを転動体挿入孔2hの座ぐり部に当接させている。
また、埋め栓4の側面には油溝4bが設けられ、軸5に開けられた油穴5aと連通し内部の油圧は図示しない油タンクの喫水調整により油溝4bの毛細管現象により埋め栓4の頂部が油膜で満たされる程度に調整される。
【0017】
次に、本実施例を電力貯蔵用フライホイールの支持軸受として外輪回転で使用し、初期状態として、特開2014-040927に開示されているナノ転動体を分散させた潤滑剤6を潤滑剤とした場合の作用について説明する。
フライホイール(図中不記)と共に外輪1が高速回転すると、玉3は間隔を生成させて公転する。埋め栓4部分では玉は遠心力により内輪や埋め栓と接触せず、外輪軌道を転がる。(玉同士や玉と保持器とが接触するタイプの軸受では、その接触部の接線力により玉が内輪側方向に力を受ける恐れがあるが、自律分散式転がり軸受ではその恐れが無い。)
【0018】
長期の稼働で内外輪の軌道と玉の間の潤滑剤6が不足した場合(一般に潤滑不足は摩擦トルクの増加により検出でき、トルクの増加は無負荷時のフライホイールの回転速度の低下率で検出できる。)、フライホイールの回転を落とすことにより、玉3が重力により埋め栓4の頂部に接触して微量の潤滑剤6が表面張力により玉の表面を覆う。
特別な機構を追加することなく、かつ潤滑不足を検出して、軸受が必要とする極微量の潤滑剤を転動面に供給するものである。
【0019】
図2は、本発明の実施形態に係る自律分散式転がり軸受外輪の軸中心線に平行な方向の断面図と底面図である。外輪1の軌道中央部に楕円状の転動体挿入孔が法線方向に貫通しており、埋め栓4が外輪外径面より転動体挿入孔に圧入固定されている。
埋め栓4の頂部には玉を両側部2か所で接触させる接触点変化路4Xを形成しており、ここを公転する玉の間に間隔を生成させる自律分散式転がり軸受としている。
【0020】
次に、本実施例の作用について説明する。埋め栓4はハウジング(図中不記)に軸受外輪を嵌合することによって外輪と一体化される構造であり、軸受をハウジングから取り外すことで容易に交換できる。自律分散式転がり軸受の玉間に生成させる間隔は、基本的に接触点変化路4Xの両側部2か所の間隔と長さで決まるが、潤滑や荷重など、軸受外部の条件によるところも大きく、そもそも生成させるべき玉間隔の決定のために、実機での確認が望ましい。その場合でも本実施例では接触点変化路4Xのサイズが異なる複数の埋め栓を用意し、軸受を装置に付けたまま埋め栓のみを交換することにより、実機確認が容易となる。
【0021】
図3は、本発明の実施形態に係る初期接触角を傾斜させた深溝型自律分散式転がり軸受の軸中心線に平行な方向の部分断面図と部分底面図である。深溝玉軸受の初期接触角αは、軸方向の予圧を与えることにより15°程度の値をとる。これに対応するため図2の構成に対し、埋め栓4のみを接触点変化路4Xをαだけ傾斜させたものである。なお、埋め栓4は対称形状としているので、180°逆向きに取り付けることで初期接触角を-αとすることも出来る。
【0022】
図4は、本発明の実施形態に係る円筒ころ型自律分散式転がり軸受の軸中心線に平行な方向の部分断面図である。内輪の転動体挿入孔2hの内輪側から所定数のころ7を挿入した後、埋め栓4で蓋をして止め輪で固定する構成である。埋め栓4は、ころの両側部2か所の小径溝2aを案内するレール部4c、レール部を弾性的にころ小径部に押し当てるばね部4d、内輪に固定するベース部4eより構成される。これら3要素は別部材でも良いが、3Dプリンターによって一体成型することも可能である。
ここでレール部4cは、ころの小径部が接触する接触点変化路4Xとして機能し、ここを公転するころの間に間隔を生成させる自律分散式転がり軸受を構成している。大きな外部荷重を支えるころ軸受においても、外部荷重を受けない接触点変化路を転動体挿入部に形成する構成とすることにより、内外輪の構造が単純化すると共に、内外輪の軸方向側面からころを挿入する必要が無くなることより、外部荷重を支承する内外輪のつば高さを大きくして強靭化することが出来る。
【符号の説明】
【0023】
1・・・・・外輪
2・・・・・内輪
3・・・・・玉
4・・・・・埋め栓
5・・・・・軸
6・・・・・潤滑剤
7・・・・・ころ
図1
図2
図3
図4
図5