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特許7004448リマプロスト含有凍結乾燥組成物及びリマプロスト含有医薬組成物
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-01-06
(45)【発行日】2022-01-21
(54)【発明の名称】リマプロスト含有凍結乾燥組成物及びリマプロスト含有医薬組成物
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/5575 20060101AFI20220114BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20220114BHJP
   A61P 9/00 20060101ALI20220114BHJP
   A61P 7/02 20060101ALI20220114BHJP
   A61P 9/10 20060101ALI20220114BHJP
   A61P 25/02 20060101ALI20220114BHJP
   A61P 25/04 20060101ALI20220114BHJP
   A61K 47/40 20060101ALI20220114BHJP
   A61K 47/36 20060101ALI20220114BHJP
   A61K 9/19 20060101ALI20220114BHJP
   A61K 47/38 20060101ALI20220114BHJP
   A61K 47/02 20060101ALI20220114BHJP
   A61K 47/12 20060101ALI20220114BHJP
【FI】
A61K31/5575
A61P43/00 112
A61P9/00
A61P7/02
A61P9/10
A61P25/02 101
A61P25/04
A61K47/40
A61K47/36
A61K9/19
A61K47/38
A61K47/02
A61K47/12
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2017218148
(22)【出願日】2017-11-13
(65)【公開番号】P2019089718
(43)【公開日】2019-06-13
【審査請求日】2020-07-28
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000209049
【氏名又は名称】沢井製薬株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000408
【氏名又は名称】特許業務法人高橋・林アンドパートナーズ
(72)【発明者】
【氏名】齊藤 陽太
(72)【発明者】
【氏名】北村 雅弘
【審査官】高橋 樹理
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-080368(JP,A)
【文献】特開2005-272458(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 31/5575
A61K 9/00
A61K 47/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
リマプロストアルファデクスとβ-シクロデキストリンとデキストリンとを含むリマプロスト含有凍結乾燥組成物であって、
前記デキストリンが前記リマプロスト含有凍結乾燥組成物に対して60重量%~75重量%であるリマプロスト含有凍結乾燥組成物
【請求項2】
請求項に記載のリマプロスト含有凍結乾燥組成物と、2価の金属塩添加剤とを含むリマプロスト含有医薬組成物。
【請求項3】
前記2価の金属塩添加剤が、カルメロースカルシウム、ケイ酸マグネシウム、ステアリン酸亜鉛、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸カルシウム、炭酸マグネシウム、沈降炭酸カルシウム、硫酸カルシウムまたは硫酸マグネシウム水和物の少なくとも1つから選択される請求項に記載のリマプロスト含有医薬組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、医薬組成物の安定化に関する。特に本発明は、プロスタグランジン類の薬剤であるリマプロスト含有凍結乾燥組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
リマプロストは、プロスタグランジンE1誘導体であって、末梢血流を増加させたり、血小板凝集抑制作用があることから、閉塞性血栓血管炎に伴う潰瘍、疼痛および冷感などの虚血性諸症状を改善したり、後天性腰部脊柱管狭窄症に伴う下肢疼痛や下肢しびれなどの自覚症状および歩行能力を改善するのに用いられている。
【0003】
リマプロスト含有組成物は、吸湿性を有しており、水分を吸収して有効成分(リマプロスト)が非常に分解しやすい。通常は、PTP包装のうえ、シリカゲルやゼオライトなどの乾燥剤とともに、アルミ袋に装填されており、外部からの湿度の影響を回避する為の密封包装形態としている。
【0004】
これまでに、薬剤の安定性を高める試みとして、β-シクロデキストリンを用いた例が報告されている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特許第4890657号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の課題は、既存のリマプロストアルファデクス錠よりも安定性に優れたリマプロストアルファデクス含有製剤、リマプロスト含有凍結乾燥組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一実施形態において、リマプロストアルファデクスとβ-シクロデキストリンとデキストリンとを含むリマプロスト含有凍結乾燥組成物が提供される。凍結乾燥組成物(凍結乾燥部)は、リマプロストアルファデクスとβ-シクロデキストリンとデキストリンとから構成される。
【0008】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討する中で、意外にも、デキストリンとβ-シクロデキストリンとを含むリマプロスト含有凍結乾燥組成物が安定であることを見出した。
【0009】
本発明の一実施形態において、デキストリンが凍結乾燥部に対して50重量%~95重量%であってもよい。
【0010】
デキストリンが凍結乾燥部に対して50重量%~95重量%である場合に、安定であることが確認された。
【0011】
本発明の一実施形態において、上記のリマプロスト含有凍結乾燥組成物と、2価の金属塩添加剤とを含むリマプロスト含有医薬組成物が提供される。
【0012】
本発明者らは、種々検討した結果、デキストリンとβ-シクロデキストリンを含むリマプロスト含有凍結乾燥組成物に対してステアリン酸マグネシウムを添加することで、類縁物質の増加を抑制できることを見出した。さらに本発明者らは、ステアリン酸マグネシウム/ステアリン酸カルシウムを添加することで、類縁物質の増加を抑制できることを見出した。ここで、添加する物質がステアリン酸/フマル酸ステアリルナトリウムでは、類縁物質の増加を抑制できないこととの対比から、2価の金属イオンが安定性に寄与している可能性が示唆された。
【0013】
本発明の一実施形態において、2価の金属塩添加剤が、カルメロースカルシウム、ケイ酸マグネシウム、ステアリン酸亜鉛、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸カルシウム、炭酸マグネシウム、沈降炭酸カルシウム、硫酸カルシウムまたは硫酸マグネシウム水和物の少なくとも1つから選択される2価の金属塩添加剤であってもよい。
【0014】
本発明の一実施形態において、前記医薬組成物をPTP包装した、医薬製剤が提供される。また、前記医薬組成物をガラス製またはプラスチック製容器で包装した、医薬製剤が提供される。
【発明の効果】
【0015】
既存のリマプロストアルファデクス錠よりも安定性に優れたリマプロストアルファデクス含有製剤、リマプロスト含有凍結乾燥組成物を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明の医薬組成物は、リマプロストアルファデクスとβ-シクロデキストリンとデキストリンとを含有する。本発明の凍結乾燥組成物(凍結乾燥部)は、リマプロストアルファデクスとβ-シクロデキストリンとデキストリンとから構成される。リマプロストアルファデクスとは下記化合物(1)で表される。
【化1】
(1)
【0017】
リマプロストアルファデクスの化学名は(E)-7-[(1R、2R、3R)-3-ヒドロキシ-2-[(3S、5S)-(E)-3-ヒドロキシ-5-メチル-1-ノネニル]-5-オキソシクロペンチル]-2-ヘプテン酸 α-シクロデキストリン包接化合物(CAS登録番号:100459-01-6)である。この化合物は公知であり、公知の方法、例えば特開昭55-100360に記載された方法等によって製造することができる。
【0018】
本発明の組成物は、リマプロストアルファデクスとβ-シクロデキストリンとデキストリンとを溶媒(例えば水、有機溶媒(例えば、エタノール、アセトン等)等)に溶解し、常法に従って凍結乾燥し(工程(1))、必要に応じて添加剤を添加することによって製造することができる。
【0019】
本発明の組成物中のリマプロストが分解すると、分解生成物として、主に下記化合物(2)に示す、17S,20-ジメチル-トランス-Δ-PGA(以下、11-デオキシ体と略す。)が生成することが分かっている。
【化2】
(2)
【0020】
その他、17S,20-ジメチル-トランス-Δ-8-イソ-PGE(以下、8-イソ体と略す。)等も生成することが分かっている。11-デオキシ体の生成率は、例えば、組成物中の11-デオキシ体の量をリマプロストと11-デオキシ体、8-イソ体の総量に対する割合(面積比)で示すことができる。この面積比とは高速液体クロマトグラフィー(HPLC)のクロマトグラムのピーク面積比をいう。
【0021】
11-デオキシ体の生成率は、リマプロスト並びにリマプロストの分解生成物(8-イソ体、11-デオキシ体)の定量を行い、リマプロストと分解生成物の和を100として算出することができる。例えば、この定量は、HPLCのクロマトグラムのピーク面積から算出することができる。
【0022】
リマプロストおよび11-デオキシ体、8-イソ体の量は、公知の分析方法(例えば、高速液体クロマトグラフ法、ガスクロマトグラフ法、薄層クロマトグラフ法)を用いて測定することができる。
【0023】
具体的には、以下のHPLCの試験条件によって行われる。本法を用いることによって、リマプロストおよび分解生成物の量を測定し、リマプロストおよび分解生成物の比率を算出することが可能である。また、本法を用いることによって、11-デオキシ体の量を測定することができる。
HPLCの試験条件
検出器:紫外吸光光度計(測定波長:220nm);
カラム:内径4.6mm、長さ25cmのステンレス管に5μmの液体クロマトグラフィー用トリアコンチルシリル化シリカゲルを充てん;
カラム温度:25℃付近の一定温度;
移動相:0.02mol/Lリン酸二水素カリウム試液/アセトニトリル混液(31:19);
流量:リマプロストの保持時間が約20分になるように調整する。
【0024】
本発明の医薬組成物は、末梢循環障害、例えば閉塞性血栓血管炎または腰部脊柱管狭窄症等の治療に有用である。本発明の医薬組成物は固体製剤(例えば、錠剤、顆粒剤、カプセル剤等)であることが好ましい。さらに好ましくは錠剤(例えば、有核錠、コ-ティング錠、コ-ティング顆粒、三層錠等)である。
【0025】
本発明の医薬組成物は、リマプロストアルファデクスとβ-シクロデキストリンとデキストリンとを含有する。デキストリンは、凍結乾燥部(詳細は後記する)に対して、50重量%~95重量%であることが好ましい。デキストリンは、リマプロストアルファデクスに対して、500重量%~2500重量%であることが好ましい。
【0026】
本明細書の医薬組成物はデキストリンとβ-シクロデキストリンとリマプロストアルファデクスとの他に、さらに添加剤(製剤基剤)を含有していてもよい。添加剤としては、固形製剤を製造する際に一般的に使用されるものであればよく、例えば、賦形剤、結合剤、滑沢剤、崩壊剤、矯味剤、矯臭剤、界面活性剤、香料、着色剤、抗酸化剤、隠蔽剤、静電気防止剤、流動化剤、湿潤剤等を1種または2種以上適宜配合して用いることができる。
【0027】
賦形剤としては、例えば、ぶどう糖、果糖、麦芽糖、乳糖、異性化乳糖、還元乳糖、蔗糖、D-マンニトール、エリスリトール、マルチトール、キシリトール、パラチノ-ス、トレハロース、ソルビトール、トウモロコシデンプン、馬鈴薯デンプン、コムギデンプン、コメデンプン、結晶セルロース、タルク、無水ケイ酸、無水リン酸カルシウム、沈降炭酸カルシウム、ケイ酸カルシウム等が挙げられる。
【0028】
結合剤としては、例えばヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ポビドン、ポリビニルピロリドン、メチルセルロース、ポリビニルアルコール、カルボキシメチルセルロース、部分α化デンプン、α化デンプン、アルギン酸ナトリウム、プルラン、アラビアゴム末、ゼラチン、デキストリン等が挙げられ、これらの一種あるいは二種以上適宜配合して用いてもよい。該結合剤として好ましくはヒドロキシプロピルメチルセルロースまたはヒドロキシプロピルセルロースである。
【0029】
本発明の医薬組成物は、滑沢剤を含んでもよい。滑沢剤としては、ステアリン酸リチウム、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸バリウム、ステアリン酸亜鉛、ラウリン酸カルシウム、ラウリン酸バリウム、ラウリン酸亜鉛、リシノール酸カルシウム、リシノール酸バリウム、リシノール酸亜鉛、オクチル酸亜鉛、カルメロースカルシウム、酸化マグネシウム、炭酸マグネシウム、沈降炭酸カルシウムが挙げられる。滑沢剤は金属石鹸であってもよく、金属石鹸としては、ステアリン酸リチウム、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸バリウム、ステアリン酸亜鉛、ラウリン酸カルシウム、ラウリン酸バリウム、ラウリン酸亜鉛、リシノール酸カルシウム、リシノール酸バリウム、リシノール酸亜鉛、オクチル酸亜鉛が挙げられ、ステアリン酸マグネシウムまたはステアリン酸カルシウムの少なくとも1つから選択されることが好ましい。
【0030】
崩壊剤としては、例えば低置換度ヒドロキシプロピルセルロース、カルメロース、カルメロースカルシウム、カルボキシメチルスタ-チナトリウム、クロースカルメロースナトリウム、クロスポビドン、ヒドロキシプロピルスタ-チ、トウモロコシデンプン等が挙げられる。
【0031】
矯味剤としては、例えば白糖、D-ソルビトール、キシリトール、クエン酸、アスコールビン酸、酒石酸、リンゴ酸、アスパルテ-ム、アセスルファムカリウム、ソ-マチン、サッカリンナトリウム、グリチルリチン二カリウム、グルタミン酸ナトリウム、5’-イノシン酸ナトリウム、5’-グアニル酸ナトリウム等が挙げられる。
【0032】
矯臭剤としては、例えばトレハロース、リンゴ酸、マルトース、グルコン酸カリウム、アニス精油、バニラ精油、カルダモン精油等が挙げられる。界面活性剤としては、例えばポリソルベート(ポリソルベート80など)、ポリオキシエチレン・ポリオキシプロピレン共重合物、ラウリル硫酸ナトリウム等が挙げられる。香料としては、例えばレモン油、オレンジ油、メントール、はっか油等が挙げられる。着色剤としては、例えば酸化チタン、食用黄色5号、食用青色2号、三二酸化鉄、黄色三二酸化鉄等が挙げられる。抗酸化剤としては、例えばアスコールビン酸ナトリウム、L-システイン、亜硫酸ナトリウム、ビタミンE等が挙げられる。
【0033】
隠蔽剤としては、例えば酸化チタン等が挙げられる。静電気防止剤としては、例えばタルク、酸化チタン等が挙げられる。流動化剤としては、例えば軽質無水ケイ酸、タルク、含水二酸化ケイ素等が挙げられる。湿潤剤としては、例えばポリソルベート80、ラウリル酸硫酸ナトリウム、ショ糖脂肪酸エステル、マクロゴ-ル、ヒドロキシプロピルセルロース(HPC)等が挙げられる。
【0034】
本発明製剤は公知の方法で製造することができ、例えば、転動造粒機、撹拌造粒機、流動造粒機、遠心転動造粒機、乾式造粒機等を用いて、造粒することにより顆粒を製造することができる。
【0035】
本発明製剤の固形製剤は、例えば上記方法で得られる顆粒をそのまま顆粒剤として用いることができる。また、本発明固形製剤には、上記顆粒を含有するカプセル剤も含まれる。カプセル剤は公知の方法で製造することができ、例えば前記顆粒、さらに必要に応じて添加剤を添加したものを硬カプセル(例えば、ゼラチンカプセル、ヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMC)カプセル、プルランカプセル、ポリビニルアルコール(PVA)カプセル等)にカプセル充填機を用いて充填することにより、行なうことができる。また、本発明製剤には、上記顆粒を含有する錠剤も含まれる。錠剤は公知の方法で製造することができ、例えば上記顆粒および添加剤を混合し、回転式打錠機等によって錠剤化することにより行なうことができる。また、造粒を行わずに薬物等を含有する混合末を調製し、それを回転式打錠機等によって錠剤化することもできる。
【0036】
本発明の医薬組成物は、必要に応じ包装することによって医薬製剤とすることができる。本発明の医薬組成物は、通常のPTP包装の他、高防湿PTPや両面アルミPTPやSP包装などのように比較的水分を透過することのない防湿性の高い包装を行って保存することもできる。前記の各包装形態としたのち、さらにピロ-包装を行い保存することも可能である。ピロ-包装中には乾燥剤を入れることもできる。乾燥剤としては、特に限定されないが、例えば、シリカゲル、塩化カルシウム、酸化カルシウム(生石灰)、塩化マグネシウム、シリカアルミゲル、ゼオライトなどが挙げられるが、安全面、使いやすさ、衛生面などの観点から、特にシリカゲル(袋入り、または、シ-ト型)が好ましく、さらに使いやすさ、衛生面から、シ-ト型シリカゲルが好ましい。
【0037】
[製造方法]
凍結乾燥部として、リマプロストアルファデクスと、デキストリンと、β-シクロデキストリンとを水に溶解させ凍結乾燥させることによって調製することができる。
【0038】
凍結乾燥条件として特に限定はなく、たとえば、棚温-50℃とし冷却により、内容物を凍らせた後、棚温10℃にて品温と棚温度が同じになるまで乾燥させ(1次乾燥)、その後、棚温を10℃とし、24時間以上乾燥させる(2次乾燥)という方法が挙げられる。
【0039】
凍結乾燥組成物を粉砕・篩過し、各処方となるように賦形剤や滑沢剤等を添加し、常法に従って打錠し医薬組成物とすることができる。
【0040】
賦形剤の種類や添加の方法は、医薬組成物の各種剤形に応じて選択することができる。例えば、錠剤の医薬組成物は、上記のとおり調製した凍結乾燥組成物と賦形剤とを混合し、打錠・乾燥することによって製造することができる。
【0041】
本発明の医薬製剤は、ピロ-包装あるいは、両面アルミPTP包装といった包装により包装されてもよい。包装は、例えば、乾燥条件下で、本発明の医薬組成物の低い水分活性値を保ちながら行うことが好ましい。また、本発明の医薬製剤は、本発明の医薬組成物をガラス製またはプラスチック製容器で包装して製造されていてもよい。
【実施例
【0042】
以下に実施例を示し、本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0043】
[凍結乾燥品単体での安定性試験1]
まず、凍結乾燥部のみでの安定性試験を行った。
【0044】
(実施例1)
凍結乾燥部として、1錠当たり、リマプロストアルファデクスを0.17mgと、デキストリン1.00mgと、β-シクロデキストリン0.17mgに対して精製水36.0mgの比となるように溶解させ凍結乾燥させることによって調製した。凍結乾燥条件としては、棚温-50℃とし冷却により、内容物を凍らせた後、棚温10℃にて品温と棚温度が同じになるまで乾燥させ(1次乾燥)、その後、棚温を10℃とし、24時間以上乾燥させた(2次乾燥)。固形分は1錠当たり1.34mgであった。
【0045】
(比較例1)
1.00mgのデキストリンではなく、1.00mgのデキストラン40を添加したこと以外は、実施例1と同様にして、凍結乾燥組成物を得た。
【0046】
(比較例2)
1.00mgのデキストリンではなく、1.00mgのデキストラン70を添加したこと以外は、実施例1と同様にして、凍結乾燥組成物を得た。
【0047】
上記実施例1、比較例1、比較例2に関し、摂氏40度/相対湿度75%においてPTP包装などの包装を施さずに6日間保存した。開始時と6日後のリマプロストの分解生成物(11-デオキシ体)の生成率を高速液体クロマトグラフィー(HPLC)で分析した。
【0048】
分解物の生成率は、リマプロストと分解物の和を100として算出した。分析結果を以下の表1に示す。
【0049】
【表1】
【0050】
上記実施例1、比較例1、比較例2により、デキストラン40、デキストラン70を使用するよりもデキストリンを使用する方が安定であることが確認された。
【0051】
[凍結乾燥品単体での安定性試験2]
続いて、β-シクロデキストリンに関し凍結乾燥品単体での安定性試験を行った。
【0052】
比較例9
凍結乾燥部として、1錠当たり、リマプロストアルファデクスを0.17mgと、デキストリンを3.50mgと、β-シクロデキストリン0.08mgに対して精製水36.0mgの比となるように溶解させ凍結乾燥させることによって調製した。凍結乾燥条件としては、棚温-50℃として冷却し、これにより内容物を凍らせた後、棚温10℃にて品温と棚温度が同じになるまで乾燥させ(1次乾燥)、その後、棚温を10℃とし、24時間以上乾燥させた(2次乾燥)。固形分は1錠当たり3.75mgであった。また、凍結乾燥部に対するデキストリンの割合は93.3%であり、凍結乾燥部に対するβ-シクロデキストリンの割合は2.13%であった。
【0053】
比較例10
0.17mgのβ-シクロデキストリンを添加したこと以外は、比較例9と同様にして、凍結乾燥組成物を得た。
【0054】
比較例11
0.30mgのβ-シクロデキストリンを添加したこと以外は、比較例9と同様にして、凍結乾燥組成物を得た。
【0055】
比較例12
0.50mgのβ-シクロデキストリンを添加したこと以外は、比較例9と同様にして、凍結乾燥組成物を得た。
【0056】
(比較例3)
β-シクロデキストリンを添加しなかったこと以外は、比較例9と同様にして、凍結乾燥組成物を得た。
【0057】
上記比較例912及び比較例3に関し、摂氏40度/相対湿度75%においてPTP包装などの包装を施さずに6日間保存した。開始時と6日後のリマプロストの分解生成物(11-デオキシ体)の生成率を高速液体クロマトグラフィー(HPLC)で分析した。
【0058】
分解物の生成率は、リマプロストと分解物の和を100として算出した。分析結果を以下の表2に示す。
【0059】
【表2】
【0060】
β-シクロデキストリンの量が多い方が安定であることが分かる。
【0061】
[凍結乾燥品単体での安定性試験3]
続いて、デキストリンに関し凍結乾燥品単体での安定性試験を行った。
【0062】
比較例12
凍結乾燥部として、1錠当たり、リマプロストアルファデクスを0.17mgと、デキストリンを3.50mgと、β-シクロデキストリン0.50mgに対して精製水36.0mgの比となるように溶解させ凍結乾燥させることによって調製した。凍結乾燥条件としては、棚温-50℃とし冷却により、内容物を凍らせた後、棚温10℃にて品温と棚温度が同じになるまで乾燥させ(1次乾燥)、その後、棚温を10℃とし、24時間以上乾燥させた(2次乾燥)。固形分は1錠当たり4.17mgであった。また、凍結乾燥部に対するデキストリンの割合は83.9%であり、凍結乾燥部に対するβ-シクロデキストリンの割合は12.0%であった。
【0063】
(実施例6)
2.00mgのデキストリンを添加したこと以外は、比較例12と同様にして、凍結乾燥組成物を得た。
【0064】
(実施例7)
1.00mgのデキストリンを添加したこと以外は、比較例12と同様にして、凍結乾燥組成物を得た。
【0065】
(比較例4)
デキストリンを添加しなかったこと以外は、比較例12と同様にして、凍結乾燥組成物を得た。
【0066】
上記比較例12、実施例6~7及び比較例4に関し、摂氏40度/相対湿度75%においてPTP包装などの包装を施さずに6日間保存した。開始時と6日後のリマプロストの分解生成物(11-デオキシ体)の生成率を高速液体クロマトグラフィー(HPLC)で分析した。
【0067】
分解物の生成率は、リマプロストと分解物の和を100として算出した。分析結果を以下の表3に示す。
【0068】
【表3】
【0069】
上記により、デキストリン添加量が1.00mg(最も安定)、2.00mg、3.50mg、添加無し、の順に安定であることが判明した。
【0070】
[2価の金属塩添加剤の添加による効果について]
続いて、リマプロスト含有医薬組成物の安定性試験を行った。
【0071】
凍結乾燥組成物を粉砕・篩過し、各処方となるように賦形剤や滑沢剤等を添加し、常法に従って打錠し医薬組成物とすることができる。
【0072】
参考例1
比較例12の凍結乾燥組成物に、1錠当たり、カルメロース20.00mg、β-シクロデキストリン24.00mg、乳糖水和物41.50mg、デキストリン10.00mg、軽質無水ケイ酸0.20mg、ステアリン酸マグネシウム1.00mgの比となるように混合し、打錠することによって錠剤を得た。
【0073】
参考例2
ステアリン酸マグネシウムを1.00mgではなく、2.00mg添加したこと以外は、参考例1と同様にして錠剤を得た。
【0074】
(比較例5)
ステアリン酸マグネシウムではなく、ステアリン酸を1.50mg添加したこと以外は、参考例1と同様にして錠剤を得た。
【0075】
上記参考例1及び比較例5に関し、摂氏30度/相対湿度75%においてPTP包装などの包装を施さずに3ヶ月保存した。開始時と3ヶ月後のリマプロストの分解生成物(11-デオキシ体)の生成率を高速液体クロマトグラフィー(HPLC)で分析した。
【0076】
分解物の生成率は、リマプロストと分解物の和を100として算出した。分析結果を以下の表4に示す。
【表4】
【0077】
ステアリン酸を添加した比較例5とステアリン酸マグネシウムを1.00mg添加した参考例1及び2.00mg添加した参考例2とを比較すると、2価の金属塩を含むステアリン酸マグネシウムを後末部に添加すると、類縁物質の増加を抑制できることが判明した。
【0078】
続いて、滑沢剤のスクリ-ニングを目的として、表5にて示す処方、具体的には、後末部にステアリン酸、フマル酸ステアリルナトリウム酸、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸カルシウムの何れかを加えた処方を検討した。
【0079】
参考例3
比較例12の凍結乾燥組成物 に、1錠当たり、カルメロース20.00mg、β-シクロデキストリン24.00mg、乳糖水和物10.00mg、デキストリン41.50mg、軽質無水ケイ酸0.20mg、ステアリン酸マグネシウム0.50mgの比となるように混合し、打錠することによって錠剤を得た。
【0080】
参考例4
ステアリン酸マグネシウムを0.50mgではなく、1.00mg添加したこと以外は、参考例3と同様にして錠剤を得た。
【0081】
参考例5
ステアリン酸マグネシウムを0.50mgではなく、1.50mg添加したこと以外は、参考例3と同様にして錠剤を得た。
【0082】
参考例6
ステアリン酸マグネシウムを0.50mgではなく、ステアリン酸カルシウムを1.50mg添加したこと以外は、参考例3と同様にして錠剤を得た。
【0083】
(比較例7)
ステアリン酸マグネシウムを0.50mgではなく、ステアリン酸を1.50mg添加したこと以外は、参考例3と同様にして錠剤を得た。
【0084】
(比較例8)
ステアリン酸マグネシウムを0.50mgではなく、フマル酸ステアリルナトリウムを1.50mg添加したこと以外は、参考例3と同様にして錠剤を得た。
【0085】
上記参考例3及び比較例7~8に関し、摂氏30度/相対湿度75%においてPTP包装などの包装を施さずに3ヶ月保存した。開始時と3ヶ月後のリマプロストの分解生成物(11-デオキシ体)の生成率を高速液体クロマトグラフィー(HPLC)で分析した。
【0086】
分解物の生成率は、リマプロストと分解物の和を100として算出した。分析結果を以下の表5に示す。
【表5】
【0087】
まず、上記比較例7~8、参考例3において、類縁物質の抑制を可能としたのは、後末部にステアリン酸マグネシウム又はステアリン酸カルシウムを添加した処方である。したがって、後末部にステアリン酸又はフマル酸ステアリルナトリウムを加えるよりも、ステアリン酸マグネシウム又はステアリン酸カルシウムを添加することで、リマプロスト含有医薬組成物の類縁物質の増加を抑制できることが分かる。
【0088】
そして、上記と重複するものの、ステアリン酸、フマル酸ステアリルナトリウムでは、リマプロスト含有医薬組成物の類縁物質の増加を抑制できないことが分かる。
【0089】
ステアリン酸及びフマル酸ステアリルナトリウムとは異なり、ステアリン酸マグネシウム及びステアリン酸カルシウムはいずれも2価の金属イオンを含むことから、2価の金属イオンがリマプロスト含有医薬組成物における類縁物質の増加抑制、すなわち、リマプロスト含有医薬組成物の安定性に寄与していると推察される。そこで、上記のリマプロスト含有凍結乾燥組成物と2価の金属塩添加剤とを含むリマプロスト含有医薬組成物が、安定性の高いリマプロスト含有医薬組成物といえる。2価の金属塩添加剤は、2価の金属の塩を構成要素する添加剤(たとえば滑沢剤)であり、カルメロースカルシウム、ケイ酸マグネシウム、ステアリン酸亜鉛、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸カルシウム、炭酸マグネシウム、沈降炭酸カルシウム、硫酸カルシウムまたは硫酸マグネシウム水和物等が挙げられる。
【0090】
上記の各処方及びその結果に基づき、本発明では、既存のリマプロストアルファデクス錠よりも安定性に優れたリマプロストアルファデクス含有製剤、リマプロスト含有凍結乾燥組成物を提供することができる。