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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-01-06
(45)【発行日】2022-01-21
(54)【発明の名称】ポリロタキサン組成物及びセンサ
(51)【国際特許分類】
   C08G 65/20 20060101AFI20220114BHJP
   C08G 65/329 20060101ALI20220114BHJP
   G01L 1/14 20060101ALI20220114BHJP
【FI】
C08G65/20
C08G65/329
G01L1/14
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2018186214
(22)【出願日】2018-09-29
(65)【公開番号】P2020055929
(43)【公開日】2020-04-09
【審査請求日】2020-09-30
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成27年度、国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構、「次世代人工知能・ロボット中核技術開発/革新的ロボット要素技術分野/スライドリングマテリアルを用いた柔軟センサーおよびアクチュエータの研究開発」、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】000241463
【氏名又は名称】豊田合成株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】505136963
【氏名又は名称】株式会社ASM
(74)【代理人】
【識別番号】100096116
【弁理士】
【氏名又は名称】松原 等
(72)【発明者】
【氏名】田島 善直
(72)【発明者】
【氏名】多井中 伴之
(72)【発明者】
【氏名】中井 孝憲
(72)【発明者】
【氏名】松永 直人
(72)【発明者】
【氏名】井上 勝成
【審査官】工藤 友紀
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-066318(JP,A)
【文献】特開2011-241401(JP,A)
【文献】AOKI, Daisuke et al.,Star/Linear Polymer Topology Transformation Facilitated by Mechanical Linking of Polymer Chains,Angewandte Chemie, International Edition,2015年,54,6770-6774,DOI:10.1002/anie.201500578
【文献】WANG, Junjun et al.,Significantly Improving Strength and Damping Performance of Nitrile Rubber via Incorporating Sliding Graft Copolymer,Industrial & Engineering Chemistry Research,2018年,57,16692-16700,DOI:10.1021/acs.iecr.8b03871
【文献】MURAKAMI, Hiroto et al.,Synthesis and characterization of polyurethanes crosslinked by polyrotaxanes consisting of half-methylated cyclodextrins and PEGs with different chain lengths,Polymer,2015年,56,368-374,DOI:10.1016/j.polymer.2014.11.057
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08G 65/20
C08G 65/329
C08B 37/16
G01L 1/14
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
2つのポリロタキサンの環状分子どうしがその間に有する架橋剤により架橋され、前記架橋剤中に含まれる重合体がポリテトラメチレンエーテルグリコールであるポリロタキサン組成物であって、ヒステリシスロスが10%以下、破断伸びが200%以上、初期ヤング率が5MPa以下、比誘電率が8.0以上であるポリロタキサン組成物。
【請求項2】
架橋剤は、側鎖を有しない数平均分子量500以上の前記ポリテトラメチレンエーテルグリコールの両端に官能基が配置されたものであり、官能基がポリロタキサンの環状分子に直接又は間接的に結合している請求項1記載のポリロタキサン組成物。
【請求項3】
請求項1又は2記載のポリロタキサン組成物で形成された膜の両面に、エラストマー製電極層が配置されてなるセンサ。
【請求項4】
センサの伸縮時静電容量変化の行き戻り損失が0.5%以下である請求項記載のセンサ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリロタキサン組成物及びそれを用いたセンサに関するものである。
【背景技術】
【0002】
ポリロタキサンは、環状分子に直鎖状分子が相対スライド可能に貫通し、直鎖状分子の両末端に配された封鎖基により環状分子が脱離しない構造の分子集合体である(特許文献1)。ポリロタキサンを有する組成物は、それが有する粘弾性特性により、各種の応用が考えられる。
【0003】
特許文献2には、ポリロタキサンを含む誘電層の両面に電極を設けてなり電圧をかけて誘電層を弾性変形させるアクチュエータのほか、ポリロタキサンを含む誘電層の両面に電極を設けてなり検出対象の動きを誘電層の弾性変形による電極間のキャパシタンス変化により検出する静電容量型センサの例が記載されている。
【0004】
特にポリロタキサンをセンサに応用する場合、検出時に検出対象に与える影響が小さいこと(反力が小さいこと)、検出感度が高いこと(微小変化を検出できること)、検出のダイナミックレンジが広いこと(大変化まで検出できること)、検出の繰り返しによる変化が小さいこと(ヒステリシスロスが小さいこと)等、多くの特性が要求される。
【0005】
特許文献3,4は、特定の光架橋性ポリロタキサンを用いることにより、ヒステリシスロスを5~23%と低くした架橋体の実施例を開示している。
【0006】
特許文献5は、2つのポリロタキサンの環状分子同士がその間に有する重合体により架橋された架橋ポリロタキサンを用いることにより、ヒステリシスロスを1.6~13.5%と低くした架橋物の実施例を開示している。重合体として、ポリエチレングリコールジオール、ポリプロピレンジオール、ポリテトラヒドロフラン等の多くが例示されているが、上記実施例の架橋剤は、両末端にイソシアネート基変性したポリカーボネートジオール及び1,3-ビス(イソシアナトメチル)シクロヘキサンを有する架橋剤と、ポリカーボネートの両末端のイソシアネート基をε-カプロラクタムで保護した架橋剤である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】国際公開第2005/080469号
【文献】特開2014-118481号公報
【文献】国際公開第2011/105532号
【文献】特許第5833199号公報
【文献】特開2011-241401号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかし、特許文献3~5のポリロタキサンをセンサに応用するには、誘電率、ヤング率、破断伸びのバランスに改良の余地があった。すなわち、検出時に検出対象に与える影響を小さくするには、ヤング率は低い必要があり、検出感度を大きくするには、ヤング率は低く且つ誘電率は大きい必要があり、ダイナミックレンジを広くするには、破断伸びは大きい必要があるが、特許文献3~5のポリロタキサンは、特に破断伸びについて改善の余地があった。
【0009】
そこで、本発明の目的は、検出時に検出対象に与える影響が小さく、検出感度が大きく、検出のダイナミックレンジが広く、検出の繰り返しによる変化が小さいセンサ及びそれに適した組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、架橋剤の検討により特に破断伸びを向上させられることを見出して、次の本発明に到った。
【0011】
[1]ポリロタキサン組成物の発明
本発明のポリロタキサン組成物は、2つのポリロタキサンの環状分子どうしがその間に有する架橋剤により架橋され、前記架橋剤中に含まれる重合体がポリテトラメチレンエーテルグリコールであるポリロタキサン組成物であって、ヒステリシスロスが10%以下、破断伸びが200%以上、初期ヤング率が5MPa以下、比誘電率が8.0以上であることを特徴とする。
【0012】
(作用)
本発明によれば、ヤング率が5MPa以下であるので、検出時に検出対象に与える影響を小さくすることができる。また、ヤング率が5MPa以下であり、比誘電率が8.0以上であるので、検出感度を大きくすることができる。また、破断伸びが200%以上であるので、ダイナミックレンジを広くすることができる。また、ヒステリシスロスが10%以下であるので、検出の繰り返しによる変化が小さくなる。
【0013】
架橋剤は、側鎖を有しない数平均分子量500以上の前記ポリテトラメチレンエーテルグリコールの両端に官能基が配置されたものであり、官能基がポリロタキサンの環状分子に直接又は間接的に結合していることが好ましい。数平均分子量500以上の前記ポリテトラメチレンエーテルグリコールにより、破断伸びが大きくなり、ヤング率が低くなると考えられるからである。
【0014】
重合体は、ポリエーテル又はポリエステルであることが好ましいところ、前述したとおり、より好ましいポリテトラメチレンエーテルグリコールとした
【0015】
ヒステリシスロスの下限は、特にないが、あえていえば0%である。
破断伸びの上限は、特にないが、あえていえば2000%である。
ヤング率の下限は、特にないが、あえていえば0.1MPaである。
比誘電率の上限は、特にないが、あえていえば50である。
【0016】
[2]センサの発明
本発明のセンサは、上記ポリロタキサン組成物で形成された膜の両面に、エラストマー製電極層が配置されてなるものである。
【0017】
センサの伸縮時静電容量変化の行き戻り損失が0.5%以下であることが好ましい。
【0018】
エラストマー製電極層としては、特に限定されないが、白金、カーボン、銀等の導電性粒子を含む、シリコーン、天然ゴム、ウレタンゴム、架橋されたポリロタキサン等のエラストマーよりなる電極層を例示できる。エラストマー製電極層の作成方法としては、特に限定されないが、前記導電性粒子が分散されているエラストマー液を塗布し硬化させることにより形成することができる。
【0019】
膜の膜厚は、特に限定されないが、0.025~0.5mmが好ましい。0.025mm未満だと、膜が破れ易くなり、製造時のハンドリング性が低下する。0.5mmを超えると、検出分解能の低下や、引張応力の増大により、計測対象に対する負荷が増大する。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、検出時に検出対象に与える影響が小さく、検出感度が大きく、検出のダイナミックレンジが広く、検出の繰り返しによる変化が小さいセンサ及びそれに適した組成物を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1図1は実施例及び比較例で作製したポリロタキサン(A)と重合体(B1)(B1’)及び(B2)の各構造を示す模式図である。
図2図2は実施例及び比較例の膜の構造を示す模式図である。
図3図3は同化合物膜の絶縁破壊試験方法の説明図である。
図4図4は実施例及び比較例のセンサの斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
(ア)ポリロタキサン
環状分子としては、特に限定されないが、シクロデキストリン、クラウンエーテル、シクロファン、カリックスアレーン、ククルビットウリル、環状アミド等を例示できる。環状分子は、シクロデキストリンが好ましく、中でもα‐シクロデキストリン、β‐シクロデキストリン、γ-シクロデキストリンから選択されるのがよい。シクロデキストリンとともに他の環状分子が含有されていてもよい。シクロデキストリンは、その水酸基の一部を、他の基、例えば-SH、-NH2、-COOH、-SO3H、-PO4H等で置換したものでもよいし、種々の有機溶媒に溶化できるよう、グラフト鎖(例えばラクトンモノマーの開環重合からなるグラフト鎖)を有する置換基で置換したものでもよい。最も好ましい環状分子として、鎖数20以上のグラフト鎖としてのポリカプロラクトンを有するシクロデキストリンを挙げることができる。
【0023】
直鎖状分子としては、特に限定されないが、ポリエチレングリコール、ポリ乳酸、ポリイソプレン、ポリイソブチレン、ポリブタジエン、ポリプロピレングリコール、ポリテトラヒドロフラン、ポリジメチルシロキサン、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリビニルアルコール及びポリビニルメチルエーテル等を例示できる。直鎖状分子は、ポリエチレングリコールが好ましく、ポリエチレングリコールとともに他の直鎖状分子が含有されていてもよい。
【0024】
封鎖基としては、特に限定されないが、ジニトロフェニル基類、シクロデキストリン類、アダマンタン基類、トリチル基類、フルオレセイン類、ピレン類、置換ベンゼン類(置換基として、アルキル、アルキルオキシ、ヒドロキシ、ハロゲン、シアノ、スルホニル、カルボキシル、アミノ、フェニルなどを例示できる。置換基は1つ又は複数存在してもよい。)、置換されていてもよい多核芳香族類(置換基として、上記と同じものを例示できる。置換基は1つ又は複数存在してもよい。)、及びステロイド類等を例示できる。ジニトロフェニル基類、シクロデキストリン類、アダマンタン基類、トリチル基類、フルオレセイン類、及びピレン類からなる群から選ばれるのが好ましく、より好ましくはアダマンタン基類又はトリチル基類である。
【0025】
(イ)側鎖を有しない重合体
側鎖を有しない重合体としてはポリエーテル、ポリエステル、ポリアミド、ポリウレタン、ポリエチレン、もしくはそれらの共重合体、もしくはそれらの混合体が考えられた。前述したとおり、側鎖を有しない重合体は、ポリエーテル又はポリエステルであることが好ましいところ、より好ましいポリテトラメチレンエーテルグリコールとした
【0026】
(ウ)センサ
センサは静電容量型センサであり、その態様としては、特に限定されないが、引張センサ、圧縮センサ(感圧センサを含む。)等を例示できる。
【実施例
【0027】
以下、本発明を具体化したポリロタキサン組成物及びセンサの実施例について、次の順に説明する。なお、本発明は本実施例に限定されるものではない。
<1>ポリロタキサン(A)の作製
<2>重合体の作製
<2-1>重合体(B1)の作製
<2-2>重合体(B1’)の作製
<2-3>重合体(B2)の作製
<3>ジオール
<3-1>ジオール(C1)
<3-2>ジオール(C2)
<4>組成物溶液の作製
<5>膜の作製
<6>膜の物性の測定
<7>センサの作製
<8>センサの性能の測定
【0028】
<1>ポリロタキサン(A)の作製
まず、環状分子にシクロデキストリンを含有し、直鎖状分子にポリエチレングリコールを含有し、直鎖状分子の両末端に封鎖基を配置してなるポリロタキサンとして、国際公開第2005/080469号(特許文献1)に開示された、ヒドロキシプロピル基で修飾されたポリロタキサン(以下「HAPR」と略記することがある。)を調製した。
【0029】
次に、溶化性や相溶性を得るため、以下の方法で、カプロラクトン基を有するポリロタキサンを作製した。上記HAPR 10gを三口フラスコに入れ、窒素をゆっくり流しながら、ε-カプロラクトン45gを導入した。100℃、30分間メカニカル撹拌機によって均一に撹拌した後、反応温度を130℃まで上げ、予めトルエンで薄めた2-エチルヘキサン酸スズ(50wt%溶液)1.6gを添加し、5時間反応させ、溶媒を除去し、カプロラクトン基を有するポリロタキサン(A)(以下「HAPR-g-PCL」と略記することがある。)55gを得た。(A)の構造を図1の一段目に示す。環状分子はグラフト鎖としてポリカプロラクトン(鎖数:約35)を有する。また、GPCにより、重量平均分子量Mw:580,000、分子量分布Mw/Mn:1.5を確認した。
【0030】
<2>重合体の作製
次の3種類の重合体を作製した。
【0031】
<2-1>重合体(B1)の作製
三口ナスフラスコにタケネート600(91.57g、三井化学社製)を加えた後、80℃のオイルバス中で窒素気流化撹拌した。この溶液にポリプロピレングリコール700、ジオール型(110g、和光純薬社製)を2時間かけてゆっくりと滴下した後、更に2時間撹拌した。反応後、室温まで液温を低下させた後、2-ブタノンオキシム(76.58g)を液温が60℃以上にならないようにゆっくりと滴下した。滴下終了後、室温下で更に8時間撹拌して末端ブロックイソシアネート基を有するポリプロピレングリコール(PPG)(B1)が含有された架橋剤溶液を得た。(B1)の構造を図1の二段目に示す。
【0032】
<2-2>重合体(B1')の作製
三口ナスフラスコに両末端カルビノール変性ポリジメチルシロキサンX-22-160AS(100g、信越化学工業社製)、及びε-カプロラクトン(200g、ダイセル社製)を加えた後、110℃のオイルバス中で窒素気流下2時間撹拌して脱水した。オイルバスを130℃に昇温した後、2-エチルヘキサン酸スズ(0.1g、Aldrich社製)を加えて6時間撹拌した。50℃まで降温した後、トルエン(300g、関東化学社製)を加えて両末端にポリカプロラクトンがグラフト化されたポリジメチルシロキサン溶液を得た。
別の三口ナスフラスコにタケネート600(41.68g、三井化学社製)を加えた後、90℃のオイルバス中で窒素気流下撹拌した。この溶液に上記両末端にポリカプロラクトンがグラフト化されたポリジメチルシロキサン溶液(400g)を2時間かけてゆっくりと滴下した後、更に2時間撹拌した。反応後、室温まで液温を低下させた後、2-ブタノンオキシム(25.9g、東京化成工業社製)を液温が60℃以上にならないようにゆっくりと滴下した。滴下後、室温で5時間撹拌して末端ブロックイソシアネート基を有するポリジメチルシロキサン(PDMS)(B1')が含有された架橋剤溶液を得た。(B1')の構造を図1の三段目に示す。
【0033】
<2-3>重合体(B2)の作製
三口ナスフラスコにタケネート600(378.0g、三井化学社製)を加えた後、90℃のオイルバス中で窒素気流下撹拌した。この溶液に上記両末端にポリテトラメチレンオキシド650(550g、和光純薬社製)を2時間かけてゆっくりと滴下した後、更に2時間撹拌した。反応後、40℃まで液温を低下させた後、2-ブタノンオキシム(210.9g、東京化成工業社製)を液温が60℃以上にならないようにゆっくりと滴下した。滴下後、40℃で5時間撹拌して末端ブロックイソシアネート基を有するポリテトラメチレンエーテルグリコール(PTMG)(B2)が含有された架橋剤を得た。(B2)の構造を図1の四段目に示す。
【0034】
<3>ジオール
次の2種類の重合体を使用した。
<3-1>ジオール(C1)
和光純薬社製ポリプロピレングリコール700、ジオール型をそのまま使用した。
<3-2>ジオール(C2)
和光純薬社製ポリテトラメチレンオキシド650をそのまま使用した。
【0035】
<4>組成物溶液の作製
上記(A)~(C*)の作製物を選択的に用い、次の表1に示す配合(配合数値は質量部)で、実施例及び比較例の組成物溶液を作製した。
【0036】
【表1】
【0037】
・脱保護用触媒として、ジラウリル酸ジブチルスズを用いた。
・シリコン添加剤として、GELEST社製「DBL-C31」(両末端アルコール変性シリコーン:カプロラクトン-ジメチルシロキサン-カプロラクトンブロックコポリマー)を用いた。
・加水分解抑制剤として、日清紡ケミカル社製「カルボジライトV-09GB」を用いた。
・酸化防止剤として、BASF社製「IRGANOX1726」(2,4-ビス(ドデシルチオメチル)-6-メチルフェノール)を用いた。
【0038】
上記表1の(A)~(C*)の作製物を溶媒(比較例はメチルセロソルブを使用、実施例はトルエンを使用)に溶解させ、攪拌して均一溶液とした。この溶液に上記ジラウリル酸ジブチルスズ、DBL-C31、IRGANOX1726、カルボジライトV-09GBを加え、さらに攪拌して実施例及び比較例の組成物の均一溶液を作製した。
【0039】
<5>膜の作製
上記<4>で作製した実施例及び比較例の組成物溶液を、よく脱泡してから、PETシートにスリットダイコータ法により塗布した後、130℃のオーブン内に減圧条件下で5時間おいて硬化させ、PETシートより剥離し、厚さ0.05mmの膜を作製した。膜は弾性変形する伸縮性を備えていた。実施例及び比較例の各膜の構造を、図2に模式的に示す。
【0040】
<6>膜の物性の測定
実施例及び比較例の各膜の次の物性を測定した。結果を表1に示す。
【0041】
<6-1>破断伸びと(初期)ヤング率
膜をダンベル7号形に加工し、測定試料とした。各試料について、島津製作所製引張試験機を用いて、つかみ具間距離20mm、引張速度100mm/分で引張試験を行い、応力-歪曲線を記録し、破断時のつかみ具間距離から破断伸びを測定した。初期弾性率は、1から5%伸長時までの応力-歪曲線を線形近似した傾きから算出した。
【0042】
<6-2>比誘電率
各試料にオートファインコータ(JEC-3000FC 日本電子社製)を用いて白金をφ内径5mmに蒸着し、誘電率測定用プローブを用いてPecision Impedance Analyser(4294A Agilent社製)で静電容量を測定し、算出した。
【0043】
<6-3>絶縁破壊強度
図3に示すように、設置側の円板電極21に膜1を貼り付け、膜1に円柱電極22を載せ、この際に膜1と各電極21,22との間に空気泡が極力残らないように留意し、さらに真空装置により脱気処理した。これを常温常湿下で絶縁破壊測定器にセットし、電源装置23により電極21,22間に昇圧速度10V/0.1秒で上昇するよう電圧を印加した。そして、電流が実質的に流れない絶縁状態を経て、電流が1.2μA以上となった時点の電圧から絶縁破壊電界強度(V/μm)を求めた。常温とは20±15℃であり、常湿とは65±20%である(JIS-8703、本明細書において同じ)。
【0044】
<6-3>ヒステリシスロス
特許文献5と同様に、ヒステリシスロスとは、JIS K6400に準拠した、変形及び回復の1サイクルにおける機械的エネルギー損失率(ヒステリシスロス)において、材料の変形の代わりに材料の引張試験による歪を用いたものをいう。
具体的には、ダンベル7号形(ダンベル7号形は、JIS K-6251に準拠する)のサンプルを引張試験にかけ、応力-歪曲線を測定する。伸長が有効長さの100%まで伸長した後、伸長と同じ速度で0%まで収縮する。このサイクルを10回行い、特許文献5に記載された面積を測定し計算する方法でヒステリシスロスを算出した。
【0045】
<7>センサの作製
膜の両面に、φ20mmの孔が開いたマスクを被せ、シリコン製電極材料(カーボン粒子を分散させたシリコンゴムの有機溶媒溶液)20gと触媒0.6gとを配合した塗布液を、前記マスクの孔に露出した箇所にスプレーガンにて塗布してから、架橋硬化させることにより、図4に示すように、膜1の両面にφ20mmの電極層2,3を有するセンサ5を作製した。電極層2,3は、膜とともに伸縮しうる伸縮性がある。
【0046】
<8>センサの性能の測定
上記の電極形成マスクの開孔を10mm×30mmに変更し、形成された電極が中央にくるよう20mm×40mmの方形状に打ち抜き試験片を作製した。この試験片の両電極に接続されたケーブルを介して両電極間に交流電圧を印加しながら、JIS K6400に準拠した引張試験を実施した。
具体的には、試験片を引張試験機にかけ、つかみ具間距離30mm、引張速度100mm/分で引張試験を行い、試験片を100%伸張させるまで静電容量-歪曲線を測定する。その後、同じ速度で0%まで収縮しながら静電容量-歪曲線を測定する。このサイクルを10回行い、特許文献5に記載された面積を測定し計算する方法で2から10回までの平均値を静電容量の行き戻り損失として算出した。その結果を表1に示す。
【0047】
なお、本発明は前記実施例に限定されるものではなく、発明の趣旨から逸脱しない範囲で適宜変更して具体化することができる。
【符号の説明】
【0048】
1 膜
2 電極層
3 電極層
5 センサ
21 円板電極
22 円柱電極
23 電源装置
図1
図2
図3
図4