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  • 特許-金属板積層体及びその製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-01-06
(45)【発行日】2022-01-21
(54)【発明の名称】金属板積層体及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   H02K 3/32 20060101AFI20220114BHJP
   H02K 1/18 20060101ALI20220114BHJP
【FI】
H02K3/32
H02K1/18 B
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2016101680
(22)【出願日】2016-05-20
(65)【公開番号】P2017208984
(43)【公開日】2017-11-24
【審査請求日】2019-05-15
【審判番号】
【審判請求日】2020-12-11
(73)【特許権者】
【識別番号】596001379
【氏名又は名称】デュポン帝人アドバンスドペーパー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100094569
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 伸一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100109070
【弁理士】
【氏名又は名称】須田 洋之
(74)【代理人】
【識別番号】100119013
【弁理士】
【氏名又は名称】山崎 一夫
(74)【代理人】
【識別番号】100123777
【弁理士】
【氏名又は名称】市川 さつき
(74)【代理人】
【識別番号】100111796
【弁理士】
【氏名又は名称】服部 博信
(72)【発明者】
【氏名】浮ヶ谷 孝一
(72)【発明者】
【氏名】成瀬 新二
(72)【発明者】
【氏名】藤森 竜士
(72)【発明者】
【氏名】近藤 千尋
(72)【発明者】
【氏名】田中 康紀
【合議体】
【審判長】柿崎 拓
【審判官】小川 恭司
【審判官】木戸 優華
(56)【参考文献】
【文献】特開2006-197662(JP,A)
【文献】特開2008-178197(JP,A)
【文献】特開2016-59090(JP,A)
【文献】特開2015-122861(JP,A)
【文献】特開2015-109735(JP,A)
【文献】国際公開第2010/150669(WO,A1)
【文献】国際公開第2011/013273(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02K 15/02
H02K 15/10
H02K 1/18
H02K 3/34
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の金属板を積層する工程、ここで積層された金属板は金属板の厚み方向に平行なスロットを有し、
前記スロットに、アラミド紙と樹脂フィルムとを積層させてなる積層絶縁シートを挿入する工程、
前記積層された金属板を角度を変えて回転させることでスキューを導入する工程、
を含む金属板積層体の製造方法であって、前記樹脂フィルムが、ポリエチレンテレフタレートフィルム及びポリエチレンナフタレートフィルムからなる群より選ばれる樹脂フィルムである、金属板積層体の製造方法。
【請求項2】
前記積層絶縁シートは、樹脂フィルムの片面にアラミド紙を積層した2層構造である、請求項1の金属板積層体の製造方法。
【請求項3】
前記積層絶縁シートは、樹脂フィルムの両面にアラミド紙をそれぞれ積層した3層構造である、請求項1の金属板積層体の製造方法。
【請求項4】
前記積層絶縁シートは、常温における破断伸度が15%以上である、請求項1~3のいずれかに記載の金属板積層体の製造方法。
【請求項5】
前記積層絶縁シートは、厚みが30μmから2000μmである、請求項1~4のいずれかに記載の金属板積層体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数の金属板を積層させた積層体において、スロットにアラミド紙を主体とする絶縁シートを挿入した後にスキューを導入した金属板積層体及びその製造方法、特にモータにおける回転子または固定子及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
モータの固定子や回転子においてスロットとコイルの絶縁にはシート状絶縁材料や樹脂塗装等の手法が用いられている。樹脂塗装によって絶縁層を形成する場合には、熱硬化性樹脂の粉体を吹き付けた後に、高温で固定化する手法が多く用いられている。熱硬化性樹脂を使用する場合には、作業者の安全に配慮した防塵設備や、樹脂吹き付け後の硬化に使用する硬化炉を必要とする。また、絶縁シートを適応した場合と比較すると、硬化炉を使用するため、エネルギー消費量も多い。さらに、粉体樹脂を吹き付ける場合、平滑な面には均一な厚みの絶縁層を形成することが可能であるが、スロットのような入り組んだ構造の場合にはスロットの端部など、角を有する部分の絶縁層は薄くなる傾向にある。そのため、全体としての粉体樹脂吹き付け時の厚みを厚く設定する必要があるが、絶縁層が厚くなると、その分コイルの占積率が低下するため、効率が低下するという課題がある。
【0003】
一方でシート状絶縁材料を絶縁層に用いる場合には固定子や回転子のスロットに短冊状のシート状絶縁材料をスロットの形状に沿うように湾曲させた状態で挿入を行う。シート状絶縁材料の場合、粉体樹脂を吹き付けた場合よりも絶縁層が薄くなるため、モータの小型化や高効率化が可能である。挿入は効率に優れた自動挿入機による連続挿入が広く用いられている。しかしながら、スキューが施されたスロットの場合にはスロットの形状が直線的ではないため、シート状の絶縁材料を自動挿入機によって挿入することが困難である。そこで、特開2012-196033号公報のようにスキュー導入前のスロットが直線的な状態で絶縁シートを挿入してから積層鋼板にひねりを加えて絶縁シートと共にスキューを導入する方法が知られている。ひねりを加えるとスロット端の一方と他方の距離が広がるが、この際、挿入された絶縁シートはスロットに追随する必要がある。
【0004】
多くの場合、絶縁シートにはポリエチレンナフタレートフィルムやポリエチレンテレフタレートフィルム等の樹脂フィルムが用いられる。これらの樹脂フィルムを単体で用いる場合にはスロット開口部の角やバリが起点となって樹脂フィルムの裂けや破れが生じ易いという課題がある。特開2006-197662号公報では、ポリエチレンナフタレート(PEN)フィルムおよびポリフェニレンサルファイド(PPS)フィルムの積層フィルムを絶縁シートとしたスキュー付固定子が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2012-196033号公報
【文献】特開2006-197662号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、スキューを有する金属板積層体のスロットに対して、アラミド紙と樹脂フィルムによって構成される高耐熱絶縁シートを適応させた金属積層体及びその製造方法、並びに回転子および固定子を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、次の態様を含む。
1.複数の金属板を積層する工程、ここで積層された金属板は金属板の厚み方向に平行なスロットを有し、
前記スロットに、アラミド紙と樹脂フィルムとを積層させてなる積層絶縁シートを挿入する工程、
前記積層された金属板を角度を変えて回転させることでスキューを導入する工程、
を含む金属板積層体の製造方法。
2.前記積層絶縁シートは、樹脂フィルムの片面にアラミド紙を積層した2層構造である、上記1の金属板積層体の製造方法。
3.前記積層絶縁シートは、樹脂フィルムの両面にアラミド紙をそれぞれ積層した3層構造である、上記1の金属板積層体の製造方法。
4.前記積層絶縁シートは、常温における破断伸度が15%以上である、上記1~3のいずれかに記載の金属板積層体の製造方法。
5.前記積層絶縁シートは、厚みが30μmから2000μmである、上記1~4のいずれかに記載の金属板積層体の製造方法。
6.(a)積層された複数の金属板、ここで積層された金属板は金属板の厚み方向に平行なスロットを有し、かつ前記スロットは心棒と一定の角度をもって傾斜している、および
(b)前記スロットに挿入したアラミド紙と樹脂フィルムをそれぞれ少なくとも1層ずつ含む積層絶縁シート、
を含む金属板積層体。
7.前記(b)積層絶縁シートは、樹脂フィルムの片面にアラミド紙を積層した2層構造である、上記6の金属板積層体。
8.前記(b)積層絶縁シートは、樹脂フィルムの両面にアラミド紙をそれぞれ積層した3層構造である、上記6の金属板積層体。
9.前記(b)積層絶縁シートは、常温における破断伸度が15%以上である、上記6~8のいずれかに記載の金属板積層体。
10.前記(b)積層絶縁シートは、厚みが30μmから2000μmである、上記6~9のいずれかに記載の金属板積層体。
11.上記6~10のいずれかに記載の金属板積層体を含む固定子または回転子。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】実施例1の金属板積層体モデルである。
図2】スキューを形成した金属板積層体の写真である。
図3】3層構造の積層絶縁シートの一例を示した断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
(積層絶縁シート)
積層絶縁シートとは樹脂フィルムの片面もしくは両面をアラミド紙と貼り合わせた、すくなくとも2層以上の層構造をなす積層シートである。図3は、3層構造の積層絶縁シートの一例を示した断面図である。積層絶縁シート10は、上記樹脂フィルム12の表面および裏面それぞれに、上記アラミド紙11を接着させた、アラミド紙-樹脂フィルム-アラミド紙の3層構造である。
絶縁積層シートの厚みは、好ましくは30μm~2000μm、好ましくは35μm~600μmであり、より好ましくは40μm~200μmである。
積層絶縁シートの常温における破断伸度は、好ましくは15%以上、より好ましくは20%以上である。
1枚の樹脂フィルムと1枚のアラミド紙を貼りあわせた2層品は薄い絶縁層を提供することができるため、モータや発電機の小型化が期待できる。アラミド紙は汎用樹脂フィルムと比較して長期耐熱性に優れるため、より高温となる側にアラミド紙を配置することが好ましい。1枚の樹脂フィルムを2枚のアラミド紙で挟持させた構造を有する3層の積層絶縁シートは、厚さ方向に対象の構造を有するため、貼り合わせ後も反りが発生しにくいという利点があるため、自動挿入機における使用にも適している。
【0010】
(積層絶縁シート製造方法)
アラミド紙の樹脂フィルムへの接着は、接着剤を用いることが出来る。接着剤は、特に限定されず、市販のエポキシ樹脂系、フェノール樹脂系またはアクリル樹脂系の硬化タイプ接着剤を用いることが出来る。当該接着剤を、樹脂フィルムおよびアラミド紙のいずれか、または両方の面に塗布または含浸させ、樹脂フィルムとアラミド紙を貼り合わせて接合させることができる。
【0011】
(アラミド)
本発明においてアラミドとは、アミド結合の60%以上が芳香環に直接結合した線状高分子化合物を意味する。このようなアラミドとしては、例えば、ポリメタフェニレンイソフタルアミドおよびその共重合体、ポリパラフェニレンテレフタルアミドおよびその共重合体、コポリパラフェニレン・3,4’-ジフェニルエーテルテレフタルアミドなどが挙げられる。
これらのアラミドは、例えば、芳香族酸二塩化物および芳香族ジアミンとの縮合反応による溶液重合法、二段階界面重合法等により工業的に製造されており、市販品として入手することができるが、これに限定されるものではない。これらのアラミドの中では、ポリメタフェニレンイソフタルアミドが良好な成型加工性、難燃性、耐熱性などの特性を備えている点で好ましい。
【0012】
(アラミドファイブリッド)
本発明においてアラミドファイブリッドとは、アラミドからなるフィルム状微小粒子で、アラミドパルプと称することもある。製造方法は、例えば特公昭35-11851号、特公昭37-5732号公報等に記載の方法が例示される。アラミドファイブリッドは、通常の木材パルプと同じように抄紙性を有するため、水中分散した後、抄紙機にてシート状に成形することができる。この場合、抄紙に適した品質を保つ目的でいわゆる叩解処理を施すことができる。この叩解処理は、ディスクリファイナー、ビーター、その他の機械的切断作用を及ぼす抄紙原料処理機器によって実施することができる。この操作において、ファイブリッドの形態変化は、JIS P8121に規定の濾水度(フリーネス)でモニターすることができる。
本発明において、叩解処理を施した後のアラミドファイブリッドの濾水度は、10~300cm3(カナディアンスタンダードフリーネス)の範囲内にあることが好ましい。300cm3以下に濾水度を制御することにより、それから成形されるシートの強度高まる。10cm3以上の濾水度とすることにより、投入する機械動力の利用効率を高めることができ、単位時間あたりの処理量を高めることができる。さらに、ファイブリッドの適度な微細化が実現され、バインダー機能の低下が抑制される。
【0013】
(アラミド短繊維)
本発明においてアラミド短繊維とは、アラミドを原料とする繊維を所定の長さに切断したものであり、そのような繊維としては、例えば、デュポン社の「ノーメックス(登録商標)」、「ケブラー(登録商標)」、帝人(株)の「コーネックス(登録商標)」、「テクノーラ(登録商標)」などが例示できるが、これらに限定されるものではない。
アラミド短繊維は、好ましくは、0.05dtex以上25dtex未満の範囲内の繊度を有することができる。繊度が0.05dtex以上の繊維は、湿式法での製造(後述)において凝集が生じにくく、また、繊度が25dtex未満の繊維は、繊維直径が適度な大きさとなる。例えば、真円形状で密度を1.4g/cm とすると、直径45ミクロン以上である場合、アスペクト比の低下、力学的補強効果の低減、アラミド紙の均一性不良が生じるおそれがある。
アラミド短繊維の長さは、1mm以上25mm未満の範囲から選ぶことが好ましい。短繊維の長さが1mm以上であると、アラミド紙の力学特性が十分なものとなり、25mm未満であると、後述する湿式法でのアラミド紙の製造に際して「からみ」「結束」などの発生を抑制できる。
【0014】
(アラミド紙)
本発明においてアラミド紙とは、前記のアラミドファイブリッド及びアラミド短繊維を主として構成されるシート状物であり、一般に20μm~1000μmの厚さ、好ましくは25μm~500μmの厚さ、より好ましくは30μm~100μmの厚さを有している。
さらにアラミド紙は、一般に10g/m2~1000g/m2の坪量、好ましくは15g/m2~400g/m2の坪量、より好ましくは20g/m2~100g/m2の坪量を有している。ここで、アラミドファイブリッドとアラミド短繊維の混合割合は任意とすることができるが、アラミドファイブリッド/アラミド短繊維の割合(質量比)を1/9~9/1とするのが好ましく、より好ましくは2/8~8/2であるが、この範囲に限定されるものではない。
アラミド紙は、一般に、前述したアラミドファイブリッドとアラミド短繊維とを混合した後シート化する方法により製造される。具体的には、例えば上記アラミドファイブリッド及びアラミド短繊維を乾式ブレンドした後に、気流を利用してシートを形成する方法、アラミドファイブリッド及びアラミド短繊維を液体媒体中で分散混合した後、液体透過性の支持体、例えば網またはベルト上に吐出してシート化し、液体を除いて乾燥する方法などが適用できるが、これらのなかでも水を媒体として使用する、いわゆる湿式抄造法が好ましく選択される。
湿式抄造法では、少なくともアラミドファイブリッド、アラミド短繊維を含有する単一または混合物の水性スラリーを、抄紙機に送液し分散した後、脱水、搾水及び乾燥することによって、シートとして巻き取る方法が一般的である。抄紙機としては長網抄紙機、円網抄紙機、傾斜型抄紙機及びこれらを組み合わせたコンビネーション抄紙機などが利用される。コンビネーション抄紙機での製造の場合、配合比率の異なるスラリーをシート成形し合一することで複数の紙層からなる複合体シートを得ることができる。抄造の際に必要に応じて分散性向上剤、消泡剤、紙力増強剤などの添加剤が使用される。
上記のようにして得られたアラミド紙は、一対のロール間にて高温高圧で熱圧することにより、密度、機械強度を向上することができる。熱圧の条件は、たとえば金属製ロール使用の場合、温度100~400℃、線圧50~400kg/cmの範囲内を例示することができるが、これらに限定されるものではない。熱圧の際に複数のアラミド紙を積層することもできる。上記の熱圧加工を任意の順に複数回行うこともできる。
【0015】
(樹脂フィルム)
本発明において樹脂フィルムとしてはポリエチレンテレフタレートフィルム、ポリエチレンナフタレートフィルム、ポリフェニレンサルファイドフィルムを用いることができる。樹脂フィルムは、好ましくは常温において60%以上の破断伸度、より好ましくは100%以上の破断伸度、さらに好ましくは150%以上の破断伸度を有しており、厚さは特に限定されないが好ましくは10μm~1000μm、より好ましくは20μm~600μm、より好ましくは30μm~200μm、より好ましくは30μm~100μmである。そのようなフィルムとしては、例えば、帝人デュポンフィルム(株)の「テフレックス(登録商標)」、「テイジン(登録商標)テトロン(登録商標)、フィルム」、「テオネックス(登録商標)」や東レ(株)の「トレリナ(登録商標)フィルム」などが例示できるが、これらに限定されるものではない。
【0016】
(回転子、固定子)
モータは回転子と固定子間の磁気的反発を利用して、電気エネルギーを力学エネルギーに変換する装置である。その種類は形状や構造、用いる電源によって多岐に渡るが、自動車等の駆動モータや小型モータにおいては回転子もしくは固定子のスロットにコイルを導入し、電流を流すことで回転子を回転させる方式が広く用いられている。回転子や固定子には金属導体や磁石が用いられるが、特に渦電流損を低減するために薄い鋼板を積層させた金属板の積層体が用いられる。積層させた金属板を固定する方法には、各金属板に接着剤を塗布して接着する方法や、積層体の軸方向に力を加えてかしめることで一体化させる方法などがある。
また、コイルを保護すると同時に、漏れ電流を抑制するために、コイル-固定子間もしくはコイル-回転子間には絶縁層を設ける必要がある。印加される電圧や発生する熱量によって最適な絶縁層が選択される。本発明においては、複数の金属板積層体に対してアラミド紙と樹脂フィルムとを含む積層絶縁シートを用いる。
【0017】
(スキュー)
直流モータにおいてスロットが回転軸に対して平行な場合、回転子の位置によって回転方向のトルクにばらつきが生じ、モータの騒音や振動を引き起こす場合がある。スロットを回転軸に対して角度を付けることによって、コイルに電流を流すことによって発生する電磁力が広い範囲に分散するため、回転時のトルクのばらつきを低減することが可能である。このようにスロットの回転軸に対して角度がついた斜めのスロットの状態のことをスキューと呼ぶ。回転子や固定子へのスキューの付与の方法は大きく分けて二つある。
一つは金属板を積層する際に所定の角度ずつ回転させて積層させ、各層を固定化することによってスキューを付与する方法である。この場合、コイルの挿入はスキューが形成された後になされる。スキュー付与のもう一つの方法は金属板をずらさずに積層させた後に各積層板をずらすことでスキューを付与する方法である。積層板をずらす方法には、一定角度ずつ回転するように、各積層板にあらかじめ凹凸を形成しておき、積層後に最上層と最下層にひねりを生じさせる方法や、積層させたすべての積層板にピンを貫通させて一定角度の傾きを与えることで各積層板をずらす方法がある。この場合、コイルの挿入はスキューを付与する前に行っても後に行ってもいずれでも良い。
本発明では、金属板をずらさずに積層させた後に積層絶縁シートを金属板積層体のスロットへ挿入し、次いで各積層板をずらすことでスキューを導入することができる。
以下、本発明を、実施例を挙げてさらに具体的に説明する。なお、これらの実施例は、単なる例示であり、本発明の内容を何ら限定するためのものではない。
【実施例
【0018】
[参考例]
(原料調製)
特開昭52-15621号公報に記載のステーターとローターの組み合わせで構成されるパルプ粒子の製造装置(湿式沈殿機)を用いて、ポリメタフェニレンイソフタルアミドのファイブリッドを製造した。これを、離解機、叩解機で処理して長さ加重平均繊維長を0.9mmに調節した。得られたアラミドファイブリッドの濾水度は90cm3であった。一方、デュポン社製メタアラミド繊維(ノーメックス(登録商標)、単糸繊度2デニール)を、長さ6mmに切断(以下「アラミド短繊維」と記載)した。
(アラミド紙の製造)
上記の通り調製したアラミドファイブリッドとアラミド短繊維をおのおの水中で分散しスラリーを作製した。これらのスラリーを、アラミドファイブリッドとアラミド短繊維とが1/1の配合比率(重量比)となるように混合し、タッピー式手抄き機(断面積625cm2)にてシート状物を作製した。アラミド紙の坪量や厚みはスラリーの投入量を変えることで調節した。次いで、これを金属製カレンダーロールにより温度330℃、線圧300kg/cmで熱圧加工し、表1の実施例1及び2、並びに比較例1及び2に示すアラミド紙を得た。
【0019】
[実施例1]
[参考例]に記載の方法によって作成したアラミド紙(坪量:27.2g/m2、厚み:0.042mm、密度:0.64g/cm3)及びポリエチレンテレフタレートフィルム(帝人デュポンフィルム(株)製「テフレックス(登録商標)FT、厚み50μm」、常温における破断伸度220%)を接着剤で貼り合わせてアラミド紙-ポリエチレンテレフタレートフィルム-アラミド紙の3層積層体を得た。このようにして得られた積層体の主要特性を下記の方法で評価した。
[測定方法]
(1)坪量、厚み、密度
JIS C 2323-2に準じて実施し、密度は(坪量/厚み)により算出した。
(2)引張強度、常温における破断伸度
JIS C 2323-2に準じて実施した。
(3)スキュー形成時の破断
スキュー時の伸びはモータの回転子を模した金属板積層体モデルを使用して測定した。金属板積層体モデルは、図1に表すとおり、厚さ2mm、直径100mmのステンレス製円盤を50枚積層させ、その中央部にズレ防止のための心棒3、下部に土台6、上部にハンドル5付き上蓋4をそれぞれ備える。各金属板には円周の同一位置にスロット2を備えている。スロット2の上側の上蓋4および下側の土台6には、ビス穴7が形成されている。
上部のハンドル5を円周方向に回転することで、上蓋4に接続された回転用柱が各金属板を同一角度ずつ回転させることで、スキューを形成した。穴9を開けた短冊状積層絶縁シート8をスロット2の曲面に沿わせるように挿入し、積層絶縁シートの穴9と上蓋4および土台6の穴7に合わせビスとワッシャーによって固定した。ハンドルを60°まで回転させることで積層絶縁シート8の破断の有無を調査した。
【0020】
[実施例2]
[参考例]に記載の方法によって作製したアラミド紙(坪量:41.2g/m2、厚み:0.058mm、密度:0.71g/cm3)及びポリエチレンテレフタレートフィルム(帝人デュポンフィルム(株)製「テフレックス(登録商標)FT、厚み80μm」、常温における破断伸度220%)を接着剤で貼り合わせてアラミド紙-ポリエチレンテレフタレートフィルムの2層積層体を得た。このようにして得られた積層体の主要特性を実施例1と同様の方法で評価した。
【0021】
[比較例1]
[参考例]に記載の方法によって作製したアラミド紙(坪量:115g/m2、厚み:0.134mm、密度:0.86g/cm3)を単体で、実施例1と同様に評価した。
実施例1および2、並びに比較例1について、スキュー形成時の破断の結果を表1に示した。表1に示されるように、アラミド紙にポリエチレンテレフタレートフィルムを貼り合わせることで、同等の厚みを有するアラミド紙単体と比較して破断時の伸びが大きく改善することが判明した。上記の結果より、スキュー付の金属板積層体に絶縁シートを適応する場合には実施例に示されるような、伸びの大きな絶縁シートを用いることが有効であると考えられる。得られた3層絶縁シートは表面にアラミド紙を配した構造であるため、高耐熱性が要求されるモータの回転子や固定子への利用が期待される。
【0022】
表1
【符号の説明】
【0023】
1 金属板積層体モデル
2 スロット
3 心棒
4 上蓋
5 ハンドル
6 土台
7 ビス穴
8 短冊状絶縁シート
9 穴
10 積層絶縁シート
11 アラミド紙
12 樹脂フィルム
図1
図2
図3