(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-01-06
(45)【発行日】2022-01-21
(54)【発明の名称】マスターバッチ組成物
(51)【国際特許分類】
C08L 23/10 20060101AFI20220114BHJP
C08L 23/16 20060101ALI20220114BHJP
【FI】
C08L23/10
C08L23/16
(21)【出願番号】P 2016246290
(22)【出願日】2016-12-20
【審査請求日】2019-11-06
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】597021842
【氏名又は名称】サンアロマー株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】513076604
【氏名又は名称】バーゼル・ポリオレフィン・イタリア・ソチエタ・ア・レスポンサビリタ・リミタータ
(74)【代理人】
【識別番号】100118902
【氏名又は名称】山本 修
(74)【代理人】
【識別番号】100106208
【氏名又は名称】宮前 徹
(74)【代理人】
【識別番号】100129311
【氏名又は名称】新井 規之
(72)【発明者】
【氏名】安元 一寿
(72)【発明者】
【氏名】阿部 美幸
(72)【発明者】
【氏名】中島 武
【審査官】今井 督
(56)【参考文献】
【文献】特表2012-521461(JP,A)
【文献】特表2006-522186(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 23/00- 23/36
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
成分(1)として、0~3重量%のエチレンまたは1種類以上のC4~C10-α-オレフィン由来単位を含むプロピレン(共)重合体、および
成分(2)として、25~
31.2重量%のエチレン由来単位を含むプロピレン-エチレンコポリマーを含むマスターバッチ組成物
に、
前記マスターバッチ組成物とは異なるブロックポリプロピレンであって5重量%以上のエチレンを含むブロックポリプロピレンを混合してなる、ポリプロピレン樹脂組成物であって、
前記成分(1)と(2)の重量比が65~85重量部:15~35重量部であり、
以下の要件:
1)当該
マスターバッチ組成物のメルトフローレート(230℃、荷重21.18N)が9~30g/10分である
2)当該
マスターバッチ組成物のキシレン不溶分のGPCにより測定したMwが10×10
4~
15.3×10
4、Mw/Mnが6~20である
3)当該
マスターバッチ組成物のキシレン可溶分の極限粘度が5.5~9.0dl/gである
を満たす、
ポリプロピレン樹脂組成物。
【請求項2】
前記
マスターバッチ組成物のメルトフローレートが9~15g/10分である、請求項1に記載の
ポリプロピレン樹脂組成物。
【請求項3】
前記
マスターバッチ組成物のキシレン不溶分のMw/Mnが7~20である、請求項1
または2に記載の
ポリプロピレン樹脂組成物。
【請求項4】
前記成分(1)と(2)の重量比が、65~75重量部:25~35重量部である、請求項1~3のいずれ
かに記載の
ポリプロピレン樹脂組成物。
【請求項5】
前記成分(1)と(2)の重量比が67~75重量%:25~33重量%である、請求項1~4のいずれ
かに記載の
ポリプロピレン樹脂組成物。
【請求項6】
前記成分(2)におけるプロピレン-エチレンコポリマーのエチレン由来単位が27~
31.2重量%である、請求項1~5のいずれかに記載の
ポリプロピレン樹脂組成物。
【請求項7】
前記
マスターバッチ組成物のキシレン可溶分の極限粘度が6.0~8.0dl/gである、請求項1~6のいずれかに記載の
ポリプロピレン樹脂組成物。
【請求項8】
前記マスターバッチ組成物が、
(A)マグネシウム、チタン、ハロゲン、およびスクシネート系化合物から選択される電子供与体化合物を必須成分として含有する固体触媒;
(B)有機アルミニウム化合物;ならびに
(C)外部電子供与体化合物
を含む触媒を用いて、プロピレンとエチレンとを重合させて得た
組成物である、請求項1~7のいずれかに記載の
ポリプロピレン樹脂組成物。
【請求項9】
請求項
1~8のいずれかに記載のポリプロピレン樹脂組成物を射出成形してなる射出成形品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はマスターバッチ組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリプロピレン樹脂組成物はその優れた特性から、自動車をはじめ各種工業用品に幅広く使用されている。ポリプロピレン樹脂組成物は特に自動車のバンパーなどの大型射出成形用途に使用されるが、その際に流動性が不足する、フローマークやブツ等の外観不良が生じる等の不具合がしばしば問題となる。この不具合を解消するために、例えば特許文献1には特定のメルトフローレートを有するポリプロピレンまたはプロピレン-エチレンコポリマー(成分A)と、キシレン可溶分が特定の極限粘度を有するプロピレン-エチレンコポリマー(成分B)からなるマスターバッチ組成物が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
発明者らは予備的に特許文献1の方法を検討したところ、外観不良は改善されるものの流動性が十分でないとの知見を得た。かかる事情を鑑み、本発明は良好な外観を有し、かつ流動性に優れるポリプロピレン樹脂組成物を与えるマスターバッチ組成物を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
発明者らは、マスターバッチ組成物のメルトフローレートを特定範囲にし、かつキシレン不溶分の分子量分布の指標であるMw/Mnを特定範囲とすることで前記課題を解決できることを見出した。すなわち、前記課題は以下の本発明によって解決される。
[1]成分(1)として、0~3重量%のエチレンまたは1種類以上のC4~C10-α-オレフィン由来単位を含むプロピレン(共)重合体、および
成分(2)として、25~35重量%のエチレン由来単位を含むプロピレン-エチレンコポリマーを含むマスターバッチ組成物であって、
前記成分(1)と(2)の重量比が65~85重量部:15~35重量部であり、
以下の要件:
1)当該組成物のメルトフローレート(230℃、荷重21.18N)が5~30g/10分である
2)当該組成物のキシレン不溶分のGPCにより測定したMwが10×104~30×104、Mw/Mnが6~20である
3)当該組成物のキシレン可溶分の極限粘度が5.5~9.0dl/gである
を満たす、マスターバッチ組成物。
[2]前記メルトフローレートが5~15g/10分である、[1]に記載のマスターバッチ組成物。
[3]前記キシレン不溶分のMw/Mnが7~20、好ましくは8~20、より好ましくは9~20である、[1]または[2]に記載のマスターバッチ組成物。
[4]前記成分(1)と(2)の重量比が67~75重量%:25~33重量%である、[1]~[3]のいずれに記載のマスターバッチ組成物。
[5]前記成分(2)におけるプロピレン-エチレンコポリマーのエチレン由来単位が27~33重量%である、[1]~[4]のいずれかに記載のマスターバッチ組成物。
[6]前記キシレン可溶分の極限粘度が6.0~8.0dl/gである、[1]~[5]のいずれかに記載のマスターバッチ組成物。
[7](A)マグネシウム、チタン、ハロゲン、およびスクシネート系化合物から選択される電子供与体化合物を必須成分として含有する固体触媒;
(B)有機アルミニウム化合物;ならびに
(C)外部電子供与体化合物
を含む触媒を用いて、プロピレンとエチレンとを重合させて得た、[1]~[6]のいずれかに記載のマスターバッチ組成物。
[8]前記[1]~[7]のいずれかに記載のマスターバッチ組成物に、前記マスターバッチ組成物とは異なるブロックポリプロピレンであって5重量%以上のエチレンを含むブロックポリプロピレンを混合してなる、ポリプロピレン樹脂組成物。
[9]前記[8]に記載のポリプロピレン樹脂組成物を射出成形してなる射出成形品。
【発明の効果】
【0006】
優れた外観を有し、かつ流動性に優れるポリプロピレン樹脂組成物を与えるマスターバッチ組成物を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図2A】マスターバッチ組成物のダイスウェルの測定結果
【
図2B】ポリプロピレン樹脂組成物のダイスウェルの測定結果
【
図3】マスターバッチ組成物のダイスウェルの測定結果
【発明を実施するための形態】
【0008】
本発明において、成分(1)および(2)を必須成分として含み、必要に応じて公知の添加剤を含む組成物を「マスターバッチ組成物」という。当該マスターバッチ組成物は、他の樹脂と混合して使用できるが単独でも使用できる。「マスターバッチ組成物」と5重量%以上のエチレンを含みかつ当該マスターバッチ組成物とは異なるブロックポリプロピレン、必要に応じて、0~3重量%のエチレンまたは1種類以上のC4~C10-α-オレフィン由来単位を含むプロピレン(共)重合体、エラストマー、充填剤を含む樹脂組成物を「ポリプロピレン樹脂組成物」という。以下、本発明を詳細に説明する。本発明において「X~Y」はその端値であるXおよびYを含む。
【0009】
1.マスターバッチ組成物
本発明のマスターバッチ組成物は、以下の成分を含む。
成分(1):0~3重量%のエチレンまたは1種類以上のC4~C10-α-オレフィン由来単位を含むプロピレン(共)重合体
成分(2):25~35重量%のエチレン由来単位を含むプロピレン-エチレンコポリマー
【0010】
(1)成分(1):プロピレン(共)重合体
プロピレン(共)重合体とは、プロピレン単独重合体、あるいは0重量%を超え3重量%以下のエチレンまたはC4~C10-α-オレフィン(以下「コモノマー」ともいう)とプロピレンの共重合体である。最終製品で剛性と耐熱性が要求される場合は、プロピレン単独重合体が好ましい。一方、柔軟性と耐衝撃性が要求される場合は共重合体が好ましい。1.0重量%のエチレン由来単位を含むプロピレンの共重合体とは、エチレン由来の単位とプロピレン由来の単位との重量比が1.0:99.0である共重合体である。他の共重合体についても同様である。コモノマー由来単位の含有量の上限値は3重量%以下であるが、2.8重量%以下が好ましく、2.5重量%以下がより好ましい。当該量が上限値を超えると、剛性が低下する。また、当該量が5.0重量%以上であると重合体の製造が困難となる。コモノマー由来単位が存在する場合の下限値は限定されないが、0.5重量%以上が好ましく、1.0重量%以上がより好ましい。コモノマーとしては、入手容易性等からエチレンまたはC4~C6-α-オレフィンが好ましく、エチレンがより好ましい。
【0011】
(2)成分(2):プロピレン-エチレンコポリマー
本発明で用いるプロピレン-エチレンコポリマーはエチレン由来単位を25~35重量%含む。エチレン由来単位の含有量がこの範囲を超えると室温での衝撃強度および引張伸び率が低下する。また、上限値を超えると、ポリプロピレン樹脂組成物のマスターバッチとして使用した場合の衝撃強度とダイスウェルの改良効果が十分に得られない。この観点からエチレン由来単位の含有量の上限値は33重量%以下が好ましい。当該含有量の下限値は27重量%以上が好ましい。
【0012】
(3)組成比
成分(1)と(2)の重量比は(1):(2)=65~85:15~35である。成分(2)の量がこの上限を超えると製造が困難となり、下限未満であるとポリプロピレン樹脂組成物としたときの外観の改良効果が低下する。この観点から、前記比率は好ましくは、67~75:25~33である。
【0013】
(4)他の成分
さらにマスターバッチ組成物には、酸化防止剤、塩素吸収剤、耐熱安定剤、光安定剤、紫外線吸収剤、内部滑剤、外部滑剤、アンチブロッキング剤、帯電防止剤、防曇剤、結晶造核剤、難燃剤、分散剤、銅害防止剤、中和剤、可塑剤、気泡防止剤、架橋剤、過酸化物、油展および他の有機および無機顔料などのオレフィン重合体に通常用いられる慣用の添加剤を添加してもよい。各添加剤の添加量は公知の量としてよい。
【0014】
(5)特性
1)メルトフローレート
マスターバッチ組成物の230℃、荷重21.18Nにおけるメルトフローレート(以下「MFR」ともいう)は5~30g/10分である。メルトフローレートがこの範囲にあることでポリプロピレン樹脂組成物とした際に優れた流動性を達成できる。しかしながらメルトフローレートの値が上限値を超えると外観不良が発生しやすくなる。またメルトフローレートの値が下限値未満であると流動性が低下するのでポリプロピレン樹脂組成物としたときの加工性が低下する。また、後述するように、成形品の外観に悪影響を及ぼす可能性がある。この観点から、メルトフローレートは好ましくは5~15g/10分である。
【0015】
2)XIのMwおよびMw/Mn
当該組成物のキシレン不溶分(XI)のGPCにより測定したMwは10×104~30×104であってMw/Mnは6~20である。キシレン不溶分は当該組成物における結晶性成分である。本発明においてはMwが10×104~30×104と比較的低い範囲にありかつ分子量分布の指標であるMw/Mnも6~20と広い範囲にある。このような分子量と分子量分布を持つため、高分子量成分によるダイスウェル向上と低分子量の成分による流動性の向上が達成される。ダイスウェルが大きいと成形時に溶融ポリマーが金型に速やかに接触するので外観が良好となる。すなわち、本発明のマスターバッチ組成物は、優れた外観と優れた流動性を有するポリプロピレン樹脂組成物を与える。この観点から前記Mwは12×104~28×104が好ましい。また前記Mw/Mnは7~20が好ましく、8~20がより好ましく、9~20がさらに好ましい。XIのMwおよびMw/Mnは25℃のキシレンに不溶な成分を得て、当該成分をGPC(ゲル浸透クロマトグラフィー)法にて測定することで求められる。
【0016】
3)XSIV
当該組成物のキシレン可溶分(XS)の極限粘度(XSIV)は、当該組成物における結晶性を持たない成分の分子量の指標でもある。XSIVは25℃のキシレンに可溶な成分を得て、当該成分の極限粘度を定法にて測定することで求められる。本発明においてXSIVは5.5~9.0dl/gである。XSIVがこの範囲にあることで、ダイスウェルが大きくなり、ポリプロピレン樹脂組成物とした場合に成形時の外観を良好にできる。この観点から、前記極限粘度は好ましくは6.0~8.0dl/gである。
【0017】
4)他の物性
本発明のマスターバッチ組成物は、曲げ弾性率が950~1500MPaであることが好ましく、950~1300MPaであることがより好ましい。
【0018】
(6)製造方法
マスターバッチ組成物は任意の方法で製造してよいが、成分(1)の原料モノマーおよび成分(2)の原料モノマーを、(A)マグネシウム、チタン、ハロゲン、および内部電子供与体としてスクシネート系化合物を含有する固体触媒、(B)有機アルミニウム化合物、ならびに(C)外部電子供与体化合物を含む触媒を用いて重合する工程を含む方法で得ることが好ましい。
【0019】
1)固体触媒(成分A)
成分(A)は、公知の方法、例えばマグネシウム化合物とチタン化合物と電子供与体化合物を相互接触させることにより調製できる。
【0020】
成分(A)の調製に用いられるチタン化合物として、一般式:Ti(OR)gX4-gで表される4価のチタン化合物が好適である。式中、Rは炭化水素基、Xはハロゲン、0≦g≦4である。チタン化合物として、より具体的にはTiCl4、TiBr4、TiI4などのテトラハロゲン化チタン;Ti(OCH3)Cl3、Ti(OC2H5)Cl3、Ti(On-C4H9)Cl3、Ti(OC2H5)Br3、Ti(OisoC4H9)Br3などのトリハロゲン化アルコキシチタン;Ti(OCH3)2Cl2、Ti(OC2H5)2Cl2、Ti(On-C4H9)2Cl2、Ti(OC2H5)2Br2などのジハロゲン化アルコキシチタン;Ti(OCH3)3Cl、Ti(OC2H5)3Cl、Ti(On-C4H9)3Cl、Ti(OC2H5)3Brなどのモノハロゲン化トリアルコキシチタン;Ti(OCH3)4、Ti(OC2H5)4、Ti(On-C4H9)4などのテトラアルコキシチタンなどが挙げられる。これらの中で好ましいものはハロゲン含有チタン化合物、特にテトラハロゲン化チタンであり、より特に好ましいものは、四塩化チタンである。
【0021】
成分(A)の調製に用いられるマグネシウム化合物としては、マグネシウム-炭素結合やマグネシウム-水素結合を有するマグネシウム化合物、例えばジメチルマグネシウム、ジエチルマグネシウム、ジプロピルマグネシウム、ジブチルマグネシウム、ジアミルマグネシウム、ジヘキシルマグネシウム、ジデシルマグネシウム、エチル塩化マグネシウム、プロピル塩化マグネシウム、ブチル塩化マグネシウム、ヘキシル塩化マグネシウム、アミル塩化マグネシウム、ブチルエトキシマグネシウム、エチルブチルマグネシウム、ブチルマグネシウムハイドライドなどが挙げられる。これらのマグネシウム化合物は、例えば有機アルミニウム等との錯化合物の形で用いることもでき、また、液状であっても固体状であってもよい。さらに好適なマグネシウム化合物として、塩化マグネシウム、臭化マグネシウム、ヨウ化マグネシウム、フッ化マグネシウムのようなハロゲン化マグネシウム;メトキシ塩化マグネシウム、エトキシ塩化マグネシウム、イソプロポキシ塩化マグネシウム、ブトキシ塩化マグネシウム、オクトキシ塩化マグネシウムのようなアルコキシマグネシウムハライド;フェノキシ塩化マグネシウム、メチルフェノキシ塩化マグネシウムのようなアリロキシマグネシウムハライド;エトキシマグネシウム、イソプロポキシマグネシウム、ブトキシマグネシウム、n-オクトキシマグネシウム、2-エチルヘキソキシマグネシウムのようなアルコキシマグネシウム;フェノキシマグネシウム、ジメチルフェノキシマグネシウムのようなアリロキシマグネシウム;ラウリン酸マグネシウム、ステアリン酸マグネシウムのようなマグネシウムのカルボン酸塩などを挙げることができる。
【0022】
成分(A)の調製に用いられる電子供与体化合物は、一般には「内部電子供与体」と称される。本発明においては、広い分子量分布を与える内部電子供与体を用いることが好ましい。一般に、多段階で重合を行うことにより分子量分布を大きくできることが知られているが、XIの分子量が低い場合は分子量分布を大きくすることが困難である。しかし、特定の内部電子供与体を用いることでXIの分子量が低い場合でも分子量分布を大きくすることが可能となる。当該触媒を用いて重合された組成物は、別な触媒を用いて重合されたポリマーをペレットあるいはパウダーブレンドして得た同じ分子量分布を有する組成物、さらに多段重合して同じ分子量分布を有する組成物に比べて優れた流動性と大きなスウェルを示す。これは、当該触媒を用いて製造した組成物は高分子量成分と低分子量成分が分子レベルに近い状態で一体となっているが、後者の樹脂組成物は分子レベルに近い状態では混ざり合ってはおらず見かけ上同一の分子量分布を示しているにすぎないためと考えられる。しかし、このことを請求項において言葉で表現することは現実的ない。以下、好ましい内部電子供与体について説明する。
【0023】
本発明において好ましい内部電子供与体はスクシネート系化合物である。本発明でスクシネート系化合物とはコハク酸のジエステルまたは置換コハク酸のジエステルをいう。以下、スクシネート系化合物について詳しく説明する。本発明で好ましく使用されるスクシネート系化合物は、以下の式(I)で表される。
【0024】
【0025】
式中、基R1およびR2は、互いに同一かまたは異なり、場合によってはヘテロ原子を含む、C1~C20の線状または分岐のアルキル、アルケニル、シクロアルキル、アリール、アリールアルキル、またはアルキルアリール基であり;基R3~R6は、互いに同一かまたは異なり、水素、或いは場合によってはヘテロ原子を含む、C1~C20の線状または分岐のアルキル、アルケニル、シクロアルキル、アリール、アリールアルキル、またはアルキルアリール基であり、同じ炭素原子または異なる炭素原子に結合している基R3~R6は一緒に結合して環を形成してもよい。
【0026】
R1およびR2は、好ましくは、C1~C8のアルキル、シクロアルキル、アリール、アリールアルキル、およびアルキルアリール基である。R1およびR2が第1級アルキル、特に分岐第1級アルキルから選択される化合物が特に好ましい。好適なR1およびR2基の例は、C1~C8のアルキル基であり、例えば、メチル、エチル、n-プロピル、n-ブチル、イソブチル、ネオペンチル、2-エチルヘキシルである。エチル、イソブチル、およびネオペンチルが特に好ましい。
【0027】
式(I)によって示される化合物の好ましい群の1つは、R3~R5が水素であり、R6が、3~10個の炭素原子を有する、分岐アルキル、シクロアルキル、アリール、アリールアルキル、およびアルキルアリール基であるものである。このような単置換スクシネート化合物の好ましい具体例は、ジエチル-sec-ブチルスクシネート、ジエチルテキシルスクシネート、ジエチルシクロプロピルスクシネート、ジエチルノルボニルスクシネート、ジエチルペリヒドロスクシネート、ジエチルトリメチルシリルスクシネート、ジエチルメトキシスクシネート、ジエチル-p-メトキシフェニルスクシネート、ジエチル-p-クロロフェニルスクシネート、ジエチルフェニルスクシネート、ジエチルシクロヘキシルスクシネート、ジエチルベンジルスクシネート、ジエチルシクロヘキシルメチルスクシネート、ジエチル-t-ブチルスクシネート、ジエチルイソブチルスクシネート、ジエチルイソプロピルスクシネート、ジエチルネオペンチルスクシネート、ジエチルイソペンチルスクシネート、ジエチル(1-トリフルオロメチルエチル)スクシネート、ジエチルフルオレニルスクシネート、1-エトキシカルボジイソブチルフェニルスクシネート、ジイソブチル-sec-ブチルスクシネート、ジイソブチルテキシルスクシネート、ジイソブチルシクロプロピルスクシネート、ジイソブチルノルボニルスクシネート、ジイソブチルペリヒドロスクシネート、ジイソブチルトリメチルシリルスクシネート、ジイソブチルメトキシスクシネート、ジイソブチル-p-メトキシフェニルスクシネート、ジイソブチル-p-クロロフェニルスクシネート、ジイソブチルシクロヘキシルスクシネート、ジイソブチルベンジルスクシネート、ジイソブチルシクロヘキシルメチルスクシネート、ジイソブチル-t-ブチルスクシネート、ジイソブチルイソブチルスクシネート、ジイソブチルイソプロピルスクシネート、ジイソブチルネオペンチルスクシネート、ジイソブチルイソペンチルスクシネート、ジイソブチル(1-トリフルオロメチルエチル)スクシネート、ジイソブチルフルオレニルスクシネート、ジネオペンチル-sec-ブチルスクシネート、ジネオペンチルテキシルスクシネート、ジネオペンチルシクロプロピルスクシネート、ジネオペンチルノルボニルスクシネート、ジネオペンチルペリヒドロスクシネート、ジネオペンチルトリメチルシリルスクシネート、ジネオペンチルメトキシスクシネート、ジネオペンチル-p-メトキシフェニルスクシネート、ジネオペンチル-p-クロロフェニルスクシネート、ジネオペンチルフェニルスクシネート、ジネオペンチルシクロヘキシルスクシネート、ジネオペンチルベンジルスクシネート、ジネオペンチルシクロヘキシルメチルスクシネート、ジネオペンチル-t-ブチルスクシネート、ジネオペンチルイソブチルスクシネート、ジネオペンチルイソプロピルスクシネート、ジネオペンチルネオペンチルスクシネート、ジネオペンチルイソペンチルスクシネート、ジネオペンチル(1-トリフルオロメチルエチル)スクシネート、ジネオペンチルフルオレニルスクシネートである。
【0028】
式(I)の範囲内の化合物の他の好ましい群は、R3~R6からの少なくとも2つの基が、水素とは異なり、場合によってはヘテロ原子を含む、C1~C20の線状または分岐のアルキル、アルケニル、シクロアルキル、アリール、アリールアルキル、またはアルキルアリール基から選択されるものである。水素とは異なる2つの基が同じ炭素原子に結合している化合物が特に好ましい。具体的には、R3およびR4が水素とは異なる基であり、R5およびR6が水素原子である化合物である。このような二置換スクシネートの好ましい具体例は、ジエチル-2,2-ジメチルスクシネート、ジエチル-2-エチル-2-メチルスクシネート、ジエチル-2-ベンジル-2-イソプロピルスクシネート、ジエチル-2-シクロヘキシルメチル-2-イソブチルスクシネート、ジエチル-2-シクロペンチル-2-n-ブチルスクシネート、ジエチル-2、2-ジイソブチルスクシネート、ジエチル-2-シクロヘキシル-2-エチルスクシネート、ジエチル-2-イソプロピル-2-メチルスクシネート、ジエチル-2-テトラデシル-2-エチルスクシネート、ジエチル-2-イソブチル-2-エチルスクシネート、ジエチル-2-(1-トリフルオロメチルエチル)-2-メチルスクシネート、ジエチル-2-イソペンチル-2-イソブチルスクシネート、ジエチル-2-フェニル-2-n-ブチルスクシネート、ジイソブチル-2,2-ジメチルスクシネート、ジイソブチル-2-エチル-2-メチルスクシネート、ジイソブチル-2-ベンジル-2-イソプロピルスクシネート、ジイソブチル-2-シクロヘキシルメチル-2-イソブチルスクシネート、ジイソブチル-2-シクロペンチル-2-n-ブチルスクシネート、ジイソブチル-2,2-ジイソブチルスクシネート、ジイソブチル-2-シクロヘキシル-2-エチルスクシネート、ジイソブチル-2-イソプロピル-2-メチルスクシネート、ジイソブチル-2-テトラデシル-2-エチルスクシネート、ジイソブチル-2-イソブチル-2-エチルスクシネート、ジイソブチル-2-(1-トリフルオロメチルエチル)-2-メチルスクシネート、ジイソブチル-2-イソペンチル-2-イソブチルスクシネート、ジイソブチル-2-フェニル-2-n-ブチルスクシネート、ジネオペンチル-2,2-ジメチルスクシネート、ジネオペンチル-2-エチル-2-メチルスクシネート、ジネオペンチル-2-ベンジル-2-イソプロピルスクシネート、ジネオペンチル-2-シクロヘキシルメチル-2-イソブチルスクシネート、ジネオペンチル-2-シクロペンチル-2-n-ブチルスクシネート、ジネオペンチル-2,2-ジイソブチルスクシネート、ジネオペンチル-2-シクロヘキシル-2-エチルスクシネート、ジネオペンチル-2-イソプロピル-2-メチルスクシネート、ジネオペンチル-2-テトラデシル-2-エチルスクシネート、ジネオペンチル-2-イソブチル-2-エチルスクシネート、ジネオペンチル-2-(1-トリフルオロメチルエチル)-2-メチルスクシネート、ジネオペンチル-2-イソペンチル-2-イソブチルスクシネート、ジネオペンチル-2-フェニル-2-n-ブチルスクシネートである。
【0029】
さらに、水素とは異なる少なくとも2つの基が異なる炭素原子に結合している化合物も特に好ましい。具体的にはR3およびR5が水素と異なる基である化合物である。この場合、R4およびR6は水素原子であってもよいし水素とは異なる基であってもよいが、いずれか一方が水素原子であること(三置換スクシネート)が好ましい。このような化合物の好ましい具体例は、ジエチル-2,3-ビス(トリメチルシリル)スクシネート、ジエチル-2,2-sec-ブチル-3-メチルスクシネート、ジエチル-2-(3,3,3-トリフルオロプロピル)-3-メチルスクシネート、ジエチル-2,3-ビス(2-エチルブチル)スクシネート、ジエチル-2,3-ジエチル-2-イソプロピルスクシネート、ジエチル-2,3-ジイソプロピル-2-メチルスクシネート、ジエチル-2,3-ジシクロヘキシル-2-メチルジエチル-2,3-ジベンジルスクシネート、ジエチル-2,3-ジイソプロピルスクシネート、ジエチル-2,3-ビス(シクロヘキシルメチル)スクシネート、ジエチル-2,3-ジ-t-ブチルスクシネート、ジエチル-2,3-ジイソブチルスクシネート、ジエチル-2,3-ジネオペンチルスクシネート、ジエチル-2,3-ジイソペンチルスクシネート、ジエチル-2,3-(1-トリフルオロメチルエチル)スクシネート、ジエチル-2,3-テトラデシルスクシネート、ジエチル-2,3-フルオレニルスクシネート、ジエチル-2-イソプロピル-3-イソブチルスクシネート、ジエチル-2-tert-ブチル-3-イソプロピルスクシネート、ジエチル-2-イソプロピル-3-シクロヘキシルスクシネート、ジエチル-2-イソペンチル-3-シクロヘキシルスクシネート、ジエチル-2-テトラデシル-3-シクロヘキシルメチルスクシネート、ジエチル-2-シクロヘキシル-3-シクロペンチルスクシネート、ジイソブチル-2,3-ジエチル-2-イソプロピルスクシネート、ジイソブチル-2,3-ジイソプロピル-2-メチルスクシネート、ジイソブチル-2,3-ジシクロヘキシル-2-メチルスクシネート、ジイソブチル-2,3-ジベンジルスクシネート、ジイソブチル-2,3-ジイソプロピルスクシネート、ジイソブチル-2,3-ビス(シクロヘキシルメチル)スクシネート、ジイソブチル-2,3-ジ-t-ブチルスクシネート、ジイソブチル-2,3-ジイソブチルスクシネート、ジイソブチル-2,3-ジネオペンチルスクシネート、ジイソブチル-2,3-ジイソペンチルスクシネート、ジイソブチル-2,3-(1-トリフルオロメチルエチル)スクシネート、ジイソブチル-2,3-テトラデシルスクシネート、ジイソブチル-2,3-フルオレニルスクシネート、ジイソブチル-2-イソプロピル-3-イソブチルスクシネート、ジイソブチル-2-tert-ブチル-3-イソプロピルスクシネート、ジイソブチル-2-イソプロピル-3-シクロヘキシルスクシネート、ジイソブチル-2-イソペンチル-3-シクロヘキシルスクシネート、ジイソブチル-2-テトラデシル-3-シクロヘキシルメチルスクシネート、ジイソブチル-2-シクロヘキシル-3-シクロペンチルスクシネート、ジネオペンチル-2,3-ビス(トリメチルシリル)スクシネート、ジネオペンチル-2,2-sec-ブチル-3-メチルスクシネート、ジネオペンチル-2-(3,3,3-トリフルオロプロピル)-3-メチルスクシネート、ジネオペンチル-2,3-ビス(2-エチルブチル)スクシネート、ジネオペンチル-2,3-ジエチル-2-イソプロピルスクシネート、ジネオペンチル-2,3-ジイソプロピル-2-メチルスクシネート、ジネオペンチル-2,3-ジシクロヘキシル-2-メチルスクシネート、ジネオペンチル-2,3-ジベンジルスクシネート、ジネオペンチル-2,3-ジイソプロピルスクシネート、ジネオペンチル-2,3-ビス(シクロヘキシルメチル)スクシネート、ジネオペンチル-2,3-ジ-t-ブチルスクシネート、ジネオペンチル-2,3-ジイソブチルスクシネート、ジネオペンチル-2,3-ジネオペンチルスクシネート、ジネオペンチル-2,3-ジイソペンチルスクシネート、ジネオペンチル-2,3-(1-トリフルオロメチルエチル)スクシネート、ジネオペンチル-2,3-テトラデシルスクシネート、ジネオペンチル-2,3-フルオレニルスクシネート、ジネオペンチル-2-イソプロピル-3-イソブチルスクシネート、ジネオペンチル-2-tert-ブチル-3-イソプロピルスクシネート、ジネオペンチル-2-イソプロピル-3-シクロヘキシルスクシネート、ジネオペンチル-2-イソペンチル-3-シクロヘキシルスクシネート、ジネオペンチル-2-テトラデシル-3-シクロヘキシルメチルスクシネート、ジネオペンチル-2-シクロヘキシル-3―シクロペンチルスクシネートである。
【0030】
式(I)の化合物のうち、基R3~R6のうちのいくつかが一緒に結合して環を形成している化合物も好ましく用いることができる。このような化合物として特表2002-542347に挙げられている化合物、例えば、1-(エトキシカルボニル)-1-(エトキシアセチル)-2,6-ジメチルシクロヘキサン、1-(エトキシカルボニル)-1-(エトキシアセチル)-2,5一ジメチルシクロペンタン、1-(エトキシカルボニル)-1-(エトキシアセチルメチル)-2一メチルシクロへキサン、1-(エトキシカルボニル)-1-(エトキシ(シクロヘキシル)アセチル)シクロヘキサンを挙げることができる。他には、例えば国際公開第2009/069483に開示されているような3,6-ジメチルシクロヘキサン-1,2-ジカルボン酸ジイソブチル、シクロヘキサン-1,2-ジカルボン酸ジイソブチル等の環状スクシネート化合物も好適に用いることができる。他の環状スクシネート化合物の例としては、国際公開2009/057747号に開示されている化合物も好ましい。
【0031】
式(I)の化合物のうち、基R3~R6がヘテロ原子を含む場合、ヘテロ原子は窒素およびリン原子を含む第15族原子あるいは酸素およびイオウ原子を含む第16族原子であることが好ましい。基R3~R6が第15族原子を含む化合物としては、特開2005-306910号に開示される化合物が挙げられる。一方、基R3~R6が第16族原子を含む化合物としては、特開2004-131537号に開示される化合物が挙げられる。
【0032】
この他に、スクシネート系化合物と同等の分子量分布を与える内部電子供与体を用いてもよい。そのような内部電子供与体としては、例えば特開2013-28704号公報に記載のジフェニルジカルボン酸エステル、特開2014-201602号公報に記載のシクロヘキセンジカルボン酸エステル、特開2013-28705号公報に記載のジシクロアルキルジカルボン酸エステル、特許第4959920号に記載のジオールジベンゾエート、国際公開第2010/078494に記載の1,2-フェニレンジベンゾエートが挙げられる。
【0033】
2)有機アルミニウム化合物(成分B)
成分(B)の有機アルミニウム化合物としては以下が挙げられる。
トリエチルアルミニウム、トリブチルアルミニウムなどのトリアルキルアルミニウム;
トリイソプレニルアルミニウムのようなトリアルケニルアルミニウム:
ジエチルアルミニウムエトキシド、ジブチルアルミニウムブトキシドなどのジアルキルアルミニウムアルコキシド;
エチルアルミニウムセスキエトキシド、ブチルアルミニウムセスキブトキシドなどのアルキルアルミニウムセスキアルコキシド;
【0034】
エチルアルミニウムジクロリド、プロピルアルミニウムジクロリド、ブチルアルミニウムジブロミドなどのようなアルキルアルミニウムジハロゲニドなどの部分的にハロゲン化されたアルキルアルミニウム;
ジエチルアルミニウムヒドリド、ジブチルアルミニウムヒドリドなどのジアルキルアルミニウムヒドリド;
エチルアルミニウムジヒドリド、プロピルアルミニウムジヒドリドなどのアルキルアルミニウムジヒドリドなどの部分的に水素化されたアルキルアルミニウム;
エチルアルミニウムエトキシクロリド、ブチルアルミニウムブトキシクロリド、エチルアルミニウムエトキシブロミドなどの部分的にアルコキシ化およびハロゲン化されたアルキルアルミニウム。
【0035】
3)電子供与体化合物(成分C)
成分(C)の電子供与体化合物は、一般に「外部電子供与体」と称される。このような電子供与体化合物としては有機ケイ素化合物が好ましい。好ましい有機ケイ素化合物として以下が挙げられる。
トリメチルメトキシシラン、トリメチルエトキシシラン、ジメチルジメトキシシラン、ジメチルジエトキシシラン、ジイソプロピルジメトキシシラン、t-ブチルメチルジメトキシシラン、t-ブチルメチルジエトキシシラン、t-アミルメチルジエトキシシラン、ジフェニルジメトキシシラン、フェニルメチルジメトキシシラン、ジフェニルジエトキシシラン、ビスo-トリルジメトキシシラン、ビスm-トリルジメトキシシラン、ビスp-トリルジメトキシシラン、ビスp-トリルジエトキシシラン、ビスエチルフェニルジメトキシシラン、ジシクロペンチルジメトキシシラン、ジシクロヘキシルジメトキシシラン、シクロヘキシルメチルジメトキシシラン、シクロヘキシルメチルジエトキシシラン、エチルトリメトキシシラン、エチルトリエトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、メチルトリメトキシシラン、n-プロピルトリエトキシシラン、デシルトリメトキシシラン、デシルトリエトキシシラン、フェニルトリメトキシシラン、γ-クロルプロピルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、エチルトリエトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、t-ブチルトリエトキシシラン、テキシルトリメトキシシラン、n-ブチルトリエトキシシラン、iso-ブチルトリエトキシシラン、フェニルトリエトキシシラン、γ-アミノプロピルトリエトキシシラン、クロルトリエトキシシラン、エチルトリイソプロポキシシラン、ビニルトリブトキシシラン、シクロヘキシルトリメトキシシラン、シクロヘキシルトリエトキシシラン、2-ノルボルナントリメトキシシラン、2-ノルボルナントリエトキシシラン、2-ノルボルナンメチルジメトキシシラン、ケイ酸エチル、ケイ酸ブチル、トリメチルフエノキシシラン、メチルトリアリルオキシシラン、ビニルトリス(β-メトキシエトキシシラン)、ビニルトリアセトキシシラン、ジメチルテトラエトキシジシロキサン。
【0036】
中でも、エチルトリエトキシシラン、n-プロピルトリエトキシシラン、n-プロピルトリメトキシシラン、t-ブチルトリエトキシシラン、t-ブチルメチルジメトキシシラン、t-ブチルメチルジエトキシシラン、t-ブチルエチルジメトキシシラン、t-ブチルプロピルジメトキシシラン、t-ブチルt-ブトキシジメトキシシラン、t-ブチルトリメトキシシラン、i-ブチルトリメトキシシラン、イソブチルメチルジメトキシシラン、i-ブチルセク-ブチルジメトキシシラン、エチル(パーヒドロイソキノリン2-イル)ジメトキシシラン、ビス(デカヒドロイソキノリン-2-イル)ジメトキシシラン、トリ(イソプロペニロキシ)フェニルシラン、テキシルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、フェニルトリエトキシシラン、フェニルトリメトキシシラン、ビニルトリブトキシシラン、ジフェニルジメトキシシラン、ジイソプロピルジメトキシシラン、ジイソブチルジメトキシシラン、i-ブチルi-プロピルジメトキシシラン、シクロペンチルt-ブトキシジメトキシシラン、ジシクロペンチルジメトキシシラン、シクロヘキシルメチルジメトキシシラン、シクロヘキシルi-ブチルジメトキシシラン、シクロペンチルi-ブチルジメトキシシラン、シクロペンチルイソプロピルジメトキシシラン、ジ-sec-ブチルジメトキシシラン、ジエチルアミノトリエトキシシラン、テトラエトキシシラン、テトラメトキシシラン、イソブチルトリエトキシシラン、フェニルメチルジメトキシシラン、フェニルトリエトキシラン、ビスp-トリルジメトキシシラン、p-トリルメチルジメトキシシラン、ジシクロヘキシルジメトキシシラン、シクロヘキシルエチルジメトキシシラン、2-ノルボルナントリエトキシシラン、2-ノルボルナンメチルジメトキシシラン、ジフェニルジエトキシシラン、メチル(3、3、3-トリフルオロプロピル)ジメトキシシラン、ケイ酸エチルなどが好ましい。
【0037】
4)重合
上記のとおりに調製した触媒に原料モノマーを接触させて重合する。この際、まず前記触媒を用いて予備重合を行うことが好ましい。予備重合とは、その後の原料モノマーの本重合の足がかりとなるポリマー鎖を固体触媒成分に形成させる工程である。予備重合は公知の方法で行うことができる。予備重合は、通常は40℃以下、好ましくは30℃以下、より好ましくは20℃以下で行われる。
次いで、予備重合した触媒を重合反応系内に導入して、原料モノマーの本重合を行う。本重合は、成分(1)の原料モノマーおよび成分(2)の原料モノマーを、2つ以上の反応器を用いて重合することが好ましい。重合は、液相中、気相中または液-気相中で実施してよい。重合温度は常温~150℃が好ましく、40℃~100℃がより好ましい。重合圧力は、液相中で行われる場合には好ましくは33~45barの範囲であり、気相中で行われる場合には5~30barの範囲である。連鎖移動剤(たとえば、水素又はZnEt2)などの当該分野で公知の慣用の分子量調節剤を用いてもよい。
【0038】
また、モノマー濃度や重合条件の勾配を有する重合器を用いてもよい。このような重合器では、例えば、少なくとも2つの重合領域が接続されたものを使用し、気相重合でモノマーを重合することができる。具体的には、触媒の存在下、上昇管からなる重合領域にてモノマーを供給して重合し、上昇管に接続された下降管にてモノマーを供給して重合し、上昇管と下降管とを循環しながら、ポリマー生成物を回収する。この方法は、上昇管中に存在する気体混合物が下降管に入るのを全面的または部分的に防止する手段を備える。また、上昇管中に存在する気体混合物とは異なる組成を有する気体および/または液体混合物を下降管中に導入する。上記の重合方法として、例えば、特表2002-520426号公報に記載された方法を適用することができる。
【0039】
2.ポリプロピレン樹脂組成物
本発明のポリプロピレン樹脂組成物は、前記マスターバッチ組成物に、5重量%以上のエチレンを含みかつ当該マスターバッチ組成物とは異なるブロックポリプロピレン(以下便宜上「必須ブロックポリプロピレン」ともいう)を混合して得られる。また、必要に応じて下記の任意成分を含んでもよい。
【0040】
(1)必須ブロックポリプロピレン
必須ブロックポリプロピレンとしては、プロピレン重合体の存在下、エチレンと1種類以上のC3~C10-αオレフィンを重合して得た重合混合物(HECOとも呼ばれる)が挙げられる。本発明のマスターバッチ組成物もHECOの一種であり、当該必須ブロックポリプロピレンもマスターバッチ組成物と同様の方法で製造することができるが、両者は組成において異なる。
【0041】
(2)任意成分
1)任意プロピレン(共)重合体
任意成分として、0~3重量%のエチレンまたは1種類以上のC4~C10-α-オレフィンを含む重合体(便宜上「任意プロピレン(共)重合体」ともいう)が挙げられる。当該任意プロピレン(共)重合体は、前述の成分(1)と同一であってもよいし異なっていてもよい。製品の剛性と耐熱性の観点から、当該任意プロピレン(共)重合体としては、ホモポリプロピレンが好ましい。
【0042】
2)エラストマー
エラストマーとは弾性を有するポリマーであり、主に材料の耐衝撃性を向上する目的で添加される。本発明で用いるエラストマーとしては、エチレンとα-オレフィンとの共重合体が挙げられる。α-オレフィンとしては、炭素数3~12のα-オレフィンが挙げられ、具体的には、プロピレン、1-ブテン、1-ペンテン、1-ヘキセン、1-オクテン等が好ましい。エラストマーは、成分(1)および成分(2)のポリマーよりも低い密度を有することが好ましい。例えばエラストマーの密度は限定されないが0.850~0.890g/cm3であることが好ましく、0.860~0.880g/cm3であることがより好ましい。このようなエラストマーは、例えば特開2015-113363号に記載のとおりメタロセンまたはハーフメタロセン等の均一系触媒を用いてモノマーを重合することにより調製できる。エラストマーのMFRは、190℃、21.6Nの荷重で0.1~50g/10分であることが好ましい。
【0043】
3)充填剤
主に材料の剛性を向上する目的で添加される。例えばタルク、クレー、炭酸カルシウム、水酸化マグネシウム、ガラスファイバー等の無機充填剤、カーボンファイバー、セルロースファイバー等の有機充填剤が挙げられる。これらの充填剤の分散性を向上させるため、必要に応じて、充填剤の表面処理や充填剤と樹脂とのマスターバッチの作製を行ってもよい。充填剤の中でも、プロピレン(共)重合体およびエチレンとα-オレフィンとの共重合体に容易に混ざり、成形体の剛性を向上させやすいことから、タルクが好ましい。
【0044】
4)他の成分
本発明のポリプロピレン樹脂組成物には、酸化防止剤、塩素吸収剤、耐熱安定剤、光安定剤、紫外線吸収剤、内部滑剤、外部滑剤、アンチブロッキング剤、帯電防止剤、防曇剤、結晶造核剤、難燃剤、分散剤、銅害防止剤、中和剤、可塑剤、気泡防止剤、架橋剤、過酸化物、油展および他の有機および無機顔料などのオレフィン重合体に通常用いられる慣用の添加剤を添加してもよい。各添加剤の添加量は公知の量としてよい。
【0045】
(3)組成比
マスターバッチ組成物と必須ブロックポリプロピレンの重量配合比は、「2~70」:「98~30」であることが好ましい。任意成分の配合量については、マスターバッチ組成物と必須ブロックポリプロピレンの合計100重量部に対して、任意プロピレン(共)重合体は0~100重量部、エラストマーは0~100重量部、充填剤は0~100重量部であることが好ましい。
【0046】
(4)製造方法
本発明のポリプロピレン樹脂組成物は、前記成分を溶融混練して製造できる。混練方法は限定されないが、押出機等の混練機を用いる方法が好ましい。混練条件は特に限定されないが、シリンダー温度を180~250℃とすることが好ましい。このようにして得られたポリプロピレン樹脂組成物はペレット状であることが好ましい。あるいは、前記成分のドライブレンドを射出成形機中に計量して溶融混練部(シリンダー)で混練することにより、成形品としてポリプロピレン樹脂組成物を製造できる。このように本発明のポリプロピレン樹脂組成物はマスターバッチ組成物を他の成分と混合して得られる。マスターバッチ組成物のプロピレン-エチレンコポリマー成分はプロピレン(共)重合体を主成分とするマトリックス中に分散して存在し、当該相構造を形成することで本発明の効果が奏される。しかし、マスターバッチ組成物とマトリックスを構成する必須ブロックポリプロピレンはいずれもHECOであるため、相構造を具体的に特定することは困難である。
【0047】
(5)射出成形
本発明のポリプロピレン樹脂組成物は射出成形に好適である。本発明のポリプロピレン樹脂組成物は優れた流動性を有し、かつ外観不良が起こりにくいため、自動車部品や家庭電気製品等の大型成形品に好適である。従来のポリプロピレン樹脂組成物においては高い流動性と高い外観を両立することが困難であったが、本発明のポリプロピレン樹脂組成物は双方の性能を併せ持つ。一般的な射出条件は、シリンダー温度200~230℃、金型温度20~50℃、射出速度30~50mm/秒である。
【実施例】
【0048】
1.マスターバッチ組成物の製造(その1)
[実施例A1]マスターバッチ組成物M1の製造
特開2011-500907号の実施例に基づいて固体触媒成分を調製した。具体的には以下のとおりに固体触媒成分を調製した。
窒素でパージした500mLの4つ口丸底フラスコ中に、250mLのTiCl4を0℃において導入した。撹拌しながら、10.0gの微細球状MgCl2・1.8C2H5OH(米国特許4,399,054の実施例2に記載の方法にしたがって、しかしながら10000rpmに代えて3000rpmで運転して製造した)、および9.1ミリモルのジエチル-2,3-(ジイソプロピル)スクシネートを加えた。温度を100℃に上昇させ、120分間保持した。次に、撹拌を停止し、固体生成物を沈降させ、上澄み液を吸い出した。次に、以下の操作を2回繰り返した:250mLの新しいTiCl4を加え、混合物を120℃において60分間反応させ、上澄み液を吸い出した。固体を、60℃において無水ヘキサン(6×100mL)で6回洗浄した。
上記固体触媒と、トリエチルアルミニウム(TEAL)およびジシクロペンチルジメトキシシラン(DCPMS)を、固体触媒に対するTEALの重量比が18であり、TEAL/DCPMSの重量比が10となるような量で、室温において5分間接触させた。得られた触媒系を、液体プロピレン中において懸濁状態で20℃において5分間保持することによって予備重合を行った。
【0049】
得られた予備重合物を、一段目の重合反応器に導入してプロピレン単独重合体を得た後、得られた重合体を、未反応モノマー類をパージした後、二段目の重合反応器に導入して共重合体(エチレン・プロピレン共重合体)を重合させた。重合中は、温度と圧力を調整し、水素を分子量調整剤として用いた。重合温度と反応物の比率は、一段目の反応器では、重合温度、水素濃度が、それぞれ70℃、0.82モル%、二段目の反応器では、重合温度、水素濃度、C2/(C2+C3)が、それぞれ80℃、100モルppm、0.22モル比であった。また、共重合体成分の量が28重量%となるように一段目と二段目の滞留時間分布を調整した。
このようにして製造したマスターバッチ組成物M1のパウダーに、酸化防止剤として、BASF社製B255を0.2重量%、中和剤として、淡南化学株式会社製カルシウムステアレートを0.05重量%配合し、ヘンシェルミキサーで1分間撹拌、混合した後、スクリュー直径50mmの単軸押出機(ナカタニ機械株式会社製、型番NVC-50)を用いて、シリンダー温度200℃で溶融混練して押出した。ストランドを水中で冷却した後、ペレタイザーでカットし、ペレットを得た。次いで、射出成型機(ファナック社製、型番ロボショットS-2000i 100B)を用いて、当該ペレットを各種試験片に射出成形した。成形条件は、シリンダー温度200℃、金型温度40℃、射出速度200mm/秒であった。試験片を用い、各種物性を評価した。評価方法は後述する。
【0050】
[実施例A2]マスターバッチ組成物M2の製造
一段目の反応器の水素濃度を0.84モル%に変更し、共重合体成分の量が31重量%となるように一段目と二段目の滞留時間分布を調整した以外は、実施例A1と同様にしてマスターバッチ組成物を製造し、評価した。
【0051】
[参考例A3]マスターバッチ組成物M3の製造
一段目の反応器の水素濃度を0.87モル%、二段目の反応器のC2/(C2+C3)を0.23モル比に変更し、共重合体成分の量が32重量%となるように一段目と二段目の滞留時間分布を調整した以外は、実施例A1と同様にして製造し、評価した。
【0052】
[比較例A1]比較用マスターバッチ組成物R1、XL-1、XL-2、XL-3の製造
一段目の反応器の水素濃度を0.24モル%、二段目の反応器の水素濃度とC2/(C2+C3)を、それぞれ150モルppm、0.27モル比に変更し、共重合体成分の量が30重量%となるように一段目と二段目の滞留時間分布を調整した以外は、実施例A1と同様にしてR1を製造し、評価した。
一段目の反応器の水素濃度を0.51モル%、二段目の反応器の水素濃度とC2/(C2+C3)を、それぞれ50モルppm、0.50モル比に変更し、共重合体成分の量が30重量%となるように一段目と二段目の滞留時間分布を調整した以外は、実施例A1と同様にしてXL-1を製造し、評価した。
一段目の反応器の水素濃度を0.59モル%、二段目の反応器の水素濃度とC2/(C2+C3)を、それぞれ50モルppm、0.49モル比に変更し、共重合体成分の量が30重量%となるように一段目と二段目の滞留時間分布を調整した以外は、実施例A1と同様にしてXL-2を製造し、評価した。
一段目の反応器の水素濃度を0.81モル%、二段目の反応器の水素濃度とC2/(C2+C3)を、それぞれ0モルppm、0.48モル比に変更し、共重合体成分の量が30重量%となるように一段目と二段目の滞留時間分布を調整した以外は、実施例A1と同様にしてXL-3を製造し、評価した。
【0053】
2.ポリプロピレン樹脂組成物の製造(その1)
[1]プロピレン単独重合体HOMO1
MFRが1750g/10分、25℃でのキシレン可溶分が2.3重量%であるプロピレン単独重合体を使用した。
【0054】
[2]プロピレン単独重合体HOMO2
MFRが70g/10分、25℃でのキシレン可溶分が1.5重量%であるプロピレン単独重合体を使用した。
【0055】
[3]ブロックポリプロピレンHECO1
特開2015-113363号公報の段落0035に記載の逐次重合法に基づいて、ポリプロピレン単独重合体と、エチレン・プロピレン共重合体とからなるブロックポリプロピレンを調製した。特性は以下のとおりである。
ポリプロピレン単独重合体のMFR=210g/10分、25℃でのキシレン可溶分=2.0重量%
ブロックポリプロピレンのMFR=37g/10分、25℃でのキシレン可溶分の極限粘度=2.4dl/g
ブロックポリプロピレン中のエチレン・プロピレン共重合体の含有割合=30重量%
エチレン・プロピレン共重合体中のエチレン単位の割合=27.5重量%
【0056】
[4]ブロックポリプロピレンHECO2
特開2015-113363号公報の段落0035に記載の逐次重合法に基づいて、ポリプロピレン単独重合体と、エチレン・プロピレン共重合体とからなるブロックポリプロピレンを調製した。特性は以下のとおりである。
ポリプロピレン単独重合体のMFR=120g/10分、25℃でのキシレン可溶分=1.9重量%
ブロックポリプロピレンのMFR=25g/10分、25℃でのキシレン可溶分の極限粘度=2.4dl/g
ブロックポリプロピレン中のエチレン・1-ブテン共重合体の含有割合=27重量%
エチレン・1-ブテン共重合体中のエチレン単位の割合=75重量%
【0057】
[5]エラストマーC2C8-1とC2C8-2
メタロセン系の触媒を用いて重合された2種類のエチレン・オクテン共重合体を使用した。
C2C8-1(マルチブロック共重合体):密度=0.870g/cm3、190℃、21.6Nの荷重でのMFR=0.5g/10分
C2C8-2:密度=0.870g/cm3、190℃、21.6Nの荷重でのMFR=1g/10分
【0058】
[実施例A4]ポリプロピレン樹脂組成物の製造
実施例A2で得たマスターバッチ組成物M2、上記HOMO1、HOMO2、HECO1、HECO2、エラストマーC2C8-1およびC2C8-2、タルク(イミファビ社製、HTP05L)を、表2に示す組成で配合し、さらに樹脂の合計量100重量部に対して以下の量の添加剤を配合し、これらの配合物を、二軸押出機(日本製鋼所社製、型番TEX30α)を用いて、ダイス設定温度220℃で溶融混練してペレットを得た。
[添加剤]
酸化防止剤:ペンタエリスリトールテトラキス[3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート] 0.2重量部
耐候剤:ビス(1,2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジル)セパケート 0.2重量部
スリップ剤:ステアリン酸マグネシウム 0.1重量部
【0059】
射出成型機(ファナック社製、型番ロボショットS-2000i 100B)を用いて、当該ペレットを各種試験片に射出成形した。成形条件は、シリンダー温度200℃、金型温度40℃、射出速度200mm/秒であった。試験片を用い、各種物性を評価した。評価方法は後述する。
【0060】
[参考例A5]ポリプロピレン樹脂組成物の製造
マスターバッチ組成物M2に代えてマスターバッチ組成物M3を用い、HOMO1およびHOMO2の配合量を表2に示すように変更した以外は、実施例A4と同様にしてポリプロピレン樹脂組成物を製造し、評価した。
【0061】
[比較例A2]比較用ポリプロピレン樹脂組成物の製造
マスターバッチ組成物M2に代えて比較例A1で製造したマスターバッチ組成物R1を用い、HOMO1およびHOMO2に配合量を表2に示すように変更した以外は、実施例A4と同様にして比較用ポリプロピレン樹脂組成物を製造し、評価した。
【0062】
[比較例A3]比較用ポリプロピレン樹脂組成物の製造
比較用マスターバッチ組成物XL-1を準備した。XL-1は成分(1)プロピレン単独重合体と成分(2)プロピレン-エチレンコポリマー成分からなるマスターバッチ組成物であり、成分(2)中のエチレン由来単位が35重量%を超える点およびMFRが5g/10分未満である点が本願発明のマスターバッチ組成物の範囲外である。XL-1、上記[1]~[4]のプロピレン(共)重合体、エラストマー、タルクを表2に示す組成で配合し、実施例A4と同様にして比較用ポリプロピレン樹脂組成物を製造し、評価した。
【0063】
[比較例A4]比較用ポリプロピレン樹脂組成物の製造
XL-1に代えて比較用マスターバッチ組成物XL-2を使用した以外は、比較例A3と同様にして比較用ポリプロピレン樹脂組成物を製造し、評価した。XL-2は成分(1)プロピレン単独重合体と成分(2)プロピレン-エチレンコポリマー成分からなるマスターバッチ組成物であり、成分(2)中のエチレン由来単位が35重量%を超える点が本願発明のマスターバッチ組成物の範囲外である。
【0064】
[比較例A5]比較用ポリプロピレン樹脂組成物の製造
XL-1に代えて比較用マスターバッチ組成物XL-3を使用した以外は、比較例A3と同様にして比較用ポリプロピレン樹脂組成物を製造し、評価した。XL-3は成分(1)プロピレン単独重合体と成分(2)プロピレン-エチレンコポリマー成分からなるマスターバッチ組成物であり、成分(2)中のエチレン由来単位が35重量%を超える点が本願発明のマスターバッチ組成物の範囲外である。
【0065】
【0066】
【0067】
結果を表1および表2に示す。本発明のマスターバッチ組成物は、優れた機械的特性および流動性を有するポリプロピレン樹脂組成物を与えることが明らかである。また、
図2(A)と
図2(B)にマスターバッチ組成物およびポリプロピレン樹脂組成物のダイスウェルを測定した結果を示す。本発明のマスターバッチ組成物およびこれを含むポリプロピレン樹脂組成物はダイスウェルが大きいことが明らかである。ダイスウェルが大きいと成形時の外観不良が発生しにくい。比較例A2のポリプロピレン樹脂組成物はダイスウェルが大きいが、用いたマスターバッチ組成物R1のMFRおよびキシレン不溶分の重量平均分子量が本発明の範囲外であり流動性が十分なレベルではなかった。よって、本発明のマスターバッチ組成物は、優れた機械的特性、流動性、および外観を有するポリプロピレン樹脂組成物を与えることが明らかである。
【0068】
3.マスターバッチ組成物の製造(その2)
[参考例B1]マスターバッチ組成物M4の製造
一段目の反応器の水素濃度を0.81モル%、二段目の反応器の水素濃度とC2/(C
2+C3)を、それぞれ200モルppm、0.23モル比に変更し、共重合体成分の量が32重量%となるように一段目と二段目の滞留時間分布を調整した以外は、M1と同様にして製造した。
実施例A1と同様にしてマスターバッチ組成物M4のパウダーから各種試験片を射出成形し、評価した。
【0069】
[実施例B2]マスターバッチ組成物M5の製造
一段目の反応器の水素濃度を0.90モル%、二段目の反応器のC2/(C2+C3)を0.25モル比に変更し、共重合体成分の量が30重量%となるように一段目と二段目の滞留時間分布を調整した以外は、M4と同様にして製造した。
【0070】
[実施例B3]マスターバッチ組成物M6の製造
二段目の反応器の水素濃度とC2/(C2+C3)を、それぞれ150モルppmと0.26モル比に変更した以外は、M5と同様にして製造した。
【0071】
[実施例B4]マスターバッチ組成物M7の製造
二段目の反応器の水素濃度を150モルppmに変更した以外は、M5と同様にして製造した。
【0072】
[実施例B5]マスターバッチ組成物M8の製造
二段目の反応器の水素濃度を100モルppmに変更した以外は、M5と同様にして製造した。
【0073】
[比較例B1]マスターバッチ組成物R1’の製造
MgCl2上にTiと内部ドナーとしてのジイソブチルフタレートを担持させた固体触媒を、欧州特許第728769号公報の実施例5に記載された方法により調製した。次いで、上記固体触媒と、有機アルミニウム化合物としてトリエチルアルミニウム(TEAL)と、外部電子供与体化合物としてジシクロペンチルジメトキシシラン(DCPMS)を用い、固体触媒に対するTEALの重量比が20、TEAL/DCPMSの重量比が10となるような量で、12℃において24分間接触させた。得られた触媒系を、液体プロピレン中において懸濁状態で20℃にて5分間保持することによって予備重合を行った。得られた予備重合物を、二段の重合反応器を直列に備える重合装置の一段目の重合反応器に導入してプロピレン単独重合体を製造し、未反応モノマー類をパージした後、二段目の重合反応器に導入してエチレン-プロピレン共重合体を製造した。重合中は、温度と圧力を調整し、水素を分子量調整剤として用いた。
重合温度と反応物の比率は、一段目の反応器では、重合温度、水素濃度が、それぞれ70℃、1.70モル%、二段目の反応器では、重合温度、水素濃度、C2/(C2+C3)が、それぞれ80℃、100モルppm、0.25モル比であった。また、共重合体成分の量が30重量%となるように一段目と二段目の滞留時間分布を調整した。このポリプロピレン重合体を用いてM1と同様にしてペレット状のマスターバッチ組成物R1’を得た。
【0074】
[比較例B2]マスターバッチ組成物R2の製造
一段目の反応器の水素濃度を0.81モル%、二段目の反応器の水素濃度とC2/(C2+C3)を、それぞれ300モルppm、0.24モル比に変更し、共重合体成分の量が31重量%となるように一段目と二段目の滞留時間分布を調整した以外は、M1と同様にして製造した。
【0075】
4.ポリプロピレン樹脂組成物の製造(その2)
[6]ブロックポリプロピレンHECO3
以下の特性を有するポリプロピレン単独重合体と、エチレン・プロピレン共重合体とからなるブロックポリプロピレンを用いた。
ポリプロピレン単独重合体のMFR=250g/10分、25℃でのキシレン可溶分=2.0重量%
ブロックポリプロピレンのMFR=98g/10分、25℃でのキシレン可溶分の極限粘度=2.0dl/g
ブロックポリプロピレン中のエチレン・プロピレン共重合体の含有割合=22.5重量%
エチレン・プロピレン共重合体中のエチレン単位の割合=34.5重量%
【0076】
[実施例B6]ポリプロピレン樹脂組成物の製造
実施例A2で得たマスターバッチ組成物M2、HECO1~3、エラストマー(C2C8-2)、タルク(イミファビ社製、HTP05L)を、表4に示す組成で配合し、さらに樹脂の合計量100重量部に対して実施例A4と同量の添加剤を配合した。これらの配合物から実施例A4と同様にして試験片を成形し、評価した。
【0077】
[実施例B7~実施例B10および参考例B11]ポリプロピレン樹脂組成物の製造
各成分を表4に示す組成で配合し、実施例B6と同様にして試験片を成形し、評価した。
【0078】
[比較例B3、B4、B5]比較用ポリプロピレン樹脂組成物の製造
各成分を表4に示す組成で配合し、実施例B6と同様にして試験片を成形し、評価した。
【0079】
結果を表3および表4に示す。本発明のマスターバッチ組成物は、優れた機械的特性および外観を有するポリプロピレン樹脂組成物を与えることが明らかである。
図3に示すとおり本発明のマスターバッチ組成物はダイスウェルが大きく、
図2(A)および(B)との関係から、本発明のマスターバッチ組成物を含むポリプロピレン樹脂組成物のダイスウェルも大きいと予想されるので、成形品の外観が良好である。比較用マスターバッチ組成物R1のダイスウェルは大きいが、前述のとおりR1は流動性に劣る。流動性が悪いと樹脂の金型への密着性が悪くなるのでR1を含むポリプロピレン樹脂組成物の外観は不良となる。
【0080】
【0081】
【0082】
5.ポリプロピレン樹脂組成物の製造(その3)
[7]ブロックポリプロピレンHECO4
以下の特性を有するポリプロピレン単独重合体と、エチレン・プロピレン共重合体とからなるブロックポリプロピレンを用いた。
ポリプロピレン単独重合体のMFR=56g/10分、25℃でのキシレン可溶分=1.5重量%
ブロックポリプロピレンのMFR=29.0g/10分、25℃でのキシレン可溶分の極限粘度=1.8dl/g
ブロックポリプロピレン中のエチレン・プロピレン共重合体の含有割合=26.0重量%
エチレン・プロピレン共重合体中のエチレン単位の割合=46重量%
【0083】
[参考例C1~C3]ポリプロピレン樹脂組成物の製造
表5に示す重量比率のHECO4とマスターバッチ組成物M3のドライブレンドを射出成形機の押出機(シリンダー)中で溶融混練してポリプロピレン樹脂組成物を製造し、評価した。表5に示すとおり、当該樹脂組成物成形品の外観は、マスターバッチ組成物M3を含まない比較例C1に比較して良好であった。
【0084】
【0085】
5.評価方法
[MFR]
JIS K 7210に準じ、230℃、荷重21.18Nの条件下で測定した。
[共重合体中のエチレン濃度]
1、2、4-トリクロロベンゼン/重水素化ベンゼンの混合溶媒に溶解した試料について、日本電子社製JNM LA-400(13C共鳴周波数100MHz)を用い、13C-NMR法で測定を行った。
[密度]
JIS K 7112に準じて測定した。
【0086】
[キシレン可溶分の採取]
ポリマー2.5gを、o-キシレン(溶媒)を250mL入れたフラスコに入れ、ホットプレートおよび還流装置を用いて、135℃で、窒素パージを行いながら、30分間、攪拌し、組成物を完全溶解させた後、25℃で1時間、冷却を行った。得られた溶液を、濾紙を用いて濾過した。濾過後の濾液を100mL採取し、アルミカップ等に移し、窒素パージを行いながら、140℃で蒸発乾固を行い、室温で30分間静置し、キシレン可溶分(XS)を得た。次いで、容器を一定重量が得られるまで、真空下にオーブン中80℃で維持した後、室温でキシレンに溶解するポリマーの重量を求めた。全ポリマーに対するキシレンに溶解するポリマーの重量%を計算し、25℃でのキシレン可溶分の量とした。
[XSIV]
上記のキシレン可溶分を試料とし、ウベローデ型粘度計(SS-780-H1、柴山科学器械製作所製)を用いて135℃テトラヒドロナフタレン中で極限粘度の測定を行った。
【0087】
[キシレン不溶分の採取]
上述したようにキシレン可溶分を濾過した際、濾紙上に残った残留物(キシレン不溶成分と溶媒の混合物)にアセトンを加えて濾過した後、濾過されなかった成分を、80℃設定の真空乾燥オーブンにて、蒸発乾固させ、キシレン不溶分(XI)を得た。
[キシレン不溶分のMwおよびMw/Mn]
上記のキシレン不溶分を試料とし、以下のように、重量平均分子量(Mw)と分子量分布(Mw/Mn)の測定を行った。
装置としてポリマーラボラトリーズ社製PL GPC220を使用し、酸化防止剤を含む1,2,4-トリクロロベンゼンを移動相とし、カラムとして昭和電工(株)製UT-G(1本)、UT-807(1本)、UT-806M(2本)を直列に接続したものを使用し、検出器として示差屈折率計を使用した。また、キシレン不溶分の試料溶液の溶媒としては移動相と同じものを使用し、1mg/mLの試料濃度で、150℃の温度で振とうさせながら2時間溶解して測定試料を調製した。これにより得た試料溶液500μLをカラムに注入し、流速1.0mL/分、温度145℃、データ取り込み間隔1秒で測定した。カラムの較正には、分子量580~745万のポリスチレン標準試料(shodex STANDARD、昭和電工(株)製)を使用し、三次式近似で行った。Mark-Houkinsの係数は、ポリスチレン標準試料に関しては、K=1.21×10-4、α=0.707、ポリプロピレン系重合体に関しては、K=1.37×10-4、α=0.75を使用した。
【0088】
[引張特性]
JIS K6921-2に従い室温(23℃)において引張試験を行った。引張強度および伸びは引張速度50mm/分で測定した。
【0089】
[曲弾性率]
JIS K6921-2に従い室温(23℃)において曲試験を行った。クロスヘッド速度2mm/分で測定した。
【0090】
[IZOD衝撃強度]
JIS K7110に従い、23℃、-20℃の各温度条件で、アイゾット衝撃強度を測定した。
【0091】
[フローマーク]
フローマークの評価は、成形品のフローマーク開始位置と目視により行った。
(1)フローマーク開始位置による評価
フィルムゲートを有する成形金型を備えた射出成形機(「EC160N2」東芝機械製)を用い、シリンダー温度210℃、金型温度40℃、射出時間15秒、冷却時間25秒の条件で、平板(140mm×300mm×3mm)を射出成形した。これにより得た成形体の外観を目視により観察し、ゲート位置からタイガーマークの発生が始まる位置までの距離(mm)を測定した。その距離が長い程、成形体の外観が良好となる。
(2)目視による評価
上記(1)と同じ平板を用い、
図4に示す評価基準を用いて、6段階で外観評価を行った。
【0092】
[ダイスウェル]
キャピラリーレオメーター(株式会社東洋精機製キャピログラフ1C)を用いてキャピラリー1から溶融樹脂2を押出し、
図1に示すように押出された溶融樹脂の直径rとキャピラリー径r
0の比R=(r/r
0)から求めた。キャピラリー長さ:10mm、キャピラリー径:1.0mm、流入角:90℃、設定温度:
図2(A)および
図3に示すマスターバッチ組成物の場合は230℃、
図2(B)に示すポリプロピレン樹脂組成物の場合は210℃
【0093】
[成形流動性]
成形流動性は、スパイラルフロー流動長により評価した。
スパイラル流動長は、アルキメデススパイラルが形成されたスパイラルフロー金型(流路断面:上辺8mm、下辺10mm×高さ2mmの台形)を取り付けた射出成形機(日本製鋼所製 J110AD)を用いて測定した。成形条件は以下のとおりである。
シリンダー温度:180℃
金型温度:40℃
射出圧力:100MPa
射出速度:20mm/秒
保圧:50MPa、100MPa(いずれも10秒保持)
冷却時間:10秒
【符号の説明】
【0094】
1 キャピラリー
2 溶融樹脂