(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-01-06
(45)【発行日】2022-02-04
(54)【発明の名称】レーダ装置および高さ測定方法
(51)【国際特許分類】
G01S 13/42 20060101AFI20220128BHJP
G08G 1/16 20060101ALI20220128BHJP
G01S 7/02 20060101ALI20220128BHJP
G01S 13/931 20200101ALN20220128BHJP
【FI】
G01S13/42
G08G1/16 C
G01S7/02 210
G01S13/931
(21)【出願番号】P 2017131672
(22)【出願日】2017-07-05
【審査請求日】2020-07-03
(73)【特許権者】
【識別番号】000004330
【氏名又は名称】日本無線株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100126561
【氏名又は名称】原嶋 成時郎
(72)【発明者】
【氏名】時枝 幸伸
(72)【発明者】
【氏名】津田 和俊
【審査官】山下 雅人
(56)【参考文献】
【文献】特開平11-287857(JP,A)
【文献】特開2001-116835(JP,A)
【文献】特開平11-211811(JP,A)
【文献】国際公開第2011/092814(WO,A1)
【文献】国際公開第2018/158281(WO,A1)
【文献】特開2010-217193(JP,A)
【文献】独国特許出願公開第102016014060(DE,A1)
【文献】特開2016-120892(JP,A)
【文献】特開2015-166705(JP,A)
【文献】堀越 修平,IVCシステムにおけるアレーアンテナを用いた伝搬特性とその性能評価,電子情報通信学会技術研究報告,日本,社団法人電子情報通信学会,2003年01月27日,Vol.102 No.631,215-220頁
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01S 7/00-17/95
G08G 1/16
B60R 21/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
目標に向けて送信波を送信する送信手段と、
異なる高さに配設された複数の受信アンテナによって、前記目標の頂部と麓部とで反射した反射波を受信し、前記反射波の強度に応じた受信信号を出力する受信手段と、
前記受信信号を、前記受信アンテナから前記目標までの距離と、前記目標との相対速度とに基づいて分離する信号分離手段と、
分離された前記受信信号
各々の位相を比較して検出される位相差に基づいて、前記受信アンテナに対する前記頂部
と前記麓部
とのうちのどちらか一方の仰角
および他方の仰角を算出し、前記仰角
と前記距離とから前記目標の高さを算出する高さ算出手段と、
を備えることを特徴とするレーダ装置。
【請求項2】
前記目標は、前記頂部が略水平方向に延びるように配された段差であり、
前記送信手段は、前記送信波として水平偏波を送信する、
ことを特徴とする請求項1に記載のレーダ装置。
【請求項3】
前記目標の高さが所定高さ以上である場合に目標検知信号を出力する、
ことを特徴とする請求項1または2に記載のレーダ装置。
【請求項4】
目標に向けて送信波を送信し、異なる高さに配設された複数の受信アンテナによって、前記目標の頂部と麓部とで反射した反射波を受信し、前記反射波の強度に応じて出力された受信信号に基づいて、前記目標の高さを測定する高さ検出方法であって、
前記受信信号を、前記受信アンテナから前記目標までの距離と、前記目標との相対速度とに基づいて分離する信号分離ステップと、
分離された前記受信信号
各々の位相を比較して検出される位相差に基づいて、前記受信アンテナに対する前記頂部
と前記麓部
とのうちのどちらか一方の仰角
および他方の仰角を算出し、前記仰角
と前記距離とから前記目標の高さを算出する高さ算出ステップと、
を備えることを特徴とする高さ測定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、目標からの反射波を利用して目標の高さを測定するレーダ装置と、その高さ測定方法とに関する。
【背景技術】
【0002】
自動車の自動ブレーキシステムなどで前方の車両などを検知するためのセンサとして、耐天候性の高いレーダ装置が普及している。このレーダ装置は、送信アンテナから目標に向けて送信波(電磁波)を送信し、目標で反射した反射波を受信アンテナで受信し、反射波の強度に応じて出力された受信信号に基づいて目標を検知するものであり、車両を駐車する際や、車両の発進時に、周辺の障害物を検知するための障害物センサとしての利用も進んでいる(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
ところで、車両周辺の障害物として、比較的高さが低い障害物を精度よく検知することが望まれている。比較的高さが低い障害物とは、例えば、道路脇に設置されている縁石などの段差である。一般的な縁石は、車両の通行を阻止するために高さが15cm程度とされており、誤って車両が乗り上げてしまうと車両が破損する可能性がある。また、道路脇には、車両の乗り入れを可能にするために、高さが縁石よりも低くされた切欠部が設けられている。したがって、車両の障害物センサでは、縁石よりも低い段差は検知せず、縁石よりも高い段差を精度よく検知することが望ましい。
【0004】
レーダ装置によって縁石(目標)を検知するには、例えば、縁石に向けて送信波を送信して、縁石の頂部(上部の角部)と、縁石の麓部(下部の凹部)とで反射した反射波を受信し、得られた受信信号に基づいて、受信アンテナに対する頂部および麓部の仰角を検出すれば、仰角から縁石の高さを算出することは可能である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、障害物センサとして利用されている従来のレーダ装置は、角度分解能が低いので、縁石のような15cm程度の段差の頂部と麓部とを区別して検出することはできなかった。特に縁石のような目標では、麓部がいわゆるコーナーリフレクタとなって強い反射波を発生し、この麓部の反射波に頂部の反射波が埋もれてしまうので、縁石の頂部と麓部とを区別して検知すること自体ができなかった。
【0007】
本発明は、上記課題を解決するために、縁石のように比較的高さが低い目標でも精度よく高さを測定することが可能なレーダ装置および高さ測定方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、請求項1のレーダ装置は、目標に向けて送信波を送信する送信手段と、異なる高さに配設された複数の受信アンテナによって、前記目標の頂部と麓部とで反射した反射波を受信し、前記反射波の強度に応じた受信信号を出力する受信手段と、前記受信信号を前記受信アンテナから前記目標までの距離と、前記目標との相対速度とに基づいて分離する信号分離手段と、分離された前記受信信号各々の位相を比較して検出される位相差に基づいて、前記受信アンテナに対する前記頂部と前記麓部とのうちのどちらか一方の仰角および他方の仰角を算出し、前記仰角と前記距離とから前記目標の高さを算出する高さ算出手段と、を備えることを特徴とする。
【0009】
また、請求項4は、目標に向けて送信波を送信し、異なる高さに配設された複数の受信アンテナによって、前記目標の頂部と麓部とで反射した反射波を受信し、前記反射波の強度に応じて出力された受信信号に基づいて、前記目標の高さを測定する高さ検出方法であって、前記受信信号を前記受信アンテナから前記目標までの距離と、前記目標との相対速度とに基づいて分離する信号分離ステップと、分離された前記受信信号各々の位相を比較して検出される位相差に基づいて、前記受信アンテナに対する前記頂部と前記麓部とのうちのどちらか一方の仰角および他方の仰角を算出し、前記仰角と前記距離とから前記目標の高さを算出する高さ算出ステップと、を備えることを特徴とする。
【0010】
請求項1および請求項4に記載の発明によれば、送信手段は、目標に向けて送信波を送信し、受信手段は、異なる高さに配設された複数の受信アンテナによって、目標の頂部と麓部とで反射した反射波を受信し、反射波の強度に応じて受信信号を出力する。信号分離手段および信号分離ステップは、受信信号を受信アンテナから目標までの距離と、目標との相対速度とに基づいて分離する。信号抽出手段および信号抽出ステップは、分離された受信信号から、受信アンテナごとに、頂部までの距離が同一でかつ相対速度が同一な頂部受信信号と、麓部までの距離が同一でかつ相対速度が同一な麓部受信信号とを抽出する。次いで、高さ算出手段および高さ算出ステップは、頂部受信信号同士および麓部受信信号同士の位相差に基づいて受信アンテナに対する頂部および麓部の仰角を算出し、算出した仰角から目標の高さを算出する。
【0011】
請求項2は、請求項1に記載のレーダ装置であって、前記目標は、前記頂部が略水平方向に延びるように配された段差であり、前記送信手段は、前記送信波として水平偏波を送信する、ことを特徴とする。
【0012】
請求項3は、請求項1または2に記載のレーダ装置であって、前記目標の高さが所定高さ以上である場合に目標検知信号を出力する、ことを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
請求項1および請求項4に記載の発明によれば、目標からの反射信号を、目標の頂部および麓部までの距離および相対速度に基づいて分離し、分離された受信信号から、受信アンテナごとに、頂部までの距離が同一でかつ相対速度が同一な頂部受信信号と、麓部までの距離が同一でかつ相対速度が同一な麓部受信信号とを抽出し、頂部受信信号同士および麓部受信信号同士の位相差に基づいて受信アンテナに対する頂部および麓部の仰角を算出するので、比較的高さが低い縁石などであっても、目標までの距離および相対速度に基づき、その頂部と麓部の受信信号を分離して、目標の高さを精度よく算出することが可能となる。
【0014】
請求項2に記載の発明によれば、送信波として水平偏波を利用するので、縁石のように頂部が略水平方向に延びるように配された段差からの反射波を強くすることができる。したがって、目標が縁石のような段差であっても、その頂部を検出することが可能となる。
【0015】
請求項3に記載の発明によれば、目標の高さが所定高さ以上である場合に目標検知信号を出力するので、目標検知信号に基づいて目標の存在を報知し、あるいは目標を回避するための動作を行うトリガーとして利用することができるので、この目標に対する衝突などを回避することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】この発明の実施の形態に係るレーダ装置を示す概略構成ブロック図である。
【
図2】縁石に対する水平偏波の送信波を示す説明図である。
【
図3】
図1の受信アンテナと縁石との距離を示す説明図である。
【
図4】
図1の受信アンテナと縁石との相対速度を示す説明図である。
【
図5】縁石で反射した反射波の受信信号を示すグラフである。
【
図6】
図5の受信信号を縁石までの距離に基づいて分離した信号を示すグラフである。
【
図7】2つの受信アンテナから見た縁石の頂部および麓部の仰角を示す説明図である。
【
図8】分離された受信信号から抽出した頂部受信信号および麓部受信信号を示すグラフである。
【
図9】
図1のレーダ装置による目標の高さ測定手順を示すフローチャートである。
【
図10】受信アンテナにアレーアンテナを利用した実施の形態に2における受信部の構成を示すブロック図である。
【
図11】
図10のアレーアンテナをデジタルビームフォーミング処理して得た補間信号を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、この発明を図示の実施の形態に基づいて説明する。
【0018】
[実施の形態1]
図1から
図9は、この発明の実施の形態を示し、
図1は、この実施の形態に係るレーダ装置1を示すブロック図である。このレーダ装置1は、例えば、自動車の前部または後部のバンパーなどに設けられて周辺の障害物を検知するためのものであり、より具体的には、壁や塀、歩行者などの比較的高さが高い障害物から、高さが比較的低い縁石などの段差まで精度よく検知する機能を備えている。
【0019】
レーダ装置1は、例えば、送信波と反射波との周波数差から目標を検知して、その高さを測定する位相モノパルス方式のFMCW(Frequency Modulated Continuous Wave)レーダである。このレーダ装置1は、送信部(送信手段)2、受信部(受信手段)3、信号処理部(信号分離手段、高さ算出手段および報知手段)4および報知部5を備えている。
【0020】
送信部2は、変調器21と、電圧制御発振器22と、送信アンテナ23とを備えている。変調器21は、電圧制御発振器22に対する印加制御電圧を調整して、中心周波数が79GHz、周波数変調幅が4GHzの三角波変調信号(送信信号)を生成する機能を備えている。送信アンテナ23は、送信信号を水平偏波の送信波として、車両から、例えば数m~数十mの範囲の前方に向けて放射する機能を備えている。
【0021】
本実施の形態において、送信波に水平偏波を利用するのは、目標である縁石の頂部を精度よく検出するためである。
図2に示すように、縁石6は、自動車が走行する車道7に接した麓部61と、麓部61から略垂直に立ち上がった頂部62とを有し、麓部61および頂部62は、略水平方向に延びるように平行に設けられている。このような縁石6に向けて送信波を送信すると、麓部61では、車道7と縁石6の側面とがコーナーリフレクタとなって確実に送信波を反射するので強い反射波が得られる。しかしながら、頂部62の反射面は、レーダ装置1から見て1cmに満たない幅しかないため、反射波が微弱になり、麓部61の反射波に埋もれてしまう。しかしながら、送信波として、電界成分が頂部62と略平行な水平偏波TXを利用することにより、垂直偏波や円偏波を利用した場合に比べて、頂部62からの反射波の強度を強くすることが可能となる。
【0022】
また、本実施の形態において、送信信号に79GHz帯の信号を利用するのは、高さが15cm程度の縁石6の麓部61と頂部62とを精度よく検出するためである。79GHz帯レーダは、従来の77GHz帯レーダや24GHz帯レーダに比べて、高分解能で広角検知が可能であり、適切な周波数変調幅を選択することで、4cm弱の距離分解能および0.1km/h程度の速度分解能を得ることができる。なお、送信アンテナ23を1つの場合について説明したが、送信アンテナ23は複数設けられていてもよい。
【0023】
受信部3は、異なる高さに設置された少なくとも2つの受信アンテナ31A、31Bと、受信アンテナ31A、31Bに接続されたミキサ32A、32Bと、増幅部33A、33Bと、A/D変換部34A、34Bと、FFT回路35A、35Bとを備える。
【0024】
受信アンテナ31A、31Bは、例えば、受信アンテナ31Aが受信アンテナ31Bよりも高い位置に設置されており、縁石6の麓部61と頂部62とで反射された水平偏波の反射波を受信し、受信強度に応じた受信信号を出力する機能を備えている。なお、受信アンテナ31A、31Bは、水平方向に複数設置されていてもよい。ミキサ32A、32Bは、受信アンテナ31A、31Bから出力された受信信号に、送信部2から入力された送信信号を混合する機能を備えている。増幅部33A、33Bは、送信信号が混合された受信信号を増幅するアンプである。A/D変換部34A、34Bは、増幅された受信信号をアナログ信号からデジタル信号に変換する機能を備えている。FFT回路35A、35Bは、デジタルの受信信号に高速フーリエ変換などの周波数解析処理を行って、送信信号および受信信号の周波数成分を抽出する機能を備えている。
【0025】
信号処理部4は、信号分離部(信号分離手段)41と、信号抽出部42(信号抽出手段)と、高さ算出部(高さ算出手段)43とを備えている。信号処理部4は、例えば、CPUと、このCPUに規定の動作をさせるプログラムが記憶されたメモリなどから構成されており、CPUがプログラムにしたがって動作することで、信号分離部41、信号抽出部42および高さ算出部43として機能する。
【0026】
信号分離部41は、FFT回路35A、35Bで抽出された送信信号および受信信号の周波数成分から、受信アンテナ31A、31Bと縁石6の頂部62との間の距離および相対速度と、受信アンテナ31A、31Bと麓部61との間の距離および相対速度とを検出し、受信信号を受信アンテナから目標までの距離と、目標との相対速度とに基づいて分離する機能を備えている。
【0027】
信号抽出部42は、信号分離部41で分離された信号から、受信アンテナ31A、31Bごとに、頂部62までの距離が同一でかつ相対速度が同一な頂部受信信号と、麓部61までの距離が同一でかつ相対速度が同一な麓部受信信号とを抽出する機能を備えている。
【0028】
高さ算出部43は、受信アンテナ31A、31Bの頂部受信信号同士および麓部受信信号同士を比較して位相差を検出し、この位相差から、2つの受信アンテナ31A、31Bに対する頂部62および麓部61の仰角を算出し、この仰角から縁石(目標)6の高さを算出する機能を備えている。
【0029】
また、信号処理部4は、目標の高さが縁石6と同程度の15cm以上である場合に、報知部5に目標検知信号を出力する機能を備えている。報知部5は、例えば、車内に設置されたランプやブザーであり、目標検知信号が入力された場合に、前方に縁石6が存在することを運転者に報知する。なお、目標検知信号を、自動車のブレーキを自動的に動作させる自動ブレーキシステムなどに出力し、目標の高さが所定高さ以上である場合に自動車を自動的に停止させてもよいし、目標検知信号が出力された場合に、走行中の自動車の目標方向への移動が規制されるようにブレーキシステムを制御してもよい。
【0030】
図3は、自動車Cに設けられた受信アンテナ31A、31Bと、目標である縁石6との位置関係を側方から見た状態を示す概略図である。この概略図において、受信アンテナ31Aと受信アンテナ31Bとの高さ方向の間隔が「d」、縁石6の車道7から頂部62までの高さが「h」となっている。また、受信アンテナ31Aから頂部62までの距離が「R1
1」、受信アンテナ31Aから麓部61までの距離が「R2
1」であり、受信アンテナ31Bから頂部62までの距離が「R1
2」、受信アンテナ31Bから麓部61までの距離が「R2
2」である。なお、高さが15cm程度の縁石6の高さを測定するには、アンテナ間隔dと、受信アンテナ31A、31Bから麓部61および頂部62までの距離R1およびR2は、「d<<R1,R2」となっている。
【0031】
なお、位相モノパルス方式のレーダ装置では、1つの受信アンテナで仰角を検出することはできないが、
図3では、受信アンテナ31A、31Bと縁石6との位置関係を説明するために、受信アンテナ31Aに対する頂部62の仰角を「θ1
1」、麓部61に対する仰角を「θ2
1」として便宜的に表し、受信アンテナ31Bに対する頂部62の仰角を「θ1
2」、麓部61に対する仰角を「θ2
2」として便宜的に表している。
【0032】
また、
図4に示すように、自動車Cの速度がVである場合、受信アンテナ31Aと頂部62との相対速度は、上記で便宜的に示した仰角を用いることにより「Vcosθ1
1」となり、受信アンテナ31Aと麓部61との相対速度は、「Vcosθ2
1」となる。同様に、受信アンテナ31Bと頂部62との相対速度は、「Vcosθ1
2」となり、受信アンテナ31Bと麓部61との相対速度は、「Vcosθ2
2」となる。
【0033】
図5は、受信アンテナ31A、31Bの受信信号8
1、8
2の一例を示すグラフである。なお、上述したように、位相モノパルス方式のレーダ装置では、1つの受信アンテナで仰角を検出することはできないが、受信信号8
1、8
2を
図5のグラフ上で表示するために、受信アンテナ31A、31Bに対する縁石6の仰角θを便宜上の座標軸として用いている。このグラフから分かるように、受信信号8
1、8
2には、縁石6の頂部62からの反射を表す大きな山と、麓部61からの反射を表す小さな山とが含まれており、高い位置に設置されている受信アンテナ31Aの受信信号8
1のほうが仰角は大きくなっている。
【0034】
信号分離部41は、受信信号8
1、8
2を、縁石6までの距離と相対速度とに基づいて分離する。
図6は、信号分離部41による信号分離の一例として、受信信号8
1を距離Rに基づいて分離した信号を示している。なお、このグラフでも仰角θを便宜的に用いている。このグラフから分かるように、受信信号8
1を距離Rに基づいて分離すると、近距離では縁石6の頂部62からの反射が優位に表れ、距離が遠ざかるにしたがって頂部62からの反射が小さくなり、麓部61からの反射が優位に表れる。本実施の形態では、中心周波数が79GHz帯の送信信号を利用しているので、周波数変調幅を適切に選択すれば、頂部62までの距離および相対速度と、麓部61までの距離および相対速度を利用して、受信信号8
1、8
2を高分解能で分離することができる。
【0035】
信号抽出部42は、縁石6の頂部62に関する仰角θ1
1と仰角θ1
2とが「θ1
1=θ1
2」となる条件、すなわち、
図7に示すように、2つの受信アンテナ31A、31Bから見た頂部62の仰角θ1を決定する。また、信号抽出部42は、縁石6の麓部61に関する仰角θ2
1と仰角θ2
2とが「θ2
1=θ2
2」となる条件、すなわち、2つの受信アンテナ31A、31Bから見た麓部61の仰角θ2を決定する。
【0036】
また、信号抽出部42は、信号分離部41で距離および相対速度に基づいて分離された受信信号8
1、8
2から、頂部62までの距離が同一でかつ相対速度が同一な頂部受信信号と、麓部61までの距離が同一でかつ相対速度が同一な麓部受信信号とを抽出する。
図8は、受信信号の抽出結果の一例として、受信信号8
1、8
2から、距離および相対速度に基づいて抽出された信号を示している。符号8A
1、8A
2は、受信アンテナ31A、31Bから頂部62までの距離が同一でかつ相対速度が同一な頂部受信信号である。また、符号8B
1、8B
2は、受信アンテナ31A、31Bから麓部61までの距離が同一でかつ相対速度が同一な麓部受信信号である。なお、このグラフでも仰角θを便宜的に用いている。
【0037】
高さ算出部43は、頂部受信信号8A
1と頂部受信信号8A
2の位相を比較し、
図7において、「d・sinθ1」で表される位相差Δφ
1を検出する。この位相差Δφ
1は、下記数式1によって算出される。なお、「d」は受信アンテナ31A、31Bの間隔、「θ」は目標の方位(仰角)、「λ」は受信信号の波長である。したがって、この数式1を下記数式2のように変形すれば、位相差Δφ
1に基づいて、2つの受信アンテナ31A、31Bから見た頂部62の仰角θ1を得ることができる。
Δφ
1=2π×(d×sinθ1÷λ)・・・・数式1
θ1=sin
-1(Δφ
1×λ÷(2π×d))・・・・数式2
【0038】
また、高さ算出部43は、麓部受信信号8B
1および麓部受信信号8B
2の位相を比較し、
図7において、「d・sinθ2」で表される位相差Δφ
2を検出する。次いで、上記仰角θ1と同様に下記数式3を利用して、2つの受信アンテナ31A、31Bから見た麓部61の仰角θ2を算出する。
θ2=sin
-1(Δφ
2×λ÷(2π×d))・・・・数式3
【0039】
次いで、高さ算出部43は、算出された仰角θ1、θ2と、信号抽出部42で信号抽出する際に利用した頂部62および麓部61までの距離R1、R2とを利用して、下記数式4に示すように、縁石6の高さhを算出する。
h=R2×sinθ2-R1×sinθ1・・・・数式4
【0040】
次に、上記の実施の形態の作用について、
図9のフローチャートを参照しながら説明する。レーダ装置1は、例えば、自動車Cを駐車させるために低速(例えば、時速10Km/h以下)で走行している場合に、送信部2から、79GHz帯の水平偏波の送信波を送信する(ステップS1)。送信部2から送信された送信波は、目標で反射し、その反射波は受信部3によって受信される(ステップS2)。
【0041】
目標が縁石6である場合、受信アンテナ31A、31Bは、縁石6の麓部61および頂部62で反射した反射波を受信し、反射波の強度に応じたアナログの受信信号を出力する。受信アンテナ31A、31Bから出力された受信信号は、ミキサ32A、32Bで送信信号と混合され、増幅部33A、33Bにより増幅されて、A/D変換部34A、34Bによってデジタル信号に変換される。デジタルの受信信号81、82は、FFT回路35A、35Bによって高速フーリエ変換され、送信信号および受信信号81、82の周波数成分が抽出される。
【0042】
信号分離部41は、受信信号81、82を、縁石6までの距離に基づいて分離する(ステップS3、信号分離ステップ)。また、信号分離部41は、受信信号81、82を、縁石6との相対速度に基づいて分離する(ステップS4、信号分離ステップ)。
【0043】
信号抽出部42は、距離および相対速度に基づいて分離された受信信号81から、頂部62までの距離が同一でかつ相対速度が同一な頂部受信信号8A1と、麓部61までの距離が同一でかつ相対速度が同一な頂部受信信号8B1とを抽出する(ステップS5、信号抽出ステップ)。また、距離および相対速度に基づいて分離された受信信号82から、頂部62までの距離が同一でかつ相対速度が同一な頂部受信信号8A2と、麓部61までの距離が同一でかつ相対速度が同一な頂部受信信号8B2とを抽出する(ステップS5、信号抽出ステップ)。
【0044】
高さ算出部43は、頂部受信信号8A1と頂部受信信号8A2とを比較して位相差Δφ1を検出し、麓部受信信号8B1と麓部受信信号8B2とを比較して位相差Δφ2を検出し、上述した数式2、3を利用して、検出した位相差Δφ1、Δφ2から、2つの受信アンテナ31A、31Bに対する頂部62および麓部61の仰角θ1、θ2を算出し、これらの仰角θ1、θ2から、数式4を利用して縁石6の高さhを算出する(ステップS6、高さ算出ステップ)。
【0045】
信号処理部4は、縁石6の高さが所定高さ(例えば、15cm以上)であった場合には(ステップS7でYES)、報知部5に目標検知信号を出力して運転者に縁石6があることを報知する(ステップS8)。
【0046】
以上のように、本発明を実施したレーダ装置1によれば、縁石(目標)6からの反射信号を、縁石6の頂部62および麓部61までの距離および相対速度に基づいて分離し、分離された受信信号から、受信アンテナごとに、頂部までの距離が同一でかつ相対速度が同一な頂部受信信号と、麓部までの距離が同一でかつ相対速度が同一な麓部受信信号とを抽出し、頂部受信信号同士および麓部受信信号同士の位相差に基づいて受信アンテナに対する頂部および麓部の仰角を算出するので、目標が比較的高さの低い縁石6などであっても、その目標までの距離および相対速度に基づいて頂部と麓部の受信信号を分離して、縁石6の高さを精度よく算出することが可能となる。
【0047】
また、送信波として水平偏波を利用するので、目標が縁石6のように頂部62が略水平方向に延びるように配された段差であっても、長部62からの反射波を強くすることができる。したがって、縁石6のような段差であっても、その頂部62を検出することが可能となる。さらに、縁石6の高さが所定高さ以上である場合に、目標検知信号を出力するので、検知結果の報知などに利用して、縁石6などの低い段差に自動車が衝突するのを回避することが可能である。
【0048】
[実施の形態2]
本実施の形態は、アレーアンテナを構成している素子アンテナの受信信号をデジタル信号に変換し、変換されたデジタル信号を用いるデジタルビームフォーミングを実行することでマルチビームを形成して目標を検出するデジタルビームフォーミング方式のレーダ装置に、本発明を適用したものである。
【0049】
図10は、本実施の形態のレーダ装置の受信部10を示し、複数(例えば4個)の素子アンテナからなるアレーアンテナ101と、各素子アンテナに対応して設けられた複数の複素検波回路102と、フーリエ変換回路103とを備えている。アレーアンテナ101は、複数の素子アンテナを上下方向に間隔dで設置したものであり、最上部の素子アンテナから最下部の素子アンテナまでのアンテナサイズは、Ndとなっている。なお、高さが15cm程度の縁石6の高さを測定するため、アンテナサイズNdと、縁石6までの距離Rとの関係は、「Nd<<R」であることが望ましい。
【0050】
複素検波回路102は、各素子アンテナから出力された受信信号Rx
0、Rx
1、Rx
2、Rx
3を複素検波処理してA/D変換し、複素検波信号IQ
0、IQ
1、IQ
2、IQ
3としてフーリエ変換回路103に出力する。フーリエ変換回路103は、デジタルの各複素検波信号をフーリエ変換して離散角度θ
0、θ
1、θ
2、θ
3を算出する。
図11に示すように、この離散角度θ
0、θ
1、θ
2、θ
3の成分を滑らかな関数で補間した補間信号を生成する。このような補間信号を上記実施の形態1と同様に、縁石6の頂部62および麓部61までの距離および相対速度に基づいて分離し、分離した補間信号の位相差から頂部62および麓部61に対する仰角を算出し、算出した仰角と、頂部62および麓部61までの距離から縁石6の高さhを算出する。
【0051】
このように、アレーアンテナを用いたレーダ装置においても、実施の形態1と同様に、目標が比較的高さの低い縁石6などであっても、その目標までの距離および相対速度に基づいて頂部と麓部の受信信号を分離して、縁石6の高さを精度よく算出することが可能となる。なお、アレーアンテナ101として、複数の素子アンテナを上下方向に配列した例を説明したが、素子アンテナを水平方向に複数列配列してもよいし、実際に設置したアンテナを仮想的により多数のアンテナとして方位を測定するMIMO(Multi Input Multi Output)アンテナを利用してもよい。
【0052】
また、実施の形態1では、距離と相対速度の両方を利用して受信信号を分離したが、距離と相対速度とのいずれか一方を用いて受信信号を分離してもよいし、目標までの距離などに応じて、距離による分離と、相対速度による分離とを切り替えてもよい。例えば、79GHz帯レーダで周波数変調幅を4GHzとした場合、目標まで70cm程度まで近づかないとcmオーダーの距離分解能は得られないが、相対速度では、2~3mの距離でも0.1km/h程度の速度分解能が得られる。したがって、例えば、1~3m程度の距離では相対速度を利用して受信信号を分離し、1m以下の距離では、距離に基づいて受信信号を分離するなど、適宜組み合わせて利用してもよい。
【0053】
以上、この発明の各実施の形態を詳述してきたが、具体的な構成はこの実施の形態に限られるものではなく、この発明の要旨を逸脱しない範囲の設計の変更等があっても、この発明に含まれる。例えば、上記の実施の形態では、FMCWレーダを例に説明したが、本発明は、パルスレーダおよびパルス圧縮レーダにも適用が可能である。また、自動車の障害物センサとして機能するレーダ装置を例に説明したが、例えば、船舶にこのレーダ装置を設けて防波堤などの段差の検出に利用してもよい。
【符号の説明】
【0054】
1 レーダ装置
2 送信部
3 受信部
31A、31B 受信アンテナ
4 信号処理部(信号分離手段、高さ算出手段、報知手段)
41 信号分離部(信号分離手段)
42 信号抽出部(信号抽出手段)
43 高さ算出部(高さ算出手段)
5 報知部(報知手段)
6 縁石(目標)
61 麓部
62 頂部