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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-01-06
(45)【発行日】2022-01-21
(54)【発明の名称】電気コネクタ
(51)【国際特許分類】
   H01R 13/646 20110101AFI20220114BHJP
   H01R 13/648 20060101ALI20220114BHJP
   H01R 13/10 20060101ALI20220114BHJP
   H01R 13/42 20060101ALI20220114BHJP
【FI】
H01R13/646
H01R13/648
H01R13/10 B
H01R13/42 G
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2017231359
(22)【出願日】2017-12-01
(65)【公開番号】P2019102251
(43)【公開日】2019-06-24
【審査請求日】2020-10-27
(73)【特許権者】
【識別番号】000227995
【氏名又は名称】タイコエレクトロニクスジャパン合同会社
(74)【代理人】
【識別番号】100100077
【弁理士】
【氏名又は名称】大場 充
(74)【代理人】
【識別番号】100136010
【弁理士】
【氏名又は名称】堀川 美夕紀
(72)【発明者】
【氏名】水上 和宏
【審査官】鈴木 重幸
(56)【参考文献】
【文献】特開平06-333629(JP,A)
【文献】特開2018-063797(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01R13/56-13/72
H01R12/00-12/69
H01R24/00-24/86
H01R13/10
H01R13/42
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
一対の差動信号伝送用のコンタクトと、
一対の前記コンタクトをそれぞれ収容する一対のキャビティを有する、電気絶縁性の樹脂から一体的に形成される内側ハウジングと、
前記内側ハウジングを外側から取り囲む、金属材料で形成されるシールドシェルと、
前記シールドシェルを外側から取り囲む、電気絶縁性の樹脂から一体的に形成される外側ハウジングと、を備え、
一対の前記コンタクトは、
前記内側ハウジングの横断面における配置が、互いに点対称となるように前記内側ハウジングに保持され、
一対の前記コンタクトのそれぞれは、
非対称な横断面の構造を有し、かつ、同じ仕様を有する、
ことを特徴とする電気コネクタ。
【請求項2】
一対の前記コンタクトは、
軸線方向に沿った位置が一致するように前記内側ハウジングに保持される、
請求項1に記載の電気コネクタ。
【請求項3】
一対の前記コンタクトは、
それぞれがボックス型の雌型コンタクトである、
請求項1または請求項2に記載の電気コネクタ。
【請求項4】
前記雌型コンタクトは、
前記キャビティからの抜け止め構造を有することにより、非対称な横断面の構造を有し

前記抜け止め構造は、
軸線方向に交差する向きに突出する、
請求項3に記載の電気コネクタ。
【請求項5】
一対の前記コンタクトのそれぞれは、
対称な横断面の構造部分と非対称な横断面の構造部分からなることにより、非対称な横
断面の構造を有し、
一対の前記コンタクトは、
非対称な横断面の構造部分が互いに点対称となる位置に配置される、
請求項1から請求項4のいずれか一項に記載の電気コネクタ。
【請求項6】
一対の前記キャビティのそれぞれは、
前記コンタクトの一次係止を行うハウジングランスと、前記コンタクトの二次係止を行うリテーナを備え、
一対の前記コンタクトのそれぞれは、
前記ハウジングランスが背後に位置する一次係止突起と、前記リテーナが背後に位置する二次係止突起と、を備える、
請求項1から請求項5のいずれか一項に記載の電気コネクタ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、差動信号を伝送する電気コネクタに関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、車両には種々の電子デバイスが複数搭載されている。車両の高機能化の進展に伴ってこれらの電子デバイスで扱う情報量も増大し、車両内の電子デバイス間における通信の高速化も求められている。
通信の高速化に対応する信号の伝送方式として、一対の信号線に互いに逆相の電流を流し、信号線間の電位差(差動信号)で伝送を行う差動伝送方式が知られている。差動伝送方式の通信システムにおいては、伝送される差動信号の品質劣化を抑制することが要求される(例えば、特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】国際公開第2012/111270号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に開示される差動伝送用の電気コネクタは、コンタクトの構造が単純であるが、それぞれが複雑な形状のコンタクトを対として用いると、差動信号の品質が劣化しやすい。
一方で、電気コネクタは低コストであることが常に求められている。
そこで、本発明は、それぞれが複雑な形状のコンタクトを対として用いても、伝送される差動信号の信頼性が担保された電気コネクタを、コストの上昇を抑えて提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の電気コネクタは、一対の差動信号伝送用のコンタクトと、一対のコンタクトをそれぞれ収容する一対のキャビティを有するハウジングと、を備える。
本発明の電気コネクタにおいて、一対のコンタクトは、ハウジングの横断面における配置が互いに点対称となるようにハウジングに保持される。
また、本発明の電気コネクタにおいて、一対のコンタクトのそれぞれは、非対称な横断面の構造を有し、かつ、同じ仕様を有する。
【0006】
本発明における一対のコンタクトは、軸線方向に沿った位置が一致するようにハウジングに保持されることが好ましい。
【0007】
本発明における一対のコンタクトには、それぞれがボックス型の雌型コンタクトが適用されることが好ましい。
この雌型コンタクトは、キャビティからの抜け止め構造を有することにより、非対称な横断面の構造を有することがあり、この抜け止め構造は、軸線方向に交差する向きに突出する。
【0008】
本発明における一対のコンタクトのそれぞれは、対称な横断面の構造部分と非対称な横断面の構造部分からなることにより、非対称な横断面の構造を有することがある。この一対のコンタクトは、非対称な横断面の構造部分が互いに点対称となる位置に配置されることがある。
【発明の効果】
【0009】
本発明の電気コネクタによれば、ハウジングの横断面における配置が互いに点対称となるように一対のコンタクトがハウジングに保持されるので、一対の信号線の電位差を検出する差動信号にノイズが生じたとしても相殺される。したがって、本発明の電気コネクタによれば、伝送される差動信号の信頼性が担保される。
【0010】
しかも本発明の電気コネクタは、一対のコンタクトのそれぞれが、非対称な横断面の構造を有するものの、同じ仕様を有しているので、一種類のコンタクトを用意すれば足りる。つまり、本発明によれば、点対称の関係を成立させるために二種類のコンタクトを用意するのに比べて、電気コネクタの製造コストを抑えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本発明の実施形態に係る電気コネクタを示す斜視図である。
図2図1に示す電気コネクタの正面図である。
図3図3(a)は図2のIIIa-IIIa線断面図であり、図3(b)は図3(a)の部分拡大図である。
図4図4(a)は内側ハウジングにおける一対のコンタクトおよびキャビティの例を示す図であり、図4(b)は、図4(a)に対応した一対のコンタクトの斜視図である。
図5図5(a)は内側ハウジングにおける一対のコンタクトおよびキャビティの別例を示す図であり、図5(b)は、図5(a)に対応した一対のコンタクトの斜視図である。
図6図6(a)は内側ハウジングにおける一対のコンタクトおよびキャビティの別例を示す図であり、図6(b)は、図6(a)に対応した一対のコンタクトの斜視図である。
図7図7(a)は内側ハウジングにおける一対のコンタクトおよびキャビティの別例を示す図であり、図7(b)は、図7(a)に対応した一対のコンタクトの斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、添付図面を参照しながら、本発明の実施形態について説明する。
[電気コネクタ1]
図1および図2に示す本実施形態の電気コネクタ1は、差動信号を伝送する一対の信号線に適用される雌コネクタであり、車両に搭載される電子デバイスに好適に使用できる。
【0013】
ここで、本実施形態の電気コネクタ1において、幅方向X、高さ方向Yおよび奥行方向Zを、図中に示すように定義する。なお、奥行方向Z(軸線方向とも称する)は、電気コネクタ1と嵌合相手の電気コネクタとの挿抜方向と一致する。また、電気コネクタ1において、図1に示すように、嵌合相手の電気コネクタが嵌合される側を前側Fと定義し、ケーブル50が引き出される側を後側Rと定義する。
【0014】
電気コネクタ1は、図3に示すように、絶縁体からなる内側ハウジング10と、導体からなるシールドシェル20と、絶縁体からなる外側ハウジング30とを有する。内側ハウジング10は、奥行方向Zを軸とする軸周りの外側がシールドシェル20により囲まれる。シールドシェル20は、奥行方向Zを軸とする軸周りの外側が外側ハウジング30により囲まれる。
また、内側ハウジング10には、図4(a)に示すように、一対のコンタクト40,40が保持される。
【0015】
[コンタクト40]
次に、内側ハウジング10に保持される一対のコンタクト40,40を説明する。
一対のコンタクト40,40は、後述するように内側ハウジング10に配置されたときの向きは異なるが、同じ仕様を有している。ここで、仕様が同じとは、形状、寸法が同じであることに加えて、コンタクト40,40を構成する材料が同じであることを意味する。ただし、ここでいう同じとは、工業的な生産レベルにおいて同じことを意味し、物理的に完全に同じであることを要求するものではない。
【0016】
図3図4に示すように、本実施形態のコンタクト40は、後述する相手コンタクト60(図3(b)参照)を受ける略箱状の受容部41と、差動信号を伝送する信号線51を保持する信号線保持部42(図4(b)参照)とを有するボックス型の雌型コンタクトである。
コンタクト40は、導電性および弾性を有する金属材料、例えば銅合金の板材に打抜き加工および折り曲げ加工を施すことで所定の形状に形成される。しかも、コンタクト40は、以下説明する要素が一体的に形成されている。
【0017】
コンタクト40の受容部41は、横断面(XY方向の断面)が矩形状であって、奥行方向Zに貫通した筒体である。受容部41の一辺には、抜け止め構造の一例として、コネクタの軸線方向と交差する向きに突出する2つの保持突起43,44が形成されている。保持突起43,44は、受容部41の一辺の片側に偏って形成されており、その横断面は受容部41よりも小さい矩形状である。また、2つの保持突起43,44は、奥行方向Zに間隔をおいて配置され、幅方向Xおよび高さ方向Yの平面に投影したときに重なる位置にある。
このように、コンタクト40は、受容部41による横断面が対称な構造部分と、保持突起43,44の有無による横断面が非対称な構造部分からなることにより、全体として非対称な横断面の構造を有している。
【0018】
また、受容部41の保持突起43,44の間には、開口45(図4(b)参照)が形成されている。また、図3(b)に示すように、受容部41の内部において、開口45の形成された面には、相手コンタクト60を保持するための板ばね46が配置されている。板ばね46は、開口45の前側から後側に向けて延長する片持ちの部材である。開口45の前側には板ばね46の固定端46Aが位置し、開口45の後側には板ばね46の自由端46Bが位置する。また、図3(b)に示すように、受容部41の内部において、板ばね46の配置された面と対向する面には、受容部41の内側に突出する凸部47が形成されている。
【0019】
信号線保持部42は、図4(b)に示すように、受容部41の後側に形成され、信号線51を保持する。信号線保持部42は、信号線51の被覆部分を保持する被覆保持部42Aと、被覆が剥ぎ取られた芯線部分を保持する芯線保持部42Bとを有する。被覆保持部42Aによりコンタクト40と信号線51の被覆との機械的な接続が確保される一方、芯線保持部42Bによりコンタクト40と信号線51の芯線との機械的および電気的な接続が確保される。
また、受容部41の後端から芯線保持部42Bとの間には、凹部48が形成される。
【0020】
本実施形態の電気コネクタ1は、同じ仕様の一対のコンタクト40,40を採用する。そして、一対のコンタクト40,40は、ハウジング10の横断面において、それぞれの保持突起43,44が軸線方向を軸として互いに点対称となるように内側ハウジング10に保持される。また、一対のコンタクト40,40は、軸線方向に沿った位置が一致するようにハウジング10に保持される。なお、図面において、点Oは対称の中心を示す。
【0021】
すなわち、横断面において、一対のコンタクト40,40の間で同じ部位を結ぶ直線は点Oを通過し、それぞれの部位は点Oから等距離である。そして、点Oを中心として180°反転させても、横断面におけるコンタクト40,40の位置は不変である。
ただし、ここでいう点対称は物理的に完全なものに限定されず、例えば、差動信号の伝送経路における対称性が担保され、工業的な生産レベルで点対称とみなせる範囲であれば一定の誤差は許容される。
【0022】
理解の便宜のため、図4(b)においては、本実施形態の電気コネクタ1におけるコンタクト40,40の配置のみを示し、内側ハウジング10、シールドシェル20および外側ハウジング30の図示は省略している。図4において、図中右側のコンタクト40は保持突起43,44が上向きとなるように配置され、図中左側のコンタクト40は保持突起43,44が下向きとなるように配置される。また、コンタクト40,40の奥行方向Zに沿った位置は互いに一致している。
【0023】
[内側ハウジング10]
内側ハウジング10は、電気絶縁性の樹脂材料(ポリブチレンテレフタラート等)を射出成形することで一体的に形成される。
図4(a)に示すように、内側ハウジング10には、それぞれコンタクト40,40を収容する2つのキャビティ11A,11Bが形成されている。図1図2に示すように、内側ハウジング10の前端壁10Aには、キャビティ11A,11Bに対応する位置に、前端壁10Aを貫通する2つの開口12A,12Bが形成されている。また、図3に示すように、内側ハウジング10の図中下側の底壁16には、外方に突出した係止突起16Aが設けられている。
【0024】
内側ハウジング10の前端壁10Aには、相手コネクタが奥行方向Zの前側から嵌合される。この相手コネクタは、差動信号を伝送する一対の相手コンタクト60(図3(b))を有している。相手コンタクト60は、それぞれが導電性を有し、開口12A,12Bを通ってコンタクト40,40にそれぞれ嵌合される。
【0025】
2つのキャビティ11A,11Bは、幅方向Xに沿って並び、各々のキャビティ11A,11Bは奥行方向Zに沿って形成されている。キャビティ11A,11Bの後側には、コンタクト40,40に接続される信号線51が引き出される。そして、複数の信号線51は、1本のケーブル50にまとめられ、電気コネクタ1の後側に引き出される(図1)。
【0026】
図4(a)に示すように、キャビティ11A,11Bの横断面における形状は、コンタクト40の仕様に対応した形状であり、矩形の一辺に外側に向けて突出した切り欠き部13を有している。切り欠き部13は、奥行方向Zに沿って延長するように形成されており、キャビティ11A,11Bにコンタクト40が収容されたときに、コンタクト40に形成された保持突起43,44を受ける。
なお、キャビティ11A,11Bは、切り欠き部13の向きが相違することを除き、いずれも同じ形状および寸法に形成されている。
【0027】
図4(a)に示すように、本実施形態のキャビティ11Aにおいては切り欠き部13が図中上側に形成され、キャビティ11Bにおいては切り欠き部13が図中下側に形成されている。そして、キャビティ11Aおよびキャビティ11Bは、横断面において、キャビティ11Aとキャビティ11Bとの間に位置する点Oを中心として点対称となっている。
これにより、コンタクト40,40は、点Oを中心として点対称となるように内側ハウジング10に保持される。
【0028】
また、内側ハウジング10には、キャビティ11A,11Bのそれぞれに、コンタクト40の一次係止を行うハウジングランス14と、コンタクト40の二次係止を行うリテーナ15が配置されている。図3(b)においては、キャビティ11Aに対応し、図中上側に配置されるハウジングランス14およびリテーナ15を示している。なお、キャビティ11Bに対応するハウジングランス14およびリテーナ15は、図中下側に配置される点を除き、キャビティ11Aの構成と同様であるので本実施形態における図示は省略する。
【0029】
ハウジングランス14は、コンタクト40がキャビティ11A(11B)内に完全に挿入されると、保持突起43の背後に位置する。これにより、コンタクト40が内側ハウジング10に一次係止される。
【0030】
リテーナ15が保持突起44の背後に位置することにより、コンタクト40が内側ハウジング10に二次係止される。
【0031】
ここで、図3に示すように、保持突起43の前端面は、内側ハウジング10の前端壁10Aに臨み、保持突起44の後端は、リテーナ15に臨む。したがって、コンタクト40に対して前側へ引き抜く力がかかると、コンタクト40の前端面が前端壁10Aに干渉する。一方、コンタクト40に対して後側へ押し込む力がかかると、保持突起43がハウジングランス14に干渉するとともに、保持突起44がリテーナ15に干渉する。
以上のように、本実施形態では、奥行方向Zへのコンタクト40の移動が規制され、奥行方向Zの力が作用したときに内側ハウジング10からコンタクト40が抜け止めされる。
【0032】
[シールドシェル20]
図3に示すシールドシェル20は、金属材料で形成された板材を板厚方向に打ち抜き、角筒状に折り曲げることにより形成されている。
シールドシェル20は、ケーブル50のシールド線52と、相手コネクタが設けられている機器の筐体(不図示)とに接地接続される。このシールドシェル20により、外部に向けた電磁ノイズの放射や、他の電子デバイスから受ける電磁ノイズの影響を抑制する電磁シールド機能が電気コネクタ1に与えられる。
【0033】
シールドシェル20は、コンタクト40,40を保持する内側ハウジング10を外側から囲んでいる。内側ハウジング10は、シールドシェル20の後側から奥行方向Zに沿ってシールドシェル20の内部に挿入される。
【0034】
また、シールドシェル20の内側には、内側ハウジング10の係止突起16Aと係合する段差部21が形成されている。内側ハウジング10をシールドシェル20の後側から挿入したときに、内側ハウジング10の係止突起16Aが段差部21に係合することで、内側ハウジング10がシールドシェル20から抜け止めされる。
【0035】
[外側ハウジング30]
次に、外側ハウジング30(エンクロージャとも称する)は、図3に示すように、シールドシェル20を外側から囲んでいる。外側ハウジング30は、例えば、電気絶縁性の樹脂材料(ポリブチレンテレフタラート等)を射出成形することで一体的に形成されている。
【0036】
図1に示すように、外側ハウジング30の前側は、相手コネクタに挿入される挿入部31となっている。挿入部31の形状は、相手コネクタの仕様に対応した形状であって、この挿入部31の外周には、相手コネクタの不図示の係止部と係合する係止突起32と、2本の案内溝33と、係止部と係止突起32との係合を解除する操作部36とが形成されている。案内溝33は、奥行方向Zに沿って形成され、相手コネクタの不図示のキーと係合する。案内溝33は、相手コネクタとの挿抜時に外側ハウジング30を挿抜方向に案内するとともに、上下反転した電気コネクタ1の相手コネクタへの挿入を阻止する。
【0037】
外側ハウジング30の内側には、図3に示すように、シールドシェル20が嵌合できる形状、寸法を有し、前側および後側に貫通した空間34が形成されている。また、外側ハウジング30の前側には、矩形の開口35Aを有する前端壁35が形成されている。前端壁35の開口35Aは、図2に示すように、シールドシェル20の外周よりも小さい一方で、内側ハウジング10が通過できる形状、寸法を有している。そのため、外側ハウジング30には、内側ハウジング10を前側から挿入することができる。
【0038】
外側ハウジング30の空間34にシールドシェル20を挿入するときは、外側ハウジング30の後側からシールドシェル20が挿入される。外側ハウジング30の後側から空間34に挿入されたシールドシェル20は、前端壁35と干渉することで外側ハウジング30の前側には脱落しないように構成されている。
【0039】
一方、内側ハウジング10は、開口35Aを通って外側ハウジング30の前側からシールドシェル20に挿入できる。また、図1図2に示すように、電気コネクタ1の組立状態において、内側ハウジング10の前端壁10Aおよび開口12A,12Bは、開口35Aから外側ハウジング30の外部に露出する。
【0040】
また、相手コネクタに電気コネクタ1を嵌合させると、図3(b)に示すように、前端壁10Aの開口12A,12Bを通って、コンタクト40,40の受容部41に相手コンタクト60が挿入されて両者が接触する。これにより、相手コネクタと電気コネクタ1との電気的接続が確立される。
【0041】
以下、本実施形態の電気コネクタ1が奏する効果を述べる。
本実施形態の電気コネクタ1において、差動信号を伝送する一対のコンタクト40は、保持突起43,44による非対称な横断面の構造を有し、かつ、同じ仕様を有する。そして、ハウジング10の横断面における配置が互いに点対称となるように、一対のコンタクト40,40がハウジング10に保持されている。
【0042】
ここで、コンタクト40において、軸線方向と交差する方向に突出する保持突起43,44はノイズの発生源となる。しかし、一対のコンタクト40,40における保持突起43,44の位置が対称性を有することから、一対の信号線51において保持突起43,44によるノイズは同様に現れる。そのため、一対の信号線51の電位差を検出する差動信号ではこれらのノイズが相殺される。
したがって、本実施形態の電気コネクタ1によれば、非対称な横断面の構造を有するコンタクト40を対として用いても、伝送される差動信号の信頼性が担保される。
【0043】
また、本実施形態において、一対のコンタクト40,40は、軸線方向に沿った位置が互いに一致するように内側ハウジング10に保持されている。そのため、一対のコンタクト40,40において保持突起43,44の位置が互いに軸線方向でも一致するので、差動信号において保持突起43,44によるノイズがより確実に相殺される。したがって、本実施形態によれば、伝送される差動信号の信頼性をより向上させることができる。
【0044】
また、本実施形態の電気コネクタ1は、一対のコンタクト40,40のそれぞれが、非対称な横断面の構造を有するものの、同じ仕様を有している。そのため、本実施形態では一種類のコンタクトを用意すれば足りる。つまり、点対称の関係を成立させるために二種類のコンタクトを用意する必要がないので、電気コネクタの製造コストを抑えることができる。
【0045】
また、本実施形態のコンタクト40は、軸線方向と交差する方向に突出する保持突起43,44を有する。保持突起43,44の背後にそれぞれハウジングランス14およびリテーナ15が位置することで、奥行方向Zの力が作用したときに内側ハウジング10からコンタクト40が抜け止めされる。そのため、本実施形態の電気コネクタ1は、挿抜時の外力や外部からの振動に対してコンタクト40が離脱しにくく、コネクタの堅牢性を向上させることができる。例えば、本実施形態の電気コネクタ1は、振動の大きい環境下で使用され、高い堅牢性が要求される車両用の電気コネクタとして好適である。
【0046】
上記以外にも、本発明の主旨を逸脱しない限り、上記実施形態で挙げた構成を取捨選択することや、他の構成に適宜変更することが可能である。
【0047】
上記実施形態におけるコンタクト40の配置は一例にすぎない。保持突起43,44が点対称の関係にあれば、横断面における保持突起43,44の向きが異なる他のパターンでコンタクト40を配置してもよい。
【0048】
例えば、図5は、図4とは保持突起43,44の向きを上下逆にした例である。図5の例では、図中右側のコンタクト40は保持突起43,44が下向きとなるように配置され、図中左側のコンタクト40は保持突起43,44が上向きとなるように配置される。
また、図6は、保持突起43,44が対向するようにコンタクト40を配置した例である。図6の例では、図中右側のコンタクト40は保持突起43,44が左向きとなるように配置され、図中左側のコンタクト40は保持突起43,44が右向きとなるように配置される。
また、図7は、コンタクト40を背中合わせに配置して、保持突起43,44を互いに外側に向けた例である。図7の例では、図中右側のコンタクト40は保持突起43,44が右向きとなるように配置され、図中左側のコンタクト40は保持突起43,44が左向きとなるように配置される。
図5から図7の構成においても、上記実施形態と同様の効果を得ることができる。
【0049】
上記実施形態では、コンタクト40がボックス型の雌型コンタクトである例を説明した。しかし、本発明は、ボックス型の雌型コンタクトに限定されず、非対称な横断面の構造を有するコンタクトを用いて差動信号を伝送する電気コネクタに広く適用できる。
【0050】
また、上記実施形態では、非対称な横断面の構造を有するコンタクト40の例として、軸線方向と交差する方向に突出する保持突起43,44を形成する例を説明した。しかし、本発明のコンタクトは、上記実施形態に限定されない。例えば、コンタクトの一部に切り欠きを形成することで、コンタクトが非対称な横断面の構造を有していてもよい。
【0051】
また、上記実施形態の電気コネクタ1は、車両に搭載される電子デバイスに限らず、種々の機器に使用することができる。
【0052】
また、上記実施形態では、内側ハウジング10、シールドシェル20、および外側ハウジング30の横断面が矩形状に構成される例を説明した。しかし、本発明の電気コネクタの形状は上記に限定されるものではなく、例えば横断面が円形状に構成されていてもよい。
【0053】
また、上記実施形態では、差動信号を伝送する一対の信号線を接続する電気コネクタ1の例を説明した。しかし、本発明の電気コネクタは、それぞれが異なる差動信号を伝送する複数対の信号線を接続する構成であってもよい。
【0054】
また、上記実施形態では、シールドシェル20による電磁シールド機能を有する電気コネクタ1の構成例を説明した。しかし、本発明の電気コネクタは、シールドシェル20や外側ハウジング30を有していなくてもよい。
【符号の説明】
【0055】
1 電気コネクタ1
10 内側ハウジング10
10A 前端壁
11A,11B キャビティ
12A,12B 開口
13 切り欠き部
14 ハウジングランス
15 リテーナ
16 底壁
16A 係止突起
20 シールドシェル
21 段差部
30 外側ハウジング
31 挿入部
32 係止突起
33 案内溝
34 空間
35 前端壁
35A 開口
36 操作部
40 コンタクト
41 受容部
42 信号線保持部
43,44 保持突起
45 開口
46 板ばね
46A 固定端
46B 自由端
47 凸部
48 凹部
50 ケーブル
51 信号線
52 シールド線
60 相手コンタクト
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7