(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-01-06
(45)【発行日】2022-02-04
(54)【発明の名称】ポリマー、ポリマーの製造方法、薬物複合体及びミセル
(51)【国際特許分類】
C08G 69/48 20060101AFI20220128BHJP
A61K 45/00 20060101ALI20220128BHJP
A61K 9/10 20060101ALI20220128BHJP
A61K 47/64 20170101ALI20220128BHJP
A61K 31/475 20060101ALI20220128BHJP
【FI】
C08G69/48
A61K45/00
A61K9/10
A61K47/64
A61K31/475
(21)【出願番号】P 2018030209
(22)【出願日】2018-02-22
【審査請求日】2020-11-25
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成28年度、29年度、国立研究開発法人科学技術振興機構、研究成果展開事業センター・オブ・イノベーション(COI)プログラム「スマートライフケア社会への変革を先導するものづくりオープンイノベーション拠点」、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願;平成28年度、29年度、国立研究開発法人日本医療研究開発機構、次世代がん医療創生研究事業「DDS技術を基盤とした革新的がん治療法の開発」、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】514299594
【氏名又は名称】公益財団法人川崎市産業振興財団
(74)【代理人】
【識別番号】100106909
【氏名又は名称】棚井 澄雄
(74)【代理人】
【識別番号】100188558
【氏名又は名称】飯田 雅人
(74)【代理人】
【識別番号】100189337
【氏名又は名称】宮本 龍
(74)【代理人】
【識別番号】100178847
【氏名又は名称】服部 映美
(72)【発明者】
【氏名】片岡 一則
(72)【発明者】
【氏名】カダール サビーナ
(72)【発明者】
【氏名】カブラル オラシオ
(72)【発明者】
【氏名】喜納 宏昭
(72)【発明者】
【氏名】劉 学瑩
【審査官】内田 靖恵
(56)【参考文献】
【文献】特表2010-539312(JP,A)
【文献】特開2011-173802(JP,A)
【文献】国際公開第2006/090924(WO,A1)
【文献】特開平02-229804(JP,A)
【文献】国際公開第2018/038165(WO,A1)
【文献】国際公開第2018/038166(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08G 69/48
A61K 45/00
A61K 47/64
A61K 31/475
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(I-1)で表される繰り返し単位(I-1)、
下記一般式(I-2)で表される繰り返し単位(I-2)、及び
下記一般式(II)で表される繰り返し単位(II)
を有することを特徴とするポリマー。
【化1】
[式中、mは1又は2を表す。L
11は2価の芳香族炭化水素基を表す。L
12は2価の脂肪族炭化水素基を表す。R
11及びR
12はそれぞれ独立に水素原子、脂肪族炭化水素基又は芳香族炭化水素基を表す。Xは
OR
x
又はNR
x1R
x2を表す。R
xは水素原子、脂肪族炭化水素基又は芳香族炭化水素基を表す。R
x1及びR
x2はそれぞれ独立に水素原子、脂肪族炭化水素基又は芳香族炭化水素基を表す。]
【請求項2】
下記一般式(II’)で表される繰り返し単位(II’)を有するポリマー(P1)と、下記一般式(1a-1)で表される化合物(1a-1)と、下記一般式(1a-2)で表される化合物(1a-2)とを反応させて、下記一般式(I’-1)で表される繰り返し単位(I’-1)、下記一般式(I’-2)で表される繰り返し単位(I’-2)及び前記繰り返し単位(II’)を有するポリマー(P2)を得る工程(1)と、
前記ポリマー(P2)を中性条件下又は弱酸性条件下で加水分解して、下記一般式(I-1)で表される繰り返し単位(I-1)、下記一般式(I-2)で表される繰り返し単位(I-2)及び下記一般式(II-1)で表される繰り返し単位(II-1)を有するポリマーを得る工程(2)と、
を含むことを特徴とするポリマーの製造方法。
【化2】
[式中、mは1又は2を表す。R
2は水素原子、脂肪族炭化水素基又は芳香族炭化水素基を表す。L
11は2価の芳香族炭化水素基を表す。L
12は2価の脂肪族炭化水素基を表す。R
11及びR
12はそれぞれ独立に水素原子、脂肪族炭化水素基又は芳香族炭化水素基を表す。Ra
11及びRa
12はそれぞれ独立にメチル基若しくはエチル基を表す、又はRa
11及びRa
12は相互に結合してエチレン基若しくはプロピレン基を表す。Ra
13及びRa
14はそれぞれ独立にメチル基若しくはエチル基を表す、又はRa
13及びRa
14は相互に結合してエチレン基若しくはプロピレン基を表す。R
xは水素原子、脂肪族炭化水素基又は芳香族炭化水素基を表す。]
【請求項3】
下記一般式(II’)で表される繰り返し単位(II’)を有するポリマー(P1)と、下記一般式(1a-1)で表される化合物(1a-1)と、下記一般式(1a-2)で表される化合物(1a-2)とを反応させて、下記一般式(I’-1)で表される繰り返し単位(I’-1)、下記一般式(I’-2)で表される繰り返し単位(I’-2)及び前記繰り返し単位(II’)を有するポリマー(P2)を得る工程(1)と、
前記ポリマー(P2)をアルカリ条件下の加水分解、エステル交換反応、アミノリシス、並びにアルカリ条件下の加水分解及びアミドカップリングからなる群より選ばれる少なくとも1種の処理に付し、前記繰り返し単位(I’-1)、前記繰り返し単位(I’-2)及び下記一般式(II)で表される繰り返し単位(II)を有するポリマー(P3)を得る工程(2a)と、
前記ポリマー(P3)を中性条件下又は弱酸性条件下で加水分解して、下記一般式(I-1)で表される繰り返し単位(I-1)、下記一般式(I-2)で表される繰り返し単位(I-2)及び前記繰り返し単位(II)を有するポリマーを得る工程(2b)と、 を含むポリマーの製造方法。
【化3】
[式中、mは1又は2を表す。R
2は水素原子、脂肪族炭化水素基又は芳香族炭化水素基を表す。L
11は2価の芳香族炭化水素基を表す。L
12は2価の脂肪族炭化水素基を表す。R
11及びR
12はそれぞれ独立に水素原子、脂肪族炭化水素基又は芳香族炭化水素基を表す。Ra
11及びRa
12はそれぞれ独立にメチル基若しくはエチル基を表す、又はRa
11及びRa
12は相互に結合してエチレン基若しくはプロピレン基を表す。Ra
13及びRa
14はそれぞれ独立にメチル基若しくはエチル基を表す、又はRa
13及びRa
14は相互に結合してエチレン基若しくはプロピレン基を表す。Xは
OR
x
又はNR
x1R
x2を表す。R
xは水素原子、脂肪族炭化水素基又は芳香族炭化水素基を表す。R
x1及びR
x2はそれぞれ独立に水素原子、脂肪族炭化水素基又は芳香族炭化水素基を表す。]
【請求項4】
請求項1に記載のポリマー、及び
前記ポリマーに結合した少なくとも1種の薬物
を含有する薬物複合体。
【請求項5】
下記一般式(IA-1)で表される繰り返し単位(IA-1)、
下記一般式(IA-2)で表される繰り返し単位(IA-2)、及び
下記一般式(II)で表される繰り返し単位(II)
を有するポリマーを含有する請求項4に記載の薬物複合体。
【化4】
[式中、mは1又は2を表す。L
11は2価の芳香族炭化水素基を表す。L
12は2価の脂肪族炭化水素基を表す。R
11及びR
12はそれぞれ独立に水素原子、脂肪族炭化水素基又は芳香族炭化水素基を表す。BMは活性分子を表す。Xは
OR
x
又はNR
x1R
x2を表す。R
xは水素原子、脂肪族炭化水素基又は芳香族炭化水素基を表す。R
x1及びR
x2はそれぞれ独立に水素原子、脂肪族炭化水素基又は芳香族炭化水素基を表す。]
【請求項6】
請求項5に記載の薬物複合体を含有するミセル。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリマー、ポリマーの製造方法、薬物複合体及びミセルに関する。
【背景技術】
【0002】
アルデヒド基又はケトン基を含有するポリマー(以下、「アルデヒド/ケトン含有ポリマー」という場合がある。)は、アミノ基、イミノ基、ヒドラジド基等の官能基を有する生理活性分子を、pH感受性シッフ塩基形成により結合させるのに用いることが出来る。
また、アルデヒド基含有ポリマーは、カチオン性ポリペプチドのコア架橋にも用いることが出来る。このため、アルデヒド/ケトン含有ポリマーは、薬物送達のキャリアとして、特に医薬分野において注目されている。
アルデヒドをポリマーに導入する方法として、4-ビニルベンズアルデヒドのRAFT重合によりアルデヒド導入ポリマーを得る方法が知られている(例えば、非特許文献1~4参照)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【文献】Synthesis of Aldehyde functionalized and degradable block copolymer and their bioconjugation. Jian-bing Huang, Zhong-peng Xiao, Hui Liang, Jiang Lu Acta Polymerica SInica, 2015, issue 4, 459-465
【文献】Synthesis of Functional Core, Star Polymers via RAFT Polymerization for Drug Delivery Applications Jinna Liu, Hien Duong, Michael R. Whittaker, Thomas P. Davis, Cyrille Boyer Macromolecular Rapid Communications, Volume 33, Issue 9 Pages 760-766
【文献】A Well-Defined Novel Aldehyde-Functionalized Glycopolymer: Synthesis, Micelle Formation, and Its Protein Immobilization Nai-Yu Xiao, An-Long Li, Hui Liang, and Jiang Lu, Macromolecules, 2008, 41, 2374-2380.
【文献】Well-defined polymers with activated ester and protected aldehyde side chains for bio-functionalization, Jungyeon Hwang, Ronald C. Li, Heather D. Maynard, Journal of Controlled Release 122 (2007) 279-286
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、非特許文献1~4の方法では、芳香族アルデヒドしか導入出来ないため、脂肪族アルデヒド、芳香族アルデヒド、脂肪族ケトン及び芳香族ケトンを選択的に導入することが出来ないという問題があった。また、非特許文献1~4の方法はRAFT重合のため、ホモポリマーしか得られず、他の官能基を導入する場合、反応工程が煩雑になるという問題もあった。
非特許文献4では、アセタール基導入メタクリレートが用いられている。しかし、エステル結合を介してベースポリマーに結合しているため、生理的pH(pH7.4)では解離してしまい、薬物送達には不適切であった。
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであって、新規なポリマー、その製造方法、ならびに該ポリマーを含有する薬物複合体を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決するために、本発明は以下の構成を採用した。
(1)下記一般式(I-1)で表される繰り返し単位(I-1)、
下記一般式(I-2)で表される繰り返し単位(I-2)、及び
下記一般式(II)で表される繰り返し単位(II)
を有することを特徴とするポリマー。
【0006】
【化1】
[式中、mは1又は2を表す。L
11は2価の芳香族炭化水素基を表す。L
12は2価の脂肪族炭化水素基を表す。R
11及びR
12はそれぞれ独立に水素原子、脂肪族炭化水素基又は芳香族炭化水素基を表す。XはOR
x、SR
x又はNR
x1R
x2を表す。R
xは水素原子、脂肪族炭化水素基又は芳香族炭化水素基を表す。R
x1及びR
x2はそれぞれ独立に水素原子、脂肪族炭化水素基又は芳香族炭化水素基を表す。]
【0007】
(2) ポリマーの製造方法であって、
下記一般式(II’)で表される繰り返し単位(II’)を有するポリマー(P1)と、下記一般式(1a-1)で表される化合物(1a-1)と、下記一般式(1a-2)で表される化合物(1a-2)とを反応させて、下記一般式(I’-1)で表される繰り返し単位(I’-1)、下記一般式(I’-2)で表される繰り返し単位(I’-2)及び前記繰り返し単位(II’)を有するポリマー(P2)を得る工程(1)と、
前記ポリマー(P2)を中性条件下又は弱酸性条件下で加水分解して、下記一般式(I-1)で表される繰り返し単位(I-1)、下記一般式(I-2)で表される繰り返し単位(I-2)及び下記一般式(II-1)で表される繰り返し単位(II-1)を有するポリマーを得る工程(2)と、
を含むことを特徴とするポリマーの製造方法。
【0008】
【化2】
[式中、mは1又は2を表す。R
2は水素原子、脂肪族炭化水素基又は芳香族炭化水素基を表す。L
11は2価の芳香族炭化水素基を表す。L
12は2価の脂肪族炭化水素基を表す。R
11及びR
12はそれぞれ独立に水素原子、脂肪族炭化水素基又は芳香族炭化水素基を表す。Ra
11及びRa
12はそれぞれ独立にメチル基若しくはエチル基を表す、又はRa
11及びRa
12は相互に結合してエチレン基若しくはプロピレン基を表す。Ra
13及びRa
14はそれぞれ独立にメチル基若しくはエチル基を表す、又はRa
13及びRa
14は相互に結合してエチレン基若しくはプロピレン基を表す。R
xは水素原子、脂肪族炭化水素基又は芳香族炭化水素基を表す。]
【0009】
(3)下記一般式(II’)で表される繰り返し単位(II’)を有するポリマー(P1)と、下記一般式(1a-1)で表される化合物(1a-1)と、下記一般式(1a-2)で表される化合物(1a-2)とを反応させて、下記一般式(I’-1)で表される繰り返し単位(I’-1)、下記一般式(I’-2)で表される繰り返し単位(I’-2)及び前記繰り返し単位(II’)を有するポリマー(P2)を得る工程(1)と、
前記ポリマー(P2)をアルカリ条件下の加水分解、エステル交換反応、アミノリシス、並びにアルカリ条件下の加水分解及びアミドカップリングからなる群より選ばれる少なくとも1種の処理に付し、前記繰り返し単位(I’-1)、前記繰り返し単位(I’-2)及び下記一般式(II)で表される繰り返し単位(II)を有するポリマー(P3)を得る工程(2a)と、
前記ポリマー(P3)を中性条件下又は弱酸性条件下で加水分解して、下記一般式(I-1)で表される繰り返し単位(I-1)、下記一般式(I-2)で表される繰り返し単位(I-2)及び前記繰り返し単位(II)を有するポリマーを得る工程(2b)と、
を含むポリマーの製造方法。
【0010】
【化3】
[式中、mは1又は2を表す。R
2は水素原子、脂肪族炭化水素基又は芳香族炭化水素基を表す。L
11は2価の芳香族炭化水素基を表す。L
12は2価の脂肪族炭化水素基を表す。R
11及びR
12はそれぞれ独立に水素原子、脂肪族炭化水素基又は芳香族炭化水素基を表す。Ra
11及びRa
12はそれぞれ独立にメチル基若しくはエチル基を表す、又はRa
11及びRa
12は相互に結合してエチレン基若しくはプロピレン基を表す。Ra
13及びRa
14はそれぞれ独立にメチル基若しくはエチル基を表す、又はRa
13及びRa
14は相互に結合してエチレン基若しくはプロピレン基を表す。XはOR
x、SR
x又はNR
x1R
x2を表す。R
xは水素原子、脂肪族炭化水素基又は芳香族炭化水素基を表す。R
x1及びR
x2はそれぞれ独立に水素原子、脂肪族炭化水素基又は芳香族炭化水素基を表す。]
【0011】
(4)前記(1)に記載のポリマー、及び
前記ポリマーに結合した少なくとも1種の薬物
を含有する薬物複合体。
【0012】
(5)下記一般式(IA-1)で表される繰り返し単位(IA-1)、
下記一般式(IA-2)で表される繰り返し単位(IA-2)、及び
下記一般式(II)で表される繰り返し単位(II)
を有するポリマーを含有する前記(4)に記載の薬物複合体。
【0013】
【化4】
[式中、mは1又は2を表す。L
11は2価の芳香族炭化水素基を表す。L
12は2価の脂肪族炭化水素基を表す。R
11及びR
12はそれぞれ独立に水素原子、脂肪族炭化水素基又は芳香族炭化水素基を表す。BMは活性分子を表す。XはOR
x、SR
x又はNR
x1R
x2を表す。R
xは水素原子、脂肪族炭化水素基又は芳香族炭化水素基を表す。R
x1及びR
x2はそれぞれ独立に水素原子、脂肪族炭化水素基又は芳香族炭化水素基を表す。]
【0014】
(6)前記(5)の薬物複合体を含有するミセル。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、脂肪族アルデヒド及び/又は脂肪族ケトンと、芳香族アルデヒド及び/又は芳香族ケトンとが選択的に導入された新規なポリマー、その製造方法、ならびに該ポリマーに薬物を結合させた薬物複合体が提供出来る。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】
図1は、本発明の1実施形態にかかる芳香族アルデヒド基含有ポリマー及び脂肪族アルデヒド基含有ポリマーの合成スキームである。
【
図2】
図2は、本発明の一実施形態にかかるポリマーの
1H-NMRスペクトルである。
【
図3】
図3は、本発明の一実施形態にかかるポリマーの
1H-NMRスペクトルである。
【
図4】
図4は、本発明の一実施形態にかかるポリマーの
1H-NMRスペクトルである。
【
図5】
図5は、本発明の一実施形態にかかるポリマーの
1H-NMRスペクトルである。
【
図6】
図6は、本発明の一実施形態にかかる薬物複合体のミセルサイズと、分散度(Polydispersion index:PDI)の解析結果である。
【
図7】
図7は、本発明の一実施形態にかかる薬物複合体のミセルサイズと、分散度(Polydispersion index:PDI)の解析結果である。
【
図8】
図8は、本発明の一実施形態にかかる薬物複合体のミセルサイズと、分散度(Polydispersion index:PDI)の解析結果である。
【
図9】
図9は、本発明の一実施形態にかかる薬物複合体のミセルサイズと、分散度(Polydispersion index:PDI)の解析結果である。
【
図10】
図10は、参考例にかかる薬物複合体のpH感受性薬剤リリースプロファイルを示すグラフである。
【
図11】
図11は、参考例にかかる薬物複合体のpH感受性薬剤リリースプロファイルを示すグラフである。
【
図12】
図12は、本発明の一実施形態にかかる薬物複合体のpH感受性薬剤リリースプロファイルを示すグラフである。
【
図13】
図13は、本発明の一実施形態にかかる薬物複合体をマウスに投与した場合のマウスの体重の経時変化を示すグラフである。
【
図14】
図14は、本発明の一実施形態にかかる薬物複合体のin vivo抗腫瘍試験の結果である。
【
図15】
図15は、本発明の一実施形態にかかる薬物複合体のin vivo抗腫瘍試験の結果である。
【
図16】
図16は、本発明の一実施形態にかかる薬物複合体をマウスに投与した場合の生存率の経時変化を示すグラフである。
【
図17】
図17は、本発明の一実施形態にかかる薬物複合体をマウスに投与した場合の、マウスの脳のMRI画像である。
【
図18】
図18は、本発明の一実施形態にかかる薬物複合体をマウスに投与した場合の、マウスの脳のMRI画像である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
<ポリマー>
本実施形態のポリマーは、下記一般式(I-1)で表される繰り返し単位(I-1)、下記一般式(I-2)で表される繰り返し単位(I-2)及び下記一般式(II)で表される繰り返し単位(II) を有する。
【0018】
【化5】
[式中、mは1又は2を表す。L
11は2価の芳香族炭化水素基を表す。L
12は2価の脂肪族炭化水素基を表す。R
11及びR
12はそれぞれ独立に水素原子、脂肪族炭化水素基又は芳香族炭化水素基を表す。XはOR
x、SR
x又はNR
x1R
x2を表す。R
xは水素原子、脂肪族炭化水素基又は芳香族炭化水素基を表す。R
x1及びR
x2はそれぞれ独立に水素原子、脂肪族炭化水素基又は芳香族炭化水素基を表す。]
【0019】
前記一般式(I-1)、(I-2)及び(II)中、mは1又は2であり、1が好ましい。
前記一般式(I-1)中、L11は2価の芳香族炭化水素基を表す。
L11の2価の芳香族炭化水素基としては、フェニレン基、ベンジレン基等が挙げられる。
L11の2価の芳香族炭化水素基は、置換基を有していてもよい。該置換基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、tert-ブチル基、ニトロ基、ハロゲン化物等が挙げられる。
なかでも、L11としては、ベンジレン基が好ましい。
【0020】
前記一般式(I-2)中、L12は2価の脂肪族炭化水素基を表す。L12の2価の脂肪族炭化水素基としては、エチレン基、プロピレン基、ブチレン基、ペンチレン基等が挙げられる。Lの2価の脂肪族炭化水素基は、置換基を有していてもよい。
該置換基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、tert-ブチル基、ハロゲン化物等が挙げられる。
なかでも、L12としては、メチレン基、エチレン基又はプロピレン基が好ましく、メチレン基又はエチレン基がより好ましい。
【0021】
前記一般式(I-1)及び(I-2)中、R11及びR12はそれぞれ独立に水素原子、脂肪族炭化水素基又は芳香族炭化水素基を表す。
R11及びR12の脂肪族炭化水素基としては、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基等が挙げられる。R11及びR12の脂肪族炭化水素基は、置換基を有していてもよい。該置換基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、tert-ブチル基、ペンチル基、イソペンチル基、tert-ペンチル基、シクロヘキシル基、トリハロメチル基等が挙げられる。
R11及びR12の芳香族炭化水素基としては、フェニル基、ベンジル基、ピリジル基、ナフチル基、ヒドロキシフェニル基、メトキシフェニル基、エトキシフェニル基、キシリル基、メチルフェニル基、ニトロフェニル基、クロロフェニル基、フロオロフェニル基、ヨードフェニル基、ブロモフェニル基等が挙げられる。
なかでも、R11としては、水素原子又は脂肪族炭化水素基が好ましく、水素原子又はメチル基がより好ましく、水素原子が更に好ましい。
また、R12としては、水素原子又は脂肪族炭化水素基が好ましく、脂肪族炭化水素基がより好ましく、メチル基が更に好ましい。
【0022】
前記一般式(II)中、XはORx、SRx又はNRx1Rx2を表す。
前記一般式(II)中、Rxは水素原子、脂肪族炭化水素基又は芳香族炭化水素基を表す。Rxの脂肪族炭化水素基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、tert-ブチル基、ペンチル基、イソペンチル基、tert-ペンチル基、シクロヘキシル基、トリフルオロメチル基等が挙げられる。
Rxの芳香族炭化水素基としては、フェニル基、ベンジル基、ピリジル基、ナフチル基、ヒドロキシフェニル基、メトキシフェニル基、エトキシフェニル基、キシリル基、メチルフェニル基、ニトロフェニル基、クロロフェニル基、フロオロフェニル基、ヨードフェニル基、ブロモフェニル基等が挙げられる。
Rx1及びRx2はそれぞれ独立に水素原子、脂肪族炭化水素基又は芳香族炭化水素基を表す。
Rx1及びRx2の脂肪族炭化水素基としては、メチル基、エチル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、tert-ブチル基、ペンチル基、イソペンチル基、tert-ペンチル基、シクロヘキシル基、トリハロメチル基挙げられる。
Rx1及びRx2の芳香族炭化水素基としては、フェニル基、ベンジル基、ピリジル基、ナフチル基、ヒドロキシフェニル基、メトキシフェニル基、エトキシフェニル基、キシリル基、メチルフェニル基、ヒトロフェニル基、クロロフェニル基、フロオロフェニル基、ヨードフェニル基、ブロモフェニル基等が挙げられる。
中でも、XとしてはORxが好ましく、OH(ヒドロキシ基)がより好ましい。
【0023】
本実施形態のポリマーは、前記繰り返し単位(I-1)、(I-2)及び(II)以外の他の繰り返し単位(以下、「繰り返し単位(III)」という場合がある)を有していてもよい。
繰り返し単位(III)としては、親水性の繰り返し単位が好ましく、例えば、ポリエチレングリコールから誘導される繰り返し単位、ポリ(エチルエチレンホスフェート)から誘導される繰り返し単位、ポリビニルアルコールから誘導される繰り返し単位、ポリビニルピロリドンから誘導される繰り返し単位、ポリ(オキサゾリン)から誘導される繰り返し単位、ポリ(N-(2-ヒドロキシプロピル)メタクリルアミド)(PHPMA)から誘導される繰り返し単位等が挙げられる。中でも、繰り返し単位(III)としては、ポリエチレングリコールから誘導される繰り返し単位が好ましい。
【0024】
本実施形態において、繰り返し単位(I-1)、(I-2)、(II)及び(III)の含有量は特に限定されない。
繰り返し単位(I-1)及び繰り返し単位(I-2)の合計含有量は、ポリマーを構成する全繰り返し単位の合計(100モル%)に対し、5~100モル%が好ましく、10~80モル%がより好ましく、20~50モル%が更に好ましい。
繰り返し単位(II)の含有量は、ポリマーを構成する全繰り返し単位の合計(100モル%)に対し、0~80モル%が好ましく、10~60モル%がより好ましく、20~40モル%が更に好ましい。
繰り返し単位(III)の含有量は、ポリマーを構成する全繰り返し単位の合計(100モル%)に対し、0~95モル%が好ましく、20~90モル%がより好ましく、50~80モル%が更に好ましい。
【0025】
繰り返し単位(I-1)と繰り返し単位(I-2)との比率(モル比)は、ポリマーに結合する薬物の種類に応じて適宜調整できるが、繰り返し単位(I-1)/繰り返し単位(I-2)=1/99~99/1が好ましく、5/95~95/5がより好ましく、10/90~90/10が更に好ましい。
繰り返し単位(I-1)と繰り返し単位(I-2)との比率が上記範囲内である場合、本実施形態に係るポリマーに薬物を結合した薬物複合体とした際に毒性を緩和することができるとともに、最大耐性用量(MTD)を適切にコントロールできる。
また、例えば、より毒性の高い薬物を繰り返し単位(I-1)に結合し、より毒性の低い薬物を繰り返し単位(I-2)に結合する場合、繰り返し単位(I-1)と繰り返し単位(I-2)との比率を上記範囲内で調整することにより、相乗的な治療効果を得ることが出来る。
【0026】
本実施形態のポリマーの分子量は、2000~1000000Dが好ましく、5000~100000Dがより好ましく、10000~40000Dがさらに好ましい。
【0027】
<ポリマーの製造方法(1)>
本実施形態のポリマーの製造方法(以下、「製造方法(1)」という場合がある)は、下記一般式(II’)で表される繰り返し単位(II’)を有するポリマー(P1)と、下記一般式(1a-1)で表される化合物(1a-1)と、下記一般式(1a-2)で表される化合物(1a-2)とを反応させて、下記一般式(I’-1)で表される繰り返し単位(I’-1)、下記一般式(I’-2)で表される繰り返し単位(I’-2)及び前記繰り返し単位(II’)を有するポリマー(P2)を得る工程(1)と、前記ポリマー(P2)を中性条件下又は弱酸性条件下で加水分解して、下記一般式(I-1)で表される繰り返し単位(I-1)、下記一般式(I-2)で表される繰り返し単位(I-2)及び下記一般式(II-1)で表される繰り返し単位(II-1)を有するポリマーを得る工程(2)と、を含む。
【0028】
【化6】
[式中、mは1又は2を表す。R
2は水素原子、脂肪族炭化水素基又は芳香族炭化水素基を表す。L
11は2価の芳香族炭化水素基を表す。L
12は2価の脂肪族炭化水素基を表す。R
11及びR
12はそれぞれ独立に水素原子、脂肪族炭化水素基又は芳香族炭化水素基を表す。Ra
11及びRa
12はそれぞれ独立にメチル基若しくはエチル基を表す、又はRa
11及びRa
12は相互に結合してエチレン基若しくはプロピレン基を表す。Ra
13及びRa
14はそれぞれ独立にメチル基若しくはエチル基を表す、又はRa
13及びRa
14は相互に結合してエチレン基若しくはプロピレン基を表す。R
xは水素原子、脂肪族炭化水素基又は芳香族炭化水素基を表す。]
【0029】
前記式一般式(I’-1)、(I’-2)、(II’)、(I-1)、(I-2)及び(II-1)中、m、L11、L12、R11、R12及びRxは前記一般式(I-1)、(I-2)及び(II)中のm、L11、L12、R11、R12及びRxと同様である。
前記一般式(1a-1)及び(I’-1)中、Ra11及びRa12はそれぞれ独立にメチル基若しくはエチル基を表す、又はRa11及びRa12は相互に結合してエチレン基若しくはプロピレン基を表す。Ra11及びRa12が相互に結合してエチレン基若しくはプロピレン基を表す場合、化合物(1a-1)は環状アセタール又は環状ケタールとなる。
前記一般式(1a-2)及び(I’-2)中、Ra13及びRa14はそれぞれ独立にメチル基若しくはエチル基を表す、又はRa13及びRa14は相互に結合してエチレン基若しくはプロピレン基を表す。Ra13及びRa14が相互に結合してエチレン基若しくはプロピレン基を表す場合、化合物(1a-2)は環状アセタール又は環状ケタールとなる。
【0030】
(工程(1))
製造方法(1)の工程(1)は、ポリマー(P1)と化合物(1a-1)と化合物(1a-2)とのアミノリシス反応である。工程(1)により、ポリマー(P1)の側鎖に化合物(1a-1)及び化合物(1a-2)のアセタール構造又はケタール構造が導入される。
工程(1)における化合物(1a-1)及び化合物(1a-2)の量は特に限定されないが、化合物(1a-1)と化合物(1a-2)との体積比で化合物(1a-1)/化合物(1a-2)=10/90~90/10が好ましく、15/85~80/20がより好ましく、20/80~60/40が更に好ましい。
工程(1)の反応温度は、ポリマー(P1)の側鎖に化合物(1a-1)及び化合物(1a-2)のアセタール構造又はケタール構造が導入される条件であれば特に限定されないが、通常4℃~100℃であり、室温~45℃が好ましい。
工程(1)の反応時間は、ポリマー(P1)の側鎖に化合物(1a-1)及び化合物(1a-2)のアセタール構造又はケタール構造が導入される条件であれば特に限定されず、反応時間、化合物(1a)の種類や量によって選択できるが、通常4時間~5日間である。
また、工程(1)では、反応ポリマー(P1)と化合物(1a-1)とを反応させた後に、化合物(1a-2)を反応させることもできる。この場合、反応温度は通常4℃~100℃であり、室温~45℃が好ましい。また、反応時間は、全反応の合計で4時間~5日間の範囲であることが好ましい。
【0031】
(工程(2))
製造方法(1)の工程(2)において、ポリマー(P2)を中性条件下又は弱酸性条件下で加水分解し、ポリマー(P2)の繰り返し単位(I’-1)及び(I’-2)のアセタール構造をアルデヒド、又はケタール構造をケトンに変換する。
加水分解は、ポリマー(P2)の繰り返し単位(I’-1)及び(I’-2)のアセタール構造をアルデヒド、又はケタール構造をケトンに変換できる条件であれば特に限定されない。例えば、(i)0.1N塩酸で30分~90分処理する方法、(ii)アセトン及びインジウム(III)トリフルオロメタンスルホネート(触媒)の存在下で処理する方法、(iii)30℃の水中で触媒量のテトラキス(3,5-トリフルオロメチルフェニル)ホウ酸ナトリウムを用いる方法、(iv)室温でウェットニトロメタン中、1~5モル%のEr(OTf)3を用いる方法、(v)ほぼ中性のpH条件下、室温でウェットニトロメタン中、触媒量のセリウム(III)トリフレートを用いる方法等、公知の方法が挙げられる。
【0032】
<ポリマーの製造方法(2)>
本実施形態のポリマーの製造方法(以下、「製造方法(2)」という場合がある)は、下記一般式(II’)で表される繰り返し単位(II’)を有するポリマー(P1)と、下記一般式(1a-1)で表される化合物(1a-1)と、下記一般式(1a-2)で表される化合物(1a-2)とを反応させて、下記一般式(I’-1)で表される繰り返し単位(I’-1)、下記一般式(I’-2)で表される繰り返し単位(I’-2)及び前記繰り返し単位(II’)を有するポリマー(P2)を得る工程(1)と、前記ポリマー(P2)をアルカリ条件下の加水分解、エステル交換反応、アミノリシス、並びにアルカリ条件下の加水分解及びアミドカップリングからなる群より選ばれる少なくとも1種の処理に付し、前記繰り返し単位(I’-1)、前記繰り返し単位(I’-2)及び下記一般式(II)で表される繰り返し単位(II)を有するポリマー(P3)を得る工程(2a)と、前記ポリマー(P3)を中性条件下又は弱酸性条件下で加水分解して、下記一般式(I-1)で表される繰り返し単位(I-1)、下記一般式(I-2)で表される繰り返し単位(I-2)及び前記繰り返し単位(II)を有するポリマーを得る工程(2b)と、を含む。
【0033】
【化7】
[式中、mは1又は2を表す。R
2は水素原子、脂肪族炭化水素基又は芳香族炭化水素基を表す。L
11は2価の芳香族炭化水素基を表す。L
12は2価の脂肪族炭化水素基を表す。R
11及びR
12はそれぞれ独立に水素原子、脂肪族炭化水素基又は芳香族炭化水素基を表す。Ra
11及びRa
12はそれぞれ独立にメチル基若しくはエチル基を表す、又はRa
11及びRa
12は相互に結合してエチレン基若しくはプロピレン基を表す。Ra
13及びRa
14はそれぞれ独立にメチル基若しくはエチル基を表す、又はRa
13及びRa
14は相互に結合してエチレン基若しくはプロピレン基を表す。XはOR
x、SR
x又はNR
x1R
x2を表す。R
xは水素原子、脂肪族炭化水素基又は芳香族炭化水素基を表す。R
x1及びR
x2はそれぞれ独立に水素原子、脂肪族炭化水素基又は芳香族炭化水素基を表す。]
【0034】
前記一般式(I’-1)、(I’-2)、(II’)、(I-1)、(I-2)及び(II)中、m、L11、L12、X、Rx、Rx1及びRx2は、前記一般式(I)及び(II)中のm、L,X、Rx、Rx1及びRx2と同様である。
前記一般式(1a-1)、(1a-2)、(I’-1)及び(I’-2)中、R11、R12、Ra11、Ra12、Ra13及びRa14は前記と同様である。
【0035】
(工程(1))
製造方法(2)の工程(1)は、製造方法(1)の工程(1)と同様である。
【0036】
(工程(2a))
製造方法(2)の工程(2a)では、ポリマー(P2)を所定の処理に付すことにより、繰り返し単位(I’-1)及び(I’-2)がアセタール構造で保護された状態で、繰り返し単位(II’)の側鎖に所望の官能基を導入することができる。
アルカリ条件下の加水分解は、例えば、0.5NのNaOH溶液とDMSOとの混合物(体積比:50/50)中、室温で30分処理する方法、DMSO中トリエチルアミンで室温にて1時間処理する方法、DMSO中ジイソプロピルエチルアミンで室温にて1時間処理する方法等が挙げられる。アルカリ条件下の加水分解により得られるカルボン酸残基は、後述するミセルのコア中のプロトンを引き寄せ、ヒドラゾン結合の加水分解を容易にし、低pH条件下において生体材料の放出を可能とする。
アミノリシスは、例えば、エチレンジアミン又はジアミノプロパンによりエステルを開裂してアミノ官能基を導入することができる。アミノ基導入により、蛍光色素と結合させることができる。また、他のカルボン酸基を有する画像診断剤と、公知のアミノカップリングに付すこともできる。アセタール構造及びケタール構造は、このようなアミノ基導入条件下では安定なので、ポリマーの多官能ナノキャリアデザインに供することができる。
アルカリ条件下の加水分解及びアミドカップリングは、例えば、アルカリ条件下の加水分解によりエステル残基を処理後、生成したカルボン酸をエステル交換反応もしくは公知のカップリング剤を用いたアミドカップリングに付すことができる。ヒドロキシ/アミン官能基による適切な構造モチーフにより、ポリマーの親水性/疎水性のバランスを所望のものとすることができ、極性又は非極性溶媒中での自己組織化に寄与する。
【0037】
(工程(2b))
製造方法(2)の工程(2b)において、ポリマー(P3)を弱酸性条件下で加水分解し、ポリマー(P3)の繰り返し単位(I’-1)及び(I’-2)のアセタール構造をアルデヒドに変換する。加水分解の条件は、製造方法(1)の工程(2)と同様である。
【0038】
<薬物複合体>
本実施形態の薬物複合体は、前記ポリマー、及び前記ポリマーに結合した少なくとも1種の薬物を含有する。
前記薬物は、特に限定されず、所望の活性を有する薬物を結合させることができる。なお、本明細書において、前記薬物は、「活性分子」と表記されることもある。ここで、活性分子とは、何らかの生理学的又は化学的活性を有する分子をいう。活性分子が有する生理学的活性又は化学的活性の種類は特に限定されず、医薬品の有効成分として公知の化合物が有する生理活性や、体内に投与されて使用される診断薬が有する化学的又は生理学的活性を含み得る。前記薬物(活性分子)の例としては、例えば、抗癌剤、シグナル伝達阻害剤、代謝拮抗剤、鎮痛剤、抗炎症剤、造影剤等が挙げられるが、これらに限定されない。抗癌剤としては、例えば、ビンブラスチンなどのビンカアルカロイド、OSU-03012などのCOX-2選択的非ステロイド性抗炎症剤、(+)-JQ1などのBETブロモドメイン阻害剤、K252Aなどのスタウロスポリン類縁体、ヒドララジンなどの脱メチル化剤、ベンダムスチン及びクロラムブシルなどのアルキル化剤、AZD39などのファシネルトランスフェラーゼ阻害剤、フルルビプロフェンなどの非ステロイド系抗炎症剤等を挙げることができる。前記ポリマーとの薬物複合体とすることにより、副作用により用量が制限される抗癌剤のような薬物であっても、副作用の緩和が期待できる。そのため、そのような薬物は、前記ポリマーと結合させる薬物の好適な例である。そのような薬物の例としては、例えば、ビンブラスチンなどのビンカアルカロイド系化合物を挙げることができる。
なかでも、前記薬物としては、ビンブラスチンなどのビンカアルカロイド、K252Aなどのスタウロスポリン類縁体、(+)-JQ1などのBETブロモドメイン阻害剤が好ましい。
【0039】
前記ポリマーと前記薬物との結合は、前記薬物にアルデヒド基とシッフ塩基を形成し得る窒素原子含有基(以下、「シッフ塩基形成基」という場合がある)がある場合には、当該シッフ塩基形成基と、前記ポリマーの繰り返し単位(I)に含まれるアルデヒド基とを反応させることにより行うことができる。そのようなシッフ塩基としては、例えば、アミノ基、イミノ基、ヒドラジド基等が挙げられる。また。前記薬物がシッフ塩基形成基を有しない場合には、シッフ塩基形成基を当該薬物に導入すればよい。シッフ塩基形成基の導入は、公知の方法により行うことができる。
【0040】
例えば、ビンブラスチンにはシッフ塩基形成基が存在しないため、ヒドラジド基を導入してデスアセチルビンブラスチン・ヒドラジド(DAVBNH)とすることにより、前記ポリマーに結合させることができる。また、K252Aなどのスタウロスポリン類縁体、BETブロモドメインインヒビター(+)-JQ1についても、同様の方法によりシッフ塩基形成基を導入することが出来る。
【0041】
本実施形態の薬物複合体は、下記一般式(IA-1)で表される繰り返し単位(IA-1)、下記一般式(IA-2)で表される繰り返し単位(IA-2)及び下記一般式(II)で表される繰り返し単位(II)を有するポリマーであることが好ましい。
【0042】
【化8】
[式中、mは1又は2を表す。L
11は2価の芳香族炭化水素基を表す。L
12は2価の脂肪族炭化水素基を表す。R
11及びR
12はそれぞれ独立に水素原子、脂肪族炭化水素基又は芳香族炭化水素基を表す。BMは活性分子を表す。XはOR
x、SR
x又はNR
x1R
x2を表す。R
xは水素原子、脂肪族炭化水素基又は芳香族炭化水素基を表す。R
x1及びR
x2はそれぞれ独立に水素原子、脂肪族炭化水素基又は芳香族炭化水素基を表す。]
【0043】
前記一般式(IA-1)、(IA-2)及び(II)中、m、L11、L12、R11、R12、X、Rx、Rx1及びRx2は、前記一般式(I-1)、(I-2)及び(II)中のm、L11、L12、R11、R12、X、Rx、Rx1及びRx2と同様である。
前記一般式(IA-1)及び(IA-2)中、BMは活性分子を表す。活性分子としては、前記薬物において例示した化合物等が挙げられる。
【0044】
本実施形態の薬物複合体によれば、種々の薬物をポリマーに担持して生体内に搬送できる。前記ポリマーでは、導入するアルデヒド基又はケトン基の量を制御することができ、アルデヒド基又はケトン基に結合させる薬物の量も制御することができる。そのため、薬剤投与量を適切に制御することができる。
また、前記ポリマーにおいては、導入するアルデヒド基又はケトン基を、芳香族アルデヒド基、脂肪族アルデヒド基、芳香族ケトン基、脂肪族ケトン基から選択することができる。
芳香族アルデヒド基又は芳香族ケトン基のシッフ塩基は、脂肪族アルデヒド基又は脂肪族ケトン基のシッフ塩基よりも安定であるため、芳香族アルデヒド基を導入した場合には、薬物がより安定に保持される。そのため、疾患の状態や薬物の種類により、導入するアルデヒド基又はケトン基の種類を選択することにより、薬物の徐放性を制御することができる。さらに、本実施形態の薬物複合体では、薬物が前記ポリマーに保持されている間、薬物は安定に維持され、毒性も緩和されるため、副作用を軽減して治療効果を高めることができる。
【0045】
前記薬物複合体は、そのまま生体に投与することもできるが、公知の手法により、適宜他の成分と混合して製剤化されてもよい。したがって、本発明はまた、前記薬物複合体を含む医薬組成物も提供する。前記薬物複合体が製剤化される場合、剤型は特に限定されず、乳剤、エマルション剤、液剤、ゲル状剤、カプセル剤、軟膏剤、貼付剤、バップ剤、顆粒剤、錠剤、造影剤等とすることができる。また、前記薬物複合体は、ミセルの形態としてもよい。前記薬物複合体を含有するミセルは、公知の手法により調製することができる。例えば、前記薬物複合体を親油性又は親水性の溶媒に溶解又は懸濁し、当該溶解液又は懸濁液を親水性又は親油性の溶媒に滴下して撹拌することにより、前記薬物複合体を含有するミセルを調製することができる。
前記薬物複合体を含む医薬組成物は、任意に前記薬物複合体の他の成分を含んでもよい。他の成分は、医薬品分野において一般的に使用される成分を特に制限なく使用することができる。例えば、前記医薬組成物は、前記薬物複合体を薬学的に許容される担体に溶解又は懸濁したものであってもよい。薬学的に許容される担体としては、医薬分野において常用されるものを特に制限なく使用することができ、例えば、水、生理食塩水、リン酸緩衝液、DMSO、ジメチルアセトアミド、エタノール、グリセロール、ミネラルオイル等を挙げることができる。また、他の成分としては、その他に、溶剤、溶解補助剤、懸濁化剤、等張化剤、緩衝剤、pH調整剤、賦形剤、安定剤、抗酸化剤、浸透圧調整剤、防腐剤、着色剤、香料等が挙げられる。
【0046】
前記医薬組成物の投与経路は、特に限定されず、経口又は非経口経路で投与することができる。なお、非経口経路は、経口以外の全ての投与経路、例えば、静脈内、筋肉内、皮下、鼻腔内、皮内、点眼、脳内、直腸内、腟内及び腹腔内等への投与を包含する。また、投与は、局所投与であっても全身投与であってもよい。
前記医薬組成物は、単回投与又は複数回投与を行うことが可能であり、その投与期間及び間隔は、薬物の種類、疾患の種類及び状態等、投与経路、投与対象の年齢、体重及び性別等によって、適宜選択することができる。
前記医薬組成物の投与量は、その投与期間及び間隔は、薬物の種類、疾患の種類及び状態等、投与経路、投与対象の年齢、体重及び性別等によって、適宜選択することができる。前記医薬組成物の投与量は、治療的有効量とすることができ、例えば、1回につき体重1kgあたり0.01~1000mg程度とすることができる。
【0047】
また、本実施形態の薬物複合体は、特にミセルの形態とした場合、pH感受性薬剤リリースの特性を示す。特に、生体内の環境を考えると、酸性化しているがんの周辺環境(pH6.6)および細胞質内に取り込まれた後エンドソーム(pH5)での薬剤リリースは、脂肪族アルデヒド基又は脂肪族ケトン基を導入した薬物複合体が優れている。
したがって、ビンブラスチン等の毒性の高い薬剤を用いる場合、pH5~6.6での薬剤リリースが緩やかな芳香族アルデヒド基又は芳香族ケトン基を導入した薬物複合体が好ましい。一方、K252aやJQ-1等の比較的毒性の低い薬剤を用いる場合、pH5~6.6での薬剤リリースが速い脂肪族アルデヒド基又は脂肪族ケトン基を導入した薬物複合体が好ましい。
本実施形態の薬物複合体は、繰り返し単位(IA-1)に芳香族アルデヒド基又は芳香族ケトン基が導入されており、繰り返し単位(IA-2)に脂肪族アルデヒド基又は脂肪族ケトン基が導入されている。そのため、本実施形態の薬物複合体は、薬物の毒性を緩和することができるとともに、最大耐性用量(MTD)を適切にコントロールできる。
また、本実施形態の薬物複合体は、繰り返し単位(IA-1)と繰り返し単位(IA-2)との併用により、薬物のリリースプロファイルを精度高く設計し、治療効能をコントロールすることができる。
【0048】
また、本実施形態の薬物複合体は、特にミセルの形態とした場合、薬物が前記ポリマーに保持されている間、薬物は安定に維持され、毒性も緩和されるため、副作用を軽減できる。そのため、本実施形態の薬物複合体のミセルは、薬剤単体よりも最大耐性用量(MTD)が伸びる。
【実施例】
【0049】
本発明を実施例に基づいて説明する。ただし、本発明の実施態様は、これら実施例の記載に限定されるものではない。
【0050】
[合成例1]メトキシ-ポリ(エチレングリコール)-b-ポリ(β-ベンジル-アスパルタミド)の合成
α-メトキシ-ω-アミノ ポリ(エチレングリコール)の末端第一級アミノ基によって開始される、β-ベンジルアスパラギン酸 N-カルボキシアルデヒドの開環重合により、メトキシ-ポリ(エチレングリコール)-b-ポリ(β-ベンジル-アスパルタミド)(MeO-PEG-PBLA;PEG分子量=12kDa;PBLAの重合度=40)コポリマーを合成した。ω-アミン基は、アセチル化によりブロックし、PEG-PBLAポリマーを得た。
【0051】
[実施例1]ポリマー1の合成
PEG-PBLAポリマー(300mg)をDMF(3mL)で溶解し、3,3-ジメトキシブタン-1-アミン(120μL)及び{〔4-(ジメトキシメチル)フェニル〕メタンアミン}(60μL)を添加した。反応液を40℃で48時間撹拌し、HCl溶液(300μL、0.1N)添加して1時間撹拌した。
水で透析し、ポリマーを凍結乾燥することにより、ポリマー1を回収した。
反応スキームを
図1に示す。また、得られたポリマー1の
1H-NMR解析結果を
図2に示す。31個の脂肪族ケトンユニット及び4個の芳香族アルデヒドユニットがポリマー1に導入されていることが確認された。
【0052】
[実施例2]ポリマー2の合成
PEG-PBLAポリマー(100mg)をDMF(1mL)で溶解し、3,3-ジメトキシブタン-1-アミン(75μL)及び{〔4-(ジメトキシメチル)フェニル〕メタンアミン}(25μL)を添加した。反応液を40℃で48時間撹拌し、HCl溶液(100μL、0.1N)添加して1時間撹拌した。
水で透析し、ポリマーを凍結乾燥することにより、ポリマー1を回収した。
反応スキームを
図1に示す。また、得られたポリマー1の
1H-NMR解析結果を
図3に示す。31個の脂肪族ケトンユニット及び6個の芳香族アルデヒドユニットがポリマー1に導入されていることが確認された。
【0053】
[実施例3]ポリマー3の合成
PEG-PBLAポリマー(100mg)をDMF(1mL)で溶解し、3,3-ジメトキシブタン-1-アミン(50μL)及び{〔4-(ジメトキシメチル)フェニル〕メタンアミン}(50μL)を添加した。反応液を40℃で40時間撹拌し、HCl溶液(100μL、0.1N)添加して1時間撹拌した。
水で透析し、ポリマーを凍結乾燥することにより、ポリマー1を回収した。
反応スキームを
図1に示す。また、得られたポリマー1の
1H-NMR解析結果を
図4に示す。21個の脂肪族ケトンユニット及び9個の芳香族アルデヒドユニットがポリマー1に導入されていることが確認された。
【0054】
[実施例4]ポリマー4の合成
PEG-PBLAポリマー(100mg)をDMF(3mL)で溶解し、3,3-ジメトキシブタン-1-アミン(50μL)を添加した。反応液を40℃で16時間撹拌し、{〔4-(ジメトキシメチル)フェニル〕メタンアミン}(50μL)を添加した。反応液を40℃で24時間撹拌し、HCl溶液(100μL、0.1N)を添加して1時間撹拌した。
水で透析し、ポリマーを凍結乾燥することにより、ポリマー1を回収した。
反応スキームを
図1に示す。また、得られたポリマー1の
1H-NMR解析結果を
図5に示す。9個の脂肪族ケトンユニット及び19個の芳香族アルデヒドユニットがポリマー1に導入されていることが確認された。
【0055】
[参考例1]参考ポリマー1の合成
PEG-PBLAポリマー(220mg、0.011mmol)をDMF(2mL)で溶解し、{〔4-(ジメトキシメチル)フェニル〕メタンアミン}(100μL、0.58mmol)を添加した。反応物を40℃で4日間撹拌し、HCl溶液(0.1N 100μL)を添加して30分撹拌した。
水で透析し、ポリマーを凍結乾燥することにより、参考ポリマー1を回収した。
【0056】
[参考例2]参考ポリマー2の合成
PEG-PBLAポリマー(318mg、0.016mmol)をDMF(3mL)で溶解し、得られた溶液に3,3-ジメトキシブタン(200μL)を添加した。反応液を40℃で72時間撹拌し、HCl溶液(100μL、0.1N)添加して1時間撹拌した。水で透析し、ポリマーを凍結乾燥することにより、参考ポリマー2を回収した。
【0057】
[実施例5]薬物複合体1の調製
ビンブラスチンにヒドラジド基を導入した化合物(DAVBNH:DSK BioPharma製。以下同じ。)とポリマー1とを2:1の割合で混合して得られたポリマー混合物15mgをDMSO(1mL)に溶解した。反応混合物を40℃で3日間撹拌した。その後、反応混合物を透析により溶媒をジメチルアセトアミド(DMAc)に交換した。この溶媒交換により透明なDMAc溶液が生成された。
得られたDMAc溶液を、容量比で水10に対して1の割合で、撹拌しながら水に滴下し、ミセルを調製した。この溶液を、水で透析し、有機溶媒を除去した。得られた溶液を100kDa MWCOのフィルターメンブランを用いた限外濾過により濃縮し、薬物複合体1を得た。
【0058】
[実施例6]薬物複合体2の調製
ポリマー1に替えてポリマー2を用いた以外は実施例5と同様にして薬物複合体2を得た。
【0059】
[実施例7]薬物複合体3の調製
ポリマー1に替えてポリマー3を用いた以外は実施例5と同様にして薬物複合体3を得た。
【0060】
[実施例8]薬物複合体4の調製
ポリマー1に替えてポリマー4を用いた以外は実施例5と同様にして薬物複合体4を得た。
【0061】
[参考例3]参考薬物複合体1の調製
ポリマー1に替えて参考ポリマー1を用いた以外は実施例5と同様にして参考薬物複合体1を得た。
【0062】
[参考例4]参考薬物複合体2の調製
ポリマー1に替えて参考ポリマー2を用いた以外は実施例5と同様にして参考薬物複合体2を得た。
【0063】
<ミセルサイズとPDIの測定>
薬物複合体1~4について、ミセルのサイズと多分散指数(PDI)を、動的光散乱(DLS)手法により求めた。
測定は、入射ビームとして緑色レーザー(532nm)を用い、173°の検出角度で、Zetasizer nano ZS(Malvern instruments,UK)を使用して、25℃の温度条件で行った。薬物複合体1~4のミセルサイズの結果を、それぞれ
図6~9に示す。なお、
図6~9中の各指標の説明を表1に記載した。
【0064】
【0065】
【0066】
図6~9の結果に示されるように、繰り返し単位(I-1)(芳香族アルデヒド基/芳香族ケトン基導入ユニット)と繰り返し単位(I-2)(脂肪族アルデヒド基/脂肪族ケトン基導入ユニット)との含有比率を調整することにより、ミセルサイズを調整できることが確認された。
【0067】
<pH感受性リリースの評価>
参考例3の参考薬物複合体1、参考例4の参考薬物複合体2及び実施例5の薬物複合体1をそれぞれリン酸バッファー975μLで異なるpHで希釈し、37℃で48時間培養した。逆相クロマトグラフィ-(RPLC)により、所定の時間における薬物複合体からの薬剤リリースを測定した。HPLC解析の条件は以下の通りである。
HPLC (東ソー製TSKgel ODS-80Tm C18 カラム 4.6×150mm)
溶媒:20mMリン酸バッファー(pH2.5)とメタノールとの1:1混合均一溶媒
流速:0.6mL/分
UV検出:波長220nm
【0068】
pH感受性リリースの評価の結果を
図10~12に示す。
図10は、参考薬物複合体1のpH感受性薬剤リリースプロファイルを示すグラフである。
図11は、参考薬物複合体2のpH感受性薬剤リリースプロファイルを示すグラフである。
図12は、薬物複合体1のpH感受性薬剤リリースプロファイルを示すグラフである。
図10に示される結果から、芳香族アルデヒド基のみが導入されている参考薬物複合体1は、pH5以上での薬剤リリースは遅いことが確認できる。
図11に示される結果から、脂肪族ケトン基のみが導入されている参考薬物複合体2は、pH5以上での薬剤リリースに優れていることが確認される。生体内の環境を考えると、酸性化しているがんの周辺環境(pH6.6)および細胞質内に取り込まれた後エンドソーム(pH5)での薬剤リリースは重要である。
図12に示される結果から、本願発明を適用した実施例5の薬物複合体1は、pH感受性薬剤リリースが確認された。また、薬物複合体1は、pH5以上での薬剤リリースに優れていることが確認される。
上記の結果から、繰り返し単位(I-1)(芳香族アルデヒド基/芳香族ケトン基導入ユニット)と繰り返し単位(I-2)(脂肪族アルデヒド基/脂肪族ケトン基導入ユニット)とを併用することにより、pH感受性薬剤リリースプロファイルを調整することができることが確認された。
【0069】
<薬物複合体の最大耐性用量(MTD)の評価>
薬剤をマウス(BALB/c Nude、雌、6週齢)に4日後毎に4回(0日、3日、6日、9日)投与し、最大耐性用量(MTD)を評価した。投与群は以下の通りとし、各群の個体数は3とした。結果を
図13に示す。
投与群1:薬物複合体1(実施例5) 8mg/kg
投与群2:薬物複合体2(実施例6) 8mg/kg
投与群3:薬物複合体3(実施例7) 8mg/kg
【0070】
図13に示されるように、繰り返し単位(I-1)(芳香族アルデヒド基/芳香族ケトン基導入ユニット)と繰り返し単位(I-2)(脂肪族アルデヒド基/脂肪族ケトン基導入ユニット)との比率を調整することにより、最大耐性用量(MTD)が調整できることが確認された。特に、繰り返し単位(I-1)の含有割合を増やすことにより、薬物複合体の毒性を抑えられることが確認された。
【0071】
<薬物複合体の脳腫瘍細胞に対する細胞毒性試験>
硫酸ビンブラスチン、参考薬物複合体1、参考薬物複合体2及び薬物複合体1のin vitro細胞毒性のin vitro細胞毒性を、cell-counting kit-8を用いて、U87MG及びU3731に対して評価した。
U87MG又はU3731細胞(3000細胞/ウェル)を、96ウェルプレートを用いて、10% FBSを含むDMEM培地で培養した。その後、U87MG細胞又はU3731細胞を異なる用量の硫酸ビンブラスチン又は薬物複合体に曝露した。曝露後48時間と72時間における細胞生存率を、450nmでのホルマザン吸光度450nmを測定することにより求めた。結果を表2に示す。
【0072】
【0073】
[脳腫瘍同所モデルの評価]
U87MG-Luc2(2μL中1.0×10 5個の細胞)をブレグマの1.0mm前部および2.0mmに頭蓋内に移植し、Balb/cヌードマウスの脳表面に3.0mmの深さに移植した。
腫瘍を6日間増殖させ、BALB/cヌードマウスの5群(n=9)において抗腫瘍活性アッセイを開始した。
投与群は以下の通りとした。
投与群1:対照としてのPBS
投与群2:DAVBNH 2mg/kg(MTD)
投与群3:参考薬物複合体1(参考例3) 16mg/kg(安全耐性用量)
投与群4:参考薬物複合体2(参考例4) 2mg/kg
投与群5:薬物複合体1(実施例5) 4mg/kg
治療スケジュールは、以下の通りとした。
第1フェーズ:2日間隔(0日、3日、6日及び9日)で4回の注射に設定。
第2フェーズ:マウスが死亡するまで、1週間に1回注射。
IVISスペクトル(Xenogen Corporation)を用いてインビボイメージングを行い、D-ルシフェリンカリウム塩溶液をルシフェラーゼの基質として使用した。
また、投与群1~5について、治療開始後28日目のMRIを撮影した。投与群4及び5については、治療開始後50日目のMRIも撮影した。MRI撮影にはBioSpec1T(Bruker製)を用いた。
【0074】
図14及び15は、脳腫瘍同所モデルの評価の各投与群における腫瘍増殖曲線を示すグラフである。
図16は、脳腫瘍同所モデルの評価における生存率の経時変化を示すグラフである。
図14~16に示される結果から、実施例5の薬物複合体1は、脳腫瘍同所移植モデルにおいて尾静脈注射で有意に脳腫瘍を縮小させ、有意に生存を延長させることが確認された。特に、薬物複合体1を用いた投与群5では、治療開始から70日を経過しても、約80%のマウスが生存していることが確認された。
【0075】
図17は、脳腫瘍同所モデルの評価の各投与群における、治療開始後28日目のマウスの脳のMRI画像である。
図17に示されるように、投与群1(対照としてのPBS)では、ほとんどのマウスに大きい腫瘍(MRI画像の白い部分)が出来ていることが確認された。
投与群2(DAVBNH)は、約50%のマウスに大きい腫瘍が出来ていることが確認された。
投与群3(参考薬物複合体1、参考例3)では、約20%のマウスに大きい腫瘍が出来ていることが確認された。
投与群4(参考薬物複合体2、参考例4)及び投与群5(薬物複合体1、実施例5)では、全てのマウスの脳腫瘍が縮小されていることが確認された。
【0076】
図18は、脳腫瘍同所モデルの評価の投与群4及び5における、治療開始後50日目のマウスの脳のMRI画像である。
投与群1(対照としてのPBS)では、治療開始後50日目にはほとんどのマウスが死亡していた。また、投与群2(DAVBNH)及び投与群3(参考薬物複合体1、参考例3)では、治療開始後50日目には数匹のマウスしか生存していなかった。
投与群4(参考薬物複合体2、参考例4)では、治療開始後50日目に約90%のマウスが生存していたが、ほとんどのマウスに大きい腫瘍が出来ていることが確認された。
一方、投与群5(薬物複合体1、実施例5)では、治療開始後50日目に全てのマウスが生存しており、約20%のマウスにしか大きい腫瘍が出来ていないことが確認された。