(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-01-06
(45)【発行日】2022-01-21
(54)【発明の名称】1つ以上の分析物をサンプリングするための装置
(51)【国際特許分類】
A61B 5/157 20060101AFI20220114BHJP
G01N 33/50 20060101ALI20220114BHJP
G01N 33/48 20060101ALI20220114BHJP
A61B 5/00 20060101ALI20220114BHJP
【FI】
A61B5/157
G01N33/50 Q
G01N33/48 S
A61B5/00 N
(21)【出願番号】P 2018559757
(86)(22)【出願日】2017-11-08
(86)【国際出願番号】 FI2017050767
(87)【国際公開番号】W WO2018091771
(87)【国際公開日】2018-05-24
【審査請求日】2020-10-09
(32)【優先日】2016-11-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】FI
(73)【特許権者】
【識別番号】518396264
【氏名又は名称】グルソモディスム オサケユイチア
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100147555
【氏名又は名称】伊藤 公一
(74)【代理人】
【識別番号】100160705
【氏名又は名称】伊藤 健太郎
(74)【代理人】
【識別番号】100211177
【氏名又は名称】赤木 啓二
(72)【発明者】
【氏名】アレハンドロ ガルシア ペレス
(72)【発明者】
【氏名】ヘイッキ ニエミネン
(72)【発明者】
【氏名】エドバルド ハエッグストローム
【審査官】遠藤 直恵
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2017/021585(WO,A1)
【文献】特開昭61-090676(JP,A)
【文献】特開2015-142779(JP,A)
【文献】特開2015-177916(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2009/0024019(US,A1)
【文献】特表2008-529677(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 5/00-5/01、5/06-5/22
G01N 33/48-33/98
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
真皮(101a)から皮膚表面(101b)まで1つ以上の分析物を含む間質液をサンプリングするための装置(100、300)において、
-
第1の電極(102a、302a)および第2の電極(102a、302b)であって、前記皮膚表面に近接して位置付けされるように適応され、前記第1の電極が前記第2の電極から距離(103、303)によって分離されている、第1の電極(102a、302a)および第2の電極(102a、302b)と、
- 前記第1の電極、前記間質液および前記第2の電極を通して電流を誘導するように適応された電源(104、304)と、
を含む装置であって、さらに
- 前記間質液に磁場を誘導するように適応された1つ以上の磁石(105、205a、b、305)
を含むこと、および
- 前記1つ以上の磁石により生成された前記磁場の方向および前記電源により生成された前記電流の方向は、前記磁場および前記電流により生成されるローレンツ力が前記間質液を真皮から実質的に前記皮膚表面に向かって駆動するために適応されるようなものとなるよう適応されていること、
を特徴とする装置(100、300)。
【請求項2】
1つの磁石を含む、請求項1に記載の装置。
【請求項3】
複数の磁石(205a、b)を含む、請求項1に記載の装置。
【請求項4】
装置がその動作位置にある場合に、前記第1の電極および前記第2の電極の前記距離の内部で、前記磁場が実質的に座標系(199、399)のz方向となるように適応され、電場が実質的にx方向となるように適応され、前記皮膚表面が、y方向に対し実質的に直交しているように適応されている、請求項1ないし3のいずれか1項に記載の装置。
【請求項5】
前記第1の電極、前記第2の電極、前記電源、および前記1つ以上の磁石を位置付けするように適応されたフレーム(109、309)を含む、請求項1ないし4のいずれか1項に記載の装置。
【請求項6】
前記距離が1mm~5cm、好ましくは5mm~3cmである、請求項1ないし
5のいずれか1項に記載の装置。
【請求項7】
前記真皮からサンプリングされた前記1つ以上の分析物を収集および/または保管するように適応された手段(107)を含む、請求項1ないし
6のいずれか1項に記載の装置。
【請求項8】
前記1つ以上の分析物を分析するように適応された手段(108)を含む、請求項1ないし
7のいずれか1項に記載の装置。
【請求項9】
前記第1の電極の接触表面(106a)および/または前記第2の電極の接触表面(106b)が楕円形である、請求項1ないし
8のいずれか1項に記載の装置。
【請求項10】
前記第1の電極の接触表面(106a)および/または前記第2の電極の接触表面(106b)が突出部および/または突起を含む、請求項1ないし
9のいずれか1項に記載の装置。
【請求項11】
前記フレームがリストバンド、リングの形をしている、請求項5に記載の装置。
【請求項12】
前記フレームがリストバンドの形をしており、前記リストバンドは、ユーザインタフェース、データを記憶するように適応された手段、データを送受信するように適応された手段、前記電源にエネルギを提供するように適応された手段のうちの1つ以上を含む、請求項
11に記載の装置。
【請求項13】
超音波発生手段、レーザ光発生手段、エレクトロポレーション発生手段、および流体圧力発生手段のうちの1つ以上から選択される手段(110)を含む、請求項1ないし
12のいずれか1項に記載の装置。
【請求項14】
前記フレームが前記皮膚と接触した状態で位置付けされるように適応された接着性材料を含む、請求項5、
11または
12のいずれか1項に記載の装置。
【請求項15】
前記第1の電極および/または前記第2の電極が1つ以上の酵素および/または1つ以上の触媒でコーティングされている、請求項1ないし
14のいずれか1項に記載の装置。
【請求項16】
前記第1の電極と前記皮膚との間および前記第2の電極と前記皮膚との間に位置付けされるように適応された膜および/または導電性材料を含む、請求項1ないし
15のいずれか1項に記載の装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、標的、詳細には皮膚由来の間質液から1つ以上の分析物を含む流体を抽出するための、磁気流体力学(MHD)に基づく装置に関する。
【背景技術】
【0002】
間質液(IF)は細胞と循環系の間の例えばグルコースおよび電解質のための輸送媒体として役立つ水溶液である。したがって、グルコースおよび乳酸などの異なる溶質のIF中および血液中の濃度は、実質的な相関関係を示す。このため、IFの分析は、医療診断、早期疾病検出、薬物動態およびスマートウェアラブル技術を含めた多くの発展中の分野に関連性をもつものとなっている。さらに、商業的および科学的な強い関心が、無痛かつ非侵襲的なIFサンプリング方法を促進している。
【0003】
特許文献1(米国特許出願公開第2002/0002328号明細書)は、逆イオン導入法により皮膚を通してグルコースなどの物質をサンプリングするための非侵襲的IF装置および方法について開示している。この装置は、糖尿病を患う人々において血糖値を監視するように設計されている。装置は、従来の侵襲的血糖監視に置き換わるものとしてではなく、それに追加するものと考えられている。
【0004】
特許文献2(国際公開第2010/001122号)は、患者の皮膚を通して1つ以上の分析物をサンプリングするためのパッチを開示している。このパッチは、患者の皮膚に近接して位置付けされる電極層、および、逆イオン導入法による皮膚を通した分析物の回収を誘発するように電極を起動するための手段を含む。パッチは、イオン導入プロセスを誘発するための導電性媒体を格納するタンクチャンバを含む。文書によると、液体形態の電解質の存在は、電極と皮膚の間の良好な伝導性を保証し、これによって、逆イオン導入プロセスの有効性は増強される。
【0005】
非侵襲的グルコース監視のための上述の技術的現状の装置は、浸透流または電気泳動のハーネス化に基づいている。これらの装置においては、抽出は電極-皮膚の界面において局所的に行なわれる。したがって、わずかな量の流体を抽出し分析することができるが、その代り、高感度の検出および分析技術を必要とする。
【0006】
したがって、有効性および抽出速度が改善された、皮膚を通して分析物をサンプリングするためのさらなる装置に対するニーズがなおも存在する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】米国特許出願公開第2002/0002328号明細書
【文献】国際公開第2010/001122号
【発明の概要】
【0008】
本発明は、皮膚由来の1つ以上の分析物のサンプリングに関連する技術的現状の問題点の少なくともいくつかが、磁気流体力学(MHD)的現象を活用することによって解決または少なくとも軽減可能であるという観察事実に基づくものである。
【0009】
したがって、本発明の目的は、真皮から皮膚表面まで1つ以上の分析物を含む間質液を非侵襲的にサンプリングするための装置において、
- 皮膚表面に近接して位置付けされるように適応され、第1の電極が第2の電極から一定の距離によって分離されている、第1の電極および第2の電極と、
- 第1の電極、間質液および第2の電極を通して電流を誘導するように適応された電源と、
- 間質液に磁場を誘導するように適応された1つ以上の磁石を含む装置を提供することにある。
【0010】
本発明の装置によると、1つ以上の磁石により生成された磁場の方向および電源により生成された電流の方向は、磁場および電流により生成されるローレンツ力が間質液を真皮から実質的に皮膚表面に向かって駆動するために適応されるようなものとなるよう適応されている。
【0011】
本発明の装置によると、IFは、技術的現状の場合のように電極と皮膚の界面において局所的にのみならず、より多くの量のIFが利用可能である電極の間においても、皮膚からサンプリングされ得る。さらに、MHDは、負極の下で抽出速度を増大させる分力を付加する。
【0012】
本発明のさらなる目的は、添付の従属クレーム中に記載されている。
【0013】
構成および動作方法の両方に関して本発明を例示する非限定的な実施形態は、本発明の追加の目的および利点と合わせて、添付図面と関連付けて具体的な例示的実施形態についての以下の説明を読むことで、最も良く理解することができる。
【0014】
「to comprise(~を含む)」および「to include(~を含む)」なる動詞は、本明細書において、列挙されていない特徴の存在を排除することも要求することもしない開放的限定として使用されている。添付の従属クレーム中に列挙されている特徴は、別段の明示的記載のないかぎり、互いに自由に組合せ可能である。さらに、本明細書全体を通した「a」または「an」すなわち単数形の使用は、複数を排除するものではないということを理解すべきである。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】例えば皮膚からグルコース(黒点)などの分析物を抽出するための、サンプリング用の本発明に係る装置の原理を例示する;(+):第1の電極;(-):第2の電極;破線矢印:電流の方向;(B):磁場;上位層:表皮;中間層:真皮;下位層:皮下組織;白色矢印:ローレンツ力の方向での流体の移動;黒色矢印:電気泳動の方向。
【
図4】本発明に係る装置において使用するのに好適な例示的磁石アレイを示す。
【
図5】本発明に係るリストバンドの形をした非限定的な例示的装置の概略図を示す。
【
図6】本発明の例示的装置を用いた(MHD、左側)および技術的現状に係る装置使用することによる(電気泳動、右側)、皮膚試料の処理結果を示す。
【発明を実施するための形態】
【0016】
一実施形態によると、本発明は、非侵襲的にIFをサンプリングするための装置に関する。IFは、分析すべき1つ以上の分析物を含む。本発明によると、IFは、MHD現象を活用することによって皮膚から抽出される。
【0017】
図1は、本発明の作動原理を示す。図中、装置は、皮膚からIFを抽出するのに役立つ。したがって、電源により生成される電流は、一対の電極(+および-でマーキング)および皮膚を通って確立される。磁場(B)は、磁石により生成される。真皮内のIFの含有量が高くなればインピーダンスのより低い電気路が提供されることから、中間皮膚層(真皮)内の電流密度は、内部(皮下組織)または外部(表皮)皮膚層に比べ実質的に高い。装置が動作していているとき、磁場の方向は、特に電極間の距離の内部でかつ電極の場所において皮膚に対し実質的に直交しており、真皮から皮膚表面までの流体移動の所望される方向に対し実質的に直交している。したがって、磁場内の導電流体は、皮膚表面に向かうローレンツ力を受ける。この力は、IFを皮膚外に駆動するのに役立つ。流体内で及ぼされる駆動力は、等式F=J×Bで表現される。なお式中、F、J、およびBはそれぞれ、力、電流密度および磁場ベクトルであり、xはクロス積を標示する。この等式に基づいて、ローレンツ力、電流および磁場のベクトルは全て、互いに直交する。同様に力の分布は、電流および磁場の分布によって定義される。導電流体内のローレンツ力の分布は、全体的/全電流路に沿った、すなわち、電極間の距離に沿った、皮膚から外へのIFの指向性駆動を可能にする。ローレンツ力の方向での流体移動は、白色の大きな矢印で標示されている。図中に黒点として示されている、グルコースなどの関係する分析物を含有するIFは、同様に、負極の下のみならず電極間の距離に沿っても抽出され、ここで、電気泳動(黒色の小さい矢印)も、電極と皮膚の界面に向かう流体の運動を促進する。
【0018】
本発明に係る例示的装置が、
図2に示されている。したがって、真皮101aから皮膚表面101bまで1つ以上の分析物を含むIFをサンプリングするための装置100は、
- 皮膚表面に近接して位置付けされるように適応され、第1の電極が第2の電極から距離103によって分離されている、第1の電極102aおよび第2の電極102bと、
- 第1の電極、間質液および第2の電極を通して電流を誘導するように適応された電源104と、
- 間質液に磁場を誘導するように適応された磁石105と、
を含み、ここで、磁石により生成された磁場の方向および電源により生成された電流の方向は、ローレンツ力が全電流路に沿って、詳細には距離および(-)電極の内部で間質液を真皮から実質的に皮膚表面に向かって駆動するようなものである。
【0019】
装置が動作中である場合、電流は、実質的に、
図2で破線の矢印によって描写されている3つの異なる方向、すなわち最初は第1の電極から皮膚へ、特にIFを含む間質液に向かって、次に皮膚表面に対し実質的に平行な電極間の距離の内部を、そして最後に真皮から第2の電極(すなわち(-)極)に向かって、すなわち
図2の座標系199のそれぞれ-y方向、x方向およびy方向に流れる。したがって、電流は、第2の電極に向かって一定の量のIFを駆動するのに貢献する。
【0020】
皮膚表面に向かって皮膚内の導電IF中でローレンツ力を生成するために、磁石は、実質的に座標系199のz方向にある磁場を生成しなければならない。したがって、磁場および電流により生成されるMHD効果は、距離の内部でおよび(-)電極102bの下で真皮から実質的に皮膚表面に向かって1つ以上の分析物を含むIFを駆動する。したがって、IFの流れの方向は、実質的に座標系199のy方向にある。
【0021】
例示的実施形態によると、第1の電極および第2の電極は、水の電気分解およびpHドリフトを回避するため、銀-塩化銀(Ag-AgCl)電極である。しかしながら、他の不活性および非強磁性材料も同様に好適である。例示的なさらなる材料は、炭素、金および白金である。
【0022】
電極は、例えば酵素および触媒、例えばグルコースオキシダーゼ、デヒドロゲナーゼおよびプルシアンブルーなどの異なる材料でコーティングされ得る。さらに、例えば電気インピーダンスを削減し、電極コーディングを保護し、かつ抽出されたIF試料の分析を容易にする目的で、電極と皮膚の間の界面として、異なる材料または材料の組合せを使用することができる。この目的に好適な材料としては、再生セルロース、シリコーンおよびポリアミドのモノフィラメントファブリックでできた生体適合膜が含まれる。
【0023】
界面は、電極と皮膚の間の電気インピーダンスを低く維持すること、装置に向かう分析物の輸送を容易にすること、電気化学的条件(例えばpH)および酵素の活性を保つことに役立つ。一実施形態において、電極-皮膚界面は、好ましくはゲルまたはヒドロゲルである。別の好ましい実施形態において、電極-皮膚界面は、透過性または半透過性、導電性で低アレルギー性の膜である。この目的に好適な例示的材料としては、再生セルロース、シリコーンおよびポリアミドのモノフィラメントファブリックでできた生体適合膜(すなわち透過性または半透過性)が含まれる。これらの膜は、所望のポーズ構造の維持を助けその導電性を増大させるための保湿剤(すなわちグリセロール、アガロースゲルおよびリン酸緩衝生理食塩水)として機能する作用物質で処理され得る。膜には同様に、抽出手順により誘発される潜在的皮膚反応を防止または削減するため、コルチコステロイドおよび他の薬物などの作用物質をロードすることができる。
【0024】
図2に示されている例示的実施形態によると、第1の電極102aは正極として作用し、第2の電極102bは負極として作用している。複数の電極を反転させることができ、他の構成も可能であることを理解すべきである。第1の電極および第2の電極は好ましくは、互いに実質的に平行である。装置は、複数の第1の電極と複数の第2の電極を含み得る。電極は、同じまたは異なるものであり得る。
【0025】
第1の電極および第2の電極は、接触表面を含む。接触表面は、第1の電極および第2の電極についてそれぞれ参照番号106aおよび106bを伴って
図2に示されている。1つの例示的実施形態によると、電極の接触表面は平担で、円形、例えばディスク形、矩形、楕円形またはピラミッド形である。別の実施形態によると、接触表面は、皮膚表面の形状に適応されている。例えば、皮膚が指内または手首内にある場合、接触表面は、皮膚との最大限の機械的および電気的接触を可能にするように、実質的に湾曲していてよい。接触表面は、皮膚表面に対する最大限の粘着力を促すように突出部および/または突起を含んでいてよい。
【0026】
各電極の接触表面の面積は、好ましくは0.01cm2~9cm2、最も好ましくは0.15cm2~1cm2である。第1の電極と第2の電極の間の距離は好ましくは1mm~5cm、最も好ましくは5mm~3cmである。例示的実施形態によると、この距離は1cmである。
【0027】
一実施形態によると、電極の接触表面の形状は楕円形であり、楕円の長軸は短軸よりも実質的に大きい。これにより、電極-皮膚界面における電流密度を増大させることなく、真皮を通してより大きな電流密度を設定することができるようになる。例示的電極形状は、
図3に示されている。この図は、異なる電極構成(左側に第1の電極、右側に第2の電極)を例示する5つのケースを描く。皮膚などの標的を通した電流密度は、たとえ電極の接触面積が同じであっても、全てのケースにおいて異なっている可能性がある。電極の形状は皮膚内の電流の分布ひいては局所的電流密度を改変させて、ローレンツ力およびIFの抽出速度を増大させる可能性がある。この理由から、ケース3で例示された楕円形の電極形状が好ましい。
【0028】
電源104は、エネルギ、すなわち電極を通って送出される電流および/または電圧の強度を制限し調節する直流(DC)電源および/または交流(AC)電源であり得る。例示的実施形態によると、電源は、好ましくは10μA~10mAの範囲内、より好ましくは0.1mA~1mAの範囲内の直列電流を確立するための手段を提供する浮遊電流源である。電極と標的、例えば皮膚の界面における電流密度は、好ましくは1μA/cm2~10mA/cm2、最も好ましくは0.1mA/cm2~1mA/cm2である。電流源により提供される電圧は、好ましくは1~100Vである。
【0029】
特定の実施形態において、浮遊電流源により確立される電流は、単極(単方向)または双極(双方向または交番する)波形を示す。電気信号の周波数は、0.1Hz~100kHz、より好ましくは10Hz~10kHzである。電気信号は、振幅および/または周波数を変調させることができ、正弦、矩形、パルス(例えば矩形)、三角、およびのこぎり歯などの異なる波形を有することができる。同様に、信号は、バーストおよび/またはデューティサイクル変調され得る。
【0030】
磁石105は永久磁石または電磁石であり得る。磁石の表面における磁場の強度は、好ましくは0.01mT~2T、最も好ましくは0.1mT~500mTである。磁石と電極の間の距離は、好ましくは5cm未満、より好ましくは3cm未満そして最も好ましくは1cm未満である。例示的実施形態によると、磁場は、装置がその動作位置にあるときの皮膚表面から0.5cm離れたところに位置設定されたネオジム磁石によって提供される。同様に、装置がその動作位置にある場合、磁場の方向は、距離の内部で皮膚表面に対し実質的に直交しており、真皮から皮膚表面までの流体移動の所望される方向に対して直交する。その結果として、真皮IFは、皮膚の表面に向かって駆動される。
【0031】
別の実施形態によると、装置は複数の磁石を含む。例示的実施形態によると、磁場は、磁石または電磁石のアレイによって提供される。例示的アレイは、
図4に示されたハルバッハアレイ211である。磁石のうち2つが、205aおよび205bの参照番号で示されている。アレイ内の磁石の重複する磁場が組合わさって、Bという文字でマークされた一方向に作用する合成磁場を生成する。電極(図示せず)は、電場Eが座標系299内に示された通りとなるように、アレイの内部に位置付けされる。したがって、IF抽出の方向を、皮膚表面に向かうように適応させることができる。
【0032】
磁石アレイを使用することにより、磁場を指向的にまたは局所的に変調させる(すなわち増加、減少または失効させる)ことが可能になる。例えば、ネオジム磁石で構成されたシリンダから成る円形ハルバッハアレイを使用して、シリンダ内部に閉じ込められた強い磁場を生成することができる。さらに、例えば、電極がシリンダの内部に配設されているリングまたはリストバンド内に、電極および抽出部位を包み込んで、磁石アレイを位置付けすることができる。これにより、他の場所では磁場を弱く保ちながら、抽出部位では強い磁場を有することが可能になる。
【0033】
一実施形態によると、装置は、皮膚から抽出された1つ以上の分析物を含むIFを保管(例えば収集)するように適応された手段107および/またはこのIFを分析するように適応された手段108を含む。例示的実施形態によると、保管用手段は、距離103の内部に位置設定された1つ以上の毛細管を含む。1つ以上の毛細管は好ましくは電極と同軸であり、毛細管の一方の端部は、皮膚から抽出されたIFが1つ以上の毛細管内へ移動するように位置設定される。特定の実施形態によると、流体を保管するように適応された手段、例えば1つ以上の毛細管またはタンクは、同様に、1つ以上の分析物を分析するように適応された手段108まで流体を移送するように適応された手段としても作用する。代替的には、手段108は、1つ以上の分析物から導出された1つ以上の信号を記録し、それらを分析するように適応された手段まで1つ以上の信号を送信するように適応されている。例示的実施形態によると、手段107および/または108は、過酸化水素を形成するように適応されたグルコースオキシダーゼを含むゲルまたは液体などの媒質を含み、その濃度は電気化学的および/または光学的に決定される。手段107および108は、好ましくは、距離の内部および/または1つ以上の電極の下に位置設定される。別の実施形態によると、装置は、間質液を保管し分析するための手段を含む。さらに別の実施形態によると、分析用手段は装置から分離されている。
【0034】
例示的実施形態によると、装置は、電極、電源および磁石を位置付けするように適応されたフレーム109、およびエネルギ貯蔵用手段(例えばバッテリ)、IF保管用手段およびIF分析用手段などの装置のさらなる任意の手段を含む。第1の電極の接触表面、第2の電極の接触表面、そして好ましくは同様に、1つ以上の分析物を保管および/または分析するように適応された手段は、皮膚表面と直接的または間接的接触状態にあるように適応されたフレームの表面上にある。
【0035】
別の実施形態によると、装置のフレームは、ポケットサイズのものである。
【0036】
例示的実施形態によると、本発明のMHD装置は、皮膚の透過性を増大させるため、例えばソノポレーション、レーザポレーション、エレクトロポレーション法および流体圧力などの他のアプローチと組合せられる。皮膚の上位層(例えば角質層)の機械的特性を一時的にまたは永久的に混乱させるために、透過性を増強するための異なるアプローチを使用することができる。これにより、IFの抽出が容易になる可能性がある。例えば、本発明の装置を用いたIFの抽出の前または最中に(例えば恒常的にまたは反復的に)ソノポレーションを適用することができる。したがって、本発明の装置は、超音波発生手段、レーザ光発生手段、エレクトロポレーション発生手段、流体圧力発生手段の中から選択された1つ以上の手段110を含んでいてよい。
【0037】
本発明に係る別の例示的非限定的装置300が、
図5に示されている。装置のフレームは、リストバンド309の形をしている。
図5に示されている装置は、皮膚表面に近接して位置付けされるように適応された第1の電極302aと第2の電極302bを含む。第1の電極と第2の電極は、距離303により分離される。装置は、同様に、装置がその動作位置にあるとき、第1の電極、間質液および第2の電極を通って電流を誘導するように適応されたた電源304も含んでいる。装置は同様に、IFに磁場を誘導するように適応された磁石305も含んでいる。磁場の方向および電流の方向は、ローレンツ力が真皮から実質的に皮膚表面に向かってIFを駆動するように適応されたようなものである。磁場は同様に、
図4に示されているような磁石アレイなどの複数の磁石によっても生成され得る。
【0038】
皮膚表面に向かって距離の内部および負極下の皮膚内で導電IF中にローレンツ力を生成するためには、磁石305は、実質的に座標系399のZ方向にある磁場を生成しなければならない。したがって、磁石305または複数の磁石により生成される磁場および電源304によって確立された電流が発生させるMHD効果は、1つ以上の分析物を含むIFを、真皮から実質的に皮膚表面に向かって駆動する。したがって、IFの流れの方向は、実質的に座標系399のy方向である。
図5中の電源および磁石の場所は、単なる例示にすぎない。
【0039】
この実施形態の利点は、例えば接着性材料、空気圧力および/または機械的圧力を用いることによって第1の電極および第2の電極を皮膚と接触して位置付けする手段をリストバンドが提供できる、ということにある。図に示されている実施形態によると、間質液抽出の標的部位の近くでリストバンド内に永久磁石が配設されており、こうして、磁場は、距離の内部で皮膚表面に対し実質的に直交し、かつ真皮から皮膚表面までの流体の方向に対して実質的に直交するようになっている。これを達成するために、リストバンドは、格納可能な磁気ホルダなどの可動部分を有していてよい。さらに、リストバンドは、間質液試料(
図5には図示せず)を収集、輸送、保管および/または分析するための手段を提供することができる。同様に、リストバンドには、ディスプレイ、例えばタッチスクリーンディスプレイ、押しボタンおよび機械的、視覚的および/または聴覚的指標(例えば発光ダイオード、スピーカおよび振動アラーム)などを含む電子または電気機械式ユーザインタフェースが具備され得る。さらに、リストバンドは、電子回路などのデータ記憶用手段、および例えば携帯電話、タブレット、コンピュータまたはインシュリンポンプなどの別の電子装置に対して好ましくは無線でデータを送るための手段を有していてよい。リストバンド内の電子回路は同様に、電極と皮膚の電気的接触を査定するために皮膚に印加される電流および/または電圧を監視する上でも役立つことができる。電子回路の動作に必要とされるエネルギは、例えば、リストバンド内で適応された充電式バッテリなどによって提供され得る。本発明の1つの特定の実施形態において、リストバンドは、間質液試料を収集するための有機または無機材料(例えばポリフルオロカーボン、ポリエチレン、ポリ塩化ビニルおよびホウケイ酸ガラス)製の1つ以上の毛細管を包含する。毛細管の先端は、抽出部位の近くにまたはこの部位と接触した状態で配設されている。例えば、これらの毛細管は、電極ギャップ内に配設され得、かつ/または、第1の電極内および/または第2の電極内に統合され得る。IF試料またはIF試料中の化合物を収集するのに好適な他の要素としては、電荷および/または磁荷を帯びた材料、疎水性および/または親水性材料および吸収性材料が含まれる。本発明の別の特定の実施形態において、電極はIF試料の1つ以上の構成成分と(例えば化学的にまたは物理的に)反応するかまたはこれらの構成成分に結合する物質または混合物でコーティングされている。例示的電極コーティングには、ゲル、例えばヒドロゲルおよびポリマゲルが含まれ、ここでゲルにはさらに酵素、例えばグルコースオキシダーゼなどの試薬がロードされ得る。電極コーティングは、間質液の試料または試料の特定の構成成分を収集し、例えば現在の技術または将来開発される技術を適用することによってIF試料中のグルコース、乳酸または他の化合物の含有量を測定するためにさらなる試料分析を可能にするのに役立つことができる。同様に、ヒトにおいて、本発明は、同様に、頭、耳たぶ、目、首、鼻、口、胸、腹部、腕、前腕、脚、指(例えばリングの場合のように)、足およびつま先を(非限定的)に含む、体の異なる部分において実装することもできる。さらに、本発明は、ヒトおよび動物(例えばイヌまたはラットの耳、脚または尻尾内)を非限定的に含めた、任意の生きたまたは死んだ生物有機体において使用可能である。
【0040】
本発明の装置は、MHD現象を使用することにより皮膚から回収することのできる1つ以上の分析物をサンプリングするために好適である。例示的な非限定的分析物は、アミノ酸、糖、脂肪酸、補酵素、ホルモン、神経伝達物質、乳酸および薬物を含む。特定の分析物は、グルコースである。別の特定の分析物は乳酸である。
【実施例】
【0041】
実施例1
真皮からIFを抽出するための本発明に係る装置の有効性を電気泳動と比較した。近接する組織から切除した死後のブタの腹部皮膚試料(3cm×3cm)を、1)本発明に係る装置および、2)磁場を削除した本発明に係る装置を用いて処理した。したがって、実験1)および実験2)において、サンプリングはそれぞれMHDおよび電気泳動によって行なった。
【0042】
2つの実験を同時にかつ同じパラメータ化および電極構成を適用して行なった。各ケースにおいて、第1の電極および第2の電極は黒鉛製であった。全ての電極の接触表面は平担で丸形であった(直径=7mm)。2つの処理において0.4mAの直流電流を直列に確立するために、単一の電流源を使用した。電極-皮膚界面における推定上の電流密度は1mA/cm
2であった。第1の電極と第2の電極の間の離隔は、両方の実験において1cmであった。本発明に関わる装置については専ら、その表面において0.8Tの磁場を伴う永久ネオジム磁石を、抽出部位から1cmの距離のところに配設した。距離の内部で皮膚表面に対し実質的に直交しかつ真皮から皮膚表面までの流体移動の所望される方向に対し実質的に直交する方向で磁場が確立されるような形で、磁石を配設した。その結果として、皮膚内の導電流体中に皮膚表面に向かうローレンツ力が発生した。1時間という処理曝露時間は、2つの方法により抽出された真皮のIFの量の明確な差を明らかにした。
図6を見ればわかるように、本発明に係る装置を用いて抽出された流体は、裸眼でも見える液滴(
図6の左の図版に矢印でマークされている)を形成し、その量は、裸眼で識別するには充分な大きさでない電気泳動により抽出された液体の量に比べ、実質的に大きいものである。抽出された液体が蒸発することを考慮すると、本発明に係る装置で処理された試料中に観察される流体の蓄積は、この方法が電気泳動よりも実質的に高速であるということの強力な指標である。
【0043】
実施例2
健康な成人のヒトの群(n=11)において、本発明に係る装置を使用することによって、および従来の指先穿刺器具を使用することによって、間質液中および血中のグルコース濃度を測定した。
【0044】
各測定について、それぞれ本発明に係る装置かまたは従来の指先穿刺器具(CareSensTMN;model GM505PAD、i-SENSm inc、Seoul、Korea)のいずれかを使用して、間質液および血液の対試料を同時に得た。間質液の試料中のグルコース濃度を、市販のアッセイキット(AB65333、Abcam Cambridge、UK)を用いて測定した。結果は、間質液および血液の試料中のグルコース濃度の間の直接的関係を示した。結果は、本発明に係る装置で抽出された試料中のグルコース濃度を用いて、血糖を推定できるということを確認するものである。さらに、抽出手順により誘発される疼痛、皮膚反応または明らかな試料破壊は全く存在しなかった。
【0045】
間質液中のグルコース濃度は、血中グルコース濃度と相関する。1つの好ましい実施形態においては、間質液の試料中のグルコース濃度がひとたび測定された時点で、数学アルゴリズムまたは数学モデルを使用して、対応する血糖値を推定することができる。この数学アルゴリズムは、算術演算、統計関数さらには人工知能アルゴリズムで構成され得る。
【0046】
さらなる実施形態が、以下の付番された条項において開示される。
【0047】
1. 真皮から皮膚表面まで1つ以上の分析物を含む間質液をサンプリングするための方法において、
- 皮膚表面に近接して第1および第2の電極を位置付けするステップと、
- 第1の電極、間質液および第2の電極を通って電流を誘導するステップと、
- 1つ以上の分析物を含む間質液に対して磁場を誘導するステップと、
を含み、ここで、磁場および電流の方向は、ローレンツ力が真皮から実質的に皮膚表面に向かって間質液を駆動するようなものである、方法。
【0048】
2. 超音波、レーザ光、流体圧力、電場のうちの1つ以上により皮膚表面を処理するステップを含む、条項1に記載の方法。
【0049】
3. 皮膚からサンプリングされた1つ以上の分析物を含む間質液を保管および/または収集するステップを含む、条項1または2に記載の方法。
【0050】
4. 皮膚から回収された1つ以上の分析物を含む間質液を、1つ以上の分析物が分析される場所まで輸送するステップを含む、条項1または2に記載の方法。
【0051】
5. 1つ以上の分析物が、アミノ酸、糖、脂肪酸、補酵素、ホルモン、神経伝達物質、乳酸、薬物を含む、条項1ないし4のいずれか1項に記載の方法。
【0052】
6. 分析物がグルコース、タンパク質および/または乳酸である、条項1ないし5のいずれか1項に記載の方法。
【0053】
7. 1つ以上の分析物を分析するステップをさらに含む、条項1ないし6のいずれか1項に記載の方法。
【0054】
以上に記した明細書中で提供されている具体的な実施例は、添付のクレームの範囲および/または適用可能性を限定するものとしてみなされてはならない。