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特許7004678微生物のコロニーをサンプリングするためのエンドフィッティング(END FITTING)及びデバイス並びにそれを使用するサンプリング方法
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-01-06
(45)【発行日】2022-01-21
(54)【発明の名称】微生物のコロニーをサンプリングするためのエンドフィッティング(END FITTING)及びデバイス並びにそれを使用するサンプリング方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 1/04 20060101AFI20220114BHJP
   G01N 1/00 20060101ALI20220114BHJP
   C12M 1/26 20060101ALI20220114BHJP
   C12N 1/02 20060101ALI20220114BHJP
   G01N 27/62 20210101ALI20220114BHJP
【FI】
G01N1/04 V
G01N1/04 H
G01N1/04 W
G01N1/00 101B
C12M1/26
C12N1/02
G01N27/62 F
G01N27/62 V
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2018566305
(86)(22)【出願日】2017-06-14
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2019-07-25
(86)【国際出願番号】 EP2017064633
(87)【国際公開番号】W WO2017216269
(87)【国際公開日】2017-12-21
【審査請求日】2020-06-09
(31)【優先権主張番号】16174789.4
(32)【優先日】2016-06-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(31)【優先権主張番号】16192227.3
(32)【優先日】2016-10-04
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】304043936
【氏名又は名称】ビオメリュー
【氏名又は名称原語表記】BIOMERIEUX
(74)【代理人】
【識別番号】110002077
【氏名又は名称】園田・小林特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】ボーリュー, コリーヌ
(72)【発明者】
【氏名】シャリエ, ジャン-フィリップ
(72)【発明者】
【氏名】フーコー, フレデリク
(72)【発明者】
【氏名】パリ, セシール
(72)【発明者】
【氏名】ヴァンデルズ, フィリップ
(72)【発明者】
【氏名】マクルフ, ブシュラ
(72)【発明者】
【氏名】コラン, ブリュノ
【審査官】山口 剛
(56)【参考文献】
【文献】特表2014-515108(JP,A)
【文献】国際公開第2016/080411(WO,A1)
【文献】特開2003-274995(JP,A)
【文献】特開2006-047250(JP,A)
【文献】特開平08-332315(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2016/0074022(US,A1)
【文献】国際公開第2015/166019(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 1/00 - 1/44
C12N 1/02
B01L 3/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
サンプリングデバイスを用いた細菌のコロニーをサンプリングするための方法であって、
サンプリングデバイスが、エンドフィッティング、少なくとも(i)前記デバイスを把持するためのゾーンとして、少なくとも部分的に役立つ近位の部分、(ii)エンドフィッティングがその端部に取り付けられている自由端部を有する遠位の部分を含む本体、を含み、前記方法が、
(a)サンプリングデバイスの遠位の部分にエンドフィッティングを位置させる工程であって、前記エンドフィッティングが細菌のコロニーのためのサンプリング要素を含む遠方端部を含み、自由遠方端部の全て又は一部が少なくとも30%に等しい空孔率を有する繊維状の材料からなり、近位の自由端部が、前記サンプリングデバイスの本体と接触するように、かつ前記エンドフィッティングの前記本体への取り付けを可能にするように、構成される、工程と、
(b)前記エンドフィッティングのサンプリング手段を細菌のコロニーと接触させるために、培養培地上に存在する細菌のコロニーの近傍に、サンプリングデバイスを位置させる工程と、
(c)サンプリングデバイスを利用して、採取された細菌のコロニーがサンプリング手段に付着するように、細菌のコロニーの全て又は一部をサンプリングする工程と
を含む方法。
【請求項2】
細菌のコロニーの試料からのMALDI-TOFタイプの質量分析法による微生物の分析のための、分析プレートを調製するための方法であって、
(a)エンドフィッティング、少なくとも(i)サンプリングデバイスを把持するためのゾーンとして、少なくとも部分的に役立つ近位の部分、(ii)エンドフィッティングがその端部に取り付けられている自由端部を有する遠位の部分を含む本体、を含むサンプリングデバイスを、前記エンドフィッティングのサンプリング手段を細菌のコロニーと接触させるために、培養培地上に存在する細菌のコロニーの近傍に位置させる工程であって、前記エンドフィッティングが細菌のコロニーのためのサンプリング要素を含む遠方端部を含み、自由遠方端部の全て又は一部が少なくとも30%に等しい空孔率を有する繊維状の材料からなり、近位の自由端部が、前記サンプリングデバイスの本体と接触するように、かつ前記エンドフィッティングの前記本体への取り付けを可能にするように構成される、工程と、
(b)サンプリングデバイスを利用して、採取された細菌のコロニーがサンプリング手段に付着するように、細菌のコロニーの全て又は一部をサンプリングする工程と、
(c)MALDI-TOFタイプの質量分析法の分析プレートの少なくとも1つの分析ゾーンの表面にサンプリング手段を接触させることにより、採取された細菌のコロニーを前記少なくとも1つの分析ゾーンに均一に堆積させる工程と
を含む方法。
【請求項3】
サンプリングエンドフィッティングを排出する最終工程をさらに含む、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
エンドフィッティングが、少なくとも30%に等しい空孔率を有する繊維状の材料から完全になる、請求項2に記載の方法。
【請求項5】
エンドフィッティングの繊維状の材料が、50%を超える空孔率を有する、請求項2に記載の方法。
【請求項6】
エンドフィッティングの繊維状の材料が、ポリエステル、ポリエチレン、ポリエチレンテレフタレート(PET)、PETとポリエチレンのコポリマー、PET/PETポリアミドコポリマー、綿を含む群から選択される、請求項2に記載の方法。
【請求項7】
エンドフィッティングが、実質的に円錐形の又は円錐台形の全体的形状を有する、請求項2に記載の方法。
【請求項8】
サンプリング手段が、円筒形の、円錐台形の又は球形の全体的形状のものである、請求項2に記載の方法。
【請求項9】
サンプリングデバイスが、エンドフィッティングを排出するシステムを含む、請求項2に記載の方法。
【請求項10】
排出システムが、前記本体の内側に位置しかつ平行で移動し得るロッドを含む、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
ゲロース培養培地上の細菌のコロニーを単離するための方法であって、
(a)エンドフィッティング、少なくとも(i)サンプリングデバイスを把持するためのゾーンとして、少なくとも部分的に役立つ近位の部分、(ii)エンドフィッティングがその端部に取り付けられている自由端部を有する遠位の部分を含む本体、を含むサンプリングデバイスのエンドフィッティングのサンプリング手段と接触した細菌のコロニーの試料を得る工程であって、前記エンドフィッティングが細菌のコロニーのためのサンプリング要素を含む遠方端部を含み、自由遠方端部の全て又は一部が少なくとも30%に等しい空孔率を有する繊維状の材料からなり、近位の自由端部が、前記サンプリングデバイスの本体と接触するように、かつ前記エンドフィッティングの前記本体への取り付けを可能にするように、構成される、工程と、
(b)サンプリング手段がゲロース培養培地の表面と接触するように、サンプリングデバイスを前記表面の近傍に位置させる工程と、
(c)サンプリング手段が培養培地と接触したままで培養培地の表面全体を移動するように、サンプリングデバイスを移動させて、それにより、前記サンプリング手段と接触する細菌のコロニーの試料の全て又は一部を、培養培地の前記表面上に放出する工程と
を含む方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の技術分野は、分析するために、ゲロース培養培地における微生物のコロニーをサンプリングすることが意図されるデバイスの技術である。本発明は、さらに具体的には、その遠位の部分に、ポリマー材料のサンプリングチップ(sampling tip)を有するサンプリングエンドフィッティング(sampling end fitting)に関する。本発明は、この種のエンドフィッティングを含むサンプリングデバイス及びそれを使用するサンプリング方法にも関する。
【背景技術】
【0002】
現在のところ、ペトリ皿中のゲロース培養培地、又は任意の他の培地で培養された微生物(細菌、カビ、酵母等)のコロニーは、滅菌可能な器具、又は白金耳(ループとしても知られている)、スティック、チューブ又はコーンなどの単回使用の器具を使用して採取される。
【0003】
しかしながら、これらの器具では、全てのタイプの微生物を信頼性がありかつ効率的にサンプリングすることは可能でなく、その理由は、微生物は、非常に多様な形状、サイズ、密度、構造又は外見を有することができるからである。
【0004】
それに加えて、これらの消耗品では、MALDI-TOFタイプの質量分析法の分析が意図されるプレートなどの分析媒体において、採取された生物学的材料を最適に堆積可能にすることは容易でない。コロニーの下の培養培地をサンプリングせずに、細菌のコロニー又はその試料の分画をサンプリングすることができることも非常に重要である。このことは実際に、それに続く分析の結果を誤らせ得る。
【0005】
分析結果の品質は、採取された試料から形成される生物学的材料の堆積の濃度、及びそれが堆積される媒体上におけるその均質性にも依存し得る。これは、特にMALDI-TOFによる微生物分析の場合であり、その場合、試料は、最適な分析を可能にする薄く均一な層を形成しなければならない。
【0006】
ディスポーザブル又は火炎で滅菌可能な白金耳は、ペトリ皿上の微生物のコロニーをサンプリングするために、及び生物学的材料をMALDI-TOFプレート上に堆積させるために、従来使用されている。この操作は容易ではなくて、若干の器用さが求められる。親指と人指し指の間でこの種の器具を把持することは筋骨格の問題を引き起こし得る。白金耳は、作業者の手で試料が汚染されないように、一般的にその端部から離して保持されるが、しかし、この手の位置では、特に数mm単位の小さな面積に薄く均一な堆積を生じさせることが必要な場合に、白金耳の端部を正確に動かすことを、より困難にさせる。最終的に、較正された所与の量の微生物(一般的に、1μLと10μLの間)をサンプリングするようにデザインされた白金耳は、その端部に、金属又はプラスチックのループを含み、それは、一般的に1mmを超える直径を有する。このチップは、堆積が形成される表面より大きくすることができる。それに加えて、(金属又はプラスチックの)白金耳の剛直な性質は、微生物のコロニーを堅い表面に薄く均一な層で広げることにあまり適していない。
【0007】
綿棒、木のスティック、マイクロピペットのエンドフィッティングなどの他の消耗品を使用することも可能である。
【0008】
したがって、文献米国特許第9181522号には、生物学的材料の無菌的移動のための方法及び装置が記載されている。装置は、生物学的材料をある場所から別の場所に、無菌的様式で移動させる意図で、頭端に球を有する単一サイズのエンドフィッティングを収容するための二重壁のチャンバーから構成される。この種のデバイスの第1の不利点は、エンドフィッティングのUV滅菌のための一体型のシステム、その二重壁構造及びエンドフィッティングの内部装填及び取り外しのためのシステムによって、比較的複雑なデザインになっていることである。そのような複雑さは、疑いもなく、ユニットの原価に、それ故、販売価格に不利に影響する。それに加えて、ディスポーザブルのエンドフィッティングの頭端に存在する球形を作製するために使用される材料は、金属又はポリプロピレンタイプの硬質の材料で作製されるので、サンプリング方法にとって不都合なばかりか、何よりも、細菌のコロニーなどの生物学的材料を、特にMALDI-TOFタイプの質量分析法の分析プレート上に堆積するのにも不都合である。
【0009】
文献フランス特許第2668495号には、細菌学的使用のための滅菌サンプリングコーンが記載されている。前記コーンは、その遠方端部に、コーンの縦軸に対してオフセットされた、わずかに円錐台形の頑丈な突出部を有する。この突出部は、生物学的材料のサンプリングを可能にする。この端部に、1つの特定の実施態様では、任意選択的なループを含んでいてもよい。特定の構造でも、上の文献に記載されたコーンは、やはり、この種の製品のために従来使用されている材料で未だ作製されている。すなわち、生物学的材料のサンプリング及び堆積に適さない硬質かつ平滑なプラスチック材料。それに加えて、その特定の形状は、細菌のコロニーなどの生物学的材料を、MALDI-TOF質量分析法の分析プレートなどの非常に小さな面積に堆積させるために使用することが容易でない。
【0010】
本出願人は、以前、ゲロース培養培地と接触して、増殖した生物学的材料の試料の全て又は一部をサンプリングする方法を提案することにより、上で言及した不利点の全て又は一部を解決したが、それは、末端端部を備えるプローブを使用する。前記サンプリング方法は、プローブの末端端部を冷却することに本質的に基づいており、生物学的材料の試料と末端端部の接触により、又は末端端部により生物学的材料の試料に圧力をかけることにより採取されるべき生物学的材料の試料の全て又は一部を付けて、次にプローブの末端端部を加熱することにより、生物学的材料の試料の全て又は一部を放出させることを可能にする。この方法は国際公開第2012/004545号に記載されている。
【0011】
この方法の主な不利点は、それが、プローブを冷却するために比較的嵩高な設備を必要とし、それがエネルギーを消費して高い財政的コストを意味することである。
【0012】
従来技術の分析の結果は、現在のところ、使用が容易で、簡単なデザインで、かつ細菌のコロニーなどの生物学的材料のサンプリングだけでなく、堆積をも最適化するのに適した物理的性質を有するディスポーザブルのサンプリングエンドフィッティングを使用する、生物学的材料をサンプリングするためのシステムは存在しないということである。
【発明の概要】
【0013】
本発明の目的は、それ故、簡単なデザインで、製作が容易で、かつ生物学的材料をサンプリングするためのデバイスに付けられた時に、特にMALDI-TOFタイプの質量分析法の分析プレートに付けられた時に、その生物学的材料を精密にサンプリング及び堆積することを可能にするエンドフィッティングを提案することにより、これらの欠点と取り組むことである。
【0014】
これらの目的は、とりわけ、微生物起源の生物学的材料をサンプリングするための、手作業の又は自動化されたデバイスの本体にフィットされることを可能とするエンドフィッティングにおいて、
a)微生物起源の生物学的材料をサンプリングするための手段を含む遠方端部と、
b)前記サンプリングデバイスの本体と接触すること、及び前記エンドフィッティングの前記本体への取り付けを可能にすることが意図される近位の自由端部と
を含み、
前記エンドフィッティングが、自由遠方端部の全て又は一部が少なくとも30%に等しい空孔率を有する繊維状の材料からなることを特徴とする、エンドフィッティングに第1に関する本発明により達成される。
【0015】
微生物起源の生物学的材料とは、細菌、酵母又はカビからなる生物学的材料を本質的に意味する。
【0016】
1つの有利な実施態様において、本発明によるエンドフィッティングは、少なくとも30%に等しい空孔率を有する繊維状の材料から完全になる。
【0017】
繊維状の材料は、50%を超える、好ましくは70%を超える空孔率を有することが好ましい。
【0018】
繊維状の材料は、ポリエチレン、ポリエステル、ポリエチレンテレフタレート(PET)、PET/ポリエチレンコポリマー、PET/PETコポリマー、ポリアミド、綿を含む群から選択されることが有利である。
【0019】
サンプリングエンドフィッティングは、実質的に円錐形の又は円錐台形の全体的形状を有する。サンプリング手段に関しては、円筒形の、円錐台形の又は球形の全体的形状のものであることが有利である。
【0020】
本発明の別の目的は、微生物起源の生物学的材料をサンプリングするためのデバイスであって、
本発明によるエンドフィッティングと、
本体であって、少なくとも
前記デバイスを把持するためのゾーンとして、少なくとも部分的に役立つ近位の部分、及び
前記エンドフィッティングがその端部に取り付けられている自由端部を有する遠位の部分
を含む本体と
を含むデバイスに関する。
【0021】
このデバイスは、エンドフィッティングを排出するシステムをさらに含む。取り外しシステムは、有利には、エンドフィッティングを押せるように、したがって、取り外せるように、前記本体の内側に位置して、平行に移動し得るロッドを含む。
【0022】
1つの特定の実施態様において、前記ロッドは、プッシュボタンにより平行で移動し得る。
【0023】
本発明の別の目的は、微生物起源の生物学的材料をサンプリングするための方法であって、
a)本発明によるエンドフィッティングをサンプリングデバイスの遠位の部分に位置させる工程と、
b)前記エンドフィッティングのサンプリング手段を生物学的材料と接触させるために、培養培地上に存在する微生物起源の生物学的材料のコロニーの近傍に、サンプリングデバイスを位置させる工程と、
c)サンプリングデバイスを利用して、採取された生物学的材料がサンプリング手段に付着するように、生物学的材料の全て又は一部をサンプリングする工程と
を含む、方法に関する。
【0024】
本発明の別の目的は、生物学的材料の試料からのMALDI-TOFタイプの質量分析法による微生物の分析のための、分析プレートを調製する方法であって、
a)エンドフィッティングを、本発明によるサンプリングデバイスの遠位の部分に位置させる工程と、
b)前記エンドフィッティングのサンプリング手段を生物学的材料と接触させるために、培養培地上に存在する微生物起源の生物学的材料のコロニーの近傍に、サンプリングデバイスを位置させる工程と、
c)サンプリングデバイスを利用して、採取された生物学的材料がサンプリング手段に付着するように、生物学的材料の全て又は一部をサンプリングする工程と、
d)サンプリング手段を少なくとも1つの分析ゾーンの表面と接触させることにより、採取された生物学的材料を、MALDI-TOFタイプの質量分析法の分析プレートの前記少なくとも1つの分析ゾーンに均一に堆積させる工程と
を含む、方法に関する。
【0025】
微生物の分析とは、細菌又は酵母などの微生物の同定を可能にするだけでなく、ビルレンス因子の前記微生物による、任意の抗菌性に対する耐性マーカー、型分類又は発現の任意の特性を際立たせることを可能にする任意の分析を本質的に意味する。
【0026】
本発明の別の目的は、ゲロース培養培地上の微生物起源の生物学的材料を単離する方法であって、
a)本発明によるサンプリングデバイスのエンドフィッティングのサンプリング手段と接触した生物学的材料の試料を得る工程と、
b)サンプリング手段がゲロース培養培地の表面と接触するように、サンプリングデバイスを前記表面の近傍に位置させる工程と、
c)サンプリング手段が培養培地と接触したままで培地の表面全体を移動するように、サンプリングデバイスを移動させて、それにより、前記サンプリング手段と接触する生物学的材料の試料の全て又は一部を、培養培地の前記表面に放出させる工程と
を含む方法に関する。
【0027】
1つの特定の実施態様において、前記の全ての方法は、サンプリングエンドフィッティングを排出する最終の工程をさらに含む。
【0028】
生物学的材料の試料は、生物学的材料のコロニーから、前記のサンプリング方法により得ることができる。
【0029】
あるいは、生物学的材料の試料は、生物学的材料の懸濁液から得ることもできる。この種の懸濁液は、伝統的に生物学的材料の一又は複数のコロニーを食塩水溶液中の懸濁液に入れることにより得られる。この代替法によれば、前記サンプリング手段を構成する繊維状の材料の吸収力により、サンプリング手段による液体の吸収を可能にするために、サンプリングエンドフィッティングが懸濁液の分画中に漬けられる。次に、生物学的材料は、前記サンプリング手段と接触する。細菌懸濁液の濃度は、関係する微生物の成長特性に応じて当業者により決定される。これは、その一般的な背景知識に属する。同様に、エンドフィッティングに生物学的材料を装荷するために使用される懸濁液分画も、熟考して決定される。数マイクロリットルから数十マイクロリットルが有利である。
【0030】
本発明の目標及び利点は、図面を参照して行われる、本発明の詳細ではあるが、限定はしない以下の説明に照らして、よりよく理解されるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0031】
図1A】本発明の第1の実施態様によるサンプリングエンドフィッティングを表す透視図である。
図1B図1Aで表されたエンドフィッティングを表す側面図である。
図1C】第2の実施態様によるサンプリングエンドフィッティングを表す透視図である。
図2A】第1の実施態様による生物学的材料サンプリングデバイスを表す側面図である。
図2B図2Aで表した生物学的材料サンプリングデバイスを表す分解側面図である。
図2C図2Aで表した生物学的材料サンプリングデバイスの本体を表す透視図である。
図2D図2Aで表した生物学的材料サンプリングデバイスを、サンプリングエンドフィッティングを取り外した構成で表す側面図である。
図3A】第2の実施態様による生物学的材料サンプリングデバイスを表す側面図である。
図3B図3Aで表した生物学的材料サンプリングデバイスを表す分解側面図である。
図3C図3Aで表したサンプリングデバイスのロッドにプッシャー環を固定するシステムを表す拡大分解透視図である。
図4A】第3の実施態様による生物学的材料サンプリングデバイスを表す側面図である。
図4B図4Aで表した生物学的材料サンプリングデバイスを表す分解側面図である。
図4C図4Aで表したサンプリングデバイスのエンドフィッティングを排出する機構の拡大図である。
図5A】第4の実施態様による生物学的材料サンプリングデバイスを表す透視図である。
図5B図5Aで表した生物学的材料サンプリングデバイスを表す分解透視図である。
図5C図5Aで表した生物学的材料サンプリングデバイスを、サンプリングエンドフィッティングを取り外した構成で表す透視図である。
【発明を実施するための形態】
【0032】
図1Aにおいて、第1の実施態様によるエンドフィッティング10は、透視図で表される。図1Bでは、側面図で表される。この実施態様によれば、エンドフィッティング10は、円錐台形の一般的形状である。しかしながら、本発明によるエンドフィッティング10が異なる形状であることも完全に実現可能である。エンドフィッティング10は、3個の別の部品で構成されている。第1に、実質的に円錐台形の形状の遠位の部分12。この遠位の部分12は、サンプリング手段14を受け入れる部分を構成する。この端部に、遠位の部分12は自由端部16を有し、そこにブラインド空洞18が形成されて、その中にサンプリング手段14が置かれる。このため、空洞18及びサンプリング手段14の形状は、相補的でなければならない。理想的には、サンプリング手段14の寸法は、その挿入を可能にするために空洞18の寸法より僅かに小さくなければならない。しかしながら、サンプリング手段が空洞から抜けることを防ぐために、それらの寸法は比較的近いことが好ましい。エンドフィッティング10はさらに、やはり円錐台形の形状であるが、遠位の部分12より短く幅の広い近位の部分20を含む。近位の部分20の端部22は自由端部であり、ブラインド空洞24を含み、そこにサンプリングデバイスの遠方端部が収納される。
【0033】
エンドフィッティング10は、ピペットのエンドフィッティングを成形するために通常使用される材料から成形することができる。材料は、例えば、ポリオレフィンタイプのポリマーであってもよい。このタイプの材料は、一般的に廉価で、滅菌可能であり、単回使用の製品を製造するための使用に適当である。
【0034】
サンプリング手段14に関して、それを構成する材料は非常に重要である。実際、サンプリング手段は、細菌のコロニーなどの生物学的材料のサンプリングだけでなく、生物学的材料が質量分析法の分析プレートなどの分析デバイス上に置かれたときに、前記生物学的材料の放出も提供しなければならないという二重の技術的制約を有する。したがって、本発明者らは、サンプリング手段14を製造するために使用される材料の空孔率が、生物学的材料のサンプリング及び放出の見地から、性能間で達成されるべき適当な妥協を可能にする必須の特徴であることを発見した。
【0035】
さらに、サンプリング手段の独特の特徴に加えて、採取される生物学的材料が細菌のコロニーである場合に、サンプリング中又は堆積中において細菌が如何に行動するかは、細菌の種によって変わり得ることを念頭に置くことが重要である。細菌のコロニーが、関係する細菌の種に依存して、一貫していたりそうでなかったり、粘稠であったりそうでなかったり、糸状であったりそうでなかったりすることは、実際周知のことである。それ故、どのようなタイプの細菌のコロニーも、その性質がどうであれ、扱うことができるサンプリング手段を有することが必要不可欠である。
【0036】
したがって、本発明者らは、要求される性質を得るためには、少なくとも30%に等しい空孔率が必要であることを確定した。理想的には、少なくとも70%に等しい空孔率で、最高の結果を得ることができる。
【0037】
材料の空孔率とは、流体(液体又は気体)で満たされ得る固体材料の全てのボイド(細孔)を意味する。本発明者らは、空孔率とは、ボイドの体積と、関係する多孔性媒体の全体積との間の比として定義される物理的パラメーターを意味するとも理解する。
【0038】
材料の空孔率は、以下の様式で測定される。
乾燥した繊維状の材料の試料を取る。
初期の試料を秤量する。
試料を水に浸漬し、完全に含浸させる。
含浸された試料を再び秤量する。
【0039】
材料に捕捉された水の質量を、含浸された材料の質量と乾燥材料の質量との差を計算することにより導く。
【0040】
水の単位体積当たりの質量は1に近いので、この捕捉された水の体積、したがって、材料中のボイドの体積が導かれる。
【0041】
次に、含浸された試料の体積を測定する。
【0042】
その結果、上で得られた材料の試料中のボイドの値を、含浸された試料の測定された体積によって除すことにより、材料の空孔率の値を得ることが可能である。
【0043】
サンプリング手段を製造するために特に適当な材料は、繊維状の材料であってもよい。これらの材料の中で、ポリエチレン、ポリエステル、ポリアミドなどの合成材料を挙げることができる。ポリエステルの中で、ポリエチレンテレフタレート(PET)を挙げることができる。それらは、ポリエチレン/ポリエステルポリマー、ポリエチレン/PETコポリマー又はさらにPET/PETコポリマーなどのコポリマーであってもよい。繊維状の材料に関しては、繊維は、単独の構成要素又は2種の構成要素の材料からなっていてもよい。2種の構成要素の繊維は、例えばPETの芯及びポリエチレンの鞘からなっていてもよい。
【0044】
天然の繊維状の材料も等しく使用され得る。これは、特に綿繊維の場合である。
【0045】
エンドフィッティングの第2の実施態様を、図1Cに表す。このエンドフィッティング11は、3つの部分からなっており、実質的に円筒形の又は円錐台形ともいえる近位の部分13。第1の実施態様と対照的に、近位の部分13の自由端部15は、ブラインド空洞を有さず、塞がれている。実際、この実施態様によれば、サンプリングデバイスの遠方端部は、エンドフィッティング11に挿入されない。その反対に、サンプリングデバイスの遠方端部に、より正確にはその近位の端部15に挿入されるのは、エンドフィッティング11である。言うまでもなく、こうするためには、サンプリングデバイスが、エンドフィッティング11を受け入れることができる自由遠方端部を有していなければならない。それ故、サンプリングデバイスは、寸法が近位の部分13の寸法より僅かに大きくなければならないエンドフィッティング11を受け入れる空洞を含まなければならない。エンドフィッティング11は、使用後に前記エンドフィッティングの取り外しを可能にするフランジ17を含む。フランジ17は、エンドフィッティング11がサンプリングデバイスに挿入されるときに、合口として役立つこともできる。最終的に、エンドフィッティング11は、第1の実施態様によるエンドフィッティング10の場合におけるように、サンプリング手段14を受け入れることが意図される遠位の部分19を含む。遠位の部分19は、その端部に、サンプリング手段14が置かれるブラインド空洞23が中に形成された自由端部21を有する。
【0046】
サンプリングエンドフィッティング11の変形実施態様によれば、近位の端部13は、遠位の端部と近位の端部との間を通る孔を発生することを可能にするオリフィスを含むことができる。さらに、貫通孔内に位置し、近位の端部で又はことによると両方の端部で、オリフィスのレベルでエンドフィッティングに固定されたより長いサンプリング手段を使用することが可能である。この種の変形は、デザインが比較的簡単で、それ故、製造のコストは低くなる。
【0047】
図1Aから1Cに表すサンプリング手段14は、円筒形である。しかしながら、サンプリング手段14が異なる形状であることも可能である。したがって、生物学的材料をサンプリング及び堆積する正確さをさらに改善するために、サンプリング手段の自由端部は、例えば、円錐形であってもよい。サンプリング手段14の自由端部は、生物学的材料をサンプリングするために適当な任意の他の形状を有することもできる。
【0048】
本発明の1つの変形によれば、完全に多孔質材料からなるサンプリングエンドフィッティングを構想することができる。この変形実施態様によれば、サンプリングエンドフィッティングも、サンプリング手段を構成するであろう。
【0049】
本発明の別の変形によれば、サンプリング手段、サンプリングエンドフィッティング及びサンプリングデバイスは、一体であることができる。実際、多孔性サンプリングエンドフィッティングが固定された単回使用のサンプリングデバイスを構想することができる。あるいは、サンプリングデバイスは、完全に多孔質材料で作製されてもよい。このため、サンプリング手段の寸法は、容易な把持及び操作を可能にしなければならない。
【0050】
サンプリングエンドフィッティングとサンプリング手段とのコンジュゲート、又はサンプリングエンドフィッティングと一体であればサンプリング手段単独は、生物学的材料をサンプリングするための自動化されたシステムで使用されるように適合させることもできる。この種のシステムは、例えば、ペトリ皿上の細菌のコロニーを自動的にサンプリングして、質量分析法の分析プレートを調製することができる。
【0051】
図2Aに、第1の実施態様によるサンプリングデバイス30を表す。このサンプリングデバイス30は、遠位の部分32、中間部分34及び近位の部分36を含む。実質的に円錐台形の遠位の部分32の機能は、本発明によるサンプリングエンドフィッティング10を担持する。やはり円筒形の中間部分34の機能は、その使用者によるサンプリングデバイス30の把持を可能にすることである。最終的に、近位の部分36は、バケツの一般的形状を有し、その内径は中間部分34の外径より僅かに大きく、その結果、近位の部分が中間部分の近位の端部を部分的に覆うことができる。
【0052】
図2Bは、サンプリングデバイス30を、このデバイスの各構成要素が別々に表されている分解図で表す。それ故、遠位の部分32と中間部分34とは実際には一体であり、同じ構成要素38がサンプリングデバイスの本体を構成していることが見て取れる。
【0053】
図2Cで表されているように、この実質的に円筒形の本体38は、それを通る縦の周辺開口部382を、中央開口部384と一緒に有する。開口部382は、各々が、図2Bに表されるように、ロッド40のブレード401を受け入れるように配置されている。開口部384はどうかといえば、図2Bに表されるように、コイルばね42を受け入れるように適合されている。ロッド40は、それ故、主に、底部が環の合口402に固定されている3枚のブレード401からなっている。環の合口402が中間部分34の遠方端部を圧迫するまでブレード401の自由端部を開口部382中に導入したときに、ロッド40は、デバイス38の本体の内側に位置する一方、遠位の部分32は、前記環の合口402の開口部を通り抜ける。デバイス38の本体の反対側の端部では、コイルばね42の下端が、開口部384に収納される一方、その上端は、デバイス38の本体に蓋をするサンプリングデバイスの近位の部分36の内面と接触して置かれる。この近位の部分は、使用が終わったサンプリングエンドフィッティング10を排出するときにプッシャーメンバーとして役立つ。
【0054】
ブレード401は、中間部分34より長く、その結果、ロッド40がデバイス38の本体の内側に置かれたときに、ブレード401の自由先端は開口部382から突き出る。これらの自由端部は、ばねが定位置にある場合、プッシャーメンバー36に固定される。この固定は機械的であってもよい。したがって、プッシャーメンバー36の壁内に形成された開口部に収められたブレード401の自由端部の近傍に半径方向に突き出た突出部を置くことが構想され得る。あるいは、ブレード401の自由端部を、プッシャーメンバー36の内面に化学結合により固定することも可能である。
【0055】
図2Dに表されるように、プッシャーメンバー36に、サンプリングデバイスの縦軸に沿って圧力がかけられたときに、プッシャーメンバーはデバイス38の本体上を滑って動く。この滑動作用は、プッシャーメンバー36に固定されているロッド40に伝えられて、ロッド40がデバイス38の本体の内側を滑動する。この滑動は、サンプリングデバイスの遠方端部で環状プッシャーメンバー402の平行移動によって現れる。環状プッシャーメンバー402がエンドフィッティング10の近位の端部を圧迫するので、前記エンドフィッティングを平行移動で押しやって、その結果、エンドフィッティングはサンプリングデバイス30の遠方端部32から脱離する。プッシャーメンバー36によりコイルばね42にかけられた圧は、コイルばね42の圧縮をもたらす。この圧縮が、ロッド40に伝えられて、それが前に説明したように滑り動く。近位の部分36における圧が開放されたときに、ばね42は、休止位置に向かって戻り、その位置でばねは、もはやロッド40を押さない。したがって、ロッドは、逆の平行移動によりその初期位置を回復し、遠位の部分32を自由にして、その結果、遠位の部分32は、別のサンプリングエンドフィッティングの受け入れに利用可能になる。
【0056】
サンプリングエンドフィッティング10を有するサンプリングデバイス30を使用する方法の種々の工程は、それ故、以下のように総括してもよい。
エンドフィッティング10は、サンプリングデバイスの自由端部32に配置される。この工程は、デバイスを、一般的に適当な支持体上に配置された滅菌エンドフィッティングと並んで垂直に置くことにより一般的に実施される。次に、サンプリングデバイスの遠位の部分32の端部が、エンドフィッティング10の近位の部分20の空洞24中に、空洞24の底に接するまで挿入される。
【0057】
ゲロース培養培地上の微生物のコロニーなどの生物学的材料をサンプリングするために、サンプリングデバイスは、エンドフィッティングのサンプリング手段が微生物のコロニーと接触するように位置する。そうして、コロニーの全部又は一部が採取される。
【0058】
採取された生物学的材料の全部又は一部を、MALDI-TOF質量分析法の分析プレートの表面などの表面に堆積させるために、サンプリングデバイスを前記表面に向かって動かすことで、生物学的材料を運ぶサンプリング手段の端部が、上記表面と接触する。次に小さい円形の移動がサンプリングデバイスで実施されて、生物学的材料の層を前記表面に堆積させる。
【0059】
堆積物が適用されたら、サンプリングエンドフィッティングを、取り外し手段を動かすことによって取り外して、ごみ箱に捨てる。図3から5に表したサンプリングデバイスの場合では、取り外しは、近位の部分36に圧をかけることにより実行される。
【0060】
サンプリングデバイスの第2の実施態様を、図3Aから3Cに表す。このサンプリングデバイス50は、実質的に円筒形の中空の本体52からなる。この本体52は、その遠位の部分に、サンプリングエンドフィッティング10を担持することが意図される実質的に円錐台形の形状の自由端部521を有する。この自由端部521は、3箇所の隙間の空間を区切る3枚の鰭状部(図示せず)により本体52に固定されている。本体52は、連結システム又はクリップ522も含み、サンプリングデバイスが外被のポケットに、例えば、ペンのように取り付けられることを可能にする。最終的に、図3Aには、本体52の近位の端部から出るプッシュボタン54も見られる。図3Bで見ることができるように、プッシュボタン54は、本体52の内側に置かれたロッド56に固定されている。この実質的に円筒形のロッド56はその末端端部が、大写しの拡大図3Cに表した3つの取り付け突出部561で終わる。前記取り付け突出部561の間の中央の空間は、図3Bで示したように、コイルばね58を受け入れることが意図されている。
【0061】
ロッド56は、本体の近位の端部を通して本体52中に挿入され、コイルばね58が最初に挿入される。前記コイルばね58は、遠方端部521の鰭状部及び上部を圧迫するように配置される。挿入されると、ロッド56は、取り付け突出部561が鰭状部の間で区切られた隙間の空間を超えるようにばねにまたがり、本体52の底部で自由端部521の周りに突き出るように配置される。環60は、自由端部521の周りに取り付けられる。この環60は、取り付け突出部561の端部を受け入れることが意図された3つの開口部601を有する。取り付け突出部は、それらの端部に半径方向のタブ5611を有し、突出部が環60の内側に置かれると、タブ5611が開口部601中にロックされて、したがって、環60及びロッド56とを一緒に固定する。あるいは、及び機構を簡単にする狙いで、この機械的固定システムを、環に嵌まり込むタブのない突出部を含むシステムで置き換えることは完全に可能である。図3Aに表したように、環60は、本体52を自由端部521の上部のレベルで圧迫することになるが、それは、ロッド56に、本体52の上部方向への反発力をはたらかせるコイルばね58の作用のためである。
【0062】
サンプリングデバイス30の第1の実施態様におけるように、サンプリングデバイスの縦軸に沿った圧力がプッシュボタン54にかかると、この圧力がプッシュボタン54に固定されているロッド56に伝えられる。そうすると、プッシュボタンが滑って本体52内側に来て、その結果、コイルばね58を圧縮する。この滑動は、サンプリングデバイスの遠方端部で環60の平行移動によって現れて、その結果、環が、エンドフィッティング10の近位の端部を圧迫することになり、平行移動してエンドフィッティングを押しやり、遂にエンドフィッティングがサンプリングデバイス50の遠方端部521から脱離する。ロッド56によりコイルばね58にかけられた圧が開放されると、プッシュボタン54への圧が開放されるので、ばねはその休止位置を回復する。ロッド56は、ばねの圧により、環60が本体52を圧迫するまで、逆方向の平行移動で押しやられて、遠位の部分521が、別のサンプリングエンドフィッティング10を再び受け入れることを可能にする。
【0063】
サンプリングデバイスの第3の実施態様を図4Aから4Cに表す。このサンプリングデバイス70は、実質的に円筒形の中空の本体72からなる。この本体72は、その遠位の部分に、サンプリングエンドフィッティング10を担持すること意図する実質的に円錐台形の形状の自由端部721を有する。この自由端部721は、3つの隙間の空間を区切る3つの鰭状部(図示せず)により本体72に固定されている。本体72の側面に置かれたプッシュボタン74も見られ、プッシュボタン74は、図4Bで見ることができるように、本体72の側面の壁に形成された開口部722に挿入されることになる。それは、本体72にその上端で挿入されているロッド76も含む。このロッド76は、実質的に直方形の断面の一体型の近位の部分761と3つの取り付け突出部762からなる遠位の部分とからなる。遠位の部分との界面で、近位の部分761はその両面に、プッシュボタン74と協調作動することが意図される傾斜のあるショルダー7611を有する。ロッド76は、サンプリングデバイス70の近位の端部を通して、サンプリングデバイス70の本体72に挿入される。ロッド76が挿入されると、取り付け突出部762は、自由端部721を保持する鰭状部の間の区切られた隙間の空間を越えて、前記自由端部721の周りで本体72の底部から突き出る。環78は自由端部721の周りに挿入される。この環78は、前に記載された環60と同様であり、取り付け突出部762の端部を受け入れることが意図される3つの開口部を含み、半径方向のタブ7621も備えて、環78の開口部と協調作動することが意図され、図4Cに示すように、環78にロッド76を固定することが意図されている。
【0064】
プッシュボタン74は、上下逆転した「U」形状の断面図を有し、ロッド76の近位の部分761の周りに位置して、特に傾斜のあるショルダー7611のレベルで、ロッド76の近位の部分761にまたがることを可能にすることが意図されている。プッシュボタン74は、その2つの側面の各々に、ハウジング722に置かれた際に、脱落することを防止することが意図される3つの突出部741を有する。ロッド76及びプッシュボタン74が、サンプリングデバイス70の本体72に位置したとき、プッシュボタン74は、その遠位の部分のレベルで、傾斜したショルダー7611を圧迫することになり、ロッド76が脱落することを防止する。プッシュボタンと傾斜したショルダー7611との間の相互作用が、休止位置とサンプリングエンドフィッティング10を排出する位置との間のロッド76の動きを可能にする。実際、エンドフィッティング10がサンプリングデバイス70の遠方端部721に位置したときに、サンプリングデバイスは、環78を圧迫する。次に、環は、図4Aに示すように、本体72に対して高い位置に置かれる。そのとき、ロッドは休止位置にあり、そこで、プッシュボタン74は、再び高い位置にある。
【0065】
サンプリングデバイス70の使用者が、サンプリングエンドフィッティング10を排出することを望む場合、彼らは、プッシュボタン74に圧をかける。この圧が、プッシュボタンがハウジング722の中で押し下げられるようにはたらき、次にそれが、傾斜したショルダー7611上を滑る。横に動くことができないプッシュボタンは、傾斜したショルダー7611上のその滑動で、ロッド76の、本体72の遠方端部に向かう水平な平行の動きを導く。次に、ロッドは、その休止位置からエンドフィッティングを排出するための位置に移動して、そこで取り外し環78は、エンドフィッティングに圧をかけた後、再び低い位置にあって、このことが、図4Cに表したように、エンドフィッティングの取り外しを導く。
【0066】
第4の実施態様を図5Aから5Cに表す。この実施態様は、第3の実施態様と非常に似ていて、サンプリングデバイスの操作に関する。実際、図5Aから5Cで表したサンプリングデバイス80は、実質的に円筒形の中空の本体82からなる。この本体82は、一体であり、その遠位の部分に、実質的に円錐台形の自由端部821を有する。この端部821に、円形オリフィス822が設けられている。このオリフィスは、図1Cを参照して説明したように、サンプリングエンドフィッティング11の近位の部分13を受け入れることが意図されている。この構成で、サンプリングエンドフィッティング11は、サンプリングデバイス80の本体中で、エンドフィッティング11のフランジ17が本体82の端部821を圧迫するようになるまで、押し下げられる。本体82は、本体82の側面にプッシュボタン84も含み、プッシュボタン84は本体82の側面の壁に形成されたハウジング823に挿入される。それは、最終的に、本体82中に、その上端で挿入されたロッド86を含む。このロッド86は、実質的に直方形の断面の一体型の近位の部分861と、断面が実質的に円形で端部が乳頭状突起863の一体型の遠位の部分862とからなる。近位の部分861と遠位の部分862との間の界面に、2つの傾斜のあるショルダー8611が、近位の部分861の両面のそれぞれに形成されている。これらのショルダー8611及びプッシュボタン84は、図4Aから4Cに表したサンプリングデバイス70を参照して前に説明されたものと同一の機構により協調作動させられて、その結果、使用者がプッシュボタン84を押すと、それらが本体82の開口部で、本体の遠方端部へと向かうロッド86の平行の動きを開始させる。次に、乳頭状突起863は、エンドフィッティング11の近位の部分13の自由端部15を圧迫して、エンドフィッティング11に圧をかけて、その結果、エンドフィッティング11は、サンプリングデバイス80から、平行の動きにより取り外される。このことを図5Cで明確に示す。新しいアダプター11がサンプリングデバイス80に付けられると、本体82の開口部中に、オリフィス822を通して進入している近位の部分13は、ロッド86を反対方向に押して、プッシュボタン84と協調作動する傾斜したショルダー8611によって、垂直な平行の動きによりプッシュボタン84を上昇させる。
【0067】
サンプリングデバイスの他の実施態様も構想することができる。したがって、1つの可能な他の実施態様は、エンドフィッティングを圧迫してその取り外しを可能にすることが意図される機械的システムを、遠方端部に、しかし本体上の外側部分に設置することにある。例えば、この場合、サンプリングデバイスの本体上を平行移動で動くことができるスリーブが、サンプリングエンドフィッティングと接触することができて、それが使用者により動かされたときに、サンプリングエンドフィッティングが取り外されることを可能にする。
【0068】
サンプリングデバイスを使用して分析するための生物学的材料の試料を調製するための他のプロトコルも構想することができる。したがって、生物学的材料が採取されると、食塩水溶液などの特定の目的の溶液中で生物学的材料の懸濁液を調製することが可能である。これを行うために、生物学的材料を運ぶサンプリングエンドフィッティングを、ある量の溶液を懸濁液中に含有するチューブ中に直接放出することも構想することができる。そのとき、エンドフィッティングを含むチューブのボルテックスによる攪拌が、繊維状の材料に保持されていた生物学的材料の放出を可能にするであろう。
【0069】
サンプリングデバイスは、ゲロース培養培地上の単離を実施するためにも使用することができる。この単離は、本発明によるサンプリングデバイスを用いて採取されたコロニーから直接行うこともできて、次にゲロース培養培地に直接再播種することもできる。それは、前に記載したように、サンプリングデバイスを利用して産生された生物学的材料の懸濁液から同様に産生することができる。
【0070】
サンプリングデバイスが単離を実施するために使用される場合、サンプリング手段が球形の端部を有し、その端部において、それがゲロース培養培地を圧して該培地を損傷することを防止するのに十分な直径のものであることが好ましい。適当な直径は、例えば、2から7ミリメートル(mm)の間、有利には2から4mmの間である。
【0071】
単離は、濃度が、例えば、10CFU(コロニー形成単位)/mL(ミリリットル)の細菌の懸濁液から行うことができる。そのような濃度であれば、サンプリング手段を使用する5マイクロリットル(μL)の懸濁液の試料が、ゲロース培養培地で良好な品質の単離を可能にするのに十分である。5μLの懸濁液を、サンプリング手段を構成している材料により吸引する。次に、懸濁液を装填された前記サンプリング手段は、懸濁液がゲロース培養培地に適用されたときに、その懸濁液を徐々に放出することを可能にすることができる。この徐々に放出することは、サンプリング手段を構成している材料の吸収剤としての性質のおかげで可能になる。この結果は、改善された単離の品質である。
【0072】
単離は、いわゆる「ダイヤル」技法又はいわゆる「スパイラル」技法などの伝統的技法によって行うこともできる。
【実施例
【0073】
実施例1: MALDI-TOF分析用のプレートを調製するためのサンプリングエンドフィッティングを有するサンプリングデバイスの使用
この例で使用されるサンプリングデバイスは、図2Aから2Dで表した、かつ前に記載したデバイスである。
【0074】
サンプリングエンドフィッティングは、のピペットエンドフィッティングを製造するために従来使用されてきた材料などのプラスチック材料で作製される。それは、直径が2mm及び長さが6mmの円筒形のサンプリング手段を含む。それは、参照番号PSU-832でPorex社により市販されている材料であるポリエチレンテレフタレート(PET)/PETコポリマーの繊維からなる。
【0075】
サンプリングデバイスの本体は、ポリプロピレンから射出成形されたものである。それは、120mmの長さ及び六角形の対向する面同士の間が8.2mmの六角形の断面を有し、これにより、鉛筆のように容易な把持が可能で、筋骨格の問題のリスクがない。
【0076】
サンプリングデバイスを使用して、参照番号43041で本出願人により市販されている、コロンビア寒天+5%ヒツジ血液(COS細胞系)培養培地で増殖した、異なる種の細菌のコロニーをサンプリングする。
【0077】
採取されたコロニーを、参照番号410893で本出願人により市販されている、48個の位置を有するディスポーザブルのMALDI-TOF用分析プレート上に堆積させる。
【0078】
選択された種のうち、幾つかは、サンプリングが困難なコロニーを形成することが知られている。これは、例えば、バシラス・リケニフォルミス(Bacillus lichenformis)、肺炎桿菌(Klebsiella pneumoniae)、プロテウス・ミラビリス(Proteus mirabilis)又はノカルディア アステロイデス(Nocardia asteroides)の場合である。
【0079】
方法は、以下の工程に従って実施される。
1.サンプリングエンドフィッティングを、サンプリングデバイス上に置く。
2.サンプリングエンドフィッティングにより担持されている繊維状の材料で作製されたサンプリング手段を、コロニーと接触させることにより、サンプリングデバイスを利用して、COS細胞系タイプの培養培地で、細菌のコロニーを採取する。
3.細菌の試料を運ぶサンプリング手段をMALDI-TOF用プレートと接触させ、圧をかけて、試料を広げることにより、MALDI-TOF分析用プレート上の、この目的のために提供された48個の位置の1つに、細菌の試料を堆積させる。サンプリング手段の繊維状の材料にかけられた圧は、前記繊維状の材料における過剰の試料の保持を可能にする。分析を繰り返すことを望む場合に、分析プレート上の異なる位置で続けて堆積を実施することは可能である。これらの他の堆積物は、同じエンドフィッティングを使用して適用することができる。
4.全ての堆積物が適用された後、前に記載したように、プッシュボタンに圧をかけることにより、サンプリングエンドフィッティングを取り外してごみ箱に排出される。
5.マイクロピペットを利用して、1μLのマトリックス(使用準備が整ったαシアノ4-ヒドロキシケイ皮酸、bioMerieux、参照番号411071)を、生物学的材料の各堆積物上に堆積させる。
6.分析することが望まれる各コロニーについて、工程1から5を繰り返す。
7.較正のために、及び陽性コントロールとして使用される大腸菌(E.coli)ATCC8739株も、工程1から5に従って堆積する。
8.分析プレートを、マトリックスが乾燥するのに必要な時間、貯蔵する。
9.プレートが完全に乾燥したら、それを、本出願人により市販されているMALDI-TOF VITEK(登録商標)MS質量分光計に導入して、質量スペクトルを取得する。
10.エキスパートシステム及びVITEK(登録商標)MSデータベースを使用して、スペクトル分析により、微生物を同定する。
【0080】
同じ細菌のコロニーを、当業者に周知であり、白金耳を使用するMALDI-TOF分析用プレートの調製のための、伝統的方法を使用して分析する。
【0081】
2通りの分析プレート調製方法で得られた結果を、表1に示して比較する。
【0082】
記号「レ」は、スペクトルが、品質良好で、期待される種の同定を可能にすることを意味する。
【0083】
記号「X」は、スペクトルが、種の同定を可能にするには品質が十分でないことを意味する。
【0084】
本発明によるサンプリングデバイスを使用するプロトコルを使用して、分析された全ての種が、VITEK(登録商標)MSを使用する質量分析法により正しく同定されることが、表1の分析の結果である。
【0085】
比較により、細菌のコロニーをサンプリングするために白金耳を使用する伝統的プロトコルでは、分析された13種のうち6種だけが正しく同定された。同定されなかった種のうち、大部分は、操作が困難なコロニーを形成することが知られているものである。
【0086】
特に有利な様式では、本発明の方法は、それ故、非典型型なコンシステンシーを有するコロニーを形成する細菌種のサンプリング及び堆積を可能にする。したがって、粉末状及び痂皮形成種、例えば、B・リケニフォルミス(B.lichenformis)又はN・ファルシニカ(N.farcinica)など、粘着性種、例えば、K・ニューモニエ(K.pneumoniae)など、及びゲロース上で拡散する種、例えばP・ミラビリス(P.mirabilis)などについて、MALDI-TOF質量分析法により優れた同定結果を容易に得ることが可能である。
【0087】
48種の試料を堆積させるために必要な時間は、白金耳(16分)を用いるよりも、本発明によるサンプリングデバイス(12分)を用いる方が短いことも見出されている。
【0088】
本発明の方法は、それ故、従来技術の参照方法よりも、より人間工学的で、より使用し易く、より速いものであり、かつより優れた結果が得られることを可能にする。
【0089】
実施例2: 異なる繊維状の材料を使用する、質量分析法分析による異なる種の細菌の同定における性能の比較
この例では、異なる空孔率を有する複数の繊維状の材料を、特に、異なる種の細菌のコロニーから来る生物学的材料の効果的なサンプリングを可能にするそれらの性能について、しかしMALDI-TOF分析用プレート上に均一な堆積物を生じさせるそれらの能力についても同等に、試験した。実際、MALDI-TOF質量分析法による細菌の種の同定における性能は、材料の量又は堆積物の均質性がどうであろうと、分析プレート上における生物学的材料の堆積物の品質に直結される。
【0090】
それ故、種々の種について、それらを同定するために、MALDI-TOF質量分析法の分析に供した。
【0091】
サンプリングデバイスを含む分析プロトコルは、実施例1に記載された通りである。
【0092】
試験した材料を下の表2に示す。
【0093】
表2には、使用された材料の試料の寸法が示されている。それに加えて、前に示した方法による空孔率の計算を可能にする値も示した。
【0094】
材料PSU892は、ポリエチレンテレフタレートのエンベロープ及びポリエステルの芯からなる2種類の構成要素の繊維から得られた材料である。この種の材料は、POREX(登録商標)社により市販されている。加えてそれは、特許出願の国際公開第03/080904号に記載されている。
【0095】
材料XA-20521-PSは、ポリエチレンを主成分とする材料である。この種の材料は、POREX(登録商標)社により商品名NIBSで市販されている。
【0096】
試験を実施するために、3種類の異なる種の細菌を使用した。
・表皮ブドウ球菌(Staphylococcus epidermidis)(株ATCC12228)
・肺炎桿菌(Klebsiella pneumoniae)(株ATCC13883)
・大腸菌(Escherichia coli)(株ATCC25922)
【0097】
これらの種を、本出願人により参照番号43041で市販されている、5%のヒツジ血液(COS)を含有するコロンビアゲロース培養培地上に各々播種した。
【0098】
各種について、コロニーを、本発明によるサンプリングデバイスで採取して、4つの堆積物をMALDI-TOF分析プレートの4つの隣接する位置で作製する。
【0099】
結果を下の表3に示す。
【0100】
高い空孔率値(70%を超える)を有する材料は、同定性能が、全ての種を正しく同定することにおいて優れていることがわかる。これは、綿又は材料PSU892についての場合である。
【0101】
他方、より低い空孔率の値を有する材料が使用される場合、同定性能が影響されることがわかる。したがって、39%の空孔率を有する材料XA-20521-PSでは、大腸菌の4つの堆積物のうち2つが、この細菌の同定を可能にしなかったことがわかる。したがって、僅か83.3%の同定率という結果である。
図1A
図1B
図1C
図2A
図2B
図2C
図2D
図3A
図3B
図3C
図4A
図4B
図4C
図5A
図5B
図5C