IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 東レ・ダウコーニング株式会社の特許一覧

特許7004721光学部材用樹脂シート、それを備える光学部材、積層体又は発光デバイス、及び光学部材用樹脂シートの製造方法
<>
  • 特許-光学部材用樹脂シート、それを備える光学部材、積層体又は発光デバイス、及び光学部材用樹脂シートの製造方法 図1
  • 特許-光学部材用樹脂シート、それを備える光学部材、積層体又は発光デバイス、及び光学部材用樹脂シートの製造方法 図2
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-01-06
(45)【発行日】2022-01-21
(54)【発明の名称】光学部材用樹脂シート、それを備える光学部材、積層体又は発光デバイス、及び光学部材用樹脂シートの製造方法
(51)【国際特許分類】
   G02B 5/20 20060101AFI20220114BHJP
   H05B 33/12 20060101ALI20220114BHJP
   H01L 51/50 20060101ALI20220114BHJP
   H05B 33/10 20060101ALI20220114BHJP
   H05B 33/02 20060101ALI20220114BHJP
   C08J 5/18 20060101ALI20220114BHJP
   B32B 7/023 20190101ALI20220114BHJP
   B32B 27/00 20060101ALI20220114BHJP
   B32B 27/20 20060101ALI20220114BHJP
   H01L 33/50 20100101ALI20220114BHJP
【FI】
G02B5/20
H05B33/12 E
H05B33/14 A
H05B33/10
H05B33/02
C08J5/18 CER
C08J5/18 CEZ
B32B7/023
B32B27/00 101
B32B27/20 Z
H01L33/50
【請求項の数】 15
(21)【出願番号】P 2019532546
(86)(22)【出願日】2018-07-19
(86)【国際出願番号】 JP2018027042
(87)【国際公開番号】W WO2019021926
(87)【国際公開日】2019-01-31
【審査請求日】2020-01-10
(31)【優先権主張番号】P 2017146350
(32)【優先日】2017-07-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000110077
【氏名又は名称】デュポン・東レ・スペシャルティ・マテリアル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100188558
【弁理士】
【氏名又は名称】飯田 雅人
(74)【代理人】
【識別番号】100133086
【弁理士】
【氏名又は名称】堀江 健太郎
(72)【発明者】
【氏名】尼子 雅章
(72)【発明者】
【氏名】津田 武明
【審査官】中山 佳美
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-119454(JP,A)
【文献】特表2015-510257(JP,A)
【文献】特表2016-508290(JP,A)
【文献】国際公開第2017/094618(WO,A1)
【文献】国際公開第2009/093427(WO,A1)
【文献】国際公開第2016/194948(WO,A1)
【文献】国際公開第2017/094832(WO,A1)
【文献】特表2016-522978(JP,A)
【文献】国際公開第2017/057074(WO,A1)
【文献】国際公開第2013/089075(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02B 5/20
H05B 33/12
H01L 51/50
H05B 33/10
H05B 33/02
C08J 5/18
B32B 7/023
B32B 27/00
B32B 27/20
H01L 33/50
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
シートの幅方向について、シート末端の厚みとシート中央の厚みの差がシートの総膜厚に対して5.0%以内であり、シート中央の厚みが10~1000μmの範囲であり、かつ、シート面積が225mm以上であり、
(A)酸化物系蛍光体、酸窒化物系蛍光体、窒化物系蛍光体、硫化物系蛍光体、フッ化物系蛍光体及び酸硫化物系蛍光体から選ばれる1種類若しくは2種類以上の蛍光体または1種もしくは2種類以上の反射材、及び
(B)分子内に SiO 3/2 (式中、R は炭素原子数6~14のアリール基である)で表されるアリールシロキサン単位を有するレジン構造ブロック及び(RSiO2/2(式中、Rはハロゲン原子で置換されてもよい炭素原子数1~20のアルキル基又は炭素原子数6~14のアリール基であり、nは3~1000の範囲の数である)で表されるポリジオルガノシロキサン構造を有するリニア構造ブロックを有し、アルケニル基を有する、25℃において非流動性のレジン-リニアオルガノポリシロキサンブロックコポリマーを含むバインダー樹脂、を含むことを特徴とする、光学部材用樹脂シート。
【請求項2】
前記シート中央の厚みが30~900μmの範囲であり、シートの幅方向について、シート末端の厚みとシート中央の厚みの差がシートの総膜厚に対して2.5%以内である、請求項1に記載の光学部材用樹脂シート。
【請求項3】
前記蛍光体又は反射材が、シートの総重量に対して10~90質量%の範囲で含まれる、請求項1又は2に記載の光学部材用樹脂シート。
【請求項4】
加熱溶融性を有することを特徴とする、請求項1から3のいずれか1項に記載の光学部材用樹脂シート。
【請求項5】
成分(B)が、前記レジン構造ブロックと前記リニア構造ブロックとがシルアルキレン結合又はSi-O-Si結合により連結された構造を有するブロックコポリマーである請求項1に記載の光学部材用樹脂シート。
【請求項6】
前記シートが、さらに分岐鎖状または樹脂状のオルガノハイドロジェンポリシロキサン、および硬化性触媒を含むことを特徴とする、請求項1に記載の光学部材用樹脂シート。
【請求項7】
前記蛍光体又は反射材の少なくとも一部が、有機ケイ素化合物により表面処理されている、請求項1からのいずれか1項に記載の光学部材用樹脂シート。
【請求項8】
前記反射材が、酸化チタン、酸化バリウム、酸化クロム、酸化鉄、窒化ホウ素、及び窒化チタンから選ばれる1種類又は2種類以上である、請求項1からのいずれか1項に記載の光学部材用樹脂シート。
【請求項9】
(C)シリカ粒子をさらに含む、請求項1からのいずれか1項に記載の光学部材用樹脂シート。
【請求項10】
請求項1からのいずれか1項に記載の光学部材用樹脂シートを備える、光学部材。
【請求項11】
請求項1からのいずれか1項に記載の光学部材用樹脂シートを備える、積層体。
【請求項12】
剥離層をさらに備える、請求項11に記載の積層体。
【請求項13】
請求項1からのいずれか1項に記載の光学部材用樹脂シートにより封止された構造を有する、発光デバイス。
【請求項14】
光学部材用樹脂シートの原料を25℃における粘度10~10,000mPa・s、ウエット状態での膜厚が10~1000μmとなる条件で、シート塗布製造機フレームアプリケーターによって基材上に塗布して製造されたことを特徴とする、請求項1からのいずれか1項に記載の光学部材用樹脂シートの製造方法。
【請求項15】
光学部材用樹脂シートの原料を25℃における粘度10~10,000mPa・s、ウエット状態での膜厚が10~1000μmとなる条件で、シート塗布製造機としてスリットコーターを用い、塗布速度w(cm/sec)の条件において、液圧立ち上がり時間を1.0/w sec以下の条件で製造されたことを特徴とする、請求項1からのいずれか1項に記載の光学部材用樹脂シートの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光学部材用樹脂シート、それを備える光学部材、積層体又は発光デバイス、及び光学部材用樹脂シートの製造方法に関する。特に、本発明は、平坦性に優れ、照明やディスプレイ装置等に使用可能な光学部材用樹脂シート、それを備える光学部材、積層体又は発光デバイス、及び光学部材用樹脂シートの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
効率、物性及び耐久性に優れた光学部材用樹脂シートは、LED等の発光デバイスなどに使用されている。このような樹脂シートは、例えばLEDチップ上に積層して使用されるため、平坦性に優れることが求められている。従来、このような樹脂シートを製造するために、ロールtoロールプロセス等の連続プロセスが用いられてきたが、連続プロセスは大面積のシートを大量に製造することに適しており、LED等における小ロットで多様な製品の製造には適していなかった。
【0003】
特許文献1には、検査システムにおいて使用されるシート塗布製造機が開示されている。しかしながら、特許文献1に記載されたシート塗布製造機の基板はガラスであり、高分子フィルムのようなフレキシブルな基板の上に塗布することについては開示されていない。また、特許文献2には、処理液の膜を製造する際に、処理液の調子を整えてから膜を形成する方法が開示されている。しかしながら、特許文献2にも基板が高分子フィルムのようなフレキシブルな基板であることは開示されていない。
【0004】
特許文献3には基本的なシート塗布製造機が開示されているが、その品質をどのように制御し、平坦性に優れたシートを得ることができるかについては開示されていない。特許文献4及び5にもシート塗布製造機が開示されているものの、いずれも連続プロセスに適用されるものであり、光学部材用樹脂シートの製造に使用されることは開示されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】米国特許第2010/0189880号明細書
【文献】特開平10-76205号公報
【文献】米国特許第4938994号
【文献】国際公開第97/26999号
【文献】特表2016-500382号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
したがって、LED等の発光デバイスに使用される光学部材用樹脂シートとして、平坦性に優れた樹脂シート、及びその製造方法が求められていた。特に、小ロットでの製造に適したバッチプロセスによって、製品として許容される平坦性を備えた光学部材用樹脂シート、及びその製造方法については、従来知られていなかった。
【0007】
さらに、光学部材用樹脂シートを備えた光学部材として使用した場合に、LED等の発光デバイスの効率が良く、耐久性にも優れた樹脂シート又はそれを備えた発光デバイスが求められていた。
【0008】
本発明は上記従来技術の課題を解決すべくなされたものであり、光学部材としての特性に優れ、発光デバイス等に使用した場合にも優れた性能を示す樹脂シート及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは上記課題について鋭意検討した結果、本発明に到達した。すなわち、本発明の目的は、シートの幅方向について、シート末端の厚みとシート中央の厚みの差がシートの総膜厚に対して5.0%以内であり、シート中央の厚みが10~1000μmの範囲であり、かつ、シート面積が225mm以上であり、少なくとも1種類以上の蛍光体又は反射材を含有することを特徴とする、光学部材用樹脂シートによって達成される。
【0010】
前記シートの幅及び長さはそれぞれ15mm以上であり、前記シート面積は400mm以上であることが好ましい。
【0011】
前記シート中央の厚みは30~900μmの範囲であり、シートの幅方向について、シート末端の厚みとシート中央の厚みの差はシートの総膜厚に対して2.5%以内であることが好ましい。
【0012】
前記蛍光体又は反射材は、シートの総重量に対して10~90質量%の範囲で含まれることが好ましい。
【0013】
前記蛍光体又は反射材は、少なくともシリコーン樹脂を含有するバインダー樹脂中に分散された構造を有することが好ましい。
【0014】
本発明の光学部材用樹脂シートは、加熱溶融性を有することが好ましい。
【0015】
本発明の光学部材用樹脂シートは、
(A)酸化物系蛍光体、酸窒化物系蛍光体、窒化物系蛍光体、硫化物系蛍光体、フッ化物系蛍光体及び酸硫化物系蛍光体から選ばれる1種類又は2種類以上の蛍光体、並びに
(B)分子内にRSiO3/2(式中、Rは炭素原子数6~14のアリール基である)で表されるアリールシロキサン単位及び(RSiO2/2(式中、Rはハロゲン原子で置換されてもよい炭素原子数1~20のアルキル基又は炭素原子数6~14のアリール基であり、nは3~1000の範囲の数である)で表されるポリジオルガノシロキサン構造を有するオルガノポリシロキサン
を含むことが好ましい。
【0016】
成分(A)は、シートの総重量に対して10~90質量%の範囲で含まれることが好ましい。
【0017】
成分(B)は、少なくとも成分(A)を含む固体粒子成分のバインダー樹脂であり、かつ、{(RSiO2/2)}{RSiO3/21-a(式中、R及びRは前記同様の基であり、aは0.8~0.2の範囲の数である)で表されるオルガノポリシロキサンであることが好ましい。
【0018】
前記蛍光体又は反射材の少なくとも一部は、有機ケイ素化合物により表面処理されていることが好ましい。
【0019】
前記反射材は、酸化チタン、酸化バリウム、酸化クロム、酸化鉄、窒化ホウ素、及び窒化チタンから選ばれる1種類又は2種類以上であることが好ましい。
【0020】
本発明の光学部材用樹脂シートは、(C)シリカ粒子をさらに含んでいてもよい。
【0021】
本発明はまた、本発明の光学部材用樹脂シートを備える光学部材にも関する。
【0022】
さらに、本発明は、本発明の光学部材用樹脂シートを備える積層体にも関する。
【0023】
本発明の積層体は、剥離層をさらに備えていてもよい。
【0024】
本発明はまた、本発明の光学部材用樹脂シートにより封止された構造を有する発光デバイスにも関する。
【0025】
さらに、本発明は、光学部材用樹脂シートの原料を25℃における粘度10~10,000mPa・s、ウエット状態での膜厚が10~1000μmとなる条件で、シート塗布製造機によって基材上に塗布して製造されたことを特徴とする、本発明の光学部材用樹脂シートの製造方法にも関する。
【0026】
本発明の製造方法において、シート塗布製造機としてスリットコーターを用い、塗布速度w(cm/sec)の条件において、液圧立ち上がり時間を1.0/w sec以下の条件で製造されることが好ましい。
【発明の効果】
【0027】
本発明によれば、樹脂シートの平坦性が優れているため、光学部材として使用する際に有用である。特に、LED等の発光デバイスの部材として使用した場合、波長変換特性、光取り出し効率、及び封止性能に優れた部材を提供することができる。
【0028】
また、本発明の光学部材用樹脂シートの製造方法は、バッチプロセスによることができ、小ロットかつ多品種の製造に適している。また、平坦性に優れた光学部材用樹脂シートを製造することができるため、発光デバイスの部材として優れた樹脂シートを製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
図1】本発明の一実施形態によるシート塗布製造機の塗布ヘッドの概略図を示す。
図2】本発明の一実施形態によるシート塗布製造機の概略図を示す。
【発明を実施するための形態】
【0030】
以下、本発明の光学部材用樹脂シートについて詳細に説明する。
【0031】
本発明の光学部材用樹脂シートは、シートの幅方向について、シート末端の厚みとシート中央の厚みの差がシートの総膜厚に対して5.0%以内であり、シート中央の厚みが10~1000μmの範囲であることを特徴とする。シートの幅方向とはシートの長さ方向と垂直方向であり、一般的には、原料となる組成物を基材上に塗布又は単独で製膜した方向に対して、平面方向に垂直な方向を意味する。なお、シートの巻取りが行われる場合には巻き取られる方向が長さ方向であり、シートの幅方向は、それに垂直な方向である。四辺形又は略四辺形のフィルムにおいては、フィルムの幅方向は、長軸方向に垂直な方向であり、正方形又は略正方形のフィルムにおいては、当該正方形又は略正方形のフィルム各辺に垂直又は平行な方向のいずれを幅方向としてもよい。
【0032】
本発明の光学部材用樹脂シートは、シートの幅方向について、シート末端の厚み(μm)とシート中央の厚み(μm)の差(絶対値)がシートの総膜厚に対して5.0%以内であることを特徴としており、シート末端の厚みとシート中央の厚みの差はシートの総膜厚に対して4.0%以内であることが好ましく、2.5%以内であることが特に好ましい。なお、当該シートは、両端の盛り上がりを含め、実質的に面上に凹凸がない平坦かつ均一な構造であることが好ましく、シートの幅方向の厚みの最大変位(差)が5.0%以内であることが好ましい。また、シート全体において厚みの最大変位(差)が5.0%以内であって、実質的に凹凸を有しない平坦なシートであることが特に好ましい。
【0033】
本発明の光学部材用樹脂シートは、シート中央の厚みが10μmを超えるような一定の厚さを持ったシート材料でありながら、シート内の厚みの差が殆どない、実質的に平坦な構造を有していることを特徴とする。具体的には、シートの幅方向について、シート中央の厚みが10~1000μmの範囲であることを特徴としており、シート中央の厚みは20~950μmの範囲にあることが好ましく、シート中央の厚みは30~900μmの範囲にあることが特に好ましい。シート中央の厚みが前記下限未満では、膜厚が薄すぎるために光学部材用樹脂シートとしての用途が限定される場合があり、前記上限を超えると単層として扱う際に膜厚が厚すぎるために薄型化が求められる発光デバイス等の用途に適合しない場合がある。
【0034】
なお、本発明の光学部材用樹脂シートは、実質的に凹凸を有しない平坦な樹脂シートであるため、単層だけでなく、複数の樹脂シート層を重ね合わせて均一な厚い樹脂シート層を形成する際に、樹脂シート間の凹凸に由来する気泡の巻き込み、変形及び欠陥を生じにくいという利点を有する。すなわち、本発明の光学部材用樹脂シートは、10~1000μmの厚みを有するものであるが、複数のフィルムを重ね合わせて1000μmを超える樹脂シート層を形成し、各種光学デバイスに用いられる光学部材を形成する目的で用いることが可能である。
【0035】
本発明の光学部材用樹脂シートは、一定の大きさ(面積)を有しており、シート面積が225mm以上であることを特徴とする。本発明の光学部材用樹脂シートは、シートの幅及び長さがそれぞれ15mm以上であることが好ましく、30mm以上であることが特に好ましい。また、シート面積は400mm以上であることが好ましく、900mm以上であることが特に好ましい。本発明の光学部材用樹脂シートは、実質的に凹凸を有しない平坦なフィルムであり、剥離層上であっても原料の硬化性組成物を均一に塗布して硬化させた構造を有していてもよいため、長さ方向については、ロール上に巻取りが可能な長さであっても制限なく用いることができる。また、当該光学部材用樹脂シートは、所望の大きさ及び形状に切断して用いることができる。
【0036】
本発明の光学部材用樹脂シートは、少なくとも1種類以上の蛍光体又は反射材を含有することを特徴とする。
【0037】
本発明の光学部材用樹脂シートに含まれる蛍光体としては、波長変換材料として機能するものであれば特に限定されるものではないが、発光ダイオード(LED)又は有機電界発光素子(OLED)に広く利用されている、酸化物系蛍光体、酸窒化物系蛍光体、窒化物系蛍光体、硫化物系蛍光体、フッ化物系蛍光体、酸硫化物系蛍光体等からなる黄色、赤色、緑色、及び青色発光蛍光体が例示される。酸化物系蛍光体としては、セリウムイオンを包含するイットリウム、アルミニウム、ガーネット系のYAG系緑色~黄色発光蛍光体;セリウムイオンを包含するテルビウム、アルミニウム、ガーネット系のTAG系黄色発光蛍光体;セリウムやユーロピウムイオンを包含するシリケート系緑色~黄色発光蛍光体が例示される。また、酸窒化物系蛍光体としては、ユーロピウムイオンを包含するケイ素、アルミニウム、酸素、窒素系のサイアロン系赤色~緑色発光蛍光体が例示される。窒化物系蛍光体としては、ユーロピウムイオンを包含するカルシウム、ストロンチウム、アルミニウム、ケイ素、窒素系のカズン系赤色発光蛍光体が例示される。硫化物系蛍光体としては、銅イオンやアルミニウムイオンを包含するZnS系緑色発色蛍光体が例示される。フッ化物系蛍光体としては、KSF蛍光体(KSiF:Mn4+)が例示される。酸硫化物系蛍光体としては、ユーロピウムイオンを包含するYS系赤色発光蛍光体が例示される。蛍光体は、単独で使用してもよく、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0038】
本発明の光学部材用樹脂シートに含まれる反射材としては、特に限定されるものではないが、酸化チタン、酸化バリウム、酸化クロム、酸化鉄、窒化ホウ素、及び窒化チタンから選ばれる1種類又は2種類以上であることが好ましい。特に、酸化チタンであることが好ましい。
【0039】
本発明の光学部材用樹脂シートに含まれる蛍光体又は反射材は、少なくともシリコーン樹脂を含有するバインダー樹脂中に分散された構造を有することが好ましい。また、シリコーン樹脂への分散性を改善するため、蛍光体又は反射材の少なくとも一部は、有機ケイ素化合物により表面処理されていてもよい。具体的には、蛍光体又は反射材の少なくとも一部は、アルコキシシラン、オルガノハロシラン、オルガノシラザン、シロキサンオリゴマー等により表面処理されていてもよい。
【0040】
本発明の光学部材用樹脂シートに含まれる蛍光体又は反射材は、シートの総重量に対して10~90質量%の範囲で含まれることが好ましく、15~85質量%の範囲で含まれることが特に好ましい。
【0041】
本発明の光学部材用樹脂シートは、
(A)酸化物系蛍光体、酸窒化物系蛍光体、窒化物系蛍光体、硫化物系蛍光体、フッ化物系蛍光体、及び酸硫化物系蛍光体から選ばれる1種類又は2種類以上の蛍光体、並びに
(B)分子内にRASiO3/2(式中、RAは炭素原子数6~14のアリール基である)で表されるアリールシロキサン単位及び(RSiO2/2(式中、Rはハロゲン原子で置換されてもよい炭素原子数1~20のアルキル基又は炭素原子数6~14のアリール基であり、nは3~1000の範囲の数である)で表されるポリジオルガノシロキサン構造を有するオルガノポリシロキサン
を含むことが好ましい。
【0042】
成分(A)は、シートの総重量に対して10~90質量%の範囲で含まれることが好ましく、15~85質量%の範囲で含まれることが特に好ましい。
【0043】
成分(B)は、少なくとも成分(A)を含む固体粒子成分のバインダー樹脂であり、アリール基を有するT単位を含むレジン-リニアポリマー型のオルガノポリシロキサンである。成分(B)は、屈折率が高く、かつ、ホットメルト性を有することから、容易に均一な薄膜状の固体層を形成することができる。
【0044】
このような成分(B)は、分子内にRASiO3/2(式中、RAは炭素原子数6~14のアリール基である)で表されるアリールシロキサン単位及び(RSiO2/2)n(式中、Rはハロゲン原子で置換されてもよい炭素原子数1~20のアルキル基又は炭素原子数6~14のアリール基であり、nは3~1000の範囲の数である)で表されるポリジオルガノシロキサン構造を有するオルガノポリシロキサンである。
【0045】
ここで、炭素原子数6~14のアリール基は、フェニル基、トリル基、キシリル基、ナフチル基、又はアントラセニル基であり、工業生産上の見地から、好適にはフェニル基である。また、Rはメチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基、ウンデシル基、ドデシル基等のアルキル基;フェニル基、トリル基、キシリル基、ナフチル基、アントラセニル基等のアリール基;或いはこれらの基に結合している水素原子の一部又は全部をフッ素原子、塩素原子、臭素原子等のハロゲン原子で置換した基であり、工業生産上の見地から、好適にはメチル基又はフェニル基である。
【0046】
より具体的には、成分(B)は、T単位:RSiO3/2(Rは一価有機基、水酸基又は炭素原子数1~6のアルコキシ基であり、分子内の全てのRのうち、少なくとも1以上は炭素原子数6~14のアリール基である)、任意でQ単位:SiO4/2で表されるシロキサン単位を有するレジン構造ブロックと、(RSiO2/2(式中、nは前記同様の数であり、Rは前記同様の基である)で表されるリニア構造ブロックとが、シルアルキレン結合又はSi-O-Si結合により連結された構造を有し、かつ、RSiO3/2単位を有するレジン-リニアオルガノポリシロキサンブロックコポリマーであり、ポリマー中のレジン構造ブロックとリニア構造ブロックを連結するシルアルキレン結合又はSi-O-Si結合において、レジン構造に結合するSi原子がRSiO3/2単位を構成していることが好ましい。
【0047】
成分(B)中のレジン構造ブロックは、成分(B)全体としてホットメルト性を付与する部分構造であり、レジン(樹脂)状オルガノポリシロキサン構造である。かかる構造は、RSiO3/2で表されるアリールシロキサン単位を必須として、T単位又はQ単位が多数結合したレジン状のオルガノポリシロキサンからなる部分構造を形成している。特に、分子内にフェニル基等のアリール基を多数含む場合、成分(B)の屈折率を上昇させることができる。好適には、成分(B)は、RSiO3/2(式中、Rは前記同様の基である)で表されるアリールシロキサン単位をオルガノポリシロキサン全体の20~80質量%含有するオルガノポリシロキサンであり、レジン構造が実質的にRSiO3/2で表されるアリールシロキサン単位のみから形成されていることが、上記のホットメルト性及び屈折率の見地から、特に好ましい。
【0048】
リニア構造は(RSiO2/2)で表される非反応性のブロックであり、RSiO2/2で表されるジオルガノシロキシ単位が、少なくとも3単位以上、好適には5単位以上、鎖状に連結した構造である。かかるリニア構造ブロックは、本コポリマーにより形成される固体層に適度な柔軟性を与える部分構造である。式中、nは、当該部分構造を構成するジオルガノシロキシ単位の重合度であり、3~250の範囲が好ましく、5~250、50~250、100~250の範囲がより好ましい。部分構造におけるnが上記上限を超えると、リニア構造に由来する線形分子としての性質が強く発現して、薄膜形成性が低下する場合がある。一方、nが上記下限未満では、線形分子としての性質が十分ではなく、特に薄膜化した場合にハジキ等が発生しやすくなって均一に塗工できない等の成分(B)の特徴的な物性が実現できない場合がある。
【0049】
リニア構造を構成するジオルガノシロキシ単位上の官能基Rは、アルキル基又はアリール基であり、これらは、同一分子中のレジン構造及びその官能基に対して非反応性であり、分子内で縮合反応等の重合反応を起こさず、リニア構造を維持することが必要である。これらのアルキル基及びアリール基は上記したとおりの基であり、工業的見地から、メチル基又はフェニル基であることが好ましい。
【0050】
成分(B)中のレジン構造ブロックとリニア構造ブロックは、アルケニル基とケイ素原子結合水素原子間のヒドロシリル化反応に由来するシルアルキレン結合、又はレジン構造若しくはリニア構造の末端の縮合性反応基に由来するSi-O-Si結合により連結されていることが好ましい。特に、本発明においては、レジン構造に結合するSi原子がRSiO3/2単位を構成していることが好ましく、下記の部分構造(T-Dn)を有することが特に好ましい。工業的見地から、Rはフェニル基であることが好ましく、Rはメチル基又はフェニル基であることが好ましい。
【0051】
【化1】
【0052】
好適には、上記の部分構造において、T単位を構成する左側のSi-O-結合の末端は、各々、水素原子又はレジン構造を構成する他のシロキサン単位、好適には他のT単位に結合する。一方、右側のSi-O-結合の末端は、リニア構造又はレジン構造を形成する他のシロキサン単位、トリオルガノシロキシ単位(M単位)又は水素原子に結合する。なお、Si-O-結合の末端に水素原子が結合する場合、シラノール基(Si-OH)を形成することは言うまでもない。
【0053】
成分(B)の加熱溶融性、光取り出し効率を改善するために求められる屈折率、及び特に薄膜化した場合の均一塗工性の見地から、成分(B)は、RSiO3/2で表されるアリールシロキサン単位及びRSiO2/2で表されるジオルガノシロキサン単位のみからなる、非反応性のオルガノポリシロキサンであることが好ましい。より具体的には、成分(B)は、
{(RSiO2/2)}{RSiO3/21-a
で表されるオルガノポリシロキサンであることが好ましい。式中、R及びRは前記同様の基であり、aは0.8~0.2の範囲の数であり、より好適には、0.8~0.4の範囲の数である。
【0054】
成分(B)は、好ましくは加熱溶融性を示し、具体的には、25℃において非流動性であり、100℃の溶融粘度が200,000Pa・s以下であることが好ましい。非流動性とは、無負荷の状態で流動しないことを意味し、例えば、JIS K 6863-1994「ホットメルト接着剤の軟化点試験方法」で規定されるホットメルト接着剤の環球法による軟化点試験方法で測定される軟化点未満での状態を示す。すなわち、25℃において非流動性であるためには、軟化点が25℃よりも高い必要がある。好適には、成分(B)は、100℃の溶融粘度が200,000Pa・s以下、100,000Pa・s以下、50,000Pa・s以下、20,000Pa・s以下、あるいは10~20,000Pa・sの範囲内である。100℃の溶融粘度が上記の範囲内であると、ホットメルト後、25℃に冷却した後の薄膜等の密着性が良好である。また、上記の溶融粘度が100~15,000Pa・sである成分(B)を用いることで、成型加工後の薄膜等の変形や剥離を抑制できる場合がある。
【0055】
成分(B)は、シートの総重量に対して10~90質量%の範囲で含まれることが好ましく、15~85質量%の範囲で含まれることが特に好ましい。
【0056】
本発明の光学部材用樹脂シートは、(C)シリカ粒子を含んでいてもよい。シリカ粒子は補強性充填材として作用することができ、粒子の形状は特に限定されない。中実シリカ及び中空シリカのいずれも使用することができるが、特に中空シリカを使用する場合には、屈折率の相違から高い光拡散性を実現することができる。
【0057】
成分(C)は、シートの総重量に対して0~70質量%の範囲で含まれることが好ましく、0~50質量%の範囲で含まれることが特に好ましい。
【0058】
本発明の光学部材用樹脂シートは、上記の成分(A)の架橋剤としてオルガノハイドロジェンポリシロキサンを含むことが好ましく、また、硬化性触媒(ヒドロシリル化反応触媒等)及び硬化遅延剤(インヒビター)を含むことが好ましい。さらに、可塑剤として、前記のオルガノハイドロジェンポリシロキサン又はオルガノポリシロキサン、好適にはシロキサン重合度2~150のポリジオルガノシロキサンを含むことが好ましい。
【0059】
オルガノハイドロジェンポリシロキサンは、分子内に2個以上のケイ素原子結合水素原子を有するオルガノハイドロジェンポリシロキサンが特に制限なく利用でき、成分(A)中にアルケニル基を有する場合には、成分(A)中のアルケニル基1モルに対して、オルガノハイドロジェンポリシロキサン中のケイ素原子結合水素原子が0.2~5モルとなる量の範囲にあることが好ましい。また、オルガノハイドロジェンポリシロキサンの分子構造は特に限定されないが、シロキサン重合度1000以下の、直鎖状、分岐鎖状、樹脂状又は環状から選ばれる1種類又は2種類以上のオルガノハイドロジェンポリシロキサンが特に制限なく使用できる。
【0060】
硬化性触媒は、公知の硬化剤である、ヒドロシリル化反応触媒、縮合触媒、光活性触媒、過酸化物触媒等が特に制限なく使用され、反応のコントロールの見地から、ヒドロシリル化反応触媒の利用が好ましい。なお、ヒドロシリル化反応触媒を使用する場合、取扱作業性及び硬化性のコントロールの見地から、公知の硬化遅延剤を配合してよい。
【0061】
本発明の光学部材用樹脂シートは、本発明の目的を妨げない限り、ビニルトリエトキシシラン、アリルトリメトキシシラン、アリルトリエトキシシラン、3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3-グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、3-メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン等の有機官能性アルコキシシラン化合物等の接着性向上剤等の任意の添加剤を含むことができる。また、その他の任意成分として、本発明の技術的効果を損なわない限り、フェノール系、キノン系、アミン系、リン系、ホスファイト系、イオウ系、チオエーテル系などの酸化防止剤;トリアゾール系、ベンゾフェノン系などの光安定剤;リン酸エステル系、ハロゲン系、リン系、アンチモン系などの難燃剤;カチオン系界面活性剤、アニオン系界面活性剤、非イオン系界面活性剤などからなる1種類以上の帯電防止剤;染料、顔料などを添加してもよい。ただし、薄膜化する場合には、平均一次粒子径が100nmを超えるような粒子成分は添加しないことが好ましい。
【0062】
本発明の光学部材用樹脂シートの原料は、後述するフィルム又は薄膜として製膜する目的等で、有機溶媒に分散して塗工することができる。使用する有機溶媒としては、組成物中の全構成成分又は一部の構成成分を溶解させ得る化合物であれば、その種類は特に限定されず、沸点が80℃以上200℃未満のものが好ましく使用される。例えば、i-プロピルアルコール、t-ブチルアルコール、シクロヘキサノール、シクロヘキサノン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、トルエン、キシレン、メシチレン、1,4-ジオキサン、ジブチルエーテル、アニソール、4-メチルアニソール、エチルベンゼン、エトキシベンゼン、エチレングリコール、エチレングリコールジメチルエーテル、エチレングリコールジエチルエーテル、2-メトキシエタノール(エチレングリコールモノメチルエーテル)、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、エチルアセテート、ブチルアセテート、プロピルプロピオネート、1-メトキシ-2-プロピルアセテート、1-エトキシ-2-プロピルアセテート、オクタメチルシクロテトラシロキサン、及びヘキサメチルジシロキサン等の非ハロゲン系溶媒、トリフルオロメチルベンゼン、1,2-ビス(トリフルオロメチル)ベンゼン、1,3-ビス(トリフルオロメチル)ベンゼン、1,4-ビス(トリフルオロメチル)ベンゼン、トリフルオロメチルクロロベンゼン、トリフルオロメチルフルオロベンゼン、ハイドロフルオロエーテル等のハロゲン系溶媒が挙げられる。これらの有機溶媒は単独で使用してもよく、二種以上を混合して使用してもよい。取扱作業性、固体層の均一性及び耐熱性向上の見地から、i-プロピルアルコール、メチルイソブチルケトン等が好適に用いられる。
【0063】
本発明の光学部材用樹脂シートの硬さは基材にも依存するため特に限定されるものではないが、実用上、鉛筆硬度で2B以上であることが好ましい。
【0064】
本発明の光学部材用樹脂シートは、積層体構造を構成する固体層として特に好適に用いることができ、特に、発光デバイス又は発光デバイスに用いる積層体を構成する固体層として、空気との界面に配置されることが好ましい。
【0065】
一実施形態において、本発明の光学部材用樹脂シートは、剥離層を備える積層体の部材として使用することができる。剥離層上に本発明の光学部材用樹脂シートが形成されている場合には、剥離層から本発明の光学部材用樹脂シート又はそれを備える積層部材を剥離して用いることができる。本発明の積層体としては、以下の構成を備える積層体を例示することができる。なお、以下の例示において「/」は積層体の積層方向(一般に基材に対して垂直な厚み方向)について、各層が対向していることを意味する。また、基材と剥離層は一体又は同一層(材質又は物理的な凹凸を設けたりして剥離性を持たせた基材)であってもよく、各層は複数の層からなるものであってもよい。
【0066】
例1: 基材/剥離層/本発明の光学部材用樹脂シート/その他の任意の層
例2: 基材/剥離層/本発明の光学部材用樹脂シート/その他の任意の層/剥離層/基材
【0067】
特に、例2のように、2つの剥離層で本発明の光学部材用樹脂シート又はそれを備えた光学部材が挟まれた構成を有する場合、本発明の光学部材用樹脂シートを備えた部材を、基材で保護した状態で輸送することができ、所望のタイミングと場所で、積層体の両面から剥離層を備えた基材を分離して、本発明の光学部材用樹脂シート又は光学部材のみを所望の構造体、例えば発光デバイスの光源上等に配置ないし積層することができる。したがって、取り扱い作業性を改善することができる点で有用である。
【0068】
積層体に使用される基材は特に制限されるものではないが、板紙、ダンボール紙、クレーコート紙、ポリオレフィンラミネート紙、特にはポリエチレンラミネート紙、合成樹脂フィルム、天然繊維布、合成繊維布、人工皮革布、金属箔等が例示される。特に、合成樹脂フィルムが好ましく、合成樹脂としては、ポリイミド、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリカーボネート、ポリエチレンテレフタレート、シクロポリオレフィン、ナイロン等が例示される。基材はフィルム状又はシート状であることが好ましい。その厚さは特に制限されず、用途に応じて所望の厚さで設計することができる。なお、後述するように基材それ自体が剥離層として機能するような材質であってもよく、基材表面に物理的に微細な凹凸を形成する等して剥離性を持たせた構造を有していてもよい。
【0069】
剥離層は剥離ライナー、離型層或いは剥離コーティング層と呼ばれることもあり、好適には、シリコーン系剥離剤、フッ素系剥離剤、アルキド系剥離剤、又はフルオロシリコーン系剥離剤等の剥離コーティング能を有する剥離層であってもよく、また、基材表面に物理的に微細な凹凸を形成させたり、本発明の光学部材用樹脂シートと付着しにくい基材自体であってもよい。
【0070】
積層体中の他の層は、1層以上であってもよく、2層以上の異なる機能を備えた多層であってもよい。また、本発明の光学部材用樹脂シート上に積層された積層部材全体の厚さは特に限定されるものではないが、10μm以上であることが好ましく、取扱作業性の見地から、50~10,000μmであることが好ましく、100~5,000μmであることが特に好ましい。
【0071】
本発明の光学部材用樹脂シート及びそれを備える積層体は封止シートとして使用することができ、有機発光ダイオード等の発光デバイスの光源上に配置し、封止された構造を有することができる。ここで、光源から発した光は、本発明の光学部材用樹脂シートが蛍光体を含む場合、波長変換される。
【0072】
一実施形態において、本発明の光学部材用樹脂シートは、光学部材用樹脂シートの原料を25℃における粘度10~10,000mPa・s、ウエット状態での膜厚が10~1000μmとなる条件で、シート塗布製造機によって基材上に塗布して製造される。
【0073】
本発明の光学部材用樹脂シートの製造方法において使用される基材は可撓性基材であることが好ましい。具体的には、上記積層体に使用される基材で挙げた基材を使用することができる。
【0074】
可撓性基材に塗布液をコートする方法としては、カーテンコート、バーコート等が知られているが、カーテンコートは大量生産に向いた方法であり、小ロットでのバッチプロセスには適していない。また、バーコートでは特に高粘度の塗布液や粒子を含む塗布液を塗布する際に、シート表面が均一にならないという問題点があった。
【0075】
これに対し、アプリケーター又はスリットコーターを用いた方法は、小ロットでのバッチプロセスが比較的容易に実現できることから、本発明の光学部材用樹脂シートの製造方法として適している。特に、スリットコーターを用いることが好ましい。
【0076】
本発明の光学部材用樹脂シートの製造方法に用いることができるスリットコーターについて、添付した図面に従って説明する。図1は、本発明の一実施形態によるシート塗布製造機の塗布ヘッドの概略図を示す。
【0077】
図1に示すように、塗布ヘッド1にはチャンバ2及びスロット3が備えられている。チャンバ2には塗布されるコート用組成物がポンプ等を使用して供給される。コート用組成物は、塗布ヘッド1の側面又はスロット3と反対の側から供給される。
【0078】
チャンバ2へのコート用組成物の供給は、塗布速度w(cm/sec)の条件において、その液圧立ち上がり時間を1.0/w sec以下の条件で行うことが好ましい。コート開始時には塗布ヘッドと基材との間に安定的なビードを迅速に形成する必要があり、液圧立ち上がり時間が上記以下であれば、コート開始時の膜厚不均一によるシートのロスを減少させることができる。
【0079】
チャンバ2の形状は特に限定されるものではなく、円形又は半円形であってもよい。また、コート中に組成物が漏れないように、側面の少なくとも一方には栓が備えられている。
【0080】
スロット3は、チャンバ2から基材へコート用組成物を吐出する際の流路である。チャンバ2と同様、コート中に組成物が漏れないように、側面の少なくとも一方には栓が備えられている。また、スロット3の幅及び長さを変更することができるように、調整機構が設けられていてもよい。
【0081】
コート用組成物の基材へのコートは、塗布ヘッド1を基材に近づけて、コート用組成物をチャンバ2及びスロット3を経由して基材に供給し、塗布ヘッド1又は基材のいずれかを一方向に動かすことによって行う。この際、塗布ヘッドと基材との距離は一定の距離を保つことが好ましい。また、両者の相対速度を一定に保つように両者を動かして塗布してもよい。
【0082】
また、塗布ヘッド1の先端部は、基材と平行であっても平行でなくてもよい。また、スロットと基材との角度も特に限定されず、例えば基材に対して垂直であっても垂直でなくてもよい。
【0083】
図2は本発明の一実施形態によるシート塗布製造機の概略図を示しており、塗布ヘッド1に加えて、ステージ4、塗布ヘッドの固定台5、塗布ヘッドを上下方向に動かすための可動部6及びステージを横方向に動かすための可動部7を備えている。
【0084】
ステージ4は基材を載せるための支持台であり、塗布中に基材が動かないようにするための固定手段を備えていることが好ましい。固定手段は、例えばステージ4の表面に設けられた吸引口からの吸引であってもよく、又は、金具等を使用することによる物理的な固定であってもよい。
【0085】
ステージ4の上方には塗布ヘッド1が配置されており、塗布ヘッド1は固定台5及び可動部6によって固定されている。固定台5はステージ4と独立しており、コート時には固定台5又はステージ4が横方向に動くこととなる。ステージ4が動く場合、ステージ4は可動部7によって横方向に移動する。固定台5が動く場合、固定台5は、ステージ4の両側に沿った走行レールによって移動してもよい。
【0086】
塗布ヘッド1は、可動部6によってステージ4に対して上下方向に動かすことができる。そのため、塗布ヘッド1とステージ4との間の距離は、塗布しようとするコート用組成物の物性、コートしようとする膜厚、コート時のステージ4又は固定台5の移動速度などによって変化させることができる。
【0087】
本発明の光学部材用樹脂シートは積層体の形態で取り扱うことができ、剥離層上に配置された樹脂シートのみを剥離して利用することができる。剥離された樹脂シートは、それ自体を光学部材として発光デバイスを封止するために使用することができる。
【0088】
基材又は剥離層上に形成された樹脂シートは、必要に応じて適宜裁断して使用することができる。特に膜厚が不均一になりやすい端部については、裁断することにより膜の平坦性をさらに向上させることができる。
【実施例
【0089】
以下、本発明を実施例により詳細に説明するが、本発明は実施例に限定されるものではない。なお、実施例において、部はいずれも質量部を意味する。
【0090】
(オルガノポリシロキサンの合成)
合成例1
2Lの四ツ口丸底フラスコにフェニルシルセスキオキサン加水分解物(324g、2.37molのSi)とプロピオン酸プロピル(275g)を入れて混合した。窒素雰囲気下で、当該混合物を還流させながら30分にわたって加熱し反応させた。反応混合物を100℃に冷却した後、ジアセトキシ末端ポリフェニルメチルシロキサン(シロキサン重合度:170)のプロピオン酸プロピル溶液(66%、610.8g)を加えた。2時間加熱還流した後、一晩放置した。ビニルメチルジアセトキシシラン(21g、0.11molのSi)を加え、混合物を1時間にわたって還流させた後、水(57mL)を加え、共沸脱水することにより酢酸濃度を低下させた。得られた反応混合物を100℃に冷却した後、メチルトリアセトキシシランとエチルトリアセトキシランの1:1混合物(38.7g、0.17molのSi)を加え、1時間にわたって還流させた。水(57mL)を加え、共沸脱水することにより酢酸濃度を低下させた。この操作をさらに2回繰り返した後、プロピオン酸プロピルを一部留去することにより、透明なレジン-リニアポリマー構造を有するオルガノポリシロキサンのプロピオン酸プロピル溶液(重量平均分子量:83000、固形分濃度:74.2%)を得た。
【0091】
上記溶液に、白金のジビニルジシロキサン錯体を白金含有量で1ppm、平均単位式:(HMeSiO1/20.60(PhSiO3/20.4をSiH/Viの比が1になるように加え、さらにプロピオン酸プロピルを加えて、合計75.5%のシロキサンを含むプロピオン酸プロピル溶液を調製した。
【0092】
合成例2
2Lの四ツ口丸底フラスコにフェニルシルセスキオキサン加水分解物(324g、2.37molのSi)とトルエン(268g)を入れて混合した。窒素雰囲気下で、当該混合物を還流させながら30分にわたって加熱し反応させた。反応混合物を100℃に冷却した後、ジアセトキシ末端ポリフェニルメチルシロキサン(シロキサン重合度:100)のトルエン溶液(65%、608g)を加えた。反応混合物を還流させながら2時間にわたって加熱した後、メチルトリアセトキシシラン(38g、0.17molのSi)を加え、混合物を2.5時間にわたって還流させた。ビニルメチルジアセトキシシラン(21g、0.11molのSi)を加え、混合物を2時間にわたって還流させた後、水(76mL)を加え、30分共沸させ、有機層が分離するのを待ってから水層を下から除去した。次に水を飽和食塩水に置き換え、これと同様の手順を更に2回繰り返して酢酸濃度を低下させた後、同様の手順をさらに水で2回繰り返した。トルエンを一部留去することにより、透明なレジン-リニアポリマー構造を有するオルガノポリシロキサンのトルエン溶液(重量平均分子量:60000、固形分濃度:75.8%)を得た。このトルエン溶液をロータリーエバポレーターを用いて、プロピオン酸プロピルを加えてはトルエンを除くことを3回繰り返して、透明なレジン-リニアポリマー構造を有するオルガノポリシロキサンのプロピオン酸プロピル溶液(固形分濃度:78%)を得た。
【0093】
上記溶液に、白金のジビニルジシロキサン錯体を白金含有量で1ppm、平均単位式:(HMeSiO1/20.60(PhSiO3/20.4をSiH/Viの比が1になるように加え、さらにプロピオン酸プロピルを加えて、合計75.5%のシロキサンを含むプロピポン酸プロピル溶液を調製した。
【0094】
(樹脂シート用組成物の調製)
実施例1
上記合成例1により得られた溶液8.0g、蛍光体(インテマティックス社製、NYAG 4454-L)5.93g、シリカ粒子(デンカ社製、FB-5SDC、平均粒径:5μm)9.59g、及びプロピオン酸プロピル3.25gを混合し、真空脱気機構を備えた自公転式撹拌機(シンキー社製、ARV-310LED)を用いて均一になるまで撹拌し、樹脂シート用組成物1を得た。粘度は2173mPa・s(10 1/s)と5105mPa・s(1 1/s)を有するチクソ性溶液であった。ダイセルバリューコーティング社製のT788 PETフィルムに塗工機(PI-1210 FILM COATER)を用いて、井元製作所製フレームアプリケーター(IMC-3501型)により260μmのギャップでコートした。その後、コートされたシートを70℃のオーブンで30分間乾燥した。得られたシートは幅150mm×長さ310mmの長方形シートであった。
【0095】
得られたシートの幅方向の膜厚を膜厚計(Nikon社製、DIGIMICRO MFC-101A)を用いて測定したところ、103±1μmの均一な膜であった。
【0096】
実施例2
上記合成例1により得られた溶液8.0g、蛍光体(インテマティックス社製、NYAG 4454-L)15.53g、及びプロピオン酸プロピル1.75gを混合し、真空脱気機構を備えた自公転式撹拌機(シンキー社製、ARV-310LED)を用いて均一になるまで撹拌し、樹脂シート用組成物2を得た。粘度は3269mPa・s(10 1/s)であった。ダイセルバリューコーティング社製のT788 PETフィルムに塗工機(PI-1210 FILM COATER)を用いて、井元製作所製フレームアプリケーター(IMC-3501型)により253μmのギャップでコートした。その後、コートされたシートを70℃のオーブンで30分間乾燥した。得られたシートは幅150mm×長さ310mmの長方形シートであった。
【0097】
得られたシートの幅方向の膜厚を膜厚計(Nikon社製、DIGIMICRO MFC-101A)を用いて測定したところ、103±1μmの均一な膜であった。
【0098】
実施例3
上記合成例1により得られた溶液40.0g及び蛍光体(インテマティックス社製、NYAG 4454-S)7.56gを混合し、真空脱気機構を備えた自公転式撹拌機(シンキー社製、ARV-310LED)を用いて均一になるまで撹拌し、樹脂シート用組成物3を得た。粘度は10573mPa・s(10 1/s)であった。ダイセルバリューコーティング社製のT788 PETフィルムに塗工機(PI-1210 FILM COATER)を用いて、井元製作所製フレームアプリケーター(IMC-3501型)により236μmのギャップでコートした。その後、コートされたシートを70℃のオーブンで30分間乾燥した。得られたシートは幅150mm×長さ310mmの長方形シートであった。
【0099】
得られたシートの幅方向の膜厚を膜厚計(Nikon社製、DIGIMICRO MFC-101A)を用いて測定したところ、93±1μmの均一な膜であった。
【0100】
実施例4
上記合成例1により得られた溶液40.0g、蛍光体(インテマティックス社製、NYAG 4454-S)7.33g、及びレオロシール(DM-30)0.25gを混合し、真空脱気機構を備えた自公転式撹拌機(シンキー社製、ARV-310LED)を用いて均一になるまで撹拌し、樹脂シート用組成物4を得た。粘度は11988mPa・s(10 1/s)であった。ダイセルバリューコーティング社製のT788 PETフィルムに塗工機(PI-1210 FILM COATER)を用いて、井元製作所製フレームアプリケーター(IMC-3501型)により236μmのギャップでコートした。その後、コートされたシートを70℃のオーブンで30分間乾燥した。得られたシートは幅160mm×長さ310mmの長方形シートであった。
【0101】
得られたシートの幅方向の膜厚を膜厚計(Nikon社製、DIGIMICRO MFC-101A)を用いて測定したところ、93±1μmの均一な膜であった。
【0102】
実施例5
上記合成例2により得られた溶液40.0g及び酸化チタン(SX-3103、平均0.2μmD)20.12gを混合し、真空脱気機構を備えた自公転式撹拌機(シンキー社製、ARV-310LED)を用いて均一になるまで撹拌し、樹脂シート用組成物5を得た。粘度は9554mPa・s(10 1/s)であった。樹脂シート用組成物5を、ダイセルバリューコーティング社製のT788 PETフィルムに塗工機(PI-1210 FILM COATER)を用いて、井元製作所製フレームアプリケーター(IMC-3501型)により254μmのギャップでコートした。その後、コートされたシートを70℃のオーブンで30分間乾燥した。得られたシートは幅160mm×長さ310mmの長方形シートであった。
【0103】
得られたシートの幅方向の膜厚を膜厚計(Nikon社製、DIGIMICRO MFC-101A)を用いて測定したところ、106±2μmの均一な膜であった。
【0104】
比較例1
実施例3で調製した樹脂シート用組成物3を、バー(R.D.Specialties社製、No.10)を用いて、剥離シート(ダイセル社製 T788)上にコートした。その後、コートされたシートを70℃のオーブンで30分間乾燥した。得られたシートは幅150mm×長さ300mmの長方形シートであった。
【0105】
得られたシートの幅方向の膜厚を膜厚計(Nikon社製、DIGIMICRO MFC-101A)を用いて測定したところ、42~54μmの不均一な膜(シート末端の厚みとシート中央の厚みの差が12μm)であった。
【0106】
上記の通り、実施例1~5では実質的に平坦な光学部材用樹脂シートを得られたのに対し、製法の異なる比較例1においては、平坦な光学部材用樹脂シートを得ることができなかった。
【産業上の利用可能性】
【0107】
本発明の光学部材用樹脂シート及びそれを備える積層体は、LED等の光学デバイスに使用される光学部材として好適に使用することができる。また、本発明の光学部材用樹脂シートの製造方法は、小ロットで多品種の光学部材用樹脂シートを製造するために好適に使用することができる。
【符号の説明】
【0108】
1 塗布ヘッド
2 チャンバ
3 スロット
4 ステージ
5 固定台
6 可動部
7 可動部
図1
図2