(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-01-06
(45)【発行日】2022-02-04
(54)【発明の名称】腸管虚血を初期で診断するためのインビトロ方法
(51)【国際特許分類】
G01N 33/53 20060101AFI20220128BHJP
G01N 33/543 20060101ALI20220128BHJP
C07K 14/605 20060101ALN20220128BHJP
C07K 16/26 20060101ALN20220128BHJP
【FI】
G01N33/53 D
G01N33/543 545A
C07K14/605
C07K16/26
(21)【出願番号】P 2019536681
(86)(22)【出願日】2017-09-19
(86)【国際出願番号】 EP2017073584
(87)【国際公開番号】W WO2018054881
(87)【国際公開日】2018-03-29
【審査請求日】2020-09-10
(32)【優先日】2016-09-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(31)【優先権主張番号】PCT/EP2017/057292
(32)【優先日】2017-03-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】517347805
【氏名又は名称】ユニヴェルシテ ドゥ ブルゴーニュ
【氏名又は名称原語表記】UNIVERSITE DE BOURGOGNE
(73)【特許権者】
【識別番号】518027461
【氏名又は名称】アンセル(アンスティテュ ナシオナル ドゥ ラ サンテ エ ドゥ ラ ルシェルシェ メディカル)
【氏名又は名称原語表記】INSERM(Institut National de la Sante et de la Recherche Medicale)
(73)【特許権者】
【識別番号】519099254
【氏名又は名称】アンスティテュ ナシオナル スュペリユール デ シアンセ アグロノミクス,ドゥ ラリマンタシオン エ ドゥ ランヴィロヌマン
【氏名又は名称原語表記】INSTITUT NATIONAL SUPERIEUR DES SCIENCES AGRONOMIQUES,DE L‘ALIMENTATION ET DE L’ENVIRONNEMENT
(74)【代理人】
【識別番号】100139594
【氏名又は名称】山口 健次郎
(74)【代理人】
【識別番号】100185915
【氏名又は名称】長山 弘典
(74)【代理人】
【識別番号】100090251
【氏名又は名称】森田 憲一
(72)【発明者】
【氏名】グローバー,ジャック
(72)【発明者】
【氏名】ルブラン,ロレーヌ
【審査官】小澤 理
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2013/027823(WO,A1)
【文献】特表2002-543142(JP,A)
【文献】MELEAGROS, L. et al.,Atrial natriuretic peptide and glucagon release in experimental intestinal ischaemia and reperfusion,British Journal of Surgery,1994年,Vol.81, No.4,p.564568
【文献】LEBRUN, L. J. et al.,Enteroendocrine L Cells Sense LPS after Gut Barrier Injury to Enhance GLP-1 Secretion,Cell Reports,2017年,Vol.21, No.5,p.1160-1168
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 33/53
G01N 33/543
G01N 33/68
C07K 14/605
C07K 16/26
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
Scopus
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
腸管虚血を患っている疑いがある患者の腸管虚血を初期段階で診断するためのインビトロ
測定方法であって、
(i)前記患者からの生物学的試料において循環グルカゴン様ペプチド2(GLP-2)
のレベルおよび/または循環グルカゴン様ペプチド1(GLP-1)
のレベルを決定することと、
(ii)前記レベルを参照試料中の循環グルカゴン様ペプチド2
のレベルおよび/または循環グルカゴン様ペプチド1
のレベルと比較することと
を含み、
前記患者の前記レベルの増加は、前記患者が腸管虚血を患っていることを示す、方法。
【請求項2】
前記腸管虚血が腸間膜虚血-再灌流
、または腸バリアに関連する疾患もしくはトラブルである、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記生物学的試料が血漿試料である、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記循環グルカゴン様ペプチド2
のレベルまたは循環グルカゴン様ペプチド1のレベルが免疫測定法によって決定される、請求項1~3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記免疫測定法がELISAである、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記参照試料が健康な対象からの生物学的試料である、請求項1~5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
腸管虚血を患っている疑いがある患者の腸管虚血を初期段階にインビトロで診断するための、循環グルカゴン様ペプチド2または循環グルカゴン様ペプチド1のレベルを検出することができる試薬の使用。
【請求項8】
前記試薬がグルカゴン様ペプチド2またはグルカゴン様ペプチド1に対する抗体である、請求項7に記載の使用。
【請求項9】
腸管虚血を患っている疑いがある患者の腸管虚血を初期段階にインビトロで診断するための、グルカゴン様ペプチド2またはグルカゴン様ペプチド1に対する抗体を含むELISAキットの使用。
【発明の詳細な説明】
【発明の詳細な説明】
【0001】
本発明は、腸管虚血の初期で診断するためのインビトロ方法に関する。
【0002】
急性腸間膜虚血(AMI)は、いくつかの疾患、外傷、ショック、外科手術または臓器移植の結果としての、腸間膜血管を通る血流の突然の減少によって引き起こされる深刻な医学的緊急事態である。腸間膜虚血は、細胞機能障害および腸管壁の最終的な壊疽につながる。AMIは動脈性または静脈性のいずれかに分類され得る。動脈性AMIはまた、非閉塞性腸間膜虚血(NOMI)または閉塞性腸間膜動脈虚血(OMAI)として分類され得る。大部分はアテローム性動脈硬化との関連のために、AMIは一般に高齢集団の疾患と考えられており、典型的な発症年齢は60歳より上である(Cardinら、Aging Clin Exp Res.2012年6月24日(3補遺):43~46)。
【0003】
腸間膜虚血自体が生物にとって有害であるならば、再灌流にあるその治療はなおいっそう悪くなり得るだろう。腸は虚血-再灌流に最も敏感な器官の1つである(Yamamotoら、J.Surg.res.、2001、99:134~141)。腸管粘膜は、低灌流(酸素欠乏)によって急速に影響を受け得る。しかしながら、逆説的に、虚血性損傷を受けた腸組織の虚血後の血流の回復(再灌流)は、壊死を促進または加速するフリーラジカルの生成を刺激する酸素を突然再導入するので、組織損傷を減少させるよりもさらに組織損傷を悪化させ得る(Guanら、Am J Physiol Gastrointest Liver Physiol 2009、297:G187~G196)。虚血、その後の再灌流(IR)は、炎症メディエーターの産生を急速に誘因し得る。この局所炎症は全身レベルで急速に一般化され得る。炎症促進性細菌エンドトキシンが腸管バリアを通過すると、全身性炎症反応症候群(SIRS)状態および他の器官の機能障害がもたらされ得る。さらに、腸管虚血-再灌流は多臓器不全(MOF)状態の原動力考えられている(Harwardら、J.Vasc.Surg.1993、18:459~469)。
【0004】
最近の医学的進歩にもかかわらず、この病態の高い死亡率は1940年代以来変わっていない:それは前記疾患を患っている患者の約60%~80%に関係している(Schootsら、Br.J.Surg.2004年1月91(1):17~27)。いったん腸管壁梗塞が起こると、死亡率は90%にもなり得る。残念なことに、たとえ良い治療をしたとしても、患者の50~80%が依然として死亡している。
【0005】
この高い死亡率は、一部は、AMIを初期で診断するのが困難なためである。腹膜炎の警告サインが現れる前は、AMIの症状は最初は非特異的である。これまで、AMIを初期で診断することを可能にする効率的な生物学的マーカーはない。従来の臨床的に使用されているマーカーは、血清乳酸レベルおよび白血球数である。これらのマーカーは満足のいく特異性も感度も有さず、AMIを初期で診断することはできない。他の既存の診断試験は血管造影または断面デンシトメトリーである。これらは侵襲的であり、腎臓レベルにおけるものなどの医学的合併症を生じ得るので多くの欠点を示す(Glenister et Corker、ANSZ J.Surg.2004、74:260~265)。
【0006】
ここ数年で、全身レベルになる前に胃腸損傷を予測することができるバイオマーカーを探すために、大きな臨床的および前臨床的な努力がなされてきた。D-乳酸(Demirら、Dig.Surg.、2012、29:226~235)、腸脂肪酸結合タンパク質「I-FABP」(Cronkら、Curr.Surg.2006、63:322~325)、α-グルタチオンS-トランスフェラーゼ(Khuranaら、2002、J.Pediatr.Surg.、2002、37:1543~1548)、アルブミン(Dundarら、Acad.Emerg.Med.2010、17:1233~1238)およびD-ダイマー(Chiuら、Am.J.Emerg.Med.2009、27:975~979)がAMI診断のための潜在的なバイオマーカーとして研究されている。マウスにおける血漿I-FABPの濃度は、2時間の再灌流が続く虚血の30分後で上昇し、病理学的証拠の出現前に腸管虚血を予測することを可能にするので、I-FABPは特に有望である(Khadarooら、PloS One、2014、9:e115242)。
【0007】
これらの有望な結果にもかかわらず、I-FABPは虚血の30分後にしか虚血を検出することができない。そのため、AMIをより迅速に、かつより初期に診断する能力を有する新しいバイオマーカーを開発することが依然として必要である。
【0008】
本発明者らは、驚くべきことに、腸管虚血/再灌流のマウスモデルにおいて、マウスが腸管虚血を患っている場合、前記マウスの血漿レベルにおける循環グルカゴン様ペプチド1(GLP-1)およびグルカゴン様ペプチド2(GLP-2)の増加を、わずか10~15分間の虚血、その後の15分間の再灌流の後に観察することができることを見出した。換言すれば、GLP-1およびGLP-2は、マウスの腸管虚血のごく初期で予測的である。
【0009】
これらの実験結果は、GLP-1およびGLP-2が、ヒトまたは他の非ヒト哺乳動物、特に腸管虚血を患っている疑いがある患者における腸管虚血のごく初期でも予測的であり得ることを示唆している。
【0010】
グルカゴン様ペプチド1およびグルカゴン様ペプチド2は共に腸内分泌L細胞におけるプログルカゴンの特異的翻訳後タンパク質切断によって生成される。GLP-1およびGLP-2は栄養素摂取時に共分泌(co-secreted)される。
【0011】
ヒト循環GLP-1タンパク質は遠位小腸および結腸に主に局在する腸L細胞によって主に分泌される。血漿中に存在するGLP-1型は、GLP-1-(7-37)、GLP-1-(7-36)NH2およびそれらの分解型、例えばGLP-1-(9-36)、GLP-1-(28-36)であり得る。
【0012】
ヒト循環GLP-2タンパク質は33アミノ酸ペプチドである。血漿中には、生物活性型GLP-2-(1-33)およびその分解産物GLP-2-(3-33)が存在する。
【0013】
したがって、本発明の第1の態様は、腸管虚血を患っている疑いがある患者の腸管虚血を初期で診断するためのインビトロ診断方法であって、
(i)前記患者からの生物学的試料において循環グルカゴン様ペプチド2(GLP-2)レベルおよび/または循環グルカゴン様ペプチド1(GLP-1)レベルのレベルを決定することと、
(ii)前記レベルを参照試料中の循環グルカゴン様ペプチド2レベルおよび/または循環グルカゴン様ペプチド1レベルと比較することと
を含み、
患者の前記レベルの増加は、前記患者が腸管虚血を患っていることを示す、方法に関する。
【0014】
「腸管虚血を患っている疑いがある患者」とは、腸管虚血の原因として一般に知られている疾患の1つを患っている、または素因になる状態を有する患者、例えば心臓塞栓、近位大動脈血栓の断片からの塞栓、動脈カテーテルもしくは外科手術により移動されたアテローム性プラーク、アテローム性血管病、大動脈瘤、大動脈解離、動脈炎、心筋梗塞もしくはうっ血性心不全からの心拍出量の減少、任意の原因による脱水、うっ血性心不全からの低血圧、心筋梗塞、敗血症、大動脈弁閉鎖不全、重度の肝臓もしくは腎臓疾患、または最近の大きな心臓もしくは腹部外科手術を患っている患者、または昇圧薬、エルゴタミン、コカインもしくはジギタリスを消費している患者、またはプロテインCおよびS欠乏症からの凝固亢進、アンチトロンビンIII欠乏症、異常フィブリノーゲン血症、異常なプラスミノーゲン、真性多血症、血小板増加症、鎌状赤血球症、第V因子ライデン変異、妊娠および経口避妊薬の使用、静脈圧迫もしくは凝固亢進を引き起こす腫瘍、腹腔内感染症、例えば虫垂炎、憩室炎もしくは膿瘍、肝硬変による静脈うっ血、事故もしくは外科手術、特に門脈大静脈外科手術による静脈外傷、腹腔鏡手術中の気腹からの腹腔内圧の上昇、膵炎、減圧症を有する患者を指す。
【0015】
「初期」という用語は、10分間の虚血、その後の15分間の再灌流という短い期間を指す。
【0016】
「生物学的試料」という用語は、患者から得ることができる任意の生物学的試料、特に尿または血液などの体液の試料を指す。本発明の好ましい実施形態では、生物学的試料が血漿試料である。
【0017】
本発明のインビトロ方法に使用される参照試料は、健康な対象から得られた生物学的試料である。
【0018】
「循環グルカゴン様ペプチド1」という用語は、GLP-1-(7-37)、GLP-1-(7-36)NH2およびGLP-1-(9-36)の形態でヒト血漿中に存在するGLP-1を指す。
【0019】
「循環グルカゴン様ペプチド2」という用語は、GLP-2-(1-33)およびGLP-2-(3-33)の形態でヒト血漿中に存在するGLP-2を指す。
【0020】
患者からの生物学的試料において測定されるのがGLP-1のレベルである場合、比較のステップは、前記測定されたGLP-1と参照試料におけるGLP-1のレベルとの間で行われる。
【0021】
患者からの生物学的試料において測定されるのがGLP-2のレベルである場合、比較のステップは、前記測定されたGLP-2と参照試料におけるGLP-2のレベルとの間で行われる。
【0022】
GLP-1とGLP-2の両方のレベルが患者からの生物学的試料において測定される場合、比較のステップは、前記測定されたGLP-1レベルおよびGLP-2レベルと参照試料におけるGLP-1レベルおよびGLP-2レベルとの間で行われる。
【0023】
一実施形態では、本発明の方法が、
(i)前記患者からの生物学的試料において循環グルカゴン様ペプチド1(GLP-1)レベルのレベルを決定することと、
(ii)前記レベルを参照試料中の循環グルカゴン様ペプチド1レベルと比較することと
を含み、
患者の前記レベルの増加は、前記患者が腸管虚血を患っていることを示す。
【0024】
本発明によると、腸管虚血を患っている疑いがある患者の生物学的試料中のGLP-1レベルが、参照試料で同時に測定されたGLP-1レベルよりも、少なくとも50%、60%、70%、80%、90%、100%、150%、200%、250%または300%高い場合、前記患者においてGLP-1レベルの増加があり、前記患者が腸管虚血を患っている可能性が非常に高いと考えられる。
【0025】
別の実施形態では、本発明の方法が、
(i)前記患者からの生物学的試料において循環グルカゴン様ペプチド2(GLP-2)レベルのレベルを決定することと、
(ii)前記レベルを参照試料中の循環グルカゴン様ペプチド2レベルと比較することと
を含み、
患者の前記レベルの増加は、前記患者が腸管虚血を患っていることを示す。
【0026】
腸管虚血を患っている疑いがある患者の生物学的試料中のGLP-2レベルが、参照試料で同時に測定されたGLP-2レベルよりも、少なくとも50%、60%、70%、80%、90%、100%、150%、200%、250%または300%高い場合、前記患者においてGLP-2レベルの増加があり、前記患者が腸管虚血を患っている可能性が非常に高いと考えられる。
【0027】
「腸管虚血」は、胃腸管内の血流が不十分である場合に生じる種々の障害を指し、それは小腸(腸間膜虚血)または結腸(虚血性大腸炎)に影響を及ぼし得る。本発明の方法は、腸間膜虚血-再灌流、特に急性腸間膜虚血もしくは慢性腸間膜虚血、虚血性大腸炎、または腸バリアに関連する疾患もしくはトラブルのインビトロ診断に使用することができる。好ましい実施形態では、本発明の方法は急性腸間膜虚血をインビトロ診断するためのものである。
【0028】
本発明の方法によると、循環グルカゴン様ペプチド1またはグルカゴン様ペプチド2のレベルは、免疫測定法の平均値によって決定される。
【0029】
免疫測定法は、ELISA(酵素結合免疫吸着測定法)、ウエスタンブロット、RIA(放射免疫測定法)、競合的EIA(競合的酵素免疫測定法)、免疫細胞化学および免疫組織化学技術などの当業者に知られている様々な免疫学的技術として理解される。
【0030】
一実施形態では、本発明は、患者の腸管虚血を初期で診断および治療するためのインビトロ診断方法であって、
(i)前記患者からの生物学的試料において循環グルカゴン様ペプチド1(GLP-1)レベルを決定することと、
(ii)前記レベルを参照試料中の循環グルカゴン様ペプチド1レベルを比較することと、
(iii)前記患者のGLP-1のレベルが参照試料で同時に測定されたGLP-1レベルよりも、少なくとも50%、60%、70%、80%、90%、100%、150%、200%、250%または300%高く増加している場合、腸管虚血の治療を施すことと
を含む方法に関する。
【0031】
本発明の別の実施形態は、患者の腸管虚血を初期で診断および治療するためのインビトロ診断方法であって、
(i)前記患者からの生物学的試料において循環グルカゴン様ペプチド2レベルを決定することと、
(ii)前記レベルを参照試料中の循環グルカゴン様ペプチド2レベルを比較することと、
(iii)前記患者のGLP-2のレベルが参照試料で同時に測定されたGLP-2レベルよりも、少なくとも50%、60%、70%、80%、90%、100%、150%、200%、250%または300%高く増加している場合、腸管虚血の治療を施すことと
を含む方法に関する。
【0032】
前記腸管虚血治療は、先行技術において知られており、病院で施される任意の治療方法であり得る。
【0033】
特定の実施形態では、免疫測定法がELISA試験であり、GLP-1に対する特異性を有する少なくとも1つの抗体またはGLP-2に対する特異性を有する抗体を使用する。前記抗体は、GLP-1またはGLP-2に対する市販のモノクローナルまたはポリクローナル抗体であり得る。
【0034】
ELISA試験は、市販のGLP-1 ELISA試験または市販のGLP-2 ELISA試験によって行うことができる。
【0035】
前記ELISAアッセイは、直接ELISA、間接ELISA、サンドイッチELISAまたは競合ELISAであり得る。
【0036】
直接ELISA試験では、GLP-1またはGLP-2の存在が酵素と結合した特異的抗体によって直接示される;一方、間接ELISA試験では、GLP-1またはGLP-2が、GLP-1またはGLP-2タンパク質に特異的な第1の抗体によって認識され、前記第1の抗体が酵素と結合した第2の抗体によって認識される。
【0037】
サンドイッチELISAは、2層の抗体(すなわち捕捉抗体および検出抗体)間のGLP-1またはGLP-2タンパク質を定量する。サンドイッチELISAシステムにおける捕捉抗体および検出抗体としては、モノクローナル抗体またはポリクローナル抗体のいずれかを使用することができる。
【0038】
本発明の別の態様は、腸管虚血を患っている疑いがある患者の腸管虚血を初期にインビトロで診断するための、循環グルカゴン様ペプチド1または循環グルカゴン様ペプチド2のレベルを検出することができる試薬の使用に関する。
【0039】
好ましい実施形態では、前記試薬がグルカゴン様ペプチド1またはグルカゴン様ペプチド2に対する抗体である。前記抗体は、先行技術で公知の任意の従来のまたは市販のモノクローナルまたはポリクローナル抗体であり得る。
【0040】
特に、本発明は、腸管虚血を患っている疑いがある患者の腸管虚血を初期にインビトロで診断するための、グルカゴン様ペプチド1またはグルカゴン様ペプチド2に対する抗体を含むELISAキットの使用に関する。
【0041】
ELISA試験は、市販のGLP-1 ELISA試験またはGLP-2 ELISA試験によって行うことができる。
【0042】
本発明を、以下の図面および実施例によってより詳細に説明する。
【図面の簡単な説明】
【0043】
【
図1】急性腸間膜虚血および再灌流後の腸の損傷を示す図である。偽処置(
図1A)、20分間の虚血、その後の15分間の再灌流(
図1B)および40分間の虚血、その後の15分間の再灌流(
図1C)後の回腸組織切片のヘマトキシリン/エオシン染色。
【
図2】腸管虚血/再灌流がGLP-1の迅速な分泌を誘導することを示す図である。上腸間膜動脈の虚血-再灌流(I/R)を6匹のマウスの群に適用する。偽手術マウスを対照として使用した。独立t検定を用いて統計分析を行い、偽との差(
*)を表示する:
*p<0.05、
**p<0.01および
***p<0.001。値は平均±SEMである。
図2A:20分間の虚血、その後の15、30、45、60および120分間の再灌流後の総GLP-1血漿レベル(pM;n=5)。
図2B:5、10および15分間の虚血、その後の15分間の再灌流後の総GLP-1血漿レベル(偽の%;n=5)。
【
図3】短時間および長時間のI/R後の総GLP-1およびI-FABP血漿レベル(偽の%、n=6)(それぞれ20分間の虚血、その後の15分間または2時間の再灌流)を示す図である。
【
図4】偽群およびI/R群のマウスにおけるI/R(20分間/30分間)の処置後の炎症マーカーの分泌の比較を示す図である。
【
図5】45分間の虚血および0、30または120分間の再灌流の前後における患者の総GLP-1動静脈差を示す(n=6)図である。全ての結果を平均±SEMとして表す。
【
図6】腸管虚血/再灌流が総GLP-2の迅速な分泌を誘導することを示す図である。上腸間膜動脈の虚血-再灌流(I/R)を6匹のマウスの群に適用する。偽手術マウスを対照として使用した。独立t検定を用いて統計分析を行い、偽との差(
*)を表示する:
*p<0.05、
**p<0.01および
***p<0.001。値は平均±SEMである。
図6A:5、10および15分間の虚血、その後の15分間の再灌流後の総GLP-2血漿レベル(ng/mL;n=5)。
図6B:20分間の虚血、その後の15、60および180分間の再灌流後の総GLP-2血漿レベル(ng/mL;n=5)。
【実施例】
【0044】
1.材料および方法
動物
均質なC57BL6/JバックグラウンドからのWTマウス(8~12週齢、Charles River)を制御された環境に収容し、標準的な固形飼料(A03飼料;Safe、Augy、フランス)を与えた。動物は水と食料に自由にアクセスできた。動物を含む全ての実験は、施設のガイドラインに従って行われ、ブルゴーニュ大学の実験動物の使用に関する倫理委員会によって承認された(プロトコル番号5459)。
【0045】
腸管虚血/再灌流の動物モデル
マウスを偽手術群と虚血/再灌流(I/R)群(n=5/6)に分けた。これらをイソフルラン吸入で麻酔し、加熱パッド上に仰臥位に置いて体温を37℃に維持した。正中開腹を行い、上腸間膜動脈(SMA)を分離した。5、10、15または20分間SMAをクランプすることによって虚血を誘発し、15、30、45、60または120分間の再灌流(クランプの除去)を続けた。腸虚血を腸の色、変化によって確認し、腸再灌流を脈動および色の再出現によって確認した。採血を行ってGLP-1、GLP-2およびサイトカインを定量化した。血液試料を、全身(後眼窩または心臓内穿刺)循環からEDTA被覆管(BD Vacutainer(登録商標))に回収した。4℃で10分間、8000rpmで遠心分離することによって血漿を分離した。さらなる分析のために、血液および血漿試料を-20℃で凍結した。マウスを頸椎脱臼によって安楽死させ、小腸の遠位部(回腸)を取り出し、組織学的試験のために直ちに固定した。
【0046】
偽手術群マウスに対する外科手術は、上腸間膜動脈をクランプしなかったことを除いて同じであった。
【0047】
ヒト腸管虚血/再灌流
実験プロトコルは以前に記載されているようにして行った(Grootjansら、2010)。この試験はマーストリヒト大学医療センターの医療倫理委員会によって承認され、全患者の書面によるインフォームドコンセントを得た。良性または悪性疾患のために膵頭十二指腸切除術を受けている66歳の中央年齢(範囲、54~83歳)の6人の患者をこの試験に含めた。胆管閉塞性疾患の患者は外科手術前にステント留置した。全ての患者は、外科手技時には正常な胆汁流を有していた。膵頭十二指腸切除術の間、空腸の可変部分を、外科手技の一部として膵頭および十二指腸と連続で日常的に切除する。この空腸セグメントの末端6cmを分離し、2つの非侵襲的血管鉗子を腸間膜上に配置することによって45分間の虚血に供した。その間に、外科手術は計画通りに進行した。45分間の虚血後、分離した虚血性空腸の3分の1(2cm)を線形切断ステープラーを用いて切除した。次に、クランプを外して、正常なピンク色の回復および腸の運動性の回復によって確認される再灌流を可能にした。分離した空腸の別のセグメント(2cm)を30分間の再灌流後に同様に切除した。最後の部分は120分間の再灌流後に切除した。同時に、外科手術中に未処置のままであった空腸2cmを切除し、内部対照組織として役立てた。このセグメントは、空腸の分離した部分と同様の外科的取り扱いを受けたが、I/Rには供さなかった。虚血前、再灌流直後、ならびに再灌流開始30分後および120分後に動脈血を採取した。各それぞれの動脈血試料と同時に、直接穿刺によって分離した空腸セグメントに流れ込む細静脈から血液を採取し、分離した空腸セグメントにわたる濃度勾配を評価した。全ての血液試料を予め冷却したEDTA真空管(Becton Dickinson Diagnostics、Aalst、Belgium)に直接移し、氷上に保った。手順の最後に、全ての血液試料を4000rpm、4℃で15分間遠心分離して血漿を得た。分析まで血漿をアリコートに分けて-80℃で直ちに保存した。
【0048】
光学顕微鏡法
腸内の形態学的変化を光学顕微鏡で調べた(×50、×100および×200)。手短に言えば、遠位小腸(回腸)からの組織を、20分間または40分間の虚血および15分間の再灌流後、直ちに偽手術およびI/R群に入れた。腸試料を室温で10%中性緩衝ホルマリン中で48時間固定し、等級エタノールで脱水し、組織学的分析のためにパラフィン中に包埋した。組織切片(厚さ5μm)をキシレンで脱パラフィンし、ヘマトキシリンおよびエオシンで染色した。
【0049】
生化学分析
総GLP-1、GLP-2およびI-FABP濃度を、製造業者のプロトコルに従って市販のELISAキット(Millipore、St.Charles、MOおよびCliniscience)によって決定した。
【0050】
サイトカイン血漿濃度(インターロイキン(IL)-1β、IL-6および腫瘍壊死因子-α(TNF-α))を、製造業者のプロトコルに従ってマウスサイトカイン/ケモカイン磁気ビーズパネル(Millipore、Billerica、MA)を用いて、およびLuminex(登録商標)装置(Bio-Plex 200、Bio-Rad)を用いて、Milliplex MAP 5-Plexキットによって測定した。
【0051】
統計分析
数値データを平均±平均の標準誤差として提示する。統計分析を、データ分布の正規性に応じて、独立スチューデントt検定またはノンパラメトリックマン・ホイットニーU検定を使用して行った。ダゴスティーノのK二乗検定を使用して、データ群が正規分布であるかどうかを立証した。分散が群間で異なる場合、統計補正を適用した。P<0.05の値を統計学的に有意とみなした。
【0052】
2.結果
2.1.腸バリア損傷後のマウスにおける迅速なGLP-1分泌
腸間膜虚血-再灌流(I/R)を一群のマウスで生成した。一群の偽手術マウスを対照として使用した。腸の超微細構造は、I/R後に深く破壊された(
図1A、
図1B、
図1C)。短時間のI/Rは、偽手術マウスと比較して腸絨毛を損傷するのに十分であった(
図1Aおよび
図1B)。I/Rの時間が長くなると、損傷の増加が観察された(
図1C)。I/R実験は、GLP-1血漿レベルの急速な増加をもたらした(
図2Aおよび
図2B)。
図2Aに示されるように、20分間の虚血後の2時間の腸間膜動脈の再灌流は、GLP-1血漿レベルの上昇をもたらした。さらに注目すべきことに、この増加はわずか15分間の再灌流後に有意であった。より短時間の虚血(<20分)も依然としてGLP-1分泌を誘導することができた(
図2B)。
【0053】
腸間膜虚血-再灌流後、GLP-1分泌がI-FABP分泌(
図3)および炎症のマーカー、例えばIL-1b、IL-6、TNF-α(
図4)に先行することが明らかにされている。I-FABPと対照的に、短時間のI/R処置は有意な血漿GLP-1を誘導するのに十分であった。さらに、腸間膜虚血-再灌流後、GLP-1分泌は、I-FABPよりも定量的に重要である(
図3)。
【0054】
これらの結果は、I-FABPと比較して、GLP-1がより敏感であり、腸バリア損傷をより初期で診断するためのバイオマーカーとして使用することができることを示している。
【0055】
2.2.腸バリア損傷後のヒトにおける迅速なGLP-1分泌
ヒト腸組織を用いた新しいI/Rモデル(Grootjansら、2010)を使用して、インビボでのヒト腸内のI/R損傷がGLP-1分泌の増加と関連しているかどうかを評価した。ヒト血漿GLP-1レベルにおける動静脈差を、45分間の虚血の前後および30分間または120分間の再灌流の後に測定した。GLP-1レベルは、45分間の虚血後に著しく増加し、再灌流後にベースラインレベルに戻った(
図5)。これらの結果は、ヒト腸損傷がインビボでのGLP-1分泌の迅速な誘導と関連していることを実証している。
【0056】
2.3.腸バリア損傷後のマウスにおける迅速なGLP-2分泌
GLP-2分泌レベルも、GLP-1分泌レベルを測定するためのものと同様の実験条件で腸バリア損傷後のマウスにおいて測定する。非常に短時間(15分間)の腸管虚血後に血漿GLP-2レベルの急速な増加が観察される(
図6A)。20分間の虚血後の180分間の再灌流後に血漿GLP-2レベルの重要な増加が観察される(
図6B)。
【0057】
これらの結果は、GLP-2も腸バリア損傷に対して敏感であり、腸バリア損傷をより初期で診断するためのバイオマーカーとして使用することができることを示している。