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特許7004747切替可能な湿潤-乾燥潤滑性コーティングを有するデバイス
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-01-06
(45)【発行日】2022-02-10
(54)【発明の名称】切替可能な湿潤-乾燥潤滑性コーティングを有するデバイス
(51)【国際特許分類】
   A61L 31/08 20060101AFI20220203BHJP
   A61L 27/34 20060101ALI20220203BHJP
   A61L 27/40 20060101ALI20220203BHJP
   A61L 27/50 20060101ALI20220203BHJP
   A61L 29/08 20060101ALI20220203BHJP
   A61L 29/14 20060101ALI20220203BHJP
   A61L 29/12 20060101ALI20220203BHJP
   A61L 31/12 20060101ALI20220203BHJP
   A61L 31/14 20060101ALI20220203BHJP
【FI】
A61L31/08
A61L27/34
A61L27/40
A61L27/50
A61L27/50 300
A61L29/08 100
A61L29/14
A61L29/12
A61L31/12
A61L31/14
【請求項の数】 18
(21)【出願番号】P 2019565803
(86)(22)【出願日】2017-05-30
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2020-07-27
(86)【国際出願番号】 EP2017063019
(87)【国際公開番号】W WO2018219433
(87)【国際公開日】2018-12-06
【審査請求日】2020-03-06
(73)【特許権者】
【識別番号】517084302
【氏名又は名称】ズーゾズ アクチェンゲゼルシャフト
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100173107
【弁理士】
【氏名又は名称】胡田 尚則
(74)【代理人】
【識別番号】100128495
【弁理士】
【氏名又は名称】出野 知
(74)【代理人】
【識別番号】100146466
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 正俊
(72)【発明者】
【氏名】サムエレ トサッティ
(72)【発明者】
【氏名】オロフ スターナー
(72)【発明者】
【氏名】シュテファン チュルヒャー
(72)【発明者】
【氏名】クリスティアン マチス
【審査官】榎本 佳予子
(56)【参考文献】
【文献】特表2002-506369(JP,A)
【文献】特表平06-505029(JP,A)
【文献】特表2002-530158(JP,A)
【文献】欧州特許出願公開第02236524(EP,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61L 15/00-33/18
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
湿潤及び乾燥状態で使用するために、デバイスの表面の直ぐ上にある又は前記デバイスの表面上に配置された任意の接着層上にある潤滑性コーティングを備えたデバイスであって、前記潤滑性コーティングが、
i.ポリビニルピロリドン(PVP)、直鎖又は分岐ポリエチレングリコール(PEG)、デキストラン、ポリアルキルオキサゾリン(PAOXA)、ポリ(2-メチル-2-オキサゾリン)(PMOXA)、ポリ(エチル-オキサゾリン)(PEOXA)、ヒアルロン酸、ポリビニルアルコール(PVA)、ポリ(2-ヒドロキシエチルメタクリレート)(pHEMA)、ポリ(1-ビニルピロリドン-co-スチレン)、ポリ(1-ビニルピロリドン)-graft-(1-トリアコンテン)、ポリ(1-ビニルピロリドン-co-酢酸ビニル)、ポリ(エチレン-co-ビニルアルコール)、ポリ(エチレン-co-ビニルピロリドン)、ポリ(マレイン酸)、ポリ(エチレン-co-マレイン酸)、ポリアクリル酸、ポリ(アクリルアミド)、ポリ[N-(2-ヒドロキシプロピル)メタクリルアミド](PHPMA)、ポリ(N-イソプロピルアクリルアミド)(PNIPAM)、ポリ[(オルガノ)ホスファゼン]、キトサン及びその誘導体、キサンタンガム、デンプン、ペクチン、アルギン、アガロース、セルロース及びその誘導体、例えばセルロースエステル、セルロースエーテル、ヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMC)及びヒドロキシエチルセルロース(HEC)など、又はそれらの混合物からなる群から選ばれる少なくとも1種のポリマーA;
ii.コア及び少なくとも2つの反応性基を含む少なくとも1種の架橋剤、ここで、前記コアは、ポリアリルアミン(PAAm)、ポリエチレングリコール(PEG)、ポリビニルピロリドン(PVP)、ポリエチレンイミン(PEI)、ポリリジン(PLL)、ポリアクリル酸(PAA)、ポリビニルアルコール(PVA)、ポリアスパラギン酸、デキストラン、キチン、キトサン、アガロース、アルブミン、特にウシ血清アルブミン(BSA)、フィブロネクチン、フィブリノゲン、ケラチン、コラーゲン、リゾチーム、及び20個未満の炭素原子を有する多価分子からなる群から選ばれ、
前記反応性基はそれぞれ、
【化1】
及びそれらの混合物からなる群から選ばれ、
ここで、R、R、R及びRは互いに独立にH、F又はClであり、
及びR’は独立にメチル、エチル、プロピル、イソプロピル又はジメチルアミンであり、nは0~4であり、
及びR’は独立にメチル、エチル、プロピル、イソプロピル又はジメチルアミンであり、mは0から4であり、
前記コアは第2級又は第3級アミン、エーテル、チオエーテル、カルボン酸エステル、アミド及びチオエステルからなる群から選ばれたリンカー基Bにより反応性基に結合している;
iii.少なくとも1種の滑剤;
を含み、
前記架橋剤の前記少なくとも2つの反応性基の一部分が前記ポリマーAに共有結合して、滑剤が組み込まれた3次元ネットワークを形成しており、
同時に、前記架橋剤の前記反応性基の別の部分が前記デバイスの表面、又は前記デバイスの表面上の任意の接着層に共有結合した、デバイス。
【請求項2】
前記少なくとも1種の架橋剤の前記コアが、ポリアリルアミン(PAAm)、ポリビニルピロリドン(PVP)又はポリエチレンイミン(PEI)である、請求項1に記載のデバイス。
【請求項3】
前記少なくとも1種の架橋剤の前記コアが、20個未満の炭素原子を有する多価分子である、請求項1に記載のデバイス。
【請求項4】
前記滑剤が、食用油、植物由来の脂肪、動物由来の脂肪、脂質及びヒアルロネート又はそれらの混合物からなる群から選ばれる、請求項1~3のいずれか一項に記載のデバイス。
【請求項5】
前記滑剤が、ヒマシ油、水添ヒマシ油、又はダイズ油からなる群から選ばれる、請求項1~3のいずれか一項に記載のデバイス。
【請求項6】
前記滑剤合成油である、請求項1~3のいずれか一項に記載のデバイス。
【請求項7】
前記滑剤が、ポリ-アルファ-オレフィン(PAO)、シリコーンオイル、シリコーンペースト及びポリエチレングリコールからなる群から選ばれる合成油である、請求項1~3のいずれか一項に記載のデバイス。
【請求項8】
前記デバイスは、医療機器である、請求項1~のいずれか一項に記載のデバイス。
【請求項9】
前記デバイスは、注射針、カニューレ、シリンジピストン、膜、カテーテル、ブレード、外科用器具、使い捨てカミソリ刃、挿入デバイス、ガイドワイヤ、ステント、ステントグラフト、コンタクトレンズ、眼内レンズ(IOL)導入デバイス、人工内耳、吻合コネクタ、合成パッチ、電極、センサー、血管形成バルーン、創傷ドレーン、シャント、チューブ、注入スリーブ、尿道インサート、ペレット、インプラント、血液酸素供給器、ポンプ、血管移植片、血管アクセスポート、心臓弁、弁形成リング、縫合糸、外科用クリップ、外科用ステープル、ペースメーカー、埋め込み型除細動器、神経刺激デバイス、整形外科用デバイス、脳脊髄液シャント、埋め込み型薬物ポンプ、脊椎ケージ、人工椎間板、髄核交換用デバイス、耳管、眼内レンズ、及び低侵襲手術で使用されるチューブからなる群から選ばれる医療機器である、請求項1~7のいずれか一項に記載のデバイス。
【請求項10】
前記コーティングが、少なくとも2種の異なる架橋剤を含む、請求項1~のいずれか一項に記載のデバイス。
【請求項11】
前記接着層が、架橋剤を含むか、又は架橋剤からなる、請求項1~10のいずれか一項に記載のデバイス。
【請求項12】
前記架橋剤が、ポリエチレンイミングラフト化ペルフルオロフェニルアジド(PEI-g-PFPA)、トリス(2-PFPA-アミノエチル)アミン及び2,2’-(エチレンジオキシ)ビス(エチルアミン-PFPA)からなる群から選ばれる、請求項1~11のいずれか一項に記載のデバイス。
【請求項13】
前記3次元ネットワークが、さらに、蛍光マーカー含む、請求項1~12のいずれか一項に記載のデバイス。
【請求項14】
前記蛍光マーカーがポリエチレンイミングラフト化サリチル酸である、請求項13に記載のデバイス。
【請求項15】
前記コーティングがUVラジカル開始剤を含まない、請求項1~14のいずれか一項に記載のデバイス。
【請求項16】
a.前記少なくとも1種のポリマーA、前記少なくとも1種の架橋剤及び少なくとも1種の溶媒を含むコーティング配合物を調製し、
b.デバイスの表面又はその任意の接着層に前記コーティングを適用し、
c.3次元ネットワークを形成し、同時に電磁線又は/及び熱によって前記ネットワークをデバイスの表面又はその任意の接着層に結合させること、
によって、請求項1~15のいずれか一項に記載のデバイスを製造する方法であって、
前記滑剤は前記コーティング配合物に添加されるか、又は3次元ネットワークの形成後に添加される、方法。
【請求項17】
前記コーティング配合物が前記滑剤を含む、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
前記コーティングが、ジェッティング、噴霧、浸漬コーティング、印刷、塗装、又は充填及び排出によって適用される、請求項16又は17に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、切替可能な湿潤-乾燥潤滑性コーティングを有するデバイスに関する。
【背景技術】
【0002】
親水性コーティングを有し、低摩擦表面を備えた体腔への挿入のための医療機器、例えばカテーテルなどが知られている。
【0003】
低摩擦の親水性コーティングが様々な医療機器に有用であることは長い間知られている。低摩擦表面が使用される場合、デバイスは、体内に導入されると、動脈、静脈、カニューレ、及び他の体の開口部や通路内を容易にスライドする。したがって、コーティングされたデバイスが体腔に挿入されるとき及び体腔から除去されるときに患者が感じる不快感はかなり軽減される。デバイスの使用に関連して敏感な組織を損傷するリスクは、同時に大幅に減少する。
【0004】
所望の表面を提供するために使用される多種多様な方法がある。低摩擦係数を有し、湿潤状態(親水性コーティング、ブラシ及びヒドロゲル)又は乾燥状態のいずれかで機能する典型的な既知のコーティングは、例えば、Teflon(登録商標)、シリコーン系のコーティング、及びグラファイトである。例えば、EP0483941は、ポリビニルピロリドンと架橋ポリウレタンを含んで湿潤状態で機能するコーティングをもたらす親水性の潤滑性有機コーティングを開示している。
【0005】
低摩擦係数(CoF)を有する親水性コーティングは、通常、ヒドロゲルであり、対向面に対して擦り付けたときに潤滑膜を形成する閉じ込められた水により機能する。かかるコーティングが乾燥すると、接触する柔らかい親水性表面間の強い接着力によりCoFが劇的に増加してコーティングの壊滅的な破損をもたらす。
【0006】
乾燥状態で潤滑するコーティング、主にポリテトラフルオロエチレン(PTFE)及びシリコーン系のコーティングの場合、潤滑メカニズムは、それらの分子が互いに容易に滑ることができる高分子間の低接着性に基づく。材料内の結晶層が互いに沿って簡単にせん断することができるグラファイト、六方晶窒化ホウ素、二硫化モリブデンなどの層状材料にも同様のメカニズムが当てはまる。
【0007】
かかるコーティングを水に浸した場合、典型的には、CoFは、疎水性-疎水性相互作用のため、及び水が低粘度のためにせん断下でも滑剤として作用しないため、増加する。ヒドロゲルコーティングの場合のように、特に超低CoF(0.01未満)は、上記の乾燥潤滑用材料を用いて湿潤状態で達成されない。
【0008】
潤滑接触を得る別の方法は、粘性のためにせん断下で接点を分離できる滑剤としてオイルを使用することである。
【0009】
乾燥及び油潤滑の混合モデルを使用することは、いわゆる「スリップ」(滑性液体注入多孔質表面)と呼ばれ、いくつかの文書で開示されている。例えば、WO2014/012080は、滑性表面が内面及び/又は外面を覆うデバイスを開示している。滑性表面は、潤滑層又は液体ポリマー複合材料オーバーレイヤーのいずれかを備える。SLIPSには、フルオロシリコーン又は過フッ素化ポリマーが含まれているが、これらは生態学的理由から避ける必要がある。WO2014/209441は、多孔質疎水性ポリマー体及び潤滑液を含む滑剤リザーバーを有する本体を開示しており、前記潤滑液は細孔を占有して、滑剤リザーバー及びポリマー表面上の滑剤オーバーレイヤーを有する潤滑多孔質表面を提供する。また、ここでは、多孔質高分子体を生成させるために過フッ素化ネットワークが使用される。さらに、表面の潤滑は常にSLIPに含まれる滑剤によって提供される。すなわち、湿潤状態及び乾燥状態では、表面の滑剤が潤滑効果の原因になる。
【0010】
WO2006/037321は、ウレタン系の親水性ポリマーと、水及び1種以上の滑剤を含む湿潤剤とを含むコーティング組成物を含む湿潤親水性コーティングを有する医療機器を開示している。コーティングは物理的結合によってのみ結合され、コーティング成分間の共有結合又は架橋は存在しない。当該医療機器のコーティングは、射出成形によって、又は特定の設備を必要とする共押出によって行われるため、コストが増加する。さらに、かかるコーティングは、デバイスの表面への直接的な結合がなく、コーティングに亀裂生成を引き起こし得るしわをもたらすという欠点を有する。
【0011】
EP2236524は、光反応性基を含む官能化高分子に基づく接着促進剤を開示している。かかる接着開始剤は、例えば、美容ネイルエクステンション、人工指爪、及び/又はネイルモデリング及び修復システムなどのネイルエンハンスメントのために使用されてもよい。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明の課題は、乾燥状態及び/又は湿潤状態で機能し、簡単にかつ低価格で製造できる潤滑性コーティングを有するデバイスを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
この課題は、請求項1に記載のデバイスによって解決される。さらに好ましい実施形態は、従属請求項の主題である。
【0014】
本発明に係るデバイスは、湿潤状態及び/又は乾燥状態で使用することができる。本発明に係るデバイスは、その表面に直接共有結合した、又はデバイスの表面に配置された任意の接着層に共有結合した潤滑性コーティングを含む。潤滑性コーティングは、少なくとも1種のポリマーAと、コアと、少なくとも2つの反応性基を含む少なくとも1種の架橋剤と、少なくとも1種の滑剤とを含む。
【0015】
架橋剤の少なくとも2つの反応性基の一部分はポリマーAに共有結合して、滑剤が組み込まれ、同時に架橋剤の反応性基の別の部分がデバイスの表面又はデバイスの表面上の任意の接着層に共有結合した3次元ネットワークを形成する。すなわち、架橋剤は、架橋剤及び接着剤として同時に作用する。特に患者の体内でデバイスを動かしている間に潤滑効果を失わないためには、潤滑性コーティングの密着性が特に重要である。
【0016】
少なくとも1種のポリマーAは、ポリビニルピロリドン(PVP)、直鎖又は分岐ポリエチレングリコール(PEG)、デキストラン、ポリアルキルオキサゾリン(PAOXA)、ポリ(2-メチル-2-オキサゾリン)(PMOXA)、ポリ(エチル-オキサゾリン)(PEOXA)、ヒアルロン酸、ポリビニルアルコール(PVA)、ポリ(2-ヒドロキシエチルメタクリレート)(pHEMA)、ポリ(1-ビニルピロリドン-co-スチレン)、ポリ(1-ビニルピロリドン)-graft-(1-トリアコンテン)、ポリ(1-ビニルピロリドン-co-酢酸ビニル)、ポリ(エチレン-co-ビニルアルコール)、ポリ(エチレン-co-ビニルピロリドン)、ポリ(マレイン酸)、ポリ(エチレン-co-マレイン酸)、ポリアクリル酸、ポリ(アクリルアミド)、ポリ[N-(2-ヒドロキシプロピル)メタクリルアミド](PHPMA)、ポリ(N-イソプロピルアクリルアミド)(PNIPAM)、ポリ[(オルガノ)ホスファゼン]、キトサン及びその誘導体、キサンタンガム、デンプン、ペクチン、アルギン、アガロース、セルロース及びその誘導体、例えばセルロースエステル、セルロースエーテル、ヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMC)及びヒドロキシエチルセルロース(HEC)など、又はそれらの混合物からなる群から選ばれる。
【0017】
少なくとも1種の架橋剤は、コア及び少なくとも2つの反応性基を含み、ここで、コアは、ポリアリルアミン(PAAm)、ポリエチレングリコール(PEG)、ポリビニルピロリドン(PVP)、ポリエチレンイミン(PEI)、ポリリジン(PLL)、ポリアクリル酸(PAA)、ポリビニルアルコール(PVA)、ポリアスパラギン酸、デキストラン、キチン、キトサン、アガロース、アルブミン、特にウシ血清アルブミン(BSA)、フィブロネクチン、フィブリノゲン、ケラチン、コラーゲン、リゾチーム、及び20個未満の炭素原子を有する多価分子からなる群から選ばれる。
【0018】
架橋剤の反応性基は、それぞれ独立に、
【0019】
【化1】
【0020】
及びその混合物からなる群から選ばれ、
ここで、R、R、R及びRは互いに独立にH、F又はClであり、
及びR’は独立にメチル、エチル、プロピル、イソプロピル又はジメチルアミンであり、nは0~4であり、
及びR’は独立にメチル、エチル、プロピル、イソプロピル又はジメチルアミンであり、mは0~4であり、
コアは、第2級又は第3級アミン、エーテル、チオエーテル、カルボン酸エステル、アミド及びチオエステルからなる群から選ばれたリンカー基Bにより反応性基に結合している。
【0021】
ポリマーA及び少なくとも1種の架橋剤によって形成される3次元ネットワークは、少なくとも1種の滑剤がそれぞれ組み込まれ閉じ込められるマトリックスである。マトリックス又は滑剤は、表面に対するある特定の媒体中での相互作用により低摩擦を生じる。本発明の潤滑性コーティングは、湿潤状態及び/又は乾燥状態で機能する二重システムである。圧力をかけると、滑剤はコーティングの表面に移行して膜を形成し、この膜は2つの摺動面間の接触を防ぐため、乾燥状態でデバイスの表面を潤滑する。湿潤状態、例えば水中では、外部環境からの水が3次元ネットワークに移行し、ヒドロゲルを形成する。圧力がかかると、水はヒドロゲルの表面に移行して薄膜を形成し、この薄膜は、潤滑効果をもたらすヒドロゲルと一緒になる。ヒドロゲルとの接触により、水膜は外部環境の水と直接混合されない。
【0022】
本発明の文脈内で、「潤滑性(lubricating)」は滑りやすい表面を有すると定義される。例えば、本発明に係る医療機器の外側又は内側表面上のコーティングは、患者を傷つけずに及び/又は患者に許容できないレベルの不快感を引き起こすことなく当該医療機器を意図された身体部分に挿入できる場合、滑らかであると見なされる。特に、コーティングがない場合に測定された摩擦と比較して摩擦を減らすことができる場合、コーティングは潤滑性であると見なされる。好ましくは、摩擦係数(COF)は、摩擦計により測定される0.5未満である。
【0023】
本発明の文脈内で、用語「湿潤(wet)」は、例えば水中、血液中、尿中、涙、唾液又は他の体液中などの「水を含む」ことを意味する。特に、この用語は、本明細書では、滑らかであるのに十分な水を含むコーティングを記述するために使用される。水濃度に関して、通常、湿潤コーティングは、コーティングの乾燥質量に基づいて少なくとも10質量%、好ましくはコーティングの乾燥質量に基づいて少なくとも50質量%の水を含む。
【0024】
本発明の文脈において、「乾燥(dry)」という用語は、「水の不在下」、特に「空気との接触」を意味するが、完全に水を含まないことも包含する。空気はもちろん湿気を含むことがある。乾燥状態の典型的な例は、パッケージ内での保管、及びデバイスが体液で「濡れる」前の体腔の入り口である。
【0025】
3次元ネットワークは滑剤に対して透過性があるため、滑剤を表面に移行させることができる。
【0026】
マトリックスの形態の化学的に結合した3次元ネットワークを、前記3次元ネットワークと一定の化学親和性を有する非化学的に結合した滑剤と組み合わせることによって、3次元ネットワークの表面上に実質的に液だれしない膜を形成することが可能である。高粘度液体は摩耗を低減するが、摩擦は増加し、逆も同様である。そのため、マトリックスに滑剤を組み込み、接触領域に高粘度の液体のみを局所的に保持することは利点である。したがって、本発明に係るデバイスのコーティングは、滑剤のみを使用するよりも良好に機能する。
【0027】
湿潤状態と乾燥状態の両方で、滑剤コーティングが存在する。乾燥状態では滑剤はコーティングの内部及び表面にあり、湿潤状態では外部環境からの水が3次元ネットワークに移行し、ネットワークは、潤滑効果の原因となる水と一緒になってヒドロゲル表面を形成する膨潤マトリックスに変わる。
【0028】
細孔と3次元ネットワークの粘弾性特性の組み合わせ、つまりメッシュサイズ、透過性、ポリマーAの選択、弾性率及び厚さと、滑剤の粘度によって、湿潤及び乾燥状態の両方で低い摩擦係数を得ることができる。
【0029】
本発明の潤滑性コーティングに含まれる少なくとも1種のポリマーAは、ポリビニルピロリドン(PVP)、直鎖又は分岐ポリエチレングリコール(PEG)、好ましくは直鎖ポリエチレングリコール、デキストラン、ポリアルキルオキサゾリン(PAOXA)、ポリ(2-メチル-2-オキサゾリン)(PMOXA)、ポリ(エチル-オキサゾリン)(PEOXA)、ヒアルロン酸、ポリビニルアルコール(PVA)、ポリ(2-ヒドロキシエチルメタクリレート)(pHEMA)、ポリ(1-ビニルピロリドン-co-スチレン)、ポリ(1-ビニルピロリドン)-graft-(1-トリアコンテン)、ポリ(1-ビニルピロリドン-co-酢酸ビニル)、ポリ(エチレン-co-ビニルアルコール)、ポリ(エチレン-co-ビニルピロリドン)、ポリ(マレイン酸)、ポリ(エチレン-co-マレイン酸)、ポリアクリル酸、ポリ(アクリルアミド)、ポリ[N-(2-ヒドロキシプロピル)メタクリルアミド](PHPMA)、ポリ(N-イソプロピルアクリルアミド)(PNIPAM)、ポリ[(オルガノ)ホスファゼン]、キトサン及びその誘導体、キサンタンガム、デンプン、ペクチン、アルギン、アガロース、セルロース及びその誘導体、例えばセルロースエステル、セルロースエーテル、ヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMC)及びヒドロキシエチルセルロース(HEC)など、又はそれらの混合物からなる群から選ばれる。少なくとも1種のポリマーAは、コーティングが使用される液体(一般的に水)に可溶性でなければならず、好ましくは、前記液体中でブラシ型表面を形成できるダングリング鎖(dangling chains)を有する。3次元ネットワークの特性は、2種以上の異なるタイプのポリマーAを混合することで変更できる。ポリマーAの親水性により、ポリマーによって形成されるヒドロゲルにより水中での良好な潤滑効果が得られる。
【0030】
一般的に、少なくとも1種のポリマーAは、20,000~5,000,000g/molの範囲内、好ましくは50,000~3,000,000g/molの範囲内、より好ましくは200,000~2,000,000g/molgの範囲内の分子量を有する。
【0031】
本発明に係る潤滑性コーティングの少なくとも1種の架橋剤は、コア及び少なくとも2つの反応性基を含む。コアは、ポリアリルアミン(PAAm)、ポリエチレングリコール(PEG)、ポリビニルピロリドン(PVP)、ポリエチレンイミン(PEI)、ポリリジン(PLL)、ポリアクリル酸(PAA)、ポリビニルアルコール(PVA)、ポリアスパラギン酸、デキストラン、キチン、キトサン、アガロース、アルブミン、特にウシ血清アルブミン(BSA)、フィブロネクチン、フィブリノゲン、ケラチン、コラーゲン、リゾチーム、及び20個未満の炭素原子を有する多価分子からなる群から選ばれる。少なくとも1種の架橋剤は、マトリックスの特性に大きな影響を与える。ポリマーAと架橋剤の量の比率を変更することにより、得られる3次元ネットワークの細孔径を調整できる。多量の架橋剤は、少量の架橋剤よりも細孔が小さく、ゲルが硬くなる。好ましくは、1,000g/mol~1,000,000g/molの分子量を有するポリマーコアが好ましい。高分子架橋剤のコアが電荷を帯びている場合、マトリックスと、反対の電荷を帯びた分子との相互作用を調整できる。ポリマー架橋剤のコアが電荷を帯びていない場合、中性ネットワークが得られる。
【0032】
潤滑性コーティングの厚さ、3次元ネットワークの架橋密度、ポリマーAと架橋剤の両方の選択、並びに次元ネットワークと滑剤間の親和性は、潤滑性コーティングの局所的粘度に影響を及ぼす。したがって、保護されるべき表面の所望の特性に応じて、3次元ネットワークのアーキテクチャを適合させることができる。
【0033】
好ましくは、ポリマー架橋剤のコアは、平均して、繰り返し単位の少なくとも24番目ごと、好ましくは少なくとも12番目ごと、より好ましくは少なくとも4番目ごとに反応性基を含む官能化側鎖を含む。タンパク質を含むコアの場合、反応性基は典型的にはアミノ酸ユニットの側鎖に結合する。側鎖の分布は通常統計的である。反応性基を含む複数の側鎖のおかげで、架橋剤とポリマーAとデバイスの表面並びに接着層(存在する場合)との間に永続的な共有結合を形成することができる。
【0034】
反応性基が本発明に係るコーティングに含まれる架橋剤の不可欠な部分であるという事実により、3次元ネットワークの架橋速度及びデバイス表面上の接着を直接制御することが可能であり、したがって、ネットワークの物理的特性を決定することが可能である。それとは対照的に、遊離の紫外線開始剤はランダムな重合を起こしやすく、したがって制御が失われやすい。さらに、フリーラジカル重合では制御(又は完全に回避)する必要がある酸素の存在について注意を払う必要はない。
【0035】
好ましくは、少なくとも1種の架橋剤のコアは、ポリアリルアミン(PAAm)、ポリビニルピロリドン(PVP)、線状又は分岐ポリエチレンイミン(PEI)、ポリ-D-リジン(PDL)、ポリ-L-リジン(PLL)及びイプシロンポリ-L-リジン(ε-PLL)からなる群から選ばれる。PAAm、PVP、PEI、PDL、及びε-PLLは、様々な分子量で入手可能である。有用なPEIポリマーは、分子量が1,000g/モル~1,000,000g/モルである。
【0036】
別の実施形態において、少なくとも1種の架橋剤のコアは、20個未満の炭素原子を有する多価分子である。かかるコア分子の例は、2~6個のエチレンオキシド単位を有する分子、糖、例えば単糖類や二糖類など、多官能性アルコール、例えばエチレングリコール、トリメチロールプロパン、グリセリン、オリゴグリセリン、ペンタエリスリトールなど、トリス(2-アミノエチルアミン)、N,N,N’,N’-テトラキス(3-アミノプロピル)-1、4-ブタンジアミン、2,2’-(エチレンジオキシ)ビス(エチルアミン)、1,2,3-プロパントリカルボン酸、2-ヒドロキシプロパン-1,2,3-トリカルボキシレート、1-ヒドロキシプロパン-1,2,3-トリカルボキシレート、トリ(カルボキシメチル)アミン及びジエチルアミントリアミンなどである。
【0037】
架橋剤の反応性基は、それぞれ独立に、
【0038】
【化2】
【0039】
及びその混合物から選ばれ、
ここで、R、R、R及びRは互いに独立にH、F又はClであり、
及びR’は独立にメチル、エチル、プロピル、イソプロピル又はジメチルアミンであり、nは0~4であり、
及びR’は独立にメチル、エチル、プロピル、イソプロピル又はジメチルアミンであり、mは0~4であり、
コアは、第2級又は第3級アミン、エーテル、チオエーテル、カルボン酸エステル、アミド及びチオエステルからなる群から選ばれたリンカー基Bにより反応性基に結合している。
【0040】
好ましくは、架橋剤の少なくとも2つの反応性基はすべて同じである。
【0041】
好ましくは、反応性基は、オルト、メタ又はパラ置換ベンゾフェノン、ジアリールジアゾメタン、特にジフェニルジアゾメタン及びビス-4,4’-N,N-ジメチルアミノジフェニルジアゾメタン、オルト及びメタ位置に任意に1つ以上のハロゲン置換基を含むフェニルアジド及びそれらの混在物、並びにペルフルオロフェニルアジド(PFPA)からなる群から選ばれる。PFPAが特に好ましい。PFPAは、周囲の光と大気、及び塩基性及び酸性条件で安定である。非生産的な水素引き抜きと比較したニトレン挿入により形成された架橋の数は、フェニルアジド及びベンゾフェノンの化学と比較して高い。
【0042】
光反応性基、特にPFPAは、好ましくは400nm未満の波長の紫外線(UV)照射、又は好ましくは少なくとも120℃の温度での加熱により、架橋剤の高速かつ非常に効率的な硬化を可能にする。活性化されると、アジド基はニトレンに変換され、ニトレンは、デバイスの表面、ポリマーA又は接着層(存在する場合)の近くのC-X結合に非常に高速で非特異的な挿入反応を起こす。
【0043】
本発明に係るデバイスのコーティングは、3次元ネットワーク内で流体相を形成する物質である少なくとも1種の滑剤を含む。好ましくは、滑剤は、食用油、植物由来の脂肪、動物由来の脂肪、脂質及びヒアルロネート又はそれらの混合物からなる群から選ばれる。特に好ましいのは、特に医療用途において、ヒマシ油、硬化ヒマシ油、又はダイズ油である。
【0044】
あるいは、滑剤は、好ましくはポリ-アルファ-オレフィン(PAO)、ポリエチレングリコール、シリコーン油、例えば25℃で1000cstの粘度を有するシリコーン油又は25℃で10000cstの粘度を有するシリコーン油など、並びにシリコーンペースト、例えばモメンティブ製のSi HS-N(Si HS-N)からなる群から選ばれた合成油であってもよい。
【0045】
最も好ましくは、滑剤は、融点が20℃未満のポリエチレングリコール(PEG)、融点が20℃~50℃のポリエチレングリコール(PEG)、融点が50℃以上のポリエチレングリコール(PEG)、グリセリン、トリオレイン酸グリセリル、鉱油、ポリ-アルファ-オレフィン(PAO)を包含するポリオレフィン、白色鉱油、例えばポリオールエステルなどの合成エステル、ポリアルキレングリコール(PAG)、リン酸エステル、液体又は油性シリコーン、イオン液体、液体グラファイト、植物ワックス、動物ワックス、石油由来ワックス、ミネラルワックス、例えばレシチンなどの射出成形に使用される離型剤、例えばポロキサマー(pluronic(登録商標))などの増粘剤、ポリアクリレートゲル、メチルセルロース、上記のリストの滑剤に増粘剤、植物性油脂、動物性油脂を混ぜたものからなる群から選ばれる。
【0046】
可能な植物性油脂を以下のとおり列挙する:ダイズ油、ピーナッツ油、ココナッツ油、パーム油、パーム核油、バージンオリーブ油、オリーブ残渣油、シアナッツバター、ヒマシ油、水添ヒマシ油、ヒマワリ種子油、菜種油、キャノーラ油、桐実油、ホホバ油、ベニバナ種子油、ゴマ種子油、カラシ種子油、ケシ種子油、植物脂、カポック油、スチリンギア油、綿実油、亜麻仁油、麻実油、ボラゴ・オフィキナリス(Borago officinalis)種子油、その他の植物由来の油、米ぬか油、テルペノイドエステル、例えば酢酸リナリル、及びトウモロコシ油など。
【0047】
使用可能な動物性油脂を以下のとおり列挙する:家畜の脂肪、食肉処理の脂肪、水牛の脂肪、羊の脂肪、ヤギの脂肪、豚の脂肪、ラード、家禽の脂肪、ラクダの脂肪、他のラクダ科の脂肪、他の動物種から得られた動物性油脂、内臓、足、スイーピング及び皮のトリミングから回収された油脂、ラードステアリン及びラード油、獣脂、液体マーガリン、マーガリン、ショートニング(マーガリンに似ているが、動物性脂肪がより高い製品)、脂肪製剤、煮油、脱水油、水添油脂、ウールグリース及びラノリン、デグラス(degras)、脂肪酸、脂肪酸エステル、例えばオレイン酸プロピルエステルや10-ウンデセン酸メチルなどの脂肪酸エステル、鯨蝋、魚や海洋哺乳類の油。
【0048】
可能な脂質は、例えばコレステロール及びコレステリル誘導体、例えばコレステリルリノレートである。
【0049】
滑剤の選択は、所望の表面特性とデバイスの用途に依存する。医療分野では、滑剤の毒性が重要である。二相系を避けるために、ポリマーAと滑剤は混和性であることが好ましい。液だれする油っぽい表面をもたらさないが、それでもなお所望の滑り性を提供する油及び脂肪が好ましい。
【0050】
ボラゴ・オフィキナリス(Borago officinalis)種子に由来する油は、それらのγ-リノレン酸含有量が高いことによりさらに抗炎症効果があるため、消化器、呼吸器、心臓血管分野における例えばカテーテルなどの医療機デバイスのコーティングに特に適している。
【0051】
上記滑剤は、それ自体で粘度調整剤として機能することができ、あるいは、湿潤状態の液体に追加の粘度調整剤を添加して耐摩耗性を向上させることができる。好ましくは、コーティングは追加の粘度調整剤を含まない。
【0052】
デバイスの表面と3次元ネットワークとの間の接着力を高めるために、任意の接着層が存在してもよい。
【0053】
好ましくは、接着層は、上記の架橋剤と同じ架橋剤を含むか又はそれからなる。すなわち、接着層は、3次元ネットワークの形成に使用されるのと同じ架橋剤を含むか又はそれからなる接着層組成物によって形成される。同じ製品が使用されているため、医療機器などのコーティングされた機器は安価であり、規制要件に準拠するための労力が軽減される。
【0054】
本発明に係るデバイスは、好ましくは医療機器である。コーティングは、様々な形状と材料から選択できるデバイスにコーティングできる。デバイスは、例えば多孔性、非多孔性、滑らか、粗い、均一、又は不均一などのテキスチャーを有していてもよい。デバイスは、その表面の直ぐ上にある又はその表面上の接着層上にある潤滑性コーティングを支持する。表面のコーティングを促進するために、又はコーティングの前にデバイスを滅菌するために、表面は未処理であっても又は処理されていてもよい。コーティングは、デバイスのすべての領域又は選択した領域に適用できる。これは、フィルム、シート、ロッド、チューブ、成形部品(規則的又は不規則な形状)、繊維、布などの様々な物理的形状に適用できる。コーティングされる適切な表面の例は、例えば、金属、プラスチック、セラミック、ガラス、及び/又は複合材料からなる、又はそれらを含む表面である。
【0055】
デバイスは、好ましくは医療機器、例えば、注射針、カニューレ、シリンジピストン、膜、カテーテル、例えば尿道カテーテルや呼吸器カテーテルなど、ブレード、外科用器具、特に鋭利な器具、使い捨てカミソリ刃、挿入デバイス、ガイドワイヤ、特に心血管ガイドワイヤ、ステント、ステントグラフト、コンタクトレンズ、眼内レンズ(IOL)導入デバイス、人工内耳、吻合コネクタ、合成パッチ、電極、センサー、血管形成バルーン、創傷ドレーン、シャント、チューブ、注入スリーブ、尿道インサート、ペレット、インプラント、血液酸素供給器、ポンプ、血管移植片、血管アクセスポート、心臓弁、弁形成リング、縫合糸、外科用クリップ、外科用ステープル、ペースメーカー、埋め込み型除細動器、神経刺激デバイス、整形外科用デバイス、脳脊髄液シャント、埋め込み型薬物ポンプ、脊椎ケージ、人工椎間板、髄核交換用デバイス、耳管、眼内レンズ、及び低侵襲手術で使用されるチューブである。最も好ましくは、医療機器は、注射針、カニューレ、シリンジピストン、膜、カテーテル、ブレード、外科用器具、特に鋭利な器具、使い捨てカミソリ刃、挿入デバイス、ガイドワイヤ、ステント、ステントグラフト、コンタクトレンズ、IOL注射器具、人工内耳からなる群から選ばれる。
【0056】
本発明に係るデバイスのコーティングは、少なくとも2種の異なる架橋剤を含んでもよい。好ましくは、少なくとも2種の異なる架橋剤は異なるコアを有する。これにより、局所的に異なる潤滑特性を持つ3次元ネットワークを作成できる。代替的又は追加的に、架橋位置間の距離を調整するために、架橋剤のポリマーコアと反応性基の比を変えることにより、グラフト化比を調整することができる。4~100のグラフト化比を簡単に準備できる。好ましくは、少なくとも2種の異なる架橋剤の一方は電荷を帯びておらず、他方は電荷を帯びている。例えば、少なくとも2種の異なる架橋剤は、ポリエチレンイミングラフト化ペルフルオロフェニルアジド(PEI-g-PFPA)及び2,2’-(エチレンジオキシ)ビス(エチルアミン-PFPA)であることができる。
【0057】
架橋剤がポリエチレンイミングラフト化ペルフルオロフェニルアジド(PEI-g-PFPA)、トリス(2-PFPA-アミノエチル)アミン、及び2,2’-(エチレンジオキシ)ビス(エチルアミン-PFPA)である場合に特に良好な結果が得られる。PEI-g-PFPAなどの電荷を帯びた架橋剤には、それらが水中でプロトン化されるという利点がある。2,2’-(エチレンジオキシ)ビス(エチルアミン-PFPA)などの電荷を帯びていない架橋剤は、時には回避する必要がある負電荷を帯びた生体分子に結合しないという利点がある。
【0058】
ポリマーAは、乾燥コーティングの総質量に基づいて、10質量%超、例えば15質量%超又は50質量%超で使用されてもよい。ポリマーAは、乾燥コーティングの総質量に基づいて最大95%まで存在できる。好ましくは、ポリマーAと架橋剤との間の比は、質量で100:1~2:1、好ましくは質量で50:1~2:1、最も好ましくは5:1~2:1である。
【0059】
3次元ネットワークと滑剤との比は、好ましくは質量で20:1~1:2、最も好ましくは質量で10:1~1:1、特に好ましくは質量で2:1~1:1である。
【0060】
好ましくは、コーティングは、AIBN、トリクロロアセトフェノン又はベンゾインイソプロピルエーテルなどの追加のUVラジカル開始剤を含まない。製造中にUVラジカル開始剤が使用されないため、コーティングにはUVラジカル開始剤が含まれないため、コーティングの長期安定性が確保される。
【0061】
本発明はさらに、乾燥状態及び湿潤状態で潤滑性コーティングを含むデバイスを形成する方法に関する。
【0062】
好ましくは、本発明に係るデバイスは、
a.少なくとも1種のポリマーA、少なくとも1種の架橋剤及び少なくとも1種の溶媒を含むコーティング配合物を調製し、
b.デバイスの表面又はその任意の接着層にコーティングを適用し、
c.3次元ネットワークを形成し、同時に電磁線又は/及び熱によってネットワークをデバイスの表面又はその任意の接着層に結合されること、
により製造され、ここで、滑剤はコーティング配合物に、又は3次元ネットワークの形成後に添加される。
【0063】
少なくとも1種の溶媒は、好ましくは、少なくとも1種のポリマーA及び少なくとも1種の架橋剤が可溶性である標準的な溶媒である。単一の溶媒の代わりに溶媒混合物を使用してもよい。
【0064】
3次元ネットワークと、デバイスの表面又は任意の接着層への架橋剤の共有結合形成が、同時に、すなわちワンステップで行われるという事実により、本発明に係る方法は非常に高速で費用効率が高い。デバイスの表面への結合は非常に安定である。架橋剤は3次元ネットワークとデバイスの表面への結合に関与しているため、コーティングには亀裂がない。
【0065】
一段階で上記滑剤をコーティング配合物に直接添加することによって、あるいは、形成された3次元ネットワークに上記滑剤を添加することによって、上記滑剤を3次元ネットワークに組み込むことができる。ワンステップ法には、滑剤の均一な分布が得られ、この方法はより高速であり、したがって、より安価であるという利点がある。
【0066】
あるいは、滑剤は、最終的な3次元ネットワークに、つまり硬化後に追加できる。この方法では、同じデバイス上に異なるタイプの滑剤を使用できるが、使用方法によっては必要になる場合がある。
【0067】
コーティング配合物は、ジェッティング(jetting)、噴霧、浸漬コーティング、印刷、塗装、充填及び排出、洗浄、ローリング(rolling)、及び当該技術分野で知られている他の方法によってデバイスに適用することができる。
【0068】
コーティングの厚さは、コーティング配合物の浸漬時間、引抜速度又は粘度によって制御することができる。典型的には、基材上のコーティングの厚さは、0.05~300μm、好ましくは0.05~100μm、より好ましくは0.1~30μmの範囲である。
【0069】
好ましくは、本発明に係るデバイスのコーティングは、蛍光マーカーをさらに含む。蛍光マーカーにより、コーティングが適用された場所を特定できる。最も好ましくは、蛍光マーカーは、ポリエチレンイミングラフト化サリチル酸(PEI-g-サリチル酸)である。これは、コーティング製剤をさらに安定化させるからである。
【0070】
本発明に係るデバイスのコーティングは追加の添加物を含むことができ、あるいは、滑剤自体が、例えば薬剤、紫外線安定剤、抗酸化剤、可塑剤、帯電防止剤、ポロゲン、顔料、ホワイトナー又は染料として作用するなどの他の利点を有することができる。
【0071】
さらに、油溶性の薬剤又はビタミンを上記滑剤に加えて、3次元ネットワークに組み込むことができる。
【0072】
添付の図面は、本発明に係るデバイスの実施形態を示し、説明とともにいくつかの結果を説明し、本開示の原理を説明するのに役立つ。
【図面の簡単な説明】
【0073】
図1図1a及び図1bは、本発明の概略図を示す。
図2図2a及び図2bは、本発明の別の実施形態の概略図を示す。
図3図3は、コーティング配合物中のヒマシ油濃度の関数としての摩擦係数を示す。
図4図4は、摩耗サイクルの関数としての摩擦係数を示す。
図5図5は、コーティングの厚さの関数としての摩擦係数を示す。
図6図6は、粘度調整剤としての水中のPEGの百分率の関数としての摩擦係数を示す。
図7図7は、溶液粘度の関数として100サイクル後の摩擦係数を示す。
図8図8は、コーティングされた及びコーティングされていないシリコーンヒドロゲルレンズの摩擦係数を示す。
【発明を実施するための形態】
【0074】
図1a及び1bは本発明の概略図を示す。デバイス(10)の表面(5)には、任意の接着層(15)が存在する。前記任意の接着層上には少なくともポリマーA、少なくとも1種の架橋剤及び滑剤(30)を含むコーティング(20)が存在する。ポリマーA及び架橋剤は3次元ネットワーク(25)を形成しており、当該3次元ネットワークはデバイスの任意の接着層(15)に共有結合しているか、又はデバイス表面に直接共有結合している。滑剤(30)は、3次元ネットワーク(25)に組み込まれている。乾燥した周囲条件では、滑剤は3次元ネットワークに組み込まれ、圧力がかかった状態でコーティングの表面に潤滑膜を形成する(図1a)。湿潤状態、すなわち水中では、外部環境からの水が3次元ネットワークに移行し、ヒドロゲル表面を形成する(35)。圧力がかかると、水はヒドロゲルの表面に移行し、潤滑効果の原因となる薄膜を形成する。ハイドロゲル中に水が閉じ込められているため(35)、その水は外部環境の水と直接混合されない(40)(図1b)。
【0075】
図2a及び2bは、本発明のさらなる実施形態の概略図を示す。デバイス(10)の表面(5)には、任意の接着層(15)が存在する。前記任意の接着層上には少なくともポリマーA及び少なくとも1種の架橋剤を含むコーティング(20)が存在する。ポリマーA及び架橋剤は3次元ネットワーク(25)を形成しており、当該3次元ネットワークはデバイスの任意の接着層(15)に共有結合しているか又はデバイス表面に直接共有結合している。湿潤状態、すなわち、滑剤(30)をさらに含む水(40)中では、水と外部環境からの滑剤が3次元ネットワークに移行し、滑剤-ヒドロゲル表面(35)を形成する。圧力がかかると、水と滑剤はヒドロゲルの表面に移行し、潤滑効果の原因となる薄膜を形成する(図2b)。乾燥した周囲条件では、滑剤は3次元ネットワークに組み込まれたままであり、圧力がかかるとコーティングの表面に潤滑膜を形成する(図2a)。
【実施例
【0076】
実施例1:高分子架橋剤として使用するためのポリエチレンイミングラフト化ペルフルオロフェニルアジド(PEI-g-PFPA)原液の調製:
【0077】
【化3】
【0078】
エタノール中の分岐ポリエチレンイミン(PEI、例えばAldrich 408727、平均Mw25,000g/mol)の濃度100mg/mlの溶液を調製した。この溶液の16.3mLを、磁気撹拌棒入りの茶色ガラス瓶に入れた。2.09gのペルフルオロフェニルアジド-N-ヒドロキシ-スクシンイミド(PFPA-NHS)gを2本目の瓶内で283.7mLのエタノールに溶解させた。このPFPA-NHS溶液を、激しく撹拌したPEI溶液に徐々に加え、室温で5時間以上撹拌して、PFPAに対するエチレンイミンモノマーの公称グラフト化比が6で、濃度が10mg/mlのPEI-g-PFPA原液を得た。このポリマーのグラフト化比は、PEIとPFPAの比率を変化させて架橋位置間の距離を調整することにより調節できる。4~100のグラフト化比を簡単に準備できる。合成中の溶媒量を減らすか又は蒸発によって、より高い濃度が可能である。
【0079】
実施例2:ラジカルクエンチャー(安定剤)及び蛍光マーカーとしてのポリエチレンイミングラフト化サリチル酸(PEI-g-サリチレート)原液の調製:
【0080】
【化4】
【0081】
エタノール中の分枝ポリエチレンイミン(PEI、例えばAldrich 408727、平均Mw25,000g/mol)の濃度100mg/mlの溶液を調製した。この溶液の7.57mLを、磁気撹拌棒入りの茶色ガラス瓶に入れた。0.413gのサリチレート-N-ヒドロキシ-コハク酸イミド(サリチレート-NHS)を2本目の瓶内で92.4mLのエタノールに溶解させた。このサリチレート-NHS溶液を、激しく撹拌したPEI溶液に徐々に加え、室温で5時間以上撹拌して、サリチレートに対するエチレンイミンモノマーの公称グラフト化比が10で、濃度が10mg/mlのPEI-g-サリチレート原液を得た。このポリマーのグラフト化比は、PEIとサリチル酸の比率を変化させて、フルオロフォアの位置間の距離を調整することにより調節できる。4~100のグラフト化比を簡単に準備できる。このポリマーは、400nmの発光波長で蛍光を発する。サリチル酸はまた、ヒドロキシルフリーラジカルとの高い反応速度を有し、したがってコーティング配合物の安定剤として機能する。
【0082】
実施例3:架橋剤としてのトリス(2-PFPA-アミノエチル)アミンの調製
【0083】
【化5】
【0084】
トリス(2-アミノエチル)アミンをジクロロメタンに溶解させ、この溶液に3.1eqのペルフルオロフェニルアジド-N-ヒドロキシ-スクシンイミド(PFPA-NHS)を加えた。混合物を24時間撹拌した。生成物は白色粉末として沈殿し、これをろ過し、少量の冷ジクロロメタンで洗浄し、乾燥させた。
【0085】
実施例4:電荷を帯びてない小さな架橋剤としての2,2’-(エチレンジオキシ)ビス(エチルアミン-PFPA)溶液の調製
【0086】
【化6】
【0087】
2.5mlの2,2’-(エチレンジオキシ)ビス(エチルアミン)(エタノール中10mg/ml、0.171mmol)及び113.8mgのペルフルオロフェニルアジド-N-ヒドロキシ-スクシンイミド(PFPA-NHS)を一晩撹拌し、エタノール17.4mLで希釈して、さらに精製せずに使用される2,2’-(エチレンジオキシ)ビス(エチルアミン-PFPA)の溶液を得た。
【0088】
実施例5:滑剤、PVPマトリックス及び架橋剤としてのPEI-g-PFPAを含むコーティング配合物の製造:
エタノール、酢酸エチル(又はPVPが溶解する他の溶媒)中の高分子量ポリビニルピロリドン(PVP K94、Aldrich 437190)の溶液を調製した。この溶液は、架橋剤としての種々の量のPEI-g-PFPA(10mg/ml)(例1)、滑剤含有溶液とエタノール、酢酸エチル(又はPVPと他の成分が溶解する任意の他の溶媒)と混合することができ、総濃度に応じて種々の粘度を有し、塗布されたコーティングの硬化後に種々の架橋密度と様々な量の閉じ込められた滑剤をもたらすコーティング配合物が得られる。
【0089】
以下の滑剤を試験した。
- ダイズ油(ダイズ)
- シリコーン油(Si 1000cst)
- シリコーン油(Si 10000cst)
- モーメンティブ(Si HS-N)からのシリコーンペースト(Si HS-N) - ポリ-アルファ-オレフィン(PAO)
- ヒマシ油(CO)。
【0090】
【表1】
【0091】
実施例6:注射針のコーティング
ステンレス鋼、皮下注射針(G19、1-1/2’’)を酸素プラズマで清浄にし、エタノール溶液中の1mg/mlからのスプレーコーティングによってHVEプライマーでコーティングして接着層を形成した。実施例5A~Fに記載のコーティング溶液を、プライマー層の上にスプレーコーティングにより塗布した。コーティングを、深紫外線(254nmで3~4mW/cmフラックス)に15分間曝すことにより硬化させた。
【0092】
実施例7:湿潤及び乾燥状態でのコーティングされた注射針の摩擦試験
実施例6のコーティングされた針の摩擦特性を、マイクロトライボメトリー(BASALT MUST、Tetra)及び皮膚模倣ポリウレタン(PU)ホイル(厚さ0.4mmのDEKA PU)への浸透によって試験した。トライボメトリー試験では、針を3D印刷されたサンプルホルダーに取り付け、ルアーロックで固定した。ポリジメチルシロキサン(弾性率約2MPa)から作製された円柱状の対向表面を、摩擦係数(法線力に対する摩擦の勾配)を得るために、400~1400mNの種々の垂直荷重でクロスシリンダー構成で針に対してスライドさせた。さらに、コーティングの耐摩耗性を得るために、摩擦力を記録しながら、PDMSピンを50サイクルにわたって1200mNの法線荷重で針上を前後にスライドさせた。実験は次の順序で実施した。
1.乾燥状態での摩擦係数の決定。
2.乾燥状態での耐摩耗性。
3.10~20サイクルの乾燥状態での耐摩耗性。その後、サンプルホルダーにリン酸緩衝生理食塩水を加えて、乾燥状態から湿潤状態に移行する際の摩擦の推移を記録した。
4.湿潤状態での摩擦係数の決定。
【0093】
様々なコーティングの湿潤及び乾燥摩擦係数を測定した。コーティングされなかった針も測定した。これは、上記対向表面に対して高い摩擦と高い接着性を備えていた。PAOを除くすべてのコーティングは、コーティングされなかった針と比較して引く乾燥摩擦を有していた。PBSに浸漬した場合、すべてのコーティングが低いCoFを有していた。
【0094】
摩擦特性は、PUDEKAホイルを貫通して運動を維持するのに必要な力を測定することによりさらに評価した。針を固定力ゲージ(PCE-LFG20、PCE機器)に取り付け、PUホイルを1mm/sで移動するリニアモーションドライブに吊り下げた。針の挿入中及び引き抜き中の両方で力を記録した。突き刺し段階は乾燥で行われ、引き抜きの間、針は濡れていた。コーティングされていない針を測定し、コーティングされた針と比較した。すべてのコーティングは、コーティングされていない針と比較して乾燥摩擦力を低減し、ヒマシ油、ダイズ油、及びPAOは湿潤段階で低い力を有していた。
【0095】
実施例8 PVP/PEI-g-PFPAコーティングの潤滑能力の決定
滑剤の含有量としてヒマシ油の量を増やした溶液1~6(表2を参照)を調製した。
【0096】
【表2】
【0097】
これらの溶液をスライドガラス上にスピンコートし、UV-C(254nm、3.5mW/cm)で2分間硬化させた。清浄なアルミ箔をコーティングの上に置き、ゆっくり剥がした。PVPに対するヒマシ油の比が2未満であるコーティング(溶液1~4)では、箔に目に見える油痕は残らなかった。接触面に油痕を残さないコーティングが好ましい。
【0098】
実施例9:使い捨てカミソリ刃プラスチックケーシング
カミソリ刃のケーシングを2分間プラズマ清浄し、表3に概説した3つのコーティング方法のいずれかに従ってコーティングした。プライマー溶液I:エタノール中の0.1mg/ml PEI-g-PFPA、及びII:エタノール中の5mg/ml PEI-g-PFPA。プライマー溶液IIでコーティングした後、プライマーを254nmの3.7mW/cmのUVフラックスで4分間硬化させた。トップコートを、スプレーコーティングにより塗布した。乾燥後、コーティングを、254nmの3.7mW/cmのUVフラックスで5分間硬化させた。
【0099】
乾燥時のコーティング番号3の触感は、滑らかで、油状又はグリース状ではなかった。すべてのコーティングは、水に浸したときに滑らかであった。
【0100】
【表3】
【0101】
実施例10:浸漬コーティングによるペンニードルのコーティング
コーティング実験に、コーティングされていないステンレススチール製のペンニードル(クリックファイン(clickfine)31G×5/16’’、0.25×8mm)を使用した。ニードルを、次の手順に従ってコーティングした。
1.2分間の酸素プラズマ。
2.PEI-g-PFPA(エタノール中0.1mg/ml)溶液に10秒間浸漬して、接着促進層を形成。
3.表4に記載のコーティング配合物中への10秒間の浸漬。
4.空気中で乾燥。
5.PVPコーティングの場合、UV-Cを2分間当てる。
【0102】
【表4】
【0103】
実施例11:コーティングされたペンニードルの差し込み力測定
差し込み力は、Zwick Z2.5力ゲージで力を測定しながら、0.40mmPU試験ホイルへのニードルの差し込みによって測定した。様々なコーティングされたニードルの結果を表5に掲げ、標準のシリコーン処理クリックファイン対照と比較する。マトリックスが滑剤ヒマシ油と組み合わされたコーティング(5)についてのみ、シリコーン処理された対照ニードルのように低い値は乾燥摩擦で得られる。PVPのみ又はPHEMAのみ、及び架橋剤のみ又はヒマシ油のみが、より高い摩擦値をもたらす。ヒマシ油ベースのコーティングを含むPVPは、ガンマ線滅菌に耐性がある。
【0104】
【表5】
【0105】
実施例12:CoF(比PVP:PEI-g-PFPA:ヒマシ油)及び摩耗に対する組成の影響
滑り性(湿潤及び乾燥の両方)及び乾燥外観(油状でない)に関してコーティング特性を最適化するために、表6に示すようにいくつかのコーティング配合物を調製した。ポリエステルカバースリップ(Thermanox)を2分間プラズマ清浄し、表6に示すコーティング配合物でスプレーコーティングした。コーティングを、254nmで3~4mW/cmのUVフラックスによりUV下で2分間硬化させた。コーティングの外観は、アルミ箔片をサンプル上に置き、アルミ箔片を最初に約26MPaの圧力で押し下げ、次にディスク表面から取り除くことにより試験した。油性(oiliness)は、コーティングから箔に移行した油の量をランク付けすることにより、定性的に判断した。コーティングは、ヒマシ油とPVPの比が0.6を超えると油性になり始めた。
【0106】
各サンプルについて3つの異なる位置で、最初は乾燥状態で、次いでリン酸緩衝生理食塩水で摩擦特性を評価した。摩擦係数は、半径2.5mmのPDMSピンに対する400~1200mNの法線力ランプから計算した。結果を図3に示す。乾燥時のCoFは3mg/ml未満のCOで非常に高く、10mg/mlまで減少した。その後、CoFは着実に0.04を下回った。
【0107】
さらに、溶液番号4~6を、乾燥状態での耐摩耗性について試験した。摩擦力を連続的に記録しながら、PDMSピンを50回前後にスライドした。図4を参照。コーティング配合物中のCO量が増加すると、コーティングの耐摩耗性が増加する。
【0108】
【表6】
【0109】
実施例13:乾燥潤滑性に対するコーティング厚の影響
CoFに対するコーティングの厚さの影響を評価するために、マトリックス:架橋剤:滑剤の比率が同じで、絶対濃度が異なる一連の溶液を調製した。表7参照。コーティング番号2の厚さは約500nmで、コーティング番号3の厚さは1500nmであった。CoFは、400~1200mNでPDMSピン(R=2.5mm)に対して乾式で評価した。図5を参照。少なくとも500nmまでのコーティング厚への影響は検出できなかった。
【0110】
【表7】
【0111】
実施例14:硬化後に滑剤を添加できる、親水性ポリマーと架橋剤の比率が異なるコーティング配合物の製造:
エタノール中の高分子量ポリビニルピロリドン(PVP K94、Aldrich 437190)の濃度200mg/mlの溶液を調製した。この溶液を種々の量のPEI-g-PFPA(10mg/ml)、PEI-g-サリチレート(10mg/ml)及びエタノールと混合して、コーティング配合物を得た。これらのコーティング配合物は、総濃度に応じて異なる粘度を有し、適用されたコーティングの硬化後に異なる架橋密度と蛍光特性をもたらした。表8に、この方法で準備された溶液のいくつかの例を示す。
【0112】
【表8】
【0113】
実施例15
過酷な接触条件(150MPaの接触圧力)における粘度調整剤としての液体中に低分子量PEGを有するコーティングのトライボロジー性能
シリコンウェーハ(2×1cm)を超音波処理(2×10分間、トルエン、2×10分間 IPA)し、すすぎ、窒素流で乾燥させた。その後、サンプルに表8の溶液2をスプレーコーティングした。80nm及び200nmの乾燥膜厚は、異なる量のコーティング配合物を塗布することにより生じさせた。
【0114】
共有結合と架橋は、UV照射(2分間、ラムダ=254nm、800μW/cm)によってPFPAを活性化することにより引き起こした。その後、結合していない可能性のある化学種を除去するために、コーティングされたサンプルを純水ですすいだ。
【0115】
コーティングされたサンプルを、トライボロジー試験中に摩擦係数に関して評価した。
コーティングに閉じ込められた水とPEG(400g/mol)の比率は0~100%の間で変化し、0は純水で、100%は純PEGである(図6)。
【0116】
具体的には、摩耗の開始に関連する時間スケールは、コーティングの設計によって、コーティングがさらされる最終的な接触条件に関する多孔質粘弾性特性(メッシュサイズ、浸透性、弾性率、粘度、厚さ)によって制御した。図7は、溶液の粘度を調整することにより、コーティングのスクイーズアウト時間(squeeze-out time)をトライボロジー接触の移動時間に一致させる方法を示している。
【0117】
実施例16 白内障手術用の使い捨てポリプロピレン眼内レンズ送達デバイス(PP IOLデバイス)への任意の接着層の適用:
サンプルを酸素プラズマで8分間処理し、エタノール中の濃度0.5mg/mlのPEI-g-PFPAの溶液に3分間浸漬した。サンプルを遠心分離機で回転させて乾燥させ、さらにコーティングするまで暗所で保管した。
【0118】
実施例17 PP IOLデバイス内へのコーティング配合物の適用:
任意の接着層を備えた又は備えていないデバイスを、表8の溶液14を充填及び排出することによってコーティングすると、空気乾燥したデバイス内部にコーティング配合物の薄膜が残った。あるいは、コーティングは、ジェッティング、噴霧、浸漬コーティング、印刷又は塗装によって適用することができる。
【0119】
実施例18 PP IOLデバイス内部の適用されたコーティングの硬化:
デバイスを強度6mW/cmのUV-Cチャンバに2~12分間入れた。必要に応じて、材料が安定な場合、サンプルを、120℃を超える温度で1時間、又は160℃で5分間熱硬化させることができる。
必要に応じて、コーティングの非結合部分を除去するためにサンプルを水に浸漬することによって洗浄することができる。UV照射時間を長くすると、すすぎ後の未結合ポリマーの損失が減少する。また、眼内レンズの差し込み中に生成される粒子が減少する。
【0120】
実施例19 コーティングされたPP I0Lデバイスの差し込み力の試験
インプラントレンズを、滑剤(ヒアルロン酸ナトリウム)を含む水滴とともにデバイスのチャネルに配置し、次に、差し込み力(injection force)を記録しながらデバイスを介して差し込んだ。表8のコーティング配合物14を使用すると、コーティングされなかったデバイスと比較して必要な最大力の大幅な減少が測定された。CoFは照射時間が長くなるとわずかに増加する(10分間対3分間)。PEI-g-PFPAがない場合(表8の溶液18)、コーティングは表面に付着せず、差し込み力はコーティングされなかったサンプルと同じである。コーティングの厚さを薄くすると、潤滑性が低下する(表8の溶液23対溶液14)。
【0121】
実施例20 ソフトコンタクトレンズのコーティング
シリコーンハイドロゲルコンタクトレンズを超純水ですすぎ、レンズと同じ内径の丸いサンプルホルダーに取り付けた。レンズをNガス流で乾燥させた。PEI-g-PFPAの接着プライマーを、エタノール中0.1mg/mlの希釈液からレンズ表面全体にスプレーした。エタノール中の表8の溶液9に記載されている10mg/mlのPVP及び1mg/mlの架橋剤を有するコーティング配合物をレンズ表面全体にスプレーコーティングにより塗布した。乾燥後、コーティングを254nmで3~4mW/cmのUVフラックスで2分間硬化させた。レンズを4℃でリン酸緩衝生理食塩水に一晩浸した。コーティングされたレンズとコーティングされなかったレンズの摩擦試験は、Sterner, O.; Aeschlimann, R.; Zurcher, S.; Lorenz, K. O.; Kakkassery, J.; Spencer, N. D.; Tosatti, S. G. P. Friction Measurements on Contact Lenses in a Physiologically Relevant Environment: Effect of Testing Conditions on FrictionFriction Measurements on Contact Lenses. Investigative Ophthalmology & Visual Science 2016, 57 (13), 5383-5392に記載されている模擬涙溶液を使用して行った。この溶液は、自然の涙のように異なる脂質とムチンを含み、粘度調整剤と滑剤として機能する。
【0122】
コーティングされたレンズとコーティングされなかったレンズのCoF値を図8に示す。コーティングされたレンズは、コーティングされなかったレンズと比較して、CoFが10倍減少した。
本発明に関連する発明の実施態様の一部を以下に示す。
[態様1]
湿潤及び/又は乾燥状態で使用するために、デバイスの表面の直ぐ上にある又は前記デバイスの表面上に配置された任意の接着層上にある潤滑性コーティングを備えたデバイスであって、前記潤滑性コーティングが、
i.ポリビニルピロリドン(PVP)、直鎖又は分岐ポリエチレングリコール(PEG)、デキストラン、ポリアルキルオキサゾリン(PAOXA)、ポリ(2-メチル-2-オキサゾリン)(PMOXA)、ポリ(エチル-オキサゾリン)(PEOXA)、ヒアルロン酸、ポリビニルアルコール(PVA)、ポリ(2-ヒドロキシエチルメタクリレート)(pHEMA)、ポリ(1-ビニルピロリドン-co-スチレン)、ポリ(1-ビニルピロリドン)-graft-(1-トリアコンテン)、ポリ(1-ビニルピロリドン-co-酢酸ビニル)、ポリ(エチレン-co-ビニルアルコール)、ポリ(エチレン-co-ビニルピロリドン)、ポリ(マレイン酸)、ポリ(エチレン-co-マレイン酸)、ポリアクリル酸、ポリ(アクリルアミド)、ポリ[N-(2-ヒドロキシプロピル)メタクリルアミド](PHPMA)、ポリ(N-イソプロピルアクリルアミド)(PNIPAM)、ポリ[(オルガノ)ホスファゼン]、キトサン及びその誘導体、キサンタンガム、デンプン、ペクチン、アルギン、アガロース、セルロース及びその誘導体、例えばセルロースエステル、セルロースエーテル、ヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMC)及びヒドロキシエチルセルロース(HEC)など、又はそれらの混合物からなる群から選ばれる少なくとも1種のポリマーA;
ii.コア及び少なくとも2つの反応性基を含む少なくとも1種の架橋剤、ここで、前記コアは、ポリアリルアミン(PAAm)、ポリエチレングリコール(PEG)、ポリビニルピロリドン(PVP)、ポリエチレンイミン(PEI)、ポリリジン(PLL)、ポリアクリル酸(PAA)、ポリビニルアルコール(PVA)、ポリアスパラギン酸、デキストラン、キチン、キトサン、アガロース、アルブミン、特にウシ血清アルブミン(BSA)、フィブロネクチン、フィブリノゲン、ケラチン、コラーゲン、リゾチーム、及び20個未満の炭素原子を有する多価分子からなる群から選ばれ、
前記反応性基はそれぞれ、
【化1】
及びそれらの混合物からなる群から選ばれ、
ここで、R 、R 、R 及びR は互いに独立にH、F又はClであり、
及びR ’は独立にメチル、エチル、プロピル、イソプロピル又はジメチルアミンであり、nは0~4であり、
及びR ’は独立にメチル、エチル、プロピル、イソプロピル又はジメチルアミンであり、mは0から4であり、
前記コアは第2級又は第3級アミン、エーテル、チオエーテル、カルボン酸エステル、アミド及びチオエステルからなる群から選ばれたリンカー基Bにより反応性基に結合している;
iii.少なくとも1種の滑剤;
を含み、
前記架橋剤の前記少なくとも2つの反応性基の一部分が前記ポリマーAに共有結合して、滑剤が組み込まれた3次元ネットワークを形成しており、
同時に、前記架橋剤の前記反応性基の別の部分が前記デバイスの表面、又は前記デバイスの表面上の任意の接着層に共有結合した、デバイス。
[態様2]
前記少なくとも1種の架橋剤の前記コアが、ポリアリルアミン(PAAm)、ポリビニルピロリドン(PVP)又はポリエチレンイミン(PEI)である、態様1に記載のデバイス。
[態様3]
前記少なくとも1種の架橋剤の前記コアが、20個未満の炭素原子を有する多価分子である、態様1に記載のデバイス。
[態様4]
前記滑剤が、食用油、植物由来の脂肪、動物由来の脂肪、脂質及びヒアルロネート又はそれらの混合物、好ましくはヒマシ油、水添ヒマシ油、又はダイズ油からなる群から選ばれる、態様1~3のいずれか一項に記載のデバイス。
[態様5]
前記滑剤が、好ましくはポリ-アルファ-オレフィン(PAO)、シリコーンオイル、シリコーンペースト及びポリエチレングリコールからなる群から選ばれる合成油である、態様1~3に記載のデバイス。
[態様6]
前記デバイスは、医療機器、好ましくは注射針、カニューレ、シリンジピストン、膜、カテーテル、ブレード、外科用器具、使い捨てカミソリ刃、挿入デバイス、ガイドワイヤ、ステント、ステントグラフト、コンタクトレンズ、眼内レンズ(IOL)導入デバイス、人工内耳、吻合コネクタ、合成パッチ、電極、センサー、血管形成バルーン、創傷ドレーン、シャント、チューブ、注入スリーブ、尿道インサート、ペレット、インプラント、血液酸素供給器、ポンプ、血管移植片、血管アクセスポート、心臓弁、弁形成リング、縫合糸、外科用クリップ、外科用ステープル、ペースメーカー、埋め込み型除細動器、神経刺激デバイス、整形外科用デバイス、脳脊髄液シャント、埋め込み型薬物ポンプ、脊椎ケージ、人工椎間板、髄核交換用デバイス、耳管、眼内レンズ、及び低侵襲手術で使用されるチューブである、態様1~5のいずれか一項に記載のデバイス。
[態様7]
前記コーティングが、少なくとも2種の異なる架橋剤を含む、態様1~6のいずれか一項に記載のデバイス。
[態様8]
前記接着層が、架橋剤を含むか、又は架橋剤からなる、態様1~7のいずれか一項に記載のデバイス。
[態様9]
前記架橋剤が、ポリエチレンイミングラフト化ペルフルオロフェニルアジド(PEI-g-PFPA)、トリス(2-PFPA-アミノエチル)アミン及び2,2’-(エチレンジオキシ)ビス(エチルアミン-PFPA)からなる群から選ばれる、態様1~8のいずれか一項に記載のデバイス。
[態様10]
前記3次元ネットワークが、さらに、蛍光マーカー、好ましくはポリエチレンイミングラフト化サリチル酸を含む、態様1~9のいずれか一項に記載のデバイス。
[態様11]
前記コーティングがUVラジカル開始剤を含まない、態様1~10のいずれか一項に記載のデバイス。
[態様12]
a.前記少なくとも1種のポリマーA、前記少なくとも1種の架橋剤及び少なくとも1種の溶媒を含むコーティング配合物を調製し、
b.デバイスの表面又はその任意の接着層に前記コーティングを適用し、
c.3次元ネットワークを形成し、同時に電磁線又は/及び熱によって前記ネットワークをデバイスの表面又はその任意の接着層に結合させること、
によって、態様1~11のいずれか一項に記載のデバイスを製造する方法であって、
前記滑剤は前記コーティング配合物に添加されるか、又は3次元ネットワークの形成後に添加される、方法。
[態様13]
前記コーティング配合物が前記滑剤を含む、態様12に記載の方法。
[態様14]
前記コーティングが、ジェッティング、噴霧、浸漬コーティング、印刷、塗装、又は充填及び排出によって適用される、態様12又は13に記載の方法。
[態様15]
乾燥状態及び/又は湿潤状態での態様1~11のいずれかに記載のデバイスの使用。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8