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特許7004763廃棄物由来エタノール溶液の製造方法、合成物の製造方法および燃料の製造方法
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  • 特許-廃棄物由来エタノール溶液の製造方法、合成物の製造方法および燃料の製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-01-06
(45)【発行日】2022-01-21
(54)【発明の名称】廃棄物由来エタノール溶液の製造方法、合成物の製造方法および燃料の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C12P 7/08 20060101AFI20220114BHJP
   C10L 1/02 20060101ALI20220114BHJP
【FI】
C12P7/08
C10L1/02
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2020069266
(22)【出願日】2020-04-07
(62)【分割の表示】P 2016208803の分割
【原出願日】2016-10-25
(65)【公開番号】P2020115879
(43)【公開日】2020-08-06
【審査請求日】2020-05-01
(73)【特許権者】
【識別番号】000002174
【氏名又は名称】積水化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100179969
【弁理士】
【氏名又は名称】駒井 慎二
(74)【代理人】
【識別番号】100173532
【弁理士】
【氏名又は名称】井上 彰文
(72)【発明者】
【氏名】西山 典秀
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 周知
(72)【発明者】
【氏名】後藤 宏明
【審査官】野村 英雄
(56)【参考文献】
【文献】特表2015-527883(JP,A)
【文献】特表2012-525827(JP,A)
【文献】特表2010-539294(JP,A)
【文献】特表2011-512869(JP,A)
【文献】国際公開第2015/058011(WO,A1)
【文献】特開2016-131549(JP,A)
【文献】国際公開第2016/114299(WO,A1)
【文献】特表2015-534831(JP,A)
【文献】国際公開第2015/109257(WO,A1)
【文献】国際公開第2015/175809(WO,A1)
【文献】特開2016-10404(JP,A)
【文献】特開2013-059284(JP,A)
【文献】特表平9-507386(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12P 1/00-41/00
C12N 1/00- 7/08
C12M 1/00- 3/10
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
PubMed
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
δ13Cの値が-70‰以上-35‰未満であり、かつ、エタノール濃度が95%以上である廃棄物由来エタノール溶液を製造する方法であって、
培養液中でガス資化性細菌を培養しつつ、廃棄物由来合成ガスを前記培養液に供給し、前記ガス資化性細菌の発酵作用により前記廃棄物由来合成ガスを処理して、粗エタノール溶液を得る工程と、
前記粗エタノール溶液を、抽出処理、濃縮処理、脱水処理、エタノールより沸点の低い低沸点物質を除去する処理、エタノールより沸点の高い高沸点物質を除去する処理、およびイオン交換処理の順で濃縮して、前記廃棄物由来エタノール溶液を得る工程とを有することを特徴とする廃棄物由来エタノール溶液の製造方法。
【請求項2】
前記廃棄物由来合成ガスは、廃棄物を焼却炉で焼却することにより発生するガスである請求項1に記載の廃棄物由来エタノール溶液の製造方法。
【請求項3】
前記ガス資化性細菌を連続培養する請求項1または2に記載の廃棄物由来エタノール溶液の製造方法。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか1項に記載の廃棄物由来エタノール溶液の製造方法により製造された廃棄物由来エタノール溶液を用いて化学合成により合成物を製造することを特徴とする合成物の製造方法。
【請求項5】
請求項1~3のいずれか1項に記載の廃棄物由来エタノール溶液の製造方法により製造された廃棄物由来エタノール溶液または前記廃棄物由来エタノール溶液の処理物を用いて燃料を製造することを特徴とする燃料の製造方法。
【請求項6】
前記燃料は、ジェット燃料、灯油、軽油またはガソリンである請求項5に記載の燃料の製造方法。
【請求項7】
前記ジェット燃料は、炭素数10~20の飽和炭化水素を主成分として含有する請求項6に記載の燃料の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、廃棄物由来エタノール溶液の製造方法、合成物の製造方法および燃料の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
環境問題を解消するために、現在、石油化学系資源由来の工業原料やエネルギーを、再生可能資源由来の工業原料やエネルギーに切り替える試みがなされている。中でも、バイオエタノールは、有力な候補としての期待が高まっている。このバイオエタノールには、酵母により製造されたエタノール(例えば、特許文献1参照)や、ガス資化性細菌により製造されたエタノール(例えば、非特許文献1参照)がある。
【0003】
石油化学系資源の枯渇や、環境負荷の更なる低減を考えた場合、バイオエタノールの需要がさらに増大していくことは明白である。ただし、酵母によるエタノールの製造では、原料として植物を用いるが、この植物としてトウモロコシ等の食物が利用される。このため、食物との競合を配慮する必要があり、原料としての食物の利用は避けることが望ましい。一方、ガス資化性細菌によるエタノールの製造では、原料として食物に利用できないセルロース等をガス化した合成ガスを用いるため、食物との競合を配慮する必要がない。したがって、エタノールの原料が合成ガスか否かを判別できることは、今後の社会において強く望まれると考えられ、消費者にとっても、エタノールの起源を知り得ることは重要となる。また、各種用途に使用される有機物質についても、上記と同様のことが言える。
【0004】
ここで、炭素を含有するサンプル(有機炭素)の潜在的な起源を特定するための手法として、炭素同位体13Cと12Cとの比率を測定することが広く行われている。この手法は、植物が保有する炭素固定酵素の差異により、生成する有機炭素における13Cと12Cとの比率(δ13C)の値が異なることに着目した手法である。
【0005】
例えば、C植物は、炭素固定酵素としてRubisco(ribulose 1,5-bisphosphate carboxylase/oxygenase)のみを保有し、このRubiscoが12Cを選択的(優先的)に利用することにより、植物体内のδ13Cの値が大気中のδ13Cの値よりも小さくなる。一方、C植物は、炭素固定酵素としてRubiscoに加えてPEPC(phosphoenolpyruvate carboxylase)を保有するが、PEPCは、炭素固定時の炭素同位体分別が極めて小さいため、植物体内のδ13Cの値が大気中のδ13Cの値に近くなる。
【0006】
また、特許文献2には、植物由来の原料を用いて酵母により製造されたイソプレンと、石油由来の原料を用いて化学合成により製造されたイソプレンとを、それらのδ13Cの値の違いによって判別し得ることが記載されている。また、C植物およびC植物の一方を原料として用いた場合、その植物自体が有するδ13Cの値の範囲内またはそれに近いδ13Cの値を有するイソプレンが得られ、双方を用いた場合、2つの植物がそれぞれ有するδ13Cの値の中間値を有するイソプレンが得られることも記載されている。しかしながら、特許文献2には、合成ガスを原料としたイソプレンについて何ら記載されていない。
【0007】
以上のように、有機物質におけるδ13Cの値の変動には、種々の要因があるため、容易には予測が困難であり、現状、合成ガスを原料とする各種有機物質のδ13Cの値、すなわちその判別可能性について知られていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特開2009-028029号公報
【文献】特許第5624980号公報
【非特許文献】
【0009】
【文献】遠山正幸、外2名、「合成ガスを原料とするエタノール製造技術の開発」、三井造船技報、No.197(2009-6)、p.23-28
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明の目的は、起源が明らかな有機物質を含有する有機組成物、かかる有機組成物を簡易なプロセスで効率よく製造し得る有機組成物の製造方法、および前記有機組成物を含有する燃料を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、上述したような知見に基づき、炭素源(原料)や代謝経路の違いによって、得られる有機物質のδ13Cの値が大きく異なるのではないかと予測し、鋭意検討を行った。その結果、植物由来の原料を用いて酵母により製造されたエタノールおよび石油由来の原料を用いて化学合成により製造されたエタノールのδ13Cの値より、合成ガスを用いてガス資化性細菌により製造されたエタノールのδ13Cの値が小さくなることを見出した。
また、本発明者らは、事前に全く予期し得なかったことであるが、植物由来の原料、石油由来の原料(化学品)またはそれらの混合原料から発生した合成ガスを用いてガス資化性細菌により製造されたエタノールのδ13C値が、原料自体のδ13Cの値と大きく異なることも見い出した。
【0012】
さらに、本発明者らは、他の有機物質においても、同様の傾向が存在することを見出し、本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明における有機組成物は、δ13Cの値が-35‰未満の有機物質を含有することを特徴とする。
【0013】
本発明における有機組成物では、前記有機物質は、エタノール、2,3-ブタンジオール、ブタジエン、酢酸、乳酸およびこれらを用いた合成物のうちの少なくとも1種を含むことが好ましい。
【0014】
また、本発明における有機組成物は、ガス資化性細菌由来の有機物質を含有し、前記有機物質のδ13Cの値が-35‰未満であることを特徴とする。
【0015】
本発明における有機組成物では、前記有機物質の濃度は、95%以上であることが好ましい。
【0016】
本発明における有機組成物では、前記有機物質は、エタノールを含むことが好ましい。
【0017】
さらに、本発明における有機組成物の製造方法は、前記有機組成物を製造する方法であり、
ガス資化性細菌の発酵作用により、原料ガスを処理する工程を有することを特徴とする。
【0018】
本発明における有機組成物の製造方法では、前記原料ガスは、廃棄物を焼却炉で焼却することにより発生する合成ガス、コークスを製鉄炉で燃焼することにより発生する合成ガス、またはメタンを水蒸気改質することにより発生する合成ガスであることが好ましい。
【0019】
本発明における有機組成物の製造方法では、前記原料ガスを処理する工程において、前記ガス資化性細菌の発酵作用により、前記原料ガスからエタノールを生成することが好ましい。
【0020】
本発明における有機組成物の製造方法では、前記ガス資化性細菌は、クロストリジウム(Clostridium)属細菌、ムーレラ(Moorella)属細菌およびアセトバクテリウム(Acetobacterium)属細菌のうちの少なくとも1種を含むことが好ましい。
【0021】
本発明における有機組成物の製造方法では、前記ガス資化性細菌は、クロストリジウム・オートエタノゲナム(Clostridium autoethanogenum)、クロストリジウム・ユングダリイ(Clostridium ljungdahlii)、クロストリジウム・アセチクム(Clostridium aceticum)、クロストリジウム・カルボキシジボランス(Clostridium carboxidivorans)、ムーレラ・サーモアセチカ(Moorella thermoacetica)およびアセトバクテリウム・ウッディイ(Acetobacterium woodii)のうちの少なくとも1種を含むことが好ましい。
【0022】
本発明における有機組成物の製造方法では、さらに、前記エタノールを濃縮する工程を有することが好ましい。
【0023】
本発明における有機組成物の製造方法では、前記エタノールの濃縮は、抽出処理、濃縮処理、脱水処理、エタノールより沸点の低い低沸点物質の除去処理、エタノールより沸点の高い高沸点物質の除去処理、およびイオン交換処理を経て行われることが好ましい。
【0024】
さらに、本発明における燃料は、前記有機組成物または前記有機組成物の処理物を含有することを特徴とする。
【0025】
本発明における燃料は、ジェット燃料、灯油、軽油またはガソリンであることが好ましい。
【0026】
本発明における燃料では、前記ジェット燃料は、炭素数10~20の飽和炭化水素を主成分として含有することが好ましい。
【発明の効果】
【0027】
本発明によれば、起源が明らかな有機組成物、およびかかる有機組成物を含有する燃料を提供することができる。また、本発明によれば、有機組成物を簡易なプロセスで効率よく製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
図1】本発明における有機組成物の製造方法の実施形態を示すフロー図である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下、本発明の廃棄物由来エタノール溶液の製造方法、合成物の製造方法および燃料の製造方法について好適実施形態に基づいて詳細に説明する。
なお、本明細書中では、特に言及しない限り、「%」および「ppm」は、重量に基づく単位である。
【0030】
本発明における有機組成物は、δ13Cの値が-35‰未満の有機物質を含有することを特徴とする。この有機物質は、エタノール、2,3-ブタンジオール、酢酸、乳酸およびこれらを用いた合成物のうちの少なくとも1種を含むことが好ましく、エタノールを含むことがより好ましい。これらのうちの少なくとも1種(特に、エタノール)を有機物質として含有する有機組成物は、後述するような各種用途への汎用性が高いため好ましい。なお、以下の実施形態では、有機物質としてエタノールを含有する有機組成物について代表的に説明する。
【0031】
すなわち、本実施形態の有機組成物は、δ13Cの値が-35‰未満のエタノールを含有する。このようにδ13Cの値が小さいエタノールは、化学合成や酵母を用いて製造することができない。このため、エタノールのδ13Cの値を測定することにより、化学合成エタノールであるのか、酵母エタノール(酵母由来のエタノール)であるのか、あるいは細菌エタノール(ガス資化性細菌由来のエタノール)であるのかを明確に判別すること、すなわちエタノールの起源を明確に特定することができる。
【0032】
ここで、δ13Cとは、{(13C/12C)サンプル/(13C/12C)標準物質-1}×1000(‰)で計算される値である。標準物質には、国際標準物質として白亜紀PeeDee層のヤイシ類化石VPDB(13C=1.1056%、12C=98.8944%)が用いられる。なお、δ13Cは、安定同位体比測定装置により簡便に測定することができる。
【0033】
エタノールのδ13Cの値は、-35‰未満であればよいが、-75~-40‰程度であることが好ましく、-70~-45‰程度であることがより好ましく-60~-45‰であることがさらに好ましい。かかる範囲のδ13Cの値を有するエタノールは、細菌エタノールであるとより確実に特定することができる。なお、本発明者らの検討によれば、エタノールのδ13Cの値は、用いるガス資化性細菌の種類および原料ガスの種類、および培養条件等によって若干変動することが判っている。
【0034】
本発明において、ガス資化性細菌には、一酸化炭素脱水素酵素(CODH)を保有する細菌を用いることができる。具体的には、主に一酸化炭素の代謝、すなわち一酸化炭素脱水素酵素の作用により、一酸化炭素と水とから二酸化炭素とプロトンとを発生する作用によって生育する細菌が好ましく用いられる。なお、アセチルCoA経路とメタノール経路とを有する嫌気性細菌は、一酸化炭素脱水素酵素(CODH)を有している。
【0035】
かかる嫌気性細菌としては、例えば、クロストリジウム・オートエタノゲナム(Clostridium autoethanogenum)、クロストリジウム・ユングダリイ(Clostridium ljungdahlii)、クロストリジウム・アセチクム(Clostridium aceticum)、クロストリジウム・カルボキシジボランス(Clostridium carboxidivorans)、クロストリジウム・ラグスダレイ(Clostridium ragsdalei)のようなクロストリジウム(Clostridium)属細菌、ムーレラ・サーモアセチカ(Moorella thermoacetica)のようなムーレラ(Moorella)属細菌、アセトバクテリウム・ウッディイ(Acetobacterium woodii)のようなアセトバクテリウム(Acetobacterium)属細菌、カルボキシドセラ・スポロデュセンス・エスピー・ノブ(Carboxydocella sporoducens sp. nov.)のようなカルボキシドセラ(Carboxydocella)属細菌、ロドシュードモナス・ゲラチノサ(Rhodopseudomonas gelatinosa)のようなロドシュードモナス(Rhodopseudomonas)属細菌、ユーバクテリウム・リモスム(Eubacterium limosum)のようなユーバクテリウム(Eubacterium)属細菌、ブチリバクテリウム・メチロトロフィクム(Butyribacterium methylotrophicum)のようなブチリバクテリウム(Butyribacterium)属細菌等が挙げられる。
【0036】
また、これらの細菌が保有するCODHは、酸素感受性であるが、酸素非感受性のCODHを保有する細菌も知られている。かかる細菌としては、例えば、オリゴトロファ・カルボキシドボランス(Oligotropha carboxidovorans)のようなオリゴトロファ(Oligotropha)属細菌、ブラディリゾビウム・ジャポニクム(Bradyrhizobium japonicum)のようなブラディリゾビウム(Bradyrhizobium)属細菌、好気性水素酸化細菌であるラルソトニア(Ralsotonia)属細菌等が挙げられる。
【0037】
このように広く存在するCODHを有する細菌の中から、本発明で用いるガス資化性細菌が適宜選択される。例えば、CO、CO/H(COおよびHを主成分とするガス)またはCO/CO/H(CO、COおよびHを主成分とするガス)を唯一の炭素源かつエネルギー源とした選択培地を用い、嫌気、微好気または好気的条件で、上記細菌を培養することにより、ガス資化性細菌として利用可能な細菌を分離(選別)することができる。
【0038】
さらに、分離された細菌の中から、エタノール生成能の特に高い細菌が選択される。このような細菌(ガス資化性細菌)としては、クロストリジウム(Clostridium)属細菌、ムーレラ(Moorella)属細菌およびアセトバクテリウム(Acetobacterium)属細菌のうちの少なくとも1種を含む細菌が好ましく、クロストリジウム・オートエタノゲナム(Clostridium autoethanogenum)、クロストリジウム・ユングダリイ(Clostridium ljungdahlii)、クロストリジウム・アセチクム(Clostridium aceticum)、クロストリジウム・カルボキシジボランス(Clostridium carboxidivorans)、ムーレラ・サーモアセチカ(Moorella thermoacetica)およびアセトバクテリウム・ウッディイ(Acetobacterium woodii)のうちの少なくとも1種を含む細菌がより好ましい。これらの細菌は、高いエタノール生成能を有することはもちろんのこと、2-プロパノール(イソプロパノール)の生成能が比較的低いためである。
【0039】
有機組成物中のエタノールの濃度は、特に限定されないが、95%以上(100%を含む)であることが好ましく、97~99.9%程度であることがより好ましく、98~99%程度であることがさらに好ましく、99.5~99.9%程度であることが特に好ましい。エタノールの濃度が前記下限値未満の場合、有機組成物中の不純物の濃度が高過ぎることになり、有機組成物の用途によっては、その原材料としての使用に適さないことがある。一方、エタノールの濃度を前記上限値を超えて高くするには、エタノールを濃縮する作業(有機組成物の精製)に要する手間と時間とが多大になり、現実的でない。
【0040】
また、例えば、日本国の社団法人自動車技術会規格(2006)では、燃料エタノール中のエタノールの濃度は、99.5%(vol%)以上と定められている。他国でも(例えば、インド)でも、燃料エタノール中のエタノールの濃度は、99.5%以上と規定されている。したがって、99.5~99.9%でエタノールを含有する有機組成物は、エタノール専用車に好適に使用することができる。また、燃料エタノールは、エタノール専用車以外の用途にも使用することができるため、99.5~99.9%でエタノールを含有する有機組成物は、汎用性が特に高くなる。
【0041】
このように高濃度のエタノールを含有する有機組成物は、例えば、化粧品、飲料、化学物質、燃料等の原材料、食品等の添加物として好適に使用することができる。
【0042】
また、有機組成物は、微量の2-プロパノールを含有してもよい。この場合、有機組成物中の2-プロパノールの濃度は、1ppm未満であることが好ましい。なお、2-プロパノールの濃度は、できる限り低いことが好ましく、その下限値は、特に限定されないが、0.01ppm程度であることが好ましく、0.1ppm程度であることがより好ましい。また、2-プロパノールもガス資化性細菌により生成される有機物質であるため、δ13Cの値が上述したような範囲となる。
【0043】
ここで、2-プロパノールは、果実に含まれる香気性を有する成分でもある。このため、微量の2-プロパノールを含有する有機組成物を飲料等の原材料として用いた場合、飲料等に若干の果実臭を付与することができる。
また、2-プロパノールは、エタノールと比較して油類との親和性が高い。このため、微量の2-プロパノールを含有する有機組成物を燃料の原材料として用いた場合、燃焼装置(例えば、エンジン)内へ油類が付着することを抑制したり、付着した油類を除去(洗浄)したりすることができ、燃焼装置の燃焼効率の向上が期待できる。
【0044】
以上のような有機組成物は、本発明における有機組成物の製造方法により製造される。
図1は、本発明における有機組成物の製造方法の実施形態を示すフロー図である。
図1に示す有機組成物の製造方法1は、ガス資化性細菌の発酵作用により、原料ガスからエタノールを生成する培養工程2と、エタノールを濃縮して有機組成物を得る濃縮工程3とを有している。
以下、各工程について順次説明する。
【0045】
[1]培養工程2
まず、培養リアクター(バイオリアクター)21内に、培養液と前述したようなガス資化性細菌とを収容する。その後、培養液を撹拌しつつ、原料ガスを培養リアクター21内に供給する。これにより、培養液中でガス資化性細菌を培養する。
培養リアクター21には、例えば、撹拌板で培養液を撹拌するタイプの培養リアクター、培養液自体を循環させることにより培養液を撹拌するタイプの培養リアクター、供給される原料ガスの通気で生じる気泡流に伴う水流により培養液を撹拌するタイプの培養リアクター等を用いることができる。
【0046】
培養液は、主成分の水と、この水に溶解または分散された栄養分(例えば、ビタミン、リン酸等)とを含有する液体である。
また、原料ガスは、主成分として一酸化炭素を含有するガスである。なお、原料ガスは、一酸化炭素の他、例えば、水素、水蒸気、二酸化炭素、窒素、酸素のような各種ガスを含有してもよい。かかる原料ガスとしては、例えば、プラスチック廃棄物、生ゴミ、都市廃棄物(MSW)、廃棄タイヤ、バイオマス廃棄物のような廃棄物を焼却炉で焼却することにより発生する合成ガス(廃棄物由来の合成ガス)、コークスを製鉄炉で燃焼することにより発生する合成ガス(コークス由来の合成ガス)、メタンを水蒸気改質することにより発生する合成ガス(メタン由来の合成ガス)等を用いることができる。
【0047】
なお、原料ガスとして合成ガス(Synthesis gas:Syngas)を用いる場合、合成ガスには、必要に応じて、必要成分の量を高めるための改質処理、ガス資化性細菌に悪影響を与える成分を除去する処理、加湿処理、乾燥処理等を施すようにしてもよい。
また、原料ガス組成は、特に限定されないが、H/CO/CO/N=20~80%/25~60%/0.01~30%/5~20%であることが好ましく、H/CO/CO/N=25~60%/22~50%/0.1~30%/5~20%であることがより好ましい。
培養液の温度(培養温度)は、好ましくは30~45℃程度、より好ましくは33~42℃程度とすることができ、培養時間は、好ましくは連続培養で24時間~300日程度、より好ましくは連続培養で5日~300日程度とすることができる。
【0048】
また、培養リアクター21内の圧力は、常圧であってもよいが、好ましくは10~300kPa(ゲージ圧)程度、より好ましくは20~200kPa(ゲージ圧)程度とすることができる。培養リアクター21内の圧力を上記範囲とすることにより、過剰圧力負荷による設備コストの増大を抑制しつつ、ガス資化性細菌の反応性をより高めることができる。
【0049】
このようにして、培養液中でガス資化性細菌が増殖するとともに、培養液中にδ13Cの値が-35‰未満のエタノールが生成する。
所定時間の経過後、培養液の一部を培養リアクター21内から取り出し、フィルター(例えば、セラミック膜フィルター)を通過させる。これにより、培養液からガス資化性細菌を除去して、濾過液を得る。その後、この濾過液を濃縮工程3に供する。
【0050】
ここで、濃縮工程3に供する液としては、培養液を、例えば、蒸留、スクリュープレス、ローラープレス、ベルトスクリーン、振動ふるい、多重板波動フィルター、真空脱水機、加圧脱水機(フィルタープレス)、ベルトプレス、スクリュープレス、遠心濃縮脱水機(スクリューデカンタ)、多重円板脱水機等を用いて固液分離(例えば、ガス資化性細菌の除去)した液であってもよい。本明細書中では、かかる液も「濾過液」に含まれる。
また、培養液自体を濃縮工程3に供する液とすることもできる。
なお、この段階で、濾過液中のエタノールの濃度が所望の値となっている場合、以下の濃縮工程3を省略して、濾過液を有機組成物とすることもできる。
【0051】
[2]濃縮工程3
濃縮工程3では、抽出処理、濃縮処理、脱水処理、エタノールより沸点の低い低沸点物質を除去する処理(低沸点物質除去処理)、エタノールより沸点の高い高沸点物質を除去する処理(高沸点物質除去処理)およびイオン交換処理をこの順で行う。
【0052】
まず、濾過液に対して抽出処理を施す。この抽出処理では、抽出塔31が用いられる。抽出塔31では、エタノール水溶液中のエタノール濃度が低い際に、エタノールに対する不純物の比揮発度が増大することを利用して、フーゼル油等の有機不純物を塔頂部から分離して除去する。また、抽出処理は、好ましくは常圧で行われる。
【0053】
次に、有機不純物が除去された濾過液に対して濃縮処理を施す。この濃縮処理では、棚段塔、バッチ釜のような濃縮塔32が用いられる。また、濃縮処理は、好ましくは常圧で行われる。なお、この段階で、濾過液中のエタノールの濃度が、90%程度にまで濃縮される。
【0054】
次に、濃縮された濾過液に対して脱水処理を施す。この脱水処理は、例えば、濾過液にアルカリ水溶液を添加した後、脱水膜33(例えば、ゼオライト脱水膜)を通過させる蒸気透過法(VP法)により行われる。この場合、好ましくは、供給圧力が200~600kPaA程度、透過圧力が1~5kPaA程度、蒸気圧力が0.1~1MPaG程度とされる。なお、この段階で、濾過液中のエタノールの濃度が、99.5%程度にまで濃縮される。
【0055】
次に、脱水された濾過液に対して、低沸点物質除去処理および高沸点物質除去処理を順に施す。低・高沸点物質除去処理では、それぞれ充填塔34、35が用いられる。また、低・高沸点物質除去処理は、それぞれ好ましくは常圧で行われる。
なお、ぺトリューク式の蒸留塔を採用することで、蒸留塔34、35を1つの蒸留塔に集約することが可能となる。また、2重効用蒸留方式を蒸留塔34、35に採用すれば、蒸留塔34、35のいずれか一方を減圧状態で運転することができるため、低・高沸点物質除去処理をより低エネルギーで行うことが可能となる。
【0056】
最後に、低・高沸点物質が除去された濾過液に対して、イオン交換処理を施す。このイオン交換処理では、イオン交換樹脂36を充填した容器が用いられる。濾過液のイオン交換樹脂36の通過は、例えば、0.01~0.1MPaG程度の不活性ガス(例えば、窒素ガス)で加圧することにより行うことができる。これにより、濾過液からさらに有機不純物が除去されて、すなわちエタノールが濃縮されて、本実施形態の有機組成物が得られる。
【0057】
以上説明したような有機組成物の製造方法によれば、エタノールと沸点が近いことが原因で分離が困難な2-プロパノールの生成能が低いガス資化性細菌を選択し、かつガス資化性細菌の培養条件等を適宜設定することにより、培養液中の2-プロパノールの濃度を十分に低くすることができる。したがって、培養工程2後の濃縮工程3における工数を大幅に減少させることができ、仮に濃縮工程3の工数を減らしても、2-プロパノールの濃度が低い有機組成物を確実に得ることができる。特に、図1に示すフローでは、抽出塔31の運転エネルギーを低減したり、抽出塔31およびそれに関連する設備のサイズを小さくすることができる。このようなことから、有機組成物の製造コストを削減することができる。
【0058】
なお、得られた有機組成物は、2-プロパノールの他に、メタノール(0.5~2ppm程度)、1,1-ジエトキシエタン(1~3ppm程度)、エチルベンゼン(0.2~1.5ppm程度)およびmまたはp-キシレン(0.2~0.7ppm程度)のうちの少なくとも1種を含有してもよい。これらの有機物質は、原料ガス由来の物質であると考えられる。特に、原料ガスとして廃棄物由来の合成ガスを用いた場合に、これらの有機物質が有機組成物中に検出されることが多い。したがって、これらの有機物質を検出すれば、有機組成物の製造に用いた原料ガスが廃棄物由来の合成ガスであると特定することができる。また、これらの有機物質のδ13Cの値は、-5~-25‰程度である。
【0059】
なお、これらの有機物質の濃度が上記範囲の程度であれば、上述したように、化粧品、飲料、化学物質、燃料(例えば、ジェット燃料、灯油、軽油、ガソリン)等の原材料、食品等の添加物等に問題なく使用することができる。ここで、有機組成物を燃料の原材料として用いる場合、かかる燃料は、有機組成物のみを含有してもよく、有機組成物とその他の添加剤とを含有してもよい。
【0060】
ジェット燃料は、燃焼効率等を考慮すると、炭素数10~20の飽和炭化水素を主成分として含有することが好ましい。したがって、有機組成物をジェット燃料の原材料として用いる場合、かかるジェット燃料は、炭素数10~20の飽和炭化水素と有機組成物との混合物で構成することができる他、有機組成物に対して、例えば、脱水処理、オリゴマー化処理および水素添加処理等を施すことにより合成された炭素数10~20の飽和炭化水素(有機組成物の処理物)を主成分として構成することもできる。なお、エタノールおよび2-プロパノールは、高い殺菌能を有するため、これらは、エンジンや配管のような燃料系内で細菌等が繁殖するのを防止するための殺菌剤としても機能する。
【0061】
以上説明した実施形態の有機組成物は、有機物質としてエタノールを含有するが、エタノールとともにまたはエタノールに代えて、2,3-ブタンジオール、酢酸または乳酸を含有してもよく、さらにこれら以外の有機物質を含有してもよい。この場合、上述したような細菌の中から、目的とする有機物質の生成能が高い細菌を選択して用いるようにすればよい。
【0062】
例えば、2,3-ブタンジオールの生成能の高い細菌としては、クロストリジウム・オートエタノゲナム(Clostridium autoethanogenum)、クロストリジウム・ユングダリイ(Clostridium ljungdahlii)、クロストリジウム・ラグスダレイ(Clostridium ragsdalei)等が挙げられる。
また、酢酸の生成能の高い細菌としては、クロストリジウム・オートエタノゲナム(Clostridium autoethanogenum)、クロストリジウム・ユングダリイ(Clostridium ljungdahlii)、クロストリジウム・アセチクム(Clostridium aceticum)、クロストリジウム・カルボキシジボランス(Clostridium carboxidivorans)、ムーレラ・サーモアセチカ(Moorella thermoacetica)、アセトバクテリウム・ウッディイ(Acetobacterium woodii)等が挙げられる。
また、乳酸の生成能の高い細菌としては、クロストリジウム・オートエタノゲナム(Clostridium autoethanogenum)、クロストリジウム・ユングダリイ(Clostridium ljungdahlii)、クロストリジウム・ラグスダレイ(Clostridium ragsdalei)、ムーレラ・サーモアセチカ(Moorella thermoacetica)等が挙げられる。
【0063】
なお、有機物質は、エタノール、2,3-ブタンジオール、酢酸または乳酸を用いて合成された物(化学合成により生成された合成物)であってもよい。かかる合成物としては、例えば、エチレン、ポリエチレン、アクリル酸、4フッ化エチレン樹脂、エチレンオキシド、エチレングリコール、ポリエチレングリコール、ポリエチレンテレフタラート、塩化ビニル、塩化ビニル樹脂、スチレン、ポリスチレン、アセトアルデヒド、酢酸、酢酸エチル、ブタジエン、ポリ乳酸等が挙げられる。
【0064】
例えば、合成物としてブタジエンを含有する有機組成物は、有機物質としてエタノールまたは2,3-ブタンジオールを含有する有機組成物を得た後、エタノールまたは2,3-ブタンジオールの化学反応により、ブタジエンを合成することにより得ることができる。
【0065】
以上、本発明における有機組成物、有機組成物の製造方法および燃料について実施形態に基づいて説明したが、本発明は、これに限定されるものではない。例えば、本発明における有機組成物および燃料には、必要に応じて、任意の成分が添加されてもよい。また、本発明における有機組成物の製造方法には、任意の目的の1以上の工程(処理)が追加されてもよく、前記濃縮工程3における幾つかの処理が省略されてもよい。
【実施例
【0066】
次に、本発明の具体的実施例について説明する。なお、本発明は、以下の具体的実施例に限定されるものではない。
図1に示すようなフローでエタノールを含有する有機組成物(以下、「細菌エタノール溶液」と言う。)を製造した。
【0067】
まず、500Lの培養リアクターを用いて、ガス資化性細菌としてクロストリジウム・オートエタノゲナム(Clostridium autoethanogenum)を廃棄物由来の合成ガスで、上述した条件の下に連続培養した。なお、合成ガス組成は、H/CO/CO/N=25~50%/30~50%/0.1~10%/5~20%の間で変動した。
【0068】
培養液をヘッドスペースGCMS法により測定した結果、培養液中の2-プロパノールの濃度は、0.05ppm未満であった。また、培養液中のその他の有機物質の濃度をHPLC法を用いて測定した結果、培養液中のエタノールの濃度が43.85g/L(約43.85%)、酢酸の濃度が4.02g/L、2,3-ブタンジオール(2,3-BDO)の濃度が1.74g/Lであった。
なお、HPLC法は、装置「Agilent 1260」、カラム「Agilent Eclipse XDB-C18」および示差屈折率検出器(RID)を用いて、カラム温度:60℃、移動相:0.005MのHSO水溶液、流速:0.6mL/minの条件で行った。
【0069】
また、ヘッドスペースGCMS法では、ヘッドスペース法により試料ガスを採取した後、この試料ガスのGCMS分析を行った。ヘッドスペース法による試料ガスの採取は、ヘッドスペースサンプラー(model GI888:Agilent Technologies社製)を用いて、加温条件55℃で20分、試料ガス採取量1mLで行った。また、試料ガスのGCMS分析は、GCMS質量分析計(model 7890/5975MSD:Agilent Technologies社製)および分離カラム(VOCOL 60m×0.25mmφ 膜厚1.5μm)を用いた。カラム温度条件は、40℃で3分間保持した後、6℃/分で180℃まで加温し、その後15℃/分で230℃まで加温して、その温度を10分間保持した。試料注入方法は、スプリットで3:1とした。また、キャリアガスとしてヘリウムを1mL/分で流した。
【0070】
次に、培養リアクターで連続培養を行った後、培養液をセラミック膜フィルターを通過させた。これにより、培養液からガス資化性細菌を除去して、濾過液6mを得た。次いで、この濾過液に対して、抽出処理、濃縮処理、脱水処理、低沸点物質除去処理(低沸カット処理)、高沸点物質除去処理(高沸カット処理)、およびイオン交換処理を順に行って、濾過液を精製した。
【0071】
なお、抽出処理は、抽出塔を用いて常圧運転で行った。濃縮処理は、棚段塔/バッチ釜を用いて常圧運転で行った。脱水処理は、濃縮処理後の濾過液(濃縮液)をゼオライト脱水膜を透過させる蒸気透過法により行った。
【0072】
低・高沸点物質除去処理は、それぞれ充填塔を用いて常圧運転で行った。イオン交換処理は、除去処理後の濾過液をイオン交換樹脂2Lが充填された容器に供給した後、0.05MPaGの窒素ガスで加圧することにより行った。このようにして、細菌エタノール溶液(有機組成物)を得た。
【0073】
細菌エタノール溶液中のエタノールの濃度を、アルコール協会規格JAAS001に記載の方法に従って測定したところ、エタノールの濃度は、下記表1に示すように99.8vol%(99.6wt%相当)であった。この値は、発酵エタノール99度1級、95度特級、95度1級および合成エタノール99度、95度のすべての規格を満たした。
【0074】
【表1】
【0075】
また、得られた細菌エタノール溶液、市販の化学合成により製造された99%エタノール溶液(以下、「化学合成エタノール溶液」と言う。)、および市販のトウモロコシを原料として酵母を用いて製造された99.5%エタノール溶液(以下、「酵母エタノール溶液」と言う。)のぞれぞれの中に含まれる微量物質を、上記と同様の測定条件でヘッドスペースGCMS法により測定した。なお、各サンプルは、水で10倍に希釈して用いた。
その結果を表2に示す。
【0076】
なお、以下の表2および表3において、サンプル1およびサンプル2がそれぞれ細菌エタノール溶液、サンプル3が化学合成エタノール溶液、サンプル4が酵母エタノール溶液である。また、サンプル1の細菌エタノール溶液とサンプル2の細菌エタノール溶液とは、異なる時期の廃棄物由来の合成ガス、すなわち組成の異なる合成ガスを用いて製造された点に違いがある。
【0077】
【表2】
【0078】
以上のように、廃棄物由来の合成ガスからクロストリジウム・オートエタノゲナム(Clostridium autoethanogenum)を用いて、高濃度のエタノールを含有する細菌エタノール溶液(有機組成物)を製造し得ることが示された。また、細菌エタノール溶液中には、メタノール、1,1-ジエトキシエタン、エチルベンゼン、およびmまたはp-キシレンが検出された。
【0079】
次に、細菌エタノール溶液(サンプル1およびサンプル2)、化学合成エタノール溶液(サンプル3)、および酵母エタノール溶液(サンプル4)中のエタノールのδ13Cの値を安定同位体比測定装置により測定して比較した。
具体的には、各サンプル1~4をスズカプセルに封入し、元素分析計で燃焼および分離された二酸化炭素ガスを安定同位体比質量分析計に導入することにより測定した。次いで、得られた結果を、標準物質の結果と比較して、炭素安定同位体比を計算した。
【0080】
なお、元素分析計には、Flash2000 Organic Elemental Analyzer(サーモフィッシャーサイエンティフィック社製)を、安定同位体比質量分析計には、DELTA V Advantageをそれぞれ用いた。酸化炉温度は1050℃、還元炉温度は750℃、カラム温度は40℃、キャリアガスはHe(100mL/min)、燃焼ガスはO(175mL/min)、標準ガスはCO(純度99.999%以上)、測定イオンは44、45および46(m/z)とした。
また、標準物質には、白亜紀PeeDee層のヤイシ類化石VPDB(13C=1.1056%、12C=98.8944%)を用いた。
この測定結果を下記表3に示す。
【0081】
【表3】
【0082】
細菌エタノール溶液中のエタノールのδ13Cの値は、化学合成エタノール溶液中のエタノールおよび酵母エタノール溶液中のエタノールの双方のδ13Cの値に比べて著しく低いことが示された。したがって、エタノールのδ13Cの値を測定することにより、その起源を特定することができる。
【0083】
また、2013年6月28日開催のフード・フォラム・つくば春の例会における日本アルコール産業株式会社資料には、他の酵母エタノール溶液中のエタノールのδ13Cの値が、小麦由来で-25.08±2.18‰、大麦由来で-27.00‰、タピオカ由来で-27.74±0.35‰との記載がある。
【0084】
前述したように、培養液中には、エタノールの他、酢酸および2,3-ブタンジオールが含まれている。したがって、濃縮工程の処理を適宜変更することにより、高濃度の酢酸を含有する有機組成物や、高濃度の2,3-ブタンジオールを含有する有機組成物を製造し得ることが判る。
【0085】
また、ガス資化性細菌の種類を変更すること以外は、前記と同様にして細菌エタノール溶液を製造すると、クロストリジウム・オートエタノゲナム(Clostridium autoethanogenum)を用いた場合と同様に、高濃度でδ13Cの値が-35‰未満(特に、-70~-45‰)のエタノールを含有する細菌エタノール溶液を製造することができる。また、複数種類のガス資化性細菌を組み合わせて細菌エタノール溶液を製造する場合も、同様である。
【0086】
また、目的とする有機物質(乳酸を含む)に応じて、ガス資化性細菌を選択して培養および精製することにより、かかる有機物質を高濃度で含有する有機組成物を製造することができる。
【0087】
さらに、原料ガスをコークス由来の合成ガスに変更すること以外は、前記と同様にして細菌エタノール溶液を製造すると、得られる細菌エタノール溶液中に、メタノール、1,1-ジエトキシエタン、エチルベンゼンおよびmまたはp-キシレンが検出されないことを確認することができる。
【符号の説明】
【0088】
1 有機組成物の製造方法
2 培養工程
21 培養リアクター
3 濃縮工程
31 抽出塔
32 濃縮塔
33 脱水膜
34、35 充填塔
36 イオン交換樹脂

図1