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特許7004816新規な粉質胚乳遺伝子、分子マーカー及びその用途
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-01-06
(45)【発行日】2022-02-04
(54)【発明の名称】新規な粉質胚乳遺伝子、分子マーカー及びその用途
(51)【国際特許分類】
   C12N 15/54 20060101AFI20220128BHJP
   C12N 15/82 20060101ALI20220128BHJP
   C12N 5/10 20060101ALI20220128BHJP
   A01H 5/00 20180101ALI20220128BHJP
   C12N 15/11 20060101ALI20220128BHJP
   C12Q 1/6827 20180101ALI20220128BHJP
   C12Q 1/683 20180101ALI20220128BHJP
   C12N 9/12 20060101ALN20220128BHJP
   C12N 5/04 20060101ALN20220128BHJP
【FI】
C12N15/54 ZNA
C12N15/82 Z
C12N5/10
A01H5/00 A
C12N15/11 Z
C12Q1/6827 Z
C12Q1/683 Z
C12N9/12
C12N5/04
【請求項の数】 14
(21)【出願番号】P 2020525962
(86)(22)【出願日】2018-11-09
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2021-01-28
(86)【国際出願番号】 KR2018013661
(87)【国際公開番号】W WO2019093832
(87)【国際公開日】2019-05-16
【審査請求日】2020-07-03
(31)【優先権主張番号】10-2017-0149236
(32)【優先日】2017-11-10
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(73)【特許権者】
【識別番号】516373203
【氏名又は名称】リパブリック オブ コリア(マネージメント ルーラル デベロップメント アドミニストレーション)
(74)【代理人】
【識別番号】110000084
【氏名又は名称】特許業務法人アルガ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】チュン,ジ ウン
(72)【発明者】
【氏名】クォン,ソン ウォク
(72)【発明者】
【氏名】チャン,セオ ギュ
(72)【発明者】
【氏名】リ,ア リム
【審査官】山本 晋也
(56)【参考文献】
【文献】韓国公開特許第10-2011-0092142(KR,A)
【文献】Kang HG et al. “White-core endosperm floury endosperm-4 in rice is generated by knockout mutations in the C-type pyruvate orthophosphate dikinase gene (OsPPDKB).” Plant J, 2005 Jun;42(6):901-11, doi: 10.1111/j.1365-313X.2005.02423.x,PMID: 15941402.,2005年06月
【文献】Mo, Young-Jun et al.“Agronomic and genetic analysis of Suweon 542, a rice floury mutant line suitable for dry milling.” Rice (NewYork, N.Y.) vol. 6,1 37. 9 Dec. 2013, doi:10.1186/1939-8433-6-37,2013年12月
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 15/54
C12N 15/82
C12N 5/10
A01H 5/00
C12N 15/11
C12Q 1/6827
C12Q 1/683
C12N 9/12
C12N 5/04
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
GenBank/EMBL/DDBJ/GeneSeq
UniProt/GeneSeq
PubMed
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
配列番号2で示される稲の粉質胚乳の形質を決定するcyOsPPDK(cytosolic pyruvate orthophosphate dikinase)遺伝子。
【請求項2】
請求項1に記載の遺伝子を含む組換えベクター。
【請求項3】
請求項1に記載の遺伝子又は請求項2に記載の組換えベクターを含む形質転換体。
【請求項4】
稲の標準ゲノム(IRGSP 1.0)において5番染色体の19,722,254bpに対応する位置に存在する一塩基多型(SNP)マーカーを検出することができる製剤を含む、請求項1に記載の遺伝子による粉質胚乳形質判別用組成物。
【請求項5】
前記稲の標準ゲノム(IRGSP 1.0)において5番染色体の19,722,254bpに対応する位置に存在するSNPマーカーは、塩基がAまたはTである、請求項に記載の粉質胚乳形質判別用組成物。
【請求項6】
前記一塩基多型を検出することができる製剤は、稲の標準ゲノム(IRGSP 1.0)において5番染色体の19,722,254bpに対応する位置の塩基を含む10個~300個の連続した核酸配列からなるポリヌクレオチドまたはこれに相補的なポリヌクレオチドと特異的にハイブリダイズするプローブ;またはこれを増幅することができるプライマーである、請求項に記載の粉質胚乳形質判別用組成物。
【請求項7】
前記一塩基多型を検出することができる製剤は、配列番号3で示される正方向プライマー及び配列番号4で示される逆方向プライマーからなるプライマーセット;または配列番号5で示される外部正方向プライマー、配列番号6で示される外部逆方向プライマー、配列番号7で示される内部正方向プライマー、及び配列番号8で示される内部逆方向プライマーからなるプライマーセットである、請求項に記載の粉質胚乳形質判別用組成物。
【請求項8】
請求項4~7のいずれか一項に記載の組成物を含む請求項1に記載の遺伝子による粉質胚乳形質判別用キット。
【請求項9】
稲の標準ゲノム(IRGSP 1.0)において5番染色体の19,722,254bpに対応する位置に存在する一塩基多型(SNP)マーカーを確認することを含む請求項1に記載の遺伝子による粉質胚乳形質判別方法。
【請求項10】
前記稲の標準ゲノム(IRGSP 1.0)において5番染色体の19,722,254bpに
対応する位置に存在する一塩基多型(SNP)は、塩基がAまたはTである、請求項に記載の粉質胚乳形質判別方法。
【請求項11】
前記粉質胚乳形質判別方法は、(a)試料から分離されたゲノムDNAを鋳型として、稲の標準ゲノム(IRGSP 1.0)において5番染色体の19,722,254bpに対応する位置の塩基を含む10個~300個の連続した核酸配列からなるポリヌクレオチドまたはこれに相補的なポリヌクレオチドと特異的にハイブリダイズするプローブ;またはこれを増幅することができるプライマーと反応させること;及び(b)前記反応物を確認することをさらに含む、請求項に記載の粉質胚乳形質判別方法。
【請求項12】
前記プライマーは、配列番号3で示される正方向プライマー及び配列番号4で示される逆方向プライマーからなるプライマーセット;または配列番号5で示される外部正方向プライマー、配列番号6で示される外部逆方向プライマー、配列番号7で示される内部正方向プライマー、及び配列番号8で示される内部逆方向プライマーからなるプライマーセットである、請求項11に記載の粉質胚乳形質判別方法。
【請求項13】
前記粉質胚乳形質判別方法は、前記(b)の反応物に制限酵素を処理することをさらに含む、請求項11に記載の粉質胚乳形質判別方法。
【請求項14】
前記制限酵素は、Hinf Iである、請求項13に記載の粉質胚乳形質判別方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、米の粉質胚乳の形質を決定する新規な配列の遺伝子、これを検出するための分子マーカー及びその用途と検出方法に関する。
【背景技術】
【0002】
米は、韓国国内の農業所得の70%に達する農家の主要な収入源であるが、食生活の欧米化、機能性雑穀類の消費の増加などにより消費量が持続的に減少している。2017年度の統計庁の発表によると、国民1人当たりの年間米の消費量は1970年の136.4kgから2016年には61.9kgに減少し、稲の栽培面積も1975年の121.8万haから2016年には77.9万haに減少し、生産基盤が脆弱になっている実情である。
【0003】
米と共に主要な食用作物である小麦は、製粉過程を通じて小麦粉が原料として提供され、これを2次加工して食品に生産される。即ち、小麦産業は品種の育成と製粉工程などの「原料産業」と様々な加工品を開発して提供する「食品産業」の区分が明確であり、市場の拡充及び付加価値の創出に対する潜在力が非常に高い作物として評価されている。米の場合、餅類を除いても約300種にも及ぶ加工食品の形態が存在するが、韓国国内で加工用に消費される米は、生産量の5%にも満たない約22万トン(輸入10万、国内生産12万)に過ぎないのが実情である。ほとんどのメーカーが直接精白米を購入して自主的に米粉を製造して使用するため、米粉の品質が均一でないだけでなく、その売上高は49兆ウォンに迫る飲料、食料品製造業の売上高比2%(2006年現在、約1兆ウォン)の水準に過ぎないのが実情である。
【0004】
米は、粒の硬度(穀粒硬度)が非常に高いため、現在、国内で最も一般的に使用される米の製粉方法は、水にふやかして粉砕する湿式製粉方式である。しかし、湿式製粉は100kgの米粉を製造するのに約500リットルの米のとぎ汁を発生させ、環境汚染を誘発する問題点を有している。また、米粉を流通させるためには、米粉を殺菌乾燥させる別途の工程を追加しなければならない。このような理由により、湿式製粉方法を用いた米粉の加工コスト(500~700ウォン/kg)は、乾式製粉方法を使用した小麦粉の生産コスト(200~300ウォン/kg)より2倍以上高いのが実情である。最近、大量生産設備が整えられて半湿式製粉技術が部分的に運用されているものの、生産コストの上昇要因が完全には解消されてはいない。
【0005】
競争力を兼ね備えた、高品質の米粉の生産のために製粉方法と共に重要視されることが粉砕された粉末の大きさ(粒度)である。生地や加工品の物理化学的性質が粒度分布によって大きく支配されるので、用途に合うように米粉の粒度をどのように構成して維持するかは非常に重要な問題である。一般的に、米粉の物理性は微細粉であるほど団子の硬度変化が少なく、生地を作るときに、水の吸収率も良くなる。したがって、細かく粉砕された米粉であるほど高品質と認識されて流通価格が高くなる。しかし、生産コストが削減される乾式製粉により微細な粒子を得るためには、米の高い穀粒硬度により機械的な力が大きくなり、損傷した澱粉粒の割合が急激に高くなる。損傷した澱粉粒は、生地の理化学的特性の変化をもたらすため、最終的には、米粉の品質低下を引き起こす。最近、米粉をより微細に粉砕するジェットミル(Jet Mill)、ターボミル(Turbo Mill)などの技術が開発されて検討されているが、初期の設備投資費用及び生産単価の増加などの負担が大きい方である。
【0006】
結論としては、韓国国内で米粉中心の大量の原料供給システムを円滑に構築し、米の加工食品の開発と消費を促進させるためには、1)米粉の生産で発生する汚廃水処理と流通前の乾燥及び殺菌処理などに要されるコストを大幅に削減することができなければならず、2)微細な粒子水準に粉砕しても澱粉粒の損傷を減らす具体的な案が提示されなければならない。生産費を考慮すると、1)工程が簡単で、2)粉砕時間が短く、3)汚廃水の発生がほとんどない乾式製粉方式が有利である。さらに、韓国国内では、小麦の製粉のための乾式製粉設備が相当な規模で備えられているため、生産設備の構築に要されるコストも大幅に削減することができる。
【0007】
このような技術的な背景の下で、粉質胚乳の特性を有する稲の品種の開発及びそのための遺伝的マーカーに対する研究が活発に進められているが(韓国登録特許10-1226485(特許文献1))、未だ不十分な実情である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】韓国登録特許10-1226485号公報
【非特許文献】
【0009】
【文献】Sambrook et al., Molecular Cloning, A Laboratory Manual, Cold Spring Harbor Laboratory Press(2001)
【文献】Andrew Collins and Xizyi Ke. The Open Bioinformatics Journal, 2012, 55-58.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、前記の問題点を解決するためのものであり、本発明の目的は、稲の粉質胚乳の形質を決定する新規な遺伝子、前記遺伝子によりコードされるタンパク質、前記遺伝子による粉質胚乳形質判別用組成物及びキット、そして、それを判別する方法を提供することにある。
【0011】
しかし、本発明が解決しようとする技術的課題は、以上に言及した課題に制限されず、言及されていないもう一つの課題は、以下の記載から当業者に明確に理解することができるだろう。
【課題を解決するための手段】
【0012】
前記のような本発明の目的を達成するために、本発明は、配列番号2で示される稲の粉質胚乳の形質を決定するcyOsPPDK(cytosolic pyruvate orthophosphate dikinase)遺伝子を提供する。
【0013】
本発明は、他の一態様として、前記遺伝子を含む組換えベクターを提供する。
【0014】
本発明は、他の一態様として、前記遺伝子または前記組換えベクターを含む形質転換体を提供する。
【0015】
前記形質転換体は、稲であってもよい。
【0016】
本発明は、他の一態様として、前記遺伝子を含む植物体を提供する。
【0017】
本発明は、他の一態様として、前記遺伝子を含む稲を提供する。
【0018】
本発明は、他の一態様として、稲の標準ゲノム(IRGSP 1.0)において5番染色体の19,722,254bpに対応する位置に存在する一塩基多型(SNP)マーカーを検出することができる製剤を含む、前記cyOsPPDK(cytosolic pyruvate orthophosphate dikinase)遺伝子による粉質胚乳形質判別用組成物を提供する。
【0019】
前記稲の標準ゲノム(IRGSP 1.0)において5番染色体の19,722,254bpに対応する位置に存在するSNPマーカーは、塩基がAまたはTであってもよい。
【0020】
前記一塩基多型を検出することができる製剤は、稲の標準ゲノム(IRGSP 1.0)において5番染色体の19,722,254bpに対応する位置の塩基を含む10個~300個の連続した核酸配列からなるポリヌクレオチドまたはこれに相補的なポリヌクレオチドと特異的にハイブリダイズするプローブ;またはこれを増幅するプライマーであってもよい。
【0021】
前記一塩基多型を検出することができる製剤は、配列番号3で示される正方向プライマー及び配列番号4で示される逆方向プライマーからなるプライマーセット;または配列番号5で示される外部正方向プライマー、配列番号6で示される外部逆方向プライマー、配列番号7で示される内部正方向プライマー、及び配列番号8で示される内部逆方向プライマーからなるプライマーセットであってもよい。
【0022】
本発明は、他の一態様として、前記粉質胚乳形質判別用組成物を含むcyOsPPDK(cytosolic pyruvate orthophosphate dikinase)遺伝子による粉質胚乳形質判別用キットを提供する。
【0023】
本発明は、他の一態様として、稲の標準ゲノム(IRGSP 1.0)において5番染色体の19,722,254bpに対応する位置に存在する一塩基多型(SNP)マーカーを確認することを含むcyOsPPDK(cytosolic pyruvate orthophosphate dikinase)遺伝子による粉質胚乳形質判別方法を提供する。
【0024】
前記稲の標準ゲノム(IRGSP 1.0)において5番染色体の19,722,254bpに対応する位置に存在する一塩基多型(SNP)は、塩基がAまたはTであってもよい。
【0025】
前記粉質胚乳形質判別方法は、(a)試料から分離されたゲノムDNAを鋳型として、稲の標準ゲノム(IRGSP 1.0)において5番染色体の19,722,254bpに対応する位置の塩基を含む10個~300個の連続した核酸配列からなるポリヌクレオチドまたはこれに相補的なポリヌクレオチドと特異的にハイブリダイズするプローブ;またはこれを増幅することができるプライマーと反応させること;及び(b)前記反応物を確認することをさらに含むことができる。
【0026】
前記プライマーは、配列番号3で示される正方向プライマー及び配列番号4で示される逆方向プライマーからなるプライマーセット;または配列番号5で示される外部正方向プライマー、配列番号6で示される外部逆方向プライマー、配列番号7で示される内部正方向プライマー、及び配列番号8で示される内部逆方向プライマーからなるプライマーセットであってもよい。
【0027】
前記粉質胚乳形質判別方法は、(b)の反応物に制限酵素を処理することをさらに含むことができる。
【0028】
前記制限酵素は、Hinf Iであってもよい。
【0029】
前記粉質胚乳形質判別方法は、(a)試料から分離されたゲノムDNAを鋳型として、稲の標準ゲノム(IRGSP 1.0)において5番染色体の19,722,254bpに対応する位置の一塩基多型マーカーの多型部位を含む10個~300個の連続した核酸配列からなるポリヌクレオチドまたはこれに相補的なポリヌクレオチドをプライマーと反応させて増幅させること;及び(b)前記増幅された反応物を確認することをさらに含むことができる。
【0030】
前記粉質胚乳形質判別方法は、(a’)の試料から分離されたゲノムDNAを鋳型として、稲の標準ゲノム(IRGSP 1.0)において5番染色体の19,722,254bpに対応する位置の塩基を含む10個~300個の連続した核酸配列からなるポリヌクレオチドまたはこれに相補的なポリヌクレオチドに特異的にハイブリダイズするプローブとハイブリダイゼーションさせることをさらに含むことができる。
【発明の効果】
【0031】
本発明によれば、本発明で究明した稲の粉質胚乳の形質を決定する新規な遺伝子は、粉質胚乳の特性を有する植物体の開発に主な目的遺伝子として活用することができ、その一塩基多型(SNP)は、様々な品種の稲において粉質胚乳の形質発現有無を育種段階の初期に簡単かつ正確に判別させるようにする。具体的には、初期の育種系統または個別のF2植物の選抜の段階で植物体の粉質胚乳の評価に適用することができ、稲を主原料とする加工製品にも拡張適用することができ、稲を用いた加工産業に活用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0032】
図1a】地図ベースのFLO4-4変異の複製を示すもので、(A)FLO4-4遺伝子座の精密遺伝子地図で分子マーカー及び組換え体の数を示す。2つのBACクローンが重畳された部分で構成された33kb仮想コンティグ(contig)は、参照稲ゲノム(Os-Nipponbare-Reference-IRGSP-1.0)上の二つの重要なマーカーのe-Landingsにより区分して表示される。(B)FLO4-4遺伝子構造及びcDNA配列の比較は、エクソン8でG→Aの塩基変異を示し、ここで、野生型のGly-404がFLO4-4ではAsp-404に誘導される。白いボックスは翻訳されていない領域を示し、黒いボックスはコーディング領域を示し、実線はイントロンを示す。
図1b】ナミル稲とNamil(SA)-FLO2のPPDK1(OS05G0405000-02)遺伝子の塩基配列を比較することにより、一塩基多型部位を確認した結果である。
図2】dCAPS Finder 2.0で探索されたナミル稲、またはNamil(SA)-FLO2の一塩基多型部位の増幅のためのdCAPsプライマーセット候補群の配列を示した図である。
図3】本発明に係るdCAPsプライマーセットにより増幅される断片の塩基配列及び制限酵素(Hinf I)の処理部位を示した図である。
図4】本発明に係るdCAPsプライマーセット及び制限酵素を用いた方法であり、密陽23号、ナミル稲、及びNamil(SA)-FLO2(S542)の電気泳動の結果を示したものである。
図5】本発明に係るTetra-primer ARMSプライマーセットにより増幅される断片の塩基配列の位置を図式化した図である。
図6】発明に係るTetra-primer ARMSプライマーセットにより(a)増幅される断片の塩基配列、及び(b)密陽23号、ナミル稲及びNamil(SA)-FLO2(S542)の電気泳動の結果を示したものである。
図7】本発明に係るdCAPsプライマーセット及び制限酵素を用いた方法であり、密陽23号とNamil(SA)-FLO2交配後代の電気泳動の結果を示したものである。
図8】本発明に係るプライマーセット及び制限酵素を用いた方法であり、遺伝的背景が類似したジャポニカ品種の電気泳動の結果を示したものである(1.アンミ、2.アランヒャンチャル、3.白真珠1、4.白玉チャル、5.ボラムチャル、6.ボラムチャン、7.ボラミ、8.宝石、9.宝石チャル、10.宝石黒チャル、11.チョンナム、12.チンドル、13.秋晴、14.タボ、15.タンミ、16.タンピョン、17.トレチャン、18.トダム米、19.トンジン、20.トンジン1、21.トンジンチャル、22.健康紅米、23.コンヤン2、24.コアミ、25.コアミ2、26.コアミ4、27.ヘプム、28.ハイアミ、29.ハナム、30.ハンマウム、31.黒ジンミ、32.フクヒャン、33.黒真珠、34.フクナム、35.フクソル、36.紅真珠、37.ホプム、38.黄金ヌリ、39.ファソン、40.ファワン、41.ファヨン、42.ヒャンナム、43.ヒョンプム、44.イルミ、45.イルプム、46.赤真珠、47.赤真珠チャル、48.黒ヒャンチャル)。
図9】本発明に係るTetra-primer ARMSプライマーセットを用いた方法であり、密陽23号とNamil(SA)-FLO2交配後代の電気泳動の結果を示したものである。
図10】本発明に係るTetra-primer ARMSプライマーセットを用いた方法であり、遺伝的背景が類似したジャポニカ品種の電気泳動の結果を示したものである(1.アンミ、2.アランヒャンチャル、3.白真珠1、4.白玉チャル、5.ボラムチャル、6.ボラムチャン、7.ボラミ、8.宝石、9.宝石チャル、10.宝石黒チャル、11.チョンナム、12.チンドル、13.秋晴、14.タボ、15.タンミ、16.タンピョン、17.トレチャン、18.トダム米、19.トンジン、20.トンジン1、21.トンジンチャル、22.健康紅米、23.コンヤン2、24.コアミ、25.コアミ2、26.コアミ4、27.ヘプム、28.ハイアミ、29.ハナム、30.ハンマウム、31.黒ジンミ、32.フクヒャン、33.黒真珠、34.フクナム、35.フクソル、36.紅真珠、37.ホプム、38.黄金ヌリ、39.ファソン、40.ファワン、41.ファヨン、42.ヒャンナム、43.ヒョンプム、44.イルミ、45.イルプム、46.赤真珠、47.赤真珠チャル、48.黒ヒャンチャル)。
図11】本発明に係るNamil(SA)-FLO2(S542)とナミル(Namil)の表現型分析の結果を示す。Namil(SA)-FLO2とナミルの玄米及び横断面を示す。また、成熟した胚乳の電子顕微鏡視覚化。赤矢印で示されているように、Namil(SA)-FLO2は、澱粉顆粒で緩く満たされている。黄色のボックス(500μm比率の写真でボックス表示)は、拡大された領域を示す。
図12】10 DAFにナミルとNamil(SA)-FLO2間のFLO4-4発現を分析した結果であり、表示された値は、平均±SD(n=3)である。
【発明を実施するための形態】
【0033】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0034】
本発明は、稲の粉質胚乳の形質を決定する新規な配列の遺伝子を提供する。前記本発明の新規な配列の遺伝子は、配列番号2で示される稲の粉質胚乳の形質を決定するcyOsPPDK(cytosolic pyruvate orthophosphate dikinase)遺伝子であってもよい。
【0035】
本発明で使用される用語、「粉質胚乳(floury endosperm)」とは、もち稲と同様に白っぽく不透明な外観を有しながら澱粉粒の配列が粗い特性を有する突然変異を称する。米粉の製造には、乾式及び湿式製粉が活用されており、乾式製粉は工程が簡単であるが、損傷した澱粉が増加する問題がある一方、湿式製粉は、加工性は向上するが、水浸と乾燥に要される時間とコストが制限要因として作用する。米の加工産業の活性化に寄与するためには、各用途に適した特性を備えた加工用品種の多様化と製粉性に優れた品種の開発が要求され、このような粉質胚乳の特性は、従来の乾式製粉の問題点を克服する重要な特性の一つである。
【0036】
一方、本発明のNamil(SA)-FLO2稲の植物体は、ナミル稲の種子を化学的突然変異の原因であるアジ化ナトリウム(Sodium azide; NaN3)の希釈溶液に浸漬する方法で突然変異を誘発し、これを発芽及び育苗段階を経て植物体(M1)を展開し、M1植物体からM2種子を収穫し、それからは系統育種法で世代をM7まで前進させ、遺伝的に固定された突然変異の系統を確立した系統である。前記Namil(SA)-FLO2は、既存のナミル稲とアミロース-アミロペクチン含量の組成が類似するが、一般的な稲に比べて穀粒硬度が低く、乾式製粉でも粒子が細かく、澱粉粒の損傷が少ない高品質の米粉を取得することができる特徴がある。ただし、このような品種を育種段階の初期に簡単かつ正確に判別する技術、具体的には、関連する遺伝子マーカーについては知られていなかった。
【0037】
そこで、本発明者らは、Namil(SA)-FLO2稲品種の塩基配列分析を通じて粉質胚乳の形質を決定する遺伝子を究明し(実験例1)、前記粉質胚乳の形質と密接な関連性を示す一塩基多型の部位を究明した(実験例2)。また、前記一塩基多型の部位をターゲットとするプライマーセットを最初に開発し、本発明に係るプライマーセットを用いた技術がジャポニカ(Japonica)系統稲品種の粉質胚乳の特性を判別するに有用であることを実験的に立証した。
【0038】
本発明の粉質胚乳の特性は、新規な配列のPPDK遺伝子により決定される。前記PPDK(Pyruvate orthophosphate dikinase)は、ピルビン酸塩(pyruvate)、ATP及びオルトリン酸塩(orthophosphate)を可逆的に転換させ、様々な植物の細胞で多様な機能を遂行することであり、サイトゾル及び葉緑体標的化PPDKタンパク質(それぞれ、cyOsPPDK及びchOsPPDK)を暗号化する。chOsPPDK mRNAは光合成機関で構成的に発現され、cyOsPPDKは受粉された後、発達する稲の種子(grain)のみで発現される。通常、稲においてcyOsPPDKは、種子の発達時期中、乳熟期に高水準で発現され、受粉後、10日程度経過してcyOsPPDKタンパク質が最高レベルに達すると、cyOsPPDKタンパク質水準と活性がいずれもスレオニル-リン酸化(threonyl-phosphorylation)とタンパク質分解の翻訳後のメカニズムの組み合わせにより急速に下方調節される。日本晴(Nipponbare)稲においてcyOsPPDKの全ゲノムは7656bpであり、cDNAは19個のエクソンを含み、2649bpであり、882個のアミノ酸のタンパク質を暗号化する。
【0039】
しかし、本発明のcyOsPPDKは、野生型cyOsPPDK遺伝子に対して変異を含み、これを通じて稲の粉質胚乳の形質を決定する。本発明のcyOsPPDK遺伝子は対立遺伝子で、劣性遺伝子である。本発明の変異遺伝子cyOsPPDKは、乳熟期以降(受粉後10日以降)、登熟期(grain filling stage)の間に、野生型と比較して高いレベルで発現が維持される特性を有する。
【0040】
特に、本発明のcyOsPPDK遺伝子のエクソン8の部位にG→Aに一塩基多型(SNP)が存在し(対立遺伝子では、CからTに変異)、これにより本発明のcyOsPPDK遺伝子によりコードされたタンパク質のアミノ酸配列においてグリシン(G、Gly)からアスパラギン酸(D、Asp)への変異が存在する(前記一塩基多型に相応するアミノ酸404の位置)。これにより稲の登熟期中にタンパク質の発現及び活性が維持されながら、稲において種子の発達に関与して粉質胚乳の形質を示すようにする。このような側面で、本発明のcyOsPPDKは変異cyOsPPDK遺伝子、変異cyOsPPDKタンパク質または変異cyOsPPDK mRNAを意味するものであってもよい。本発明において粉質胚乳の形質を決定する変異遺伝子はcyOsPPDK、Namil(SA)-FLO2、FLO7またはFLO4-4と命名され、前記名称は、相互交換的に称されてもよい。
【0041】
本発明のcyOsPPDK遺伝子は、配列番号2で示され、GenBankに寄託され、登録番号MG267058と表示される。
【0042】
本発明のcyOsPPDK遺伝子の位置は、RAP-DB(Rice Annotation Project Database、http://rapdb.dna.affrc.go.jp/viewer/gbrowse/irgsp1/?name=chr02%3A1..105000)を基礎にその位置を示すことができる。本発明のcyOsPPDK遺伝子座は、BACクローンOSJNBb0006J12とOJ1174_H11の間に存在し、粉質胚乳の特性は変異cyOsPPDK遺伝子のエクソン8にある一塩基多型(G→ A)により決定される。
【0043】
前記一塩基多型は、稲の標準ゲノム(IRGSP 1.0)と比較して示すと、稲の標準ゲノム(IRGSP 1.0)において5番染色体の19,722,254bpに対応する位置に存在し、これは配列番号1の遺伝子配列において4055番目の塩基と相応する位置である。
【0044】
本発明において、用語「遺伝子」とは、形質を決定する因子として遺伝情報の単位を意味するもので、タンパク質を暗号化する核酸分子またはポリヌクレオチドとも称されてもよい。本発明の遺伝子は、前記した配列番号2の塩基配列と実質的な相同性を有する塩基配列を含むことができる。前記の実質的な相同性は、上述した本発明の塩基配列と、任意の他の配列を最大限に対応するようにアラインし、当業界において通常的に利用されるプログラム(例えば、DNASIS及びClustalX)を利用してアラインされた配列を分析した場合に、本発明の遺伝子に存在する一塩基多型を含みながら、少なくとも80%の相同性、より好ましくは少なくとも90%の相同性、最も好ましくは少なくとも95%の相同性を示す塩基配列を意味する。
【0045】
本発明の他の態様によると、本発明は、前記遺伝子を含む組み換えベクターを提供する。本発明のベクターシステムは、当業界において公知となった様々な方法を通じて構築されることができ、これに対する具体的な方法は、Sambrook et al., Molecular Cloning, A Laboratory Manual, Cold Spring Harbor Laboratory Press(2001)(非特許文献1)に開示されており、この文献は、本明細書に参照として挿入される。
【0046】
本発明のベクターは、典型的にクローニングのためのベクターまたは発現のためのベクターとして構築することができる。また、本発明のベクターは、原核細胞または真核細胞を宿主にして構築されてもよい。
【0047】
本発明において、前記ベクターは、外来遺伝子が導入された植物体内で永久に発現させることができる形質転換用バイナリーベクターであり、プロモーターの下流(downstream)に目的タンパク質をコードする遺伝子を作動可能に連結させて製造されたベクターであってもよい。
【0048】
本発明に係るベクターとしては、タンパク質の発現に使用される従来のベクターを基本骨格とし、本発明のプロモーターを挿入し、前記プロモーターの下流(downstream)側に目的タンパク質をコードする塩基配列(遺伝子)を挿入することにより製造することができる。前記組換えベクターは、目的遺伝子の発現のために、特定のプロモーターを含むことができる。
【0049】
本発明の他の態様によると、本発明は、前記遺伝子またはベクターを含む形質転換体を提供する。
【0050】
本発明における用語「形質転換体」とは、遺伝子工学的な方法で本発明の遺伝子が外来遺伝子として宿主に挿入された以外に、本発明の遺伝子により決定される粉質胚乳の形質を含む子孫個体を育種するために、本発明の遺伝子を含む個体を少なくとも一つと、他の個体を交配して本発明の遺伝子を有するようになった後代系統の個体も含む意味である。
【0051】
本発明の形質転換体を製造するために、当業界において一般的に公知の方法により実施することができる。
【0052】
本発明の好ましい具現例によれば、前記形質転換体は植物体であり、さらに好ましくは稲であってもよい。
【0053】
したがって、このような側面で、本発明は、変異cyOsPPDK遺伝子;または配列番号2の配列を有する稲を提供することができる。
【0054】
本発明の一具体例において、稲の粉質胚乳の形質を決定する遺伝子が変異cyOsPPDKであり、粉質胚乳の特性は変異cyOsPPDK遺伝子のエクソン8にある一塩基多型(G→AまたはC→T)により決定されることを確認した。
【0055】
このような側面で、本発明は、他の態様により、本発明の粉質胚乳の形質を決定する新規な配列の遺伝子に対する一塩基多型を提供する。
【0056】
具体的には、稲の標準ゲノム(IRGSP 1.0)の情報に基づいて5番染色体に位置する候補遺伝子PPDK1(Pyruvate、phosphate dikinase1)の転写体の情報を基礎に、OS05G0405000-02(19,718,538-19,737,605bp)の塩基配列に基づいてナミル稲と本発明のFLO4-4(Namil(SA)-FLO2)のPPDK1内19,718,785-19,726,340(7,556bp)の塩基配列を分析し、標準のゲノムであるNipponbare(IRGSP 1.0)と比較した結果、ナミル稲とNamil(SA)-FLO2との間には1つのSNPが探索され、前記SNPは、稲の標準ゲノム(IRGSP 1.0)において5番染色体の19,722,254bpに対応する位置に存在し、これは配列番号1(ナミル稲由来のポリヌクレオチド配列、ch5:19,726,340-19,718,785)または配列番号2の配列において4055番目の塩基、配列番号9の4093番目の塩基に相応する。
【0057】
より具体的には、前記稲の標準ゲノム(IRGSP 1.0)において5番染色体の19,722,254bpに対応する位置に存在するSNPマーカーは塩基がAであってもよい。より具体的には、前記配列番号1のポリヌクレオチド配列において4055番目の位置; 配列番号9のポリヌクレオチド配列において4093番目の位置に存在するGがAで置換されることであり、これにより、前記遺伝子によりコードされるが、タンパク質の配列においてアミノ酸Glycine(Gly、G)がAspartic acid(Asp、D)に変異され、粉質胚乳の形質を示すようにする。
【0058】
したがって、前記一塩基多型は、前記配列番号1で示されるポリヌクレオチド配列の4055番目の位置のGがAまたは配列番号9で示されるポリヌクレオチド配列の4093番目の位置のGがAであってもよい。
【0059】
本発明で使用される用語、「一塩基多型(Single Nucleotide polymorphism、SNP)」とは、一つの遺伝子座(locus)に、二つ以上の対立遺伝子(allele)が存在する場合を「多型」といい、前記多型部位の中で、単一の塩基のみが異なることを一塩基多型という。また、前記用語、「対立遺伝子(allele)」とは、相同染色体の同一な遺伝子座に存在する一つの遺伝子の様々な形態をいい、SNPは二種類の対立遺伝子(biallele)を有する。
【0060】
前記本発明の一塩基多型を粉質胚乳の特性を判別するのに使用することができるという側面で、本発明は、他の態様により、稲の標準ゲノム(IRGSP 1.0)において5番染色体の19,722,254bpに対応する位置に存在する一塩基多型(SNP)マーカーを検出することができる製剤を含む、請求項1の遺伝子による粉質胚乳形質判別用組成物を提供する。
【0061】
本発明に係る粉質胚乳の特性判別用組成物は、ジャポニカ(Japonica)系統を含むすべての稲の品種の粉質胚乳の特性を判別するために使用することができ、一具現例として、ナミル突然変異後代系統Namil(SA)-FLO2の粉質胚乳を判別することができるが、これらに限定されるものではない。また、前記組成物は、二つ以上の稲の品種間の交雑による後代系統にも適用することができるだけでなく、前述した稲の品種を主原料として製造された加工生産品も拡張して適用することができる。
【0062】
前記一塩基多型を検出することができる製剤は、稲の標準ゲノム(IRGSP 1.0)において5番染色体の19,722,254bpに対応する位置の塩基を含む10個~300個の連続した核酸配列からなるポリヌクレオチドまたはこれに相補的なポリヌクレオチドと特異的にハイブリダイズするプローブ;またはこれを増幅することができるプライマーであってもよい。
【0063】
本発明で使用される用語、「プライマー」とは、短い自由3末端水酸化基(free 3’hydroxyl group)を有する塩基配列で相補的な鋳型(template)と塩基対(base pair)を形成することができ、鋳型鎖のコピーのための出発点としての機能をする短配列を意味する。プライマーの適切な長さは、使用目的に応じて変わり得るが、一般的に15~30個の塩基で構成される。プライマー配列は、鋳型と完全に相補的である必要はないが、鋳型とハイブリダイズする程度に十分に相補的でなければならない。前記プライマーは、多型部位を含むDNA配列にハイブリダイズし、多型部位を含むDNA断片を増幅させることができる。
【0064】
本発明の目的上、前記プライマーは粉質胚乳の特性と密接な関連性を示す一塩基多型部位を増幅させ、例えば、配列番号3で示される正方向プライマー及び配列番号4で示される逆方向プライマーからなるプライマーセット;または配列番号5で示される外部正方向プライマー、配列番号6で示される外部逆方向プライマー、配列番号7で示される内部正方向プライマー、及び配列番号8で示される内部逆方向プライマーからなるプライマーセットであってもよいが、これらに制限されるものではない。
【0065】
または、前記一塩基多型を検出することができる製剤は、配列番号1または配列番号2で示されるポリヌクレオチド配列の4055番目の位置、または配列番号9で示されるポリヌクレオチド配列の4093番目の位置に存在する、一塩基多型部位を含む10個~300個の連続した核酸配列からなるポリヌクレオチドまたはこれに相補的なポリヌクレオチドと特異的にハイブリダイズするプローブ;またはこれを増幅するプライマーであってもよい。
【0066】
本発明の一具現例により、前記製剤は、配列番号3で示される正方向プライマー及び配列番号4で示される逆方向プライマーからなるプライマーセット;または配列番号5で示される外部正方向プライマー、配列番号6で示される外部逆方向プライマー、配列番号7で示される内部正方向プライマー、及び配列番号8で示される内部逆方向プライマーからなるプライマーセットであってもよい。
【0067】
または、前記プライマーセットは、好ましくは、配列番号3及び配列番号4で示されるそれぞれの塩基配列と好ましくは80%以上の配列相同性、より好ましく90%以上の配列相同性、さらに好ましく95%以上の配列相同性、最も好ましくは99%以上の配列相同性を有するいずれか一つの塩基配列からなってもよいが、前述した一塩基多型の部位を増幅させることができれば、制限なく含むことができる。
【0068】
前記プライマーセットは、好ましくは配列番号5~配列番号8で示されるそれぞれの塩基配列と、好ましくは80%以上の配列相同性、より好ましく90%以上の配列相同性、さらに好ましくは95%の以上の配列相同性、最も好ましくは99%以上の配列相同性を有するいずれか一つの塩基配列からなってもよいが、前述した一塩基多型の部位を増幅させることができれば、制限なく含むことができる。
【0069】
本発明のプライマーまたはプローブは、ホスホロアミダイト固体支持体方法、またはその他の広く公知となった方法を使用して化学的に合成することができる。このような核酸配列は、また、当該分野において公知となった多くの手段を利用して変形させることができる。前記変形の非限定的な例としては、メチル化、キャップ化、天然ヌクレオチド一つ以上の同族体への置換、及びヌクレオチド間の変形、例えば、荷電されない連結体(例えば、メチルホスホネート、ホスホトリエステル、ホスホロアミダイト、カルバメートなど)または荷電された連結体(例えば、ホスホロチオエート、ホスホロジチオエートなど)への変形がある。
【0070】
また、本発明は、他の態様により、前記粉質胚乳形質判別用組成物を含む稲の粉質胚乳の形質を決定するcyOsPPDK(cytosolic pyruvate orthophosphate dikinase)遺伝子による粉質胚乳形質判別用キットを提供する。
【0071】
本発明に係るキットは、前記組成物以外にも、PCR反応を容易に遂行させるDNAポリメラーゼ、dNTP、及びPCR緩衝溶液をさらに含むことができ、これだけでなく、PCR産物の増幅有無を確認することができる電気泳動の遂行に必要な構成成分、または公知となった品種に対する同定基準表が、本発明のキットにさらに含まれてもよい。また、前記キットは、プローブによる反応を効果的に遂行するための公知の構成をさらに含むことができる。
【0072】
また、本発明は、他の態様により、稲の標準ゲノム(IRGSP 1.0)において5番染色体の19,722,254bpに対応する位置に存在する一塩基多型(SNP)マーカーを確認することを含む請求項1の遺伝子による粉質胚乳形質判別方法を提供する。
【0073】
前記一塩基多型は、配列番号1または配列番号2で示されるポリヌクレオチド配列の4055番目の位置;または配列番号9で示されるポリヌクレオチド配列の4093番目の位置に存在するものであってもよい。
【0074】
本発明の粉質胚乳の特性判別方法は、上述した粉質胚乳特性判別用組成物において記述した構成成分を利用するため、この両者間に共通の内容は、本明細書の過度な複雑性を避けるために、その記載を省略する。
【0075】
前記多型部位の塩基は、試料から分離された核酸試料から、一塩基多型マーカーの多型部位を増幅したり、一塩基多型マーカーを検出することができるプローブとハイブリダイズして多型部位の塩基を確認することができる。
【0076】
例えば、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)、リガーゼ連鎖反応(LCR)、転写増幅(transcription amplification)、自己保持配列複製及び核酸に基づいた配列増幅(NASBA)を利用して多型部位を増幅することができる。
【0077】
多型部位の塩基の確認は、シーケンス分析、マイクロアレイ(microarray)によるハイブリダイズ、対立遺伝子特異的なPCR(allele specific PCR)、ダイナミック対立遺伝子ハイブリダイゼーション(dynamic allele-specific hybridization、DASH)、PCR延長分析、SSCP 、PCR-RFLP分析、TaqMan技法、SNPlexプラットフォーム(Applied Biosystems)、質量分析法(例えば、SequenomのMassARRAYシステム)、ミニシーケンシング(mini-sequencing)方法、Bio-Plexシステム(BioRad)、CEQ及びSNPstreamシステム(Beckman)、Molecular Inversion Probeアレイ技術(例えば、Affymetrix GeneChip)、及びBeadChip(IlluminaのHumanOmni2.5-8)などを含むが、これに限定されない。例えば、SNPチップを利用して多型部位の塩基を確認することができる。SNPチップは、数十万個のSNPの各塩基を一度に確認することができるDNAマイクロアレイの一つを意味する。
【0078】
シーケンス分析は、塩基配列の決定のための通常の方法を使用することができ、自動化された遺伝子分析機器を利用して遂行することができる。また、対立遺伝子特異的PCRは、SNPが位置する塩基を3’末端にして考案したプライマーを含むプライマーセットで前記SNPが位置するDNA断片を増幅するPCR方法を意味する。前記方法の原理は、例えば、特定の塩基がGからAに置換された場合、前記Gを3’末端塩基として含むプライマー及び適当な大きさのDNA断片を増幅することができる逆方向プライマーを考案してPCR反応を行う場合、前記SNP位置の塩基がGである場合には、増幅反応が正常に行われて目的とする位置のバンドが観察され、前記塩基がAで置換された場合には、プライマーは、鋳型DNAに相補結合することができるが、3’末端の方が相補結合を行わないことにより、増幅反応が適切に行われない点を用いたことである。DASHは、常法で実行することができ、好ましくは、プリンスなどによる方法により行うことができる。
【0079】
PCR延長分析は、まず、一塩基多型が位置する塩基を含むDNA断片をプライマー対で増幅を行った後、反応に添加されたすべてのヌクレオチドを脱リン酸化することにより不活性化させ、これにSNP特異的延長プライマー、dNTP混合物、ジデオキシヌクレオチド、反応緩衝液及びDNAポリメラーゼを添加してプライマー延長反応を遂行することにより行われる。このとき、延長プライマーは、SNPが位置する塩基の5’方向にすぐに隣接した塩基を3’末端とし、dNTP混合物には、ジデオキシヌクレオチドと同一な塩基を有する核酸が除外され、前記ジデオキシヌクレオチドはSNPを示す塩基の種類中の一つから選択される。例えば、AからGへの置換がある場合、dGTP、dCTP、及びTTPの混合物とddATPを反応に添加する場合、前記置換が起こった塩基においてプライマーは、DNAポリメラーゼにより延長され、いくつかの塩基が過ぎた後、A塩基が最初に現れる位置においてddATPによりプライマー延長反応が終結される。もし前記置換が起こらなかったら、その位置で延長反応が終結するため、前記延長されたプライマーの長さを比較することにより、SNPを示す塩基の種類を判別することができるようになる。
【0080】
このとき、検出方法としては、延長プライマーまたはジデオキシヌクレオチドを蛍光標識した場合には、一般的な塩基配列の決定に使用される遺伝子分析機器(例えば、ABI社のModel 3700など)を使用して蛍光を検出することにより、前記SNPを検出することができ、無標識の延長プライマー及びジデオキシヌクレオチドを使用する場合には、MALDI-TOF(matrix assisted laser desorption ionization-time of flight)技法を用いて分子量を測定することにより、前記SNPを検出することができる。
【0081】
本発明の一具現例として、前記粉質胚乳形質判別方法は、(a)試料から分離されたゲノムDNAを鋳型として、稲の標準ゲノム(IRGSP 1.0)において5番染色体の19,722,254bpに対応する位置の塩基を含む10個~300個の連続した核酸配列からなるポリヌクレオチドまたはこれに相補的なポリヌクレオチドを増幅することができるプライマーを用いてPCRを行うこと;及び(b)前記PCRにより増幅された反応物を確認することをさらに含み、試料個体の粉質胚乳の形質有無を判別することができる。前記PCR反応物がcyOsPPDK遺伝子を有する個体(Namil(SA)-FLO2)と同一な結果を示すと、前記試料の植物個体は粉質胚乳特性を有すると言える。
【0082】
または、本発明の他の具現例として、前記粉質胚乳形質判別方法は、(a’)試料から分離されたゲノムDNAを鋳型として、稲の標準ゲノム(IRGSP 1.0)において5番染色体の19,722,254bpに対応する位置の塩基を含む10個~300個の連続した核酸配列からなるポリヌクレオチドまたはこれに相補的なポリヌクレオチドに特異的にハイブリダイズするプローブで反応させることをさらに含むことができる。
【0083】
前記粉質胚乳形質判別方法は、前記(b)の増幅された産物に制限酵素を処理することをさらに含むことができる。より具体的には、前記制限酵素は、Hinf Iであってもよい。前記制限酵素処理により、PCR増幅された反応物が2つ以上の断片に切断された場合、粉質胚乳の特性を有すると分離することができる。しかし、これは、プライマーの設計特性に応じて、制限酵素の種類及びそれに伴う反応様相が変わることがある。
【0084】
本発明の一具現例として、前記(a)において一塩基多型を検出することができる製剤は、配列番号3で示される正方向プライマー及び配列番号4で示される逆方向プライマーからなるプライマーセット;または配列番号5で示される外部正方向プライマー、配列番号6で示される外部逆方向プライマー、配列番号7で示される内部正方向プライマー、及び配列番号8で示される内部逆方向プライマーからなるプライマーセットであってもよい。
【0085】
本発明において、試料はジャポニカ(Japonica)系統を含むすべての稲の品種(候補品種)、または、ナミル突然変異後代系統Namil(SA)-FLO2から得ることができ、これだけでなく、前述した稲の品種を主原料として製造された加工製品からも得ることができる。
【0086】
本発明において、試料から分離されたゲノムDNAは、当業界において通常に使用されるSDS抽出法、CTAB分離法(Cetyl trimethyl Ammonium Bromide)、または商業的に販売されるDNA抽出キットを用いて得ることができる。
【0087】
本発明におけるPCRは、real-time PCR、qRT-PCRまたはmultiplex PCRからなる群から選択されるいずれか一つで遂行することができるが、候補品種または試料内に、前述した一塩基多型部位を増幅することができる方法であれば、制限なく含むことができる。これと共に、前記PCR産物に制限酵素を追加で処理することができ、ここで、前記制限酵素は、Hinf Iであってもよいが、これに制限されるものではない。
【0088】
本発明におけるPCRにより増幅された産物を確認する段階は、DNAチップ、ゲル電気泳動、放射性の測定、蛍光測定、または燐光測定を通じて行うことができるが、これに限定されない。増幅産物を検出する方法の一つとして、ゲル電気泳動を行うことができ、ゲル電気泳動は、増幅産物のサイズに応じてアガロースゲル電気泳動またはアクリルイミドゲル電気泳動を利用することができる。
【0089】
以下、本発明の理解を助けるために好ましい実施例を提示する。しかし、下記実施例は、本発明をより容易に理解するために提供されるものに過ぎず、下記実施例により、本発明の内容が限定されるものではない。
【実施例
【0090】
[準備例]実験準備及び方法
準備例1.実験植物体及び材料
ナミル稲及び粉質胚乳の特性を有するNamil(SA)-FLO2のDNAは、それぞれの若い葉を採取した後、CTAB(Cetyltrimethyl ammonium bromide)方法(Murray&Thomason、1980)を利用して抽出した。抽出されたDNAは、0.8%agarose gel電気泳動を通じて確認し、NanoDrop spectrophotometer(Thermo Fisher Scientific、USA)を用いて定量した後、5ng/μlで希釈してPCRに用いた。
【0091】
Namil(SA)-FLO2/密陽23のF2母集団と親系統は、釜山大学の実験地域で栽培され、粉質胚乳遺伝子の精密遺伝子地図のためにF3:4ファミリー群を製造した。メーカーの指示に従ってNucleoSpin(登録商標)Plant IIキット(MACHEREY-NAGEL GmbH&Co.KG、Germany)を使用してすべての遺伝子型の新鮮な葉から全ゲノムDNAを抽出した。
【0092】
準備例2.再シーケンシング及び分子マーカーの開発
Namil(SA)-flo2と密陽23の全ゲノムは、Illumina HiSeq 2500シーケンスシステムプラットフォーム(Illumina Inc. USA)を使用し、平均75倍のカバレッジで再シーケンシングされた。ロー(raw)配列リード(read)を稲の標準ゲノム(IRGSP 1.0)に対して整列した(Kawahara et al., 2013)。粉質胚乳に関連する遺伝子地図を作成するために、欠損値(missing value)のないSNP、対立遺伝子型頻度(MAF:minor allele frequency)>0.05、両親配列に対する遺伝子型コール(genotype call)が使用された。標的部位を小さくするために、Oligo7.0ソフトウェアを利用してSNPを選択し、8個の切断増幅された多型配列(CAPS:amplified polymorphic sequence)マーカーを開発した。
【0093】
準備例3.精巧な粉質胚乳決定遺伝子地図の作成
候補領域を見つけるために、RM18624とRM18639との間のゲノム領域がヘテロであるF2世代をF3世代に成長させた。次に、F3植物体を自己交配させ、F3:4種子を得た。父母系統と、ランダムに選ばれた96個のF3:4組換え体の皮をむいて、胚乳を肉眼で検査し、8個のCAPSマーカーで遺伝子型を確認した。当該領域のオープンリーディングフレーム(ORF)と、当該領域における機能性は、MSU Rice Genome Annotation Project Database(http://rice.plant biolo gy.msu.edu/)に開示されている。
【0094】
PCRは、10ngのDNA鋳型、10pmolの各プライマー、1xPCRバッファ[50mM KCl、10mM Tris-HCl(pH9.0)、0.1%Triton X-100、及び1.5mM MgCl2]、0.2mMのdNTP、1unitのTaq DNAポリメラーゼ(Nurotics、Korea)1unitを含む20-μl(体積)の溶液で行われた。PCRは、以下の条件でMJ Research PTC-100 thermocycler(Waltham、MA、USA)で行った:94℃で5分間の初期変性、94℃で30秒間の変性36サイクル、58℃での30秒間のアニーリング、及び1分間72℃で伸長と10分間72℃で最終伸長。PCR産物は、制限酵素(New England Biolabs)で切断された。CAPSマトを含むPCR産物の切断はWatCutプログラム(http://watcut.uwaterloo.ca/template.php?act=snp_new)を使用して探知された。切断産物は、6M尿素と1X TAEを使用して3%ポリアクリルアミドゲルにおいて80Vで分離され、MolecularImager(登録商標)Gel Doc(登録商標)XR System(Bio-Rad Laboratories、Inc. USA)を使用して視覚化した。
【0095】
準備例4.遺伝子クローニング及び変異位置同定
Namil(SA)-FLO2とナミル(Namil)においてcyOsPPDKのコーディング配列をCLC Sequence Viewer 7を使用して比較した。変異位置を確認するために、dCAPS Finder 2.0(http://helix.wustl.edu/dcaps/)を利用して粉質胚乳変異体Namil(SA)-flo2でHinfIにおいて制限酵素の位置に入れた。
【0096】
突然変異部位を含有する161bp断片をNamil(SA)-flo2及びナミルからプライマーF(CCCAGGTGATGCAGGTGAG;配列番号32)及びR(GCACAGGTCTTGGACATTGC;配列番号33)を使用してPCR増幅させた。PCR産物は、5μlのPCR産物、1.5μlの10X NEBuffer、0.5μlHinfI及び8μlの超純水を含む15μl(体積)溶液上でHinfI(New England Biolabs)で切断され、37℃で2時間培養された。切断産物は、4%アガロースゲルで分離した。dCAPSマーカーはF3:4ファミリーと、それぞれの胚乳表現型を有する48種の韓国系稲品種の同時-分離分析にも使用された。日本晴(Nipponbare)のcyOsPPDK遺伝子配列に基づいて設計されたプライマーを使用して3つの重畳された部分でCyOsPPDK遺伝子の完全なゲノムDNAがクローニングされた。
【0097】
【表1】
【0098】
準備例5.全RNA分離及びqRT-PCR分析
RNeasy Plant Miniキット(QIAGEN、Hilden、Germany)を使用して開花10日後(DAF)、ナミル及びNamil(SA)-flo2の米粒から全RNAを分離した。DNase I(QIAGEN、Hilden、Germany)でゲノムDNAを除去し、RNA to cDNA EcoDry Premixキット(Clontech、Mountain View、CA、USA)を使用して逆転写を行った。
【0099】
qRT-PCRは、Rotor-Gene Q装備(QIAGEN、Hilden、Germany)を有するQuantiNova SYBR Green RT-PCRキット(QIAGEN、Hilden、Germany)を使用し、次のPCR条件で行われた。95℃で10分間後、95℃で10秒間(40サイクル)、60℃で20秒間。フォールド変化は、ナミルに対して相対的に算出した。フォールド変化は、三回の反復実験の平均±標準偏差を示し、稲のActin 1(OsACT1;Os03g0718150)が内部対照群として使用された。qRT-PCRプライマー(qOsPPDKB)は FLO4-4のコーディング配列に基づいて設計され、表1のプライマーを使用した。
【0100】
実験例1.粉質胚乳形質を決定する遺伝子の究明
実験例1-1.粉質胚乳に関連する遺伝子座の地図
準備例において再シーケンスされたNamil(SA)-flo2の全ゲノムをインディカ栽培種の密陽23を参照としてアラインした。すべての標的領域において合計2,604個のSNPが確認された。RM18624とRM18639の間のゲノム配列をテンプレートとして使用し、8個のCAPSマーカーを設計し(表2)、F3:4組換えファミリーに由来する60個の粉質胚乳個体と36個の正常個体を、遺伝子型分析に使用した。前記組換え体の遺伝子型とそれらの子孫の表現型の間に様々な比較を行った。
【0101】
【表2】
【0102】
本発明の粉質胚乳に関連する候補遺伝子は、劣性遺伝子により調節されることが確認されたため、もし粉質胚乳個体のCAPSマーカー遺伝子型が密陽23または異型接合体遺伝子型と一致すれば、前記CAPSマーカー隣接領域は標的遺伝子の位置ではないと判断した。また、野生型胚乳を有する個体の中で、CAPSマーカー遺伝子型がNamil(SA)-FLO2と同一であれば、当該遺伝子の位置も標的遺伝子の位置ではないと判断した。
【0103】
図1a及び図1bに示すように、CAPS 5-8に対してヘテロ遺伝子型と粉質胚乳を有する個体;とCAPS 1-4に対してNamil(SA)-flo2遺伝子型と正常胚乳を有する個体が同定された。標的領域をCAPS 8マーカーとRM18639と両端を表示した33kbの領域においてBACクローンOJ1174_H11とOSJNBb0006J12と地図上に表示した。
【0104】
実験例1-2.粉質胚乳に対する候補遺伝子の分析
RAP-DB(Rice Annotation Project Database、http://rapdb.dna.affrc.go.jp/viewer/gbrowse/irgsp1/?name=chr02%3A1..105000)に基づいて、前記33kbの領域において4個の遺伝子を標的遺伝子の候補として予測した(図2a)。このうち、Os05g0404500が仮説のタンパク質(hypothetical)を暗号化すること、Os05g0404700はメチル結合タンパク質遺伝子MBD1と同様の機能遺伝子であり、Os05g0404901は保存された仮説のタンパク質をコードし、Os05g0405000はPPDK遺伝子であった。
【0105】
Namil(SA)-flo2において4つの候補遺伝子と野生型NamilのシーケンスにおいてPPDKのエクソン8からG/A SNPが確認された(図1bの(B))。稲の登熟期に種子からPPDKの転写体類型を分析するために、Namil(SA)-flo2とNamilのPPDKをPF2/PR3(cyOsPPDK)とPF3/PR3(chOsPPDK)プライマーの組み合わせ(Kang et al. 2005)と、さらに、表1の3個のプライマー対を用いて配列を確認した。
【0106】
Namil(SA)-flo2とNamilのcyOsPPDK塩基配列を日本晴(Nipponbare)の塩基配列と比較した結果、Namil(SA)-flo2間のコーディング領域のSNPを除いては、イントロン領域に9個のSNP;とイントロン領域及び同質性突然変異を有するコーディング領域の2個のSNPから6個のInDel(挿入及び欠失)が探索された。本発明に係る新たな配列の劣性粉質胚乳に関連する遺伝子をFLOury4-4(FLO4-4)と命名した。Namil(SA)-flo2及びNamilのFLO4-4の全長コーディング配列はGenBankに寄託し、それぞれMG267058及びMG267056の登録番号が付与された。
【0107】
【表3】
【0108】
実験例1-3.粉質胚乳に関連する遺伝子の発現特性分析
dCAPSマーカーを使用してNamil(SA)-flo2とナミル(Namil)(Mo et al, 2013)の交配による94個のF2試料において粉質稲(grain)の比率変化に対するFLO4-4遺伝子の影響を確認した。
【0109】
qRT-PCRを使用して登熟期の稲からFLO4-4の転写体の類型を調査した。Namil(SA)-flo2においてFLO4-4の相対的な発現レベルがNamilより遥かに高く(図11)、これは、FLO4-4の発現が登熟と関連があり、米粒の粉質感の違いは FLO4-4対立遺伝子から起因することを意味する。このような結果をすべて総合すると、FLO4-4が稲から粉質胚乳に原因となる遺伝子座(locus)であることを示唆する。
【0110】
実験例2.粉質胚乳の特性に関連する一塩基多型部位の究明
実験例2-1.ナミル稲とNamil(SA)-FLO2のPPDK1(OS05G0405000-02)遺伝子の塩基配列の肥料を通じた一塩基多型部位の究明
稲の標準ゲノム(IRGSP 1.0)の情報を基に、5番染色体に位置する候補遺伝子PPDK1(Pyruvate、phosphate dikinase1)の転写体の情報を確認し、OS05G0405000-02(19,718,538-19,737,605bp, http://ensembl.gramene.org/Oryza_sativa/Transcript/Summary?db=core;g=OS05G0405000;mr=5:19725828-19725829;r=5:19718000-19733014;t=OS05T0405000-02;tl=FRpMRF4sd5cjSKwa-7218-3304471)の塩基配列に基づいてシーケンスプライマー(sequencing primer)を合成してナミル稲とNamil(SA)-FLO2のPPDK1内の19,718,785-19,726,340(7,556bp)の塩基配列を分析した。具体的には、下記表1のプライマーセットを用いて3つの領域に区分してDNA断片を増幅し、その後、17個のシーケンスプライマーを用いて塩基配列の分析を行った。
【0111】
ナミル稲とNamil(SA)-FLO2のPPDK1内のOS05G0405000-02(reverse strand)の対応領域(7,556bp)に対する塩基配列を分析した結果、下記表2に示すように、標準ゲノムであるNipponbare(IRGSP 1.0)と比較してナミル稲は、6個のInDelと11個のSNPが探索され、Namil(SA)-FLO2は6個のInDelと12個のSNPが探索され、ナミル稲とNamil(SA)-FLO2間には1個のSNPが探索された。
【0112】
また、前記探索された粉質胚乳の特性に関連するSNPは、図1bに示すように、IRGSP標準ゲノムにおいて19,722,254bpに該当する位置として、ナミル稲では「G」、Namil(SA)-FLO2では「A」であることを確認することができた。これは、OS05G0405000-02(reverse strand)のアミノ酸配列においてGlycine(Gly、G)からAspartic acid(Asp、D)に変更される変異を誘発することが確認できた。
【0113】
実験例2-2.Namil(SA)-FLO2の粉質胚乳の特性判別用プライマーセットの製作
イ.dCAPsプライマーセットの製作
前記実施例1で究明したSNPに対してdCAPS Finder 2.0(http://helix.wustl.edu/dcaps/dcaps.html)を使用してdCAPsプライマーを作製した。探索されたSNP周辺の60bpの塩基配列情報を活用し、1bp mismatchプライマーを探索し、それにより図2に示すように、dCAPS Finder 2.0によりナミル稲のforward sequenceを切断する14個のプライマー、ナミル稲のreverce sequenceを切断する7個のプライマーが確認された。また、Namil(SA)-FLO2のforward sequenceを切断するプライマー4個とNamil(SA)-FLO2のreverse sequenceを切断する5個のプライマーが探索された。最終的に、下記表3に示すように、粉質胚乳の特性を有するNamil(SA)-FLO2の切断が制限酵素(Hinf I)との安定した反応で進められるプライマーセットを選定した。
【0114】
【表4】
【0115】
PCRは、10ngのDNAと5pmolのforward及びreverseプライマー、0.2mM dNTP mix、1X PCR buffer [50mM KCl、10mM Tris-HCl(pH9.0)、0.1%Triton X-100、1.5mM MgCl2]及び1unitのTaq polymerase(Nurotics、Korea)を用いて総体積20ulで実施した。PTC-100(登録商標)thermocycler(Waltham、USA)を使用して95℃で5分間の初期変性後、95℃で20秒間、61℃で30秒間、72℃で60秒間、合計35回繰り返し、72℃で10分間反応させた。
【0116】
一方、制限酵素は、5’... GAGTC ...3’部位を切断するHinf Iを使用し、図3に示すように、ナミル稲は制限酵素により切断されない一方、Namil(SA)-FLO2はSNPによりGAGTCの配列を有するため、前記制限酵素により切断されるように設計した。制限酵素の処理は、1X enzyme buffer [50mM Potassium Acetate、20mM Tris-acetate、10mM Magnesium Acetate、100μg/ml BSA]、10ngのPCR product、5U Hinf I(NEB、UK)を用いて、総体積15μlで実施した。PTC-100TM thermocycler(Waltham、USA)を使用して、37℃で120分間反応させた。結果物は、FA(Flagment analyzer)を利用して電気泳動した後、それにより遺伝子型を判定した。
【0117】
その結果、表5及び図4に示すように、Namil(SA)-FLO2、ナミル稲、及び標準ゲノム(IRGSP 1.0、Nipponbare)は161bpが増幅されたが、前記Hinf I制限酵素によりNamil(SA)-FLO2は17、154bpの形態に切断され、ナミル稲と標準ゲノム(IRGSP 1.0、Nipponbare)は切断されないことが確認できた。
【0118】
【表5】
【0119】
即ち、このような差異を通じて、ナミル突然変異後代系統の粉質胚乳の特性を効果的に判別可能であることが分かった。
【0120】
ロ.Tetra-primer ARMSプライマーセットの製作
探索されたSNPに対して制限酵素処理の段階を省略することができるプライマーを製作するために、Primer1(Primer Design for Tetra-Primer ARMS-PCR、http://primer1.soton.ac.uk/primer1 .html)サービスを利用してTetra-Primer ARMS-PCRプライマーを開発した。前記実施例1で究明したSNPを含む940bpの塩基配列の情報とSNP(G/A)情報を活用し、(Andrew Collins and Xizyi Ke. The Open Bioinformatics Journal, 2012, 55-58.(非特許文献2))下記表6に示すように、制限酵素の処理なしに、粉質胚乳の特性を有するNamil(SA)-FLO2のSNPを判別することができるプライマーセットを選定した。
【0121】
【表6】
【0122】
具体的には、FLO2 Tetra-Primer ARMS-PCRプライマーを用いてPCRを行う場合、表7及び図5に示すように、G alleleを有するナミル稲はFLO2-outer-FとFLO2 outer-Rにより635bpのPCR断片とG alleleに結合するFLO2-inner-F(G)とFLO2-outer-Rにより307bpの断片を有する一方、A alleleを有するFLO2は、FLO2-outer-FとFLO2-outer-Rにより635bpの断片と、A alleleに結合するFLO2-inner-R(A)とFLO2-outer-Fにより368bpの断片を示すことと予想した。
【0123】
【表7】
【0124】
PCRは、10ngのDNAと5pmolの合計4個のプライマー、0.2 mM dNTP mix、1X PCR buffer [50mM KCl、10mM Tris-HCl(pH9.0)、0.1%Triton X-100、1.5mM MgCl2]及び1unitのTaq polymerase(Nurotics、Korea)を利用して総体積20ulで実施した。PTC-100(登録商標)thermocycler(Waltham、USA)を使用して、95℃で5分間の初期変性後、95℃で20秒間、59℃で30秒間、72℃で60秒間、合計35回繰り返し、72℃で10分間反応させた。結果物は4%のアガロースゲル(agarose gel)を利用して電気泳動した後、遺伝子型を判定した。
【0125】
その結果、図6に示すように、前記製作されたFLO2 Tetra-Primer ARMS-PCRプライマーを用いてPCRを行うことにより、Namil(SA)-FLO2特異的な断片を得ることができた。即ち、このような差異からもナミル突然変異後代系統の粉質胚乳の特性を効果的に判別可能であることが分かった。
【0126】
実験例2-3.Namil(SA)-FLO2の粉質胚乳の特性判別用プライマーの効果検証
イ.dCAPsプライマーセットの効果検証
Namil(SA)-FLO2密陽23号の交配後代F2個体中、先行研究で報告された5番染色体に関連する部位が異型接合形態である個体から収穫された種子を圃場に展開し、後代分離集団を育成した。収穫した後、種子の胚乳特性を評価し、これらを播種して植物体からDNAを抽出し、遺伝子型の評価に用いた。また、遺伝的背景が類似した集団内で選抜効果を確認するために、韓国国内で育成されたジャポニカ品種48点のDNAを、国立食糧科学院から分譲を受けて使用した(1.アンミ、2.アランヒャンチャル、3.白真珠1、4.白玉チャル、5.ボラムチャル、6.ボラムチャン、7.ボラミ、8.宝石、9.宝石チャル、10.宝石黒チャル、11.チョンナム、12.チンドル、13.秋晴、14.タボ、15.タンミ、16.タンピョン、17.トレチャン、18.トダム米、19.トンジン、20.トンジン1、21.トンジンチャル、22.健康紅米、23.コンヤン2、24.コアミ、25.コアミ2 、26.コアミ4、27.ヘプム、28.ハイアミ、29.ハナム、30.ハンマウム、31.黒ジンミ、32.フクヒャン、33.黒真珠、34.フクナム、35.フクソル、36.紅真珠、37.ホプム、38.黄金ヌリ、39.ファソン、40.ファワン、41.ファヨン、42.ヒャンナム、43.ヒョンプム、44.イルミ、45.イルプム、46.赤真珠、47.赤真珠チャル、48.黒ヒャンチャル)。
【0127】
密陽23号とNamil(SA)-FLO2交配後代F2:4植物体38個体に対し、母・父として用いた密陽23号及びNamil(SA)-FLO2と、突然変異の原品種であるナミル稲を比較品種として用いて前記実施例2と同様な条件で分析した。その結果、図7に示すように、制限酵素Hinf Iにより切断されない形態をA型と、制限酵素Hinf Iにより17bpと154bpに切断される形態をB型と規定したとき、密陽23号と突然変異の原品種であるナミル稲はA型を示し、粉質胚乳であるNamil(SA)-FLO2だけB型を示した。また、交配後代F2:4植物体の遺伝子型は、正常胚乳を示した19個体では、異型接合(ヘテロ)とA型の結果を示したところ、F2:4植物体中の表現型が正常であるものが粉質胚乳に対して優性であることが分かった。併せて、胚乳が粉質特性を示した19個体の遺伝子型は、すべてB型で示されることが確認できた。
【0128】
また、ジャポニカ(japonica)育成品種48種に対し、母・父として用いた密陽23号及びNamil(SA)-FLO2と、突然変異の原品種であるナミル稲を比較品種として利用して、前記実施例2と同様な条件で分析した。その結果、図8に示すように、粉質胚乳の特性を示すNamil(SA)-FLO2のみがB型を示し、残りの47種はすべてA型を示すことが確認できた。このような結果から、本発明に係るSNP及びこれに対するdCAPsプライマーは、効果的な粉質形質の判別に適用可能であることが分かった。
【0129】
ロ.Tetra-primer ARMSプライマーセットの効果検証
Namil(SA)-FLO2と密陽23号の交配後代F2個体中、先行研究で報告された5番染色体に関連する部位が異型接合形態である個体で収穫された種子を圃場に展開し、後代分離集団を育成した。収穫後の種子の胚乳特性を評価し、これらを播種して植物体からDNAを抽出し、遺伝子型の評価に用いた。また、遺伝的背景が類似した集団内で選抜効果を確認するために、韓国国内で育成されたジャポニカ品種48点(実施例3-1と同一)のDNAを、国立食糧科学院から分譲を受けて使用した。
【0130】
Namil(SA)-FLO2と密陽23号の交配後代F2:4植物体38個体に対し、母・父として用いた密陽23号及びNamil(SA)-FLO2と、突然変異の原品種であるナミル稲を比較品種として利用して、前記実施例2と同様な条件で分析した。その結果、図9に示すように、正常胚乳を示した個体では、密陽23号type(307bp+635bp)または異型接合(307bp+368bp+635bp)の結果を示し、粉質胚乳の特性を有する個体は、すべてFLO2 type(368bp+635bp)の断片を示した。
【0131】
また、japonica育成品種48種に対し、母・父として用いた密陽23号及びNamil(SA)-FLO2と、突然変異の原品種であるナミル稲を比較品種として利用して、前記実施例2と同様な条件で分析した。その結果、図10に示すように、粉質胚乳の特性を示すNamil(SA)-FLO2のみが368bp+635bpの断片が観察された。このような結果から、本発明に係るSNP及びこれに対するTetra-primer ARMSプライマーは、効果的な粉質胚乳の形質判別に適用可能であることが分かった。
【0132】
前述した本発明の説明は、例示のためのものであり、本発明が属する技術分野の通常の知識を有する者は、本発明の技術的思想や必須の特徴を変更せず、他の具体的な形態で容易に変形が可能であることを理解することができるはずである。したがって、以上で記述した実施例は、すべての面で例示的なものであり、限定的ではないと理解すべきである。
図1a
図1b
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
【配列表】
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