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特許7004830誘導型の速度センサによって速度を測定するための方法および装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-01-06
(45)【発行日】2022-01-21
(54)【発明の名称】誘導型の速度センサによって速度を測定するための方法および装置
(51)【国際特許分類】
   G01P 3/46 20060101AFI20220114BHJP
   G01P 13/04 20060101ALI20220114BHJP
【FI】
G01P3/46 E
G01P3/46 P
G01P13/04 A
【請求項の数】 19
(21)【出願番号】P 2020542796
(86)(22)【出願日】2019-01-28
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2021-05-27
(86)【国際出願番号】 EP2019051968
(87)【国際公開番号】W WO2019154654
(87)【国際公開日】2019-08-15
【審査請求日】2020-09-02
(31)【優先権主張番号】102018001059.8
(32)【優先日】2018-02-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DE
(73)【特許権者】
【識別番号】597007363
【氏名又は名称】クノル-ブレムゼ ジステーメ フューア ヌッツファールツォイゲ ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング
【氏名又は名称原語表記】Knorr-Bremse Systeme fuer Nutzfahrzeuge GmbH
【住所又は居所原語表記】Moosacher Strasse 80, D-80809 Muenchen, Germany
(74)【代理人】
【識別番号】100114890
【弁理士】
【氏名又は名称】アインゼル・フェリックス=ラインハルト
(74)【代理人】
【識別番号】100098501
【弁理士】
【氏名又は名称】森田 拓
(74)【代理人】
【識別番号】100116403
【弁理士】
【氏名又は名称】前川 純一
(74)【代理人】
【識別番号】100134315
【弁理士】
【氏名又は名称】永島 秀郎
(74)【代理人】
【識別番号】100135633
【弁理士】
【氏名又は名称】二宮 浩康
(74)【代理人】
【識別番号】100162880
【弁理士】
【氏名又は名称】上島 類
(72)【発明者】
【氏名】クリストフ フーバー
(72)【発明者】
【氏名】アンドレ クルフティンガー
(72)【発明者】
【氏名】マルクス アイスナー
(72)【発明者】
【氏名】ミヒャエル ヘルゲス
【審査官】森 雅之
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2003/0176932(US,A1)
【文献】米国特許第08965691(US,B1)
【文献】特許第4122221(JP,B2)
【文献】米国特許出願公開第2005/0083041(US,A1)
【文献】独国特許出願公開第102012224098(DE,A1)
【文献】独国特許出願公開第102008056700(DE,A1)
【文献】特許第6453884(JP,B2)
【文献】独国特許出願公開第102005016110(DE,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01P
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくともコイル(3)と強磁性の発生要素(2)とを有する誘導型の速度センサ(1)によって、車両において、少なくとも1つのコイル(3)を含む測定検出器と、前記少なくとも1つのコイル(3)のインダクタンス(L)および前記少なくとも1つのコイル(3)に誘導される電圧(U)を変化させる強磁性の発生要素(2)との間で速度を測定する方法であって、
a)前記少なくとも1つのコイル(3)の前記インダクタンス(L)の変化を検出し、前記少なくとも1つのコイル(3)の変化する前記インダクタンス(L)に基づき速度を測定する方法において、
b)測定される速度が、比較的低い速度を起点として速度閾値に達するまでの間のみ、前記少なくとも1つのコイル(3)の前記インダクタンス(L)の変化を検出し、前記少なくとも1つのコイル(3)の変化する前記インダクタンス(L)に基づき速度を測定し、
c)測定される速度が、比較的低い速度を起点として前記速度閾値を超過した場合には、前記少なくとも1つのコイル(3)に誘導される前記電圧(U)の変化を検出して、変化する前記電圧(U)に基づき速度を測定し、
d)測定される速度が、比較的高い速度を起点として前記速度閾値に達した時は、または前記速度閾値を下回った時は、前記少なくとも1つのコイル(3)の前記インダクタンス(L)の変化を検出して、前記少なくとも1つのコイル(3)の変化する前記インダクタンス(L)に基づき速度を測定する、
ことを特徴とする方法。
【請求項2】
前記少なくとも1つのコイル(3)の前記インダクタンス(L)の検出を、
a)前記少なくとも1つのコイル(3)を並列または直列共振回路に接続し、前記少なくとも1つのコイル(3)の前記インダクタンス(L)を、前記共振回路の共振周波数に依存して検出することにより行う、または
b)前記少なくとも1つのコイル(3)に電気的なパルスを付与し、前記少なくとも1つのコイル(3)の前記インダクタンス(L)を、前記電気的なパルスに対する前記少なくとも1つのコイル(3)の応答に依存して検出することにより行う、または
c)前記少なくとも1つのコイル(3)に一定の周波数を付与し、そして前記少なくとも1つのコイル(3)の前記インダクタンス(L)を検出することにより行う、
請求項1記載の方法。
【請求項3】
前記車両は複数のホイール(A,B,C,D)を有していて、前記複数のホイールは、少なくとも2つのホイール(A,B)にホイール回転数センサとしてそれぞれ1つの誘導型の速度センサ(1)を備え付け、前記車両が前進走行であるかまたは後退走行であるかを、前記少なくとも2つのホイール(A,B)の前記ホイール回転数センサ(1)によって検出される前記インダクタンス(L)の時間的変化の少なくとも1つの時間的位相のずれ(Δt1,Δt2)に基づき検出する、請求項1または2記載の方法。
【請求項4】
a)前記車両の検出された走行を起点として、前記少なくとも2つのホイール(A,B)の前記ホイール回転数センサ(1)によって検出される前記インダクタンス(L)の第1の時間的変化間の少なくとも1つの第1の時間的位相のずれ(Δt1)を、前記車両の停止状態が検出されるまで記憶し、次いで
b)前記車両の再始動が検出された後は、前記少なくとも2つのホイール(A,B)の前記ホイール回転数センサ(1)によって検出される前記インダクタンス(L)の第2の時間的変化間の少なくとも1つの第2の時間的位相のずれ(Δt2)を検出し、前記第2の時間的位相のずれと前記少なくとも1つの第1の時間的位相のずれ(Δt1)とを比較し、この場合、
c)前記少なくとも1つの第2の時間的位相のずれ(Δt2)が、前記少なくとも1つの第1の時間的位相のずれ(Δt1)に対して著しく相違していることが確認された場合は、前進走行から後退走行への、または後退走行から前進走行への走行方向の反転があったと推測するが、
d)別の場合に、前記少なくとも1つの第1の時間的位相のずれ(Δt1)に対して、前記少なくとも1つの第2の時間的位相のずれ(Δt2)の著しいとは云えない相違しか存在しないことが確認された場合は、前進走行または後退走行の走行方向が維持されていると推測する、
請求項3記載の方法。
【請求項5】
前記少なくとも1つの第2の時間的位相のずれ(Δt2)が、前記少なくとも1つの第1の時間的位相のずれ(Δt1)に対して逆向きになっており、この場合、前記少なくとも2つのホイール(A,B)の第1のホイール(A)の前記ホイール回転数センサ(1)によって検出される前記インダクタンス(L)の第1の変化の、前記少なくとも2つのホイール(A,B)の第2のホイール(B)の前記ホイール回転数センサ(1)によって検出される前記インダクタンス(L)の第1の変化に対する、前記第1の時間的位相のずれ(Δt1)の分の時間的進みが、前記少なくとも2つのホイール(A,B)の前記第1のホイール(A)の前記ホイール回転数センサ(1)によって検出される前記インダクタンス(L)の第2の変化の、前記少なくとも2つのホイール(A,B)の前記第2のホイール(B)の前記ホイール回転数センサ(1)によって検出される前記インダクタンス(L)の第2の変化に対する、前記第2の時間的位相のずれ(Δt2)の分の時間的遅れへと変化した場合、前記少なくとも1つの第1の時間的位相のずれ(Δt1)に対する、前記少なくとも1つの第2の時間的位相のずれ(Δt2)の著しい相違として解釈する、請求項4記載の方法。
【請求項6】
前記インダクタンス(L)の前記時間的変化において、前記インダクタンス(L)が変化していない区分、および/または前記インダクタンス(L)の前記時間的変化の勾配が実質的にゼロに等しい区分を識別することにより、前記車両の停止状態を検出する、請求項3から5までのいずれか1項記載の方法。
【請求項7】
車両において、少なくとも1つのコイル(3)を含む測定検出器と、前記少なくとも1つのコイル(3)のインダクタンス(L)および前記少なくとも1つのコイル(3)に誘導される電圧(U)を変化させる強磁性の発生要素(2)との間で速度を測定するための速度測定装置であって、前記速度測定装置は、少なくとも1つの誘導型の速度センサ(1)を有しており、前記速度センサは少なくとも以下のものを、すなわち、
a)少なくとも1つのコイル(3)、
b)強磁性の発生要素(2)、
c)評価回路(7)、を含み、
d)前記評価回路(7)は、前記少なくとも1つのコイル(3)の前記インダクタンス(L)の変化を検出し、前記少なくとも1つのコイル(3)の変化する前記インダクタンス(L)に基づき速度を測定するように構成されている、速度測定装置において、
e)前記評価回路(7)はさらに、
e1)測定される速度が、比較的低い速度を起点として速度閾値に達するまでの間のみ、前記少なくとも1つのコイル(3)の前記インダクタンス(L)の変化を検出し、前記少なくとも1つのコイル(3)の変化する前記インダクタンス(L)に基づき速度を測定し、
e2)測定される速度が、比較的低い速度を起点として前記速度閾値を超過した場合は、前記少なくとも1つのコイル(3)に誘導される前記電圧(U)の変化を検出して、変化する前記電圧(U)に基づき速度を測定し、
e3)測定される速度が、比較的高い速度を起点として前記速度閾値に達した時は、または前記速度閾値を下回った時は、前記少なくとも1つのコイル(3)の前記インダクタンス(L)の変化を検出して、前記少なくとも1つのコイル(3)の変化する前記インダクタンス(L)に基づき速度を測定する、
ように構成されていることを特徴とする、速度測定装置。
【請求項8】
当該速度測定装置は車輪回転数測定装置を構成しており、前記誘導型の速度センサ(1)はホイール回転数センサを構成している、請求項7記載の速度測定装置。
【請求項9】
前記強磁性の発生要素(2)は、突出する歯(5)と、歯の谷間(6)とを交互に有している、請求項7または8記載の速度測定装置。
【請求項10】
前記少なくとも1つのコイル(3)は、軟磁性のコア(4)を取り囲んでいる、請求項7から9までのいずれか1項記載の速度測定装置。
【請求項11】
前記軟磁性のコア(4)は、前記強磁性の発生要素(2)とは反対側の端部に、永久磁石(10)を有している、請求項10記載の速度測定装置。
【請求項12】
a)前記少なくとも1つのコイル(3)は、並列または直列共振回路に接続されていて、前記評価回路(7)が、前記少なくとも1つのコイル(3)の前記インダクタンス(L)を、前記共振回路の共振周波数に依存して検出するように構成されている、または
b)前記少なくとも1つのコイル(3)に電気的なパルスを付与するための手段が設けられており、前記手段は前記少なくとも1つのコイル(3)に電気的なパルスを与え、この場合、前記評価回路(7)が、前記少なくとも1つのコイル(3)の前記インダクタンス(L)を、前記電気的なパルスに対する前記少なくとも1つのコイル(3)の応答に依存して検出するように、構成されている、または
c)前記少なくとも1つのコイル(3)に一定の周波数を付与するための手段が設けられていて、前記手段は前記少なくとも1つのコイル(3)に一定の周波数を与え、この場合、前記評価回路(7)は、前記少なくとも1つのコイル(3)の前記インダクタンス(L)を検出するように、構成されている、
請求項7から11までのいずれか1項記載の速度測定装置。
【請求項13】
前記車両は複数のホイール(A,B,C,D)を有していて、前記複数のホイールは、少なくとも2つのホイール(A,B)にホイール回転数センサとしてそれぞれ1つの誘導型の速度センサ(1)を備え、前記評価回路(7)は、前記車両が前進走行であるかまたは後退走行であるかを、前記少なくとも2つのホイール(A,B)の前記ホイール回転数センサ(1)によって検出される前記インダクタンス(L)の時間的変化間の少なくとも1つの時間的位相のずれ(Δt1,Δt2)に基づき検出するように構成されている、請求項7から12までのいずれか1項記載の速度測定装置。
【請求項14】
前記評価回路(7)は、
a)前記車両の検出された走行を起点として、前記少なくとも2つのホイール(A,B)の前記ホイール回転数センサ(1)によって検出される前記インダクタンス(L)の第1の時間的変化間の少なくとも1つの第1の時間的位相のずれ(Δt1)を、前記車両の停止状態が検出されるまで記憶し、
b)前記車両の再始動が検出された後は、前記少なくとも2つのホイール(A,B)の前記ホイール回転数センサ(1)によって検出される前記インダクタンス(L)の第2の時間的変化間の少なくとも1つの第2の時間的位相のずれ(Δt2)を検出し、前記第2の時間的位相のずれと前記少なくとも1つの第1の時間的位相のずれ(Δt1)とを比較し、この場合、
c)前記少なくとも1つの第2の時間的位相のずれ(Δt2)が、前記少なくとも1つの第1の時間的位相のずれ(Δt1)に対して著しい相違を有していることが確認された場合は、前進走行から後退走行への、または後退走行から前進走行への走行方向の反転を推測し、
d)別の場合に、前記少なくとも1つの第1の時間的位相のずれ(Δt1)に対して、前記少なくとも1つの第2の時間的位相のずれ(Δt2)の著しいとは云えない相違しか存在しないことが確認された場合は、前進走行または後退走行の走行方向の維持を推測する、
ように構成されている、請求項13記載の速度測定装置。
【請求項15】
前記評価回路(7)は、前記少なくとも1つの第2の時間的位相のずれ(Δt2)が、前記少なくとも1つの第1の時間的位相のずれ(Δt1)に対して逆転しており、この場合、前記少なくとも2つのホイール(A,B)の第1のホイール(A)の前記ホイール回転数センサ(1)によって検出される前記インダクタンス(L)の第1の変化の、前記少なくとも2つのホイール(A,B)の第2のホイール(B)の前記ホイール回転数センサ(1)によって検出される前記インダクタンス(L)の第1の変化に対する、前記第1の時間的位相のずれ(Δt1)の分の時間的進みが、前記少なくとも2つのホイール(A,B)の前記第1のホイール(A)の前記ホイール回転数センサ(1)によって検出される前記インダクタンス(L)の第2の変化の、前記少なくとも2つのホイール(A,B)の前記第2のホイール(B)の前記ホイール回転数センサ(1)によって検出される前記インダクタンス(L)の第2の変化に対する、前記第2の時間的位相のずれ(Δt2)の分の時間的遅れへと変化したことを確認した場合、前記少なくとも1つの第1の時間的位相のずれ(Δt1)に対する、前記少なくとも1つの第2の時間的位相のずれ(Δt2)の著しいとは云えない相違として解釈するように構成されている、請求項14記載の速度測定装置。
【請求項16】
前記評価回路(7)は、前記インダクタンス(L)の前記時間的変化において、前記インダクタンス(L)が変化していない区分、および/または前記インダクタンス(L)の前記変化の勾配が実質的にゼロに等しい区分を識別することにより、前記車両の停止状態を検出するように構成されている、請求項13から15までのいずれか1項記載の速度測定装置。
【請求項17】
請求項7から16までのいずれか1項記載の少なくとも1つの速度測定装置を備えたドライバ支援システム。
【請求項18】
自動停止機能および/または坂道発進支援機能を含む、請求項17記載のドライバ支援システム。
【請求項19】
請求項17または18記載のドライバ支援システムを備えた車両。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、請求項1の上位概念に記載の、少なくともコイルと強磁性の発生要素とを有する誘導型の速度センサによって、車両において、少なくとも1つのコイルを含む測定検出器と、少なくとも1つのコイルのインダクタンスLおよび少なくとも1つのコイルに誘導される電圧Uを変化させる強磁性の発生要素との間で速度を測定する方法、ならびに請求項7の上位概念に記載の、車両において、少なくとも1つのコイルを含む測定検出器と、少なくとも1つのコイルのインダクタンスおよび少なくとも1つのコイルに誘導される電圧Uを変化させる強磁性の発生要素との間で速度を測定するための速度測定装置であって、この速度測定装置は、少なくとも1つの誘導型の速度センサを有している速度測定装置に関する。
【0002】
本発明はさらに、請求項17に記載のこのような速度測定装置を備えたドライバ支援システム、ならびに請求項19に記載のこのようなドライバ支援システムを備えた車両に関する。
【0003】
独国特許出願公開第10146949号明細書により、ホイール回転数センサとしてのアクティブな速度センサが公知であり、この速度センサでは、測定検出器としての磁気抵抗エレメントの前で、発生要素としての強磁性のまたは永久磁石のエンコーダが回転する。測定検出器は、ブリッジ回路においてブリッジとして接続されており、回転するエンコーダによって、測定検出器で下降するブリッジ電圧が変化させられ、評価回路によって評価される。このような磁気抵抗エレメントは、例えばホール素子によって構成されてよい。磁気抵抗測定検出器を備えた磁気抵抗式速度センサでは、測定検出器の信号の振幅は回転数に依存しない。したがって、磁気抵抗式速度センサは、停止状態から最大速度までの速度を検出することができる。
【0004】
上位概念の形式の国際公開第2014/095311号によれば、磁気抵抗式速度センサのためには、自動車業界では、現在、コスト的な理由から専らシリコンが用いられており、これにより磁気抵抗式速度センサの作業温度には、技術により、150℃~200℃の上限がある。しかしながら自動車においては、速度センサのいくつかの使用個所において、より高いピーク温度が存在し、これはこれまで誘導型の速度センサによってしかカバーできていない。さらに、半導体に基づく磁気抵抗式速度センサには、原理に起因するものではなく、技術手段の工業化の形式に起因する欠点がある。ASICの形態で構成することができる信号処理回路は極めて安価でなければならず、このことは大量生産によってのみ可能であるので、車両におけるそれぞれの用途に適合させることはできない。1つの形式の全ての速度センサは、周波数の同じ上限で動作し、この上限以降は、測定検出器からの測定信号は、ローパスフィルタリングによって減衰される。しかしながら、特定の用途に関しては、大量生産市場によって設定された制限は、部分的に低すぎる。
【0005】
独国特許出願公開第4130168号明細書には、パッシブな誘導型の速度センサがエンジン回転数センサとして開示されており、このセンサでは、完全なまたは部分的な永久磁石コアをヨークとして備えた、測定検出器として構成されたコイルの前で、発生要素として構成された強磁性のエンコーダが回転している。この装置は、発電機として働く。コイルには発電機電圧が誘導され、その周波数と振幅とは、回転数に比例する。誘導型の速度センサでは、発電機電圧とその周波数とは、検出すべき速度に比例する。これにより、停止状態では発電機電圧は測定され得ない。したがって、誘導型の速度センサでは、検出すべき速度の信頼性と精度に関する要件を満たす評価を可能にするのに十分に高い誘導電圧が生じる速度の下限が存在する。しかしながら、車両において通常存在する、ドライバ支援システムのような制御システムが、ホイール回転数センサとして構成された速度センサの信号を必要とするので、車輪速度を誘導型の速度センサで測定する車両では、検出すべき速度に関してこのような下限が存在するのは不都合である。上述した機能の多くは、検出すべき全ての速度で必要であり、その他の機能は、停止状態までの検出すべき極めて低い速度で特に重要である。例は、坂道発進支援(HSA、Hill Start Assist)、自動停止機能、およびトラクションコントロール(ASR)である。しかしながら、誘導型の速度センサは、半導体から製造される磁気抵抗式速度センサと比較して、その製造コストが僅かであるという利点を有する。他方では、誘導型の速度センサは極めて堅牢である。堅牢性は、機械的負荷、外部の電磁場、および許容温度範囲に対して当てはまる。
【0006】
したがって上位概念の形式の国際公開第2014/095311号に開示された方法によれば、インダクタンスが、測定検出器として速度センサにおいて使用される。しかしながら、誘導型の速度センサにおけるのとは異なり、測定検出器として使用されるインダクタンスは、発電機としては作動しない。むしろ、測定検出器として使用されるインダクタンスは、磁気抵抗式速度センサにおけるように、変化する電気的インピーダンスに関して観察される。詳細には、ここに記載された方法は、以下のステップを含む:インダクタンスに電源電圧をかけるステップ、および電源電圧に基づきインダクタンスで下降する測定電圧の変化を検出し、インダクタンスの変化を検出するステップ。この場合、測定すべき速度でインダクタンスの近傍を通るエンコーダは、この速度に応じて電源電圧を変化させる。このようにして、変化する測定電圧を測定信号として検出し、この測定信号から、測定すべき速度が明らかになる。電源電圧としては、この場合、交流電圧が考慮される。エンコーダの速度は、これにより、測定結果の振幅に影響を与えず、したがって記載した方法は、速度に関わらず、速度の測定に使用することができる。しかしながらこのために、電源電圧のための電圧源を設けて、接続しなければならない。
【0007】
これに対して本発明の根底を成す課題は、パッシブな誘導型の速度センサに基づく、速度を測定する方法、もしくは当該方法に基づく速度測定装置を、僅かな手間で実現可能であるようにさらに改良することにある。少なくとも1つのこのような速度測定装置を備えたドライバ支援システム、ならびにこのようなドライバ支援システムを備えた車両も提供されるのが望ましい。
【0008】
本発明によれば、この課題は、請求項1、7、17、および19の特徴により解決される。
【0009】
発明の開示
本発明は、製造コストと堅牢性とに関する上述した利点ゆえに、当該方法および速度測定装置のために、パッシブな誘導型の速度センサを速度測定のために専ら考慮するという考えに基づいている。
【0010】
本発明は、1つの態様によれば、少なくともコイルと強磁性の発生要素とを有する誘導型の速度センサによって、少なくとも1つのコイルを含む測定検出器と、少なくとも1つのコイルのインダクタンスLおよび少なくとも1つのコイルに誘導される電圧Uを変化させる強磁性の発生要素との間で速度を測定する方法であって、少なくとも1つのコイルのインダクタンスLの変化を検出し、少なくとも1つのコイルの変化するインダクタンスLに基づき速度を測定する方法をベースとしている。
【0011】
したがって、国際公開第2014/095311号に記載されているように、この方法では、インダクタンスLの変化を(も)検出し、変化するインダクタンスLに基づき、速度を測定する。
【0012】
しかしながら、国際公開第2014/095311号とは異なり、少なくとも1つのコイルのインダクタンスLの変化の検出、および少なくとも1つのコイルの変化するインダクタンスLに基づく速度の測定は、インダクタンスLの変化によって測定される速度が、比較的低い速度を起点として速度閾値に達するまでの間のみ行われる。
【0013】
これに対し、測定される速度が、比較的低い速度を起点として速度閾値を超過すると、少なくとも1つのコイルに誘導される電圧Uの変化を検出して、変化する電圧Uに基づき速度を測定する。
【0014】
測定される速度が、比較的高い速度を起点として再び速度閾値に達すると、または速度閾値を下回ると再び、少なくとも1つのコイルのインダクタンスLの変化を検出して、少なくとも1つのコイルの変化するインダクタンスLに基づき速度を測定する。
【0015】
この場合、本発明の根底を成す思想は、少なくとも1つのコイルのインダクタンスLを、所定のサンプリング周波数で好適には高速で相前後して行われる測定により検出するというものである。しかしながら、このサンプリング周波数は、発生要素と測定検出器との間の高い速度では、すなわち、速度閾値を超える速度では比較的高くなければならないが、このことは少なくとも1つのコイルのインダクタンスLの検出の実現を困難にする。
【0016】
このような理由から本発明は、測定される速度が速度閾値を超過した場合は、従来のように、少なくとも1つのコイルに誘導される電圧Uの変化を検出して、変化する電圧Uに基づき速度を測定する方が好適であると認識している。なぜならば、少なくとも1つのコイルに誘導される電圧Uの検出にとっては、測定のサンプリング周波数はそれほど重要ではないからである。
【0017】
他方では、インダクタンスLの変化によって測定される速度が、比較的低い速度を起点として速度閾値に達するまでは、少なくとも1つのコイルの変化するインダクタンスLに基づき速度の測定が行われる。誘導型の速度センサにおける場合とは異なり、測定検出器として使用されるコイルは、発電機としては作動しない。むしろ、測定検出器として使用される少なくとも1つのコイルは、磁気抵抗式速度センサの場合のように、変化する電気的インピーダンスもしくはインダクタンスLに関して観察され、停止状態までの低い速度を確実に検出できるという利点を有している。これは、坂道発進支援(HSA、「Hill Start Assist」)、自動停止機能、およびトラクションコントロール(ASR)のようなドライバ支援システムの範囲で車輪速度を測定する際にとりわけ好適である。
【0018】
したがって、本発明は、両測定法の利点を組み合わせており、この方法では、速度に応じて、すなわち低い速度では、速度閾値に達するまで、少なくとも1つのコイルのインダクタンスLを検出し、速度閾値を超える比較的高い速度では、少なくとも1つのコイルに誘導される電圧Uを検出し、それぞれ検出された値、すなわちインダクタンスLまたは誘導された電圧Uに基づき、その都度、測定検出器と発生要素との間で速度を検出する。
【0019】
方法の好適な実施形態によれば、少なくとも1つのコイルのインダクタンスLの検出を、
a)少なくとも1つのコイルを、並列または直列共振回路に接続し、少なくとも1つのコイルのインダクタンスLを、共振回路の共振周波数に依存して検出することにより行う、または
b)少なくとも1つのコイルに電気的なパルスを付与し、少なくとも1つのコイルのインダクタンスLを、電気的なパルスに対する少なくとも1つのコイルの応答に依存して検出することにより行う、または
c)少なくとも1つのコイルに一定の周波数を付与し、そして少なくとも1つのコイルのインダクタンスLを検出することにより行う。
【0020】
方法の別の構成によれば、車両は複数のホイールを有していて、これら複数のホイールは、少なくとも2つのホイールにホイール回転数センサとしてそれぞれ1つの誘導型の速度センサを備えていてよく、車両が前進走行であるかまたは後退走行であるかを、少なくとも2つのホイールのホイール回転数センサによって検出されるインダクタンスLの時間的変化の少なくとも1つの時間的位相のずれに基づき検出する。換言すると、車両が前進走行であるかまたは後退走行であるかは、車両の少なくとも2つの異なるホイールのホイール回転数センサによって検出されるインダクタンスの時間的変化の少なくとも1つの時間的位相のずれに基づき検出される。
【0021】
特にこの方法では、
a)車両の検出された走行を起点として、少なくとも2つのホイールのホイール回転数センサによって検出されるインダクタンスの第1の時間的変化間の少なくとも1つの第1の時間的位相のずれを、車両の停止状態が検出されるまで記憶し、次いで
b)車両の再始動が検出された後は、少なくとも2つのホイールのホイール回転数センサによって検出されるインダクタンスLの第2の時間的変化間の少なくとも1つの第2の時間的位相のずれを検出し、第2の時間的位相のずれと少なくとも1つの第1の時間的位相のずれとを比較し、この場合、
c)少なくとも1つの第2の時間的位相のずれが、少なくとも1つの第1の時間的位相のずれに対して著しい相違を有していることが確認された場合は、前進走行から後退走行への、または後退走行から前進走行への走行方向の反転が推測されるが、
d)別の場合に、少なくとも1つの第1の時間的位相のずれに対して、少なくとも1つの第2の時間的位相のずれの著しいとは云えない相違しか存在しないことが確認された場合は、前進走行または後退走行の走行方向の維持が推測される。
【0022】
出願人はこの場合、ホイール回転数センサが複数のホイールに配置されている場合、その周期的なインダクタンス信号は、発生要素(エンコーダ)が周方向で見てランダムに組み付けられていることに基づき、ひいては、ホイールにおける歯・歯の谷間の位置に基づき、異なるホイール回転数センサによって検出されるインダクタンスLの時間的変化の位相は常にずれて始まることを前提とする効果を利用している。したがって、それぞれ1つのホイール回転数センサが設けられている2つのホイールでは、1つのホイール回転数センサによって検出されるインダクタンスLの第1の変化は、例えば1つのホイール回転数センサによって検出されるインダクタンスLの第1の変化よりも進んでいる、または遅れている。しかしながら出願人は、中間停止後または車両の停止後に走行方向が変更されると、この時間的進みもしくはこの時間的遅れは中間停止後または車両の停止後に、時間的遅れもしくは時間的進みへと反転し、このことは、第1の時間的位相のずれに対する第2の時間的位相のずれの著しい相違であると認識している。
【0023】
前進走行から後退走行への、または後退走行から前進走行への走行方向の反転の推測、もしくは前進走行または後退走行の走行方向の維持の推測は、相応の信号の生成の方法ステップを含んでいてよく、この信号は、さらに処理するために、例えばドライバ支援システムへと提供される。
【0024】
車両の走行もしくは再始動の検出は、インダクタンスLの時間的変化により簡単に突きとめることができる。
【0025】
この方法では特に、少なくとも1つの第2の時間的位相のずれが、少なくとも1つの第1の時間的位相のずれに対して逆転しており、この場合、少なくとも2つのホイールの第1のホイールのホイール回転数センサによって検出されるインダクタンスの第1の変化の、少なくとも2つのホイールの第2のホイールのホイール回転数センサによって検出されるインダクタンスの第1の変化に対する、第1の時間的位相のずれの分の時間的進みが、少なくとも2つのホイールの第1のホイールのホイール回転数センサによって検出されるインダクタンスの第2の変化の、少なくとも2つのホイールの第2のホイールのホイール回転数センサによって検出されるインダクタンスの第2の変化に対する、第2の時間的位相のずれの分の時間的遅れへと変化した場合、少なくとも1つの第1の時間的位相のずれに対する、少なくとも1つの第2の時間的位相のずれの著しい相違として解釈され得る。したがって、第1のホイールのホイール回転数センサによって検出されるインダクタンスLの第1の時間的変化は、第2のホイールのホイール回転数センサによって検出されるインダクタンスLの第1の時間的変化に対して、時間的に進んでいるが、中間停止後または車両停止後は、この関係が反転し、この場合、第1のホイールのホイール回転数センサによって検出されるインダクタンスLの第2の時間的変化が、第2のホイールのホイール回転数センサによって検出されるインダクタンスLの第2の時間的変化に対して時間的に遅れている。すなわち、時間的に、車両停止または中間停止前の、インダクタンスLの第1の時間的変化の間の時間的進みが、インダクタンスLの第2の時間的変化の間では時間的遅れとなるこのような変化は、したがって、少なくとも1つの第1の時間的位相のずれに対する、少なくとも1つの第2の時間的位相のずれの著しい相違の兆候である。
【0026】
さらにこの方法では、インダクタンスLの時間的変化において、インダクタンスLが変化していない区分、および/またはインダクタンスLの時間的変化の勾配が実質的にゼロに等しい区分を識別することにより、車両の停止状態を検出することができる。
【0027】
本発明の別の態様によれば、車両において、少なくとも1つのコイルを含む測定検出器と、少なくとも1つのコイルのインダクタンスLおよび少なくとも1つのコイルに誘導される電圧Uを変化させる強磁性の発生要素との間の速度を測定するための速度測定装置であって、この速度測定装置は、少なくとも1つの誘導型の速度センサを有しており、この速度センサは少なくとも以下のものを、すなわち、
a)少なくとも1つのコイル、
b)強磁性の発生要素、
c)(電子)評価回路、を含み、
d)(電子)評価回路は、少なくとも1つのコイルのインダクタンスLの変化を検出し、少なくとも1つのコイルの変化するインダクタンスLに基づき速度を測定するように構成されており、
e)評価回路はさらに、
e1)測定される速度が、比較的低い速度を起点として速度閾値に達するまでの間のみ、少なくとも1つのコイルのインダクタンスLの変化を検出し、少なくとも1つのコイルの変化するインダクタンスLに基づき速度を測定するが、
e2)測定される速度が、比較的低い速度を起点として速度閾値を超過した場合は、少なくとも1つのコイルに誘導される電圧Uの変化を検出して、変化する電圧Uに基づき速度を測定し、
e3)測定される速度が、比較的高い速度を起点として速度閾値に達した場合は、または速度閾値を下回った場合は、少なくとも1つのコイルのインダクタンスLの変化を検出して、少なくとも1つのコイルの変化するインダクタンスLに基づき速度を測定する、
ように構成されている、速度測定装置が開示されている。
【0028】
速度測定装置の別の構成によれば、速度測定装置はホイール回転数測定装置を構成する。例えば、強磁性の発生要素は、この場合、リング状に形成されていて、車両のホイールと共に、ホイール軸に対して同心的に回転し、少なくとも1つの定置のコイルは軟磁性のコアを取り囲んでいて、少なくとも1つのコイルと軟磁性のコアとの共通の中心軸線は、ホイール軸に対して平行に、かつホイール軸に対して垂直でもある平面に対して垂直に配置されている。
【0029】
特に、この速度測定装置では、強磁性の発生要素は、突出する歯と歯の谷間とを交互に有していてよい。この場合、少なくとも1つのコイルのインダクタンスLの時間的変化は、歯が軟磁性のコアに対向するときに最大値を有していて、歯の谷間が軟磁性のコアに対向するときに最小値を有している。したがって、ホイールが発生要素と共に、軟磁性のコアを含むコイルに対して回転する場合、最小のインダクタンスLminと、最大のインダクタンスLmaxとの交番が常に生じる。インダクタンスの時間的変化において、インダクタンスが変化しない区分、または勾配がゼロに等しい区分は、ホイールの停止状態を示す。
【0030】
この速度測定装置では、軟磁性のコアは、強磁性の発生要素とは反対側の端部に、永久磁石を有していてもよい。
【0031】
速度測定装置では、
a)少なくとも1つのコイルは、並列または直列共振回路に接続されていて、評価回路は、少なくとも1つのコイルのインダクタンスLを、共振回路の共振周波数に依存して検出するように構成されていてよい、または
b)少なくとも1つのコイルに電気的なパルスを付与するための手段が設けられていてよく、この手段が少なくとも1つのコイルに電気的なパルスを与え、この場合、評価回路は、少なくとも1つのコイルのインダクタンスLを、電気的なパルスに対する少なくとも1つのコイルの応答に依存して検出するように構成されていてよく、または
c)少なくとも1つのコイルに一定の周波数を付与するための手段が設けられていてよく、この手段は少なくとも1つのコイルに一定の周波数を与え、評価回路は、少なくとも1つのコイルのインダクタンスLを検出するように、構成されていてよい。
【0032】
さらに、車両は複数のホイールを有していてよく、これら複数のホイールは、少なくとも2つのホイールにホイール回転数センサとしてそれぞれ1つの誘導型の速度センサを備えており、評価回路は、車両が前進走行であるかまたは後退走行であるかを、少なくとも2つのホイールのホイール回転数センサによって検出されるインダクタンスLの時間的変化間の少なくとも1つの時間的位相のずれに基づき検出するように構成されていてよい。
【0033】
特に、評価回路は、
a)車両の検出された走行を起点として、少なくとも2つのホイールのホイール回転数センサによって検出されるインダクタンスLの第1の時間的変化間の少なくとも1つの第1の時間的位相のずれを、車両の停止状態が検出されるまで記憶し、次いで
b)車両の再始動が検出された後は、少なくとも2つのホイールのホイール回転数センサによって検出されるインダクタンスLの第2の時間的変化間の少なくとも1つの第2の時間的位相のずれを検出し、第2の時間的位相のずれと少なくとも1つの第1の時間的位相のずれとを比較し、この場合、
c)少なくとも1つの第2の時間的位相のずれが、少なくとも1つの第1の時間的位相のずれに対して著しい相違を有していることが確認された場合は、前進走行から後退走行への、または後退走行から前進走行への走行方向の反転を推測するが、
d)別の場合に、少なくとも1つの第1の時間的位相のずれに対して、少なくとも1つの第2の時間的位相のずれの著しいとは云えない相違しか存在しないことが確認された場合は、前進走行または後退走行の走行方向の維持を推測する、
ように構成されていてよい。
【0034】
前進走行から後退走行への、または後退走行から前進走行への走行方向の反転の推測、もしくは前進走行または後退走行の走行方向の維持の推測は、電子評価回路による相応の信号の生成を含んでいてよく、この信号は、さらに処理するために、例えばドライバ支援システムへと提供される。
【0035】
車両の走行もしくは再始動の検出は、インダクタンスLの時間的変化により電子評価回路によって突きとめることができる。
【0036】
さらに、速度測定装置では、評価回路が、少なくとも1つの第1の時間的位相のずれに対して少なくとも1つの第2の時間的位相のずれが逆転していることを確認した場合、少なくとも1つの第1の時間的位相のずれと少なくとも1つの第2の時間的位相のずれとの間の著しい相違として解釈するように、評価回路が構成されていてよい。このような逆転は、例えば、車両の走行時に、第1のホイール回転数センサのインダクタンスLの時間的変化の最大値または最小値が、第2のホイール回転数センサのインダクタンスLの時間的変化の最大値または最小値に対して時間的に進んでいる場合は、この進みが、車両の再始動時には、遅れに逆転することを、すなわち、第1のホイール回転数センサのインダクタンスLの時間的変化の最大値または最小値が、第2のホイール回転数センサのインダクタンスLの時間的変化の最大値または最小値に対して今や時間的に遅れていることを意味する。このような効果を説明するために、上記の説明が参照される。
【0037】
速度測定装置では、評価回路は、インダクタンスLの時間的変化において、インダクタンスLの時間的変化の勾配が実質的にゼロに等しい区分を識別することにより、車両の停止状態を検出するように構成されていてもよい。
【0038】
本発明はさらに、少なくとも1つの上述した速度測定装置を備えたドライバ支援システムに関する。このようなドライバ支援システムでは、例えば、自動停止機能および/または坂道発進支援機能を含むドライバ支援システムの場合のように、特に、速度ゼロのもしくは車両停止状態の確実な検出が重要であり得る。
【0039】
本発明は、このようなドライバ支援システムを備えた車両も含む。
【0040】
図面
以下に、本発明の実施例を図面に示し、以下の記載で詳しく説明する。
【図面の簡単な説明】
【0041】
図1】本発明の速度測定装置の好適な実施形態としての車輪回転数測定装置を示す概略図である。
図2図1の車輪回転数測定装置により検出されたインダクタンスLの時間的変化を時間tに関して示すグラフである。
図3】唯一の走行方向で中間停止を伴って走行した場合の、車両の4つの車輪における車輪回転数測定装置によって検出されたインダクタンスLの時間的変化を時間tに関して示すグラフである。
図4】1つの走行方向で走行し、中間停止後、逆の走行方向で走行した場合の、車両の4つの車輪における車輪回転数測定装置によって検出されたインダクタンスLの時間的変化を時間tに関して示すグラフである。
【0042】
実施例の説明
図1は、本発明の速度測定装置の好適な実施形態としてのホイール回転数センサ1の概略図である。ホイール回転数センサ1は、パッシブな誘導型の速度センサとして構成されていて、強磁性の発生要素(エンコーダ)2を含み、この発生要素は、例えばリング状に形成されていて、車両のホイールと共に、ホイール軸に対して同心的に回転する。さらに、ホイール回転数センサ1は、定置のコイル3と、軟磁性のコア4とを含み、コイル3は軟磁性のコア4を取り囲んでいて、コイル3と軟磁性のコア4との共通の中心軸線は、ホイール軸に対して平行に、かつホイール軸に対して垂直な平面に対して垂直に配置されている。
【0043】
強磁性の発生要素2は、突出する歯5と、歯の谷間6とを交互に有している。ホイール回転数センサ1は、電子評価回路7も含んでおり、この回路はライン8によってコイル3に接続されている。強磁性の発生要素2と、この強磁性の発生要素に面した、軟磁性のコア4の端部との間には、内側のギャップ9が形成されている。軟磁性のコア4の、強磁性の発生要素2とは反対側の端部には、永久磁石10が配置されている。永久磁石10の磁界は、一方では、軟磁性のコア4とコイル3とに、さらには強磁性の発生要素2にも少なくとも所定の個所で達している。
【0044】
強磁性の発生要素2が、コイル3と軟磁性のコア4とから成る定置のユニットに対向して回転すると、すなわち、ホイール回転数センサ1が設けられた車両のホイールが回転すると、ギャップ9の領域で交互に出入りする歯5および歯の谷間6の結果として、一方ではコイル3のインダクタンスLが変化し、そしてコイル3に誘導された電圧Uが変化する。
【0045】
一方では、電磁誘導の法則により、コイル3に、したがって、ライン8においても電圧Uが誘導され、この電圧は磁束φの時間的な変化に比例する。誘導された電圧Uに応じて、電子評価回路7において、強磁性の発生要素2の、ひいてはホイールの(回転)速度を測定することができる。この場合、磁束φは、強磁性の発生要素2に面している軟磁性のコア4の端部に、歯5または歯の谷間6のどちらが対向しているかに依存している。歯5は、永久磁石10の漂遊磁束を束ね、これに対し歯の谷間6は磁束を弱める。したがって、車両のホイールが、強磁性の発生要素2と共に回転すると、各歯5は、磁界を変化させる。磁界の変化は、コイル3に誘導電圧Uを発生させる。単位時間当たりのパルス数は、車輪のホイール回転数の尺度となる。
【0046】
したがって、一方では、電子評価回路7は、コイル3に誘導される電圧Uの変化を検出し、ホイールの(回転)速度を、コイル3に誘導された電圧Uの変化に基づき測定するように構成されている。
【0047】
他方では、ホイールの、ひいては強磁性の発生要素2の回転の際に、コイル3のインダクタンスLは周期的に変化する。軟磁性のコア4に、歯5または歯の谷間6のどちらが対向しているかに応じて、コイル3のインダクタンスLは変化する。
【0048】
したがって、電子評価回路7は他方で、コイル3のインダクタンスLの変化も検出し、ホイールの(回転)速度を、コイル3のインダクタンスLの変化に基づき測定するように、構成されている。
【0049】
この場合、様々な検出方法が考えられる。例えば、コイル3は、並列または直列共振回路に接続されていてよく、評価回路は、コイル3のインダクタンスLを、共振回路の共振周波数に応じて検出するように構成されていてよい。代替的には、コイル3に電気的なパルスを付与するための手段が設けられていてよく、この手段はコイル3に電気的なパルスを与え、この場合、評価回路7は、例えば、コイル3のインダクタンスLを、電気的なパルスに対するコイル3の応答に依存して検出するように、構成されている。とりわけ、コイル3に一定の周波数を付与するための手段が設けられていてもよく、この手段はコイル3に一定の周波数を与え、この場合、評価回路7は、コイル3のインダクタンスLを検出するように、構成されている。
【0050】
図2は、図1のホイール回転数センサ1により検出されたインダクタンスLの時間的変化を、時間tに関して示すグラフである。このグラフからわかるように、最大値Lmaxと最小値Lminとの間でほぼ正弦曲線状に動くインダクタンスLの周期的な変化が現れていて、この場合、強磁性の発生要素2の歯5が軟磁性のコア4に対向している場合に最大値Lmaxが生じ、歯の谷間6が軟磁性のコア4に対向している場合に、最小値Lminが生じている。
【0051】
インダクタンスLが変化していない、かつ/またはインダクタンスLの時間的な変化(推移)の勾配が実質的にゼロである、図2に矢印11で示した区分または領域は、電子評価回路7によりホイールの停止状態として認識される。
【0052】
電子評価回路7はさらに、比較的低い速度、例えば停止状態を起点として、測定される速度が速度閾値に達するまでの間のみ、コイル3のインダクタンスLの変化を検出し、コイル3の変化するインダクタンスLに基づきホイールの(回転)速度を測定するように構成されている。この速度閾値は比較的低くてよい。
【0053】
評価回路7はさらに、この評価回路によって検出される速度が、例えば車両の加速時に、比較的低い速度から速度閾値を超過すると、コイル3に誘導される電圧Uの変化を検出し、その後は、それ以上インダクタンスLの変化に基づき速度を測定せずに、単に変化する電圧Uに基づき測定するように構成されている。そして、評価回路7によって測定される速度が、比較的高い速度から再び速度閾値に達すると、またはすなわち、例えば走行中の車両にブレーキがかけられて、速度閾値を下回ると、少なくとも1つのコイル3のインダクタンスLの変化が再び検出され、速度はそれ以降、誘導される電圧Uの変化に基づいては測定されず、コイル3の変化するインダクタンスLに基づいて速度が測定される。
【0054】
車両は例えば4つのホイールA,B,C,D(図3および図4)を有していて、これらのホイールはそれぞれ固有の誘導型の速度センサをホイール回転数センサ1として備えている。この場合、車両が前進走行であるかまたは後退走行であるかは、例えば2つのホイールAおよびBのホイール回転数センサによって検出されるインダクタンスLの各時間的変化間の少なくとも1つの時間的位相のずれに基づき、電子評価回路7によって検出される。換言すると、車両が前進走行であるかまたは後退走行であるかは、車両の少なくとも2つの異なるホイールのホイール回転数センサ1によって検出されるインダクタンスLの時間的変化の少なくとも1つの時間的位相のずれに基づき検出される。
【0055】
次に、車両の4つのホイールA,B,C,Dの、4つのホイール回転数センサによって検出されるインダクタンスLの時間的変化を時間tに関してそれぞれ示している図3および図4のグラフにつき、この前進走行・後退走行の検知について詳しく説明する。この場合、各ホイールA,B,C,Dに関して、固有のホイール回転数センサ1が、(回転)速度もしくはホイール回転数を検出する。Aは車両の第1のホイールを、Bは第2のホイールを、Cは第3のホイールを、Dは第4のホイールを示す。
【0056】
この場合、例えば、4つのホイール回転数センサの電子評価回路7が、1つの集積電子評価回路7にまとめられていて、前進走行・後退走行の検出、ならびに停止状態の検知も、集積電子評価回路7で行われることを前提とする。
【0057】
例えば速度閾値よりも低い速度で行われる、例えば前進走行の際の、ホイール回転数センサ1によって検出される車両の走行を起点として、車両の停止状態が検出されるまでの、例えば第1のホイールAおよび第2のホイールBの両ホイール回転数センサ1のインダクタンスLの第1の時間的変化間の第1の時間的位相のずれ(位相差)Δt1が記憶される。4つ全てのホイールA~Dのホイール回転数センサ1のインダクタンスLの第1の時間的変化が、図3の左側に示されている。図3により、前進走行の際に、4つのホイールA~Dの4つのホイール回転数センサのインダクタンスLの第1の時間的変化は、それぞれ1つの位相のずれ(位相差)を互いに有していることがわかる。
【0058】
例えば図3では、第1のホイールAのホイール回転数センサ1と、第2のホイールBのホイール回転数センサ1とによって検出されたインダクタンスの変化間の第1の時間的位相のずれΔt1が、振幅最大値AmaxとBmaxとの間で示されている。代替的に、この第1の時間的位相のずれΔt1は、第1のホイールAのホイール回転数センサ1と、第2のホイールBのホイール回転数センサ1とによって検出されるインダクタンスの変化(推移)の任意の相応の値の間で検出されてもよい。したがって、図3の左側に示したように、前進走行の際には、第1のホイールAにおけるインダクタンスLの変化は、第2のホイールBにおけるインダクタンスLの変化よりも、時間的な第1の位相のずれΔt1の分だけ進んでいる。
【0059】
ここで、車両が前進走行から停止状態(ストップ)まで制動されたと仮定すると、このことは、集積電子評価回路7によって、例えば、4つ全てのホイールA~Dのホイール回転数センサによって検出されるインダクタンスLの時間的変化(若しくは推移)が、図3のほぼ真ん中に明確に示したように、それぞれゼロの勾配を有していることにより、かつ/またはインダクタンスLが変化しないもしくは一定を維持していることにより検出される。
【0060】
検出された車両停止状態から車両が再び始動したことが、集積電子評価回路7によって検出された後は、第1のホイールAおよび第2のホイールBのホイール回転数センサ1のインダクタンスLの第2の時間的変化間に、第2の時間的位相のずれΔt2が検出される。両ホイールAおよびBのホイール回転数センサ1のインダクタンスLのこの第2の時間的変化ならびに第2の時間的位相のずれΔt2は、図3および図4のそれぞれ右側に示されている。
【0061】
第1の時間的位相のずれΔt1と同様に、第2の時間的位相のずれΔt2も、この場合、例えば同様に、第1のホイールAおよび第2のホイールBのホイール回転数センサ1のインダクタンスLの第2の時間的変化の振幅最大値AmaxとBmaxとの間で示されている。
【0062】
これにより、第2の時間的位相のずれΔt2が、第1の時間的位相のずれΔt1と比較される。この場合、集積電子評価回路7によって、第2の時間的位相のずれΔt2が第1の時間的位相のずれΔt1から著しく相違(若しくは変化)していることが確認されると、評価回路は、走行方向が前進走行から後退走行へと逆転したと推測する。
【0063】
例えば、第2の時間的位相のずれΔt2が、第1の時間的位相のずれΔt1に対して逆(逆の符号)になると、第1の時間的位相のずれΔt1からの第2の時間的位相のずれΔt2の著しい相違と解釈される。このような状態は図4に示されている。図4の左側に示した、前進走行の際の4つのホイールA~DのインダクタンスLの時間的変化では、図3の前進走行の場合と同様に、第1のホイールAのインダクタンスLの推移若しくは変化は、第2のホイールBのインダクタンスLの推移若しくは変化に対して第1の時間的位相のずれΔt1の分だけ左側に進んでいる。しかしながら、図4の右側に示された、車両の停止後に再開した走行では、この関係が逆になっていて、すなわち、第1のホイールAのインダクタンスLの推移若しくは変化は、第2のホイールBのインダクタンスLの推移若しくは変化に対してもはや第1の時間的位相のずれΔt1の分だけ進んでおらず、逆に第2の時間的位相のずれΔt2の分だけ遅れている。したがって、中間の停止後、車両の走行方向は前進走行から後退走行へと逆転されたことになる。
【0064】
しかしながら別の場合に比較した際に、集積電子評価回路7によって、第1の時間的位相のずれΔt1に対する第2の時間的位相のずれΔt2の著しいとは云えない相違しか存在しないことが確認されると、評価回路は、前進走行の走行方向が維持されていると推測する。このような状態は図3の右側に示されている。この場合、車両の停止後に再開した車両の走行では、第1のホイールAのインダクタンスLの推移若しくは変化は、第2のホイールBのインダクタンスLの推移若しくは変化に対して、中間停止前と同様に、例えば第1の時間的位相のずれΔt1と同じである第2の時間的位相のずれΔt2の分だけ進んでいる。したがって、この場合は、第1の時間的位相のずれΔt1に対する第2の時間的位相のずれΔt2の著しい相違は存在しない。
【0065】
前進走行から後退走行への、または後退走行から前進走行への走行方向の反転の推測、もしくは前進走行または後退走行の走行方向の維持の推測は、集積電子評価回路7による相応の信号の生成を含んでいてよく、この信号は、さらに処理するために、例えばドライバ支援システムへと提供される。このようなドライバ支援システムは、特に、車両の停止状態の確認、もしくは検出された方向への車両の発進もしくは車両の始動が重要である自動停止機能または坂道発進支援機能を備えたドライバ支援システムである。
【符号の説明】
【0066】
1 ホイール回転数センサ
2 発生要素
3 コイル
4 コア
5 歯
6 歯の谷間
7 評価回路
8 ライン
9 ギャップ
10 永久磁石
11 矢印
A 第1のホイール
B 第2のホイール
C 第3のホイール
D 第4のホイール
U 誘導された電圧
L インダクタンス
Δt1 第1の時間的位相のずれ
Δt2 第2の時間的位相のずれ
図1
図2
図3
図4