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  • 特許-新規な環式ジオール化合物 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-01-07
(45)【発行日】2022-02-04
(54)【発明の名称】新規な環式ジオール化合物
(51)【国際特許分類】
   C07D 319/08 20060101AFI20220128BHJP
【FI】
C07D319/08
【請求項の数】 1
(21)【出願番号】P 2018114106
(22)【出願日】2018-06-15
(65)【公開番号】P2019218269
(43)【公開日】2019-12-26
【審査請求日】2020-12-24
(73)【特許権者】
【識別番号】000191250
【氏名又は名称】新日本理化株式会社
(72)【発明者】
【氏名】廣 祥二
(72)【発明者】
【氏名】阿野駿介
(72)【発明者】
【氏名】辻本真也
【審査官】三上 晶子
(56)【参考文献】
【文献】特表2015-526426(JP,A)
【文献】特開2011-225488(JP,A)
【文献】特表2008-509174(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07D 319/08
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式(1)
【化1】
[式中、R~Rは、同一又は異なって、それぞれ、水素原子、フッ素原子、塩素原子、臭素原子又は置換基を有してもよい炭素数1~4の直鎖状若しくは分岐鎖状のアルキル基を示す。]
で表される、環式ジオール化合物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規な環式ジオール化合物に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリエステル樹脂やポリカーボネート樹脂の樹脂原料として各種のジオール化合物が知られている。しかし、工業的に入手可能な環式ジオール化合物としては、1,4-シクロヘキサンジメタノール、1,4-シクロヘキサンジオールや2,2-ビス(4-ヒドロキシシクロヘキシル)プロパン(水素化ビスフェノールA)がある(特許文献1及び2)が、その種類は非常に少なく、様々な応用分野における多岐に渡る要求を満足させることが難しいので現状である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開平5-310900号公報
【文献】特開2003-048966号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、新規な環式ジオール化合物を提供することを目的とする。その新規な環式ジオール化合物は、ポリエステル樹脂、ポリカーボネート樹脂、エポキシ樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリアクリル酸エステル樹脂、ポリメタクリル酸エステル樹脂等の樹脂原料や樹脂改質剤として有用である。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは鋭意検討の結果、特異な構造を有する環式ジオール化合物が文献未記載の化合物であり、ポリエステル樹脂、ポリカーボネート樹脂、エポキシ樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリアクリル酸エステル樹脂及びポリメタクリル酸エステル樹脂等の樹脂原料や樹脂改質剤として有用なことを見出し、かかる知見に基づいて本発明を完成するに至った。
【0006】
即ち、本発明は、以下の項目を要旨とする新規な環式ジオール化合物を提供するものである。
【0007】
[項1]
一般式(1)
【化1】
[式中、R~Rは、同一又は異なって、それぞれ、水素原子、フッ素原子、塩素原子、臭素原子又は置換基を有してもよい炭素数1~4の直鎖状若しくは分岐鎖状のアルキル基を示す。]
で表される、環式ジオール化合物。
【0008】
[項2]
一般式(1)
【化2】
[式中、R~Rは、同一又は異なって、それぞれ、水素原子、フッ素原子、塩素原子、臭素原子又は置換基を有してもよい炭素数1~4の直鎖状若しくは分岐鎖状のアルキル基を示す。]
で表される環式ジオール化合物の、ポリエステル樹脂、ポリカーボネート樹脂、エポキシ樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリアクリル酸エステル樹脂又はポリメタクリル酸エステル樹脂の樹脂原料としての使用方法。
【0009】
[項3]
一般式(1)
【化3】
[式中、R~Rは、同一又は異なって、それぞれ、水素原子、フッ素原子、塩素原子、臭素原子又は置換基を有してもよい炭素数1~4の直鎖状若しくは分岐鎖状のアルキル基を示す。]
で表される環式ジオール化合物からなる、ポリエステル樹脂、ポリカーボネート樹脂、エポキシ樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリアクリル酸エステル樹脂又はポリメタクリル酸エステル樹脂の樹脂改質剤。
【0010】
[項4]
一般式(2)
【化4】
で表される、9-フルオレノンペンタエリスリトールモノアセタール。
【発明の効果】
【0011】
本発明の新規な環式ジオール化合物は、ポリエステル樹脂、ポリカーボネート樹脂、エポキシ樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリアクリル酸エステル樹脂、ポリメタクリル酸エステル樹脂等の樹脂原料又は樹脂改質剤として使用出来る。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】実施例1で得られた9-フルオレノンペンタエリスリトールモノアセタールのIRスペクトルである。
図2】実施例1で得られた9-フルオレノンペンタエリスリトールモノアセタールのH-NMRスペクトルである。
図3】実施例1で得られた9-フルオレノンペンタエリスリトールモノアセタールの13C-NMRスペクトルである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の新規な環式ジオール化合物は、下記一般式(1)
【化5】
[式中、R~Rは、同一又は異なって、それぞれ、水素原子、フッ素原子、塩素原子、臭素原子又は置換基を有してもよい炭素数1~4の直鎖状若しくは分岐鎖状のアルキル基を示す。]
で表される、環式ジオール化合物である。
【0014】
一般式(1)において、R1~Rで表される置換基を有していてもよい炭素数1~4の直鎖状若しくは分岐鎖状のアルキル基としては、特に制限ないが、例えば、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、tert-ブチル基等のアルキル基が挙げられる。このうち好ましくは、メチル基、エチル基、イソブチル基、tert-ブチル基である。
【0015】
一般式(1)で表される環式ジオール化合物の具体的な例としては、9-フルオレノンペンタエリスリトールモノアセタール、2-フルオロ-9-フルオレノンペンタエリスリトールモノアセタール、2-クロロ-9-フルオレノンペンタエリスリトールモノアセタール、2-ブロモ-9-フルオレノンペンタエリスリトールモノアセタール、2-メチル-9-フルオレノンペンタエリスリトールモノアセタール、2-エチル-9-フルオレノンペンタエリスリトールモノアセタール、2-イソプロピル-9-フルオレノンペンタエリスリトールモノアセタール、2-tert-ブチル-9-フルオレノンペンタエリスリトールモノアセタール、3-フルオロ-9-フルオレノンペンタエリスリトールモノアセタール、3-クロロ-9-フルオレノンペンタエリスリトールモノアセタール、3-ブロモ-9-フルオレノンペンタエリスリトールモノアセタール、3-メチル-9-フルオレノンペンタエリスリトールモノアセタール、3-エチル-9-フルオレノンペンタエリスリトールモノアセタール、3-イソプロピル-9-フルオレノンペンタエリスリトールモノアセタール、3-tert-ブチル-9-フルオレノンペンタエリスリトールモノアセタール、4-フルオロ-9-フルオレノンペンタエリスリトールモノアセタール、4-クロロ-9-フルオレノンペンタエリスリトールモノアセタール、4-ブロモ-9-フルオレノンペンタエリスリトールモノアセタール、4-メチル-9-フルオレノンペンタエリスリトールモノアセタール、4-エチル-9-フルオレノンペンタエリスリトールモノアセタール、4-イソプロピル-9-フルオレノンペンタエリスリトールモノアセタール、4-tert-ブチル-9-フルオレノンペンタエリスリトールモノアセタール、2,7-ジフルオロ-9-フルオレノンペンタエリスリトールモノアセタール、2,7-ジクロロ-9-フルオレノンペンタエリスリトールモノアセタール、2,7-ジブロモ-9-フルオレノンペンタエリスリトールモノアセタール、2,7-ジメチル-9-フルオレノンペンタエリスリトールモノアセタール、2,7-ジエチル-9-フルオレノンペンタエリスリトールモノアセタール、2,7-ジイソプロピル-9-フルオレノンペンタエリスリトールモノアセタール、2,7-ジ-tert-ブチル-9-フルオレノンペンタエリスリトールモノアセタール、3,6-ジフルオロ-9-フルオレノンペンタエリスリトールモノアセタール、3,6-ジクロロ-9-フルオレノンペンタエリスリトールモノアセタール、3,6-ジブロモ-9-フルオレノンペンタエリスリトールモノアセタール、3,6-ジメチル-9-フルオレノンペンタエリスリトールモノアセタール、3,6-ジエチル-9-フルオレノンペンタエリスリトールモノアセタール、3,6-ジイソプロピル-9-フルオレノンペンタエリスリトールモノアセタール、3,6-ジ-tert-ブチル-9-フルオレノンペンタエリスリトールモノアセタール、4,5-ジフルオロ-9-フルオレノンペンタエリスリトールモノアセタール、4,5-ジクロロ-9-フルオレノンペンタエリスリトールモノアセタール、4,5-ジブロモ-9-フルオレノンペンタエリスリトールモノアセタール、4,5-ジメチル-9-フルオレノンペンタエリスリトールモノアセタール、4,5-ジエチル-9-フルオレノンペンタエリスリトールモノアセタール、4,5-ジイソプロピル-9-フルオレノンペンタエリスリトールモノアセタール、4,5-ジ-tert-ブチル-9-フルオレノンペンタエリスリトールモノアセタール等が挙げられる。
【0016】
本発明の新規な環式ジオール化合物は、例えば、下記反応式に示すようにして製造される。
(反応式)
【化6】
[式中、R~Rは、同一又は異なって、それぞれ、水素原子、フッ素原子、塩素原子、臭素原子又は置換基を有してもよい炭素数1~4の直鎖状若しくは分岐鎖状のアルキル基を示す。]
【0017】
上記の反応式に示すように、本発明の新規な環式ジオール化合物(一般式(1))の製造方法としては、一般式(3)で表される9-フルオレノン化合物をメタノール存在下、酸性触媒存在下でアセタール化反応して、一般式(4)で表される9-フルオレノン化合物のジメチルアセタールとした後、酸性触媒存在下、ペンタエリスリトールを用いてアセタール交換反応させる製造方法が例示される。
【実施例
【0018】
以下に実施例を掲げて本発明を詳しく説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。なお、本実施例において、環式ジオール化合物の各種測定は以下の方法により測定した。また、特に言及していない化合物は試薬を使用した。
【0019】
<使用化合物>
9-フルオレノン:東京化成工業株式会社製
p-トルエンスルホン酸一水和物:ナカライテスク株式会社製
メタノール:ナカライテスク株式会社製
ペンタエリスリトール:パーストープ社製
【0020】
<ガスクロマトグラフィー(GC)による分析>
9-フルオレノンジメチルアセタール及び環式ジオール化合物の純度(GC面積%)はガスクロマトグラフィー(GC)により測定した。
【0021】
[測定条件]
機器:島津製作所製 GC-2010
カラム:アジレント・テクノロジー株式会社製DB-1 30m×0.25mm×0.25μm
カラム温度:100~320℃(昇温速度15℃/min)
インジェクション温度/検出器温度:250℃/325℃
検出器:FID
キャリアガス:ヘリウム
ガス線速度:30cm/sec
試料:1質量%のアセトニトリル溶液
注入量:1μl
【0022】
<融点>
環式ジオール化合物の融点は、エスアイアイ・ナノテクノロジー社製示差熱量測定装置DSC6220を用いて測定した。試料3.4mgを同社製アルミパンに入れて密封し、50ml/分の窒素気流下、昇温速度10℃/分で30℃から290℃まで昇温して、吸熱ピークを観測した。そのピークトップが示した温度を融点とした。
【0023】
<赤外吸収スペクトル(IRスペクトル)>
環式ジオール化合物のIRスペクトルは、赤外分光分析装置(株式会社パーキンエルマージャパン製Spectrum400)を用い、ATR法(減衰全反射法)で行った。
【0024】
<プロトン核磁気共鳴スペクトル(H-NMR)>
環式ジオール化合物のH-NMRは、重メタノールに溶かした後、核磁気共鳴装置(Bruker社製DRX-500)を用い、H-NMR(500MHz)測定で行った。
【0025】
<カーボン核磁気共鳴スペクトル(13C-NMR)>
環式ジオール化合物の13C-NMRは、重メタノールに溶かした後、核磁気共鳴装置(Bruker社製DRX-500)を用い、13C-NMR(125.8MHz)測定で行った。
【0026】
[実施例1]
還流冷却管を装着した1L4ツ口フラスコに9-フルオレノン35.0g(194.2mmol )、オルト蟻酸トリメチル57.0g(537.1mmol)、p-トルエンスルホン酸一水和物1.80g(9.5mmol)、メタノール325.0g(10.1mol )を仕込み、50℃で5時間攪拌した後、トリエチルアミンを加えて中和した。メタノール溶媒を減圧留去し、得られた濃縮粗物に、酢酸エチル115gおよび5%炭酸水素ナトリウム115gを加え攪拌した。分層後、水層を除去し、有機層を60gの水で2回洗浄した。有機層を硫酸ナトリウムで乾燥後、酢酸エチルを減圧留去して、純度98.8GC面積%の9-フルオレノンジメチルアセタールを得た。得られた9-フルオレノンジメチルアセタールはさらなる精製を行うことなく、次の反応に用いた。
【0027】
還流冷却管付きディーンスタークトラップを装着した1L4ツ口フラスコにペンタエリスリトール72.6g(533.2mmol)、9-フルオレノンジメチルアセタール40.0g(176.8mmol)、p-トルエンスルホン酸一水和物60mg(0.32mmol)、トルエン75.0g、N,N-ジメチルホルムアミド225.2gを仕込み、系を窒素置換した後、昇温してトルエン還流下で、2.5時間攪拌した。反応混合物を室温に戻し、トリエチルアミンで中和し、水150gを加えて攪拌した。分層後、有機層と水層に分け、水層を酢酸エチル130mlで3回抽出し、酢酸エチルと先に分けていた有機層とを合わせた。100mlの水で洗い、硫酸ナトリウムで乾燥した。得られた有機層から酢酸エチルを減圧留去し、粗9-フルオレノンペンタエリスリトールモノアセタールを得た。トルエンを用いて得られた粗9-フルオレノンペンタエリスリトールモノアセタールを再結晶精製することにより、純度99.6GC面積%の9-フルオレノンペンタエリスリトールモノアセタールを得た。融点は、157.9℃であった。
【0028】
得られた9-フルオレノンペンタエリスリトールモノアセタールについて、IRスペクトル、H-NMRスペクトル及び13C-NMRスペクトルを測定した。図1~3に示した。なお、H-NMRスペクトルの3.3、4.9ppm付近のピーク及び13C-NMRスペクトルの48ppm付近のピークは溶媒の重メタノールに由来するピークである。
【0029】
IR(cm-1):3249,2954,2872,1612,1447,1159,1143,1119,1081,1038,990,751,726,693
【0030】
H-NMR(500MHz,ppm):3.83(s,4H),4.29(s,4H),7.28(dd,2H),7.39(dd,2H),7.64(d,2H),7.83(d,2H)
【0031】
13C-NMR(125.8MHz,ppm):39.6,61.6,63.2,103.8,119.7,124.8,127.5,129.7,139.3,143.5
【産業上の利用可能性】
【0032】
本発明の新規な環式ジオール化合物は、ポリエステル樹脂、ポリカーボネート樹脂、エポキシ樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリアクリル酸エステル樹脂及びポリメタクリル酸エステル樹脂等の樹脂原料や樹脂改質剤として使用することができる。
図1
図2
図3