(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-01-07
(45)【発行日】2022-01-21
(54)【発明の名称】便器装置
(51)【国際特許分類】
E03D 9/10 20060101AFI20220114BHJP
【FI】
E03D9/10
(21)【出願番号】P 2018013759
(22)【出願日】2018-01-30
【審査請求日】2020-11-02
(73)【特許権者】
【識別番号】000010087
【氏名又は名称】TOTO株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100094569
【氏名又は名称】田中 伸一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100088694
【氏名又は名称】弟子丸 健
(74)【代理人】
【識別番号】100103610
【氏名又は名称】▲吉▼田 和彦
(74)【代理人】
【識別番号】100095898
【氏名又は名称】松下 満
(74)【代理人】
【識別番号】100098475
【氏名又は名称】倉澤 伊知郎
(74)【代理人】
【識別番号】100130937
【氏名又は名称】山本 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100159846
【氏名又は名称】藤木 尚
(72)【発明者】
【氏名】川瀬 元太
(72)【発明者】
【氏名】戸崎 正道
(72)【発明者】
【氏名】藤野 翔太
【審査官】神尾 寧
(56)【参考文献】
【文献】米国特許第03157888(US,A)
【文献】仏国特許出願公開第02607843(FR,A1)
【文献】国際公開第02/066752(WO,A1)
【文献】特開2009-108674(JP,A)
【文献】特開2007-239263(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E03D 9/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
汚物を粉砕して排出する便器装置であって、
貯留された溜水の溜水面が形成され且つ汚物を受ける汚物受け面を備えるボウル部と、
上記ボウル部内で汚物を粉砕する粉砕装置と、
上記ボウル部内の洗浄水を下流側に排出させる排出装置と、を有し、
上記ボウル部は、さらに、上記汚物受け面の下部から外側へ向けて延びる粉砕室を備え、
上記粉砕装置は、上記溜水内に回転流を発生させる回転体と、上記回転体に回転を伝達する回転軸とを備え、
上記回転軸は上記粉砕室内の上側に設けられ且つ上記回転体も上記粉砕室内の上側に設けられ
、上記ボウル部の上記粉砕室は、上記回転体より上側に溜まる空気を上記汚物受け面側へ向けて排出する空気排出手段を備えることを特徴とする、便器装置。
【請求項2】
上記ボウル部の上記粉砕室は、上記汚物受け面の下部から後方側へ向けて延びる、請求項1に記載の便器装置。
【請求項3】
上記粉砕装置の上記回転体は、平面視で上記ボウル部の待機状態における溜水面の外側に配置される、請求項1又は2に記載の便器装置。
【請求項4】
上記空気排出手段は、水平に対して上記汚物受け面側に向けて上り傾斜するように形成される上記粉砕室の天面である、請求項
1に記載の便器装置。
【請求項5】
上記ボウル部の上記粉砕室は、上記回転体の回転時に上記粉砕室内の底部側において水流の淀みが発生することを抑制する淀み抑制手段を備える、請求項2乃至
4に記載の便器装置。
【請求項6】
上記淀み抑制手段は、上記回転体の下方において前方側から後方側に向けて上り傾斜するように形成される上記粉砕室の下面である、請求項
5に記載の便器装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、便器装置に係り、特に、汚物を粉砕して排出する便器装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1に示すように、回転体を回転させて汚物を粉砕した後に、粉砕した汚物を便器の外部に排出する便器装置が提案されている。このような便器装置では、節水化の要請により少ない洗浄水で便器を洗浄する場合であっても、汚物を粉砕した後に排出するため、下流側の配管の詰まりを抑えることができる。このような便器装置では、汚物を粉砕するための粉砕室を別途設けることなく汚物をボウル部の溜水部内で粉砕するため、便器装置をコンパクトに形成することができる。便器装置のコンパクト化は、特にトイレルームに十分な広さを確保することができない場合に便器装置を配置することができる点で非常に有効である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1のような便器装置においては、汚物を粉砕するため、ボウル部の底部に回転体を設けている。よって、使用者がボウル部を上から見た際に回転体が視認されやすく、回転体を備えない通常の水洗便器との相違により使用者に違和感や不安感を与える懸念がある。また、沈殿した汚物が回転体に蓄積し、回転体の回転動作が阻害される懸念がある。
【0005】
そこで、本発明は、上述した課題を解決するためになされたものであり、使用者にボウル部内に回転軸及び回転体が見えることによる違和感を与えにくくすることができると共に、汚物の蓄積が回転体及び回転軸の回転動作を阻害することを抑制することができる便器装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上述した目的を達成するために、本発明は、汚物を粉砕して排出する便器装置であって、貯留された溜水の溜水面が形成され且つ汚物を受ける汚物受け面を備えるボウル部と、上記ボウル部内で汚物を粉砕する粉砕装置と、上記ボウル部内の洗浄水を下流側に排出させる排出装置と、を有し、上記ボウル部は、さらに、上記汚物受け面の下部から外側へ向けて延びる粉砕室を備え、上記粉砕装置は、上記溜水内に回転流を発生させる回転体と、上記回転体に回転を伝達する回転軸とを備え、上記回転軸は上記粉砕室内の上側に設けられ且つ上記回転体も上記粉砕室内の上側に設けられ、上記ボウル部の上記粉砕室は、上記回転体より上側に溜まる空気を上記汚物受け面側へ向けて排出する空気排出手段を備える。
このように構成された本発明においては、汚物受け面の下部から外側へ向けて延びる粉砕室において、回転軸は粉砕室内の上側に設けられ且つ回転体も粉砕室内の上側に設けられる。これにより、使用者から粉砕装置の回転軸及び回転体を見えにくくすることができ、使用者にボウル部内に回転軸及び回転体が見えることによる違和感を与えにくくすることができる。また、このように構成された本発明においては、回転軸は粉砕室内の上側に設けられ且つ回転体も粉砕室内の上側に設けられる。仮に回転軸及び回転体が粉砕室内の下側に設けられて汚物が沈殿して下側の回転体及び回転軸に蓄積する場合と比べて、本発明によれば、回転体及び回転軸に汚物が蓄積することを抑制し、汚物の蓄積が回転体及び回転軸の回転動作を阻害することを抑制することができる。
また、このように構成された本発明においては、ボウル部の粉砕室が、回転体より上側に溜まる空気を汚物受け面側へ向けて排出する空気排出手段を備えるので、回転体が回転体より上側に溜まる空気を巻き込み、異音を生じさせることを抑制することができる。
【0007】
本発明において、好ましくは、上記ボウル部の上記粉砕室は、上記汚物受け面の下部から後方側へ向けて延びる。
このように構成された本発明においては、汚物受け面の下部から後方側へ向けて延びる粉砕室において、回転軸は粉砕室内の上側に設けられ且つ回転体も粉砕室内の上側に設けられる。これにより、使用者から粉砕装置の回転軸及び回転体をより見えにくくすることができ、使用者にボウル部内に回転軸及び回転体が見えることによる違和感をより与えにくくすることができる。
【0008】
本発明において、好ましくは、上記粉砕装置の上記回転体は、平面視で上記ボウル部の待機状態における溜水面の外側に配置される。
このように構成された本発明においては、粉砕装置の回転体は、平面視でボウル部の待機状態における溜水面の外側に配置される。これにより、使用者から粉砕装置の回転軸及び回転体をより見えにくくすることができ、使用者にボウル部内に回転軸及び回転体が見えることによる違和感をより与えにくくすることができる。
【0010】
本発明において、好ましくは、上記空気排出手段は、水平に対して上記汚物受け面側に向けて上り傾斜するように形成される上記粉砕室の天面である。
このように構成された本発明においては、空気排出手段は、水平に対して汚物受け面側に向けて上り傾斜するように形成される粉砕室の天面である。よって、粉砕室の回転体より上側に溜まる空気が、空気排出手段に沿って汚物受け面側に向けて排出され、回転体より上側に空気が溜まることを抑制することができる。
【0011】
本発明において、好ましくは、上記ボウル部の上記粉砕室は、上記回転体の回転時に上記粉砕室内の底部側において水流の淀みが発生することを抑制する淀み抑制手段を備える。
このように構成された本発明においては、ボウル部の粉砕室は、回転体の回転時に、粉砕室内の底部側において水流の淀みが発生することを抑制する淀み抑制手段を備える。よって、粉砕室の上側の回転体から比較的距離が離れている粉砕室の底部側において、回転体の回転時に水流の淀みが発生することを抑制でき、水流の淀みによる汚物の粉砕性能の低下を抑制することができる。
【0012】
本発明において、好ましくは、上記淀み抑制手段は、上記回転体の下方において前方側から後方側に向けて上り傾斜するように形成される上記粉砕室の下面である。
このように構成された本発明においては、淀み抑制手段は、回転体の下方において前方側から後方側に向けて上り傾斜するように形成される粉砕室の下面であるので、使用者から淀み抑制手段を見えにくくして違和感を与えにくくすると共に粉砕室の容積を小さくすることができる。これにより、粉砕室における回転流の流速を上昇させることができ、汚物の粉砕性能を向上させることができる。また、例えば粉砕室の下面全体を底上げして粉砕室の容積を小さくする場合と比べて、粉砕室の下面が回転体の下方において上り傾斜するように形成されているので、粉砕装置を粉砕室側からメンテナンスできるメンテナンス性の低下を抑制することができる。
【発明の効果】
【0013】
本発明の便器装置によれば、使用者にボウル部内に回転軸及び回転体が見えることによる違和感を与えにくくすることができると共に、汚物の蓄積が回転体及び回転軸の回転動作を阻害することを抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】本発明の一実施形態による便器装置を後方斜め上方から見た全体斜視図である。
【
図2】本発明の一実施形態による便器装置を示す断面図である。
【
図3】
図2のボウル部の粉砕室を拡大して示す部分拡大断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
次に、添付図面を参照して、本発明の一実施形態による便器装置について説明する。最初に、
図1及び
図2により、本発明の一実施形態による便器装置の全体構造を説明する。
【0016】
図1に示すように、本発明の一実施形態による便器装置であるポータブルトイレ装置1は、汚物を粉砕して排出する水洗式の便器装置であり、通常のトイレ空間以外の場所、例えば、使用者の居室、寝室内のベッドサイド等に配置されることができる。ポータブルトイレ装置1は、介護用として使用でき、また、高齢者や病気の人などで、トイレまで歩いていくことが困難又は比較的負担に感じる人にも、自分で居室において使用することができる便器装置である。なお、以下、本発明の一実施形態における説明において、ポータブルトイレ装置1を使用する使用者側(ポータブルトイレ装置1を使用するためにポータブルトイレ装置1の正面に立っている使用者側)から見てポータブルトイレ装置1の手前側を前方側とし、使用者から見て奥側を後方側とし、ポータブルトイレ装置1を前方から見て右側を右側とし、前方から見て左側を左側として説明している。
【0017】
ポータブルトイレ装置1は、便器本体2と、便器本体2に洗浄水を供給する給水装置である給水部4と、便器本体2を支持するフレーム6と、を備えている。
【0018】
また、ポータブルトイレ装置1は、移動可能な非据え付け型の装置である。ポータブルトイレ装置1は、フレーム6のフレーム基部6aが便器本体2等が設置される床面Fに固定されておらず、使用者又は事業者等によって車輪1a等を利用して移動可能に形成されている。
【0019】
図2に示すように、給水部4は、建物側の給水設備と可撓性の給水管8を介して接続されている。給水部4は、便器本体2の後方上部に設けられ、ボウル部10に形成された吐水口10aからボウル部10に洗浄水を供給する。なお、給水部4は、貯水タンクから洗浄水を供給するタンク方式のものであってもよい。給水管8は給水ホース等により形成される。
【0020】
便器本体2は、便器本体2の前方側に設けられた汚物を受けるボウル部10と、ボウル部10の底部と連通するように設けられて汚物を洗浄水と共に排出する排出路である排水トラップ管路12と、を備えている。
【0021】
ボウル部10は、汚物を受ける汚物受け面10bと、汚物受け面10bの下部から上下方向に延びる筒状部分10cと、汚物受け面10bの下部の筒状部分10cの下端から外側へ向けて延びる粉砕室10dとを備えている。
【0022】
汚物受け面10bはすり鉢状に形成されている。汚物受け面10bには、洗浄開始前において、貯留された溜水の溜水面W0(待機状態の溜水面)が形成される。洗浄開始前においては、汚物受け面10bの下部、筒状部分10c及び粉砕室10dに溜水が貯留された状態となる。筒状部分10cは上面視における流路径(断面積径)がほぼ一定になるように形成されている。筒状部分10cは鉛直方向に延びる比較的短い流路を形成する。
【0023】
排水トラップ管路12は、ボウル部10の下面に接続する接続部12aと、排水トラップを形成するように立ち上がる上昇部12bと、排水トラップの頂点の直線流路を形成する頂部12dと、下降する流路を形成する下降部12fと、床面Fのわずかに上方且つ床面Fとほぼ平行に延びる横向部12gとを備えている。
【0024】
排水トラップ管路12の接続部12aは、後述するフィルタ38の4つの孔48と連通している。排水トラップ管路12は、少なくとも上昇部12bと、頂部12dとにより凸形状の排水トラップ構造を形成する。頂部12dは、頂部12dの底面が平坦面として形成され、排水トラップの折り返し部分を形成している。頂部12dの底面の高さがボウル部10の初期水位の溜水面W0の高さとなっている。
【0025】
排水トラップ管路12の下流側の横向部12gには、排水管路16が接続される。排水トラップ管路12及び排水管路16は、ポータブルトイレ装置1を移動可能にするため比較的細い配管により形成される。排水トラップ管路12の内径は好ましくは10mm~50mmの範囲であり、より好ましくは20mmである。排水管路16は、可撓性の管路部分16aを有する。可撓性の管路部分16aは、排水トラップ管路12の下流側の横向部12gに接続される。可撓性の管路部分16aは、排水ホース等の可撓性部材により形成される。排水管路16は、建物側に設けられた排水用の配管(図示せず)も含む。排水管路16の内径は、好ましくは10mm~50mmの範囲であり、より好ましくは20mmである。排水管路16の建物側の配管には、横向部12g又は可撓性の管路部分16aから連続して延び且つ可撓性の管路部分16aとほぼ同様の配管の内径が続く部分の配管が含まれる。
【0026】
ポータブルトイレ装置1は、さらに、ボウル部10内で汚物を粉砕する粉砕装置18と、ボウル部10内の洗浄水を下流側に排出させる排出装置である排出ポンプ20と、使用者が操作する操作部(図示せず)と、ポータブルトイレ装置1の洗浄動作及び粉砕圧送動作等を制御する制御部24と、ボウル部10内の水位を検知する水位検知装置32と、排水トラップ管路12に接続された通気弁管路34と、通気弁管路34に設けられた通気弁36と、ボウル部10と排出ポンプ20との間に設けられるフィルタ38と、を備えている。
【0027】
粉砕装置18は、粉砕室10dの後部側の天面である天井面10e(
図3参照)に設けられる。粉砕装置18は、粉砕室10d内に配置されると共に汚物を粉砕するようにボウル部10の溜水内に回転流を発生させる回転体26と、回転体26に回転を伝達する回転軸28と、回転体26及び回転軸28を駆動させる電動モーター30とを備えている。粉砕装置18の回転体26は、自身の回転によりボウル部10の溜水内に旋回流(回転流)を発生させ、汚物を粉砕する。回転体26は、円盤状に形成されている。回転体26は、天井面10eのわずかに下方においてほぼ水平に取付けられている。回転軸28は、天井面10eから下方に延びている。電動モーター30は、制御部24と電気的に接続され、制御部24により制御されるようになっている。
【0028】
排出ポンプ20は、溜水面を規定する排水トラップ管路12の排水トラップ構造より上流側に配置される。排出ポンプ20は、高揚程が実現可能な遠心式ポンプを形成している。排出ポンプ20は、ボウル部10内で粉砕した汚物を洗浄水とともに圧送して排水トラップ管路12及び排水管路16を介し排出させる。排出ポンプ20は、ポンプ室40と、ポンプ室40の内側で回転されるインペラ42と、インペラ42の回転軸44と、インペラ42及び回転軸44を駆動させる電動モーター46とを備えている。
【0029】
ポンプ室40の中央部の入口には、フィルタ38の下部から延びる接続部12aが接続され、ポンプ室40の上部の外周部には、上昇部12bが接続される。インペラ42の回転によって発生する遠心力により、汚物及び洗浄水がポンプ室40から排水トラップ管路12に向かって押し出され、且つ圧送される。
【0030】
制御部24は、使用者による操作部の操作又は自己の設定により、給水部4、粉砕装置18及び排出ポンプ20を制御する。制御部24は、これらの制御を行うためのCPU、メモリ等を内蔵している。制御部24は、給水部4、粉砕装置18、排出ポンプ20及び水位検知装置32等と電気的に接続され、各装置等を制御するようになっている。
【0031】
水位検知装置32は、ボウル部10の筒状部分10cの外側に設けられている。水位検知装置32は、制御部24と電気的に接続され、制御部24に水位情報を伝達する。例えば、水位検知装置32は、溜水面の水位が筒状部分10cに相当する所定の水位以下に低下したことを検知できる。水位検知装置32は、非接触式の静電容量式のセンサであるがこれに限らず、例えば非接触式のマイクロ波センサであってもよい。
【0032】
通気弁管路34の一端は、排水トラップ管路12の排出ポンプ20より下流側の頂部12dに接続されている。また、通気弁管路34の他端は、ボウル部10の汚物受け面10bの吐水口10aより上部に接続されている。通気弁管路34は、ボウル部10と排水トラップ管路12とを後述する通気弁36を介して連通する。
【0033】
通気弁36は、排水トラップ管路12にボウル部10側の外部空気を取り入れる機能を有する。通気弁36は、所定圧力以下の負圧により開弁する。通気弁36は、排出ポンプ20が洗浄水を下流側に排出することにより、排水トラップ管路12又は排水管路16においてサイホン現象が発生した場合には、このサイホン現象による所定圧力以下の負圧により開弁する弁機構を有する。通気弁36の弁機構は、排水トラップ管路側の圧力が大気圧より低く且つ開弁圧力以下の負圧となる場合に開弁する弁機構を有する。通気弁36は、例えばアンブレラバルブが適用可能である。通気弁36は、サイホン現象が発生した場合にサイホン現象を早期に強制的に終了させることができる。
【0034】
フィルタ38は、ボウル部10の底部側の下面に配置される。フィルタ38は、ボウル部10と排出ポンプ20に至る流路である接続部12aとの接続部に設けられている。フィルタ38には、複数の孔48が形成されている。フィルタ38は、複数の孔48により所定以下の大きさに粉砕された汚物を通過させる機能を有する。フィルタ38は、孔48を通過できないような汚物を粉砕室10d内にとどめる機能も有し、通過できない汚物を粉砕室10d内でさらに粉砕させる。フィルタ38の孔48は、ボウル部10内の水位が粉砕室10dの側部近傍の所定水位以下になるまでは排出ポンプ20がエアロックすることを抑制するように配置されている。
【0035】
次に、
図3により、ボウル部10の粉砕室10dについて詳細に説明する。
図3は、
図2のボウル部の粉砕室を拡大して示す部分拡大断面図である。
ボウル部10の粉砕室10dは、汚物受け面10bの下部から前後方向においては後方側のみへ向けて延びている。粉砕室10dは、上面視で、筒状部分10cの下部から後方側にひょうたん型に拡張された部屋を形成している。粉砕室10dは、汚物を粉砕する時点において、洗浄水を貯溜している状態となっている。ボウル部10の粉砕室10dは、回転体26より上側を含む回転体26の近傍に溜まる空気を排出する空気排出手段を備える。この空気排出手段は、水平Lに対して汚物受け面側(内側)に向けて上り傾斜するように形成される粉砕室10dの天井面10eである。天井面10eは、筒状部分10cの下端から粉砕室10dの後端までの傾斜面を形成している。天井面10eが筒状部分10cに向けて傾斜されるので、給水時に回転体26近傍に溜まる空気を天井面10eに沿って排出させることができる。天井面10eは、回転体26近傍に空気が溜まらないようにすることができる。水平Lと天井面10eとの角度αは、1度~10度の範囲、より好ましくは2度~3度の範囲とされている。角度αが、1度以上であるので、天井面10eの傾斜が小さすぎるため空気が排出されないことを抑制することができる。仮に天井面10eの傾斜が10度より大きくなる場合には、回転体26により発生される回転流が天井面10eに沿って回転するため、回転流の水平方向成分が減少し、この水平方向成分を有する流れにより生じる筒状部分10c側の回転流の回転速度が遅くなる現象が生じる。角度αが、10度以下であるので、このような現象が生じることを抑制することができる。
【0036】
粉砕装置18の回転軸28は粉砕室10d内の上側の天井面10eから下方に延びるように設けられる。回転体26は粉砕室10d内の上側の天井面10e近傍に設けられる。回転軸28及び回転体26は、ボウル部10のリム部の内側上端10gと、筒状部分10cの下端10hとを結ぶように延ばした仮想線Mよりも上方に位置している。このように、回転軸28及び回転体26は、ポータブルトイレ装置1を使用する使用者から通常の使用(大便、小便)においては見えにくい位置に配置されている。また、回転体26は、平面視でボウル部10の待機状態における溜水面W0の外側に配置されるので、回転軸28及び回転体26は、ポータブルトイレ装置1を使用する使用者から通常の使用においては見えにくい位置に配置されている。
【0037】
粉砕室10dは、さらに、回転体26の回転時に粉砕室10d内の上側の回転体26から離れている粉砕室10d内の底部側において水流の淀みが発生することを抑制する淀み抑制手段を備えている。この淀み抑制手段は、回転体26の下方において前方側から後方側に向けて上り傾斜するように形成される粉砕室10dの下面10fである。下面10fは、筒状部分10cの下方から粉砕室10dの後端まで傾斜面を形成している。下面10fの傾斜面の長さは、概ね回転体26の長さと同じである。下面10fは、上面視で、筒状部分10cより後方側に傾斜面を形成している。このように、淀み抑制手段は、回転体26の下方に配置されるので、淀み抑制手段は、ポータブルトイレ装置1を使用する使用者から通常の使用においては見えにくい位置に配置されている。なお、本発明において淀み抑制手段は本実施形態の構成に限らず、例えば、淀み抑制手段として後方側が前方側よりも高い位置となる段差を粉砕室の下面に形成してもよい。
【0038】
次に、
図2により、上述した本発明の一実施形態による便器装置の動作(作用)を説明する。
図2及び
図3において、洗浄水等が存在している部分を点線により図示している。
【0039】
図2においては、使用者が便器本体2を使用する前の待機状態の溜水面W0が示されている。この状態においては、給水部4は停止された状態であり、粉砕装置18及び排出ポンプ20も停止された状態である。
【0040】
ボウル部10の粉砕室10dは、回転体26近傍に溜まる空気を排出する空気排出手段を備えているので、前回の洗浄後の給水部4による給水時に回転体26近傍に溜まる空気が排出されている。よって、粉砕室10d内の回転体26近傍に空気がほぼ溜まっていない状態となっている。よって、後述する粉砕動作のために回転体26が駆動されるときに、回転体26が回転体26近傍に溜まる空気を巻き込み、異音を生じさせることを抑制することができる。
【0041】
使用者が便器本体2を使用すると、汚物(大便、小便、トイレットペーパー等)がボウル部10内に入った状態となる。使用者が操作部の操作スイッチ等を操作すると、洗浄動作が開始される。操作部の操作スイッチ等が操作されると、その操作指令が制御部24に送信され、制御部24が、その指令に基づいて給水部4に給水指令を送り、給水部4からボウル部10に所定時間給水が行われ、ボウル部10が洗浄水によって洗浄される。このとき、依然として、粉砕装置18及び排出ポンプ20は停止された状態である。
【0042】
次に、制御部24が、排出ポンプ20を駆動させ、洗浄水を、溜水面W0の水位を粉砕室10dの上部程度の溜水面W1まで下げるように所定流量だけ排水させる。制御部24は、排出ポンプ20を再び停止させる。このとき、給水部4は停止された状態のままであり、粉砕装置18も停止された状態のままである。汚物のうち所定の大きさ以上の汚物は、フィルタ38を通過せず、溜水部14内に留まっている。
【0043】
次に、制御部24が、粉砕装置18を駆動させ、汚物の粉砕動作を行う。このとき、排出ポンプ20は、停止された状態のままである。従って、ボウル部10内で汚物が回転流により粉砕される。給水部4は停止された状態のままである。汚物は粉砕され、所定の大きさ以下の汚物となる。
粉砕室10dは回転体26の下方において形成されている淀み抑制手段を備えているので、粉砕室10dの容積が、下面10fが平坦に形成されている場合と比べて、減少されている。よって、回転体26が同じ回転力により回転流を発生させたとしても、粉砕室10dにおける回転流の流速が上昇される。特に、回転体26の下方側の回転流の流速が上昇される。
また、回転体26の下方の下面10fが傾斜されているので、粉砕室10dの上側の回転体26から比較的距離が離れている粉砕室10dの底部側領域が減少されている。よって、回転体26から比較的距離が離れている粉砕室10dの底部側において、回転体26の回転時に水流の淀みが発生することを抑制でき、水流の淀みによる汚物の粉砕性能の低下を抑制することができる。さらに、粉砕室10dの底部側の水流の流速を早めることにより、粉砕性能を向上させることができる。
【0044】
汚物の粉砕が終了すると、制御部24は、粉砕装置18を停止させ、排出ポンプ20を駆動させる。フィルタ38の孔48の孔径より小さくなっている汚物は、フィルタ38を通過することができる。排出ポンプ20は、洗浄水及び汚物を排水トラップ管路12を介して排水管路16に圧送(排出)する。
【0045】
ボウル部10内から洗浄水が排出されるとき、ボウル部10内の洗浄水の水位が徐々に低下する。ボウル部10内の洗浄水及び粉砕された汚物は孔48に流入する。
【0046】
ボウル部10内の洗浄水の水位が最も高い位置にある孔48と同じ高さとなるまで低下する場合、エアが複数の孔48から同時に排出ポンプ20に吸引され、排出ポンプ20をエアロックにより動作停止させる。
【0047】
制御部24は排出ポンプ20の停止後、給水部4を作動させ、給水部4からボウル部10に給水を開始させる。前述するように、給水時に空気排出手段により、回転体26近傍に溜まる空気が排出されている。
図2に示すように、ボウル部10内の洗浄水が溜水面W0に到達すると、制御部24は、給水部4を停止させ、一連の洗浄動作を終了させる。
【0048】
次に、上述した第1実施形態によるポータブルトイレ装置1による作用効果を説明する。
本発明の一実施形態によるポータブルトイレ装置1によれば、汚物受け面10bの下部から外側へ向けて延びる粉砕室10dにおいて、回転軸28は粉砕室10d内の上側に設けられ且つ回転体26も粉砕室10d内の上側に設けられる。これにより、使用者から粉砕装置18の回転軸28及び回転体26を見えにくくすることができ、使用者にボウル部10内に回転軸28及び回転体26が見えることによる違和感を与えにくくすることができる。
また、このように構成された本発明においては、回転軸28は粉砕室10d内の上側に設けられ且つ回転体26も粉砕室10d内の上側に設けられる。仮に回転軸28及び回転体26が粉砕室10d内の下側に設けられて汚物が沈殿して下側の回転体26及び回転軸28に蓄積する場合と比べて、本発明によれば、回転体26及び回転軸28に汚物が蓄積することを抑制し、汚物の蓄積が回転体26及び回転軸28の回転動作を阻害することを抑制することができる。
【0049】
また、本発明の一実施形態によるポータブルトイレ装置1によれば、汚物受け面10bの下部から後方側へ向けて延びる粉砕室10dにおいて、回転軸28は粉砕室10d内の上側に設けられ且つ回転体26も粉砕室10d内の上側に設けられる。これにより、使用者から粉砕装置18の回転軸28及び回転体26をより見えにくくすることができ、使用者にボウル部10内に回転軸28及び回転体26が見えることによる違和感をより与えにくくすることができる。
【0050】
さらに、本発明の一実施形態によるポータブルトイレ装置1によれば、粉砕装置18の回転体26は、平面視でボウル部10の待機状態における溜水面W0の外側に配置される。これにより、使用者から粉砕装置18の回転軸28及び回転体26をより見えにくくすることができ、使用者にボウル部10内に回転軸28及び回転体26が見えることによる違和感をより与えにくくすることができる。
【0051】
さらに、本発明の一実施形態によるポータブルトイレ装置1によれば、ボウル部10の粉砕室10dが、回転体26より上側に溜まる空気を汚物受け面側へ向けて排出する空気排出手段を備えるので、回転体26が回転体26より上側に溜まる空気を巻き込み、異音を生じさせることを抑制することができる。
【0052】
さらに、本発明の一実施形態によるポータブルトイレ装置1によれば、空気排出手段は、水平に対して汚物受け面側に向けて上り傾斜するように形成される粉砕室10dの天井面10eである。よって、粉砕室10dの回転体26より上側に溜まる空気が、空気排出手段に沿って汚物受け面側に向けて排出され、回転体26より上側に空気が溜まることを抑制することができる。
【0053】
さらに、本発明の一実施形態によるポータブルトイレ装置1によれば、ボウル部10の粉砕室10dは、回転体26の回転時に、粉砕室10d内の底部側において水流の淀みが発生することを抑制する淀み抑制手段を備える。よって、粉砕室10dの上側の回転体26から比較的距離が離れている粉砕室10dの底部側において、回転体26の回転時に水流の淀みが発生することを抑制でき、水流の淀みによる汚物の粉砕性能の低下を抑制することができる。
【0054】
さらに、本発明の一実施形態によるポータブルトイレ装置1によれば、淀み抑制手段は、回転体26の下方において前方側から後方側に向けて上り傾斜するように形成される粉砕室10dの下面であるので、使用者から淀み抑制手段を見えにくくして違和感を与えにくくすると共に粉砕室10dの容積を小さくすることができる。これにより、粉砕室10dにおける回転流の流速を上昇させることができ、汚物の粉砕性能を向上させることができる。
また、例えば粉砕室10dの下面全体を底上げして粉砕室10dの容積を小さくする場合と比べて、粉砕室10dの下面が回転体26の下方において上り傾斜するように形成されているので、粉砕室側からメンテナンスできるメンテナンス性の低下を抑制することができる。
【符号の説明】
【0055】
1 ポータブルトイレ装置
1a 車輪
2 便器本体
4 給水部
6 フレーム
6a フレーム基部
8 給水管
10 ボウル部
10a 吐水口
10b 汚物受け面
10c 筒状部分
10d 粉砕室
10e 天井面
10f 下面
10g 上端
10h 下端
12 排水トラップ管路
12a 接続部
12b 上昇部
12d 頂部
12f 下降部
12g 横向部
14 溜水部
16 排水管路
16a 管路部分
18 粉砕装置
20 排出ポンプ
24 制御部
26 回転体
28 回転軸
30 電動モーター
32 水位検知装置
34 通気弁管路
36 通気弁
38 フィルタ
40 ポンプ室
42 インペラ
44 回転軸
46 電動モーター
48 孔
F 床面
L 水平
M 仮想線
W0 溜水面
W1 溜水面
α 角度