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  • 特許-食用の徐放性機能材の製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-01-07
(45)【発行日】2022-01-21
(54)【発明の名称】食用の徐放性機能材の製造方法
(51)【国際特許分類】
   A23L 33/10 20160101AFI20220114BHJP
   A23L 33/115 20160101ALI20220114BHJP
【FI】
A23L33/10
A23L33/115
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2017195554
(22)【出願日】2017-10-06
(65)【公開番号】P2019068744
(43)【公開日】2019-05-09
【審査請求日】2020-09-07
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成27年度、科学技術振興機構、研究成果展開事業、研究成果最適展開支援プログラム、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】591219566
【氏名又は名称】青葉化成株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】899000035
【氏名又は名称】株式会社 東北テクノアーチ
(74)【代理人】
【識別番号】100095359
【弁理士】
【氏名又は名称】須田 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100143834
【弁理士】
【氏名又は名称】楠 修二
(72)【発明者】
【氏名】阿久津 光紹
(72)【発明者】
【氏名】松本 俊介
(72)【発明者】
【氏名】宮澤 陽夫
(72)【発明者】
【氏名】仲川 清隆
(72)【発明者】
【氏名】青木 茂太
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 隼哉
(72)【発明者】
【氏名】塩見 大樹
【審査官】澤田 浩平
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2013/161346(WO,A1)
【文献】特開平09-248137(JP,A)
【文献】特表2009-506106(JP,A)
【文献】国際公開第2016/020217(WO,A1)
【文献】特開2012-006943(JP,A)
【文献】特開平09-149756(JP,A)
【文献】特開平06-055059(JP,A)
【文献】特開2017-176907(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23L,A61K,A61P,B01J
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
疎水性機能性成分を含む油脂を乳化させて乳化原料を調整し、その乳化原料とゼラチンとトランスグルタミナーゼと、DE値が8乃至21のデキストリンとを撹拌混合した後、静置してゲルを形成し、そのゲルをフリーズドライした後、粉砕して粉末化することを特徴とする食用の徐放性機能材の製造方法。
【請求項2】
撹拌混合時に、さらに乳化剤を添加することを特徴とする請求項1記載の食用の徐放性機能材の製造方法。
【請求項3】
撹拌混合時に、さらにアンモニウム塩を添加することを特徴とする請求項1または2記載の食用の徐放性機能材の製造方法。
【請求項4】
前記油脂は、前記疎水性機能性成分を含む魚油、または、油溶性の前記疎水性機能性成分を硬化油に溶かしたものを含むことを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載の食用の徐放性機能材の製造方法。
【請求項5】
前記疎水性機能性成分は、DHA、EPA、アスタキサンチン、ジテルペンアルコール、亜麻仁油またはフコキサンチンから成ることを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項に記載の食用の徐放性機能材の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、食用の徐放性機能材の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、消化管での滞留時間を長くして、内部に含まれる機能性成分を徐放化することができる食用の徐放性機能材として、粉末状で、DHAやEPAなどの疎水性機能性成分を含む油脂と、ゼラチンと、トランスグルタミナーゼと、アンモニウム塩とを含む徐放性機能材が、本発明者等により開発されている(例えば、特許文献1参照)。この徐放性機能材は、油脂を含む原料と、ゼラチンと、トランスグルタミナーゼと、アンモニウム塩とを撹拌混合した後、静置して架橋ゲルを形成し、その架橋ゲルを凍結乾燥した後、粉砕して粉末化することにより製造される。
【0003】
この徐放性機能材の製造方法は、油滴表面にゼラチンの薄い層を形成してマイクロカプセルを1粒ずつ形成する、いわゆるコアセルベーション法(例えば、特許文献2または3参照)とは異なり、架橋ゲル中に油滴を分散させたものを砕いで調製するため、油脂を保護する架橋ゼラチン層を重厚にできる点で、特に優れている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】国際公開WO2013/161346号
【文献】米国特許第2800457号明細書
【文献】特開平5-292899号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1の徐放性機能材は、油脂として魚油とパーム油とを用い、さらに乳化剤を併用することにより、製造する際の凍結乾燥後の粉砕時に、油の染み出しを効果的に防ぐことができる。しかしながら、魚油以外の油脂を使用する場合、油の染み出しを防ぎにくいものがあるという課題があった。また、凍結乾燥後の粉砕時に、粉砕機を使用して連続的に常温粉砕すると、摩擦熱による粉砕熱が発生し、油が染み出してしまうことがあるという課題もあった。この油の染み出しを防ぐためには、粉砕時に凍結させておく凍結粉砕法を利用すればよいが、大きな冷熱エネルギーが必要となり、粉砕に要するコストが嵩んでしまうという課題もあった。
【0006】
本発明は、このような課題に着目してなされたもので、魚油以外の油脂を使用しても、また連続的に常温粉砕しても、製造時の油の染み出しを防ぐ効果が高く、安価に製造することができる食用の徐放性機能材の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために、本発明に係る食用の徐放性機能材の製造方法は、疎水性機能性成分を含む油脂を乳化させて乳化原料を調整し、その乳化原料とゼラチンとトランスグルタミナーゼと、DE値が8乃至21のデキストリンとを撹拌混合した後、静置してゲルを形成し、そのゲルをフリーズドライした後、粉砕して粉末化することを特徴とする。
また、本発明に関する食用の徐放性機能材は、本発明に係る食用の徐放性機能材の製造方法により製造されることを特徴とする。
【0008】
本発明に係る食用の徐放性機能材の製造方法は、デキストリンを含んでいるため、油脂として魚油以外の油脂を使用しても、製造時に粉砕したときの油の染み出しを防ぐ効果が高い。また、デキストリンを含んでいるため、製造時に、市販の粉砕機などを使用して連続的に常温粉砕しても、油の染み出しを防ぐ効果が高い。これにより、粉砕時に凍結粉砕法を使用する場合と比べて、安価に製造することができる。
【0009】
また、DE値が8乃至21のデキストリンを使用することにより、フリーズドライ時に発泡や収縮が発生するのを、効果的に防止することができる。また、ゲルをフリーズドライしたものを、効率的に脆性化することができる。このため、粉砕時の圧縮負荷を軽減し、摩擦熱による油の溶出を、特に効果的に防止することができる。
【0010】
本発明に関する食用の徐放性機能材は、本発明に係る食用の徐放性機能材の製造方法により製造されるため、製造された粉末の各粒子が、油脂を膜で包んだ構造を有している。これにより、消化管では外側の膜から消化されていくため、油脂に含まれる疎水性機能性成分に対する徐放性機能を付与することができる。また、撹拌混合後に静置することにより、コアセルベーションさせることなくゲルを形成するため、従来のコアセルベーション法で製造されるマイクロカプセルより、油脂を包む膜を厚くすることができ、より優れた徐放性能を得ることができる。
【0011】
本発明に係る食用の徐放性機能材の製造方法は、撹拌混合時に、さらに乳化剤を添加してもよい。乳化剤としては、例えば、ショ糖脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル、ポリソルベート、ポリグリセリン縮合リシノレート、ジアシルグリセロール、モノアシルグリセロール、ワックス類、ステロールエステル類等が挙げられる。乳化剤は、HLB1乃至16のものが好ましい。
【0012】
本発明に係る食用の徐放性機能材の製造方法は、撹拌混合時に、さらにアンモニウム塩を添加してもよい。この場合、ゲル化までの時間を調整することができる。アンモニウム塩としては、例えば、塩化アンモニウム、リン酸二水素アンモニウムなど、アンモニウム、テトラメチルアンモニウム等の塩が挙げられる。
【0013】
本発明に係る食用の徐放性機能材の製造方法で、前記油脂は、前記疎水性機能性成分を含む魚油、または、油溶性の前記疎水性機能性成分を硬化油に溶かしたものを含むことが好ましい。前記疎水性機能性成分としては、例えば、DHA、EPA、アスタキサンチン、ジテルペンアルコール、亜麻仁油、フコキサンチン等が挙げられる。疎水性機能性成分は、カロテン類のように疎水性が高いものであっても、キサントフィル類のように疎水性が低いものであってもよい。油脂は、疎水性機能性成分を2種以上含んでいてもよい。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、魚油以外の油脂を使用しても、また連続的に常温粉砕しても、製造時の油の染み出しを防ぐ効果が高く、安価に製造することができる食用の徐放性機能材の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本発明の実施の形態の食用の徐放性機能材の製造方法により、DE値の異なるデキストリンを配合して製造された粉末状の各試料の粒子を示す電子顕微鏡写真である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、各種の試験および実施例に基づいて、本発明の実施の形態について説明する。
本発明の実施の形態の食用の徐放性機能材は、粉末状であり、疎水性機能性成分を含む油脂と、ゼラチンと、トランスグルタミナーゼと、デキストリンとを含んでいる。また、乳化剤やアンモニウム塩を含んでいてもよい。疎水性機能性成分としては、例えば、DHA、EPA、アスタキサンチン、ジテルペンアルコール、亜麻仁油、フコキサンチン等が挙げられる。油脂は、それらの1種のみを含んでいても、2種以上を含んでいてもよい。
【0017】
本発明の実施の形態の食用の徐放性機能材は、本発明の実施の形態の食用の徐放性機能材の製造方法により製造することができる。すなわち、本発明の実施の形態の食用の徐放性機能材の製造方法では、まず、疎水性機能性成分を含む油脂を、自己乳化能により、または乳化剤などを使用して乳化させることにより乳化原料を調整する。次に、その乳化原料とゼラチンとトランスグルタミナーゼとデキストリンとを撹拌混合した後、静置してゲルを形成する。さらに、そのゲルをフリーズドライした後、粉砕して粉末化する。これにより、本発明の実施の形態の食用の徐放性機能材を製造することができる。
【0018】
こうして製造された本発明の実施の形態の食用の徐放性機能材は、粉末の各粒子が、油脂を膜で包んだ構造を有している。これにより、消化管では外側の膜から消化されていくため、油脂に含まれる疎水性機能性成分に対する徐放性機能を付与することができる。また、従来のコアセルベーション法で製造されるマイクロカプセルより、油脂を包む膜を厚くすることができるため、より優れた徐放性能を得ることができる。
【0019】
また、本発明の実施の形態の食用の徐放性機能材は、デキストリンを含んでいるため、油脂として魚油以外の油脂を使用しても、製造時に粉砕したときの油の染み出しを防ぐ効果が高い。また、デキストリンを含んでいるため、製造時に、市販の粉砕機などを使用して連続的に常温粉砕しても、油の染み出しを防ぐ効果が高い。これにより、粉砕時に凍結粉砕法を使用する場合と比べて、安価に製造することができる。
【0020】
以下に、デキストリンや油脂、乳化剤についての検討を行うための試験、粉末化試験、酸化安定性試験等を行った。さらに、実施例として、各種の疎水性機能性成分や油脂を用いて、本発明の実施の形態の食用の徐放性機能材の製造を行った。
【0021】
[試験試料の製造方法]
各試験では、以下の方法により試験試料を製造した。すなわち、まず、乳化剤等を溶解した溶液に、油脂として精製魚油を加え、85℃まで加温した後、高圧ホモジナイザー(三丸機械工業株式会社製「エコナイザーラボ01」)で、均質圧50MPa、回転数60rpmで処理して乳化液を調整した。このとき、予め乳化粒子径をレーザー回折・散乱式粒度分布計(株式会社島津製作所製「SALD-300V」)で計測し、平均乳化粒径が1μm未満であることを確認している。
【0022】
調整した乳化液を、65℃まで温度調整した後、ゼラチン、トランスグルタミナーゼ、デキストリン、必要に応じてアンモニウム塩を投入してホモミキサー(特殊機化工業株式会社製「TK HOMO JETTOR」)で5分処理し、完全溶解させた。その後、規定容器に充填して、4℃にてゲル化させた後、一晩酵素反応させた。架橋形成したゲル塊をフードカッターで粉砕し、凍結乾燥(フリーズドライ)した後、電動ミル(大阪ケミカル株式会社製「ワンダークラッシャー WC-3」)で連続的に常温粉砕した。こうして、粉末状の徐放性機能材の試験試料を製造した。
【0023】
[試験1:デキストリン等についての検討]
DE値の異なる各種のデキストリン、粉末水飴、ぶどう糖を配合し、凍結乾燥による脆性化にどの程度影響するかの検討を行った。ここで、DE値(Dextrose Equivalent)は、還元糖量をぶどう糖量として、固形分に対する百分率で示した値であり、DE値が0に近い程デンプンの特性を示し、100に近い程ぶどう糖に類似した特性を示している。試験は、表1に示すテスト1~7の配合で行った。
【0024】
【表1】
【0025】
試験では、まず、各配合で凍結乾燥前の架橋ゲル塊の試料を製造した。その各試料を、1cm×1cm×1cmの多数の直方体にカットし、-80℃の冷凍庫にて8時間予備凍結した後、凍結乾燥(真空度10pa)を24時間実施した。凍結乾燥した各試料を観察し、発泡や収縮が認められたものをコラプスとしてカウントし、全個数からその比率を算出し、コラプス率とした。コラプス率を求める式を、(1)式に示す。
【0026】
【数1】
【0027】
また、脆性化の指標として、凍結乾燥した直方体の試料に対して、クリープメーター(株式会社山電製「クリープメーター RE-3305」)を用いて、破断応力および破断歪率を計測した。このとき、検出器を20kgとし、プランジャーは剪断用(ナイフ型)を使用して、1mm/secで負荷をかけた。求められた各試料のコラプス率、破断応力、破断歪率を、表2に示す。
【0028】
【表2】
【0029】
表2に示すように、デキストリン、粉末水飴、ぶどう糖を配合していないテスト1では、破断応力が他の試験区と比較して大きく、破断歪率も高いため、硬く、破断し難いといえる。これは、コラプス率が100%であることから、凍結乾燥時のコラプスが影響し、部分的に収縮が生じ、ゼラチンの硬い層が形成されたためであると考えられる。これに対し、デキストリン等を配合したテスト2~6では、テスト1と比べて、破断応力および破断歪率が小さい傾向にあり、脆性化が生じていることが分かる。なお、テスト7では、凍結乾燥終了直後から油の溶出が生じたため、破断応力および破断歪率の計測ができなかった。
【0030】
また、表2に示すように、デキストリン等を配合することにより、コラプス率は軽減されるが、DE値が24以上と大きいとき(テスト5~7)には、コラプス率が70%以上であり、まだ高いことが確認された。これに対し、DE値が8~21の範囲のとき(テスト2~4)、コラプス率は10%以下となり、コラプスをほぼ防止できることが確認された。
【0031】
なお、テスト7は、テスト1と比較しても、収縮した後に、崩壊・融解が生じており、凍結乾燥がうまくいっていなかった。一般的に、コラプス温度よりも低温度で予備凍結を実施しないと、コラプスが生じやすいことが知られており、低分子の糖ほどコラプス温度は低い(例えば、グルコースのコラプス温度は-40℃)。テスト7のように、DE値が高く、低分子の糖を含む場合、予備凍結段階で凍結し難い層が生じ、凍結乾燥中に部分濃縮されて融解が生じたと考えられる。
【0032】
[試験2:粉末化試験]
表1に示すテスト1~7の配合で製造した直方体の各試料を、電動ミルで連続的に粉砕し、粉砕時の魚油の染み出しを確認した。その結果を、表3に示す。表3の評価基準は、下記の通りである。
<評価基準>
○:魚油の染み出し無し、△:魚油の染み出しややあり、×:魚油の染み出し有り
【0033】
【表3】
【0034】
表3に示すように、DE値が8~21のデキストリンを配合したテスト2~4では、粉砕後に魚油の染み出しは確認されなかった。これに対し、デキストリン等を配合していないテスト1や、DE値が24以上のテスト5~6は、やや魚油の染み出しが確認された。テスト7は、粉砕前から魚油の染み出しが生じていたため、粉砕することができなかった。
【0035】
次に、粉砕された粉末を電子顕微鏡で観察し、その結果を図1に示す。なお、粉砕後の破壊断面を観察することにより、破壊に至るまでの変形や脆さを確認することができる。破壊形態には、破壊に至るまでに大きな塑性変形が生じる延性破壊と、破壊に至るまでにほとんど塑性変形が生じない脆性破壊がある。
【0036】
図1に示すように、テスト1では、粉砕時の負荷が生じる影響で塑性変形が生じやすく、延性破面が現れているのが確認された。テスト2~4では、デキストリンを配合したことにより、脆くなっており、変形の伴わない脆性破壊が生じているのが確認された。テスト5、6では、粉砕は可能であったが、コラプスの影響により平滑面上に油層(図中の矢印)が露出しているのが確認された。このように、図1の結果からも、デキストリンを配合することでコラプス率が低下し、脆性化が生じることが確認された。
【0037】
試験1および2の結果から、DE値が8~21、特に好ましくはDE値が12~21のデキストリンを配合することにより、凍結乾燥時の発泡や収縮の発生を防止できるとともに、凍結乾燥したものを脆性化することができ、粉砕時の圧縮負荷を軽減し、摩擦熱による油の溶出を効果的に防止することができるといえる。このため、油を溶出させることなく、市販の粉砕機などを使用して連続的に常温粉砕することができ、凍結粉砕法を使用することなく、安価に徐放性機能材を製造することができるといえる。
【0038】
[試験3:デキストリンの配合量についての検討]
デキストリンの配合量で粉砕時の負荷を軽減できる可能性があるため、その適切な配合量について検討を行った。試験は、表4に示すテスト1~6の配合で行った。デキストリンは、DE値17~21のものを使用した。試験では、試験1と同様の方法でコラプス率、破断応力、破断歪率を求めた。その結果を、表5に示す。
【0039】
【表4】
【0040】
【表5】
【0041】
表5に示すように、デキストリンを1%以上配合することにより、凍結乾燥時のコラプス率を抑制できることが確認された。また、デキストリンの配合量が多いほど、破断強度および破断歪率が低下しており、デキストリンの配合量に応じて脆性化が生じやすいことが確認された。
【0042】
[試験4:パーム油脂の有無についての検討]
特許文献1には、粉末化したときに魚油が染み出さないようにするためには、パーム油のような融点の高い油脂(硬化油脂)を併用する必要があることが示されている。その理由として、凍結乾燥後の試料が硬く、粉砕時の摩擦熱などにより粉砕熱が発生することに加え、延性破壊の影響により試料中に部分的な圧縮が生じるため、精製魚油のような融点の低い油は、硬化油脂を配合しないと油が溶出してしまうことが考えられる。
【0043】
適切なデキストリンを配合することにより脆性化が可能となるため、粉砕時の摩擦熱が軽減され、パーム油脂を配合しなくとも油染みせずに粉砕することができる可能性が考えられる。このため、パーム油脂の配合量について検討を行った。試験は、表6に示すテスト1~6の配合で行った。デキストリンは、DE値17~21のものを使用した。
【0044】
【表6】
【0045】
試験では、テスト1~6の各試料について、試験1と同様の方法でコラプス率、破断応力、破断歪率を求めた。その結果を、表7に示す。また、粉砕時の魚油の染み出しの確認も行った。その結果を、表8に示す。表8の評価基準は、下記の通りである。
<評価基準>
○:魚油の染み出し無し、△:魚油の染み出しややあり、×:魚油の染み出し有り
【0046】
【表7】
【0047】
【表8】
【0048】
表7に示すように、テスト1~6のいずれでもコラプスは生じておらず、破断応力、破断歪率に大きな差は認められなかった。また、表8に示すように、テスト1~6のいずれでも油の染み出しは認められず、パーム油脂を魚油に対して配合していなくとも、油の染み出しを防止できることが確認された。このことは、デキストリンを配合することにより、脆性化による粉砕負荷の軽減が可能になったことを裏付けるものであると考えられる。
【0049】
[試験5:乳化剤についての検討]
特許文献1には、魚油および融点の高い油脂の混合物を乳化させるために、それに適した乳化剤の選択が重要であることが示されている。試験4から、パーム油脂の有無に限らず常温粉砕が可能であることが確認されため、精製魚油と配合されている水の乳化が安定していれば(クリーミングや解乳化していない)、特定の乳化剤に制限される必要はないと考えられる。このため、乳化剤についての検討を行った。
【0050】
試験は、表9に示すテスト1~18、および表10に示すテスト19~34の配合で行った。表9は単一の乳化剤を配合したもの、表10は異なるHLBの乳化剤を組み合わせたものである。また、乳化剤の異なる配合条件ごとに、パーム油脂を配合したものと配合していないものについて試験を行っている。デキストリンは、DE値17~21のものを使用した。乳化剤は、HLB1~16のショ糖脂肪酸エステルを使用した。
【0051】
【表9】
【0052】
【表10】
【0053】
試験では、粉砕時の魚油の染み出しの確認を行った。その結果を、表11に示す。表11の評価基準は、下記の通りである。
<評価基準>
○ :魚油の染み出し無し
△ :魚油の染み出しややあり
× :魚油の染み出し有り
××:乳化不安定(クリーミング・解乳化・分離)
【0054】
【表11】
【0055】
表11に示すように、テスト1~4、13~18では、乳化段階でクリーミング、解乳化、分離が生じたため、粉砕までに至らなかった。テスト5~12、27、28では、常温粉砕が可能であったが、やや油の染み出しが確認された。テスト19~26、29~34では、油が染み出すことなく常温粉砕可能であることが確認された。この結果から、乳化を安定させつつ適切なデキストリンを配合することにより、パーム油脂、乳化剤の選択に制限されることなく、常温粉砕できることが確認された。
【0056】
本発明者等による特開2011-193842号公報では、アンモニウム塩を配合することにより、ゲル化までの時間を調整できることが示されている。この特開2011-193842号公報では、アンモニウム塩を配合することで、酵素反応を遅延することが可能となるため、製造上、アンモニウム塩の配合が必要であったが、所定の容器に5分以内で充填することができるのであれば、アンモニウム塩を配合する必要はない。このため、アンモニウム塩の配合について検討を行った。試験は、表12に示す比較例(リン酸アンモニウムを配合したもの)および実施例(リン酸アンモニウムを配合していないもの)の配合で行った。デキストリンは、DE値17~21のものを使用した。
【0057】
【表12】
【0058】
試験では、比較例および実施例の各試料について、試験1と同様の方法でコラプス率、破断応力、破断歪率を求めた。また、粉砕時の魚油の染み出しの確認も行った。それらの結果を、表13に示す。表13の魚油の染み出しの評価基準は、下記の通りである。
<評価基準>
○:魚油の染み出し無し、△:魚油の染み出しややあり、×:魚油の染み出し有り
【0059】
【表13】
【0060】
表13に示すように、比較例および実施例ともにコラプスは生じておらず、破断応力、破断歪率にも大きな差は認められなかった。また、比較例および実施例ともに油の染み出しも認められず、アンモニウム塩の配合の有無にかかわらず、油の染み出しを防止しできることが確認された。
【0061】
[試験6:酸化安定性試験]
試験1~3等により、適切なデキストリンを配合することにより脆性化することが確認されたが、脆性化により酸化安定性が不安定になることが懸念されるため、酸化安定性試験として、経時的に過酸化物価(POV)を測定する試験を行った。試験は、パーム油の有無が異なる、表14に示すテスト1および2の配合で行った。また、比較区として、パーム油を配合し、デキストリンを配合しないものについて、同じ試験を行った。デキストリンは、DE値17~21のものを使用した。乳化剤は、HLB1および16のショ糖脂肪酸エステルを使用した。
【0062】
【表14】
【0063】
試験では、テスト1、2および比較区の各配合で製造された粉末状の各試料を、それぞれアルミ袋に入れ、温度40℃、湿度70%の条件下で30日間保存し、経時的に電位差滴定法により分析した。分析には自動適性装置(メトローム社製)を用い、クロロホルム-酢酸混液(クロロホルム2:酢酸3)を溶媒とし、0.01規定のチオ硫酸ナトリウム標準液にて滴定して、過酸化物価(POV)を求めた。保存前および30日保存後の過酸化物価(POV)を、表15に示す。また、過酸化物価の数値の一般的な評価を、表16に示す。
【0064】
【表15】
【0065】
【表16】
【0066】
比較区を除き、テスト1および2の凍結乾燥後の試料にコラプスは生じておらず、常温粉砕時の油の染み出しも認められなかった。表15に示すように、30日間の過酸化物価(POV)の数値を比較すると、テスト1および2におけるパーム油脂の有無に関わらず、過酸化物価の数値に大きな差異は認められなかった。また、テスト1、2および比較区のいずれも、温度40℃、湿度70%で30日間保管したにも関わらず、酸化の程度は低いことが確認された。これらの結果から、デキストリンの配合の有無、パーム油脂の配合の有無による過酸化物価の差は認められず、いずれも酸化安定性に影響しないことが確認された。
【0067】
次に、魚油の脂質酸化の指標となるプロパナール(Propanal)を、ヘッドスペース(HS)GC/MS法(島津製作所製「HS-20、QP2010-Ultra」)により定性測定し、そのピーク面積の比較を行った。試験では、まず、表14のテスト1、2および比較区の各配合で製造された粉末状の各試料0.2gを、バイアル瓶(20ml容)に入れて密栓した後、バイアル加熱温度80℃、加熱時間30分間とし、バイアル瓶気相中のガスを電子冷却トラップに捕集・濃縮させた。濃縮されたガスを、キャリアーガス(ヘリウム)によりカラムDB-WAX(J&W社製;0.32mm×60m)、カラム温度40℃(10minホールド)、40℃→230℃(rate 10℃/min)にて分離し、検出器となる質量分析計にてピークを得た。測定結果は、NIST14のデータベースのマススペクトルと対応させることにより解析を行った。その解析結果を、表17に示す。
【0068】
【表17】
【0069】
表17に示すように、テスト1および2ともに、不快臭であるプロパナール(Propanal)は検出されなかった。比較区では、30日経過後の粉末から、プロパナールが検出された。これは、粉砕時に若干の油染みが生じたことが影響したためであると考えられる。
【実施例1】
【0070】
表18に示す実施例の配合に従って、徐放性機能材を製造した。すなわち、まず、乳化剤、酸化防止剤、デキストリン、パーム油脂、リン酸三ナトリウムを溶解した溶液に精製魚油を加え、85℃まで加温した。その後、乳化用の85℃の水と合わせ、高圧ホモジナイザー(三丸機械工業社製「H-3-2DH」)により、均質圧45MPaで処理し、乳化液を調整した。この乳化液を、65℃まで温度調整した後、ゼラチン、アンモニウム塩、トランスグルタミナーゼを投入し、ニーダー(サムソン社製)で混合撹拌処理して、完全溶解させた。その後、10kg用内包材に、10kgを充填し、成型用ダンボールに梱包した。製品用冷蔵庫(10℃以下)にてゲル化した後、一晩、酵素反応させた(酵素架橋)。
【0071】
【表18】
【0072】
一晩酵素反応させたゲル塊を一定の大きさにカットし、生産粉砕機(セイシン企業社製「クイックミルQMY-10」)の5mmスクリーンにて、回転数3470rpmで粗粉砕した。粗粉砕後の試料をトレイに並べ、棚式凍結乾燥機(アルバック社製「DFM-10N-04」)にて予備凍結6時間、棚温度70℃にて18時間凍結乾燥した。凍結乾燥後の各試料を回収し、生産粉砕機(セイシン企業社製「クイックミルQMY-10」)の2mmスクリーンにて、回転数3470rpmで細粉砕した。こうして、粉末状の徐放性機能材を製造した。なお、比較のため、表18に示す比較例の配合で、同様にして粉末を製造した。比較例は、実施例よりもデキストリン配合量が少なく、破断強度および破断歪率が大きいものである。
【0073】
実施例および比較例の各粉末について、2mmスクリーンを通過した粉体を回収し、回収量と油の染み出し、粉末の平均粒径を確認した。平均粒径は、回収粉末をJIS試験用ふるいにてメッシュサイズごとに分級させて、平均粒径を算出した。それらの結果を、表19に示す。表19の「油の染み出し」の評価基準は、下記の通りである。
<評価基準>
○:魚油の染み出し無し、△:魚油の染み出しややあり、×:魚油の染み出し有り
【0074】
【表19】
【0075】
表19に示すように、実施例および比較例ともに、油の染み出しは確認されなかった。しかし、デキストリンを3%配合した比較例では、2mmスクリーン内部に滞留が若干認められ、全量回収することができなかったが、デキストリンを4%配合した実施例では、滞留もなく、ほぼ全量回収することができた。また、平均粒子径は、比較例よりも実施例の方が小さく、細かい粉末が多いことが確認された。
【実施例2】
【0076】
抗酸化機能を有する生理活性機能成分としてカロテノイド類があるが、中でもアスタキサンチンは非常に強力な抗酸化力を有する。このアスタキサンチンを疎水性機能性成分として使用し、粉末化を試みた。すなわち、表20に示す配合に従って、実施例1と同じ製造方法で、徐放性機能材を製造した。その結果、乳化剤を添加することなく、アスタキサンチンの自己乳化能で乳化したが、最終的に、アスタキサンチンを含むオイルが溶出することなく、粉末化することができた。
【0077】
【表20】
【実施例3】
【0078】
アナトー種子より抽出されるジテルペンアルコールは、抗骨粗鬆症剤、抗動脈硬化治療剤等の原料になる植物油脂である。このジテルペンアルコールを疎水性機能性成分として使用し、粉末化を試みた。すなわち、表21に示す配合に従って、実施例1と同じ製造方法で、徐放性機能材を製造した。その結果、油が染み出すことなく粉末化することができた。
【0079】
【表21】
【実施例4】
【0080】
亜麻の種子から得られる亜麻仁油は、α-リノレン酸を多く含む。α-リノレン酸は、DHA、EPA同様に、冠動脈疾患、脳卒中等の予防効果があることが知られている。また、生体内では合成できない不飽和脂肪酸である。それ故に酸化安定性が低く、劣化臭・異臭が発生し易いことが知られている。この亜麻仁油を疎水性機能性成分として使用し、粉末化を試みた。すなわち、表22に示す配合に従って、実施例1と同じ製造方法で、徐放性機能材を製造した。その結果、油が染み出すことなく粉末化することができた。
【0081】
【表22】
【実施例5】
【0082】
ワカメやメカブなどの褐色海藻に多く含まれるフコキサンチンは、カロテノイドの一種であり、強い抗酸化活性を有する。フコキサンチンは、抗肥満、抗糖尿病、血管新生抑制作用、抗腫瘍作用などの生理機能が報告されている。また、フコキサンチンは、熱や酸、光刺激により分解されやすい不安定な物質である。このフコキサンチンを疎水性機能性成分として使用し、粉末化を試みた。すなわち、表23に示す配合に従って、実施例1と同じ製造方法で、徐放性機能材を製造した。その結果、油が染み出すことなく粉末化することができた。
【0083】
【表23】
図1