(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-01-07
(45)【発行日】2022-01-21
(54)【発明の名称】チェーン保持治具
(51)【国際特許分類】
F16G 13/06 20060101AFI20220114BHJP
【FI】
F16G13/06 Z
F16G13/06 A
(21)【出願番号】P 2021087688
(22)【出願日】2021-05-25
【審査請求日】2021-05-25
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000240938
【氏名又は名称】片山チエン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100130513
【氏名又は名称】鎌田 直也
(74)【代理人】
【識別番号】100074206
【氏名又は名称】鎌田 文二
(74)【代理人】
【識別番号】100130177
【氏名又は名称】中谷 弥一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100167380
【氏名又は名称】清水 隆
(72)【発明者】
【氏名】片山 惠嗣
【審査官】前田 浩
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-164830(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16G 13/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
対向するチェーン(C)端部の内リンク(L1)を突き合わせた状態で、その突き合わせ部の両側に並ぶローラ(R)の列に沿って配され、隣り合うローラ(R)同士の間に挿入される凸部(25)を3つ以上有する治具本体(21)と、
前記突き合わせ部の両側のローラ(R)の列を挟んで前記治具本体(21)と対向するように配される押え板(22)と、
前記押え板(22)を貫通して前記治具本体(21)にねじ込まれるキャップボルト(23)とを備え、
前記治具本体(21)の凸部(25)を、少なくとも前記突き合わせ部で対向する2つのローラ(R)がそれぞれ凸部(25)で挟まれるようにローラ(R)間に挿入した状態で、前記キャップボルト(23)を前記押え板(22)を介して前記治具本体(21)にねじ込むことにより、前記突き合わせ部で対向する2つのローラ(R)をそれぞれ前記押え板(22)で前記凸部(25)同士の間に位置する谷(26)に押し付けて保持するチェーン保持治具
において、
前記治具本体(21)と前記押え板(22)とは、前記突き合わせ部の両側のそれぞれで、少なくとも2つのローラ(R)を挟んで対向しており、
前記キャップボルト(23)は、前記突き合わせ部の両側のそれぞれで、前記突き合わせ部から2つ目のローラ(R)の軸心よりも遠い位置に配されるものを含むことを特徴とするチェーン保持治具。
【請求項2】
前記治具本体(21)の凸部(25)同士の間に位置する谷(26)は、その底部が前記ローラ(R)の外周面に沿う凹円弧面に形成されている請求項1に記載のチェーン保持治具。
【請求項3】
前記治具本体(21)は、その幅方向両側に、前記突き合わせ部で対向する内プレート(P1)同士の間に挿入される押圧部(28)が設けられている請求項1または2に記載のチェーン保持治具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、開放状態のチェーンを環状に連結する際、あるいは環状のチェーンを切断する際に、チェーンの両端の開放端部を所定間隔に保持するチェーン保持治具に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般的なチェーンCは、
図8にその一部を示すように、一対のブシュB、各ブシュBに回転可能に外嵌される一対の円筒状のローラR及び各ブシュBの両端部が固定される一対の内プレートP1から構成される内リンクL1と、各ブシュBに回転可能に挿通される一対のピンPN及び各ピンPNの両端部が固定される一対の外プレートP2から構成される外リンクL2とを備え、内リンクL1を外リンクL2で順次連結して、1本の環状としたものである。
【0003】
例えば、開放状態のチェーンCを環状に連結する際には、スプロケットの歯にローラRを噛み合わせた後にチェーンCの端部同士を突き合わせ、その突き合わせ部の内リンクL1同士を外リンクL2で連結する作業が行われる。
【0004】
このとき、開放状態のチェーンCの両端は、内リンクL1と外リンクL2を連結するピンPNの周りに自由に回動し得る。このため、連結しようとする内リンクL1同士の位置決めを行いにくく、その連結作業に手間を要することが多い。そこで、例えば特許文献1で提案されているようなチェーン保持治具を用いて、両端の内リンクL1を所定間隔に保持したうえで作業が行われる。このようなチェーン保持治具は、チェーンCの連結作業だけでなく、環状に連結されたチェーンCを交換したり長さを変えたりするためにチェーンCを切断しようとする場合にも用いられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、上記特許文献1に記載のチェーン保持治具では、チェーンの連結作業または切断作業において、突き合わせ部または切断位置で対向する内リンクL1の一対のローラRの間にアームの先端部を挿し込んだ後に、そのアーム同士の間隔が拡がってしまう場合がある。
【0007】
このようにチェーン保持治具のアーム同士の間隔が拡がると、対向する内リンクL1同士の間隔も拡がってしまい、連結作業の際に内リンクL1間を外リンクL2で繋ぐことができなくなったり、切断作業の際にピンPNが抜き取りにくくなったりして、作業をスムーズに行うことができない。また、切断作業では、ピンPNを抜き取ったときにアームがチェーンCから脱落して、チェーンCが意図せずにスプロケットから外れてしまう場合もある。
【0008】
そこで、この発明の課題は、チェーンの連結作業及び切断作業をスムーズに行うことができるようにすることである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の課題を解決するために、この発明は、対向するチェーン端部の内リンクを突き合わせた状態で、その突き合わせ部の両側に並ぶローラの列に沿って配され、隣り合うローラ同士の間に挿入される凸部を3つ以上有する治具本体と、前記突き合わせ部の両側のローラの列を挟んで前記治具本体と対向するように配される押え板と、前記押え板を貫通して前記治具本体にねじ込まれるキャップボルトとを備え、前記治具本体の凸部を、少なくとも前記突き合わせ部で対向する2つのローラがそれぞれ凸部で挟まれるようにローラ間に挿入した状態で、前記キャップボルトを前記押え板を介して前記治具本体にねじ込むことにより、前記突き合わせ部で対向する2つのローラをそれぞれ前記押え板で前記凸部同士の間に位置する谷に押し付けて保持するチェーン保持治具を採用した。
【0010】
ここで、前記治具本体の凸部同士の間に位置する谷は、その底部が前記ローラの外周面に沿う凹円弧面に形成されている構成を採用することができる。
【0011】
また、前記治具本体は、その幅方向両側に、前記突き合わせ部で対向する内プレート同士の間に挿入される押圧部が設けられている構成を採用することができる。
【発明の効果】
【0012】
この発明は、チェーン保持治具の治具本体の凸部を、少なくともチェーンの両端の突き合わせ部で対向する2つのローラがそれぞれ凸部で挟まれるようにローラ間に挿入し、その2つのローラを押え板で凸部同士の間の谷に押し付けて保持するようにしたので、チェーンの連結作業及び切断作業をスムーズに行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】この発明の第1の実施形態の使用状態(連結作業中)を示す斜視図
【
図2】(a)は第1の実施形態の治具本体の正面図、(b)は(a)の平面図、(c)は(a)の右側面図
【
図3】第1の実施形態の使用状態(連結作業中)を示す断面図
【
図4】(a)は第1の実施形態の使用状態(連結作業完了時)の要部の正面図、(b)は(a)の平面図、(c)は(a)のC-C断面図
【
図5】(a)は第1の実施形態の治具本体の変形例の正面図、(b)は(a)の平面図、(c)は(a)の右側面図
【
図6】(a)はこの発明の第2の実施形態の治具本体の正面図、(b)は(a)の平面図、(c)は(a)の右側面図
【
図7】第2の実施形態の使用状態(連結作業中)を示す正面図
【発明を実施するための形態】
【0014】
この発明のチェーン保持治具は、開放状態のチェーンの端部同士を接続して環状に連結する際、及び環状に連結されたチェーンを切断する際に用いられるものであるが、以下では、主としてチェーンの連結作業に用いられる場合を説明する。
図1~
図4は第1の実施形態に係るチェーン保持治具20を示す。なお、
図1及び
図3は、このチェーン保持治具20を用いてチェーンCを連結する作業の途中の状態を、
図4は連結の完了した状態をそれぞれ示している。また、
図5は、この第1の実施形態の変形例を示す。
【0015】
チェーン保持治具20は、対向するチェーンC端部の内リンクL1を突き合わせた状態で、その突き合わせ部の両側に並ぶローラRの列に沿って配され、隣り合うローラR同士の間に挿入される5つの凸部25を有する治具本体21と、突き合わせ部の両側のローラRの列を挟んで治具本体21と対向するように配される押え板22と、押え板22を貫通して治具本体21にねじ込まれるキャップボルト23とを備えている。
【0016】
治具本体21は、矩形板状の基板部24の上面側に5つの凸部25を長手方向に沿って等間隔で設けた部材である。その基板部24は、内リンクL1を構成する一対の内プレートP1間の隙間とほぼ同じ寸法の幅に形成され、チェーンCの連結作業の際に、突き合わせ部の両側の内リンクL1の内プレートP1間に上面側部分が嵌まり込むようになっている。
【0017】
治具本体21の各凸部25は、正面視で上半部が矩形、下半部が下方に向かって基板部24の長手方向に徐々に広がる形状で、基板部24の幅方向全長に形成されている。その上半部の厚み(両側面間の寸法)Tは、隣り合うローラR同士の間の隙間とほぼ同じ寸法に形成されている。また、隣り合う凸部25の上半部同士の隙間tはローラRの直径とほぼ同じ寸法に形成され、凸部25同士の間に位置する谷26の底部(凸部25の下半部の側面)は、ローラRの外周面に沿う凹円弧面に形成されている。
【0018】
これにより、各凸部25を隣り合うローラR同士の間に挿入すると、4つのローラRがそれぞれ谷26に嵌まり込む状態で保持されるようになっている。ここで、谷26の深さ(凸部25の上端面から谷26の最深部までの高さ方向寸法)DはローラRの直径よりもやや小さく形成され、ローラRが谷26に嵌まり込んだときにローラRの一部が凸部25の上端面よりも上方に突出するようになっている。
【0019】
また、治具本体21には、その長手方向中央の凸部25及び両端の凸部25の上端面から基板部24の下面に貫通し、キャップボルト23がねじ込まれるねじ孔27が設けられている。
【0020】
さらに、治具本体21の幅方向両側には、基板部24の長手方向中央部から内プレートP1とほぼ同じ厚みで幅方向に突出する押圧部28が設けられている。押圧部28は正面視で略山形に形成され、その両側の斜面28aは凹円弧状に形成されている。そして、チェーンCの連結作業の際に長手方向中央の凸部25を突き合わせ部で対向するローラR同士の間に挿入すると、押圧部28の上部が突き合わせ部で対向する内プレートP1同士の間に挿入され、押圧部28の斜面28aが内プレートP1の外周縁の一部に沿うようになっている(
図4参照)。
【0021】
押え板22は、治具本体21の基板部24と同寸法の長さと幅に形成された矩形板状の部材であり、チェーンCの連結作業の際に、突き合わせ部の両側の内リンクL1の内プレートP1間に下面側部分が嵌まり込むようになっている。そして、治具本体21のねじ孔27に対応する位置に、キャップボルト23のねじ部を通すボルト孔29が設けられている。
【0022】
このチェーン保持治具20を用いて、開放状態のチェーンCを環状に連結する際には、まず、チェーンCの両端の内リンクL1を突き合わせた状態で、その突き合わせ部の両側に並ぶローラRの列に沿って治具本体21を配し、その凸部25を隣り合うローラR同士の間に挿入していく。このとき、治具本体21は、その長手方向中央の凸部25を突き合わせ部で対向するローラR同士の間に挿入するようにする。これにより、突き合わせ部で対向するローラRを含む4つのローラRが、それぞれ治具本体21の凸部25で挟まれる状態となる(
図3参照)。
【0023】
そして、治具本体21は、凸部25のローラR間への挿入によって谷26の底部にローラRが当接すると、基板部24の上部が各内リンクL1の内プレートP1間に嵌まり込み、幅方向両側の押圧部28の斜面28aが各内プレートP1の外周縁の一部に沿うようになる。また、このときには、各ローラRの一部が凸部25の上端面よりも上方に突出した状態となる。
【0024】
このように治具本体21をチェーンCにセットした状態で、押え板22の下面側部分を治具本体21と反対側から各内リンクL1の内プレートP1間に嵌め込んで、その下面を治具本体21の凸部25よりも上方に突出しているローラRの頂部に当接させる。そして、押え板22の各ボルト孔29を治具本体21の3つの凸部25のねじ孔27に重ね合わせたうえ、キャップボルト23のねじ部を押え板22のボルト孔29に通して治具本体21の凸部25のねじ孔27にねじ込む。
【0025】
このキャップボルト23のねじ込みにより、突き合わせ部で対向する2つのローラRを含む4つのローラRが、押え板22で治具本体21の谷26の底部に押し付けられた状態で保持されるようになる。また、このときには、治具本体21の押圧部28の斜面28aが、突き合わせ部で対向する2つの内プレートP1を互いに離反する方向に押圧する。これにより、突き合わせ部で対向する2つの内リンクL1が所定位置に位置合わせされる。そして、この状態で、
図4に示すように、各内リンクL1の突き合わせ側のブシュBにピンPNを挿し込み、さらに外プレートP2を取り付けて外リンクL2を形成すると、チェーンCが1本の環状となって連結作業が完了する。
【0026】
上述したように、このチェーン保持治具20を用いたチェーンCの連結作業では、チェーンCの両端の内リンクL1を突き合わせた状態で所定位置に精度よく位置合わせして確実に保持することができるので、その両方の内リンクL1のブシュBの孔が外プレートP2のピンPNを通す孔と正確に位置合わせされ、ピンPNをスムーズに外プレートP2及びブシュBに通すことができる。したがって、従来のチェーン保持治具を用いる場合よりも効率よく作業を行うことができる。
【0027】
第1の実施形態を示す
図1~
図4では、キャップボルト23を押え板22を介して治具本体21の長手方向中央と両端の凸部25にねじ込むようにしたが、
図5に示すように、中央のキャップボルト23を省略し、両端のキャップボルト23の締め付けだけで、突き合わせ部で対向する2つの内リンクL1の位置決め及び保持を行うようにしてもよい。このようにすれば、治具本体21及び押え板22の穴あけ加工の手間が軽減されるとともに、キャップボルト23の本数が減ってコストダウンを図ることができる。
【0028】
この発明の第2の実施形態を
図6及び
図7に示す。なお、
図7は、このチェーン保持治具20を用いてチェーンCを連結する作業の途中の状態を示している。発明の主たる構成は第1の実施形態と同様であるので、以下、その差異を中心に説明する。
【0029】
第2の実施形態の治具本体21は、第1の実施形態の両端の凸部25が省略され、基板部24の上面側に3つの凸部25が形成されたものとなっている。また、3つの凸部25のうち左右両側に位置する凸部25については、その上端面と中央側を向く側面との成す稜線部に面取り部25aが設けられている。なお、基板部24の両端部には、第1の実施形態と同様に、キャップボルト23のねじ部がねじ込まれるねじ孔27が上面から下面に貫通している。
【0030】
この第2の実施形態は、第1の実施形態と比べると、治具本体21の凸部25の数が少なく、左右両側の凸部25の中央側の稜線部に面取り部25aが設けられているので、チェーンCの連結作業の際に各凸部25をスムーズにローラR間に挿入できる利点がある。
【0031】
上記の各実施形態では、治具本体21の谷26を、その底部がローラRの外周面に沿う凹円弧面となるように形成したが、谷26の形状はこれに限らず、例えば、矩形断面となるように形成してもよい。
【0032】
また、この発明のチェーン保持治具は、前述のように、環状のチェーンを任意の位置で切断する作業にも用いられる。チェーン切断作業では、チェーン保持治具を、治具本体の長手方向中央の凸部が切断しようとする位置で対向する2つのローラの間に挿入される状態でセットし、そのローラを回転可能に支持するブシュに通されているピンを抜き取って外プレートを取り外せばよい。このようにすれば、切断位置で対向するブシュの孔と外プレートのピンを通す孔とが正確に位置合わせされ、ピンをスムーズに抜き取ることができるので、効率よく切断作業を行えるし、ピンを抜き取ったときにチェーンが意図せずにスプロケットから外れてしまうこともない。
【符号の説明】
【0033】
20 チェーン保持治具
21 治具本体
22 押え板
23 キャップボルト
24 基板部
25 凸部
25a 面取り部
26 谷
27 ねじ孔
28 押圧部
28a 斜面
29 ボルト孔
B ブシュ
C チェーン
L1 内リンク
L2 外リンク
P1 内プレート
P2 外プレート
PN ピン
R ローラ
【要約】
【課題】チェーンの連結作業及び切断作業をスムーズに行うことができるようにする。
【解決手段】対向するチェーンC端部の内リンクL1を突き合わせた状態で、その突き合わせ部の両側に並ぶローラRの列に沿って配され、凸部25を3つ以上有する治具本体21と、突き合わせ部の両側のローラRの列を挟んで治具本体21と対向するように配される押え板22とを備え、その治具本体21の凸部25を、少なくとも突き合わせ部で対向する2つのローラRがそれぞれ凸部25で挟まれるようにローラR間に挿入した状態で、押え板22を貫通するキャップボルト23を治具本体21にねじ込むことにより、突き合わせ部で対向する2つのローラRをそれぞれ押え板22で凸部25間の谷26に押し付けて保持するチェーン保持治具20とした。
【選択図】
図1