(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-01-07
(45)【発行日】2022-02-14
(54)【発明の名称】屋根構造
(51)【国際特許分類】
E04B 7/02 20060101AFI20220114BHJP
E04B 7/04 20060101ALI20220114BHJP
E04B 7/20 20060101ALI20220114BHJP
【FI】
E04B7/02 521A
E04B7/04 B
E04B7/20 521B
(21)【出願番号】P 2021111347
(22)【出願日】2021-07-05
【審査請求日】2021-08-30
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】591000757
【氏名又は名称】株式会社アクト
(74)【代理人】
【識別番号】100121603
【氏名又は名称】永田 元昭
(74)【代理人】
【識別番号】100141656
【氏名又は名称】大田 英司
(74)【代理人】
【識別番号】100067747
【氏名又は名称】永田 良昭
(72)【発明者】
【氏名】橋詰 出
【審査官】兼丸 弘道
(56)【参考文献】
【文献】特開2011-231491(JP,A)
【文献】特開平06-010438(JP,A)
【文献】特開平08-199725(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E04B 7/00-7/04,7/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
木造軸組構造体の軸材を有する躯体の上に固定される屋根構造であって、
前記躯体の上に面方向を立てて固定されて、
当該屋根構造の一部を構成する小屋パネルが、前記小屋パネルの輪郭を形成するフレームと、
前記フレームの内側に縦横に組まれる支持材を備え、
前記支持材のうち少なくとも一部の前記支持材に、前記軸材の横断面に相応する横断面を有したパネル軸材が用いられ、
前記パネル軸材に、前記軸材又は前記軸材と相応する別の軸材との接合に供される接合金物が保持され
ており、
前記小屋パネルの上に載せられて、
当該屋根構造の一部を構成する屋根パネル
が、
前記屋根パネルの輪郭を形成するフレームと、
前記フレームの内側に縦横に組まれる支持材を備え、
前記支持材のうち少なくとも一部の前記支持材に、前記軸材の横断面に相応する横断面を有したパネル軸材が用いられ、
前記パネル軸材に、前記軸材又は前記軸材と相応する別の軸材との接合に供される接合金物が保持され
ており、
前記小屋パネルと、
前記屋根パネルを用いて構成され、
前記小屋パネル及び前記屋根パネルの前記パネル軸材が、組み付け時に前記躯体の前記軸材と上下で対応する位置に配設され、
前記接合金物がボルトナットを用いた締結構造を有するものであり、
前記小屋パネルの前記接合金物で前記小屋パネルが前記躯体の前記軸材に接合されるとともに、
前記屋根パネルの前記接合金物で前記屋根パネルが前記小屋パネルの前記接合金物に接合される
屋根構造。
【請求項2】
前記小屋パネルにおける前記フレームのうち少なくとも一部に、前記軸材の横断面に相応する横断面を有したパネル軸材が用いられた
請求項1に記載の
屋根構造。
【請求項3】
前記小屋パネルのうち、前記躯体の内側に相当する部位に固定される前記小屋パネルにおける両面に、面を塞ぐ面材が固定された
請求項1または請求項2に記載の
屋根構造。
【請求項4】
前記屋根パネルにおける前記パネル軸材として、複数本の垂木軸材と、前記垂木軸材同士を繋ぐ方向に延びる連結軸材を備えるとともに、
少なくとも1本の前記垂木軸材を有する複数の屋根パネル担体に分割形成され、
前記屋根パネルの前記垂木軸材と前記連結軸材とが、前記接合金物で接合される
請求項1
から請求項3のうちいずれか一項に記載の
屋根構造。
【請求項5】
前記接合金物が、前記パネル軸材の外側に露出している露出面から挿入される挿入ボルト、又は前記パネル軸材に内蔵されて前記パネル軸材から突出して螺合する突出ボルトを有する雄型部材と、前記パネル軸材に埋め込まれるナットを有する雌型部材との組合せからなるものであ
る
請求項
1から請求項4のうちいずれか一項に記載の屋根構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は木造軸組建築物の屋根構造(小屋組)に関する。
【背景技術】
【0002】
一般的な小屋組は、小屋梁の上に小屋束を建てて棟木や母屋を配設し、その上に垂木を並べて構成される。
【0003】
しかし、各部材を一つひとつ組んでゆくので施工性は良くない。このため、部材をパネル化することが行われている。
【0004】
例えば下記特許文献1には、小屋梁の上に固定する山形フレームが開示されている。山形フレームは、水平に対して傾斜した左右一対の傾斜部分の下端から内側に向かって水平に延びる陸梁部を有しており、この陸梁部が小屋梁にボルトで固定される。このような山形フレームは、複数平行に並べられて、互いの間がつなぎ部材やターンバックル付きブレースで結合される。このあと、山形フレームの上に母屋を並べてから野地板を張って、その上に屋根材を葺く。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1の構成では、山形フレーム同士の配置形態の維持は、繋ぎ部材等に頼らなければならず、これらを固定する作業が別途に必要である。
【0007】
また、山形フレームは、小屋梁の上に固定されるものの、陸梁部に設けられてフレーム本体に連結される支柱は、躯体の柱材よりも細い材料である。つまり、山形フレームを用いた小屋組は、躯体の上に載せられるだけのものであって、躯体との構造的一体性は低い。
【0008】
そこで、この発明は、施工性をより一層高めるとともに、荷重の支持が良好に行えるようにすることを主な目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
そのための手段は、木造軸組構造体の軸材を有する躯体の上に固定される屋根構造であって、面方向を立てて固定される小屋パネルと、小屋パネルの上に載せられる屋根パネルを有し、各パネルが、パネルの輪郭を形成するフレームと、フレームの内側に縦横に組まれる支持材を備え、支持材のうち、少なくとも一部の支持材に、軸材の横断面に相応する横断面を有したパネル軸材が配設され、パネル軸材に、軸材又は軸材と相応する別の軸材との接合に供される接合金物が保持された構成とし、躯体の軸材と関連付けて各パネルのパネル軸材を接合する構成である。
【0010】
この構成では、小屋パネルを固定したのち屋根パネル固定すれば、小屋組が得られる。小屋パネルのパネル軸材は躯体の軸材に対して接合し、屋根パネルのパネル軸材は小屋パネルのパネル軸材に接合することによって、高い接合強度と一体性が得られる。
【発明の効果】
【0011】
この発明によれば、小屋パネルと屋根パネルの固定で小屋組を得られるので施工性が良い。しかも、各パネルはパネル軸材を有しており、これらを躯体の軸材に直接又は間接に接合させて高い一体性を得られるので、荷重の支持が良好に行える。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図3】組み立てた小屋パネルの斜視図と屋根パネルの平面図。
【
図13】躯体と小屋パネルと屋根パネルの接合状態を示す正面図。
【
図14】他の例に係る小屋パネルの一部破断斜視図。
【発明を実施するための形態】
【0013】
この発明を実施するための一形態を、以下図面を用いて説明する。
【0014】
図1に、一部に仮想線を用いて屋根構造(小屋組)11の概要を表す斜視図を示す。木造軸組構造体の軸材Aを有する躯体13の上に固定される屋根構造11は、躯体13の上に面方向を立てて固定される小屋パネル14と、小屋パネル14の上に載せられる屋根パネル15で構成される。つまり小屋パネル14と屋根パネル15はそれぞれ屋根構造11の一部を構成するものである。
図1中、便宜上仮想線で示したものが屋根パネル15である。
【0015】
なお、この例では説明の簡素化のため、片流れ屋根を示したが、屋根構造11はその他の形態の屋根であってもよい。
【0016】
屋根構造11が固定される躯体13は、屋根構造11と同様に施工の簡素化をはかったものであり、外壁パネル16や間仕切りパネル17を組み立てて構成される。外壁パネル16と間仕切りパネル17には、荷重を支えるための軸材A、つまり柱材や梁材などと、その他の線材が縦横に組まれている。
【0017】
屋根構造11を構成する小屋パネル14は、
図2に示したように大きく分けて2種類ある。これらいずれの小屋パネル14も、小屋パネル14の輪郭を形成するフレーム31と、フレーム31の内側に縦横に組まれる支持材32を備えている。
【0018】
2種類の小屋パネル14は、矩形小屋パネル14aと三角小屋パネル14bである。矩形小屋パネル14aは、躯体13における桁に相当する側に固定される長方形の小屋パネル14であり、三角小屋パネル14bは、矩形小屋パネル14aに対して直角に固定されて桁側から軒桁側に向かって斜めに下がる三角形の小屋パネル14である。
【0019】
いずれの小屋パネル14においても支持材32のうち少なくとも一部の支持材32に、躯体13の軸材Aの横断面に相応する横断面を有したパネル軸材Sが用いられている。
【0020】
また、必要とされるフレーム31のうち少なくとも一部に、躯体13の軸材Aの横断面に相応する横断面を有したパネル軸材Sが用いられている。
【0021】
ここで「軸材の横断面に相応する横断面」とは、パネル軸材Sの横断面の形状と大きさが躯体13における軸材Aの横断面のそれらと同じもの、同じようなもの、又はそれ以上の大きさのものであるほか、横断面のたてよこのいずれか一方の値が同じであって、躯体13の軸材Aと同様に荷重を支持し得るものであることをいう。この例の躯体13における軸材Aの横断面形状は正方形である。全部又は一部の軸材Aやパネル軸材Sがその他の横断面形状を有するものであってもよい。
【0022】
小屋パネル14におけるパネル軸材Sの全部又は一部は、組み付け時に躯体13の軸材Aと上下で対応する位置に配設される。
【0023】
具体的には、矩形小屋パネル14aのフレーム31は、よこに延びて下の輪郭を構成する下辺31aと、これと並行で上の輪郭を構成する上辺31bと、たてに延びて左右の一端を構成する一端辺31cと、これと並行で他端を構成する他端辺31dを有している。これらのうち、上辺31bと他端辺31dがパネル軸材Sで構成され、下辺31aと一端辺31cが枠材Tで構成されている。
【0024】
枠材Tは、パネル軸材Sよりも細い材料であり、その横断面形状は長方形で、長辺がパネル軸材Sの横断面形状の辺と同一であり、短辺がそれよりも短い。
【0025】
上辺31bにパネル軸材Sを用いたのは、強度を確保するとともに屋根パネル15の固定に備えるためである。左右の他端辺31dにパネル軸材Sを使用したのは、強度を確保するとともに躯体13に対する固定と屋根パネル15の固定に備えるためである。
【0026】
フレーム31の内側の四隅には、直角二等辺三角形の補強パネル41が固定され、正確な直角を出すとともに、隅部を構成するパネル軸材Sと枠材Tを拘束している。
【0027】
支持材32は、この例においては、たてに延びるもののみを備えた。支持材32はフレーム31の上辺31bと下辺31aとの間にかけ渡されて、左右方向に沿って平行に配設されている。支持材32のうち、躯体13の軸材Aに対応する部位の支持材32はパネル軸材Sである。その他の支持材32は前述した枠材Tである。
【0028】
フレーム31と支持材32を構成する枠材Tは、パネル軸材Sの側面に隣接する面が、その側面と面一になるように組まれている。つまり枠材Tは、その横断面形状の長辺が矩形小屋パネル14aの厚み方向に向けて固定されている。
【0029】
三角小屋パネル14bのフレーム31は直角三角形であり、よこに延びて下の輪郭を構成する下辺31eと、これの一端で直角をなして上に延びる縦辺31fと、縦辺31fの上端と下辺31eの他端を結ぶ斜辺31gを有している。これらすべての辺31e,31f,31gが枠材Tで構成されている。
【0030】
基本的に三角小屋パネル14bのフレーム31は枠材Tのみで構成し得る。しかし、矩形小屋パネル14aにおける被組み付け部位にパネル軸材Sが存在しない三角小屋パネル14bの縦辺31fには、
図2中、図面右端に示した三角小屋パネル14bのように、パネル軸材Sがフレーム31の一部としてその縦辺31fの枠材Tに添えられる。また、屋根パネル15等の固定に備えて、フレーム31の斜辺31gをパネル軸材Sで構成してもよい。このように、フレーム31の一部にパネル軸材Sを用いるか、どこに用いるかは、躯体13や屋根パネル15等との関係において設定される。
【0031】
支持材32は、たてに延びるものと、縦辺31fの長手方向の中間から斜辺31gの中間に向けてよこに延びるものを備えている。支持材32のうち、よこに延びる11本の支持材32と、この支持材32の先端位置でたてに延びる支持材32は、パネル軸材Sである。パネル軸材Sからなるたてに延びる支持材32は、躯体13の軸材Aに対応する位置に設けられている。その他の支持材32は前述した枠材Tで構成されている。
【0032】
よこに延びるパネル軸材Sを備えたのは強度を確保するとともに矩形小屋パネル14aに対する固定に備えるためである。たてに延びるパネル軸材Sを備えたのは、強度を確保するとともに躯体13に対する固定と屋根パネル15の固定に備えるためである。
【0033】
枠材Tからなる支持材32は、下辺31eを構成する枠材Tとよこに延びるパネル軸材Sとの間に、横に延びるパネル軸材Sと斜辺31gを構成する枠材Tとの間に、下辺31eを構成する枠材Tと斜辺31gを構成する枠材Tとの間に延びている。
【0034】
三角小屋パネル14bにおいても、フレーム31と支持材32を構成する枠材Tは、パネル軸材Sの側面に隣接する面が、その側面と面一になるように、その横断面形状の長辺が三角小屋パネル14bの厚み方向に向けて固定される。
【0035】
屋根パネル15は、
図3に示したように組まれた小屋パネル14の上に斜めに固定される。この屋根パネル15の構成は、前述した小屋パネル14のそれと同様である。つまり、屋根パネル15の輪郭を形成するフレーム51と、フレーム51の内側に縦横に組まれる支持材52を備えている。そして支持材52のうち少なくとも一部の支持材52に、躯体13の軸材Aの横断面に相応する横断面を有したパネル軸材Sが用いられている。パネル軸材Sの全部又は一部は、前述と同様に、組み付け時に躯体13の軸材Aと上下で対応する位置に配設される。
【0036】
また屋根パネル15は、複数の屋根パネル担体15a~15fに分割可能な構成である。つまり、複数の屋根パネル担体15a~15fを結合して屋根パネル15が形成される。
【0037】
具体的には、屋根パネル15は長方形であり、フレーム51は上辺51aと下辺51bと左右両端の端辺51c,51dを有しており、これらすべての辺51a~51dが枠材Tで構成されている。支持材52は、桁側から軒桁側に向かってたてに延びるものと、これと直交するよこ方向に延びるものがある。たてに延びる支持材52のうち、躯体13の軸材Aと三角小屋パネル14bに対応する位置と、これらの間の適宜位置に配設される支持材52は、パネル軸材Sで構成される。パネル軸材Sからなるたてに延びる支持材52を垂木軸材52aとする。また、よこに延びる支持材52のうち、躯体13の軸材Aと矩形小屋パネル14aに対応する位置に配設される支持材52は、パネル軸材Sで構成される。パネル軸材Sからなり、よこ、つまり垂木軸材52a同士を繋ぐ方向に延びる支持材52を連結軸材52bとする。その他の支持材52は枠材Tで構成される。
【0038】
支持材52の一部をパネル軸材Sで構成したのは、剛性の確保と小屋パネル14や躯体13に対する固定に備えるためである。
【0039】
パネル軸材Sからなるたてに延びる支持材52のうち、躯体13の軸材Aや三角小屋パネル14に対応する位置以外のパネル軸材Sからなる支持材52は、次の点を考慮して配設される。すなわち屋根パネル15は、複数の屋根パネル担体15a~15fで構成されるので、屋根パネル担体15a~15fが少なくとも1本の垂木軸材52aを有するように、剛性のほか、屋根パネル担体15a~15fの大きさも考慮して、パネル軸材Sからなる支持材52の位置や本数が設定される。
【0040】
互いに隣り合う屋根パネル担体15a~15fにおけるパネル軸材Sからなる垂木軸材52aと接する部分には枠材Tからなる支持材52が配設される。このため、屋根パネル担体15a~15fは、左右方向の一端に垂木軸材52aを有するものと、両端に垂木軸材52aを有するものがある。このため連結軸材52bは垂木軸材52a同士を直接または間接的に接続するように存在する。
【0041】
なお、屋根パネル担体15a~15fのうち、両端に位置する屋根パネル担体15a,15fには、フレーム51の左右両端の端辺51c,51dを構成する枠材Tが、適宜の張り出し長さを隔てて一体に固定されている。
【0042】
また垂木軸材52aと連結軸材52bで構成される隅部のうちの適宜位置には、前述した矩形小屋パネル14aの場合と同様に、補強パネル41が固定されている。
【0043】
屋根パネル15においても、フレーム51と支持材52を構成する枠材Tは、パネル軸材Sの側面に隣接する面が、その側面と面一になるように、その横断面形状の長辺が屋根パネル15の厚み方向に向けて固定される。
【0044】
以上の小屋パネル14と屋根パネル15のパネル軸材Sには、躯体13の軸材A又はその軸材Aと相応する別の軸材、ここではパネル軸材Sとの接合に供される接合金物71が保持されている(
図4~
図6参照)。
【0045】
接合金物71は、接合金物71が保持されているパネル軸材Sを有するパネル以外の軸材に対する接合を行うものであることはもちろんのこと、接合金物71が保持されているパネル軸材を有するパネルの組立てにも使用されるものである。また接合金物71は、直接締結力を作用させて接合するほか、差し込み等によって一定の位置関係を保持させて接合するものである。
【0046】
この例の接合金物71は、ボルトナットを用いた締結構造を有するものであり、適宜の金物で構成される。ボルトナットを利用した締結構造を有するので、接合される部材同士は接合と分離が可能である。
【0047】
接合金物71と、各パネル14,15における接合金物71の使用例を次に説明する。
【0048】
図4は矩形小屋パネル14a、
図5は三角小屋パネル14b、
図6は屋根パネル15の正面図、
図7は屋根パネル15の分解状態の正面図を示し、
図8は補強パネル41の斜視図である。
図9~
図12に複数種類の接合金物71を示す。
【0049】
接合金物71は、パネル軸材Sの外側に露出している露出面から挿入される挿入ボルト、又はパネル軸材に内蔵されてパネル軸材から突出して螺合する突出ボルトを有する雄型部材72と、パネル軸材Sに埋め込まれた埋め込みナットを有する雌型部材73との組合せからなるものである。雌型部材73のうち、複数接合される部位、言い換えれば複数方向の接合が行われる部位に用いられるものは、複数の接合金物71で共用され得る構成である。
【0050】
まず、矩形小屋パネル14aを例に説明する。
図4の図面左上に拡大して示したように、パネル軸材S同士を直角に接合するとともに、そのうちの端面Saが露出した一方のパネル軸材Sの端面Saを別の軸材、ここでは屋根パネル15のパネル軸材Sである垂木軸材52aに接合する部分に、
図9のような接合金物71を用いる。
【0051】
この接合金物71は、雄型部材72としての挿入ボルト74と、端面が隠蔽される側のパネル軸材Sに埋設される雌型部材73としての本体金具75で構成されている。挿入ボルト74は頭部74aと軸部74bを有する一般的な構成である。本体金具75はパネル軸材Sの長手方向に沿って延びる板状の差し込み片75aと、その基部で埋め込みナット75bを保持する保持部75cを有している。
【0052】
また、屋根パネル15の固定のため、別の雌型部材73としての筒状芯部材76を備えている。筒状芯部材76は円筒状であり、内周面に雌ねじ76aを有し、長手方向の中間には、前述の挿入ボルト74を通す貫通穴76bを有している。
【0053】
このような構成の接合金物71は、端面が隠蔽される側のパネル軸材Sの端部に本体金具75を埋設し、他方のパネル軸材Sに筒状芯部材76を埋設して使用される。他方のパネル軸材Sの側面から挿入ボルト74を挿入して、筒状芯部材76を串刺しするように貫通して本体金具75の埋め込みナット75bに対して螺合することによって、2本のパネル軸材S同士は結合される。また挿入ボルト74と一体の筒状芯部材76は、他方のパネル軸材Sの端面から挿入されるボルトと螺合することになる。
【0054】
図4の図面右上に拡大して示したように、枠材Tと接合されるパネル軸材Sの端部であって、他のパネル、この例では三角小屋パネル14bのパネル軸材Sと接合する部分では、
図9に示した接合金物71の雌型部材73としての本体金具75が用いられる。
【0055】
本体金具75は、矩形小屋パネル14aを形成する際にパネル軸材の端部に埋設される。本体金具75の構造は前述と同じであるので、その詳しい説明は省略する。
【0056】
この接合金物71は接合に際して、枠材T側から挿入され螺合されるボルトを受け入れる。
【0057】
図4の図面左下に拡大して示したように、枠材Tと接合されるパネル軸材Sの端部であって、パネル軸材Sの先端方向に枠材T又はパネル軸材Sを介して他の軸材、ここでは躯体13の軸材Aや屋根パネル15のパネル軸材Sと接合する部分に、
図10に示した接合金物71が用いられる。
【0058】
この接合金物71は、雄型部材72としての本体金具77と、雌型部材73としての筒状芯部材76で構成されている。本体金具77は、パネル軸材Sの長手方向に沿って延びる板状の差し込み片77aと、その基部においてパネル軸材Sから突出して螺合する突出ボルト77bを保持する直方体箱状で側面に窓を有する中空の保持部77cを有している。突出ボルト77bの長手方向の中間には、回転用ナット77dが相対回転不可に備えられている。また回転用ナット77dよりも差し込み片側の部分には2個のナット77e,77fが相対回転可能に保持されている。突出ボルト77bは保持部77c内においてその長手方向で移動可能である。保持部77cの上下両面はパネル軸材Sの横断面と同じ大きさである。
【0059】
筒状芯部材76は、前述した
図9の筒状芯部材76と同じ構成である。
【0060】
このような構成の接合金物71は、本体金具77がパネル軸材Sの端部に固定されて、筒状芯部材76が接合対象の軸材Aやパネル軸材Sに埋設されて使用される。本体金具77が固定されたフレーム31や支持材32の先に突出ボルト77bを突出させて回転用ナット77dで締め付けを行ったのち、2個のナット77e,77fを保持部77cの内面に押し付けていわゆるダブルナットとして作用せると接合が完了する。
【0061】
図10に例示した接合金物71は、
図2中、図面右端に示した三角小屋パネル14bにおけるフレーム31のパネル軸材Sと枠材Tとの接合部分にも用いられる。
【0062】
つぎに、三角小屋パネル14bを例に説明する。
図5の図面左下に拡大して示したように、フレーム31に保持されて別の軸材、この例では躯体13の軸材Aに接合する部分や、図面中央下に拡大して示したように支持材32同士を束ねるように重ね合わせた状態で接合する部分には、
図11のような接合金物71を用いる。
【0063】
この接合金物71は、雄型部材72としての本体金具77と、雌型部材73としての筒状芯部材76で構成されている。本体金具77は、直方体箱状で側面に窓を有する中空の保持部77cを有しており、突出ボルト77bは保持部77cに貫通状態で保持されている。保持部77cの下端の端には突片77gが形成されており、突片77gには支持材32に対する固定のための貫通穴77hが形成されている。貫通穴77hは、ねじ釘や釘などが挿入される部分である。
【0064】
突出ボルト77bは、その長手方向の中間に回転用ナット77dを相対回転不可に有しており、回転用ナット77dよりも突片77gと反対側の部分には2個のナット77e,77fが相対回転可能に保持されている。突出ボルト77bは保持部77c内においてその長手方向で移動可能である。
【0065】
筒状芯部材76は前述した
図9の筒状芯部材76と同じ構成である。
【0066】
このような構成の接合金物71は、本体金具77がフレーム31や支持材32の側面に固定されて、筒状芯部材76が接合対象の軸材Aやパネル軸材Sに埋設されて使用される。本体金具77が固定されたフレーム31や支持材32の先に突出ボルト77bを突出させて回転用ナット77dで締め付けを行ったのち、2個のナット77e,77fを保持部77cの内面に押し付けていわゆるダブルナットとして作用せると接合が完了する。
【0067】
図6に示した屋根パネル15は、前述の
図10に示した接合金物71によって、小屋パネル14のパネル軸材Sや躯体13の軸材Aに対する固定と、屋根パネル担体15a~15f同士の接合が行えるように構成している。
【0068】
具体的には、屋根パネル15は
図7に示したように、フレーム51の上辺51aを構成する枠材Tと、下辺51bを構成する枠材Tと、左右の端辺51c,51dを構成する枠材Tを備えた2枚の屋根パネル担体15a,15fと、その他の屋根パネル担体15b~15eで構成される。
【0069】
接合金物71の本体金具77は、連結軸材52bの両端部に保持され、垂木軸材52aにおける本体金具77に対向する部位に筒状芯部材76が保持されている。垂木軸材52aと連結軸材52bは接合金物71で接合一体化され、接合金物71のうちの筒状芯部材76は、接合のための突出ボルト77bが螺合した部分の反対側に、他の接合金物71の突出ボルト77bが螺合され得る状態である。またその筒状芯部材76の貫通穴76bには、屋根パネル15の上から挿入するボルトが螺合され得る状態である。
【0070】
補強パネル41の構成と接合には、接合金物を用いる必要はなく、木ねじや釘、かすがい等を用いることができる。
【0071】
ここで、補強パネル41の構成について簡単に説明する。補強パネル41は、
図8に示したように、板材からなる芯板部42と、角材からなる縁取り部43で構成されている。
【0072】
芯板部42は、直角二等辺三角形を有する形状であり、好ましくは構造用合板で形成されている。縁取り部43は芯板部42の表裏双方に形成され、芯板部12の表裏両面における3辺の縁部に固定されて芯板部42を挟む部分である。この縁取り部43は、3本の角材からなり、三角形の枠状に組んで構成される。角材は横断面形状が長方形であり、そのたてとよこの長さは、補強パネル41の厚み方向に相当するたての方が長く形成されている。
【0073】
補強パネル41の厚さは、躯体13の軸材Aや各パネル14,15のパネル軸材Sの厚さと同じである。
【0074】
接合金物71には、前述のように筒状芯部材76が至便に用いられるが、接合する部材が多い場合には、
図12に示したように、貫通穴76bに雌ねじ76cを形成した筒状芯部材76を用いるとよい。貫通穴76bの雌ねじ76cには、追加型筒状芯部材78が結合される。
【0075】
追加型筒状芯部材78は、一端が閉塞された円筒形状の本体部78aを有し、本体部78aにおける閉塞された一端には、筒状芯部材76の貫通穴76bの雌ねじ76cに螺合するねじ部78bが突設されている。本体部78aの内周面にはボルトが螺合する雌ねじ78cが形成されている。
【0076】
以上のように構成された小屋パネル14や屋根パネル15は、それぞれ、既存の木造軸組構造において単体でも使用し得る。すなわち、小屋パネル14は梁材等の上に固定して使用でき、屋根パネル15の代わりに母屋(図示せず)を配設してから野地板(図示せず)を載せて屋根材(図示せず)を取り付けてもよい。
【0077】
また小屋パネル14に代えて梁束(図示せず)を建てて垂木(図示せず)を配設し、その上に屋根パネル15を固定してもよい。
【0078】
いずれの場合でも、小屋パネル14や屋根パネル15の固定によって、個々に固定する部材を低減できるとともに、正確な固定ができるので、施工性を高められる。しかも、小屋パネル14や屋根パネル15に備えられたパネル軸材Sがパネルの強度を高めるとともに、接合部分の強度を高め、固定時には荷重を良好に支持する構成が得られる。
【0079】
しかし、小屋パネル14と屋根パネル15を共に使用するのがより好ましい。
【0080】
前述した接合金物71を用いての躯体13に対する小屋パネル14と屋根パネル15の固定態様を、
図13を用いて次に説明する。なお、
図13に示したように躯体13も前述の接合金物71を用いて構成されている。
【0081】
まず、躯体13の上端の軸材A又は軸材における上端部に、小屋パネル14をそれぞれ固定するとともに、矩形小屋パネル14aと三角小屋パネル14bとの間でも接合を行う。矩形小屋パネル14aと三角小屋パネル14bのうちいずれが先に固定されてもよい。
図2の矢印は、小屋パネル14の躯体13に対する固定箇所を示している。
【0082】
小屋パネル14のうちパネル軸材Sの下端に保持された接合金物71、具体的には本体金具77は、その突出ボルト77bを躯体13の軸材Aに埋設した筒状芯部材76に螺合して固定される。フレーム31の下端に備えた接合金物71(本体金具77)もパネル軸材Sの下端の接合金物71と同様に、躯体13の軸材A内の筒状芯部材76に螺合される。
【0083】
矩形小屋パネル14aと三角小屋パネル14bとの間では、
図10に示した接合金物71(本体金具77)による接合αや、
図11に示した接合金物71(本体金具77)による接合βも行われる。
【0084】
つぎに、小屋パネル14の上に屋根パネル15を固定する。固定は次のように行う。屋根パネル15の接合金物71における筒状芯部材76の貫通穴76bに雄型部材72としての挿入ボルト74を挿通し、その先を小屋パネル14のパネル軸材Sに埋設した筒状芯部材76に螺合する。
【0085】
屋根パネル15の勾配下においては、小屋パネル14に対して固定するのではなく、躯体13の軸材Aに対して接合する。このとき、補助的に軒止め金具79を用いるとよい。
【0086】
軒止め金具79は、固定片79aと固定片79aの一端から上方へ起立する起立片79bを有する側面視L字状に形成されている。固定片79aは、躯体13の上面に載置され、接合金物71の挿入ボルト74が軸材Aの筒状芯部材76に螺合した際にナット79cで締め付けられる。起立片79bは、三角小屋パネル14bの鋭角をなす先端面に釘や木ねじ等で固定される。
【0087】
以上のように、小屋パネル14と屋根パネル15を共に用いた屋根構造では、施工性をより一層高められるとともに、熟練工なしでも容易な施工が可能となる。しかも、躯体13の軸材Aと同等以上の強度を有する小屋パネル14と屋根パネル15のパネル軸材Sが躯体13の軸材Aと上下方向においてつながり、各接合部分は接合金物71によって無駄なく高い一体性をもって接合される。このため、荷重の支持が良好に行える強度の高い木造軸組建築物が得られる。
【0088】
また接合金物71には、ボルトナットを用いた締結構造を有するものを使用するので、分解も可能な木造軸組建築物を得られる。
【0089】
屋根パネル15については、屋根パネル担体15a~15fで構成して、これらの接合にも接合金物71を利用している。屋根パネル15は、現場において組み立てることができて運搬等の負担を軽減できるほか、使用する接合金物71の種類を低減できるので、部材の管理負担等も軽減できる。
【0090】
以上の構成は、この発明を実施するための一形態であって、この発明は前述の構成に限定されるものではなく、その他の構成を採用することができる。
【0091】
たとえば、小屋パネル14のうち躯体13の内側に相当する部位に固定される小屋パネル14について、
図14に示したように面材35を設けことによって、容易に界壁パネルとすることができる。すなわち、小屋パネル14における両面に、面を塞ぐ面材35が固定されている。面材35は、例えば構造用合板で構成され、小屋パネル14の輪郭に対応する形状に形成される。
【0092】
また、小屋パネル14についても、屋根パネル15と同様に、複数の部材に分離可能に構成してもよい。
【0093】
屋根パネル15のたてに延びる支持材52は、屋根パネルや屋根パネル担体の形状に合わせて適宜配設されるものであって、必ずしも前述のように複数本が平行に並ぶものでなくともよい。
【符号の説明】
【0094】
11…屋根構造
13…躯体
14…小屋パネル
15…屋根パネル
31…フレーム
32…支持材
35…面材
51…フレーム
52…支持材
52a…垂木軸材
52b…連結軸材
71…接合金物
72…雄型部材
73…雌型部材
A…軸材
S…パネル軸材
【要約】
【課題】施工性をより一層高めるとともに、荷重の支持が良好に行えるようにする。
【解決手段】木造軸組構造体の軸材Aを有する躯体13の上に固定される屋根構造において、面方向を立てて固定される小屋パネル14と、小屋パネル14の上に載せられる屋根パネル15を備える。小屋パネル14と屋根パネル15を、パネルの輪郭を形成するフレーム31,51と、フレーム31,51の内側に縦横に組まれる支持材32,52で構成し、支持材32,52のうち、少なくとも一部の支持材32に、軸材Aの横断面に相応する横断面を有したパネル軸材Sを用いる。パネル軸材Sには、軸材A又は軸材と相応する別の軸材との接合に供される接合金物71を保持し、躯体13の軸材Aと関連付けて小屋パネル14と屋根パネル15のパネル軸材Sを接合する。
【選択図】
図13