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  • 特許-プラズマ加熱装置 図1
  • 特許-プラズマ加熱装置 図2
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-01-07
(45)【発行日】2022-02-14
(54)【発明の名称】プラズマ加熱装置
(51)【国際特許分類】
   H05H 1/24 20060101AFI20220114BHJP
   G21K 5/04 20060101ALI20220114BHJP
   H05H 1/03 20060101ALI20220114BHJP
   H05H 1/22 20060101ALI20220114BHJP
【FI】
H05H1/24
G21K5/04 E
H05H1/03
H05H1/22
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2021133972
(22)【出願日】2021-08-19
【審査請求日】2021-11-02
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】509004033
【氏名又は名称】株式会社センリョウ
(74)【代理人】
【識別番号】100095359
【弁理士】
【氏名又は名称】須田 篤
(72)【発明者】
【氏名】安ヵ川 誠
【審査官】右▲高▼ 孝幸
(56)【参考文献】
【文献】特許第6753627(JP,B1)
【文献】特開昭61-230298(JP,A)
【文献】特開昭62-134591(JP,A)
【文献】特開平3-91286(JP,A)
【文献】特表平11-506259(JP,A)
【文献】特開2001-133571(JP,A)
【文献】特開2002-062388(JP,A)
【文献】特開2002-168982(JP,A)
【文献】特開2005-291853(JP,A)
【文献】特表2017-512315(JP,A)
【文献】米国特許第4548782(US,A)
【文献】米国特許第5854531(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H05H 1/24
G21K 5/04
H05H 1/03
H05H 1/22
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
円筒状の内面を有し、マイナスに帯電可能であって前記内面が絶縁体膜で被覆された管状導体と、
前記管状導体の中心軸線上に絶縁材で支持されて配置された管状の陽極と、
直管状でマイナスに帯電可能であって内面が絶縁体膜で被覆され、前記管状導体の内面接線方向に伸び、一端に入射口を有し、他端が前記管状導体と結合して前記管状導体の内部に連通する入射管と、
水素ガス、重水素ガスまたはヘリウムガスを供給するためのタンクと、
前記陽極および前記タンクに接続され、前記タンクから前記陽極を通して前記管状導体の内部に前記水素ガス、前記重水素ガスまたは前記ヘリウムガスを供給する供給管と、
真空ポンプに接続されて内部が前記入射管の前記一端に連通する真空チャンバと、
前記真空チャンバの内部を通して前記入射口から前記管状導体の内部に電子ビームを入射して、マイナスに帯電した前記管状導体で反射させ、前記タンクから前記管状導体の内部に供給されるガスをプラズマ化させる電子銃と、
前記管状導体を包囲し、内部に流水経路を有する冷却器とを、
有することを特徴とするプラズマ加熱装置。
【請求項2】
前記入射管は前記入射口の周囲に入射管用陽極が設けられ、前記供給管はプラスに帯電されていることを、特徴とする請求項1記載のプラズマ加熱装置。
【請求項3】
前記真空チャンバから放射されるX線を観測するためのX線スペクトロメータと、
前記タンクから前記供給管に供給される前記ガスの流量を調節するためのガス流量調節器とを、
有することを特徴とする請求項1または2記載のプラズマ加熱装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プラズマ加熱装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、電子銃により真空チャンバの内部の入射管の入射口から管状導体の内部に電子ビームを入射させ、入射した電子ビームをマイナスに帯電した管状導体の内面で反射させ、タンクから管状導体の内部に供給された水素ガス、重水素ガスまたはヘリウムガスをプラズマ化させて、水素ガス、重水素ガスまたはヘリウムガスのプラズマ化により、高温を発生させることができるプラズマ加熱装置が本発明者により発明されている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特許第6753627号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に記載のプラズマ加熱装置を改良し、さらに効率的に高温を発生させることができるプラズマ加熱装置が要望されていた。
【0005】
本発明は、このような課題に着目してなされたもので、効率的に高温を発生させることができるプラズマ加熱装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために、本発明に係るプラズマ加熱装置は、円筒状の内面を有し、マイナスに帯電可能であって前記内面が絶縁体膜で被覆された管状導体と、前記管状導体の中心軸線上に絶縁材で支持されて配置された管状の陽極と、直管状でマイナスに帯電可能であって内面が絶縁体膜で被覆され、前記管状導体の内面接線方向に伸び、一端に入射口を有し、他端が前記管状導体と結合して前記管状導体の内部に連通する入射管と、水素ガス、重水素ガスまたはヘリウムガスを供給するためのタンクと、前記陽極および前記タンクに接続され、前記タンクから前記陽極を通して前記管状導体の内部に前記水素ガス、前記重水素ガスまたは前記ヘリウムガスを供給する供給管と、真空ポンプに接続されて内部が前記入射管の前記一端に連通する真空チャンバと、前記真空チャンバの内部を通して前記入射口から前記管状導体の内部に電子ビームを入射して、マイナスに帯電した前記管状導体で反射させ、前記タンクから前記管状導体の内部に供給されるガスをプラズマ化させる電子銃と、前記管状導体を包囲し、内部に流水経路を有する冷却器とを、有することを特徴とする。
【0007】
本発明に係るプラズマ加熱装置は、電子銃により真空チャンバの内部を通して入射管の入射口から管状導体の内部に電子ビームを入射させる。入射した電子ビームは、マイナスに帯電した管状導体の内面で反射を繰り返し、タンクから供給管および陽極を通して管状導体の内部に供給された水素ガス、重水素ガスまたはヘリウムガスをプラズマ化させる。水素ガス、重水素ガスまたはヘリウムガスのプラズマ化により、効率的に高温を発生させることができる。また、入射した電子ビームの過剰な電子は、陽極に吸収され、熱を発生させる。
さらに、プラズマ化により発生する陽子は、マイナスに帯電した管状導体の内面に向かい、内面の絶縁体膜に侵入して、一定の深さで重い陽イオン層を形成する。この重い陽イオン層は、電子ビーム照射を続けながら管状導体の内部にタンクのガスを供給することにより厚くすることができる。重い陽イオン層がラザフォード後方散乱を引き起こすのに十分な厚さになると、プラズマ化により発生する陽子は、マイナスに帯電した管状導体の内面に向かうものの、重い陽イオン層により跳ね返され、管状導体の内部で電子ビーム照射に起因する加熱を受け続け、高温のプラズマになる。管状導体の温度は、冷却器の流水経路を流れる水により下げることができる。流水経路を流れた高温の水は、発電や暖房などに利用することができる。
【0008】
本発明に係るプラズマ加熱装置において、前記入射管は前記入射口の周囲に入射管用陽極が設けられ、前記供給管はプラスに帯電されていることが好ましい。
この場合、管状導体の内部で発生した陽子が入射管および供給管から外に漏れ出るのを防ぐことができる。
【0009】
本発明に係るプラズマ加熱装置は、前記真空チャンバから放射されるX線を観測するためのX線スペクトロメータと、前記タンクから前記供給管に供給される前記ガスの流量を調節するためのガス流量調節器とを、有することが好ましい。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、効率的に高温を発生させることができるプラズマ加熱装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本発明の実施の形態のプラズマ加熱装置を示す中央縦断面概念図である。
図2図1に示すプラズマ加熱装置の斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、図面に基づき、本発明の実施の形態について説明する。
図1および図2は、本発明の実施の形態のプラズマ加熱装置を示している。
図1および図2に示すように、プラズマ加熱装置は、管状導体1と、陽極2と、入射管3と、タンク4と、真空チャンバ5と、電子銃6と、冷却器7と、X線スペクトロメータ8と、ガス流量調節器9と、温度計10とを有している。
【0013】
管状導体1は、円をその直径と平行の回転軸線から所定の距離をあけて回転軸線を中心として1周回転させた立体形状である円筒状の内面を有し、入射管3を介してマイナスの高圧電源11に接続されてマイナスに帯電可能である。管状導体1の内面は、絶縁体膜(強誘電体)で被覆されている。管状導体1の電圧は、電子銃6の電子ビームが絶縁体膜に到達しないよう電子ビーム強度より高い電圧にコントロールされる。
陽極2は、直管状であって、管状導体1の中心軸線上に配置され、絶縁材21により管状導体1の内面で支持されている。陽極2は、プラスの高圧電源22に接続されてプラスに帯電されている。陽極2の一端は閉じており、管状導体1の外部に突出している。陽極2の他端は、管状導体1の内部で開いている。
【0014】
入射管3は、直管状で、マイナスの高圧電源11に接続されてマイナスに帯電可能であって、内面が絶縁体膜で被覆されている。入射管3は、トーラス回転軸線に対しねじれの位置にあり、管状導体1のトーラス回転軸線の垂直面に沿って管状導体1の最大径の外側内面接線方向に伸びている。入射管3は、一端に入射口31を有し、他端32が管状導体1と結合して管状導体1の内部に連通している。入射管3は、入射口31の周囲に入射管用陽極33が設けられている。入射管用陽極33は、プラスの高圧電源22に接続されてプラスに帯電されている。
【0015】
タンク4は、水素ガス、重水素ガスまたはヘリウムガスを内部に収容し、供給管41に供給可能である。供給管41は、プラスの高圧電源22に接続されてプラスに帯電されている。供給管41は、陽極2およびタンク4に接続され、タンク4から陽極2を通して管状導体1の内部に水素ガス、重水素ガスまたはヘリウムガスを供給するようになっている。供給管41には、バルブ42が設けられている。
真空チャンバ5は、真空ポンプ51に接続され、内部を真空に減圧可能となっている。真空チャンバ5は、内部が入射管3の一端の入射口31に連通している。
電子銃6は、真空チャンバ5に接続され、真空チャンバ5の内部を通して入射口31から管状導体1の内部に電子ビームを入射して、マイナスに帯電した管状導体1で電子ビームを反射させ、タンク4から管状導体1の内部に供給されるガスをプラズマ化させるようになっている。電子銃6により照射される電子ビームは、500mAの1keVから50keV程度で、連続照射が可能であることが好ましい。
【0016】
冷却器7は、円筒状であって管状導体1を同心状に包囲している。管状導体1は、冷却器7の内部で冷却器7の内壁から離れた状態で絶縁体71により支持されている。冷却器7は、注水口72と排水口73とを有している。注水口72には、ポンプ74が接続されている。ポンプ74には、例えば、吐出圧力10気圧のポンプが用いられる。冷却器7は、内部に循環する流水経路を有している。循環する流水は、純水から成る。
X線スペクトロメータ8は、真空チャンバ5から放射されるX線を観測するよう真空チャンバ5に接続されている。X線スペクトロメータ8で、入射管3を通して漏れ出てくる電磁波のX線を観測し、そのスペクトル分析をすることによって管状導体1の内部のプラズマ温度を測定することができる。
ガス流量調節器9は、タンク4と供給管41との間に接続され、タンク4から供給管41に供給されるガスの流量を調節可能となっている。
温度計10は、冷却器7の内部の流水の温度を測定可能となっている。
【0017】
次に、作用について説明する。
プラズマ加熱装置は、電子銃6により真空チャンバ5の内部を通して入射管3の入射口31から管状導体1の内部に接線方向に電子ビームを入射させる。入射した電子ビームは、マイナスに帯電した管状導体1の内面で、マイナス電位とのクーロン力によって内側側面に沿った方向に跳ね返されて反射を繰り返し、次第に電子ビームは管状導体1の内部全体に拡散する。
電子ビームとのクーロン衝突によって、タンク4から供給管41および陽極2を通して管状導体1の内部に供給された水素ガス、重水素ガスまたはヘリウムガスは加熱され、プラズマ化する。電子ビーム照射を続けると、電子温度および陽子温度は、やがて熱的平衡状態になり電子ビームの温度と同じ温度になる。こうして、水素ガス、重水素ガスまたはヘリウムガスのプラズマ化により、効率的に高温を発生させることができる。また、入射した電子ビームの過剰な電子は、陽極2に吸収され、熱を発生させる。
【0018】
さらに、+1000Vの供給管41から管状導体1の内部に水素ガス等を少しずつ注入しながら、500mA、1keV程度の直流の電子ビーム照射を続けると、プラズマ化により発生する陽子の温度はやがて電子の温度と同じ温度になり、その陽子は周囲の-1000Vのマイナスに帯電した管状導体1の内面に向かう。その陽子は、管状導体1の内面の絶縁体膜に侵入して、その陽子速度(1keV)に対応する一定の深さで重い陽イオン層を形成する(ブラッグピーク)。この重い陽イオン層は、電子ビーム照射を続けながら管状導体1の内部にタンク4の水素ガス等を継続して供給することにより厚くすることができる。
【0019】
重い陽イオン層がラザフォード後方散乱を引き起こすのに十分な厚さになったならば、管状導体1の内面のマイナス帯電圧を-10,000V、陽極2を+10,000Vに設定するとともに、照射する電子ビームを500mA、10.000Vに設定する。そして、管状導体1にごく少量の水素ガス等を再注入することにより、新たに発生する陽子はマイナスに帯電した管状導体1の内面に向かう。しかし、重い陽イオン層に近づくと、クーロン力は距離の2乗に反比例して強くなることから、その陽子は、重い陽イオン層を形成する陽イオンによって跳ね返され、管状導体1の内部に戻される(ラザフォード後方散乱)。そのため、これらの陽子は、管状導体1の内部で電子ビーム照射に起因する加熱を受け続け、高温のプラズマになる。
【0020】
なお、入射管3は入射口31の周囲に入射管用陽極33が設けられ、供給管41はプラスの高圧電源22によりプラスに帯電されているので、管状導体1の内部で発生した陽子が入射管3および供給管41から外に漏れ出るのを防ぐことができる。入射管用陽極33および供給管41は、電子ビームの照射により管状導体1の内部で余剰となる電子を吸収し、プラズマ加熱装置の外に運び出す役割も果たす。
【0021】
プラズマが高温になると、その粒子の管状導体1の内面への衝突によりプラズマ圧力が発生する。その圧力は、10keVの電子ビームの照射により発生するプラズマ温度の1億度(10keV)では、常温である300Kのプラズマ圧力が約30万倍の圧力になる。そのため、プラズマ加熱過程の初期状態の水素ガス等の圧力が10万分の1気圧程度になるように水素ガス等の注入量を調整する。しかし、その場合でも管状導体1にかかる内圧は6気圧程度になる。そこで、管状導体1の破裂を防ぐため、ポンプ74を用いて、冷却器7の内部の水圧を高めることが望ましい。管状導体1の温度は、冷却器7の流水経路を流れる水により下げることができる。流水経路を流れた高温の水は、発電や暖房などに利用することができる。
管状導体1の内部のプラズマ温度は、X線天文学と同じように、電子ビーム入射管3を通して漏れ出てくる電磁波のX線を観測し、そのスペクトル分析をすることによって測定できる。
【符号の説明】
【0022】
1 管状導体
2 陽極
3 入射管
4 タンク
5 真空チャンバ
6 電子銃
7 冷却器
8 X線スペクトロメータ
9 ガス流量調節器
10 温度計
11 マイナスの高圧電源
21 絶縁材
22 プラスの高圧電源
31 入射口
32 入射管の他端
33 入射管用陽極
41 供給管
42 バルブ
51 真空ポンプ
71 絶縁体
72 注水口
73 排水口
74 ポンプ
【要約】
【課題】効率的に高温を発生させることができるプラズマ加熱装置を提供する。
【解決手段】管状導体1が円筒状の内面を有し、マイナスに帯電可能で内面が絶縁体膜で被覆される。管状の陽極2が管状導体1の内部に絶縁材で支持される。入射管3がマイナスに帯電可能であって内面が絶縁体膜で被覆され、管状導体1の内面接線方向に伸び、一端に入射口を有し、他端が管状導体1の内部に連通する。タンク4から供給管41と陽極2を通して管状導体1の内部に水素ガス等を供給する。真空チャンバ5が真空ポンプ51に接続されて内部が入射管3の一端に連通する。電子銃6が真空チャンバ5の内部を通して入射口から管状導体1の内部に電子ビームを入射して、マイナスに帯電した管状導体1で反射させ、タンク4から管状導体1の内部に供給されるガスをプラズマ化させる。冷却器7が管状導体1を包囲し、内部に流水経路を有する。
【選択図】図1
図1
図2