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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-01-07
(45)【発行日】2022-01-21
(54)【発明の名称】胚培養装置およびその撮像装置
(51)【国際特許分類】
   C12M 3/00 20060101AFI20220114BHJP
   C12M 1/34 20060101ALI20220114BHJP
【FI】
C12M3/00 Z
C12M1/34 D
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2021536034
(86)(22)【出願日】2021-01-20
(86)【国際出願番号】 JP2021001845
【審査請求日】2021-07-28
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】510212111
【氏名又は名称】医療法人浅田レディースクリニック
(74)【代理人】
【識別番号】110000028
【氏名又は名称】特許業務法人明成国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】福永 憲隆
【審査官】鈴木 崇之
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-093795(JP,A)
【文献】国際公開第2011/004568(WO,A1)
【文献】特表2018-512116(JP,A)
【文献】特表2016-512959(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12M 1/00-3/10
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
PubMed
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
授精処置済の処置卵を培養環境に保持する胚培養装置であって、
処置卵をそれぞれ収容可能な凹部を複数備えたトレイを複数収容して、前記培養環境に保持する培養部と、
複数の撮像部であって、前記培養部に保持された前記トレイの一つ一つに対応して設けられ、連続的にあるいは断続的に前記トレイの存在部位のうち、前記複数の凹部の少なくとも2以上を一度に撮像する複数の撮像部と、
前記各撮像部によって撮像された画像を、前記複数の凹部が含まれる領域毎に分割して記憶する記憶部と、
前記分割して記憶された凹部ごとの画に対して、前記トレイにおける前記凹部の位置により生じる画像上の差異を補正する補正部と、
前記補正後の画像を用いて、前記処置卵の受精判断を行なう判断部と、
を備えた胚培養装置。
【請求項2】
前記補正は、前記撮像部が設けられた前記トレイ毎の撮像条件に応じた補正である、請求項1に記載の胚培養装置。
【請求項3】
前記撮像部は、前記トレイに設けられた前記複数の凹部の全部を一度に撮像する、請求項1または請求項2に記載の胚培養装置。
【請求項4】
前記撮像に異常が生じたとき、前記生じた異常の内容を提示する提示部を備える、請求項1から請求項3のいずれか一項に記載の胚培養装置。
【請求項5】
前記異常の内容は、
〈1〉前記撮像部による撮像ができないこと、
〈2〉撮像位置毎の補正が正常にできないこと、
〈3〉前記撮像部に設けられた撮像用の照明が正常に点灯しないこと、
〈4〉前記画像の分割や保存が正常にできないこと
のうちの少なくとも一つである、請求項4に記載の胚培養装置。
【請求項6】
前記培養部は、前記トレイごとに区画された複数の培養室からなる、請求項1から請求項5のいずれか一項に記載の胚培養装置。
【請求項7】
前記撮像部は、前記培養室の上面、側面、底面のうちの少なくとも1つの面に、前記トレイの存在部位に対向して設けられた、請求項6記載の胚培養装置。
【請求項8】
請求項7に記載の胚培養装置であって、
前記撮像部は、前記撮像において合焦の位置が異なる複数の画像の撮像を行なう撮焦点深度変更部を備え、
前記記憶部は、前記合焦の位置の異なる複数の画像をひとまとまりの画像として記憶する
胚培養装置。
【請求項9】
光源からの光を導いて、前記複数のトレイの各々の少なくとも前記処置卵の存在部位を照らす光ガイドを備える、請求項1から請求項8のいずれか一項に記載の胚培養装置。
【請求項10】
前記培養部に保持され得る前記複数のトレイに対応して設けられ、前記判断部が少なくとも一つの前記凹部内の前記処置卵が受精したと判断したとき、前記受精したと判断された処置卵を収容する前記トレイを特定した報知を行なう報知部を備えた、請求項1から請求項9のいずれか一項に記載の胚培養装置。
【請求項11】
授精処置済の処置卵をそれぞれ収容可能な凹部を複数備えたトレイを複数収容して培養環境に保持する胚培養装置の培養部に取り付けられる撮像装置であって、
前記培養部に保持された前記複数のトレイの一つ一つに対応して設けられ、連続的にあるいは断続的に前記トレイの存在部位のうち、前記複数の凹部の少なくとも2以上を一度に撮像する複数の撮像部と、
前記各撮像部によって撮像された画像を、前記複数の凹部が含まれる領域毎に分割して記憶する記憶部と、
前記分割して記憶された前記凹部ごとの画に対して、前記トレイにおける前記凹部の位置により生じる画像上の差異を補正する補正部と、
前記補正後の画像を表示する表示部と
を備えた胚培養装置用の撮像装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、胚を培養する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
不妊治療に対する社会的要請が高まっており、顕微鏡下等で授精処置を施した処置卵を培養する装置が種々提案され、あるいは販売されている。近年では、こうした培養装置内にカメラを設けて、培養中の処置卵を撮像し、必要に応じて、撮像した画像を外部のディスプレイに表示する装置も普及している(例えば、特開2012-39929号公報参照)。こうした胚培養装置では、処置卵は、これを安定に保持するトレイ(ディッシュとも言う)に入れられ、トレイごと、所定のインターバルで、カメラの視野内に搬送され、撮像される。胚培養士は、この画像を観察することで、受精の可否を判断することができるので、処置卵を、観察するためだけに培養装置の外部に取り出す必要がない。
【0003】
他方、不妊治療の高まりに応じて、一つの胚培養装置内で多数の処置卵を培養したいという要請があり、胚培養装置内に、複数のトレイを収納することが行なわれている。そうなると、授精処置を施した処置卵を撮像する上で以下の問題を生じる。こうした課題は、顕微授精処理した受精卵に限らず、何らかの手法で体外授精処理した処置卵を培養する場合に生じる。
【0004】
[1]一つの処置卵を撮像する時間間隔が長くなる。一つの処置卵が保持されたトレイを搬送し撮像するのに、例えば2分かかるとすると、一台の胚培養装置内に、10個のトレイを収容している装置では、1トレイあたり、20分に一枚の画像しか得ることができない。トレイの収納数を増加すればするほど、撮像装置までの搬送路が長くなり、時間がかかることになるから、撮像から次回の撮像までのインターバルは等比級数的に増加する。このため、一台の胚培養装置に収容できるトレイの数が制限されてしまう。
【0005】
[2]トレイを搬送する構造が複雑化し、故障しやすくなる。仮に搬送機構に不具合が生じて搬送が停止すると、そのトレイは本来の培養空間、通常は恒温・恒湿環境に保持された培養空間の外に置かれることになり、悪影響を受けやすくなる。もとより、搬送路や撮像箇所も含めて恒温・恒湿環境に保持すれば、こうした悪影響は最小限に留められるが、その分、装置構成が大型化しやすいという課題を生じる。
【0006】
[3]一つの撮像装置により複数のトレイの処置卵を撮像するので、撮像画像の管理が複雑化する。また撮像できていないといった場合、これに気づくのが遅れると、培養中の処置卵の画像が不十分となり、例えば受精判定などを正確に行なうことが困難になる。
【発明の概要】
【0007】
本開示は、上述の課題の少なくとも一部を解決するためになされたものであり、以下の態様又は適用例として実現することが可能である。
【0008】
(1)本開示の様々な実施の態様について、以下説明する。第1の態様は、授精処置済の処置卵を培養環境に保持する胚培養装置として態様である。この胚培養装置は、処置卵をそれぞれ収容可能な凹部を複数備えたトレイを複数収容して、培養環境に保持する培養部と、複数の撮像部であって、培養部に保持されたトレイの一つ一つに対応して設けられ、連続的にあるいは断続的にトレイの存在部位のうち、複数の凹部の少なくとも2以上を一度に撮像する複数の撮像部と、各撮像部によって撮像された画像を、複数の凹部が含まれる領域毎に分割して記憶する記憶部と、記憶された各凹部ごとの画像を補正する補正部と、補正後の画像を用いて、処置卵の受精判断を行なう判断部とを備える。この胚培養装置によれば、トレイ毎に設けられた撮像部によって、処置卵を収容可能な複数の凹部を一度に撮像でき、その後、これを凹部毎に分割し、分割された画像をそれぞれ補正することができる。このため、一度に複数の凹部を撮像しながら、各凹部に収容された処置卵の画像を補正するので、受精判断を、より正確に行なうことができる。
【0009】
(12)第2の態様は、授精処置済の処置卵をそれぞれ収容可能な凹部を複数備えたトレイを複数収容して培養環境に保持する胚培養装置の培養部に取り付けられる撮像装置としての態様である。この撮像装置は、培養部に保持された複数のトレイの一つ一つに対応して設けられ、連続的にあるいは断続的にトレイの存在部位のうち、複数の凹部の少なくとも2以上を一度に撮像する複数の撮像部と、各撮像部によって撮像された画像を、複数の凹部が含まれる領域毎に分割して記憶する記憶部と、記憶された各凹部ごとの画像を補正する補正部と、補正後の画像を表示する表示部とを備える。この撮像装置によれば、トレイ毎に設けられた撮像部によって、処置卵を収容可能な複数の凹部を一度に撮像でき、その後、これを凹部毎に分割し、分割された画像をそれぞれ補正することができる。このため、一度に複数の凹部を撮像しながら、各凹部に収容された処置卵の画像を補正し、これを表示するので、処置卵の状況を、正確に知ることができる。
【0010】
本開示は、こうした胚培養装置や、胚培養装置用の撮像装置としてだけでなく、他の態様でも実施することができる。例えば、胚培養方法、胚培養装置に撮像装置を取り付ける方法、胚培養装置の製造方法、胚培養装置に収容された処置卵の観察方法、あるいは処置卵の受精判定装置およびその方法としても実施することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】第1実施形態としての胚培養装置の平面図であり、
図2】胚培養装置の一部を示す斜視図であり、
図3】培養室の一つを例示する平面図であり、
図4】タイムラプス部を含む胚培養装置の電気的な構成を示す説明図であり、
図5】処置卵を収容するトレイの一例を示す平面図であり、
図6】タイムラプス部とトレイのウエルとの関係を説明する説明図であり、
図7A】タイムラプス部の内部構成を示す説明図であり、
図7B】カメラモジュールの構成を示す説明図であり、
図8】培養ユニット制御ルーチンを示すフローチャートであり、
図9】ディスプレイモジュールの正常時と異常時の表示例を示す説明図であり、
図10】タイムラプス制御処理ルーチンを示すフローチャートであり、
図11】ウエル内の処置卵の撮像と補正の一例を示す説明図であり、
図12】カメラユニットによる撮像の際に、合焦の位置を調整する原理を示す模式図であり、
図13】処置卵を収容するマイクロウエルを備えたディッシュの説明図であり、
図14】カメラユニットを培養室の側面に設けた場合の構成例を示す模式図であり、そして
図15】トレイを側面から見た場合のウエルとウエルに収容された処置卵との関係を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
A.第1実施形態:
第1実施形態について説明する。図1は、胚培養装置(インキュベータとも呼ぶ)10の平面図、図2は、胚培養装置10の一部を示す斜視図、である。この胚培養装置10は、体外受精の処置がなされた卵子(以下、処置卵という)を一定期間、所定の培養環境、即ち恒温・恒湿度で培養するためのものである。処置卵は、必ずしも受精卵とは限らないため、胚培養装置10において所定の期間培養される。なお、体外受精の処置は顕微鏡下で行なわれる顕微授精の場合もあれば、卵子と精子を所定の容器内で一緒にして行なわれる通常の体外受精の場合も有り得る。培養する処置卵の受精の手法は問わない。
【0013】
この胚培養装置10は、図1に示したように、12個の培養ユニット11~22を備える。培養ユニットの数は問わない。各培養ユニット11~22の構成と働きについては、後述する。この培養ユニット11~22は、フラットなケース本体9に前後2列、幅方向に6つずつ設けられている。各培養ユニット11~22には、それぞれに対応して、スイッチSW11~SW22が設けられている。これらのスイッチSW11~22を操作することで、対応する培養ユニット11~22のタイムラプス部50が、図示しない駆動機構によって開閉される。もとより、培養ユニット11~22は、手動で開け閉めする構造であっても差し支えない。
【0014】
図2は、培養ユニット12において、タイムラプス部50が開かれた状態を示している。タイムラプス部50は、カメラモジュール51とディスプレイモジュール52とからなる。カメラモジュール51とディスプレイモジュール52とは、同寸で、一体に形成されている。カメラモジュール51には、4つのカメラユニットCA1~CA4が設けられている。これらの構造と働きについては後述する。各培養ユニット11~22には、それぞれ培養室R11~R22(図3参照)が用意されており、各培養室R11~22それぞれのタイムラプス部50は、対応する培養室R11~R22に対して、蓋としても働く。タイムラプス部50のカメラモジュール51側外周には、シリコンゴムのシール部が設けられており、タイムラプス部50が閉まると、培養室R11~R22内は、このシール部により、所定気圧以下の気密状態に保たれる。
【0015】
胚培養装置10には、外部のガスボンベから二酸化炭素ガス(CO)と窒素ガス(N)とが供給される。これらのガスが供給されガスポート31,32が、胚培養装置10の背面に設けられている。また、胚培養装置10の背面にはフィルタ34が取り付けられるフィルタポート35,36も設けられている。このフィルタ34は、図示しない内蔵ポンプにより取り込む外気中の塵などの異物を取り除くためのものである。胚培養装置10内では、ガスポート31、32から入力した二酸化炭素ガスCO、窒素ガスN、およびフィルタ34を介して入力した空気を、所定の割合に混合して混合気を生成する。混合気における各ガスの割合は、図示しないセンサにより測定され、常時おなじ割合に保たれる。
【0016】
図3は、培養室R11~R22の一つを示す平面図である。図示する様に、培養室R11~R22は、処置卵を収めたトレイ(ディッシュとも呼ぶ)を載置する窪んだトレイ収容部40が設けられている。トレイ91の形状は図5に示した。トレイ収容部40は、トレイ91の形状に合わせた形状とされている。本実施形態では、トレイ収容部40は、長方形状の凹みの1箇所が外方に拡張された形状(拡張部42)をしており、トレイ91も同様に、1箇所が外方に突き出た形状(突出部92)をしている。このため、トレイ収容部40は、前後および左右のいずれをとっても中心線に対して線対称ではない形状とされている。従って、トレイ収容部40にトレイ91を載置する際、載置する方向を誤ることがない。もとより、誤載置の防止は、他の方法、例えば電気的な検出などによっても良く、トレイ収容部40やトレイ91の形状は、左右および/または前後に線対称としても差し支えない。またトレイ91にマーカーを設け、載置方向などによらず、撮像した画像から、トレイ91の配置(向きなど)、あるいは直接処置卵を特定するようにしてもよい。
【0017】
培養室R11~22の底面には、供給口43と排気口44とが設けられている。供給口43は、混合気を培養室R11~R22に供給するための開口である。また排気口44は、混合気を還流するための開口である。既述したように、培養室R11~R22は、タイムラプス部50が閉じられるとほぼ気密にされるので、内部のガス環境は一定に保たれるが、培養室R11~R22内の温度分布を一様なものにするために、混合気は供給口43から供給され、排気口44から排気される。なお、混合気の一部は、タイムラプス部50とのシール部からも僅かに漏れる。そうすることで、タイムラプス部50とのシール部から外気が侵入することを防いでいる。
【0018】
培養室R11~R22の各々には、その側壁および底面にパネルヒータH11~H22が設けられている。ヒーターH11~H22は、側壁のみあるいは底面のみに設けても良い。あるいは独立のヒーターを培養室R11~R22に設けても良い。更に、蓋側にも設けても良い。パネルヒータH11~H22により、培養室R11~R22内を一定の温度に保たれる。なお、説明は省略するが、培養室R11~R22には、図示しない温度センサやガス濃度センサ、更には湿度センサなどが設けられており、培養室R11~R22内の温度、ガス濃度、湿度を検出することができる。これらのセンサからの信号をフィードバックすることにより、結果的に、培養室R11~R22内は、恒温・恒湿度に保たれ、かつそのガス濃度も一定に保たれる。なお、培養室R11~R22内の温度等を検出する代わりに、供給口43から供給される混合気の温度、湿度、ガス濃度などを一定に保つことで、培養室R11~R22内の環境を一定に保つものとしても良い。
【0019】
次に、タイムラプス部50について説明する。図4は、タイムラプス部50を含む胚培養装置10の電気的な構成を示す説明図である。図示する様に、胚培養装置10には、制御部60が設けられている。制御部60は、周知のCPU61、ROM62、RAM63の他、メモリカード65とのデータのやり取りを行なうためのメモリインタフェース64、外部の機器との信号をやり取りする汎用I/Oインタフェース66、培養室R11~R22内の環境を制御するための信号をやり取りする培養室インタフェース67、タイムラプス部50との間でシリアル通信を行なうSIO68等を備える。メモリカード65には、各培養室R11~R22の温度など、環境に関する情報が記録される。
【0020】
汎用I/Oインタフェース66は、胚培養装置10に設けられたスイッチSW11~SW22や、タイムラプス部50の開閉を行なう駆動装置71、警告音を発生する警告装置72、混合気を調整する混合気調整装置73等に接続されている。混合気調整装置73は、ガスポート31,32に供給される二酸化炭素ガスや窒素ガスなどの圧力を調整する圧力調整弁や、フィルタ34を介して大気を取り込むためのポンプや、培養室R11~R22に混合気を送り込むポンプなどを含む。培養室インタフェース67には、各培養室R11~R22にに設けられたパネルヒータH11~H22や、混合気の供給量を制御する制御弁V11~V22などが接続されている。制御弁V11~V22は、混合気を供給する混合気供給配管84から培養室R11~R22に至る配管に設けられている。
【0021】
タイムラプス部50のカメラモジュール51には、4つのカメラユニットCA1~CA4が設けられていることは既に説明した。これらのカメラユニットCA1~CA4は、図5図6に示すように、トレイ91の設けられた凹部であるウエル95を撮像する。トレイ91においてウエル95は、図示するように、4つずつ、4箇所にまとめられた形態で配置されている。カメラユニットCA1~CA4は、それぞれのまとまりに対応して設けられている。図5に示したエリアU1~U4は、カメラユニットCA1~CA4それぞれの撮像エリアを示している。即ち、各カメラユニットCA1~CA4は、一度に4つのウエル95を含む領域を撮像可能である。カメラユニットCA1~CA4のレンズの周りは、LEDからの光を導く光ガイドが設けられている。カメラユニットCA1~CA4は、撮像時に、光ガイドからの光をトレイ91に向けて照射する。
【0022】
各カメラユニットCA1~CA4は、更に多数のウエル95を一度に撮像するようにしてもよい。例えば、カメラユニットCA1を16個のウエル95の中心に設け、一度に4つのエリアU1~U4を一つのカメラユニットCA1で撮像するようにしてもよい。あるいは、カメラユニットCA1とカメラユニットCA4のみを設け、各カメラユニットCA1がエリアU1とU2を撮像し、カメラユニットCA4がエリアU3とU4とを撮像する様にしてもよい。更に、4つのカメラユニットCA1~CA4が、それぞれ隣接するエリアU1~U4を重複して撮像するようにしてもよい。こうすれば、後述するように、一つのカメラユニットが故障して、撮像できない場合でも、他のカメラユニットの映像を利用することで、全てのエリアU1~U4のウエル95の画像を取得できる。
【0023】
撮像の様子を図6に模式的に示した。ウエル95は、トレイ91の底部に設けられており、一つのウエル95には、基本的に一つの処置卵25が置かれ、ミネラルオイル93により覆われている。各カメラユニットCA1~CA4は、トレイ91の上方から4つのウエル95を含む領域U1~U4を撮像する。撮像した画像内には、処置卵25の画像が含まれる。カメラユニットCA1~CA4は、撮像する際の焦点位置を数十μmの精度で調整可能である。カメラユニットCA1~CA4による処置卵25の撮像の様子については、後で説明する。
【0024】
次に、タイムラプス部50の内部構成について説明する。図7Aは、タイムラプス部50の内部構成を示す説明図である。図示するように、タイムラプス部50は、既述したカメラモジュール51およびディスプレイモジュール52の他に、周知のCPU53、ROM54、RAM55,デジタルシグナルプロセッサ(DSP)56、SIO57,メモリインタフェース58、カメラインタフェース81,表示インタフェース82などを備える。DSP56は、デジタル信号を高速に処理可能なプロセッサであり、機械学習に適した重み付け演算処理を多数層に亘って処理可能な構成を備えている。
【0025】
メモリインタフェース58には、メモリカード59が装着可能である。このメモリカード59には、後述するように、カメラモジュール51により撮像された画像が記録される。表示インタフェース82は、ディスプレイモジュール52と接続され、ディスプレイモジュール52に表示する画像信号の出力や、ディスプレイモジュール52に設けられたタッチパネルからの信号の入力などを行なう。カメラインタフェース81は、カメラモジュール51と接続され、カメラモジュール51の各カメラユニットCA1~CA4の焦点位置を制御する信号のやり取りや、各カメラユニットCA1~CA4が撮像した画像の信号を受け取るといった処理、更には撮影時に点灯されるLEDへの信号出力を行なう。尚、メモリインタフェース58等の「インタフェース」は、図においては、「I/F」と略記した。
【0026】
カメラモジュール51における照明について、図7Bを用いて説明する。図示するように、カメラモジュール51には、LEDモジュール83が付設されている。LEDモジュール83には、各カメラユニットCA1~CA4に対応して、照明用LEDを用いた発光素子LE1~LE4が設けられている。発光素子LE1~LE4は、それぞれ、カメラインタフェース81からの信号に応じて、点灯・消灯する。デフォルトでは、発光素子LE1~LE4は消灯している。なお、発光素子LE1~LE4は、発光ダイオード(LED)以外の発光素子、例えば有機ELなどであっても差し支えない。また常時点灯しているキセノンランプなどを、タイムラプス部50の外部に設け、その光に光ファイバなどで、タイムラプス部50内部に持ち込み、光スイッチなどで、カメラモジュール51への導光をオン・オフするようにしてもよい。
【0027】
各発光素子LE1~LE4は、発光面がカメラモジュール51側を向いており、この発酵面には、カメラモジュール51に形成された導光路LG1~LG4の端面が接している。導光路LG1~LG4は、いわゆる光ガイドであり、光ファイバと同様に、コアとクラッドからなり、端面から入射した光が外部に漏れることなく、円環状の終端まで導かれる。導光路LG1~LG4をそれぞれ導かれた各発光素子LE1~LE4の光は、円環状の終端から、各カメラユニットCA1~CA4の撮像方向に、つまり図6におけるウエル95方向に射出する。各発光素子LE1~LE4の発光は、処置卵25に影響を与えない波長が選択されている。なお、ウエル95を照らす光の周波数は、処置卵25における受精の際に現れる前核が見えやすい、つまり前核と前核以外の部位では光の吸収や反射がの程度が大きく異なる周波数とすることも好適である。
【0028】
以上説明した第1実施形態のハードウェア構成を前提として、胚培養装置10は、以下の処理を行なう。本実施形態では、胚培養装置10の制御部60が全体の制御を司り、タイムラプス部50のCPU53が処置卵25の撮像や表示を司る。まず、全体の処理について、図8に拠って説明する。図8は、培養ユニット制御ルーチンを示すフローチャートである。この処理は、制御部60により実行される。
【0029】
図8に示した培養ユニット制御ルーチンは、胚培養装置10に電源が投入されると、所定のインターバルで、繰り返し実行される。この処理ルーチンを開始すると、まずどの培養ユニットについての処理を行なうかを決定する(ステップS200)。実際には、処理対象とする培養ユニット11~22を特定する変数nを、数値11~22の間で順次インクリメントすることで、処理対象とする培養ユニットを特定する。なお、変数nは、順次インクリメントされ、値22に至ると、次のインクリメントで値11に設定される。つまり、各培養ユニット11~22は、12回に1回ずつの割合で処理の対象となる。ステップS200で処理の対象となる培養ユニットの番号nを決定すると、次に、その培養ユニットnに関するフラグFnが値1であるか否かの判断を行なう(ステップS205)。フラグFnは、胚培養装置10の電源が投入されたときに、値0にリセットされている。
【0030】
従って、各培養ユニット11~22の使用が開始される前は、フラグFnの値は値1ではないと判断され、次に使用前表示を行なう(ステップS210)。使用前表示とは、処理対象となっている培養ユニットnのタイムラプス部50にSIO68を介して信号を送り、その培養ユニットnが使用前であることを表示させる処理である。表示の一例を図9の(A)に示した。従って、使用前の培養ユニットのタイムラプス部50のディスプレイモジュール52には、全て「使用を開始する場合は、『開始』をタップして下さい」という説明文が表示され、タッチスクリーンには、「開始」ボタン76が表示されていることになる。
【0031】
次に、画面の「開始」ボタン76がタップされたかを判断し(ステップS225)、「開始」ボタン76がタップされていれば、次に、蓋が開閉されたかの判断を行なう(ステップS230)。蓋、つまりタイムラプス部50の開閉は、使用しようとしている各培養ユニットnに対応するスイッチSWnが操作された時に行なわれる。スイッチSWnを操作して、使用しようとしている培養ユニットnのタイムラプス部50を開き、処置卵25をウエル95を収めたトレイ91を培養室Rnに配置し、再度スイッチSWnを操作して、タイムラプス部50を閉める。これで、蓋の開閉が行なわれたと判断される。
【0032】
蓋の開閉が行なわれた場合には、培養室Rnにトレイ91が配置されたと判断し、開始処理(ステップS240)を実行した上で、フラグFnを値1に設定した後(ステップS255)、「NEXT」に抜けて本処理ルーチンを一旦終了する。ここで、開始処理(ステップS240)とは、培養室Rn内の温度やガス濃度などを所望の状態にした上で、タイムラプス処理の開始をタイムラプス部50に指示する処理を意味する。また、フラグFnが値1であるとは、培養室Rnが使用中であること示す。開始処理が実行されると、ディスプレイモジュール52に対し、培養室内の情報を表示させる。この一例を図9の欄(B)に示した。この例では、「培養とタイムラプス処理を開始します」と表示し、かつその下に現在の培養室Rnの情報を表示する。具体的には、撮像の開始時間や経過時間、撮像の間隔などの撮像に関する情報、培養室内の環境、つまり温度や湿度の情報、更にはガス濃度などの情報を表示する。温度やガス濃度は、図示しないセンサにより検出している。こうした情報に加えて処置卵の患者を特定する情報、例えばカルテ番号等を表示してもよい。
【0033】
こうして、培養が開始され、フラグFnが値1に設定されると、次に本処理ルーチンが起動され、ステップS200によって培養室Rnが特定されたタイミングでは、ステップS205での判断は「YES」となり、ステップS260に処理は移行する。ステップS260では、タイムラプス処理の継続をタイムラプス部50に指示する。タイムラプス部50が実行するタイムラプス処理については、図10を用いて後で詳しく説明するが、簡単に言えば、培養室内のトレイ91の各ウエル95を複数個まとめて撮像し、これをウエル95毎に分割して保存し、ウエル95内の各処置卵25の受精の可能性を個別に判断し、必要な画像をディスプレイモジュール52に表示する処理である。
【0034】
こうしたタイムラプス処理の継続をタイムラプス部50に指示した後、使用終了の指示を受け付けたか否かの判断を行なう(ステップS265)。使用終了の指示は、ディスプレイモジュール52のタッチパネルを胚培養士が操作することにより得られる。使用終了の指示がなければ、そのまま「NEXT」に抜けて本処理ルーチンを一旦終了する。使用終了の指示があれば、蓋の開閉がなされたかを判断し(ステップS270)、開閉がなされたことを確認した後、終了処理(ステップS280)を実行する。終了処理は、培養室Rn内の温度制御などを終了する処理である。その後、フラグFnを値0に設定し(ステップS295)、本処理ルーチンを一旦終了する。
【0035】
次に、タイムラプス処理について、図10に拠って、説明する。図10は、タイムラプス制御処理ルーチンを示すフローチャートである。この処理は、図8のステップS240で開始処理がなされたタイムラプス部50において、ステップS280での終了処理がなされるまで、所定のインターバルで、繰り返し実行される。
【0036】
図10に示したタイムラプス制御処理が開始されると、まず処置卵の画像の撮像が前回行なわれてから、所定時間経過したかを判断する(ステップS300)。ここで所定時間とは、図9の欄(B)に示された撮像間隔に相当する。もとより、図9の欄(B)に例示した10分ではなく、もっと短い時間でも長い時間でも差し支えない。前回撮像を行なってから、所定時間が経過していれば(ステップS300:「YES」)、撮像処理を行なう(ステップS310)。撮像は、複数のウエル95をまとめて、つまり各カメラユニットCA1~CA4がそれぞれ領域U1~U4に存在する4個のウエル95をまとめて撮像する。撮像した画像は、撮像時刻のデータと共に、メモリカード59に保存される。
【0037】
撮像処理(ステップS310)では、一つのタイムラプス部50のカメラモジュール51に存在する4つのカメラユニットCA1~CA4を同時に、または順次駆動することにより行なわれる。図5に示したように、各カメラユニットCA1~CA4を動作させることにより、トレイ91の16個のウエル95に収容された処置卵25の状態が撮像される。この様子を図11に示した。カメラユニットCA1~CA4のそれぞれは、領域U1~U4を撮像するが、その中には4つのウエル95が含まれている。
【0038】
各カメラユニットCA1~CA4による撮像は、トレイ91の上方から行なわれる。このとき、カメラユニットCA1~CA4は、焦点位置を移動させながら、一つのウエル95辺り5枚の画像を撮像する。この様子を図12に示した。図12では、模式的にレンズL1,L2をカメラユニットCA1の外に描いたが、実際には、レンズL1,L2は、カメラユニットCA1に内蔵されている。レンズL1,L2の少なくともいずれか一方を光軸に沿って前後に移動することにより、カメラユニットCA1の焦点位置は、中央位置GL0に対して、カメラユニットCA1から遠い側である位置GL+1,更に遠い位置GL+2、カメラユニットCA1に近い側である位置GL-1,更に近い位置GL-2に変化し得る。処置卵25の大きさは、人の卵子であれば、100~150μm程度なので、各位置間の相違は、おおよそ20~25μmに設定されている。この場合、カメラユニットCA1~CA4のレンズ構成は、焦点深度の浅いものとされており、各焦点位置での撮像の範囲は25~30μmに合焦したものとなる。こうした一つのカメラユニットCA1~CA4当り、5枚の画像を撮像する。焦点位置の異なる画像を複数枚撮像するのは、処置卵25において、受精の判断をする際に手がかりとなる前核等の存在位置が、略球体である処置卵25のいずれの位置に存在するかは分からないからである。なお、こうした焦点位置の変更を行なわず、焦点深度の深いレンズ構成で、単一の画像を撮像するものとしてもよい。
【0039】
撮影処理をした後、撮影した画像を、ウエル95毎に分割する処理を行なう(ステップS330)。ここでは、カメラユニットCA1~CA4のそれぞれが撮影する領域U1~U4には、それぞれ4つのウエル95が存在するので、撮影した画像は4つに分割される。分割した画像に対して、次にこれを補正する処理を行なう(ステップS340)。補正は、画像の歪みや汚れを取るために行なう。複数のウエル95を一度に撮像するため、全てのウエル95を、カメラユニットCA1~CA4の光軸の真下に存在させることはできない。このため、各ウエル95を撮像した画像には歪みが生じる。カラー画像の場合には、収差によるボケや色付きが生じる場合も存在する。
【0040】
そこで、画像補正(ステップS340)では、こうした歪みや汚れなどを補正する。図11は補正の一例を示す説明図である。領域U1の一つの各ウエル95を分割して取り出すと、光軸直下にないことから、真円に形成された各ウエル95の輪郭はゆがみ、真円にはならない。当然、同様のゆがみが、処置卵25の撮影画像にも生じる。図示破線のように、歪んでいた画像を補正すると、各ウエル95の輪郭は、ほぼ真円となる。処置卵25の形状も同様に補正され、本来の形状となる。こうした補正は、形状の歪みを修整するだけでなく、色収差などによる色付きや、レンズの汚れなどによるゴーストなどを取るためにも行なわれる。
【0041】
画像補正の後、補正を行なうことができれば、次に画像をメモリカード59に保存する処理を行なう(ステップS350)。このとき、保存は、分割された画像毎に行なわれる。もとより、分割された各画像には、ファイル名などにより、カメラユニットCA1~CA4のいずれにより撮影されたか判別するためのタグなどを付けて、紐付けておいてもよい。また、保存に際しては、補正後の画像のみ保存してもよいし、補正前の画像と共に、あるいは補正前の画像は別に、祖保存してもよい。保存は、メモリカード59に限らず、例えばクラウド上のサーバに保存することも差し支えない。保存先は、メモリカードに限らず、ハードディスクやSSDなど、他の記憶媒体であっても差し支えない。
【0042】
以上説明した一連の処理、つまりカメラユニットCA1~CA4による領域U1~U4の撮像から、分割し、補正した上で保存する処理までにおいて、何らかの異常が生じたかを、CPU53は監視している(ステップSerr)。異常の発生は、割込処理において随時判断される。
【0043】
撮影から保存まで(ステップS310~S350)の間に何らかの異常が発生したことを検知すると(ステップSerr)、異常の内容をディスプレイモジュール52に表示する異常表示処理(ステップS320)を行なう。このとき、ディスプレイモジュール52は異常を提示する提示部として機能する。異常表示の一例を図9値(D)に示した。図示した例では、異常の内容として、
□ライト点灯異常
□カメラ動作不良
□補正処理異常
□画像分割または保存異常
などを例示した。これらの異常が生じれば、該当する箇所がマーキングされて表示される。重複した異常が生じていれば、複数の項目がマーキングされる。図9の欄(D)に示した例では「補正処理異常」がマーキングされている。
【0044】
異常のうち、「ライト点灯異常」は、既述したLEDモジュール83の各発光素子LE1~LE4が点灯しなかった場合や、導光路LG1~LG4の異常により光が届かなかった場合など、ウエル95が正常に照明されなかった場合を言う。こうした場合、撮影された画像が暗くなり、画像の平均的な明るさが、予め定めた範囲に入らないので、判別できる。カメラ動作不良は、カメラユニットCA1~CA4が動作しない場合であって、撮影用のCCDやCMOSの受光モジュールが動作しない場合などである。もとより光学式の合焦装置やシャッタを備える場合には、これらのデバイスの動作不良も含まれる。受光モジュールに関して言えば、例えば読出用のクロックが正常に入力していない場合などには、カメラ動作不良と判断できる。なお、本実施形態では、カメラユニットCA1には、発光素子LE1~LE4から射出され導光路LG1~LG4を経てウエル95を照明する照明光を均一にする拡散板が設けられており、この拡散板の取付方向や表裏の取り付けミスなどにより照明が均一になっていない場合なども、ライト点灯異常に含むものとしている。
【0045】
補正処理異常は、撮影された画像の歪みや汚れを取る補正が正常に行なえなかった場合を言う。例えば、歪みは、光軸からの隔たりなどを予めパラメータとして入力しておき、このパラメータを用いて形状の補正などを行なって除去するが、補正結果、ウエル95の形状が真円から大きく隔たっている場合などには、補正処理が正常に行なえなかったと判断する。また汚れを取る処理は、通常、画面上の1または2ドット程度の孤立したドットを除去することで行なわれるが、こうした孤立したドットの数が所定個数以上の場合などには、補正の処理が正常に行なえなかったと判断する。
【0046】
画像分割または保存異常のうち、分割異常は、複数のウエル95を撮影した画像を分割する場合に、その分割処理が正常に終了しなかった場合、あるいはカメラユニットCA1等による撮像の中心がずれていて、分割したことにより各ウエル95が分割画像のそれぞれに収まっていない場合などを言う。分割画像の保存異常は、分割した画像のファイルを、メモリカード59等に保存する際に、メモリカード59の容量不足や故障などにより正常に保存できない場合などを言う。
【0047】
以上の処理(ステップS330~S350)を終えた後、特に異常がなければ、受精の判断が可能なタイミングか否かについて判断する(ステップS360)。受精の判断とは、受精の処置がなされた処置卵25において、受精が生じたか否かを判断することを意味する。受精は、通常受精の処置の後、早くて8時間程度、平均的には22時間程度、遅い間場合でも、36時間経過までには成立する。受精の処置を施した処置卵25は、処置後速やかにトレイ91のウエル95に収容され、培養ユニット11~22に入れられるから、タイムラプス部50による撮像が開始されてから、6時間程度が経過すると、ステップS360での判断は、「YES」、つまり受精判断可能となる。もとよりこの時間は、もっと短くし、トレイ91が培養室R11~R22に収容された直後から、受精判断可能としてもよい。その場合には、ステップS360の判断は不要である。
【0048】
受精判断が可能と判断すると、次に受精判断処理を行なう(ステップS370)。この処理は、各ウエル95毎に分割してメモリカード59に保存した処置卵25の画像を読み出し、画像に二つの前核が明確に写っているかによって判断することができる。もとより、この判断は、それまでにメモリカード59に保存した多数の画像を読み出し、経時的な変化、特に前核と認識できた部位の数の変化に基づいて行なっても良い。更に、受精した処置卵の画像と、受精しなかった処置卵の画像とを多数用意し、予めこれを機械学習させておき、メモリカード59から読み出した画像をこの機械学習済の判定機に入力することで、受精の可否を判断するものとしても良い。こうした処理は、図7Aに示したDSP56の高速な処理機能を利用することにより、リアルタイムで実現可能である。なお、撮像した画像をディスプレイモジュール52に表示して、胚培養士に受精の可否を判定させても差し支えない。
【0049】
受精判断処理(ステップS370)を実行したのち、処置卵25が、受精が確認できる受精卵であるか否かの判断を行なう(ステップS380)。受精卵であると判断できれば、受精卵番号表示(ステップS390)を行なう。この表示の一例を図9の欄(C)に示した。この例では、受精を確認した旨のメッセージ77a、受精を確認した処置卵25の画像と、その受精卵が何番目のウエル95に入っているかの番号表示77bと、画面表示を終了する指示を行なうための「終了」ボタン78とを、ディスプレイモジュール52に表示している。その後、「NEXT」に抜けて本処理ルーチンを終了する。
【0050】
撮影が開始され受精卵があるとしてこれを表示するまで特に異常がなければ、図9の例では、欄(A)から欄(B)を経て、欄(C)に至る表示が行なわれる。撮影から保存までに何らかの異常が生じれば、欄(D)の表示が行なわれる。なお、異常の検出は、上述した全ての項目について行なわれる必要はなく、少なくともいずれか一つについて行なわれればよい。もとより、上述した項目以外の異常の検出と報知が行なわれてもよい。こうした場合、異常の報知は、表示部への表示であってもよいし、図示しない音声出力装置を用いた音声による報知であってもよい。また、担当者の携帯電話などにメールやメッセージにより通知する態様であってもよい。
【0051】
図10に示した処理では、説明の便を図って、所定インターバルで行なう撮像処理と受精の判断処理とを一つのフローチャートで示したが、両者は別々の処理ルーチンにより、非同期に行なっても差し支えない。
【0052】
撮像と受精の判断とを一連の処理として行なう場合の表示時間について検討する。1つの培養室Rn内に載置されたトレイ91には、2×2×4個(計16個)のウエル95が設けられおり、最大16個の処置卵を収容することができる。1つのタイムラプス部50は、4台のカメラユニットCA1~CA4を用いて、これら16個のウエル95を同時撮像可能である。そこで、この16個のウエル95に収容された処置卵を順次ディスプレイモジュール52に表示しながら、上記の受精判断とその結果の表示を行なう場合を考える。受精されたと判断した場合の表示の一例は、既に図9の欄(C)として示したが、受精されたと判断できない場合には、処置卵の画像のうち、その時点で最新の画像を表示してもよいし、表示しないものとしてもよい。撮像間隔が10分であるとすると、1つのウエル95あたり、約50秒の表示を行なうことができる。従って、胚培養士は、この表示を見て、受精できた処置卵の収容されているウエル95の番号を知ることができる。また、培養の終了を判断することも可能である。
【0053】
授精処置が同時になされることは希なので、本実施形態の胚培養装置10に12個の培養ユニット11~22が存在するとしても、胚培養装置10全体として、同時に12の培養ユニットにおいて受精卵が表示される訳ではない。従って、受精されたと判断した受精卵のみをディスプレイモジュール52に表示するものとすれば、12台の培養ユニット11~22が存在しても、胚培養士は、順次表示されるこの画像を見て、受精の確認、トレイ91の取り出し、その後の処置など、対応可能である。
【0054】
以上説明した第1実施形態の胚培養装置は、12の培養室R11~R22毎にタイムラプス部50が設けられ、トレイ91の複数のウエル95にそれぞれ収容された処置卵25を所定のインターバルでまとめて撮像し、これをウエル95毎の画像に分割し、補正することができる。このため、補正された画像に基づいて受精判断を行なうことができ、受精の判断をより正確に行なうことができる。また、ウエル95毎に分割された画像を保存するので、目的とするウエル95の画像だけを読み出すことができる。したがって他のウエル95の処置卵25を誤って受精判断の対象等にしてしまう可能性を低減できる。
【0055】
上記実施形態では、カメラユニットCA1~CA2によるウエル95の撮影(図10、ステップS310)や、その後の画像の分割(ステップS330)、画像の補正(ステップS340)、画像の保存(ステップS350)のいずれかにおいて異常が発生した場合には、これを検出して、ディスプレイモジュール52に表示する。したがって、ウエル95の画像の取得に何らかの異常が生じた場合にこれを直ちに知ることができる。このため、長時間に亘ってウエル95内の処置卵25の画像が得られず、受精の判断ができない、または受精の判断が困難になるということを回避しやすい。異常を知った使用者は、胚培養装置10を修理したり、カメラユニットを取り替えたり、タイムラプス部50自体を交換したり、トレイ91を他の培養室R11~R22に移し替えたりするなどの対応をとって、処置卵25の撮影、分割、補正、保存を継続できる。
【0056】
上記実施形態では、更に処置卵25を撮像するために、トレイ91や撮像装置(カメラ等)を移動する必要がない。従って、胚培養装置10を小型が出るばかりでなく、可動部を有しないことから、胚培養装置10の信頼性を高めることができる。また、振動や騒音なども生じない。更に、処置卵25を撮像するインターバルを短くすることができる。トレイ91を移動して撮像するシステムでは、例えばトレイの移動と撮像にm分かかっていれば、12個のトレイ91を全て移動・撮像するには12×m分、必要となる。つまりインターバルはこの時間12・m分より短くすることができない。これに対して、本実施形態の胚培養装置10では、撮像のインターバルは、カメラユニットCA1~CA4の撮像間隔までいくらでも短くすることができる。もとより、連続的に撮像することも可能である。
【0057】
更に、本実施形態によれば、一つの培養室R11~R22に収容された一つのトレイ91に対して一つのタイムラプス部50が用意され、このタイムラプス部50には、ディスプレイモジュール52が設けられており、ここにその培養室R11~R22に収容されたトレイ91の処置卵25の画像が表示される。従って、ディスプレイモジュール52に表示されている画像と、スイッチSWnを操作してタイムラプス部50を開いたところのトレイ91とが一対一の関係になっており、画像と処置卵との関係が極めて明確であるという利点も有する。
【0058】
更に、本実施形態では、タイムラプス制御処理は、タイムラプス部50毎に実施されるから、培養ユニット11~22のタイムラプス部50毎に、タイムラプスの処理、例えば撮像するインターバルや、表示する画像の形態などを、個別に設定することができる。例えば、授精処置後の経過が特に気になる処置卵があれば、撮像のインターバルを短くしたり、受精の可否を判断する際に、胚培養士の判断を求めたり、といった対応を執ることも容易である。
【0059】
また、本実施形態のタイムラプス部50は、それぞれにメモリカード59を備え、所定のインターバルで撮像した画像を、ウエル95毎に分割して記録している。従って、その培養室Rnで培養されている処置卵が受精する等した画像を、他の処置卵の画像と誤ることがない。必要があれば、撮像した画像をメモリカード毎に管理、保管、廃棄などすることができ、扱いが簡便である。
【0060】
B.他の実施形態:
以上説明した実施形態では、タイムラプス制御処理は、タイムラプス部50が単独で実行していたのに対して、タイムラプス制御処理も含めて全体の処理を、制御部60により実施するようにしてもよい。また、上記実施形態では、処置卵25が受精したかの判断を行なったが、こうした判断を行なうことなく、あるいは判断をした上で、継続して処置卵25を培養し、その様子を撮像部であるカメラユニットCA1~CA4で撮像するものとしても良い。あるいは、処置卵25をトレイ91のウエル95に収容するところから、受精した受精卵を次の処置に送り出すところまで全自動で行なう装置として構成してもよい。
【0061】
上記実施形態では、1つのタイムラプス部50毎に4つのカメラユニットCA1~CA4を用意したが、タイムラプス部50あたりのカメラユニットの台数は、任意である。カメラユニットが撮像するウエル95の数、つまりは一度に撮像する処置卵の数は、1つでもよいが、2以上任意の個数としてもよい。また、トレイ91におけるウエルの配置も任意である。例えばp×q個のようにアレイ状に配列しても良い(p,qはいずれかが2以上の正の整数)。図13は、処置卵を収容するマイクロウエル195を5×5、合計25個備えるディッシュ191を示す説明図である。図において上段には、ディッシュ191を示したが、このディッシュ191は、マイクロウエル195に処置卵を収容した状態で、培養室R11の収容箇所に収容される。ディッシュ191は取り扱いを容易とするために、直径35mm程度の円筒形形状をしており、外周には、高さ10mm程度の外周壁194が設けられている。更に、内側には、マイクロウエル195を取り囲むように、2mm程度の円形の仕切り壁192が設けられている。この仕切り壁192の内側は、培養液で満たされる。処置卵は、培養液に満たされたマイクロウエル195内に収容される。
【0062】
こうすれば、ディッシュ191の取り扱い時において、胚培養士が持ちやすく、しかも仕切り壁192で仕切られている僅かな区画に培養液を満たせばよいので、培養液を無駄に使用することがない。また処置卵を収容する25個のマイクロウエル195は数ミリ角に収まっているので、1つのカメラユニットにより容易に撮像することができる。撮像領域が狭ければ、処置卵1つ当たりの画像の解像度を高めることができ、受精等の判断の精度を高めることができる。
【0063】
図13に示したディッシュ191は、外周壁194の外側の一箇所に凹部197が形成されている。この凹部197は、円形のディッシュ191を培養室R11に収容する際、ディッシュ191を保持する保持枠180に設けられた突起12の嵌まり合い、ディッシュ191を所定の位置に位置決めするのに用いられる。保持枠180は、ディッシュ191の半周分程度を収容可能な形状に作られており、ディッシュ191は、培養室R11内の予め定めた位置に安定に保持される。なお、ディッシュ191は円形に限らず、矩形や楕円形、台形など、他の形状であっても差し支えない。また、仕切り壁192は円形に限らず、四角形など、他の形状でもよい。また、仕切り壁192を設けず、ディッシュ191全体を培養液で満たす様にしてもよい。
【0064】
マイクロウエル195は、この他、他の配列、例えば環状に配列しても良い。必要な解像度が得られれば、一度に何個の処置卵を撮像するものとして差し支えない。ウエル95やマイクロウエル195の配置により補正や画像分割の内容や手法を変更すればよい。また、トレイの数より少ない数の複数台のカメラユニットを設け、タイムラプス部50内で移動して、複数のトレイの撮影をカメラユニットで分担するものとしてよい。
【0065】
上記実施形態では、1つの培養室Rnに1つのトレイ91を配置したが、1つの培養室Rnに2以上のトレイを配置するものとしてもよい。その場合、複数のトレイに対して1つのタイムラプス部50を対応づけても良いし、1つのトレイに1つのタイムラプス部50を対応づけてもよい。
【0066】
上記実施形態では、タイムラプス部50およびカメラモジュール51は、培養室Rnの上部に、蓋を兼ねて配置したが、培養室Rnの蓋はカメラモジュール51とは別に設けてもよい。またカメラモジュール51は、培養室Rnの底面や側面に配置することも可能である。底面に配置する場合は、培養室Rnの底面を透明なガラスなどの材質で形成し、底面の下にカメラユニットCA1等を配置し、トレイ91のウエル95内の処置卵を撮像するようにすればよい。一般に、処置卵はウエル95の中で最も下部に沈んでいるので、床面の下から撮像すれば、カメラユニットの焦点を処置卵に合せるのは容易である。この場合、ディスプレイモジュール52だけ、蓋として培養室Rnの上部に配置してもよいし、ディスプレイモジュール52は、別の場所に設けるものとしてもよい。
【0067】
カメラモジュール51は、培養室Rnの側面に設けてもよい。この場合、トレイのウエルは、一直線に配置される。カメラモジュール51を側面に設けた場合のトレイ91A,91Bと培養室Rnとの関係を図14に示した。図示するように、トレイ91A,91Bには、それぞれウエル95が8個直線上に配置されている。トレイ91Aに一列に配置された8個のウエル95内の処置卵25は、培養室Rnの左側面に設けられたカメラモジュール51Aの2つのカメラユニットCA1、CA23より、4個ずつ撮像される。培養室Rnの右側面には、カメラモジュール51Aの残り2つのカメラユニットCA2、CA4が設けられており、トレイ91Bの8個の処置卵が、4個ずつ撮像される。このトレイ91AをカメラユニットCA1の側から見た状態を、図15に模式的に示した。トレイ91Aの底面には、ウエル95が設けられており、処置卵25は、ここに収容される。従って、カメラユニットCA1~CA4に対する処置卵25の位置関係は安定したものとなり、その画像を容易に撮像することができる。
【0068】
この例では1つの培養室Rnに配置されるトレイ91A,91Bの幅を小さくできるので、1つの胚培養装置10に多数の培養室Rnおよびトレイ91A,91Bを配置することができる。幅を狭くすると、トレイ91A,91Bとカメラユニットとは近接配置することになるが、広角のレンズを用いれば、トレイ91A,91Bに近接させても、その画像を鮮明に撮像することができる。広角レンズを用いた場合には、周辺に行くほど画像の歪みが大きくなので、画像の補正を、これに合わせて周辺ほど大きく行なうことが必要になる。なお、カメラモジュール51は、左右の側面に代えて、あるいは左右の側面と共に、前後の側面にカメラユニットを設けてもよい。もとより、左右、前後の1つの側面に設けるものとしてもよい。あるいは上面や底面と共に設けて、複数の方角から処置卵を撮像するようにしてもよい。
【0069】
上記実施形態では、1つの処置卵を撮像するとき、合焦の位置をずらして複数枚の画像を撮像したが、特に合焦の位置をずらさず、1つの処置卵について、所定のインターバルで1枚の画像のみを写すものとしてもよい。なお、撮像は、可視光に限らず、近赤外、遠赤外あるいは紫外光などの領域まで含めて行なっても良い。または、可視光内の所定の波長範囲のみを透過するフィルタを設け、フィルタを透過する光でのみ撮像するようにしてもよい。
【0070】
上記実施形態では、ウエル95を照光する場合、カメラユニットCA1~CA4の側から照光したが、この構成に限らず、側方から、または下方から照光するものとしても良い。実施形態では、光源である発光素子LE1~LE4は、カメラユニットCA1~CA4とは離れた場所であるLEDモジュール83におき、光を、導光路LG1~LG4で、カメラユニットCA1~CA4の近傍まで導いたが、カメラユニットCA1~CA4の近傍に発光素子を設けてもよい。あるいは逆に光源を、タイムラプス部50ではなく、胚培養装置10のいずれかの場所に設け、光ファイバなどにより、タイムラプス部50まで導くものとしてもよい。
【0071】
上記実施形態では、ディスプレイモジュール52は、タイムラプス部50毎に設けたが、ディスプレイモジュール52はタイムラプス部50とは別に設けてもよい。またその場合、大きな液晶パネルなどの形態に統合しても差し支えない。あるいは、無線LANや有線LANを利用して、他のコンピュータなどのディスプレイに表示するものとしてもよい。更には、胚培養士が使っている携帯電話などの携帯機器にアプリケーションを入れて、ここに表示させてもよい。こうすれば、胚培養士は胚培養装置10の置かれた部屋にいなくても、リアルタイムで、処置卵の状況を確認することができる。あるいは処置卵を提供した不妊治療等を受けている患者自ら、処置卵の状況を確認することも可能である。更に、こうすれば複数の胚培養士、あるいは胚培養士と患者など、同時に二人以上が処置卵の状況を確認することができる。従って、受精のタイミングを見逃すことがない。
【0072】
上記実施形態では、培養室Rn毎に設けられたタイムラプス部50毎に撮像のタイミング(開始時刻やインターバル)を設定できるものとしたが、撮像開始を毎正時など、所定のタイミングに限ってもよい。更にインターバルなども、複数のタイムラプス部50に共通としてもよい。また、撮像開始の指示などは、ディスプレイモジュール52に表示されたボタンをタップするものとしたが、他の指示共々音声認識などによって指示するものとしてもよい。もとより、専用の指示用ボードを用意し、指示用ボードに配置されたスイッチやハードウェアボタンなどを操作するものとしてもよい。
【0073】
上記実施形態では、タイムラプス部50は、培養室Rnの蓋を兼ねており、図示しない蝶番で、培養室Rnの縁に取り付けられており、図2に示したように、回転して、培養室Rnを開閉し、トレイ91の着脱が可能となっている。もとよりタイムラプス部50は、回転移動する以外の手法で、培養室Rnに取り付けてもよい。例えば、単に培養室Rnの上面に、タイムラプス部50を載置するようにしても良い。あるいは上下に平行移動するようにしてもよい。左右または前後にスライドする構成とする事も可能である。
【0074】
上記実施形態では、タイムラプス部50は、最初から胚培養装置10の一部として設計され、取り付けられているが、既に販売・設置された胚培養装置の培養室の蓋と交換するものとしてもよい。こうすれば既設の胚培養装置を容易にタイムラプスタイプの胚培養装置に作り替えることができる。
【0075】
以上本開示の種々実施形態について説明したが、本開示はこれらの実施形態に限定されるものではなく、本開示の要旨を逸脱しない範囲内において種々な形態で実施できることは勿論である。例えば、培養室Rnとタイムラプス部50とをペアにした最小ユニットを作り、これを左右方向及び/または前後方向に連結可能とし、任意の数の培養室とタイムラプス部とを組み合わせて胚培養装置を構成するものとしてもよい。本開示の胚培養装置では、撮像部は、培養部に保持されたトレイの一つ一つに対応して設けられているので、こうした連結によって、培養部を増設することが容易である。
【0076】
C.他の態様:
(1)本開示の様々な実施の態様について、以下説明する。第1の態様は、授精処置済の処置卵を培養環境に保持する胚培養装置として態様である。この胚培養装置は、処置卵をそれぞれ収容可能な凹部を複数備えたトレイを複数収容して、培養環境に保持する培養部と、複数の撮像部であって、培養部に保持されたトレイの一つ一つに対応して設けられ、連続的にあるいは断続的にトレイの存在部位のうち、複数の凹部の少なくとも2以上を一度に撮像する複数の撮像部と、各撮像部によって撮像された画像を、複数の凹部が含まれる領域毎に分割して記憶する記憶部と、記憶された各凹部ごとの画像を補正する補正部と、補正後の画像を用いて、処置卵の受精判断を行なう判断部とを備える。この胚培養装置によれば、トレイ毎に設けられた撮像部によって、処置卵を収容可能な複数の凹部を一度に撮像でき、その後、これを凹部毎に分割し、分割された画像をそれぞれ補正することができる。このため、一度に複数の凹部を撮像しながら、各凹部に収容された処置卵の画像を補正するので、受精判断を、より正確に行なうことができる。
【0077】
(2)こうした構成において、補正は、撮像部に対する凹部の位置に応じた補正であるものとしてよい。こうすれば、撮像部との位置関係によって凹部の画像に生じる歪み収差などを補正できる。
【0078】
(3)こうした構成において、補正は、撮像部が設けられたトレイ毎の撮像条件に応じた補正であるものとしてよい。こうすれば、トレイ毎に相違する撮像条件、例えば照明の明るさの違いなどに対応した補正を行なうことができる。
【0079】
(4)こうした構成において、撮像部は、トレイに設けられた複数の凹部の全部を一度に撮像するものとしてよい。こうすれば、撮像が一度で済み、撮像に要するカメラユニットなどの撮像部を減らすことができる。また撮像に要する時間を短くできる。こうした対応が可能になるのは、補正部により各凹部の画像を補正するからである。
【0080】
(5)こうした構成において、撮像に異常が生じたとき、生じた異常の内容を提示する提示部を備えるものとしてよい。こうすれば撮像に異常が生じたことに気づかず、受精の判定を誤る可能性を低減できる。撮像に異常が生じた場合には、異常の原因を突き止めて修理してもよいし、培養部内のトレイを、使用されていない培養部に移動して、培養と撮像を継続するようにしてもよい。
【0081】
(6)こうした構成において 異常の内容は、
〈1〉撮像部による撮像ができないこと、
〈2〉撮像位置毎の補正が正常にできないこと、
〈3〉撮像部に設けられた撮像用の照明が正常に点灯しないこと、
〈4〉画像の分割や保存が正常にできないこと
のうちの少なくとも一つであるものとしてよい。こうすれば、各種の異常に対応でき、また異常の内容を知って、退所することが容易となる。
【0082】
(7)こうした構成において、培養部は前記トレイごとに区画された複数の培養室からなるものとしてよい。こうすれば、一つのトレイに一つの培養室が対応することになり、トレイ内の処置卵の環境を容易に整えることができる。
【0083】
(8)こうした構成において、撮像部は、培養室の上面、側面、底面のうちの少なくとも1つの面に、前記トレイの存在部位に対向して設けられたものとしてよい。こうすればいずれかの面に撮像部を設ければよく、設計の自由度を高めることができる。また処置卵の状態に応じた適切な撮像を実現しやすい。
【0084】
(9)こうした構成において、撮像部は、撮像において合焦の位置が異なる複数の画像の撮像を行なう撮焦点深度変更部を備え、記憶部は、合焦の位置の異なる複数の画像をひとまとまりの画像として記憶するものとしてよい。こうすれば、撮像部から見た処置卵の奥行き方向の状態を詳しく撮像することができ、受精判定の制度を高めることができる。
【0085】
(10)こうした構成において、光源からの光を導いて、前記複数のトレイの各々の少なくとも前記処置卵の存在部位を照らす光ガイドを備えるものとしてもよい。こうすれば、光源と処置卵とを離間することができ、光源の発熱などの影響を受けにくい。また光源の配置を自由に設計できる。
【0086】
(11)こうした構成において、培養部に保持され得る複数のトレイに対応して設けられ、受精判断部が少なくとも一つの凹部内の処置卵が受精したと判断したとき、受精したと判断された処置卵を収容するトレイを特定した報知を行なう報知部を備えるものとしてよい。こうすれば、受精がなされたこと、および受精した処置卵の収容されたトレイを容易に特定できる。
【0087】
(12)第2の態様は、授精処置済の処置卵をそれぞれ収容可能な凹部を複数備えたトレイを複数収容して培養環境に保持する胚培養装置の培養部に取り付けられる撮像装置としての態様である。この撮像装置は、培養部に保持された複数のトレイの一つ一つに対応して設けられ、連続的にあるいは断続的にトレイの存在部位のうち、複数の凹部の少なくとも2以上を一度に撮像する複数の撮像部と、各撮像部によって撮像された画像を、複数の凹部が含まれる領域毎に分割して記憶する記憶部と、記憶された各凹部ごとの画像を補正する補正部と、補正後の画像を表示する表示部とを備える。この撮像装置によれば、トレイ毎に設けられた撮像部によって、処置卵を収容可能な複数の凹部を一度に撮像でき、その後、これを凹部毎に分割し、分割された画像をそれぞれ補正することができる。このため、一度に複数の凹部を撮像しながら、各凹部に収容された処置卵の画像を補正し、これを表示するので、処置卵の状況を、正確に知ることができる。
【0088】
本開示は、上述の実施形態に限られるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲において種々の構成で実現することができる。例えば、発明の概要の欄に記載した各形態中の技術的特徴に対応する実施形態中の技術的特徴は、上述の課題の一部又は全部を解決するために、あるいは、上述の効果の一部又は全部を達成するために、適宜、差し替えや、組み合わせを行うことが可能である。また、その技術的特徴が本明細書中に必須なものとして説明されていなければ、適宜、削除することが可能である。例えば、上記実施形態においてハードウェアにより実現した構成の一部は、ソフトウェアにより実現することができる。
【産業上の利用可能性】
【0089】
本開示の胚培養装置および胚培養装置の培養部に取り付けられる撮像装置は、授精処置済みの処置卵を培養して、受精判断を行なう装置およびこれを実現する撮像装置として利用可能である。
【符号の説明】
【0090】
CA1…カメラユニット、H11~H22…パネルヒータ、L1,L2…レンズ、LE1~LE4…発光素子、LG1~LG4…導光路、R11~R22…培養室、SW11~SW22…スイッチ、9…ケース本体、10,10A…胚培養装置、11~22…培養ユニット、25…処置卵、31…ガスポート、34…フィルタ、35,36…フィルタポート、40…トレイ収容部、42…拡張部、43…供給口、44…排気口、50…タイムラプス部、51,51A…カメラモジュール、52…ディスプレイモジュール、53…CPU、54…ROM、55…RAM、58…メモリインタフェース、59…メモリカード、60,60A…制御部、61…CPU、62…ROM、63…RAM、64…メモリインタフェース、65…メモリカード、66…汎用I/Oインタフェース、67…培養室インタフェース、71…駆動装置、72…警告装置、73…混合気調整装置、76…「開始」ボタン、77…メッセージ、78…「終了」ボタン、81…カメラインタフェース、82…表示インタフェース、83…LEDモジュール、84…混合気供給配管、91,91A,91B…トレイ、92…突出部、93…ミネラルオイル、95…ウエル
【要約】
授精処置済の処置卵を収容するトレイを複数収容して培養環境に保持する胚培養装置であって、複数のトレイを、培養環境に保持する培養部と、複数の撮像部であって、培養部に保持された前記トレイの一つ一つに対応して設けられ、連続的にあるいは断続的に前記トレイの存在部位を撮像する撮像部とを設ける。この各撮像部によって撮像された画像を、トレイごとに記憶部に記憶する。各凹部ごとに記憶した画像を補正し、補正後の画像を表示部に表示する。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7A
図7B
図8
図9
図10
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図15