(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-01-07
(45)【発行日】2022-01-21
(54)【発明の名称】易解体性接着材料、硬化体、物品および解体方法
(51)【国際特許分類】
C09J 163/00 20060101AFI20220114BHJP
C09J 11/06 20060101ALI20220114BHJP
C09J 5/00 20060101ALI20220114BHJP
B32B 27/38 20060101ALI20220114BHJP
C08G 59/24 20060101ALI20220114BHJP
【FI】
C09J163/00
C09J11/06
C09J5/00
B32B27/38
C08G59/24
(21)【出願番号】P 2021564883
(86)(22)【出願日】2021-05-10
(86)【国際出願番号】 JP2021017653
【審査請求日】2021-11-01
(31)【優先権主張番号】P 2020117672
(32)【優先日】2020-07-08
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成30年度、国立研究開発法人科学技術振興機構、未来社会創造事業「界面マルチスケール4次元解析による革新的接着技術の構築」委託研究、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】504145342
【氏名又は名称】国立大学法人九州大学
(74)【代理人】
【識別番号】100110928
【氏名又は名称】速水 進治
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 絵理子
【審査官】澤村 茂実
(56)【参考文献】
【文献】特表平11-502250(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第110452103(CN,A)
【文献】国際公開第2009/11421(WO,A1)
【文献】特開2010-270022(JP,A)
【文献】AKIYAMA H. et al.,Reversible Photocuring of Liquid Hexa-Anthracene Compounds for Adhesive Applications,The Journal of Adhesion,2018年,Vol.94, No.10, P.799-813,ISSN:0021-8464
【文献】KAISER S. et al.,Switching "on" and "of" the adhesion in stimuli-responsive elastomers,Soft matter,Vol.14 No.13,2018年,p.2547-2559
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09J 1/00-201/10
C08G 59/24
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
エポキシ樹脂と、前記エポキシ樹脂と反応する反応性基を有する重付加型の硬化剤と、を含み、
前記エポキシ樹脂および硬化剤のうち一方または両方が、アントラセン二量体骨格を含有する、易解体性接着材料。
【請求項2】
請求項1に記載の易解体性接着材料であって、
前記エポキシ樹脂は、以下一般式(I-1)で表されるアントラセン二量体骨格含有エポキシ樹脂を含む、易解体性接着材料。
【化1】
一般式(I-1)中、
複数のR
1はそれぞれ独立に水素原子または1価の置換基を表し、ただし少なくとも1つのR
1はエポキシ基含有基であり、
複数のR
2はそれぞれ独立に水素原子または1価の置換基を表し、ただし少なくとも1つのR
2はエポキシ基含有基である。
【請求項3】
請求項1または2に記載の易解体性接着材料であって、
前記硬化剤は、以下一般式(I-2)で表されるアントラセン二量体骨格含有硬化剤を含む、易解体性接着材料。
【化2】
一般式(I-2)中、
複数のR
11はそれぞれ独立に水素原子または1価の置換基を表し、ただし少なくとも1つのR
11は、アミノ基含有基、ヒドロキシ基含有基およびカルボキシ基含有基からなる群より選ばれる少なくともいずれかであり、
複数のR
21はそれぞれ独立に水素原子または1価の置換基を表し、ただし少なくとも1つのR
21は、アミノ基含有基、ヒドロキシ基含有基およびカルボキシ基含有基からなる群より選ばれる少なくともいずれかである。
【請求項4】
請求項3に記載の易解体性接着材料であって、
前記一般式(I-2)で表されるアントラセン二量体骨格含有硬化剤において、少なくとも1つのR
11および少なくとも1つのR
21がカルボキシ基含有基である易解体性接着材料。
【請求項5】
請求項4に記載の易解体性接着材料であって、
前記硬化剤が有するカルボキシ基と、前記エポキシ樹脂のエポキシ基の開環により発生するヒドロキシ基とのエステル化を促進する促進剤を含む、易解体性接着材料。
【請求項6】
請求項5に記載の易解体性接着材料であって、
前記促進剤は、第二級アミン、第三級アミンおよびこれらの塩からなる群より選ばれる1または2以上を含む、易解体性接着材料。
【請求項7】
請求項1から6のいずれか1項に記載の易解体性接着材料であって、
当該易解体性接着材料を被着体の表面に付着させ、第1の熱処理を行うことにより前記被着体に接合する硬化体を得た後、該硬化体に第2の熱処理を行うことにより前記被着体と前記硬化体とを解体するのに用いられる、易解体性接着材料。
【請求項8】
請求項1から7のいずれか1項に記載の易解体性接着材料の硬化体。
【請求項9】
被着体と、該被着体に接合した、請求項1から7のいずれか1項に記載の易解体性接着材料の硬化体とを含む物品。
【請求項10】
請求項9に記載の物品を加熱して前記被着体と前記易解体性接着材料の硬化体とを解体する解体工程を含む、解体方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、易解体性接着技術に関するものである。
【背景技術】
【0002】
易解体性接着材料とは、使用目的に応じた十分な接着強度と、任意のタイミングで接着強度を低下させ容易に剥離(解体)可能な性質を併せ持つ接着材料である。このような材料については、異種材料の分別回収や不良部品の修理・交換、製造工程での仮接着による生産性向上等を目的とする用途での需要が高まっている。
易解体性接着材料を設計するには、一度発現させた接着強さを再び低下させる必要がある。また、易解体性接着材料は、経年劣化等と異なり、オンデマンドかつ短時間で解体することが要求される。よって、易解体性接着材料には、外部刺激に応答して、分解、界面相互作用の低下、弾性率変化などによる接着力低下が起こるような解体の仕掛けを組み込んでおく必要がある。
【0003】
易解体性接着材料の従来技術としては、例えば、特許文献1から4を挙げることができる。
【0004】
特許文献1には、(A)エポキシ樹脂系接着剤などの有機系接着剤成分、および、(B)無機オニウムイオンとハロゲンイオンとの化合物を含む解体性接着剤組成物が記載されている。特許文献1の記載によれば、この解体性接着剤組成物を用いて接着した接着構造体に外部刺激を与えると、無機オニウムイオンとハロゲンイオンとの化合物が、接着剤の熱分解を促進し、接着力を大きく低減、あるいは、消失させる旨が記載されている。また、解体性を向上させるために、熱膨張性黒鉛や熱膨張性樹脂バルーン、アゾジカルボンアミド等の化学発泡剤を併用できる旨も記載されている。
【0005】
特許文献2には、反応系接着剤成分と、その反応系接着剤成分に反応する官能基および熱分解基を有する熱分解性有機化合物と、を含む接着剤組成物が記載されている。この接着剤組成物において、熱分解性有機化合物は、熱分解基として、アゾ基、ヒドラゾ基(-NH-NH-)、ヒドラジノ基(-NHNH2)およびペルオキシド基からなる群から選択される1つ以上を有していることが好ましい。
【0006】
特許文献3には、ヒドラジンおよび/またはカルボン酸ジヒドラジドと、分子内カルボン酸無水物とを、-NH2基に対してカルボン酸無水物基が等モル量となる割合で反応させた、ジアシルヒドラジン構造を含有するポリカルボン酸からなるエポキシ樹脂硬化剤が記載されている。特許文献3によれば、(i)このエポキシ樹脂硬化剤は、酸化剤で容易に分解可能な構造を分子内に有しているポリカルボン酸であるので、エポキシ樹脂硬化剤として使用することにより、酸化分解性を有する易解体性のエポキシ樹脂組成物を得ることができる。
【0007】
特許文献4には、特定の一般式で表されるエポキシ樹脂(エーテル結合部位を含む)を用いた易解体性接着剤が記載されている。特許文献4の記載によれば、この易解体性接着剤の接着体(硬化物)にエネルギーを照射することにより、エポキシ樹脂のエーテル結合部位より溶融・分解が進行し、接着基材が接着体から容易に解体(剥離)可能となる旨が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特開2015-196793号公報
【文献】特開2013-256557号公報
【文献】特開2012-007036号公報
【文献】特開2006-111716号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
易解体性接着材料の設計で重要な点は、使用時の十分な接着強度や接着安定性と、解体したいときに弱い力で簡単に剥がせる解体性をいかに両立させるかである。すなわち、解体のための仕掛けが接着性を阻害しないこと、および任意のタイミングで外部刺激などにより接着力が低下することが設計上のポイントとなる。これら相反する性質の両立は容易ではない場合が多い。
【0010】
以上を踏まえ、本発明は、良好な接着強度と易解体性とを兼ね備える易解体性接着材料を提供することを目的の1つとする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、以下に提供される発明を完成させ、上記課題を解決した。
【0012】
本発明によれば、
エポキシ樹脂と、前記エポキシ樹脂と反応する反応性基を有する重付加型の硬化剤と、を含み、
前記エポキシ樹脂および硬化剤のうち一方または両方が、アントラセン二量体骨格を含有する、易解体性接着材料、
が提供される。
【0013】
また、本発明によれば、
上記の易解体性接着材料の硬化体、
が提供される。
【0014】
また、本発明によれば、
被着体と、該被着体に接合した、上記の易解体性接着材料の硬化体とを含む物品、
が提供される。
【0015】
また、本発明によれば、
上記物品を加熱して前記被着体と前記易解体性接着材料の硬化体とを解体する解体工程を含む、解体方法、
が提供される。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、使用時の十分な接着強度と、弱い力で簡単に剥がせる解体性と、を両立させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】易解体性接着材料の化学反応について説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照しつつ、詳細に説明する。
図面はあくまで説明用のものであり、図面により本発明は限定されない。
【0019】
本明細書における基(原子団)の表記において、置換か無置換かを記していない表記は、置換基を有しないものと置換基を有するものの両方を包含するものである。例えば「アルキル基」とは、置換基を有しないアルキル基(無置換アルキル基)のみならず、置換基を有するアルキル基(置換アルキル基)をも包含するものである。
本明細書における「有機基」の語は、特に断りが無い限り、有機化合物から1つ以上の水素原子を除いた原子団のことを意味する。例えば、「1価の有機基」とは、任意の有機化合物から1つの水素原子を除いた原子団のことを表す。
【0020】
<易解体性接着材料>
本実施形態の易解体性接着材料は、エポキシ樹脂と、エポキシ樹脂と反応する反応性基を有する重付加型の硬化剤と、を含む。そして、エポキシ樹脂および硬化剤のうち一方または両方は、アントラセン二量体骨格を含有する。
【0021】
本実施形態の易解体性接着材料は、エポキシ樹脂と硬化剤とを含むため、硬化(典型的には熱硬化)させることで、架橋構造を含む硬化体となる。この際、エポキシ樹脂および硬化剤のうち一方または両方がアントラセン二量体骨格を含有するため、硬化体の架橋構造中にアントラセン二量体骨格が導入されることとなる。
【0022】
アントラセン二量体骨格は、これまでの研究や発明者の知見によれば、120℃から180℃程度の加熱により分解して単量体構造になる(熱解離する)。よって、(i)まず、本実施形態の易解体性接着材料を被着体の表面に付着させ、120℃よりも低い温度で第1の熱処理を行うことにより、エポキシ樹脂と硬化剤とを反応させて、被着体に接合する硬化体を得、(ii)その後、その硬化体を120℃かそれ以上の温度で加熱する第2の熱処理を行うことにより、硬化体中のアントラセン二量体骨格を熱解離させる。この(ii)の第2の熱処理により「脱架橋」が起こり、解体性が発現する。一方、(i)で得られる硬化体は、通常100℃よりも低い温度では安定である。よって、良好な接着強度と易解体性とが両立されうる。
ちなみに、アントラセン二量体骨格を単量体構造とするためには、熱以外を必要としない。このことは、例えば、不透明/複雑な形状のものを接着してその後解体する際に好ましい性質である。
【0023】
以下、本実施形態の易解体性接着材料に関してより具体的に説明していく。
【0024】
(アントラセン二量体骨格について)
アントラセン二量体骨格は、エポキシ樹脂の通常の硬化温度程度では実質的に分解(単量体化)せず、一方でそれより高い温度で分解(単量体化)する限り、任意の骨格であることができる。
アントラセン二量体骨格は、通常、以下化学構造で表される炭素骨格を有する。この炭素骨格は、任意の置換基で置換されていてもよい。
【0025】
【0026】
アントラセンの二量化反応については、例えば、G.Collet et al., J.Am.Chem.Soc.140,10820(2018)などを参考とすることができる。この文献には、9-アントラセンカルボン酸を、光化学反応により二量化して、9-アントラセンカルボン酸の二量体を得たことが記載されている。また、Tetrahedron 72(2016)4303-4311には、ヒドロキシ基含有アントラセンの光二量化反応について記載されている。
【0027】
(エポキシ樹脂)
本実施形態におけるエポキシ樹脂は、アントラセン二量体骨格を含有していてもよいし、含有していなくてもよい。
本実施形態におけるエポキシ樹脂は、以下の(i)から(iii)のいずれの態様であってもよい。
(i)アントラセン二量体骨格を含むエポキシ樹脂(a1)と、アントラセン二量体骨格を含まないエポキシ樹脂(a2)とを含む態様
(ii)アントラセン二量体骨格を含むエポキシ樹脂(a1)のみを含む態様
(iii)アントラセン二量体骨格を含まないエポキシ樹脂(a2)のみを含む態様
【0028】
アントラセン二量体骨格を含むエポキシ樹脂(a1)は、分子中に1のみのアントラセン二量体骨格を含んでいてもよいし、分子中に2以上(例えば2から4)のアントラセン二量体骨格を含んでいてもよい。エポキシ樹脂(a1)が、分子中に2以上のアントラセン二量体骨格を含むことで、より良好な易解体性が得られると考えられる。
【0029】
アントラセン二量体骨格を含むエポキシ樹脂(a1)としては、(I-1)で表されるアントラセン二量体骨格含有エポキシ樹脂が好ましい。
【0030】
【0031】
一般式(I-1)中、
複数のR1はそれぞれ独立に水素原子または1価の置換基を表し、ただし少なくとも1つのR1はエポキシ基含有基であり、
複数のR2はそれぞれ独立に水素原子または1価の置換基を表し、ただし少なくとも1つのR2はエポキシ基含有基である。
【0032】
接着性と易解体性の両立の観点から、R1のうち1から3個がエポキシ基含有基であることが好ましく、R1のうち1から2個がエポキシ基含有基であることがより好ましく、R1のうち1個がエポキシ基含有基であることがさらに好ましい。同様に、R2のうち1から3個がエポキシ基含有基であることが好ましく、R2のうち1から2個がエポキシ基含有基であることがより好ましく、R2のうち1個がエポキシ基含有基であることがさらに好ましい。
【0033】
R1およびR2のエポキシ基含有基としては、一般式-L-Eで表される基(Lは単結合または2価の連結基、Eはエポキシ基)を挙げることができる。Lの2価の連結基は特に限定されない。Lは、アルキレン基、シクロアルキレン基、アリーレン基、エーテル基、カルボニル基、カルボキシ基(-COOまたは-OCO-)、スルフィド基、これら基から選ばれる2種以上の基を連結して構成される2価の基などであることができる。Lは、例えば炭素数1から10の2価の有機基である。一般式(I-1)中には複数個のLが存在しうるが、それらのLは互いに同一であっても異なっていてもよい。
【0034】
R1がエポキシ基含有基ではない場合、R1は水素原子または1価の置換基である。1価の置換基としては、アルキル基、アルコキシ基、シクロアルキル基、アリール基、アルケニル基、アルキニル基、アリールオキシ基、アミノ基、アルキルアミノ基、アリールアミノ基、シアノ基、ニトロ基、シリル基、ハロゲノ基(例えばフルオロ基)等が挙げられる。原料の入手容易性などの観点では、R1は水素原子であることが好ましい。
R2がエポキシ基含有基ではない場合のR2の具体的態様は、R1と同様である。
【0035】
原料の入手性や合成の容易性の観点から、エポキシ基含有基は、一般式(I-1)における上下の各アントラセン構造における1位、2位または9位に置換していることが好ましい。具体的には、一般式(I-1)において、以下の丸で囲われたR1およびR2がエポキシ基含有基であることが好ましい。これらの中でも、二量化の際の立体障害なども考慮すると、最初の3つの置換位置が好ましく挙げられる。
また、解体処理前(第2の熱処理前)における接着強度をより高める点では、エポキシ基含有基は、一般式(I-1)における上下の各アントラセン構造における1位または2位に置換していることが好ましく、2位に置換していることがより好ましい。本発明者の知見などによれば、エポキシ基含有基が一般式(I-1)における上下の各アントラセン構造における1位または2位に置換している場合、エポキシ基含有基が一般式(I-1)における上下の各アントラセン構造における9位に置換している場合と比べて、二量体の分解温度が高くなる傾向がある。よって、被着体の接着(第1の熱処理)の際の、アントラセン二量体骨格の分解が抑えられて、結果、接着強度がより高まると推測される。
【0036】
【0037】
【0038】
【0039】
【0040】
念のため述べておくと、アントラセン二量体骨格を含むエポキシ樹脂(a1)は、エポキシ基含有基の置換位置が異なる複数種のエポキシ樹脂の混合物であってもよい。
【0041】
アントラセン二量体骨格を含むエポキシ樹脂(a1)の具体例としては、以下に挙げるアントラセン単量体が光化学反応により二量化したものを挙げることができる。
【0042】
【0043】
ちなみに、特開2010-270022号公報(高屈折率材料に関する文献であり、易解体性接着技術に関する文献ではない)に記載の以下化合物も、アントラセン二量体骨格を含むエポキシ樹脂(a1)の具体例として挙げることができる。
【0044】
【0045】
アントラセン二量体骨格を含まないエポキシ樹脂(a2)としては、公知のものを特に制限なく挙げることができる。例えば、ビスフェノールA型、F型、S型、AD型等のグリシジルエーテル、フェノールノボラック型のグリシジルエーテル、クレゾールノボラック型のグリシジルエーテル、ビスフェノールA型のノボラック型のグリシジルエーテル、ナフタレン型のグリシジルエーテル、ビフェノール型のグリシジルエーテル、ジヒドロキシペンタジエン型のグリシジルエーテル、トリフェニルメタン型エポキシ樹脂、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂などが挙げられる。
【0046】
また、アントラセン二量体骨格を含まないエポキシ樹脂(a2)として、脂環式エポキシ化合物を挙げることもできる。具体的には、水素添加ビスフェノールAジグリシジルエーテル、3,4-エポキシシクロヘキシルメチル-3,4-エポキシシクロヘキサンカルボキシレート、3,4-エポキシ-1-メチルシクロヘキシル-3,4-エポキシ-1-メチルヘキサンカルボキシレート、6-メチル-3,4-エポキシシクロヘキシルメチル-6-メチル-3,4-エポキシシクロヘキサンカルボキシレート、3,4-エポキシ-3-メチルシクロヘキシルメチル-3,4-エポキシ-3-メチルシクロヘキサンカルボキシレート、3,4-エポキシ-5-メチルシクロヘキシルメチル-3,4-エポキシ-5-メチルシクロヘキサンカルボキシレート、2-(3,4-エポキシシクロヘキシル-5,5-スピロ-3,4-エポキシ)シクロヘキサン-メタジオキサン、ビス(3,4-エポキシシクロヘキシルメチル)アジペート、3,4-エポキシ-6-メチルシクロヘキシルカルボキシレート、メチレンビス(3,4-エポキシシクロヘキサン)、ジシクロペンタジエンジエポキサイド、エチレンビス(3,4-エポキシシクロヘキサンカルボキシレート)、エポキシヘキサヒドロフタル酸ジオクチル、エポキシヘキサヒドロフタル酸ジ-2-エチルヘキシル、1-エポキシエチル-3,4-エポキシシクロヘキサン、1,2-エポキシ-2-2エポキシエチルシクロヘキサンなどが挙げられる。
脂環式エポキシ化合物の市販品としては、例えば、ダイセル社製の「セロキサイド」シリーズを挙げることができる。
【0047】
(硬化剤)
本実施形態における硬化剤は、重付加型である。一般にエポキシ樹脂の硬化剤には触媒型や重付加型などがあるが、本実施形態の易解体性接着材料は、付加反応によりエポキシ樹脂分子相互問を橋かけし硬化させる重付加型の硬化剤を少なくとも含む。
本実施形態における硬化剤は、アントラセン二量体骨格を含んでいてもよいし、含んでいなくてもよい。
本実施形態における硬化剤は、以下の(i)から(iii)のいずれの態様であってもよい。
(i)アントラセン二量体骨格を含む硬化剤(b1)と、アントラセン二量体骨格を含まない硬化剤(b2)とを含む態様
(ii)アントラセン二量体骨格を含む硬化剤(b1)のみを含む態様
(iii)アントラセン二量体骨格を含まない硬化剤(b2)のみを含む態様
【0048】
アントラセン二量体骨格を含む硬化剤(b1)は、以下一般式(I-2)で表されるアントラセン二量体骨格含有硬化剤であることが好ましい。
【0049】
【0050】
一般式(I-2)中、
複数のR11はそれぞれ独立に水素原子または1価の置換基を表し、ただし少なくとも1つのR11は、アミノ基含有基、ヒドロキシ基含有基およびカルボキシ基含有基からなる群より選ばれる少なくともいずれかであり、
複数のR21はそれぞれ独立に水素原子または1価の置換基を表し、ただし少なくとも1つのR21は、アミノ基含有基、ヒドロキシ基含有基およびカルボキシ基含有基からなる群より選ばれる少なくともいずれかである。
以下、アミノ基含有基、ヒドロキシ基含有基およびカルボキシ基含有基をまとめて「硬化性基含有基」と記載することがある。
【0051】
接着性と易解体性の両立の観点から、R11のうち1から3個が硬化性基含有基であることが好ましく、R11のうち1から2個が硬化性基含有基であることがより好ましく、R11のうち1個が硬化性基含有基であることがさらに好ましい。同様に、R21のうち1から3個が硬化性基含有基であることが好ましく、R21のうち1から2個が硬化性基含有基であることがより好ましく、R21のうち1個が硬化性基含有基であることがさらに好ましい。
【0052】
R11およびR21の硬化性基含有基としては、一般式-L-Zで表される基(Lは単結合または2価の連結基、Zはアミノ基、ヒドロキシ基またはカルボキシ基)を挙げることができる。Lの2価の連結基は特に限定されない。Lは、アルキレン基、シクロアルキレン基、アリーレン基、エーテル基、カルボニル基、カルボキシ基(-COOまたは-OCO-)、スルフィド基、これら基から選ばれる2種以上の基を連結して構成される2価の基などであることができる。Lは、例えば炭素数1から10の2価の有機基である。一般式(I-2)中には複数個のLが存在しうるが、それらのLは互いに同一であっても異なっていてもよい。
【0053】
R11が硬化性基含有基ではない場合、R11は水素原子または1価の置換基である。1価の置換基としては、アルキル基、アルコキシ基、シクロアルキル基、アリール基、アルケニル基、アルキニル基、アリールオキシ基、アミノ基、アルキルアミノ基、アリールアミノ基、シアノ基、ニトロ基、シリル基、ハロゲノ基(例えばフルオロ基)等が挙げられる。原料の入手容易性などの観点では、R11は水素原子であることが好ましい。
R21が硬化性基含有基ではない場合のR2の具体的態様は、R11と同様である。
【0054】
原料の入手性や合成の容易性の観点から、硬化性基含有基は、一般式(I-2)における上下の各アントラセン構造における1位、2位または9位に置換していることが好ましい。具体的な置換位置については一般式(I-1)で丸を囲って説明したとおりである(R1をR11に、R2をR21に読み替え)。また、解体処理前(第2の加熱前)における接着強度をより高める点では、硬化性基含有基は、一般式(I-1)における上下の各アントラセン構造における1位または2位に置換していることが好ましく、2位に置換していることがより好ましい。本発明者の知見などによれば、硬化性基含有基が一般式(I-1)における上下の各アントラセン構造における1位または2位に置換している場合、硬化性基含有基が一般式(I-1)における上下の各アントラセン構造における9位に置換している場合と比べて、二量体の分解温度が高くなる傾向がある。よって、被着体の接着(第1の熱処理)の際の、アントラセン二量体骨格の分解が抑えられて、結果、接着強度がより高まると推測される。
念のため述べておくと、アントラセン二量体骨格を含む硬化剤(b1)は、硬化性基含有基の置換位置が異なる複数種の硬化剤の混合物であってもよい。
【0055】
アントラセン二量体骨格を含む硬化剤(b1)の具体例としては、以下に挙げるアントラセン単量体が光化学反応により二量化したものを挙げることができる。
【0056】
【0057】
【0058】
【0059】
【0060】
以下において、nは例えば6から12の整数である。
【0061】
【0062】
【0063】
【0064】
アントラセン二量体骨格を含まない硬化剤(b2)としては、任意のものを選択することができる。硬化剤(b2)の好ましい例としては、エポキシ基との反応性基としてアミノ基、カルボキシル基または水酸基を有する化合物が挙げられる。
硬化剤として用いる化合物は、脂肪族ポリアミン化合物、芳香族ポリアミン化合物および脂環式ポリアミン化合物からなる群から選ばれる少なくとも1種のポリアミン化合物であって、1級アミノ基を2個以上有するポリアミン化合物であることが好ましい。
【0065】
1級アミノ基を2個以上有する脂肪族ポリアミン化合物としては、例えば、エチレンジアミン、1,2-ジアミノプロパン、1,3-ジアミノプロパン、1,3-ジアミノブタン、1,4-ジアミノブタン、ジエチレントリアミン、トリエチレントリアミン、テトラエチレンペンタミン、2,2,4-トリメチルヘキサメチレンジアミン、2,4,4-トリメチルヘキサメチレンジアミン等が挙げられる。
【0066】
1級アミノ基を2個以上有する芳香族ポリアミン化合物としては、例えば、m-キシリレンジアミン、ジアミノジフェニルメタン、ジアミノジフェニルスルホン等が挙げられる。
【0067】
1級アミノ基を2個以上有する脂環式ポリアミン化合物としては、例えば、1,2-ジアミノシクロヘキサン、1,4-ジアミノ-3,6-ジエチルシクロヘキサン、イソホロンジアミン、メンタンジアミン、1,3-ビスアミノシクロヘキサン等が挙げられる。
【0068】
上記以外の化合物としては、ジシアンジアミド、酸無水物、二塩基酸ジヒドラジド(シュウ酸ジヒドラジド、マロン酸ジヒドラジド、コハク酸ジヒドラジド、グルタル酸ジヒドラジド、アジピン酸ジヒドラジド、スベリン酸ジヒドラジド、アゼライン酸ジヒドラジド、セバシン酸ジヒドラジド、フタル酸ジヒドラジド等)、メラミン等が挙げられる。
【0069】
易解体性接着材料を一液型の接着材料とする場合、硬化剤として、いわゆる潜在性硬化剤を用いることが好ましい。潜在性硬化剤は、エポキシ樹脂中に室温で存在した状態では反応せず、加熱処理により活性化し、反応を開始する。マイクロカプセル型潜在性硬化剤は、シェル部およびコア部を備える粒子であり、コア部内に硬化剤が含まれている。所定温度以上の加熱処理により、シェル部の一部が破れて内部の硬化剤が流出することで、エポキシ基との反応性が活性化する。マイクロカプセル型潜在性硬化剤の製品としては、旭化成株式会社製の、ノバキュア(登録商標)HX-3722、HX-3748、HX-3088、HX-3741、HX-3742等が挙げられる。
【0070】
(促進剤)
本実施形態の易解体性接着材料は、特に、硬化剤がカルボキシ基を有する場合、そのカルボキシ基と、エポキシ樹脂のエポキシ基の開環により発生するヒドロキシ基とのエステル化を促進する促進剤を含むことが好ましい。
これについて、エポキシ樹脂としてスフェノールAジグリシジルエーテルを、カルボキシ基を有する硬化剤として9-アントラセンカルボン酸の二量体を例にして、
図1を参照しつつ説明する。
【0071】
エポキシ樹脂と、硬化剤が有するカルボキシ基とが反応すると、エポキシ樹脂が含むエポキシ基が開環してヒドロキシ基が発生する。
発生したヒドロキシ基は、以下のいずれかの反応に関与しうる。
(i)9-アントラセンカルボン酸のカルボキシ基と反応してエステル結合を形成する(
図1中「エステル結合形成」と記載)
(ii)エポキシ樹脂のエポキシ基と反応してエーテル結合を形成する(
図1中「エーテル結合形成」と記載)
【0072】
反応を特に制御しない場合、(i)と(ii)の反応は、基本的にランダムに起こると考えられる。
一方、適当な促進剤を用いるなどにより、(i)の反応のほうが優先的に起こるようにすれば、硬化体中により多くのアントラセン二量体構造が導入され、その結果、一層顕著な易解体性を得ることができる。
【0073】
M.Shimbo,T.Nakaya,J.Polym.Sci.:Part B:Polym.Phys.,24,1931-1941(1986)やその他文献などに記載された知見によれば、第二級アミン、第三級アミンおよびこれらの塩のうちの1または2以上を用いることにより、(i)の反応のほうが優先的に起こる。すなわち、本実施形態の易解体性接着材料は、第二級アミン、第三級アミンまたはこれらの塩を含むことが好ましい。
【0074】
第二級アミンとしては、例えば、ジメチルアミン、ジエチルアミン、N-メチルエチルアミン、N-メチルイソプロピルアミン、N-メチルヘキシルアミン、ジイソプロピルアミン、ジ-n-プロピルアミン、ジn-ブチルアミン、ジ-sec-ブチルアミン、N-エチルイソアミルアミン、N-エチル-1,2-ジメチルプロピルアミン、ピペリジン、2-ピペコリン、3-ピペコリン、4-ピペコリン、2,4-ルペチジン、2,6-ルペチジン、3,5-ルペチジン、3-ピペリジンメタノール、ピペコリニックアシッド、イソニペコチックアシッド、メチルイソニペコテート、エチルイソニペコテート、2-メチルアミノエタノール、3-メチルアミノ-1,2-プロパンジオール、1-ピペラジンエタノール、2-ピペリジンエタノール、4-ピペリジンエタノール、4-ピペリジンブチリックアシッド塩酸塩、4-ピペリジノール、ピロリジン、3-ピロリジノール、インドリン、N-ブチルアニリン、N-メチルベンジルアミン、3-ベンジルアミノプロピオニックアシッドエチルエーテル、4-ベンジルピペリジン、ジフェニルアミン等が挙げられる。また、これらの塩も挙げることができる。念のため述べておくと、これら以外の第二級アミンであっても、エステル結合形成を優先的に進行させる促進剤は本実施形態において好ましく用いることができる。
【0075】
第三級アミンとしては、脂肪族第三級アミン、芳香族含有脂肪族第三級アミン、芳香族第三級アミンおよび複素環式第三級アミンなどが挙げられる。また、これらの塩も挙げることができる。より具体的には以下に例示される化合物を挙げることができる。念のため述べておくと、以下に例示されていないアミンであっても、エステル結合形成を優先的に進行させる促進剤は本実施形態において好ましく用いられる。
【0076】
脂肪族第三級アミン:トリエチルアミン、トリプロピルアミン、トリブチルアミン、トリペンチルアミン、トリヘキシルアミン、トリシクロヘキシルアミン、トリオクチルアミン、ジメチルプロピルアミン、ジメチルブチルアミン、ジメチルペンチルアミン、ジメチルヘキシルアミン、ジメチルシクロヘキシルアミン、ジメチルオクチルアミン、ジメチルデシルアミン、ジメチルドデシルアミン、ジメチルテトラデシルアミン、ジメチルヘキサデシルアミン、ジメチルオクタデシルアミン、ジメチルオレイルアミン、ジメチルドコシルアミン、ジエチルプロピルアミン、ジエチルブチルアミン、ジエチルペンチルアミン、ジエチルヘキシルアミン、ジエチルシクロヘキシルアミン、ジエチルオクチルアミン、ジエチルデシルアミン、ジエチルドデシルアミン、ジエチルテトラデシルアミン、ジエチルヘキサデシルアミン、ジエチルオクタデシルアミン、ジエチルオレイルアミン、ジエチルドコシルアミン、ジプロピルメチルアミン、ジプロピルエチルアミン、ジプロピルブチルアミン、ジブチルメチルアミン、ジブチルエチルアミン、ジブチルプロピルアミン、ジヘキシルメチルアミン、ジヘキシルプロピルアミン、ジヘキシルブチルアミン、ジシクロヘキシルメチルアミン、ジシクロヘキシルエチルアミン、ジシクロヘキシルプロピルアミン、ジシクロヘキシルブチルアミン、ジオクチルメチルアミン、ジオクチルエチルアミン、ジオクチルプロピルアミン、ジデシルメチルアミン、ジデシルエチルアミン、ジデシルプロピルアミン、ジデシルブチルアミン、ジドデシルメチルアミン、ジドデシルエチルアミン、ジドデシルプロピルアミン、ジドデシルブチルアミン、ジテトラデシルメチルアミン、ジテトラデシルエチルアミン、ジテトラデシルプロピルアミン、ジテトラデシルブチルアミン、ジヘキサデシルメチルアミン、ジヘキサデシルエチルアミン、ジヘキサデシルプロピルアミン、ジヘキサデシルブチルアミン、トリメタノールアミン、トリエタノールアミン、トリプロパノールアミン、トリブタノールアミン、トリヘキサノールアミン、ジエチルメタノールアミン、ジプロピルメタノールアミン、ジイソプロピルメタノールアミン、ジブチルメタノールアミン、ジイソブチルメタノールアミン、ジターシャリブチルメタノールアミン、ジ(2-エチルヘキシル)メタノールアミン、ジメチルエタノールアミン、ジエチルエタノールアミン、ジプロピルエタノールアミン、ジイソプロピルエタノールアミン、ジブチルエタノールアミン、ジイソブチルエタノールアミン、ジターシャリブチルエタノールアミン、ジ(2-エチルヘキシル)エタノールアミン、ジメチルプロパノールアミン、ジエチルプロパノールアミン、ジプロピルプロパノールアミン、ジイソプロピルプロパノールアミン、ジブチルプロパノールアミン、ジイソブチルプロパノールアミン、ジターシャリブチルプロパノールアミン、ジ(2-エチルヘキシル)プロパノールアミン、メチルジメタノールアミン、エチルジメタノールアミン、プロピルジメタノールアミン、イソプロピルジメタノールアミン、ブチルジメタノールアミン、イソブチルジメタノールアミン、ターシャリブチルジメタノールアミン、(2-エチルヘキシル)ジメタノールアミン、メチルジエタノールアミン、エチルジエタノールアミン、プロピルジエタノールアミン、イソプロピルジエタノールアミン、ブチルジエタノールアミン、イソブチルジエタノールアミン、ターシャリブチルジエタノールアミン、(2-エチルヘキシル)ジエタノールアミン、ジメチルアミノエトキシエタノールなど。
【0077】
第三級アミン構造を分子内に2個以上もつ化合物:N,N,N',N'-テトラメチル-1,3-プロパンジアミン、N,N,N',N'-テトラエチル-1,3-プロパンジアミン、N,N-ジエチル-N',N'-ジメチル-1,3-プロパンジアミン、テトラメチル-1,6-ヘキサジアミン、ペンタメチルジエチレントリアミン、ビス(2-ジメチルアミノエチル)エーテル、およびトリメチルアミノエチルエタノールアミンなど。
【0078】
芳香族含有脂肪族第三級アミン:N,N'-ジメチルベンジルアミン、N,N'-ジエチルベンジルアミン、N,N'-ジプロピルベンジルアミン、N,N'-ジブチルベンジルアミン、N,N'-ジヘキシルベンジルアミン、N,N'-ジシクロヘキシルベンジルアミン、N,N'-ジオクチルベンジルアミン、N,N'-ジドデシルベンジルアミン、N,N'-ジオレイルベンジルアミン、N,N'-ジベンジルメチルアミン、N,N'-ジベンジルエチルアミン、N,N'-ジベンジルプロピルアミン、N,N'-ジベンジルブチルアミン、N,N'-ジベンジルヘキシルアミン、N,N'-ジベンジルシクロヘキシルアミン、N,N'-ジベンジルオクチルアミン、N,N'-ジベンジルドデシルアミン、N,N'-ジベンジルオレイルアミン、トリベンジルアミン、N,N'-メチルエチルベンジルアミン、N,N'-メチルプロピルベンジルアミン、N,N'-メチルブチルベンジルアミン、N,N'-メチルヘキシルベンジルアミン、N,N'-メチルシクロヘキシルベンジルアミン、N,N'-メチルオクチルベンジルアミン、N,N'-メチルドデシルベンジルアミン、N,N'-メチルオレイルベンジルアミン、N,N'-メチルヘキサデシルベンジルアミン、N,N'-メチルオクタデシルベンジルアミン、2-(ジメチルアミノメチル)フェノール、2,4,6-トリス(ジメチルアミノメチル)フェノール、2,4,6-トリス(ジエチルアミノメチル)フェノール、2,4,6-トリス(ジプロピルアミノメチル)フェノール、2,4,6-トリス(ジブチルアミノメチル)フェノール、2,4,6-トリス(ジペンチルアミノメチル)フェノール、2,4,6-トリス(ジヘキシルアミノメチル)フェノールなど。
【0079】
芳香族第三級アミン:トリフェニルアミン、トリ(メチルフェニル)アミン、トリ(エチルフェニル)アミン、トリ(プロピルフェニル)アミン、トリ(ブチルフェニル)アミン、トリ(フェノキシフェニル)アミン、トリ(ベンジルフェニル)アミン、ジフェニルメチルアミン、ジフェニルエチルアミン、ジフェニルプロピルアミン、ジフェニルブチルアミン、ジフェニルヘキシルアミン、ジフェニルシクロヘキシルアミン、N,N-ジメチルアニリン、N,N-ジエチルアニリン、N,N-ジプロピルアニリン、N,N-ジブチルアニリン、N,N-ジヘキシルアニリン、N,N-ジシクロヘキシルアニリン、(メチルフェニル)ジメチルアミン、(エチルフェニル)ジメチルアミン、(プロピルフェニル)ジメチルアミン、(ブチルフェニル)ジメチルアミン、ビス(メチルフェニル)メチルアミン、ビス(エチルフェニル)メチルアミン、ビス(プロピルフェニル)メチルアミン、ビス(ブチルフェニル)メチルアミン、N,N-ジ(ヒドロキシエチル)アニリン、N,N-ジ(ヒドロキシプロピル)アニリン、N,N-ジ(ヒドロキシブチル)アニリン、ジイソプロパノール-p-トルイジンなど。
【0080】
複素環式第三級アミン:ピコリン、イソキノリン、キノリン等のピリジン系化合物、イミダゾール系化合物、ピラゾール系化合物、モルホリン系化合物、ピペラジン系化合物、ピペリジン系化合物、ピロリジン系化合物、シクロアミジン系化合物など。
【0081】
モルホリン系化合物:4-(2-ヒロドキシエチル)モルホリン、N-エチルモルホリン、N-メチルモルホリン、2,2'-ジモルホリンジエチルエーテルなど。
ピペラジン系化合物:1-(2-ヒドロキシエチル)ピペラジン、N,N-ジメチルピペラジンなど。
ピペリジン系化合物:N-(2-ヒドロキシエチル)ピペリジン、N-エチルピペリジン、N-プロピルピペリジン、N-ブチルピペリジン、N-ヘキシルピペリジン、N-シクロヘキシルピペリジン、N-オクチルピペリジンなど。
ピロリジン系化合物:N-ブチルピロリジン、N-オクチルピロリジンなど。
シクロアミジン系化合物:1,8-ジアザビシクロ[5.4.0]ウンデセン-7(DBU)、1,5-ジアザビシクロ[4.3.0]ノネン-5(DBN)、1,4-ジアザビシクロ[2.2.2]オクタン、5、6-ジブチルアミノ-1,8-ジアザ-ビシクロ(5,4,0)ウンデセン-7(DBA)など。
その他の複素環式アミン:ヘキサメチレンテトラミン、ヘキサエチレンテトラミン、ヘキサプロピルテトラミンなど。
【0082】
また、DBUの塩として、DBUのフェノール塩、DBUのオクチル酸塩、DBUのp-トルエンスルホン酸塩、DBUのギ酸塩、DBUのオルソフタル酸塩、DBUのフェノールノボラック樹脂塩などが挙げられる。これらはサンアプロ株式会社から入手可能である。
【0083】
ちなみに、促進剤としては、塩基性が強いアミンまたはその塩が特に好ましい。アミンのpKaは好ましくは8以上、より好ましくは9以上、さらに好ましくは10以上である。アミンのpKaの上限は例えば14、好ましくは13、さらに好ましくは12である。pKaは、通常、25℃、1atm下で溶媒として水を用いた測定で求めることができ、測定で求めることができない場合はソフトウェア(例えばACD/Labs社のソフトウェア)による計算値を採用してもよい。また、前述のJ.Polym.Sci.:Part B:Polym.Phys.,24,1931-1941(1986)にpKaの記載のあるアミンについては、その値を採用することができる(例えば、N,N-ジエチルベンジルアミンのpKaは9.48と、ピペリジンのpKaは11.20と記載されている)。
一部例外もあるが一般的な傾向として、窒素の非共有電子対が非局在化しておらず(他のπ電子と共役しておらず)、芳香族性に関与していないアミンは、比較的強い塩基性を有する。
【0084】
念のため述べておくと、本実施形態の易解体性接着材料は、エポキシ樹脂の硬化促進剤として公知の化合物を1または2以上含んでもよい。例えば、イミダゾール類、有機リン化合物、有機金属塩、フェノール化合物、有機酸等をエポキシ樹脂の硬化促進剤として用いてもよい。
【0085】
(その他成分)
本実施形態の易解体性接着材料は、上記以外の任意成分、例えば、熱膨張性粒子、充填材、ガラス繊維や炭素繊維等の繊維フィラー、熱可塑性エラストマー、ビスマレイミド等のエポキシ樹脂以外の熱硬化性樹脂、シランカップリング剤、ゴム成分、消泡剤、レベリング剤、有機溶剤などのうち1または2以上を含んでもよい。
【0086】
熱膨張性粒子を用いることで、アントラセン二量体構造の熱分解と、熱膨張性粒子の膨張との相乗効果により易解体性が一層高まると考えられる。
熱膨張性粒子は、典型的には、高分子からなるシェルと、揮発性膨張剤を含むコアと、を備える熱膨張性マイクロカプセルである。
熱膨張性粒子の平均粒子径は特に限定されない。熱膨張時に十分な大きさとなることと、十分な接着性の担保や平滑な硬化体の形成の観点などから、熱膨張性粒子の平均粒子径は、例えば5μm以上50μm以下、好ましくは10μm以上40μm以下である。熱膨張性粒子の平均粒子径については、カタログや仕様書などに記載の数値を採用することができる。カタログや仕様書などに記載された数値に幅がある場合は、その数値幅の中心値を採用することができる。
熱膨張性粒子の市販品としては、松本油脂製薬株式会社のマツモトマイクロスフェアー(登録商標)シリーズ、株式会社クレハのクレハマイクロスフェアーシリーズ等を挙げることができる。
【0087】
充填材は、有機充填材であってもよいし、無機充填材であってもよいし、これらの併用であってもよい。典型的には無機充填材の使用が好ましい。
有機充填材としては、熱可塑性樹脂、熱可塑性エラストマー、炭素繊維、セルロース、ポリエチレンポリプロピレン粉等が挙げられる。
無機充填材としては、溶融シリカ、結晶シリカ、アルミナ、タルク、窒化ケイ素、窒化アルミニウム、ガラス繊維、アスベスト繊維、ほう素繊維、石英紛、鉱物性ケイ酸塩、雲母、アスベスト粉、スレート粉等が挙げられる。
念のため述べておくと、充填材は、熱膨張性粒子とは異なる成分である。
【0088】
有機溶剤としては、エポキシ樹脂および硬化剤を溶解または分散するものである限り任意の有機溶剤を用いることができる。具体例には、アセトン、メチルエチルケトン、シクロヘキサノン等のケトン類、酢酸エチル、酢酸ブチル、セロソルブアセテート、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、カルビトールアセテート等の酢酸エステル類、セロソルブ、ブチルカルビトール等のカルビトール類、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素類、ジクロロメタン、ジクロロエタン等の塩素系溶剤類、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、N-メチルピロリドン等を挙げることができる。
念のため述べておくと、本実施形態の易解体性接着材料は、物品に塗ってその物品を他の物品と接着することができる限り、有機溶剤を含まなくてもよい。
【0089】
(各成分の比率)
エポキシ樹脂と硬化剤との混合比(エポキシ樹脂/硬化剤のモル比)は、1/0.01から1/10であり、より好ましいモル比は1/0.03から1/10であり、さらに好ましいモル比は1/0.05から1/10である。
特に、硬化剤が、1級アミンまたは2級アミン、フェノール化合物、カルボン酸基を有する化合物、チオール化合物等の活性水素を有する化合物である場合は、エポキシ樹脂中のエポキシ基のモル数と、硬化剤中の活性水素のモル数とが、当量比近辺となるように混合することが好ましい。例えば、エポキシ基と活性水素との比(エポキシ基のモル数/活性水素のモル数)は、好ましくは1/0.4から1/3であり、より好ましくは1/0.7から1/2であり、さらに好ましいモル比は1/0.8から1/1.5である。
【0090】
前述のとおり、エポキシ樹脂は、アントラセン二量体骨格を含まないエポキシ樹脂を含みうる。同様に、硬化剤は、アントラセン二量体骨格を含まない硬化剤を含みうる。良好な易解体性を得る観点からは、本実施形態の易解体性接着材料中に、適度な量のアントラセン二量体骨格が含まれることが好ましい。
具体的には、易解体性接着材料中の、アントラセン二量体骨格を含むエポキシ樹脂の質量をMa1、アントラセン二量体骨格を含まないエポキシ樹脂の質量をMa2、アントラセン二量体骨格を含む硬化剤の質量をMb1、アントラセン二量体骨格を含まない硬化剤の質量をMb2としたとき、(Ma1+Mb1)/(Ma1+Ma2+Mb1+Mb2)の値は、例えば0.01以上、好ましくは0.05以上、より好ましくは0.1以上、さらに好ましくは0.2以上である。この値の上限は1であってもよいが、コスト等の観点から、上限は例えば0.8、好ましくは0.5である。
【0091】
(易解体性接着材料の物性)
本実施形態の易解体性接着材料において、以下の条件で測定されるF2およびF1の比(F2/F1)は、0.9以下であることが好ましい。下限については特に制限がなく0であってもよいが、例えば0.01以上あるいは0.1以上とすることで十分である。こうすることにより、使用時の高い接着強度と弱い力で簡単に剥がせる解体性を、高いレベルで両立させることができる。
【0092】
・条件
(i)被着体としてアルミニウム板を用い、2枚の被着体同士を当該易解体性接着材料により接着させた試料について、JIS K 6850:1999に準拠して引張せん断接着強さを測定する。
(ii)当該易解体性接着材料を100℃10時間の第1熱処理条件で加熱処理して得られる試料1のせん断接着強度をF1とし、当該易解体性接着材料を第1熱処理条件で加熱処理した後、150℃3時間の第2熱処理条件で加熱処理して得られる試料2の引張せん断接着強さをF2とする。
【0093】
F2/F1の値の技術的意義は以下の通りである。F2/F1の値は、加熱による解体容易性を示す。F2/F1が1より小さいということは、第2熱処理条件での加熱処理により、引張せん断接着強さが低下することを意味する。熱硬化性樹脂を用いた接着材料では、一般的には高温での熱処理により熱硬化性樹脂の架橋が進み、硬化体のせん断接着力が向上する。これに対して本実施形態の易解体性接着材料は、第2熱処理条件での加熱処理により、引張せん断接着強さが低下する。F2/F1の値はこの低下の程度を示したものであり、本発明者はこの値が加熱による解体の容易性を現す指標となることを見いだした。本実施形態の易解体性接着材料を用いて2つの被着体を接着した構造体を想定すると、接着材料層には被着体との線膨張係数差に起因して熱応力が残存する。このため、接着材料層と被着体との界面には、本来的に一定程度の剥離作用が生じた状態となる。こうした状態において、F2がF1に比べて低下するような接着材料、特に、(F2/F1)を好ましくは0.9以下とすれば、実用的に充分な易解体性を実現することができる。
【0094】
<解体方法など>
本実施形態の易解体性接着材料は、例えば、(1)被着体の表面に易解体性接着材料を付着させ、(2)その後、その易解体性接着材料を加熱硬化させて、被着体に易解体性接着材料の硬化体が接合した物品を得、(3)さらにその後、熱処理することで易解体性接着剤の硬化体を分解して解体する、というプロセスに用いられる。上記(2)の加熱硬化にあたって採用する温度条件を第1温度条件とし、上記(3)の解体にあたって採用する温度条件を第2温度条件とすると、第2温度条件は第1温度条件に比べて、より高い硬化温度とすることが好ましい。
ちなみに、上記(2)の加熱硬化を、減圧下(例えば1000Pa以下、好ましくは500Pa以下)で行うことで、カルボキシ基と(エポキシ基の開環反応で生成した)ヒドロキシ基の脱水縮合が促進され、接着強度をより高めることができる場合がある。
【0095】
被着体の種類は特に限定されない。例えばアルミニウム、アルムニウム合金、SUS等の金属や、ポリプロピレンやポリエチレン、ナイロン等のプラスチック、セラミックス等の材質の被着体を挙げることができる。被着体にはシランカップリング剤等による表面処理がなされていてもよいし、表面処理がなされていなくてもよい。接着強度および解体のしやすさの点では、被着体の表面に易解体性接着剤を付着させる前に、被着体の表面を洗浄するなどして、異物/汚染を除去しておくことが好ましい。
【0096】
第1温度条件の硬化温度をT1とし、第2温度条件の解体温度をT2とすると、(T2-T1)の値は、好ましくは10℃以上、より好ましくは15℃以上、さらに好ましくは20℃以上である。こうすることにより、充分な硬化体強度と易解体性を実現することができる。(T2-T1)の値の上限については、解体工程の省エネルギー化の観点から、好ましくは130℃以下、好ましくは120℃以下、さらに好ましくは100℃以下、特に好ましくは50℃以下、とりわけ好ましくは40℃以下である。
【0097】
T1は、エポキシ樹脂と硬化剤とが反応する限り任意の温度であることができる。実用上、T1は例えば20℃以上140℃以下、好ましくは60℃以上130℃以下、さらに好ましくは100℃以上130℃以下、特に好ましくは105℃以上130℃以下である。
T2は、アントラセン二量体構造が熱解離する限り任意の温度であることができる。実用上、T2は例えば100℃以上250℃以下、好ましくは120℃以上220℃以下、より好ましくは125℃以上200℃以下である。
ちなみに、T2が大きいと、硬化体内に残存していたエポキシ基が反応する場合がある。残存エポキシ基の反応を抑えつつアントラセン二量体構造の熱解離を選択的に進行させて解体性をさらに高める観点では、T2は180℃以下が好ましく、175℃以下がより好ましく、170℃以下がさらに好ましい。念のため述べておくと、解体性が発現する限り、T2は140℃超であってもよい。
【0098】
以上、本発明の実施形態について述べたが、これらは本発明の例示であり、上記以外の様々な構成を採用することができる。また、本発明は上述の実施形態に限定されるものではなく、本発明の目的を達成できる範囲での変形、改良等は本発明に含まれる。
【0099】
<易解体性接着材料の配合例>
易解体性接着材料の配合例を数例示す。以下で、BADGEはビスフェノールAジグリシジルエーテルの略、DEBAはN,N-ジエチルベンジルアミンの略である。
1.[BADGE]:[1-アントラセンカルボン酸二量体]:[DEBA]=100:100:20(モル比)
2.[BADGE]:[2-アントラセンカルボン酸二量体]:[DEBA]=100:100:20(モル比)
3.[BADGE]:[9-アミノアントラセン二量体]=2:1(モル比)
4.[BADGE]:[2-アミノアントラセン二量体]=2:1(モル比)
5.[9-グリシジルアントラセン二量体]:[9-アントラセンカルボン酸二量体]:[DEBA]=100:100:20(モル比)
6.[9-グリシジルアントラセン二量体]:[9-アミノアントラセン二量体]=2:1(モル比)
7.[9-グリシジルアントラセン二量体]:[ジエチレントリアミン]=5:2(モル比)
【実施例】
【0100】
本発明の実施態様を、実施例および比較例に基づき詳細に説明する。念のため述べておくと、本発明は実施例のみに限定されない。
【0101】
<9-アントラセンカルボン酸二量体の合成>
G.Collet et al., J.Am.Chem.Soc.140,10820(2018)の記載を参考にして、光化学反応を利用して、以下構造の9-アントラセンカルボン酸二量体(以下、9-AC dimerとも記載する)を合成した。
【0102】
【0103】
<実施例1>
(易解体性接着材料の調製)
ビスフェノールAジグリシジルエーテル(BADGE)と、9-AC dimerと、硬化促進剤としてN,N-ジエチルベンジルアミン(DEBA)とを、[BADGE]:[9-AC dimer]:[DEBA]=100:100:10(モル比)で混合して、易解体性接着材料を調製した。
【0104】
(接着性および易解体性の評価)
以下手順で行った。
(1)易解体性接着材料を、縦100mm×横10mm×厚み1mmのアルミニウム板の、端部の10mm×10mmの領域に塗り広げた試験片を2つ準備した。易解体性接着材料の塗布量については、2つの試験片への塗布量の合計がおよそ10mgとなるようにした。
(2)上記2つの試験片を、(1)で易解体性接着材料を塗り広げた10mm×10mmの領域で貼り合わせ、クリップで固定した。
(3)100℃で10時間加熱し(第1の熱処理)、易解体性接着材料を硬化させて試験片同士を接合し、室温まで冷却した。このようにして試験用接合体を得た。
(4)上記(3)で得られた試験用接合体の引張せん断試験を行った。
(5)上記(3)で得られた試験用接合体(上記(4)で用いたものとは別のもの)を、150℃で3時間加熱し(第2の熱処理)、室温まで冷却後、引張せん断試験を行った。
【0105】
上記(4)および(5)における引張せん断試験は、JIS K 6850:1999に準拠し、接合体を、鉛直方向に1mm/分の速さで引張ることにより行った。そして、横軸:引っ張り長さ(単位:mm)、縦軸:引っ張りに要した力(単位:N)を接着面の面積100mm2で割ったもの(単位:MPa)のS-Sカーブを描画した。
上記(4)および(5)の引張せん断試験は、各3回行った。
【0106】
上記(4)の引張せん断試験において、引張せん断接着強さ(3回の平均値)は、1.39±0.11MPaであった。
一方、上記(5)の引張せん断試験において、引張せん断接着強さ(3回の平均値)は、1.19±0.36MPaであった。
すなわち、第2の熱処理により、易解体性が発現することを確認した。
【0107】
ちなみに、上記(4)と(5)の引張せん断試験における剥離様式を確認したところ、(4)の引張せん断試験の剥離様式は界面剥離であり、(5)の引張せん断試験の剥離様式は凝集剥離であった。
【0108】
<実施例2>
第2の熱処理の条件を130℃で3時間に変更した以外は、実施例1と同様の評価を行った。第2の熱処理後の引張せん断接着強さ(3回の平均値)は、0.83±0.06MPaであった。すなわち、第2の熱処理の温度を実施例1から20℃下げることで、易解体性を一層高めることができた。
【0109】
単純に考えると、第2の熱処理の温度が高いほどアントラセン二量体の熱解離が進行して接着力は弱まると思われ、上記結果は意外にも思える。これについては、実施例1の150℃での第2の熱処理では、アントラセン二量体の熱解離(接着力を弱める)だけでなく、第1の熱処理において未反応であった残存エポキシ基の硬化反応(接着力を強める)が進行したためと推測される。一方、実施例2の130℃での第2の熱処理では、実施例1の150℃での熱処理と比べて残存エポキシ基の硬化反応が起こりにくく、アントラセン二量体の熱解離が選択的に起こったため、接着力が一層低下したと推測される。
【0110】
<実施例3>
(易解体性接着材料の調製)
ビスフェノールAジグリシジルエーテル(BADGE)と、9-AC dimerと、硬化促進剤としてN,N-ジエチルベンジルアミン(DEBA)とを、[BADGE]:[9-AC dimer]:[DEBA]=100:100:20(モル比)で混合して、易解体性接着材料を調製した。
【0111】
(接着性および易解体性の評価)
実施例1と同様にして行った。
ただし、(3)の第1の熱処理の条件は110℃で10時間とした。(4)の引張せん断試験において、引張せん断接着強さ(3回の平均値)、すなわち解体工程前の接着強度は、1.64±0.27MPaであった。
また、(5)の第2の熱処理の条件は下表に示すとおりとした。
【0112】
各種条件・評価結果をまとめて下表に示す。ちなみに、第2の熱処理の条件が120℃、3hのものについては、測定の都合上、3回の平均値ではなく1回の測定結果を示している。
【0113】
【0114】
上表より、接着後、90℃、3~24hの熱処理では解体性は発現しなかったが、110℃、3 h以上の加熱により徐々に接着強度が低下することがわかる。換言すると、実施例3の易解体性接着材料の「耐熱温度」は90℃程度であるといえる。
また、150℃、0.5hの加熱により引張せん断接着強さは50%以下になった。すなわち、はっきりと易解体性が発現した。
さらに、実施例3の易解体性接着材料の、解体処理前の接着力は、実施例1よりも大きかった。第1の熱処理の温度を、実施例1よりも10℃高い110℃とすることで、9-アントラセンカルボン酸二量体の過度な分解を抑えつつ硬化反応を一層進行させることができ、結果、接着力がより高まったと推測される。また、硬化促進剤(DEBA)を比較的多く用いたことも関係している可能性がある。
【0115】
<実施例4>
(易解体性接着材料の調製)
ビスフェノールAジグリシジルエーテル(BADGE)と、2-アントラセンカルボン酸の二量体(2-AC dimer)と、硬化促進剤としてN,N-ジエチルベンジルアミン(DEBA)とを、[BADGE]:[2-AC dimer]:[DEBA]=100:100:10(モル比)で混合して、易解体性接着材料を調製した。
ちなみに、2-AC dimerについては、出発物質として2-アントラセンカルボン酸を用いた以外は、上記<9-アントラセンカルボン酸二量体の合成>と同様に、公知文献の記載を参考にして、光化学反応を利用して合成したものを用いた。
【0116】
(接着性および易解体性の評価)
実施例1における(接着性および易解体性の評価)と同様の手順により行った。
ただし、(3)の第1の熱処理の条件は、110℃で10時間とした。(4)の引張せん断試験において、引張せん断接着強さ(3回の平均値)、すなわち解体工程前の接着強度は、5.86±0.38MPaであった。
また、(5)の第2の熱処理の条件は下表に示すとおりとした。
【0117】
各種条件・評価結果をまとめて下表に示す。
【0118】
【0119】
2-AC dimerを用いた実施例4においては、まず、解体工程前の接着強度が、9-AC dimer使用時の3.5倍程度に向上した。これは、おそらく、2-AC dimerのほうが、9-AC dimerと比べて熱解離しにくく、エポキシ基-反応性基の反応中にアントラセン二量体骨格の分解が抑えられたためと推測される。
また、実施例4においては、130~140 oC、3 hの熱処理では接着強度は低下せず、170℃、3hの熱処理で接着強度は十分に低下した(十分な易解体性が発現した)。9-AC dimerを用いた実施例3では110~130℃の加熱でも接着強度の低下がみられたことと対比すると、2-AC dimerを用いることで、易解体処理前において、耐熱性の一層の向上を図ることができたといえる。
【0120】
<実施例5>
(易解体性接着材料の調製)
ビスフェノールAジグリシジルエーテル(BADGE)と、2-アントラセンカルボン酸の二量体(2-AC dimer)と、硬化促進剤としてN,N-ジエチルベンジルアミン(DEBA)とを、[BADGE]:[2-AC dimer]:[DEBA]=100:100:20(モル比)で混合して、易解体性接着材料を調製した。2-AC dimerは、実施例4と同様にして準備した。
【0121】
(接着性および易解体性の評価)
実施例1における(接着性および易解体性の評価)と同様の手順により行った。
ただし、(3)の第1の熱処理の条件は、110℃で10時間とした。(4)の引張せん断試験において、引張せん断接着強さ(3回の平均値)、すなわち解体工程前の接着強度は、5.91±0.68MPaであった。
また、(5)の第2の熱処理の条件は下表に示すとおりとした。
【0122】
各種条件・評価結果をまとめて下表に示す。
【0123】
【0124】
実施例5の評価結果は、DEBAの使用量が1/2である実施例4と概ね同様であった。また、解体処理温度を170℃から200℃にすると、解体性がやや向上した。
【0125】
<実施例6>
カルボキシ基と(エポキシ基の開環反応で生成した)ヒドロキシ基の脱水縮合を促進する目的で、減圧下で第1の熱処理を行った。具体的には以下の通りとした。
【0126】
実施例4と同様に、[BADGE]:[2-AC dimer]:[DEBA]=100:100:10(モル比)の組成の易解体性接着材料を用いて各種評価を行った。
ただし、(3)の第1の熱処理は、110℃で10時間、かつ、100Pa以下の条件で行った(実施例4は常圧下で実施)。(4)の引張せん断試験において、引張せん断接着強さ(3回の平均値)、すなわち解体工程前の接着強度は、6.45±0.25MPaであった。
また、(5)の第2の熱処理の条件は、170℃で3時間とした。引張せん断接着強さ(3回の平均値)は、1.70±0.18MPaであった。
【0127】
第1の熱処理(硬化)を減圧下で行うことで、実施例4と比べて接着強度を高めることができた。
【0128】
この出願は、2020年7月8日に出願された日本出願特願2020-117672号を基礎とする優先権を主張し、その開示の全てをここに取り込む。
【要約】
良好な接着強度と易解体性とを兼ね備える易解体性接着材料を提供すること。
エポキシ樹脂と、エポキシ樹脂と反応する反応性基を有する重付加型の硬化剤と、を含み、エポキシ樹脂および硬化剤のうち一方または両方が、アントラセン二量体骨格を含有する、易解体性接着材料。