(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-01-07
(45)【発行日】2022-02-04
(54)【発明の名称】回転子の設計方法
(51)【国際特許分類】
H02K 19/10 20060101AFI20220128BHJP
H02K 1/22 20060101ALI20220128BHJP
【FI】
H02K19/10 A
H02K1/22 Z
(21)【出願番号】P 2016182354
(22)【出願日】2016-09-16
【審査請求日】2018-12-03
【審判番号】
【審判請求日】2020-05-13
(73)【特許権者】
【識別番号】000003078
【氏名又は名称】株式会社東芝
(73)【特許権者】
【識別番号】598076591
【氏名又は名称】東芝インフラシステムズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001634
【氏名又は名称】特許業務法人 志賀国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】竹内 活徳
(72)【発明者】
【氏名】松下 真琴
(72)【発明者】
【氏名】高橋 則雄
(72)【発明者】
【氏名】三須 大輔
(72)【発明者】
【氏名】長谷部 寿郎
【合議体】
【審判長】窪田 治彦
【審判官】塩澤 正和
【審判官】佐々木 芳枝
(56)【参考文献】
【文献】特開2002-10594(JP,A)
【文献】特開2006-42467(JP,A)
【文献】特開平10-94201(JP,A)
【文献】特開2009-296685(JP,A)
【文献】特開平10-257700(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02K 19/10
H02K 1/22
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
軸心回りに回転するシャフトと、前記シャフトに固定された回転子鉄心と、を備える回転子の設計方法であって、
前記回転子鉄心に、前記回転子鉄心の外周面における、ある箇所から他の箇所に至る複数のフラックスバリアを、前記軸心を通る所定の直線を通過するように並べて形成する
ように決定する工程と、
前記フラックスバリアに、複数のブリッジ部を形成し、かつ前記複数のブリッジ部の間に前記回転子鉄心における前記フラックスバリア以外の部分に比して透磁率が低い一または複数のバリア領域を形成する
ように決定する工程と、
少なくとも二つの前記フラックスバリアのうち、前記軸心に近い方の第1のフラックスバリアにおける前記ブリッジ部の幅の最小と最大の相加平均値をw
a、前記軸心から遠い方の第2のフラックスバリアにおける前記ブリッジ部の幅の最小と最大の相加平均値をw
b、前記軸心を中心として前記第1のフラックスバリアの中心線と接する最小の円の半径を前記回転子鉄心の外半径で除算した値をa、前記軸心を中心として前記第2のフラックスバリアの中心線と接する最小の円の半径を前記回転子鉄心の外半径で除算した値をbと
し、かつ
前記軸心をz軸とする円筒座標系の一平面であって、前記z軸と直交する一平面のrθ座標系において、h(r,θ)=r^(p/2)×cos(pθ/2)とし、前記回転子鉄心の極数をpとした際に、前記第1のフラックスバリアの中心線を前記h(r,θ)に沿わせた前記第1のフラックスバリアの形状とし、前記第2のフラックスバリアの中心線を前記h(r,θ)に沿わせた前記第2のフラックスバリアの形状としたときに、
f(x)=(1-x^2)^(3/2)
g(x)=(1-x^3)である場合、
f(b)/f(a)≦w
b/w
a≦g(b)/g(a)の関係を満たすように前記ブリッジ部の幅を決定する工程と、
を備える回転子の設計方法。
【請求項2】
前記回転子鉄心に設けられた複数のフラックスバリアのうち、前記軸心に最も近いフラックスバリアを第1のフラックスバリアとする工程を更に備える、
請求項1に記載の回転子の設計方法。
【請求項3】
前記回転子鉄心に
は、前記フラックスバリアによって区画され、固定子により形成された磁束が通過する一以上の磁路
が形成される、
請求項1または2に記載の回転子の設計方法。
【請求項4】
前記ブリッジ部は、
前記回転子鉄心の外周面の一部を形成するように前記フラックスバリアの長手方向の両端に形成された外周ブリッジ部と、
前記外周ブリッジ部との間に形成された一以上の内部ブリッジ部とを有し、
前記ブリッジ部の幅を決定する工程には、前記関係を満たすように前記外周ブリッジ部
の幅を決定する工程、
前記関係を満たすように前記内部ブリッジ部
の幅を決定する工程、または、
前記関係を満たすように前記外周ブリッジ部および前記内部ブリッジ部の幅を決定する工程
が含まれる、
請求項1に記載の回転子の設計方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、回転子の設計方法に関する。
【背景技術】
【0002】
回転子に磁気障壁となるフラックスバリアが形成されたリラクタンスモータが知られている。従来の技術では、フラックスバリアの近傍のブリッジ部の幅を厚くすると、ブリッジ部から磁束が漏れ出し、本来磁束を妨げるべき方向(d軸方向)に磁束が流れてしまうために突極性が低下し、出力密度や効率、力率などのモータ性能が低下するという問題があった。これに対し、ブリッジ部の幅を薄くすると、モータ性能は向上するものの機械的強度が低下する場合があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2001―258222号公報
【文献】特開2006-325297号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明が解決しようとする課題は、機械的強度を保ちつつモータ性能を向上させることができる回転子の設計方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
実施形態の回転子の設計方法は、軸心回りに回転するシャフトと、シャフトに固定された回転子鉄心とを持つ回転子の設計方法であり、前記回転子鉄心に、前記回転子鉄心の外周面における、ある箇所から他の箇所に至る複数のフラックスバリアを、前記軸心を通る所定の直線を通過するように並べて形成するように決定する工程と、前記フラックスバリアに、複数のブリッジ部を形成し、かつ前記複数のブリッジ部の間に前記回転子鉄心における前記フラックスバリア以外の部分に比して透磁率が低い一または複数のバリア領域を形成するように決定する工程と、少なくとも二つの前記フラックスバリアのうち、前記軸心に近い方の第1のフラックスバリアにおける前記ブリッジ部の幅の最小と最大の相加平均値をwa、前記軸心から遠い方の第2のフラックスバリアにおける前記ブリッジ部の幅の最小と最大の相加平均値をwb、前記軸心を中心として前記第1のフラックスバリアの中心線と接する最小の円の半径を前記回転子鉄心の外半径で除算した値をa、前記軸心を中心として前記第2のフラックスバリアの中心線と接する最小の円の半径を前記回転子鉄心の外半径で除算した値をbとし、かつ前記軸心をz軸とする円筒座標系の一平面であって、前記z軸と直交する一平面のrθ座標系において、h(r,θ)=r^(p/2)×cos(pθ/2)とし、前記回転子鉄心の極数をpとした際に、前記第1のフラックスバリアの中心線を前記h(r,θ)に沿わせた前記第1のフラックスバリアの形状とし、前記第2のフラックスバリアの中心線を前記h(r,θ)に沿わせた前記第2のフラックスバリアの形状としたときに、f(x)=(1-x^2)^(3/2)、g(x)=(1-x^3)である場合、f(b)/f(a)≦wb/wa≦g(b)/g(a)の関係を満たすように前記ブリッジ部の幅を決定する工程と、を備える。
【図面の簡単な説明】
【0006】
【
図1】第1の実施形態おけるリラクタンスモータ1の1極分の構成を示す回転軸8に直交する断面図。
【
図2】遠心力が回転子3に生じる様子を模式的に示す図。
【
図3】双曲線でモデル化されたフラックスバリア11を模式的に示す図。
【
図5】フラックスバリア11の位置の定義方法を説明するための図。
【
図6】中心軸Oから各フラックスバリア11までの距離を示す図。
【
図7】各フラックスバリア11の位置と各ブリッジ部BDの幅との関係を示す図。
【
図8】第2の実施形態おけるリラクタンスモータ1Aの1極分の構成を示す回転軸8に直交する断面図。
【
図9】中心軸Oから各フラックスバリア11までの距離を示す図。
【
図10】センターブリッジ部BD
Cの幅の比が遠心力Fxに比例しないリラクタンスモータ1Aの1極分の構成を示す回転軸8に直交する断面図。
【
図11】外周ブリッジ部BD
Sの幅の比が遠心力Fxに比例しないリラクタンスモータ1Aの1極分の構成を示す回転軸8に直交する断面図。
【発明を実施するための形態】
【0007】
以下、実施形態の回転子の設計方法を、図面を参照して説明する。
【0008】
(第1の実施形態)
図1は、第1の実施形態おけるリラクタンスモータ1の1極分の構成を示す回転軸8に直交する断面図である。なお、
図1では、リラクタンスモータ1の1極分、すなわち、1/4周の周角度領域分のみを示している。回転軸8は、例えば、回転可能に軸支されて回転軸8中心で軸方向に延び、回転軸8中心回りに回転するシャフトであってよい。
【0009】
同図に示すように、リラクタンスモータ1は、略円筒状の固定子2と、固定子2よりも径方向内側に設けられ、固定子2に対して回転自在に設けられた回転子3と、を備えている。なお、固定子2および回転子3は、それぞれの中心軸線が共通軸上に位置した状態で配設されている。以下、上述した共通軸を中心軸Oと称し、中心軸Oに直交する方向を径方向と称し、中心軸O回りに周回する方向を周方向と称する。
【0010】
固定子2は、略円筒状の固定子鉄心4を有している。固定子鉄心4は、電磁鋼板を複数枚積層したり、軟磁性粉を加圧成形したりして形成することが可能である。固定子鉄心4の内周面には、中心軸Oに向かって突出し、周方向に等間隔で配列された複数のティース5が一体成形されている。ティース5は、断面略矩形状に形成されている。そして、隣接する各ティース5間には、それぞれスロット6が形成されている。これらスロット6を介し、各ティース5に電機子巻線7が巻回されている。
【0011】
なお、固定子鉄心4は、絶縁性を有するインシュレータが装着されたり、外面の全体が絶縁被膜で被覆されたりしてよい(何れも不図示)。そして、各ティース5には、インシュレータや絶縁被膜の上から電機子巻線7が巻回される。
【0012】
回転子3は、中心軸Oに沿って延びる回転軸8と、回転軸8に外嵌固定された略円柱状の回転子鉄心9と、を備えている。回転子鉄心9は、電磁鋼板を複数枚積層したり、軟磁性粉を加圧成形したりして形成することが可能である。回転子鉄心9の外径は、径方向で対向する各ティース5との間に、所定のエアギャップGが形成されるように設定されている。
【0013】
また、回転子鉄心9の径方向中央には、中心軸Oに沿って貫通する貫通孔10が形成されている。この貫通孔10には、回転軸8が圧入等される。これによって、回転軸8と回転子鉄心9とが一体となって回転する。
【0014】
さらに、回転子鉄心9には、1/4周の周角度領域のそれぞれに、複数のフラックスバリア11が、回転子鉄心9の回転軸8を通る一つの径(所定の直線の一例)を通過するように並べられて形成されている。すなわち、これらのフラックスバリア11は、回転子鉄心9の外周面における、ある箇所から他の箇所に至り、固定子2により形成された磁束が通過する複数の磁路の間に形成され、各磁路を区画する。本実施形態では、3つのフラックスバリア11a、11b、11cが形成されている。なお、
図1では、フラックスバリア11a、11b、11cのおけるバリア領域の符号を、それぞれを18a、18b、18cとしている。
【0015】
上述したフラックスバリア11のそれぞれは、複数(例えば、本実施形態では左右に2つ)のバリア領域18を有しており、それらは略双曲線状に分布している。回転子鉄心9において、バリア領域18によって磁束の流れが妨げられない方向をq軸と定義する。すなわち、回転子の外周面のある周角度位置Aに正の磁位(例えば磁石のN極を近づける)、それに対して1極分(本実施例の場合は90度)ずれた周角度位置Bに負の磁位(例えば磁石のS極を近づける)を与え、Aの位置を周方向へずらしていった場合に最も多くの磁束が流れる時の中心軸Oから位置Aに向かう方向をq軸と定義する。
【0016】
一方で、バリア領域18によって磁束の流れが妨げられる方向、すなわちq軸に対して磁気的に直交する方向をd軸と定義する。本実施形態では、フラックスバリア11によって、中心軸Oに近い領域と遠い領域に分離された2つの回転子鉄心部分が対向する方向に対して平行な方向がd軸である。また、フラックスバリア11が多層に形成されている場合(本実施形態では3層)、層の重なり方向がd軸である。なお、フラックスバリア11は3層に限られず、単層または2層、あるいは4層以上形成されてもよいし、各フラックスバリア11におけるバリア領域18の個数は2つに限られず、1または3以上であってもよい。
【0017】
各バリア領域18は、少なくとも外周側において、q軸に沿うと共に、周方向の中央部が最も径方向内側に位置するように、外周側から径方向内側の中心軸Oに向かって凸形状に湾曲した断面略円弧状に形成される。なお、各バリア領域18の形状は、円弧に限られず、U字型のような凸形状であってもよい。本実施形態において、回転子鉄心9のそれぞれの周角度領域には、略円弧状の6つのバリア領域18が形成されている。バリア領域18内部には、樹脂などの非磁性体が充填されてもよいし、空洞であってもよい。また、バリア領域18には、アルミニウムや銅などの導体が挿入されてもよい。例えば、本実施形態におけるリラクタンスモータ1を同期電動機として用いた場合、バリア領域18に挿入された導体が脈動を緩和するため、急激な負荷変動より発生する乱調を抑制することができる。すなわち、バリア領域18に導体を挿入することによってダンパー巻線を回転子3に設けたときと同様の乱調防止効果を得ることができる。また、一般的に同期電動機は、回転子3の回転が停止した状態からは始動が困難である。一方、本実施形態では、バリア領域18に導体を挿入するため、導体が制動巻き線と同様の働きをすることによって、リラクタンスモータ1が誘導電動機として始動し、同期速度付近まで加速してから回転子3側を励磁する。これによって、リラクタンスモータ1を商用電源の供給電力を用いて駆動させる際に、自己始動させることができる。
【0018】
固定子2から回転子3に流れる磁束のうちq軸方向の磁束は、中心軸Oをz軸方向とした時の円筒座標(r-θ-z)の任意の一平面(r-θ)上において双曲線を示す数式(1)の等高線によって近似的に表すことができる。すなわち、q軸磁束の流線はf(r、θ)が一定値となる関係を満たすrとθの軌跡と近似的に一致する。ただし、数式(1)において、pはリラクタンスモータ1の極数を表す。そのため、各バリア領域18の形状も数式(1)が示す双曲線の等高線に概略的に沿うように形成されてよい。
【0019】
【0020】
これら複数のバリア領域18は、回転子鉄心9に生じる遠心力を考慮して、フラックスバリア11の外周側に近接する端部において回転子鉄心9の外周から所定距離wo離れた位置に設けられる。例えば、径方向において最も外周側に近いフラックスバリア11aの各バリア領域18aは、回転子鉄心9の外周から所定距離wo1離れた位置に設けられる。また、径方向において最も回転軸8側に近いフラックスバリア11cの各バリア領域18cは、回転子鉄心9の外周から所定距離wo3離れた位置に設けられる。また、径方向においてフラックスバリア11aとフラックスバリア11cの間に存在するフラックスバリア11bの各バリア領域18bは、回転子鉄心9の外周から所定距離wo2離れた位置に設けられる。これらの距離は、wo1<wo2<wo3の関係にあると好適であるが、一部または全部が同じであってもよい。このようにバリア領域18を外周からある程度の幅(厚さ)をもたせて離間させることで、回転子鉄心9の外周とバリア領域18との間に位置する回転子鉄心9の機械的強度を高めることができる。回転子鉄心9には、外周ブリッジ部BDSを含む複数のブリッジ部が形成される。外周ブリッジ部BDSは、フラックスバリア11の長手方向の両端において回転子鉄心9の外周面の一部を形成するブリッジ部である。外周ブリッジ部BDSは、各フラックスバリア11を隔てた回転子鉄心9同士を結合(接続)する役割を果たす。
【0021】
フラックスバリア11の両端のそれぞれに設けられた外周ブリッジ部BDSの幅woは、回転子3の外周側から回転軸8に向かう方向に関する厚さである。例えば、外周ブリッジ部BDSの幅は、回転子鉄心9の外周面とバリア領域18の長手方向における外周側の境界面との距離をとる。例えば、回転子鉄心9の外周面とバリア領域18の長手方向における外周側の境界面とを各々構成する曲線または折れ線が平行でない場合は、外周ブリッジ部BDSの幅は、それらの曲線または折れ線間の最小距離と最大距離との相加平均値と定義される。例えば、回転子鉄心9の外周面を示す曲線または折れ線上に任意の基準点を設定する。この基準点から、バリア領域18の長手方向における外周側の境界面を示す曲線または折れ線までの距離が最短を示す直線を導出する。以降、外周面を示す曲線または折れ線上において、基準点をずらしながら境界面までの最短を示す直線を複数導出する。このようにして複数導出した直線の長さの平均が外周ブリッジ部BDSの幅woと定義される。つまりは、外周ブリッジ部BDSの幅woは、対面する面との距離になる。
【0022】
また、フラックスバリア11の延伸方向に沿った両端の間の中間地点(例えば径方向において最も回転軸8に近い部分)において、複数のバリア領域18がその延伸方向に間隔を空けて形成される場合、所定距離wC離れた間隔でバリア領域18を形成する。例えば、フラックスバリア11aにおけるバリア領域18同士は、互いに所定距離wc1離れた位置に設けられる。フラックスバリア11bにおけるバリア領域18同士は、互いに所定距離wc2離れた位置に設けられる。フラックスバリア11cにおけるバリア領域18同士は、互いに所定距離wc3離れた位置に設けられる。これらの距離は、wc1<wc2<wc3の関係にあると好適であるが、一部または全部が同じであってもよい。これによって、複数のバリア領域18間に位置する回転子鉄心9の機械的強度を高めることができる。以下、フラックスバリア11の両端の間の中間地点において、バリア領域18間に位置する回転子鉄心9を、「センターブリッジ部BDC」と称して説明する。センターブリッジ部BDCは、「内部ブリッジ部」の一例である。
【0023】
センターブリッジ部BD
Cを挟んで対をなすバリア領域18は、互いに略同形状となる。センターブリッジ部BD
Cは、外周ブリッジ部BD
Sと同様に、各フラックスバリア11を隔てた回転子鉄心9同士を結合(接続)する役割を果たす。センターブリッジ部BD
Cの幅w
Cは、センターブリッジ部BD
Cを挟み、対をなすバリア領域18のそれぞれにおけるセンターブリッジ部BD
C側の境界面(例えば
図1ではd軸を対称としたセンターブリッジ部BD
C側の境界面)の間の距離である。例えば、対をなすバリア領域18のそれぞれにおけるセンターブリッジ部BD
C側の境界面を構成する曲線または折れ線が平行でない場合は、外周ブリッジ部BD
Sの幅w
oの定義方法と同様に、センターブリッジ部BD
Cの幅w
Cは、それらの曲線または折れ線間の距離の最小値と最大値の相加平均値と定義される。
【0024】
上記外周ブリッジ部BDSおよびセンターブリッジ部BDCが形成されることにより、バリア領域18が形成された状態でも、フラックスバリア11の両端と中間地点においてバリア領域18により回転子鉄心9が分離されることなく回転子鉄心9が1つの部材として纏まることになる。
【0025】
図2は、遠心力が回転子3に生じる様子を模式的に示す図である。
図1に例示した回転子3の構成の場合、回転子鉄心9は、4つの鉄心部9a、9b、9c、9dに分けられ、これらが各ブリッジ部によって接続される。回転子3が回転することで鉄心部9aには、遠心力Fx1が働く。これに応じて、外周ブリッジ部BD
S1やセンターブリッジ部BD
C1には、遠心力Fx1に起因する応力が発生する。例えば、応力は、せん断応力や引張り応力などである。
【0026】
また、鉄心部9bには、遠心力Fx2が働く。これに応じて、外周ブリッジ部BDS2やセンターブリッジ部BDC2には、鉄心部9bに発生する遠心力Fx2に加え、鉄心部9aに発生する遠心力Fx1も作用するため、外周ブリッジ部BDS1およびセンターブリッジ部BDC1に比べてより大きい応力が発生する。同様に、外周ブリッジ部BDS3やセンターブリッジ部BDC3には、鉄心部9cに発生する遠心力Fx3に加え、さらに遠心力Fx1およびFx2も作用するため、外周ブリッジ部BDS2およびセンターブリッジ部BDC2に比べてより大きい応力が発生する。外周ブリッジ部BDS4やセンターブリッジ部BDC4には、鉄心部9dに発生する遠心力Fx4に加え、さらに遠心力Fx1、Fx2およびFx3も作用するため、外周ブリッジ部BDS3およびセンターブリッジ部BDC3に比べてより大きい応力が発生する。
【0027】
このように、径方向における各ブリッジ部BDの位置によって応力が異なるため、上述したように、機械的強度をある一定の水準で保つために径方向において回転軸8に近づく、またはq軸に近づくにつれてブリッジ部BDの幅を大きくすることが好ましい。しかしながら、ブリッジ部BDの幅を大きくした場合、ブリッジ部BDの磁気飽和が弱くなって固定子2から流入した磁束がブリッジ部BDを流れ易い状態となる。ブリッジ部BDを流れる磁束はd軸方向の成分を持つため、本来磁束を妨げなければならないd軸方向の磁束が増加することになる。これにより、突極性が低下してモータ性能が低下してしまう。従って、ある程度の機械的強度を保ちつつブリッジ部BDの磁気飽和が最大(すなわちブリッジ部BDの幅が最小)となるように各ブリッジ部BDを設計する必要がある。
【0028】
以下、各ブリッジ部BDの好適な設計方法について説明する。各ブリッジ部の幅は、ある基準となる基準幅に対する比率に応じて決定されてよい。比率について説明するために、まずフラックスバリア11に隔てられた回転子鉄心9ごとの遠心力について、
図3を参照しながら説明する。
【0029】
図3は、数式(1)の双曲線の等高線でモデル化されたフラックスバリア11を模式的に示す図である。回転子3の断面において任意に定めたx-y座標(r-θ座標と等価)において、微小面積dSに着目する。微小面積dSが原点(中心軸O)を中心として回転角速度ωで回転しているとすれば、この微小面積dSの密度をρとした場合、微小面積dSに働く遠心力のx方向の成分dFxは、下記の数式(2)によって表すことができる。数式中のaは、原点から双曲線までの最短距離を表している。すなわち、aは、中心軸Oから各フラックスバリア11までの距離Rを、外半径で規格化した指標である。外半径とは、中心軸Oから回転子鉄心9の外周面までの最大距離(半径Rmax)である。
【0030】
【0031】
従って、数式(2)によって表されるx方向成分dFxを積分すれば、フラックスバリア11を示す双曲線と単位円(すなわち半径Rmaxで規格化した回転子の外周)に囲まれた部分に生じる遠心力Fxが計算できる。数式(3)は、x方向成分dFxを用いた遠心力Fxの導出式である。
【0032】
【0033】
また、半径rの円と双曲線の交点から、数式(3)の積分範囲を指定するφは以下のように計算できる。
【0034】
【0035】
上述した数式(4)を代入すると、数式(3)は数式(5)のように変形することができる。
【0036】
【0037】
数式(5)による定積分の計算結果を
図4に示す。
図4は、数式(5)によって遠心力を理論的に計算した結果の一例を示す図である。2極(p=2)または4極(p=4)の場合の遠心力を曲線LN1に示し、6極(p=6)の場合の遠心力を曲線LN2に示している。また、8極(p=8)の場合の遠心力を曲線LN3に示し、極数を無限とした極限(p=∞)の場合の遠心力を曲線LN4に示している。なお、
図4においては、各遠心力Fxを、a=0の時の遠心力Fxの値で規格化している。
【0038】
上述した遠心力Fxを示す数式(5)を用いて、各ブリッジ部の幅を以下のように決定する。
図5は、フラックスバリア11の位置の定義方法を説明するための図である。
図5の例では、複数のフラックスバリア11のうち、回転子3の径方向において他のフラックスバリア11との中間に位置するフラックスバリア11bに着目している。フラックスバリア11bの中心線200と接する中心軸Oを中心とした円弧の半径R(2)を、回転子3の外周面の半径Rmaxで除算することで規格化した値を、上記パラメータaと定義する。中心線200は、バリア領域18aおよび18bの幅方向を表す線分の中点を連ねた線として扱われる。例えば、外周側の境界面を示す曲線または折れ線上に任意の基準点を設定する。この基準点から、回転軸8側の境界面を示す曲線または折れ線までの距離が最短となる直線が幅方向を表す線分となる。以降、外周側の境界面を示す曲線または折れ線上において、基準点をずらしながら回転軸8側の境界面に対する線分を複数導出する。このようにして複数導出した線分のそれぞれの中点を通る曲線が中心線200となる。
図5に示すような構成の回転子3が回転した場合、フラックスバリア11bの近傍に位置する外周ブリッジ部BD
S2とセンターブリッジ部BD
C2とに発生する応力は、数式(5)より計算した遠心力Fxを各ブリッジ部の幅で除した値に近似的に比例する。
【0039】
図6は、中心軸Oから各フラックスバリア11までの距離を示す図である。各ブリッジ部に発生する応力が遠心力Fxを対応するブリッジ部の幅で除算した値に近似するため、
図6のように、各フラックスバリア11(バリア領域18)までの規格化された距離をそれぞれa1、a2、a3とした場合、それらの周囲にある外周ブリッジ部BD
Sの幅を、Fx(a1):Fx(a2):Fx(a3)の比で変化させれば、それらで発生する応力がほぼ均一となる。Fx(a1)は、フラックスバリア11aの位置での遠心力であり、Fx(a2)は、フラックスバリア11bの位置での遠心力であり、Fx(a3)は、フラックスバリア11cの位置での遠心力である。このようにブリッジ部の幅を決定することで、発生する応力が、機械強度の観点から制限される規定値内となるように限界設計することができる。
【0040】
より具体的には、以下の手順で各ブリッジ幅を決定するとよい。まず、回転子鉄心9において、基準となるフラックスバリア11の位置を任意に決定する。基準となるフラックスバリア11は、例えば、回転子鉄心9において形成される複数のフラックスバリア11のうち、回転子鉄心9の径方向において、最も中心軸O(回転軸8)に近い位置に形成されるフラックスバリア11である。フラックスバリア11の位置を決定するとは、中心軸Oからフラックスバリア11までの距離を決定することである。この位置は磁気回路の観点から決定されてよい。本実施形態の場合、基準となるフラックスバリア11はフラックスバリア11cであり、中心軸Oからの規格化された基準距離(中心軸Oから基準となるフラックスバリア11までの距離を回転子鉄心9の外半径で除した値)はa3である。この距離a3から遠心力Fx(a3)を計算する。次に、基準となるフラックスバリア11であるフラックスバリア11cに属する外周ブリッジ部BDS3やセンターブリッジ部BDC3の幅を仮決定する。以下、仮決定したブリッジ部の幅を基準幅と称する。本実施形態では、外周ブリッジ部BDS3の基準幅はwO3であり、センターブリッジ部BDC3の基準幅はwC3である。次に、フラックスバリア11cより外周側に形成されるフラックスバリア11bの位置を任意に決定する。すなわち、中心軸Oからフラックスバリア11bまでの距離a2を決定する。ただし、a3<a2である。フラックスバリア11bに属する外周ブリッジ部BDS2の幅wO2およびセンターブリッジ部BDC2の幅wC2を、遠心力Fx(a2)および遠心力Fx(a3)との比から以下の式で計算する。
【0041】
wO2=wO3×Fx(a2)/Fx(a3)
wC2=wC3×Fx(a2)/Fx(a3)
【0042】
以下同様に、フラックスバリア11bよりも外周側に形成されるフラックスバリア11aに属する外周ブリッジ部BDS1の幅wO1およびセンターブリッジ部BDC1の幅wC1を、遠心力Fx(a1)および遠心力Fx(a3)との比から以下の式で計算する。
【0043】
wO1=wO3×Fx(a1)/Fx(a3)
wC1=wC3×Fx(a1)/Fx(a3)
【0044】
このように決定することで、wo1:wo2:wo3=Fx(a1):Fx(a2):Fx(a3)のような関係を満足し、各部の応力が均一化される。これによって、機械的強度を向上させることができる。各ブリッジ部の応力が規定値を超える様な場合は、初めに仮決定した最も回転軸8に近いフラックスバリア11に属するブリッジ部の幅(すなわち基準幅)を広げればよい。先に述べたように、最も中心軸O(回転軸8)に近い位置に形成されるフラックスバリアに属するブリッジ部に最も大きな遠心力が働き、また、必要なブリッジ幅も最も広くなる。すなわち、機械強度的にも磁気回路的にも、最も影響が大きい部位となる。したがって、上記のように基準となるフラックスバリアとして中心軸Oに最も近いフラックスバリアを選び、それに属するブリッジ部の幅を基準幅とすることで最適な形状を決めることができる。しかしながら、構造上やその他の理由で、中心軸Oに最も近いフラックスバリアに属するブリッジ部の幅を任意に選べない場合もあり、機械強度としてかなり余裕を持ったブリッジ幅とせざるを得ない場合も考えられる。そのような場合に中心軸Oに最も近いフラックスバリアを基準とすると、その他のブリッジ部にも機械強度として不要な余裕を持たせた設計となってしまい、モータ性能は低下してしまう。このような場合は、中心軸Oに最も近いフラックスバリアに限らず、その他のフラックスバリアを基準として選ぶことが望ましい。基準となるフラックスバリアを変更した場合も、上記と同じ手順で最適なブリッジ幅の設計が実現される。本実施例ではフラックスバリア11が3層の場合を説明したが、1層や2層、また4層以上の場合も同様の手順で決定してよい。
【0045】
ところで、数式(5)は極数pの関数となっているため、極数の異なる回転子3では遠心力Fx(a)の値が異なる。
図7の曲線LN5は、2極(p=2)または4極(p=4)の場合に生じる遠心力Fxに略比例した応力に対して、一定の機械的強度を保つために必要なブリッジ部の幅の変化傾向を表している。同様に曲線LN6は、極数を無限とした極限(p=∞)の場合に生じる遠心力Fxに略比例した応力に対して、一定の機械的強度を保つために必要なブリッジ部の幅の変化傾向を表している。
【0046】
したがって実用的には、極数pに関わらず、各外周ブリッジ部BDSおよびセンターブリッジ部BDCの幅の比を、上述した曲線LN5およびLN6に囲まれた領域内に収まるように決定すればよい。なお、すべてのブリッジ部の幅がこの領域内に収まる必要はない。外周寄りに位置するフラックスバリア11(本実施形態ではフラックスバリア11aなど)に属するブリッジ部の幅(本実施形態ではwo1やwc1など)を上記領域内に収めようとすると、機械加工の観点から製作が困難なほどに狭い幅となってしまう場合がある。一般的に、回転子鉄心9の形状は、打ち抜きやレーザーカットなどで実現される。従って、機械加工の制約からブリッジ部の幅が制限されることがある。このような場合、ブリッジ部の幅を、加工精度などの制約下において実現できる最小限の幅とすることで、モータ性能の低下を最小限とすることができる。
【0047】
曲線LN5およびLN6は、以下のように導出することができる。上述した数式(5)において、極数P=2とすれば、遠心力Fxは数式(6)として計算することができる。
【0048】
【0049】
また、極数P=∞とすれば、遠心力Fxは数式(7)として計算することができる。
【0050】
【0051】
数式(6)を規格化して、曲線LN5は、f(a)=(1-a2)3/2として求めることができる。また、数式(7)を規格化して、曲線LN6は、g(a)=(1-a3)として求めることができる。すなわち、各外周ブリッジ部BDSおよびセンターブリッジ部BDCの幅の比は、(1-a2)3/2と、(1-a3)との間に収まっていればよい。すなわち、最も中心軸O(回転軸8)に近い位置に形成されるフラックスバリア11を基準となるフラックスバリアとし、中心軸Oからの規格化された距離を基準距離a、そのフラックスバリアに属する外周ブリッジ部BDSの幅をwOa、センターブリッジ部BDCの幅をwCaとする。次に、基準となるフラックスバリア以外のフラックスバリア11の規格化された距離をb(>a)とした時に、そのフラックスバリアに属する外周ブリッジ部BDSの幅wObおよびセンターブリッジ部BDCの幅wCbを、以下の関係を満たすように決定すればよい。
【0052】
f(b)/f(a)≦wOb/wOa≦g(b)/g(a)
f(b)/f(a)≦wCb/wCa≦g(b)/g(a)
【0053】
これによって、各ブリッジ部BDに発生する応力を均一化させて回転子3全体としての機械的強度を保ちつつ、d軸方向の漏れ磁束量を最小化することができる。なお、実用的な運用として、各位置aにおける、曲線LN5が示す幅と曲線LN6が示す幅との中点を連ねた曲線LN7に一致するように、各基準幅に対する外周ブリッジ部BDSおよびセンターブリッジ部BDCの幅を決定してよい。
【0054】
以上説明した第1の実施形態によれば、外周ブリッジ部BDSおよびセンターブリッジ部BDCの幅を、各フラックスバリア11の位置において生じる遠心力Fxに比例するように決定するため、各ブリッジ部に生じる応力を均等にすることができる。この結果、機械的強度を保ちつつ、モータ性能を向上させることができる。
【0055】
なお、上述した第1の実施形態において、フラックスバリア11がセンターブリッジ部BDCのみを有する場合も同様に、基準幅に対するセンターブリッジ部BDCの幅の比率を、(1-a2)3/2と、(1-a3)との範囲内で決めてよい。また、フラックスバリア11が外周ブリッジ部BDSおよびセンターブリッジ部BDCの双方を有する場合、いずれか一方の幅の比率のみを、(1-a2)3/2と、(1-a3)との範囲内で決めてよい。
【0056】
(第2の実施形態)
以下、第2の実施形態におけるリラクタンスモータ1Aについて説明する。ここでは、第1の実施形態との相違点として、2つのセンターブリッジ部BDcが形成されて、各フラックスバリア11a、11b、11cには3つのバリア領域18が形成されている点について説明する。以下、上述した第1の実施形態と共通する機能等についての説明は省略する。
【0057】
図8は、第2の実施形態おけるリラクタンスモータ1Aの1極分の構成を示す回転軸8に直交する断面図である。また、
図9は、中心軸Oから各フラックスバリア11までの距離の関係を示す図である。
【0058】
図8および
図9に示すように、第2の実施形態では、最も外周側に近いフラックスバリア11aの位置はa1と定義され、最も中心軸Oに近いフラックスバリア11cの位置はa2と定義され、フラックスバリア11aとフラックスバリア11cとの間のフラックスバリア11bの位置はa3と定義される。a1、a2、a3について、基準幅に対する外周ブリッジ部BD
sおよびセンターブリッジ部BD
cの幅を上述した(1-a
2)
3/2と、(1-a
3)の領域内となるように決定することで、機械的強度を保ちつつ、ブリッジ部を流れる漏れ磁束を少なくすることができる。なお、
図8では、中心軸Oに最も近いフラックスバリア11cについてのみバリア領域を示す18cの符号を付しているが、その他のフラックスバリア11a、11bについても同様である。また、任意のフラックスバリア11xにおいて分割されたバリア領域を、18x
1、18x
2、18x
3のように示している。xは、a、b、cのいずれかである。
【0059】
第2の実施形態では、複数のバリア領域18のうち少なくとも1つのバリア領域18(図示の例では、2つのセンターブリッジ部BDcに挟まれるバリア領域18a2、18b2、18c2)に永久磁石100が挿入される。本実施形態における永久磁石100とは、電磁石ではない磁石のことであり、リラクタンスモータ1の使用年数(寿命)を考慮した場合に、ほぼ一定の磁場を発生し続けることができる物体のことをいう。永久磁石100は、例えば、ネオジム磁石、フェライト磁石、サマリウム鉄コバルト磁石などである。バリア領域18に挿入される永久磁石100は挿入後に略d軸方向に磁化されてもよいし、予め所定方向に磁化された永久磁石100が、その磁化方向が略d軸方向に向くように挿入されてもよい。すなわち、永久磁石100は、挿入対象のバリア領域18に対して外周側に位置する回転子鉄心9、バリア領域18を挟む各ブリッジ部、当該挿入対象のバリア領域18に対して回転軸8側に位置する回転子鉄心9と共に磁気回路を形成するように磁化されていればよい。言い換えれば、永久磁石100の磁化方向は、永久磁石の設けられた位置におけるフラックスバリア11の長手方向に交差する方向に向けられる。バリア領域18には、挿入された永久磁石100を固定するために、接着性の樹脂などの非磁性体が充填されてもよいし、永久磁石100と共に非磁性体のスペーサなどが挿入されてもよい。非磁性体は、回転子鉄心9に比して透磁率が低いものとする。なお、バリア領域18には、上述した実施形態と同様に、永久磁石100の代わりにアルミニウムや銅などの導体が挿入されてもよい。
【0060】
また、永久磁石100は、回転子3の断面において、少なくともバリア領域18の輪郭を形成する面の一部(好ましくは全部)から離間するように配置されてよい。すなわち、バリア領域18内において、永久磁石100が回転子鉄心9と直に接しないように配置される。このような配置によって、永久磁石100の角部などで発生する局所的な不可逆減磁を抑制することができる。
【0061】
バリア領域18に挿入される永久磁石100は、リラクタンスモータ1の駆動に支障がでない程度の起磁力を有する。永久磁石100の起磁力によって発生した磁束は、磁化方向である略d軸方向に向かう磁束と、外周ブリッジ部BDSを経由する磁束と、センターブリッジ部BDCを経由する磁束とに分かれる。外周ブリッジ部BDSおよびセンターブリッジ部BDCは鉄心であるため、その材質に応じた飽和磁束密度が存在する。従って、鉄心の飽和磁束密度を超えて外周ブリッジ部BDSおよびセンターブリッジ部BDCに磁束が流れると、各ブリッジ部の磁気抵抗が高まり磁束が流れにくくなる。永久磁石100から生じた磁束が各ブリッジ部をd軸方向の略逆方向に流れるため、固定子2側から流入した磁束は、各ブリッジ部において略d軸方向に流れにくくなる。磁束が飽和した各ブリッジ部BDは、それ以上磁束を通さないことから広義な意味でのフラックスバリア11となる。上記永久磁石100の効果によって、固定子2から流入した磁束量のうちd軸方向に流れる磁束量を少なくすることで、q軸方向に流れる磁束量を多くすることができるため、バリア領域18に永久磁石100を設けないリラクタンスモータ1に比べて突極性を改善させることができる。
【0062】
また、各外周ブリッジ部BD
Sの幅の比および各センターブリッジ部BD
Cの幅の比のいずれか一方は、(1-a
2)
3/2と、(1-a
3)との間に収まっていなくてもよい。
図10は、センターブリッジ部BD
Cの幅の比が遠心力Fxに比例しないリラクタンスモータ1Aの1極分の構成を示す回転軸8に直交する断面図である。また、
図11は、外周ブリッジ部BD
Sの幅の比が遠心力Fxに比例しないリラクタンスモータ1Aの1極分の構成を示す回転軸8に直交する断面図である。このように、少なくともいずれか一方のブリッジ部の幅の比が遠心力Fxに比例するようにリラクタンスモータ1を構成すれば、固定子2から流入した磁束量のうちd軸方向に流れる磁束量を少なくすることができる。
【0063】
以上説明した第2の実施形態によれば、外周ブリッジ部BDSおよびセンターブリッジ部BDCの幅を、各フラックスバリア11の位置において生じる遠心力Fxに比例するように決定した上で、バリア領域18に永久磁石100を挿入するため、d軸方向に流れる漏れ磁束量を更に少なくすることができる。この結果、モータ性能を更に向上させることができる。
【0064】
以上説明した少なくともひとつの実施形態によれば、外周ブリッジ部BDSおよびセンターブリッジ部BDCの幅を、各フラックスバリア11の位置において生じる遠心力Fxに比例するように決定するため、各ブリッジ部に生じる応力を均等にすることができる。この結果、機械的強度を保ちつつ、モータ性能を向上させることができる。
【0065】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれると同様に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれるものである。
【符号の説明】
【0066】
1…リラクタンスモータ、2…固定子、3…回転子、4…固定子鉄心、5…ティース、7…電機子巻線、8…回転軸(シャフト)、9…回転子鉄心、11…フラックスバリア、18…バリア領域