(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-01-07
(45)【発行日】2022-01-21
(54)【発明の名称】導電性ポリマーコンポジット
(51)【国際特許分類】
C08L 101/00 20060101AFI20220114BHJP
C08K 3/04 20060101ALI20220114BHJP
H01B 1/24 20060101ALI20220114BHJP
H01B 13/00 20060101ALI20220114BHJP
B29C 67/00 20170101ALI20220114BHJP
B33Y 70/00 20200101ALI20220114BHJP
【FI】
C08L101/00
C08K3/04
H01B1/24 A
H01B1/24 Z
H01B13/00 501Z
B29C67/00
B33Y70/00
(21)【出願番号】P 2017002482
(22)【出願日】2017-01-11
【審査請求日】2020-01-09
(32)【優先日】2016-01-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】596170170
【氏名又は名称】ゼロックス コーポレイション
【氏名又は名称原語表記】XEROX CORPORATION
(74)【代理人】
【識別番号】100094569
【氏名又は名称】田中 伸一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100109070
【氏名又は名称】須田 洋之
(74)【代理人】
【識別番号】100067013
【氏名又は名称】大塚 文昭
(74)【代理人】
【識別番号】100086771
【氏名又は名称】西島 孝喜
(74)【代理人】
【識別番号】100109335
【氏名又は名称】上杉 浩
(74)【代理人】
【識別番号】100120525
【氏名又は名称】近藤 直樹
(74)【代理人】
【識別番号】100139712
【氏名又は名称】那須 威夫
(72)【発明者】
【氏名】レイチェル・プレスタイコ
(72)【発明者】
【氏名】サラ・ジェイ・ヴェラ
(72)【発明者】
【氏名】キャロライン・ムーアラグ
(72)【発明者】
【氏名】バーケフ・コシュケリアン
【審査官】横山 法緒
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2013/172334(WO,A1)
【文献】国際公開第2015/198657(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2011/0260116(US,A1)
【文献】国際公開第2013/153969(WO,A1)
【文献】特表2005-500409(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 1/00-101/14
C08K 3/00-13/08
H01B 1/24
H01B 13/00
B29C 64/165
B29C 67/00-67/24
B33Y 70/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱可塑性ポリマーと、
導電性ポリマーコンポジットの合計重量を基準として、2重量%~
5重量%の範囲の量のカーボンナノチューブと、
導電性ポリマーコンポジットの合計重量を基準として、30重量%~
40重量%の範囲の量の複数のグラファイト状粒子と
を含み、
前記グラファイト状粒子は、グラフェン粒子、グラファイト粒子、またはグラフェン粒子とグラファイト粒子の混合物である、導電性ポリマーコンポジット。
【請求項2】
熱可塑性ポリマーは、アクリレート単位、カルボン酸エステル単位、アミド単位、乳酸単位、ベンズイミダゾール単位、炭酸エステル単位、エーテル単位、スルホン単位、アリールケトン単位、アリールエーテル単位、アリールアルキル単位、エーテルイミド単位、エチレン単位、フェニレンオキシド単位、プロピレン単位、スチレン単位、ハロゲン化ビニル単位およびカルバメート単位からなる群から選択される少なくとも1つの繰り返し単位を含む、請求項1に記載のコンポジット。
【請求項3】
熱可塑性ポリマーは、2つ以上の繰り返し単位のコポリマーである、請求項2に記載のコンポジット。
【請求項4】
コポリマーが、1つ以上のアクリレート単位を含む、請求項3に記載のコンポジット。
【請求項5】
熱可塑性ポリマーは、ポリアクリレート、ポリベンズイミダゾール、ポリカーボネート、ポリエーテルスルホン、ポリアリールエーテルケトン、ポリエチレン、ポリフェニレンオキシド、ポリプロピレン、ポリスチレン、ポリエステル、ポリウレタン、ポリアミド、ポリ(フッ化ビニリデン)(PVDF)、ポリ塩化ビニル、ポリエーテルエーテルケトン、ポリ(エチレン-コ-酢酸ビニル)、ポリエーテルイミド、ポリプロピレン、ポリ(フッ化ビニリデン-コ-ヘキサフルオロプロピレン)、ポリ(スチレンイソプレンスチレン)、アクリロニトリルブタジエンスチレン(ABS)、ポリ(スチレンエチレンブチレンスチレン)(SEBS)、ポリエチレンテレフタレート、ポリ乳酸(PLA)、ポリカプロラクトンおよびナイロンからなる群から選択される少なくとも1つのポリマーを含む、請求項1に記載のコンポジット。
【請求項6】
三次元印刷の方法であって、この方法は、
三次元プリンタに、熱可塑性ポリマーと、導電性ポリマーコンポジットの合計重量を基準として、2重量%~
5重量%の範囲の量のカーボンナノチューブと、導電性ポリマーコンポジットの合計重量を基準として、30重量%~
40重量%の範囲の量の複数のグラファイト状粒子とを含むコンポジットを提供することと;
前記コンポジットを加熱することと;
加熱したコンポジットを構築プラットフォームの上に押出成型し、三次元物体を作成することと
を含み、
前記グラファイト状粒子は、グラフェン粒子、グラファイト粒子、またはグラフェン粒子とグラファイト粒子の混合物である、方法。
【請求項7】
熱可塑性ポリマーと、導電性ポリマーコンポジットの合計重量を基準として、2重量%~
5重量%の範囲の量のカーボンナノチューブと、
導電性ポリマーコンポジットの合計重量を基準として、30重量%~
40重量%の範囲の量の複数のグラファイト状粒子と
を含み、
前記グラファイト状粒子は、グラフェン粒子、グラファイト粒子、またはグラフェン粒子とグラファイト粒子の混合物である、導電性ポリマーコンポジットフィラメント。
【請求項8】
熱可塑性ポリマーは、アクリレート単位、カルボン酸エステル単位、アミド単位、乳酸単位、ベンズイミダゾール単位、炭酸エステル単位、エーテル単位、スルホン単位、アリールケトン単位、アリールエーテル単位、アリールアルキル単位、エーテルイミド単位、エチレン単位、フェニレンオキシド単位、プロピレン単位、スチレン単位、ハロゲン化ビニル単位およびカルバメート単位からなる群から選択される少なくとも1つの繰り返し単位を含む、請求項7に記載の導電性ポリマーコンポジットフィラメント。
【請求項9】
熱可塑性ポリマーは、ポリアクリレート、ポリベンズイミダゾール、ポリカーボネート、ポリエーテルスルホン、ポリアリールエーテルケトン、ポリエチレン、ポリフェニレンオキシド、ポリプロピレン、ポリスチレン、ポリエステル、ポリウレタン、ポリアミド、ポリ(フッ化ビニリデン)(PVDF)、ポリ塩化ビニル、ポリエーテルエーテルケトン、ポリ(エチレン-コ-酢酸ビニル)、ポリエーテルイミド、ポリプロピレン、ポリ(フッ化ビニリデン-コ-ヘキサフルオロプロピレン)、ポリ(スチレンイソプレンスチレン)、アクリロニトリルブタジエンスチレン(ABS)、ポリ(スチレンエチレンブチレンスチレン)(SEBS)、ポリエチレンテレフタレート、ポリ乳酸(PLA)、ポリカプロラクトンおよびナイロンからなる群から選択される少なくとも1つのポリマーを含む、請求項7に記載の導電性ポリマーコンポジットフィラメント。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、導電性ポリマーコンポジットに関する。
【背景技術】
【0002】
現在までに産業界で実施されている積層造形(三次元印刷としても知られる)は、ほとんどの場合、構造的な特徴を印刷することに関心がある。機能的な特性(例えば、電気特性)を積層造形に組み込む材料およびプロセスが必要とされている。近年、積層造形に潜在的に有用な導電性材料が商業化されているが、その導電率は、~10-3S/cmから~2.0S/cmまでと一般的に低い。市販材料、特に、導電性材料(例えば、アクリロニトリルブタジエンスチレン(ABS)またはポリ乳酸(PLA))の機械特性は、一般的に制限されており(例えば、柔軟ではなく、かなり脆い)、導電性成分としての使用が限定されている。
【0003】
積層造形の分野で、後での組立てが制限される完全に一体化された機能的な物体を簡単に印刷するために使用可能な改良された材料を開発することに大きな関心がもたれている。これにより、日々の物体の製造および消費において、特に、導電性材料と共に実施することができる場合、完全に新しいデザインが可能になるだろう。物体の中に導電性要素を印刷する能力によって、埋め込まれたセンサおよび電子機器の可能性を与えることができる。
【0004】
積層造形の一般的な技術は、加熱したノズルを介した溶融ポリマーの押出成型を利用する。この方法は、例えば、連続押出成型のためにフィラメントが加熱領域に供給される熱溶解積層法(FDM)で使用される。三次元物体を作成するために、溶融ポリマーを構築プレートの上に層ごとに堆積させることができる。現時点で、導電性を示すフィラメント材料は市場には非常にわずかしか存在せず、入手可能なものは導電率が比較的低く、潜在的な用途の範囲を限定する。この材料は、典型的には、絶縁性ポリマー基材の中にある導電性材料が入り込んで網目構造を形成し、電子が連続した経路を流れるように構築される。この導電性の網目構造の形成は、導電性粒子がポリマー基材内に整列する方法を限定する。これらの材料は、学術研究界および産業界の両方で広範囲に開発されてきたが、典型的には、中に入り込む網目構造を形成するのに必要な導電性添加剤の量をできるだけ少なくすることに注目が向けられており、導電性は比較的低い。電気的に中に入り込む研究に関する論文の一例は、Yao Sun et al.、Modeling of the Electrical Percolation of Mixed Carbon Fillers in Polymer-Based Composites、Macromolecules 2009,42,459-463であり、ポリマーコンポジットの中に入り込む閾値を下げるために、多層カーボンナノチューブと、カーボンブラックまたはグラファイトの使用を記載する。この論文は、中に入り込む閾値を超えて実質的に導電率を上げるための技術を記載していない。積層造形のための導電性ポリマーの使用も記載していない。
【0005】
高い導電率を示す新規可塑性コンポジット材料は、当該技術分野で歓迎される進歩であろう。このような材料は、積層造形の分野に顕著な影響を与えるだろう。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示は、導電性ポリマーコンポジットに関する。このコンポジットは、熱可塑性ポリマーと、導電性ポリマーコンポジットの合計重量を基準として、2重量%~約40重量%の範囲の量のカーボンナノチューブと、導電性ポリマーコンポジットの合計重量を基準として、約2重量%~約50重量%の範囲の量の複数のグラファイト状粒子とを含む。
【0007】
本開示の別の実施形態は、三次元印刷野法に関する。この方法は、三次元プリンタにコンポジットを提供することを含む。このコンポジットは、熱可塑性ポリマーと、導電性ポリマーコンポジットの合計重量を基準として、2重量%~約20重量%の範囲の量のカーボンナノチューブと、導電性ポリマーコンポジットの合計重量を基準として、約2重量%~約50重量%の範囲の量の複数のグラファイト状粒子とを含む。このコンポジットを加熱し、加熱したコンポジットを構築プラットフォームの上に押出成型し、三次元物体を作成する。
【0008】
さらに別の実施形態は、導電性ポリマーコンポジットフィラメントに関する。このフィラメントは、熱可塑性ポリマーと、導電性ポリマーコンポジットの合計重量を基準として、2重量%~約40重量%の範囲の量のカーボンナノチューブと、導電性ポリマーコンポジットの合計重量を基準として、約2重量%~約50重量%の範囲の量の複数のグラファイト状粒子とを含む。
【0009】
本出願の組成物は、以下の1つ以上の利点を示す。三次元印刷用途、例えば、熱溶解積層法(FDM)のためのフィラメントの改良された導電率;第2のグラファイト状フィラーを多層カーボンナノチューブ/ポリマーコンポジットに加えたときに、導電率の予想されない相乗的な増加;または積層造形に適した材料特性を保持しつつ、ポリマーコンポジットの導電性を高めるための改良された方法。
【0010】
上の一般的な記載および以下の詳細な記載は、両方とも例示であり、単なる説明であり、特許請求の範囲に記載されるような本教示を制限するものではないことを理解すべきである。
【0011】
添付の図面は、本明細書に組み込まれ、本明細書の一部を構成し、本教示の実施形態を説明し、本記載とともに本教示の原理を説明するのに役立つ。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】
図1は、本開示の組成物を用いて作られたフィラメントを使用する三次元プリンタを示す。
【
図2】
図2は、本開示の一例の熱可塑性ポリマーベースにおける多層カーボンナノチューブとグラフェンの相乗的な効果を示す。
【
図3】
図3は、本開示の一例の熱可塑性ポリマーベースにおける多層カーボンナノチューブとグラファイトの相乗的な効果を示す。
【
図4】
図4は、本開示の種々の例の組成物の導電率を示す。
【発明を実施するための形態】
【0013】
図面のいくつかの詳細は単純化されており、厳格な構造的な正確性、詳細および縮尺を維持するのではなく、本実施形態の理解を促進するために描かれていることを注記すべきである。
【0014】
本教示の実施形態について詳細に参照し、その例を添付の図面に示す。以下の図面では、全体で同一の要素を示すために同じ参照番号を使用した。以下の記載では、その一部を生成する添付の図面を参照し、本教示を実施し得る特定の例示的な実施形態を説明することによって示される。従って、以下の記載は、単なる例示である。
【0015】
本開示の一実施形態は、導電性ポリマーコンポジットに関する。このコンポジットは、熱可塑性ポリマーと、カーボンナノチューブと、複数のグラファイト状粒子とを含む。カーボンナノチューブは、導電性ポリマーコンポジットの合計重量を基準として、2重量%~約40重量%の範囲の量である。複数のグラファイト状粒子は、導電性ポリマーコンポジットの合計重量を基準として、約2重量%~約50重量%の範囲の量である。「グラファイト状粒子」という用語は、本明細書でグラフェン粒子およびグラファイト粒子の両方を含むと定義される。
【0016】
三次元印刷に有用な任意の適切な熱可塑性ポリマーを本開示のコンポジットに使用することができる。コンポジットは、単一のポリマーまたは熱可塑性ポリマーの混合物を含んでいてもよく、本明細書に開示される任意の熱可塑性ポリマーの混合物を含む。一実施形態において、熱可塑性ポリマーは、アクリレート単位、カルボン酸エステル単位、アミド単位、乳酸単位、ベンズイミダゾール単位、炭酸エステル単位、エーテル単位、スルホン単位、アリールケトン単位、アリールエーテル単位、アリールアルキル単位、エーテルイミド単位、エチレン単位、フェニレンオキシド単位、プロピレン単位、スチレン単位、ハロゲン化ビニル単位およびカルバメート単位からなる群から選択される少なくとも1つの繰り返し単位を含む。一実施形態において、熱可塑性ポリマーは、コポリマー、例えば、上に列挙した任意の繰り返し単位の2つ以上のコポリマーである。一例として、熱可塑性ポリマーは、ポリアクリレート、ポリベンズイミダゾール、ポリカーボネート、ポリエーテルスルホン、ポリアリールエーテルケトン、例えば、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエーテルイミド、ポリエチレン、例えば、ポリエチレンおよびポリ(エチレン-コ-酢酸ビニル)、ポリフェニレンオキシド、ポリプロピレン、例えば、ポリプロピレンおよびポリ(フッ化ビニリデン-コ-ヘキサフルオロプロピレン)、ポリスチレン、例えば、ポリスチレン、ポリ(スチレンイソプレンスチレン)、アクリロニトリルブタジエンスチレン(ABS)およびポリ(スチレンエチレンブチレンスチレン)(SEBS)、ポリエステル、例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリ乳酸(PLA)およびポリカプロラクトン、ポリウレタン、ポリアミド、例えば、ナイロン、ポリ(フッ化ビニリデン)(PVDF)およびポリ塩化ビニルからなる群から選択される少なくとも1つのポリマーを含んでいてもよい。一実施形態において、熱可塑性ポリマーは、アクリロニトリルブタジエンスチレン(ABS)またはPLAを含まない。
【0017】
一実施形態において、熱可塑性ポリマーは、ポリアクリレート、アクリレートのコポリマー(例えば、アクリレートのブロックコポリマー)からなる群から選択される。アクリレートコポリマーは、少なくとも1つのアクリレートモノマーと、場合により、1つ以上のさらなるモノマー(例えば、熱可塑性ポリマーに使用するために上に列挙した任意のモノマー)を含んでいてもよい。このようなポリマーを、望ましい程度の柔軟性を有するように配合してもよい。一実施形態において、ポリマーは、ポリエステル、例えば、ポリカプロラクトンであってもよい。
【0018】
三次元印刷プロセスでコンポジットが機能するような任意の適切な量で、熱可塑性ポリマーがコンポジットに含まれていてもよい。適切な量の例としては、導電性ポリマーコンポジットの合計重量を基準として、約10重量%~約90重量%、例えば、約40~約70重量%、約40~約60重量%が挙げられる。
【0019】
コンポジットは、望ましい導電率を与えるような任意の適切な量でカーボンナノチューブと、グラファイト状粒子とを含んでいてもよい。カーボンナノチューブの量の例としては、導電性ポリマーコンポジットの合計重量を基準として、2重量%~約40重量%、例えば、約5重量%~約20重量%、または約5重量%~約15重量%の範囲の量が挙げられる。カーボンナノチューブの量がさらに多いと、特に、使用される熱可塑性樹脂の種類および印刷プロセスの種類によっては、3Dプリンタによる組成物の処理能が下がる場合がある。従って、一実施形態において、20重量%以下、例えば、10重量%以下の濃度のカーボンナノチューブが好ましいだろう。グラファイト状粒子の量の例としては、導電性ポリマーコンポジットの合計重量を基準として、約10重量%~約50重量%、または約15重量%~約40重量%、または約20重量%~約40重量%、または約25重量%~約40重量%、または約30重量%~約35重量%の範囲が挙げられる。
【0020】
任意の適切なカーボンナノチューブを使用してもよい。適切なカーボンナノチューブの例としては、単層カーボンナノチューブ、多層カーボンナノチューブ、およびこれらの混合物が挙げられる。一実施形態において、カーボンナノチューブは、多層カーボンナノチューブである。カーボンナノチューブの市販の供給源としては、例えば、CHEAPTUBES(商標)またはNANOCYL(商標)から入手可能なカーボンナノチューブ、例えば、Nanocyl 7000が挙げられる。
【0021】
任意の適切なグラファイト状粒子を、本開示のコンポジットに使用してもよい。グラファイト状粒子は、グラフェン粒子、グラファイト粒子、グラフェン粒子とグラファイト粒子の混合物から選択されてもよい。
【0022】
本開示の導電性ポリマーコンポジットは、任意の他の適切な任意要素の成分、例えば、担体液体、可塑剤、分散剤および界面活性剤を任意の望ましい量で含んでいてもよい。または、本開示の明確に引用されていない成分は、本明細書に開示される導電性ポリマーコンポジットに限定されてもよく、および/または本明細書に開示される導電性ポリマーコンポジットから除外されていてもよい。従って、熱可塑性ポリマー、カーボンナノチューブおよびグラファイト状粒子の量は、本明細書に引用される任意要素の成分(例えば、担体液体、可塑剤、分散剤および/または界面活性剤)を含むか、または含まずに、本開示のコンポジットに使用される全成分の90重量%~100重量%、例えば、95重量%~100重量%、または98重量%~100重量%、または99重量%~100重量%、または100重量%になるように加えてもよい。
【0023】
本開示のコンポジットは、任意の適切な形態であってもよい。一実施形態において、コンポジットは、導電性ペーストである。ペーストは、室温でペーストであってもよく、またはペーストのように流動させるために加熱することが必要な材料であってもよい。一実施形態において、ペーストは、少なくとも1つの担体液体を含む。一実施形態において、担体液体は、1つ以上のペースト成分を溶解することができる溶媒であってもよい。別の実施形態において、担体液体は、溶媒ではない。ペーストに適した担体液体としては、例えば、トルエン、ピロリドン(例えば、N-メチルピロリドン、1-シクロヘキシル-2-ピロリドン)、N,N-ジメチルホルムアミド(DMF)、N,N-ジメチルアセトアミドジメチルスルホキシドおよびヘキサメチルホスホラミドが挙げられる。担体液体は、ペースト中に任意の適切な量で、例えば、濡れたコンポジットペーストの合計重量を基準として約0.5重量%~約60重量%の量で含まれていてもよい。ペーストに含まれ得る任意要素の添加剤は、例えば、担体液体および他の導電性添加剤に加え、分散剤、界面活性剤、他の溶媒である。
【0024】
代替的な実施形態において、コンポジットは、乾燥したコンポジット(例えば、液体担体を含まない)の合計重量を基準として、5重量%未満、例えば、3重量%未満、2重量%未満、または1重量%未満の液体担体を含む、乾燥したコンポジットの形態であってもよい。乾燥したコンポジットは、溶媒を用いて作られてもよく、次いで、任意の方法によって(例えば、加熱、減圧および/または他の液体除去技術によって)溶媒を除去する。または、コンポジットは、無溶媒処理技術を用い、担体液体を用いずに製造することができる。
【0025】
コンポジットは、バルク導電率が、約1S/cmより大きく、例えば、3S/cmより大きく、例えば、3.5S/cmより大きく、または4S/cmより大きい。バルク導電率は、以下の式を用いて計算される。
σ = L/(R*A) (1)
式中、
σは、バルク導電率であり;
Lは、フィラメントの長さであり;
Rは、押出成型されたフィラメントの測定された抵抗であり;
Aは、フィラメントの断面積(πr2)であり、ここで、rは、フィラメントの半径である。
【0026】
抵抗Rは、コンポジットから作られる押出成型されたフィラメントを作成することによって測定することができる。フィラメントの先端に銀を塗り、試験装置(例えば、デジタルマルチメーター)との良好な電気接続を与えるが、積層造形にフィラメントを使用する場合、塗ることは必須ではないだろう。次いで、フィラメントの長さ方向に沿って、抵抗を測定することができる。次いで、フィラメントの寸法およびRの測定値を使用し、コンポジットのバルク導電率(σ)を計算することができる。
【0027】
本開示のコンポジットを任意の適切な方法によって製造することができる。例えば、溶融混合技術を用い、熱可塑性ポリマーを、カーボンナノチューブおよびグラファイト状粒子と合わせてもよい。このような組成物を混合するための他の適切な技術は、当該技術分野でよく知られている。
【0028】
本開示は、三次元印刷の方法にも関する。例えば、フィラメント印刷(例えば、FDM)またはペーストの押出成型のような任意の種類の三次元印刷を使用してもよい。この方法は、三次元プリンタに本開示の任意の導電性ポリマーコンポジットを提供することを含む。コンポジットは、三次元印刷に有用な任意の適切な形態、例えば、フィラメントまたはペーストであってもよい。導電性ポリマーを、押出成型に適した溶融状態になるまで加熱してもよい。次いで、加熱した導電率ポリマーを、基材の上に押出成型し、三次元物体を作成する。
【0029】
まず、コンポジットから、所望の形状および寸法を有するフィラメントを作成することによって(例えば、押出成型または任意の他の適切なプロセスによって)本開示の導電性ポリマーコンポジットをFDMプロセスに使用してもよい。フィラメントは、3D FDMプリンタにフィラメントを入れ、印刷することができる任意の適切な形状を有していてもよい。最初に供給したときのフィラメントは、その厚みTよりかなり長い連続的な長さを有していてもよく(
図1に示される)、例えば、厚みに対する長さの比率は、1に対して100より大きく、例えば、1に対して500より大きく、または1に対して1000以上であり、Tは、フィラメントの最も小さな厚み寸法である(例えば、フィラメントが円形の断面を有する場合は直径)。任意の適切な厚みを使用してもよく、厚みは、使用する3Dプリンタに依存して変わるだろう。一例として、厚みは、約0.1mm~約10mm、例えば、約0.5mm~約5mm、または約1mm~約3mmの範囲であってもよい。
【0030】
本開示のフィラメントを使用する三次元プリンタ100の一例を
図1に示す。三次元プリンタ100は、フィラメント104を液化部106に供給するためのフィーダー機構102を備えている。液化部106は、フィラメント104を溶融し、得られた溶融プラスチックを、ノズル108を介して押出成型し、構築プラットフォーム110の上に堆積させる。フィーダー機構102は、フィラメント104を供給することができるローラーまたは任意の他の適切な機構、例えば、フィラメントのスプール(図示せず)を備えていてもよい。液化部106は、フィラメントを加熱するための任意の技術、例えば、加熱要素、レーザーなどを使用してもよい。
図1に示される三次元プリンタ100は、単なる例であり、任意の種類の三次元プリンタを使用し、本開示のフィラメントを堆積させてもよい。
【実施例】
【0031】
実施例1
Haakeツインスクリュー押出成型機を用い、ポリマーベース(ポリカプロラクトン)と、10重量%の多層カーボンナノチューブ(MWNT)および30重量%のグラフェンとを30rpmで30分間溶融混合することによって、導電性ポリマーコンポジットを調製した。得られた材料を低温粉砕し、改変されたダイを取り付けたMelt Flow Indexer(MFI)を用い、粉砕したコンポジットを押出成型してフィラメントにした。MFIで押出成型するための条件は、最終的なフィラメントを調製するために、1.8mmのオリフィスおよび16.96kgのおもりを含んでいた(MFIのおもりは、押出成型のための力を与える)。最終的なフィラメントは、直径が約1.75mmであった。
【0032】
実施例2
バルク導電率を計算するために、実施例1の押出成型されたフィラメントの10cm片の末端に銀塗料を塗り、これを使用し、抵抗を測定した。デジタルマルチメーターを用い、抵抗の測定を終了した。上の式1を用い、バルク導電率は、約3.9S/cmと計算された。
【0033】
比較例A
実施例1と同様のコンポジットを作成したが、グラフェンを用いなかった。
【0034】
比較例B
実施例1と同様のコンポジットを作成したが、多層カーボンナノチューブを用いなかった。
【0035】
実施例3
実施例1と同様のコンポジットを作成したが、グラフェンの代わりに30重量%のグラファイトを用いた。
【0036】
参考例4
実施例1と同様のコンポジットを作成したが、グラフェンの代わりに10重量%のグラファイトを用いた。
【0037】
比較例C
実施例3と同様のコンポジットを作成したが、MWNTを用いず、20重量%のグラファイトを用いた。
【0038】
実施例5
実施例1と同様のコンポジットを作成したが、5重量%のMWNTおよびグラフェンの代わりに30重量%のグラファイトを用いた。
【0039】
実施例6
実施例1と同様のコンポジットを作成したが、5重量%のMWNTおよび30重量%のグラフェンを用いた。グラフェンは、粒径が約25ミクロンであった。
【0040】
実施例7
実施例1と同様のコンポジットを作成したが、5重量%のMWNTおよび30重量%のグラフェンを用いた。グラフェンは、粒径が約5ミクロンであった。
【0041】
実施例2に記載したのと同様の様式で、上のそれぞれの実施例および比較例について、バルク導電率を測定した。実施例1および2、比較例AおよびBの結果を
図2に示す。実施例3および
参考例4、比較例AおよびCの結果を
図3に示す。実施例5~7の結果を
図4に示す。
【0042】
比較例Aの10重量%のMWNTカーボンナノチューブ濃度によって、0.51S/cmの導電率が得られ、この値は、中に入り込む閾値より十分に高い。従って、グラファイト状粒子を、すでに中に入り込む閾値に達したMWNT-ポリマー系に加える。
【0043】
図2のグラフェンについての結果から、MWNTとグラフェンの組み合わせは、可撓性コンポジット中で合わせたとき、この組み合わせが、それぞれの要素自体での導電率よりかなり高かったため、相乗効果を有することが明らかであった。
図3のグラファイトについての結果は、同様の相乗効果を示す。10%のグラファイト/10%のMWNTを加えると、MWNT単独の場合と比較して、導電率は約2倍になった。30%のグラファイト/10%のMWNTまで加える量を増やすと、МWNT網目構造のみの場合よりも導電率は8倍高い。このような導電率の大きな増加は、予想されなかったものであろう。
【0044】
図4の結果を、
図2および
図3の結果と比較すると、約5重量%のMWNTを含む組成物は、同様の10重量%のMWNTを含む組成物と比較して、導電率が顕著に増加したことを示すようである。例えば、
図4の約5重量%のMWNTおよび30重量%のグラフェンを含む組成物は、それぞれ導電率が4.7であり、一方、10重量%のMWNTおよび30重量%のグラフェンを含む同様の組成物は、
図2に示されるように、導電率が3.9であった。
図4の約5重量%のMWNTおよび30重量%のグラファイトを含む組成物は、導電率が6.2であり、一方、10重量%のMWNTおよび30重量%のグラファイトを含む同様の組成物は、
図3に示すように、導電率が4.2であった。
【0045】
導電率の相乗的な増加は、いくつかの理由のために
図2~4の実施例の組成物で起こることは予想されなかった。グラファイト状粒子自体は、導電率が、さまざまな値であるが、1桁または2桁程度顕著に低い。また、グラファイト粒子の加える量が増えると、使用する濃度のカーボンナノチューブで、導電率のこのような顕著な増加が得られることも明らかではなかった。
図4に報告されるように、МWNTが少ない組成物について、高い導電率が達成されることも予想されなかった。
【0046】
従って、
図2~4のデータは、第2のグラファイト状粒子を加えると、導電率の予想されない非線形の増加が観察されたことを示し、比較的高い添加量でカーボンナノチューブとグラファイト状粒子の組み合わせの相乗効果を示す。この相乗的な増加は、1種類の粒子の添加量を増やすことは、導電性を上げるために効果的な方法ではないため、積層造形の場合にさらなる利点を与える。MWNTの場合に、例えば、約20重量%の最大添加量に達すると、コンポジットは、もはや少なくとも一部の積層造形の技術またはプロセスで処理することができない。この添加量で、メルトフロー温度は、現行の技術の能力を超える。これに加え、グラファイト状粒子は、МWNTの導電率と比較して、何桁か低い導電率を示す(10
-2~10
-3S/cm)。この組み合わせのみが、積層造形技術にとって望ましい加工能を維持しつつ、コンポジット材料における導電率の非線形の増加を示す。
【0047】
本開示の広い範囲に記載する数値範囲およびパラメータは概算値であるが、具体例に記載する数値は、可能な限り正確に報告される。しかしながら、任意の数値は、それぞれの試験測定で見出される標準偏差から必然的に得られる特定の誤差を本質的に含む。さらに、本明細書に開示するすべての範囲は、その範囲に包含される任意の部分範囲およびあらゆる部分範囲を包含することが理解されるべきである。
【0048】
本教示を1つ以上の実施の観点で示してきたが、添付の特許請求の範囲の精神および範囲から逸脱することなく、示されている実施例に対し、変更および/または改変を行ってもよい。それに加え、本教示の具体的な特徴が、いくつかの実施例の1つのみに関して開示されていてもよいが、このような特徴を、所望なように、任意の所与の機能または具体的な機能に有利な他の実施例の1つ以上の他の特徴と組み合わせてもよい。さらに、「~を含む(including)」、「含む(includes)」、「~を有する(having)」、「有する(has)」、「伴う(with)」という用語またはこれらの変形語をいずれかの詳細な記載および特許請求の範囲に使用する程度まで、このような用語は、「~を含む(comprising)」という語句と同様の様式で包括的であることを意図している。さらに、本明細書の記載および特許請求の範囲では、「約」という語句は、変更によって、示されている実施形態に対するプロセスまたは構造と不整合がない限り、列挙した値をある程度変えてもよいことを示す。最終的に、「例示的な」は、理想的であると暗示されているのではなく、その記載が実施例として使用されることを示す。