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特許7005164真空チャンバ内の水分を検出するための装置及び方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-01-07
(45)【発行日】2022-02-10
(54)【発明の名称】真空チャンバ内の水分を検出するための装置及び方法
(51)【国際特許分類】
   A61L 2/20 20060101AFI20220203BHJP
   A61L 2/24 20060101ALI20220203BHJP
   A61L 2/28 20060101ALI20220203BHJP
   A61L 101/22 20060101ALN20220203BHJP
【FI】
A61L2/20 106
A61L2/24
A61L2/28
A61L101:22
【請求項の数】 31
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2017085908
(22)【出願日】2017-04-25
(65)【公開番号】P2017196413
(43)【公開日】2017-11-02
【審査請求日】2020-04-24
(31)【優先権主張番号】15/139,032
(32)【優先日】2016-04-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】591286579
【氏名又は名称】エシコン・インコーポレイテッド
【氏名又は名称原語表記】ETHICON, INCORPORATED
(74)【代理人】
【識別番号】100088605
【弁理士】
【氏名又は名称】加藤 公延
(74)【代理人】
【識別番号】100130384
【弁理士】
【氏名又は名称】大島 孝文
(72)【発明者】
【氏名】ダグ・ボ・チュオン
(72)【発明者】
【氏名】トッド・モリソン
【審査官】岡田 三恵
(56)【参考文献】
【文献】特開平08-206181(JP,A)
【文献】特開平10-216205(JP,A)
【文献】国際公開第2014/050744(WO,A1)
【文献】特表平06-511085(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2018/0207306(US,A1)
【文献】一般社団法人日本医療機器学会,医療現場における滅菌保障のガイドライン2015,日本,2015年05月,99-110
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61L 2/20
A61L 2/24
A61L 2/28
A61L 101/22
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
器具を滅菌するための真空チャンバを有する滅菌システムを操作する方法であって、
(a)デジタル計算機内のタイマーを始動するステップ、
(b)前記チャンバから第1の体積の空気を取り除くステップ、
(c)前記チャンバから前記第1の体積の空気を取り除きながら、前記チャンバ内の圧力を繰り返し判定するステップ、
(d)時間に関する圧力の第1の二階微分値を、前記デジタル計算機で計算するステップ、
(e)ステップ(d)の所与の又は選択された時間の後に、時間に関する圧力の第2の二階微分値を、前記デジタル計算機で計算するステップ
(f)前記第2の二階微分値が前記第1の二階微分値より大きいことを、前記デジタル計算機で判定するステップ、及び
(g)前記第2の二階微分値が前記第1の二階微分値より大きいとの前記判定に応答して、前記チャンバ内に第2の体積の空気を自動的に導入するステップを含む、方法。
【請求項2】
前記圧力を繰り返し判定する前記ステップは、圧力測定データを繰り返し取り、前記データを前記デジタル計算機の非一時的記憶媒体に保存することを含む、請求項に記載の方法。
【請求項3】
前記第2の二階微分値が、の三重点圧力よりもさい圧力で起こることを前記デジタル計算機で判定するステップを更に含む、請求項に記載の方法。
【請求項4】
前記チャンバ内に空気を自動的に導入する前記ステップは、弁を自動的に開放することを含む、請求項に記載の方法。
【請求項5】
前記チャンバを自動的に開放するステップを更に含む、請求項に記載の方法。
【請求項6】
前記チャンバを閉鎖するステップを更に含み、前記タイマーを始動する前記ステップは、前記チャンバを閉鎖する前記ステップの後に起こる、請求項に記載の方法。
【請求項7】
前記チャンバから第1の体積の空気を取り除く前記ステップは、前記タイマーを始動する前記ステップの後に始まる、請求項に記載の方法。
【請求項8】
前記第2の二階微分値と前記第1の二階微分値との間のは、ノイズフロアより大きいことを判定するステップを更に含む、請求項に記載の方法。
【請求項9】
器具を滅菌するための真空チャンバを有する滅菌システムを操作する方法であって、
(a)デジタル計算機内のタイマーを始動するステップ、
(b)前記チャンバから第1の体積の空気を取り除くステップ、
(c)前記チャンバから前記第1の体積の空気を取り除きながら、前記チャンバ内の圧力を繰り返し判定するステップ、
(d)時間に関する圧力の第1の二階微分値を、前記デジタル計算機で計算するステップ、
(e)ステップ(d)の所与の又は選択された時間の後に、時間に関する圧力の第2の二階微分値を、前記デジタル計算機で計算するステップ
(f)前記第2の二階微分値が前記第1の二階微分値より大きいことを、前記デジタル計算機で判定するステップ、及び
(g)前記第2の二階微分値が前記第1の二階微分値より大きいとの前記判定に応答して、前記チャンバ内にエネルギーを自動的に導入するステップを含む、方法。
【請求項10】
前記圧力を繰り返し判定する前記ステップは、圧力測定データを繰り返し取り、前記データを前記デジタル計算機の非一時的記憶媒体に保存することを含む、請求項に記載の方法。
【請求項11】
前記第2の二階微分値が水の三重点圧力よりもきい圧力で起こることを前記デジタル計算機で判定するステップを更に含む、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記チャンバ内にエネルギーを導入する前記ステップは、前記チャンバを自動的に加熱すること、前記チャンバよりも温かい空気を前記チャンバに導入するために弁を自動的に開放すること、及びプラズマを自動的に生成することのうち少なくとも1つを含む、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
前記チャンバを閉鎖するステップを更に含み、前記タイマーを始動する前記ステップは、前記チャンバを閉鎖する前記ステップの後に起こる、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
前記チャンバから前記第1の体積の空気を取り除く前記ステップは、前記タイマーを始動する前記ステップの後に始まる、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
器具を滅菌するための真空チャンバを有する滅菌システムを操作する方法であって、
(a)デジタル計算機内のタイマーを始動するステップ、
(b)前記チャンバから第1の体積の空気を取り除くステップ、
(c)前記チャンバから前記第1の体積の空気を取り除きながら、前記チャンバ内の圧力を繰り返し判定するステップ、
(d)時間に関する圧力の第1の二階微分値を、前記デジタル計算機で計算するステップ、
(e)ステップ(d)の所与の又は選択された時間の後に、時間に関する圧力の第2の二階微分値を、前記デジタル計算機で計算するステップ
(f)前記第2の二階微分値が前記第1の二階微分値より小さいことを、前記デジタル計算機で判定するステップ、及び
(g)前記第2の二階微分値が前記第1の二階微分値より小さいとの前記判定に応答して、前記チャンバ内に滅菌剤ガスを自動的に導入するステップを含む、方法。
【請求項16】
前記圧力を繰り返し判定する前記ステップは、圧力測定データを繰り返し取り、前記データを前記デジタル計算機の非一時的記憶媒体に提供することを含む、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
前記チャンバ内の、滅菌に適切な圧力を維持するステップを更に含む、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
前記滅菌に適切な圧力は、少なくとも1秒間にわたって維持される、請求項17に記載の方法。
【請求項19】
前記滅菌に適切な圧力は、.5kPa~.01kPa(トル~.1トル)である、請求項18に記載の方法。
【請求項20】
前記滅菌に適切な圧力は、.04kPa(.3トル)である、請求項19に記載の方法。
【請求項21】
前記チャンバ内に前記滅菌剤ガスを自動的に導入する前記ステップは、前記滅菌に適切な圧力を少なくとも1秒間にわたって維持する前記ステップの後に起こる、請求項18に記載の方法。
【請求項22】
前記チャンバ内に前記滅菌剤ガスを自動的に導入する前記ステップは、弁を開放することを含む、請求項21に記載の方法。
【請求項23】
前記第1の体積の空気を前記チャンバから取り除く前記ステップの前に、非滅菌状態の前記器具を前記チャンバ内に配置し、前記チャンバを閉鎖するステップを更に含む、請求項22に記載の方法。
【請求項24】
前記チャンバを開放し、滅菌状態の前記器具を前記チャンバから取り出すステップを更に含む、請求項23に記載の方法。
【請求項25】
器具を滅菌するための真空チャンバを有する滅菌システムを操作する方法であって、
(a)デジタル計算機内のタイマーを始動するステップ、
(b)前記チャンバから第1の体積の空気を取り除くステップ、
(c)前記チャンバから前記第1の体積の空気を取り除きながら、前記チャンバ内の圧力を繰り返し判定するステップ、
(d)時間に関する圧力の二階微分値を、前記デジタル計算機で計算するステップ、
(e)連続する二階微分値の正の差の累積を、前記デジタル計算機で計算するステップ、
(f)前記累積を負荷が乾燥状態であるかを判断する根拠となる閾値と比較するステップ、
(g)前記累積が前記閾値より大きいとの前記比較に応答して、弁を開放するステップ、及び
(h)前記チャンバを開放するステップを含む、方法。
【請求項26】
前記累積は前記閾値より大きく、前記弁を開放する前記ステップにより、前記チャンバ内の前記圧力が高まる、請求項25に記載の方法。
【請求項27】
前記チャンバ内の前記圧力が、前記弁を通過して前記チャンバの中に流入する第2の体積の空気により高まる、請求項26に記載の方法。
【請求項28】
ある体積の水を気化させるステップを更に含む、請求項25に記載の方法。
【請求項29】
器具を滅菌するための真空チャンバを有する滅菌システムを操作する方法であって、
(a)デジタル計算機内のタイマーを始動するステップ、
(b)前記チャンバから第1の体積の空気を取り除くステップ、
(c)前記チャンバから前記第1の体積の空気を取り除きながら、前記チャンバ内の圧力を繰り返し判定するステップ、
(d)時間に関する圧力の二階微分値を、前記デジタル計算機で計算するステップ、
(e)連続する二階微分値の正の差の累積を、前記デジタル計算機で計算するステップ、
(f)前記累積を負荷が乾燥状態であるかを判断する根拠となる閾値と比較するステップ、及び
(g)前記累積が、前記閾値未満であるとの前記比較に応答して、滅菌剤が前記チャンバに導入される、ステップを含む、方法。
【請求項30】
続する二階微分値同士の間の差が負である場合に前記差を無視する、請求項25に記載の方法。
【請求項31】
連続する二階微分値同士の間の差が正である場合に前記差を前記累積に加算する、請求項30に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本明細書に開示されている主題は、減圧されつつあるチャンバ内の水分の検出に関する。その主題は、特に、化学的蒸気滅菌技術において有用である。
【背景技術】
【0002】
医療用装置は、患者に感染症を起こさせ得るような、例えば微生物により汚染された装置が患者に対して使用され得る可能性を最小限に抑えるため、使用前に滅菌される場合がある。蒸気、エチレンオキシド、二酸化塩素、オゾン、及び過酸化水素のうちの1つ又はそれらを組み合わせたものを含む滅菌剤を用いる、さまざまな滅菌技術が採用され得る。上のような化学的滅菌剤は、気相及び/又はプラズマ形態でしばしば採用される。これらの技術の場合、滅菌は、典型的には滅菌システムの滅菌チャンバ内で実行される。例えば過酸化水素を用いるもののような、ある一部の化学的滅菌技術の場合、滅菌チャンバは、典型的には、その中で低圧状態を実現し得るだけでなく、滅菌剤をその中に導入し、滅菌剤をその中から取り除くことが可能な真空チャンバを含む。例えばエチレンオキシドを用いるもののような、一部の化学的滅菌プロセスは、真空チャンバ内の水蒸気が効果的であることを必要とする。しかしながら、例えば過酸化水素を用いるもののような、他の化学的滅菌プロセスは、真空チャンバ内の、蒸気、液相、又は固相形態の水は、有効性を減少させる場合がある。
【0003】
ある典型的な、医療用装置用化学的蒸気滅菌プロセスは、医療施設の担当者が、器具を水及び/又は洗浄液で洗浄して、その器具から固形物や液体を除去することにより、滅菌用装置を準備することで開始される。次に担当者は、(例えば、熱、医療グレードの圧縮空気、及び/又はタオルを用いて)器具を乾燥させ、恐らくはその器具を、微生物に対してはバリアとなるものの滅菌剤が透過し得る、滅菌に適したラップで包む。ラップに包まれた器具は、時に、滅菌パック又は負荷と呼ばれるものである。次に負荷を、滅菌システムの真空チャンバの中に置き、典型的にはチャンバのドアを閉めることにより、チャンバを閉鎖(封止)する。チャンバを加熱してもよく、加熱することにより、チャンバ内に存在し得る水が気化するのを助け得る。次に、チャンバ内の、水蒸気を含み得る大気を、排気する。一部の滅菌方法では、真空チャンバ内の空気を励起して空気プラズマを形成し得るが、そのプラズマは、水を気化させてチャンバから除去するのを更に助ける役割を果たし得る。時に真空状態又は低真空状態と呼ばれることもある低圧状態が実現した後で、気相形態又は、チャンバの低圧環境下で気化する霧状のいずれかの滅菌剤がチャンバ内に導入される。チャンバ内に添加されたガスは、チャンバ内の圧力をわずかに上昇させる。滅菌剤はチャンバ内で素早く広がり、チャンバ内に収容されている医療用装置の、例えばひび割れ、裂け目、及び内腔のような、小さい又は狭い空間に入り込む。滅菌剤が医療用装置を洗い、装置の上や内部に存在する細菌、ウィルス、及び胞子が滅菌剤に触れると、それらを殺すようになっている。一部の滅菌方法では、特に、過酸化水素を用いる低温による方法では、過酸化水素ガスが電界を介して励起されて、ガスがプラズマに変化し得る。最終的に、滅菌剤はチャンバから排気され、チャンバは雰囲気圧に戻される。滅菌プロセスが終了した後で、器具はチャンバから取り出され得る。
【0004】
典型的には、保健医療従事者は、滅菌プロセスが有効であったかどうかを、さまざまな当該技術分野で既知のさまざまな技術を用いて、例えば内蔵型の生物学的滅菌インディケータを用いて確認するが、そのようなインディケータの例としては、Ethicon US社の事業部である、Advanced Sterilization Products社(カリフォルニア州Irvine)製の、STERRAD(登録商標)CYCLESURE(登録商標)24生物学的インディケータがある。この生物学的インディケータを用いる確認作業には、典型的には約24時間必要となる。この、滅菌の有効性について確認ができていない状態の時間の間に、医療従事者は、その医療用装置を使用しないと決定する場合がある。これは、例えば、病院のような保健医療提供者にとって在庫管理の非効率性を引き起こす可能性がある。例えば、医療機器の十分な供給を確保するためには、医療用装置を使用できない間も保管する必要があり、そのような必要がない場合に保健医療提供者が在庫させておくよりも多くの医療用装置を在庫しておくことを必要とするからである。あるいは、保健医療提供者は、滅菌確認作業が完了し、滅菌の有効性が確認される前に、医療用装置を使用する場合もある。しかし滅菌の有効性が確認される前に医療用装置を使用することは、その医療処置を受ける患者を、医療用装置からの感染症に罹患させる危険性にさらすことになり得る。滅菌プロセスを実行するのに要する時間と滅菌プロセスが有効であったことを確認するために要する時間とにより、医療用装置が使用に適さない時間トータルの長さを考えると、保健医療従事者は、現在利用可能なものと比べて、実行するのにより時間がかからず、プロセスが失敗に終わる可能性をより低くする新たな滅菌プロセス及び確認技法を望んでいる。
【0005】
市販の滅菌チャンバの一例としては、Ethicon US社の事業部である、Advanced Sterilization Products社(カリフォルニア州Irvine)製の、STERRAD(登録商標)100NX(登録商標)システムが挙げられる。広告宣伝されているところによれば、この100NX(登録商標)は、47分で、一般的な外科用器具の大半を滅菌可能である。広告宣伝されているところによれば、100NX(登録商標)のサイクル温度は、47℃~56℃である。こうした温度は、器具の機能や構造を損ないかねないオーバーヒートを回避しつつ、熱により残留水を気化させるのを助けることができるので好ましい。更に、こうした温度は、滅菌プロセスの有効性を高める助けとなり、更に、任意の残留水を気化させる助けとなり、真空チャンバから過酸化水素を除去するのを助けるためのプラズマを生成できるので好ましい。
【0006】
例えば過酸化水素を用いる市販の滅菌システムは、その滅菌チャンバ内に水をまったく含まない状態で運転されるのが好ましいように設計されている。保健医療従事者が誤って水をチャンバ内に導入した場合、チャンバ内の圧力を低下させるにつれて、その水とその周囲との間の表面圧の均衡を維持するため、その水は気化し始める。この圧力均衡もまた温度の関数であるが、この均衡は典型的には、水の蒸気圧と呼ばれるものである。100℃では、水の蒸気圧は0.1MPa(1気圧)、又は0.1MPa(760トル)であるが、これは一般に、水は100℃で沸騰すると言われている理由である。しかしながら、水の周りの局所的な圧力が、0.1MPa未満(760トル未満)である場合には、液体水は、より低い温度で相変化して水蒸気となり得る。
【0007】
水が相変化して蒸気になるには、潜熱が必要となる。気化する水は、このエネルギーの少なくとも一部を、残った水から引き出し得るが、これにより、残留する水の温度は低下することになる。チャンバ内の圧力が低下し続け、気化する水が残留する水の温度を低下させ続けるにつれて、圧力及び温度は、水の「三重点」としばしば呼ばれるもの、すなわち、氷、水、及び水蒸気が均衡状態で存在する温度と圧力との組み合わせ、に近づいていく。水の三重点温度は0.01℃で、水の三重点圧力は0.61kPa(4.58トル)である。温度及び圧力が三重点に近づくにつれて、残留水内で氷の結晶が形成される可能性が高まる。
【0008】
氷は、医療用装置又は器具の少なくとも一部に滅菌剤が接触するのを妨げ得るが、例えば、装置の内腔をブロックするという可能性も考えられる。したがって、氷は、滅菌プロセスを効果的でないものとしてしまう場合があり、そうなると、患者に対して滅菌できていない装置を使用してしまうことになったり、病院がその装置をあらためて滅菌すること(これは、貴重な時間を更に必要とする作業である)になったりする場合がある。また、滅菌剤は、氷の上で凝結したり、氷の中に閉じ込められたりし得るが、そうなると、医療従事者の皮膚に、化学的熱傷をもたらす可能性もある。
【0009】
滅菌性そのものに加えて、医療用装置の滅菌プロセスに関連する時間及び効率性もまた、保健医療施設にとって重要な考慮事項である。例えば、病院は、所与の時間的範囲内(例えば1週間)で1つの装置が使用できる回数を最大にすることをしばしば望む。したがって、濡れた医療用装置を滅菌プロセスにかけてしまうことは、滅菌プロセスを有効ではないものとなる可能性を高めるだけでなく、時間も無駄にして、1つの装置が再使用し得る一週間当たりの回数を減らす場合がある。したがって、医療従事者は、医療用装置が洗浄された後、その装置が滅菌チャンバ内に置かれる前、又は遅くとも滅菌剤ガスが真空チャンバ内に導入される前には、その装置からあらゆる水分を除去すべきである。
【0010】
一部の滅菌システムは、滅菌剤ガスを滅菌チャンバに導入する前に、減圧されつつある間にチャンバ内の圧力が小さく上昇することをチェックすることによって、滅菌チャンバ内の水の存在をチェックするようになっている。減圧されつつある間に、水がチャンバ内に存在しないと、圧力は、高まることなく、漸近線の方へ低下していく。しかしながら、減圧されつつある間に何らかの水がチャンバ内に存在すると、少なくともその水の一部は蒸気となって、圧力の、わずかな局所的な上昇を引き起こし得る。したがって、減圧されつつある間に圧力の小さな上昇が検出されると、それは真空チャンバ内に水が存在することを示すものとなる。水が検出されると、滅菌プロセスを中止して、再び滅菌を試みる前に、余分な水を医療用装置から除去するとよい。水が検出されてすぐに滅菌プロセスを中止することにより、有効とはならない恐れのある滅菌プロセスを継続する場合と比べて時間とリソースを節約するのに役立ち得るだけでなく、滅菌されていない装置を使用することを回避し得る。
【0011】
一部の事例においては、滅菌プロセスを中止する代わりに、「負荷コンディショニング」と呼ばれるプロセスにより、水を真空チャンバから除去するよう試みることが好まれる場合がある。負荷コンディショニングは典型的には、まず加熱すること、及び/又はプラズマを滅菌チャンバ内に導入すること、並びに滅菌チャンバを再加圧してエネルギーを水(又は氷)に移転することを、何らかの形で組み合わせることによって、次に、新たに減圧を実行して水を蒸気変換することによって実現される。負荷コンディショニングは、チャンバ内を減圧する前、後、又は前と後と両方に実行し得る。一部の事例では、負荷コンディショニングではチャンバから水を除去できない。他の事例では、負荷コンディショニングで、水の一部を除去し得るが、全部を除去しきれない。そのような事例では、追加的な負荷コンディショニングが試みられる場合があるが、それをするには、追加的な時間とリソースが必要となる。したがって、負荷コンディショニングで水をチャンバから除去できない場合、又は水を除去するのに繰り返し試行することが必要となり得る場合には、負荷コンディショニングを放棄して、新たな滅菌プロセスを試みる前に、余分な水を医療用装置から除去し得るようにプロセスを中止することが望ましい場合があり得る。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0012】
開示される手段は、器具を滅菌するための真空チャンバを有する滅菌システムを操作する方法に関する。チャンバは、閉鎖状態の弁により、滅菌剤のリザーバと接続されている。第1の例示的方法は、滅菌パック内に非滅菌状態の器具を配置するステップ、チャンバを開放するステップ、チャンバ内にパックを配置するステップ、チャンバ内に生物学的インディケータを配置するステップ、チャンバを閉鎖するステップ、第1の体積の空気をチャンバから取り除くステップ、ある体積の液体水を水蒸気に変えるステップ、弁を開放するステップ、滅菌剤をチャンバ内に導入するステップ、滅菌剤をチャンバから取り除くステップ、第2の体積の空気をチャンバ内に導入するステップ、チャンバを開放するステップ、パックをチャンバから取り出すステップ、及び滅菌状態の器具をパックから取り出すステップを含み得る。第1の例示的方法は、空気をチャンバから取り除きつつチャンバ内の圧力を繰り返し判定するステップ、水の三重点圧力よりも略大きい圧力に対応する時間に関する圧力の第1の二階微分値を計算するステップ、水の三重点圧力よりも略大きい圧力に対応する、時間に関する圧力の第2の二階微分値と第1の二階微分値に対応する時間の後に続く時間を計算するステップ、水の三重点圧力よりも略小さい圧力に対応する、時間に関する圧力の第3の二階微分値と第2の二階微分値に対応する時間の後に続く時間を計算するステップ、水の三重点圧力よりも略小さい圧力に対応する、時間に関する第4の二階微分値と第3の二階微分値に対応する時間を計算するステップ、第4の二階微分値が第3の二階微分値以下であることを判定するステップ、及び第2の二階微分値が第1の二階微分値以下であることを判定するステップ、を更に含み得る。
【0013】
真空チャンバを有する滅菌システムを操作する、第2の例示的方法は、デジタル計算機内のタイマーを始動するステップ、チャンバから第1の体積の空気を取り除くステップ、チャンバから第1の体積の空気を取り除きながら、チャンバ内の圧力を繰り返し判定するステップ、時間に関する圧力の第1の二階微分値を、前記デジタル計算機で計算するステップ、時間に関する圧力の二階微分値をデジタル計算機で計算するステップであって、第2の二階微分値は、第1の二階微分値に対応する時間の後に続く時間に対応する、ステップ、第2の二階微分値が第1の二階微分値より大きいことを、デジタル計算機で判定するステップ、及び第2の体積の空気をチャンバ内に自動的に導入するステップを、含み得る。第2の例示的方法では、圧力を繰り返し判定するステップは、圧力測定データを繰り返し採るステップと、そのデータを、デジタル計算機の非一時的記憶媒体内に保存するステップと、を更に含み得る。この例示的方法はまた、第2の二階微分値が、水の三重点圧力よりも略小さい圧力の下で起こることを、デジタル計算機で判定することをも含み得る。第2の例示的方法では、チャンバ内に空気を自動的に導入するステップは、弁を自動的に開放し、自動的にチャンバを開放し、チャンバを閉鎖するステップを更に含み得る。第2の例示的方法はまた、チャンバを閉鎖するステップの後で、タイマーを始動するステップをも含み得る。第2の例示的方法はまた、タイマーを始動するステップ後に、第1の体積の空気をチャンバから取り除くステップをも含み得る。第2の例示的方法の一部のバージョンでは、滅菌剤が真空チャンバ内に導入されなくてよい。第2の例示的方法はまた、第2の二階微分値と第1の二階微分値との差が、ノイズフロアより大きいことを判定するステップをも含み得る。
【0014】
器具を滅菌するための真空チャンバを有する滅菌システムを操作する第3の例示的方法は、デジタル計算機内のタイマーを始動するステップ、チャンバから第1の体積の空気を取り除くステップ、チャンバから第1の体積の空気を取り除きながら、チャンバ内の圧力を繰り返し判定するステップ、時間に関する圧力の第1の二階微分値を、デジタル計算機で計算するステップ、時間に関する圧力の二階微分値をデジタル計算機で計算するステップであって、第2の二階微分値は、第1の二階微分値に対応する時間の後に続く時間に対応する、ステップ、第2の二階微分値が第1の二階微分値より大きいことを、デジタル計算機で判定するステップ、及びチャンバ内にエネルギーを自動的に導入するステップを含み得る。第3の例示的方法では、圧力を繰り返し判定するステップは、圧力測定データを繰り返し取り、データを、デジタル計算機非一時的記憶媒体内に保存することを含み得る。第3の例示的方法はまた、第2の二階微分値が、水の三重点圧力よりも略大きい圧力で起こり得ることをデジタル計算機で判定するステップをも含み得る。第3の例示的方法では、チャンバ内にエネルギーを導入するステップは、チャンバを自動的に加熱すること、チャンバよりも温かい前記チャンバに空気を導入するために弁を自動的に開放すること、及びプラズマを自動的に生成することのうち少なくとも1つを含み得る。第3の例示的方法はまた、チャンバを閉鎖するステップを含み得るが、タイマーを始動するステップは、チャンバを閉鎖するステップの後に起こる。第3の例示的方法では、チャンバから第1の体積の空気を取り除くステップは、タイマーを始動するステップの後に始まる。
【0015】
器具を滅菌するための真空チャンバを有する滅菌システムを操作する第4の例示的方法は、デジタル計算機内のタイマーを始動するステップ、チャンバから第1の体積の空気を取り除くステップ、チャンバから第1の体積の空気を取り除きながら、チャンバ内の圧力を繰り返し判定するステップ、時間に関する圧力の第1の二階微分値を、デジタル計算機で計算するステップ、時間に関する圧力の二階微分値をデジタル計算機で計算するステップであって、第2の二階微分値は、第1の二階微分値に対応する時間の後に続く時間に対応するステップ、第2の二階微分値が第1の二階微分値より小さいことを、デジタル計算機で判定するステップ、及びチャンバ内に滅菌剤ガスを自動的に導入するステップを含み得る。第4の例示的方法では、圧力を繰り返し判定するステップは、圧力測定データを繰り返し取り、データを、デジタル計算機非一時的記憶媒体内に提供することを含み得る。第4の例示的方法は、チャンバ内の、滅菌に適切な圧力を維持するステップをも含み得る。滅菌に適切な圧力は、少なくとも1秒間にわたって維持される。滅菌に適切な圧力は、約0.5kPa~約0.01kPa(約4トル~約0.1トル)であり得る。滅菌に適切な圧力は、約0.04kPa(約0.3トル)であり得る。第4の例示的方法では、チャンバ内に滅菌剤ガスを自動的に導入するステップは、滅菌に適切な圧力を少なくとも1秒間にわたって維持する前記ステップの後に起こり得る。第4の例示的方法では、チャンバ内に滅菌剤ガスを自動的に導入するステップは、弁を開放することを含み得る。第4の例示的方法は、第1の体積の空気をチャンバから取り除くステップの前に、非滅菌状態の器具をチャンバ内に配置し、チャンバを閉鎖するステップをも含み得る。更なる例示的方法は、チャンバを開放し、滅菌状態の器具をチャンバから取り出すステップをも含み得る。
【0016】
器具を滅菌するための真空チャンバを有する滅菌システムを操作する第5の例示的方法は、デジタル計算機内のタイマーを始動するステップ、チャンバから第1の体積の空気を取り除くステップ、チャンバから第1の体積の空気を取り除きながら、チャンバ内の圧力を繰り返し判定するステップ、時間に関する圧力の二階微分値を、デジタル計算機で計算するステップ、連続する二階微分値間の正の差の累積を、デジタル計算機で計算するステップ、累積を閾値と比較するステップ、弁を開放するステップ、及びチャンバを開放するステップ、を含み得る。第5の例示的方法では、累積は閾値より大きくてよく、弁を開放するステップにより、チャンバ内の圧力が高まる原因となり得る。第5の例示的方法では、弁を通過してチャンバ内に流入する第2の体積の空気により、チャンバ内の圧力が高まり得る。第5の例示的方法は、ある体積の水を気化させるステップをも含み得る。第5の例示的方法では、累積は閾値未満であってよく、弁を開放するステップにより、滅菌剤がチャンバに導入されるのが可能になり得る。第5の例示的方法では、累積は、連続する二階微分値同士の間の差が負である場合に終了される第1の累積であり得る。第5の例示的方法では、連続する二階微分値同士の間の差が正である場合に第2の累積が開始され得る。
【0017】
本明細書において使用される場合、「ノイズフロア」という用語は、真空チャンバに接続された圧力トランスデューサから出力される、時間に対する圧力データのプロットに関するものである。そして用語ノイズフロアが指すのは、プロット上の最大の極大値(圧力トランスデューサに固有のノイズにより引き起こされる)と、プロット上の最小極小値(真空チャンバが維持し得る最低の圧力付近に維持された場合、又は、所与の滅菌プロセスの場合の、望ましい最終圧力付近に維持された場合の、圧力トランスデューサに固有のノイズにより引き起こされる)との間の、ピークからピークへの振幅である。ノイズフロアは、所与の真空チャンバ又は所与の滅菌プロセスに対して、経験的な方法で決定され得る。
【図面の簡単な説明】
【0018】
本明細書は、本明細書において説明される主題を特定して指摘し、明白に請求する請求項を以って結論とするものであるが、添付図面と併せた以下の特定の例の説明により、その主題は更によく理解されると思われる。
図1】本明細書において開示される方法を実践するために用いられ得る真空チャンバを有する滅菌システムを、ブロック図の形態で図示している。
図2図1に図示される真空チャンバ内に水が存在しない場合の、真空チャンバ内における、時間に対する圧力と、時間に対する圧力の一階微分と、時間に対する圧力の二階微分とをプロットしたグラフである。
図3図1に図示される真空チャンバ内の、非金属表面上に水が存在する場合の、真空チャンバ内における、時間に対する圧力と、時間に対する圧力の一階微分と、時間に対する圧力の二階微分とをプロットしたグラフである。
図4図1に図示される真空チャンバ内の、金属表面上に水が存在する場合の、真空チャンバ内における、時間に対する圧力と、時間に対する圧力の一階微分と、時間に対する圧力の二階微分とをプロットしたグラフである。
図5】滅菌システムを用いるための第1の例示的方法のフローチャートである。
図6】滅菌システムを用いるための第2の例示的方法のフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下の説明は、特許請求されている主題の特定の例示的ないくつかの例を記載する。本技術の他の例、特徴、態様、実施形態及び利点は、以下の説明から当業者には明らかになるであろう。したがって図面及び説明は、実質的に例示的なものとしてみなされなければならない。
【0020】
I.滅菌システム
図1は、ブロック図の形式で模式的に描いた滅菌システム10を表す。同システム10は、真空チャンバ12を備え、同チャンバ12はその中に滅菌対象の器具の負荷(パック)14を有する。チャンバ12は、約0.04kPa~0.4kPa(約0.3トル~3トル)もの低い圧力を取り扱えるくらいに堅牢で、その中に導入されるいかなる滅菌剤とも反応せず、吸収もしないくらいに不活性である任意の材料から形成され得る。そのような材料としては、アルミニウム及びステンレス鋼が挙げられ得る。チャンバ12はまた、例えばドアのような開放可能且つ封止可能なバリア16をも含み、同バリア16は、負荷14をチャンバ12内に置いたり、チャンバ12から取り出したりするのが可能とするよう開放し得るものである。バリア16は、チャンバ12内で実現される低い圧力に耐え得るよう、かつチャンバ12と周囲環境との間で漏れが起こらないよう、十分に堅牢であるべきで、十分に堅牢な封止部を含むべきである。所望の動作圧力を達成することが可能な真空ポンプ18は、空気及び、例えば水蒸気のようなその他のガスを、チャンバ12から排気する。真空ポンプ18は、同ポンプ18をチャンバ12と接続するためのホース又はパイプ20を含み得る。真空ポンプ18はまた、弁22をも含み得るが、同弁22は、チャンバ12内の圧力が変化するのを助けたり、妨げたりするために開閉され得る。例えば、弁22が解放され真空ポンプ18が作動している場合には、チャンバ12内の圧力が低下し得る。あるいは、弁22は開放されているものの真空ポンプ18が作動していない場合には、チャンバ内の圧力は、雰囲気圧と等しくなり得る。他の実施形態では、チャンバ12が雰囲気圧と等しい圧力を有すべきかどうかを制御するために、真空ポンプ18の一部をなしていない弁が用いられ得る。圧力モニタ24は、チャンバ12内の圧力を監視する。特に好適な圧力モニタは、MKS Instruments社製のキャパシタンスマノメータである。加熱素子26を、チャンバ12を加熱するために用いてもよい。同素子26は、チャンバ12の外側にあって、チャンバ12を均一に加熱するのに十分な位置に取り付けられた別々の素子を含むものであり得る。滅菌剤を収容し、ホース又はパイプ30を含むタンク又はリザーバ28が、チャンバ12に接続されている。一部の実施形態においては、タンク28は、弁32を更に含み、同弁32は、タンク28からホース30を経由してチャンバ12の中に至る滅菌剤の流れを制御するために、チャンバ12とタンク28との間に配設され得る。電源及び/又は信号発生器33、並びにチャンバ12内に配設された電極34が、チャンバ12内の、電極34とチャンバ12の内面との間に電界を発生させて、チャンバ12内にプラズマを発生させるためにするために提供され得る。例えばRF信号のような信号が、例えばワイヤ式のフィードスルーのようなフィードスルー35を介して、発生器33から電極34に提供され得る。プラズマの発生は、過酸化水素ガスを用いる低温滅菌プロセスには有用である。これらのプロセスでは、過酸化水素ガスが励起されて、過酸化水素プラズマが形成され得る。あるいは、プラズマを形成するために例えば空気のような別のガスを用いてもよく、そうすることにより、負荷上に残る過酸化水素残留物の量を減らし、過酸化水素をチャンバ12から除去するのを容易にするのに役立ち得る。滅菌システム10はまた、ユーザーインターフェイス36をも含み、同インターフェイス36には、例えばプリンタ又ディスプレイのような出力装置と、例えばキーパッド又はタッチスクリーンのようなユーザー入力装置とが含まれ得る。
【0021】
例えばデジタル計算機のような制御システム38は、システム10及びそのさまざまな構成部品の動作を制御する。制御システム38は、マイクロプロセッサ40を採用し得る。同システム38は、例えばランダムアクセスメモリ(RAM)、ハードディスクドライブ、又はフラッシュメモリのような、圧力の値や時間の値といったデータを保存可能な非一時的記憶媒体42をも採用し得る。例えば圧力データのようなアナログデータが収集される場合には、アナログからデジタルへの(A2D)変換器44を用いて、アナログデータをデジタルデーターに変換してもよい。タイマー又はクロック回路45は、タイムキーピングをする。制御システム38は、マイクロプロセッサが、それにより、時間に関する圧力の一階微分値、及び時間に関する圧力の二階微分値を数量計算し得る、ソフトウェア及び/又はロジックを更に含み得る。そのような数量計算は、当該技術分野で既知のように、前進差分、後進差分、中心差分、又はそれらを何らかの形で組み合わせたものにしたがって実行し得る。これらの一階微分値及び二階微分値はまた、記憶媒体42に保存され得る。制御システム38は、マイクロプロセッサが、それにより、異なる圧力及び異なる時間に対応する一階微分値同士を比較し得る、ソフトウェア及び/又はロジックを更に含み得る。制御システム38は、マイクロプロセッサが、それにより、異なる圧力及び異なる時間に対応する二階微分値同士を比較し得る、ソフトウェア及び/又はロジックを更に含み得る。例えば、制御システム38は、さまざまな時間増加量iで測定される圧力値Pを保存できる。Δtと表される、隣接する時間増加量同士の間の時間の長さは、約0.1秒、約1秒、約2秒、約5秒、又は約10秒と等しいものであり得る。圧力値もまた、PがP(t)(ただし、t=tn-1+Δt)として表され得るように、時間の関数として表され得る。圧力値は、滅菌プロセスを通して測定され、記憶媒体42に保存され得る。圧力値はまた、少なくとも、システム10が真空チャンバ内を減圧しつつある間に測定し、保存してもよい。圧力値はまた、少なくとも、真空チャンバ内の圧力が約4kPa(約30トル)を下回る間、測定し保存してもよい。
【0022】
II.残留水の検出
時間に関する圧力の一階微分値(dP(t)/dt)、及び時間に関する圧力の二階微分値(dP(tn)/dt)は、すべての、又はほとんどすべての圧力値P又はP(t)に対して、マイクロプロセッサにより計算され、記憶媒体42に保存され得る。一階微分及び二階微分は、当該技術分野で既知の方法で、数量的に計算され得る。一階微分及び二階微分は、稼働中に、例えば、減圧されつつある間に計算されたり、又は所定の圧力がチャンバ内で実現された後で計算されたりし得る。一階微分及び二階微分の数量的計算の特質により、圧力、時間に関する圧力の一階微分、及び時間に関する圧力の二階微分との間には、あるタイムラグがあり得る。言い換えると、例えば、時間に対する圧力の二階微分をプロットしたものの中のある極大値は、それが対応する圧力をかけた後、約1/10秒、約1/2秒、約1秒、約2秒、約5秒、又はその他の長さの時間後に、観察され得る。遅延時間の長さは、微分値を計算するのに用いられる技術の関数である。
【0023】
真空チャンバの中に、プロセス開始時点で、水もその他の潜在的なガス源もない(ただし空気を除く)、典型的な滅菌プロセスにおいては、減圧中の真空チャンバ内の圧力は、理論的には、式
【数1】
により説明され得るが、
その対象となる圧力は、略大気圧と約0.1kPa(約750ミリトル)との間の圧力であり、式中、Pは圧力であり、Sは真空ポンプの速度、tは時間、そしてVは真空チャンバの体積である。
【0024】
図2は、0.7kPa(5000ミリトル)を下回る圧力に対する、残留水(又はその他のガス源)が、真空チャンバ内に存在しない滅菌プロセスの間、減圧に向かう、30秒~80秒の間の、およその圧力対時間のデータ50がプロットされているグラフを表す。またこのグラフには、圧力対時間のデータ50から計算し得る、圧力の一階微分値52と、圧力対時間のデータ50及び時間に対する一階微分値52から計算され得る、圧力の二階微分値54とが含まれる。圧力データ50は破線で、一階微分値52は点線で、二階微分値54は実線である。圧力データ50は、滅菌プロセスの所望の最低圧力が実現されるまで漸近線の方に低下していく。毎秒ミリトルの単位で表される一階微分値52、及び毎秒毎秒0.01Pa(0.1ミリトル)の単位で表される二階微分値54もまた、漸近線の方に低下していく。このグラフでは、圧力データ50中のノイズは明らかではなく、一階微分値52中のノイズは、最小限に明らかと言えるだけであるが、二階微分値54においては、ノイズフロアが明らかになっている。毎秒毎秒約0.8Pa(約6ミリトル)のノイズフロアが、二階微分値54に対して存在している。
【0025】
一部の、特に滅菌対象の器具が、保健医療従事者により十分乾燥されていない事例では、残留水が、真空チャンバの中に導入され得る。これらの事例では、滅菌プロセスの減圧が開始される際に、真空チャンバ内に水が存在し得る。チャンバ内の圧力が低下するにつれて、残留水の体積の少なくとも一部が相変化して気相になり得る。約0.61kPa(約4.58トル)(水の三重点圧力に相当)以下の圧力では、気相への相変化は、氷への、対応する相変化により更に引き起こされ得る。すなわち、残留水中の氷の結晶が形成されるにつれて、潜熱が放出され、その潜熱が、近隣の部位にある水を加熱する。水の三相(気相、液相、固相)は、三重点においては均衡状態で存在し、圧力と温度とがこの三重点に近いところでは、ほぼ均衡状態で存在するので、一部の残留水の分子が氷へ相変化することから生じる潜熱は、他の残留水の分子に、気相への相変化をもたらすエネルギーを供給し得る。液相の水が相変化して気相になる場合には、氷も形成されるか否かに関わらず、真空チャンバ内に、新たな体積のガスが存在することになり、そのことは圧力変化率の増加を引き起こし得るが、またそれにより、圧力の局所的増加を引き起こすにも十分なものでさえあり得る。
【0026】
図3は、0.7kPa(5000ミリトル)を下回る圧力に対する、減圧に向かう30秒~80秒の間の、およその圧力対時間のデータ56がプロットされているグラフを表す。ミリトルの単位で表される圧力データ56は、約0.1ミリリットルの残留水が、真空チャンバ内に存在し、プラスチック製の滅菌ラック上に配設された、減圧作業に対応するものである。図3はまた、圧力対時間のデータ56から計算し得る、圧力の一階微分値58と、圧力対時間のデータ56及び時間に対する一階微分値58から計算され得る、圧力の二階微分値60とをも表している。圧力データ56は破線で、一階微分値58は点線で、二階微分値60は実線である。一階微分値58は、毎秒ミリトルの単位で表され、二階微分値60は、毎秒毎秒0.01Pa(0.1ミリトル)の単位で表される。図3に示されるように、およそt=65秒~t=70秒で、約0.16kPa(約1200ミリトル)及び約0.13kPa(約1000ミリトル)に等しい圧力で、圧力データ56の曲率が、円62及び円64で示されるように変化しているが、それは、瞬間的には、圧力の低下が、もしあるとしてもほとんどないというような圧力変化率の低下に対応している。データが示唆するのは、水が気相に相変化した場合に、真空チャンバ内の圧力の変化率が低下したということである。これらの変化は、円66及び円68により示されるような、プロットされた一階微分値の極小値として現れている。プロットされた二階微分値の曲率における関連する変化は、極大値70及び極大値72により示されている。極大値70及び極大値72は、円62、円64、円66、及び円68で示される圧力データや一階微分値における曲率変化よりもたやすく目につき、より容易に検出できるものとなっている。したがって、時間に関する圧力の二階微分は、減圧中に、チャンバ内に水分が存在するかどうか判定するのをアシストし得るものである。
【0027】
図4は、4kPa未満(30000ミリトル未満)の圧力に対する、減圧に向かう30秒~80秒の間の、およその圧力値対時間のデータ74がプロットされているグラフを表す。ミリトルの単位で表される圧力データ74は、約1.5ミリリットルの残留水が、真空チャンバ内に存在し、アルミニウム製の滅菌ラック上に配設された、減圧作業に対応するものである。図4はまた、圧力対時間のデータ74から計算し得る、圧力の一階微分値76と、圧力対時間のデータ74及び時間に対する一階微分値76から計算され得る、圧力の二階微分値78とをも表している。圧力データ74は破線で、一階微分値76は点線で、二階微分値78は実線である。一階微分値76は、毎秒ミリトルの単位で表され、二階微分値78は、毎秒毎秒0.01Pa(0.1ミリトル)の単位で表される。図4に示されるように、符号80で示される、およそt=32秒かつ圧力=2kPa(15,000ミリトル)で、圧力データ74の曲率が変化し始めており、圧力変化率が低下しつつあるのを示している。最高の度合いの曲率変化は、符号82で示されるように、t=33秒かつ圧力=1.9kPa(14000ミリトル)で現れている。データが示唆するのは、水が気相に相変化した場合に、真空チャンバ内の圧力の変化率が低下したということである。二階微分値78のプロットの極大値84は、圧力変化率の変化が最大となる時間及び圧力に対応している。更に、極大値84は、圧力データや一階微分値における曲率変化よりもたやすく目につき、より容易に検出できるものとなっている。したがって、時間に関する圧力の二階微分は、減圧中に、チャンバ内に水分が存在するかどうか判定するのをアシストし得るものである。
【0028】
負荷コンディショニング(すなわち、真空チャンバ内の負荷から残留水を除去するためのプロセス)を含み得る滅菌プロセスをはじめとする滅菌プロセスは、時に、残留水が真空チャンバ内に存在する場合には、中止されるものである。市販の滅菌器の一部は、保健医療従事者にとって、負荷をシステムから取り出して、再度、それを乾燥させる方が、単純に効率的であるほど、滅菌が有効であるため、かつ/又はシステムの負荷コンディショニングサイクルが有効であるためには多すぎる水蒸気又はその他のガスが、チャンバ内に存在するかどうかを判定するよう試みるように設計されている。例えば、一部のシステムは、圧力が一定であるべき条件下で圧力の上昇をチェックし、他のシステムは、単に、減圧に、本来そうであるべき時間よりもより多くの時間を要している場合に滅菌サイクルを中止するようになっている。しかしながら、これらのチェックは、本明細書に記載されている技術が対処し得るような、より少量の水に対しては不十分なものであり得る。更に、発明者らは、滅菌及び/又は負荷コンディショニングの成功の可能性は、水が、金属表面上又は非金属表面上のいずれに配設されているかに依存すると判断したが、それは、金属表面は水に熱を伝え得る一方、非金属表面は伝えず、氷が形成される可能性を上昇させるからである。したがって、滅菌及び/又は負荷コンディショニングの失敗を回避できる可能性は、残留水が金属表面に配設されているか又は非金属表面上に配設されているかを判定すること、及びそれに対応して、減圧中に氷が形成され得るか否かを判定することによって高まり得る。氷がいったん形成されてしまうと、その氷を効率的に除去するには負荷コンディショニングは適していない場合があり、一部の滅菌プロセスでは、減圧される前に負荷コンディショニング作業を実行するのが望ましい場合があり得る。これは、チャンバ内に配設され得る水の少なくとも一部を気化させることを狙って、真空チャンバを加熱することにより実行され得る。一部の実施形態においては、チャンバは、大気圧よりも低い圧力下で加熱され得る。
【0029】
本明細書において説明されている技術を用いると、チャンバ内の残留水が金属表面上に配設されている場合には、減圧中の、液相の水から水蒸気への検出可能な相変化は、真空チャンバ温度が約60℃未満で、水の三重点圧力よりも高い圧力、例えば、約0.7kPa~約4kPa(約5トル~約30トル)の圧力で、起こり得る。金属製の物体は、通常、特に、非金属性の物体と比較した場合、高い熱伝導性を有しているため、金属製の物体はエネルギーを、その表面上に配設されている水に移転することが可能であり、それにより水の温度が上昇し、水が液相から気相へと相変化するのを可能にする。この温度と圧力との状態では、減圧中の液体水から水蒸気への相変化は、液体水が、非金属製の表面上に配設されている場合には、それが起こる可能性がより低くなる。非金属製の物体は、一般に、液体水に、それが気相に相変化するのを可能にするのに十分なエネルギーを伝えない。
【0030】
チャンバ内の残留水が非金属製の表面上に配設されている場合には、減圧中の、液体水から水蒸気への、検出可能な相変化はまた、真空チャンバ温度が約60℃未満で、圧力が概ね水の三重点圧力(0.61kPa(4.58トル))未満である際にも起こり得る。三重点圧力に向かい、更にそれを過ぎて圧力が低下するにつれて、水は相変化して水蒸気になり、残留水の温度がそれに対応して低下し得るが、その結果、氷の結晶が残留水中に形成されることになり得る。氷が形成されると、潜熱が放出される。水は三重点付近にあるので、この潜熱は、圧力が低下し続けるにつれて、近隣の水分子が相変化して気相になるのを可能にするのに十分なものであり得る。
【0031】
上述のことに基づくと、水の三重点圧力よりも高い圧力で起こる相変化は、少なくとも一部の残留水が金属製の表面上に配設されていたことを意味し、蒸気への相変化が、氷への対応する相変化を含まない可能性もあるということをも意味するものである。しかしながら、水の三重点圧力付近又は未満の圧力で起こる相変化は、少なくとも一部の残留水が非金属性の表面上に配設されていたことを意味し、蒸気への相変化が、氷への対応する相変化を含む可能性があるということをも意味するものである。したがって、時間に関する圧力の二階微分の曲線の極大値が、三重点圧力よりも高い圧力で起こっているという場合には、水が金属製の表面上に配設されている可能性が高く、そのことは、氷形成が、気化に伴って起こらなかったことを示すものである。しかしながら、時間に関する圧力の二階微分の曲線の極大値が、三重点圧力以下の圧力で起こっているという場合には、水が非金属製の表面上に配設されている可能性が高く、そのことは、氷形成が、気化に伴って起こったことを示すものである。
【0032】
発明者らは、自分たちが、この前の段落に説明されていることを最初に発見し開示したと考えている。発明者らは、以下に説明する、その新たな、有益な、そして発明的な応用方法を決定し、そのことは、当該技術分野で既知の滅菌プロセス及び負荷コンディショニング技術を向上させるものである。この応用方法は、負荷コンディショニングプロセスを実行するのが望ましいか否か、負荷を手で再乾燥させるべきか否か、及び負荷は、滅菌剤にさらされるために十分に乾燥しているか否かを評価するのを伴う。この評価は、時間に関する圧力の二階微分の極大値が起こる圧力を判定することにより、実現され得る。少なくとも1つの極大値が、水の三重点圧力より低い圧力で起こる場合には、氷の結晶が水の中及び負荷上に形成された可能性があるため、負荷コンディショニングを試みる替わりに滅菌プロセスを中止することが好ましい場合があり得る。しかしながら、極大値が水の三重点圧力より高い圧力で検出され、水の三重点圧力よりも低い圧力では極大値が1つも検出されない場合には、負荷上に残る水が、氷の結晶を負荷上に形成せずに、容易に気化させられ真空チャンバから排出され得るため、負荷コンディショニングを試みるとよい。
【0033】
例えば圧力トランスデューサの解像度及びアナログからデジタルへの変換により引き起こされる誤差のような、圧力値に関わる測定誤差のため、データ、計算値、並びに時間に対する圧力の曲線、時間に対する圧力の一階微分の曲線、及び時間に対する圧力の二階微分の曲線、にはノイズが存在し得る。圧力の上昇に対応していないが、測定誤差により引き起こされたものである極大値が、二階微分の曲線に存在すると誤って判定されるのを避けるためには、極大値の値が、ノイズフロアよりも十分に大きくなっているべきである。
【0034】
負荷コンディショニングを実施するか、サイクルを中止するかの判定を、例えば変曲点、極小値、又はノイズフロアと比較した、極大値の相対的な大きさに基づいて行うことが好ましい場合があり得る。あるいは、この判定を、連続する二階微分値同士の間の正の差分の累積に基づいて行うことが好ましい場合もあり得るが、この累積は、δと呼ばれるものであり、δは、以下のステップにしたがって計算され得るものである。減圧後又はその最中に、時間に関する圧力の二階微分が、それぞれの時間の増加量に対して計算され、保存され得る。隣接する、すなわち連続する二階微分値同士の間の差分は、ある1つの時間増加分に対して計算された二階微分値を、それに続く時間の増加量に対して計算された二階微分値から減算することにより、計算され得る。この差分の値が正である場合(すなわち、二階微分の値が増加している場合)には、差分の値を加算する。この差分の値が負である場合(すなわち、二階微分の値が減少している場合)には、差分の値を無視する。δ+に対するこの累積手順は、以下の式で表し得る:
【数2】
【0035】
上の式において、mは、δがその期間にわたり計算される所与の又は選択された時間における、時間の増加量の数に対応する。また、上の式においては、tn=n-1+Δtである。既に述べたように、Δtは、時間増加量同士の間の時間の長さであり、約0.1秒、約1秒、約2秒、約5秒、又は約10秒であり得る。δがこのようにして計算される場合には、1つのδが、ある所望の範囲の圧力に対して計算され得る。例えば、1つのδが、例えば、おおよそ水の三重点圧力(すなわち約4.6トル)と滅菌プロセス中に真空チャンバ内に実現される最低圧力(例えば、約0.3トル)との間の圧力の範囲に対して計算され得る。δは、保健医療施設又は滅菌システム製造業者が好む、任意の他の圧力範囲に対して計算され得る。例えば、より広い圧力範囲内の複数の圧力サブ範囲に対して複数のδを計算することが望ましい場合があり得る。
【0036】
あるいは、δを上に記載の累積式にしたがって計算することを、時間に関する圧力の二階微分同士の間の差分値における、これらの差分のいかなる減少によっても分離されていない、連続する増加に限定してもよい。例えば、dP(t)/dtの、5つの連続する値を計算し、それぞれ10、9、11、12、及び9という大きさの値(それぞれの単位はミリトル/秒)を得たと仮定する。10から9への変化と12から9への変化とは、隣接する値同士の差分が負になるので、無視するものとする。9から11への変化と、11から12への変化とは、隣接する値同士の差分が正になるので、合計するものとする。したがって、δ=(11-9)+(12-11)=0.4Pa/秒(3ミリトル/秒)である。δがこのようにして計算される場合には、減圧の間に複数のδを計算し、それぞれを個別に、閾値と比較し得る。例えば、dP(t)/dtの、10個の連続する値を計算し、それぞれ10、9、11、12、9、13、14、9、12、及び9という大きさの値を得たと仮定すると、3、5、及び3という3つの異なるδが算出され得る。
【0037】
δは、δの計算を開始した時点で真空チャンバ内に存在し得た水の量に対応させる実験により決定されてもよい。したがって、δは、負荷コンディショニングのルーティーンを実施し得るか、滅菌サイクルを中止するべきか、かつ/又は滅菌のために負荷が十分な乾燥状態であるかを判断する根拠となる閾値条件として用いられ得る。既に述べたように、液体水から蒸気への相変化が起こり、その相変化が真空チャンバ内での、水の三重点圧力(0.61kPa(4.58トル))未満の圧力で検出された場合には、負荷コンディショニング技術では、例えば約5mLよりも多くの水がチャンバ内に存在すると、その水をチャンバから除去することができないことがあり得る。しかしながら、より水の量が少ない場合、例えば、約1mL~5mLの水が存在する場合には、負荷のコンディショニングを試みるのが望ましい場合があり得る。また、滅菌システムが負荷の滅菌を開始し得るように、例えば真空チャンバ内に約1mL未満の水しか含まれていない場合のような、真空チャンバが乾燥状態であるかどうかを知ることは有用である。
【0038】
水分が負荷内に存在するかどうかを判定するために、δをそれに対して比較し得る閾値を設定するために、実験が行われた。これらの実験では、δが上で説明した例にしたがって計算されたが、その計算は、時間に関する圧力の二階微分の値が連続して増加するものに限定された。これらの実験から得られたデータは、約0.61kPa未満(約4.6トル未満)の圧力の場合、約0.001kPa/秒未満(約10ミリトル/秒未満)のδは、液体水から水蒸気への相変化が、δが計算された期間にわたり起こらなかったということを示すが、他方で、0.015kPa/秒(110ミリトル/秒)以上のδは、コンディショニングを効率的に、かつ/又は十分迅速に行うには多すぎる水分を含む負荷に対応するものであるということを示唆している。したがって、約0.001kPa/秒~0.015kPa/秒(約10ミリトル/秒~110ミリトル/秒)のδの場合、製造業者、保健医療施設、及び/又は保健医療従事者の好み及び/又は要求事項に応じて負荷コンディショニングを試みるか、又は滅菌サイクルを中止することが望ましい場合がある。しかしながら、当業者は、これらのδの値はまた、使用される滅菌システム、同システムに含まれる負荷、及び環境要因の関数であるということを認識すべきである。したがって、δに対する上述の結果を生み出した実験の概要は、純粋に情報を提供するという目的で、本明細書に記載されているものである。
【0039】
この実験用の負荷の構成は、封止されていないTyvek(登録商標)パウチ内の小さな医療用バイアルを保持するためのラックを含む器具トレーを含んでいた。負荷は、STERRAD(登録商標)100NX(登録商標)滅菌システム内に配置された。18℃の温度及び85%の相対湿度(「RH」)、25℃の温度及び50%のRH、並びに35℃の温度及び50%のRHの間で環境条件を変化させた、さまざまな実験の試行が実施された。更に、これらの試行は、負荷に水を加えずに、1mLの水を負荷に加えて、又は5mLの水を負荷に加えて実施された。圧力が約0.61kPaから0.1kPaに(約4.6トルから約800ミリトルに)低下する間、圧力を1秒毎に測定した。これらの測定された圧力から、δが計算された。それぞれの水の量に対して、それぞれの環境条件で、複数の試行が実施された。計算されたδの値が、ミリトル/秒単位で、表1に提供されている。水が試験サンプル上に液滴として付着していたが、δに基づく閾値は、例えば水たまり、管づまり、又はシート(例えば、凝結により形成されるもの)のような液滴以外の形状で負荷の上又は内部に存在する水分の総量を説明するためにも、更に用いられ得る。
【0040】
【表1】
【0041】
δはまた、圧力が約4kPaから0.61kPaに(約30トルから約4.6トルに)低下しつつある間に真空チャンバ内で測定された圧力から計算された場合、負荷コンディショニングを実行すべきか、又は滅菌サイクルを中止すべきかを判定するための閾値としても用いられ得る。この圧力範囲では、圧力の上昇は水が存在することを示し、その水が金属製の表面上に配設されていたことを示すものであるということを想起されたい。δの値は、約0.61kPa~0.1kPa(約4.6トル~約800ミリトル)の間の圧力に対して、上に説明したものと類似の技法を用いて実験により決定された。5.3Pa/秒よりも大きい(40ミリトル/秒よりも大きい)δの場合、少なくとも1.5mLの水が、真空チャンバ内の金属製の表面上に配設されて存在していた可能性があり得る。したがって、5.3Pa/秒よりも大きい(40ミリトル/秒よりも大きい)δの場合、保健医療従事者が、手動で負荷を乾燥し得るように、滅菌サイクルを中止することが望ましい場合があり得る。あるいは、水が金属製の表面上に配設されているので、負荷コンディショニングを試みてもよい。しかしながら、5.3Pa/秒未満の(40ミリトル/秒未満の)δの場合、水が、非金属製の表面上に配設されている可能性があるので、そのため容易には気化しない場合があり得るため、δは、水が真空チャンバ内に存在したか否か、又はどのくらい存在したかの、信頼できるインディケータではないという恐れもある。したがって、約4kPa~約0.61kPa(約30トル~約4.6トル)の間の圧力に対して、δが5.3Pa/秒未満の(40ミリトル/秒未満の)場合、滅菌システムに約0.61kPa未満の(約4.6トル未満の)圧力に対するδの値を判定させて、滅菌をするかどうか、負荷コンディショニングをするかどうか、又はサイクルを中止するかどうかの判定を、そのδの値に基づいて行うことが望ましい場合があり得る。
【0042】
IV.滅菌システムのルーティーン
例えば滅菌システム10のような低温の化学的滅菌システムは、何らかの水が真空チャンバ12内にあるかどうか、及び滅菌システムが真空チャンバからその水を除去する能力があるかどうかを判定することに関するさまざまなルーティーンを実行するよう設計されている場合がある。例えば負荷コンディショニングを実行すべきかどうかを判定するためのルーティーン、負荷コンディショニングのルーティーン、及び滅菌のルーティーンのような、滅菌システムが実行し得るステップ、及び保健医療従事者が実行し得るその他のステップを含む滅菌プロセスの例が、図5及び図6に記載されている。これらのプロセスは、開示される主題を更に例示し、その有用性を説明するために、単に例としてのみ記載されている。これらのプロセスに含まれるステップの多くは、その他のステップに替えて、又はその他のステップの前後に追加的に実行され得る。これらの例に記載されるステップは、開示される主題の範囲から逸脱することなく、さまざまな組み合わせ及び順番で実行され得る。例えば、何らかの滅菌剤が真空チャンバ内に導入される前に、負荷コンディショニングルーティーンは実行され得るかつ/又は空気プラズマが真空チャンバ内に導入され得る。
【0043】
図5に詳しく説明されているように、滅菌プロセスの一例は、保健医療従事者が、先に使用されたことにより汚れた器具を、水、洗浄液、又は器具用の水溶性潤滑剤を用いて洗浄することで開始される。次にその器具を、例えば器具を加熱したり、又は、圧縮空気を器具の中、特に器具の内腔に吹き付けたりすることのような、当該技術分野で既知のさまざまな技術のうちの任意のもの又はそれらを組み合わせたものを用いて乾燥させる。乾燥された器具は、例えばアルミニウムのような金属製の、又は例えばポリカーボネートのようなプラスチック製の、滅菌ボックス又はラック内に配置され得る。器具及び/又はラックは、滅菌ラップ内に包まれて、滅菌パック又は負荷14を形成する。ラップは、微生物に対してバリアとして機能するが、滅菌剤がそれを透過するのを可能とする。パックが包まれると、パックは、滅菌システム10の真空チャンバ12に導入される用意ができた状態になる。
【0044】
チャンバ12の、開放可能かつ封止可能なバリア16を開放し、負荷14をチャンバ12内に配置する。生物学的インディケータも、チャンバ12内に配置してよい。次にバリア16を閉鎖して封止する。チャンバをバリア16を介して閉鎖して封止することは、同時に実現されても、短時間のうちに続けて実行される2つの別々のステップとして実現されてもよい。保健医療従事者又は滅菌システムの製造業者によって滅菌システムに設定された時間間隔で、空気をチャンバ12内から取り除く(ポンプで吸い出す)ことにより、滅菌システムはチャンバ12内から、空気を排気し始める。例えば、その時間間隔Δtは、約0.1秒、約1秒、約2秒、約5秒、又は約10秒であり得る。その間隔の最後に、圧力モニタ24が、チャンバ12内の圧力を判定する。制御システム38は、この圧力の値P(t)を、記憶媒体42に保存する。次に、制御システム38は、時間に関する圧力の一階微分及び二階微分を計算し、保存する。しかしながら、微分値が数量的に計算される方法によっては、少なくとも2つの間隔、すなわちP(t)={P(t)、P(t)}、3つの間隔、すなわちP(t)={P(t)、P(t)、P(t)}、又はより多くの間隔、すなわちP(t)={P(t)、P(t)、P(t)...P(t)}に対する圧力が判定されるまで、一階微分及び二階微分を計算するステップを飛ばすことが望ましい場合があり得る。
【0045】
次に、制御システム38は、チャンバ内の圧力が、所望の終点又は最終圧力Pまで低下したかどうかチェックする。すなわち、同システム38は、P(t)がP以下であるかどうかをチェックする。滅菌剤ガスの適切な適用範囲を確保するためには、約0.4kPa以下(約3トル以下)、約0.1kPa(約1トル)以下、約0.09kPa(約0.7トル)以下、約0.07kPa(約0.5トル)以下、又は約0.04kPa(約0.3トル)以下のPを達成することが、一般的に望ましい。制御システム38が、P(t)がPより大きいと判定する場合、制御システム38は、真空チャンバ12から空気を取り除くステップ、P(t)を判定するステップ、P(t)を保存するステップ、時間に関する圧力の一階微分及び二階微分を計算して保存するステップ、及びP(t)がP以下であるかどうか判定するステップを繰り返すようにシステムに対して指示する。
【0046】
ひとたび制御システム38が、P(t)がP以下であると判定する場合、制御システム38は、何らかの閾値圧力P以下である任意のP(t)に対して、P以下である他のP(tn)に対応する他の二階微分値中の極大値である対応する二階微分値があるかどうか判定する。制御システム38が、この状態で、極大値が存在すると判定する場合には、制御システム38はプロセスを中止し得る。すなわち、真空チャンバ12が雰囲気圧に戻されて開放される。次に、保健医療従事者は、負荷をチャンバ12から取り出して、器具を乾燥させることから始まる滅菌プロセスを、本質的に再始動させ得る。制御システム38が、この状態では極大値が存在しないと判定する場合には、制御システム38は、Pより大きく、Pより大きい他のP(t)に対応するその他の二階微分値の中の極大値である、対応する二階微分値を有するP(t)が存在するかどうか判定する。
【0047】
制御システム38が、P(t)がPより大きい極大値が存在すると判定する場合、滅菌システムは、負荷コンディショニングを実行し得る。さまざまな負荷コンディショニングの方法が実行され得る。その方法がどのようなものであれ、エネルギーが水の温度を上昇させて、後続の排気工程に向けて、水が気化されるのを助けるため、エネルギーが残留水に移転される。一部の負荷コンディショニング作業は、何らかの滅菌剤ガス、例えば過酸化水素が、チャンバから排気されるより前に開始される。これらの作業では、滅菌剤ガスがプラズマに変換され得る。チャンバ12の排気に続いて、チャンバ12が、加熱素子26により加熱され得る。あるいは、チャンバ12は、低い相対湿度を有し、加熱された又は熱い空気を用いて加圧されてもよい。また、別の減圧をチャンバ12内で実行し、例えば空気プラズマのような別のガス由来のプラズマを、チャンバ12内に導入してもよい。負荷内に存在し得る何らかの水を気化させるのを更に試みるために、何らかの滅菌剤が導入される前に負荷のコンディショニングをするために、空気プラズマを用いてもよい。同様に、何らかの滅菌剤が真空チャンバ12内に導入される前に、例えば、真空チャンバ12内の圧力をPまで低下させ、周囲空気でチャンバ12を加圧して、再び圧力をPまで下げることによって負荷コンディショニングサイクルを実行してもよい。
【0048】
図5は、以下のステップを含む負荷コンディショニング作業を含む。チャンバ12は、何らかのより高い圧力まで加圧されるが、その圧力は、大気圧より低くても、大気圧と等しくても、大気圧より高くてもよい。この加圧は、周囲空気、加熱した空気、又は例えば相対湿度の低い空気のような水分含有量が小さいガスで実行され得る。チャンバ12はまた、加熱素子26によって加熱されてもよい。周囲空気、加熱した空気、及び/又は加熱素子26からのエネルギーが、残っている残留水がある場合にそれを温め得る。次に、制御システム38は、真空チャンバ12から空気を取り除くステップ、P(t)を判定するステップ、P(t)を保存するステップ、時間に関する圧力の一階微分及び二階微分を計算して保存するステップ、及びP(t)がP以下であるかどうか判定するステップを繰り返すようにシステムに対して指示する。エネルギーを残留水に提供することと、チャンバ12内の空気及び/又はその他のガスを除去することによりチャンバ12内の圧力を低下させることとを組み合わせると、負荷上に残っていた残留水を完全に又は部分的に除去し得る。再び、Pよりも大きい及び小さい圧力に対する二階微分をチェックして極大値を求め、滅菌剤をチャンバ内に導入するのに負荷が十分に乾燥した状態であるか、又は負荷コンディショニングを更に1回実行するのが望ましいかを判定する。極大値が計算されなくなるか又は制御システム38が時間切れになるかのいずれかまで、負荷コンディショニングを繰り返してよい。
【0049】
負荷のコンディショニングを試みる前に、氷の結晶が形成された可能性があるかどうかを判定するのが望ましいので、Pの値の一例として、水の三重点圧力、すなわち0.61kPa(4.58トル)を挙げることができる。しかしながら、約0.5kPa~約0.7kPaの間(約4トル~約5トルの間)のPを用いるのが望ましい場合があり得る。例えば、三重点圧力よりも高い圧力は、負荷のコンディショニングの試みが成功裏に終わるという、より大きな確信を提供し得るものである。
【0050】
P(t)がPより大きい時に、極大値が存在しないと制御システム38が判定する場合には、滅菌システムは例えば過酸化水素のような滅菌剤ガス又は液をチャンバ12内に導入することにより、装置を滅菌するよう試みる。過酸化水素液が用いられる場合には、過酸化水素液はチャンバ12内に、蒸気として、又は例えば液滴のような容易に気化させられる形態で、導入されるべきである。過酸化水素は、プラズマに変換されてもよく、そうすることにより、滅菌プロセスを更に改善し得る。フローチャートには示されていないが、過酸化水素ガスをチャンバから排出し、例えば空気プラズマのような別の形のプラズマを、チャンバ内に導入してもよい。空気プラズマの導入には、まず真空チャンバを雰囲気圧に又はそれ付近に戻すことと、引き続いて、空気プラズマを導入するのに適した新たな減圧を実行することとを必要とし得る。負荷内に存在した可能性のある微生物を殺すのに十分な時間にわたって負荷を、過酸化水素ガス及び恐らくはプラズマにさらした後で、チャンバ12を再び排気させて、チャンバ12内の圧力を雰囲気圧と等しくする。滅菌システム10を開放して、同システム10から現在滅菌済みとなったはずの器具を取り出し得る。
【0051】
滅菌プロセスの別の例が、図6に記載されている。図5と関連させて説明したプロセスと同様に、本プロセスは、保健医療従事者が、先の使用で汚れた器具を洗浄し、乾燥させることで開始され、その器具を滅菌ボックス又はラックに配置し、ボックス又はラックを包んで滅菌パック又は負荷14を作製し、滅菌システム10の真空チャンバ12の封止可能なバリア16を開放し、負荷及び任意追加的に生物学的インディケータを真空チャンバ12内に配置し、チャンバを閉鎖するようになっている。保健医療従事者又は滅菌システムの製造業者によって滅菌システムに設定された時間間隔で、空気をチャンバ12内から取り除く(ポンプで吸い出す)ことにより、再び滅菌システムはチャンバ12内から、空気を排気し始める。例えば、時間間隔Δtは、約0.1秒、約1秒、約2秒、約5秒、又は約10秒であり得る。その間隔の最後に、圧力モニタ18が、チャンバ12内の圧力を判定する。制御システム38は、この圧力の値を記憶媒体42に保存する。次に、制御システム38は、時間に関する圧力の一階微分及び二階微分を計算し、保存する。しかしながら、微分値が数量的に計算される方法によっては、少なくとも最初の2つの間隔、すなわちP(t)={P(t)、P(t)}、最初の3つの間隔、すなわちP(t)={P(t)、P(t)、P(t)}、又は最初の他の数の間隔、すなわちP(t)={P(t)、P(t)、P(t)、...、P(t)}に対する圧力が判定されるまで、一階微分及び二階微分を計算するステップを飛ばすことが望ましい場合があり得る。
【0052】
次に、水の三重点圧力に略等しい場合があり得る閾値圧力Pよりも、チャンバ12内の圧力P(t)が高いか又は低いかを、制御システム38は判定する。P(t)がPより大きい場合には、制御システム38は、tに等しい期間にわたる、時間に関する圧力の二階微分の、正の変化の純量であるδを計算する。図6では、P(t)>Pの場合のδを、δ1+と呼ぶものとする。δ1+が、滅菌をするには過度に濡れている負荷に対応するように決定された所定の閾値δwet1より大きい場合、滅菌プロセスが中止される。その場合には、保健医療従事者が負荷を取り出して、プロセスを再度開始する前に器具を乾燥させるようにチャンバ12を加圧して開放する。δ1+が、δwet1未満である場合には、後続の時間間隔の間、空気をチャンバから取り除く。δ1+がδwet1より大きくなるまで(ただしこの場合には、プロセスが中止される)、又はP(t)が、P未満になるまで、空気を取り除く上述のステップ、圧力を判定して保存するステップ、一階微分及び二階微分を計算するステップ、及びδ1+を計算するステップは繰り返される。
【0053】
P(t)がP未満になる時点は、tP0と呼ばれ得るものである。この時点で、制御システム38は、P未満の圧力に対するδ図6ではδ2+と呼ばれているものを計算し始める。すなわち、δ2+は、tP0からtまでの時間に関する圧力の二階微分の正の変化である。δ2+が、滅菌をするには過度に濡れている負荷に対応するように決定された所定の閾値δwet2より大きい場合、滅菌プロセスが中止される。その場合には、保健医療従事者が負荷を取り出して、プロセスを再度開始する前に器具を乾燥させるようにチャンバ12を加圧して開放する。δ2+が、δwet2未満である場合には、後続の時間間隔の間、空気をチャンバから取り除き、δ2+が再計算されて、δwet2と再び比較される。これらのステップは、チャンバ12内の圧力P(t)が、所望の終点又は最終圧力Pに低下するまで繰り返される。すなわち、制御システム38は、P(t)がP以下であるかどうかをチェックする。滅菌剤ガスの適切な適用範囲を確保するためには、約3トル以下、約1トル以下、約0.7トル以下、約0.5トル以下、又は約0.3トル以下のPを達成することが、一般的に望ましい。
【0054】
ひとたびP(t)がP以下になると、制御システム38は、乾燥状態の、それゆえに滅菌準備のできた負荷に対応するよう決定された所定の閾値δdryよりも、δ2+は大きいか小さいかを任意追加的に、チェックする。あるいは、このステップは飛ばしてもよい。δ2+が、δdry未満である場合、又は上のステップが飛ばされる場合には、滅菌システムは、例えば過酸化水素のような滅菌剤ガス又は液をチャンバ12内に導入することにより、装置を滅菌するよう試みる。過酸化水素液が用いられる場合には、過酸化水素液はチャンバ12内に、蒸気として、又は例えば液滴のような容易に気化させられる形態で、導入されるべきである。過酸化水素は、プラズマに変換されてもよく、そうすることにより、滅菌プロセスを更に改善し得る。フローチャートには示されていないが、過酸化水素ガスをチャンバから排出し、例えば空気プラズマのような別の形のプラズマを、チャンバ内に導入してもよい。空気プラズマの導入には、まず真空チャンバを雰囲気圧に又はそれ付近に戻すことと、引き続いて、空気プラズマを導入するのに適した新たな減圧を実行することとを必要とし得る。負荷内に存在した可能性のある微生物を殺すのに十分な時間にわたって負荷を、過酸化水素ガス及び恐らくはプラズマにさらした後で、チャンバ12を再び排気(例えば、大気に対してベント)させて、チャンバ12内の圧力を雰囲気圧と等しくする。滅菌システム10を開放して、その時点で滅菌済みとなったはずの器具を同システム10から取り出し得る。
【0055】
しかしながら、システムがδ2+をδdryに対してチェックして、δ2+はδdryより大きいと判定する場合、負荷コンディショニングルーティーンが実行され得る。まず、チャンバ12を加圧する。この加圧は、周囲空気、加熱した空気、又は例えば相対湿度の低い空気のような水分含有量が小さいガスで実行され得る。チャンバ12はまた、加熱素子26によって加熱されてもよい。周囲空気、加熱した空気、及び/又は加熱素子26からのエネルギーが、残っている残留水がある場合にそれを温め得る。次に、真空チャンバ12から空気を取り除くステップ、P(t)を判定するステップ、P(t)を保存するステップ、時間に関する圧力の一階微分及び二階微分を計算して保存するステップ、及びP(t)がP以下、最終的にはP以下であるかどうか判定するステップを、システムは繰り返す。エネルギーを残留水に提供することと、チャンバ12内の空気及び/又はその他のガスを除去することによりチャンバ12内の圧力を低下させることとを組み合わせると、負荷上に残っていた残留水を完全に又は部分的に除去し得る。負荷コンディショニングを実施中、δ1+とδ2+とは、それぞれの湿り度閾値δwet1とδwet2と比較されて、滅菌プロセスが中止されるべきであることを確認する。ひとたびP(t)がP以下になると、δ2+がδdryと比較され、負荷が滅菌するのに十分な程度に乾燥しているかどうかを判定する。δ2+が、δdry未満になるか制御システム38が時間切れになるかのいずれかまで、負荷コンディショニングを繰り返してよい。
【0056】
V.ユーザーフィードバック
負荷が、例えば過酸化水素のような化学的滅菌剤にさらされる場合には、負荷は常に完全に乾燥状態であるべきである。あいにく、これはいつもそうであるというわけではない。保健医療従事者は、時に、滅菌対象の器具を十分かつ/又は適切に乾燥させられない場合がある。負荷内に何らかの残留水が存在するかどうかを判定するための、これまでに説明してきたステップ及び方法はまた、保健医療施設及び従事者が、器具及び負荷を乾燥させるのをアシストし得るユーザーフィードバックを生成するためにも用いられ得る。例えば、滅菌システムは、ユーザーフィードバックシステムを含み得るが、そのユーザーフィードバックシステムは、例えば、制御システム38を含み、例えば、十分に大きな体積の残留水が検出されたので負荷を取り出して手動で乾燥させるよう保健医療従事者に助言することが可能なグラフィカルインターフェイスを含む。そのフィードバックシステムは、検出された水の体積に対応した異なるメッセージを表示し得る。例えば、まったく水が検出されない場合には、グラフィカルインターフェイスは、例えば、「水が検出されませんでした。滅菌可能です。」というメッセージを表示し得る。例えば、約1mLの水が検出される場合には、グラフィカルインターフェイスは、例えば、「いくぶんかの水が検出されました。滅菌は有効でない恐れがあります。」というメッセージを表示し得る。例えば、1.5mLより多くの水が検出される場合には、グラフィカルインターフェイスは、例えば、「負荷のコンディショニングができません。負荷を取り出して乾燥させてください。」というメッセージを表示し得る。
【0057】
システムは、保健医療従事者及び管理者に向けてデータを集め得るが、これは、乾燥させるのが難しいあるタイプの負荷を識別する、又は器具を十分に乾燥させるのを常習的に失敗する保健医療従事者を識別するのに役立ち得る。システムは、二階微分及び/又はδ計算、更には、滅菌の準備のため、だれが器具を乾燥させたかに関するユーザー情報を保存し得る。これらの計算は、滅菌システムのユーザーに向けた統計を生成するために用いられ得る。例えば、システムは、あるユーザーが完全に乾燥させた負荷のパーセンテージ、ほぼ乾燥させた負荷のパーセンテージ、及び/又は乾燥し損ねた負荷のパーセンテージに関する情報を提供することが可能であり得る。
【0058】
ここで、2人の看護師(看護師Aと看護師B)が、器具を滅菌する責任を負っている病院を想定するが、この滅菌には、器具を洗浄するステップ、乾燥するステップ、器具を負荷に準備するステップ、及び負荷を滅菌システムの真空チャンバ内に配置するステップが含まれるものとする。所望の時間にわたり、例えば各月にわたり、システムは、その病院の管理用に、看護師A及び看護師Bそれぞれが準備した負荷のそれぞれの乾燥度に関するレポートを生成し得る。例えば、そのレポートは、看護師Aの負荷の95%が乾燥状態で、他の5%はほぼ乾燥状態であるが、看護師Bの負荷の60%が乾燥状態であり、20%がほぼ乾燥状態であり、更に20%が滅菌するには湿り気が多すぎると示す場合があり得る。この情報に基づくと、看護師Aは看護師Bよりも、より良い乾燥結果を達成したように思われる。したがって、管理者は、例えば滅菌のために器具をどのように準備したらよいかの訓練に看護師Bを派遣するというような是正措置を、看護師Bに対して取ろうと決定し得る。
【0059】
本明細書に記載の例及び/又は実施形態のいずれも、上述のものに加えて又はそれに代えてさまざまな他の特徴及び/又はステップを有し得ると理解されるべきである。本明細書に記載の教示、表現、実施形態、実施例などは、互いに対して独立して考慮されるべきではない。本明細書の教示に照らして、本明細書の教示を組み合わせることができるさまざまな適当な方法が、当業者には明らかとなろう。
【0060】
本発明に含有される主題の例示の実施形態について図示し説明したが、本明細書で記載した方法及びシステムの更なる適用例は、特許請求の範囲を逸脱することなく適切な変更により達成され得る。このようないくつかの変更態様は、当業者には明らかのはずである。例えば上述した例、実施形態、幾何学的なもの、材料、寸法、比率、工程などは例示である。したがって特許請求の範囲は、明細書及び図面に記載される構造及び動作の詳細に限定されるべきではない。
【0061】
〔実施の態様〕
(1) 閉鎖状態の弁により滅菌剤のリザーバに接続された、器具を滅菌するための真空チャンバを有する滅菌システムを操作する方法であって、
(a)滅菌パック内に非滅菌状態の前記器具を配置するステップ、
(b)前記チャンバを開放するステップ、
(c)前記チャンバ内に前記パックを配置するステップ、
(d)前記チャンバ内に生物学的インディケータを配置するステップ、
(e)前記チャンバを閉鎖するステップ、
(f)前記チャンバから第1の体積の空気を取り除くステップ、
(g)ある体積の液体水を水蒸気に変えるステップ、
(h)前記弁を開放するステップ、
(i)前記チャンバ内に前記滅菌剤を導入するステップ、
(j)前記チャンバから前記滅菌剤を取り除くステップ、
(k)前記チャンバ内に第2の体積の空気を導入するステップ、
(l)前記チャンバを開放するステップ、
(m)前記チャンバから前記パックを取り出すステップ、及び
(n)前記パックから滅菌状態の前記器具を取り出すステップを含む、方法。
(2) (a)前記チャンバから空気を取り除きながら、前記チャンバ内の圧力を繰り返し判定するステップ、
(b)水の三重点圧力よりも略大きい圧力に対応する時間に関する圧力の第1の二階微分値を計算するステップ、
(c)前記水の三重点圧力よりも略大きい圧力に対応する時間に関する圧力の第2の二階微分値と、前記第1の二階微分値に対応する前記時間の後に続く時間とを計算するステップ、
(d)前記水の三重点圧力よりも略小さい圧力に対応する時間に関する圧力の第3の二階微分値と、前記第2の二階微分値に対応する前記時間の後に続く時間とを計算するステップ、
(e)前記水の三重点圧力よりも略小さい圧力に対応する時間に関する圧力の第4の二階微分値と、前記第3の二階微分値に対応する前記時間の後に続く時間とを計算するステップ、
(f)前記第4の二階微分値が、前記第3の二階微分値以下であることを判定するステップ、及び
(g)前記第2の二階微分値が、前記第1の二階微分値以下であることを判定するステップを更に含む、実施態様1に記載の方法。
(3) 器具を滅菌するための真空チャンバを有する滅菌システムを操作する方法であって、
(a)デジタル計算機内のタイマーを始動するステップ、
(b)前記チャンバから第1の体積の空気を取り除くステップ、
(c)前記チャンバから前記第1の体積の空気を取り除きながら、前記チャンバ内の圧力を繰り返し判定するステップ、
(d)時間に関する圧力の第1の二階微分値を、前記デジタル計算機で計算するステップ、
(e)時間に関する圧力の第2の二階微分値を、前記デジタル計算機で計算するステップであって、前記第2の二階微分値は、前記第1の二階微分値に対応する前記時間の後に続く時間に対応する、ステップ、
(f)前記第2の二階微分値が前記第1の二階微分値より大きいことを、前記デジタル計算機で判定するステップ、及び
(g)前記チャンバ内に第2の体積の空気を自動的に導入するステップを含む、方法。
(4) 前記圧力を繰り返し判定する前記ステップは、圧力測定データを繰り返し取り、前記データを前記デジタル計算機の非一時的記憶媒体に保存することを含む、実施態様3に記載の方法。
(5) 前記第2の二階微分値が、前記水の三重点圧力よりも略小さい圧力で起こることを前記デジタル計算機で判定するステップを更に含む、実施態様4に記載の方法。
【0062】
(6) 前記チャンバ内に空気を自動的に導入する前記ステップは、弁を自動的に開放することを含む、実施態様5に記載の方法。
(7) 前記チャンバを自動的に開放するステップを更に含む、実施態様6に記載の方法。
(8) 前記チャンバを閉鎖するステップを更に含み、前記タイマーを始動する前記ステップは、前記チャンバを閉鎖する前記ステップの後に起こる、実施態様7に記載の方法。
(9) 前記チャンバから第1の体積の空気を取り除く前記ステップは、前記タイマーを始動する前記ステップの後に始まる、実施態様8に記載の方法。
(10) 前記真空チャンバには滅菌剤が導入されない、実施態様9に記載の方法。
【0063】
(11) 前記第2の二階微分値と前記第1の二階微分値との間の前記差は、ノイズフロアより大きいことを判定するステップを更に含む、実施態様3に記載の方法。
(12) 器具を滅菌するための真空チャンバを有する滅菌システムを操作する方法であって、
(a)デジタル計算機内のタイマーを始動するステップ、
(b)前記チャンバから第1の体積の空気を取り除くステップ、
(c)前記チャンバから前記第1の体積の空気を取り除きながら、前記チャンバ内の圧力を繰り返し判定するステップ、
(d)時間に関する圧力の第1の二階微分値を、前記デジタル計算機で計算するステップ、
(e)時間に関する圧力の第2の二階微分値を、前記デジタル計算機で計算するステップであって、前記第2の二階微分値は、前記第1の二階微分値に対応する前記時間の後に続く時間に対応する、ステップ、
(f)前記第2の二階微分値が前記第1の二階微分値より大きいことを、前記デジタル計算機で判定するステップ、及び
(g)前記チャンバ内にエネルギーを自動的に導入するステップを含む、方法。
(13) 前記圧力を繰り返し判定する前記ステップは、圧力測定データを繰り返し取り、前記データを前記デジタル計算機の非一時的記憶媒体に保存することを含む、実施態様12に記載の方法。
(14) 前記第2の二階微分値が、前記水の三重点圧力よりも略大きい圧力で起こることを前記デジタル計算機で判定するステップを更に含む、実施態様13に記載の方法。
(15) 前記チャンバ内にエネルギーを導入する前記ステップは、前記チャンバを自動的に加熱すること、前記チャンバよりも温かい空気を前記チャンバに導入するために弁を自動的に開放すること、及びプラズマを自動的に生成することのうち少なくとも1つを含む、実施態様14に記載の方法。
【0064】
(16) 前記チャンバを閉鎖するステップを更に含み、前記タイマーを始動する前記ステップは、前記チャンバを閉鎖する前記ステップの後に起こる、実施態様15に記載の方法。
(17) 前記チャンバから前記第1の体積の空気を取り除く前記ステップは、前記タイマーを始動する前記ステップの後に始まる、実施態様16に記載の方法。
(18) 器具を滅菌するための真空チャンバを有する滅菌システムを操作する方法であって、
(a)デジタル計算機内のタイマーを始動するステップ、
(b)前記チャンバから第1の体積の空気を取り除くステップ、
(c)前記チャンバから前記第1の体積の空気を取り除きながら、前記チャンバ内の圧力を繰り返し判定するステップ、
(d)時間に関する圧力の第1の二階微分値を、前記デジタル計算機で計算するステップ、
(e)時間に関する圧力の第2の二階微分値を、前記デジタル計算機で計算するステップであって、前記第2の二階微分値は、前記第1の二階微分値に対応する前記時間の後に続く時間に対応する、ステップ、
(f)前記第2の二階微分値が前記第1の二階微分値より小さいことを、前記デジタル計算機で判定するステップ、及び
(g)前記チャンバ内に滅菌剤ガスを自動的に導入するステップを含む、方法。
(19) 前記圧力を繰り返し判定する前記ステップは、圧力測定データを繰り返し取り、前記データを前記デジタル計算機の非一時的記憶媒体に提供することを含む、実施態様18に記載の方法。
(20) 前記チャンバ内の、滅菌に適切な圧力を維持するステップを更に含む、実施態様19に記載の方法。
【0065】
(21) 前記滅菌に適切な圧力は、少なくとも1秒間にわたって維持される、実施態様20に記載の方法。
(22) 前記滅菌に適切な圧力は、約0.5kPa~約0.01kPa(約4トル~約0.1トル)である、実施態様21に記載の方法。
(23) 前記滅菌に適切な圧力は、約0.04kPa(約0.3トル)である、実施態様22に記載の方法。
(24) 前記チャンバ内に前記滅菌剤ガスを自動的に導入する前記ステップは、前記滅菌に適切な圧力を少なくとも1秒間にわたって維持する前記ステップの後に起こる、実施態様21に記載の方法。
(25) 前記チャンバ内に前記滅菌剤ガスを自動的に導入する前記ステップは、弁を開放することを含む、実施態様24に記載の方法。
【0066】
(26) 前記第1の体積の空気を前記チャンバから取り除く前記ステップの前に、非滅菌状態の前記器具を前記チャンバ内に配置し、前記チャンバを閉鎖するステップを更に含む、実施態様25に記載の方法。
(27) 前記チャンバを開放し、滅菌状態の前記器具を前記チャンバから取り出すステップを更に含む、実施態様26に記載の方法。
(28) 器具を滅菌するための真空チャンバを有する滅菌システムを操作する方法であって、
(a)デジタル計算機内のタイマーを始動するステップ、
(b)前記チャンバから第1の体積の空気を取り除くステップ、
(c)前記チャンバから前記第1の体積の空気を取り除きながら、前記チャンバ内の圧力を繰り返し判定するステップ、
(d)時間に関する圧力の二階微分値を、前記デジタル計算機で計算するステップ、
(e)連続する二階微分値の正の差の累積を、前記デジタル計算機で計算するステップ、
(f)前記累積を閾値と比較するステップ、
(g)弁を開放するステップ、及び
(h)前記チャンバを開放するステップを含む、方法。
(29) 前記累積は前記閾値より大きく、前記弁を開放する前記ステップにより、前記チャンバ内の前記圧力が高まる、実施態様28に記載の方法。
(30) 前記チャンバ内の前記圧力が、前記弁を通過して前記チャンバの中に流入する第2の体積の空気により高まる、実施態様29に記載の方法。
【0067】
(31) ある体積の水を気化させるステップを更に含む、実施態様28に記載の方法。
(32) 前記累積が、前記閾値未満であり、前記弁を開放する前記ステップにより、滅菌剤が前記チャンバに導入されることが可能になる、実施態様28に記載の方法。
(33) 前記累積は、連続する二階微分値同士の間の差が負である場合に終了される第1の累積である、実施態様28に記載の方法。
(34) 連続する二階微分値同士の間の差が正である場合に第2の累積が開始される、実施態様33に記載の方法。
図1
図2
図3
図4
図5
図6