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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-01-07
(45)【発行日】2022-01-21
(54)【発明の名称】山留支保工構造
(51)【国際特許分類】
   E02D 17/04 20060101AFI20220114BHJP
【FI】
E02D17/04 A
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2017104010
(22)【出願日】2017-05-25
(65)【公開番号】P2018199908
(43)【公開日】2018-12-20
【審査請求日】2020-04-24
(73)【特許権者】
【識別番号】391014550
【氏名又は名称】丸藤シートパイル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100116850
【弁理士】
【氏名又は名称】廣瀬 隆行
(74)【代理人】
【識別番号】100165847
【弁理士】
【氏名又は名称】関 大祐
(72)【発明者】
【氏名】平形 義明
(72)【発明者】
【氏名】福原 俊久
(72)【発明者】
【氏名】内山 喜章
【審査官】山崎 仁之
(56)【参考文献】
【文献】特開平08-004005(JP,A)
【文献】特開2015-175226(JP,A)
【文献】特開平07-317065(JP,A)
【文献】特開平08-113941(JP,A)
【文献】特公昭47-004265(JP,B1)
【文献】米国特許出願公開第2009/0047074(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E02D 17/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも一対の腹起し(2)と,
前記一対の腹起し(2)の間に架け渡すように長手方向に配置された一又は複数の切梁(3)と,を備え,
前記切梁(3)は,少なくとも設営時に上向きに凸となる略弧状を呈するように配置され,棚杭によって支持されずに空中に架け渡されている
山留支保工構造。
【請求項2】
前記切梁(3)は,前記一対の腹起し(2)の間に複数連結して配置されており,
前記複数の切梁(3)は,少なくとも設営時に,全体で上向きに凸となる略弧状を呈するように連結されている
請求項1に記載の山留支保工構造。
【請求項3】
少なくとも一対の腹起し(2)と,
前記一対の腹起し(2)の間に架け渡すように長手方向に連結して配置された複数の切梁(3)と,を備え,
前記複数の切梁(3)は,少なくとも設営時に,全体で上向きに凸となる略弧状を呈するように連結されており,
前記切梁(3)の端面(31)同士の間の少なくとも一部には,当該端面(31)の上端縁(32)同士の間の間隔を当該端縁(31)の下端縁(33)同士の間の間隔よりも広く保つためのシムプレート(7)が差し込まれている
山留支保工構造。
【請求項4】
前記シムプレート(7)は,前記端面(31)の高さの半分以下の高さを有し,前記上端縁(32)側にのみ取り付けられている
請求項3に記載の山留支保工構造。
【請求項5】
前記切梁(3)の端面(31)同士は,前記上端縁(32)側においては,前記シムプレート(7)を挟み込んだ状態でボルト締めされており,前記下端縁側(33)においては端面(31)同士が直接ボルト締めされている
請求項4に記載の山留支保工構造。
【請求項6】
少なくとも一対の腹起し(2)と,
前記一対の腹起し(2)の間に架け渡すように長手方向に連結して配置された複数の切梁(3)と,を備え,
前記複数の切梁(3)は,少なくとも設営時に,全体で上向きに凸となる略弧状を呈するように連結されており,
前記切梁(3)のうちの少なくとも一部の端面(31)は,当該端面(31)の上端縁(32)が下端縁(33)よりも突出するように傾斜している
山留支保工構造。
【請求項7】
前記一対の腹起し(2)の側面と前記切梁(3)の端面(31)との間に配置された少なくとも1つのアダプター部材(10)をさらに備え,
前記アダプター部材(10)は,
前記腹起し(2)側の第一面(11)と,
前記第一面(11)と対向する前記切梁(3)側の第二面(12)とを有し,
前記第二面(12)が前記第一面(11)に対して傾斜している
請求項2から請求項6のいずれかに記載の山留支保工構造。
【請求項8】
前記腹起し(2)と前記アダプター部材(10)の間に配置され,前記切梁(3)に対して軸力を付与する方向に伸縮可能なジャッキ(6)をさらに備える
請求項7に記載の山留支保工構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は,地盤の掘削面が崩壊するのを防ぐために利用される山留支保工の構造に関する。
【背景技術】
【0002】
図8には,一般的な山留支保工構造の例を示している。図8に示されるように,山留めを行う際には,まず複数の土留壁1を地中に打ち込み,これらの土留壁1によって直方体状(平面矩形状)の作業空間と成る領域を確保する。その後,複数の土留壁1によって囲われた領域を掘削しながら,各土留壁1の内面側に複数の腹起し2を当接させて固定する。また,図8に示されるように,作業空間を横長に形成するために,比較的長めの腹起し2を利用する場合がある。このような長めの腹起し2を採用した場合,その中央部分に大きな曲げモーメントが作用するため,これを抑制するために,対向する腹起し2同士の間を架け渡すようにして一又複数の切梁3が設置される。このとき,腹起し2と切梁3の接合状態を補強するために,腹起し2の側面と切梁3の側面とを架け渡すようにして斜め方向に延びる火打ち梁4をボルト接合することもある。
【0003】
上記した山留支保工構造は,例えば特許文献1にも開示されている。特許文献1に記載の山留支保工構造は,山留め壁の内側面に設置される複数の腹起と,対向する腹起間に架設される切梁とを備える。この文献において,切梁は,角形鋼管からなる切梁本体の両端部に継手として複数のボルト孔を有するエンドプレートを取り付けて構成されている。また,切梁本体の一端側に長さ調整材と油圧ジャッキが取り付けられており,長さ調整材は火打梁の端部を接合するための継手となるフランジを備えている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2015-175226号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで,図8や特許文献1に示されたような山留支保工構造においては,シンプルな構造で作業空間を広く確保するために,切梁3の尺をできるだけ長くすることが求められる。しかしながら,切梁3の尺を長くすると,図9に示したようにその長手方向中央部分が重力の影響を受けて下方に大きく撓むこととなる。この撓みは,切梁3の尺が長くなればなるほど大きくなる。これに対して,撓みを小さく抑えるために切梁3を剛性の高い材質で構成することも考えられるが,切梁3の強度を向上させることにも限界がある。また,図8に示したように,腹起し2と切梁3の側面の間に火打ち梁4を掛け渡して切梁3を補強することもできるが,切梁3下方に撓むことは抑制することが難しい。
【0006】
このように,切梁3に大きな撓みが発生すると,腹起し2に生じる曲げモーメントを効果的に抑制することができなくなる。また,切梁3は側面からの負荷に弱いため,切梁3の長手方向中央に撓みが生じている状態で土留壁1側から大きな負荷が加わると,切梁3に破損が生じる恐れがあった。このように,安全面上の問題から,山留支保工構造において,切梁3の尺を長くすることは難しいとされていた。
【0007】
そこで,本発明は,シンプルな構造で切梁の長方向中央に生じる下方への撓みを抑制し,切梁の尺を長く確保できるようにすることを解決課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の発明者らは,上記課題の解決手段について鋭意検討した結果,一対の腹起しの間に一又は複数の切梁を掛け渡し,この切梁を全体で上向きに凸となる略弧状を呈するように配置することで,切梁の長手方向中央に下向きの撓みが生じるのを効果的に抑制できるという知見を得た。そして,本発明者らは,上記知見に基づけば従来技術の課題を解決できることに想到し,本発明を完成させた。具体的に説明すると,本発明は以下の構成を有する。
【0009】
本発明は,地盤の掘削面が崩壊するのを防ぐために利用する山留支保工の構造に関する。本発明の構造は,少なくとも一対の腹起し2と,これらの一対の腹起し2の間に架け渡すように長手方向に配置された一又は複数の切梁3とを備える。なお,山留支保工構造によって囲われた作業空間を広く確保するために,切梁3を支持する棚杭等は使用しないことが好ましい。つまり,切梁3は,棚杭等によって支持されず,軸力のみによって空中に架け渡されている。そして,一又は複数の切梁3は,少なくとも設営時に,上向きに凸となる略弧状を呈するように配置されている。ここにいう「略弧状」とは,一本の切梁が弧状を呈している場合や,連結された状態の複数の切梁3が全体として弧状を呈している場合に加えて,切梁3一本一本は直線状であっても切梁3の連結箇所において角度を変えることで複数の切梁3が全体として弧状に近似した形状を呈している場合,及び切梁3一本一本が曲線状であり複数の切梁3が全体として弧状あるいはそれに近似した形状を呈している場合を含む。このように,全体として上向きの略弧状を呈するように切梁3を配置することで,切梁3の長手方向中央に生じる下向きの撓み(図8参照)を抑制できる。
【0010】
本発明において,切梁3は,一対の腹起し2の間に複数連結して配置されていることが好ましい。この場合に,複数の切梁3は,少なくとも設営時に,全体で上向きに凸となる略弧状を呈するように連結されている。このように,複数の切梁3を連結することで,腹起し2の間の間隔を長く取ることができる。
【0011】
本発明において,複数の切梁3を連結する場合において,切梁3の端面31同士の間の少なくとも一部には,当該端面31の上端縁32同士の間の間隔を当該端縁31の下端縁33同士の間の間隔よりも広く保つためのシムプレート7が差し込まれていてもよい。シムプレート7の形状は特に限定されないが,シムプレート7を利用して,端面31の上端縁32同士の間の間隔を下端縁33同士の間の間隔よりも広げることにより,比較的簡単に,連結された複数の切梁3の形状を上向きの略弧状とすることができる。すなわち,シムプレート7を用いることで,端面が斜面となっていない通常の切梁を本発明の支保工構造に適用することができるため,資材コストを安く抑えることができる。
【0012】
本発明において,前記のシムプレート7は,端面31の高さの半分以下の高さを有していることが好ましい。この場合,このシムプレート7は,端面31の上端縁32側にのみ取り付けられている。このように,シムプレート7の長さを短くして,端面31の上端縁32側に差し込むだけで済むようにすれば,シムプレート7を切梁3の間に差し込む作業を簡略化することができる。
【0013】
本発明において,切梁3の端面31同士は,上端縁32側においては,シムプレート7を挟み込んだ状態でボルト締めされており,下端縁側33においては端面31同士が直接ボルト締めされていることが好ましい。このようにすることで,シムプレート7を切梁3の間に差し込む作業を簡易化することができ,また下端縁側33においては端面31同士が直接ボルト締めされるため支保工構造の強度を維持できる。
【0014】
本発明において,切梁3のうちの少なくとも一部の端面31は,当該端面31の上端縁32が下端縁33よりも突出するように傾斜していてもよい。あるいは,切梁3のうちの少なくとも一部の端面31は,当該端面31の下端縁33が上端縁32よりも突出するように傾斜していてもよい。このように傾斜した端面31を持つ切梁3を長手方向に連結することによっても,連結された複数の切梁3の形状を上向きの略弧状とすることができる。なお,傾斜した端面31を持つ切梁3と上記のシムプレート7を併用することもできる。
【0015】
本発明は,一対の腹起し2の側面と切梁3の端面との間に配置された少なくとも1つのアダプター部材10をさらに備えていてもよい。アダプター部材10は,腹起し2側の第一面11と,この第一面11と対向する切梁3側の第二面12とを有し,第二面12が第一面11に対して傾斜している。このように,傾斜面(第二面12)を持つアダプター部材10を腹起し2の側面と切梁3の端面の間に介在させることで,切梁3を上方に向けて撓ませた状態で一対の腹起し2間に架け渡すことができる。従って,切梁3の長手方向中央に生じる下向きの撓みを抑制できる。
【0016】
本発明は,腹起し2とアダプター部材10の間に,切梁3に対して軸力を付与する方向に伸縮可能なジャッキ6をさらに備えることが好ましい。ジャッキ6を設けることで,切梁3に生じる上向きの撓み具合を適度に調整することが可能となる。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば,シンプルな構造で切梁の長方向中央に生じる下方への撓みを抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1図1は,第1の実施形態に係る山留支保工構造の切梁を概念的に抽出して示した断面図である。第1の実施形態では,シムプレートを用いて切梁全体を上向きの略弧状にしている。
図2図2は,切梁の端面の間に介在するシムプレートの状態を概念的に示した斜視図である。
図3図3は,第2の実施形態に係る山留支保工構造の切梁を概念的に抽出して示した断面図である。第2の実施形態では,傾斜した端面を持つ切梁同士を連結することで,切梁全体を上向きの略弧状にしている。
図4図4は,第1及び第2の実施形態に係る山留支保工構造の具体例を示している。
図5図5は,アダプター部材を腹起しと切梁の間に配置した構造の一例を示した断面図である。
図6図6は,アダプター部材の別の例をした断面図である。
図7図7は,アダプター部材の別の例をした断面図である。
図8図8は,一般的な山留支保工構造の例を示した平面図である。
図9図9は,従来の山留支保工構造の問題点を説明するための断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下,図面を用いて本発明を実施するための形態について説明する。本発明は,以下に説明する形態に限定されるものではなく,以下の形態から当業者が自明な範囲で適宜変更したものも含む。
【0020】
本願明細書において,「A~B」という表現を使うときは,基本的に「A以上B以下」であることを意味する。また,本願図には,各物品の立体構造を分かりやすく示すために,XYZの三次元座標を示している。X軸方向は,一対の腹起し間に切梁が架け渡された方向,すなわち切梁の長手方向に対応している。また,Y軸方向は,重力方向(鉛直方向)に対応している。また,Z軸方向は,平面的に切梁の延在方向と直交する方向,すなわち腹起しの長手方向に対応している。
【0021】
図7は,一般的な山留支保工構造を示している。本発明の山留支保工構造も,基本的にはこのような一般的な構造を採用することができる。山留支保工構造を構築する際には,まず複数の土留壁1を地中に打ち込み,これらの土留壁1によって直方体状(平面矩形状)の作業空間と成る領域を確保する。複数の土留壁1は,掘削進行方向(鉛直方向)に沿って打ち込まれるとともに,水平方向に並べ建てられて隙間のない壁面を形成する。図7に示した例では,対向する2辺の土留壁1が,他の2辺の土留壁1よりも長く延在しており,その結果,4辺の土留壁1によって囲われた作業空間は平面長方形状となっている。土留壁1としては,U形,Z形,H形,又は直線形などの鋼矢板を採用する好ましい。また,土留壁1は,ソイルセメントのみから構成されるSMW(Soil Mixing Wall:ソイルセメント壁),あるいはソイルセメントとそれに埋設された芯材(H形鋼他)から構成されるSMWであってもよい。ただし,土留壁1は,その他の形鋼やコンクリートパイルなど,公知の部材を使用してもよい。
【0022】
全ての土留壁1の打ち込みを終えた後,土留壁1によって囲われた作業領域を掘削しながら,4辺の土留壁1に当接するように腹起し2を配置する。腹起し2は,土留壁1に接合されるとともに,土留壁1の四隅においては腹起し2同士の接合も行われる。各部の接合方法は,ボルト接合や溶接などの公知の方法を採用することができるが,これらの方法に限定されない。各腹起し2の接合が完了すると,各腹起し2は土留壁1を支持する機能を持つ。つまり,掘削面から土圧等の側圧荷重が土留壁1に与えられた場合であっても,腹起し2が土留壁1を内側から支持することで,土留壁1の傾倒や掘削面の崩壊を阻止できる。なお,腹起し2としては,I形やH形などの公知の形鋼を利用できる。また,図7に示したように,長めの腹起し2を採用した場合,その中央部分に大きな曲げモーメントが作用するため,これを抑制するために,対向する腹起し2同士の間を架け渡すようにして一又は複数の切梁3が設置される。切梁3は,腹起し2の間に一本のみで架け渡されるものであってもよいし,複数の切梁3を長手方向に連結したものを,腹起し2の間に架け渡すようにしてもよい。このとき,腹起し2と切梁3の接合状態を補強するために,腹起し2の側面と切梁3の側面を繋ぐように斜め方向に延びる火打ち梁4をボルト接合することもできる。切梁3としては,鋼管,角型鋼管,丸型鋼管,H型鋼管など公知の部材を用いることができる。本発明では,切梁3として角型鋼管を用いることが特に好ましい。切梁3を設けることで,腹起し2の長さが長くなった場合であっても,切梁3によって腹起し2を補強することができる。このため,土圧等の側圧荷重が付加された場合でも腹起し2の変形を抑制することが可能となる。なお,山留支保工構造によって囲われた作業空間を広く確保するために,複数の切梁3を支持する棚杭等は使用しないことが好ましい。
【0023】
図1は,複数の切梁3の連結状態を模式的に示している。図1に示されるように,複数の切梁3は長手方向に連結される。そして,各切梁3の連結方法を調整することにより,複数の切梁3は,全体で上向きに凸となる略弧状を呈するように連結される。このように,山留支保工構造の設営時点において敢えて切梁3の連結体を上向きの略弧状とことにより,切梁3の連結体の長方向中央に生じる下方への撓みを抑制することができる。なお,複数の切梁3は,少なくとも山留支保工構造の設営時において略弧状を呈していればよく,設営後に重力等の影響を受けて,全体として直線状に近くなったり,あるいは下方に撓んだりすることもあり得る。切梁3を連結する本数は特に限定されないが,2本~10本又は3本~6本程度が好ましい。
【0024】
図1に示した実施形態では,主に,切梁3の端面31同士の間に一又は複数のシムプレート7を挿入することによって,切梁3の連結体を略弧状に維持することとしている。図1及び図2には,シムプレート7の一例が示されている。これらの図に示されるように,切梁3の端面31にはフランジ34が設けられており,隣接する切梁3の端面31を当接させた状態でフランジ34に設けられたボルト穴35にボルトを挿入し,2つの切梁2のフランジ34をボルト締めする。このように,隣接する切梁3の端面31は,フランジ部分をボルト締めすることで強力に連結されるが,本発明では,その端面31の間にシムプレート7を介在させる。シムプレート7は,切梁3の端面31の高さの半分以下の高さを有しており,切梁3の端面31の上端縁32側にのみ差し込まれる。つまり,切梁3の端面31の下端縁33側にはシムプレート7は配置されない。本発明において,シムプレート7の形状は特に限定されないが,例えば図1及び図2に示されるように,シムプレート7は,切梁3の端面31の上端縁32同士の間の間隔を当該端縁31の下端縁33同士の間の間隔よりも広く保つことのできるスペーサとして機能する形状とすればよい。
【0025】
具体的に説明すると,シムプレート7は,薄い板状の部材であり,その厚みは3mm~30mm程度である。シムプレート7の上縁7aは直線状に成型されているのに対して,下縁7bには複数の切欠き7cが設けられ,凹凸のある形状に成型されている。シムプレート7の切欠き7cは,切梁3の端面31のボルト穴35に対応した位置に形成されており,切梁3の端面31をボルト締めしたときに,ボルト穴35に挿入されるボルトがシムプレート7に衝突しないようになっている。また,ボルトを避けるための切欠き7cをシムプレート7の下縁7bに設けておくことで,切梁3の端面31同士を緩くボルト締めした後に,端面31の間に上側からシムプレート7を挿し込み,最後にボルトをきつく締めるといった手順で,端面31の間にシムプレート7を挟み込むことができる。このため,図3等に示した形状のシムプレート7を用いれば,ボルト締めの作業を効率化することができる。このようにして,切梁3の端面31同士は,上端縁32側においては,シムプレート7を挟み込んだ状態でボルト締めされ,他方で下端縁側33においては端面31同士が直接ボルト締めされる(シムプレート7を介さずにボルト締めされる)こととなる。
【0026】
そして,図1に示されるように,切梁3の端面31の間の適所にシムプレート7を差し込むことで,切梁3の連結体を上向きに凸となる略弧状に維持することができる。なお,シムプレート7は,全ての切梁3の間に差し込む必要はなく,切梁3の個数や切梁3の連結体全体の長さに応じて必要な箇所に差し込むようにすればよい。
【0027】
また,図3は,シムプレート7を利用せずに切梁3の連結体を略弧状にする例を示している。図3に示した実施形態では,切梁3の端面31を傾斜させている。具体的には,切梁3の端面31は,その上端縁32が下端縁33よりも突出するように傾斜している。切梁3の端面31のキャンバー角は,例えば0.5度~20度とすればよい。このように,傾斜した端面31を持つ切梁3を連結することによっても,切梁3の連結体を上向きに凸となる略弧状に維持することができる。なお,全ての切梁3の端面31を傾斜面にする必要はなく,傾斜面を持つ切梁3と傾斜面を持たない切梁3を組み合わせて略弧状にすることもできる。また,傾斜面を持つ切梁3の間に図1等に示したシムプレート7を差し込むようにしてもよい。
【0028】
図4は,図1図2に示した切梁3の連結体を利用して実際に山留支保工構造を構築した例を示している。図4では,特に,略弧状を呈する切梁3の連結体を備えた山留支保工構造に,さらに,傾斜面を持つアダプター部材10を組み入れた場合の一例を示している。図4(a)及び図4(b)の例では,山留支保工構造の構成要素の一例として,土留壁1,腹起し2,複数の切梁3,補助ピース5,ジャッキ6,及びアダプター部材10が示されている。また,図4(b)の例では,さらに,複数の切梁3の間に前述したシムプレート7が差し込まれている。
【0029】
図5は,山留支保工構造の側断面であり,アダプター部材10が配置された切梁3の一端側を拡大して示している。図5に示されるように,アダプター部材10は,腹起し2と切梁3との間に配置され,その第一面11が腹起し2側に面しており,上向きの傾斜面となる第二面12が切梁3側に面している。より具体的には,アダプター部材10の第二面12(傾斜面)は,切梁3の端面に直接接しており,両者はボルト等によって接合されている。他方で,アダプター部材10の第一面11と腹起し2との間には,補助ピース5が介在している。このため,アダプター部材10の第一面11は,補助ピース5の端面に直接接合され,この補助ピース5の端面が腹起し2の側面に接合されることとなる。このように,アダプター部材10と腹起し2の間には補助ピース5のような別部材を介在させることができる。なお,補助ピース5は,腹起し2の側面と切梁3の端面と間に生じる隙間を埋めるために,切梁3の長さを調整することを目的として配置された部材である。補助ピース5は,切梁3などと同様に,鋼管,角型鋼管,丸型鋼管,H型鋼管など公知の部材を用いることができる。
【0030】
アダプター部材10は,第二面12が第一面11に対して所定のキャンバー角θで上向きに傾斜した構造となっている。キャンバー角とは,第一面11を基準としたときに第二面12が傾斜している角度である。キャンバー角は,特に限定されないが,例えば0.5~20度であることが好ましい。特に,キャンバー角は,1~20度又は1.5~15度であることが好ましい。また,第二面12は,第一面11に対してネガティブキャンバー角をもっているといえる。すなわち,第二面12は,上面側から下面側に向かうに連れて第一面11との間隔が大きくなるように傾斜している。つまり,第二面12は,下面側が上面側よりも突出した上向きの斜面である。このため,アダプター部材10は,下面の幅が上面の幅よりも大きくなる。なお,本実施形態では,第二面12のみが傾斜面となる。
【0031】
図4に示されるように,切梁3の連結体は何ら重力の影響を受けないと想定した場合には,その全体が上方に向かって略弧状に撓んだ状態となる。図8を用いて説明したとおり,従来の切梁3は,重力の影響を受けたときに,その長手方向の中央部分が下方に向かって大きく撓んでしまうという問題があった。これに対して,図4に示したように,複数の切梁3を略弧状に連結したり,あるいは切梁3の両端に傾斜面を持つアダプター部材10を取り付けたりすることで,このような下向きの撓みを抑制することが可能となる。
【0032】
また,ジャッキ6は,切梁3の長手方向に沿って伸縮可能な機能を有しており,切梁3に軸力を導入することを目的として腹起し2と切梁3の間に配置される。ジャッキ6を作動させて切梁3に一定の軸力を導入することにより,各接合部の弛みをなくして対向する山留壁を強固に支持することができる。ジャッキ6の例は,油圧ジャッキ又はネジジャッキである。特に,本発明においては,ジャッキ6の伸縮させることで,切梁3の連結体の撓み具合を適度に調整できる。つまり,ジャッキ6を長く伸長させて切梁3に与える軸力を強くすることで,切梁3の長手方向中央を上向きに大きく撓ませることできる。他方で,ジャッキ6を収縮させて切梁3に与える軸力を弱めることで,切梁3に生じる撓みは小さくなる。このように,切梁3の撓み具合を適切に調整するために,本発明においては,切梁3の少なくとも一端側にジャッキ6を導入することが好ましい。
【0033】
図6は,アダプター部材10の別の実施形態を示している。図6に示した例において,アダプター部材10は,第一面11と第二面12との間に空間15を保持した中空構造を成している。例えば,中空構造のアダプター部材10は,鋼管,角型鋼管,丸型鋼管,H型鋼管などの公知の部材を加工して,切梁3側の面を傾斜面とすることによって形成することができる。このような中空構造のアダプター部材10は,比較的長さを確保しやすいというメリットがある。このため,例えば図5(b)に示した例では,切梁3とジャッキ6の間にプレート状(中実構造)のアダプター部材10と補助ピース5とを組み合わせて配置しているが,図6に示した例では,一定の長さを持つ中空構造のアダプター部材10を採用することで,切梁3とジャッキ6の間の補助ピース5を省略することが可能となる。このように,鋼管などを加工した中空構造のアダプター部材10を用いることで,山留支保工構造を構成する物品点数を少なくすることができる。
【0034】
図7は,アダプター部材10のさらに別の実施形態を示している。図7(a)及び図7(b)に示した例では,アダプター部材10の第二面12が,下向きに傾斜している。つまり,図7に示した例において,第二面12は,上面側が下面側よりも突出した下向きの斜面となっており,アダプター部材10は,下面の幅が上面の幅よりも大きくなる。図7に示したように,山留支保工構造の設置方法によっては,アダプター部材10の第二面12を下向きの傾斜面として,その上で連結された複数の切梁3を全体として上側に向かって凸となる弧状を呈するようにすることも可能である。
【0035】
以上,本願明細書では,本発明の内容を表現するために,図面を参照しながら本発明の実施形態の説明を行った。ただし,本発明は,上記実施形態に限定されるものではなく,本願明細書に記載された事項に基づいて当業者が自明な変更形態や改良形態を包含するものである。
【産業上の利用可能性】
【0036】
本発明は,地盤の掘削面が崩壊するのを防ぐために利用される山留支保工の構造に関する。従って,本発明は,山留用の支保工の仮設工事を主とする土木・建築業において好適に利用し得る。
【符号の説明】
【0037】
1…土留壁 2…腹起し
3…切梁 4…火打ち梁
5…補助ピース 6…ジャッキ
7…シムプレート 7a…上縁
7b…下縁 7c…切欠き
10…アダプター部材 11…第一面
12…第二面 15…空間
31…端面 32…上端縁
33…下端縁 34…フランジ
35…ボルト穴
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9