(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-01-07
(45)【発行日】2022-02-04
(54)【発明の名称】繊維複合体
(51)【国際特許分類】
C08L 1/00 20060101AFI20220128BHJP
C08K 3/04 20060101ALI20220128BHJP
D06M 15/05 20060101ALI20220128BHJP
C08L 101/00 20060101ALI20220128BHJP
D06M 101/40 20060101ALN20220128BHJP
【FI】
C08L1/00
C08K3/04
D06M15/05
C08L101/00
D06M101:40
(21)【出願番号】P 2017157981
(22)【出願日】2017-08-18
【審査請求日】2020-06-03
(73)【特許権者】
【識別番号】501041528
【氏名又は名称】ダイセルポリマー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100087642
【氏名又は名称】古谷 聡
(74)【代理人】
【識別番号】100098408
【氏名又は名称】義経 和昌
(72)【発明者】
【氏名】板倉 雅彦
(72)【発明者】
【氏名】上野 大
【審査官】尾立 信広
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-133131(JP,A)
【文献】特開2017-122285(JP,A)
【文献】特開2018-131693(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 1/00-101/14
C08K 3/00-13/08
D06M 13/00-15/715
D04H 1/00-18/04
C08J 5/04-5/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
シート状の繊維複合体の製造方法であって、
前記シート状の繊維複合体が、炭素繊維とセルロースナノファ
イバーを含有し、熱可塑性樹脂繊維を含有しておらず、前記セルロースナノファイバーの含有割合が0.01~2.0質量%のものであり、
炭素繊維と濃度0.005~1質量%のセルロースナノファイバー水溶液を接触させて、シート状の複合物を得る工程と、
前工程で得られたシート状の複合物
のみを加熱プレス成形する工程を有している、シート状の繊維複合体の製造方法。
【請求項2】
前記炭素繊維がリサイクル品である、請求項1記載のシート状の繊維複合体の製造方法。
【請求項3】
炭素繊維とセルロースナノファイバー水溶液を接触させる方法が、セルロースナノファイバー水溶液中に炭素繊維を浸漬する方法、または炭素繊維にセルロースナノファイバー水溶液を噴霧する方法である、請求項
1または2記載のシート状の繊維複合体の製造方法。
【請求項4】
請求項1
~3のいずれか1項記載のシート状の繊維複合体に水を添加した後で、熱可塑性樹脂または熱硬化性樹脂のプレポリマーと加熱混合する工程を含んでいる、繊維複合樹脂材料の製造方法。
【請求項5】
前記シート状の繊維複合体に水を添加する前に、前記シート状の繊維複合体を10mm
2~1000mm
2の範囲に切断する、請求項4記載の繊維複合樹脂材料の製造方法。
【請求項6】
前記加熱混合する工程が、前記熱可塑性樹脂または前記熱硬化性樹脂のプレポリマーの融点以上に加熱する工程である、請求項4または5記載の繊維複合樹脂材料の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、炭素繊維とセルロースナノファイバーを含む繊維複合体、その製造方法、前記繊維複合体を使用した繊維複合樹脂材料の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
セルロースナノファイーバーは平均繊維径がnmオーダーの微細繊維で、製品としても市販されており、各種技術分野において添加剤としても使用されている。
【0003】
特許文献1~4は樹脂用添加剤として使用されており、特許文献5はスピーカー振動板の材料として使用されている。
特許文献6は、アクリロニトリル系重合体に対して、平均直径が1~500nmであるセルロースナノファイバーを0.1~5.0重量%配合し、溶液紡糸することを特徴とする炭素繊維製造用プリカーサーの製造方法の発明であり、炭素繊維の耐炎化速度を向上させることにより、炭素繊維の生産性の向上をはかったプリカーサーの製造方法に関するものであることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2017-115047号公報
【文献】特開2016-94541号公報
【文献】特開2017-122177号公報
【文献】特開2016-20446号公報
【文献】特開2017-103632号公報
【文献】特開2011-26731号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、形状保持性の良い炭素繊維とセルロースナノファーバー(CNF)の繊維複合体、その製造方法、前記繊維複合体を使用した繊維複合樹脂材料の製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、炭素繊維とセルロースナノファーバーを含有するシート状の繊維複合体であって、前記セルロースナノファイバーの含有割合が0.01~5.0質量%である、シート状の繊維複合体を提供する。
また本発明は、上記のシート状の繊維複合体の製造方法であって、
炭素繊維と濃度0.005~1質量%のセルロースナノファイバー水溶液を接触させて、シート状の複合物を得る工程と、
前工程で得られたシート状の複合物を加熱プレス成形する工程を有している、シート状の繊維複合体の製造方法を提供する。
さらに本発明は、熱可塑性樹脂と上記のシート状の繊維複合体を加熱混合する工程を含んでいる、繊維複合樹脂材料の製造方法を提供する。
【発明の効果】
【0007】
リサイクル炭素繊維は、通常は綿状で非常に嵩高く、非常に取り扱い難い。熱可塑性などの樹脂と混合する場合も、押出機ホッパーから直接供給できなかったり、供給が不安定となり、安定供給できなかったりなどの問題がある。
しかし、本発明のシート状の繊維複合体は、リサイクル炭素繊維と比べると嵩高さがなくなり、保管、運搬および使用時における取り扱い性が優れており、成形加工機への安定供給ができるようになるという効果が得られる。
このように、本発明のシート状の繊維複合体は、リサイクル炭素繊維の再利用を促進することができるため、資源の有効活用に寄与できるものである。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】実施例1のシート状の繊維複合体の外観写真。
【
図2】実施例2のシート状の繊維複合体の外観写真。
【
図3】実施例3のシート状の繊維複合体の外観写真。
【
図4】実施例4のシート状の繊維複合体の外観写真。
【
図5】比較例1のシート状の繊維複合体の外観写真。
【発明を実施するための形態】
【0009】
<シート状の繊維複合体>
炭素繊維は公知のものであり、収束剤で表面処理されたポリアクリロニトリル(PAN)系、ピッチ系、レーヨン系などの炭素繊維を使用することができる。
また本発明では、特にリサイクル炭素繊維を使用することが好ましい。
リサイクル炭素繊維としては、例えば、炭素繊維を構成材料として使用している航空機、自動車などを解体するときに生じる炭素繊維、廃棄処分される各種樹脂成形品、各種ゴム成形品などに強化繊維として含まれている炭素繊維、炭素繊維を使用する製造工程において生じた炭素繊維の端材、その他、不要物に含まれる炭素繊維全般を挙げることができる。
CNFは上記した従来技術にも記載のとおり公知のものであり、本発明では市販品を使用することができる。
【0010】
本発明のシート状の繊維複合体中のCNFの含有割合は0.01~5.0質量%、好ましくは0.01~2.0質量%、より好ましくは0.01~1.0質量%であり、残部が炭素繊維の含有割合である。
本発明のシート状の繊維複合体は、保管、運搬および使用時において振動が加えられたときでも製造当初の形態を維持することができるため、使いやすい。
また繊維複合体中のCNF含有割合が少ないため、各種製品または各種材料の製造過程において繊維複合体を実質的に炭素繊維として使用した場合でも、各種製品または各種材料の物理的性質や機械的性質に悪影響を及ぼすことがないと考えられる。
【0011】
<シート状の繊維複合体の製造方法>
第1工程にて、炭素繊維とCNF水溶液を接触させて、シート状の複合物を得る。
CNF水溶液は、濃度0.005~1質量%の水溶液であり、好ましくは0.008~0.5質量%の水溶液であり、より好ましくは0.01~0.2質量%の水溶液である。
【0012】
炭素繊維とCNF水溶液を接触させる方法は、CNF水溶液中に炭素繊維を浸漬する方法、または炭素繊維にCNF水溶液を噴霧する方法などを使用することができる。
なお、第1工程から次の第2工程に移行する間において、必要に応じて乾燥工程を設けることができる。乾燥工程を設けることで第2工程の処理時間を短縮することができる。
【0013】
第2工程では、第1工程で得られたシート状の複合物を加熱プレス成形する。
加熱温度は、炭素繊維やCNFに悪影響を与えない温度であればよく、例えば110℃以下程度で実施することができる。
加圧は、同じ圧力で実施してもよいし、複数段階で圧力を上昇させてもよい。圧力は0.5~10MPa、好ましくは1~5MPaの範囲にする。
なお、第2工程終了後、繊維複合体が室温(20~30℃)まで冷却されたあと、冷間プレスする工程を付加することもできる。冷間プレスの圧力は1~5MPaの範囲が好ましい。
このようにしてシート状の繊維複合体を得ることができる。シート状の繊維複合体の厚さは特に制限されるものではないが、保管および運搬時の便宜、取り扱い性などの観点から、3mm以下が好ましく、1mm以下がより好ましく、0.5mm以下がさらに好ましく、0.3mm以下がさらに好ましい。
【0014】
<繊維複合樹脂材料の製造方法>
繊維複合樹脂材料は、熱可塑性樹脂または熱硬化性樹脂(プレポリマー)と上記のシート状の繊維複合体を加熱混合して得ることができる。
熱可塑性樹脂や熱硬化性樹脂は用途に応じて選択されるものであり、公知の熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂を使用することができる。
加熱混合方法は、加熱機能を備えた短軸押出機、二軸押出機、ニーダー、ミキサーなどの加熱機能を備えた各種混合装置を使用して、熱可塑性樹脂またはプレポリマーの融点以上にまで加熱して溶融混合する方法を適用することができる。
【0015】
熱可塑性樹脂またはプレポリマーと上記のシート状の繊維複合体を押出機などで加熱混合するときは、シート状の繊維複合体として、前記シート状の繊維複合体に対して水を添加したものを使用することが好ましく、例えば、シート状の繊維複合体に水を噴霧したあとで使用することが好ましい。
また、シート状の繊維複合体は、混合前に適当な大きさ(例えば、10mm2~1000mm2)に切断して使用することが好ましい。
このようにシート状の繊維複合体に水を添加したものを使用すると、加熱混合時にシート状の繊維複合体が解れやすくなるので好ましい。
【0016】
本発明の製造方法で得られる繊維複合樹脂材料は、用途に応じて公知の各種樹脂添加剤を含有することができる。
各種樹脂添加剤としては、安定化剤(例えば、酸化防止剤、紫外線吸収剤、耐光安定剤など)、着色剤(染料、顔料など)、帯電防止剤、難燃剤(リン系難燃剤、ハロゲン系難燃剤、無機系難燃剤など)、難燃助剤、架橋剤、補強材、核剤、カップリング剤、分散剤、消泡剤、流動化剤、ドリッピング防止剤、抗菌剤、防腐剤、粘度調整剤、増粘剤などを挙げることができる。
【実施例】
【0017】
実施例1~4
セルロースナノファーバー(品名:BiNFi-S cellulose WMa-10002,2質量%水溶液,株式会社スギノマシン製)を純水で希釈して、それぞれ表1に示す濃度のCNF水溶液を得た。
【0018】
次に200×150mmで高さ30mmの容器にCNF水溶液450g(CNF9g)を入れた後、容器の底に20メッシュの金網を沈めた。
次に容器の中にリサイクル炭素繊維約1g(80℃で5分間乾燥、105℃、圧力1MPaで5分間プレス、および105℃、圧力5MPaで10分間プレス後、温度25℃、相対湿度50%の雰囲気で168時間調湿した後の質量)を入れて完全に浸漬した後、ピンセットを使用して約50mm×約50mmの大きさに拡げた。
その状態で30秒放置した後、金網を引き上げることでCNFが付着した炭素繊維を取り出した。
次にろ紙を押し当てて水分を吸収させたあと、金網と共に乾燥機に入れ、80℃で5分間乾燥させた。
【0019】
乾燥後、金網と分離したCNFが付着した炭素繊維を60mm角の2枚のアルミニウム箔の間に挟み込んだ状態でプレスした。
プレスは、105℃で5分間プレス(圧力1MPa)、加熱を停止した状態でさらに10分間プレス(5MPa)、さらに室温(25℃)まで冷却したあとで5分間冷間プレス(5MPa)して、シート状の繊維複合体を得た。
繊維複合体中のCNF含有割合は、次式から求めた。
調湿後のCNF質量(g)=調湿後の繊維複合体の質量(g)-調湿後の炭素繊維質量(g)
CNF含有割合(質量%)
=調湿後のCNF量〔g〕/(調湿後の炭素繊維量〔g〕+調湿後のCNF量〔g〕)×100
調湿後の繊維複合体の質量〔g〕:80℃で5分間乾燥、105℃、圧力1MPaで5分間プレス、および105℃、圧力5MPaで10分間プレス後、温度25℃、相対湿度50%の雰囲気で168時間調湿した後の質量。
調湿後の炭素繊維の質量〔g〕:80℃で5分間乾燥、105℃、圧力1MPaで5分間プレス、および105℃、圧力5MPaで10分間プレス後、温度25℃、相対湿度50%の雰囲気で168時間調湿した後の質量。炭素繊維は吸湿し易いため、前記条件で吸湿し難い状態にした上で測定した。
【0020】
比較例1
CNF水溶液に代えて純水を使用したほかは実施例1~4と同様にして比較例の繊維複合体を得た。
【0021】
試験例1(外観写真)
実施例1~4、比較例1の繊維複合体を平坦な台上に置いた状態で、UK-03((株)ミヨシ製 USB顕微鏡)を用いて、225倍の倍率設定で、前記顕微鏡のレンズフードを繊維複合体に接触させた状態でオートフォーカスボタンを押して自動でピントを合わせた後、シャッターボタンを押して写真撮影を行った。
前記顕微鏡のピントは繊維複合体の表面に合わせたため、繊維複合体の高さ方向の厚み変動が大きいほど、全体の写真は不鮮明になった。
【0022】
試験例2(厚さ範囲)
実施例1~4、比較例1の繊維複合体を平坦な台上に置き、台の表面からの厚さ(mm)を計測した。5箇所の厚さの数値範囲を厚さ範囲とした。
【0023】
試験例3(形状保持試験)
実施例1~4、比較例1の繊維複合体(50mm×50mm)を指で摘まんだ状態で、振り幅約10cmで10回振ったあとの繊維複合体の外観を観察して、次の基準で判定した。
○:外観には全く変化がない。
×:指で摘まんだだけで崩壊して数個の小片になった。
【0024】
【0025】
外観写真と厚さ範囲から明らかなとおり、実施例1~4の繊維複合体は、1mm以下のほぼ均一厚さのものであったが、比較例1の繊維複合体は全体として嵩高い状態のものであった。このため、比較例1の外観写真はピントがあっておらず、少し不鮮明になっていた。
形状保持試験の結果から、実施例1~4と比較例1の形状保持性の違いが確認された。
なお、実施例1~4の繊維複合体は、繊維複合体を手でしっかりと握った状態で、1m程度の振り幅で約1分間激しく振り回したあとでも、当初の形状がそのまま維持されていた。
【産業上の利用可能性】
【0026】
本発明のシート状の繊維複合体は、熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂などの強化用繊維として利用することができる。